説明

手袋

【課題】作業性良く成形できると共に製作コストを低廉にでき、手に嵌めたときの装着感に優れ、桃等の果実の他に破損し易いものを扱うに好適であり、しかもゴム被膜で被覆した作業用手袋であっても通気性に優れ快適に使用できる抜け止め機能を備えた手袋を提供する。
【解決手段】所定の糸を地編糸として平編により編成し、伸縮性の糸を添え糸として添え糸編することにより嵌めた手Hの関節に沿って略平行で且つ該嵌めた手Hの表面H1に接触し得る凸条9を内周面a1に列設した。この際、原手A1の外周面a2の少なくとも手掌部7側の片面をゴム被膜18により被覆するようにしても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵌めた手が無用に抜け難い抜け止め機能を備えた手袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の手袋として、例えば、手袋の内周面の適宜位置に点状もしくは線状の滑り止めのための弾性体を付着して成形したものが存在している(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
また、作業用手袋として、例えば、繊維製の手袋(以下、単に「原手」という。)の表面に背抜き状態でゴム被膜を形成したものが存在している(例えば、特許文献2参照。)
【特許文献1】特開2005−179872号公報(第3頁、図2)
【特許文献2】特開2004−285528号公報(第3頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1の手袋は、滑り止め用の弾性体を付着させるにあたり、予め手袋を裏返して内周面の必要な部分に弾性体を取り付け、その部位にシリコンゴム製の凸型の型をセットしておき、手袋の外側からヒーターが付いた凹型の金型を押し当てて所定の温度を加え融着するといった極めて煩雑でありかつ面倒な作業を強いられる。このため、その作業に多くの時間が費やされ作業性が悪いばかりか製作コストも高くなるという課題が有る。
【0005】
また、前記点状もしくは線状の滑り止めのための弾性体は、手袋の内周面の適宜位置に間隔を離して付着されるので、その手袋を手に嵌めたときそれらが手の表面に散在する突起として当たるので、違和感を覚え装着感が悪いという課題が有る。
【0006】
更に、前記特許文献1の手袋は、例えば桃等の表面が傷つき易いデリケートな果実を木からもぎ取って収穫する所謂作業用として使用する場合、手袋の指部の先端部が比較的硬いことから、指先部の表面の弾力性に劣る。このため、指先の衝撃が直に桃の表面に伝わり該桃を傷付けてしまい商品として出荷できなくなるなど、破損し易いものを扱うに不向きであるという課題もある。
【0007】
前記引用文献2の作業用手袋は、原手の表面に背抜き状態でゴム被膜が形成されており、しかも原手の裏面が平坦面であることから、原手の裏面が指部や手掌部に密着し易く通気性が良くない。このため、作業中に手に汗をかくと、作業用手袋を嵌めた手が汗ばんだりべとつき不快感を味わうことがある。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を払拭すべくなされたもので、作業性良く成形できると共に製作コストを低廉にでき、手に嵌めたときの装着感に優れ、桃等の果実の他に破損し易いものを扱うに好適であり、しかもゴム被膜で被覆した作業用手袋であっても通気性に優れ快適に使用できる抜け止め機能を備えた手袋を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため請求項1に係る手袋は、所定の糸を地編糸として平編により編成し、伸縮性の糸を添え糸として添え糸編することにより嵌めた手の関節に沿って略平行で且つ該嵌めた手の表面に接触し得る凸条を内周面に列設したことを特徴とする。
【0010】
