説明

成形コンパウンドおよびその製造法

【課題】油膨潤性に優れた成形コンパウンドおよびその製造法の提供。
【解決手段】熱可塑性基質としてのポリアミド30〜80重量%と、架橋した分散エラストマー相とを含む成形コンパウンドで、前記の架橋した分散エラストマー相が、前記熱可塑性基質に結合しており、前記成形コンパウンドに対してそれぞれ10〜69重量%であるエチレンコポリマーと、1〜10重量である相溶剤とを含有し、当該相溶剤が、エチレンコポリマーのポリマー主鎖上への、α,β,エチレン不飽和モノ‐及び/又はジカルボン酸又はそれらの誘導体のグラフトによって得られた化合物群から選ばれたものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性基質と、その熱可塑性基質に結合した架橋した分散エラストマー相から成る成形コンパウンドに関し、その架橋したエラストマー相は、エチレンコポリマーと、グラフトしたエチレンコポリマーとを主剤とする相溶剤から成る。本発明は、さらにこの種の成形コンパウンドを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性基質および分散エラストマー相からなる熱可塑性成形コンパウンドは従来技術から公知である。これらの材料の種類の性質は、特に分散エラストマー相によって決まる。
【0003】
DE10345043A1には、熱可塑性相、即ち熱可塑性材料と、分散相としての架橋マイクロゲルからなる熱可塑性相を含む、マイクロゲルを含む組成物が記載されており、これらのマイクロゲルは放射線の効果によって架橋されない。この場合、マイクロゲルの架橋は基質に配合する前に行われる。DE10345043A1においては、熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性材料にマイクロゲルを配合することにより得られ、このエラストマー組成物では分散相の形態の調節は、材料の製造から空間的かつ一時的に分離される。
【0004】
更に、EP0469693A2には、耐衝撃性のポリアミド成形コンパウンドが開示されており、これは熱可塑性基質、すなわち部分的に結晶性のポリアミドと分散相としてのエチレンコポリマーから構成されている。この場合、分散エラストマー相の架橋は記載されていない。
【0005】
しかし、先行技術に記載されている熱可塑性成形コンパウンドは、その物理的性質に関して、特に耐薬品性に関して、かつ特にできるだけ低い油膨潤性に関して、いまだに適切な結果をもたないことがわかっている。できるだけ油膨潤性が低いことは、多くの用途のために、特に油−または石油−処理系での自動車の分野で重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここから出発して、本発明の目的は新規な熱可塑性成形コンパウンドを提案することであり、この成形コンパウンドは特にその物理的性質において、特に油膨潤性に関して、従来技術から公知の成形コンパウンドに勝る性質をもつ。さらに、本発明の目的は対応する製造法を示すことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、成形コンパウンドに関しては請求項1の特徴により、製造法については請求項14の特徴によって達成される。従属請求項は有利な展開を表す。
【0008】
本発明による成形コンパウンドはしたがって、後者が熱可塑性基質に結合した架橋した分散エラストマー相を持つことによって特徴づけられる。この場合、架橋された分散エラストマー相が10ないし69重量%のエチレンコポリマーと、エチレンコポリマー‐ポリマーの骨格にα,β,エチレン‐不飽和モノ‐及び/又はジカルボン酸又はその誘導体をグラフトすることによって得られる化合物から選ばれた相溶剤を1〜10重量%含むことが本発明において不可欠である。この場合、成形コンパウンドにそれぞれ関連する指示された重量の相溶剤にかなりの重要性が与えられる。
【0009】
この場合、ポリアミド濃度は30〜80重量%、好ましくは40〜60重量%、特に好ましくは45〜55重量%である。
【発明の効果】
【0010】
上記のように、結合し、架橋した分散エラストマー相をもつ成形コンパウンドは、従来技術で公知のものに比べて、その物理的性質において、特に油膨潤性において、かなり優れていることがわかる。さらに、この場合本発明による成形コンパウンドの他の物理的性質、例えば衝撃強度、破壊応力、弾性率および破壊伸びは結果として悪い影響を受けないことは驚くべきことである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明による成形コンパウンドの場合、相溶剤に関して指示された重量比が保持されることが不可欠である。量が多すぎると、すなわち10%を超える量では、ポリアミド相の架橋が起こり、その結果分散エラストマー相が大きい粒子を持ち、油膨潤性が増すことになる。
