説明

懸濁した農薬、塩および多糖を含む組成物

本発明は、a)水に対する溶解度が20℃で最大10 g/lである、懸濁した農薬、b)塩、およびc) C3〜C32-アルキルカルボニルおよび/またはC3〜C32-アルキルカルバモイル基により置換された多糖である保護コロイドを含む水性組成物に関する。本発明はさらにa)前記農薬、b)塩、およびc)前記保護コロイドを互いに接触させる、前記組成物を製造する方法に関する。本発明はさらに、前記の懸濁した農薬および前記保護コロイドを含む水性組成物における粒子の成長を遅くするための塩の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、a)水に対する溶解度が20℃で10 g/l以下である、懸濁した農薬、b)塩、およびc) C3〜C32-アルキルカルボニルおよび/またはC3〜C32-アルキルカルバモイル基により置換された多糖である保護コロイドを含む水性組成物に関する。本発明は、さらに、a)前記農薬、b)塩、およびc)前記保護コロイドを互いに接触させることによる前記組成物の調製方法に関する。さらに、本発明は、懸濁した農薬および保護コロイドを含む水性組成物における粒子の成長を遅くするための塩の使用に関する。本発明は好ましい特徴と他の好ましい特徴との組合せを含む。
【背景技術】
【0002】
WO 2003/031043には、濃度0.1〜1 mol/lの電解質および界面活性剤として疎水性に改変された高分子糖類(フルクタン型またはデンプン型の糖類を基本構造として、アルキルカルバモイル基またはアルキルカルボニル基などの疎水性単位により置換されているもの)を含む水性連続相を含む分散物が開示されている。該分散物は農薬用に調製することができる。
【0003】
Mooterら(Int. J. Pharmaceutics, 2006, 316, 1-6)は、抗真菌剤のイトラコナゾール(itraconazole)および疎水性に改変されたイヌリンであるInutec SP1の固体分散物の調製を開示している。
【0004】
一般に、水性媒体中での農薬の製剤および使用において原理的に生じる問題は、製剤の水溶性が低いことであり、これは20℃においてしばしば10 g/l未満、特に1 g/l未満の値である。そのため、これらの農薬の水性組成物は不均一系であり、活性物質は水性連続相中に分散相として存在する。本来準安定であるこれらの系を安定化するために、通常、農薬製剤は乳化剤および/または分散剤などの界面活性物質を含む。これらは、第1に水相の表面張力の低下をもたらし、第2に静電相互作用および/または立体相互作用により農薬粒子を安定化する。界面活性物質の使用にもかかわらず、農薬の水性製剤はしばしば不安定であり、活性物質が、例えば沈殿により分離する傾向がある。これらの問題は、特に、高温および/または大きく変化する温度あるいは氷点付近の温度で長期間にわたり製剤を保存した場合に報告されている。この問題は、特に、活性物質が結晶化しやすい傾向を有する場合、例えば水相および/または界面活性物質中で限定された溶解性を示す活性物質の場合に報告されている。
【0005】
限定された、または非常に低い水溶性を有する農薬の製剤におけるさらなる問題は、活性物質を所望の使用濃度に希釈した場合に、農薬の沈殿またはクリーム化などの分離が起こり得ることである。これは有効性の低下を引き起こすばかりか、噴霧混合物の場合にはフィルターおよびノズルシステムの目詰まりのリスクを伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 2003/031043
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Int. J. Pharmaceutics, 2006, 316, 1-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、室温で固体である難溶性の農薬を水性の系に製剤化することであった。製剤は長期間保存した場合に結晶化および沈殿してはならないことが意図された。さらなる目的は、その粒径が保存により全く増大しないか、ごくわずかしか増大しない、水に難溶性の農薬の懸濁液を提供することであった。さらに、環境適合性の界面活性化合物を使用して製剤を安定化させることにより、農薬を施用した場合に植物に損傷を与えないことが期待できることが意図された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的は、
a) 水に対する溶解度が20℃で10 g/l以下である、懸濁した農薬、
b) 塩、および
c) C3〜C32-アルキルカルボニルおよび/またはC3〜C32-アルキルカルバモイル基により置換された多糖である保護コロイド
を含む水性組成物により達成された。
【発明を実施するための形態】
【0010】
農薬という表現は、殺菌剤、殺虫剤、殺線虫剤、除草剤、薬害軽減剤および/または成長調節物質からなる群より選択される少なくとも1種の活性物質を指す。好ましい農薬は、殺菌剤、殺虫剤および除草剤であり、特に殺菌剤である。上記のクラスの2つ以上の農薬の混合物も使用することができる。このような農薬は当業者に公知であり、これらは、例えば、Pesticide Manual, 14th Ed. (2006), The British Crop Protection Council, Londonに記載されている。好適な殺虫剤は、カルバメート系、有機ホスフェート系、有機塩素殺虫剤、フェニルピラゾール系、ピレスロイド系、ネオニコチノイド系、スピノシン系、アベルメクチン系、ミルベマイシン系、幼若ホルモン類似物質、ハロゲン化アルキル系、有機スズ化合物、ネライストキシン類似物質、ベンゾイル尿素系、ジアシルヒドラジン系のクラスに属する殺虫剤、METIダニ駆除剤、およびクロロピクリン(chloropicrin)、ピメトロジン(pymetrozine)、フロニカミド(flonicamid)、クロフェンテジン(clofentezine)、ヘキシチアゾックス(hexythiazox)、エトキサゾール(etoxazole)、ジアフェンチウロン(diafenthiuron)、プロパルギット(propargite)、テトラジホン(tetradifon)、クロルフェナピル(chlorfenapyr)、DNOC、ブプロフェジン(buprofezin)、シロマジン(cyromazine)、アミトラズ(amitraz)、ヒドラメチルノン(hydramethylnon)、アセキノシル(acequinocyl)、フルアクリピリム(fluacrypyrim)、ロテノン(rotenone)などの殺虫剤、またはそれらの誘導体である。