説明

投影輝度調整方法、投影輝度調整装置、コンピュータプログラム及び記録媒体

【課題】プロジェクタの出力性能、カメラ感度、ダイナミックレンジに関わらず、プロジェクタからの出力輝度とカメラによる観測輝度との間を直線近似するカラー混合行列を容易に獲得可能とする。
【解決手段】画像入力部2は、スクリーン上に投影された画像を撮像したカメラ20から画像データを取得する。輝度変化検出部3は、画像上の画素とサンプル画像上の画素とを対応付けるための射影変換を行い、射影変換画像を生成し、逐次観測した画像について、サンプル画像との輝度変化を検出する。輝度更新部4は、輝度変化に応じてプロジェクタ10から出力する輝度を更新し、プロジェクタ10から画像をスクリーンに投影する。補正係数算出部5は、ある目標とする画像に近い画像を観測した時点で輝度補正のパラメータを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単数または複数のプロジェクタからの投影像をカメラで観測するとき、各画素の観測輝度値が所定の値となるようにプロジェクタからの出力輝度値を自動的に補正する投影輝度調整技術に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタ・カメラシステムは、様々な用途に利用されている。例えば、会議や、学会発表でのプレゼンテーションにプロジェクタを利用する以外に、ヒューマンインタラクションや、拡張現実感の表示システムとしても利用できる。さらに、複数のプロジェクタを用いると、各プロジェクタからの画像を繋ぎ合わせて巨大な画像(タイリング)を生成でき、近年では、HDR(High Dynamic Range)画像を表示するアプリケーションとしても期待されている。
【0003】
プロジェクタからの画像を投影して、カメラによりその投影像を観測するとき、そのカメラが所定の輝度を観測するように原画像を調整する。これは輝度補正と呼ばれており、例えば非特許文献1、2に開示されている。この方法では、プロジェクタからのRGB輝度値とカメラで観測されたRGB輝度値との間の相関関係に着目し、カラー混合行列(Color Mixing Matrix)と呼ばれる3×3の行列Vを用いて、所定のRGB輝度値C=(C,C,C)を、カメラが観測するようにプロジェクタからのRGB出力値P=(P,P,P)を補正する。このシステムにおいて、観測した画像の輝度値Cと各プロジェクタからの出力輝度Pとの間には、次式(1)が成り立つ。
【0004】
【数1】

【0005】
Vは、プロジェクタのカラー混合行列であり、F=(F,F,F)は、プロジェクタ以外の光源からの照明を含む環境光である(物体表面の反射率は一定と考える)。非特許文献2によれば、4枚のサンプル画像が用意できれば、カラー混合行列と環境光を求めることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. K. Nayar, H. Peri, M. D. Grossberg, and P. N. Belhumeur:“A Projection System with Radiometric Compensation for Screen Imperfections”, Proc. of ICCV Workshop on Projector-Camera Systems (PROCAMS), 2003.
【非特許文献2】K. Fujii, M. D. Grossberg, and S. K. Nayar: “A Projector-Camera System with Real-Time Photometric Adaptation for Dynamic Environments”, Proc. of IEEE Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR), vol.1, pp.814-821, 2005.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、非特許文献2によれば、プロジェクタとカメラ間のカラー混合行列を算出するには、4枚の画像が必要である。この画像の例として、グレー系画像、赤系画像、緑系画像、青系画像の4枚が用いられる(以下、サンプル画像と称する)。例えば、グレー系画像の全画素のRGB値をP=(R,G,B)に、赤系画像の全画素値をP=(R+ΔR,G,B)に、緑系画像の全画素値をP=(R,G+ΔG,B)に、青系画像の全画素値をP=(R,G,B+ΔB)に設定する。つまり、グレー系画像を基準画像として、赤系画像、緑系画像、青系画像は、それぞれ1チャネルだけを変化させた画像とする。
【0008】
非特許文献2は、これらの画像を用いることにより、各画素の輝度変化を容易に検出して、カラー混合行列の要素を算出する。例えば、グレー系の画像、赤系の画像をプロジェクタから出力し、それをカメラで観測したときの画像において、ある画素値がそれぞれC=(R′,G′,B′),C=(R′,G′,B′)とする。プロジェクタの輝度変化は、Rチャネルだけなので、式(1)に従えば、その差分C−Cから、次式(2)の関係になる。
【0009】
【数2】

