説明

手の衛生システム

医療施設の衛生遵守を監視するシステムが提供される。システムは、施設内の複数の患者と複数の医療従事者のための複数の個人タグと、1メートルの距離内にある患者の個人タグを認識する、医療従事者により携帯されるセンサと、0.5メートルの距離内で前記センサにより認識されるタグを備えた洗い場と、医療従事者により携帯される制御装置とを備え、前記制御装置は、前記複数の個人タグのうちの1つを携帯している医療従事者が、前記複数の個人タグのうちの1つを携帯している患者と接触する前に洗い場にアクセスしたか否かを検出するようにプログラムされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は手の衛生システムに関し、より詳細には手の衛生の監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
病院患者による感染は重大な医療問題である。世界保健機関(WHO)および他の健康管理機構ならびに機関は、手を介した病原体の伝染を低減するために、医療従事者に適切な手の衛生を実行するよう奨励している。推奨されている手順は、患者に直接接触する前、侵襲的な非外科手術の前、手袋をはめる前、体液粘膜、無傷でない皮膚、創傷被覆材、無傷の皮膚および患者付近の無生物との接触後に、手の汚染を除去することを含む。
【0003】
これらの手順は、病院、医師の診療室、およびこれらの従事者が患者と接触する場所であればどのような場所でも適用される。さらに、患者への訪問客も、適切な手洗い手順を実行することが一般に勧められる。場合によっては手への抗菌製剤の適用が手洗いの代わりに用いられることもあるが、いずれの場合も、目標は、医療(ヘルスケア)提供者の手の微生物負荷を低減し、患者または医療提供者の汚染を予防することである。
【0004】
米国で病院へ受け入れている人の約10人のうちの1人は、滞在中に新たに感染する。これらの院内感染の結果、米国では1年当たり約100,000人が死亡している。院内感染は、病院における患者の滞在の長さを増大させ、医療スタッフのレベルの向上、コストの増加、および資源の使用の増大の原因となっている。この状況は医療システムに対する全体的なストレスの大きな原因となり、待ち時間を増大させる。これらの院内感染のうちの約半分が、医療スタッフによる不十分な手の衛生遵守の結果であると推定されている。
【0005】
手の衛生遵守が院内感染および病原体の伝染を現象させる主要なsudanであるという重要な証拠がある。病原体は、医療従事者および患者の皮膚や、患者を包む表面上に通常存在する。このような生物は医療従事者の手に移り、数分間から数時間までの期間にわたって生存することが可能である。伝染過程の最終ステップは、介護者の汚染された手から、他の患者または清潔な環境の表面への生物の移動である。アルコールによる手のこすりは、石鹸と水で洗うよりも、病原体の伝染の現象に有効であるように見える。
【0006】
アルコールによる手のこすりの装着型ディスペンサは、固定の手洗い場を訪れなくてもすぐに利用できる手の衛生を提供することが可能であり、看護師のような忙しいスタッフにとっては特に手の衛生を行なうのに必要な時間を短縮することが可能である。
【0007】
不運にも、公表された研究によると、医療従事者による手の衛生の要件の遵守は、一般に平均で約40%であることが判明している。様々な従来の教育と管理の介在で意識を高め、短期間でこれを改善することは可能であるが、これは一般に持続可能な改善を提供しない。
【0008】
発明の名称が「手洗い遵守の測定および監視システム(Hand Washing Compliance Measurement and Monitoring System)」である特許文献1等のいくつかの先行技術システムは、遵守を監視するものであるが、いくつかの欠点がある。かかるシステムのある欠点は、手洗いを行なうことが必要な場合にユーザを促すものがないか、またはユーザが適切な手洗いを行ったか否かにかかわらずユーザがある領域に入るたびに手洗いを促されるかのどちらかであることである。どちらのシナリオも、手洗いの遵守を改善するようにユーザまたは介護者を促すようには思われない。
【0009】
個人識別タグをコード化するのに、無線識別技術(RFID)が広く使用されている。2種類のRFID:(1)識別コードを送信する内部動力源を有さず、IDコードの送信を達成するのに電磁的による充電が必要とされる(すなわちIDタグが充電アンテナを備えた読取装置の近くに配置されなければならない)受動型の送信器の種類、(2)読取装置が解できるようIDコードを連続的に送信する内蔵型バッテリを備えた能動型の送信機。受動型RFID(一般に小売り取引のためにクレジットカード/デビットカードにより使用される)は、着用者が自身のIDタグを扱い、それをRFID読取装置の近くに配置するよう要求するため、手の衛生監視システムには適していない。医療従事者にとって、この余分な工程は、医療従事者が1時間当たり少なくとも10〜20回、通常不潔な手で、IDタグを扱うことを意味する。
