説明

投射型画像表示装置

【課題】多灯式の投射型画像表示装置において、従来対応できなかった2300m以上の高地であっても使用可能で、かつランプ寿命との両立が図れる投射型画像表示装置を提供することである。
【解決手段】大気圧を測定するセンサー11と、大気圧と多灯の投射用光源17、18のうち大気圧に対応して点灯させる光源と点灯させない光源の相関関係を記憶する記憶部12と、多灯の投射用光源17、18を個別にオン・オフを行う光源電力スイッチ手段13と、記憶部12の相関関係から、センサー11で取得した大気圧に対応する光源を決定し、その決定に基づいて前記スイッチ手段13を制御する制御手段14と、を備えた投射型画像表示装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は投射型画像表示装置に関し、特に高地でも使用可能で光源の寿命との両立が図れる投射型画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
投射画像を明るくするため、2灯以上の光源を組み込んだ多灯式の投射型画像表示装置があり、光源には超高圧水銀ランプが用いられている。
【0003】
発熱量の大きいこの光源は、温度の上昇により周囲の構造部品を熱変形させたり、ランプ自身の寿命低下を招いたりする。特にランプの寿命と温度との間には相関があり、最適な温度範囲を維持するための冷却が要求されている。ランプが高温になり過ぎても低温になり過ぎてもいけない。
【0004】
光源で発生した光は光学エンジンを介して映像を作成した後、投射レンズで拡大されてスクリーンに投射される。光学エンジンにはDMD、プリズム、カラーホイールなどの複数の光学部品が実装されているが、強い光の透過や反射によってこれらの光学部品にも温度上昇が発生する。この温度上昇はDMDの動作を不安定にしたり、各種の光学部品に特性変化を起こさせて投射画像を悪化させたり、光学部品の寿命を低下させたりしている。すなわち光学部品の温度上昇を抑制することが光学性能を維持し寿命を延命することになるので、光学部品の冷却が装置の性能や信頼性を高める上で必須となっている。
【0005】
このような状況の中で、パーソナルコンピューターの普及に伴って投射型画像表示装置によるプレゼンテーションが広く行われており、投射型画像表示装置を山間部などの標高の高い場所で使用する機会が増加している。しかし投射型画像表示装置を標高の高い高地で使用すると、ランプやDMDを初めとする光学部品の温度上昇は低地に比べて大きくなる。これは、高地では気圧が低いために空気が薄く、装置で発生した熱の大気への熱移動が抑制されるためである。
【0006】
この課題を解決する従来技術として投射型画像表示装置に圧力センサーを設けて大気圧を検出し、検出した大気圧に応じて空冷ファンの回転数を上昇させる次のような技術が公開されている。
特許文献1には、内部温度を検出するための温度センサー、外気圧を検出するための気圧センサー、検出された温度と外気圧に基づいて冷却ファンの回転数を制御する制御装置を備え、使用されている地域の気圧に応じて、適切な冷却ファン制御が自動的に行われる液晶プロジェクターが開示されている。
【0007】
特許文献2には、外気圧を検出するための大気圧センサーを備え、予め設定した大気圧の情報に対応して、ランプ点灯回路が超高圧水銀ランプへの供給電力を制御する。
【0008】
大気圧の低い高地ではランプ電力を低減して点灯させることにより、ランプ温度を下げ、セット内部の温度を下げるのを目的とし、高地においてファン速度増加によって生ずる騒音増大を回避するとともに、高地での使用を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−258237号公報
【特許文献2】特開2008−250043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの従来技術には、以下の課題がある。
【0011】
特許文献1に記載された発明では、空冷ファンの回転数には上限があるため、たとえ騒音増加を伴っても部品の望ましい温度を維持できる標高は2300m前後が限界になるという課題である。例えば、従来の一般的な投射型画像表示装置では1500m前後が限界であり、ファンの回転数を上昇させる“高地モード”を備えた装置であっても2300m前後が限界であった。
