説明

成長因子の組合せを使用する骨髄幹細胞及び間葉系幹細胞の骨形成分化

本発明は、特にヒト血漿又は血清と、FGF及びTGFB成長因子とを使用する、ヒト骨髄幹細胞(BMSC)又は間葉系幹細胞(MSC)を骨形成分化させる方法に関する。本発明はまた、そうして得られた細胞及び細胞集団と、該細胞及び細胞集団を含むさらなる製造物と、骨療法におけるその使用とを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨髄幹細胞(BMSC)及び間葉系幹細胞(MSC)を骨形成分化させる方法と、上記方法により得ることができる細胞及び細胞集団と、特に骨療法の分野におけるその使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
骨形成分化することができる幹細胞、又は骨形成分化にコミットした細胞の移植は、特に新たな骨の産生を必要とするような、骨関連疾患の治療のための有望な手段である。
【0003】
骨髄幹細胞(BMSC)及び間葉系幹細胞(MSC)は、骨障害を治療するために以前から使用されている(非特許文献1)。しかし、このような比較的未分化の幹細胞を移植することはできるが、それらの幹細胞は骨形成系列にコミットしていないため、そうして移植した幹細胞のかなりの割合が、所望の骨組織の形成に結局寄与しないことがある。
【0004】
さらに、骨髄又は他の供給源組織から得ることができるこのような幹細胞の量は不満足なものであることが多く、グルココルチコイドの使用、若しくはアルコールの乱用に起因する、又は遺伝的原因による等の様々な状況でさらに低減することさえあり得る。
【0005】
特許文献1は、単離したBMSC又はMSCのin vitroでの十分な増殖を達成し、骨芽細胞の表現型を既に示している細胞を産生する方法を開示したものである。上記方法では、ヒトBMSC又はMSCを、血清又は血漿、及び塩基性線維芽細胞成長因子(FGF)の存在下で培養した。特許文献1は、骨芽細胞を得るためのFGF及びTGF成長因子の特定の組合せを使用することを教示しておらず、その何らかの利点の示唆もしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/093431号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Gangji et al., 2005 Expert Opin Biol Ther 5: 437-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
BMSC及びMSCから有用な骨芽前駆細胞(osteoprogenitors)、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞を産生する、さらに単純で且つ信頼性を有する方法に対する必要性が存在する。大幅な細胞増殖を達成する、及び/又はさらなる有利な特性を有する細胞、例えば同種被験体における組織拒絶反応をあまり引き起こさない細胞等を産生する場合等に、このような方法が特に望まれている。
【0009】
このような方法と、それにより得ることができる骨芽細胞表現型細胞とを提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、成体幹細胞の、より具体的には骨髄幹細胞(BMSC)及び間葉系幹細胞(MSC)の増殖可能性を、血清又は血漿、線維芽細胞成長因子(FGF)及び形質転換成長因子β(TGFB)の存在下で上記細胞を培養すると、骨形成分化により大幅に増強することができ、それにより有用な骨芽前駆細胞又は骨芽細胞表現型細胞、及び細胞集団の量の増大を達成することができることを見出した。
【0011】
したがって、一態様では本発明は、in vitro又はex vivoでヒト骨髄幹細胞(BMSC)又はヒト間葉系幹細胞(MSC)から骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞を得る方法であって、上記BMSC又はMSCと、ヒト血漿又は血清、線維芽細胞成長因子(FGF)、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体、及び形質転換成長因子β(TGFB)、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体とを接触させることを含む、方法を提供する。
【0012】
本発明の方法は、処理した幹細胞のかなりの割合、例えば大部分を、骨芽前駆細胞又は骨芽細胞表現型細胞へと分化させることができる。したがって一態様では、本発明の方法は、骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞それ自体を得るために利用することができる。
【0013】
しかし、本発明の方法は、概して、骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞のかなりの部分、例えば大部分を含む細胞集団を産生することができると理解すべきである。このような細胞集団は、さらなる細胞型を任意に含み得る。
【0014】
したがって一態様では、本発明は、in vitro又はex vivoでヒトBMSC又はヒトMSCから骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団を得る方法であって、上記BMSC又はMSCと、ヒト血漿又は血清、FGF、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体、及びTGFB、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体とを接触させることを含む、方法を意図する。
【0015】
本発明の方法は、多数の移植用の骨形成細胞を生成することを可能にする。このことは、出発BMSC又はMSC細胞を得るために被験体から取り出すことが必要な組織の量をさらに低減することを可能にする。このことは同様に、BMSC又はMSC細胞の数が減少した被験体から十分な数の骨形成細胞を得ることを可能にする。また、本方法は、分化した細胞を患者に移植することができる場合に時間を短縮することを可能にするので、より速い治療法をもたらす。
【0016】
一実施の形態では、上述の本発明の方法は、
(a)BMSC又はMSCを含むヒト被験体の生体試料から細胞を回収する工程、
(b)必要に応じて、(a)において回収した細胞から単核細胞を単離する工程、
(c)ヒト血漿又は血清、FGF、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体、及びTGFB、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体を含む培地に(a)又は(b)の細胞を添加すると共に、細胞を基板表面に接着させるような細胞培地混合物を培養する工程、
(d)非接着物を除去すると共に、骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞様細胞、又は骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞様細胞を含む細胞集団が得られるような、(c)に規定される培地中の接着細胞をさらに培養する工程、
を含み得る。
【0017】
上述の方法のいずれかの一実施の形態では、BMSC又はMSC細胞を、同時に(concurrently)、すなわち同時に(simultaneously)、FGF及びTGFBに、又はそれらのいずれかの生物学的に活性な変異体若しくは誘導体に、曝してもよい。
【0018】
上述の方法のいずれかのさらなる実施の形態では、ヒト血漿若しくは血清はBMSC若しくはMSC細胞に対して自家性(autologous)であってもよく、又はヒト血漿若しくは血清はBMSC若しくはMSC細胞と同種(allogeneic)(相同(homologous))であってもよい。
【0019】
上述の方法のいずれかのさらなる一実施の形態では、非ヒト動物材料(例えば血清成分等)は、BMSC又はMSC細胞の培養に使用されない。このことは、ヒトにおける培養した細胞の異種(xenogenic)拒絶反応のリスクを減少させ、病原体による患者のコンタミネーションのリスクを低減する。
【0020】
上述の方法のさらなる好ましい実施の形態は、単独で又は組合せで本発明の細胞及び細胞集団の提供のさらなる基礎をなす、さらなる特徴、例えばこれらに限定するものではないが、インキュベーション時間、継代、成分量等に関する。
【0021】
本発明者らは驚くべきことに、本発明の方法を使用して得られる骨芽細胞表現型細胞におけるHLA−DR主要組織適合性複合体の発現が、特許文献1の方法を適用したときに観察されるHLA−DR発現よりも顕著に低いことをさらに見出した。このようなより低いHLA−DR発現は、本明細書において得られる骨芽細胞表現型細胞の免疫特権(immunoprivileged)特性を増強することができることにより、このような細胞の拒絶反応のリスクを低減し、同種患者におけるより広範なその適用も可能にする。
【0022】
したがって本発明は、従来技術に対する新規且つ有利な特性を示す骨芽細胞表現型細胞も提供する。したがって複数の態様では、本発明は、本発明の方法を使用して得ることができる、又は直接得られる、骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞と、骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団とを提供する。
【0023】
本発明者らはまた、本明細書で達成した骨芽細胞を分析して、治療法において、特に骨移植療法において具体的な優位性をもたらすことができる、新たな細胞型と該新たな細胞型を含む細胞集団とを規定した。
【0024】
したがって一態様では、本発明は、ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞と、ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団とであって、上記細胞が、(1)CD90、CD105、CD73、CD63、CD166、及びアルカリホスファターゼ(ALP)、より具体的には骨−肝臓−腎臓型のALPの発現を有し、(2)CD45、CD14、CD19を発現せず、且つ(3)25%未満の細胞、好ましくは20%未満の細胞、及びさらにより好ましくは15%未満の細胞、例えば10%未満の細胞、又は7%未満の細胞が、HLA−DRを発現する(すなわち、かなりの割合の細胞がHLA−DRを発現しない)ことを特徴とする、ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞と、ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団とを提供する。
【0025】
上述したように、本発明は、本明細書で規定される骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団も意図する。代表的な細胞集団は、少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、例えば少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、例えば少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%の、本明細書で規定される骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞を含み得る。例えば細胞集団は、50%未満、好ましくは40%未満、さらにより好ましくは30%未満、さらにより好ましくは20%未満、さらにより好ましくは10%未満、例えば7%未満、5%未満又は2%未満の、本明細書で規定される骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞以外の細胞型を含み得る。
