説明

抗ウイルス剤担持シート及びその製造方法

【課題】 抗インフルエンザウイルス活性等の抗ウイルス活性が長時間持続しうる抗ウイルス剤担持シートを提供する。
【解決手段】 この担持シートは、シート状物に、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤が接着剤によって付着せしめられている。微粒子状の抗ウイルス剤としては、ドロマイト(苦灰石)を焼成し、それを水和した後、粉砕した微粒子が用いられる。接着剤は、重合度250〜1000のポリビニルアルコールを含むものである。ポリビニルアルコールのケン化度は、35〜99モル%であるのが好ましい。接着剤中に、さらに数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂を含んでいてもよい。また、シート状物としては、不織布、編織物又は紙等が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤を担持した担持シートに関し、特に、豚インフルエンザウイルスや鳥インフルエンザウイルスの如き新型インフルエンザウイルスを不活化させる機能を持つ抗インフルエンザウイルス剤を担持した担持シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、豚インフルエンザが世界的に流行している。豚インフルエンザは、鳥インフルエンザに比べて致死率は低いものの、妊婦、5歳以下又は60歳以上の人及び基礎疾患を有する人は、感染時に重症化する可能性が高く、感染予防が必須となっている。特に、医療従事者は、感染者の身の回りにあるタオル、ベッドカバー、カーテン等のシート状物を手で触れることによる接触感染の危険に常に曝されている。
【0003】
このため、これらのシート状物に抗インフルエンザウイスル剤等のウイルス剤を付与することが提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載された抗ウイルス剤は、金属酸化物の水和物よりなる微粒子であり、ヒドロキシラジカルを発生し、このヒドロキシラジカルによってインフルエンザウイルス等のウイルスを不活化させるものである。このような微粒子をシート状物に付着させるには、接着剤を使用する必要がある。
【0004】
接着剤としては、水溶液型、水性エマルジョン型、溶剤型、ホットメルト型等の種々のタイプのものが知られているが、いずれにしても、微粒子をシート状物に付着させる際に、接着剤が微粒子を被覆してしまうということがあった。そして、この被覆により、微粒子の抗ウイスル活性が長時間持続しにくいという欠点があった。すなわち、接着剤皮膜によって被覆されていない微粒子の部分(露出している部分)が、当初抗ウイルス活性を示すだけであり、被覆されている部分(露出していない部分)は抗ウイルス活性が使用されていないことにより、かかる欠点が生じるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−37814号公報(特許請求の範囲の項及び段落番号0025)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記欠点を解決することにあり、微粒子状の抗ウイルス剤をシート状物に接着剤で付着させても、抗ウイルス活性が長時間持続しうるシート状物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件発明者は、特許文献1に記載された微粒子を各種接着剤でシート状物に付着させ、抗ウイルス活性を検討していたところ、特定の接着剤を用いた場合のみ、抗ウイルス活性が長時間持続することを発見した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤を、重合度250〜1000のポリビニルアルコールを含む接着剤によってシート状物に付着させたことを特徴とする抗ウイルス剤担持シート及びその製造方法に関するものである。
【0009】
本発明に用いる微粒子状の抗ウイルス剤としては、特許文献1及び国際公開2005/013695に記載されているものが挙げられる。すなわち、ドロマイト(苦灰石)を焼成し、それを水和した後、粉砕して微粒子としたものである。微粒子の組成は、CaCO3、Ca(OH)2及びMg(OH)2を主成分とするものである。また、微粒子の平均粒子径は0.1〜60μm程度である。かかる抗ウイルス剤は、ヒドロキシラジカルを発生する。そして、ヒドロキシラジカルは、豚インフルエンザウイルスや鳥インフルエンザウイルスの如き新型インフルエンザウイルスはもとより、旧型インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス及びレトロウイルス等のウイルスを不活化する。
