説明

成形体及びその製造方法、高周波信号伝送用製品並びに高周波伝送ケーブル

ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と、融点が100℃以上、322℃未満である熱可塑性樹脂(B)とからなる成形体であって、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)は、示差走査熱量計による結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度が、340℃以上の温度に加熱した後における示差走査熱量計による結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度よりも3℃以上高いことを特徴とする成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体、成形体の製造方法、高周波信号伝送用製品、及び、高周波伝送ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
同軸ケーブル、LANケーブル、プリント配線基板等の高周波信号伝送用製品では、絶縁材の誘電体損が重要なファクターとなっている。
誘電体損は、誘電率(ε)と誘電正接(tanδ)との関数であり、小さいほど絶縁材として好ましい。
【0003】
誘電率と誘電正接とが小さい絶縁材の材料として、ポリテトラフルオロエチレン[PTFE]が知られている。PTFEは、従来より、融点以上に加熱する焼成を行って、成形加工されてきた。
【0004】
最近の高周波信号伝送技術の発展に伴い、より高度の伝送特性が求められるようになり、PTFEは、誘電体損の低下のために、誘電率(ε)と誘電正接(tanδ)とを低下させるべく、未焼成又は半焼成の状態で用いることが提案された。しかしながら、未焼成又は半焼成のPTFEは機械的強度に劣る問題があった。
【0005】
同軸ケーブル等の高周波伝送ケーブルは、芯線は残したまま、長手方向に末端部分を切る末端加工が行われることがある。芯線を被覆している絶縁被覆材として、未焼成又は半焼成のPTFEからなる場合は、末端加工を行うと、切り口に繊維化を生じ、末端加工性に劣る問題があった。
【0006】
同軸ケーブルの絶縁被覆材の誘電率と誘電正接とをできるだけ低く維持し、機械的強度の向上を目的として、未焼成PTFE及び焼成PTFEからなる絶縁被覆材において、PTFEの外表面側の焼成度が高くなるように焼成して、ラジアル方向での焼成度の傾斜化を行ったものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
絶縁被覆材の末端加工性を向上させるため、末端加工の対象となる末端部分のみが完全焼成PTFEからなり、その他の部分は未焼成PTFE又は半焼成PTFEからなる芯線の長手方向での焼成度の傾斜化が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
これらの絶縁被覆材は、樹脂として焼成したPTFEのみ用いたものよりも誘電正接が低いものの、未焼成PTFEで構成される部分を有するために機械的強度と末端加工性が不充分である問題があった。
【0009】
半焼成PTFEからなる絶縁被覆材として、また、数平均分子量100万±50万のPTFE(a)と数平均分子量450万±100万のPTFE(b)とを混合し、PTFE(a)の融点以上、PTFE(b)の融点未満の温度でPTFE(a)のみを焼成することにより得られるものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この絶縁被覆材は、誘電率及び誘電正接が低く、末端加工性が改善されてはいるが、より高度の機械的強度と末端加工性とが求められるようになってきている。
【0010】
高周波信号伝送用製品の絶縁被覆材として、このようにPTFEについては焼成度等の検討が種々行われてきたが、しかしながら、PTFE以外の含フッ素樹脂、その他の樹脂等は、誘電率、誘電正接ともPTFEよりも高く、絶縁材の材料として、未だ検討されていない。
【0011】
【特許文献1】特開平11−31442号公報
【特許文献2】特開平11−283448号公報
【特許文献3】特開2001−357729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、誘電正接、誘電率等の電気特性に優れ、また、末端加工性や機械的強度に優れた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と、融点が100℃以上、322℃未満である熱可塑性樹脂(B)とからなる成形体であって、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)は、示差走査熱量計による結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度が、340℃以上の温度に加熱した後における示差走査熱量計による結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度よりも3℃以上高いことを特徴とする成形体である。
【0014】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と、融点が100℃以上、322℃未満である熱可塑性樹脂(B)とを特定の樹脂温度において熱処理することからなる成形体の製造方法であって、上記特定の樹脂温度は、上記熱可塑性樹脂(B)の融点以上、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の融点未満であることを特徴とする成形体の製造方法である。
【0015】
本発明は、上記成形体からなることを特徴とする高周波信号伝送用製品である。
本発明は、上記成形体を絶縁被覆層として有することを特徴とする高周波伝送ケーブルである。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の成形体は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と、融点が100℃以上、322℃未満である熱可塑性樹脂(B)とからなるものである。
【0017】
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)を構成するフルオロポリマーは、テトラフルオロエチレン[TFE]単独重合体であってもよいし、TFEと、TFE以外の微量モノマーとの共重合体であって、非溶融加工性であるもの(以下、変性ポリテトラフルオロエチレン[変性PTFE]という。)であってもよい。
【0018】