【0012】
特許文献2に記載された発明では、ランプへの供給電力を低くし、ランプ温度を下げ、セット内部の温度を下げるのを目的としているが、ランプ温度を過度に下げると、ランプの内壁に、ランプ電極材料が堆積し、短寿命化を引き起こす。実験的には、供給電力を低くしたとしても、定格電力の80%までが限界である。セット内部の温度は約10%程度下がるにすぎず、この条件では、ファンの回転数を上昇させる“高地モード”を備えた装置であっても2300m前後が限界であった。
【0013】
本発明の目的は、従来対応できなかった2300m以上の高地であっても使用可能で、かつランプ寿命との両立が図れる投射型画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の投射型画像表示装置は、大気圧を測定するセンサーと、大気圧と多灯の投射用光源のうち前記大気圧に対応して点灯させる光源と点灯させない光源との相関関係を記憶する記憶部と、前記多灯の投射用光源を各個別にオン・オフを行う光源電力スイッチ手段と、前記記憶部の相関関係から、前記センサーで取得した大気圧に対応する光源を決定し、前記決定に基づいて前記スイッチ手段を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【0015】
特許文献2と同様、投射型画像表示装置内部の温度を下げる目的は同じであるが、ランプ寿命への影響はない。また定格電力が同じ光源を2灯組み合わせて、大気圧センサーで取得した大気圧条件により1灯点灯になった場合、光源への供給電力を実質的には50%まで低減させたことになる。
【0016】
この場合、投射型画像表示装置内部の温度は約30%下がる。また、光源の短寿命化を引き起こさない。定格電力が異なる光源を組み合わせた投射型画像表示装置の場合、光源への供給電力の低減量、投射型画像表示装置内部の温度の低下量に自由度が増す。
【発明の効果】
【0017】
本発明の投射型画像表示装置によれば、設置した場所の大気圧を検出し、検出した大気圧が低いときは高地と判断して、点灯する光源の灯数を制御し、投射型画像表示装置の内部の温度を下げるので、光源の寿命を損なうことなく、光学部品、電子部品の温度上昇を防止することができる。これにより従来は対応できなかった2300m以上の極めて高い標高8000mであっても対応できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態1の投射型画像表示装置の構成図
【図2】本発明の実施の形態1の投射型画像表示装置と従来技術の投射型画像表示装置の寿命評価結果を示すグラフ
【図3】本発明の実施の形態1の投射型画像表示装置と従来技術の投射型画像表示装置の寿命評価結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
【0020】
(実施の形態1)
図1は実施の形態1におけるDLP単板式で2灯合成の投射型画像表示装置1である。投射型画像表示装置1には、周囲の大気圧を測定する大気圧センサー11、大気圧に対応して点灯させる光源と点灯させない光源の相関関係を記憶する記憶部12、多灯の投射用光源を個別にオン・オフを行う光源電力スイッチ13、記憶部の相関関係から、センサーで取得した大気圧に対応する光源を決定し、スイッチ13を制御する制御部14、超高圧水銀ランプ17、18を備えたランプユニット19、20、ランプユニット19、20に電力を供給する電子バラスト15、16、入力したAC電圧をDC電圧に変換する電源部21、光学部品としてDMD22、プリズム23、反射ミラー24、レンズ25、カラーホイール26、ロッドインテグレーター27、合成ミラー28、投射レンズ29、冷却用手段として、DMD22、プリズム23を冷却するファン30、カラーホイール26を冷却するファン31、超高圧水銀ランプ17、18を冷却する為のファン32、33、電源部21を冷却するファン34、外部への排気ファン35、映像・音声信号処理部として、信号入力部36、入力した信号を処理する信号処理回路部37、DMD22、カラーホイール26の駆動制御部38を備えている。記憶部12、光源電力スイッチ13、制御部14、信号処理回路部37、駆動制御部38は主制御回路部39の中に組み込まれている。
