説明

手術システム

【課題】潅流流体容器内に含まれた気体に対して直接的に通気を行うことを必要とせずに、該流体容器内の圧力の制御を可能とする手術システムを提供する。
【解決手段】吸引物収集チャンバを備えたカセットと、該吸引物収集チャンバ内へと排液を行う吸引排出ラインとを有する手術システムを提供する。潅流流体容器からの流体は、バルブを含む流体ラインにより上記吸引物収集チャンバへベントされ得る。上記流体容器に対しては加圧空気の供給源が接続されると共に、該供給源は上記流体容器を加圧すべく用いられる。上記流体容器内の圧力の増大が必要な場合、上記供給源からの加圧空気は上記流体容器への進入が許容される。また上記流体容器内の圧力の減少が必要な場合、潅流流体は上記流体容器から流出されて上記収集チャンバへ入ることが許容される。この様にすれば、上記流体容器内に含まれた気体に対する直接的流体接続を維持する必要はない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概略的には白内障手術の分野に関し、より詳細には白内障除去のための超音波水晶体乳化吸引技術を実施するハンドピースに対する潅流(irrigation)/吸引システムに関する。
【背景技術】
【0002】
最も単純に表現すると人間の目は、角膜と称される透明な外側部分を介して光を透過すると共に水晶体により網膜上へと像を焦点合わせすることで、視力を提供すべく機能する。焦点合わせされる像の質は、目のサイズおよび形状、ならびに角膜および水晶体の透明度などの多くの要因に依存する。
【0003】
年齢もしくは疾患の故に水晶体の透明性が落ちると視力は低下する、と言うのも、網膜まで透過され得る光が減少するからである。目の水晶体におけるこの欠陥は、医学的には白内障(cataract)として知られている。この状態に対して一般的に認められた治療は、手術により水晶体を除去すると共に人工の眼内レンズ(IOL)で水晶体機能を置き換えることである。
【0004】
合衆国において、白内障である水晶体の大部分は超音波水晶体乳化吸引(phacoemulsification)と称される手術方式により除去される。この処置の間、疾患水晶体内には超音波水晶体乳化吸引のための薄寸の切断用チップ(cutting tip)が挿入されて超音波的に振動される。振動する上記切断用チップにより水晶体は液化もしくは乳化され、水晶体は目の外部へと吸引され得る。疾患水晶体が除去されたなら、人工水晶体で置き換えられる。
【0005】
眼科処置に対して適切である典型的な超音波手術デバイスは、超音波駆動されるハンドピース、それに取付けられた切断用チップ、および潅流スリーブならびに電子制御コンソールから成る。上記ハンドピース・アセンブリは、電気ケーブルおよび可撓管により上記制御コンソールに取付けられる。上記コンソールは、取付けられた切断用チップに対して上記ハンドピースから伝達されるパワーレベルを変更すると共に、上記可撓管は上記ハンドピース・アセンブリを介し、目に対する潅流流体を供給しかつ目から吸引流体を吸込む。
【0006】
上記ハンドピースの作動部は、中央に配置された中空の共振バーもしくは角状部材(horn)であって一群の圧電結晶に直接的に取付けられたバーもしくは角状部材である。上記結晶は、超音波水晶体乳化吸引の間において上記角状部材および取付られた切断用チップの両者を駆動する上で必要な超音波振動を供給すると共に、上記コンソールにより制御される。上記結晶/角状部材アセンブリは可撓取付部材により、上記ハンドピースの中空本体もしくはシェル内に吊設される。上記ハンドピース本体は、該本体の遠位端における減径部分もしくは円錐頭で終端する。この円錐頭の外側は螺条形成されることで、上記潅流スリーブを受け入れる。同様に、角状部材ボアはその遠位端の内部に螺条形成されることで、上記切断用チップの外側螺条を受容する。上記潅流スリーブもまた、上記円錐頭の外側螺条に対して螺着されるべく内側螺条形成されたボアを有する。上記切断用チップは、該チップが上記潅流スリーブの開放端部を予め定められる量だけ超える様に調節される。超音波ハンドピースおよび切断用チップは、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11および特許文献12に更に十分に記述されるが、それらの開示内容全体は言及したことにより本明細書中に援用される。
【0007】