上記微量モノマーとしては、例えば、パーフルオロオレフィン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、環式のフッ素化された単量体、パーフルオロアルキルエチレン等が挙げられる。
上記パーフルオロオレフィンとしては、ヘキサフルオロプロピレン[HFP]等が挙げられ、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等が挙げられ、環式のフッ素化された単量体としては、フルオロジオキソール等が挙げられ、パーフルオロアルキルエチレンとしては、パーフルオロメチルエチレン等が挙げられる。
【0019】
上記変性PTFEにおいて、上記微量モノマーに由来する微量モノマー単位の全モノマー単位に占める含有率は、通常0.001〜1モル%の範囲である。
本明細書において、上記「微量モノマー単位」は、フルオロポリマーの分子構造上の一部分であって、対応するフルオロモノマーに由来する部分を意味する。例えば、TFE単位は、フルオロポリマーの分子構造上の一部分であって、TFEに由来する部分であり、−(CF−CF)−で表される。上記「全モノマー単位」は、フルオロポリマーの分子構造上、モノマーに由来する部分の全てである。本明細書において、「全モノマー単位に占める微量モノマー単位の含有率(モル%)」とは、上記「全モノマー単位」が由来するモノマー、即ち、フルオロポリマーを構成することとなったモノマー全量に占める、上記微量モノマー単位が由来する微量モノマーのモル分率(モル%)を意味する。
【0020】
上記変性PTFEにおいて、上記全モノマー単位に占める微量モノマー単位の含有率は、得られる成形体の誘電正接を低くさせる点で、低い方が好ましく、好ましい上限は0.1モル%である。
【0021】
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)としては、得られる成形体の誘電正接を低くさせる点で、TFE単独重合体が好ましい。
【0022】
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)としては、数平均分子量が350万〜800万であるものが好ましい。
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の数平均分子量は、大きくなると成形性に劣りやすく、少な過ぎると機械的強度や電気的特定が低下しやすい。上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の数平均分子量のより好ましい下限は、400万であり、より好ましい上限は700万である。
本明細書において、数平均分子量は、ASTM D−4895 98に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D−792に準拠した水置換法により測定した標準比重より計算されるものである。
【0023】
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)は、示差走査熱量計による結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度[T]が、340℃以上に加熱した後における示差走査熱量計による結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度[T]よりも3℃以上高いものである。
上記最大ピーク温度[T]は、上記最大ピーク温度[T]よりも5℃以上高いことが好ましく、10℃以上高いことがより好ましい。上記最大ピーク温度[T]は、上記範囲内の温度であれば、通常、上記最大ピーク温度[T]を超える温度範囲が21℃以下であり、15℃以下であってもよい。
本明細書において、上記吸熱カーブは、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分の条件で昇温させて得られたものである。
【0024】
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)は、上記最大ピーク温度[T]を有することから明らかなように、ポリテトラフルオロエチレンの重合後、焼成した履歴のないものである。上記「340度以上に加熱」するとは、上記「ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)」を焼成することを意味する。
本明細書において、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)を後述の融点以上の温度に加熱することを「焼成」ということがある。上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)について、該融点以上の温度に加熱した履歴がないことを「未焼成」又は「半焼成」ということがある。
上記焼成は、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)からなる成形体の加熱時の形状(例えば、厚み等)により異なるが、例えば、340℃の温度にて5分間加熱することにより行うことができる。
【0025】
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の融点は、340±7℃であることが好ましい。
得られる成形体の成形性の点で、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の融点のより好ましい下限は338℃であり、より好ましい上限は342℃である。
本明細書において、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の融点は、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分の条件で吸熱ピークを測定することにより求められる。
【0026】
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)は、目的とする成形体の用途や成形方法、後述の熱可塑性樹脂(B)との混合物の調製方法等により、乳化重合、懸濁重合、溶液重合等の公知の方法で製造することができるが、成形性の点で、乳化重合により得られるものが好ましい。
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)としては、例えば乳化重合により得たものである場合、乳化重合により得た重合上がりのディスパージョン又はその濃縮物を用いてもよいし、上記ディスパージョンを凝析して取り出した粉末を用いてもよい。上記乳化重合により得られる粉末は、ファインパウダーということがある。
【0027】
