説明

抗ウイルス剤及びその製法

【課題】微細藻類のコッコミクサより抽出された多糖体画分を有効成分とする新型及び季節性のヒトインフルエンザウイルスに対して、抗ウイルス医薬品の提供。
【解決手段】微細藻類のコッコミクサより大半の脂質が除去された多糖体画分であり、微細藻類のコッコミクサと揮発性溶剤とを一緒にして超音波振とう及び遠心分離を行なう工程と、揮発性溶剤で脱脂操作を複数回行なう工程と、脱脂工程後に所要量の水を加え所要時間に亘って加熱し熱湯抽出する工程と、熱湯抽出物を遠心分離により固液分離した液層を濃縮し乾燥する工程とからなることを特徴とする抗ウイルス剤の製法であり、繰り返しの脂質除去工程を行うことによって大半の脂質が除去できるのであり、純度の高い抽出物を得ることができ、新型及び季節性のA型ヒトインフルエンザウイルスに対する高い抗ウイルス活性を有するので医薬品として使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コッコミクサ藻体より抽出したインフルエンザウイルス等に抗ウイルス活性を有する抗ウイルス剤及びその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のコッコミクサ藻体から抽出した抗ウイルス剤としては、同一出願人に係る発明が公知になっている。この公知の抗ウイルス剤の抽出に用いたコッコミクサ藻体は、緑色植物門(Chlorophyta)、緑藻綱(Chlorophyceae)、クロロコッカム目(Chlorococcales)、クロロコッカム科(Chlorococcaceae)に属するコッコミクサ・ミロール(Coccomyxa minor)又はコッコミクサ・グロエオボトリディフォルミス(Coccomyxa gloeobotrydiformis)とする乾燥したコッコミクサ藻体にイオン交換水を加え、還流下で加熱抽出を行って得た抽出液を遠心分離し、上清を減圧濃縮して抽出物(CE)を得て、該抽出物を蒸留水による溶出画分し、および、蒸留水による溶出後の無機塩溶液による溶出画分した多糖体画分(CE−1、CE−2、CE−3)を有効成分とするものである(特許文献1)。
【0003】
そして、この抗ウイルス剤は、Rib(リボース)、Gal(ガラクトース)、Gul(グルコース)、Rha(ラムノース)が主たる成分になっており、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルス等のDNA型ウイルス、RNA型ウイルスに対して高い抗ウイルス活性を示すというものである。
【0004】
また、微細藻類のクロレラまたはコッコミクサ藻体から抽出した酸性多糖よりなる抗癌性物質も公知になっている。微細藻類から酸性多糖を抽出するには、微細藻類を熱水に懸濁して抽出処理し、遠心分離によりエキス分とウエットストラッジに分離し、ウエットストラッジに水を加えて撹拌しながら、アルカリ性基材によりpHを10以上に調整してエキス分を抽出し、このエキス分を遠心分離し、分離したエキス分を撹拌しながらpHを3〜4に調整して酸性多糖の沈殿物を析出させて得られるものである(特許文献2)。
【0005】
この酸性多糖よりなる抗癌性物質をマウスに投与して実験したところ、免疫の初期活性として、マクロファージ活性を有意に示し、中性多糖より活性能があることが明らかになり、また、マウスにMNU単独経口投与により30週で前胃偏平上皮癌の発生が見られたが、酸性多糖の抗癌性物質を投与することによって前胃偏平上皮癌の抑制効果が明らかになったとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−247757号公報
【特許文献2】特開2001−288102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記公知例の抗ウイルス剤においては、イオン交換水を加えて加熱抽出した抽出物を蒸留水で溶出画分を行ったもの、さらにその溶出したものを無機塩溶液で溶出画分したものであるが、加熱抽出時に得られる抽出物は、遠心分離した上清を減圧濃縮して得た抽出物であって、リボース、ガラクトース、グルコース、ラムノースが主たる成分になっており、脂質の除去は行なっていないので高純度とはいえないのである。
【0008】