【0010】
よって、次式(3)の計算により、カラー混合行列の要素Vrr,Vgr,Vbrを得ることができる。同様に、緑系画像、青系画像を用いることで、残りのカラー混合行列の要素を推定することができる。
【0011】
【数3】

【0012】
数式(1)から明らかなように、従来方法は、プロジェクタからの輝度Pとカメラによる観測輝度Cとの間を直線近似する方法であるため、各チャネルの変化量があまり小さいと、数式(3)で推定される各行列要素の精度が劣化する恐れがある(変化量に対して反比例の関係となっている)。
【0013】
つまり、サンプル画像の各変化量ΔR、ΔG、並びにΔBを適当に与えるためには、作業者は、プロジェクタの出力性能、カメラ感度、ダイナミックレンジなどを考慮して、カラー混合行列の各要素を安定して推定する必要があった。言い換えると、プロジェクタの出力性能、カメラ感度、ダイナミックレンジなどを作業者が考慮すること無く、カラー混合行列を自動的に推定することができないという問題があった。
【0014】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、プロジェクタの出力性能、カメラ感度、ダイナミックレンジに関わらず、任意のサンプル画像に基づいてプロジェクタからの出力輝度とカメラによる観測輝度との間を直線近似するためのカラー混合行列を容易に獲得することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、プロジェクタによって投影される画像をカメラによって撮像するプロジェクタ・カメラシステムでの投影輝度調整方法であって、設定された値に基づくサンプル画像を前記プロジェクタによって投影した投影画像を、前記カメラで観測した観測画像として取得する観測画像取得ステップと、前記サンプル画像と前記観測画像との輝度変化を検出する輝度変化検出ステップと、前記プロジェクタ又は前記カメラの性能に基づいて予め設定される補正パラメータを用いることなく、前記検出された輝度変化の量に基づいて前記プロジェクタの輝度を制御する輝度制御ステップとを含むことを特徴とする投影輝度調整方法である。
【0016】
本発明の一態様は、上記の投影輝度調整方法であって、前記観測画像取得ステップ、前記輝度変化検出ステップを繰り返し実行し、前記制御ステップは、前記輝度変化の量が所定の許容値以上の場合には、前記プロジェクタへ入力される輝度を更新した後、前記プロジェクタから更新後の輝度に基づいて画像を再び投影するステップと、前記輝度変化の量が前記所定の許容値より小さい場合には、サンプル画像に対する前記プロジェクタの輝度の制御が完了したと判定する完了判定ステップとを含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様は、上記の投影輝度調整方法であって、前記輝度制御ステップの後、カラー混合行列と環境光ベクトルとを含む補正パラメータを算出する算出ステップを更に含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様は、上記の投影輝度調整方法であって、階調誤差を算出するためのテスト画像を生成し、前記補正パラメータを用いて前記テスト画像を補正するステップと、補正後の前記テスト画像の投影画像を前記カメラで撮像して得られたテスト観測画像と、補正前の前記テスト画像との各階調での輝度の誤差を表す階調誤差を算出するステップと、前記階調誤差が所定の閾値以上の場合は、前記補正パラメータ算出に使った前記サンプル画像の輝度階調を変更して、前記輝度制御ステップにより再びそのサンプル画像を補正するステップと、前記階調誤差が所定の閾値より小さい場合は、前記サンプル画像の補正が完了したと判定するステップと、を更に含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様は、プロジェクタによって投影される画像をカメラによって撮像するプロジェクタ・カメラシステムの投影輝度調整装置であって、設定された値に基づくサンプル画像を前記プロジェクタによって投影した投影画像を、前記カメラで観測した観測画像として取得する観測画像取得部と、前記サンプル画像と前記観測画像との輝度変化を検出する輝度変化検出部と、前記プロジェクタ又は前記カメラの性能に基づいて予め設定される補正パラメータを用いることなく、前記検出された輝度変化の量に基づいて前記プロジェクタの輝度を制御する輝度制御部とを備えることを特徴とする投影輝度調整装置である。
【0020】