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の重合上がりのディスパージョン中の樹脂粒子(一次粒子)の平均粒子径(平均一次粒径)は、通常0.1〜0.5μmである。上記平均一次粒径の好ましい下限は0.2μmであり、好ましい上限は0.3μmである。
本明細書において、上記平均一次粒径は、重力沈降法に基づく測定により得られるものである。
【0028】
上記熱可塑性樹脂(B)は、融点が100℃以上、322℃未満である熱可塑性樹脂である。
上記融点は、アンテナ等、得られる成形体の使用時の耐熱性の点で、120℃以上がより好ましく、機械的強度と後述する熱処理時の温度設定がしやすい点で、300℃以下が好ましい。
上記熱可塑性樹脂(B)の融点の測定法としては、樹脂の種類により公知の測定法を採用することができるが、例えば、示差走査熱量計を用いて、昇温速度10℃/分の条件で吸熱ピークを測定することにより求めることができる。
【0029】
上記熱可塑性樹脂(B)は、上記範囲内に融点を有するものであるので、本発明の成形体は、例えば、室温〜100℃未満の比較的低温での使用に際して、形状安定性を有し、伝送特性変化を生じないので、高度の高周波伝送特性が求められる用途に好適に使用することができる。
【0030】
上記熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、含フッ素樹脂等が挙げられる。
上記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリプロピレン〔PP〕系樹脂、ポリエチレン〔PE〕系樹脂等が挙げられる。
上記ポリプロピレン〔PP〕系樹脂は、構成するプロピレンポリマーがプロピレン単独重合体であるものであってもよいし、主要単量体としてのプロピレンと、プロピレンとの共重合可能な単量体との共重合体であるものであってもよい。上記プロピレンの共重合体としては、例えば、プロピレンとエチレンとがランダム又はブロック状に共重合したプロピレン/エチレン系共重合体等をも含むものであってもよい。
上記含フッ素樹脂としては、溶融加工性含フッ素樹脂が挙げられる。
上記溶融加工性含フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[TFE/PAVE]共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体[FEP]樹脂、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体[ETFE]樹脂、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体[EFEP]樹脂等が挙げられる。
上記TFE/PAVE共重合体樹脂としては、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)共重合体[MFA]樹脂、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体[PFA]樹脂等が挙げられる。
上記含フッ素樹脂としては、PFA樹脂、FEP樹脂が好ましい。
【0031】
上記熱可塑性樹脂(B)としては、耐熱性に優れ、比較的高温下でも安定した使用が可能な成形体が得られる点で、FEP樹脂、TFE/PAVE共重合体樹脂、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
上記TFE/PAVE共重合体樹脂としては、MFA樹脂、PFA樹脂が好ましい。
【0032】
上記熱可塑性樹脂(B)は、372℃におけるMFRが0.5〜80(g/10分)であるものが好ましい。上記MFRは、より好ましい下限が8(g/10分)であり、より好ましい上限が50(g/10分)であり、更に好ましい上限が25(g/10分)である。
本明細書において、上記溶融粘度は、ASTM D−2116に準拠して測定したものである。
上記熱可塑性樹脂(B)は、溶融粘度が小さいので、後述の熱処理時に上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)からなる粒子同士、又は、成形加工によるその配向粒子同士の間の隙間に充分に行き渡り、上記配向粒子がフィブリル化していても、このフィブリルを絡めるように隙間を埋めることができ、その状態で冷却により固化するので、本発明の成形体は、機械的強度に優れ、芯線の被覆材である場合に長手方向に末端を切除してもフィブリルを生じず、末端加工性に優れたものとなる。
上記熱可塑性樹脂(B)は、その一方、ポリテトラフルオロエチレン樹脂よりも比誘電率と誘電正接とが高いので、ポリテトラフルオロエチレン樹脂の電気特性を活かした成形体に混在させることは避けられてきた。
しかしながら、本発明の成形体は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂よりも電気特性に劣る熱可塑性樹脂を用いたにもかかわらず、樹脂としてポリテトラフルオロエチレン樹脂のみを用いた成形体の比誘電率と誘電正接とを損なうことなく、優れた機械的強度と末端加工性とを達成したものである。
【0033】
上記熱可塑性樹脂(B)の数平均分子量は、特に限定されないが、1000〜50万であることが好ましい。上記数平均分子量は、大きすぎると成形性が低下することがあり、小さ過ぎると、得られる成形体の機械的強度が低下することがある。
【0034】
上記熱可塑性樹脂(B)は、公知の方法で製造することができるが、後述の上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)との混合物の調製に含フッ素樹脂の水性分散液を用いる場合、乳化重合法により重合されたものが好ましい。
【0035】
本発明の成形体において、上記熱可塑性樹脂(B)は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と上記熱可塑性樹脂(B)との合計の1〜60質量%であることが好ましい。
上記含有率の好ましい下限は、5質量%、より好ましい下限は、10質量%であり、好ましい上限は50質量%、より好ましい上限は40質量%、更に好ましい上限は30質量%である。
上記含有率が60質量%を超える場合、誘電正接が大きくなるため電気特性が低下することがあり、上記含有率が1%未満である場合、得られる成形体の硬度が低下するため末端加工性及び機械的強度が低下することがある。
【0036】
本発明の成形体は、比誘電率を低くし電気特性が向上する点で、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)及び上記熱可塑性樹脂(B)に加え、更に、発泡剤を含むものであってもよい。
