説明

手で操縦される作業機のグリップおよびこの種のグリップを備えた作業機

【課題】手で操縦される作業機のグリップにおいて、作業機の作動時に低レベルの振動がグリップに発生するように改良する。
【解決手段】繊維補強したプラスチックを含んでいるラミネート(2)から製造されるグリップパイプ(1)を備えたパワーチェーンソー等の手で操縦される作業機のグリップにおいて、グリップパイプ(1)は、振動により発生する動力学的な形状変形高エネルギーの部位(3)において、局部的に嵌合させたラミネート構造部(4)により補強されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維補強したプラスチックを含んでいるラミネートから製造されるグリップパイプを備えたパワーチェーンソー等の手で操縦される作業機のグリップおよびこの種のグリップを備えた作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーチェーンソー、刈払い機等の手で操縦される作業機の作動時には、駆動原動機または駆動される切断工具の回転により励起される機械的振動が発生する。作業機はグリップで保持され、作動中グリップで操縦される。作業機の本体は、弾性変形可能なグリップとともに、駆動原動機または切断工具の励起振動により励起される振動系を形成する。励起された振動は操作者がグリップを把持して操縦している手に振動として知覚される。過度の振動は操作者を早期に疲労させ、或いは不満足な作業結果になることもある。
【0003】
グリップと作業機のケーシングとを防振結合させる防振処置は多くの実施態様のものが知られている。防振処置はグリップで知覚される振動を緩衝もしくは低減させるためのものである。特許文献1からは、手で操縦される茶摘み機のグリップが知られており、グリップはU字状の形状を有している。U字状のグリップの2つの自由脚部は炭素繊維管により形成され、これら炭素繊維管は湾曲したアルミニウム管により互いに結合されている。発生する振動を緩衝させるため、湾曲したアルミニウム管は防振チューブで被覆されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−037635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、手で操縦される作業機のグリップにおいて、作業機の作動時に低レベルの振動がグリップに発生するように改良することである。さらに本発明の課題は、グリップでの作動振動が少ない作業機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、請求項1によれば、グリップパイプが、振動により発生する動力学的な形状変形高エネルギーの部位において、局部的に嵌合させたラミネート構造部により補強されていることによって解決される。
【0007】
また、作業機に関する前記課題は、請求項10により解決される。
【0008】
本発明は、繊維補強したプラスチックを含んでいるラミネートから製造されるグリップパイプを備えた、手で操縦される作業機のグリップにおいて、グリップパイプが、振動により発生する高ポテンシャルの形状変形エネルギーの部位において、局部的に嵌合させたラミネート構造部により補強されていることを提案するものである。振動が励起すると、グリップパイプには、振動波腹と振動波節とを備えた動力学的的変形線が発生する。これらの領域には、曲げ変形と横力変形とねじり変形とにより増大した形状変形エネルギーが形成される。これらの領域に、局部的に嵌合させたラミネート構造部を配置すると、まさにこれら領域で所望の補強が得られ、他方形状変形エネルギーの小さな領域には、補助ラミネート層の補助体を設ける必要はない。所望の補強は固有振動数を高め、この場合形状変形エネルギーの小さな領域には補助ラミネート層を設ける必要がないので、振動系の固有振動数の点でさらに効果が高められる。グリップを備えた作業機から成っている振動系は全体的に剛性が大きく軽量であり、その結果固有振動数は高い。固有振動数は、作業機の作動時における主励起振動数からかけ離れているように合目的に設定することができる。駆動原動機および/または切断工具による振動励起のためにグリップに動力学的な反りが生じないように、或いは生じてもわずかな反りであるように振動系の合目的な離調が可能である。グリップの振動レベルは小さい。
【0009】
グリップパイプの補強は、グリップを備えた作業機から発生する振動系の固有振動数が種々の作動条件の下での作業機の励起振動数範囲外にあり、特に作業機の駆動原動機の作動回転数よりも上にあるように実施するのが有利である。たとえば完全負荷条件のもとで作業機が作動している間、グリップでの共振は確実に回避されている。
【0010】
グリップパイプのラミネートがベースラミネートを有し、ベースラミネートが前記形状変形高エネルギーの部位において特に外面を補助ラミネートによって膨出処理されているのが有利である。重量の増大をわずかにして断面二次モーメントを著しく増大させることが可能である。対応的に、振動系の固有振動数が増大することですべての空間方向において際立った補強作用が得られる。
【0011】
合目的な他の構成では、増大した動力学的曲げ荷重の作用方向におけるグリップパイプの剛性が当該作用方向に対し交差する方向でのグリップパイプの剛性よりも大きいようにラミネートはグリップパイプの周方向に配分して構成されている。増大した動力学的ねじり荷重の部位においては、繊維角がグリップパイプのパイプ軸線に対しほぼ±45゜であるのが有利である。曲げ剛性の増大は、たとえば一方向に(縦方向に)延びる繊維を含んだラミネート層を目的に応じて挿入することにより得ることができ、他方横力および/またはねじれの形態の剪断変形の増大は±45゜にある繊維により効果的に吸収することができる。ラミネートのわずかな横断面積で適宜大きな剛性を得ることができ、この大きな剛性は、ラミネートが軽量であることと関連して、振動系の固有振動数を所望どおりに高める。
