説明

手型用洗浄剤およびそれを用いるゴム手袋の製造方法

【課題】特に連続ライン式のゴム手袋の製造方法において、インライン洗浄により、手型に付着した汚れを短時間で効果的に洗浄できる手型用洗浄剤と、前記手型用洗浄剤を用いた洗浄工程を含むゴム手袋の製造方法を提供する。
【解決手段】手型用洗浄剤は、分子中にポリオキシエチレン基を有する界面活性剤群から選ばれた少なくとも1種を含む。製造方法は、前処理工程1、浸漬工程2、成膜工程3、および脱型工程4の各工程間で複数の手型を順に連続的に循環させることによりゴム手袋Gを連続的に製造するとともに、脱型工程4において皮膜を脱型した後の手型を、前記手型用洗浄剤を用いて洗浄して乾燥させたのち前処理工程1に送る洗浄工程5を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム等のエラストマからなる皮膜を備えたゴム手袋を製造する際に使用する手型の洗浄用として適した手型用洗浄剤と、前記手型用洗浄剤を用いて手型を洗浄する工程を含むゴム手袋の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム等のエラストマからなる皮膜を主体とするゴム手袋(ゴム以外のエラストマ、すなわち軟質の樹脂等からなるものを含む。以下同様。)は、使いやすさの点やあるいは安価であること等から、一般家庭はもとより、工場や医療現場、さらにはスポーツ等の幅広い分野において多用されている。
ゴム手袋の製造方法としては、前記ゴム手袋の立体形状に対応した手型を前記皮膜のもとになる液中に浸漬し、引き上げて乾燥させるとともにゴムの場合は加硫させたのち、手型から脱型する、いわゆる浸漬法がよく知られている。
【0003】
詳細には、例えば陶器等で形成した手型を用意し、前記手型を凝固剤溶液(多くは硝酸カルシウム水溶液)に浸漬したのち引き上げて所定時間乾燥させることで、前記手型の表面に、前記凝固剤溶液中に含まれる凝固剤成分(硝酸カルシウム等)を付着させる(前処理工程)。
次いで、前記手型を皮膜のもとになるエラストマを含む浸漬液、例えばゴムの場合はゴムラテックスを主成分とする浸漬液中に一定時間浸漬したのち引き上げることで、前記手型の表面に前記浸漬液を付着させる(浸漬工程)。
【0004】
次に、前記手型を加熱して表面に付着させた浸漬液を乾燥させるとともに、ゴムの場合は加硫させて前記皮膜を形成する(成膜工程)。
そして皮膜を手型から脱型すると(脱型工程)、前記皮膜を主体とするゴム手袋が得られる。
前記浸漬法によるゴム手袋の製造方法としては、前記各工程をライン化するとともに、複数の手型を用意し、前記複数の手型を、前記各工程間で順に連続的に循環させてゴム手袋を製造する、連続ライン式と呼ばれる製造方法が採用される。かかる連続ライン式の製造方法によれば、ゴム手袋の大量生産が可能である。
【0005】
前記連続ライン式の製造方法においては、ゴム手袋の製造を繰り返すうちに、各工程間を循環する手型の表面に汚れが付着し、前記汚れが付着したままの手型が次のゴム手袋の製造回に使用されると、前記汚れが、凝固剤溶液や浸漬液の手型への付着を妨げる原因となって、皮膜の厚みがばらついたり、ひどい場合には皮膜に孔があいたりするといった不具合を生じることが知られている。
【0006】
前記汚れの付着による不具合の発生を防止するためには、手型を洗浄する必要がある。
手型の洗浄方法としては、一旦ラインを停止し、手型をラインから取り外して洗浄するオフライン洗浄と、脱型工程と前処理工程との間に洗浄工程を設け、手型をラインから取り外さずに、一連の製造工程の中で、1回の製造回ごとに洗浄するインライン洗浄とがある。
【0007】
また、具体的な手型の洗浄方法としては、例えば洗浄剤をジェットスプレー等によって手型に吹き付けたり、前記手型を洗浄剤中に浸漬したりすることが行われる。
前記洗浄剤としては、例えば温水、塩酸などの酸性水溶液、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性水溶液等を用いるのが一般的である。
前記のうちオフライン洗浄によれば、手型の入念な洗浄が可能であるが、その間、生産ラインを停止しなければならないためゴム手袋の生産性の低下を招く。
【0008】
これに対し、インライン洗浄によればラインを停止せずに手型の洗浄とゴム手袋の製造とを続けることができるため、ゴム手袋の生産性は維持できるものの、前記生産性を考慮すると十分な洗浄時間を確保できないため、特に前記従来の洗浄剤を使用した洗浄では十分な洗浄効果が得られない傾向がある。
