説明

打抜き部材における切削量の予測方法あるいは算出方法

【課題】部材の製造前に切削量を確実に予測することが可能な、部材における切削量の予測方法を提供すること。
【解決手段】仮想の精密打抜きにより生じた部材における切削量の予測方法あるいは算出方法において、a)切削輪郭部によって画成された面内及びその面外に位置する点を互いに異なる色で表示するステップと、b)異なる階調レベル値を生じさせるフィルタにより、部材の切削輪郭部におけるぼかし処理を少なくとも1回行うステップと、c)切削輪郭部の外部に位置する色を付けて表示されている点を、色付け前の色によって新たに表示するステップと、d)精密打抜き後の部材の切削輪郭部における残余板厚のために、階調レベル値を処理するステップと、e)切削輪郭部における残余板厚を階調レベル値に対応させることで、切削輪郭部における階調レベル値に基づき切削量を算出するステップとを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮想の精密打抜きにより生じた部材における切削量の予測方法あるいは算出方法であって、特に前記部材の切削輪郭部を示すデジタル画像が、画像データとして形成されるとともに、画像処理装置内において画像解析される前記方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密切削加工の典型的な特徴は、エッジ切削量及びばり(まくれ)である。特にコーナ部において切削量(材料除去)が生じ、この切削量は、コーナ半径が小さくなるにつれて、及び板厚が大きくなるにつれて増大する。また、切削量(切削深さ)は板厚の約20%、切削幅は板厚の30%以上である(DIN3345、精密切削加工、1980年8月参照)。この切削量は材料の板厚及び性質に依存するものであるため、この切削量の制御は制限されてのみ可能であるとともに、例えば生じた部材の機能長さの変化により部材機能の制限が必要となってしまう。したがって、打抜き切削量は、部材機能を低減させるとともに、生産者に対して厚い最終材料の使用を強制してしまうことになる。
【0003】
従来技術において、打抜き加工又は精密切削加工により生じた部材の幾何形状における切削量については、切削工程及び変形工程における経験と実験的なデータの組合せに基づいている。このような従来技術においては、信頼性の高い切削量の予測をするシステムが欠けている。今までは、実際の部材の製造前に打抜きの高さを非常にあいまいにのみ予測することが可能であったため、常に比較的大きな最終板厚とする解決策が採用されていた。これにより、特に材料消費が多くなり、変形に際して大きな力が必要となる。また、これにより、工具の摩耗の増大も招くこととなる。切削工程及び変形工程のシミュレーションには基本的に有限要素法が用いられることが知られている(特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第102006047806号明細書
【特許文献2】独国特許第102007039337号明細書
【特許文献3】欧州特許第923755号明細書
【特許文献4】米国特許第6,353,768号明細書
【特許文献5】米国特許第6,785,640号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の解決方法においては、時間、演算の手間及びコストがかかるとともに、適用が困難であるという問題がある。
【0006】
本発明は上記問題にかんがみてなされたもので、その目的とするところは、切削工程及び変形工程に対する要求に対応した工具の設計による工具の摩耗の低減、手間のかかる演算の廃止及び材料の節約を図り、かつ、手間のかかる仮想の実験及び実際の実験をすることなく、部材の製造前に切削量を確実に予測することが可能な、仮想の精密打抜きにより生じた部材における切削量の予測方法あるいは算出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、請求項1記載の特徴を有する冒頭に述べた方法により達成される。また、この方法の好ましい実施形態は各従属請求項に記載されている。
【0008】
本発明による解決策は、切削加工された材料の機械的特性を考慮しつつ幾何形状の金格部をぼかしの形態において画像処理することにより、実際の部材を製造したり手間のかかる有限要素法によるシミュレーションをすることなく、切削加工後に生じる板厚を全範囲にわたって決定することに基づいている。
【0009】
これは、以下のステップを行うことにより達成される:
a)切削輪郭部によって画成された面内に位置する複数の点及び切削輪郭部によって画成された面外に位置する複数の点を互いに異なる色で表示するステップ
b)部材の材料及びその変形能力についてキャリブレーションされ、かつ、異なる階調レベル値を生じさせるフィルタにより、部材の切削輪郭部におけるぼかし処理を少なくとも1回行うステップ
c)切削輪郭部の外部に位置する色を付けて表示されている点を、色付け前のもともとの色によって新たに表示するステップ
d)精密打抜き前の部材の最終板厚に比べた精密打抜き後の部材の切削輪郭部における残余板厚のために、階調レベル値を処理するステップ
e)切削輪郭部における残余板厚を階調レベル値に対応させることで、切削輪郭部における階調レベル値に基づき切削量を算出するステップ
特別は利点は、実際の部材における切削量を高い精度で予測することが可能である点にある。これにより、非常に短時間で切削量についての情報を得ることができ、部材の幾何形状あるいは精密切削加工の設計における安全性が有意義に高まることになる。さらに、このように得られた情報を後続のプロセスのシミュレーションの入力情報として使用し、シミュレーションの精度を向上させることが可能である。
【0010】
また、本発明の一実施形態においてはガウスフィルタ及び/又はラプラスフィルタが使用されており、これらは、切削輪郭部を異なる階調レベルにより段階的にぼかしを施すものである。また、階調レベルは、もともとの板厚に比べた相対的な板厚に対応したものである。さらに、フィルタは以下の式によって定義されている。
【0011】
【数1】