【0012】
量が少ないと、すなわち1重量%未満の量では、同様に不満足な結果になる。従って、本発明による成形コンパウンドの場合は、相溶剤を1〜7重量%の量、特に好ましくは1〜5重量%の量で加えるのが好ましい。
【0013】
ポリアミド−エラストマーの混合物では、相溶剤の一部は分散エラストマー相と連続ポリアミド相の両方に存在する。両方の相で、化学結合が互いに独立して起こる。エラストマー相では、結合はラジカル架橋の構成の中で起こり、ポリアミド相では、相溶剤のグラフトした官能基はポリアミドの末端基と反応する。さらに、分散相の表面に存在する相溶剤の官能基は、ポリアミド基質の末端基とも反応する。最後に記載した反応は、好ましい性質の形成に必要な両方の相の良好な結合を確保する。
【0014】
上記のように、本発明による成形コンパウンドにおいて、相溶剤に関して指示された重量が保持されるならば、分散相において均一な粒子径が達成され、その直径は0.2〜3μmの範囲にある。本発明による成形コンパウンドの優れた性質は、明らかに特に0.2〜3μmの指示された範囲、好ましくは0.5〜3μmの範囲にある分散相の均一な粒度分布のおかげであるといえる。この場合、粒径の調節は、上記のように、材料について相溶剤の添加量に左右される。
【0015】
さらに、粒子径は方法のパラメータの影響を受け、下記に報告するように、混合物の製造中のレオロジー的条件の影響を受ける。
【0016】
形態の調節に関しては、この場合ポリアミド/エラストマーの粘度比に大きい意味がある。特性比λ/λの大きさがこの場合重要である:
ここに λ=ΦDP/Φcp
λ=ηDP/ηCP
【0017】
λは、容積濃度比を表し、λは複合体の粘度を表す。DPは分散物(エラストマー)を表し、CPは連続層(ポリアミド)を表す。
【0018】
ポリアミドとエチレンコポリマーの粘度が正しい比である場合は、混合エレメントと混練ブロックのスクリューの設計の適切な選択によって代表的なせん断速度を見出すことができ、この速度は与えられた条件下でエラストマー相の十分な分散を可能にする。特性比λ/λ<1の場合は、コポリマーを連続PA基質内のマイクロ分散的に分布した相として含む二相系が形成される。
【0019】
平行して進む架橋過程によって、エラストマー相の粘度が定常的に増加することが、動的架橋の間に常に確保されねばならない。この過程で容積粘度比が一定である間に、分散的に分布した相の架橋により、粘度比は高い値に移行する。過程のはじめにすでにλ /λ<1という条件が満たされる場合は、好ましい分散のための必要条件はもっと改善され、すなわちPA基質内に微細でマイクロ分散的に分布し、高度に架橋したエラストマー粒子相を得ることがもっと容易になる。
【0020】
試料のレオロジー的な検査のためには、レオメトリックスDSR800型の回転式レオメータが使用される。
【0021】
貯蔵および損失係数および複合体粘度は、10−2〜10(rad/s)の周波数範囲で、それぞれ一定の温度(200〜250℃)で測定する。
【0022】
複合体粘度の測定法は下記に記載されている:
材料および材料混合物の流動特性、Huethig & Wepf,Press Bassel−Heiderberg−New York,1986。
【0023】
本発明による成形コンパウンドは、架橋した微細に分散したエラストマー相を含み、この相は少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは90%を超えるゲル比率を持つ。
【0024】
グラフト化で達成される相溶剤のゲル比率は、好ましくは5%未満、特に好ましくは1%未満である。
【0025】
本発明による成形コンパウンドは、分散エラストマー相の架橋が「その場で」ラジカル的に形成される形で好ましく得ることができる。この目的のためには、成分、すなわちポリアミド、エチレンコポリマーおよび相溶剤を好ましくはラジカル開始剤と一緒に過酸化物開始剤と混合し、つぎに混合中に架橋を行う。別の方法として、成分だけ、すなわちポリアミド、エチレンコポリマーおよび相溶剤をまず混合し、つぎにエネルギーに富む放射線の導入によって、混合中に、または粒状物の形成または成形部品の形成の終わりに架橋を引き続いて行うことも可能である。
【0026】