好適な殺菌剤は、ジニトロアニリン系、アリルアミン系、アニリノピリミジン系、抗生物質、芳香族炭化水素系、ベンゼンスルホンアミド系、ベンズイミダゾール系、ベンズイソチアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾチアジアゾール系、ベンゾトリアジン系、ベンジルカルバメート系、カルバメート系、カルボキシアミド系、カルボン酸アミド系、クロロニトリル系、シアノアセトアミドオキシム系、シアノイミダゾール系、シクロプロパンカルボキシアミド系、ジカルボキシイミド系、ジヒドロジオキサジン系、ジニトロフェニルクロトネート系、ジチオカルバメート系、ジチオラン系、エチルホスホネート系、エチルアミノチアゾールカルボキシアミド系、グアニジン系、ヒドロキシ-(2-アミノ)-ピリミジン系、ヒドロキシアニリド系、イミダゾール系、イミダゾリノン系、無機物質、イソベンゾフラノン系、メトキシアクリレート系、メトキシカルバメート系、モルホリン系、N-フェニルカルバメート系、オキサゾリジンジオン系、オキシイミノアセテート系、オキシイミノアセトアミド系、ペプチジルピリミジンヌクレオシド系、フェニルアセトアミド系、フェニルアミド系、フェニルピロール系、フェニル尿素系、ホスホネート系、ホスホロチオレート系、フタルアミド酸系、フタルイミド系、ピペラジン系、ピペリジン系、プロピオンアミド系、ピリダジノン系、ピリジン系、ピリジニルメチルベンズアミド系、ピリミジンアミン系、ピリミジン系、ピリミジノンヒドラゾン系、ピロロキノリノン系、キナゾリノン系、キノリン系、キノン系、スルファミド系、スルファモイルトリアゾール系、チアゾールカルボキシアミド系、チオカルバメート系、チアファネート系、チオフェンカルボキシアミド系、トルアミド系、トリフェニルスズ化合物、トリアジン系、トリアゾール系のクラスに属する殺菌剤である。好適な除草剤は、アセトアミド系、アミド系、アリールオキシフェノキシプロピオネート系、ベンズアミド系、ベンゾフラン、安息香酸系、ベンゾチアジアジノン系、ビピリジリウム、カルバメート系、クロロアセトアミド系、クロロカルボン酸系、クロロヘキサンジオン系、ジニトロアニリン系、ジニトロフェノール、ジフェニルエーテル系、グリシン系、イミダゾリノン系、イソキサゾール系、イソキサゾリジノン系、ニトリル系、N-フェニルフタルイミド系、オキサジアゾール系、オキサゾリジンジオン系、オキシアセトアミド系、フェノキシカルボン酸系、フェニルカルバメート系、フェニルピラゾール系、フェニルピラゾリン系、フェニルピリダジン系、ホスフィン酸系、ホスホロアミデート系、ホスホロジチオエート系、フタラメート系(phthalamates)、ピラゾール系、ピリダジノン系、ピリジン系、ピリジンカルボン酸系、ピリジンカルボキシアミド系、ピリミジンジオン系、ピリミジニル(チオ)ベンゾエート系、キノリンカルボン酸系、セミカルバゾン系、スルホニルアミノカルボニルトリアゾリノン系、スルホニル尿素系、テトラゾリノン系、チアジアゾール系、チオカルバメート系、トリアジン系、トリアジノン系、トリアゾール系、トリアゾリノン系、トリアゾロカルボキシアミド系、トリアゾロピリミジン系、トリケトン系、ウラシル系、尿素系のクラスに属する除草剤である。
【0011】
一実施形態において、農薬は殺虫剤を含み、好ましくは、農薬は少なくとも1種の殺虫剤から成る。別の実施形態において、農薬は殺菌剤を含み、好ましくは、農薬は少なくとも1種の殺菌剤から成る。好ましい殺菌剤は、ピラクロストロビン(pyraclostrobin)およびプロクロラズ(prochloraz)、特にピラクロストロビンである。別の実施形態において、農薬は除草剤を含み、好ましくは、農薬は少なくとも1種の除草剤から成る。別の実施形態において、農薬は成長調節物質を含み、好ましくは、農薬は少なくとも1種の成長調節物質から成る。さらなる好ましい実施形態において、農薬は少なくとも2種、好ましくは2または3種、特に2種の異なる農薬を含む。
【0012】
農薬は、水に対する溶解度が20℃で10 g/l以下、好ましくは2 g/l以下、特に好ましくは0.5 g/l以下である。例えば、ピラクロストロビンの水に対する溶解度は1.9 mg/lであり、プロクロラズは34 mg/lである。
【0013】
農薬は、通常30℃よりも高い、好ましくは40℃よりも高い、特に45℃よりも高い融点を有する。例えば、ピラクロストロビンは64℃、プロクロラズは47℃の融点を有する。
【0014】
本発明の組成物は、組成物に対して通常0.1〜70重量%、好ましくは1〜50重量%、特に3〜30重量%の農薬を含む。
【0015】
農薬は懸濁した形態で、すなわち、20℃で固体である結晶またはアモルファス粒子の形態で組成物中に存在する。農薬は好ましくはアモルファス粒子の形態で存在する。農薬粒子の粘度は、1000 mPas以上、好ましくは5000 mPas以上、特に好ましくは10,000 mPas以上である。懸濁した農薬は、ほとんどの場合、0.1〜10μm、好ましくは0.2μm〜5μm、特に好ましくは0.5μm〜2μmのx50値を有する粒径分布を有する。粒径分布は、粒子を含む水性懸濁液のレーザー光回折により測定することができる。この測定法において、試料の調製、例えば測定濃度への希釈は、とりわけ、懸濁液試料における活性物質の微細度および濃度、ならびに使用する装置(例えば、Malvern Mastersizer)に依存する。方法は特定の系のために精密に作成されなければならず、当業者に公知である。
【0016】
通常、塩はアニオンおよびカチオンを含む。好適な塩の例は、金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、四級アンモニウム塩およびこれらの混合物であり、特に金属塩およびアンモニウム塩、とりわけ金属塩、特に具体的にはアルカリ金属塩である。カチオンには、1価、2価、3価または4価の金属の金属イオンおよび窒素原子を含むイオンが含まれる。典型的な金属カチオンには、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛およびアルミニウムのイオンが含まれる。典型的な窒素原子を含むカチオンには、アンモニウムイオン、一級、二級および三級アミン(例えば、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミンおよびベンジルジアルキルアミン)の塩のイオン、四級アンモニウムイオンおよび有機窒素塩基(例えば、モルホリン、ピペラジン)および複素環化合物(例えば、ピリジン)のイオンが含まれる。好ましいカチオンには、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、銅、亜鉛、アルミニウムのイオンおよびアンモニウムイオン、特に好ましくはナトリウムおよびカリウム、特にカリウムイオンが含まれる。アニオンには、ヒドロキシアニオンならびに無機酸および有機酸(例えば、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸およびヨウ化水素酸を含むハロゲン化水素、硫酸、リン酸、炭酸、ギ酸、酢酸および乳酸)に由来するアニオンが含まれる。好ましいアニオンは、塩素イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ギ酸イオンおよび酢酸イオンであり、特に好ましくは塩素イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオンであり、特にリン酸水素イオンである。好ましい塩は、塩化ナトリウム、塩化リチウム、ギ酸アンモニウム、塩化アンモニウム、ギ酸リチウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムであり、特に好ましくはリン酸水素二カリウム(DKHP)である。
