説明

成形フィルターおよび筒状フィルターとその製造方法

【課題】 熱成形性に優れ、耐熱性および耐薬品性を十分に発揮することができる成形されたフィルターを提供する。
【解決手段】 ポリオキシメチレン系重合体Aを含む第1成分と、ポリオキシメチレン系重合体Bを含む第2成分とを、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出しており、ポリオキシメチレン系重合体AおよびBのJIS K 7121に従って測定される融解ピーク温度をそれぞれ、TAおよびTBとしたときに、TB>TA+10を満たし、紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Aの結晶化温度が125℃以上150℃以下の範囲内にあり、140℃ 1/2結晶化時間が、5秒以上1200秒以下の範囲内にある熱接着性複合繊維を30質量%以上含む繊維集合物を、前記熱接着性複合繊維の第1成分を熱接着しながら巻芯に巻き取ることにより、前記繊維集合物が巻回された筒状体に成形された成形フィルターを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体を濾過するために用いられる成形フィルターであり、特に、耐熱性、耐薬品性(耐有機溶剤性)が要求される濾過に好適な成形フィルターおよび筒状フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、市販されているカートリッジフィルター等の成形フィルターは、ポリオレフィン系またはポリエステル系の合成繊維が一般的に用いられている。ポリオレフィン系のフィルターは、特にキシレン、トルエンなどの炭化水素系の耐溶剤性に問題があった。また、ポリエステル系のフィルターでも耐薬品性の問題があり、特にアルカリやアルコール類には使用できなかった。このように、フィルターを構成する繊維の耐薬品性、膨潤については、濾材の強度が低下するばかりではなく、濾材としての空隙率が低下し、濾過寿命が低下したり、濾過抵抗が大きくなることで、捕捉したダストをリークさせることもあった。
【0003】
また、安価なコットン製の糸巻きフィルターも多用されているが、天然繊維であることから、加工方法も限定され、濾過精度も安定しておらず、精密濾過には適していない。また、一部にはフッ素系の樹脂を繊維化した濾材も開発されているが、非常に高価であることから用途は限定される。
【0004】
一方、ポリオキシメチレンは、ポリアセタールとも呼ばれ、耐熱性および耐薬品性に優れたエンジニアリングプラスチックとして知られており、その成形品は、自動車の部品等として、広く使用されている。ポリオキシメチレンは、結晶性に優れ、結晶化速度が速く、また結晶化度も大きいことから、繊維化は困難であるとされている。それにもかかわらず、その優れた特性を利用した様々なフィルターが提案されている(特許文献1、2)。特許文献1では、溶融粘度(190℃,荷重2.16kg)が100〜500g/10分であるポリアセタールを鞘成分にした複合繊維を用いたフィルターが開示されている。また、特許文献2には、オキシメチレン単位100mol当たり1.5〜10molの特定のオキシアルキレン単位を含み、メルトインデックス(190℃,荷重2.16kg)が1〜100g/10分であるポリオキシメチレン共重合体からなる繊維を用いたフィルターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−215520号公報
【特許文献2】特開2005−13829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下のような問題点があった。特許文献1のフィルターは、鞘成分は耐熱性及び耐薬品性(耐有機溶剤性)に優れたポリオキシメチレンを用いているが、芯成分はポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンが開示されているのみである。このようにポリオキシメチレン以外の成分が製品に含まれていれば、ポリオキシメチレンの特性を最大限に利用することができず、耐熱性及び耐薬品性が不十分であった。
【0007】
また、特許文献2のフィルターは、特定のポリオキシメチレン共重合体を用いることにより、繊維化を可能とすることが記載されている。しかし、単一成分のポリオキシメチレン繊維であって、ニードルパンチや平織メッシュのように二次的に加工しないと繊維集合体としての形状を維持することができず、所定のフィルター形状に成形することが困難であり、用途が制限されるという問題があった。
本発明は、これらの実情に鑑みてなされたものであり、ポリオキシメチレンから主として含む熱接着性複合繊維を用いた成形フィルター及び筒状フィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリオキシメチレンの種類および製造条件を種々検討した結果、特定の温度差を有するポリオキシメチレンを使用し、鞘成分のポリオキシメチレンの1/2結晶化時間が複合繊維の紡糸性及び繊維化後の熱加工性に影響を及ぼすことを見出した。すなわち、本発明の成形フィルターは、ポリオキシメチレン系重合体Aを含む熱接着成分としての第1成分と、ポリオキシメチレン系重合体Bを含む第2成分とを含み、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出している熱接着性複合繊維を30質量%以上含み、第1成分により熱接着して成形している成形フィルターであり、前記熱接着性複合繊維における紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Aの結晶化温度が125℃以上150℃以下の範囲内にあり、140℃ 1/2結晶化時間が、5秒以上1200秒以下の範囲内にあり、前記熱接着性複合繊維におけるポリオキシメチレン系重合体AおよびBのJIS K 7121に従って測定される融解ピーク温度をそれぞれTfAおよびTfBとしたときに、TfB>TfA+10を満たすことを特徴とする。
【0009】