上記発泡剤としては、成形加工時に気泡を生じ得るものであれば特に限定されないが、例えば、カルボニルヒドラジド、アゾ系化合物、無機化合物等の分解性化合物が挙げられる。
【0037】
上記カルボニルヒドラジドとしては、4,4−ビスオキシベンゼンスルホニルヒドラジド等が挙げられる。
上記アゾ系化合物としては、例えば、アゾジカルボン酸アミド、5−フェニルテトラゾールが挙げられる。
上記無機化合物としては、窒化ホウ素、タルク、セリサイト、珪藻土、窒化ケイ素、ファインシリカ、アルミナ、ジルコニア、石英粉、カオリン、ベンゾナイト酸化チタン等が挙げられる。
【0038】
上記発泡剤は、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)及び上記熱可塑性樹脂(B)の合計の0.1〜5質量%の量で添加することが好ましい。
上記発泡剤の添加量は、使用する発泡剤の種類により異なるが、発泡率の点で、0.5質量%以上がより好ましく、誘電正接の点で、1質量%以下がより好ましい。
【0039】
本発明の成形体は、該成形体を構成するポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)が上述の最大ピーク温度〔T〕を有し未焼成又は半焼成のままの状態であるものであるが、成形時において、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)は焼成しないものの、熱可塑性樹脂(B)を溶融したのち固化させて得られるものである。
PTFEは、一般に、その融点以上の温度で加熱することにより、比誘電率と誘電正接が高くなるので、上記加熱により得られる成形体は、誘電体損が大きく、伝送速度が低下してしまうが、その一方、融点以上の温度に加熱することなく得た成形体は、機械的強度に劣り、芯線を被覆する被覆剤の場合、長手方向にも被覆剤の末端を切除する際に糸引きを起こし、末端加工性に劣る。
本発明の成形体では、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)が未焼成又は半焼成の状態であるので、比誘電率と誘電正接は低く、電気特性に優れているのに加え、上記熱可塑性樹脂(B)は、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)からなる粒子同士又はその配向物同士の間を埋める状態で固化しているので、機械的強度に優れ、末端加工性にも優れている。
本発明の成形体は、機械的強度に優れているので、形状安定性に優れ、比誘電率が変化しにくいことから、高周波信号伝送用製品に用いた際、伝送速度を安定に保つことができる。
【0040】
本発明の成形体は、tanδで表される誘電正接が2.0×10−4以下であることが好ましい。上記誘電正接の好ましい上限は、0.8×10−4であり、より好ましい上限は、0.7×10−4である。
上記誘電正接は、上記範囲内であれば、例えば、下限が0.15×10−4であってもよく、通常、下限が0.2×10−4であってもよい。
本発明の成形体において、比誘電率(εr)は、通常、1.7〜2.3である。上記比誘電率は、下限が1.8であってもよく、好ましい上限は2.0である。
未焼成PTFEは、通常、密度が約1.7、比誘電率が約1.7と低く、未焼成PTFE及び/又は半焼成PTFEを有する本発明の成形体は、比誘電率が低いものとなる。
【0041】
本明細書において、上記誘電正接及び上記比誘電率は、それぞれネットワークアナライザーを用いて、共振周波数及び電界強度の変化を20〜25℃の温度下で測定し、12GHzにおける値を算出して得られるものである。
【0042】
本発明の成形体は、誘導正接のみならず比誘電率も低いものであるので、誘電体損が小さく、絶縁体として好適に用いることができ、低誘電体損と、安定した高伝送速度とが求められる高周波信号伝送用製品における絶縁体として、特に好適に用いることができる。
【0043】
本発明の成形体は、例えば、後述の高周波伝送ケーブル等の絶縁体として用いる場合、伝送損失は、一般に、導体の電気絶縁抵抗によるものと、誘電体損(α)によるものとに分類される。
上記誘電体損は、下記一般式で表されるように比誘電率及び誘電正接の関数で表され、誘電正接に比例する。
【0044】
【数1】

【0045】
本発明の成形体は、例えば後述の高周波伝送ケーブル等の絶縁体として用いる場合、誘電体損が低く、低伝送損失を可能にしたものであり、絶縁体、特に高周波伝送ケーブル等の高周波信号伝送用製品における絶縁体に好適である。
【0046】
本発明の成形体は、例えば、本発明の成形体の製造方法により得ることができる。
本発明の成形体の製造方法は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と、融点が100℃以上、322℃未満である熱可塑性樹脂(B)とを熱処理することからなるものである。
【0047】
本発明の成形体の製造方法は、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と上記熱可塑性樹脂(B)とを用いて、所望の形状に成形加工し、上記成形加工と同時に又は上記成形加工の後に、上記熱処理を行うものであることが、好ましい。
【0048】
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と上記熱可塑性樹脂(B)とは、所望の形状に成形加工するに際し、得られる成形体の均質性の点で、予め混合物にしておくことが好ましい。
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と上記熱可塑性樹脂(B)とからなる混合物を調製する方法としては、例えば、(i)上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)からなる粉末と上記熱可塑性樹脂(B)からなる粉末とを混合する乾式混合法(ドライブレンド法)、(ii)上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)又は上記熱可塑性樹脂(B)の一方の樹脂からなる水性分散液に、他方の樹脂からなる粉末を添加して凝析する共凝析法、(iii)上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)からなる水性分散液と上記熱可塑性樹脂(B)からなる水性分散液とを混合して凝析する共凝析法等が挙げられる。なかでも、充分に混合でき、均質で、機械的強度と電気特性に優れた成形体が得られやすい点で、上記(ii)又は(iii)の共凝析法が好ましく、(iii)の共凝析法がより好ましい。
【0049】