材料の観点からは、本発明はポリアミドに関して、現行技術においてそれ自体公知で、熱可塑性基質の製造に適した全てのポリアミドを包含する。
【0027】
ポリアミド(PA)としては、C〜C12のラクタムに基づくポリアミド又は4〜18個、好ましくは6〜12個の炭素原子を持つω−アミノカルボン酸、または重縮合物が有利に使用され、これらは4〜44個の炭素原子を持つ脂肪族ジカルボン酸、8〜24個の炭素原子をもつ脂環族ジカルボン酸及び8〜20個の炭素原子をもつ芳香族ジカルボン酸と組み合わせて、4〜18個の炭素原子を持つ脂肪族ジアミン及び7〜22個の炭素原子を持つ脂環族ジアミンから成る群から選ばれた少なくとも一種のジアミンの重縮合で得られる。ω−アミノカルボン酸又はラクタムは、ε−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、ε−カプロラクタム、エナントラクタム、ラウリンラクタムから成る群から選ばれる。さらに、本発明により、そのようなポリマーまたは重縮合物の混合物を使用することも可能である。本発明に適し、ジカルボン酸と組み合わせるジアミンは、例えば2,2,4−又は2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−又は1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、m−又はp−キシレンジアミン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノ−2−メチルペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、2−メチル−1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカンであり、ジカルボン酸はコハク酸, グリタル酸、アジピン酸、スベリン酸、ピメリン酸、オクタンジ酸、アゼライン酸、セバチン酸、ドデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸の群から選ばれる。
【0028】
本発明による成形コンパウンドのための(コ)ポリアミドの具体例は、したがってPA6、PA66、PA11、PA46、PA12、PA1212、PA1012、PA610、PA612、PA69、PA6T、PA6I、PA9T、PA10T、PA12T、PA12I、使用したモノマーに基づくそれらの混合物またはコポリマーから成る群から選ばれたホモ−又はコポリアミドである。本発明によれば、コポリアミドPA12T/12、PA10T/12、PA12T/106およびPA10T/106も好ましい。さらに、例えばPA6/66、PA6/612、PA6/66/610、PA6/66/12、PA MACMI、PA MACMT、PA66/6I/6T、PA MXD6/6、PA6T/66、PA6/6T、PA6/6I、PA6T/6I、PA6I/6Tまたはそれらの混合物も同様に好ましい成形コンパウンドである。
【0029】
本発明によるポリアミド成形コンパウンドは、しかしポリエステル、ポリエーテル、ポリシロキサン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレートまたはポリオレフィン部分を含むポリアミドブロックコポリマーを、少なくとも20%のポリアミド成分の部分に加えて、さらなる成分として含有してもよい。このポリマーの種類の代表例としては、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド及びポリエステルアミドが挙げられ、PA12がポリアミド部分として特に好ましい。
【0030】
エチレンコポリマーの場合、コモノマーとしてプロペン、ブテン、ペンテン、へキセン、オクテン、デセン、ウンデセン、ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、イソプレン、イソブチレン、(メタ)アクリル酸の誘導体、酢酸ビニル、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペンおよび2−クロロブタジエンが好ましく使用される。
【0031】
エチレンコポリマーの場合、その中でエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)が使用されるのが特に好ましい。EVAコポリマーは、20〜80%、好ましくは30〜70%、特に好ましくは40〜60%の酢酸ビニル含量を持つのが好ましい。また、部分鹸化EVAコポリマーもこの場合使うことができ、その鹸化度は最高50%である。EVAコポリマーはまたさらに別のコモノマーを含んでもよい。
