説明

成形体の成形方法

【課題】一端面に隆起する傾斜面を介して頂部に至る凸部を有し、前記一端面に対向する端面に一側面から対向する側面に亘って略平行に延在する複数の溝部を有する成形体を成形するにあたり、溝部と凸部の頂部の寸法を高精度に成形できる方法を提供する。
【解決手段】成形体の前記溝部に対応する略平行に延在する複数の溝部212が形成された型孔を有する固定ダイ210と、前記固定ダイに対向する側面に、前記成形体の前記凸部に対応する凹部222が形成され、前記固定ダイの型孔内に摺動自在に嵌合される可動ダイ220と、前記固定ダイと前記可動ダイとにより形成される空間に摺動自在に嵌合されるとともに、前記固定ダイの前記溝部側の上下第1パンチ310,410と前記固定ダイ側の上下第2パンチ320,420とからなる成形金型装置を用い、原料粉末を上下第1パンチにより圧縮成形した後、上下第2パンチにより圧縮成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として金属粉末からなる成形体を焼結する粉末冶金法による焼結機械部品の製造方法において、前記成形体を造形するため、主として金属粉末からなる原料粉末をダイの型孔に充填し上下パンチで圧縮成形する、いわゆる押型法による成形体の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金法、特に押型法による焼結機械部品の製造方法は、(1)ニアネットシェイプに造形することができ、かつ、(2)大量生産に向くこと、および(3)溶製材料では得られない特殊な材料を製造できること、等の特長から、自動車用機械部品や各種産業用の機械部品に適用が進んでいる。また、製品形状も単純な歯車形状だけでなく、端面に凸部や凹部を有する形状(特許文献1等)を始めとし、各種複雑形状の製品に適用が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−118797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スライドカムは、図8に示すように、101側端面(図では上端面)に端面111から隆起する傾斜面112bおよび傾斜面112cを介して頂部112aに至る凸部112を有しており、101側端面に対向する102側端面(図では下端面)では、略平行な複数の溝部122が端面121上に形成された形状をしている。溝部122は103側側面の側面131に開口している。このような形状のスライドカムは、溝122にガイドされ、図示せぬレール上を進退動作するとともに、スライドカムの進退動作によって101側端面に当接して摺動する図示せぬロッドの当接位置が、端面111から傾斜面112bを経て頂部112aまで変位させることによりロッドを上方に駆動し、頂部112aから傾斜面112bを経て端面111まで変位させることによりロッドを下方に駆動して、ロッドを上下駆動するものである。すなわち、スライドカムにおいては凸部112がカムとして機能する。このため、ロッドの上下駆動を精度良く行うためには、スライドカムとしては溝122と凸部112の頂部112aの寸法aの精度を高くする必要がある。
【0005】
このようなスライドカムを粉末冶金法により製造する場合、一般的には、図9のようにして成形を行う。この場合、側面をダイ20の型孔壁面で、101側端面を上パンチ30で、102側端面を下パンチ群40で成形を行う。このとき、スライドカムの端面111は上パンチ30の端面31により形成されるとともに、スライドカムの傾斜面112bと頂部112aからなる凸部112は、上パンチ30の傾斜面32bを介して頂部32aに至る凸部32により形成される。また、102側端面においては、複数の端面121を形成する複数の下パンチ41、複数の溝部122を形成する複数の下パンチ42により形成される。
【0006】
しかしながら、上パンチ30は成形プレス装置の上ラムに取り付けられ、下パンチ群40は成形プレス装置のプラテンに取り付けられ、各々別の駆動系により圧縮成形することから、成形時の上パンチ30の先端位置と下パンチ42の先端位置を完全に制御することが難しく、このため溝部122と凸部112の頂部112aの寸法aにバラツキが生じることとなる。また、この寸法aのバラツキを機械加工により調整する場合、凸部112の頂部112aを加工すると、カムのプロファイルが変わることとなるため、溝部122を機械加工してバラツキを調整する必要があり、複数の溝部122を精度良くかつ揃えて機械加工することは手間とコストがかかることとなる。
【0007】