上記混合物の調製において、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と上記熱可塑性樹脂(B)との混合比は、使用する各樹脂の種類に応じて適宜設定することができるが、上記熱可塑性樹脂(B)が、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と上記熱可塑性樹脂(B)との合計の1〜60質量%であることが好ましい。
上記熱可塑性樹脂(B)は、得られる成形体の末端加工性及び機械的強度の点で、好ましい下限が5質量%、より好ましい下限が10質量%であり、得られる成形体の電気特性の点で、好ましい上限が50質量%、より好ましい上限が40質量%、更に好ましい上限が30質量%である。
【0050】
上記(iii)の共凝析法としては特に限定されないが、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)及び上記熱可塑性樹脂(B)の各重合上がりの水性分散液を混合した後、無機酸又はその金属塩等の凝析剤を作用させることよりなる方法が好ましい。
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と上記熱可塑性樹脂(B)とが充分に混合され、均質な混合物を得やすい点で、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の平均粒径と上記熱可塑性樹脂(B)の平均粒径とは、互いにほぼ同じであることがより好ましい。
【0051】
上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と上記熱可塑性樹脂(B)とを用いて所望の形状に成形加工する方法としては特に限定されず、目的とする成形体の用途によるが、例えば、圧縮成形、押出圧延成形、押出被覆成形方式、ラッピングテープ方式、カレンダー圧延方式等の公知の方法が挙げられる。
上記成形加工は、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)及び上記熱可塑性樹脂(B)に加え、成形加工性の向上、得られる成形体の機械的強度等の物性の向上等を目的として、その他公知の加工助剤等を添加して行ってもよい。
【0052】
上記熱処理は、特定の樹脂温度において行う。
本明細書において、上記「樹脂温度」とは、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と上記熱可塑性樹脂(B)とからなる混合物を成形加工する際、焼成する時の上記混合物の温度を意味する。
上記熱処理は、通常、上述の成形加工により作成した所望の成形体に対して行い、好ましくは、炉等の加熱装置の内部に上記所望の成形体を入れて行うが、上記加熱装置の設定温度は、一般に上記樹脂温度よりも15〜20℃近く高い温度にする。例えば、上記所望の成形体が炉を約1分間で通過する場合には、樹脂温度は、炉温度より約15〜20℃近く低い温度となる。
【0053】
上記特定の樹脂温度は、上記熱可塑性樹脂(B)の融点以上、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の融点未満の温度である。
上記特定の樹脂温度は、エネルギー効率の点で、上記熱可塑性樹脂(B)の融点を大きく超えない温度が好ましく、用いる上記熱可塑性樹脂(B)の種類にもよるが、好ましい下限は、用いる上記熱可塑性樹脂(B)の融点よりも5℃高い温度、より好ましい下限は、用いる上記熱可塑性樹脂(B)の融点よりも10℃高い温度である。
上記特定の樹脂温度の好ましい上限は、樹脂温度が、確実に上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の融点未満であるように加熱装置の温度を設定する点で、用いる上記熱可塑性樹脂(B)の融点にもよるが、用いる上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の融点よりも5℃低い温度であり、より好ましい上限は、用いる上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の融点よりも10℃低い温度である。
【0054】
本発明の成形体の製造方法は、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と、上記範囲内に融点を有する熱可塑性樹脂(B)とを使用するものであるので、熱処理工程における上記特定の樹脂温度を幅広く設定することができる。
本発明の成形体の製造方法は、上記熱処理を上記特定の樹脂温度において行うものであるので、得られる成形体は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)が未焼成又は半焼成のままの状態であり、上記熱可塑性樹脂(B)が溶融されたのち固化してなるものである。このため、本発明の成形体の製造方法は、本発明の成形体について上述したような、比誘電率と誘電正接が低く、機械的強度に優れ、末端加工性にも優れた成形体を、熱処理温度・管理が容易で簡便な方法により製造することができる。
【0055】
上述の本発明の成形体からなる高周波信号伝送用製品もまた、本発明の一つである。
上記高周波信号伝送用製品としては、高周波信号の伝送に用いる製品であれば特に限定されず、(1)高周波回路の絶縁板、接続部品の絶縁物、プリント配線基板等の成形板、(2)高周波用真空管のベース、アンテナカバー等の成形品、及び、(3)同軸ケーブル、LANケーブル等の被覆電線等が挙げられる。
上記高周波信号伝送用製品において、上述の本発明の成形体は、比誘電率と誘電正接が低い点で、絶縁体として好適に用いることができる。
【0056】
上記(1)成形板としては、電気特性が得られる点で、プリント配線基板が好ましい。
上記プリント配線基板としては特に限定されないが、例えば、携帯電話、各種コンピューター、通信機器等の電子回路のプリント配線基板が挙げられる。
上記(2)成形品としては、誘電体損が低い点で、アンテナカバーが好ましい。
【0057】
上記(1)成形板及び(2)成形品に成形加工するための方法としては特に限定されないが、例えば、上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)、上記熱可塑性樹脂(B)及び、所望により公知の加工助剤等を混合した後、圧縮成形又は押出圧延成形等を行うことからなる方法等が挙げられる。
【0058】
上記(3)被覆電線としては、良好な耐熱性及び電気特性が得られる点で、高周波伝送ケーブルが好ましく、上記高周波伝送ケーブルとしては、同軸ケーブルが好ましい。
上記同軸ケーブルは、一般に、内部導体、絶縁被覆層、外部導体層及び保護被覆層が芯部より外周部に順に積層することからなる構造を有する。上記構造における各層の厚さは特に限定されないが、通常、内部導体は直径約0.1〜3mmであり、絶縁被覆層は、厚さ約0.3〜3mm、外部導体層は、厚さ約0.5〜10mm、保護被覆層は、厚さ約0.5〜2mmである。