【0017】
本発明の組成物は、ほとんどの場合、組成物に対して10重量%、好ましくは15重量%以上、特に好ましくは20重量%以上、とりわけ25重量%以上の塩を含む。塩含有量の上限は、組成物に対する塩の溶解度により決定される。ほとんどの場合、本発明の組成物は、組成物に溶解する最大量よりも多い塩を含まない。好ましくは、組成物は60重量%以下の塩、特に好ましくは50重量%以下、特に好ましくは40重量%以下の塩を含む。通常、塩は組成物に溶解した形態で存在する。
【0018】
C3〜C32-アルキルカルボニルおよび/またはC3〜C32-アルキルカルバモイル基により置換された多糖である好適な保護コロイドは、ほとんどの場合、単分散または多分散の直鎖または分枝鎖多糖を基本構造とする。好適な多糖は、フルクタン、加工デンプンおよびデンプン加水分解物である。好ましい多糖はイヌリンおよびデンプン加水分解物である。好ましくは、保護コロイドは、C6〜C18-アルキルカルボニルおよび/またはC6〜C18-アルキルカルバモイル基により置換された多糖である。
【0019】
フルクタンの例は、イヌリン、オリゴフルクトース、フルクトオリゴ糖、部分加水分解イヌリン、レバンおよび部分加水分解レバンであり、好ましくはイヌリンおよび部分加水分解イヌリンである。イヌリンは、大部分がフルクトシル単位(β(2-1)-フルクトシル-フルクトシル結合を介して互いに連結している)からなり、場合により末端グルコシル単位を有する分子から構成されるフルクタンである。これは、ある種の細菌およびさまざまな植物により保存炭水化物として合成され、また、フルクトース単位を含む糖種、例えばスクロースから酵素的方法を用いて合成により得ることも可能である。好適なイヌリンは、3〜約100の範囲の重合度(DP)を有する、植物由来の、多分散の、直鎖イヌリンまたは中程度に分枝したイヌリンである。通常、イヌリンは、20%未満、好ましくは10%未満の割合を占める1つの側鎖を有する。特に好適なイヌリンは、3〜約70の範囲のDPを有し、平均DPが10であるチコリイヌリンである。より好適なものは、副産物である単量体および二量体の糖の大部分を除去するための処理をおこない、場合により低いDP(通常3〜9のDP)を有するイヌリン分子を除去するための処理をおこなったチコリイヌリンである。これらの等級のチコリイヌリンはチコリの根から通常の抽出、精製および分画法により得ることができる。
【0020】
さらなる好適なフルクタンには、部分加水分解イヌリンおよび3〜約9の範囲のDPを有するイヌリン分子、すなわち、オリゴフルクトースおよびフルクトオリゴ糖(すなわち、付加的な末端グルコシル単位を有するオリゴフルクトース分子)が含まれる。通常好適である製品は、チコリイヌリンの部分的な酵素的加水分解により得られる。
【0021】
さらなる好適なフルクタンは、レバンおよび部分加水分解レバン、大部分がフルクトシル単位(β(2-6)-フルクトシル-フルクトシル結合により互いに連結している)から成り、場合により末端グルコシル単位を有する分子である。
【0022】
さらなる好適な多糖は、加工デンプンおよびデンプン加水分解物、特にデンプン加水分解物である。デンプンにおいて、グルコシル単位は、通常、α-1,4-グルコシル-グルコシル結合を介して連結し、アミロースと呼ばれる線状分子を形成するか、α-1,4-およびα-1,6-グルコシル-グルコシル結合を介して連結し、アミロペクチンと呼ばれる分枝鎖分子を形成する。デンプンにおけるグルコシル単位の間の結合は化学的に開裂し得る。この現象は、工業的に加工デンプンおよびデンプン加水分解物を調製するために利用されており、デンプンを熱処理することにより(多くの場合触媒の存在下で)、酸加水分解、酵素的加水分解により、もしくはせん断により、またはこのような処理の組合せにより実施される。
【0023】
デンプン加水分解物は、通常、D-グルコース、D-グリコシル鎖からなるオリゴマー分子(DP 2〜10)および/またはポリマー分子(DP>10)から構成される多分散混合物を指す。デンプン加水分解物は、通常そのDE値(デキストロース当量)により定義される。デンプン加水分解物は、基本的にグルコースにより構成される製品から、20よりも大きいDEを有する製品(しばしばグルコースシロップと呼ばれる)、20以下のDEを有する製品(しばしばマルトデキストリンと呼ばれる)までを含み得る。好適なデンプン加水分解物は、2〜47の範囲のDEを有するものである。それらは、さまざまなデンプン源、例えばトウモロコシ、ジャガイモ、タピオカ、米、ソルガムおよびコムギを原料として従来の方法により得ることができる。
【0024】
多糖は、C3〜C32-アルキルカルボニルおよび/またはC3〜C32-アルキルカルバモイル基により、好ましくは少なくとも2個のこれらの基により置換されている。好ましくは、多糖はC6〜C18-アルキルカルボニルまたはC6〜C18-アルキルカルバモイル基により置換されている。アルキルカルボニル基(1)およびアルキルカルバモイル基(2)の化学構造は下記の通りである。ここで、「*」は、多糖のOH基であった部分への結合を表す。
【化1】

【0025】
この文脈において、アルキルは、3〜32個、好ましくは4〜20個、特に好ましくは6〜14個、とりわけ8〜12個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和脂肪族基を意味する。好ましくは、アルキルは飽和直鎖脂肪族基である。
【0026】
置換された多糖は、ほとんどの場合、糖単位あたり2、3または4個のヒドロキシ基を有し、その水素原子はC3〜C32-アルキルカルボニルおよび/またはC3〜C32-アルキルカルバモイル基により置換されていてもよい。単位あたりの置換された基の数は、しばしば平均置換度(DS)として表される。置換された多糖のDSは、ほとんどの場合、0.01〜0.5、好ましくは0.02〜0.4、さらに好ましくは0.05〜0.35、理想的には0.1〜0.3の範囲である。
【0027】
C3〜C32-アルキルカルボニルおよび/またはC3〜C32-アルキルカルバモイル基により置換された多糖である保護コロイドは、通常1000 g/mol以上、好ましくは4000 g/mol以上のモル質量を有する。水に対する溶解度は、ほとんどの場合、いずれの場合にも20℃において、10重量%未満、好ましくは5重量%未満、特に1重量%未満である。
【0028】
