説明

抗うつ用嗅剤

【課題】人体内への曝露量が極めて小さく、副作用を最小限に抑えることができる、嗅覚を刺激することによって抗うつ作用を発揮する、全く新しいタイプの抗うつ用嗅剤を提供する。
【解決手段】下記の一般式(1)で表されるピラジン化合物を有効成分とする抗うつ用嗅剤:


式中、R1〜R4は各独立して水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嗅覚を刺激することにより抗うつ作用を発揮する、ピラジン化合物を有効成分とする抗うつ用嗅剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ますます複雑化する現代社会において、うつ病患者の増加が我が国の大きな社会問題となっている。うつ病の罹患率は国民の4〜5%に達するとの報告もあり、罹患後治療しない場合は自殺に至ることも多い。我が国の年間自殺者数は1998年以降7年連続で3万人を超えた。さらに年代別に見ると、30〜40歳台がその3分の1を占めており、働き盛りの年代に自殺者が多い点にもうつ病問題の深刻さが現れているといえる。
【0003】
したがって、うつ病の治療に関する研究は最重要課題の1つである。その治療薬としては、三環系抗うつ薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬などが使用されている。しかしながら、これらのうつ病治療薬を服用している患者には、しばしばせん妄や妄想等の精神病症状、ショック症状、躁転等の副作用があらわれることが問題視されている。
【0004】
例えば、イミプラミン(imipramine)は排尿困難や幻覚等の副作用を、アモキサピン(amoxapine)は自律神経系症状、口渇、便秘、めまい等の副作用を、マプロチリン(maprotiline)は口渇、便秘、血圧降下、言語障害等の副作用を有する。
そこで、一般に副作用が少ないといわれる天然資源から抽出される抽出成分を有効成分とした、抗うつ剤が提案されているが(例えば、特許文献1〜3参照)、実用に供されるものは殆ど無いのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−275061号公報
【特許文献2】特開2007−99660号公報
【特許文献3】特開2007−210898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、人体内への曝露量が極めて小さく、副作用を最小限に抑えることができる、嗅覚を刺激することによって抗うつ作用を発揮する、全く新しいタイプの抗うつ用嗅剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、匂い物質としてピラジン化合物を使用し、嗅覚を刺激することによりうつ病を治療できることを発見し、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明では、上記課題を解決するために次の構成1.〜3.を採用する。
1.下記の一般式(1)で表されるピラジン化合物を有効成分とする抗うつ用嗅剤:
【化1】

【0008】
式中、R1〜R4は各独立して水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基から選択された基を表す。
【0009】
2.前記ピラジン化合物を水系溶媒に溶解又は分散したことを特徴とする1.に記載の抗うつ用嗅剤。
【0010】
3.賦形剤を加えて固形状又はゲル状にしたことを特徴とする1.又は2.に記載の抗うつ用嗅剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗うつ用嗅剤は、嗅覚を刺激することによって抗うつ作用を発揮する、全く新しいタイプの抗うつ用嗅剤であり、次のような顕著な効果を奏する。
(1)人体内への曝露量が極めて小さく、副作用を最小限に抑えることができる。
(2)香水、化粧水、入浴剤や芳香剤といった、日常生活に用いられる生活用品の形態とすることにより、治療を意識せずに抗うつ作用を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1において、マウスの強制水泳試験によりピラジンの抗うつ用嗅剤としての効果を測定した結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例1において、マウスの尾懸垂試験によりピラジンの抗うつ用嗅剤としての効果を測定した結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例1において、マウスにピラジンの匂いを20時間嗅がせた後、オープンフィールドテストを行った結果を示す図である。
【図4】本発明の参考例1において、ピラジンと構造が近い物質を用いて、マウスの強制水泳試験により抗うつ効果を試験した結果を示す図である。
【図5】本発明の参考例2において、マウスにピラジン1000mg/Kgを腹腔内注射し、20時間後に強制水泳試験を行った結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例2において、マウスの強制水泳試験により2−メチルピラジンの抗うつ用嗅剤としての効果を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、嗅覚を刺激し抗うつ作用を発揮する抗うつ用嗅剤の有効成分となる匂い物質として、上記の一般式(1)で表されるピラジン化合物を使用する。