【0021】
超高圧水銀ランプ17は150W、18は350Wのランプであり、この投射型画像表示装置1で、2灯点灯させた時は、ランプ部で500Wの消費電力である。
【0022】
次に投射型画像表示装置1の具体的な動作に関して述べる。ACスイッチ40をONにすると電源部21に、AC電圧が入力され、適正に変換されたDC電圧が電子バラスト15、16、及び主制御回路部39に供給され、投射型画像表示装置1はスタンバイ状態に入る。
【0023】
主制御回路部39に設けられた起動ボタンスイッチ41をONにすると、投射型画像表示装置1は起動し、大気圧センサー11が投射型画像表示装置1を設置した場所の大気圧情報を検出する。検出した大気圧情報は、記憶部12に予め大気圧に対応して点灯させる光源と点灯させない光源の相関関係を記憶させた情報をもとに、制御部14で処理され、
点灯させる光源を決定し、信号を光源電力スイッチ13に送り、点灯させる光源に接続されている電子バラスト15、16のどちらか、または両方を動作させ超高圧水銀ランプに電力を供給する。超高圧水銀ランプから投射された光は、合成ミラー28、ロッドインテグレーター27、カラーホイール26、レンズ25、反射ミラー24、DMD22、プリズム23、投射レンズ29を経由してスクリーンへと投射される。これらのプロセスの中で、カラーホイール26、DMD22、プリズム23の光学部品、超高圧水銀ランプ17、18、電源部21、は温度上昇し、その近傍には冷却用のファンを設置している。
【0024】
(表1)に、大気圧に対応して点灯させる光源と点灯させない光源の相関関係を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
周囲の大気圧が1013.3hPaから786.8hPaまで、標高換算にして0m〜2300m未満までは、超高圧水銀ランプ17、18の両方を点灯させる。ランプ電力の合計は500Wである。786.8hPaから616.3hPaまで、標高換算にして2300m以上から4000m未満までは、超高圧水銀ランプ18のみ点灯させる。ランプ電力は350Wである。ランプ電力を定格の電力より30%低下させることにより、セットの内部温度が25%低下し、これまで気圧が低いために空気が薄く、装置で発生した熱の大気への熱移動が抑制されることが原因で過度に温度上昇していた、光学部品、超高圧水銀ランプ、電源部の温度上昇を、標高2300m未満での温度上昇の範囲内に抑えることができ、これまで対応できなかった2300m以上の標高でも使用が可能となった。また616.3hPaから355.9hPaまで、標高換算にして4000m以上から8000mまでは、超高圧水銀ランプ17のみを点灯させる。ランプ電力は150Wである。ランプ電力を定格の電力より70%低下させることにより、セットの内部温度が50%低下し、これまで気圧が低いために空気が薄く、装置で発生した熱の大気への熱移動が抑制されることが原因で過度に温度上昇していた、光学部品、超高圧水銀ランプ、電源部の温度上昇を、標高2300m未満での温度上昇の範囲内に抑えることができ、標高8000mでも使用が可能となった。
【0027】
次に、従来技術である、予め設定した大気圧の情報に対応して、ランプ点灯回路(電子バラスト)が超高圧水銀ランプへの供給電力を制御する投射型画像表示装置(実施の形態1の投射型画像表示装置に従来技術のランプ制御を用いたもの)と、本発明の投射型画像表示装置の寿命評価試験を行った。
(1)周囲の大気圧が786.8hPaから616.3hPaでの比較
従来技術では、超高圧水銀ランプ17、18の電力を、それぞれ30%低下させる、即ち150Wの超高圧水銀ランプ17は105Wで点灯し、350Wの超高圧水銀ランプ18は245Wで点灯させ、ランプ合計電力を350Wとした投射型画像表示装置と、本発明の実施の形態1の350Wの超高圧水銀ランプ18のみ点灯させた投射型画像表示装置の寿命評価結果を図2に示す。点灯累積時間とスクリーン照度維持率の関係を示している。
【0028】