本発明の一態様は、上記の投影輝度調整方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムである。
【0021】
本発明の一態様は、上記の投影輝度調整方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムを記録した記録媒体である。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、プロジェクタの出力性能、カメラ感度、ダイナミックレンジなどを考慮すること無く、任意のサンプル画像を与えても、プロジェクタからの出力輝度とカメラによる観測輝度との間を直線近似するためのカラー混合行列を自動的に獲得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る第1実施形態の投影輝度調整装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】本第1実施形態の動作を説明するためのフローチャートである。
【図3】プロジェクタに与えた入力輝度(あるカラーチャネル)をカメラで観測した輝度出力の特性(トーンカーブ)の典型例を示す概念図である。
【図4】線形近似を用いた輝度補正の例を示す概念図である(範囲の狭い近似)。
【図5】線形近似を用いた輝度補正の例を示す概念図である(範囲の広い近似)。
【図6】本発明に係る第2実施形態の投影輝度調整装置1の構成を示すブロック図である。
【図7】本第2実施形態での入力輝度レベルPとPの設定方法を説明するための概念図である。
【図8】本第2実施形態によるモデル評価部の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0025】
A.第1実施形態
図1は、本発明に係る第1実施形態の投影輝度調整装置1の構成を示すブロック図である。図1において、投影輝度調整装置1は、1台のプロジェクタ10と1台のカメラ20とからなるプロジェクタ・カメラシステムに対する投影輝度調整方法を実現する。投影輝度調整装置1は、画像入力部2、輝度変化検出部3、輝度更新部4、及び補正係数算出部5を備えている。画像入力部2は、カメラ20から画像データを取得する。輝度変化検出部3は、画像入力部1から観測画像を取得し、その画像情報を用いて輝度変化を検出する。輝度更新部4は、射影計算DB6から取り出した平面射影変換のデータを用いて、投影用変換画像を生成し、その輝度変化検出部3にて得た輝度変化に応じてプロジェクタ10から出力する輝度を更新する。補正係数算出部5は、ある目標とする画像に近い画像を観測した時点で輝度補正のパラメータを算出して輝度補正DB7に保存する。
【0026】
本第1実施形態による投影輝度調整装置1は、準備したサンプル画像に近い画像を、カメラ20が観測するように、観測した画像の輝度変化に応じて、プロジェクタ10へ与える輝度を更新し、自動的に任意の画像の輝度を補正するための輝度補正係数を算出する。
【0027】
この構成において、プロジェクタ10、カメラ20は、必ずしも構成要素として接続している必要はなく、処理に必要なデータを取得すればよい。また、画像入力部2、輝度変化検出部3、輝度更新部4、補正係数算出部5からそれぞれの矢印へのデータの流れは、ハードディスク、RAID装置、CD−ROMなどの記録媒体を利用する形態、または、ネットワークを介してリモートなデータ資源を利用する形態でもどちらでも構わない。
【0028】
以下、各部の詳細について説明する。なお、下記の各処理部でのサンプル画像は、グレー系画像、赤系画像、緑系画像、青系画像を指している。
【0029】
(画像入力部2)
画像入力部2は、カメラ20で観測(撮像)された、プロジェクタ10によりスクリーン(平面)上に投影された画像を取得し、輝度変化検出部3に転送する。画像入力部2で取得する画像の例としては、スクリーン全体が隠れることなく写された画像、または、所定の領域を撮影した画像である。
【0030】
(輝度変化検出部3)
輝度変化検出部3は、画像上の画素とサンプル画像上の画素とを対応付けるための射影変換を行い、射影変換画像を生成する。以下に、該射影変換方法について説明する。
【0031】
プロジェクタ画面の点の2次元座標を(u,v)、その点がZ=0のXY平面上に投影されたときの3次元座標を(X,Y,0)、その投影点をカメラ20で観測したときの点の2次元座標を(x,y)とすると、プロジェクタ10と平面間の平面射影変換Hps、並びに平面とカメラ20間の平面射影変換Hscによって、次式(4)、(5)の計算により、各画素をそれぞれ対応付けることができる。
【0032】
【数4】