【0026】
関連する態様は、骨関連障害における、本発明により教示される骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞の、又は骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団の治療的使用、及び上記細胞又は細胞集団を含む対応する医薬品製剤に関する。
【0027】
ここで、本発明のこれらの特徴と、他の特徴とを、以下で、及び添付の特許請求の範囲でさらに説明し、非限定的な例により例示する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】血漿と10ng/mlのTGFB−1とを含有する培地、又は血漿と10ng/mlのFGF2及び10ng/mlのTGFb−1の両方とを含有する培地における骨芽細胞初代培養収率の箱ヒゲ図による比較(n=4)を示す図である。
【図2A】10ng/mlのTGFb−1を添加した培地、対添加していない培地における骨芽細胞培養収率の比較を示す図である。(A)初代培養、(B)二次培養、(C)全体(global)。
【図2B】同上
【図2C】同上
【図3】マトリクスアリザリンレッド染色によりアッセイした、(A)FGF2のみ、又は(B)FGF2及びTGFb−1の存在下で培養した細胞による石灰化を示す図である。
【図4】PHAにより刺激したPBMCに対する、TGFb−1/FGF2において培養した細胞の免疫抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書中で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上他に明確な指示のない限り、単数及び複数の両方の指示対象を含む。例えば「細胞(a
cell)」は、1つのというより1つ又は複数の細胞を表す。
【0030】
本明細書中で使用される場合、「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「含む(comprised of)」という用語は、「含む(including)」、「含む(includes)」、又は「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包括的又は無制限であり、付加的な、記載されていない成員、要素又は方法工程を除外するものではない。
【0031】
端点による数値範囲の記載は、その範囲内に含まれる全ての数及び分数、並びに記載された端点を含む。
【0032】
本明細書中で使用される場合、「約(about)」という用語は、パラメータ、量、時間幅(temporal duration)等の測定可能な値を表す場合には、特定の値の、及び特定の値から±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、さらにより好ましくは±0.1%以下の変動を、開示する発明において実施するのにこのような変動が適切である限りにおいて、包含することを意味する。修飾語「約」が表す値自体も、具体的に且つ好ましく開示されると理解すべきである。
【0033】
本明細書に引用される全ての文献は、その全体が参照により本明細書中に援用される。特に、本明細書中で具体的に言及される全ての文献の教示が参照により援用される。
【0034】
特に規定のない限り、本発明を開示する際に使用される、技術用語及び科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野の通常の技術を有する者(当業者)によって一般的に理解される意味を有する。
【0035】
1.発明の方法
発明の概要の節において詳述したように、一態様では、本発明は、in vitro又はex vivoで、ヒト骨髄幹細胞から、骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞を得る方法と、骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団を得る方法とに関する。
【0036】
本明細書中で使用される場合、骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞の記載は、概して、骨材料又は骨マトリクスの形成に寄与することができる、又はそれに寄与することができる細胞へと発生することができる細胞を包含する。特に、本発明の方法は、本発明者らが実験的に実証したように、治療状況において骨形成を回復させるのに有用な細胞及び細胞集団をもたらす。したがって、骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞の記載は、任意のこのような有用な、本発明の方法から得られる骨形成系列の細胞を包含することを望むものと解釈するべきである。
【0037】
骨髄は、長骨の髄腔、幾つかのハバース管、及び海綿状骨又は海綿質骨の骨梁の間の空間を占有する軟組織である。この用語は、限定するものではないが、特に、若年期の全ての骨において、及び成人期の限定された部位において(例えば海綿質骨において)見出される赤色骨髄と、黄色骨髄とを包含する。
【0038】
総じて、骨髄は、とりわけ、造血幹細胞、赤血球及び白血球、並びにそれらの前駆体、間葉系幹細胞(MSC)、間質細胞、及びそれらの前駆体、並びに線維芽細胞、網状赤血球、脂肪細胞を含む細胞群、並びに「間質」と呼ばれる結合組織ネットワークを形成する細胞を含む複合組織である。
【0039】
骨髄細胞は、マウス及びヒトの両方において、全身移植後、多くの多様な組織に寄与する。この能力は、例えば、造血幹細胞、間葉系幹細胞及び/又は髄多能性幹細胞等の、骨髄中に存在する複数の幹細胞の活性を反映し得る。
【0040】
したがって、本明細書中で使用される場合、「骨髄幹細胞」又は「BMSC」という用語は、骨髄中に存在する、特に骨髄試料中に存在する、又は骨髄試料から(部分的に)単離した、任意の成体幹細胞を表す。骨髄(BMSC)試料は、例えば、被験体の腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊椎、肋骨、又は他の髄空間から得ることができる。BMSCという用語は、BMSCの子孫、例えば、被験体の試料から得られるBMSCのin vitro又はex vivoでの増殖により得られる子孫も包含する。
【0041】
特定の成分に関して「単離する(isolating)」という用語は、該特定の成分が単離される組成物の少なくとも1つの他の成分からその成分を分離することを示す。任意の細胞集団との関係で、本明細書中で使用される場合、「単離(isolated)」という用語は、このような細胞集団が動物又はヒトの身体の一部分を形成しないことも示唆する。
【0042】
「幹細胞」という用語は、概して、未だ特殊化しておらず(unspecialised)又は比較的特殊化の程度が低く且つ増殖能を有する細胞であって、自己再生することができ、すなわち分化せずに増殖することができ、自身又はその子孫が少なくとも1つの比較的特殊化の程度の高い細胞型を生じることができる、細胞を表す。この用語は、実質的に無制限に自己再生することができる幹細胞、すなわち、幹細胞の子孫又は少なくともその一部分が、母幹細胞の、未だ特殊化していない又は比較的特殊化の程度が低い表現型、分化可能性、及び増殖能力を実質的に保持している幹細胞と、限定的な自己再生を示す幹細胞、すなわち、子孫又はその一部分のさらに増殖及び/又は分化する能力が、母細胞と比較して明らかに低減している幹細胞とを包含する。例えば限定するものではないが、幹細胞は、1つ又は複数の系列に沿って分化して、増大的に比較的特殊化の程度の高い細胞を産生することができる子孫(このような子孫、及び/又は増大的に比較的特殊化の程度の高い細胞は、それ自体が本明細書で規定される幹細胞であり得る)、又はさらに、終末的に分化した細胞、すなわち完全に特殊化した細胞(有糸分裂後のものであり得る)を産生することができる子孫を生じることができる。
【0043】
本明細書中で使用される場合、「成体幹細胞」という用語は、胎生期の、又は出生後の生物中に存在する、又はそれらから得た(例えばそれらから単離した)幹細胞を表す。
【0044】
本発明による好ましい骨髄幹細胞は、少なくとも骨形成(骨)系列の細胞、例えば骨形成細胞及び/又は骨芽前駆細胞及び/又は前骨芽細胞及び/又は骨芽細胞及び/又は骨細胞等を生成する可能性を有する。
【0045】
好ましくは、少なくとも幾つかの本発明による骨髄幹細胞は、本発明の方法から得られる細胞集団に含まれるさらなる細胞、例えば内皮系列の細胞、例えば内皮前駆細胞及び/又は内皮細胞等を生成する可能性も有し得る。
【0046】
限定するものではないが代表的な、少なくとも骨形成系列の細胞を生成する可能性を有するBMSCの種類は、間葉系幹細胞である。本明細書中で使用される場合、「間葉系幹細胞」又は「MSC」という用語は、間葉系系列の、典型的には2つ以上の間葉系系列、例えば骨細胞(骨)系列、軟骨細胞(軟骨)系列、筋細胞(筋肉)系列、腱細胞(tendonocytic)(腱)系列、線維芽細胞(結合組織)系列、脂肪細胞(脂肪)系列及び間質生成(stromogenic)(髄間質)系列の細胞を生成することができる、成体の、中胚葉由来の幹細胞を表す。MSCは、例えば骨髄、血液、臍帯、胎盤、胎生卵黄嚢、皮膚(真皮)、具体的には胎生期及び青年期の皮膚、骨膜並びに脂肪組織から単離することができる。ヒトMSC、その単離、in vitroでの増殖、及び分化は、例えば米国特許第5,486,359号明細書、米国特許第5,811,094号明細書、米国特許第5,736,396号明細書、米国特許第5,837,539号明細書又は米国特許第5,827,740号明細書に記載されている。当該技術分野で説明されており、且つ当該技術分野で説明されている任意の方法により単離される任意のMSCは、このようなMSCが少なくとも骨細胞(骨)系列の細胞を生成することができるならば、本発明において好適であり得る。
【0047】
MSCという用語は、MSCの子孫、例えば動物又はヒト被験体の生体試料から得られるMSCのin vitro又はex vivoでの増殖により得られる子孫も包含する。
【0048】
潜在的には、限定するものではないが、少なくとも幾つかのMSCも、本発明の方法から得られる細胞集団に含まれるさらなる細胞を生成することができることがある。
【0049】
実施例において示すように、本発明の方法は、特定の培養条件下で基板表面に接着するBMSC細胞を選択することを伴う。基板表面、例えばプラスチック表面に接着することができる(単核)細胞を選択することにより、骨髄(又は他の供給源)からMSCを単離することができることは、当該技術分野で既知である。したがって、いかなる仮説に限定するものでもないが、本発明者らは、本発明の方法においてはMSCが、BMSCから骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞を得ることに、少なくとも部分的に寄与し得ると推測している。
【0050】
したがって、一態様では、本発明は、in vitro又はex vivoでヒト間葉系幹細胞(MSC)から骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞を得る方法であって、上記MSC細胞と、ヒト血漿又は血清、FGF、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体、及びTGFB、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体とを接触させることを含む、方法も意図する。