【0059】
上記高周波伝送ケーブルは、例えば、特開2001−357729号公報に記載の方法、特開平9−55120号公報に記載の方法等、公知の方法により製造することができる。本発明において、上記高周波伝送ケーブルは、上述の本発明の成形体を絶縁被覆層として有するものである。
上記絶縁被覆層として本発明の成形体を成形加工する方法としては特に限定されないが、例えば、押出被覆成形方式、テープラッピング方式、カレンダー圧延方式等が挙げられる。上記成形加工の方法としては押出被覆成形方式が好ましく、上記押出被覆成形方式としてはペースト押出成形が好ましい。
【0060】
上記ペースト押出成形の方法としては、例えば、好ましくは乳化重合により得た上記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と、上記熱可塑性樹脂(B)とからなる粉末にペースト押出助剤を混合したのち、ペースト押出機に装填し、芯線を被覆させるように押出し、100〜250℃の温度下で加熱乾燥した後、上記特定の樹脂温度における熱処理により焼成を行うことからなる方法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0061】
本発明の成形体は、上述の構成よりなることから、比誘電率と誘電正接が低いので誘電体損が低く機械的強度や末端加工性に優れている。本発明の成形体の製造方法は、上述の構成よりなるので、上記成形体を熱処理温度・管理が容易で簡便な方法により製造することができる。本発明の高周波信号伝送用製品は、本発明の成形体からなるものであるので、誘電体損が低く、機械的強度と形状安定性に優れ、高周波伝送速度が速く、安定しているものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例によって限定されるものではない。
【0063】
各実施例及び各比較例において、以下の方法を用いて評価した。
(1)樹脂温度:接触温度計により求めた。
(2)融点温度:示差走査熱量計(RDC220;セイコー電子社製)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で吸熱ピークを測定することにより算出した。
【実施例1】
【0064】
1.PTFE樹脂及びPFA樹脂の共凝析
上述の(iii)の共凝析法により混合物を調製するため、軸芯下端にいかり型攪拌翼(円筒外径80mm、高さ50mm)を備えた攪拌機を有する直径180mmの円筒型攪拌容器(内容量5000mL)内に、乳化重合により得たTFE単独重合体からなる粒子(数平均分子量460万、平均一次粒径0.28μm、融点343℃)を30質量%の量で含有するPTFE水性分散液1000gを添加した後、PFA粒子(数平均分子量50万、平均一次粒径0.18μm、融点ピーク温度312℃)を17質量%の量で含有するPFA水性分散液92.8gを添加し、更に1.5mLの硝酸を入れ、攪拌を約3分間行った。攪拌開始後約1分でスラリー状になり、攪拌開始後約2分で粉状物が現れた。
攪拌後、水洗浄を約1分間ずつ2回行い、得られた湿潤粉末を130℃の温度にて10時間、乾燥した。
PTFE樹脂95質量%及びPFA樹脂5質量%からなる共凝析粉末を得た。
【0065】
2.成形加工
上記共凝析粉末に、押出助剤(アイソパーG、エッソ化学社製)を、上記共凝析粉末の全質量の20.5質量%の量で混合し、25℃の温度下で12時間熟成した。その後、予備成形機に入れ、3MPaの圧力下にて予備成形後、シリンダ径38mmのペースト押出機(ジェニングス社製)を用いて、8mm径ビードを押し出した。次いで、上記ビードを80℃の温水により60℃まで昇温し、500mm径の金属ロールで500μmの厚みに圧延して、80mm角のシートを得た。得られたシートを、200℃の温度下で5分間乾燥し、上記押出助剤を蒸散させた後、炉温度350℃の恒温槽に1分間入れて、熱処理を行って、シート(1)を得た。
【0066】
3.成形品の評価
(1)比誘電率及び誘電正接(tanδ):得られたシートを空洞共振器法により、ネットワークアナライザー(ヒューレットパッカード社製、HP8510C)を用いて、共振周波数及びQu値(電界強度)の変化を20〜25℃の温度にて測定し、12GHzにおける各値を算出した。
(2)末端加工性:上記予備成形機で作製した予備成形品を押出機(シリンダー径38mm、マンドレル径16mm、ダイオリフィス径1.92mm、ジェニングス社製)に装填し、芯線(アメリカンワイヤーゲージサイズ24:直径0.511mmの銀メッキ銅被覆鋼単線)上に巻取り速度5m/分で押出して被覆し、外径1.68mmの絶縁被覆層を有する被覆ケーブルを作製した。
得られた被覆ケーブルに対し、ワイヤーストリッパーを用いて被覆を剥がし、剥がした箇所を目視して、繊維化せずに容易に絶縁層を切断でき、切断面がきれいな場合を◎、繊維化せずに絶縁層を切断でき、切断面がきれいな場合を○、繊維化せずに絶縁層を切断できるが、切断面が荒れている場合を△、断片の繊維化が生じる場合を×として評価した。
【0067】
実施例2〜5
表1に示すようにPTFE樹脂とPFA樹脂との混合比を変える以外は、実施例1と同じ方法によりシートを作製し、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
更に、実施例2では、得られたシート(1)、及び、該シート(1)を340℃の温度にて5分間加熱して得られたシート(2)について融点温度の測定を行った。上記シート(1)の融点温度測定から得られた結晶融解曲線上に現れるPTFE樹脂の吸熱カーブの最大ピーク(T)と、上記シート(2)の融点温度測定から得られた結晶融解曲線上にPTFE樹脂の現れる吸熱カーブの最大ピーク(T)との温度差は、14℃であった。
【0068】
比較例1
樹脂温度を360℃にするため炉温度を380℃に変更した以外は、実施例1と同じ方法によりシートを作製し、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。また、実施例2と同様にして測定した結晶融解曲線上に現れるPTFE樹脂の吸熱カーブの最大ピークの温度差は、1℃であった。
【0069】
比較例2
樹脂温度を305℃にするため炉温度を320℃に変更した以外は、実施例1と同じ方法によりシートを比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【0070】
結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
実施例1〜5で得られたシートについては、比誘電率及び誘電正接が共に低いことが分かった。