【0010】
能動型RFIDの使用により、ある周波数(例えば2.4GHz)で固有のIDコードを送信するIDタグは、同じ周波数に調整された読取装置により距離を開けて読みとることが可能である。よって、タグを読取装置に近づけるという上記の余分な工程はなくなる。しかしながら、RFID読取り装置が洗面器の位置にあり(ソープディスペンサに組み込まれてもよいし、それ自体独立の装置であってもよい)、能動型RFIDを着用した数人の人が洗面器の前にいるか洗面器の近くを歩いている場合、読取装置はそれらのタグすべてのIDコードを記録し、誰が実際に手洗いをしている人かを区別することができないだろう。各々がわずかに異なる周波数で数千までの固有IDを読取装置/検出器が検知することを可能にする周波数ホッピング等の代替技術によれば、その範囲内のすべてのIDタグがすぐに読み取られる/検知されるだろう。しかしながら、このような読取装置/検出器でも、実際に手洗いしている人が誰かを識別することができない。同じ状況は、能動型RFIDタグを着用している労働者が手を清潔にするためにすすぎが不要な消毒薬ディスペンサを使用する場合にも生じる。読取装置は、2人以上の人が周囲にいるかディスペンサのそばを歩いている時に、手を清潔にする手順を行っている人を識別するのに非常に高い可能性で誤りを犯すだろう。
【0011】
本明細書で説明する発明は、手の衛生の事象を行う人を識別する正確で最も単純な手段を提供する。
上記の先行技術はいずれも、2人以上の人が1つの洗面器またはすすぎ不要な消毒薬デ
ィスペンサで数秒以内に連続的に石鹸で消毒しているかまたはリンス不要な消毒を入れ替わりで行っている場合に(シフトチェンジの場合等に)それらの人を区別する方法は定めていなかった。さらに、例えば医者が数人の学生を連れて巡回している教育病院におけるように病室に複数の人がいると、各人の手の衛生状態を識別する必要が生じる。これらは監視システムが有用となるよう正確に取り扱わなければならない危機的状況であるが、いずれの先行技術でも取り組まれていなかった。
【0012】
どの労働者も、手の衛生手順を忘れることで否定的評価を与えられるだけよりも、ある仕事の前に手の衛生手順を行なうよう念押しされる方を好むため、不履行を単に記録する代わりに労働者に思い出させるよう監視システムが適時に事前の促しを提供可能であることが必要である。さらに、そのような促しは、労働者を当惑させないように、または顧客との関係もしくは患者と介護者との間の関係を乱さないように、控え目であるべきである。商用システムおよび先の技術の多くは反応的な促しとして点滅標識および可聴警報を使用し、それにより労働者が受入れる機会を完全に損なうだけでなく、その効果も台無しにしていた。本発明の事前の促しは、労働者に適時控え目な方法で手の衛生を行うよう思い出させるだけでなく、かかる念押しを繰り返して単に必要とされるように手の衛生を行わなかったことを記録するのではなく遵守を確実にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,392,546号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
よって、病原体の移動が危険となり得る環境での手の衛生遵守の向上を促進する、改善されたシステムおよび方法が非常に望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明の目的は、利便性を向上させかつ必要な場合に適切に促すことにより手の衛生遵守を促進する、改善されたシステムおよび方法を提供することにある。本発明のシステムは医療施設における手の衛生遵守の評価を提供する。
【0016】
本発明は、病院または他の医療施設内の安全で衛生的な週間を促進するよう設計された方法、システムおよびシステム構成要素を提供する。
本発明の方法は、医療従事者または他の訪問客等の人が、患者の近くにいるかまたは患者と接触しているか否かを、近接センサで検知することを含む。用語「近接」とは、患者が位置する病院ベッド、患者担架、囲い付ベッド等の患者支持装置のアーム長さの範囲内にあることとして定義されてよく、それは患者自身からの距離よりも幾分大きな距離であり得る。方法はさらに、人が手の消毒剤のような消毒用装置を始動させたか否かを判定することを含む。人が患者に近接しているかまたは患者と接触しているが、手の消毒剤を始動させていなければ、注意および/または警告信号が生成されるが、それは多くの態様をとることが可能であり、多くの選択された応答のうちの任意のものを引き起こし得る。システムがどのようにプログラムされるかに応じて、生成された注意または警告信号は、人に手を洗うよう思い出させる表示装置の照明またはテキストメッセージを表示されるか、違反が起こったことをその人および/他者に忠告し、または、その人に患者の介護領域から退くように指示する。