C3〜C32-アルキルカルボニルおよび/またはC3〜C32-アルキルカルバモイル基により置換された多糖は従来の方法により調製することができる。例えば、C3〜C32-アルキルカルバモイル基は、例えばWO 99/64549およびWO 01/44303に記載される通りに、不活性溶媒中でアルキル-N=C=Oの式(ここで、アルキルは上述の意味を有する)で表されるアルキルイソシアネートと反応させることにより、多糖に結合させることができる。C3〜C32-アルキルカルボニル基は、例えば、例えばEP 0 792 888およびEP 0 703 243に開示される通りに、好適な溶媒中で式R-CO-O-CO-Rの酸無水物または式R-CO-Clの酸塩化物(ここで、アルキルは上述の意味を有する)と多糖とを反応させることにより多糖に結合させることができる。置換されたイヌリンの調製は、例えば、Stevens et al., Biomacromolecules 2001, 2, 1256-1259に記載されている。置換されたデンプンの調製は、例えば、Fang et al., Carbohydrate Polymers, 2002, 47, 245-252に記載されている。
【0029】
ほとんどの場合、本発明の組成物は、組成物の総量に対して、0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜8重量%、特に好ましくは0.01〜5重量%の保護コロイドc)を含む。
【0030】
通常、本発明の組成物は製剤補助剤を含み、補助剤の選択は、通常、特定の使用形態または農薬に依存する。好適な補助剤の例は、溶媒、固体の担体、界面活性物質(例えば、界面活性剤、可溶化剤、さらなる保護コロイド、湿潤剤および展着剤)、有機および無機増粘剤、殺細菌剤、凍結防止剤、消泡剤、場合により着色剤および接着剤(例えば種子の処理用)である。
【0031】
好適な界面活性物質(補助剤、湿潤剤、展着剤、分散剤または乳化剤)は、芳香族スルホン酸、例えばリグノスルホン酸(Borresperse(登録商標)タイプ、Borregaard、ノルウェー)、フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸(Morwet(登録商標)タイプ、Akzo Nobel, USA)およびジブチルナフタレンスルホン酸(Nekal(登録商標)タイプ、BASF、ドイツ)のアルカリ金属、アルカリ土類金属およびアンモニウム塩、および脂肪酸のアルカリ金属、アルカリ土類金属およびアンモニウム塩、アルキルスルホネートおよびアルキルアリールスルホネート、硫酸アルキル、硫酸ラウリルエーテルおよび硫酸脂肪アルコール、ならびに硫酸化ヘキサ-、ヘプタ-およびオクタデカノールの塩および脂肪アルコールグリコールエーテルの塩、スルホン化ナフタレンおよびその誘導体とホルムアルデヒドとの縮合物、ナフタレンまたはナフタレンスルホン酸とフェノールおよびホルムアルデヒドとの縮合物、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル、エトキシ化イソオクチル-、オクチル-またはノニルフェノール、アルキルフェニルポリグリコールエーテル、トリブチルフェニルポリグリコールエーテル、アルキルアリールポリエーテルアルコール、イソトリデシルアルコール、脂肪アルコール/エチレンオキシド縮合物、エトキシ化ひまし油、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ラウリルアルコールポリグリコールエーテルアセテート、ソルビトールエステル、リグニン亜硫酸廃液、およびタンパク質、変性タンパク質、多糖(例えば、メチルセルロース)、疎水変性デンプン、ポリビニルアルコール(Mowiol(登録商標)タイプ、Clariant、スイス)、ポリカルボキシレート(Sokalan(登録商標)タイプ、BASF、ドイツ)、ポリアルコキシレート、ポリビニルアミン(Lupamin(登録商標)タイプ、BASF、ドイツ)、ポリエチレンイミン(Lupasol(登録商標)タイプ、BASF、ドイツ)、ポリビニルピロリドン、およびそれらのコポリマーである。
【0032】
特に好適な界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、非イオン性および両性界面活性剤、ブロックポリマーおよび高分子電解質である。好適なアニオン性界面活性剤は、スルホネート、サルフェート、ホスフェートまたはカルボキシレートのアルカリ金属、アルカリ土類金属またはアンモニウム塩である。スルホネートの例は、アルキルアリールスルホネート、ジフェニルスルホネート、α-オレフィンスルホネート、脂肪酸および油のスルホネート、エトキシ化アルキルフェノールのスルホネート、縮合ナフタレンのスルホネート、ドデシルベンゼンおよびトリデシルベンゼンのスルホネート、ナフタレンおよびアルキルナフタレンのスルホネート、スルホサクシネートまたはスルホサクシナメート(sulfosuccinamates)である。サルフェートの例は、脂肪酸および油の、エトキシ化アルキルフェノールの、アルコールの、エトキシ化アルコールの、または脂肪酸エステルのサルフェートである。ホスフェートの例は、ホスフェートエステルである。カルボキシレートの例は、アルキルカルボキシレートおよびカルボキシ化アルコールまたはアルキルフェノールエトキシレートである。
【0033】
好適な非イオン性界面活性剤は、アルコキシレート、N-アルキル化脂肪酸アミド、アミンオキシド、エステルまたは糖をベースとする界面活性剤である。アルコキシレートの例は、アルコキシ化されたアルコール、アルキルフェノール、アミン、アミド、アリールフェノール、脂肪酸または脂肪酸エステルなどの化合物である。アルコキシ化にはエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドを使用することができ、好ましくはエチレンオキシドを使用する。N-アルキル化脂肪酸アミドの例は、脂肪酸グルカミドまたは脂肪酸アルカノールアミドである。エステルの例は、脂肪酸エステル、グリセロールエステルまたはモノグリセリドである。糖をベースとする界面活性剤の例は、ソルビタン、エトキシ化ソルビタン、スクロースおよびグルコースエステルまたはアルキルポリグルコシドである。好適なカチオン性界面活性剤の例は、四級界面活性剤(例えば1または2個の疎水性基を有する四級アンモニウム化合物)または長鎖一級アミンの塩である。好適な両性界面活性剤は、アルキルベタインおよびイミダゾリン類である。好適なブロックポリマーは、ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドのブロックを含むA-BもしくはA-B-Aタイプのブロックポリマー、またはアルカノール、ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドを含むA-B-Cタイプのブロックポリマーである。好適な高分子電解質は、ポリ酸またはポリ塩基である。ポリ酸の例は、ポリアクリル酸のアルカリ塩である。ポリ塩基の例は、ポリビニルアミンまたはポリエチレンアミンである。
【0034】
本発明の組成物は、組成物の総量に対して、合計0.1〜40重量%、好ましくは1〜30重量%、特に2〜20重量%の界面活性物質および界面活性剤を含み得る。C3〜C32-アルキルカルボニルおよび/またはC3〜C32-アルキルカルバモイル基により置換された多糖である保護コロイドはこの合計量に含まれない。
【0035】
