説明

成形体およびこれを用いた浄化方法

【課題】本発明は、リン吸着剤を担持し、被処理液の浄化に有用な成形体およびそれを用いた被処理液の浄化方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ポリマー、溶媒および金属水酸化物を含有する溶液を凝固液と接触せしめ凝固させた成形体であって、金属水酸化物が下記式(1)
2+1−x3+(OH2+x−y(An−y/n (1)
(式中、M2+は、Mg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+およびCu2+からなる群から選ばれ、M3+は、Al3+およびFe3+からなる群から選ばれ、An−はn価のアニオンを示し、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。)で表され、且つ金属水酸化物の平均粒径が0.05〜100μmである成形体およびそれを用いた被処理液の浄化方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー中にリン吸着能を有する金属水酸化物を担持させた成形体に関する。また本発明は、該成形体を用いた、被処理液の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、河川、産業排水、生活排水などに多量に含まれる有機物質、窒素、リン等の成分が、藻類の発生を促す湖沼の水質汚染や近海における赤潮発生につながる富栄養化現象の要因として問題となっている。富栄養化を生じる窒素およびリンの限界濃度として窒素が0.15ppm、リンが0.02ppmであるといわれており、窒素およびリンを高濃度から低濃度域において除去可能な高度水処理技術の確立が強く望まれている。排水中のリンを除去する方法としては、生物学的処理法と物理化学的処理法の二つに大別される。
物理化学的処理法として、凝集剤を用いてリンを難溶性のリン酸塩として除去する凝集沈殿法が一般的である。しかしこの方法には、凝集剤に由来する塩類の排水への流出を防止する方法、汚泥の処理方法、リンの回収・再利用の方法、低濃度域でのリン除去方法などについて、検討すべき課題が存在する。
【0003】
凝集沈殿法以外の方法として、リン吸着剤を用いるリンの吸着法が試みられている(例えば、特許文献1参照)。リン吸着剤として、水酸化アルミニウムゲル、酸化マグネシウム、酸化チタン−活性炭複合剤、酸化ジルコニウム−活性炭複合剤、火山灰土壌、改質火山灰土壌等が用いられている。これらリン吸着剤は、通水性や取り扱い性を確保するため、主としてリン吸着剤からなる粒状体の形態で使用されたり、粉末のリン吸着剤をバインダーで成形した粒状体の形態で使用されている。
しかし粒状体は、表面における排水との接触は容易であるが、内部拡散抵抗が大きいため、内部における排水との接触は容易ではない。そのため、リン吸着剤が本来有する吸着性能を発揮させることができないという欠点がある。また表面積を大きくし、かつ内部拡散抵抗の影響を軽減するため粒状体の粒径を小さくすると、吸着性能は良好となるが、圧損が大きくなり、処理流量を維持することが出来なくなる。そのため処理装置が大型化するといった問題点が生じる。
【0004】
また、バインダーを用いて成形した粒状体は、取り扱いが容易で、任意の形状に成形できるという利点があるが、バインダーと接触しているリン吸着剤の表面は、吸着に関与することが出来ないという欠点がある。一方、バインダーを使用しないと粒状体は、微粉末を発生し易く、取り扱いが容易ではない。
【特許文献1】特許第3113183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、リン吸着剤を担持し、被処理液の浄化に有用な成形体を提供することを目的とする。本発明は、取り扱いが容易で優れたリン吸着性能を有する成形体を提供することを目的とする。また本発明は、リンを含有する、排水などの被処理液を浄化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、リン吸着能に優れた特定粒径のリン吸着剤を多孔質ポリマーに担持すると、優れたリン吸着能を有する成形体が得られることを見出し本発明を完成した。また、ポリマー、溶媒およびリン吸着剤を含有するドープを凝固液と接触せしめると、相分離によりポリマー中に多数の空孔が形成され、多孔質ポリマー中にリン吸着剤が担持された成形体が得られることを見出し本発明を完成した。
即ち、本発明は、ポリマー、溶媒および金属水酸化物を含有するドープを凝固液と接触せしめ凝固させた成形体であって、金属水酸化物が下記式(1)
2+1−x3+(OH2+x−y(An−y/n (1)