【0012】
有利な実施形態では、グリップパイプは際立って湾曲した複数の湾曲部分と固定部分とを有し、湾曲部分と固定部分とは適当な補強要素により補強されている。これらの部分は大きな動力学的曲げ荷重、横力荷重、ねじり荷重にさらされ、目的に応じて補強することにより振動系の固有振動数を上昇させることができることが明になった。グリップパイプの他の領域は補強しないままでよい。この他の領域には横断面の膨出部を設ける必要がないのと同様に補助体を設ける必要もない。この補強しないままになっている領域においてグリップパイプはその人間工学的に好ましい基本横断面を維持することができる。特に、固定部分の補強部は該固定部分を越えてグリップパイプの更なる延在方向へ案内されている。この有利な実施態様は、固定部分の直接の領域はねじ止め力等により高荷重を受け、これに隣接している領域は曲げ荷重、横力荷重、ねじり荷重を受けることを考慮したものである。これに対応して荷重増大領域は目的に応じて補強されている。
【0013】
他の有利な構成では、ラミネートは炭素繊維を含み、特に炭素繊維のみを含むプラスチックから構成されている。これにより対応的に高い固有振動数を伴って剛性と重量との好ましい比率が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態を添付の図面を用いて詳細に説明する。
図1は手で操縦される作業機11(たとえばパワーチェーンソー)の斜視図である。作業機11は原動機ケーシング14を有し、原動機ケーシング14内には駆動原動機12(詳細には図示せず)が配置されている。原動機ケーシング14からは、駆動原動機12により駆動される切断チェーン17を周回案内させる案内板16が突出している。案内板16とは反対側の原動機ケーシング14の後部領域には後部グリップ15が配置されている。前部グリップ10はグリップパイプ1を有し、グリップパイプ1は重心付近で原動機ケーシング14を取り囲んでいる。グリップパイプ1は原動機ケーシング14の片側側面と作業機11の下面領域とに設けた2つの固定部分9を有し、これら固定部分9でグリップパイプ1がねじ13により原動機ケーシング14に固定されている。
【0015】
図2は図1のグリップパイプ1の詳細側面図である。グリップパイプ1は把持領域をグリップチューブ18で被覆されている。作動中にグリップパイプ1が把持されるのは作業機11の重心付近のグリップチューブ18の領域で(図1を参照)、駆動原動機12および/または切断チェーン17(図1)による振動励起によりグリップパイプ1は動力学的に振動変形する。グリップパイプ1の振動変形の第1の基本形状を図2において破線23で示した。この場合、グリップパイプ1は振動により発生する動力学的な形状変形高エネルギーの種々の部位3を有している。このような部位3は際立って湾曲している湾曲部分8と、グリップパイプ2のねじ13による固定部分9の領域とにある。
【0016】
図3は図2のグリップパイプ1の前面図であり、グリップパイプ1は振動により発生する動力学的な形状変形高エネルギーの部位3においてそれぞれ局部的に嵌合させたラミネート(積層)構造部4により補強されている。これらの部位3は2つの固定部分9およびそれに境を接している領域と際立って湾曲した2つの湾曲部分8とによって形成されている。固定部分9は組み立て状態で原動機ケーシング14(図1)に当接する当接面19を備えた領域にわたって延在している。
【0017】
嵌合させて補強したラミネート構造部4は固定部分9を越えてグリップパイプ1の更なる延在方向へ案内されており、その際下部固定部分9の補強部とこれに境を接している湾曲部分8の補強部とは互いに移行しあっている。
【0018】
グリップパイプ1は、振動により発生する動力学的な形状変形高エネルギーの部位3において、局部的に嵌合させたラミネート構造部4により局部的に補強されているのに対し、グリップパイプ1の残りの領域は補強していないグリップパイプ1により形成されている。
【0019】
図4は図3のグリップパイプ1の概略横断面図であり、グリップパイプ1はその非補強部分(図3を参照)においてベースラミネート5から成っている。嵌合させたラミネート構造部4の領域には、ベースラミネート5の外面に補助ラミネート6が被着されている。補助ラミネート6は、図示した実施形態では、1つのカバー層21と、横断面軸線xに関して互いに対向している2つの一方向層20とから構成されている。ベースラミネート5と補助ラミネート6とはラミネート2を形成している。ラミネート2は繊維補強したプラスチックから製造されており、図示した実施形態では、繊維補強したプラスチックは炭素繊維のみを含んでいる。ガラス繊維および/またはアラミド繊維のような他の繊維材を含んだ混合ラミネートまたは同種ラミネートを設けてもよい。
【0020】
カバー層21はグリップパイプ1またはベースラミネート5の周囲に分配された膨出部を形成しており、これによりグリップパイプ1はパイプ軸線7のまわりでのねじり剛性が増大するとともに、横断面軸線xおよびこれに対し交差する軸線のまわりでの曲げ剛性が増大する。一方向層20内部の繊維はパイプ軸線7に平行に延びている。したがってラミネート2の補助ラミネート6は、横断面軸線xを中心にして作用する曲げモーメントMにより増大する動力学的曲げ荷重の作用方向でのグリップパイプ1の剛性がこれに対して交差する方向での剛性よりも大きくなるように、グリップパイプ1の周方向に配分して設けられている。曲げモーメントMによりラミネート2内に発生する縦方向応力は実質的に一方向層20により吸収され、他方横断面軸線xに対し交差する方向に作用する横力によって発生する剪断応力は主にベースラミネート5とカバー層21とにより吸収される。
【0021】