したがって、製造回ごとのインライン洗浄と、複数の製造回ごとの定期的なオフライン洗浄とを組み合わせるのが一般的である。
【0009】
固形ゴムやプラスチックの成形の分野では、金型を効果的に洗浄するための洗浄剤がいくつか提案されている。
例えば特許文献1には、0.5〜75質量%の割合でテトラアルキルアンモニウムハイドロオキサイドを含む水溶液からなるシリコーンレンズ成形用金型洗浄剤が記載されている。また特許文献2には、水性コロイダルシリカおよびポリカルボン酸塩を含む金型用洗浄剤組成物が記載されている。さらに特許文献3には、130〜150℃で変性しない多価アルコールを主成分とし、これに強アルカリを添加するとともに、さらに130〜150℃で変性しない界面活性剤を添加した金型洗浄剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−227792号公報
【特許文献2】特開2008−222823号公報
【特許文献3】特開平11−90398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記特許文献1〜3に記載の洗浄剤は、いずれも固形ゴムやプラスチックの成形工程において、金型に付着した汚れを洗浄するのには適したものであるが、浸漬法によるゴム手袋の製造過程で手型に付着する汚れを除去するためには必ずしも最適ではなく、特にインライン洗浄において短時間で十分な洗浄効果を得ることは難しい。
本発明の目的は、特に連続ライン式のゴム手袋の製造方法において、インライン洗浄により、手型に付着した汚れを短時間で効果的に洗浄できる手型用洗浄剤と、前記手型用洗浄剤を用いた洗浄工程を含むゴム手袋の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、発明者は、手型に付着する汚れについて鋭意分析および検討をした。その結果、分子中にポリオキシエチレン基を有する界面活性剤が、前記汚れを除去するために極めて有効であることを見出した。その理由は明らかになっていないが、発明者は下記のように考えている。
すなわち、ゴム手袋の製造過程で手型に付着する汚れは疎水性であり、そのため、いずれも水性である凝固剤溶液や浸漬液の手型への付着を妨げる。また疎水性であるため、温水や酸性水溶液、アルカリ性水溶液等の水性の洗浄剤では除去するのが難しい。
【0013】
ところが前記界面活性剤は、その分子中に含まれるポリオキシエチレン基が疎水性の汚れに吸着して、手型からの離脱を促進させる機能を有するため、前記汚れを効果的に除去することができる。
したがって本発明は、分子中にポリオキシエチレン基を有する界面活性剤群から選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とする手型用洗浄剤である。
【0014】
前記本発明の手型用洗浄剤は、アルカリ化合物をも含んでいるのが好ましい。
前記アルカリ化合物は、手型に付着した汚れの分解を促進する働きを有するため、汚れをさらに効果的に除去することができる。
また前記本発明の手型用洗浄剤は、低級アルコール類をも含んでいるのが好ましい。
前記低級アルコール類は手型用洗浄剤の浸透性を向上させて、前記手型用洗浄剤を手型の細部まで良好に浸透させる働きをするため、前記細部に付着した汚れまでさらに効果的に除去することができる。
【0015】
前記本発明の手型用洗浄剤は、連続ライン式以外のゴム手袋の製造方法や、前記連続ライン式のゴム手袋の製造方法におけるオフライン洗浄等において、手型の洗浄に使用できるが、前記のように手型に付着した汚れを短時間で効率よく除去する効果に優れるため、連続ライン式の製造方法におけるインライン洗浄に、特に好適に使用することができる。
すなわち本発明は、ゴム等のエラストマからなる皮膜を備えたゴム手袋を、
(1) 前記ゴム手袋の立体形状に対応した手型を凝固剤溶液に浸漬し、引き上げたのち乾燥させる前処理工程、
(2) 前記手型を、前記皮膜のもとになるエラストマを含む浸漬液中に浸漬したのち引き上げる浸漬工程、
(3) 前記手型を加熱して前記皮膜を形成する成膜工程、および
(4) 前記皮膜を手型から脱型する脱型工程、