本発明の筒状フィルターは、前記成形フィルターであって、熱接着性複合繊維を30質量%以上含む複数の繊維集合物が巻回されて、隣り合う繊維集合物が第1成分により熱接着した筒状体に成形されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の筒状フィルターの製造方法は、熱接着性複合繊維を30質量%以上含む複数の繊維集合物が巻回されて、隣り合う繊維集合物が第1成分により熱接着されている筒状フィルターの製造方法であって、前記熱接着性複合繊維は、ポリオキシメチレン系重合体Aを含む第1成分と、ポリオキシメチレン系重合体Bを含む第2成分とを、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出した複合繊維であり、前記熱接着性複合繊維におけるポリオキシメチレン系重合体AおよびBのJIS K 7121に従って測定される融解ピーク温度をそれぞれTAおよびTBとしたときに、TB>TA+10を満たし、前記熱接着性複合繊維における紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Aの結晶化温度が125℃以上150℃以下の範囲内にあり、140℃ 1/2結晶化時間が、5秒以上1200秒以下の範囲内にあり、前記熱接着性複合繊維を30質量%以上含む繊維集合物を、140℃以上180℃以下の範囲に加熱して前記熱接着性複合繊維の第1成分を熱接着しながら巻芯に巻き取り、巻き取られた前記繊維集合物から前記巻芯を抜き取って、前記繊維集合物が巻回された筒状体を成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の成形フィルターは、低融点の熱接着成分および高融点成分ともに、ポリオキシメチレン系重合体を含む熱接着性複合繊維を用いることにより、低融点のポリオキシメチレン系重合体で繊維同士を熱接着することができるので、熱成形性に優れ、所定の形状に成形されたフィルターを得ることができる。また、本発明の成形フィルターは、ポリオキシメチレン系重合体で構成されるので、耐熱性および耐薬品性を十分に発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の成形フィルターに用いられる熱接着性複合繊維は、ポリオキシメチレン系重合体を含む成分を、少なくとも2つ含んでいる。本明細書において、ポリオキシメチレン系重合体とは、オキシメチレン単位を主たる繰り返し単位とするポリマーである。ポリオキシメチレン系重合体は、ホルムアルデヒドまたはトリオキサンを主原料として、重合反応によって得られる、いわゆるPOMホモポリマーであってよく、あるいは主としてオキシメチレン単位からなり、主鎖中に2〜8個の隣接する炭素原子を有し、置換基を有してよいオキシアルキレン単位、好ましくはCH2CH2Oをエチレンオキサイド換算値として10質量%以下、より好ましくは0.5〜8質量%含有する、いわゆるPOMコポリマーであってもよい。オキシアルキレン基に結合し得る置換基は、例えば、アルキル基、フェニル基、または他の有機基である。また、ポリオキシメチレン系重合体は、他の構成単位を含有するコポリマー、即ち、ブロックコポリマー、ターポリマー、および架橋ポリマーのいずれであってもよい。
【0013】
前記熱接着性複合繊維は、ポリオキシメチレン系重合体Aを含む熱接着成分としての第1成分と、ポリオキシメチレン系重合体Bを含む第2成分とを含み、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出しており、熱接着性複合繊維における紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Aの結晶化温度が125℃以上150℃以下の範囲内にあり、140℃ 1/2結晶化時間が、5秒以上1200秒以下の範囲内にあり、熱接着性複合繊維におけるポリオキシメチレン系重合体AおよびBのJIS K 7121に従って測定される融解ピーク温度をそれぞれTfAおよびTfBとしたときに、TfB>TfA+10を満たす。
【0014】
紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Aの結晶化温度が125℃以上150℃以下の範囲内にあり、140℃ 1/2結晶化時間が、5秒以上1200秒以下の範囲内にあり、ならびにTfAおよびTfBが上記式を満たすために、ポリオキシメチレン系重合体AおよびBは、分子量、オキシメチレン単位と共重合しているコモノマーの種類および割合のうち、少なくとも1つにおいて、互いに異なっている。
【0015】
具体的には、例えば、ポリオキシメチレン系重合体Aは、紡糸前の融点TAが好ましくは140〜160℃、より好ましくは150〜158℃である重合体である。そのようなポリオキシメチレン系重合体は、例えば、CH2CH2Oをエチレンオキサイド換算値として3〜10質量%、好ましくは5〜9質量%含むものである。紡糸前のTAが上記範囲内にあると、汎用の熱処理機でも熱処理することができる。また、100℃程度の連続使用するなど耐熱性が求められる場合でも繊維およびフィルターの物性が損なわれることがなく、その形状も維持することができる。
【0016】
ポリオキシメチレン系重合体Bは、紡糸前の融解ピーク温度TBが好ましくは160〜174℃、より好ましくは165〜172℃である重合体である。そのようなポリオキシメチレン系重合体は、例えば、CH2CH2Oをエチレンオキサイド換算値として0.5〜3質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%含むものである。ポリオキシメチレン系重合体Bの紡糸前の融解ピーク温度TBがこのような範囲内にあると、上記成形フィルターへの熱処理時に溶融することなく加工することができる。
【0017】
紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Aの結晶化温度TCAが125℃以上150℃以下であり、好ましいTCAは128〜145℃であり、より好ましくは130〜140℃である。ポリオキシメチレン系重合体Aの結晶化温度TCAは、下記の条件で測定する。
[結晶化温度]
示差走査熱量測定装置を用いて、サンプル10mgをアルミニウム製容器に入れ、窒素雰囲気下において、10℃/分の昇温速度で、20℃から210℃まで昇温し、5分間保持した後、10℃/分の降温速度で降温したときの結晶化発熱ピークを、結晶化温度とした。
【0018】
紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Aの結晶化温度TCAは、溶融された樹脂が固化する温度と関係する。複合繊維を含む成形フィルターに熱加工する温度範囲では、十分に溶融され、且つ熱加工後に熱接着成分が結晶化しにくいので、繊維同士の交点が十分に接着して熱成形性が高く、熱接着したときの強力も高い傾向にある。
【0019】
紡糸前のポリオキシメチレン系重合体AのメルトインデックスMI(g/10min)は、20<MIAを満たすことが好ましい。鞘成分の樹脂が高い流動性を有することを意味する。そのため、前記熱接着性複合繊維を成形フィルターに加工する際に、加熱して、熱接着させると、第1成分が広い範囲に広がり、接着強力が高くなり、不織布強力が増大する傾向にある。また、細い繊度の繊維を得ようとする場合は、紡糸時に引取速度を大きくする(すなわちドラフト倍率を大きくする)こととなるので、鞘成分の樹脂が20<MIAを満たすと、高い流動性を有し、それにより、紡糸時に樹脂が溶融変形しやすくなる点で有利である。MIAが好ましくは30〜70、より好ましくは40〜65である。
【0020】
紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Aにおける140℃ 1/2結晶化時間が5秒以上1200秒以下の範囲内である。前記複合繊維において、ポリオキシメチレン系重合体Aは、下記の条件で測定した140℃ 1/2結晶化時間が、10〜600秒であることがより好ましく、10〜120秒であることがさらにより好ましい。