補助剤の例は、有機的に修飾されたポリシロキサン(例えば、BreakThruS 240(登録商標));アルコールアルコキシレート(例えば、Atplus(登録商標)245、Atplus(登録商標)MBA 1303、Plurafac(登録商標)LFおよびLutensol(登録商標) ON);EO/POブロックポリマー(例えば、Pluronic(登録商標) RPE 2035およびGenapol(登録商標) B);アルコールエトキシレート(例えば、Lutensol(登録商標) XP 80);およびジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(例えば、Leophen(登録商標) RA)である。
【0036】
増粘剤(すなわち、組成物に改変された流動特性、すなわち、静止状態での高い粘性および運動状態での低い粘性を与える化合物)の例は、多糖ならびに有機および無機層状鉱物、例えばキサンタンガム(Kelzan(登録商標), CP Kelco)、Rhodopol(登録商標) 23 (Rhodia)またはVeegum(登録商標) (R.T. Vanderbilt)またはAttaclay(登録商標) (Engelhard Corp.)である。
【0037】
組成物を安定化するために殺細菌剤を加えてもよい。殺細菌剤の例は、ジクロロフェンおよびベンジルアルコールヘミホルマールをベースとするもの(Proxel(登録商標)、ICI製またはActicide(登録商標) RS、Thor Chemie製、およびKathon(登録商標) MK、Rohm & Haas製)ならびにイソチアゾリノン誘導体、例えばアルキルイソチアゾリノンおよびベンゾイソチアゾリノン(Acticide(登録商標) MBS、Thor Chemie製)である。
【0038】
好適な凍結防止剤の例は、エチレングリコール、プロピレングリコール、尿素およびグリセリンである。
【0039】
消泡剤の例は、シリコーンエマルション(例えば、Silikon(登録商標) SRE, Wacker、ドイツ、またはRhodorsil(登録商標), Rhodia、フランス)、長鎖アルコール、脂肪酸、脂肪酸の塩、有機フッ素化合物およびそれらの混合物である。
【0040】
着色剤の例は、水に難溶性の顔料および水溶性の染料の両方である。言及し得る例は、ローダミンB、C.I.ピグメントレッド112およびC.I.ソルベントレッド1、ピグメントブルー15:4、ピグメントブルー15:3、ピグメントブルー15:2、ピグメントブルー15:1、ピグメントブルー80、ピグメントイエロー1、ピグメントイエロー13、ピグメントレッド48:2、ピグメントレッド48:1、ピグメントレッド57:1、ピグメントレッド53:1、ピグメントオレンジ43、ピグメントオレンジ34、ピグメントオレンジ5、ピグメントグリーン36、ピグメントグリーン7、ピグメントホワイト6、ピグメントブラウン25、ベーシックバイオレット10、ベーシックバイオレット49、アシッドレッド51、アシッドレッド52、アシッドレッド14、アシッドブルー9、アシッドイエロー23、ベーシックレッド10、ベーシックレッド108の名称で知られる染料および顔料である。
【0041】
展着剤の例は、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールおよびセルロースエーテル(Tylose(登録商標), Shin-Etsu、日本)である。
【0042】
ほとんどの場合、本発明の組成物を使用の前に希釈して、タンクミックスとして知られるものを調製する。希釈に好適な物質は、中程度から高沸点の鉱油留分、例えば灯油またはジーゼル油、さらにコールタール油および植物性もしくは動物性油、脂肪族、環状および芳香族炭化水素、例えば、トルエン、キシレン、パラフィン、テトラヒドロナフタレン、アルキル化ナフタレンもしくはそれらの誘導体、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、イソホロン、強極性溶媒、例えばジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドンまたは水である。水を使用することが好ましい。希釈された組成物は、通常スプレーまたは噴霧により施用される。使用の直前に(タンクミックス)、さまざまなタイプの油、湿潤剤、補助剤、除草剤、殺細菌剤、殺真菌剤をタンクミックスに加えてもよい。これらの薬剤は、1:100〜100:1、好ましくは1:10〜10:1の重量比で本発明の組成物と混合することができる。タンクミックス中の農薬濃度は非常に多様であり得る。それは一般に0.0001〜10%、好ましくは0.01〜1%である。植物の保護に使用する場合、施量は、望まれる効果の性質に依存して、ヘクタールあたり0.01〜2.0 kgの活性物質である。
【0043】
また、本発明は、植物病原性菌類および/または望まれない植物の成長および/または昆虫もしくはダニによる望まれない攻撃を防除するための、ならびに/あるいは植物の成長を調節するための本発明の組成物の使用であって、該組成物をそれぞれの有害生物、その環境もしくはそれぞれの有害生物から保護すべき植物に、土壌および/または望まれない植物および/または有用な植物および/またはその環境に作用させる、前記使用に関する。本発明はさらに、昆虫もしくはダニによる植物への望まれない攻撃を防除するための、および/または植物病原性菌類を防除するための、および/または望まれない植物の成長を防除するための本発明の組成物の使用であって、有用な植物の種子を該組成物により処理する、前記使用に関する。
【0044】
さらに、本発明は、本発明の組成物により処理した種子に関する。種子は、好ましくは本発明の組成物を含む。この組成物は、希釈されていない形態、または、好ましくは希釈された形態で種子に施用することができる。ここで、本組成物を2〜10倍に希釈して、種子の被覆に使用するための組成物中に0.01〜60重量%、好ましくは0.1〜40重量%の農薬が存在するようにする。施用は種蒔きの前におこなうことができる。植物繁殖材料の処理、特に種子の処理は当業者に公知であり、植物繁殖材料に対して散粉、コーティング、ペレット化、ディップまたは浸漬をおこなうことにより実施される。処理は、例えば種子の早期発芽を防止するために、好ましくはペレット化、コーティングおよび散粉により実施する。種子の処理において、一般に100 kgの繁殖材料または種子あたり1〜1000 g、好ましくは5〜100 gの量の農薬を使用する。
【0045】
本発明はまた、水に対する溶解度が20℃で10 g/l以下である懸濁した農薬ならびにC3〜C32-アルキルカルボニルおよび/またはC3〜C32-アルキルカルバモイル基により置換された多糖である保護コロイドを含む水性組成物における粒子の成長を遅くするための塩の使用に関する。ほとんどの場合、水相は、組成物に対して10重量%以上の塩を含む。好ましい塩および好ましい塩添加量は上記の通りである。好ましい保護コロイドは上記の通りである。通常、粒子の成長は塩を含まない組成物と比較して遅い。
【0046】
本発明はまた、