【0051】
MSCは、生体試料中に、例えばBMSCを含む試料中に含まれることがあり、又は当該技術分野で既知のように少なくとも部分的に該試料から単離することができる。さらに、MSCは、骨髄から、又は骨髄以外のMSCを含む任意の好適な供給源、例えば血液、臍帯、胎盤、胎生卵黄嚢、皮膚(真皮)、具体的には胎生期及び青年期の皮膚、骨膜並びに脂肪組織から、少なくとも部分的に単離することができる。
【0052】
BMSC細胞は、任意の及び全てのそのサブタイプ、例えばこれらに限定するものではないが、Colter et al. 2000 (PNAS 97(7):
3213-8)において説明されている「迅速に自己再生する細胞」RS−1又はRS−2;Goodellet al. 1997 (Nat Med 3(12):
1337-45)により説明されている「サイドポピュレーション」(SP)細胞;その密度が低いこと(例えば密度勾配遠心分離による)、非接着性、及び骨形成マーカーの発現のレベルが低いことにより当初同定されている骨形成前駆体(OP)細胞(Longet
al. 1995. J Clin Invest. 95(2): 881-7;米国特許第5,972,703号明細書により説明されている);Krauseet
al. 2001 (Cell 105: 369-377)及びDominici et al. 2004. (PNAS 101 (32): 11761-6)により説明されている造血系列及び非造血系列の両方の細胞を生成することができる原始的前駆体細胞;その他を包含することを意図する。
【0053】
骨髄幹細胞集団の複雑性を考慮すると、本発明は、1つ又は複数の特定のBMSC型に限定されるものと考えるべきではないことを理解すべきである。むしろ、本発明の方法においては、例えば上で説明したような1つ又は複数のBMSC細胞型が、骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を得ることに、又は骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団を得ることに、おそらく様々な程度で寄与し得る。一方、本発明の方法が、特定のBMSC集団、例えば他のBMSC集団から少なくとも部分的に単離したMSCも利用し得ることを理解すべきである。
【0054】
「in vitro」という用語は概して、動物又はヒトの身体の外側又は外部を示す。「ex vivo」という用語は典型的には、動物又はヒトの身体から取り出し、身体の外側で、例えば培養容器中で維持した又は増殖させた組織又は細胞を表す。本明細書中で使用される場合、「in vitro」という用語は、「ex vivo」を含むと理解すべきである。
【0055】
一実施形態では、BMSC又はMSCは、被験体の生体試料から得られる。
【0056】
本明細書中で使用される場合、「被験体」という用語は、動物を、より具体的には非ヒト哺乳動物及びヒト個体を表す。非ヒト動物被験体は、動物の出生前の形態、例えば胚又は胎児等も含み得る。ヒト被験体は、また、好ましくは胚ではなく、胎児を含み得る。ヒト被験体が好ましい。
【0057】
本明細書中で使用される場合、「生体試料」又は「試料」という用語は、概して、生物源から、例えば個体、器官、組織又は細胞培養物等から得られる試料を表す。動物又はヒト被験体の生体試料は、動物又はヒト被験体から取り出され、その細胞を含む試料を表す。動物又はヒト被験体の生体試料は、1つ又は複数の組織型と、1つ又は複数の組織型の細胞とを含み得る。動物又はヒト被験体の生体試料を得る方法は、例えば組織生検又は血液採取のように、当該技術分野で既知である。
【0058】
被験体の有用な生体試料は、そのBMSC又はMSCを含む。このような試料は、典型的には、被験体の骨髄から、例えば腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊椎、肋骨、又は他の髄空間から得ることができる。MSCを含む別の有用な生体試料は、例えば被験体の血液、臍帯、胎盤、胎生卵黄嚢、皮膚(真皮)、具体的には胎生期及び青年期の皮膚、骨膜、又は脂肪組織から得ることができる。
【0059】
一実施形態では、BMSC又はMSCは健康な被験体から得ることができ、上記BMSC又はMSCから得られる骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞の機能性を確保するのに役立ち得る。
【0060】
別の実施形態では、BMSC又はMSCは、骨関連障害のリスクを有し又は該障害を有し、そのため本発明の方法により上記BMSC又はMSCから得られる骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞の投与の利益を特に受け得る被験体から得ることができる。
【0061】
本明細書中で使用される場合、「骨関連障害」という用語は、その治療が、障害を有する被験体への骨形成系列細胞、例えば骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞の投与の利益を受け得る、任意の種類の骨疾患を表す。特に、このような障害は、例えば骨形成の減少、又は過剰な骨吸収により、骨中に存在する骨芽細胞又は骨細胞の数、生存度又は機能の減少、被験体中の骨量の減少、骨痩せ、骨の強度又は弾性の損失等により、特徴づけることができる。
【0062】
例えば、しかし限定するものではないが、本発明の骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞の投与の利益を受けることができる骨関連障害は、局所性又は全身性の障害、例えば任意の種類の骨粗鬆症又は骨減少症、例えば原発性、閉経後、老人性、コルチコイド誘発性、任意の二次性、単一性又は多部位性骨壊死、任意の種類の骨折、例えば非癒合、変形癒合、遅延癒合骨折又は圧迫、骨融合(例えば脊髄融合及び再建)を必要とする病状、顎顔面骨折、例えば外傷性傷害又は癌外科手術後の骨再構築、頭蓋顔面骨再構築、骨形成不全症、溶骨性骨癌、パジェット病、内分泌学的障害、低リン酸血症(hypophsophatemia)、低カルシウム血症、腎性骨異栄養症、骨軟化症、無形成骨症、間接リウマチ、副甲状腺機能亢進症、原発性副甲状腺機能亢進症、二次性副甲状腺機能亢進症、歯周疾患、ゴーハム病(Gorham-Stout
disease)並びにマクキューン・オールブライト症候群を含み得る。
【0063】
本発明の方法では、BMSC又はMSCを、ヒト血漿又は血清、FGF、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体、及びTGFB、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体と接触させる。
【0064】
本明細書中で使用される場合、「接触させる(contacting)」という用語は、直接的に又は間接的に、1つ又は複数の分子、成分又は材料を別のものと一緒にし、それによりそれらの間の相互作用を促進することを意味する。典型的には、成長因子、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体、及びヒト血漿又は血清は、BMSCを培養している培地中にそれらを入れることによりBMSCと接触させることができる。
【0065】
当業者は、ヒト血漿及び血清が、1つ又は複数の成長因子、サイトカイン又はホルモンを含み得る複雑な生物学的組成物であることを理解している。したがって、記載の成長因子FGF及びTGFB、又はそれらのそれぞれの生物学的に活性な変異体又は誘導体が、血漿又は血清に加えて、すなわちその外から又はその補足として、提供されることが意図される。
【0066】
さらなる一実施形態では、BMSC又はMSCは、FGF及びTGFBに加えて、1つ又は複数の付加的な、FGF及びTFGB以外の外から添加した成長因子と接触させることができる。本明細書中で使用される場合、「成長因子」という用語は、様々な細胞型の増殖、成長、分化、生存及び/又は移動に影響を与える生物学的に活性な物質であって、単独で又は他の物質により変調されて、生物中で発生上の、形態上の、及び機能的な変化をもたらし得る、物質を表す。成長因子は、典型的には成長因子に応答する細胞中に存在する受容体(例えば表面又は細胞内の受容体)に、リガンドとして結合することにより作用し得る。本明細書における成長因子は、特に、1つ又は複数のポリペプチド鎖を含むタンパク質性の実体(entity)であり得る。
【0067】
好ましい一実施形態では、本発明の方法で使用される任意の1つ若しくは複数の又は全ての成長因子(本明細書中で使用される場合、成長因子への一般的な言及は、FGF及びTGFB成長因子と、任意の1つ又は複数のさらなる成長因子とを特に包含する)は、ヒト成長因子である。本明細書中で使用される場合、「ヒト成長因子」という用語は、天然のヒト成長因子と実質的に同じ成長因子を表す。例えば、成長因子がタンパク質性の実体である場合、その構成ペプチド(複数可)又はポリペプチド(複数可)は、天然のヒト成長因子と同一の一次アミノ酸配列を有し得る。本発明の方法におけるヒト成長因子はヒト細胞の機能に対する望ましい効果を誘発すると予想されるので、このような成長因子の使用が好ましい。
【0068】
「天然」という用語は、人間により人工的に作製されたものと区別することができるものとして、自然に見出すことができる対象又は実体を説明するために使用される。例えば、自然の供給源から単離することができ、実験室において人間による意図的な改変がなされていない、生物中に存在するポリペプチド配列は、天然のものである。特定の実体を、例えばポリペプチド又はタンパク質を表す場合、この用語は、例えば種及び個体の間の通常の変動により、自然に発生するその全ての形態及び変異体を包含する。例えば、タンパク質性成長因子を表す場合、「天然」という用語は、種の間の遺伝的な相違、及び個体間の通常の対立遺伝子の変動による、その構成ペプチド(複数可)又はポリペプチド(複数可)の一次配列に差異を有する成長因子を包含する。
【0069】
本明細書中で使用される場合、「FGF」という用語は、成長因子の線維芽細胞成長因子(FGF)ファミリーの任意の及び全ての成員を包含する。特に、本発明の方法で使用されるFGFは、FGF−1、FGF−2及びFGF−3から選択することができ、より好ましくはFGF−2である。
【0070】
酸性線維芽細胞成長因子(FGF−1)は、一般的に、ヘパリン結合性成長因子1(HBGF−1)、aFGF、β−内皮細胞成長因子又はECGF−βとしても既知である。代表的なヒトFGF−1は、Uniprot/Swissprot(http://www.expasy.org/)のアクセッション番号P05230で注釈される一次アミノ酸配列を有するFGF−1を含むがこれらに限定されない。当業者は、上記配列が前駆体FGF−1のものであり、成熟FGF−1からプロセシングにより除かれる部分を含み得ることを理解することができる。代表的なヒトFGF−1は、とりわけJayeet
al. 1986 (Science 233: 541-545)及びHarper et al. 1986 (Biochemistry 25:4097-4103)によっても説明されている。
【0071】
塩基性線維芽細胞成長因子は、一般的に、FGF−b、FGF−2、BFGF、HBGH−2、プロスタトロピン(prostatropin)又はヘパリン結合性成長因子2前駆体(HBGF−2)としても既知である。代表的なヒトFGF−2は、Uniprot/Swissprotのアクセッション番号P09038で注釈される一次アミノ酸配列を有するFGF−2を含むがこれらに限定されない。当業者は、上記配列が前駆体FGF−2のものであり、成熟FGF−2からプロセシングにより除かれる部分を含み得ることを理解することができる。代表的なヒトFGF−2は、とりわけAbrahamet