【0021】
[140℃ 1/2結晶化時間の測定方法]
示差走査熱量測定装置を用いて、サンプル10mgをアルミニウム製容器に入れ、窒素雰囲気下において、10℃/分の昇温速度で、20℃から200℃まで昇温し、2分間保持した後、10℃/分の降温速度で、降温し、140℃で等温保持を行い、等温保持開始時間から、結晶化発熱ピークが観察されるまでの時間を、140℃ 1/2結晶化時間とした。
測定条件の詳細は次のとおりである。
示差走査熱量測定装置:SEIKO Instruments社製、商品名DSC 6200
雰囲気:窒素流(50mL/分)
温度校正:純水、高純度インジウム、高純度スズの各融点
感度校正:高純度インジウム(ΔHm=6.86cal/g)
温度範囲:20〜220℃
【0022】
結晶化時間は、溶融された樹脂が固化するまでの時間と関係する。ポリオキシメチレン系重合体Aの140℃ 1/2結晶化時間が、上記の範囲内にあると、複合繊維を含む成形フィルターに熱加工する温度範囲では、十分に溶融され、且つ熱加工後に熱接着成分が結晶化しにくいので、繊維同士の交点が十分に接着して熱成形性が高く、熱接着したときの強力も高い傾向にある。
【0023】
次に、紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Bの結晶化温度TCBは、140℃以上160℃以下であり、好ましいTCBは142〜158℃であり、より好ましくは144〜156℃である。紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Bの結晶化温度TCBは、溶融された樹脂が固化する温度と関係し、複合繊維を含む成形フィルターに熱加工する温度範囲では、ポリオキシメチレン系重合体Bを含む成分(第2成分)が熱加工時の熱の影響を受けにくく、且つ熱加工後に瞬時に冷却されるので、複合繊維を含む繊維層が嵩高性を維持することができ、ひいては繊維間の空隙を確保し、濾過精度及び濾過ライフを安定させることができる。
【0024】
紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Bの150℃ 1/2結晶化時間は、10秒以上100秒以下の範囲内であることが好ましい。ポリオキシメチレン系重合体Bの150℃ 1/2結晶化時間が、上記の範囲内にあると、複合繊維としたとき、ポリオキシメチレン系重合体Aの融点以上、ポリオキシメチレン系重合体Bの融点よりも低い温度で熱処理したときに、ポリオキシメチレン系重合体Bを含む成分(第2成分)が熱加工時の熱の影響を受けにくく、且つ熱加工後に瞬時に冷却されるので、複合繊維を含む繊維層が嵩高性を維持することができ、ひいては繊維間の空隙を確保し、濾過精度及び濾過ライフを安定させることができる。なお、ポリオキシメチレン系重合体Bの150℃ 1/2結晶化時間は、以下の方法で測定する。
【0025】
[150℃ 1/2結晶化時間の測定方法]
示差走査熱量測定装置を用いて、サンプル10mgをアルミニウム製容器に入れ、窒素雰囲気下において、10℃/分の昇温速度で、20℃から200℃まで昇温し、2分間保持した後、10℃/分の降温速度で、降温し、150℃で等温保持を行い、等温保持開始時間から、結晶化発熱ピークが観察されるまでの時間を、150℃ 1/2結晶化時間とした。
測定条件の詳細は次のとおりである。
示差走査熱量測定装置:SEIKO Instruments社製、商品名DSC 6200
雰囲気:窒素流(50mL/分)
温度校正:純水、高純度インジウム、高純度スズの各融点
感度校正:高純度インジウム(ΔHm=6.86cal/g)
温度範囲:20〜220℃
【0026】
さらに、ポリオキシメチレン系重合体Bの150℃ 1/2結晶化時間が、10秒以上100秒以下であると、溶融された樹脂がノズルから吐出されて、所定のドラフト倍率で延伸されている間に、結晶化が促進されて、ある程度固化が進む。このことが、複合繊維の紡糸性を向上させ、特に、細い繊度の紡糸フィラメントを得ることを可能にする。特に、複合繊維が、後述する芯鞘型複合繊維であると、一般に、溶融紡糸中、鞘成分はチムニー等の冷却により固化しやすいのに対し、芯成分は十分に冷却されないことがあり、固化しにくい傾向にある。この傾向もまた、紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Bの150℃ 1/2結晶化時間が上記範囲内にあることが好ましい理由である。ポリオキシメチレン系重合体Bの150℃ 1/2結晶化時間が、10秒未満であると、溶融紡糸されたフィラメントにおいて、第2成分が早く固化されるため、紡糸中のドラフトが行われず、ノズル直下で糸切れが発生し、ブロックが多発する傾向にある。ポリオキシメチレン系重合体Bの150℃ 1/2結晶化時間が、100秒を超えると、紡糸中の冷却が十分でなく、溶融張力が不足してドラフト時に破断することがある。
【0027】
また、紡糸前のポリオキシメチレン系重合体BのメルトインデックスMIB(g/10min)を、20〜80にすることによって、紡糸時のドラフト倍率及び延伸処理時の延伸倍率を高くして、細い繊維を得ることが可能となる。その結果、繊維の結晶配向を促進することができ、それにより繊維の収縮の抑制が期待され、ひいては、不織布加工した時の不織布収縮性を抑制することが可能となる。その紡糸前のメルトインデックスMIB(g/10min)が好ましくは20〜80、より好ましくは50〜70である。
【0028】
ポリオキシメチレン系重合体Bの150℃ 1/2結晶化時間が上記範囲内にある場合、この重合体Bの紡糸前のメルトインデックスMI(g/10min)と、ポリオキシメチレン系重合体AのMIの差を小さくすることが好ましい。具体的には、その比(紡糸前MIB/紡糸前MIA)は、0.8〜1.2であることが好ましい。紡糸ドラフト時に両成分の流動性が互いにより近似していると、ドラフトがスムースに行われるからである。
【0029】
繊度が約1.7dtex以下である複合繊維を製造する場合には、紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Bの150℃ 1/2結晶化時間は、15秒〜50秒であることが好ましく、より好ましくは、20秒〜50秒であり、さらにより好ましくは20秒以上30秒未満である。
【0030】
上記範囲内の紡糸前の150℃ 1/2結晶化時間を有するポリオキシメチレン系重合体Bを使用することは、ポリオキシメチレン系重合体Aが上記範囲内の紡糸前のMIAを有することと、必ず組み合わされなければならないものではない。即ち、ポリオキシメチレン系重合体Bの紡糸前または紡糸後の150℃ 1/2結晶化時間が上記範囲内にある限りにおいて、ポリオキシメチレン系重合体Aの紡糸前の溶融特性を限定しなくても、良好に紡糸され、かつ良好な熱接着性を示す、熱接着性複合繊維を得ることが可能である。
【0031】