また、前記酸性多糖よりなる抗癌性物質は、その成分については明確にしていないが、この種の微細藻類に含まれる多糖類はβ−グルカンが多いが、このβ−グルカンは、熱水で抽出される中性多糖であり、これには酸性多糖はほとんど含まれていないとしている。そのために、最初に90℃の熱水で抽出処理して中性可溶画分を除外し、次に70℃の熱水で撹拌処理しアルカリ性に調整してエキス分を抽出して分離し、分離したエキス分を別のタンクに移して撹拌しながら1N塩酸でpH4調整して酸性多糖の析出を起こさせ、析出した酸性多糖を回収するというものであり、その成分は不明であるが、あくまでも抗癌性物質の範囲である。
【0009】
従って、公知の技術は熱水による抽出が主体であり、抽出物中には多くの脂質が残存していることから、新型及び季節性のヒトインフルエンザウイルスに対して、抗ウイルス活性を抑制する効果が弱いので、その効果を高めること、即ち、高純度の抽出物にすることに解決課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、種々研究の結果、微細藻類のコッコミクサより抽出された多糖体画分を有効成分とするものであるが、抽出の仕方によって抽出物の成分の相違と高純度にすることによって、抗ウイルス活性を抑制する効果を見出して本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の第1の発明に係る抗ウイルス剤は、微細藻類のコッコミクサより抽出された多糖体画分を有効成分とするものであって、該有効成分中の大半の脂質が除去されたものであり、少なくとも新型及び季節性のA型ヒトインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス活性を有することを特徴とするものである。
【0012】
この第1の発明において、前記多糖体画分の有効成分が、ガラクトース、マンノース、グルコース、キシロース、N-アセチルグルコサミン、フコースを主成分とすること、を付加的な構成要件として含むものである。
【0013】
本発明の第2の発明に係る抗ウイルス剤の製法は、微細藻類のコッコミクサと揮発性溶剤とを一緒にして超音波振とう及び遠心分離を行なう工程と、揮発性溶剤で脱脂操作を複数回行なう工程と、脱脂工程後に所要量の水を加え所要時間に亘って加熱し熱湯抽出する工程と、熱湯抽出物を遠心分離により固液分離した液層を濃縮し乾燥する工程とからなることを特徴とするものである。
【0014】
さらに、もう1つの抗ウイルス剤の製法は、前記第2の発明で固液分離された固層に所要量の水と所要のアルカリ溶液とを加えてアルカリ性に調整し撹拌して抽出を行なう工程と、抽出を行なった後に遠心分離にて固液を分離して液層を回収する工程と、回収した液層に所要の酸性溶液を加えて酸性に調整し所要時間静置して沈殿物を生成させる工程と、 該沈殿物を遠心分離して固形物として回収すると共に、回収された固形物を複数回洗浄操作を行なう工程と、洗浄後の沈殿物を凍結乾燥させる工程とからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る抗ウイルス剤は、微細藻類のコッコミクサより抽出された多糖体画分を有効成分とするものであって、該有効成分中の大半の脂質が除去されたものであるとともに、多糖体画分の有効成分が、ガラクトース、マンノース、グルコース、キシロース、N-アセチルグルコサミン、フコースを主成分とすることにより、新型及び季節性のA型ヒトインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス活性を有するという優れた効果を奏する。
【0016】
更に、本発明に係る製法の発明は、揮発性溶剤を使用して超音波振とうを行なうことによって、成分中の脂質を除去し易くすると共に、繰り返しの脂質除去工程を行うことによって大半の脂質が除去できるのであり、純度の高い抽出物を得ることができ、新型及び季節性のA型ヒトインフルエンザウイルスに対する高い抗ウイルス活性を有するので、例えば、健康食品の補助剤または医薬品として使用できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(1)図は、本発明に係る抗ウイルス剤の試験において、赤血球凝集試験の手順を示す説明図であり、(2)図は赤血球凝集試験の原理を解り易く略示的に示した説明図である。