一方、比較例1で得られたシートでは、誘電正接が2.3×10−4と高い値を示した。これは、PTFE樹脂の溶融によりPTFE樹脂の結晶化度が低下したことが原因であると考えられる。比較例2で得られたシートでは、誘電正接は0.5×10−4と低かったが、末端加工性は低かった。これは、樹脂温度が低いため、PFAが溶融しなかったことが原因と考えられる。
【実施例6】
【0073】
PFAをFEPに変え、樹脂温度を315℃にするため炉温度を330℃に変更した以外は、実施例1と同じ方法によりシートを作製し、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【実施例7】
【0074】
PFAをFEPに変え、樹脂温度を315℃にするため炉温度を330℃に変更した以外は、実施例2と同じ方法によりシートを作製し、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【実施例8】
【0075】
PFAをFEPに変え、樹脂温度を315℃にするため炉温度を330℃に変更する以外は、実施例3と同じ方法によりシートを作製し、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【実施例9】
【0076】
PFAをFEPに変え、樹脂温度を315℃にするため炉温度を330℃に変更した以外は、実施例4と同じ方法によりシートを作製し、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【実施例10】
【0077】
PFAをFEPに変え、樹脂温度を315℃にするため炉温度を330℃に変更した以外は、実施例5と同じ方法によりシートを作製し、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【0078】
比較例3
樹脂温度を360℃にするため炉温度を380℃に変更した以外は、実施例6と同じ方法によりシートを作製し、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【0079】
比較例4
樹脂温度を240℃にするため炉温度を250℃に変更した以外は、実施例6と同じ方法によりシートを作製し、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【0080】
実施例6〜10及び比較例3〜4の結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
実施例6〜10で得られた各シートでは、比誘電率及び誘電正接が共に低いことが分かった。一方、比較例3で得られたシートでは、末端加工性に優れているが、誘電正接が2.4×10−4と高い値を示した。これは、PTFE樹脂の溶融によりPTFE樹脂の結晶化度が低下したことが原因であると考えられる。比較例4では、誘電正接は0.5×10−4と低かったが、末端加工性は低かった。これは、樹脂温度が低いため、FEPが溶融しなかったことが原因と考えられる。
【実施例11】
【0083】
上述の(ii)の共凝析法により混合物を調製するため、軸芯下端にいかり型攪拌翼(円筒外径80mm、高さ50mm)を備えた攪拌機を有する直径180mmの円筒型攪拌容器(内容量5000mL)へ、実施例1で使用したTFE単独重合体粒子を含有する水性分散液1000gを添加した後、乳化重合により得たPFA粉体(数平均分子量50万、平均一次粒径0.18μm、融点312℃)約33gを添加し、更に1.5mLの硝酸を入れ、攪拌を約3分間行い、粉状物を得た。
得られた粉状物に対し、水洗浄を約1分間ずつ2回行い、130℃の温度にて10時間乾燥させた。
PTFE樹脂90質量%及びPFA10質量%からなる凝析粉末を得た。
【0084】
上記凝析粉末に、押出助剤(アイソパーG、エッソ化学社製)を、上記凝析粉末の全質量の20.5質量%の量で混合し、25℃の温度下で12時間熟成した。その後、予備成形機に入れ、3MPaの圧力下にて予備成形後、シリンダ径38mm及びマンドレル径16mmのペースト押出機(ジェニングス社製)を用いて、8mm径ビードを押し出す。更に、上記ビードを80℃の温水により60℃まで昇温し、500mm径の金属ロールで500μmの厚みに圧延して、80mm角のシートを得た。得られたシートを、200℃の温度下で5分間、乾燥炉中で乾燥させ、上記押出助剤を蒸散させた後、炉温度350℃の恒温槽に1分間入れて、熱処理を行った。
実施例1と同様の方法で、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【実施例12】
【0085】
PTFEファインパウダー(数平均分子量460万、平均粒径0.28μm、融点343℃)300g及び実施例11で用いたものと同じPFAファインパウダー約33.3gを混合して、上述の(i)の乾式混合法により混合粉末を調製した。得られる混合粉末に、押出助剤(アイソパーG、エッソ化学社製)を、上記混合粉末の全質量の20.5質量%の量で添加し、25℃の温度下で12時間熟成した。その後、予備成形機に入れ、3MPaの圧力下にて予備成形後、シリンダ径38mm及びマンドレル径16mmのペースト押出機(ジェニングス社製)を用いて、8mm径ビードを押し出す。更に、上記ビードを80℃の温水により60℃まで昇温し、500mm径の金属ロールで500μmの厚みに圧延して、80mm角のシートを得た。得られたシートを、200℃の温度下で5分間、乾燥炉中で乾燥させ、上記押出助剤を蒸散させた後、炉温度350℃の恒温槽に1分間入れて、熱処理を行った。
実施例1と同様の方法で、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【実施例13】
【0086】
PFA粉体(数平均分子量50万、平均粒径0.18μm、融点312℃)をFEP粉体(数平均分子量50万、平均一次粒径0.15μm、融点270℃)に、樹脂温度を315℃にするため炉温度を330℃に変更した以外は、実施例11と同じ方法によりシートを作製し、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【実施例14】
【0087】
PFA粉体(数平均分子量50万、平均粒径0.18μm、融点312℃)を実施例13で用いたものと同じFEPファインパウダーに代え、樹脂温度を315℃にするため炉温度を330℃に変更した以外は、実施例12と同じ方法によりシートを作製し、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【実施例15】
【0088】
PFAファインパウダーをPP粉末(商品名:フローブレン、住友精化社製)に代え、樹脂温度を220℃にするため炉温度を230℃に変更した以外は、実施例12と同じ方法によりシートを作製し、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【実施例16】