【0010】
かかる微粒子状の抗ウイルス剤は、シート状物に接着剤によって付着せしめられる。本発明は、この際に用いる接着剤に特徴を有する。すなわち、接着剤として、重合度250〜1000のポリビニルアルコールを含むものを用いることによって、ヒドロキシラジカルの発生を長時間持続しうるようになる。たとえば、接着剤として、ウレタン系のものやフッ素−アクリル系のものを使用した場合には、ヒドロキシラジカルの発生が長時間持続しにくくなる。この理由は定かではないが、ポリビニルアルコールはヒドロキシ基を有しているため、抗ウイルス剤から発生するヒドロキシラジカルが、ポリビニルアルコールに結合しにくいのではないかと推定している。ウレタン系接着剤やフッ素−アクリル系接着剤は、抗ウイルス剤から発生したヒドロキシラジカルが、これらの接着剤中のウレタン結合基等と結合し、消失してしまうのではないかと推定している。
【0011】
ポリビニルアルコールの重合度を250〜1000としたのは、水溶液として取り扱いやすく、かつ接着作用を十分に発揮せしめるためである。また、ポリビニルアルコールのケン化度は、35〜99モル%程度であるのが好ましい。特に、66〜99モル%が好ましく、より好ましくは90〜99モル%である。ケン化度が極端に低くなると、ヒドロキシ基が殆どなくなり、抗ウイルス剤からのヒドロキシラジカルの発生が長時間持続しにくくなると考えられる。また、ケン化度が極端に高くなると、水に溶けにくくなるため、扱いにくくなる。
【0012】
ポリビニルアルコールを含む接着剤は、一般的に水溶液の状態で用いられる。すなわち、微粒子状の抗ウイルス剤を分散させると共に、ポリビニルアルコールを溶解させた接着剤水溶液を用いて、塗布法や浸漬法等でこれをシート状物に付与し、その後乾燥すれば、シート状物に抗ウイルス剤を付着させることができる。
【0013】
ポリビニルアルコールを含む接着剤水溶液中には、さらに数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂を含んでいるのが好ましい。すなわち、ポリビニルアルコールの接着作用によって抗ウイルス剤を付着させることができるのであるが、さらに多量の抗ウイルス剤を付着させたい場合や、強固に付着させたい場合には、接着作用のあるポリオレフィン樹脂微粒子を添加するのが好ましい。ポリオレフィン樹脂微粒子の数平均粒子径は、1μm以下であるのが好ましい。ここで、ポリオレフィン樹脂微粒子の数平均粒子径は、日機装社製の「マイクロトラック粒度分布計 UPA150(MODEL No.9340」を用いて求めたものである。数平均粒子径が大きすぎると、水溶液中に良好に分散しにくくなる傾向が生じる。
【0014】
本発明では、特に水に分散しやすいポリオレフィン樹脂を用いるのが好ましい。かかるポリオレフィン樹脂は本件出願人が開発したものであって、特許第3699935号公報に記載されているものであり、(A1)不飽和カルボン酸又はその無水物と(A2)炭素数2〜6のアルケンを含むモノマーを共重合してなる共重合体からなるものである。(A1)不飽和カルボン酸又はその無水物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等が用いられる。また、(A2)炭素数2〜6のアルケンとしては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等が用いられる。なお、(A1)及び(A2)の他に、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のアクリル酸エステルを第三成分として共重合しても差し支えない。また、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルアルコール、アクリロニトリル等の第三成分を共重合しても差し支えない。
【0015】
(A1)と(A2)の共重合比は、質量比で、(A1):(A2)=0.5〜20:99.5〜80程度である。また、第三成分を共重合するときは、全体の35質量%以下程度の量で共重合される。
【0016】
以上のような組成を持つポリオレフィン樹脂微粒子は、特許第3699935号公報に記載されているように、水によく分散するものである。したがって、ポリビニルアルコールを含む接着剤水溶液中に、このポリオレフィン樹脂微粒子を添加しても、水溶液中に良好に分散し、均一な接着剤水溶液として使用しうるのである。
【0017】