(式中、M2+は、Mg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+およびCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+およびFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An−はn価のアニオンを示し、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。)
で表され、且つ金属水酸化物の平均粒径が0.05〜100μmの成形体である。
【0007】
また本発明は、(i)100重量部のポリマーに、300〜2400重量部の溶媒および25〜4900重量部の金属水酸化物を混合し、ドープを調製する工程であって、金属水酸化物が、下記式(1)
2+1−x3+(OH2+x−y(An−y/n (1)
(式中、M2+は、Mg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+およびCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+およびFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An−はn価のアニオンを示し、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。)
で表され、且つ金属水酸化物の平均粒径が0.05〜100μmである工程、
(ii) ドープを凝固液中に押し出し凝固させる工程、
を含む成形体の製造方法を包含する。
【0008】
さらに本発明は、前記成形体と被処理液とを接触させ、被処理液中のリンを成形体に吸着させる工程を含む被処理液の浄化方法を包含する。該浄化方法は、リンを吸着した成形体を、アルカリ(土類)金属炭酸塩を除く、アルカリ(土類)金属化合物と接触せしめ脱着した後、被処理液と接触させ、リンを成形体に吸着させる工程を含むことができる。また該方法は、リンを吸着した成形体を溶媒に溶解する工程、および前記工程で未溶解の金属水酸化物を分離回収する工程を含むことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の成形体は、ポリマーに担持されているので、微粉末の発生が少なく取り扱いが容易である。本発明の成形体は、ポリマーが多孔質状であるため、被処理液との接触が容易に行なわれ、優れたリン吸着性能を有する。本発明の成形体は、被処理液中のリンを効率よく吸着することができる。本発明の成形体は、リンを吸着した後、容易にリンを脱着させることができ、成形体の吸着能を再生することができる。本発明の浄化方法によれば、被処理液を効率よく浄化することができる。本発明の浄化方法によれば、リンを吸着した成形体から容易にリンを脱着し、回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
<成形体>
本発明の成形体は、ポリマー、溶媒および金属水酸化物を含有するドープ(溶液)を凝固液と接触せしめ凝固させた成形体である。
【0012】
ポリマーは、疎水性ポリマーであることが好ましい。ポリマーとして、アラミドポリマー、アクリルポリマー、ビニルアルコールポリマー、セルロースポリマーなどが挙げられる。アラミドポリマーは、アミド結合の少なくとも85モル%以上が芳香族ジアミンおよび芳香族ジカルボン酸よりなるポリマーが好ましい。その具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリパラフェニレンイソフタルアミドを挙げることができる。アクリルポリマーは、少なくとも85モル%のアクリロニトリル成分を含むポリマーが好ましい。共重合成分として、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、メタクリ酸メチル、および硫化スチレンスルホン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の成分が挙げられる。
【0013】
金属水酸化物は下記式(1)で表される。
1−x2+Mx3+(OH2+x−y(An−y/n (1)
式中、M2+は、Mg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+およびCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示す。M3+は、Al3+およびFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示す。An−は、n価のアニオンを示す。xは、0.1≦x≦0.5である。yは、0.1≦y≦0.5である。nは1または2である。
