説明

抗ウイルス性組成物及びその製造方法、及び、抗ウイルス性部材

【課題】抗ウイルス活性が長期にわたって持続する抗ウイルス性組成物を提供すること。
【解決手段】酸化カルシウムと酸化アルミニウムとを含有し、かつ、前記酸化カルシウム及び前記酸化アルミニウムの総量に対する前記酸化アルミニウムの含有割合が質量比で0.01以上0.3以下である混合粉体を焼成することで得られる、酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体を抗ウイルス性組成物として用いる。この酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体は水和されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス活性が長期にわたって持続する抗ウイルス性組成物及びその製造方法、及び、抗ウイルス性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、他の生物の細胞を利用して自己を複製させることのできる微小な構造体で、タンパク質の殻とその内部に詰め込まれた核酸からなり、生命の最小単位である細胞をもたないので、生物学上は非生物とされている。
【0003】
これらウイルスは、宿主生物に感染しその宿主生物の代謝系を利用して増殖するため、感染することで宿主の恒常性に影響を及ぼし、病原体としてふるまうことがある。そのため、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」において、国民の生命及び健康に影響を与えるおそれがあるものとして、多くのウイルスが特定病原体等に指定・分類されていることからもわかるように、病原性ウイルスを制御することは、保健衛生上非常に重要であり、ウイルスと並び感染症の病原体として知られる細菌とともに、それらの消毒方法や消毒用材料などの開発が進められている。
【0004】
しかしながら、依然としてウイルスは病原体として人類にとって脅威であることにかわりはなく、近年では新型インフルエンザの世界的大流行や、鳥インフルエンザ、家畜におおける口蹄疫などの大流行によって、このような病原性ウイルスによる感染リスクを低減させたり、流行を未然に防ごうとの衛生観念が年々高まるとともに、抗ウイルス性を謳う生活雑貨品や各種材料へのニーズが増大し、これらに適用できる抗ウイルス材の開発が期待されている。
【0005】
このような抗ウイルス材として例えば、下記特許文献1(特開2001−226210号公報)には、炭酸カルシウム含有物質を650℃以上で熱処理することで、滅ウイルス剤が得られることが開示されている。
【0006】
また、下記特許文献2(特許4621590号公報)には、マグネシウムとカルシウムの複合炭酸化合物であるドロマイトを、焼成した後、一部を水和することで、抗ウイルス剤が得られることが開示されている。
【0007】
なお、下記非特許文献1には、炭酸カルシウムや水酸化カルシウム粉体にアルミナをコーティングした原料粉末を焼結させることで得られる、耐消化性に優れたカルシア焼結体の発明が開示されているが、下記非特許文献1においては、得られるアルミナ添加カルシア焼結体について、抗ウイルス性などについて検討はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−226210号公報
【特許文献2】特許4621590号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】岡山県工業技術センター報告 No.26 P.3−6 (2000年7月) 「アルミナ添加カルシア焼結体の水和と炭酸化」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1や上記特許文献2に開示されている抗ウイルス材は、一定の抗ウイルス作用を有するが、経時的に抗ウイルス活性が低下していくため、抗ウイルス活性を維持できる時間に制限がある。そのため、これらの抗ウイルス材を耐久材へ適用しても抗ウイルス効果を長く発揮させることが難しいため、抗ウイルス活性がより長く持続する材料が求められている。
【0011】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、抗ウイルス活性が長期にわたって持続する抗ウイルス性組成物及びその製造方法、及び、抗ウイルス性部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様にかかる抗ウイルス性組成物は、酸化カルシウム及び酸化アルミニウムの混合粉体を焼成して得られる酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体であって、前記酸化アルミニウムを1質量%以上30質量%以下含有することを特徴とする。
【0013】
本発明の第1の態様にかかる抗ウイルス性組成物によれば、抗ウイルス活性の持続性に優れた抗ウイルス性組成物が得られる。この持続的な抗ウイルス活性は、酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体が完全に水和されても失われない。すなわち、本発明の第1の態様にかかる抗ウイルス性組成物である酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体の水和物も、抗ウイルス活性の持続性に優れた抗ウイルス性組成物であり、この酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体水和物が本発明の第2の態様にかかる抗ウイルス性組成物である。
【0014】