ポリオキシメチレン系重合体Bを規定する物性として、さらに、Z平均分子量(Mz)を挙げることができる。本発明の複合繊維において、紡糸前のポリオキシメチレン系重合体BのMzは、下記の条件で測定したときに、50万以下であることが好ましい。
<Mzの測定条件>
手法:GPC(Gel Permeation Chromatography法)
条件:
装置:ゲル浸透クロマトグラフGPC(Waters社製)
検出器:示差屈折率検出器 RI(2414型、感度256、Waters社製)
カラム:Shodex HFIP-806M 2本(S/N A406246、A406247)(φ8.0mm×30cm、理論段数約14000段/2本、昭和電工(株)製)
溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP、NaTFA5mM添加、セントラル硝子(株)製)
流速:0.5mL/分
試料:(溶解)室温で緩やかに撹拌
(溶解性)目視良好
(濃度)0.05w/v%
(濾過)メンブレンフィルター 孔径0.45μm(H−13−5、東ソー(株)製)
注入量:0.200mL
標準試料:ポリメチルメタクリレート(昭和電工(株)製)
ジメチルテレフタレート(東京化成工業(株)製)
Mzの決定:分子量校正曲線を介して得られたGPC曲線の溶出位置の分子量をMiとし、分子数をNiとして、下記式より算出する。
Mz=Σ(Ni・Mi3)/Σ(Ni・Mi2
【0032】
本発明者らは、種々のポリオキシメチレン系重合体を第2成分として使用して紡糸した。その結果、紡糸前のポリオキシメチレン系重合体BのMIBが同じであっても、分子量分布の相違が紡糸性に影響を及ぼすことを見出した。さらに、重合体の高分子量成分と関係する変数であるMzが大きいほど、結晶化速度が大きくなることを見出した。具体的には、ポリオキシメチレン系重合体BのMzが50万以下であると、良好な紡糸性が得られる。繊度が2.0dtex未満、特に1.8dtex以下、より特には1.6dtex以下、さらにより特には1.4dtexである複合繊維を製造する場合には、ポリオキシメチレン系重合体BのMzは、39万以下であることが好ましく、38万以下であることがより好ましく、36万以下であることがさらにより好ましい。ポリオキシメチレン系重合体BのMzが50万以下を超えると、結晶化速度が速くなり、紡糸性が悪くなる。また、押出機で溶融する際に未溶融物が発生し、紡糸での糸切れの原因になる。
【0033】
ポリオキシメチレン系重合体AのMzは、紡糸後に測定されてよく、その場合のMzも50万以下であることが好ましい。複合繊維をサンプルとして、上記測定方法に従って測定されるMzは、ポリオキシメチレン系重合体Aとポリオキシメチレン系重合体BのそれぞれのMzがひとつとなって測定される。個別に分解することは困難であるが参考値として用いることは可能である。繊度が約1.7dtex以下である複合繊維において、Mzは、好ましくは35万以下であり、より好ましくは30万以下である。
【0034】
第1成分が、ポリオキシメチレン系重合体A以外の成分を含む場合には、第1成分は、ポリオキシメチレン系重合体Aを少なくとも50質量%以上含むことが好ましい。ポリオキシメチレン系重合体の割合が50質量%未満であると、ポリオキシメチレン系重合体の特性(例えば、耐薬品性)を発揮する繊維が得られない。好ましくは、第1成分は、実質的にポリオキシメチレン系重合体Aのみから成ることが好ましい。ここで、「実質的に」という用語は、安定剤等の添加剤が含まれる場合には、ポリオキシメチレン系重合体Aの割合が完全には100質量%とならないことを考慮して使用している。ポリオキシメチレン系重合体A以外に含まれる成分は、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、またはポリプロピレンであることが好ましい。
上記のことは、第2成分についてもあてはまる。
【0035】
紡糸後のTfAは、好ましくは138〜160℃の範囲内にあることが好ましく、148〜156℃の範囲内にあることがより好ましい。紡糸後のTfAが上記範囲内にあると、汎用の熱処理機でも熱処理することができ、また、100℃程度の連続使用するなど耐熱性が求められる場合でも繊維およびフィルターの物性が損なわれることがなく、その形状も維持することができる。
【0036】
紡糸後のTfBは、TfAよりも10℃以上、好ましくは13℃以上、より好ましくは15℃以上高いことが好ましい。このような範囲内にあると、上記成形フィルターへの熱処理時に溶融することなく加工することができる。TfAとTfBとの差が小さいと、熱接着時に第2成分の収縮が生じ、繊維の形態が崩れ、例えば成形フィルターを作製したときに、繊維間を接着したときに適度な空隙を付与することが困難となることがある。
【0037】
前記熱接着性複合繊維は、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出している断面構造を有する。そのような構造として、第1成分が鞘成分、第2成分が芯成分である、芯鞘型複合繊維構造が好ましい。芯鞘構造によれば、熱接着成分である第1成分が繊維表面全体に存在することとなるので、良好な熱接着性が発揮される。芯鞘型複合繊維は、第2成分(芯成分)の重心位置が繊維の重心位置からずれている偏心芯鞘型断面を有してよい。そのような断面を有する繊維は、立体捲縮を発現しやすく、例えば、この繊維を含む成形フィルターを構成する場合には、立体的な空隙を付与する。また、偏心芯鞘型断面を有する熱接着性複合繊維は、熱処理を施すことにより、立体捲縮を発現する繊維として得ることも可能である。
【0038】
芯鞘構造の複合繊維において、前記第1成分と前記第2成分の複合比率は、容積比で3:7〜7:3の範囲であることが好ましい。より好ましい容積比の範囲は、4:6〜6:4である。第1成分の割合が3未満であると、熱接着性が不十分となる場合があり、第1成分の割合が7を超えると、カード通過性が悪くなるおそれがあり、また、不織布に加工した際に不織布の嵩が出難い(即ち、嵩高さに欠ける)傾向にある。
【0039】
前記熱接着性複合繊維は、あるいは、第1成分、第2成分、および場合により他のポリオキシメチレン系重合体を含む第3成分を含み、各成分が同心状に配置された構成を有してよく、あるいは、各成分が並列的に配置された並列構造を有してよい。熱接着性複合繊維が、第1成分および第2成分以外の他の成分を含む場合、当該他の成分もまた他のポリオキシメチレン系重合体を含み、当該他のポリオキシメチレン系重合体とポリオキシメチレン系重合体Aとが、紡糸後の融解ピーク温度において、ポリオキシメチレン系重合体Bとポリオキシメチレン系重合体Aと同様の関係を満たすことが好ましい。
【0040】
前記熱接着性複合繊維は、繊度が0.1〜10dtexであることが好ましい。特定のポリオキシメチレン系重合体を用いることによって、繊度0.1〜3dtex程度の細い繊維を安定して得ることができる。このような繊度の繊維は、例えば、不織布(紙(湿式不織布)を含む)製造用の繊維として、汎用されているポリプロピレン繊維およびポリエステル繊維の繊度と同等のものであり、これらの汎用繊維を用いる場合に採用されている手法により、繊維集合物(特に不織布)を製造することを可能にする。