本発明に用いる抗インフルエンザウイルス剤等の抗ウイルス剤をシート状物に付着させるには、たとえば、以下のような方法によるのが好ましい。まず、微粒子状の抗ウイルス剤を水及びアルコールよりなる水系溶媒に分散させて水性分散液を準備する。水系溶媒中にアルコールを併用するのは、シート状物が不織布や編織物のように繊維間隙を持ったものである場合、当該繊維間隙への浸透性を向上させるためである。アルコールとしては、エタノール等の低級アルコールが水よりも低い沸点を持っており、水と共に蒸発させうるので、好ましい。そして、この水性分散液に、重合度250〜1000のポリビニルアルコールが溶解している水溶液を添加して、ポリビニルアルコールと抗ウイルス剤とを含む接着剤水溶液を得る。この接着剤水溶液を用いて、浸漬法、塗布法又は噴霧法等の従来公知の手段で、シート状物に付与する。そして、乾燥して、水溶液中の水を蒸発させると、微粒子状の抗ウイルス剤が、接着剤であるポリビニルアルコールによってシート状物に付着するのである。
【0018】
また、ポリオレフィン樹脂微粒子を併用するときは、ポリビニルアルコールと抗ウイルス剤とを含む接着剤水溶液中に、数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂が水中に分散しているポリオレフィン樹脂微粒子分散液を添加混合すればよい。このポリオレフィン樹脂微粒子分散液も、水及びアルコールよりなる水系溶媒に分散させて準備すればよい。アルコールを併用するのは、前記したのと同様の理由であり、かつ微粒子状のポリオレフィン樹脂の分散性を向上させるためである。また、使用するアルコールも、前記したのと同様の理由で、エタノール等の低級アルコールが好ましい。
【0019】
シート状物としては、不織布、紙、編織物、プラスチックフィルム、金属箔等の任意の素材のものが用いられる。タオルやカーテン等の素材として用いられるシート状物には、不織布や編織物を多いので、これらを用いるのが好ましい。本発明では、抗ウイルス剤の接着性(抗ウイルス剤の付着量やその接着力)の向上を目的として、ポリオレフィン樹脂微粒子からなる接着剤を使用することがあるため、不織布や編織物としても、ポリオレフィン系繊維よりなるものを用いるのが好ましい。ポリオレフィン系繊維としては、ポリプロピレン繊維やポリエチレン繊維を挙げることができる。特に、不織布の場合には、芯成分が高融点のポリエステルよりなり、鞘成分が低融点のポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィンよりなる芯鞘型複合長繊維を用いるのが好ましい。このような芯鞘型複合長繊維を用いると、鞘成分のみの融着によって長繊維相互間が結合させて不織布を得ることができ、風合いを硬化させずに、形態安定性のよい不織布が得られるからである。
【0020】
本発明に係る抗ウイルス剤担持シートは、任意の用途に用いられる。たとえば、シート状物として不織布や編織物を用いた場合には、不織布や編織物が従来用いられている種々の用途、たとえばカーテン、包帯、手術用ガウン、ベッドシーツ、タオル、手袋、カーペット、エアーコンディショナーのフィルター材等に用いることができる。また、シート状物として紙を用いた場合にも、紙が従来用いられている種々の用途、たとえば壁紙やペーパータオル等に用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る抗ウイルス剤担持シートは、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤が、重合度250〜1000のポリビニルアルコールを含む接着剤によって、シート状物に接着されている。そして、このポリビニルアルコールは、抗ウイルス剤からのヒドロキシラジカルの発生を阻害しにくい。したがって、豚インフルエンザウイルス等のウイルスが担持シートに付着しても、長時間に亙ってヒドロキシラジカルによるウイルスの不活化が可能となる。よって、本発明に係る抗ウイルス剤担持シートは、抗ウイルス活性が長時間持続するという効果を奏する。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤の表面が、ポリビニルアルコールによって被覆されても、ヒドロキシラジカルの発生を阻害しないとの知見に基づくものとして、理解されるべきである。
【0023】
実施例1