al. 1986 (EMBO J 5: 2523-8)及びKurokawa et al. 1987 (FEBS Lett 213: 189-94)によっても説明されている。
【0072】
線維芽細胞成長因子3(FGF−3)は、一般的に、INT−2原癌遺伝子タンパク質又はHBGF−3としても既知である。代表的なヒトFGF−3は、Uniprot/Swissprotのアクセッション番号P11487で注釈される一次アミノ酸配列を有するFGF−3を含むがこれらに限定されない。当業者は、上記配列が前駆体FGF−3のものであり、成熟FGF−3からプロセシングにより除かれる部分を含み得ることを理解することができる。代表的なヒトFGF−3は、とりわけBrooks
et al. 1989 (Oncogene 4: 429-436)によっても説明されている。
【0073】
本明細書中で使用される場合、「TGFβ」又は「TGFB」という用語は、成長因子の形質転換成長因子β(TGFB)ファミリーの任意の及び全ての成員を包含する。特に、本発明の方法で使用されるTGFBは、TGFB−1、TGFB−2及びTGFB−3から選択することができ、より好ましくはTGFB−1である。
【0074】
形質転換成長因子β−1は、TGFB−1及びTGF−β−1としても既知である。代表的なヒトTGFB−1は、Uniprot/Swissprotのアクセッション番号P01137で注釈される一次アミノ酸配列を有するTGFB−1を含むがこれらに限定されない。当業者は、上記配列が前駆体TGFB−1のものであり、成熟TGFB−1からプロセシングにより除かれる部分を含み得ることを理解することができる。代表的なヒトTGFB−1は、とりわけDerynck
et al. 1985 (Nature 316: 701-5)によっても説明されている。
【0075】
形質転換成長因子β−2は、TGFB−2、神経膠芽腫由来T細胞サプレッサー因子、G−TSF、BSC−1細胞成長阻害剤、ポリエルギン(polyergin)又はセテルミン(cetermin)としても既知である。代表的なヒトTGFB−2は、Uniprot/Swissprotのアクセッション番号P61812で注釈される一次アミノ酸配列を有するTGFB−2を含むがこれらに限定されない。当業者は、上記配列が前駆体TGFB−2のものであり、成熟TGFB−2からプロセシングにより除かれる部分を含み得ることを理解することができる。代表的なヒトTGFB−2は、とりわけWebb
et al. 1988 (DNA 7: 493-497)によっても説明されている。
【0076】
形質転換成長因子β−3は、TGFB−3としても既知である。代表的なヒトTGFB−3は、Uniprot/Swissprotのアクセッション番号P10600で注釈される一次アミノ酸配列を有するTGFB−3を含むがこれらに限定されない。当業者は、上記配列が前駆体TGFB−3のものであり、成熟TGFB−3からプロセシングにより除かれる部分を含み得ることを理解することができる。代表的なヒトTGFB−3は、とりわけ、ten
Dijke et al. 1988 (PNAS 85: 4715-4719)及びDerynck et al. 1988 (EMBOJ. 7:
3737-3743)によっても説明されている。
【0077】
本発明の方法は、それぞれの成長因子の任意の1つ若しくは複数又は全ての生物学的に活性な変異体又は誘導体を利用し得る。本発明の方法では、成長因子の「生物学的に活性な」変異体又は誘導体は、他の条件が実質的に同じである場合、それぞれの成長因子と少なくとも約同程度の、BMSCからの骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞の獲得を達成する。
【0078】
成長因子がその同系(cognate)受容体と結合することによりその効果を発揮する場合、上記成長因子の生物学的に活性な変異体又は誘導体は、その同系受容体との結合に関する成長因子の親和性及び/又は特異性と少なくとも約同程度の高さの、その同系受容体との結合に関する親和性及び/又は特異性を示し得る。例えば、上記生物学的に活性な変異体又は誘導体は、その受容体との結合に関するそれぞれの成長因子の親和性及び/又は特異性の少なくとも80%、例えば少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも90%、又はさらに100%以上の、同系受容体との結合に関する親和性及び/又は特異性を有し得る。上述の結合のパラメータは、それ自体が既知のin vitroアッセイ又は細胞アッセイを使用して、当業者が容易に確定することができる。
【0079】
確立されたアッセイ、例えばin vitroアッセイ又は細胞アッセイ(例えば細胞培養における分裂促進活性の測定等)において、所与の成長因子の活性を容易に測定することができる場合、上記成長因子の生物学的に活性な変異体又は誘導体は、このようなアッセイにおいて、その成長因子の活性と少なくとも約同程度の高さの活性を示し得る。例えば、上記生物学的に活性な変異体又は誘導体は、それぞれの成長因子の活性の少なくとも80%、例えば少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも90%、又はさらに100%以上の活性を示し得る。
【0080】
ポリペプチドの「変異体」は、そのポリペプチドのアミノ酸配列と実質的に同一である(すなわち大部分が同一であるが完全に同一ではない)アミノ酸配列を有する。本明細書において、「実質的に同一」は、少なくとも85%同一、少なくとも90%同一、好ましくは少なくとも95%同一、例えば少なくとも(least)99%同一であることを表す。配列の差異は、1つ又は複数の(one
of more)アミノ酸の挿入(付加)、欠失及び/又は置換により生じ得る。
【0081】
2つのポリペプチドの間の配列同一性は、ポリペプチドのアミノ酸配列を最適に整列させること(2つのタンパク質配列の最適なアライメントは、導入したギャップに関するいずれかのペナルティを差し引いたペア・スコアの合計を最大化するアライメントであり、好ましくはアルゴリズム、例えばNeedleman
and Wunsch 1970 (J Mol Biol 48: 443-453)のアルゴリズムを使用する「Gap」、又はSmithand Waterman
1981 (J Mol Biol 147: 195-197)のアルゴリズムを使用する「Bestfit」(例えばAccelrysからのGCG(商標)v.11.1.2パッケージにおいて利用可能である)の、コンピュータによる実行により行うことができる)、及び一方でポリペプチドが同じアミノ酸残基を含有する、アライメント中における位置の数と、他方で2つのポリペプチドの配列が異なる、アライメント中における位置の数とをスコア化することにより、確定することができる。2つのポリペプチドは、それらのポリペプチドが所与の位置で異なるアミノ酸残基を含有する場合(アミノ酸置換)、又は一方のポリペプチドが所与の位置でアミノ酸残基を含有するが他方のポリペプチドは含有しない場合若しくはその逆の場合(アミノ酸挿入又はアミノ酸欠失)、アライメントにおいてその位置でその配列が異なる。配列同一性は、アライメント中の位置の総数に対する、ポリペプチドが同じアミノ酸残基を含有するアライメント中の位置の割合(百分率)として算出される。配列アライメントと配列同一性の確定とを実施するためのさらに好適なアルゴリズムは、Altschulet
al. 1990 (J Mol Biol 215: 403-10)により最初に説明されたBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)、例えばTatusovaand
Madden 1999 (FEMS Microbiol Lett 174: 247-250)により説明された「Blast 2 sequences」アルゴリズムに基づくものを含む。
【0082】
変異体のアミノ酸配列と、その変異体が実質的に同一であるそれぞれのポリペプチドのアミノ酸配列との間の差異の少なくとも幾つかが、アミノ酸置換を含んでいてもよい。好ましくは、上記差異の少なくとも85%、例えば少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば100%が、アミノ酸置換であってもよい。好ましくは、上記アミノ酸置換は、保存的であり得る。本明細書中で使用される場合、「保存的置換」という用語は、或るアミノ酸残基が、別の生物学的に類似のアミノ酸残基により置き換えられていることを示す。保存的置換の非限定的な例は、或る疎水性アミノ酸残基、例えばイソロイシン、バリン、ロイシン若しくはメチオニンと別の疎水性アミノ酸残基との置換、又は或る極性残基と別の極性残基との置換、例えばアルギニンとリジンとの間の、グルタミン酸とアスパラギン酸との間の、若しくはグルタミンとアスパラギンとの間の置換等を含む。
【0083】
本明細書中で使用される場合、ポリペプチドの「変異体」は、具体的には、上記ポリペプチドと或る特定の程度の類似性を有するポリペプチドも含む。好ましくは、このような変異体は、少なくとも90%の類似性、例えば好ましくは少なくとも91%の類似性、例えば少なくとも92%の類似性、93%の類似性、より好ましくは少なくとも94%の類似性、例えば95%の類似性、さらにより好ましくは少なくとも96%の類似性、例えば少なくとも97%の類似性、さらにより好ましくは少なくとも98%の類似性、例えば少なくとも99%の類似性を有し得る。
【0084】
2つのポリペプチドの間の配列類似性は、ポリペプチドのアミノ酸配列を最適に整列させること(上記を参照されたい)、及び一方でポリペプチドが同じ又は類似の(すなわち保存的置換された)アミノ酸残基を含有する、アライメント中における位置の数と、他方で2つのポリペプチドが別の形で(otherwise)その配列が異なる、アライメント中における位置の数とをスコア化することにより、確定することができる。2つのポリペプチドは、それらのポリペプチドが所与の位置で非保存的なアミノ酸残基を含有する場合、又は一方のポリペプチドが所与の位置でアミノ酸残基を含有するが他方のポリペプチドは含有しない場合若しくはその逆の場合(アミノ酸挿入又はアミノ酸欠失)、アライメントにおけるその位置でその配列が別の形で異なる。配列類似性は、アライメント中の位置の総数に対する、ポリペプチドが同じ又は類似のアミノ酸残基を含有するアライメント中の位置の割合(百分率)として算出される。
【0085】
成長因子変異体は、1つ又は複数のペプチド(複数可)又はポリペプチド(複数可)を含んでいてもよく、その少なくとも1つが、成長因子のそれぞれの構成ペプチド又はポリペプチドの、上で規定されるような変異体である、
【0086】
ポリペプチドの「誘導体」は、1つ又は複数の(one or mode)アミノ酸残基の化学的変化、及び/又は例えばグリコシル化、リン酸化、アシル化、アセチル化、硫酸化、脂質化、アルキル化等による、1つ又は複数のアミノ酸残基での1つ又は複数の部分の付加により、誘導体化されていてもよい。典型的には、ポリペプチド誘導体中の50%未満、例えば40%未満、好ましくは30%未満、例えば20%未満、より好ましくは15%未満、例えば10%未満又は5%未満、例えば4%、3%、2%若しくは1%未満のアミノ酸が、そうして誘導体化されていてもよい。タンパク質性成長因子誘導体は、1つ又は複数のペプチド(複数可)又はポリペプチド(複数可)を含んでいてもよく、その少なくとも1つが、少なくとも1つのアミノ酸残基において誘導体化されていてもよい。
【0087】
好ましい一実施形態では、成長因子、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体は、組換体、すなわち、宿主生物(例えば、細菌、例えばこれらに限定するものではないが大腸菌、サルモネラ・チフィリウム(S.