【0041】
前記熱接着性複合繊維は、上述の通り、特定のポリオキシメチレン系重合体を使用することによって、熱接着時の第2成分の収縮が抑えられたものとなる。そのことは、JIS L 1015(乾熱収縮率)に準じて、温度140℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)で測定される単繊維乾熱収縮率で示される。本発明の熱接着性複合繊維は、その断面において第2成分の重心位置が繊維の重心位置とほぼ一致する、即ち同心芯鞘型複合繊維である場合において、そのような条件で測定される単繊維乾熱収縮率が、好ましくは15%以下であり、より好ましくは12%以下である。熱接着時の収縮が抑えられることにより、成形フィルターとして加工する際に、安定して生産することができる。
【0042】
前記熱接着性複合繊維は、後述するように、紡糸時および延伸処理時に比較的高い倍率で十分に延伸する製造方法によって好ましくは製造されるため、各成分の結晶化が進み、繊維全体が固くなると推定される。繊維が固いと、繊維に機械捲縮を付与した後、捲縮状態が長い間、維持されやすく、繊維同士の絡み合いも良好となり、例えばカードを通過させて得られるウェブの地合いが良好になる傾向にある。また、成形フィルターに熱加工する際にも、捲縮状態が比較的維持されるので、適度な立体的空隙を付与することができる。
【0043】
次に、前記熱接着性複合繊維の製造方法を説明する。まず、二種類のポリオキシメチレン系重合体AおよびBであって、紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Aの結晶化温度が125℃以上150℃以下の範囲内にあり、140℃ 1/2結晶化時間が、5秒以上1200秒以下の範囲内にあり、紡糸前のポリオキシメチレン系重合体AおよびBのJIS K 7121に従って測定される融解ピーク温度をそれぞれ、TAおよびTBとしたときに、TB>TA+10を満たす、二種類のポリオキシメチレン系重合体AおよびBを用意する。そのようなポリオキシメチレン系重合体AおよびBは、先に説明したとおりである。
【0044】
あるいは、ポリオキシメチレン系重合体Aは、上記範囲の20<MIAを有するものであってよい。あるいはまた、ポリオキシメチレン系重合体Bは、140℃ 1/2結晶か時間が10秒未満であり、150℃ 1/2結晶化時間が10〜100秒である、及び/又は50万以下のZ平均分子量を有するものであってよい。そのようなポリオキシメチレン系重合体Bは、先に説明したとおりである。
【0045】
次いで、ポリオキシメチレン系重合体Aを含む第1成分と、ポリオキシメチレン系重合体Bを含む第2成分とを、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出するように複合紡糸する。紡糸温度は、180〜200℃であることが好ましい。このとき、引取繊度が2〜15dtexの範囲内にある紡糸フィラメントを作製する。最終的に繊度2.0dtex未満の繊維を得ようとする場合には、引取繊度を8dtex以下とする。紡糸フィラメントの引取繊度が2dtex未満であると、糸切れ等が生じて繊維生産性が低下する。紡糸フィラメントの引取繊度が15dtexを越えると十分な延伸ができず、ネッキングにより均質な繊度の繊維が得られない。この範囲の繊度の紡糸フィラメントを得るために、例えば、紡糸口金の孔径が0.3〜1mmである場合において、紡糸時のドラフト倍率(延伸倍率)を、例えば、好ましくは100〜1000倍程度、より好ましくは300〜900倍、さらにより好ましくは400〜800倍とする。紡糸時に比較的高い倍率で延伸することにより、後の延伸処理と相俟って、熱接着時の第2成分の収縮がより抑えられた熱接着性複合繊維を得ることができる。紡糸ノズルの孔径は、上記ドラフト倍率を達成するために、適宜選択してよく、上記孔径に限定されない。
【0046】
次いで、紡糸フィラメントを公知の延伸処理機を用いて延伸処理して、延伸フィラメントを得る。延伸処理は、ポリオキシメチレン系重合体Aの融解ピーク温度未満の温度で実施することが好ましく、具体的には、延伸温度を130℃以上150℃以下の範囲内にある温度に設定して実施することが好ましい。延伸倍率は、4〜10倍とすることが好ましく、4.2〜7倍とすることがより好ましい。延伸方法は、乾式延伸法であることが好ましい。あるいは、延伸は、湿式延伸法で実施してもよい。
【0047】
得られた延伸フィラメントには、所定量の繊維処理剤が付着させられる。さらに、カードで開繊されてウェブを形成する繊維およびエアレイウェブを形成する繊維には、クリンパー(捲縮付与装置)で機械捲縮が与えられる。捲縮数は、12山/25mm以上19山/25mm以下の範囲内にあることが好ましい。捲縮数が12山/25mm未満であると、カードでのシリンダーへの巻き付き及び風綿が発生しやすいために、カード通過性が悪くなる。さらに、繊維同士の交絡度合いを示すウェブ強力も低く、カード工程でのトラブルが発生し易い傾向にある。捲縮数が19山/25mmを超えると、カード工程での開繊不良によるネップ、クラウディなど地合いムラが発生しやすくなる。捲縮数は、14山/25mm以上16山/25mm以下の範囲内にあることがより好ましい。複合繊維を繊維長10mm未満の短繊維(特に抄紙用短繊維)として得ようとする場合、機械捲縮は付与しなくてもよい。
【0048】
捲縮付与後(又は捲縮が付与されていない繊維処理剤付与後)のフィラメントに60℃〜110℃の範囲内にある温度で数秒〜約30分間、アニーリング処理を施す。繊維処理剤を付着させた後でアニーリング処理を実施する場合、アニーリング処理温度を60℃〜110℃の範囲内にある温度とし、処理時間を5分以上として、アニーリング処理を実施すると同時に繊維処理剤を乾燥させることがより好ましい。アニーリング処理を上記温度範囲に設定して実施することにより、捲縮形状が安定し、例えば、成形フィルターとして熱加工するときに、繊維層のへたりを小さくすることができ、立体的な空隙が付与されたフィルターを得ることができる。また、この比較的低い温度で、アニーリング処理を実施することにより、得られる繊維の単繊維乾熱収縮率を抑えることができる。アニーリング処理は、抄紙用短繊維を製造する場合には、省略してよい。
【0049】
前記アニーリング処理終了後(抄紙用短繊維の場合には繊維処理剤付与後)、フィラメントは用途等に応じて、繊維長が3〜100mmとなるように切断される。本発明の熱接着性複合繊維は、必要に応じて長繊維の形態で使用してよい。第1成分及び第2成分を構成するために、上記特定のポリオキシメチレン系重合体を使用する限りにおいて、メルトブローン法およびスパンボンド法によって、本発明の熱接着性複合繊維を製造することは可能である。
【0050】