微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤(モチガセ社製、商品名「BR−p3」)375gが水2125gに分散している分散液を攪拌しながら、エタノール542gを添加して、水及びエタノールよりなる水系溶媒に抗インフルエンザウイルス剤が分散している水性分散液を準備した。一方、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)を水に溶解させて、固形分濃度10質量%としたポリビニルアルコール水溶液744gを準備した。ここで用いられているポリビニルアルコールは、重合度が300で、ケン化度が98〜99モル%のものである。そして、水性分散液を攪拌しながら、ポリビニルアルコール水溶液を添加して接着剤水溶液を得た。この接着剤水溶液中における抗インフルエンザウイルス剤の濃度は約10質量%であり、ポリビニルアルコールよりなる接着剤濃度は約2質量%である。
【0024】
この接着剤水溶液を4日間保存しておいた後に、スパンボンド不織布(ユニチカ社製、商品名「エルベス SO503WDO」、目付50g/m2)にグラビアコート法により塗布した後、110℃で2分間乾燥して、スパンボンド不織布(シート状物)に抗インフルエンザウイルス剤が付着した試験片1を得た。ここで用いているスパンボンド不織布は、芯成分がポリエステルで鞘成分がポリエチレンよりなる芯鞘型複合長繊維で構成されたものであり、部分的にポリエチレンの融着によって生じた熱融着区域を持っているものである。なお、繊維基材に対する抗インフルエンザウイスル剤及びポリビニルアルコールの付着量は約12〜15g/m2程度であった。したがって、抗インフルエンザウイルス剤の付着量は約10〜12.5g/m2程度である。
【0025】
実施例2
微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤(モチガセ社製、商品名「BR−p3」)375gが水2125gに分散している分散液を攪拌しながら、エタノール140gを添加して、水及びエタノールよりなる水系溶媒に抗インフルエンザウイルス剤が分散している水性分散液を準備した。一方、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JMR−10L」)を、水268gとエタノール402gが混合されてなる混合溶媒に溶解させて、固形分濃度10質量%としたポリビニルアルコール水性液744gを準備した。ここで用いられているポリビニルアルコールは、重合度が250で、ケン化度が35〜36モル%のものである。そして、水性分散液を攪拌しながら、ポリビニルアルコール水性液を添加して接着剤水性液を得た。この接着剤水性液中における抗インフルエンザウイルス剤の濃度は約10質量%であり、ポリビニルアルコールよりなる接着剤濃度は約2質量%である。
その後、この接着剤水性液を用いて、実施例1と同一の方法で、スパンボンド不織布に抗インフルエンザウイルス剤が付着させて試験片2を得た。
【0026】
実施例3
ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)に代えて、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JMR−10M」)を用いる他は、実施例1と同一の方法により試験片3を得た。なお、ここで用いられているポリビニルアルコールは、重合度が250で、ケン化度が66〜67モル%のものである。
【0027】
実施例4
ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)に代えて、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「VC−10」)を用い、かつ、ポリビニルアルコール水溶液の固形分濃度を8質量%とする他は、実施例1と同一の方法により試験片4を得た。なお、ここで用いられているポリビニルアルコールは、重合度が1000で、ケン化度が99モル%のものである。
【0028】
実施例5
微粒子状の抗インフルエンザウイルス剤(モチガセ社製、商品名「BR−p3」)375gが水2125gに分散している分散液を攪拌しながら、エタノール542gを添加して、水及びエタノールよりなる水系溶媒に抗インフルエンザウイルス剤が分散している水性分散液を準備した。一方、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)を水に溶解させて、固形分濃度10質量%としたポリビニルアルコール水溶液248gを準備した。そして、水性分散液を攪拌しながら、ポリビニルアルコール水溶液を添加し、添加が完了した後さらに、下記方法により調製されたポリオレフィン樹脂微粒子分散液(固形分濃度25質量%)198gをゆっくりと添加して、乳白色の接着剤水溶液を得た。この接着剤水溶液中における抗インフルエンザウイルス剤の濃度は約11質量%であり、ポリビニルアルコール及びポリオレフィン樹脂微粒子よりなる接着剤濃度は約2質量%である。