一般式(1)において、R1〜R4は各独立して水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基から選択された基を表す。好ましい炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基のような炭素数1〜5程度の低級アルキル基、フェニル基、メチルフェニル基等が挙げられる。
特に好ましいピラジン化合物としては、ピラジン、メチルピラジンが挙げられる。
【0014】
本発明の抗うつ用嗅剤では、上記のピラジン化合物を粉末、或いは粒状体等として、そのまま通気性のある包装紙、不織布、織布等に包むか、ガラスやプラスチック等で構成された通気性のある容器等に収納して、用いることができる。
【0015】
また、ピラジン化合物を水系溶媒に溶解又は分散させることによって、溶液或いは分散液として用いることができる。
水系溶媒としては、水、水と混和性のある有機溶媒を使用することができる。有機溶媒としては、メタノール,エタノール,プロパノール,イソプロパノール等の低級アルコール、1,3−ブチレングリコール,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,グリセリン等の多価アルコール、エチルエーテル,プロピルエーテル等のエーテル類、酢酸ブチル,酢酸エチル等のエステル類、アセトン,エチルメチルケトン等のケトン類等の溶媒を用いることができる。これらの溶媒は、単独で或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。
好ましい水系溶媒としては、水と炭素数1〜3の低級アルコール、特に水とエタノールの混合溶媒が挙げられる。
【0016】
抗うつ剤組成物中のピラジン化合物と水系溶媒の混合割合は任意であるが、通常は水系溶媒100重量部に対してピラジン化合物0.001〜50重量部、好ましくは0.01〜30重量部、特に好ましくは0.1〜20重量部が用いられる。
また、抗うつ剤組成物中には、溶解性や分散性を改善するために界面活性剤を配合することができる。界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルまたはアルキルアリール硫酸塩などの陰イオン性界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの非イオン性界面活性剤などの1種以上を利用することができる。
【0017】
ピラジン化合物と水系溶媒を含有する抗うつ剤組成物は、例えば香水、化粧水、液状入浴剤等の形態として、製品化することができる。また、抗うつ剤組成物を熱可塑性エラストマーからなる成形体、コットン、スポンジ等に含浸させたものを、容器内に収容して用いるようにしてもよい。
【0018】
本発明では、上記のピラジン化合物、或いはピラジン化合物と水系溶媒を含有する組成物に、各種の賦形剤(基剤)を加えて固形状又はゲル状とすることにより、抗うつ用嗅剤を構成することができる。賦形剤としては、水系芳香剤に用いられる水溶性基剤、或いは各種の油脂、ロウ、パラフィン、ワセリン等の油性基剤を使用することができる。
【0019】
水溶性基剤の具体例としては、例えば、グァーガム、カラギーナン、アラビアゴム、ペクチン、デンプン、キサンタンガム、デキストリン、ゼラチン等の天然水溶性高分子、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化デンプン、カチオン化グァーガム等の多糖類誘導体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、メタアクリル酸コポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート等の合成水溶性高分子、グルコース、スクロース、ラクトース、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、アドニトール、アラビトール、ズルチトール、ラクチトール、パラチニット、直鎖還元オリゴ糖アルコール(マルチトール等)、分岐還元オリゴ糖アルコール(イソマルチトール等)等の糖アルコールが挙げられる。これらの水溶性基剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
賦形剤の配合割合は任意であるが、通常は組成物全体を基準として1〜99重量%、好ましくは10〜90重量%程度配合する。
賦形剤を配合して固形状又はゲル状とした抗うつ剤組成物は、必要により容器内に収容して、芳香剤、お香、アロマキャンドル、入浴剤等の形態で製品化することができる。
【0021】
抗うつ剤組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、上記成分の他に、各種の香料; 1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2n-オクチル-イソチアゾリン-3-オン等の防腐剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;顔料、染料等の色素;シリコーン等の他の成分を適当量配合することができる。
【実施例】
【0022】
次に、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
本発明では、ピラジン化合物を有効成分とする抗うつ用嗅剤の抗うつ作用を、マウスを用いる強制水泳試験及び尾懸垂試験により確認した。これらの試験は、うつ病の動物モデル実験として最も使用されている、確立された方法である。
【0023】