式(1)で表される化合物として例えば、
Mg2+0.665Fe3+0.335OH2.099Cl0.124(CO2−0.056
Mg2+0.683Al3+0.317OH2.033Cl0.238(CO2−0.023などを挙げることができる。金属水酸化物は、リン吸着能を有し、リン吸着剤として働く。
金属水酸化物の平均粒径は、0.05μm〜100μm、好ましくは0.1μm〜50μmである。金属水酸化物は、ポリマー100重量部に対し、好ましくは25〜4900重量部、より好ましくは100〜1900重量部含有する。
【0014】
溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホオキサド、ジメチルアセトアミド、ジクロロメタン、N−N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。ポリマーがポリメタフェニレンテレフタルアミドである場合はN−メチル−2−ピロリドン、ポリマーがアクリルポリマーである場合はジメチルスルホオキサド、ポリマーがポリ乳酸である場合はジクロロメタンが好ましい。ドープ中に、溶媒は、ポリマー100重量部に対し、好ましくは300〜2400重量部、より好ましくは500〜1500重量部含有する。
凝固液は、主としてポリマーの貧溶媒からなる。貧溶媒とは一般に言われるように、ポリマーに対し溶解能を僅かしか持たない溶媒であって、たとえば、ポリマーがポリメタフェニレンテレフタルアミドである場合は水等であり、またポリマーがポリ乳酸である場合はミネラルオイル等である。凝固液はその組成の60重量%以上が貧溶媒であればよい。凝固液の温度は、好ましくは5〜80℃、さらに好ましくは20〜50℃である。
【0015】
ドープは、凝固液中に押し出したり、浸漬したりして、凝固液と接触させることが好ましい。ドープを、ギヤポンプなどで口金から凝固液中に押し出し、凝固液中でドープから溶媒を分離させてポリマーを凝固させ成形体を得ることができる。また、基板上にキャストしたドープを、凝固液中に浸漬し成形体を得ることができる。ドープの温度は、好ましくは10〜80℃、さらに好ましくは30〜50℃である。凝固した成形体はそのままの形状で用いてもよいが、カッターなどにより凝固した成形体を適当な大きさ、形状にカッティングして用いることもできる。また凝固した成形体はその後、洗浄剤や洗浄水を用いて十分な洗浄を行うことが好ましい。金属水酸化物を担持した成形体は、洗浄後そのまま使用しても十分な効果は発現するが、その後に乾燥、熱処理を行っても、その効果を大きく損なうことはないため、適宜、凝固後の工程にそれらの工程を組み合わせることが出来る。こうして、乾燥した成形体の重量を基準として金属水酸化物を20〜98重量%担持した成形体を得ることができる。
【0016】
好ましいポリマー、溶媒、凝固液の組み合わせとして、ポリマーがポリメタフェニレンテレフタルアミドであり、溶媒がN−メチル−2−ピロリドンであり、凝固液が水である組み合わせが挙げられる。また、ポリマーがアクリルポリマーであり、溶媒がジメチルスルホオキサドであり、凝固液が水である組み合わせが挙げられる。
【0017】
本発明の成形体を得るには特殊な装置は不要である。塊状の成形体は、ポリマー、良溶媒および金属水酸化物を含有するドープを、凝固液中に押し出すことにより製造することができる。例えば、ドープを凝固液中にスプレー、注射器などで滴下させるだけでよい。また、膜状の成形体はキャリア物質上にドープを塗布し凝固液に浸漬することで製造できる。これらの場合、スプレーノズルの口径、塗布厚みなどを変えることにより、成形物の径や厚みを任意に調整することが可能である。
本発明の成形体は、凝固の際に起こる溶媒とポリマーとの相分離により生じた空孔を内部に有する。空孔の形状は、必ずしも真円ではなく、楕円、矩形、三角形、またそれらの形状が異形化したものが含まれる。空孔は、倍率1000倍以上の電子顕微鏡で観察される断面形状において、独立した空孔であっても、互いに連通していてもよい。成形体の外観形状は、球、楕円、多角形、円柱、破砕形等の塊状のもの、パイプ状、膜状等のものが好ましい。
【0018】
<成形体の製造>
本発明の成形体は、(i)100重量部のポリマーに、300〜2400重量部の溶媒および25〜4900重量部の金属水酸化物を混合し、ドープを調製する工程であって、金属水酸化物が、下記式(1)
2+1−x3+(OH2+x−y(An−y/n (1)