使用に際して上記切断用チップおよび潅流スリーブの夫々の端部は、角膜、強膜(sclera)もしくは他の箇所において予め定められる幅の小寸切開内に挿入される。上記切断用チップは上記結晶駆動式の超音波角状部材により、上記潅流スリーブの内部において該チップの長手軸心に沿い超音波振動されることで、選択組織を原位置で乳化する。上記切断用チップの中空ボアは上記角状部材内のボアと連通するが、該角状部材内のボアは上記ハンドピースから上記コンソールに至る吸引ラインと連通する。上記コンソールにおける減圧もしくは真空供給源は目からの乳化組織を、上記切断用チップの開放端部、該切断用チップおよび上記角状部材ボアならびに上記吸引ラインを介して収集デバイスへと吸込みもしくは吸引する。乳化組織の吸引は、上記潅流スリーブの内面と上記切断用チップとの間における小寸の環状間隙を介して手術部位へと注入される塩水洗流溶液(saline flushing solution)もしくは潅流流体により助力される。而して潅流流体の供給源は、(たとえば流体供給源の高さを手術部位よりも上位とするなどして)重力により又は流体供給源容器を加圧することで、加圧され得る。加圧方法は特許文献13、特許文献14、特許文献15および特許文献16に開示されるが、それらの開示内容全体は言及したことにより本明細書中に援用される。これらの特許に開示されたデバイスは、流体容器内の液体を貫通して延在する長寸の通気用中空管材(vent spike)であって上記流体容器の頂部に含まれた空気に直接的に接触する通気用中空管材を使用する必要がある。このデバイスによれば上記流体容器内における圧力の正確な維持が可能とされるが、上記長寸通気用中空管材は高価であると共に容器内に挿入するのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第3,589,363号
【特許文献2】米国特許第4,223,676号
【特許文献3】米国特許第4,246,902号
【特許文献4】米国特許第4,493,694号
【特許文献5】米国特許第4,515,583号
【特許文献6】米国特許第4,589,415号
【特許文献7】米国特許第4,609,368号
【特許文献8】米国特許第4,869,715号
【特許文献9】米国特許第4,922,902号
【特許文献10】米国特許第4,989,583号
【特許文献11】米国特許第5,154,694号
【特許文献12】米国特許第5,359,996号
【特許文献13】米国特許第4,813,927号
【特許文献14】米国特許第4,900,301号
【特許文献15】米国特許第5,032,111号
【特許文献16】米国特許第5,047,009号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
故に依然として、潅流流体容器内に含まれた気体に対して直接的に通気を行うことを必要とせずに、該流体容器内の圧力の制御を可能とする手術システムに対する要望が存在する。
【0010】
故に本発明のひとつの目的は、潅流ラインベント(irrigation line vent)を有する手術システムを提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、潅流ラインから過剰圧力を解放し得る、すなわちベント(vent)し得るカセットを有する手術システムを提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、潅流ラインを収集チャンバへと開放する、すなわちベント(vent)するカセットを有する手術システムを提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、吸引システムの流体的性能に影響せずに潅流ラインをベントする手術システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、吸引物(aspirant)収集チャンバを備えたカセットと、該吸引物収集チャンバ内へと排液を行う吸引排出ラインとを有する手術システムを提供することにより、先行技術との比較において改良を行う。上記潅流流体容器からの流体は、バルブを含む流体ラインにより上記吸引物収集チャンバ内へベントされ得る。上記潅流流体容器に対しては加圧空気の供給源が接続されると共に、該供給源は上記流体容器を加圧すべく用いられる。上記流体容器内の圧力の増大が必要な場合、上記加圧空気供給源からの加圧空気は上記流体容器への進入が許容される。また上記流体容器内の圧力の減少が必要な場合、潅流流体は上記流体容器から流出されて上記収集チャンバへ入ることが許容される。この様にすれば、上記流体容器内に含まれた気体に対する直接的流体接続を維持する必要はない。