a)水に対する溶解度が20℃で10 g/l以下である農薬、
b) 塩、および
c) C3〜C32-アルキルカルボニルおよび/またはC3〜C32-アルキルカルバモイル基により置換された多糖である保護コロイド
を互いに接触させることによる、本発明の組成物の調製方法に関する。
【0047】
分散した農薬a)は、水性の系の中で成分b)およびc)と接触させることが可能であり、または、成分a)、b)およびc)を接触させた後、水性の系に分散させてもよい。農薬を分散させるための多様な方法が当業者に周知である。好適な方法の例は、沈殿法、蒸発法、溶融乳化または粉砕法であり、好ましくは沈殿法および溶融乳化である。前記調製プロセスにより、農薬が懸濁した形で存在する本発明の組成物が得られる。溶融乳化の過程で、農薬は、融解した農薬のエマルションの形で短時間存在するが、冷却により急速に固化して懸濁した形になる。
【0048】
本発明の方法は、好ましくは農薬の沈殿(沈殿法)または乳化された農薬溶融物の固化(溶融乳化)を含む。
【0049】
沈殿法は、通常、
1) 農薬を水混和性有機溶媒または水と水混和性有機溶媒との混合物に溶解する工程、
2) 1)において得られた溶液を、塩b)および保護コロイドc)を含む水性組成物と混合(好ましくは乱流混合)して、沈殿により農薬を含む分散相を形成する工程、ならびに場合により、
3) 1)および2)において使用した溶媒を除去する工程および/または形成された農薬懸濁液を濃縮する工程
を含む。
【0050】
乱流混合の方法は当業者に周知である。この方法の工程は、バッチ法式で(例えば攪拌した容器中で)、または連続的に実施することができる。連続処理をおこなうエマルション製造用の機械および装置は、例えば、コロイドミル、スプロケット分散機(sprocket dispersers)および他の動的ミキサーの実施形態、さらに、高圧ホモジナイザー、下流にノズル、弁、膜または他の狭いスリット形状を有するポンプ、静的ミキサー、ローターステーター原理を用いるインラインミキサー(Ultra-Turrax、インライン溶解機)、マイクロ混合システムおよび超音波乳化機である。スプロケット分散機または高圧ホモジナイザーを使用することが好ましい。
【0051】
この文脈において、「水混和性有機溶媒」という表現は、有機溶媒が20℃で少なくとも10重量%まで、好ましくは15重量%まで、特に好ましくは20重量%まで相分離せずに水と混和できることを意味する。溶液は、場合によりさらなる製剤助剤、例えば分散剤を含むことができる。必要な場合には、溶液を高温で調製してもよい。好適な溶媒は、C1〜C6-アルキルアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール)、エステル、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン)、アセタール、エーテル、環状エーテル(例えば、テトラヒドロフラン)、脂肪族カルボン酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸)、N-置換もしくはN,N-二置換カルボキシアミド(例えば、アセトアミド)、カルボン酸エステル(例えば、酢酸エチル)、およびラクトン(例えば、ブチロラクトン)、ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルプロピオンアミド、塩素化脂肪族および芳香族炭化水素(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンまたはクロロベンゼン)、N-ラクタム、グリコール(例えば、エチレングリコールもしくはプロピレングリコール)、および上記の溶媒の混合物である。好ましい溶媒は、グリコール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフランおよび上記の溶媒の混合物である。特に好ましい溶媒は、プロピレングリコール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルホルムアミドおよびテトラヒドロフラン、特にプロピレングリコールである。
【0052】
工程1)において、農薬は、ほとんどの場合、30℃より高い温度、好ましくは50℃〜240℃、特に100℃〜200℃、特に好ましくは140℃〜180℃の温度で、場合により加圧して水混和性有機溶媒に溶解される。
【0053】
工程2)において、次に、得られた分子分散溶液を、場合により冷却した、塩b)および保護コロイドc)を含む分子分散水溶液またはコロイド分散水溶液により直接処理する。工程1)の溶媒成分が水相に導入され、農薬の疎水性の相が分散相となる。好ましくは、工程2)において混合温度を約35℃〜80℃とする。
【0054】
工程c)において、使用した有機溶媒を場合により除去し、形成された農薬懸濁液を、過剰な水を除去することにより所望の農薬含有量まで濃縮する。
【0055】
場合により、工程1)、2)および3)の前、途中、または後にさらなる製剤助剤を加えることができる。
【0056】
溶融乳化は、通常、乳化された農薬溶融物の固化を含む。好ましくは、融解した農薬を含む溶融物を水溶液中に乳化し、生成物を凝固点より低い温度に冷却する。好ましい実施形態において、溶融物は、農薬を溶融し、この溶融物を、好ましくはエネルギーを供給しながら水溶液中に導入することにより水溶液中に乳化することができる。別の好ましい実施形態において、溶融物は、エネルギーを供給しながら農薬を水溶液中で直接溶融することにより、水性溶媒中に乳化することができる。
【0057】
例えば、エネルギーは振とう、攪拌、乱流混合、ある液体の別の液体への射出、混合物の振動およびキャビテーション(例えば、超音波を用いて)、乳化遠心分離、コロイドミル、スプロケット分散機または高圧ホモジナイザーにより供給することができる。まず農薬を溶融し、次いで水相に乳化する場合には、一般に溶融物と水相との間の温度差は0〜200℃である。好ましくは、溶融物の温度は、水相よりも20〜200℃高い。特定の環境下では、温度の上昇の結果として連続相の蒸気圧が上がり、周囲圧力よりも高くなる可能性があるので、これらの方法は加圧した装置の中で実施しなければならない。水溶液を含む連続相および融解した農薬を含む分散相の両方を、製剤およびその後の使用に必要な補助剤、例えば界面活性剤により処理してもよい。
【0058】