本発明の投射型画像表示装置では点灯累積時間5000時間経過しても、スクリーン照度維持率は80%を維持し、良好な特性を示しているが、従来技術の投射型画像表示装置では、累積点灯時間1500時間を経過した時点でスクリーン照度維持率が50%に低下している。一般的にスクリーン照度維持率が50%に低下するとランプ交換するので、ランプの寿命は1500時間ということになる。照度が急激に低下する原因として、ランプに供給する電力を下げ、ランプ温度を過度に下げすぎた為、ランプの内壁に、ランプ電極材料が堆積する、いわゆる黒化現象が生じ、ランプの光が低下し照度維持率が低下した。
それに対し、本発明の投射型画像表示装置では、ランプ温度が下がる訳ではないので、従来技術のような課題が現れなかった。
(2)周囲の大気圧が616.3hPaから355.9hPaまでの比較
従来技術では、超高圧水銀ランプ17、18の電力を、それぞれ70%低下させる、即ち150Wの超高圧水銀ランプ17は45Wで点灯し、350Wの超高圧水銀ランプ18は105Wで点灯させ、ランプ合計電力を150Wとした投射型画像表示装置と、本発明の実施の形態1の150Wの超高圧水銀ランプ17のみ点灯させた投射型画像表示装置の寿命評価結果を図3に示す。点灯累積時間とスクリーン照度維持率の関係を示している。
【0029】
本発明の投射型画像表示装置では点灯累積時間5000時間経過しても、スクリーン照度維持率は80%を維持し、良好な特性を示しているが、従来技術の投射型画像表示装置では、累積点灯時間1000時間を経過した時点でスクリーン照度維持率が50%に低下している。一般的にスクリーン照度維持率が50%に低下するとランプ交換するので、ランプの寿命は1000時間ということになる。照度が急激に低下する原因として、ランプに供給する電力を下げ、ランプ温度を過度に下げすぎた為、ランプの内壁に、ランプ電極材料が堆積する、いわゆる黒化現象が生じ、ランプの光が低下し照度維持率が低下した。それに対し、本発明の投射型画像表示装置では、ランプ温度が下がる訳ではないので、従来技術のような課題は現れなかった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の投射型画像表示装置は、設置した場所の大気圧を検出し、検出した大気圧が低いときは高地と判断して、点灯する光源の灯数を制御し、投射型画像表示装置の内部の温度を下げるので、光源の寿命を損なうことなく、光学部品、電子部品の温度上昇を防止することができる。これにより従来は対応できなかった2300m以上の極めて高い標高8000mであっても対応できるようになる。
【符号の説明】
【0031】
1 投射型画像表示装置
11 大気圧センサー
12 記憶部
13 光源電力スイッチ
14 スイッチ13を制御する制御部
15、16 電子バラスト
17、18 超高圧水銀ランプ
19、20 ランプユニット
21 電源部
22 DMD
23 プリズム
24 反射ミラー
25 レンズ
26 カラーホイール
27 ロッドインテグレーター
28 合成ミラー
29 投射レンズ
30、31、32、33、34 冷却用ファン
35 排気ファン
36 信号入力部
37 信号処理回路部
38 DMD、カラーホイール駆動制御部
39 主制御回路部
40 ACスイッチ
41 起動ボタンスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧を測定するセンサーと、
大気圧と多灯の投射用光源のうち前記大気圧に対応して点灯させる光源と点灯させない光源との相関関係を記憶する記憶部と、
前記多灯の投射用光源を各個別にオン・オフを行う光源電力スイッチ手段と、
前記記憶部の相関関係から、前記センサーで取得した大気圧に対応する光源を決定し、前記決定に基づいて前記スイッチ手段を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする投射型画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−203589(P2011−203589A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71994(P2010−71994)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】