【図2】本発明に係る抗ウイルス剤の細胞毒性(傷害性)試験において、高濃度の範囲まで細胞毒性(傷害性)が全くないことを示すグラフである。
【図3】本発明に係る抗ウイルス剤の試験に供した新型インフルエンザおよび現在流行中の季節性インフルエンザそれぞれのウイルス株に対する増殖阻害効果を示したグラフである。
【図4】ヒトA型インフルエンザウイルスの全て(3つ)の亜型への有効性を検討するために、3種類の古典的インフルエンザウイルス株を使用し、抗ウイルス剤の増殖阻害効果を調べたグラフである。
【図5】本発明に係る抗ウイルス剤の添加時間による抗ウイルス効果への影響を調べるために、ウイルス感染過程の様々な時間に抗ウイルス剤を添加した、その添加、存在時間を示した図である。
【図6】同抗ウイルス剤の添加、存在時間による抗ウイルス効果への影響をMDCK細胞の細胞傷害度で評価したグラフである。
【図7】同抗ウイルス剤の添加、存在時間による抗ウイルス効果への影響を生成ウイルス量、即ちHAテストで評価したグラフである。
【図8】同抗ウイルス剤とインフルエンザウイルスの相互作用によるHA活性の阻害機序を解り易く示した説明図である。
【図9】インフルエンザワクチン、既存の抗ウイルス剤の阻害機序を解り易く模擬的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る抗ウイルス剤の原料としては、微細藻類の一種である乾燥したコッコミクサ藻体が用いられる。
この乾燥したコッコミクサ藻体を揮発性の溶剤と一緒に超音波振とう遠心濃縮機により振とう及び遠心分離を行なうと共に、揮発性の溶剤で複数回の脱脂操作を行い、その後、所要時間に亘り熱湯抽出し、該熱湯抽出物を遠心分離により固液分離し、分離した液層を濃縮し凍結乾燥して第1の発明に係る中性の熱水抽出物を得る。
【0019】
さらに、上記分離して得られた固層に所要量の水を加え、アルカリ性に調整し所要時間撹拌して抽出を行ない、遠心分離にて液層を回収し、該回収した液層を酸性に調整し低温にて所要時間静置して沈殿物を生成させ、該沈殿物を遠心分離して固形物として回収し、複数回の洗浄操作を行なってもう1つの実施の形態に係るアルカリ抽出物を得る。得られた抽出物は揮発性溶剤で複数回の脱脂操作を行った後、凍結乾燥するものである。
【0020】
[実施例等]
次に、実施例及び試験例により本発明を更に詳細に且つ具体的に説明する。
[コッコミクサの水溶性多糖体の抽出方法]
乾燥したコッコミクサ藻体2gに100mlのベンゼン:メタノール(2:1)からなる揮発性溶剤を入れ、超音波処理を10分行った後、50℃に加温した状態で3時間振とう及び遠心分離を行なった後に、同様の揮発性溶剤、即ち、ベンゼン:メタノール(2:1)を100ml入れて脱脂操作を少なくとも3回繰り返して行ない、遠心分離により溶剤を除去する。
この脱脂後のパウダー状になったものに100mlの水を加え、90℃に加熱して3時間撹拌抽出した。所要時間保冷後に遠心分離(3000rpm)を行って固液分離した。分離して回収した液層は濃縮し、該濃縮液を凍結乾燥して中性多糖体(推定)の乾燥粉末を得た。つまり、コッコミクサから0.26gの熱水抽出物(CmNE)を得た。
凍結乾燥物をPBSに溶解し、除タンパク及び脂質除去を行なった後透析チューブにて透析し、透析チューブ内試料を凍結乾燥した。
なお、複数回の脱脂処理を行うことによって有効成分中の大半の脂質が除去される。
【0021】
[コッコミクサのアルカリ抽出多糖体の抽出方法]
前記水溶性多糖体の抽出工程で遠心分離後に得られた固層(含水率75%)に水1Lを加え、所要のアルカリ溶液、例えば、10%KOHにてpH9〜11に調整した。調整した液を60℃に加温して30分間撹拌抽出を行なった。所要時間保冷後に遠心分離(15000rpm)し液層を回収した。回収した液に所要の酸性溶液、例えば、10%HClを添加しpH4に調整し浮遊物を確認した後、沈殿物を得るために4℃で12時間静置した。沈殿物は遠心分離(15000rpm)し固形物として回収した。この固形物の回収操作、即ち、加水、撹拌洗浄、遠心分離を3回繰り返して得られた洗浄後の沈殿物を凍結乾燥し、酸性多糖体(推定)を得た。つまり、コッコミクサから0.1gのアルカリ抽出物(CmAE)を得た。
その後、凍結乾燥物をPBSに溶解し、除タンパク及び脂質除去を行なった後透析チューブにて透析し、透析チューブ内試料を凍結乾燥した。