【0017】
従って、本発明の態様は、医療施設における衛生遵守を監視するシステムであって、
施設内の複数の患者および複数の医療従事者のための複数の個人タグ、
1メートル、好ましくは0.75メートル、より好ましくは0.5メートル、最も好ましくは0.25メートルの距離内にある患者の個人タグを認識する、医療従事者により携帯されるセンサ、
1メートルの距離内で前記センサにより認識されるタグを備えた洗い場、および
医療従事者によって携帯される制御装置であって、複数の個人タグのうちの1つを携帯している医療従事者が複数の個人タグまたはIDバンド(帯)のうちの別の1つを携帯している患者に接触する前に洗い場にアクセスしたか否かを検知するようにプログラムされた制御装置、
を備えたシステム。
【0018】
好ましい実施形態では、本発明のシステムは、医療従事者によって携帯されるセンサに取り付けられる赤外線温度センサをさらに含む。この温度センサは、好ましくは医療従事者の手の動作領域に焦点を合わせる。これは、医療従事者の手首に温度センサ(医療従事者によって携帯されるセンサと共に)を固定することにより達成することが可能である。
【0019】
好ましくは、各個人タグは固有の(すなわち一意の)個人識別情報を有し、特定の患者と医療従事者の相互作用の追跡を可能とする。個々の手洗い場も、固有識別子を有してもよい。
【0020】
手洗い場は、ソープディスペンサを備えたシンク(流し)のような手洗い場を含んでも
よく、抗菌手こすりディスペンサを備えてもよい。好ましくは、手洗い場は、存在を検知するだけでなく、手の衛生状態の実際の使用を検知する作動センサをさらに備え、作動センサは制御手段に接続される。
【0021】
個人タグは、RFIDタグのような機械可読センサを含む。個人タグを携帯しているユーザの手の衛生状態は、好ましくは個人タグ自体に格納される。
制御装置は、患者との相互作用の数、適切な手の衛生が実行された場合の患者との相互作用の数、適切な手の衛生が実行されなかった場合の相互作用の数、および患者との相互作用後に適切な手の衛生が実行されたか否かを記録するプロセッサを備える。
【0022】
好ましくは、制御装置は、「清潔である(CLEAN)」以外の状態の医療従事者の個人タグが患者の個人タグに近づいた場合に警告を提供可能な、何らかの警報装置を組込んでいる。警告は耳で聞こえるものであっても目で見えるものであってもよい。
【0023】
好ましくは、個人タグは、その持ち主の手の衛生状態を示す状態表示を含む。そのような状態表示は、手の衛生状態の視覚表示を提供し、さらに状態の変化の可聴な表示を提供してもよく、または不適当な患者への接触の可聴な警告を提供してもよい。
【0024】
システムは好ましくは、「清潔である」または「汚染されている可能性がある」等のユーザの手の衛生状態を格納する。この状態は、患者との接触後に「清潔である」から変化する。患者との接触にかからわず、所定時間後にも「清潔である」から変化するであろう。
【0025】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、医療従事者によって着用された個人タグは、医療従事者の手の衛生状態を示す状態表示を含む。好ましくは、状態表示は、手の衛生状態の視覚表示を提供し、状態表示は状態の変化の可聴な表示を提供する。好ましくは、個人タグが患者の個人タグの一定の近接範囲内にあり、手の衛生状態が「清潔である」以外の場合に、状態表示は可聴な警告を提供する。
【0026】
本発明の好ましい実施形態は、医療従事者が患者、訪問客、または別の医療従事者の皮膚と接触したか否かを検知することが可能な装置をさらに提供する。この装置は上述のシステムに具現化してもよいし、例えば医療従事者が創傷ケア介入または別の人の皮膚が接触する同様の活動を行なう場合に、感染性の皮膚接触の可能性を判定するための独立したシステムとして実施してもよい。 この実施形態による皮膚接触の検出は、電気皮膚反応(GSR)、温度変化の検出、皮膚電気反応(EDR)、運動パターン認識(MPR)および心電図(EMG)からなる技術のうちの1つまたは複数によって達成されてよい。
【0027】