【0012】
また、本発明の一実施形態においては、デジタル画像について特に2〜15回のフィルタの反復処理としてぼかし処理を行うようになっている。変形能力(引張り強さ、降伏力、破壊歪みなどの材料特性)が小さな材料については、変形能力の大きな材料に比べてはるかに少ないフィルタ回数で十分である。
【0013】
また、本発明による方法の実施に際して、大きな変形能力を有する材料にあっては大きな影響半径(標準偏差)を有するガウスフィルタが適しており、小さな変形能力を有する材料にあっては小さな影響半径(標準偏差)を有するガウスフィルタが適している。
【0014】
また、材料の変形能力の大きさに応じて、小さな変形能力を有する材料にあっては例えば黒色に大きな重みを付け、大きな変形能力を有する材料にあっては例えば白色に大きな重みを付けるよう、特に黒色及び白色などの色が段階的に重み付けされる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、実際の部材を製造したり、実験を行ったり、あるいは手間のかかる有限要素法によるシミュレーションをしたりすることなく、打抜き部材又は精密切削部材の切削輪郭部の全範囲にわたって切削量の予測を行うことが可能である。また、これにより、部材の幾何形状の設計における高い安全性が得られるとともに、最終的には材料の厚みの削減を図ることが可能である。
【0016】
なお、他の効果については、添付図面を参照した以下の説明において記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】精密切削部材の切削輪郭部を切削量と共に示す断面図である。
【図2】輪郭の内側が黒色に表示された歯車の輪郭部を示す平面図である。
【図3】ガウスフィルタによってぼかし処理した、歯車の切削輪郭部を示す平面図である。
【図4】階調レベル値を板厚に対応させた場合の歯車の切削輪郭部を示す平面図である。
【図5】小さな変形能力を有する材料から成る歯車の切削輪郭部を示す平面図である。
【図6】大きな変形能力を有する材料から成る歯車の切削輪郭部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1には、最終板厚S0を有する部材における、精密切削加工により形成された切断面1が示されている。この切断面1には、精密切削加工後に切削幅bEを有する切削量(切削深さ)hEが形成される。また、残余板厚hRにより残りの機能面における接触比が決定され、この機能面を介して、例えば歯車において力又はモーメントが伝達される。
【0020】
残余板厚hRは、以下のように算出される。
【0021】
R=S0−hE≧Scrit
ここで、Scritは、必要最小残余板厚であり、残余板厚S0は以下の条件を満たす必要がある。
【0022】
0≧Scrit+hE
切削量は、切削輪郭部の長さが支持面と比較して高い箇所で常に最大となる。すなわち、切削量が大きくなればなるほどその周囲における支持材料が少なくなる点が存在する。これは、精密歯切加工の場合には歯先が非常に大きな切削量を有している一方、歯元には切削量がほとんど存在しないことを意味している。
【0023】
本発明の方法によれば、切削量hEが鋼板から成り、かつ、最終板厚S0、歯数及び鋼の変形能力(変形性)などの幾何形状データが知られた歯車3のためのものとなっている。
【0024】
次に、本発明による過程を図2〜図4に基づき説明する。
【0025】
まず、歯車3の切削輪郭部4が例えばCADなどの適当なプログラムによって二次元デジタル画像5として形成され、切削輪郭部4を画成された面内の点は黒く、同面外の点は白く色が付けられる。なお、黒色と白色のほかにも、例えば青色と赤色、緑色と黄色などの色を使用してもよい。
【0026】
しかして、二次元デジタル画像5は、画像処理装置のメモリ内にメモリされる。この状態が図2に示されている。また、本発明においては、デジタル画像をCCDカメラやスキャナなどの光学手段によって形成してもよい。
【0027】
次に、二次元デジタル画像5は、その切削輪郭部4にぼかしを施すという方法で、特にガウスフィルタである光学フィルタによって処理される。このぼかし工程により、切削輪郭部4が、異なる階調レベル(グレースケール)における、歯車形状の黒色化された内面への段階的な変化が得られる。また、色について他の組合せを選択した場合にも、同様に色の濃淡(色調)が生じる。
【0028】
ところで、ガウスの手法による操作によれば、ある点(平均値0)近傍がガウス分布
【0029】
【数2】