更に、請求項2に係る手袋は、所定の糸を地編糸として平編により編成される原手の外周面の少なくとも手掌部側の片面をゴム被膜により被覆し、前記原手の内周面には伸縮性の糸を添え糸にして添え糸編することにより嵌めた手の関節に沿って略平行で且つ該嵌めた手の表面に接触し得る凸条を列設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の手袋は、平編により編成すると共に伸縮性の糸を添え糸として添え糸編することにより嵌めた手の関節に沿って略平行で且つ該嵌めた手の表面に接触し得る凸条を内周面に列設するようにしたので、手袋を編成する段階で滑り止め用の凸条が同時に成形できることとなる。よって、該凸条を成形するに、作業が簡単となり、その作業時間が短縮でき作業性が良いばかりか製作コストも低廉になし得るという効果が有る。
【0012】
また、請求項1記載の手袋は、凸条を内周面に列設するようにしたので、これら凸条が編成された一部をなし手の表面全体に当たり散在する突起として当たることがないので、手に嵌めたときの違和感がなく装着感が極めて良いという効果が有る。
【0013】
更に、請求項1記載の手袋は、原手の内周面に凸条を列設してなり、前記凸条は伸縮性の添え糸により設けられ柔軟性を有すると共にこれら凸条間に隙間が成形されることから、これらの隙間によって空気の層が形成され、手袋の表面の弾力性・クッション性に優れる。よって、例えば桃等の表面が傷つき易いデリケートな果実を扱う場合も、手袋の指部の先端部が比較的柔らかく、指先の衝撃が直に桃の表面に伝わりにくく該桃を傷付けることがほとんどない。このように、請求項1記載の手袋は桃などのような破損し易いものを扱うに好適であるという効果が有る。
【0014】
請求項2記載の手袋は、前記各効果に加え、原手の外周面の少なくとも手掌部側の片面をゴム被膜により被覆してなり、凸条を原手の内周面に列設しているので、それら手の表面と原手の内周面との間に隙間、すなわち空気の層ができる。よって、通気性に優れ手袋を嵌めた手が汗ばんだりべとつくことがなく、快適に使用できるという効果が有る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る手袋の実施の形態を図面に基づき説明する。本発明に係る手袋は、スポーツ用手袋、作業用手袋等の種々の手袋に適用できるが、便宜上、本発明に係る手袋を作業用手袋として使用した場合について説明する。図1は本発明に用いられる原手であって裏返しして内周面を示す斜視図である。この原手A1は、5本の指部1〜5と、手甲部6と、手掌部7及び手首部8とからなり、人間の手に近い形に形成されている。
【0016】
この原手A1は所定の糸として綿糸が選ばれ、該綿糸を地編糸にして13〜15ゲージのファインゲージにより、手首部8以外は平編に編成されると共に手首部8はゴム編により編成されている。前記所定の糸としては他に、麻糸,毛糸,絹糸,レーヨン糸,ウーリーナイロン糸,ポリエステル糸,ポリウレタン糸,これらの混紡糸、例えばTC混紡糸などが有る。
ゲージとは、編み機の針の密度、1インチ間の編み針の本数のことをいい、一般に10ゲージ未満のローゲージまたはミドルゲージと10ゲージ以上のファインゲージ(ハイゲージ)が有るが、本発明はいずれのゲージであっても目的が達成できる。ただ、ファインゲージの方が好ましく、16以上であっても良い。
【0017】
そして、前記平編部分には全体にウーリーナイロン糸又はポリウレタン糸のような伸縮性糸を添え糸として添え糸編し、これにより原手A1の内周面a1に手首部8を除きその全体に凸条9が列設される。手首部8がない場合は内周面a1全体に凸条9が列設される。すなわち、これら凸条9は横縞模様状に成形され、手袋としての作業用手袋Aを手Hに嵌めたとき該手Hの関節に沿って略平行となしかつ該嵌めた手Hの表面H1に接触し得ることになる。図1では、凸条9を示すため裏返した原手A1を表したが、成形上は、原手A1の内周面a1に凸条9が列設される。なお、前記添え糸は、伸縮性糸であれば他の化学繊維を用いるようにしても良い。
【0018】
図2は半加硫を行なうための浸漬用手型の正面図、図3は同平面図である。この浸漬用手型Bは手首部8bが若干下方へ湾曲し、手甲部6b及び手掌部7bがほぼ水平に位置している。5本の指部1b〜5bは手甲部6bからほぼ真直ぐに延び、それら各指先部11b〜55bが多少下向きに位置し、また、各指部1b〜5b間の又部10〜13は傾斜面にしてある。更に、手首部8b上面には、底面が中央峰部14で一番高くかつ該中央峰部14を挟んだ両側面15,15を両側端に向かうに従い下傾させた長溝16が設けられている。
【0019】