水溶液を含む連続相および融解した農薬を含む分散相を互いに混合し、プレ乳化して粗い分散物が得られた場合、生成物は粗エマルションと呼ばれる。次に、粗エマルションを乳化剤により処理すると、分散相の小滴が微細に分割される(いわゆる微細乳化)。微細乳化法の工程は、バッチ法式で(例えば攪拌した容器の中で)、または連続的に実施することができる。連続処理をおこなうエマルション製造用の機械および装置は当業者に公知である。その例は、コロイドミル、スプロケット分散機および他の動的ミキサーの実施形態、さらに高圧ホモジナイザー、下流にノズル、弁、膜または他の狭いスリット形状を有するポンプ、静的ミキサー、ローターステーター原理を用いるインラインミキサー(Ultra-Turrax、インライン溶解機)、マイクロ混合システムおよび超音波乳化機である。スプロケット分散機または高圧ホモジナイザーを使用することが好ましい。微細乳化の後、微細なエマルションを農薬の融点または融点範囲より低い温度まで冷却することができる。この工程は、攪拌しながら冷却することにより(バッチ式処理)、または微細なエマルションを熱交換機の中に通すことにより(連続式処理)実施することができる。このプロセスの間に、分散相中の農薬が粒子の形態、好ましくはアモルファス粒子の形態で固化する。好ましくは、水相中に導入された溶融物は、制御可能な冷却装置を用いて0.5 K/分以上の冷却速度で冷却される。制御可能な冷却装置は、例えば、冷却される物質がその中を流れるようになっている冷却可能な管を含む。この方式において、冷却速度は流速および/または冷却される管の温度により調節することができる。冷却は、一般に農薬の結晶形の融点より低い温度まで下げて、好ましくは50℃より低い温度まで、特に好ましくは30℃より低い温度まで下げて実施する。
【0059】
一般に、溶融乳化により、農薬活性物質を好ましくはアモルファスの形態で含む粒子を、いずれの場合にも水性懸濁液に対して、5重量%以上、好ましくは15重量%以上、特に好ましくは20重量%以上含む水性懸濁液が得られる。
【0060】
さらなる製剤補助剤を、場合により、溶融物に、水溶液に、または粒子の水性懸濁液に加えてもよい。製剤補助剤は、例えば、溶媒、界面活性剤、無機乳化剤(いわゆるピッカリング乳化剤)、消泡剤、増粘剤、凍結防止剤および殺細菌剤である。種子の被覆を目的とする製剤はさらに接着剤および場合により色素を含んでもよい。
【0061】
本発明の利点は、とりわけ、安定性を維持しながら、難溶性の農薬を組成物中に多量に含有させることが可能になる点である。該組成物および水により希釈された該組成物は、長期間保存した場合でさえも、結晶化および/または沈殿の傾向をほとんどまたは全く示さない。特に、懸濁液濃縮物の剤形の組成物は安定であり、結晶化の傾向を示さない。懸濁した農薬の粒径は保存により増大しないか、わずかしか増大しない。特に、本発明によりオストワルド熟成が大幅に抑制される。使用する製剤補助剤は、経験的に明らかな通り、処理される植物との適合性が非常に高い多糖を基本骨格とするものである。特に、DKHPは、水溶性が高く、毒性が低く、かつ有機物質の水溶性を大きく減少させるので有利である。
【0062】
以下の実施例により本発明を説明するが、本発明はこれにより限定されない。
【実施例】
【0063】
Inutec(登録商標) SP1:塩基性触媒の存在下、イソシアネートをイヌリンと反応させることにより調製された粉末ラウリルカルバメート置換チコリイヌリン(Beneo-Orafti, GhentまたはNRC Nordmann, Rassmannより市販されている)。20℃での水溶性<1重量%、平均モル質量>4500 g/mol、95重量%以上の含有量、および水中のpH = 5.0〜8.0(濃度5重量%の溶液として)。
【0064】
実施例1 - 溶融乳化による農薬懸濁液の調製
10% ピラクロストロビン
1% Inutec(登録商標) SP 1
30% リン酸水素二カリウム(DKHP)
59% 完全脱塩水
リン酸水素二カリウムを室温で水に溶解した。次に、Inutec(登録商標) SP 1を塩溶液に加えて、Ultraturrax T25を用いて完全に混合して、分散物を得た。塩溶液およびピラクロストロビンをそれぞれ別々に約80〜85℃に加熱した。融解した活性物質を水溶液に加えて、Ultraturrax T25を用いて粗くプレ分散した。高圧ホモジナイザーを用いて、2000 barの分散圧力および80〜85℃の生成物温度で、水溶液中への活性物質の微細な分散を実施した。その後、サンプルを氷水中で急速に室温まで冷却した。
【0065】
粒径分布の特性パラメータ(希釈後にMalvern Mastersizer 2000により測定した体積累積分布x10、x50およびx90)を、調製の直後(「開始」)および室温で静置して6か月間保存した後に測定した(表1)。
【0066】
表1:粒径分布
【表1】

【0067】
実施例2 - 溶融乳化による農薬懸濁液の調製
25% ピラクロストロビン
2.5% Inutec(登録商標) SP 1
30% リン酸水素二カリウム(DKHP)
42.5% 完全脱塩水
実施例1に記載した通りに分散物を調製した。粒径分布の特性パラメータ(希釈後にMalvern Mastersizer 2000により測定した体積累積分布)を、調製の直後(「開始」)および室温で静置して46日間保存した後に測定した(表2)。
【0068】
表2:粒径分布
【表2】

【0069】
比較例1 - 本発明によらない界面活性剤を用いる溶融乳化
10% ピラクロストロビン
1.5% SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)
1.5% Pluronic PE 10500
87% 水
実施例1に記載した通りに分散物を調製した。粒径分布の特性パラメータ(希釈後にMalvern Mastersizer 2000により測定した体積累積分布)を、調製の直後(「開始」)および室温で静置して17時間保存した後に測定した(表3)。17時間後、光学顕微鏡で見ると粗い結晶が明瞭に確認された。
【0070】
表3:粒径分布
【表3】

【0071】
比較例2 - 塩を加えない溶融乳化
10% ピラクロストロビン
1% Inutec SP 1
89% 完全脱塩水
実施例1に記載した通りに分散物を調製した。粒径分布の特性パラメータ(希釈後にMalvern Mastersizer 2000により測定した体積累積分布)を、調製の直後(「開始」)に測定したところ、x50 = 1.42μmであり、室温で攪拌せずに72時間保存した後に測定したところ、x50 = 2.14μmであった。
【0072】
経時による粒子の成長の経過
実施例1ならびに比較例1および2の試料についてそれぞれ上記の通りに測定した、経時による粒子の成長の経過を表4に示す。
【0073】
表4:経時による粒径の変化x50(データはμmで表す)
【表4】

【0074】
実施例3 - C12-アルキルカルボニル置換デンプン加水分解物の調製
162.1 g (1.0 mol)のデンプン加水分解物を攪拌しながら480 mlのN,N-ジメチルアセトアミドに加えて、混合物を80℃に加熱して溶液を形成した。40℃で、8.1 g (0.19 mol)の塩化リチウムを加え、混合物を80℃に10分間加熱した後、40℃まで再冷却した。この時点で、24.2 g (0.30 mol)のピリジンを5分以内に加え、次いで68.1 g (0.30 mol)の塩化ラウロイルを15分間かけて滴加した。バッチを攪拌しながら80℃に2時間加熱した後、室温に冷却した。
【0075】