【0033】
【数5】

【0034】
さらに、プロジェクタ10から出力する画像の2次元座標(u,v)とサンプル画像上の点の2次元座標(u′,v′)とは、次式(6)の計算により両画素を対応付けることができる。
【0035】
【数6】

【0036】
ipは、サンプル画像とプロジェクタ画面間の平面射影変換である。よって、これらの平面射影変換が既知であると、サンプル画像の2次元座標(u′,v′)とカメラ20で観測した2次元座標(x,y)との間、並びに、プロジェクタ画面上の2次元座標(u,v)とカメラ20で観測した2次元座標(x,y)との間を結び付けることができる。これらの平面射影変換は、事前のキャリブレーション作業によって得られており、そのデータが射影変換DB6に格納されている。このキャリブレーションでは、公知となっている平面射影変換推定方法を利用することができる。
【0037】
輝度変化検出部3は、画像入力部2から観測画像を取得すると、射影変換DB6から上記平面射影変換のデータを読み込み、数式(6)に従ってサンプル画像の画素の2次元座標値(u′,v′)から観測画像上の画素に該当する2次元座標値(x,y)を算出する。輝度変化検出部3は、この座標計算を対象の画素全てに施して、観測画像を射影変換した画像を生成する。
【0038】
該射影変換画像の各画素は、サンプル画像の対応する各画素に対応付けられるので、観測画像の画素値C′(t)とサンプル画像上の画素値Cとを比較することができる。なお、本第1実施形態の動作が終了するまで、カメラ20から画像を逐次観測するため、状態t、あるいは時刻tでの観測画像の画素値をC′(t)と表すことにする。平面射影変換を用いてオリジナル画像と観測画像との各画素を対応付けしながら、各画素の輝度変化ΔC(t)を、次式(7)の計算によって算出する。
【0039】
【数7】

【0040】
輝度変化検出部3は、逐次観測した画像について、数式(7)を用いてサンプル画像との輝度変化を検出する。
【0041】
(輝度更新部4)
輝度更新部4は、起動されると、まず、プロジェクタ10にセットする画像を初期化する。例えば、各画素が次式(8)で与えられた入力画像をプロジェクタ10へセットする。
【0042】
【数8】

【0043】
Cはサンプル画像の各画素に対応している。但し、αはパラメータであり、例として、α=0.5とする。その画像が所定の平面、または領域へ投影するように、射影変換DB6から平面射影変換のデータを取り出し、その平面射影変換のデータを用いて、その画像から投影用変換画像を生成する。平面射影変換は、一度読み出してメモリ(図示略)に一時記憶して用いる。プロジェクタ10にセットされた画像は、所定の平面であるスクリーン(図示略)に投影される。
【0044】
いま、状態tでのプロジェクタ入力輝度がP(t)だとする。輝度更新部4は、上述した輝度変化検出部3で得た輝度変化ΔC(t)から全画素についての誤差の平均値(輝度誤差)を計算し、その輝度誤差が所定の許容値ε(例えば、ε=10に設定しておく)より小さい場合には、現時点で処理を停止し、補正係数算出部5へ処理を移行する(補正係数算出部5の処理内容については後述する)。一方、その輝度誤差が所定の許容値ε以上である場合には、状態t+1でのプロジェクタ入力輝度値を、次式(9)で更新する。
【0045】
【数9】