【0032】
エチレンコポリマーを主剤とする相溶剤の場合、エチレンに対するコモノマーとしては、プロペン、ブテン、ペンテン、へキセン、オクテン、デセン、ウンデセン、ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、イソプレン、イソブチレン、(メタ)アクリル酸の誘導体、酢酸ビニル、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペンおよび2−クロロブタジエンが好ましく使用される。
【0033】
相溶剤に関しては、ポリマーの骨格は同様にエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)であるのが好ましい。適切なグラフト剤は、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ブチルおよび(メタ)アクリル酸メチルである。この場合、好ましいのは無水マレイン酸(MAH)である。ポリアミド−EVA混合物がEVAポリマーの骨格に基づく相溶剤およびグラフト剤としてのMAHと一緒に使用される場合は、相溶剤として適するのは市販のMAH−グラフトしたエチレン酢酸ビニルコポリマー、例えばヨーロッパのDuPont Co.製のFUSABOND MC190D(0.76%MAH)又はMC250D(1.38%MAH)である。
【0034】
BVAポリマーの骨格に基づく好ましい相溶剤は、下記の好ましい性質をもつ:
酢酸ビニル含量:>35モル%
MVI:(190℃/2.16kg)>20
グラフト度:0.2〜3%(特に0.5〜1.5%)
ゲル比率:<5%、好ましくは<1%
【0035】
もちろん、本発明による熱可塑性ポリアミド成形コンパウンドは、一般に当業者に公知の通常の添加剤を単独または組み合わせでさらに含有してもよく、それらは耐衝撃剤、外来ポリマー、接着剤、難燃剤、強化剤、例えばガラス繊維および炭素繊維、紫外線安定剤または熱安定剤、耐候安定剤、鉱物質、加工助剤、結晶化促進剤または禁止剤、酸化防止剤、ブロッキング防止剤、潤滑剤、離型剤、防炎剤、顔料、着色剤およびマーキング材料および充填剤、例えばカーボンブラックまたは黒鉛、微小繊維またはフレーク状の微小粒子から成り、ポリアミドにおいて公知の全ての添加剤に対応する群から個々の用途に必要なものとして選ばれる。
【0036】
また、他の通常のポリマー、例えばポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、AN−及びABS−ポリマー、官能化コポリオレフィン及びイオノマーも特定の目的のために前記の成形コンパウンドに加えてもよい。
【0037】
その他の添加剤としては、衝撃性改良剤が本発明の熱可塑性ポリアミド成形コンパウンドに加えられる。これらは、例えばガラス転換温度の低いポリオレフィンに基づくコポリマーであり、それはアクリル酸を含み、または無水マレイン酸でグラフトできる。特にエチレン−プロピレンコポリオレフィン又はエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)のような衝撃性改良剤は個々に特記されてよい。
【0038】
好ましい実施態様において、成形コンパウンドはさらに微細な充填剤を含む。本発明の特別の実施態様では、微細な充填剤は、二酸化ケイ素または二酸化ケイ素水和物である。ポリアミド成形コンパウンドにおいて、個々の微細充填剤はある一つの実施態様では均一に分散した層状の材料として存在する。基質中に配合する前に、それらは0.7〜1.2nmの層の厚さと、5nm以下の鉱物層の中間層間隔をもつ。
【0039】
本発明は、さらに上記のような成形コンパウンドを製造するための方法に関する(請求項14)。
【0040】
本発明による方法は、今や成形コンパウンドを製造するための成分、すなわちポリアミド、コポリマーおよび相溶剤を混合装置内で混合し、分散エラストマー相の架橋を行うことで特徴づけられる。分散エラストマー相の架橋は、この場合基本的に二つの異なった方法で行うことができる。
【0041】