以上より、本発明は、一端面に、隆起する傾斜面を介して頂部に至る凸部を有し、前記一端面に対向する端面に、一側面から対向する側面に亘って略平行に延在する複数の溝部を有する成形体を成形するにあたり、溝部と凸部の頂部の寸法のバラツキを抑制し、精度良く成形できる、成形体の成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の成形体の成形方法は、一端面に、隆起する傾斜面を介して頂部に至る凸部を有し、前記一端面に対向する端面に、一側面から対向する側面に亘って略平行に延在する複数の溝部を有する成形体の成形方法であって、型孔を有する固定ダイと前記型孔内に摺動自在に嵌合される可動ダイと、前記固定ダイと前記可動ダイとにより形成される空間に摺動自在に嵌合される上パンチおよび下パンチとからなり、前記固定ダイの型孔の可動ダイに空間を隔てて対向する側面に、前記成形体の前記溝部に対応する一端面から他端面に亘って略平行に延在する複数の溝部が形成され、前記可動ダイの前記固定ダイに対向する側面に、前記成形体の前記凸部に対応する凹部が形成され、前記上パンチは、前記固定ダイの前記溝部と摺動自在に嵌合する上第1パンチと、前記上第1パンチおよび前記可動ダイと摺動自在に嵌合する上第2パンチとからなり、前記下パンチは、前記固定ダイの前記溝部と摺動自在に嵌合する下第1パンチと、前記下第1パンチおよび前記可動ダイと摺動自在に嵌合する下第2パンチとからなる、成形金型装置を用いて、前記固定ダイ、前記可動ダイおよび前記下パンチより形成される空間に原料粉末を充填した後、まず、前記上第1パンチおよび前記下第1パンチにより原料粉末を圧縮成形し、次いで前記上第2パンチおよび前記下第2パンチにより原料粉末を圧縮成形して成形を行い、得られた成形体を前記可動ダイと前記下パンチを前記固定ダイに対して相対的に上昇させて前記固定ダイより抜き出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一端面に、隆起する傾斜面を介して頂部に至る凸部を有し、前記一端面に対向する端面に、一側面から対向する側面に亘って略平行に延在する複数の溝部を有する成形体を成形するにあたり、溝部と凸部の頂部の寸法のバラツキを抑制し、精度良く成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の成形体の成形方法において用いる成形金型装置を示す概略図であり、(a)は固定ダイと可動ダイからなるダイの上面図、(b)は成形金型装置の断面図、(c)は固定ダイと可動ダイからなるダイの斜視図である。
【図2】本発明の成形体の成形方法における、原料粉末の充填状態を示す成形金型装置の断面図である。
【図3】本発明の成形体の成形方法における、上下第1パンチによる原料粉末の成形状態を示す成形金型装置の断面図である。
【図4】本発明の成形体の成形方法における、上下第2パンチによる原料粉末の成形状態を示す成形金型装置の断面図である。
【図5】本発明の成形体の成形方法における、原料粉末の成形が完了した状態を示す成形金型装置の断面図である。
【図6】本発明の成形体の成形方法における、成形体の抜き出し状態を示す成形金型装置の断面図である。
【図7】比較の成形体の成形方法における、成形体状態を示す成形金型装置の断面図である。
【図8】スライドカムの形状を示す図であり、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は上面図、(d)は下面図、(e)は斜視図である。
【図9】従来の成形方法を示す成形金型装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の成形体の成形方法における成形金型装置を図1に示す。
【0012】
ダイは固定ダイ210と可動ダイ220とからなる。
【0013】
固定ダイ210の型孔の一側面には、成形体の略平行に延在する複数の溝部122を成形する略平行に延在する複数の凸条211、および成形体の溝部122が形成される端面121を成形する凹条212が形成される。これら凸条211および凹条212は固定ダイ210の上端面から下端面に貫通して形成される。
【0014】
可動ダイ220は、固定ダイ210の凸条211および凹条212が形成された型孔の側面に距離a2を隔てて対向するとともに、型孔の側面213および214と摺動自在に嵌合するよう配置され、図1(c)に示すように可動ダイ220は固定ダイ210に対して相対的に上下方向に摺動可能とされている。また、可動ダイ220には、固定ダイ210の凸条211および凹条212が形成された型孔の側面に対向する側面221に、成形体の凸部112を成形する深さa1の凹部222が形成されている。可動ダイ220の凹部222は、底部222a、傾斜面222bおよび傾斜面222cからなり、底部222aは成形体凸部112の頂部112aを、傾斜面222bは成形体凸部112の傾斜面112bを、傾斜面222cは成形体凸部112の傾斜面112cを、成形する。
【0015】
上パンチ300および下パンチ400は、固定ダイ210および可動ダイ220により形成される空間、すなわち、固定ダイ210の複数の凸条211および凹条212、型孔側面214と、可動ダイの側面221と摺動自在に嵌合する。また、上パンチ300および下パンチ400は、固定ダイ210の複数の凸条211および凹条212と摺動自在に嵌合する第1上パンチ310および第2下パンチ410と、可動ダイ220および第1上パンチ310と摺動自在に嵌合する第2上パンチ320、および可動ダイ220および第1下パンチ410と摺動自在に嵌合する第2下パンチ420とから構成される。
【0016】
