説明

打撃機構を駆動するためのリニアモータを制御する方法

【課題】打撃体を駆動するための、突出極を有するリニアモータを制御し、打撃体の磨耗を少なくする方法を得る。
【解決手段】単相リニアモータ1を制御する方法において、打撃体6による打撃ツール8またはアンビル7に対する打撃衝突Kを実行する打撃周期内において、ルーズな連結部4がスライダ側の接触面KLで一方向の強制接触を生ずる引込み段階Zと、打撃体側の接触面KSに一方向の強制接触を生ずる押出し段階Dとを有し、各引込み段階Zと押出し段階Dとの間における切替え段階Wは、2個の接触面KL−KS間における非接触の遊び長Sによって切替える該制御方法において、少なくとも切替え段階Wを引込み段階Zから押出し段階Dまで、極周期Pに対するスライダ5の局所的な位置に基づいて、リニアモータ1の突出極によって離散的にトリガする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打撃機構を駆動するための、突出極を備えた単相リニアモータを制御する方法に関する。この打撃機構は、ルーズな連結部をリニアモータのスライダ(可動子)と打撃体の間に有し、少なくとも部分的に打撃を行う電動手工具装置の一部とする。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、打撃機構を駆動するために構成したリニアモータが記載されている。このリニアモータでは、軟磁性のスライダ(可動子)を直接的に打撃体として構成し、このスライダによって直接、ツールまたはアンビルの装置側の端面を打撃する。特許文献2には、リニアモータを制御するための方法が記載されている。
【特許文献1】英国特許第1396812号明細書
【特許文献2】米国特許第4553074号明細書
【0003】
特許文献3には、突出極を有さないリニアモータが記載されている。このリニアモータの永久磁石性の打撃体を打撃体と、ルーズな連結部で正確に2個の接触面において連結し、これらの間に非接触の遊び長を構成する。駆動周期のサイクル中で、制御ユニットによって制御する打撃体をそれぞれ、正確に1回だけ、ルーズな連結部における2個の接触面のうち一方によって、打撃体に向かって移動し、最終的に一方向の強制接触によりこの打撃体を補足する。打撃体によるツールへの打撃は、スライダに対して分離した状態で生ずるため、打撃体の打撃反動がスライダに反作用を及ぼすことはない。
【特許文献3】欧州特許第0718075号明細書
【0004】
特許文献4には突出極を有する単相リニアモータが記載されている。ここでは、打撃体をこの種のルーズな連結部によって、単相リニアモータの永久磁石性のスライダ(可動子)に連結する。このリニアモータは、突出極を有さないリニアモータよりも高性能である。これは、突出極を有する単相リニアモータではスライダに有効に作用する力が、極間隔に適合して局所的に周期的であり、さらに、このリニアモータのゼロ地点においてスライダを保持する係止力が構成されるため、突出極を有さないリニアモータの通常の制御ユニットは打撃体にとって適当ではない。
【特許文献4】国際公開第2006108524号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、打撃体を駆動するため、突出極を有するリニアモータを制御し、スライダ(可動子)が突出極において停留したままになることを回避する方法を得ることにある。また、ルーズな連結部によって連結した打撃体は、局所的に周期的な力が加わるにも関わらず、疲労なく力を受け止め、すなわち高い応力がない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、本発明特許請求の範囲における請求項1に記載の手法により本質的に解決する。その他の好適な実施例を従属項に記載する。
【0007】
本発明は、打撃機構を駆動するための単相リニアモータを制御する方法であって、この打撃機構は、リニアモータの制御駆動するスライダ(可動子)と打撃機構の打撃体との間にルーズな連結部を有し、1回の打撃体による打撃ツールまたはアンビルに対する打撃力衝突を実行する打撃周期内において、ルーズな連結部がスライダ側の接触面で一方向の強制接触を生ずる引込み段階と、ルーズな連結部が打撃体側の接触面で一方向性強制接触を生ずる押出し段階とを有し、各引込み段階と押出し段階との間にそれぞれ切替え段階を設け、この切替え段階において一方向の強制接触を2個の接触面間における非接触の遊び長によって切替え、この切替えの際にスライダを制御して一方の接触面に対する一方向の強制接触を解消して他方の接触面に対する一方向の強制接触回復する該制御方法において、少なくとも切替え段階を引込み段階から押出し段階まで、極周期に対するスライダの局所的な位置によって、リニアモータの突出極によって離散的にトリガするものとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
切替え段階の離散的(断続的)トリガを、スライダの、リニアモータの突出極の極周期との相対的な位置によって行うことにより、制御ループのための十分再現可能な開始条件が得られ、たとえ、この開始条件が異なるスライダの周期位置であっても、この周期位置に隣接する近似条件として速度基準を満たすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
好適には、一方向の強制接触を切替え段階で切替え、この切替え段階の制動段階ではスライダに制動することによってルーズな連結部の一方向の強制接触を一方の接触面に対して解消し、捕捉段階ではスライダの制御接近させることよってルーズな連結部の一方向の強制接触を他方の接触面に対して回復することにより、捕捉段階もまた、リニアモータの突出極の極周期に対するスライダの位置に基づいて離散的にトリガできる。