tymphimurium)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis);酵母、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(S.cerevisiae)及びピキア・パストリス(Pichia
pastoris)等;培養植物細胞、例えばとりわけシロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)及びタバコ(Nicotiana tobaccum)細胞;動物細胞、例えば哺乳動物細胞及び昆虫細胞;又は多細胞生物、例えば植物若しくは動物)又はそれらの祖先に導入されており、且つ上記ポリペプチドをコードする配列を含む、組換え核酸分子の発現を通じて宿主生物により産生される組換体であってもよい。組換え技術により発現させた成長因子、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体の使用は、病原因子の伝染のリスクを低減する。TGFB−1の組換え産生は、とりわけBourdrelet
al. 1993 (Protein Expr Purif 4: 130-40)により説明されている。組換え成長因子はまた、(例えばSigma、BiologicalIndustries、R&D
Systems、Peprotech等から)一般的に市販されている。
【0088】
「血漿」という用語は、従来規定されている通りである。血漿は通常、抗凝固剤(例えばヘパリン、クエン酸塩、シュウ酸塩又はEDTA)によりもたらされた、又はこれらと接触させた全血の試料から得られる。その後、血液試料の細胞成分を、適切な手法により、典型的には遠心分離により、液体成分(血漿)から分離する。したがって、「血漿」という用語は、ヒト又は動物の身体の一部分を形成しない組成物を表す。
【0089】
「血清」という用語は、従来規定されている通りである。血清は通常、最初に試料中で凝血を生じさせること、その後適切な手法により、典型的には遠心分離により、そうして形成した凝血塊及び血液試料の細胞成分を液体成分(血清)から分離することによって、全血の試料から得ることができる。凝血は、不活性触媒、例えばガラスビーズ又は粉末により促進することができる。或いは、血清は、抗凝固剤及びフィブリンを除去することにより、血漿から得ることができる。したがって「血清」という用語は、ヒト又は動物の身体の一部分を形成しない組成物を表す。
【0090】
単離した血漿又は血清は、本発明の方法において直接的に使用することができる。それらは、後の使用のために、(例えば短期間、例えば約1週間〜2週間までに関しては、血漿若しくは血清のそれぞれの凝固点より高いが常温より低い温度(この温度は通常約4℃〜5℃である)で、又はより長期間に関しては、通常は約−70℃〜約−80℃で凍結貯蔵により)適切に貯蔵することもできる。
【0091】
単離した血漿又は血清は、特に補体を除去するために、当該技術分野で既知のように熱失活させることができる。本発明の方法が、その存在下で培養した細胞に対して自家性である血漿又は血清を利用する場合、血漿又は血清を熱失活させることは不必要であり得る。血漿又は血清が、培養した細胞と少なくとも部分的に同種である場合、血漿又は血清を熱失活させることが有利であり得る。
【0092】
必要に応じて、血漿又は血清はまた、好ましくはポアサイズが0.2μm以下の、従来の微生物学的フィルタを使用して、貯蔵又は使用の前に滅菌してもよい。
【0093】
一実施形態では、本発明の方法は、それと接触させるヒトBMSC又はMSCに対して自家性であるヒト血漿又は血清を利用してもよい。血漿又は血清との関連で「自家性」という用語は、血漿又は血清が、上記血漿又は血清と接触させるBMSC又はMSCが得られるのと同じ被験体から得られることを示す。
【0094】
別の実施形態では、本方法は、それと接触させるヒトBMSC又はMSCと「相同」又は「同種」である、すなわちBMSC又はMSCが得られる被験体以外の1つ又は複数の(プールした)ヒト被験体から得られる、ヒト血漿又は血清を利用してもよい。
【0095】
さらなる一実施形態では、本方法は、上で規定されるような、自家性及び相同(同種)の血漿又は血清の混合物を利用してもよい。
【0096】
上述のように、一態様では、本発明の方法は、
(a)BMSC又はMSCを含むヒト被験体の生体試料から細胞を回収する工程、
(b)必要に応じて、(a)において回収した細胞から単核細胞を単離する工程、
(c)ヒト血漿又は血清、FGF、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体、及びTGFB、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体を含む培地に(a)又は(b)の細胞を添加すると共に、細胞を基板表面に接着させるような細胞培地混合物を培養する工程、
(d)非接着物を除去すると共に、骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞様細胞、又は骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞様細胞を含む細胞集団が得られるような(c)に規定される培地中の接着細胞をさらに培養する工程、
を概して含み得る。
【0097】
工程(b)は、従来の方法、例えば密度勾配遠心分離等を使用して、行うことができる。
【0098】
工程(a)又は工程(b)由来の細胞懸濁液を、培地、一般的には液体細胞培養培地の存在下で培養する。典型的には、培地は、当該技術分野で既知の基本培地製剤を含む。多くの基本培地製剤(例えば、American Type Culture Collection(ATCC)から、又はInvitrogen(Carlsbad,
California)から、入手可能)を、本明細書の細胞を培養するために使用することができ、該培地製剤は、イーグル最小必須培地(MEM)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、α改変最小必須培地(α−MEM)、基本必須培地(BME)、BGJb、F−12栄養混合液(Ham)、イスコブ改変ダルベッコ培地(IMDM)、又はX−Vivo−10無血清培地(臨床グレード)(Invitrogen又はCambrex(NewJersey)から入手可能)と、それらの修正物及び/又は組合せとを含むがこれらに限定されない。上述の基本培地の組成は概して、当該技術分野で既知であり、培養する細胞に関する必要に応じて培地の濃度、及び/又は培地添加物を修正又は調整することは、当業者の技能の範囲内である。
【0099】
このような基本培地製剤は、哺乳動物細胞の発生に必要な、それ自体が既知の成分を含有する。例示のためのものであり限定するものではないが、これらの成分は、無機塩(特に、Na、K、Mg、Ca、Cl、P、並びにおそらくCu、Fe、Se及びZnを含有する塩)、生理的緩衝液(例えばHEPES、重炭酸塩)、ヌクレオチド、ヌクレオシド及び/又は核酸塩基、リボース、デオキシリボース、アミノ酸、ビタミン、抗酸化剤(例えばグルタチオン)、並びに炭素源(例えばグルコース、ピルビン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)等を含み得る。
【0100】
培養における使用のために、基本培地に、1つ又は複数のさらなる成分を供給してもよい。例えば、さらなる添加物は、最適な成長及び増殖のための必要な微量元素及び物質を細胞に供給するために使用することができる。このような添加物は、インスリン、トランスフェリン、セレニウム塩、及びそれらの組合せを含む。これらの成分を、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、イーグル塩類溶液等を含むがこれらに限定されない塩溶液中に含めることができる。例えばβ−メルカプトエタノールのような、さらなる抗酸化剤添加物を添加してもよい。多くの基本培地が既にアミノ酸を含有しているが、例えば溶液中では安定性がより低いことが知られているL−グルタミンのような、幾つかのアミノ酸を後で添加してもよい。培地に、抗生物質及び/又は抗真菌化合物、例えば、典型的には、ペニシリン及びストレプトマイシンの混合物、及び/又は他の化合物、例えばこれらに限定されないが、アンホテリシン、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ナリジキシン酸、ネオマイシン、ナイスタチン、パロモマイシン、ポリミキシン、ピューロマイシン、リファンピシン、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、タイロシン及びゼオシン(zeocin)をさらに供給してもよい。
【0101】
脂質及び脂質担体も、細胞培養培地に添加するために使用することができる。このような脂質及び担体は、とりわけシクロデキストリン、コレステロール、アルブミン結合型リノール酸、アルブミン結合型リノール酸及びオレイン酸、非結合型リノール酸、アルブミン結合型リノール−オレイン−アラキドン酸、アルブミン非結合型及び結合型オレイン酸等を含み得るがこれらに限定されない。アルブミンは、同様に、脂肪酸を含まない製剤中で、使用することができる。
【0102】
複数の実施形態では、ヒト血漿又は血清は、約0.5%〜約30%、好ましくは約1%〜約15%の割合(血漿又は血清の体積/培地の体積)で、上記培地中に含まれ得る。本発明の方法は、比較的低量の、例えば約5体積%又は10体積%以下、例えば約1体積%、約2体積%、約3体積%又は約4体積%の血漿又は血清により十分に実施することができ、BMSCを培養するために入手することが必要な血漿又は血清の体積を減少することができる。
【0103】
FGF及びTGFBは、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞へのBMSCの分化を誘導するのに十分な濃度で、上記培地中に含まれる。典型的には、FGF、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体は、0.1ng/ml〜100ng/ml、好ましくは0.5ng/ml〜20ng/mlの濃度で、例えば約19ng/ml、18ng/ml、17ng/ml、16ng/ml、15ng/ml、14ng/ml、13ng/ml、12ng/ml、11ng/ml、10ng/ml、9ng/ml、8ng/ml、7ng/ml若しくは6ng/mlで、又は約5ng/ml以下で、例えば約4ng/ml、3ng/ml、2ng/ml、1ng/ml若しくは0.5ng/mlで、培地中に含まれ得る。典型的には、TGFB、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体は、0.1ng/ml〜100ng/ml、好ましくは0.25ng/ml〜20ng/mlの濃度で、例えば約19ng/ml、18ng/ml、17ng/ml、16ng/ml、15ng/ml、14ng/ml、13ng/ml、12ng/ml、11ng/ml、10ng/ml、9ng/ml、8ng/ml、7ng/ml若しくは6ng/mlで、又は約5ng/ml以下で、例えば約4ng/ml、3ng/ml、2ng/ml、1ng/ml若しくは0.5ng/mlで、培地中に含まれ得る。上記値は、培地に外から添加したそれぞれの成長因子、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体の濃度を表すことを意図する。
【0104】
一実施形態では、BMSC又はMSCは、ヒト血漿又は血清、FGF及びTGFB、又は生物学的に活性なそれらの変異体若しくは誘導体と連続的に接触させることができ、すなわち上記成分は、本発明の方法においてBMSC若しくはMSC、それらの子孫、及び/又はそれらから得られる細胞を培養する全ての培地中に含まれる。典型的には、上記血漿又は血清及び成長因子は、本方法においてBMSC又はMSCを培養するために使用される全ての(新たな)培地中に、実質的に同一のそれぞれの濃度で供給され得る。
【0105】
一実施形態では、(a)又は(b)の細胞は、5×10細胞/cm〜5×10細胞/cm、好ましくは5×10細胞/cm〜5×10細胞/cmで、より典型的には約5×10細胞/cmで、工程(c)において培養するために、播種され(plated)得る。
【0106】
好ましい一実施形態では、培養容器は、細胞接着を可能にするプラスチック表面を備えていてもよい。別の実施形態では、表面は、ガラス表面であってもよい。さらに別の実施形態では、表面は、細胞の接着及び成長の助けとなる適切な材料、例えばMatrigel(登録商標)、ラミニン又はコラーゲンでコーティングすることができる。