そこで、内周面a1に凸条9が列設される原手A1をそのまま前記浸漬用手型Bに被せ、浸透防止剤であるメタノール溶液中にその全体を一旦浸漬して引き上げる。次に、図4に示すように天然ゴムラテックス(固形分)に安定剤・分散剤、イオウ、亜鉛華、加硫促進剤、老化防止剤、顔料を適宜配合割合で混合して作られたゴムラテックス配合物の原料液17中に、前記原手A1をその手甲部6及び各指部1〜5の先端側を除く背面部が沈まないようにして5秒間浸漬し、ゴムラテックス配合物の原料液17の被膜ができるだけ薄くなるようにして引き上げる。これにより、原手A1の外周面a2にゴムラテックス配合物の原料液17すなわちゴム被膜18が背抜き状態で付着される。
【0020】
ところで、前記ゴムラテックス配合物の原料液17に前記原手A1を浸漬する際、該ゴムラテックス配合物の原料液17が原手A1の繊維を通して原手A1内部に浸透することをいかに防止するかという問題が有る。そこで、本実施の形態においては、原手A1の編み目が広すぎないように編み方、長さ、太さに留意しており、更に、浸漬用手型Bの形状も原手A1を被せた場合、編目が広がらないようにしている。特に、浸漬用手型Bに被せた原手A1にメタノールを軽く付着させているが、これは、微弱な凝固作用によってゴムラテックス配合物の原料液17が原手A1になじみ、境界線が綺麗にしかも均一に付着されるようにするためである。
【0021】
前述のように原手A1にゴムラテックス配合物の原料液17を付着させた後、この原手A1に付着したゴムラテックス配合物の原料液17を約70℃の温度で適宜時間の間加熱して半加硫を行なう。このように半加硫が低温で行なわれるので、この段階では原手A1に形成されたゴム被膜18が柔軟性を有し、ソフトで脱型に耐える強度を持つことになる。
【0022】
図5は、本加硫を行うためのセット用手型の斜視図である。該セット用手型Cは、前記浸漬用手型Bより全体的に僅かに大きく、親指部1cが手掌部7c面より大きく前方に張り出し、他の4本の指部2c〜5cが手掌部7c側に湾曲して、人間の手に近い形に形成されている。また、半加硫した原手A1を本加硫する前にセット用手型Cに被せたとき、浸漬用手型B、セット用手型Cの形状が互いに異なることから、必然的に皺が生ずることになる。そこで、前記セット用手型Cでは、その皺が生ずる部分、例えば親指部1cと人指部2cとの間12c、または手掌部7c面の下側部77cなどに肉盛り部が設けられ、一方、各指部1c〜5cの付根部分は必要量削られている。
【0023】
このようなセット用手型Cに凸条9が設けられた内周面a1を内側としたまま前記原手A1を被せ、その後約90〜100℃の温度で適宜時間の間本加硫を行う。これにより、原手A1に付着するゴム被膜18の架橋による網目構造が充分に形成され、原手A1はセット用手型Cの形に沿って強制的に整形されることになる。この本加硫による工程が終了すると、図6、図7に示すように手掌部7側である必要な部分にのみゴム被膜18を備え背抜きした作業用手袋Aが完成する。
【0024】
前記のように半加硫又は本加硫するときは、ゴムラテックス配合物の原料液17により被覆した原手A1を浸漬用手型B又はセット用手型Cに被せ、一定の温度で加熱し乾燥させることになる。この際、凸条9により原手A1の内周面a1と浸漬用手型Bの外周面又はセット用手型Cの外周面との間には凸条9による隙間Sができ空気の層ができることから、その乾燥が効率的に行われる。よって、従来に比べ乾燥時間を短くすることができる。
【0025】
このようにして成形された作業用手袋Aは、原手A1の外周面a2が指部1〜5の先端側を除く背面部と手甲部6とを残してゴム被膜18により被覆される。また、その内周面a1には、全体に各指部1〜5の関節に沿って略平行となる凸条9が列設され横縞模様状に成形される。これら凸条9は、手Hが作業用手袋Aから抜け出る方向とほぼ直交して手Hの表面H1に接触することとなり、手の滑り止め機能を果す。
【0026】
例えば、作業用手袋Aを両手に嵌めて荷物Pを持って運ぶ場合、図8に示すように手Hを荷物Pの外周面H1に当接したとき、手Hの表面H1に凸条9が食い込みその滑りを抑える。これにより、作業用手袋Aから手Hが滑って抜けそうになることがほとんどない。特に、この場合、荷物Pの外周面P1とゴム被膜18との間は摩擦抵抗が大きいので、これに伴い手Hが滑り抜けそうになるとき、作業用手袋Aの原手A1の内周面a1に圧接して作業用手袋Aの原手A1の内周面a1の凸条9が手Hの表面H1に強く食い込むことになりその滑りを確実に抑える。これによって、作業用手袋Aから手Hが滑って抜けそうになることがほとんどなくなる。よって、作業がし易いばかりか運んだ荷物Pを落としてしまうといった失態もなくなる。前記凸条9の手Hへの食い込みは、荷物Pの外周面P1とゴム被膜18との間の摩擦抵抗が大きいほど著しい。