【0015】
本発明のこれらの及び他の利点及び目的は、以下における詳細な説明および各請求項から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明のシステムおよびカセットの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のシステム10は通常、手術用コンソール12およびカセット14を含む。コンソール12は、テキサス州、フォートワース(Fort Worth)のAlcon Laboratories社から入手可能なSERIES TWENTY THOUSAND(登録商標)LEGACY(登録商標)もしくはACCURUS(登録商標)手術システムなどの、適切に改変された任意の市販の手術用コンソールとされ得る。カセット14は例えば米国特許第5,267,956号、第5,364,342号および第5,499,969号(Beuchat等)ならびに米国特許第5,899,674 号(Jung等)に記述されたものなどの、適切に改変された任意の市販の手術用カセットとされ得るが、これらの開示内容全体は言及したことにより本明細書中に援用される。カセット14は業界公知の手段により、コンソール12と作用的に協働すべく保持される。
【0018】
図1に見られる如くコンソール12は通常、例えば業界公知のポンプである任意の適切なフロー式ポンプもしくは真空式ポンプとされ得る吸引ポンプ機構16を含む。たとえばポンプ機構16は、吸引ライン20と吸引排出ライン34とにより形成される蠕動ポンプの管と相互作用する蠕動ポンプのローラヘッドとされ得る。吸引ライン20は、手術用ハンドピース22を介して流体を吸込むべく、一端にてはハンドピース22に対し且つ他端にてはポンプ機構16に対して接続される。吸引ライン20に対しては、業界公知である種々の侵襲的もしくは非侵襲的な圧力センサのひとつとされ得る圧力センサ26が流体連通される。吸引ライン20はハンドピース22とポンプ機構16との間において、吸引ベントライン24(aspiration vent line)と交わる。
【0019】
カセット14は通常、流体リザーバ28を含む。該流体リザーバは好適には、カセット14内に一体的に形成される。リザーバ28からは吸引排出ライン34が延在するが、該ラインはベントバルブ30を介して吸引ベントライン24に流体接続されると共にポンプ機構16を介して吸引ライン20に流体連通する。ポンプ機構16からの吸引もしくは排出は、吸引排出ライン34を介してリザーバ28へと導向される。リザーバ28は排液バッグ29に対しても排液し得る。該排液バッグ29はリザーバ28よりも大寸とされ得ると共に、カセット14またはその一部に対して取付けられても取付けられなくても良い。
【0020】
本発明のシステム10は、ライン36を介して加圧空気供給源38に接続された潅流流体容器32も含む。流体容器32は、ライン40およびバルブ42を介してハンドピース22に流体接続され且つ潅流ベントライン44およびバルブ46を介してリザーバ28に流体接続される。
【0021】
上記で論じられた如くポンプ機構16は蠕動ローラヘッドとされ且つ吸引ライン20および吸引排出ライン34はポンプ機構16と相互作用する蠕動ポンプの管を形成すべくひとつの連続的長さで形成されるのが好適であるが、当業者であれば、吸引ライン20および上記吸引排出ラインは別体の単一もしくは複数の断片として形成され得るか又はカセット14と一体的に形成され得ること、および、蠕動ポンプのローラヘッド以外の例えば線形蠕動ポンプなどのポンプ機構16が用いられ得ることを理解し得よう。
【0022】
これに加え、圧力センサ26はコンソール12内に含まれて示される。当業者であれば、圧力センサ26の(不図示の)圧力ダイヤフラムなどの一部がカセット14内にもしくはカセット14上に含まれると共に、コンソール12内に含まれた(不図示の)力変換器または他の手段と相互作用し得ることは理解し得よう。
【0023】