【0046】
ここで、Kは3×3の行列であり、フィードバック・ゲインとしての役割を担っている。本第1実施形態では、次式(10)とする。
【0047】
【数10】

【0048】
パラメータkは自由に設定してもよい。例えば、1台のプロジェクタ10を輝度補正する形態では、k=1.0にセットし、2台のプロジェクタ10における輝度を同時に輝度補正する形態では、k=0.5にセットし、3台のプロジェクタ10における輝度を同時に輝度補正する形態では、k=0.3にセットする。数式(9)を用いて輝度が更新された画素は、プロジェクタ10へ次の状態として与えられる画像上の画素にセットされる。このとき、観測画像を射影変換したのと同様に、射影計算DB6から取り出した平面射影変換のデータを用いて、投影用変換画像を生成する。
【0049】
投影用変換画像の画素は、プロジェクタ画面の画素である。サンプル画像と同じ大きさの画像バッファを用意し、画素が(u′,v′)に対応するため、数式(4)、(5)、(6)の平面射影変換の関係を利用して、プロジェクタ画面上の座標(u,v)を算出する。輝度が更新された画素は、その座標(u,v)の点にセットされる。全ての画素の輝度を更新した後、輝度更新部4は、この投影用変換画像をプロジェクタ10にセットし、更新画像を再び平面に投影する。
【0050】
数式(9)による輝度更新は、各状態tでの輝度変化に応じて行われ、輝度誤差が許容誤差εより小さくなるまで続けられる。各サンプル画像について、輝度誤差が許容誤差εより小さくなった時点で、各サンプル画像の輝度補正が完了したと判定し、作業用のメモリに一時確保しておく。
【0051】
(補正係数算出部5)
補正係数算出部5は、4枚のサンプル画像について輝度更新部4の処理が完了した時点で動作を実行する。補正係数算出部5は、一時保存されていた各サンプル画像に関する輝度補正画像を取り出す。ある注目画素について、グレー系画像における、その画素値をP、赤系画像における、その各画素をP、緑系画像における、その各画素をP、青系画像における、その各画素をPとする。これらの画素値は、プロジェクタにセットされた画像上の画素であるため、簡略的にプロジェクタ入力輝度と呼ぶことにする。
【0052】
一方、オリジナルの画素値として、グレー系画像の各画素をC、赤系画像の各画素をC、緑系画像の各画素をC、青系画像の各画素をCとする。これらの画素値は、カメラ観測で得た画像上の画素とほぼ同等なため、簡略的にカメラ観測輝度と呼ぶことにする。プロジェクタ入力輝度とカメラ観測輝度との関係は、カラー混合行列と環境光ベクトルとを用いて、数式(1)で結び付けることができる。
【0053】
カラー混合行列Vの逆行列をUとすると、赤系画像とグレー系画像との輝度差分は、次式(11)で表される。
【0054】
【数11】

【0055】
観測画像がサンプル画像とほぼ等しいので、数式(11)の左辺の(C−C)は、R成分しか値がなく、他の成分は値0である。つまり、数式(11)は、次式(12)となる。
【0056】
【数12】

【0057】
但し、ΔRは(C−C)のR成分であり、(ΔR,ΔG,ΔB)はプロジェクタ入力輝度の差分P−Pの各RGB値である。よって、数式(12)から、カラー混合行列の逆行列要素が、次式(13)で計算できる。
【0058】
【数13】

【0059】
同様に、緑系画像とグレー系画像との差分から、次式(14)が得られる。
【0060】
【数14】

【0061】
同様に、青系画像とグレー系画像との差分から、次式(15)が得られる。
【0062】
【数15】

【0063】
但し、(ΔR,ΔG,ΔB)はプロジェクタ入力輝度の差分(P−P)の各RGB値であり、(ΔR,ΔG,ΔB)はプロジェクタ入力輝度の差分(P−P)の各RGB値である。以上により、カラー混合行列の逆行列を得たので、行列Uの逆行列を計算し、カラー混合行列Vを得る。さらに、グレー系画像を用いて、数式(1)の関係から、次式(16)を利用して、環境光ベクトルFを算出する。
【0064】
【数16】