本発明の成形フィルターは、前記熱接着性複合繊維を30質量%以上含む繊維集合物が成形されて得られる。繊維集合物は、第1成分により繊維同士が熱接着されたものである。繊維集合物としては、織編物および不織布などが挙げられる。繊維集合物は、前記熱接着性複合繊維を、より好ましくは50質量%以上含み、最も好ましくは100質量%含む。
【0051】
続いて、本発明の成形フィルターの具体的な一例を、その製造方法とともに説明する。まず、前記熱接着性複合繊維を30質量%含む繊維集合物を準備する。具体的には、カード機またはエアレイド機で開繊された繊維ウェブ、又は一旦ロール状に巻回された不織布等の繊維集合物を送り出す。このとき、当該繊維集合物に他のシート等を積層してよい。また、必要に応じて、繊維集合物をニードルパンチ処理や水流交絡処理等の二次的加工を施してもよい。この繊維集合物の目付は、例えば、30〜50g/m2の範囲内にあることが好ましい。
【0052】
次いで、この繊維集合物を熱処理機へと送り出して、熱処理機にて140〜180℃の温度に加熱して、繊維集合物を構成する前記熱接着性複合繊維の熱接着成分(第1成分)を溶融させて繊維同士及び繊維集合物の各層間を熱接着させながら巻芯に巻き取る。更に、巻き取られた繊維集合物を冷却し、巻芯を抜き取って、繊維集合物が巻回された筒状体に成形され、本発明の筒状フィルターを得ることができる。なお、熱処理機としては、例えば熱風加熱型の熱処理機、赤外線加熱型の熱処理機、熱風・赤外線加熱併用型の熱処理機等が使用できる。好ましい熱処理温度は、熱接着成分(第1成分)の結晶化温度および融点以上、第2成分の融点−3℃以下であり、より好ましい熱処理温度は、熱接着成分(第1成分)の融点+3℃以上、第2成分の融点−5℃以下である。
【0053】
このようにして得られる筒状体の密度は、所定の濾過精度に合わせて適宜設定され、密度0.20〜0.70g/cm3の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.25〜0.56g/cm3の範囲内にある。
【0054】
また、上記密度に置き換えて、下記式で求められる空隙率で表すこともできる。フィルターの空隙率は、所定の濾過精度に合わせて適宜設定され、50〜85%の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、60〜80%である。
[空隙率]
空隙率(%)=[1−{フィルター密度(g/cm3)/フィルターを構成する樹脂成分の真密度(g/cm3)}]×100
【0055】
前記筒状体の外周に巻回された外装不織布を更に含み、外装不織布は前記熱接着性複合繊維からなり、かつ前記筒状体の外周に熱接着されていることが好ましい。外装不織布は、筒状体の外周に粗濾過用の濾過材として用いられる。外装不織布を巻きつけ、接着一体化させるには、前記筒状体を巻き上げ用の回転装置に載置し、外装不織布を外周に巻いた後、回転させながら、外方より熱接着温度以上の温度を有する加熱体を押し当てて部分熱圧着するとよい。
【0056】
本発明の成形フィルターには、前記熱接着性複合繊維以外に他の繊維を混合することができる。他の繊維として、例えば、コットン、シルク、ウール、麻、パルプなどの天然繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、およびアクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系などの合成繊維から1種または複数種の繊維を用途などに応じて選択するとよい。
【0057】
本発明の成形フィルターの具体的な別の一例は、型内に前記熱接着性複合繊維またはその繊維集合物が存在する状態で、熱処理を施すことにより製造される。例えば、成形体は、簡便には、前記熱接着性複合繊維を含むパラレルウェブ、セミランダムウェブ、ランダムウェブ、クロスウェブ、クリスクロスウェブなどの繊維ウェブを、カード機により作製し、それを型内に入れて、熱処理することにより、成形できる。熱処理は、熱風吹き付け法(エアースルー法)を用いて実施してよい。繊維ウェブは、水流交絡処理に付してから、型内に入れてよい。厚さの大きい成形体は、繊維ウェブをクロスレイヤー装置を用いて積層し、積層したウェブを型内に入れて製造してよい。積層ウェブには、必要に応じて、ニードルパンチ処理および/または水流交絡処理を施してよい。
【0058】
いずれの方法で成形体を製造する場合も、成形体の密度は、用途に応じて適宜選択される。具体的には、成形体の密度は、0.01〜1.0g/cm3であることが好ましく、0.02〜0.8g/cm3であることがより好ましく、0.04〜0.6g/cm3であることがさらにより好ましい。成形体の目付もまた、用途に応じて適宜選択され、具体的には、10〜5000g/m2であることが好ましい。
【0059】
成形加工は、熱処理温度を、繊維ウェブの目付および得ようとする成形体の密度に応じて、140℃〜180℃の範囲内とし、熱処理時間を5秒〜120分として、実施する。具体的には、熱処理温度は、前記熱接着性複合繊維の第1成分の融点以上、(第2成分の融点−5℃)以下の温度とすることが好ましい。より具体的には、目付が100g/m2以下である場合には、コンベア式エアスルー熱処理機を用いて、熱処理時間を5秒〜20分間として、熱処理することが好ましい。目付が100g/m2を超える場合には、バッチ式エアスルー熱処理機を用いて、熱処理時間を1分〜120分間として、熱処理することが好ましい。
【0060】
成形加工は、エアスルー熱処理機を使用したときに、繊維ウェブの厚さ方向において熱処理が均一に行われるよう、金属金網または樹脂メッシュシートのような通気性材料から成る型を用いて行うことが好ましい。例えば、成形加工は、繊維ウェブを入れる前に、通気性を有するシートを所定の形状に加工して型を作製し、この型に繊維ウェブを入れる方法で行ってよい。あるいは、繊維ウェブを2枚の通気性シート(例えば、金網)で挟んでから所望の形状にして、熱処理する方法で成形加工をしてよい。成形品の形状は特に限定されず、平板形状、曲面を有する形状、箱形状、凸形状、帽子(hat)形状、コップ形状、カップ形状、円柱形状および球形状のいずれであってよい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の内容について実施例により具体的に説明する。なお、繊維の製造において使用した第1成分および第2成分であるポリオキシメチレン系重合体AおよびBの融点TAおよびTB、紡糸後の第1成分および第2成分の融点TfAおよびTfB、単繊維乾熱収縮率は、以下のように測定した。
【0062】
(TAおよびTBの測定)
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ(株)製)を使用し、サンプル量を5.0mgとして、200℃で5分間保持した後、40℃まで10℃/minの降温スピードで冷却した後、10℃/minの昇温スピードで融解させて、第1および第2成分それぞれについて融解熱量曲線を得、得られた融解熱量曲線より、融点として融解ピーク温度TAおよびTBをそれぞれ求めた。