の各工程間で複数の手型を順に連続的に循環させることにより連続的に製造する製造方法であって、前記脱型工程において皮膜を脱型した後の手型を洗浄して乾燥させたのち前記前処理工程に送る洗浄工程を含み、前記洗浄工程において、前記請求項1ないし3のいずれか1項に記載の手型用洗浄剤を用いて手型を洗浄することを特徴とするゴム手袋の製造方法である。
【0016】
前記本発明の製造方法においては、前記洗浄工程で、前記手型用洗浄剤の液温を50℃以上、70℃以下に設定して手型の洗浄に用いるのが好ましい。手型用洗浄剤の液温を前記温度範囲に設定することにより、前記手型用洗浄剤の汚れに対する浸透、および主成分である界面活性剤の汚れに対する相互作用(吸着)を促進して、手型に付着した汚れをさらに短時間で効率よく除去することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特に連続ライン式のゴム手袋の製造方法において、インライン洗浄により、手型に付着した汚れを短時間で効果的に洗浄できる手型用洗浄剤と、前記手型用洗浄剤を用いた洗浄工程を含むゴム手袋の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のゴム手袋の製造方法の一例における、手型の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〈手型用洗浄剤〉
本発明の手型用洗浄剤は、分子中にポリオキシエチレン基を有する界面活性剤群から選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とする。
特に、前記界面活性剤を水に溶解した水性の手型用洗浄剤が好ましい。前記水性の手型用洗浄剤は、ゴム手袋の製造ラインにおいて水性の凝固剤用液、および水性の浸漬液と同様に取り扱うことができ、取り扱いが容易である上、安全性が高いという利点がある。
【0020】
前記界面活性剤の種類は特に限定されないが、例えばアニオン系、ノニオン系等の種々の界面活性剤が使用可能である。
このうちアニオン系の界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン等の1種または2種以上が挙げられる。
【0021】
またノニオン系の界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンミスチリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル等の1種または2種以上が挙げられる。
【0022】
中でも、汚れを除去する効果の点で、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが好ましい。
前記界面活性剤の配合量は、手型用洗浄剤の総量中の5質量%以上、特に10質量%以上であるのが好ましく、25質量%以下、特に20質量%以下であるのが好ましい。
配合量が前記範囲未満では、界面活性剤による、先に説明した、汚れを吸着して除去する効果、すなわち洗浄効果が十分に得られないおそれがある。また前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られず、コスト等の面で好ましくない。また廃液処理等の手間がかかるおそれもある。
【0023】
前記本発明の手型用洗浄剤は、アルカリ化合物をも含んでいるのが好ましい。
アルカリ化合物は、手型に付着した汚れの分解を促進する働きを有するため、汚れをさらに効果的に除去することができる。
アルカリ化合物の種類は特に限定されないが、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の強アルカリ化合物が、汚れの分解を促進するという観点から好ましい。
【0024】
アルカリ化合物の配合量は、手型用洗浄剤の総量中の0.5質量%以上、特に1質量%以上であるのが好ましく、20質量%以下、特に10質量%以下であるのが好ましい。
配合量が前記範囲未満では、アルカリ化合物を含有させることによる、汚れの分解を促進する効果が十分に得られないおそれがある。また前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られず、コスト等の面で好ましくない。また廃液処理等の手間がかかるおそれもある。
【0025】
前記本発明の手型用洗浄剤は、低級アルコール類をも含んでいるのが好ましい。
低級アルコール類は手型用洗浄剤の浸透性を向上させて、前記手型用洗浄剤を手型の細部まで良好に浸透させる働きをするため、前記細部に付着した汚れまでさらに効果的に除去することができる。