【0029】
[ポリオレフィン樹脂微粒子分散液の調製]
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた攪拌機を用いて、100gのポリオレフィン樹脂(アルケマ社製、商品名「ボンダイン HX−8290」)、有機溶媒として120gのエタノール、塩基性化合物として3.36gの85%水酸化カリウム及び170gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を300rpmとして攪拌し、ポリオレフィン樹脂微粒子を水中に浮遊させた。そして、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。系内温度を120℃に保って、さらに60分間攪拌した。その後、水浴に漬けて、回転速度300rpmを保ったまま攪拌しつつ、室温(約25℃)まで冷却した。最後に、300メッシュのステンレス製フィルター(平織組織で線径0.035m)を用いて加圧濾過(空気圧0.25MPa)した。得られたポリオレフィン樹脂微粒子分散液は乳白色であり、微粒子の数平均粒子径は約0.06μmであった。
なお、ここで使用したポリオレフィン樹脂は、エチレン80質量%、アクリル酸エチル18質量%、無水マレイン酸2質量%より構成された共重合体であり、融点は81℃のものである。
【0030】
この接着剤水溶液を用いて、実施例1と同一の方法でスパンボンド不織布(シート状物)に抗インフルエンザウイルス剤が付着した試験片5を得た。なお、シート状物に対する抗インフルエンザウイスル剤、ポリビニルアルコール及びポリオレフィン樹脂微粒子の付着量は約12〜15g/m2程度であった。したがって、抗インフルエンザウイルス剤の付着量は約10〜12.7g/m2程度である。
【0031】
実施例6
ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)に代えて、ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「VC−10」)を用い、かつ、ポリビニルアルコール水溶液の固形分濃度を8質量%とする他は、実施例5と同一の方法により試験片6を得た。
【0032】
比較例1
ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)を溶解させた固形分濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液に代えて、ポリエーテル型ポリウレタン樹脂水性分散体(楠本化成社製、商品名「ネオレッツ R−600」、ポリウレタンの重量平均分子量37,000、固形分濃度33質量%)を固形分濃度10質量%となるように水によって希釈したものを接着剤溶液として用いた他は、実施例1と同一の方法により試験片7を得た。
【0033】
比較例2
ポリビニルアルコール(日本酢ビポバール社製、商品名「JF−03」)を溶解させた固形分濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液に代えて、フッ素−アクリル樹脂エマルジョン(旭硝子社製、商品名「アサヒガード AG−7000」、固形分濃度20質量%)を固形分濃度10質量%となるように水によって希釈したものを接着剤溶液として用いた他は、実施例1と同一の方法により試験片8を得た。
【0034】
[抗インフルエンザウイルス活性評価(点)]
抗インフルエンザウイルス活性は炭酸ガスと接触すると低下してゆくことが知られているため、実施例1〜6、比較例1及び2で得られた試験片を所定時間炭酸ガスに接触させた後の抗インフルエンザウイルス活性を評価した。具体的には、口内径33mmで容量70mlのマヨネーズ瓶に30ccの水を入れた後、水の中にドライアイス2gを投入する。そうすると、高濃度の炭酸ガスが発生するので、マヨネーズ瓶の口を試験片で覆う。覆う時間を、15秒、30秒、45秒、60秒、120秒として、その後20分経過後の抗インフルエンザウイルス活性を評価した。この評価は、抗インフルエンザウイルス活性とpHとの間に相関関係があることが知られているため、チモールフタレイン指示薬を用い、これをマヨネーズ瓶の口を覆った試験片の部位に噴霧し、発色の程度に依った。つまり、試験片の全ての部位が発色すれば、抗インフルエンザウイルス活性が完全に有効であるので10点とし、全ての部位が発色しなければ抗インフルエンザウイルス活性が無効であるので0点とし、発色部分の面積によって1〜9点までの点数付けを行い評価した。その結果は、表1に示したとおりであった。