[実施例1:ピラジンを用いた抗うつ用嗅剤]
7週齢のマウス(系統C57BL/6J)の雄(日本SLC(株)、浜松、日本)を使用した。マウスは、5匹ずつプラスチックケージ(20cm×30cm×12cm)内で自由飲食にて飼育した。飼育室は、室温20℃に保たれており、9時から21時まで点灯した。
ピラジンの粉末2.5gを通気性を有する包装紙(商品名「プロワイプ」、大王製紙社製)で包み、飼育ケージの天井部の外側にテープで固定し、マウスを飼育した。20時間にわたってピラジンの匂いを嗅がせたのち、無臭の新しいケージにマウスを移し、1時間後に強制水泳試験を行った。
ポジティブコントロールとして既知の抗うつ剤であるイミプラミンを投与したマウス群についても強制水泳試験を行った。イミプラミンは、5mg/kgを強制水泳試験の24時間前、5時間前、および1時間前に腹腔内注射した。
【0024】
(強制水泳試験)
強制水泳試験は、1977年にPorsoltらにより開発された、うつ病の動物モデル実験として最も使用されている方法の一つである(Nature. 266:730-2, 1977; Arch Int Pharmacodyn Ther. 229:327-36,
1977)。
本試験では、マウスをある限られたスペースの中で強制的に泳がせて「無動状態」を惹起させる。この無動状態は、ストレスを負荷された動物が水からの逃避をあきらめた一種の「絶望状態」を反映するものと考えられ、ヒトにおけるうつ状態と関連づけられている。事実、抗うつ薬は特異的にこの状況下における無動状態の持続時間を短縮させることがわかっており、この短縮作用は臨床力価との間に有意な相関を有することが認められている。
強制水泳試験には、市販の強制水泳実験装置TS-3002(小原医科産業社製)を用いた。直径11cm、高さ20cmの円筒形のプラスチック水槽に15cmの高さまで22±1℃の水を入れた。この中にマウスを入れ10分間、強制的に水泳させた。溺れそうになったマウスは最初は泳ぎ回る。しかし時間が経過するとあきらめて水面上で動かなくなる(無動状態)。水泳中の活動をビデオカメラで記録した。画像は2フレーム/秒で撮影し、画像解析プログラムにより各フレームにおける被験体の輪郭をプロット、1つ前の輪郭とのズレ面積を計算し、これが500pixcel一定以下であれば無動と判定した。画像解析プログラムにはImage J (U.S. National
Institutes of Healthにおいて作製されたフリーウェア:インターネットのホームページから入手可能)をもとに作られたImage J PS1(FZ1)(小原医科産業社製)を使用した。水泳開始後3分から6分の間の泳いでいない時間(無働時間)を測定し、ピラジンの抗うつ効果を評価した。強制水泳試験は午後1時から6時の間に行った。
【0025】
(強制水泳試験の結果)
図1はピラジンの匂いを20時間嗅がせた後、および抗うつ剤であるイミプラミンを15 mg/kg/日の濃度で腹腔内注射した後に強制水泳試験を行った結果を示す図である。縦軸は水泳開始後3分から6分の間の無働時間の割合(%)を示し、各群は平均値±標準誤差で表示している。図中の*および**は、匂いを嗅がせていないコントロール群の無働時間に対して有意な差(*p<0.05、**P<0.001)があることを示す。
コントロール群に対し、15 mg/kg/日のイミプラミン投与は無働時間を有意に減少させた。これにより本試験が、抗うつ効果の判定方法として適切であることが確認された。
また、ピラジンの匂いを20時間嗅がせたマウス群ではコントロール群に対し無動時間が有意に約80%低下した。これによりピラジンの匂いには抗うつ効果があることが示された。また、ピラジンによる抗うつ効果は、従来の抗うつ薬であるイミプラミンによる効果よりも大きいことが判明した。
【0026】
(尾懸垂試験)
尾懸垂試験にはテールサスペンション及び強制水泳実験装置TS-3002(小原医科産業社製)を用いた。尾懸垂試験用装置(縦30cm、横40cm、高さ40cm)の上部の金属棒にマウスの尾をテープで固定し、懸垂した。懸垂中の活動をビデオカメラで記録した。マウスを尾で宙吊りにすると、マウスは逃れようとしてもがく。しかし次第に逃れられないことを認識して、動かなくなる(無動状態)。6分間の無動時間を測定した。画像は2フレーム/秒で撮影し、画像解析プログラムにより各フレームにおける被験体の輪郭をプロット、1つ前の輪郭とのズレ面積を計算し、これが450pixcel一定以下であれば無動と判定した。画像解析プログラムにはImage J (U.S. National
Institutes of Healthにおいて作製されたフリーウェア:インターネットのホームページから入手可能)をもとに作られたImage J PS1(FZ1)(小原医科産業社製)を使用した。懸垂開始後3分から6分の間のもがいていない時間(無働時間)を測定し、ピラジンの抗うつ効果を評価した。尾懸垂試験は午後1時から6時の間に行った。
【0027】
(尾懸垂試験の結果)
図2はピラジンの臭いを20時間嗅がせた後、尾懸垂試験を行った結果を示す図である。縦軸は懸垂開始後3分から6分の間の無動時間の割合(%)を示し、各群は平均値±標準誤差で表示している。図中の*は、臭いを嗅がせていないコントロール群の無働時間に対して有意な差(p<0.01)があることを示す。
ピラジンの臭いを20時間嗅がせたマウス群ではコントロール群に対し無動時間が有意に約45%低下した。これによりピラジンの臭いには抗うつ効果があることが判明した。
【0028】
(オープンフィールドテスト)