(式中、M2+は、Mg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+およびCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+およびFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An−はn価のアニオンを示し、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。)
で表され、且つ金属水酸化物の平均粒径が0.05〜100μmである工程、
(ii) ドープを凝固液中に押し出し凝固させる工程、
により製造することができる。ポリマー、溶媒、金属水酸化物、ドープの調製工程、凝固工程は前述の通りである。
【0019】
<浄化方法>
本発明の被処理液の浄化方法は、前述の成形体と被処理液とを接触させ、被処理液中のリンを成形体に吸着させる工程を含む。本発明の成形体に担持された金属水酸化物はn価アニオン(n=1または2)とリン酸イオンとのアニオン交換反応によりリン酸イオンを捕捉する。従って、本発明の成形体と被処理液とを接触させ、被処理液中のリンを成形体に吸着させることができる。
被処理液は、リン酸イオンを含む溶液である。被処理液として、河川、産業排水、農業排水、生活排水、親水公園用水、景観用水、水槽の水などが挙げられる。被処理液中のリン濃度は、好ましくは0.01〜50mgP/L、より好ましくは0.01〜10mgP/Lである。
本発明の成形体と被処理液との接触は、被処理液に本発明の成形体を添加することにより行うことができる。攪拌することが好ましい。また、本発明の成形体を充填したカラムに、被処理液を通液して行うこともできる。
【0020】
リンを吸着した成形体は、アルカリ(土類)金属炭酸塩を除くアルカリ(土類)金属化合物の水溶液と接触せしめリンを脱着することができる。本発明において、アルカリ(土類)金属化合物とは、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物のことを言う。これらの混合物でもよい。アルカリ金属化合物として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム等が挙げられる。水酸化ナトリウムおよび塩化ナトリウムが好ましい。アルカリ土類金属化合物として、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム等が挙げられる。塩化マグネシウムおよび硫酸マグネシウムが好ましい。アルカリ(土類)金属炭酸塩を除く理由は、アルカリ(土類)金属炭酸塩を用いるとアルカリ(土類)金属炭酸塩中の炭酸イオンがn価アニオンとして金属水酸化物中に取り込まれて安定化され、リン酸イオン吸着能力に影響を与えるからである。
【0021】
この脱着処理により、金属水酸化物中のリンは、水溶性のリン酸塩として回収および再利用が可能である。またリンを脱着した成形体は、再度、被処理液と接触させ、リンを成形体に吸着させることができる。よって、リンを吸着した成形体を、アルカリ(土類)金属炭酸塩を除く、アルカリ(土類)金属化合物と接触せしめ脱着した後、被処理液と接触させ、リンを成形体に吸着させることが好ましい。
また、本発明の成形体を形成するポリマーは、良溶媒により容易に溶解する。従って、リンを吸着した成形体を、溶媒に溶解し、未溶解の金属水酸化物を分離回収することができる。溶解したポリマーは、精製を行い、再利用することができる。分離されたリンを吸着した金属水酸化物は肥料などへ流用が可能である。また、リンを吸着した金属水酸化物は、アルカリ(土類)金属化合物の水溶液で、リンを脱着することにより、金属水酸化物を再生し、リンの回収を行うこともできる。
従って本発明によれば、(i)本発明の成形体と被処理液とを接触させて被処理液中のリンを成形体に吸着する工程、(ii)リンを吸着した成形体を溶媒に溶解する工程および(iii) 前記工程で未溶解の金属水酸化物を分離回収する工程、を含む被処理液の浄化方法が提供される。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。
【0023】
I.実施例に用いた材料は以下の通りである。
(1)メタ系アラミドポリマー:ポリメタフェニレンテレフタルアミド、製品名コーネックス(登録商標)、帝人テクノプロダクツ(株)製
(2)NMP:N−メチル−2−ピロリドン
(3)金属水酸化物X:Mg2+0.683Al3+0.317OH2.033Cl0.238(CO2−0.023、平均粒径10μm、製品名TPEX(登録商標)、富田製薬(株)製
(4)金属水酸化物Y:Mg2+0.683Al3+0.317OH2.033Cl0.238(CO2−0.023、平均粒径2.6μm、製品名TPEX−PF、富田製薬(株)製