GSRは2つの電極間の皮膚の伝導度の測定である。電極は、皮膚の両端に安全で微細な小電圧を加える小さな金属製のプレートである。本発明では、電極は塩化銀電極パッチを使用して医療従事者の指に一般に取り付けられる。抵抗を測定するために、小電圧が皮膚に加えられ、皮膚の電流伝導度が測定される。医療従事者が別の人の皮膚と接触する場合、GSR装置によって測定される伝導度は急に変化するが、これは皮膚接触が起こったことを示す。
【0028】
筋電図(EMG)は筋肉の張力を測定する。2つの電極(またはセンサ)が監視される医療従事者の腕の下の筋肉の上の皮膚に置かれ、手首の筋肉活動は、例えば患者と握手するためまたは創傷ケアのために、手が使用されていることを示す。
【0029】
筋肉張力の監視と同様に、皮膚温の測定も医療従事者が患者と接触しているか否かを判定する有用なツールである。皮膚温度センサは手に隣接して(例えば手首の上に)配置さ
れるべきであり、手の周囲の領域の温度が増加すれば、それは、医療従事者が患者、訪問者、または別の医療従事者の皮膚に近接していることを示す。
【0030】
皮膚電気反応(EDR)は、皮膚の伝導率または抵抗の測定を含む。2人の間で皮膚接触が起こるとEDRは変化するため、例えば医療従事者が患者との接触により汚染された可能性があることを示すために、同様に使用され得る。
【0031】
手首の特定の運動パターンの検出も、創傷ケア動作の間に医療従事者が患者と接触したか否か判定するために使用可能である。この技術は運動パターン認識(MPR)とも呼ばれる。
【0032】
本発明の別の実施形態では、皮膚接触を決定するために、3Dで手首の位置および動きを決定するユニットが使用される。これに関し、医療従事者が例えば患者と握手する場合や、または創傷ケア動作を行う場合、手首の移動パターンは独特(unique)であることに注目する。手首の位置および移動の決定に関し、本発明は、3つの直交軸に沿った加速度測定を行なうよう動作する加速度計要素と、前記3つの直交軸に沿った回転速度を測定するよう動作するジャイロスコープ要素とを備えたユニットを想定する。
【0033】
本発明のさらに別の実施形態では、皮膚接触は、
地面に容量結合された医療従事者に、送信手段を供給する工程、
地面に容量結合された患者に、検知可能な電気特性を表す情報を示す受信手段を提供する工程、および
前記患者が医療従事者により接触された場合に前記受信手段により検出されるよう十分な大きさを有する時間で変化する信号を、医療従事者の体を横切って渡すよう前記送信手段を動作させる工程、
により検出される。重要なことは、患者は個別化されたIDタグを備えた受信機を有する。この実施形態では、物理的接触、および従って汚染の可能性が検知される。特にこれが達成されるのは、受信手段がIDタグを備え、前記医療従事者と前記患者が互いに接近および/または接触した時にIDタグが医療従事者に送信されて患者に取り付けられた第2の受信手段を通じて検知されるためである。そのような場合、本発明は、上述に従って手の清浄操作を行うよう医療従事者に警告する警報装置または他の手段を提供する。
【0034】
適切な電子機器および命令セットの使用によって、本発明は、以下の項目を提供する手の衛生監視システムを与える。
・連続モニタリング
・スタッフに手洗いまたは手の清浄を適時に控え目に思い出させる
・通常の業務流れまたは手洗い手順を乱さない
・手洗いまたは清浄を行っている人の識別における絶対的精度。
【0035】
これは、手の衛生の欠如または不適当な手の衛生によるスタッフによる交差感染を最小限にすべく医療施設、食品サービス業、ホテル、観光船、温泉地、およびフィットネス/ジムにより要求される性能を発揮可能なシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の種々の特徴を組込んだ衛生監視システムの図。
【図2】RFIDセンサ (送受信機)と、患者との接触を検知する温度センサとを装備した医療従事者の手首および手。
【図3】本発明による身体内および身体間の電力およびデータ伝送の概略図。
【図4】送信された信号、皮膚接触前に受信された信号、および皮膚接触後に受信された信号を簡略化したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の適用は、以下の説明に記載されるかまたは図面に示された構成要素の構成および配置の詳細に限定されない。本発明は他の実施形態であってもよく、種々の方法で具体化され、または実施されてよい。また、本明細書で使用される言い回しおよび用語は説明を目的とするものであって、限定と見なされるべきでない。「含む」「備える」または「有する」、ならびに本明細書におけるこれらの用語の変化形は、その用語の後に列挙されたものとその等価物を包含するのみならず、追加のものも包含するものとする。別の限定がない限り、「接続された」「結合された」および「装着された」、ならびに本明細書におけるこれらの用語の変化形は、広義に使用され、直接および間接の接続、結合および装着を包含する。さらに、用語は「接続され」および「結合され」ならびにその変化形は、物理的または機械的な接続または結合には限定されない。