乾燥物を、Tris-HClに懸濁し、クロロホルム:メタノールで脱脂処理を行った後、DEAEカラムにて分画処理した。
抽出物の有効成分は、ガラクトース、マンノース、グルコース、キシロース、N-アセチルグルコサミン、フコース等からなる脱脂された純度の高い多糖体である。
【0022】
[試験]
検体として、本発明で得たコッコミクサのアルカリ抽出物(CmAE)を用いて、抗インフルエンザウイルス活性を検証した。そのアルカリ抽出物をDPBS(-)で高濃度(10mg/ml)溶液を調整し、該溶液を段階的に希釈することで試験した。
【0023】
ウイルス株について:
試験のために入手したA型ヒトインフルエンザウイルス(IFV)については、第1グループとして、新型及び現在流行中の季節性インフルエンザウイルスと、第2グループとして過去に流行した季節性インフルエンザウイルスとに分けられる。
第1グループ:
1) A/California/07/2009(H1N1)pdm : H1N1亜型(2009年新型)
2) A/Narita/1/2009(H1N1)pdm : H1N1亜型(2009年新型)
3) A/Brisbane/59/2007(H1N1) : H1N1亜型(流行中の季節性)
4) A/Uruguai/716/2007(H3N2) : H3N2亜型(流行中の季節性)
第2グループ:
1)A/WSN/1933/H1N1 : H1N1亜型(古典的な季節性)
2)A/USSR/1977/H1N1 : H1N1亜型(古典的な季節性)
3)A/Adachi/1957/H2N2 : H2N2亜型(古典的な季節性)
4) A/Aichi/1968/H3N2 : H3N2亜型(古典的な季節性)
【0024】
細胞株として:
インフルエンザウイルス(IFV)の感染実験で繁用される成犬の腎臓から樹立された上皮様細胞株であるMDCK(Mardin-Darby canine kindney )細胞を使用した。細胞は10%FBSを含むDMEM液体培地で37℃、5%COで継代培養したものを使用した。
【0025】
細胞傷害性試験:
MDCK細胞を96well plate(ウェルプレート)へ播種し、12時間培養して細胞を吸着させた後、新鮮なMEM−10%FBSに培地交換した。その際、高濃度に調整したアルカリ抽出物の溶液を各終濃度になるように添加した。溶液添加後、37℃の5%COインキュベーターで48時間培養した時点で終濃度500ug/mlとなるようMTTを添加し、同条件のインキュベーター内で3時間培養し色素を取り込ませた。その後、色素を含む培地を取り除き、DMSO(100ul/well)を加え沈殿を溶解し570nmの吸光度を測定した。予め作成しておいて検量線を元に細胞のviabiltyを決定した。
【0026】
抗ウイルス活性の測定:
48well plate(ウェルプレート) に培養したMDCK細胞を前記アルカリ抽出物の溶液(10−2000ug/ml)で2時間処理後、6PFU(プラーク形成単位)/細胞でインフルエンザウイルスを感染させ、感染48時間後に収穫した。ウイルス量は鶏赤血球凝集試験(HA test)にて測定し、赤血球濃度からウイルス粒子数を換算し、増殖阻止活性を評価した。
【0027】
赤血球凝集試験(HA test)の手順:
図1(1)に示したように、96ウェルを12列8行(A〜H)に整列して並べて、
1) 各ウェルに生理食塩水を50ulずつ添加する。
2) 前記第1と第2グループの8種類の各ウイルスサンプル液50ulを採って、第1列Aから順にH行まで添加する。第1列のウェルA〜Hだけが計100ulとなる。
3) 2倍段階希釈:第1列の各ウェルの溶液をピペッティングにより混和した後、50ulだけ吸い取り、これを次の第2列のウェルに加える。第2列のウェルが100ulになるが、第1列と同様にピペッティングで混和した後、50ulだけ吸い取りこれを次の第3列のウェルに加える。この操作を第3列以降のウェルについても順次行うことにより、2倍段階希釈列を作成する。
4) 1%鶏赤血球を50ulずつ第12列から第1列まで加える。AからH行全てについて行なう。
5) 血球凝集を起こしたサンプル希釈液の最大希釈倍数をもってそのサンプル原液のHA価(血球凝集価)とする。
【0028】