【0089】
PFAファインパウダーをPE粉末(商品名:フローセンUF、住友精化社製)に、押出助剤をアイソパーE(商品名、エッソ化学社製)に代え、乾燥温度を130℃にし、樹脂温度を170℃にするため炉温度を180℃に変更した以外は、実施例12と同じ方法によりシートを作製し、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【0090】
実施例11〜16の結果を表3に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
実施例11〜16で得られる各シートでは、比誘電率及び誘電正接が共に低く、末端加工性が良好であることが分かった。
【0093】
比較例5
上述の(ii)の共凝析法により混合物を調製するため、軸芯下端にいかり型攪拌翼(円筒外径80mm、高さ50mm)を備えた攪拌機を有する直径180mmの円筒型攪拌容器(内容量5000mL)へ、実施例1で使用したTFE単独重合体粒子を含有する水性分散液1000gを添加した後、乳化重合により得られた低分子PTFE樹脂(商品名:ルブロン、ダイキン工業社製)約43gを添加し、更に1.5mLの硝酸を入れ、攪拌を約3分間行った。
攪拌後、水洗浄を約1分間ずつ2回行い、130℃の温度下にて10時間、粉末を乾燥させた。
PTFE樹脂70質量%及び低分子PTFE樹脂30質量%からなる凝析粉末を得た。
【0094】
上記凝析粉末に、押出助剤(アイソパーG、エッソ化学社製)を、上記凝析粉末の全質量の20.5質量%の量で混合し、25℃の温度下で12時間熟成した。その後、予備成形機に入れ、3MPaの圧力下にて予備成形後、シリンダ径38mm及びマンドレル径16mmのペースト押出機(ジェニングス社製)を用いて、8mm径ビードを押し出す。更に、上記ビードを80℃の温水により60℃まで昇温し、500mm径の金属ロールで500μmの厚みに圧延して、80mm角のシートを得た。得られたシートを、200℃の温度下で5分間、乾燥炉中で乾燥させ、上記押出助剤を蒸散させた後、炉温度345℃の恒温槽に1分間入れて、熱処理を行った。
実施例1と同様の方法で、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【0095】
比較例6
PFAを0gとして、PTFEファインパウダーのみを使用した以外は実施例1と同じ方法によりシートを作製し、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【0096】
炉温度及び樹脂温度を表4に示すように変更した以外は比較例5と同様の方法で、得られた凝析粉末を成形加工してシートを作製し、実施例1と同様の方法で、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【0097】
比較例7
比較例6と同様の方法でPTFEファインパウダーのみを、炉温度及び樹脂温度を表4に示すように変更した以外は比較例5と同様の方法で、得られた凝析粉末を成形加工してシートを作製し、実施例1と同様の方法で、比誘電率と誘電正接とを測定し、末端加工性を評価した。
【0098】
比較例5〜7の結果を表4に示す。
【0099】
【表4】

【0100】
比較例5では、末端加工性があまりよくなかった。比較例6〜7について、実施例1で使用したTFE単独重合体粒子を焼成し溶融させた比較例6では、末端加工性に優れていたが、比誘電率及び誘電正接は高く、実施例1で使用したTFE単独重合体粒子を溶融させず未焼成とした比較例7で得られるシートでは、比誘電率及び誘電正接は低かったが、末端加工性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の成形体は、上述の構成よりなるので、比誘電率及び誘電正接が低く、機械的強度と末端加工性とを両立させたものである。本発明の成形体の製造方法は、上述の構成よりなるので、上記成形体を熱処理温度・管理が容易で簡便な方法により製造することができる。本発明の高周波信号伝送用製品は、本発明の成形体からなるものであるので、誘電体損を抑え、機械的強度と末端加工性とに優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と、融点が100℃以上、322℃未満である熱可塑性樹脂(B)とからなる成形体であって、
前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)は、示差走査熱量計による結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度が、340℃以上の温度に加熱した後における示差走査熱量計による結晶融解曲線上に現れる吸熱カーブの最大ピーク温度よりも3℃以上高い
ことを特徴とする成形体。
【請求項2】
熱可塑性樹脂(B)は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と前記熱可塑性樹脂(B)との合計の1〜60質量%である請求項1記載の成形体。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(B)は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、及び/又は、ポリオレフィン樹脂である請求項1又は2記載の成形体。
【請求項4】
ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)と、融点が100℃以上、322℃未満である熱可塑性樹脂(B)とを特定の樹脂温度において熱処理することからなる成形体の製造方法であって、
前記特定の樹脂温度は、前記熱可塑性樹脂(B)の融点以上、前記ポリテトラフルオロエチレン樹脂(A)の融点未満である
ことを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載の成形体からなる
ことを特徴とする高周波信号伝送用製品。
【請求項6】
プリント配線基板である請求項5記載の高周波信号伝送用製品。
【請求項7】
アンテナカバーである請求項5記載の高周波信号伝送用製品。
【請求項8】
請求項1、2又は3記載の成形体を絶縁被覆層として有する
ことを特徴とする高周波伝送ケーブル。

【国際公開番号】WO2005/019336
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513352(P2005−513352)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012211
【国際出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】