(5)凝固液:イオン交換水100%
【0024】
II.物性は以下の方法で評価した。
(1)金属水酸化物の平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置にて測定を実施した。
【0025】
<実施例1>成形体Aの製造
100重量部のメタ系アラミドポリマーを、900重量部のNMPで溶解させ、次に、900重量部の金属水酸化物Xを添加し、分散させドープを調製した。次に、ドープを、φ0.7mm×5ホールのダイから、毎分2mの吐出線速度で、凝固液の中に吐出した。凝固したストランドを引き続き押切カッターでカット長2mmにカットした。得られた成形体は、外径0.6mm、長さ2mmの円柱状であった。成形体を純水で十分洗浄した後、120℃で4時間、恒温乾燥機で乾燥し、成形体Aを得た。成形体Aは、金属水酸化物Xを全重量の90重量%含む多孔質状の成形体であった。
【0026】
<実施例2>成形体Aの吸着テスト
成形体Aを用いて、リン酸イオンの吸着テストを実施した。すなわち、リン濃度を0.9mgP/リットルに調整したNaHPO水溶液1.5リットル中に、成形体Aを0.556g(内金属水酸化物は0.5g)添加し、25℃にて撹拌した。攪拌中、定期的にNaHPO水溶液をサンプリングし、サンプル中のリン濃度をモリブデンブルー法にて定量した。添加してから180分後までリン濃度を測定した。その結果を図1に示す。
【0027】
<実施例3>成形体Bの製造
100重量部のメタ系アラミドポリマーを、1080重量部のNMPで溶解させ、次に、400重量部の金属水酸化物Xを添加し、分散させドープを調製した。次にドープを厚み0.2mm×幅50mmとなるようにポリエチレンフィルム上に塗布した。ドープを塗布したポリエチレンフィルムを引き続き凝固液中に浸漬し、ドープを相分離させ凝固させた。その後、ポリエチレンフィルムからフィルム状の成形体を剥離した。更に剥離したフィルム状の成形体を純水で十分洗浄を行った後、120℃で4時間、恒温乾燥機で乾燥し、フィルム状の成形体Bを得た。成形体Bは、多孔質状で、厚み0.17mm、幅44mmのフィルム状であった。成形体Bは、金属水酸化物Xを全乾燥重量の80重量%含む。
【0028】
<実施例4>成形体Bの吸着テスト
実施例2において、実施例3で得られた成形体Bを0.625g(内金属水酸化物は0.5g)用いた以外は、同様のテストを行った。その結果を図1に示す。
【0029】
<実施例5>成形体Aの脱着テスト
成形体Aを用いて、リン酸イオンの脱着テストを行った。
(吸着)
すなわち、リン濃度を84.5mgP/リットルに調整したNaHPO水溶液500ミリリットル中に、成形体Aを1.11g(内金属水酸化物は1.0g)添加し、25℃にて撹拌した。この方法により24時間後までリンを吸着させた結果、24時間後のNaHPO水溶液の濃度は21.2mgP/リットルであった。
(脱着)
次にリンを吸着した成形体Aを水洗し、NaCl 6.00mol/kg、NaOH 0.25mol/kgの混合水溶液をリン脱離液とし、リン脱離液150ミリリットル中にリンを吸着した成形体Aを浸漬し、25℃にて攪拌した。この方法により5日後までリンを脱着させた。5日後のリン脱離液中のリン濃度を測定した結果、脱離液中のリン濃度は174.9mgP/リットルであった。脱離液中のリン濃度変化を図2に示す。脱離されたリンの量は吸着したリンの量の83%であった。
【0030】
<実施例6>
実施例5で脱着を行った成形体Aを水洗し、更にMgCl 3.68mol/kgの水溶液を再生液として、再生液150ミリリットル中に成形体Aを浸漬し、25℃で14時間攪拌した。再生処理を行った後、水洗乾燥を行い、実施例5と同様のリン吸着を行い、リン吸着量を求めた。24時間後のNaHPO水溶液の濃度は36.4mgP/リットルであり、1回目の吸着量に対して再生率は76%であった。
【0031】
<実施例7>
実施例6でリンを吸着処理した成形体Aを水洗乾燥した後、ビーカー中に入れたNMP100ミリリットル中に成形体を浸漬し、40℃で30分間攪拌を行いメタ系ポリマーを溶解させた。攪拌停止後30分間静置して金属水酸化物Xを沈降分離し、上澄み液の90ミリリットルを除去した。その後新たに100ミリリットルのNMPを投入し、攪拌後、静置沈降分離を行い、上澄み液110ミリリットルを除去した。ビーカー中の残留液を濾過精度0.5μmのメンブレンフィルターで濾別し、濾過物を水洗乾燥して金属水酸化物Xを回収した。
【0032】
<比較例1>成形体Cの吸着テスト
実施例1において、金属水酸化物をドープに混合しなかったこと以外は同様の操作を行って多孔質状の成形体Cを成形し、成形体Cを0.556g用いて実施例2と同様のテストを行った。その結果を図1に示す。