【0063】
(TfAおよびTfBの測定)
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ(株)製)を使用し、サンプル量を6.0mgとして、10℃/minの昇温スピードで常温から200℃まで昇温して、繊維を融解させて、得られた融解熱量曲線からTfAおよびTfBを求めた。
【0064】
(単繊維乾熱収縮率)
JIS L 1015に準じ、つかみ間隔を100mmとし、処理温度140℃、処理時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)における乾熱収縮率を測定した。
【0065】
実験例1:繊維の製造
(繊維1)
Aが155.0℃、MIAが58、TCAが134℃、140℃ 1/2結晶化時間が60秒であって、コモノマーであるCH2CH2O含有量がエチレンオキサイド換算値として7.1質量%である、ポリオキシメチレン系重合体(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名V40−EF)を第1成分(鞘成分)として用意した。第2成分として、TBが170.8℃、MIBが59、Mzが357000、TCBが146℃、150℃ 1/2結晶化時間が24秒であって、コモノマーであるCH2CH2O含有量がエチレンオキサイド換算値として0.9質量%である、ポリオキシメチレン系重合体(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名A40−EF)を第2成分として用意した。これらの2つの成分を、芯鞘型複合ノズルを用い、第1成分/第2成分の複合比(容積比)を50/50として、第1成分の紡糸温度を185℃、第2成分の紡糸温度を190℃として溶融押出し、延伸倍率(紡糸ドラフト)を572倍として、繊度5.8dtexの紡糸フィラメントを得た。
【0066】
前記紡糸フィラメントを140℃の熱風中で、4.3倍に乾式延伸し、繊度約1.3dtexの延伸フィラメントとした。次いで、繊維処理剤を付与した後、延伸フィラメントにスタッフィングボックス型クリンパーにて機械捲縮を付与した。そして、60℃に設定したエアスルー熱処理機にて約15分間、弛緩した状態でアニーリング処理と乾燥処理を同時に施し、フィラメントを51mmの繊維長に切断して、繊度1.3dtex(繊維径約11μm)の熱接着性複合繊維を短繊維の形態で得た。得られた熱接着性複合繊維の単繊維乾熱収縮率は、0%であった。
【0067】
(繊維2)
上記、繊維1と同じ第1成分/第2成分、複合比(容積比)、紡糸温度にて溶融押出し、延伸倍率(紡糸ドラフト)を304倍として、繊度11dtexの紡糸フィラメントを得た。
【0068】
前記紡糸フィラメントを140℃の熱風中で、3.3倍に乾式延伸し、繊度約3.3dtexの延伸フィラメントとした。次いで、繊維処理剤を付与した後、延伸フィラメントにスタッフィングボックス型クリンパーにて機械捲縮を付与した。そして、60℃に設定したエアスルー熱処理機にて約15分間、弛緩した状態でアニーリング処理と乾燥処理を同時に施し、フィラメントを51mmの繊維長に切断して、繊度3.3dtex(繊維径約18μm)の熱接着性複合繊維を短繊維の形態で得た。得られた熱接着性複合繊維の単繊維乾熱収縮率は、0%であった。
【0069】
繊維1〜2は、いずれも紡糸性が良好であり、また、140℃での単繊維乾熱収縮率はなかった。また、カード通過性が良好で、熱接着処理付したときの繊維の収縮も小さかった。
【0070】
実験例2:カップ状成形フィルターの製造
実験例1で製造した繊維1から成るパラレルカードを作製し、これをクロスレイヤーで重ねて、200g/m2の目付を有する積層ウェブを作製した。それから、積層ウェブを20cm×20cmにカットした。
【0071】
金属網から成る茶こしであって、φ60mm×深さ60mmの寸法のもの、およびφ50mm×深さ55mmの寸法のものを用意した。2つの茶こしの間に積層ウェブが位置するように、2つの茶こしを重ねた。茶こしに挟まれたウェブは、バッチ式エアスルー熱処理機で、温度161℃にて、15分間、熱処理に付した。熱処理後、茶こしをとると、厚さ約5mmの底の丸い、カップ状の成形フィルターが得られた。これをバケットタイプのフィルターとして用いたところ、通常の平面的なフィルターに比べ、ろ過面積が2倍になり、ろ過寿命も2倍になった。また、大量の液を処理する場合の流量阻害を軽減できた。
【0072】
実験例3:筒状フィルターの製造
[試料1]
実験例1で製造した繊維1を100質量%準備した。パラレルカード機を用いて開繊して、目付40g/m2の繊維ウェブを作製した。得られた繊維ウェブを、連続して熱風・赤外線加熱併用型のコンベア式熱処理機に送り出し、加熱温度160℃で熱処理して、予め150℃に加熱した鉄芯(長さ:32cm、直径:25mm)に、巻径が650mmに達するまで巻き取った。そして、巻き取られた繊維ウェブを冷却し、鉄芯を抜き取った後、両端を切断し、この切断面を、加熱した平板(表面温度:155℃)に押し当てることにより切断面の樹脂同士を融着させて、長さ250mmの本発明の筒状フィルターを作製した。得られた筒状フィルターの密度は、0.436g/cm3(空隙率は約69%)であった。
【0073】
[試料2]
加熱温度を158℃とした以外は、試料1と同様の方法で、本発明の筒状フィルターを作製した。得られた筒状フィルターの密度は、0.397g/cm3(空隙率は約72%)であった。
【0074】
[試料3]
実験例1で製造した繊維2を100質量%とした以外は、試料1と同様の方法で、本発明の筒状フィルターを作製した。得られた筒状フィルターの密度は、0.415g/cm3(空隙率は約71%)であった。
【0075】
[試料4](比較)
繊維1の代わりに、ポリエチレン樹脂を鞘成分とし、芯成分をポリプロピレン樹脂とする、繊度が1.1dtex(繊維径約12μm)、繊維長51mmの熱接着性複合繊維(ダイワボウポリテック(株)製、商品名NBF)を100質量%準備し、熱処理温度を135℃とした以外は、試料1と同様の方法で、筒状フィルターを作製した。得られた筒状フィルターの密度は、0.288g/cm3(空隙率は約69%)であった。
【0076】
[試料5](比較)
繊維2の代わりに、ポリエチレン樹脂を鞘成分とし、芯成分をポリプロピレン樹脂とする、繊度が2.2dtex(繊維径約18μm)、繊維長51mmの熱接着性複合繊維(ダイワボウポリテック(株)製、商品名NBF)を100質量%準備し、熱処理温度を135℃とした以外は、試料1と同様の方法で、筒状フィルターを作製した。得られた筒状フィルターの密度は、0.270g/cm3(空隙率は約71%)であった。
【0077】
次に、得られた筒状フィルターの性能を評価した。結果を表1に示す。評価方法は以下のとおりである。
【0078】
[濾過精度−1]
