説明

成形物の製造方法

【課題】金属配線を備えた三次元の成形物を提供する。
【解決手段】転写フィルム上に、金属配線の材料を含む機能液を塗布して金属配線パターンを形成する金属配線パターン形成工程と、前記金属配線パターンが形成された前記転写フィルムを成形する成形工程と、を含み、前記成形工程では、前記機能液を固化させる前に、前記転写フィルムを成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、保護層と、着色材が含有された接着層と、基盤層と、を備えた加飾フィルムが成形されたプラスチック成形体が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−125680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のプラスチック成形体は、例えば、自動車の各種スイッチ類をまとめた操作盤(コンソール)や電子機器の外装等に用いられる。ところで、例えば、金属配線が形成されたフィルム部材を成形しようとする場合、フィルム部材とともに、金属配線も伸ばされる。このとき、金属配線に損傷や断線が発生してしまう、という課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかる成形物の製造方法は、転写フィルム上に、金属配線の材料を含む機能液を塗布して金属配線パターンを形成する金属配線パターン形成工程と、前記金属配線パターンが形成された前記転写フィルムを成形する成形工程と、を含み、前記成形工程では、前記機能液を固化させる前に、前記転写フィルムを成形することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、機能液が固化する前に成形が行われる。すなわち、金属配線パターン自体が軟らかい状態で伸ばされる(成形される)。このため、金属配線パターンの損傷や欠損を防止することができる。これにより、三次元の成形物において金属配線の損傷や断線を防止することができる。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかる成形物の製造方法の前記成形工程では、前記転写フィルムを成形するとともに、前記金属配線パターン側にモールド樹脂層を形成し、その後、前記転写フィルムと前記金属配線パターンとを剥離することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、フィルム転写(インモールド転写)により、損傷等の無い優れた金属配線を有する三次元の成形物を提供することができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例にかかる成形物の製造方法の前記成形工程では、前記転写フィルムを成形するとともに、前記転写フィルムに塗布された前記機能液を固化させることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、転写フィルムの成形と同期して機能液を固化させることができ、工数を簡略化することができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例にかかる成形物の製造方法では、前記成形工程の後に、前記機能液を固化させることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、成形時間を短縮化させることができる。
【0014】
[適用例5]上記適用例にかかる成形物の製造方法の前記金属配線パターン形成工程では、前記転写フィルムが成形される成形温度で融着する前記機能液で前記金属配線パターンを形成することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、機能液は、転写フィルムが成形される成形温度で融着するため、機能液が軟らかい状態で成形することができる。これにより、金属配線の損傷や断線を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】フィルム成形物の構成を示す断面図。
【図2】フィルム成形物の製造方法を示す工程図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図においては、各層や各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各層や各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
【0018】
(成形物の構成)
まず、フィルム成形物の構成について説明する。図1は、成形物の構成を示す断面図である。図1に示すように、成形物1は、金属配線層15と、接着層13と、モールド樹脂層22と、を備えている。
【0019】
金属配線層15は、金属配線が形成された層である。金属配線層15は、例えば、銀、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、イリジウム、鉄、錫、コバルト、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、タングステン、インジウム等の金属、あるいはこれらの合金から形成される。
【0020】
モールド樹脂層22は、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)樹脂、AS(アクリロニトリル・スチレン共重合体)樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂を加熱熔融して液状乃至流動状態となったもの、或いは二液硬化型、触媒硬化型の樹脂、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の未硬化液等で構成されている。
【0021】
(成形物の製造方法)
次に、成形物の製造方法について説明する。図2は、成形物の製造方法を示す工程図である。図2を示すように、成形物の製造方法は、転写フィルム上に、金属配線の材料を含む機能液を塗布して金属配線パターンを形成する金属配線パターン形成工程と、金属配線パターンが形成された転写フィルムを成形する成形工程と、を含み、成形工程では、機能液を固化させる前に、転写フィルムを成形するものである。さらに、成形工程では、転写フィルムを成形するとともに、金属配線パターン側にモールド樹脂層を形成し、その後、転写フィルムと金属配線パターンとを剥離するものである。以下、詳細に説明する。
【0022】
まず、金属配線パターン形成工程では、図2(a)に示すように、転写フィルム11上に金属配線パターン15aを形成する。転写フィルム11は、例えば、リール・トゥ・リールの形態を取り得る。転写フィルム11は、ベースフィルム11aとベースフィルム11a上に形成された剥離層11bで構成されている。ベースフィルム11aは、例えば、熱可塑性樹脂から構成される。転写フィルム11は、例えば、10〜500μm程度である。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン、AS(アクリロニトリル−スチレン共重合体)樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等の1種単独或いは2種以上の混合物等が用いられる。また、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)を用いてもよい。