【0027】
また、前記凸条9を作業用手袋Aの原手A1の内周面a1に列設しているので、図8に示すようにそれら凸条9間であって内周面a1と手Hの表面H1との間に隙間S(空気の層)ができ通気性に優れる。よって、このようにゴム被膜18を備えた作業用手袋Aにあっては、作業中に手Hに汗をかいても、手Hが汗ばんだりべとついたりすることがなく、快適に使用できる。しかも、原手A1に凸条9といったゴム被膜18の密着しない部分ができ、その部分が汗を吸収するので、汗によって作業用手袋Aに対して手Hが滑るといった事態も低減される。
【0028】
更に、前記凸条9は伸縮性の添え糸により設けられ柔軟性を有すると共に、これら凸条9間に隙間Sが成形されることから、作業用手袋Aの表面の弾力性・クッション性に優れる。よって、例えば図9に示すようにデリケートな桃等の果実Fを作業用手袋Aを嵌めた手Hで持った場合、クッション性の有る前記凸条9間の隙間S側が果実Fの外表面F1に当接するので、前記手Hで握ったときの衝撃が果実Fに直に伝わるようなことがない。よって、それら果実Fを傷めるようなことがなく安全である。
【0029】
本発明にあっては、原手A1を背抜きした状態でゴム被膜18により被覆した場合を実施の形態として示したが、原手A1の両面全体をゴム被膜18により被覆した場合にも適用可能である。そして、例えば冷たい水や氷水に作業用手袋Aを曝して作業をする場合、前記凸条19間の隙間Sにより作業用手袋Aの内周面a1と手Hの表面H1との間に空気の層が成形されるので、断熱効果が得られ保温性に優れ作業がし易くなる。
【0030】
本実施の形態にあっては、原手A1の外周面の手掌部7側の片面のみをゴム被膜18により被覆した作業用手袋Aについて説明したが、原手A1の外周面全体をゴム被膜18により被覆した手袋についても本発明が適用できる。また、ゴム被膜18を全く被覆しない手袋についても本発明が適用できる。
【0031】
なお、前記のように原手A1の内周面a1に伸縮性糸を添え糸にして添え糸編し、各指部1〜5の関節に沿って略平行となる凸条9を列設して横縞模様状に設けることにより、作業用手袋Aの手掌部7におけるたるみが少なくなり、手Hのフィット感が極めて良くなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に用いられる原手であって裏返しして内周面を示す斜視図。
【図2】半加硫を行うための浸漬用手型の正面図。
【図3】同平面図。
【図4】原手を被せた浸漬用手型を原料液中に浸漬させた状態の側面断面図。
【図5】セット用手型の斜視図。
【図6】本発明に係る作業用手袋の手掌部を前側にして示す斜視図。
【図7】同作業用手袋の手甲部を前側にして示す斜視図。
【図8】同作業用手袋の使用状態を示す一部の拡大断面図。
【図9】同作業用手袋の一部を断面にして示す斜視図。
【符号の説明】
【0033】
9 凸条
18 ゴム被膜
A 手袋(作業用手袋)
A1 原手
a1 内周面
a2 外周面
H 手
H1 表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の糸を地編糸として平編により編成し、伸縮性の糸を添え糸として添え糸編することにより嵌めた手の関節に沿って略平行で且つ該嵌めた手の表面に接触し得る凸条を内周面に列設したことを特徴とする手袋。
【請求項2】
所定の糸を地編糸として平編により編成される原手の外周面の少なくとも手掌部側の片面をゴム被膜により被覆し、前記原手の内周面には伸縮性の糸を添え糸にして添え糸編することにより嵌めた手の関節に沿って略平行で且つ該嵌めた手の表面に接触し得る凸条を列設したことを特徴とする手袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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