低級アルコール類の種類は特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等の1種または2種以上が、前記浸透効果、コスト、および取り扱いやすさ等の観点から好ましい。
【0026】
低級アルコール類の配合量は、手型用洗浄剤の総量中の0.5質量%以上、特に1質量%以上であるのが好ましく、10質量%以下、特に5質量%以下であるのが好ましい。
配合量が前記範囲未満では、低級アルコール類を含有させることによる、手型用洗浄剤の浸透性を向上する効果が十分に得られないおそれがある。また前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られず、コスト等の面で好ましくない。また廃液処理等の手間がかかるおそれもある。
【0027】
〈ゴム手袋の製造方法〉
前記本発明の手型用洗浄剤は、連続ライン式以外のゴム手袋の製造方法や、前記連続ライン式のゴム手袋の製造方法におけるオフライン洗浄等において、手型の洗浄に使用することもできる。
但し、手型に付着した汚れを短時間で効率よく除去する効果に特に優れるため、本発明の連続ライン式のゴム手袋の製造方法によって、ゴム等のエラストマからなる皮膜を備えたゴム手袋を連続的に製造する際に、手型のインライン洗浄に使用するのが好ましい。
【0028】
図1は、本発明のゴム手袋の製造方法の一例における、手型の流れを説明するフローチャートである。図1を参照して、この例の製造方法では、ゴム手袋の立体形状に対応した手型を複数個用意し、前記複数個の手型を、前処理工程1、浸漬工程2、成膜工程3、および脱型工程4の各工程間で順に連続的に循環させることにより、ゴム手袋Gが連続的に製造される。前記手型としては、従来同様に陶器や金属等によって形成されたものを用いる。
【0029】
前記のうち前処理工程1では、手型を凝固剤溶液に浸漬したのち引き上げて所定時間乾燥させることで、前記手型の表面に凝固剤成分を付着させる。前記凝固剤溶液としては、従来同様に硝酸カルシウム水溶液等を用いる。
次の浸漬工程2では、先の前処理工程1において表面に凝固剤成分を付着させた手型を、前記皮膜のもとになるエラストマを含む浸漬液中に一定時間浸漬したのち引き上げることで、前記手型の表面に前記浸漬液を付着させる。
【0030】
前記浸漬液としては、例えばゴムの場合はゴムラテックスに加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤(活性化剤)、老化防止剤、充填剤、分散剤等の各種添加剤を加えて、未加硫もしくは前加硫状態とした浸漬液を用いる。
前記ゴムとしては天然ゴム、および合成ゴムの中からラテックス化が可能な種々のゴムがいずれも使用可能であり、かかるゴムとしては、例えば天然ゴム、脱蛋白天然ゴム、NBR、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0031】
加硫剤としては硫黄や有機含硫黄化合物等が挙げられる。前記加硫剤の添加量は、ゴムラテックス中の固形分(ゴム分)100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
加硫促進剤としては、例えばPX(N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛)、PZ(ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)、EZ(ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛)、BZ(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)、MZ(2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩)、TT(テトラメチルチウラムジスルフィド)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0032】
前記加硫促進剤の添加量は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
加硫促進助剤としては、例えば亜鉛華(酸化亜鉛)やステアリン酸等の1種または2種が挙げられる。前記加硫促進助剤の添加量は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