【0038】
さらに、そして以後の段落に記載されているように、図面に示された特定の機械的構成は、発明の実施携帯を具体的に例証することを意図しているが、本願開示の教示の範囲内にあると考えられる別の代替機械的構成が可能である。さらに、別段の定めがない限り、用語「または」は包括的であるものとする。
【0039】
ここで、本発明の種々の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、ヘルスケア施設用の手の衛生遵守システムを示す。医療従事者1、患者2または訪問客3等の施設内の人々は各々、個人タグ4を備え、個人タグ4は固有の(一意の)識別のための数字を組み込んでいる。例えばブレスレットにタグを組み込むことにより、タグは手首に固定される。タグは、好ましくは接近ロケータまたはローカルの通信手段である何らかの形式を組み込んでいる。例えば、本発明の好ましい実施形態では、タグは無線識別(RFID)タグを組み込んでいる。
【0040】
患者との接触は、患者および他の医療従事者によって携帯される個人タグの接近を検知すべく、医療従事者の個人タグに隣接する位置にあるセンサ5により決定される。複数のセンサや、種々のタイプのセンサが使用されてもよい。例えば、個人タグ中のRFIDタグを読みとるために、人の手の接近を検知する受動型赤外線放射(IR)センサがRFID送受信機と共に使用され得る。
【0041】
医療従事者のRFID送受信機5は、所望の周囲に対して等価な範囲を有していてもよい。該周囲は好ましくは、別の人のタグから約1メートルである。周囲が遠すぎる場合、偽の接触を登録する場合があり、周囲が小さすぎる場合、接触を登録しない場合がある。RFID送受信機は、追加のより狭い周囲(例えば10cm)で設定されてもよく、これは医療従事者が患者、訪問客またはもう一人の医療従事者と握手したことを示す。
【0042】
他の機械可読の表示システムが使用されてもよい。RFIDタグは、安価であるため、離れていても読み取れ、いくつかのタイプではデータの書き込みおよび更新が可能であるため、本願に特に適している。
【0043】
手洗い場6(例えば、抗菌薬手こすりディスペンサや、流水および手洗いのための石鹸または洗剤の供給を備えた流しのような手洗い場)は、RFIDトランスポンダ7を備えている。医療従事者が手洗い場を使用する場合、RFIDトランスポンダ7は医療従事者の送受信機により認識される。
【0044】
好ましくは、RFID送受信機は何らかの形式の通信を通じて中央データ処理ステーションに接続される。かかる通信は高周波通信の形式をとることが可能である。
その基本的操作において、本発明の衛生遵守を監視するシステムは、患者を感染させる
見込みを低減させるために、個人タグと共にRFID送受信機を使用して、患者に接近した医療従事者が手を洗ったかまたは抗菌薬の手こすりを施したかを確実にする。これは多くの種々の方法で実施可能である。単純な1つの実施例は、手洗い場で人の存在を検知し、次に、RFIDタグまたは中央処理装置の一方または両方に人の状態が今「清潔である」という信号を送信する。
好ましくは、医療従事者のタグは、あるオーディオ出力装置の様式のディスプレイを備えている。ディスプレイは1つまたは複数の色分けされた照明と同程度に単純であってよく、好ましくは標識が付けられている。したがって、医療従事者が患者に接近すると、ディスプレイは緑色の照明または「清潔である」状態の表示により、その人が患者を訪ねる前に手の衛生に気を配ったことを示すだろう。
【0045】
状態が「清潔である」ではなく、「汚染の可能性がある」である場合、タグは警告を示すだろう。好ましくは、警告は、ディスプレイ上の警告照明もしくは警告メッセージや、ブザー音またはより好ましくは手の清浄に気を配るようにとの音声命令を含む。
【0046】
患者を離れた後、この時点でRFIDタグは「汚染の可能性がある」の状態を有するだろう。「汚染の可能性がある」状態は、手洗い場と以前に接触がなかった場合にも当てはまるだろう。手洗い場を訪問すれば、状態は「清潔である」に戻るよう変更される。「清潔である」の状態は、他の患者、医療従事者、または訪問客との接触がさらにないと仮定して、所定期間の間有効である。
【0047】
他の実施およびデータ保存を本発明に含むことが可能である。例えば、様々な人の遵守率を追跡することが可能である。追跡はRFIDタグ自体でまたは中央処理装置で行なうことが可能である。報告書を生成し、それを人が遵守を改善するよう助けるために使用することが可能である。そのような報告書は、所定期間内に「清潔である」以外の状態で患者の位置にその人が接近した回数を含んでよい。どの患者が接近されたかを追跡してもよく、施設内の感染の伝達を追跡するために患者の記録と比較されてもよい。