上記の固定ダイ210、可動ダイ220、上パンチ300(上第1パンチ310および上第2パンチ320)および下パンチ400(下第1パンチ410および下第2パンチ420)からなる成形金型装置を用いる本発明の成形体の成形方法を以下に説明する。まず、図2に示すように、固定ダイ210、可動ダイ220および下パンチ400により形成される空間に原料粉末を充填する。
【0017】
次いで、図3に示すように、上第1パンチ310および下第1パンチ410を相対的に近づく方向に駆動し、原料粉末を加圧する。このとき上第1パンチ310および下第1パンチ410に挟まれた箇所の原料粉末は圧縮成形され緻密化する。また、一部の原料粉末は図中矢印のように、無加圧の上第2パンチ320および下第2パンチ420に挟まれた箇所に流動し、中央部分で原料粉末が緻密化する。
【0018】
この後、図4に示すように、上第2パンチ320および下第2パンチ420を相対的に近づく方向に駆動し、原料粉末を加圧する。このとき、上第2パンチ320および下第2パンチ420に挟まれた箇所の原料粉末は、中央部で先に緻密化していることから、上第2パンチ320および下第2パンチ420の加圧により原料粉末は、図中矢印のように、可動ダイ220の凹部222に流動しつつ緻密化する。
【0019】
このようにして、図5に示すように、上第2パンチ320および下第2パンチ420の端面が、上第1パンチ310および下第1パンチ410の端面と面一になるまで原料粉末を圧縮することにより、可動ダイ220の凹部222に充填された原料粉末にもパンチの加圧力が伝播され、充分な成形密度とすることができる。
【0020】
本発明の成形体の成形方法においては、成形体(スライドカム)の凸部112は、可動ダイ220に形成された凹部222により成形されるため、その深さaは常に一定である。また、可動ダイ220は固定ダイ210の型孔により拘束されるため、可動ダイ220と固定ダイ210の距離aも常に一定である。したがって、成形体(スライドカム)の凸部の頂部112aと溝部122の寸法aは極めて高精度に成形できる。
【0021】
上記の成形により得られた成形体は、図6に示すように、可動ダイ220と下パンチ400を同時に固定ダイ210に対して相対的に上昇させることにより、固定ダイ210より容易に抜き出される。
【0022】
なお、上パンチ300および下パンチ400を従来のように分割しないパンチとして用いる場合、図7に示すように、原料粉末の加圧力が垂直に作用し、可動ダイ220の凹部222に充填されている原料粉末に対して加圧力が作用し難く、成形体凸部112の密度が低くなる、あるいは原料粉末が固まらないこととなる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の成形体の成形方法は、一端面に、隆起する傾斜面を介して頂部に至る凸部を有し、前記一端面に対向する端面に、一側面から対向する側面に亘って略平行に延在する複数の溝部を有する成形体を成形するにあたり、溝部と凸部の頂部の寸法のバラツキを抑制し、精度良く成形できることから、スライドカムの粉末冶金法による製造に利用できる。
【符号の説明】
【0024】
112 スライドカム(成形体)の凸部
122 スライドカム(成形体)の溝部
210 固定ダイ
211 固定ダイの凸条
212 固定ダイの凹条
220 可動ダイ
222 可動ダイの凹部
300 上パンチ
310 上第1パンチ
320 上第2パンチ
400 下パンチ
410 下第1パンチ
420 下第2パンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端面に、隆起する傾斜面を介して頂部に至る凸部を有し、
前記一端面に対向する端面に、一側面から対向する側面に亘って略平行に延在する複数の溝部を有する成形体の成形方法であって、
型孔を有する固定ダイと
前記型孔内に摺動自在に嵌合される可動ダイと、
前記固定ダイと前記可動ダイとにより形成される空間に摺動自在に嵌合される上パンチおよび下パンチとからなり、
前記固定ダイの型孔の可動ダイに空間を隔てて対向する側面に、前記成形体の前記溝部に対応する一端面から他端面に亘って略平行に延在する複数の溝部が形成され、
前記可動ダイの前記固定ダイに対向する側面に、前記成形体の前記凸部に対応する凹部が形成され、
前記上パンチは、前記固定ダイの前記溝部と摺動自在に嵌合する上第1パンチと、前記上第1パンチおよび前記可動ダイと摺動自在に嵌合する上第2パンチとからなり、
前記下パンチは、前記固定ダイの前記溝部と摺動自在に嵌合する下第1パンチと、前記下第1パンチおよび前記可動ダイと摺動自在に嵌合する下第2パンチとからなる、成形金型装置を用いて、
前記固定ダイ、前記可動ダイおよび前記下パンチより形成される空間に原料粉末を充填した後、まず、前記上第1パンチおよび前記下第1パンチにより原料粉末を圧縮成形し、次いで前記上第2パンチおよび前記下第2パンチにより原料粉末を圧縮成形して成形を行い、得られた成形体を前記可動ダイと前記下パンチを前記固定ダイに対して相対的に上昇させて前記固定ダイより抜き出すことを特徴とする成形体の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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