【0033】
老化防止剤としては、一般に非汚染性のフェノール類が好適に用いられるが、アミン類を使用してもよい。前記老化防止剤の添加量は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
充填剤としては、例えばカオリンクレー、ハードクレー、炭酸カルシウム等の1種または2種以上が挙げられる。前記充填剤の添加量は、ゴムラテックス中のゴム分100質量部あたり10質量部以下程度であるのが好ましい。
【0034】
分散剤は、前記各種添加剤をゴムラテックス中に良好に分散させるために添加されるものであり、前記分散剤としては、例えば陰イオン系界面活性剤等の1種または2種以上が挙げられる。前記分散剤の添加量は、分散対象である成分の総量の0.3質量部以上、1質量部以下程度であるのが好ましい。
樹脂の場合は、前記樹脂のエマルションに老化防止剤、充填剤、分散剤等の各種添加剤を加えて浸漬液を調製する。
【0035】
前記樹脂としては、塩化ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等の、エマルション化が可能な軟質の樹脂の1種または2種以上が挙げられる。
老化防止剤としては、先に例示した非汚染性のフェノール類やアミン類等の1種または2種以上が挙げられる。前記老化防止剤の添加量は、樹脂エマルション中の固形分(樹脂分)100質量部あたり0.5質量部以上、3質量部以下程度であるのが好ましい。
【0036】
充填剤としては、前記例示の充填剤の1種または2種以上が挙げられる。前記充填剤の添加量は、樹脂エマルション中の樹脂分100質量部あたり10質量部以下程度であるのが好ましい。
分散剤としては、前記例示の陰イオン系界面活性剤等の1種または2種以上が挙げられる。前記分散剤の添加量は、分散対象である成分の総量の0.3質量部以上、1質量部以下程度であるのが好ましい。
【0037】
次いで成膜工程3では、浸漬液から引き上げた手型を加熱することで、ゴムの場合は、前記手型の表面に付着させた浸漬液を乾燥させるとともに前記ゴムを加硫させて皮膜を形成する。
また樹脂の場合は、手型の表面に付着させた浸漬液を乾燥させるとともに、樹脂エマルションを形成していた樹脂の微細粒子を溶融一体化させて皮膜を形成する。
【0038】
次に脱型工程4では、形成した皮膜を手型から脱型することで、ゴム手袋Gが製造される。
前記ゴム手袋Gとしては、前記皮膜のみからなる単層構造のゴム手袋と、前記皮膜が繊維性の編手袋で補強されたサポートタイプのゴム手袋のいずれを製造することもできる。
すなわち手型に前記編手袋を装着した状態で前記前処理工程1〜脱型工程4を実施すれば、サポートタイプのゴム手袋を製造することができる。また手型に前記編手袋を装着せずに前記前処理工程1〜脱型工程4を実施すれば、単層構造のゴム手袋を製造することができる。
【0039】
次にこの例の製造方法では、皮膜を脱型した後の手型を、洗浄工程5において、先に説明した本発明の手型用洗浄剤を用いてインライン洗浄する。
インライン洗浄の具体的な方法としては、ライン上を流れる手型に、前記手型用洗浄剤を、ジェットスプレー等によって吹き付けるスプレー法や、前記手型を、ライン上を移動させながら順次、手型用洗浄剤中に浸漬する浸漬法等が挙げられる。特に洗浄剤との接触効率の観点からは浸漬法が好ましい。
【0040】
前記手型用洗浄剤の液温は、50℃以上に設定するのが好ましい。
液温を前記50℃以上に設定することにより、前記手型用洗浄剤の汚れに対する浸透、および主成分である界面活性剤の汚れに対する相互作用(吸着)を促進して、手型に付着した汚れをさらに短時間で効率よく除去することができる。
ただし手型用洗浄剤の液温が高すぎる場合には、洗浄を繰り返すうちに手型が徐々に蓄熱等して、例えば浸漬工程2において浸漬液に影響を及ぼすおそれがある。そのため手型用洗浄剤の液温は70℃以下に設定するのが好ましい。
【0041】
また、これらの効果の兼ね合いを考慮すると、手型用洗浄剤の液温は、前記範囲内でも55℃以上であるのが好ましく、65℃以下であるのが好ましい。
手型用洗浄剤による洗浄が終了した手型は、さらに水洗して十分に乾燥させたのち、再び前処理工程1に送られて、次の製造回に使用される。
なお洗浄工程5では、前記手型用洗浄剤による洗浄に、従来公知の他の洗浄法を組み合わせてもよい。前記他の洗浄法としては、例えば超音波洗浄やブラッシング等が挙げられる。