【0065】
補正係数算出部5は、全ての画素について、カラー混合行列Vと環境光ベクトルFとを求めた後、それらのデータを輝度補正DB7に格納する(本発明では、カラー混合行列と環境光ベクトルとを合わせて補正パラメータと称している)。
【0066】
図2は、本第1実施形態の動作を説明するためのフローチャートである。図2に示すフローチャートでは、グレー系画像、赤系画像、緑系画像、青系画像の順番に処理される。まず、動作が起動されると、輝度更新部4は、サンプル画像をセットし(ステップS1)、補正が完了したか否かを判断する(ステップS2)。ここで、補正が完了していない場合には(ステップS2のNO)、プロジェクタ10にセットする画像の輝度値を初期化し(ステップS3)、その画像が所定の平面、または領域へ投影するように、射影変換DB6から平面射影変換のデータを取り出し、その画像をその平面射影変換のデータを用いて投影用変換画像を生成し(ステップS9)、プロジェクタ10から所定の平面であるスクリーンに投影する(ステップS10)。
【0067】
画像入力部2では、カメラ20で観測(撮像)された、プロジェクタ10によりスクリーン(平面)上に投影された画像を取得し、輝度変化検出部3に転送する(ステップS4)。輝度変化検出部3では、射影変換DB6から平面射影変換のデータを取り出し、画像上の画素とサンプル画像上の画素とを対応付けるための射影変換を行い、射影変換画像を生成する(ステップS5)。輝度変化検出部3は、逐次観測した画像について、サンプル画像との輝度変化を検出する(ステップS6)。
【0068】
輝度更新部4は、上述した輝度変化検出部3で得た輝度変化から全画素についての誤差の平均値(輝度誤差)を計算し、その輝度誤差が所定の許容値ε(例えば、ε=10)より小さいか否かを判断する(ステップS7)。そして、その輝度誤差が所定の許容値ε以上の場合には(ステップS7のNO)、輝度更新部4は、プロジェクタ入力輝度値を更新し(ステップS8)、全ての画素の輝度を更新した後、上述したように、射影変換DB6から取り出した平面射影変換のデータを用いて、投影用変換画像を生成し(ステップS9)、プロジェクタ10から更新画像を再び平面であるスクリーンに投影する(ステップS10)。
【0069】
上述したステップS4〜S10の処理は、輝度誤差が許容誤差εより小さくなるまで(ステップS7がYESになるまで)、その輝度更新を行いながら実行される。輝度更新部4は、各サンプル画像について、輝度誤差が許容誤差εより小さくなった時点で(ステップS7のYES)、各サンプル画像の輝度補正が完了したと判定し(ステップS2のYES)、補正係数算出部5へ処理を移行する。補正係数算出部5は、全ての画素について、カラー混合行列Vと環境光ベクトルFを求めた後、それらのデータを輝度補正DB7に格納する(ステップS11)。
【0070】
上述した第1実施形態によれば、作業者は、事前にプロジェクタ・カメラシステムの光学的な内部パラメータを考慮する必要がなく、適当に与えたサンプル画像からプロジェクタ入力輝度とカメラ観測輝度間の輝度誤差を自動的に補正し、従来方法と同等の精度で各画素のカラー混合行列Vと環境光ベクトルFとを得ることができる。
【0071】
また、本第1実施形態によれば、アプリケーションに応じて、輝度補正DB7から補正パラメータを取り出し、非特許文献1、または2の従来方法に従って、任意のコンテンツ画像を輝度補正することが可能である。
【0072】
なお、本第1実施形態によるフローチャートを一斉に複数のプロジェクタに適用するならば、マルチプロジェクタシステムを自動的に輝度補正し、それぞれの補正パラメータ(カラー混合行列と環境光ベクトル)を得ることができる。
【0073】
B.第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本第2実施形態を説明する前に、本第2実施形態が解決する新たな課題について説明しておく。図3は、プロジェクタに与えた入力輝度(あるカラーチャネル)をカメラで観測した輝度出力の特性(トーンカーブ)の典型例を示す概念図である。また、図4、図5は、線形近似を用いた輝度補正の例を示す概念図である。
【0074】
一般的に、カメラの感度は、区間Aの低階調レベルでは反応が鈍く、区間Bの中間階調では、ほぼ直線の特性を示し、区間Cの高階調では、その傾きが緩やかとなる。従来方法におけるプロジェクタ・カメラシステムの輝度補正では、このような階調特性に対して、図4、または図5に示す太い直線a、bで示したような線形近似を行い、その直線に従って所定の出力輝度を観測するように、プロジェクタに与える入力輝度を補正する。
【0075】
図4では、入力輝度レベルPとPの2点を結ぶ直線aでトーンカーブを線形近似しており、図5では、入力輝度レベルPをできるだけ大きくして、Pと結ぶ直線bでトーンカーブを線形近似している。図4では、Pより高い入力輝度に対して近似直線aがトーンカーブから次第に外れるが、図5では、比較的広域な範囲を直線bで近似している。
【0076】
つまり、図5では、広範囲にわたって元のトーンカーブとの誤差が小さいため、広範囲の補正が制御できることを示している。入力輝度レベルPとPは、サンプル画像のグレー系画像と各カラー系画像との輝度にそれぞれ対応する。すなわち、基準画像の全画素のRGB値は、Pに対応し、あるカラー系画像(赤系画像、緑系画像、青系画像)のあるチャネルの輝度がP、それ以外のチャネルの輝度がPに対応する。
【0077】
従って、入力輝度レベルにおいてPとPが狭いということは、階調全体の輝度補正の精度に影響を与えるため、できるだけ広範囲に線形近似できる補正パラメータを求めることが必要となる。本第2実施形態は、この課題を解決することを目的とする。
【0078】
図6は、本発明に係る第2実施形態の投影輝度調整装置1の構成を示すブロック図である。なお、図1に対応する部分には同一の符号を付けて説明を省略する。以下では、第1実施形態の構成に対して異なるモデル評価部8について説明する。
【0079】
(モデル評価部8)
第1実施形態において、グレー系画像のRGBチャネル値が全て(P,P,P)にセットされ、赤系画像のRGBチャネル値が(P,P,P)にセットされ、緑系画像のRGBチャネル値が(P,P,P)にセットされ、青系画像のRGBチャネル値が(P,P,P)にセットされるとする。
【0080】
図7は、本第2実施形態での入力輝度レベルPとPの設定方法を説明するための概念図である。図7に「●」で示すように、本第2実施形態では、初期化では、できるだけ広い範囲から処理を始めるため、Pが0レベルに近い値に、Pは255レベルに近い値に設定される。この初期段階では、補正パラメータが存在しないため、これらのサンプル画像が用意される(サンプル画像の再設定)だけの処理で終了する。
【0081】
この初期のサンプル画像から、第1実施形態と同様の手法によって補正パラメータを算出する。輝度補正DB7の補正パラメータが更新されると、モデル評価部8が再起動する。モデル評価部8は、まず、評価誤差を算出するためのN枚のテスト画像を準備する。各テスト画像のRGBチャネル値は、それぞれ(P+n×ΔL,P+n×ΔL,P+n×ΔL)にセットされる。nは0,1,2,…,N−1の整数であり、ΔLは、次式(17)で決められた階調の量子化ステップであり、最大階調レベルを超えない程度に四捨五入されている。
【0082】
【数17】