【0023】
そして、例えば、インクジェット法を用いて金属配線パターン15aを形成する。この場合、転写フィルム11の剥離層11bに向けて、導電性微粒子を含む機能液を液滴として吐出し、転写フィルム11(剥離層11b)上に機能液を塗布する。導電性微粒子は、数nm〜数十nmの粒径を有し、例えば銀、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、イリジウム、鉄、錫、コバルト、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、タングステン、インジウム等の金属、あるいはこれらの合金である。また、転写フィルム11が成形される成形温度で融着する機能液で金属配線パターン15aを形成する。従って、次工程における成形工程において、例えば、成形温度が150〜180℃の場合には、150〜180℃の融着温度を有する機能液を用いればよい。さらに、金属配線パターン形成工程では、網の目形状の金属配線パターン15aを形成してもよい。なお、金属配線パターン15aの形成方法は、インクジェット法に限定されず、例えば、グラビア印刷、活版印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷等を適宜適用することができる。また必要に応じて、機能液の融着温度より低い温度で機能液を乾燥させて、転写フィルム11上に形成された金属配線パターンの流動性を低下させてもよい。
【0024】
その後、金属配線パターン15a上に、接着剤13aを塗布する。以上により、フィルム部材1aが形成される。
【0025】
次いで、成形工程では、フィルム部材1aを成形する。本実施形態では、フィルム転写(インモールド転写)を用いる。
【0026】
まず、図2(b)に示すように、射出成形用の第1金型31aとモールド樹脂注入口31cを有する第2金型31bとの間にフィルム部材1aを搬送する。本実施形態では、転写フィルム11が第1金型31a側に対向するように搬送する。
【0027】
次いで、図2(c)に示すように、フィルム部材1aを第1金型31aと第2金型31bとで挟み込む(クランプする)。ここで、金属配線パターン15bは、転写フィルム11とともに伸ばされるが、金属配線パターン15b(15a)は、機能液が固化される前に成形されるため、伸びやすい。さらに、成形温度で融着する機能液で形成されているため、金属配線パターン15bは軟化した状態のままで伸ばされる。このため、転写フィルム11の伸びに追従し、欠損や切断の無い金属配線パターン15bを形成することができる。その後、モールド樹脂注入口31cからモールド樹脂22aを注入する。そして、モールド樹脂22aが固化されるまでクランプ状態を維持する。このとき、注入されたモールド樹脂22aを固化するとともに、金属配線パターン15bの機能液を固化させる。ここで言う機能液の固化とは、機能液に含まれる導電性微粒子同士が融着している状態のことで、機能液固化させる前とは導電性微粒子が未融着の状態のことを示している。
【0028】
次いで、注入されたモールド樹脂22aが固化され後、図2(d)に示すように、第1金型31aと第2金型31bとを開放させる。そうすると、転写フィルム11の剥離層11bと金属配線層15との間で剥離され、成形物1が形成される。
【0029】
なお、上記実施形態では、成形工程中に機能液を固化(融着)させたが、成形工程の後に、加熱して、機能液を固化(融着)させてもよく、製造条件や製造効率等を考慮し、適宜行うことができる。
【0030】
従って、本実施形態によれば、以下に示す効果がある。
【0031】
成形工程では、金属配線パターン15aの機能液が固化される前にフィルム部材1aが成形される。すなわち、機能液が軟らかい状態で成形される。これにより、金属配線パターン15aは、転写フィルム11の伸びに倣って伸びるため、欠損や断線の無い金属配線を有する三次元の成形物1を提供することができる。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、上述した実施形態に種々の変更や改良などを加えることが可能である。変形例を以下に述べる。
【0033】
(変形例1)上記実施形態の成形物1は、金属配線層15とモールド樹脂層22から構成されたが、さらに、加飾層を備えてもよい。このようにすれば、加飾層と金属配線とを備えた三次元成形物を提供することができる。特に、自動車等の操作盤に用いた場合には、操作盤の表面に加飾層を配置し、裏面に金属配線を配置すれば、電気配線を省くことができ、設計の自由度を高めることができる。
【0034】
(変形例2)金属配線層15を、電気配線等として適用する他、例えば、アンテナや電磁波シールド等に適宜適用することができる。このようにしても、配線の欠損や切断を防止し、品質の高いアンテナ部材や電磁波シールド部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…成形物、1a…フィルム部材、11…転写フィルム、11a…ベースフィルム、11b…剥離層、13…接着層、13a…接着剤、15…金属配線層、15a,15b…金属配線パターン、22…モールド樹脂層、22a…モールド樹脂、31a…第1金型、31b…第2金型、31c…モールド樹脂注入口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写フィルム上に、金属配線の材料を含む機能液を塗布して金属配線パターンを形成する金属配線パターン形成工程と、
前記金属配線パターンが形成された前記転写フィルムを成形する成形工程と、を含み、
前記成形工程では、
前記機能液を固化させる前に、前記転写フィルムを成形することを特徴とする成形物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成形物の製造方法において、
前記成形工程では、
前記転写フィルムを成形するとともに、前記金属配線パターン側にモールド樹脂層を形成し、その後、前記転写フィルムと前記金属配線パターンとを剥離することを特徴とする成形物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成形物の製造方法において、
前記成形工程では、
前記転写フィルムを成形するとともに、前記転写フィルムに塗布された前記機能液を固化させることを特徴とする成形物の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の成形物の製造方法において、
前記成形工程の後に、
前記機能液を固化させることを特徴とする成形物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の成形物の製造方法において、
前記金属配線パターン形成工程では、
前記転写フィルムが成形される成形温度で融着する前記機能液で前記金属配線パターンを形成することを特徴とする成形物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−192540(P2012−192540A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56261(P2011−56261)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】