【0107】
複数の実施形態では、工程(d)において非接着物を除去する前に、細胞を、約1日間〜8日間、より典型的には約2日間〜6日間、より典型的には約4日間付着させることができる。
【0108】
典型的には、細胞を、工程(c)及び工程(d)合わせて約7日〜約18日、通常約11日〜約15日の期間、より好ましくは約12日間〜14日間培養することができる。そうでなければ、細胞を、工程(c)及び工程(d)合わせて、そのコンフルエンスが約60%以上、又は約80%以上、又は約90%以上、又はさらに最大100%に到達するまで培養してもよい。
【0109】
一実施形態では、工程(d)の後に、本方法は、そうして得られた細胞又は細胞集団を収集することを含み得る。
【0110】
別の実施形態では、工程(d)の後に、取得した細胞を、1回以上、典型的には1回又は2回、より好ましくは1回、継代してもよい。継代数は、細胞集団を培養容器から取り出し、継代培養、すなわち継代を行った回数を表す。例えば、継代は通常、二価イオンキレート剤(例えばEDTA又はEGTA)、及び/又はトリプシン若しくは好適なプロテアーゼを使用する細胞の分離、分離した細胞を再懸濁すること、同じ又は新たな培養容器中で所望の細胞密度で細胞を再び播種すること、を含み得る。
【0111】
好ましい一実施形態では、上述の工程(d)の後に、本方法は、(c)に規定される培地中で工程(d)由来の細胞又は細胞集団を、特に1回継代すると共に、さらに培養する工程(e)をさらに含む。このような工程(e)の後に、細胞又は細胞集団が収集され得る。
【0112】
継代する工程(e)においては、細胞は、好ましくは、5×10細胞/cm〜5×10細胞/cmで、好ましくは5×10細胞/cm〜5×10細胞/cmで、より典型的には約5×10細胞/cmで、さらに培養するために、播種される。
【0113】
典型的には、継代後に細胞は、約3日〜約12日、通常約6日〜約10日の期間、より典型的には約1週間、工程(e)において培養される。この期間が、細胞の十分な増殖をもたらす。
【0114】
上で詳述した本発明の方法は、優れた特徴、例えば特に高い増殖速度、及び低いHLA−DR発現を有する、骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、又は骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む集団を生じ、これらの細胞及び細胞集団は、患者の骨組織における予防的移植又は治療的移植に好適である。
【0115】
したがって、複数の態様では本発明は、上で説明したような本発明の方法を使用して得ることができる又は直接得られる、ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、又はヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団と、治療法における使用のための、及び/又は骨関連障害(例えば、本明細書において他の箇所で列挙したような)を治療する際の使用のためのこのような細胞又は細胞集団と、骨関連障害の治療用の薬物の製造のためのこのような細胞又は細胞集団の使用とに関する。
【0116】
さらなる一態様では、本発明は、本発明の方法により得ることができる又は直接得られる、ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、又はヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団を含み、且つ骨病変の部位での投与に好適な医薬品組成物に関する。
【0117】
一態様では、本発明は、このような治療が必要な被験体における骨疾患を予防及び/又は治療する方法であって、(i)本発明の方法を実施することであって、上で説明したようなヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、又はヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団を得る、実施すること、及び(ii)そうして得られた細胞又は細胞集団を上記被験体に、例えば骨病変(例えば外科手術又は骨折等)の部位で、投与することを含む、方法にも関する。
【0118】
2.本発明の細胞及び細胞集団
本方法から得られる骨芽細胞のさらなる研究により、骨療法における使用により観察される有利な特性の基礎となり得る新規な骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞型を規定することが可能となった。
【0119】
特に一態様では、本発明は、ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞、及びヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団であって、上記細胞が、(1)CD90、CD105、CD73、CD63、CD166、及びアルカリホスファターゼ(ALP)、より具体的には骨−肝臓−腎臓型のALPの発現を有し、(2)CD45、CD14、CD19を発現せず、且つ(3)25%未満の細胞、好ましくは20%未満の細胞、さらにより好ましくは15%未満の細胞がHLA−DRを発現することを特徴とする、ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞、及びヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団を提供する。
【0120】
細胞が特定のマーカーに関して陽性であると言う場合、これは、当業者が、適切な測定を実施した場合、好適な対照と比較して、そのマーカーに関して、例えば抗体により検出可能な、又は逆転写ポリメラーゼ連鎖反応により検出可能な(detection)顕著なシグナルの存在又は証拠を結論づけるであろうことを意味する。本方法によりそのマーカーの定量的評価が可能になる場合、陽性の細胞は、平均して、対照と顕著に異なるシグナル、例えば、限定するものではないが、対照細胞が生成したかかるシグナルより少なくとも1.5倍高い、例えば少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍高い、又はさらに高いシグナルを生成し得る。
【0121】
上述の細胞特異的マーカーの発現は、当該技術分野で既知の任意の好適な免疫学的手法、例えば免疫細胞化学的検査若しくは親和性吸着法、ウエスタンブロット分析、FACS、ELISA等を使用して、又は酵素活性(例えばALPに関する)の任意の好適な生化学的アッセイにより、又はマーカーmRNAの量を測定する任意の好適な手法、例えばノーザンブロット、半定量的若しくは定量的RT−PCR等により、検出することができる。本開示において列挙したマーカーに関する配列データは既知であり、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等の公的データベースから得ることができる。
【0122】
さらなる一実施形態では、上記骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞は、外部環境を石灰化する、又は骨形成培地に曝されたときに、カルシウム含有細胞外マトリクスを合成する能力の証拠を示している(Jaiswal
et al. 1997. J Cell Biochem 64: 295-312)。カルシウムの細胞内での蓄積、及びマトリクスタンパク質中への沈着は、例えば45Ca2+中で培養すること、洗浄及び再培養すること、並びにその後細胞内に存在する若しくは細胞外マトリクス中に沈着した放射活性を確定すること(米国特許第5,972,703号明細書)により、又はCa2+アッセイキット(Sigmaキット#587)を使用して石灰化に関して培養基質をアッセイすることにより、又は実施例において説明するように、従来測定することができる。
【0123】
別の実施形態では、上記骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞は、脂肪細胞系列(例えば脂肪細胞)又は軟骨細胞系列(例えば軟骨細胞)の細胞のいずれか一方に、好ましくはいずれにも、実質的に分化しない。これらの細胞系列への分化の不存在は、当該技術分野で確立されている標準的な分化誘導条件(例えばPittenger
et al. 1999. Science 284: 143-7を参照されたい)と、アッセイ方法(例えば誘導された場合、脂肪細胞は典型的には脂質蓄積を示すオイルレッドOで染色され、軟骨細胞は典型的にはアルシアンブルー又はサフラニンOで染色される)とを使用して試験することができる。脂肪生成分化又は軟骨形成分化への傾向を実質的に欠くとは、典型的には、65%未満、又は50%未満、又は35%未満、又は20%未満、又は10%未満の試験した細胞が、それぞれの試験に適用したときに、脂肪生成分化又は軟骨形成分化の徴候を示すことを意味し得る。
【0124】
さらなる一実施形態では、上記骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞は、オステオカルシン(OCN)も発現し得る(特定の実験では、8%〜85%の範囲の細胞が、FACSにより検出されるOCNを発現した)。
【0125】
さらなる一実施形態では、上記骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞は、骨シアロタンパク質(BSP)も発現し得る(特定の半定量的RT−PCR実験では、細胞は、弱い〜中程度のレベルのBSPを発現した)。
【0126】
本明細書で上で特徴づけを行ったヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、又は該ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む集団は、優れた特徴、例えば特に高い増殖速度、及び低いHLA−DR発現を示し、これらの細胞及び細胞集団は、患者の骨組織における予防的移植又は治療的移植に好適である。
【0127】
したがって、複数の態様では、本発明は、治療法における使用のための、及び/又は骨関連障害(例えば、本明細書において他の箇所で列挙したような)を治療する際の使用のための、本明細書で上で特徴づけを行ったヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、又は該ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団と、骨関連障害の治療用の薬物の製造のためのこのような細胞又は細胞集団の使用とに関する。
【0128】
さらなる一態様では、本発明は、本明細書で上で特徴づけを行ったヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、又は該ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団を含み、且つ骨病変の部位での投与に好適な医薬品組成物に関する。
【0129】
一態様では、本発明は、このような治療が必要な被験体における骨疾患を予防及び/又は治療する方法であって、本明細書で上で特徴づけを行った上記ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、又は該ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団を上記被験体に、例えば骨病変(例えば外科手術又は骨折等)の部位で、投与することを含む、方法にも関する。
【0130】
3.本発明の細胞及び集団に関連する態様
以下の記載は、上の1節で説明した方法により得られる又は得ることができる、骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、及び骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む集団、又は上の2節で特徴づけを行った骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、及び該骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団を含む、上述したさらなる態様に関する。
【0131】
説明したように、本発明の細胞又は細胞集団は、外科手術又は骨折の部位で、ヒト被験体の骨に導入することができる。本発明の骨芽細胞を骨に導入することは、骨折と、例えば本明細書において他の箇所で列挙したもののような骨関連障害との治療において有用である。