【0042】
また、前記手型用洗浄剤による洗浄の前後のいずれか一方または両方の時点で、他の洗浄剤を用いた洗浄を実施してもよい。前記他の洗浄剤としては、例えば金型の洗浄用途等に一般に使用される市販の洗浄剤や、塩酸、硫酸などの酸性水溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ性水溶液、あるいは温水等が挙げられる。
先に説明したように本発明の手型用洗浄剤によれば、分子中にポリオキシエチレン基を有する界面活性剤の作用によって、手型に付着した汚れを短時間で効率よく除去できる。そのためライン上を流れる手型を、一連の製造工程の中で、以上で説明したように1回の製造回ごとにインライン洗浄するだけで、前記手型の表面に汚れが付着するのを、これまでよりも確実に防止することができる。
【0043】
したがって、前記汚れの付着が原因で発生する皮膜の厚みのばらつきや孔あき等の不具合の発生率を抑えて、前記不具合のない高品質のゴム手袋を、生産性良く製造することができる。
また、時間のかかるオフライン洗浄を実施する回数を、極力少なくすることもできる。なお前記オフライン洗浄を、本発明の手型用洗浄剤を用いて実施するようにすると、かかるオフライン洗浄の時間を短縮することもできる。したがってゴム手袋の生産性をさらに向上できる。
【実施例】
【0044】
〈実施例1〉
分子中にポリオキシエチレン基を有する界面活性剤として、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール〔POEPOPG、花王(株)製のエマルゲン(登録商標)PP−290〕を用いた。
水に、前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールと、水酸化カリウムと、メタノールとを加え、かく拌して手型用洗浄剤を調製した。前記各成分の配合量は下記表1に示すとおりとした。
【0045】
【表1】

【0046】
〈実施例2〉
分子中にポリオキシエチレン基を有する界面活性剤として、同量のポリオキシエチレンアルキルエーテル〔POERE、花王(株)製のエマルゲン1150S−60〕を用いたこと以外は実施例1と同様にして手型用洗浄剤を調製した。
〈実施例3〉
分子中にポリオキシエチレン基を有する界面活性剤として、同量のポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩〔POELES、花王(株)製のエマール(登録商標)20C〕を用いたこと以外は実施例1と同様にして手型用洗浄剤を調製した。
【0047】
〈実施例4〉
水酸化カリウムを配合せず、その分だけ水を増量したこと以外は実施例1と同様にして手型用洗浄剤を調製した。
〈実施例5〉
メタノールを配合せず、その分だけ水を増量したこと以外は実施例1と同様にして手型用洗浄剤を調製した。
【0048】
〈実施例6〉
水酸化カリウムおよびメタノールを配合せず、その分だけ水を増量したこと以外は実施例1と同様にして手型用洗浄剤を調製した。
〈比較例1〉
分子中にポリオキシエチレン基を有する界面活性剤に代えて、同量の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩〔RBS、花王(株)製のネオペレックス(登録商標)No.6F パウダー〕を用いたこと以外は実施例1と同様にして手型用洗浄剤を調製した。
【0049】
〈比較例2〉
分子中にポリオキシエチレン基を有する界面活性剤に代えて、同量のラウリル硫酸ナトリウム〔LS、花王(株)製のエマール10G〕を用いたこと以外は実施例1と同様にして手型用洗浄剤を調製した。
〈比較例3〉
水と塩酸とを質量比80:20で配合して手型用洗浄剤を調製した。
【0050】
〈比較例4〉
水と水酸化カリウムとを質量比80:20で配合して手型用洗浄剤を調製した。
〈比較例5〉
水とメタノールとを質量比80:20で配合して手型用洗浄剤を調製した。
〈浸漬液の調製〉
天然ゴムラテックス〔固形分60%、ハイアンモニアラテックス〕に、前記天然ゴムラテックス中の固形分(ゴム分)100質量部あたり1質量部の硫黄(加硫剤)、1質量部の加硫促進剤BZ(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)、1質量部の亜鉛華(加硫促進助剤)、および適量の老化防止剤(p−クレゾールとジクロロペンタジエンのブチル化生成物)を添加したのち30℃で24〜48時間前加硫させて浸漬液を調製した。