一方、成形コンパウンドを製造するための成分の添加とともに、すなわちポリアミド、コポリマーおよび相溶剤とともに、ラジカル開始剤、好ましくは過酸化物開始剤を同時に加える方法で架橋を行うことができる。製造の過程中のこの開始剤の添加によって、分散エラストマー相の架橋が行われるだけでなく、同時にエラストマー相のポリアミドへの結合が行われ、すなわち相溶剤がグラフトされた官能基を介してポリアミドの末端基と化学反応する。この「その場での」分散相の架橋の結果として、分散相の均一な粒径が指示された寸法の範囲、すなわち>0.2〜3μm、好ましくは>0.5〜3μmの寸法で明らかに達成される。本発明による方法において、「その場での」反応の結果として均一な粒径分布が達成され、すでに上記したように、それが本発明による成形コンパウンドの物理的性質に極めて重要であることが強調されるべきである。
【0042】
別の方法として、過酸化物開始剤での架橋でなく、エネルギーの導入によって相当する架橋を達成することも可能である。この変法の長所は、混合過程中だけでなく、ポリマーの粒状物または成形部品の形成の後にも架橋が行われ得るという事実でもわかる。本発明による方法の場合に、全ての混合装置、例えばローラー、マルチローラー装置、溶解装置、完全混合器、または混合押出成形機が基本的に適切である。しかし、混合装置としては、二軸スクリュー押出機が好ましく、さらに低い螺旋を持つ移送エレメントと、空間的に分離した累進的な混練ブロックをもつ移送エレメントを有する二軸スクリュー押出機が好ましい。そのような二軸スクリュー押出機のスクリュー速度は、好ましくは150〜400min−1である。供給ゾーンの温度は、<120℃とすべきである。
【0043】
本発明はさらに、熱可塑的に加工できる成形物を製造するために、本発明による成形コンパウンドを使用することに関し、また本発明によりこの組成物から得ることができる成形物に関する。
【0044】
この種の成形物の例は下記を含む:プラグ連結部、減衰材、特に振動および衝撃減衰素子、音響減衰素子、輪郭、フィルム、特に減衰フィルム、包装フィルムまたは多層包装フィルムの個々の層、足マット、靴挿入片、ブーツ、特にスキーブーツ、スキー用アッパー、靴底、電子部品、電子部品用ハウジング、工具、装飾用成形物、複合材料など。
【0045】
上記成形物は、特に下記を含む:流体伝導管(気体および/または液体)、特に油−及び燃料伝導管、帯電防止仕上げをしたパイプおよび自動車工業のためのコンテナー、円滑かつ波動性のパイプ、パイプ部品、パイプ連結片(入口、換気、充填、排出)、可撓性ホース、ホース連結用部品、波形パイプおよび媒体伝導パイプ、多層パイプの部品(外層、中間層、内層)、容器、容器の部品(例えば仕切り)、多層容器の個々の層、自動車工業におけるカバー又はクランクハウジング部品、水圧パイプ、ブレーキパイプ、ブレーキ液容器、冷却液パイプ。成形部品は、射出成形、押出し成形またはブロー成形の方法によって製造できる。
【0046】
実施例及び図面を参照して、本発明を更に詳細に以下において説明する。
【実施例】
【0047】
メガコンパウンダー(ZSK40)を用いたPA12−EVA混合物生成
【0048】
まず最初に、PA12−EVA混合物製造を、2段階方法の構成において説明する。第1の部分工程では、無水マレイン酸(MAH)のEVA上へのグラフトが行われ、相溶剤が生成する。第2の部分工程では、求められている組織の同時生成と共に、合成ゴム相の動的架橋が行われる。
【0049】
50:50のPA12−EVA質量濃度比率を用い、かつ、n=300min−1のスクリュー速度で生じる粘度比率を決定することによって、熱可塑性エラストマー混合物が製造され、この混合物は、連続したPA12基質と、その中に取り込まれた高度に架橋したEVA粒子を含んでいる。PA12−EVA相互作用を増強させるために、予め製造されたEVA−g−MAHを、相溶剤として成分系に添加する。PA12−EVA混合物は、同方向に回転する二軸スクリュー押出機(Coperion Werner & Pfleiderer社のタイプZSK40L/D=56)を用いて製造される。使用されたポリマーは、表1において詳細に特徴が述べられている。
【0050】
方法工程1:EVAコポリマーのMAHとのグラフト(実施例1)
【0051】
第1の方法部分工程においては、縮合可能なMAHのEVAコポリマー上へのラジカルグラフト反応が起こる。生じた工程パラメーターが、表2に集められている。MAHと2,5‐ジ(tert‐ブチル‐ペルオキシ)‐2,5‐ジメチルヘキサン(DHBP)は、EVAと事前混合される。上記原料は、重量測定システムを用いて二軸スクリュー押出機ZSK25−L/D=44に連続的に供給される。MAH2.0部に対してDHBP0.2部が添加される。スクリュー速度は150min−1であった。
【0052】
生成したグラフトコポリマーは、表1に特徴が述べられている。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