オープンフィールドテストは動物の活動量を測定するテストである。強制水泳試験により検出されたピラジンによる無動時間の減少の効果が、単に運動量が減少したためのものかを調べるためにオープンフィールドテストを行った。オープンフィールドテストにはオープンフィールド実験装置OF-3002(小原医科産業社製)を用いた。50cm×50cm×40cmの箱にマウスを入れ、10分間のマウスの活動をビデオカメラで記録し、移動距離を測定した。
【0029】
(オープンフィールドテストの結果)
図3はピラジンの匂いを20時間嗅がせた後、オープンフィールドテストを行った結果を示す図である。縦軸は10分間のオープンフィールドテスト中のマウスの総移動距離(cm)を示し、各群は平均値±標準誤差で表示している。ピラジンの匂いを20時間嗅がせたマウス群と、コントロール群の間で移動距離には有意な差は見られなかった。この結果から、無動時間の減少は運動量の異常によるものでないことが確認された。
【0030】
[参考例1:ピラジンと構造が類似した物質の抗うつ効果]
次にピラジンと構造が近い物質として、ピラジンとは窒素原子の位置が異なる構造異性体であるピリミジン、ピリダジンおよびピラジンよりも窒素原子の数が1つ少ないピリジンについて、実施例1と同様にして、強制水泳試験により抗うつ効果を試験した。図4は、マウスにこれらの物質を用いて20時間匂いを嗅がせたのち強制水泳試験を行った結果を示す図である。縦軸は水泳開始後3分から6分の間の無動時間の割合(%)を示し、各群は平均値±標準誤差で表示している。その結果、ピリミジン、ピリダジン、ピリジンを嗅がせたマウス群においては無動時間の有意な減少はみられず、抗うつ効果がないことが示された。このことからピラジンの匂い刺激による抗うつ作用はピラジンに特異的なものであり、ピラジンの化学的な構造が抗うつ作用の発現に重要であることが判明した。
【0031】
[参考例2:ピラジンの腹腔内注射による抗うつ効果]
次に、ピラジンを腹腔内注射により血流にのせた際のピラジンの抗うつ効果を判定した。前実験として我々は、ピラジンを1500mg/Kgの濃度で腹腔内注射するとマウスが20時間以内に致死に至るということ見いだしている。
この結果に基づいて、ピラジンをマウスに1000mg/Kgの濃度で腹腔内注射した際の抗うつ効果を強制水泳試験により判定した。図5は、ピラジン1000mg/Kgを腹腔内注射し、20時間後に強制水泳試験を行った結果を示す図である。縦軸は水泳開始後3分から6分の間の無動時間の割合(%)を示し、各群は平均値±標準誤差で表示している。その結果、ピラジンを腹腔内注射したのでは抗うつ効果は見られないということが判明した。この結果は、ピラジンが匂い物質として嗅覚を刺激した時にのみ、マウスに抗うつ効果が発現することを示している。
【0032】
[実施例2:2−メチルピラジンを用いた抗うつ用嗅剤]
実施例1において、ピラジンに代えて2−メチルピラジンを使用した以外は、実施例1と同様にして2−メチルピラジンの抗うつ嗅剤としての効果を試験した。図6は2−メチルピラジンの匂いを20時間嗅がせた後、強制水泳試験を行った結果を示す。縦軸は水泳開始後3分から6分の間の無働時間の割合(%)を示し、各群は平均値±標準誤差で表示している。図中の*は、匂いを嗅がせていないコントロール群の無働時間に対して有意な差(p<0.05)があることを示す。
2−メチルピラジンの匂いを20時間嗅がせたマウス群ではコントロール群に対し無動時間が有意に約40%低下した。これにより2−メチルピラジンの匂いにも抗うつ効果があることが示された。
【0033】
[実施例3:液状抗うつ用嗅剤組成物]
ピラジン30gを、水とエタノールを1:1の重量比で混合した混合溶媒70gに溶解して、液状の抗うつ用嗅剤組成物を調製した。この液状組成物は、そのまま容器内に収容して香水、化粧水、液状入浴剤等として、使用することができる。また、この組成物を熱可塑性エラストマーからなる成形体、コットン、スポンジ等に含浸させたものを、容器内に収容して用いるようにしてもよい。
【0034】
[実施例4:ゲル状抗うつ剤組成物]
ピラジン1.5g、カラーギナン0.5g、プロピレングリコール3.0g、界面活性剤(TWEEN80:ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)3.0g及びイオン交換水92gを混合し、水系ゲル状抗うつ剤組成物を調製した。この組成物は、通気性を有する容器内に収容して、芳香剤と同様に室内、トイレ、浴室等で用いることができる。












【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるピラジン化合物を有効成分とする抗うつ用嗅剤:
【化1】

式中、R1〜R4は各独立して水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基から選択された基を表す。
【請求項2】
前記ピラジン化合物を水系溶媒に溶解又は分散したことを特徴とする請求項1に記載の抗うつ用嗅剤。
【請求項3】
さらに、賦形剤を加えて固形状又はゲル状にしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の抗うつ用嗅剤。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−93843(P2011−93843A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249509(P2009−249509)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】