【0132】
一実施形態では、骨芽細胞を、分化した骨芽細胞を導入する被験体のBMSC又はMSCから得ることができる(すなわち自家性細胞)。とりわけ本発明の細胞によるHLA−DR発現の低さにより本明細書において利用可能であり得る、別の態様(option)では、骨芽細胞を、分化した骨芽細胞を導入するヒト被験体以外の(other
that)1つ又は複数のヒト被験体のBMSC又はMSCから得ることができる(すなわち同種細胞)。さらに別の実施形態では、骨芽細胞を、非ヒト動物、好ましくは非ヒト哺乳動物のBMSC又はMSCから得て、ヒト被験体に導入することができる(すなわち異種細胞)。
【0133】
上述したように、本発明の骨芽細胞は、医薬品組成物へと製剤化され、医薬品組成物として投与され得る。
【0134】
このような医薬品組成物は、本明細書において説明した骨芽細胞に加えて、薬学的に許容可能な賦形剤、担体、緩衝液、保存料、安定剤、抗酸化剤、又は当業者に既知の他の材料を含み得る。このような材料は無毒性であるべきであり、細胞の活性を妨げないものであるべきである。担体又は他の材料の正確な性質は、投与経路に応じて異なる。例えば、組成物は、発熱物質を含まず、且つ好適なpH、等張性及び安定性を有する、非経口で許容可能な水溶液の形態であり得る。薬用製剤の一般的な原理に関しては、Cell
Therapy: Stem Cell Transplantation, Gene Therapy, and CellularImmunotherapy, by
G. Morstyn & W. Sheridan eds., Cambridge UniversityPress, 1996、及びHematopoietic
Stem Cell Therapy, E. D. Ball, J. Lister & P.Law, Churchill Livingstone,
2000を参照されたい。
【0135】
このような医薬品組成物は、その中での細胞の生存度を確保するためのさらなる成分を含有していてもよい。例えば、組成物は、望ましいpH、より通常は中性付近のpHを達成する好適な緩衝系(例えば、リン酸又は炭酸緩衝系)を含んでいてもよく、細胞に対する浸透圧ストレスを防ぐ等張条件を確保するための十分な塩を含んでいてもよい。例えば、これらの目的のための好適な溶液は、当該技術分野で既知の、リン酸緩衝食塩水(PBS)、塩化ナトリウム溶液、リンガー液又は乳酸加リンガー液であり得る。さらに組成物は、細胞の生存度を増大させ得る担体タンパク質、例えばアルブミンを含んでいてもよい。
【0136】
医薬品組成物は、骨の創傷及び欠損の修復に有用なさらなる成分を含み得る。例えば、このような成分は、限定するものではないが、骨形態発生タンパク質、ヒドロキシアパタイト/リン酸三カルシウム粒子(HA/TCP)、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸、ヒアルロン酸、キトサン、ポリ−L−リジン及びコラーゲンを含み得る。例えば、骨芽細胞は、脱灰骨マトリクス(DBM)、又は複合体を骨形成性(それ自体で骨を形成する)且つ骨誘導性にする他のマトリクスと組み合わせてもよい。自家性骨髄細胞と共に同種DBMを使用する同様の方法により、良好な結果が得られている(Connolly
et al. 1995. Clin Orthop 313: 8-18)。
【0137】
医薬品組成物は、補完的生物活性因子、例えば骨形態発生タンパク質、例えばBMP−2、BMP−7若しくはBMP−4、又は任意の他の成長因子を、さらに含んでいてもよいし、又はそれらと同時投与してもよい。他の考え得る共存成分は、骨再生を補助するのに好適なカルシウム又はリン酸塩の無機源を含む(国際公開第00/07639号パンフレット)。必要に応じて、細胞調製物を、担体マトリクス又は材料上で投与して、組織再生を向上させてもよい。例えば、材料は、粒状セラミック、又は生体高分子、例えばゼラチン、コラーゲン、オステオネクチン、フィブリノーゲン若しくはオステオカルシンであり得る。多孔質マトリクスは、標準的な手法に従って合成することができる(例えば、Mikos
et al., Biomaterials 14:323, 1993;Mikos et al., Polymer35:1068, 1994;Cook et
al., J. Biomed. Mater. Res. 35:513, 1997)。
【0138】
代替的に又は付加的に、BMSC若しくはMSC細胞、又は得られた本発明の骨芽細胞若しくは細胞集団は、被験体の骨病変、例えば外科手術又は骨折の部位への導入の前に、対象の核酸で安定的に又は一過性に形質転換することができる。対象の核酸配列は、骨芽細胞の成長、分化及び/又は石灰化を増強する遺伝子産物をコードするものを含むがこれらに限定されない。例えば、BMP−2に関する発現系を、難治性骨折又は骨粗鬆症を治療する目的で、安定に又は一過性に、BMSC又はMSCに導入することができる。BMSC又はMSCを、及び骨芽細胞を形質転換する方法は、当業者に既知である。
【0139】
したがって本発明は、本発明の細胞を1つ又は複数の上述のさらなる成分と混和することにより、上記医薬品組成物を製造する方法も包含する。
【0140】
さらなる一態様では、本発明は、骨病変の部位での組成物の投与のための外科用器具を含み、且つ本発明の骨芽細胞若しくは細胞集団、又は上記細胞若しくは細胞集団を含む医薬品組成物をさらに含む装置であって、骨病変の部位での医薬品組成物の投与に適している装置に関する。例えば、好適な外科用器具は、骨病変の部位で、本発明の細胞を含む液体組成物を注入することができるものであってもよい。
【0141】
骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、又は細胞集団は、それらが目的の組織部位に移植され又は移動すること、及び機能が欠損した領域をそれらが再構成又は再生することができるように、投与してもよい。組成物の投与は、修復される筋骨格部位に応じて異なる。例えば、骨形成は、組織を再構築する、又は開裂、若しくは人工デバイス、例えば人工股関節置換具を挿入する外科手順に従って促進することができる。他の状況では、侵襲的な外科手術は必要ではなく、組成物は、注入により、又は(例えば、脊柱の修復に)誘導性内視鏡を使用して、投与することができる。
【0142】
一実施形態では、上で規定した医薬品細胞調製物は、液体組成物の形態で投与してもよい。複数の実施形態では、細胞、又は細胞を含む医薬品組成物は、全身的に、局所的に、又は病変の部位で、投与してもよい。
【0143】
別の実施形態では、骨芽細胞又は細胞集団を、好適な基板に移して、及び/又は好適な基板上で培養して、移植部材を提供してもよい。細胞を添加(applied)及び培養することができる基板は、金属、例えばチタン、コバルト/クロム合金又はステンレス鋼、生物活性表面、例えばリン酸カルシウム、ポリマー表面、例えばポリエチレン等であり得る。あまり好ましくはないが、ケイ質材料、例えばガラスセラミックスも、基板として使用することができる。リン酸カルシウムは基板の不可欠な成分ではないが、金属、例えばチタン、及びリン酸カルシウムが、最も好ましい。基板は多孔質又は非多孔質であり得る。
【0144】
例えば、増殖した細胞、又は培養皿で分化させる細胞を、必要に応じて、本発明の液体栄養培地中で固体支持体をインキュベートすることにより、増殖させ、及び/又は分化プロセスを継続させるために、三次元固体支持体上に移すことができる。細胞は、例えば、上記細胞を含有する液体懸濁液に上記支持体を含浸させることにより、三次元固体支持体上に移すことができる。このようにして得られた含浸支持体は、ヒト被験体に移植することができる。このような含浸支持体を、最終的に移植する前に、液体培養培地中に浸漬することにより、再培養することもできる。
【0145】
三次元固体支持体は、ヒトに移植することができるために、生体適合性を有することが必要である。三次元固体支持体は、任意の好適な形状、例えば円筒、球、平板、又は任意の形状の一部分のものであり得る。生体適合性を有する三次元固体支持体に好適な材料のうち、炭酸カルシウム、特にアラゴナイト、具体的にはサンゴ骨格の形態のアラゴナイト、アルミナ、ジルコニア、リン酸三カルシウムをベースとする多孔質セラミックス、及び/又はヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウムをヒドロキシアパタイトに変換することができる水熱交換により得られる擬似サンゴ骨格、又は他にはアパタイト−珪灰石ガラスセラミックス、生物活性ガラスセラミックス、例えばBioglass(商標)ガラスに特に言及することができる。
【0146】
上述の態様及び実施形態を、以下の非限定的な例によりさらに裏づける。
【実施例】
【0147】
実験手順
細胞培養及び血漿調製物
20ml〜60mlのヘパリン処置した骨髄(BM)を、骨疾患を患っている患者の腸骨稜から、又は健康なボランティアから得た。BMを、リン酸緩衝食塩水(PBS、2v:v)と混合し、密度勾配フィコール溶液上に重層した。遠心分離後、単核細胞を界面から回収し、PBS中で2回洗浄した。並行して、患者又は健康なドナー由来の血清を、乾燥した管中に流した160mlの血液の遠心分離後に得た。細胞を、同種血漿(自家性血漿を使用することもでき、実質的に同じ結果が得られる)を15%で、FGF2を10ng/mlで、TGFb−1を10ng/mlで添加したDMEM培地中に再懸濁した。細胞を、1×10細胞/175cmでフラスコに播種し、5%COを含有する37℃加湿雰囲気中で維持した。細胞を、1日間付着させた後、初期培地を交換した。7日目及び11日目に、さらに2回部分的な培地交換を行った(半量を交換した)。14日目に、37℃で1分間〜5分間トリプシン/EDTA溶液を使用して、細胞を分離した。細胞を計数し、1×10細胞/175cmで播種し、さらに1週間培養した。
【0148】
表現型分析
細胞内マーカー及び細胞表面マーカーを、異なる時点(14日目及び21日目)で、フローサイトメトリーにより分析した。細胞表面マーカーに関しては、細胞を、以下の結合型モノクローナル抗体:抗CD45、CD90、CD105、CD73、CD166、CD63、CD14、CD19、HLA−ABC、HLA−DR、CD28、CD80、CD86及びCTLA−4と共に15分間インキュベートし、その後PBSで洗浄した後、遠心分離し、0.3mlのPBS中に再懸濁した。細胞内マーカー(OCN及びALP)に関しては、透過処理キットを使用し、特異的抗ALP結合型モノクローナル抗体を、製造業者(Analis)のプロトコルに従って使用した。その後細胞をPBSで洗浄した後、0.3mlのPBS中に再懸濁した。
【0149】
ALPアッセイ
アルカリホスファターゼ酵素活性を、pNPP(p−ニトロフェニルホスフェート)の加水分解に基づく生化学的アッセイにより測定した。pNPPがALPにより脱リン酸化されると、黄色に変色し、分光光度計により410nmで検出することができる。細胞のALP酵素活性は、精製子ウシ腸アルカリホスファターゼ活性に基づく標準曲線と比べて、21日目に確定する。ALP活性は、タンパク質1mg当たりのALPの単位で報告する。1単位のALPは、37℃、1分で1μmolのpNPPを加水分解する。
【0150】
石灰化アッセイ
細胞の石灰化の誘導の可能性を、培養液中に骨形成培地を添加することにより評価した。14日目に、1cm当たり5700個の骨形成性(bone-forming)細胞を、0.1μMのデキサメタゾン、0.05mMのアスコルビン酸、及び3mMのグリセロールホスフェートを添加した血漿の存在下で6ウェルプレート中に播種した。2週間の培養後、細胞を、3.7%ホルムアルデヒド/PBS中で固定し、アリザリンレッドにより染色した。石灰化スコアを、各培養に対して以下のように示した:0=石灰化せず、1=石灰化が進行中、2=完全に石灰化した。
【0151】
T細胞増殖アッセイ
10ng/mlのTGFb−1を添加した又は添加していない、個体A由来の1ml当たり2000個〜20000個の前骨芽細胞(PREOBa)を、個体B由来の1ml当たり200000個のT細胞(PBMCb)と共に同時培養した。10μg/mlの濃度のフィトヘマグルチニン(phytohemaglutinine)(PHA)を、T細胞増殖の陽性対照として使用した。細胞を、24ウェルマイクロタイタープレート中で7日間培養し、培養期間の最後の18時間、3H−チミジンでパルスラベルして(pulsed)、T細胞増殖を測定した。細胞を、氷冷PBSで2回、氷冷5%トリクロロ酢酸(TCA)で2回、洗浄した。最後に、0.1NのNaOH及び0.1%のTriton−X100を含有する溶液により、細胞を溶解した。上清を回収し、シンチレーション液と混合して、βカウンターで分析した。