【0010】
好適には、切替え段階のために作動する制御ループは、下位の速度差制御とともに位置偏差制御を有するものとする。さらに好適には、両方の制御を比例−積分−微分(PID)制御として構成し、これにより、ルーズな連結部の内部における、繰り返しの接触衝撃につながるオーバースイングを回避できる。このような接触衝撃により、永久磁化およびスライダの耐久性を損なう恐れがある。
【0011】
好適には、捕捉段階は、付帯条件として打撃体とスライダとの間における絶対値としての速度差限界値を絶対的に下回った後に開始する。これにより、常に接触が柔らかくなるため、確実に、ルーズな連結部の圧縮限界負荷のための疲労強度限界値以下となる。さらに好適には、制御接近から捕捉段階への切替えは、強制接触解消条件として打撃体とスライダとの間における絶対値としての位置偏差限界値を下回った後に起こるものとする。これにより、徐々に接近することが回避され、両方の構成体が本質的により速く接触する。
【0012】
好適には、引込み段階に連続する切替え段階が、後続する押出し段階において打撃体およびスライダの速度が所定の理想エネルギーに達して初めて開始するものとし(任意で別の摩損を考慮して)、これにより打撃出力が制御可能となる。
【0013】
好適には、押出段階に連続する切替え段階が、スライダ(任意で別の磨耗を考慮に入れる)をツールおよびアンビルの位置に依存するツール側の反転位置(任意でツールまたはアンビルの位置に依存する)以前で方向転換するための制動に必須の制動エネルギーが、電気力学的に最大限に利用できる駆動エネルギーによって所定の限界エネルギーに達して初めて開始するようにする。これにより、最大打撃出力が達成できる。
【0014】
好適には、センサによって確定する打撃体およびスライダの位置および速度を、種々の運動エネルギーの決定、および利用できる駆動エネルギー(制動エネルギー)または、直接切替え段階の開始位置を決定するため、実験的にまたはシミュレーションモデルによって算出した基準値を有する少なくとも1個の(多次元的にアドレス指定可能な)メモリアレイが利用できるものとし、好適にはこれら基準値間において多次元的に補間できるものとする。これにより、打撃周波数を10Hz〜100Hzとするために必要な制御ピッチを非常に早く実行できる。
【0015】
好適には、押圧段階の、スライダおよび打撃体の動き上死点後に休止段階を設けることにより、耐用期間にわたって打撃周波数を制御できる。
【0016】
次に、図面につき本発明の好適な実施例を説明する。
【実施例1】
【0017】
図1には、手工具装置3の打撃機構2を駆動するための単相リニアモータ1を制御する方法を示す。この手工具装置3は、制御駆動されるリニアモータ1のスライダ(可動子)5と、打撃機構2の打撃体6との間にルーズな連結部4を有する。この方法によれば、スライダ5の制御した運動シーケンスを実現し、この運動シーケンスにおいて図示した打撃周期の間に正確に1回だけ、打撃体6による衝突Kがアンビル7を介してツール8に作用する。打撃周期は引込み段階Zと押出し段階Dとを有し、これらはそれぞれ交互に切替え段階Wを挟んで入れ替わる。引込み段階Zでは、ルーズな連結部4は、スライダ側の接触面KL(図2)で一方向の強制接触を生ずる。押出し段階Dでは、ルーズな連結部4は、打撃体側の接触面KS(図2)で、一方向の強制接触を生ずる。切替え段階Wでは一方向の強制接触が、2個の接触面KL−KS間(図2)に設けた非接触性の遊び長S(図2)によって切り替わる。この切替え段階の制動段階Bにおいて、スライダ5を能動的に制動することにより一方の接触面に対する一方向の強制接触が解消され、捕捉段階Fにおいて、スライダ5が摩擦なく打撃体6の他方の接触面に対して制御接近移動することにより、この他方の接触面に対する一方向の強制接触状態に復元する。この切替え段階Wは、スライダ5の極周期Pに対する局部な位置に基づいて、リニアモータ1の突出極(図示しない)により、誘発される。これにより、この切替え段階Wは、正確に1回の極周期P分だけ局所的に隣接する切替え段階W′に離散的(不連続)にシフトすることができ、この切替え段階W′において、やはりリニアモータ1の駆動力Aによる同じプロセスを生ずる。この方法における切替え段階Wのための能動的制御ループは、スライダ5と打撃体6との間における下位の速度差制御とともに両者間の位置偏差制御を有する。これら双方の制御は、比例的積分‐微分(PID)制御として構成し、スライダ5と打撃体6との間の衝突を軽減するように調整する。押出し段階Dから引込み段階Zに切り替わる際の捕捉段階Fは、付帯条件として打撃体6とスライダ5との間の速度差限界値が絶対値として0.1m/sを下回った場合、すなわち両者の速度がほぼ一致した場合に初めて開始する。この場合、打撃体6とスライダ5との間の位置偏差限界値が絶対値として0.2mmを下回った場合に、制御接近に切替える。引込み段階Zに連続する切替え段階Wは、打撃体6とスライダ5との共通の速度が、ユーザーにより制御可能なプリセットした所定エネルギーESに達した場合に初めて開始するようにする。押出し段階Dに連続する切替え段階Wの開始は、スライダ速度およびスライダ位置により、スライダ5をツール8およびアンビル7の位置に基づくツール側の転向ポイントU以前で方向転換するための制動に必須の制動エネルギーEBが、電気力学的に最大限に利用できる駆動エネルギーによってプリセットした所定限界エネルギーEGである4Jに達した直後に起こるようにする。種々の運動エネルギーES,EBまたは、直接切替え段階Wの開始位置を決定するために、打撃体6およびスライダ5のセンサによって確定される位置および速度を、多次元的アドレス指定可能なメモリアレイが利用し、このメモリアレイは、実験的またはシミュレーションモデルによって算出した基準値を有し、これら基準値間に多次元的に補間される。押出し段階Dにおける、スライダ5および打撃体6の動きの上死点後には休止段階Rを設ける。