図5は図4のグリップパイプ1の概略部分側面図であり、曲げモーメントMを吸収するための一方向層20はパイプ軸線7に対し適当な間隔をもっている。格子状の線22で示したように、ベースラミネート5とカバー層21(図4)の繊維はパイプ軸線7に対しほぼ±45゜の繊維角で配置されている。これにより、増大した動力学的ねじりモーメントTのために増大するねじり荷重を効果的に吸収することができる。繊維層は主応力が定方位性を持つように方向づけられているのが合目的である。この場合、増大した動力学的横力Qの結果生じる剪断荷重はベースラミネート5とカバー層21(図4)とを備えたラミネート二重構造部4により吸収される。この場合も繊維角はパイプ軸線に対し±45゜であるのが有利である。
【0022】
図1ないし図5に図示したグリップパイプ1の補強は、グリップ10(図1)を備えた作業機11から生じる振動系の固有振動数がたとえばほぼ230Hzであるように実施されている。図1の駆動原動機12の完全負荷時および切断チェーン17を切断物に入れたときの作動回転数はほぼ200Hzの励起振動数に相当しており、ほぼ230Hzの振動系の固有振動数は駆動原動機12の作動回転数または励起振動数よりも高い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】グリップを備えたパワーチェーンソーを例にした、手で操縦される作業機の概観斜視図である。
【図2】動力学的作動荷重を受けている図1のグリップパイプの側面図である。
【図3】補助ラミネートを局部的に装着した図2のグリップパイプの前面図である。
【図4】図2および図3のグリップパイプの補助ラミネート領域における概略横断面図である。
【図5】ラミネート繊維が斜めに延びていることを示す図4の構成の側面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 グリップパイプ
2 ラミネート
3 動力学的な形状変形高エネルギーの部位
4 ラミネート構造部
5 ベースラミネート
6 補助ラミネート
7 パイプ軸線
8 湾曲部分
9 固定部分
11 パワーチェーンソー(作業機)
20 一方向層
x 横断面軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維補強したプラスチックを含んでいるラミネート(2)から製造されるグリップパイプ(1)を備えたパワーチェーンソー等の手で操縦される作業機のグリップにおいて、
グリップパイプ(1)が、振動により発生する動力学的な形状変形高エネルギーの部位(3)において、局部的に嵌合させたラミネート構造部(4)により補強されていることを特徴とするグリップ。
【請求項2】
グリップパイプ(1)のラミネート(2)がベースラミネート(5)を有し、ベースラミネート(5)は前記形状変形高エネルギーの部位(3)において補助ラミネート(6)によって膨出処理されていることを特徴とする、請求項1に記載のグリップ。
【請求項3】
補助ラミネート(6)がベースラミネート(5)の外面に被着されていることを特徴とする、請求項2に記載のグリップ。
【請求項4】
増大した動力学的曲げ荷重の作用方向におけるグリップパイプ(1)の剛性が当該作用方向に対し交差する方向でのグリップパイプ(1)の剛性よりも大きいことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一つに記載のグリップ。
【請求項5】
増大した動力学的ねじり荷重の部位における繊維角がグリップパイプ(1)のパイプ軸線(7)に対しほぼ±45゜であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一つに記載のグリップ。
【請求項6】
グリップパイプ(1)が際立って湾曲した複数の湾曲部分(8)を有し、これら湾曲部分(8)のうち少なくとも1つの湾曲部分(8)が局部的に嵌合させたラミネート構造部(4)により補強されていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか一つに記載のグリップ。
【請求項7】
グリップパイプ(1)が局部的に嵌合させたラミネート構造部(4)により補強されている固定部分(9)を有していることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一つに記載のグリップ。
【請求項8】
補強部が固定部分(9)を越えてグリップパイプ(1)の更なる延在方向へ案内されていることを特徴とする、請求項7に記載のグリップ。
【請求項9】
ラミネート(2)が炭素繊維を含み、有利には炭素繊維のみで構成されていることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか一つに記載のグリップ。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか一つに記載のグリップ(10)を備えた作業機。
【請求項11】
グリップ(10)を備えた作業機(11)から発生する振動系の固有振動数が種々の作動条件の下での作業機(11)の励起振動数範囲外に離調しており、特に作業機(11)の駆動原動機(12)の作動回転数よりも上にあることを特徴とする、請求項10に記載の作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−7774(P2006−7774A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181892(P2005−181892)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(598052609)アンドレアス シュティール アクチエンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (95)
【Fターム(参考)】