【0083】
図8は、本第2実施形態によるモデル評価部8の動作を説明するためのフローチャートである。モデル評価部8は、輝度補正DB7に補正パラメータがあるか否かを判断し(ステップS20)、補正パラメータがある場合には(ステップS20のYES)、数式(17)に従って輝度階調を設定し、射影変換DB6からの平面射影変換データを用いて所定の領域に投影されるように、投影用変換画像としてN種類のテスト画像を生成する(ステップS21)。次に、モデル評価部8は、輝度補正DB7から得た補正パラメータを用いて、全てのテスト画像の輝度を補正する(ステップS22)。
【0084】
次に、モデル評価部8は、それぞれ補正されたテスト画像を、輝度更新部4に与え、プロジェクタ10を通して順番に投影する(ステップS23)。その投影画像をカメラ20で次々と観測して、オリジナルのテスト画像との間の輝度誤差の平均値(輝度評価値)を算出する(ステップS24)。次に、その輝度評価値が所定の誤差δ(例えば、δ=10と設定する)より小さいか否かを判断する(ステップS25)。
【0085】
そして、その輝度評価値が所定の誤差δより小さい場合には(ステップS25のYES)、モデル評価部8の処理を停止し、当該処理を終了する。一方、補正パラメータがない場合(ステップS20のNO)、あるいは、輝度評価値が所定の誤差δ以上の場合には、サンプル画像の再設定を実施する(ステップS26)。この処理では、先に設定したグレー系画像、赤系画像、緑系画像、青系画像のRGBチャネル値を変更する。図7に「○」で示したように、階調を狭める方向、すなわち、次式(18)、(19)に変更する。
【0086】
【数18】