後処理のために、1450 gのメタノールおよび620 gの水をガラスのビーカーに量り取り、混合物を攪拌しながらゆっくりと加えた。2時間後、塊が形成され、これを40℃で減圧乾燥した後、粉砕した。粗粉を300 mlのトルエン中で攪拌しながら約105℃に加熱した。冷却した後、約600 mlのアセトンを加えて沈殿を生じさせた。沈殿を濾過し、40℃で減圧乾燥した後、粉砕した。これにより、91.7 gの生成物が得られた(変換率44.3%)。
【0076】
実施例4 - 微粒子化による農薬分散物の調製
0.5〜2 gの多糖(Inutec(登録商標) SP1または実施例3のアセチル化デンプン)、500 gの塩(DKHPまたはCaCl2)および1000 gの水からなる塩溶液を調製した。さらに、16.0 gのピラクロストロビンおよび144 gのプロピレングリコールを250 mlのガラス瓶に量り取り、100 mlのガラスビーズ(直径3 mm)を加えた。混合物を振とう機中で60分間懸濁した。得られた、まだ粗い粒子の懸濁液を、混合ノズルを通して1 kg/時の流速で溶解セルに供給し、そこに200℃の温度で、2 kg/時の処理速度でプロピレングリコールを加えた。溶解セル中で2つの流れが乱流混合され、ピラクロストロビン溶液が生成した。
【0077】
得られたピラクロストロビン溶液を第2の混合ノズルに供給し、16 kg/時の処理速度で先に調製した塩溶液と乱流混合した。供給する前に、塩溶液を低温槽中で5℃に冷却した。混合すると、ピラクロストロビン粒子の形成が起こった。得られたアモルファスピラクロストロビンの沈殿を排出した。これにより、0.36重量%のアモルファスピラクロストロビン水性分散物が得られた。この分散物は、ピラクロストロビンの量に対して10.0重量%、または全組成物に対して0.036重量%のそれぞれの多糖を含んでいた(それぞれの組成物に関しては表5を参照されたい)。レーザー回折(Malvern Mastersizer S)およびレーザー散乱(Brookhaven Instruments BI90)を用いて、24時間に渡って粒径を測定した(表6)。
【0078】
比較の目的で、第1に塩または多糖を加えないバッチで実験を繰り返して分析し、第2に、多糖を使用せずに、比較の目的で4 gのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)をピラクロストロビンとプロピレングリコールとの混合物に加えて実験を繰り返した。このようにして得られた水性懸濁液は0.36重量%のピラクロストロビンおよび0.1重量%のSDSを含んでいた。
【0079】
実験により、本発明の製剤は、塩を含まない製剤または別の保護コロイドを含む製剤と比較して粒子の成長が遅いという特徴を有することが明らかになった。
【0080】
表5:バッチの組成物
【表5】

【0081】
1:アセチル化デンプン(調製は実施例3を参照されたい)
2:本発明によらない

表6:経時による粒径分布の変化(<1μmの割合(%))
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 水に対する溶解度が20℃で10 g/l以下である、懸濁した農薬、
b) 塩、および
c) C3〜C32-アルキルカルボニルおよび/またはC3〜C32-アルキルカルバモイル基により置換された多糖である保護コロイド
を含む水性組成物。
【請求項2】
懸濁した農薬が、0.1〜10μmのx50値を有する粒径分布を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
多糖が、フルクタン、加工デンプンまたはデンプン加水分解物である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
保護コロイドが、C6〜C18-アルキルカルボニルおよび/またはC6〜C18-アルキルカルバモイル基により置換された多糖である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
0.001〜20重量%の保護コロイドを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
10重量%以上の塩を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
塩がアニオンとしてリン酸水素イオンを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
農薬がピラクロストロビンである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物の調製方法であって、
a) 水に対する溶解度が20℃で10 g/l以下である農薬、
b) 塩、および
c) C3〜C32-アルキルカルボニルおよび/またはC3〜C32-アルキルカルバモイル基により置換された多糖である保護コロイド
を互いに接触させることによる前記方法。
【請求項10】
農薬の沈殿または乳化された農薬溶融物の固化を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
水に対する溶解度が20℃で10 g/l以下である懸濁した農薬ならびにC3〜C32-アルキルカルボニルおよび/またはC3〜C32-アルキルカルバモイル基により置換された多糖である保護コロイドを含む水性組成物における粒子の成長を遅くするための塩の使用。
【請求項12】
水相が、組成物に対して10重量%以上の塩を含む、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
植物病原性菌類および/または望まれない植物の成長および/または昆虫もしくはダニによる望まれない攻撃を防除するための、ならびに/あるいは植物の成長を調節するための請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物の使用であって、それぞれの有害生物、それらの環境またはそれぞれの有害生物から保護すべき植物に、あるいは土壌および/または望まれない植物および/または有用な植物および/またはそれらの環境に、該組成物を作用させる、前記使用。
【請求項14】
昆虫もしくはダニによる植物への望まれない攻撃を防除するための、および/または植物病原性菌類を防除するための、および/または望まれない植物の成長を防除するための請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物の使用であって、有用な植物の種子を該組成物により処理する、前記使用。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物を含む種子。

【公表番号】特表2012−520843(P2012−520843A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500191(P2012−500191)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053147
【国際公開番号】WO2010/105970
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】