【0035】
[表1]
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15秒後 30秒後 45秒後 60秒後 120秒後
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
試験片1 10 10 8 8 5
試験片2 10 8 6 5 2
試験片3 10 9 8 6 5
試験片4 10 9 10 9 4
試験片5 10 9 8 8 6
試験片6 10 9 7 6 5
─────────────────────────────────
試験片7 10 5 2 0 0
試験片8 9 3 0 0 0
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【0036】
表1の結果から分かるように、実施例1〜6で得られた試験片1〜6は、炭酸ガスに45秒接触した後でも、ほぼ良好な抗インフルエンザウイルス活性を示している。これに対して、比較例1及び2で得られた試験片7及び8は、炭酸ガスに45秒間接触した後でも、殆ど抗インフルエンザウイルス活性がなくなっている。したがって、実施例1〜6で得られた試験片は、抗インフルエンザウイルス活性を長時間に亙って持続するものである。よって、かかる試験片よりなる担持シートを種々の用途に用いれば、インフルエンザウイルスの接触感染を防止することができ、インフルエンザの感染予防に有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシラジカルを発生する微粒子状の抗ウイルス剤を、重合度250〜1000のポリビニルアルコールを含む接着剤によってシート状物に付着させたことを特徴とする抗ウイルス剤担持シート。
【請求項2】
抗ウイルス剤が抗インフルエンザウイルス剤である請求項1記載の抗ウイルス剤担持シート。
【請求項3】
ポリビルアルコールのケン化度が35〜99モル%である請求項1記載の抗ウイルス剤担持シート。
【請求項4】
接着剤中に、さらに数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂を含んでいる請求項1乃至3のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤担持シート。
【請求項5】
ポリオレフィン樹脂が、以下に示す(A1)及び(A2)を含むモノマーを共重合してなる共重合体である請求項4記載の抗ウイルス剤担持シート。
(A1):不飽和カルボン酸又はその無水物
(A2):炭素数2〜6のアルケン
【請求項6】
シート状物が不織布又は編織物である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤担持シート。
【請求項7】
不織布の構成繊維が芯鞘型複合長繊維であって、芯成分がポリエステルであり、鞘成分がポリオレフィンである請求項6記載の抗ウイルス剤担持シート。
【請求項8】
微粒子状の抗ウイルス剤を水及びアルコールよりなる水系溶媒に分散させて水性分散液を準備する工程と、
重合度250〜1000のポリビニルアルコールを水に溶解させたポリビニルアルコール水溶液を準備する工程と、
前記水性分散液に前記ポリビニルアルコール水溶液を添加混合して接着剤水溶液を得る工程と、
シート状物に前記接着剤水溶液を付与した後、前記接着剤水溶液中の水及びアルコールを蒸発させる工程とからなる
抗ウイルス剤担持シートの製造方法。
【請求項9】
微粒子状の抗ウイルス剤を水及びアルコールよりなる水系溶媒に分散させて水性分散液を準備する工程と、
重合度250〜1000のポリビニルアルコールを水に溶解させたポリビニルアルコール水溶液を準備する工程と、
数平均粒子径が1μm以下の微粒子状のポリオレフィン樹脂を水及びアルコールよりなる水系溶媒に分散させてポリオレフィン樹脂微粒子分散液を準備する工程と、
前記水性分散液に前記ポリビニルアルコール水溶液及び前記ポリオレフィン樹脂微粒子分散液を添加混合して接着剤水溶液を得る工程と、
シート状物に前記接着剤水溶液を付与した後、前記接着剤水溶液中の水及びアルコールを蒸発させる工程とからなる
抗ウイルス剤担持シートの製造方法。

【公開番号】特開2011−102276(P2011−102276A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258447(P2009−258447)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】