【0051】
〈手型の製造〉
1つのライン上に左右それぞれ1000本ずつの手型を供えた連続式浸漬ゴム手袋製造ラインを使用して、ゴム手袋を5日間連続で製造した。
手型としては表面が素焼きの陶器製のものを用いた。前記手型は、ゴム手袋の製造に使用する前に97%硫酸、40%水酸化ナトリウム水溶液、および温水を用いて順に十分にオフライン洗浄をしておき、ゴム手袋の製造中は一度もオフライン洗浄を実施しないこととした。
【0052】
製造工程は図1に示すとおりであり、前処理工程1では凝固剤溶液として硝酸カルシウム水溶液を使用した。また浸漬工程2では、先に調製した天然ゴム系の浸漬液を用いた。
洗浄工程5では浸漬法を採用し、前記各実施例、比較例で調製した手型用洗浄剤の液温を55℃に設定した状態で手型を浸漬して洗浄をした。その後、さらに水洗したのち十分に乾燥させて前処理工程1に送るようにした。
【0053】
また実施例7として、実施例1と同じ手型用洗浄剤の液温を40℃に設定した場合も検証した。
〈洗浄効果の評価〉
皮膜を脱型した直後の手型の表面に純水の液滴を滴下して接触角を測定した。
前記接触角が大きいほど、手型の表面は疎水性が高いこと、つまり疎水性の汚れが多く付着していることが判り、逆に接触角が小さいほど汚れの付着は少ないと評価できる。
【0054】
接触核の測定は、ゴム手袋の製造開始から1日後、2日後、3日後、4日後、および5日間の製造終了後に実施した。
結果を表2、表3に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
表2、表3の実施例1〜7、比較例1〜5の結果より、分子中にポリオキシエチレン基を有する界面活性剤を含む手型用洗浄剤を使用することにより、手型に付着した汚れを効果的に除去できることが判った。
また実施例1〜7の結果より、汚れを除去する効果の点で、前記界面活性剤としてはポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが好ましいこと、手型用洗浄剤は、アルカリ化合物、および/または低級アルコール類を含んでいるのが好ましく、特にアルカリ化合物と低級アルコール類の両方を含んでいるのが好ましいこと、前記手型用洗浄剤の液温は50℃以上であるのが好ましいことが判った。
【符号の説明】
【0058】
G ゴム手袋
1 前処理工程
2 浸漬工程
3 成膜工程
4 脱型工程
5 洗浄工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中にポリオキシエチレン基を有する界面活性剤群から選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とする手型用洗浄剤。
【請求項2】
アルカリ化合物をも含んでいる請求項1に記載の手型用洗浄剤。
【請求項3】
低級アルコール類をも含んでいる請求項1または2に記載の手型用洗浄剤。
【請求項4】
ゴム等のエラストマからなる皮膜を備えたゴム手袋を、
(1) 前記ゴム手袋の立体形状に対応した手型を凝固剤溶液に浸漬し、引き上げたのち乾燥させる前処理工程、
(2) 前記手型を、前記皮膜のもとになるエラストマを含む浸漬液中に浸漬したのち引き上げる浸漬工程、
(3) 前記手型を加熱して前記皮膜を形成する成膜工程、および
(4) 前記皮膜を手型から脱型する脱型工程、
の各工程間で複数の手型を順に連続的に循環させることにより連続的に製造する製造方法であって、前記脱型工程において皮膜を脱型した後の手型を洗浄して乾燥させたのち前記前処理工程に送る洗浄工程を含み、前記洗浄工程において、前記請求項1ないし3のいずれか1項に記載の手型用洗浄剤を用いて手型を洗浄することを特徴とするゴム手袋の製造方法。
【請求項5】
前記洗浄工程において、前記手型用洗浄剤の液温を50℃以上、70℃以下に設定して手型の洗浄に用いる請求項4に記載のゴム手袋の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−102260(P2012−102260A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252931(P2010−252931)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】