【0033】
<比較例2>成形体Dの製造
100重量部の金属水酸化物Yに対して、バインダーとして1重量部のポリアクリル酸ヒドラジドおよび4重量部のポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂を添加し、2軸式ニーダーおよび上押し式造粒機を用い、金属水酸化物とバインダーとの混合を1分間行い、100重量部の水を加えてから混練を5分間行った。その後、造粒機より押し出した円柱状の成形体を乾燥した後、平均粒径0.85〜1.70mmに調製し、80℃×15時間乾燥して、金属水酸化物が造粒物の全重量の90重量%を含む成形体Dを得た。
【0034】
<比較例3>成形体Dの吸着テスト
実施例2において、比較例2で得られた成形体Dを0.56g(内金属水酸化物Yの重量は0.5g)を用いたこと以外は、同様のテストを行った。結果を図1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の成形体は、河川、各種産業排水、農業排水、生活排水、親水公園用水、景観用水、各種水槽の水に含まれるリンの除去処理に広く応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例2、実施例4、比較例1および比較例3の吸着テストの結果を示すグラフである。
【図2】実施例5の脱着テストの結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー、溶媒および金属水酸化物を含有するドープを凝固液と接触せしめ凝固させた成形体であって、金属水酸化物が下記式(1)
2+1−x3+(OH2+x−y(An−y/n (1)
(式中、M2+は、Mg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+およびCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+およびFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An−はn価のアニオンを示し、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。)
で表され、且つ金属水酸化物の平均粒径が0.05〜100μmである成形体。
【請求項2】
金属水酸化物の含有量が20〜98重量%である請求項1記載の成形体。
【請求項3】
(i)100重量部のポリマーに、300〜2400重量部の溶媒および25〜4900重量部の金属水酸化物を混合し、ドープを調製する工程であって、金属水酸化物が、下記式(1)
2+1−x3+(OH2+x−y(An−y/n (1)
(式中、M2+は、Mg2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+およびCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種の二価の金属イオンを示し、M3+はAl3+およびFe3+からなる群から選ばれる少なくとも1種の三価の金属イオンを示し、An−はn価のアニオンを示し、0.1≦x≦0.5であり、0.1≦y≦0.5であり、nは1または2である。)
で表され、且つ金属水酸化物の平均粒径が0.05〜100μmである工程、
(ii) ドープを凝固液中に押し出し凝固させる工程、
を含む成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の成形体と被処理液とを接触させ、被処理液中のリンを成形体に吸着させる工程を含む被処理液の浄化方法。
【請求項5】
リンを吸着した成形体を、アルカリ(土類)金属炭酸塩を除く、アルカリ(土類)金属化合物と接触せしめ脱着した後、被処理液と接触させ、リンを成形体に吸着させる工程を含む請求項4記載の浄化方法。
【請求項6】
リンを吸着した成形体を溶媒に溶解する工程、および前記工程で未溶解の金属水酸化物を分離回収する工程、を含む請求項4記載の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−160269(P2007−160269A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362942(P2005−362942)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000237972)富田製薬株式会社 (30)
【出願人】(592091596)帝人エンジニアリング株式会社 (21)
【Fターム(参考)】