【0087】
【数19】

【0088】
ΔDは任意の正の整数であり、例えば、ΔD=10と与える。この変更に伴い、サンプル画像の画素を更新し、同様に、第1実施形態に従って、再び、これらのサンプル画像から補正パラメータを算出する。補正パラメータが再度算出されると、モデル評価部8の処理を繰り返すことにより、トーンカーブに最も近い線形近似を探索することができ、それに応じた補正パラメータを得ることができる。
【0089】
上述した第1、第2実施形態によれば、プロジェクタの出力性能、カメラ感度、ダイナミックレンジなどを考慮すること無く、任意のサンプル画像を与えても、プロジェクタからの出力輝度Pとカメラによる観測輝度Cとの間を直線近似するためのカラー混合行列を自動的に獲得することができるため、プロジェクタ・カメラシステムを柔軟に輝度補正することが可能となる。
【0090】
なお、本発明は、前述した第1、第2実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、システム、あるいは装置に供給し、そのシステム、あるいは装置のCPU(MPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行することによっても実現できる。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が上述した実施の形態の機能を実現することになり、そのプログラムコードを記憶した記憶媒体、例えば、CD−ROM、DVD−ROM、CD−R、CD−RW、MO、HDD等は本発明を構成する。
【符号の説明】
【0091】
1 投影輝度調整装置
2 画像入力部
3 輝度変化検出部
4 起動更新部
5 補正係数算出部
6 射影変換DB
7 輝度補正DB
8 モデル評価部
10 プロジェクタ
20 カメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロジェクタによって投影される画像をカメラによって撮像するプロジェクタ・カメラシステムでの投影輝度調整方法であって、
設定された値に基づくサンプル画像を前記プロジェクタによって投影した投影画像を、前記カメラで観測した観測画像として取得する観測画像取得ステップと、
前記サンプル画像と前記観測画像との輝度変化を検出する輝度変化検出ステップと、
前記プロジェクタ又は前記カメラの性能に基づいて予め設定される補正パラメータを用いることなく、前記検出された輝度変化の量に基づいて前記プロジェクタの輝度を制御する輝度制御ステップと
を含むことを特徴とする投影輝度調整方法。
【請求項2】
前記観測画像取得ステップ、前記輝度変化検出ステップを繰り返し実行し、
前記制御ステップは、
前記輝度変化の量が所定の許容値以上の場合には、前記プロジェクタへ入力される輝度を更新した後、前記プロジェクタから更新後の輝度に基づいて画像を再び投影するステップと、
前記輝度変化の量が前記所定の許容値より小さい場合には、サンプル画像に対する前記プロジェクタの輝度の制御が完了したと判定する完了判定ステップと
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の投影輝度調整方法。
【請求項3】
前記輝度制御ステップの後、カラー混合行列と環境光ベクトルとを含む補正パラメータを算出する算出ステップを更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の投影輝度調整方法。
【請求項4】
階調誤差を算出するためのテスト画像を生成し、前記補正パラメータを用いて前記テスト画像を補正するステップと、
補正後の前記テスト画像の投影画像を前記カメラで撮像して得られたテスト観測画像と、補正前の前記テスト画像との各階調での輝度の誤差を表す階調誤差を算出するステップと、
前記階調誤差が所定の閾値以上の場合は、前記補正パラメータ算出に使った前記サンプル画像の輝度階調を変更して、前記輝度制御ステップにより再びそのサンプル画像を補正するステップと、
前記階調誤差が所定の閾値より小さい場合は、前記サンプル画像の補正が完了したと判定するステップと、
を更に含むことを特徴とする請求項3に記載の投影輝度調整方法。
【請求項5】
プロジェクタによって投影される画像をカメラによって撮像するプロジェクタ・カメラシステムの投影輝度調整装置であって、
設定された値に基づくサンプル画像を前記プロジェクタによって投影した投影画像を、前記カメラで観測した観測画像として取得する観測画像取得部と、
前記サンプル画像と前記観測画像との輝度変化を検出する輝度変化検出部と、
前記プロジェクタ又は前記カメラの性能に基づいて予め設定される補正パラメータを用いることなく、前記検出された輝度変化の量に基づいて前記プロジェクタの輝度を制御する輝度制御部と
を備えることを特徴とする投影輝度調整装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の投影輝度調整方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の投影輝度調整方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムを記録した記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−83872(P2013−83872A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224919(P2011−224919)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】