【0030】
によって重み付けされる。ここで、f(x, y)は二次元範囲に対するx、y座標のついてのガウス関数であり、σ2は、分散、すなわち釣鐘状の曲線の勾配である。ガウスぼかしは、隣接するセルの値を考慮し、現在考慮しているセルの値を、ガウス正規分布により近傍が考慮される新しい値で置き換えるものである。
【0031】
図3には、ガウスフィルタによりぼかし処理された歯車3の切削輪郭部4が示されている。生じた階調レベル値を相対的な板厚すなわち残余板厚hRに対応させるために、ガウスフィルタのキャリブレーションを行う必要がある。ガウスフィルタのキャリブレーションは、以下のような材料の機械的特性を考慮して行われる。
【0032】
【表1】

【0033】
本発明による方法の更なる過程においては、階調レベル値が、精密打抜き前の最終板厚と比較した精密打抜き後の歯車3の切削輪郭部に沿った残余板厚hRのために、画像解析においてある程度処理される。このような状態が図4に示されている。
【0034】
また、各板厚は、切削輪郭部における各階調レベル値に対応するようになっている。これは、画像処理装置のメモリにおいて階調レベル値の基準がメモリされていることによって達成されている。なお、この基準は、特徴的な板厚によって特徴付けられている。
【0035】
図5には比較的小さな変形能力を有するS550MCの等級の材料から成る歯車の画像例が示されており、この画像は、ガウスフィルタにおいて半径(標準偏差)σ=10で6回処理したものである。また、黒色と白色の間の重み係数wは1である。結果は、基本的には比較的小さな切削量を示しており、凸部が凹状の曲率に対して比較的小さな切削量を有している。
【0036】
一方、図6には比較的大きな変形能力を有するDC04の等級の材料から成る歯車の画像例が示されており、この画像は、ガウスフィルタにおいて半径(標準偏差)σ=20で8回処理したものである。また、黒色と白色の間の重み係数wは1である。基本的には比較的大きな切削量が特に凸状の曲率において生じる。
【符号の説明】
【0037】
1 切削面
2 部材
3 歯車
4 切削輪郭部
5 二次元デジタル画像
w 重み係数
E 切削幅
E 切削量
R 残余板厚
crit 必要最小残余板厚
0 最終板厚
σ ガウスフィルタの半径
σ2 分散
f 関数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想の精密打抜きにより生じた部材における切削量の予測方法あるいは算出方法であって、特に前記部材の切削輪郭部を示すデジタル画像が、画像データとして形成されるとともに、画像処理装置内において画像解析される前記方法において、
a)前記切削輪郭部によって画成された面内に位置する複数の点及び前記切削輪郭部によって画成された面外に位置する複数の点を互いに異なる色で表示するステップと、
b)前記部材の材料及びその変形能力についてキャリブレーションされ、かつ、異なる階調レベル値を生じさせるフィルタにより、前記部材の前記切削輪郭部におけるぼかし処理を少なくとも1回行うステップと、
c)前記切削輪郭部の外部に位置する色を付けて表示されている点を、色付け前のもともとの色によって新たに表示するステップと、
d)精密打抜き前の前記部材の最終板厚に比べた精密打抜き後の前記部材の前記切削輪郭部における残余板厚のために、前記階調レベル値を処理するステップと、
e)前記切削輪郭部における残余板厚を前記階調レベル値に対応させることで、前記切削輪郭部における前記階調レベル値に基づき前記切削量を算出するステップと
を行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記切削輪郭部の内部に位置する点を黒色として表示するとともに、前記切削輪郭部の外部に位置する点を白色として表示することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記階調レベル値としてグレースケールを使用することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記フィルタを、前記切削輪郭部の形状と、切削エッジの形状と、板厚と、引張り強さ、降伏力、破壊歪みなどの材料特性と、切削プレート、切削ピストンのような切削加工に使用される工具の要素と、適当なパラメータを有する関数の選択と、反復数と、前記階調レベル値における黒色と白色の間の重み係数とに依存してキャリブレーションすることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
特に凸形状及び/又は凹形状を前記切削輪郭部として選択することを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記切削輪郭部のぼかし処理にガウスフィルタ及び/若しくはラプラスフィルタ又は適当な多項式対称関数を使用することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記デジタル画像について特に2〜15回のフィルタの反復処理としてぼかし処理を行うことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
ぼかし処理のために、異なる標準偏差(半径)を有するガウスフィルタを使用することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記切削輪郭部の前記デジタル画像をプログラム及び/又はCCDカメラ、スキャナ等の光学手段によって形成することを特徴とする請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−43424(P2012−43424A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177821(P2011−177821)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【出願人】(507094865)ファインツール・インテレクチュアル・プロパティ・アクチエンゲゼルシャフト (18)
【Fターム(参考)】