【0048】
手洗い場6での遵守は、存在によって仮定されてもよいし、一定期間の間の存在によって仮定されてもよいし、手洗い場で石鹸がディスペンスされたときを読み取るセンサ等の手洗い場のセンサや抗菌剤のハンドゲルが手こすりディスペンサでディスペンサされたときを読み取るセンサにより確認されてもよい。手の衛生場がユーザの体に着用されている携帯型の抗菌剤の手こすりディスペンサからなる場合、そのようなセンサは重要であろう。
【0049】
手の衛生手順は、通常、手洗い場で一定の長さ手をこすることを必要とし、石鹸のディスペンス後の流水時間が測定されてもよい。近接センサ(特に水の流れを始めるためにすでに使用されているもの)も、手が水の流れの中にあるか否かを確かめるために得られてもよい。
【0050】
図2は、本発明によるシステムの好ましい実施形態を示す。この実施形態では、システムは医療従事者によって携帯されるセンサ11に取り付けられた赤外線温度センサ10をさらに備える。この温度センサは、好ましくは医療従事者の手の動作領域12上に焦点を当て、これは医療従事者の手首13に温度センサ(医療従事者によって携帯されるセンサと共に)を固定することにより達成することが可能である。
【0051】
手洗い手順を行っている、IDバンドを有する人は、IDバンドを着用している手をソープディスペンサの下に置き、ディスペンシングモータおよびインテリジェント制御盤を作動させるべく例えば赤外線近接センサを起動するだろう。活性なIDバンドは、非常に低い電力(1〜3マイクロワットの範囲、したがって、1メートル以下、好ましくは0.
5メートル以下、最も好ましくは0.25メートル以下の距離でディスペンサのRF送受信機回路により信号を読み取ることが可能である)で、その人のIDコードおよび着用者が手の衛生手順を行った最後の時間を含むデータストリングを、2Hzまたはより速い反復速度で連続的に送信するだろう。
【0052】
ディスペンシングモータが回転している間(または手動のディスペンシングタブを押し下げている間)、ソープディスペンサのインテリジェント制御盤は、着用者の最も最近の手洗いまたは手の清浄のデータと共にIDバンドから人のIDコードを受け取るように作動される。2人の異なる人々が自身の手を(あまりありそうでないことであるが)を例えばソープディスペンサの0.5メートル以内の範囲に同時に置いた場合、制御盤はその人の最後の手の衛生事象からより長い時間が経過している人が有するIDコードを選択するだろう。その後、制御盤はこの人のIDコードをリードエレメント(先行要素)として自身のディスペンサIDコードに加え、IDバンドに送り返す。この送信は、より出力が高く(2〜3ミリワットの範囲)、2秒の期間の間2Hzかそれよりも高い反復速度で起こり、IDバンドが1.5メートル以下まで離れていてもこの信号を受け取ることを可能にする。ちょうど石鹸をディスペンスした人の隣に立っているか、または1.5メートル半径の範囲内で歩いているIDバンドをした任意の他の人は、リードエレメントと同じ人IDコードを有しないため、ソープディスペンサの識別コードを解読することができない。第1のデータが手洗い事象の記録を構成するため、手洗い手順を行っている人のIDバンドは、ソープディスペンサの識別コードと共にその内部プログラマブルクロック回路からの時間日付を記録するだろう。
【0053】
ソープディスペンサのインテリジェント制御盤はさらに、ディスペンサが使われ始めた瞬間からタイマーを始動する。5秒ごとに、制御盤はリードエレメントとして引き金を引くIDバンドの人IDコードを備えたタイミングマークを送信するだろう。5〜6個のタイミングマーク信号が送信されるまでそうするだろう。本発明を実行する機関によって命令されるような、より長い手こすりとすすぎを守らせるように、タイミングマークの数は変更することが可能でありすすぐことが可能である。最初の10または15秒間の間、制御盤は、ディスペンサ正面の表示パネル上に「手をこすりなさい(SCRUB)」を点滅させるだろう。その後、次の10または15秒間の間、表示パネル上に「すすぎなさい(RINSE)」を点滅させるだろう。ここでも、この事前の手の衛生監視システムを実施する機関は、手こすりおよびすすぎの時間をカスタマイズすることが可能である。手洗い手順を行っている人のIDバンドは、これらのタイミングマークを記録し、着用者が適切な手洗い工程(つまり少なくとも10秒間の石鹸での手のこすりと10秒間の水でのすすぎをしてから洗面器から立ち去ること)を行っているかいないかを示すだろう。5および/または6個の(またはより多くの)タイミングマークが、手洗い事象の第2のデータを構成する。