貯蔵係数(G'(ω))、損失係数(G''(ω))及び複合粘度(η(ω))の物理的特徴性能を含むレオロジー的試験は、2.0%MAHと0.2%DHBP(MAH:DHBP=10:1)を用いて生じたMAH‐グラフトEVAコポリマーが、熱可塑的変形挙動をまだ有しており、それゆえ、過酸化物により開始されるEVA事前架橋が起こらないことを明らかに示している。
【0056】
MAHグラフト度の測定
【0057】
MAHグラフト度は、EVA−g−MAHの酸素含有量(CHN分析)を測定することによって決定する。
[O]全体−[O]EVA=[O]グラフトされたMAH
[O]グラフトされたMAHx[(C+H)/O]MAH=[C+H]グラフトされたMAH
MAHグラフト度=[MAH]EVA−g−MAH=[O]グラフトされたMAH+[C+H]グラフトされたMAH
【0058】
ゲル比率の測定
架橋されたEVA相と相溶剤EVA−g−MAHのゲル比率は、クロロホルムを用いた熱抽出によって測定した。更に、サンプルを、沸騰したクロロホルム中で還流しながら15時間抽出した。不溶性部分を分離した後、後者を一定重量となるまで乾燥し、その後、重量測定した。最初の重量に対する不溶性残渣の重量比率は、%でのゲル比率を示している。
【0059】
生成したEVA−g−MAHのグラフト度は0.7%で、ゲル比率は<1%である。
【0060】
方法工程2:反応相溶性及び動的EVA架橋及びPA−EVA硬化体の組織生成(実施例2−4)
【0061】
PA12−EVA混合物の生成は、同方向に回転し、ぴったりと噛み合わさった二軸スクリュー押出機、タイプZSK40−L/D=56を用いて行った。方法概念を実現化する場合、反応性のある相溶化工程を混合生成と一緒にして1段階方法とする。EVA−g−MAHとPA12のアミノ末端基との間の架橋反応、又はPA12−EVA混合物の分散相の動的架橋を完成させるために、低い螺旋形を有し、しかも、空間的に分離されて等級別に配列された混練ブロックのセットを有した運搬エレメントを設置した。
【0062】
このような計量法によって、スクリュー溝の充填程度と、これによる押出機内の成分の滞留時間、又、スクリューのせん断効率が増加する。
【0063】
このような混合を引き起こすのに典型的な軸シリンダー温度プロファイルと、使用したスクリュー幾何図が、図1に示されている。スクリュー速度は290min−1であった。供給ゾーンの温度は、できるだけ低く維持されなければならず、これは、架橋剤が高温で蒸発することがあるからである。
【0064】
前記のEVAコポリマー、相溶剤(EVA−g−MAH)及びPA12は、2つの重量計量システムを用いて押出機のゾーン1に重量測定されて供給される。架橋剤は、マイクロ計量ユニットによって押出機の中へ計量しながら供給され、基本となる成分における自発的な過酸化物分解を回避するために、低い塊状物温度(160℃<Tm<180℃)で均一に分布された。適切な軸シリンダー温度プロファイルの選択によって、可塑化温度は運搬方向に向かって増加し、熱的に開始される過酸化物分解が開始される。分散相の過酸化物にて開始されるラジカル硬化と、分離及び分配段階と、融解したポリマー成分の相溶段階によって、架橋した微細な分散状態にある合成ゴム相を含有したポリマー混合物がもたらされる。
【0065】
架橋反応は、高い変形応力と変形速度の作用の下で起こるべきであり、これは、エラストマー相の最も小さな粒子(0.2≦d≦3.0μm)への連続した効率的な分離又は分散が起こるためである。このような目的に必要とされる工程及び方法パラメーターは、モジュールスクリュー設計を用いて作り出すことができ、この設計は、正確に位置した混合エレメントと、幅広い集中的な混練ブロックを含み、同時に局所的な反応特異的塊状物滞留時間を確実なものとする。
【0066】
実施例2〜4において使用したポリマー‐グリラミッドL16Aとレバメルト500‐の特性粘度比率は、λ/λ=0.7である。
【0067】
この評価においては、100rad/sの振動数での複合粘度を基準にした。
【0068】
表3には、実施例のために選択された配合バッチが挙げられている。
【0069】
PA12とEVAから成る混合物は、架橋されていない混合物に比べて、機械的特性の点で実際的には何ら不都合を示さない。弾性係数、破壊応力及び破壊伸長は、同じ範囲内にあり、エラストマー相の架橋度からほとんど独立している。対照的に、EVA領域の架橋度の増加を伴う油膨潤は、著しく減少する。同じEVA比率にあっては、混合物(実施例4)の膨潤度はわずか2.1%であり、それゆえ、架橋していない混合物(実施例2)よりも3.5だけ小さい。