赤血球凝集試験(HA test)の原理については、図1(2)に示したように、赤血球の数とウイルスの数とによって、赤血球が凝集する状態を理解し易いように示したものであり、第7列目まではウイルスの数が勝って凝集しており、第8列目も赤血球の数とウイルスの数とが同数でかろうじて凝集し、第9列目以降は赤血球の数が多いので凝集しないことを示している。そして、結果の解釈としては、次のとおりである。
1) HA価(血球凝集価):血球凝集を起こしたサンプル希釈液の最大希釈倍数をもってそのサンプル原液のHA価とする。
2) 即ち、上記のHA価は、2=256となる。
3) 1%cRBC=(1×10 cells/ml)を使用して上記結果を得た場合、サンプル原液のウイルス濃度は、2×(1×10)=256×10=2.6×10粒子/mlとなる。
【0029】
前記細胞傷害試験において、アルカリ抽出物(CmAE)は、図2に示したように、4000ug/mlまで全く細胞毒性を示さなかった。また、熱水抽出物(CmNE)についても同様の試験(データは示していない)を行なったが、アルカリ抽出物と同様に細胞毒性は無かった。
【0030】
また、アルカリ抽出物(CmAE)は、図3及び図4に示したように、第1及び第2グループの各ヒトインフルエンザウイルス(IFV)に対して、10ug/ml以上で有意な抗ウイルス活性を示し、100ug/ml以上で未処理の1/100以下にウイルス増殖を抑制したことが明確になった。また、熱水抽出物(CmNE)についてもほぼ同等の抗ウイルス活性(データは示していない)が認められた。
【0031】
さらに、アルカリ抽出物(CmAE)の抗ウイルス効果の作用機序を調べるために、抽出物の添加時間(time of addition)のウイルス増殖への影響を次のI〜Vに従って調べた。
I. MDCK細胞をCmAEでウイルス感染前に3時間処理した場合。
II. ウイルス感染中のみにCmAEが培地中に存在した場合。
III. ウイルス感染中から48時間後にCmAEが存在した場合。
IV. 感染処理後3時間以降にCmAEが培地中に存在した場合。
V. 感染処理後6時間以降にCmAEが倍地中に存在した場合。
【0032】
図5は、ウイルス感染に対するCmAEの添加時間による有効性を示したもので、ウイルス感染時を-1hpiとした場合(-1hpiで吸着開始し0hpiで侵入開始)に、I.感染3時間前に添加し感染時に除去、II.感染時に添加し1時間後に除去、III.感染時に添加しその後ずっと存在、IV.感染4時間後に添加しその後ずっと存在、V.感染7時間後に添加しその後ずっと存在、の条件で実験した。そして、IFVの増殖過程をMDCK細胞の細胞障害度、つまり、ウイルスの細胞傷害活性で評価したところ、図6に示したように、ウイルスの侵入時にアルカリ抽出物が存在することによって、血球(細胞)へのウイルス吸着がなされないこと、即ち、抗ウイルス活性を示すことが明らかになった。
【0033】
次に、HAテストでアルカリ抽出物の添加時間におけるウイルス増殖への影響を培養液中に回収されるウイルス量で評価したところ、図7に示したように、前記II.とIII.のウイルス吸着、ウイルス侵入時に加えて、前記IV.とV.のウイルス吸着及びウイルス侵入後であっても、アルカリ抽出物が存在することによって、ウイルスの増殖が抑制され続け、回収時まで存在しているとその間抗ウイルス効果を示すことが判明した。
【0034】
図6と図7の結果の相違はCmAEに赤血球凝集を抑制する効果があると推定されたので、アルカリ抽出物のインフルエンザウイルス(IFV)の鶏赤血球凝集活性(HA活性)への影響を調べたところ、鶏赤血球(cRBC)とIFVを混合する際に、CmAEを添加すると濃度依存性にインフルエンザウイルスの鶏赤血球凝集活性を抑制することが明らかになった。
【0035】
図8は、CmAEの赤血球凝集抑制機構の推定図であって、IFVは自身のHA蛋白質によって鶏赤血球(cRBC)表面のシアロ糖鎖と次々に結合しIFV−cRBCネットワークを形成することによって赤血球凝集を起こすのである。しかし、その際に、CmAEが存在するとIFVとcRBCの相互作用を何らかの要因でネットワーク形成を阻害するために赤血球凝集を抑制すると考えられる。
【0036】
一般に、インフルエンザウイルス(IFV)は、図9に示すように、自身のHA(赤血球凝集素)タンパク質によって、動物細胞表面のシアロ糖鎖と結合して細胞に吸着後、細胞内に侵入して増殖を開始する。この活性は鶏赤血球(cRBC)においては、インフルエンザウイルスと鶏赤血球との凝集体(集合体)を形成する鶏赤血球凝集活性(HA活性)に置き換えられると推定される。つまり、抗ウイルス剤は、IFVが受容体に結合し細胞に吸着・侵入する過程を阻害し抗ウイルス効果を発揮すると考えられる。