【0054】
第3のデータは、手洗い手順を経験する人のIDバンドにより行なわれる。5および/または6個のタイミングマークを受け取ると、IDバンドはその事象に「合格」の評価および30秒の持続を割り当てる。最後の2つのタイミングマーク(20/25秒目または25/30秒目)が見当たらない場合、「不合格」の評価および20秒未満の持続がこの事象に対して記録される。5番目または6番目のタイミングマークを発した後、制御盤は、バッテリ電力を保存するためにソープディスペンサをスタンバイモードに入れる。
【0055】
時々、人が最初のディスペンス後に追加の石鹸の割り当てを望むことがあるかもしれない。インテリジェント制御盤は、第2の割り当ての要求が最初の割り当ての要求の2秒以内に生じた場合に、第のディスペンシングを1回の手洗いの事象として扱う。後続のタイミングマークおよび信号の送信はすべて、最初のディスペンシングのタイミングおよび既に読まれていたIDバンドの人コードに基づく。しかしながら、ディスペンシングの始ま
りが2秒より後に起これば、インテリジェント制御盤は再びIDバンドコードを読み、それが依然として同一人物であるか否かを確認する。それが同一人物であれば、上述のプロセスが継続される。それが同一人物でなければ、制御盤はほぼ同時に同じ洗面器で手洗いする2人の並行動作を実行するだろう。繰り返しになるが、ディスペンサはそれ自身のIDコードを発行すると共に、リードエレメントとして2つの別個の人IDバンドコードを備えた複数のタイミングマークを発行するため、将来のIDバンドによって記録されるデータの混乱はない。
【0056】
ソープディスペンサの正面に装着されたパルス赤外線近接センサは、該センサの1.5メートル以内またはより長い検出範囲にいる人々を検知する。人を検知すると、線さは事前の「点検しなさい(CHECK)」信号を送信するよう無線送受信機を作動させる。ソープディスペンサの1.5メートル以内にいるIDバンドを着用している人はどの人もこの信号を受け取り、その人のIDバンドはその人が手を洗ったか清潔にした最後の時をチェックする。(機関の手の衛生ガイドラインにより決定された)指定の時間の長さを超えていれば、IDバンドは、洗面器のそばを歩いている人に手洗いを思い出させる促し(prompt)(振動または低音)を発する。促しが発せられると、遵守および非遵守が、時間−日付と共にIDバンドにより記録される。手の衛生作業が必要でない場合、記録は入力されない。このアプローチにより、労働者にとって全く透明な事前の促しおよび監視がなされ、作業が必要でない場合のその人の作業ルーチンの混乱をなくす。各人が自身のIDバンドを有するため、IDバンドは促しに対して独立に反応し、したがって、洗面器およびソープディスペンサの隣りに存在する人の数は、手の衛生ガイドラインを遵守するよう個々の労働者に促す際のその有効性に影響を及ぼさない。
【0057】
図3は、本発明による身体内部および身体間の電力およびデータ伝送の略図であり、身体に入る変位電流の容量結合と電流の戻り経路としての環境の使用とを反映している。図3に示される概略的配置は、容量結合の身体内部モードと身体間モードの両方に有効である。図では、送信機が、キャパシタンスとして表わされる容量結合によりユーザの身体に交流信号を適用する。この信号は、容量静電結合を介した接触前か、容量静電結合とガルバノ結合の両方を介した接触時に、ユーザの体を通過して、別の人の身体に装着された受信機に至る(つまり信号は容量結合および/またはガルバノ結合されて位相シフトが生じる)。送信機および受信機はすべて周囲の地面(接地)に容量結合されている。各々のキャパシタンスは空気と地面の組み合わせである。また、人の近くの材料が寄与する場合がある。一般に、顕著なキャパシタンスは約1−10pF(ピコファラド)である。図示しないが、種々の寄生容量がある。これらは通常無視できるが、構成によっては動作に干渉する場合がある。
【0058】
特に図3では、人1が着用している靴に埋め込まれた平板コンデンサ(2)に送信機(1)が接続される。送信機は、接続されたコンピュータ(5)により制御された特定周波数で交流電圧信号により平板コンデンサを励起させる。この配置によって、人1は周囲に対して全身の全体にわたって交流電界(E)を発する。
【0059】
人2は、腕時計に埋め込まれていた平板コンデンサ(4)に接続されている。平板コンデンサ(4)によって拾われた信号は、受信機(3)に送られる。受信機(3)は対象の所望の周波数を増幅する。その後、この信号はさらなる処理のためにPC(5)に送られる。
図4は、送信された信号(1)、皮膚接触前に受信された信号(2)、および皮膚接触後に受信された信号(3)を簡略化したグラフを示す。図4に見られるように、人1が人2に接触した(皮膚接触した)場合、送信信号(1)に対して受信信号には位相シフトが観察される。