【0070】
【表3】

【0071】
分散相の粒子直径は、EVA−g−MAHの添加によって3倍にまで減少する。相溶剤を使用しないと、3〜10μmの範囲の不均一なサイズ分布となり、より大きな粒子の比率が大きくなる。相溶剤であるEVA−g−MAHの添加によって、0.2〜3μmの間の範囲内にある粒子径の非常に均一な分布となる。
【0072】
相溶剤の影響は、図2及び3に複写されているREM画像によって実証することができる。図2には、相溶剤を使用しない以外は実施例4と同じ条件下で製造されたPA12−EVA混合物(グリラミッドL16A:レバメルト500=50:50)の形態が、1000倍に拡大されて示されている。EVA粒子径は、そのほとんどが3μmを大きく超えている。それとは対照的に、図3には、実施例4のPA12−EVA混合物のREM画像が示されており、3μmよりも有意に小さな粒子径を有したエラストマー相は、観察された部分に渡って均一に分布している。凝集体の形態である大きなエラストマー領域は生じていない。
【0073】
しかしながら、濃度が高すぎるとポリアミド相の架橋がもたらされるので、使用される相溶剤の濃度には細心の注意が払われるべきである。大きな粒子の生成の結果、その後、油膨潤が増加する。
【0074】
例えばEVA−g−MAHのような相溶剤は、成形コンパウンドに対して1〜10重量%、好ましくは1〜7重量%、特に好ましくは1〜5重量%の濃度で使用される。
【0075】
以下の表4においては、本発明の成形コンパウンドの製造に適した種々の過酸化物が挙げられている。
【0076】
EVA架橋に特に有効なのは、過酸化物DHBPとDIPPである。EVAはフリーな酢酸(0.1重量%以下)を含有するので、EVA架橋の完結の点において、中和のための塩基としてその中に酸化マグネシウムを添加することが好ましい。このような添加がない場合、過酸化物の一部がヘテロリシス的に分解し、ラジカル生成にもはや利用することができない。
【0077】
【表4】

【0078】
実施例5:
実施例3及び4と同様にして、成分グリラミッドL16A、レバメルト500及び、実施例1にて製造した相溶剤EVA−g−MAHから成る動的架橋したPA12−EVA混合物を生成する。油膨潤及び機械的特性は、DIN引張強度試験バール上で測定した。
【0079】
更に、実施例5からの混合物を用いて、寸法8×1の単管を、ノキアメイルレファーコイーエックス5パイプ押出機にて異なる引き抜き速度で製造した。シリンダー温度は200〜220℃で、スクリュー速度は75rpm(40m/s)又は112rpm(60m/s)で、塊状物温度は217℃であった。両方の引き抜き速度(40及び60m/s)について、対応するパイプ特性を測定した。この結果が表5にまとめられている。
【0080】
パイプ寸法とは独立した比応力は、以下に従って破壊圧力から計算される。
【0081】
VS=(P*d)/(20*smin
【0082】
=破壊圧力[バール]
=d−smin、平均パイプ直径[mm]
=外側直径[mm]
min=最小パイプ壁厚み[mm]
VS=比応力[MPa]
【0083】
【表5】

【0084】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】混合を引き起こすのに典型的な軸シリンダー温度プロファイルと、使用したスクリュー幾何図である。
【図2】相溶剤を使用しない以外は実施例4と同じ条件下で製造されたPA12−EVA混合物(グリラミッドL16A:レバメルト500=50:50)の形態が、1000倍に拡大されて示されている。
【図3】実施例4のPA12−EVA混合物のREM画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性基質としてのポリアミド30〜80重量%と、架橋した分散エラストマー相とを含む成形コンパウンドであって、
前記の架橋した分散エラストマー相が、前記熱可塑性基質に結合しており、当該成形コンパウンドに対してそれぞれ10〜69重量%であるエチレンコポリマーと、1〜10重量%である相溶剤とを含有し、
当該相溶剤が、エチレンコポリマーのポリマー主鎖上への、α,β,エチレン不飽和モノ‐及び/又はジカルボン酸又はそれらの誘導体のグラフトによって得られた化合物群から選ばれたものであることを特徴とする成形コンパウンド。
【請求項2】
前記成形コンパウンドに対して1〜7重量%、特に好ましくは1〜5重量%の相溶剤が添加されていることを特徴とする請求項1に記載の成形コンパウンド。
【請求項3】