JIS Z8901に準ずる試験用ダスト(JIS8種[中位径:6.6〜8.6μm]とJIS11種[中位径:1.6〜2.3μm]を1:1の質量割合で混合したもの、関東ローム製)の試験用懸濁液(濃度:50ppm)を、均一に攪拌しながら筒状フィルターの外側から中空部に向かって40リットル/分の流量で流し、濾過開始から5分経過した後の濾過液について下記の方法で評価した(試料1、2、4)。
【0079】
[濾過精度−2]
JIS Z8901に準ずる試験用ダスト(JIS8種[中位径:6.6〜8.6μm](関東ローム製)の試験用懸濁液(濃度:50ppm)を、均一に攪拌しながら筒状フィルターの外側から中空部に向かって40リットル/分の流量で流し、濾過開始から5分経過した後の濾過液について下記の方法で評価した(試料3、5)。
【0080】
評価方法は、まず、濾過前の試験用懸濁液の所定量に含まれるダストの粒子径別の個数(M)と、これを濾過した後の濾過液の所定量に残るダストの粒子径別の個数(N)とを粒度分布測定機(商品名:コールターカウンターZM型、コールターエレクトロニクス社製)を用いて測定した。次に、各粒子径別に遮断率(100×(M−N)/M)を算出した。そして、遮断率が90%になる粒子径(μm)を濾過精度とした。なお、濾過精度(μm)が小さい値になるほど、筒状フィルターが微小な粒子を捕捉できるようになる。
【0081】
[濾過ライフ−1]
JIS Z8901に準ずる試験用ダスト(JIS8種[中位径:6.6〜8.6μm]とJIS11種[中位径:1.6〜2.3μm]を1:1の質量割合で混合したもの、関東ローム製)の試験用懸濁液(濃度:50ppm)を、均一に攪拌しながら筒状フィルターの外側から中空部に向かって40リットル/分の流量で流し、この流量を維持するための通液圧力が0.2MPaになったときの総通液量(リットル)で評価した(試料1、2、4)。
【0082】
[濾過ライフ−2]
JIS Z8901に準ずる試験用ダスト(JIS8種[中位径:6.6〜8.6μm]関東ローム製)の試験用懸濁液(濃度:50ppm)を、均一に攪拌しながら筒状フィルターの外側から中空部に向かって40リットル/分の流量で流し、この流量を維持するための通液圧力が0.2MPaになったときの総通液量(リットル)で評価した(試料3、5)。
【0083】
[耐薬品性]
試料1及び試料4について、外径(mm)、内径(mm)、および長さ(mm)を測長し、円筒状のガラス容器に試料を入れ、試料が完全に浸る様にキシレン、エタノールおよびサラダ油をそれぞれ注ぎ入れた。25℃の温度で24時間浸漬後に試料を取り出し、外径、内径および長さを測長し、浸漬前後の容積変化率を下記の式より求めた。
[容積変化率]
容積変化率(%)={(浸漬後の容積/浸漬前の容積)×100}−100
【0084】
【表1】

【0085】
得られた筒状フィルターは、従来のポリオレフィン系繊維を用いたものと比べて、濾過精度及び濾過ライフともに同等もしくは向上していた。また、得られた筒状フィルターは、2成分共にポリオキシメチレン樹脂を用い、繊維同士が熱接着されているので、耐薬品性に優れていた。一方、従来のポリオレフィン系繊維を用いたものは、若干膨潤していた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の成形フィルターは、耐熱性および耐薬品性に優れるので、製薬工業、電子工業等における精製水の濾過、飲料水製造工程内における飲料水の濾過以外にも、自動車工業における塗装剤の濾過、アルコールの濾過等、様々な用途に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシメチレン系重合体Aを含む熱接着成分としての第1成分と、ポリオキシメチレン系重合体Bを含む第2成分とを含み、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出している熱接着性複合繊維を30質量%以上含み、第1成分により熱接着して成形している成形フィルターであり、
前記熱接着性複合繊維における紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Aの結晶化温度が125℃以上150℃以下の範囲内にあり、140℃ 1/2結晶化時間が、5秒以上1200秒以下の範囲内にあり、
前記熱接着性複合繊維におけるポリオキシメチレン系重合体AおよびBのJIS K 7121に従って測定される融解ピーク温度をそれぞれTfAおよびTfBとしたときに、TfB>TfA+10を満たす、成形フィルター。
【請求項2】
前記熱接着性複合繊維は、紡糸前のポリオキシメチレン系重合体AのJIS K 7210(条件:190℃、荷重21.18N(2.16kg))に準じて測定されるメルトインデックス(g/10min)を、MIAとしたとき、20<MIAを満たす、請求項1に記載の成形フィルター。
【請求項3】
前記熱接着性複合繊維は、紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Bの150℃ 1/2結晶化時間が、10秒以上100秒以下の範囲内にある、請求項1または2に記載の成形フィルター。
【請求項4】
前記熱接着性複合繊維は、Z平均分子量が35万以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の成形フィルター。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の成形フィルターであって、熱接着性複合繊維を30質量%以上含む複数の繊維集合物が巻回されて、隣り合う繊維層が第1成分により熱接着した筒状体に成形されている筒状フィルター。
【請求項6】
熱接着性複合繊維を30質量%以上含む複数の繊維集合物が巻回されて、隣り合う繊維層が第1成分により熱接着されている筒状フィルターの製造方法であって、
前記熱接着性複合繊維は、ポリオキシメチレン系重合体Aを含む第1成分と、ポリオキシメチレン系重合体Bを含む第2成分とを、第1成分が繊維の周面の長さに対して20%以上の長さで露出した複合繊維であり、
前記熱接着性複合繊維におけるポリオキシメチレン系重合体AおよびBのJIS K 7121に従って測定される融解ピーク温度をそれぞれ、TAおよびTBとしたときに、TB>TA+10を満たし、
前記熱接着性複合繊維における紡糸前のポリオキシメチレン系重合体Aの結晶化温度が125℃以上150℃以下の範囲内にあり、140℃ 1/2結晶化時間が、5秒以上1200秒以下の範囲内にあり、
前記熱接着性複合繊維を30質量%以上含む繊維集合物を、140℃以上180℃以下の範囲に加熱して前記熱接着性複合繊維の第1成分を熱接着しながら巻芯に巻き取り、
巻き取られた前記繊維集合物から前記巻芯を抜き取って、前記繊維集合物が巻回された筒状体に成形する筒状フィルターの製造方法。




- 1 -

【公開番号】特開2010−162522(P2010−162522A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9390(P2009−9390)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】