【0037】
今回の実験結果からして、CmAEの有する赤血球凝集抑制効果から、CmAEの抗ウイルス効果はIFVのHA蛋白質と細胞のシアロ糖鎖の相互作用を何らかの機構で阻害するために細胞内へのエントリーを阻止することによって発揮されたと考えられる。
【0038】
以上の結果から、CmAEが予め存在すれば、IFVの細胞への侵入を阻止できるし、IFVの増殖時に存在しても、放出された仔ウイルスの新たな未感染細胞への感染を阻止できるため、予防・治療の両方に使用可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上説明したように、本発明に係る熱湯抽出物(CmNE)及びアルカリ抽出物(CmAE)はインフルエンザウイルス(IFV)の細胞へのエントリーという最も基本的なステップを阻害するため、実験に供したウイルス株だけでなく、他のウイルスに対しても抗ウイルス効果を奏する可能性が考えられる。例えば、同様のステップを辿るパラインフルエンザウイルス、ムンプウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、SARSウイルス、ヘルペスウイルス、HIVウイルス、C型肝炎ウイルス等にも有効に抗ウイルス効果を発揮するものと考えられ、健康食品または医薬品として広く利用できるのである。
なお、本願発明の抗ウイルス剤における抽出物(CmAEおよびCmNE)中の脂質除去による抗ウイルス効果について、IFVはエンベロープ(外套)という脂質をまとった構造物であり、該エンベロープという脂質と好んで相互作用するように、抽出物中の抗IFV活性物質における脂質をできるだけ多く除去しておくことで、両者間の相互作用がより有効に活性化するのであり、また、IFV以外の脂質にも作用するはずであるから、他のウイルスにも有効に作用すると考えられる。
【符号の説明】
【0040】
なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻類のコッコミクサより抽出された多糖体画分を有効成分とするものであって、
該有効成分中の大半の脂質が除去されたものであり、少なくとも新型及び季節性のA型ヒトインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス活性を有すること
を特徴とする抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記多糖体画分の有効成分が、ガラクトース、マンノース、グルコース、キシロース、N-アセチルグルコサミン、フコースを主成分とすること
を特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
微細藻類のコッコミクサと揮発性溶剤とを一緒にして超音波振とう及び遠心分離を行なう工程と、
揮発性溶剤で脱脂操作を複数回行なう工程と、
脱脂工程後に所要量の水を加え所要時間に亘って加熱し熱湯抽出する工程と、
熱湯抽出物を遠心分離により固液分離した液層を濃縮し乾燥する工程とからなること
を特徴とする抗ウイルス剤の製法。
【請求項4】
前記請求項3で固液分離された固層に所要量の水と所要のアルカリ溶液とを加えてアルカリ性に調整し撹拌して抽出を行なう工程と、
抽出を行なった後に遠心分離にて固液を分離して液層を回収する工程と、
回収した液層に所要の酸性溶液を加えて酸性に調整し所要時間静置して沈殿物を生成させる工程と、
該沈殿物を遠心分離して固形物として回収すると共に、回収された固形物を複数回洗浄操作を行なう工程と、
洗浄後の沈殿物を凍結乾燥させる工程とからなること
を特徴とする抗ウイルス剤の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−224554(P2012−224554A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90861(P2011−90861)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(399127603)株式会社日健総本社 (19)
【Fターム(参考)】