前記の架橋した分散エラストマー相の平均粒子径が、0.2μmと3μmの間、好ましくは0.5μmと3μmの間の範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の成形コンパウンド。
【請求項4】
前記の分散エラストマー相の架橋が、ラジカル的に引き起こされることを特徴とする請求項1〜3の少なくとも1項に記載の成形コンパウンド。
【請求項5】
前記架橋が「その場」で実施されることを特徴とする請求項4に記載の成形コンパウンド。
【請求項6】
過酸化物により開始されるラジカル架橋が実施されることを特徴とする請求項4又は5に記載の成形コンパウンド。
【請求項7】
前記の分散エラストマー相の架橋が、エネルギー豊富な放射線の導入によって行われることを特徴とする請求項1〜4の少なくとも1項に記載の成形コンパウンド。
【請求項8】
前記のエチレンコポリマーが、エチレンビニルアセテート(EVA)であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の成形コンパウンド。
【請求項9】
前記のポリマー主鎖上へのグラフトのためのエダクトが、無水マレイン酸(MAH)、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレートから選ばれたものであることを特徴とする請求項1〜8の少なくとも1項に記載の成形コンパウンド。
【請求項10】
ポリアミドとして、部分的に結晶性のポリアミドが使用されていることを特徴とする請求項1〜9の少なくとも1項に記載の成形コンパウンド。
【請求項11】
前記ポリアミドが、PA6,PA66,PA11,PA46,PA12,PA1212,PA1012,PA610,PA612,PA69,PA9T,PA6T,PA6I,PA10T,PA12T,PA12I、これらの混合物又はコポリマーから選ばれたものであることを特徴とする請求項1〜10の少なくとも1項に記載の成形コンパウンド。
【請求項12】
更に前記成形コンパウンドが添加物を含有することを特徴とする請求項1〜11の少なくとも1項に記載の成形コンパウンド。
【請求項13】
体積濃度比率λ=ΦDP/ΦCPと、複合粘度の比率λ=ηDP/ηCPが、以下の関係:λ/λ<1(DPは分散相を、CPは連続相(熱可塑性基質)を示す)
であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の成形コンパウンド。
【請求項14】
前記ポリアミド、前記コポリマー及び前記相溶剤が、混合ユニット内で混合され、前記の分散エラストマー相の架橋が実施されることを特徴とする請求項1〜13の少なくとも1項に記載の成形コンパウンドを製造するための方法。
【請求項15】
前記混合ユニットが、ローラー、マルチローラー装置、溶解装置、完全混合機又は混合押出機から選ばれることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
二軸スクリュー押出機が、混合ユニットとして使用されることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記架橋が、前記成形コンパウンドのエダクトと共にラジカル開始剤を添加することにより行われることを特徴とする請求項13〜16の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項18】
前記架橋が、前記成形コンパウンドの生成の間、又は生成の後に、エネルギー豊富な放射線の導入によって行われることを特徴とする請求項13〜16の少なくとも1項に記載の方法。
【請求項19】
成形物を製造するための、前記請求項1〜13の少なくとも1項に記載の成形コンパウンドの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−169649(P2007−169649A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−345112(P2006−345112)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(599063273)エムス ヒェミー アーゲー (7)
【出願人】(591044393)ラスムッセン ジイエムビイエイチ (43)
【氏名又は名称原語表記】RASMUSSEN GESELLSCHAFT MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
【Fターム(参考)】