【0060】
身体間結合の構成では、第1の人の送信機は、第2の人からは物理的に変位している。第2の人は、接近すると、第1の人(送信機電極を装備)に静電結合されるようになる、静電気導体としての人体がなければ、送信機と受信機の間の容量結合は、互いに数センチメートル以内にこない限り、無視できる。身体は結合領域を有効に延びている。身体が接触すると、信号の位相が変化し、これが患者から医療従事者にID信号を送り返すために使用される。
【0061】
別のアプローチでは、ユーザの体が双方向のデータ伝送路として使用され、着用された装置が(単に検知可能な電気特性を調整するのではなく)実際に情報を送信する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療施設における衛生遵守を監視するシステムであって、
施設内の複数の患者および複数の医療従事者のための複数の個人タグ、
1メートルの距離内にある患者の個人タグを認識する、医療従事者により携帯されるセンサ、
0.5メートルの距離内で前記センサにより認識されるタグを備えた洗い場、および
医療従事者によって携帯される制御装置であって、複数の個人タグのうちの1つを携帯している医療従事者が複数の個人タグのうちの1つを携帯している患者に接触する前に洗い場にアクセスしたか否かを検知するようにプログラムされた制御装置、
を備えたシステム。
【請求項2】
医療従事者によって着用される前記個人タグは、医療従事者の手の衛生状態を示す状態表示を含む請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記状態表示は手の衛生状態の視覚的表示を提供する請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記状態表示は状態の変化の可聴な表示を提供する請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記状態表示は、前記個人タグがある患者の個人タグの一定の近さの範囲内にある場合に可聴な警告を提供し、前記手の衛生状態は「清潔である」以外である請求項2に記載のシステム。
【請求項6】
前記センサは医療従事者の手の動作領域に焦点を合わせた赤外線温度センサをさらに備える請求項1〜5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記センサは医療従事者の手首に固定される請求項1〜6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
医療施設における衛生遵守を監視するシステムであって、
施設内の医療従事者、患者および訪問客の間の皮膚接触を検知する装置、
1メートルの距離内にある患者の個人タグを認識する、医療従事者により携帯されるセンサ、
0.5メートルの距離内で前記センサにより認識されるタグを備えた洗い場、および
医療従事者によって携帯される制御装置であって、ある医療従事者が患者、訪問者、または別の医療従事者に皮膚接触する前に洗い場にアクセスしたか否かを検知するようにプログラムされた制御装置、
を備えたシステム。
【請求項9】
前記皮膚接触を検知する装置は、電気皮膚反応(GSR)、温度変化の検出、運動パターン認識(MPR)、皮膚電気反応(EDR)、および筋電図(EMG)からなる技術のうちの1つまたは複数から選択される請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記装置はGSRに基づく請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記装置は医療従事者の手首に配置される請求項8〜10のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のシステムと組み合わされる請求項8〜11のうちのいずれか一項に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−513052(P2012−513052A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541455(P2011−541455)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067461
【国際公開番号】WO2010/070072
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(511144701)
【氏名又は名称原語表記】CLEAN CONTACT APS
【Fターム(参考)】