【実施例2】
【0018】
図2には、リニアモータ3の駆動力Aを、付加的に、スライダ5の後方に設けた空気ばね9および/または機械的な押圧ばね10により支援する実施例を示す。計算において、このばねの力またはエネルギーも考慮に入れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】手工具装置の制御移動プロセスの位置‐時間グラフである。
【図2】手工具装置における他の実施例の線図的断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 リニアモータ
2 打撃機構
3 手工具装置
4 連結
5 スライダ
6 打撃体
7 アンビル
8 ツール
9 空気ばね
10 押圧ばね
A 駆動力
D 押出し段階
EB 制動エネルギー
EG 限界エネルギー
ES 運動エネルギー
F 捕捉段階
K 衝突
P 極周期
R 休止段階
S 遊び長
KL 接触面
KS 接触面
W 切替え段階
W′ 切替え段階
Z 引込み段階

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打撃機構(2)を駆動するための単相リニアモータ(1)を制御する方法であって、前記打撃機構(2)は、リニアモータ(1)の制御駆動するスライダ(5)と打撃機構(2)の打撃体(6)との間にルーズな連結部(4)を有し、1回の打撃体(6)による打撃ツール(8)またはアンビル(7)に対する打撃力衝突(K)を実行する打撃周期内において、ルーズな連結(4)部がスライダ側の接触面(KL)で一方向の強制接触を生ずる引込み段階(Z)と、ルーズな連結部(4)が打撃体側の接触面(KS)で一方向の強制接触を生ずる押出し段階(D)とを有し、各引込み段階(Z)と押出し段階(D)との間にそれぞれ切替え段階(W)を設け、この切替え段階(W)において一方向の強制接触を2個の接触面(KL−KS)間における非接触の遊び長(S)によって切替え、この切替えの際にスライダ(5)を制御して一方の接触面(KL/KS)に対する一方向の強制接触を解消して他方の接触面(KS/KL)に対する一方向の強制接触を回復する該制御方法において、少なくとも切替え段階(W)を引込み段階(Z)から押出し段階(D)まで、極周期(P)に対するスライダ(5)の局所的な位置に基づいて、リニアモータ(1)の突出極によって離散的にトリガするものとしたことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、一方向強制接触を切替え段階(W)において切替え、この切替え段階(W)の制動段階(B)ではスライダ(5)を制動することによってルーズな連結部(4)の一方向の強制接触を一方の接触面(KL/KS)に対して解消し、捕捉段階(F)でスライダ(5)を制御接近させることによってルーズな連結部(4)の一方向の強制接触力を他方の接触面(KS/KL)に対して回復する方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の方法において、切替え段階(W)のために作動する制御ループは、下位の速度差制御とともに位置偏差制御を有するものとした方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法において、捕捉段階(F)は、付帯条件として打撃体(6)とスライダ(5)との間における絶対値としての速度差限界値を下回って初めて開始するようにした方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法において、引込み段階(Z)に連続する切替え段階(W)が、後に続く押出し段階において打撃体(6)およびスライダ(5)の速度が所定の理想エネルギー(ES)に達して初めて開始するようにした方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法において、押出し段階(D)に連続する切替え段階(W)が、スライダ(5)をツール(8)およびアンビル(7)の位置に依存するツール側の反転位置(U)以前で方向転換するための制動に必須の制動エネルギー(EB)が、電気力学的に最大限に利用できる駆動エネルギーによって所定の限界エネルギー(EG)に達して初めて開始するようにした方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法において、センサによって確定する打撃体(6)およびスライダ(5)の位置および速度を、種々の運動エネルギー(ES)の決定、および利用できる駆動エネルギーまたは制動エネルギー(EB)、もしくは直接切替え段階(W)の開始位置を決定するために、実験的にまたはシミュレーションモデルによって算出した基準値を有する少なくとも1個のメモリアレイが利用するものとした方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法において、押出し段階(D)における、スライダ(5)および打撃体(6)の動きの上死点後に休止段階(R)を設けた方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−194820(P2008−194820A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26347(P2008−26347)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(591010170)ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト (339)
【Fターム(参考)】