【0152】
結果
血漿及びTGF、対血漿及びTGF/FGF2
本発明者らは、15%同種血漿含有培地に添加した唯一の成長因子としてのTGFb−1の効果を最初に試験した。図1に示したように、TGFB−1のみを添加した初代培養は、増殖に適切な細胞の量を示すことができなかった:実際に、FGF2及びTGFb−1の両方を含有する培地のフラスコから、TGFb−1を単独で含有するフラスコ中のものよりも、ほぼ20倍多い細胞が回収されている(p=0.0317、両側マン・ホイットニー検定)。
【0153】
血漿及びFGF、対血漿及びTGF/FGF2
同種血漿及びFGF2を含有し、10ng/mlのTGFb−1を添加した培地又は添加していない培地中における、15人の患者由来の骨芽細胞の増殖速度を評価した(図2)。以下の実験により、初代培養(1.07×)、二次培養(2.5×)、及び全体(global)培養(3.08×)のいずれにおいても、TGFb−1を添加した血漿において培養した細胞の増殖の平均収率は、TGFb−1を添加せずに培養した細胞の収率より大幅に優れていることが示された(表1)。
【0154】
表1:FGF2及びFGF2/TGFb−1と共に培養した細胞の培養収率
【表1】

【0155】
さらに、表2に示したように、TGFb−1と共に培養した細胞の増殖速度は、TGFの不存在下で培養した細胞と比べて、より長期間にわたり維持された。FGFのみと共に培養した細胞はおよそ4回の継代後増殖を停止したが、FGF2及びTGFb−1の両方の存在下で培養した細胞は、7回目の継代まで増殖し続ける。このことは、800倍を超える(857.1倍)増殖の増大と言い換えられる。
【0156】
表2:FGF2及びFGF2/TGFb−1と共に培養した細胞の累積収率(%)
【表2】

【0157】
細胞表現型
フローサイトメトリーにより、FGF2及びTGFb−1の両方を添加した培地中で得られた細胞の表現型が、ほとんどのマーカーに関して、TGFb−1を添加せずに培養した細胞の表現型と類似することが明らかとなった。両方の細胞型が、CD90、CD105、CD73、CD63、CD166及びALPを発現していたが、CD45、CD14又はCD19の発現は観察されなかった(表3)。FGF2/TGFb−1培養条件におけるALPの発現は、FGF2単独条件と比較して低減した(それぞれ、42.2%対73.6%)。
【0158】
さらに、TGFb−1と共にインキュベートした細胞は、この因子を添加せずに培養した細胞と比較して、高レベルのHLA−ABC(HLA−I)を発現したが、HLA−DRの発現は低レベルであった。さらに、試験した全ての同時刺激分子(CD80、CD86、CD28、CD40L及びCTLA−4)の発現は、TGFb−1処理した細胞では、無視できるレベルであった(表3)。
【0159】
表3:10ng/mlのTGFb−1を添加した、又は添加しない培地中で培養した骨芽細胞の表現型マーカー(FACSにより陽性とみなされる細胞の百分率)
【表3】

【0160】
ALP酵素活性:
細胞のALP酵素活性を比色アッセイにより評価し、該アッセイにより、TGFb−1と共に培養した細胞は、この成長因子を添加せずに培養した細胞と比べて、より低いALP活性を有することが示されている(表4)。これらの結果は、FACSにより測定したALPの発現と強く相関している。
【0161】
表4:継代2で、FGF2及びFGF2/TGFb−1において培養した細胞に関するALP活性、ALP発現及び平均蛍光強度(MIF)
【表4】

【0162】
石灰化:
比較的低いALP発現であっても、FGF2/TGFb−1と共に培養した細胞は、FGF2のみと共に培養した細胞と同様の生物活性(石灰化)を示すことが示された。このことは、石灰化により確定した。
【0163】
FGF2(A)又はFGF2/TGFb−1(B)の存在下で培養した細胞の石灰化は、同一であった(65%を超えるウェル表面が石灰化された。図3)。同様に、FGF2において培養した細胞の石灰化スコアの平均(1.75)は、最大値2のうち、FGF2/TGFb−1において培養した細胞のスコア(1.83)と重複していた。
【0164】
T細胞の増殖
TGFb−1の存在下で培養した骨形成性細胞が同種T細胞による増殖応答を誘導するどうかを確定するために、末梢血単核(mononucleated)細胞(PBMC)を、漸増数の骨形成性細胞(2000/ml〜20000/ml)と共に培養した。表5及び図4に示したように、FGF2/TGFb−1で産生した骨芽細胞は、PBMCの同種応答を誘導せず(左側)、PHAで刺激したPBMCの増殖の最大90%の阻害を誘導することもできた。
【0165】
表5 T細胞増殖に対する骨芽細胞の阻害効果(値は、PHA/PBMC増殖の百分率として表す)。
【表5】

【0166】
結論
免疫特権BMSC又はMSC由来の骨形成性細胞を迅速且つ顕著に増殖させる方法を開発するために、これらの細胞成長及び特徴に対するTGFBの効力を評価した。
【0167】
驚くべきことに、TGFb及び血漿のみを用いる培養条件は、MSCを増殖させ、骨形成性細胞へと分化させることができなかったが、FGF2との組合せは、非常に顕著な増殖及び分化の効果(血清/FGF単独の12倍までの増殖)を有している。さらに、TGFbの存在下で培養した細胞の表現型の状態は、間質マーカー及び造血マーカーに関しては変わらないままであり、ALP発現のみがわずかに減少したが、これは、細胞の生物活性に対して何の効果も有していなかった。
【0168】
興味深いことに、TGFb条件におけるHLA−DRの発現が、骨細胞において非常に低い/検出不可能なレベルで存在していた。加えて、混合リンパ球反応では、血漿/FGF条件においてTGFbの存在下で培養した細胞は、同種反応を誘導しないため同種移植の場合に免疫拒絶反応を引き起こさないと考えられるので、免疫学的に特権的である。最終的に、本発明者らは、TGFbの存在下で成長する細胞がその生物学的機能を維持していることを示した。
【0169】
本発明者らは、TGFbを添加した培地の使用が、細胞表現型を変化させずにBMSC又はMSCを骨芽細胞へと増殖させる上で、TGFbを添加していない培地条件よりも優れていると結論することができる。
【0170】
さらなる例では、上で説明した実験手順を、FGF2以外のFGF因子(例えば、FGF−1又はFGF−3)を使用して、及び/又はTGFb−1以外のTGF因子(例えば、TGFb−2又はTGFb−3)を使用して、実質的に同じ又は類似の様式で行って、同様の結果及び/又は効果を得ている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
in vitro又はex vivoで成体ヒト骨髄幹細胞(BMSC)又は成体ヒト間葉系幹細胞(MSC)から骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、又は骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団を得る方法であって、前記BMSC又はMSCと、ヒト血漿又は血清、線維芽細胞成長因子(FGF)、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体、及び形質転換成長因子β(TGFB)、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体とを接触させることを含む、方法。
【請求項2】
(a)BMSC又はMSCを含むヒト被験体の生体試料から細胞を回収する工程、
(b)必要に応じて、(a)において回収した細胞から単核細胞を単離する工程、
(c)ヒト血漿又は血清、FGF、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体、及びTGFB、又は生物学的に活性なその変異体若しくは誘導体を含む培地に(a)又は(b)の細胞を添加すると共に、細胞を基板表面に接着させるような細胞培地混合物を培養する工程、
(d)非接着物を除去すると共に、骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞様細胞、又は骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞様細胞を含む細胞集団が得られるような、(c)に規定される培地中の接着細胞をさらに培養する工程、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該細胞を、工程(c)及び工程(d)合わせて約7日〜約18日の期間培養する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(d)において得られる細胞又は細胞集団を収集することをさらに含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
(c)に規定される培地中で工程(d)からの細胞又は細胞集団を継代すると共に、さらに培養する工程(e)をさらに含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
該細胞を、工程(e)において約3日〜約12日の期間培養する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該FGFが、FGF−1、FGF−2又はFGF−3である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
該TGFBが、TGFB−1、TGFB−2又はTGFB−3である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項の方法により得ることができる、ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、又はヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む単離した細胞集団。
【請求項10】
ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、又はヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団であって、前記骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞が、(1)CD90、CD105、CD73、CD63、CD166、アルカリホスファターゼ(ALP)、より具体的には骨−肝臓−腎臓型のALPの発現を有し、(2)CD45、CD14、CD19を発現せず、且つ(3)15%未満の該細胞がHLA−DRを発現することを特徴とする、ヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、又はヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞を含む細胞集団。
【請求項11】
前記骨芽前駆細胞、骨芽細胞又は骨芽細胞表現型細胞が、オステオカルシン(OCN)の発現をさらに有する、請求項10に記載のヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞表現型細胞、又はヒト骨芽前駆細胞、骨芽細胞若しくは骨芽細胞を含む細胞集団。
【請求項12】
骨関連障害を治療するための、請求項9〜11のいずれか一項に規定される細胞又は細胞集団。
【請求項13】
該細胞又は細胞集団が同種被験体に投与される、請求項12に記載の細胞又は細胞集団。
【請求項14】
請求項9〜11のいずれか一項に規定される細胞又は細胞集団を含み、且つ骨病変の部位での前記細胞又は細胞集団の投与に好適な、医薬品組成物。
【請求項15】
骨病変の部位での組成物の投与のための外科用器具を含み、且つ請求項14に規定される医薬品組成物をさらに含む装置であって、該骨病変の部位での該医薬品組成物の投与に適している装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図4】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−509656(P2011−509656A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541790(P2010−541790)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/050209
【国際公開番号】WO2009/087213
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(510172826)
【Fターム(参考)】