使用に際してカセット14は、コンソール12上にもしくはコンソール12内に設置されると共に、業界公知の手段によりコンソール12と作用的に協働すべく保持される。システム10は先ず清浄な手術用流体により満たされ、リザーバ28は少量の流体で満たされる。手術の間にポンプ機構16は、ハンドピース22を介してリザーバ28内へと吸引物を吸込む。もし吸引ライン20中の真空が高すぎてベントされる必要があればベントバルブ30が開成されることから、吸引物はリザーバ28(該リザーバ28は大気圧もしくはほぼ大気圧に在る)の底部から吸引ベントライン24を介して(真空を含む)吸引ライン20内へと吸込まれ得る。当業者であれば、吸引ライン20に対するリザーバ28の垂直位置を変更することで種々のベント頭圧(vent head pressure)が達成され得ることを理解し得よう。流体容器32はたとえば78センチメートルなどの既知高さに設定されると共に、加圧空気供給源38は流体容器32を所望圧力へと加圧すべく用いられる。更なる低圧が所望される場合には、流体容器32が下降され得るか、または、(通常時閉である)バルブ46を開成することで潅流流体は流体容器32からリザーバ28内にベントされても良い。
【0024】
本記述は、例示および説明を目的として与えられる。当業者であれば、上述された発明に対してはその有効範囲もしくは精神から逸脱せずに変更および改変が為され得ることは明らかであろう。
【符号の説明】
【0025】
10 手術システム
12 手術用コンソール
14 カセット
16 吸引ポンプ機構
20 吸引ライン
22 手術用ハンドピース
24 吸引ベントライン
28 流体リザーバ
29 排液バッグ
30 ベントバルブ
34 吸引排出ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)吸引ポンプ機構を含む手術用コンソールと、
b)第1端部にてはハンドピースに流体接続され且つ第2端部にては上記吸引ポンプ機構に流体接続された吸引ラインであって、これにより上記吸引ポンプ機構は上記ハンドピースを介して流体を吸込む、吸引ラインと、
c)流体リザーバを含むと共に上記手術用コンソールと作用的に協働すべく保持されたカセットと、
d)上記ポンプ機構により上記ハンドピースを介して吸込まれた流体が上記リザーバに流入する如く上記ポンプ機構を上記リザーバに流体接続する吸引排出ラインと、
e)上記ハンドピースと上記ポンプ機構との間において上記リザーバを上記吸引ラインに流体接続する吸引ベントラインと、
g)上記吸引ベントライン内に配置されたベントバルブと、
h)上記流体リザーバに流体接続された潅流流体の供給源と、
を備えて成る手術システム。
【請求項2】
a)吸引ポンプ機構を含む手術用コンソールと、
b)第1端部にてはハンドピースに流体接続され且つ第2端部にては潅流流体容器に流体接続された潅流ラインであって、これにより潅流流体は上記ハンドピースへと流れる、潅流ラインと、
c)流体リザーバを含むと共に上記手術用コンソールと作用的に協働すべく保持されたカセットと、
d)上記潅流流体容器を上記リザーバに対して流体接続する潅流ベントラインと、
e)上記潅流ベントライン内に配置されたバルブと、
を備えて成る手術システム。
【請求項3】
a)潅流流体容器を配備する段階と、
b)上記潅流流体容器を加圧する段階と、
c)流体リザーバを有する手術用カセットを配備する段階と、
d)上記流体リザーバに対してバルブを介して潅流ラインを流体接続する段階と、
e)上記バルブを可変的に開成し、上記潅流流体容器内に入れられている潅流流体が上記流体リザーバに進入するのを可能として、上記潅流流体容器内の圧力を可変的に維持する段階と、
を備えて成る手術用コンソールの操作方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−153988(P2009−153988A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90264(P2009−90264)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【分割の表示】特願2003−108731(P2003−108731)の分割
【原出願日】平成15年4月14日(2003.4.14)
【出願人】(501449322)アルコン,インコーポレイティド (140)
【Fターム(参考)】