なお、本発明にかかる抗ウイルス性組成物においては、前記酸化アルミニウムの含有量を1質量%以上7質量%以下とすると、より抗ウイルス活性の持続性に優れたものとなるため好ましい。
【0015】
また、本発明にかかる抗ウイルス性組成物においては、単位質量当たりの抗ウイルス活性の見地から粉末形状であることが好ましい。
【0016】
また、上記目的を達成するため、本発明にかかる抗ウイルス性繊維は、上記本発明にかかる抗ウイルス性組成物が担持されていることを特徴とする。本発明にかかる抗ウイルス性繊維によれば、抗ウイルス活性の持続性に優れた抗ウイルス性繊維が得られ、さらに、本発明の抗ウイルス性繊維をマスクや空調用フィルター等に適用することで、抗ウイルス活性の持続性に優れた抗ウイルス性マスクや抗ウイルス性空調用フィルターが得られる。
【0017】
また、上記目的を達成するため、本発明にかかる抗ウイルス性樹脂は、上記本発明にかかる抗ウイルス性組成物を含有していることを特徴とする。本発明にかかる抗ウイルス性樹脂によれば、抗ウイルス活性の持続性に優れた抗ウイルス性樹脂が得られ、さらに、本発明の抗ウイルス性樹脂用いてフィルムやシートを作成することで、抗ウイルス活性の持続性に優れた抗ウイルス性フィルムや抗ウイルス性シートが得られる。
【0018】
また、上記目的を達成するため、本発明にかかる抗ウイルス性組成物の製造方法は、酸化カルシウムと酸化アルミニウムとを含有し、かつ、前記酸化カルシウム及び前記酸化アルミニウムの総量に対する前記酸化アルミニウムの含有割合が1質量%以上30質量%以下である混合粉体を焼成することを特徴とする。
【0019】
本発明にかかる抗ウイルス性組成物の製造方法によれば、抗ウイルス活性の持続性に優れた抗ウイルス性組成物である、酸化アルミニウムを1質量%以上30質量%以下含有する酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体が容易に得られる。
【0020】
本発明にかかる抗ウイルス性組成物の製造方法においては、前記混合粉体の酸化アルミニウムの含有割合を、前記酸化カルシウム及び前記酸化アルミニウムの総量に対して、1質量%以上7質量%以下とすると、より抗ウイルス活性の持続性に優れた抗ウイルス性組成物が得られるため、好ましい。
【0021】
また、本発明にかかる抗ウイルス性組成物の製造方法においては、得られる焼結体の質をより向上させるために、前記混合粉体を焼成する前には加圧成形しておくことが好ましい。
【0022】
また、本発明にかかる抗ウイルス性組成物の製造方法においては、焼成する際の処理温度及び処理時間は主成分である酸化カルシウムが焼結体となる処理条件であれば特に限定されない。通常、温度が高いほど固体粉末の焼結体化はより早く進むが、一般的に用いられる焼成炉で実現できる1000℃〜1450℃程度の温度であれば、本発明にかかる抗ウイルス性組成物の製造方法を実施するには充分であり、その場合、2時間程度焼成することで抗ウイルス活性の持続性に優れた抗ウイルス性組成物が得られる。
【0023】
また、本発明にかかる抗ウイルス性組成物の製造方法においては、得られた酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体を更に水和させても良い。本発明にかかる抗ウイルス性組成物の製造方法で得られる酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体の優れた抗ウイルス活性は、焼結体を完全に水和させても持続する。例えば、粉末状の酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体に水和させるための充分量(例えば、酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体100質量部に対し60質量部以上)の水を加えた状態で24時間保管したものは、粉末X線回折測定すると酸化カルシウムのスペクトルが消失することが確認でき、酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体がほぼ完全に水和されたものとなるが、この焼結体水和物も優れた抗ウイルス活性の持続性を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】水和処理前の酸化カルシウム焼結体の粉末X線回折の測定結果である。
【図2】水和処理後の酸化カルシウム焼結体の粉末X線回折の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。但し、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための、抗ウイルス材組成物及びその製造方法を示すものであって、本発明をこの実施例に限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0026】
[酸化カルシウム焼結体]
各実施例及び比較例1〜12にかかる酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体ないし酸化アルミニウム非含有酸化カルシウム焼結体は、下記の手順で製造した。なお、以下において、単に「酸化カルシウム焼結体」と記載した場合は、酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体及び酸化アルミニウム非含有酸化カルシウム焼結体の双方を含有する概念として用いる。
【0027】
[実施例1]
[出発原料]
出発原料としては、下記のものを使用した。
CaO:和光純薬 酸化カルシウム 純度99.9%
Al:大明化学工業 タイミクロンTM−300(γ−Al) 純度99.99%
上記試薬を酸化カルシウム99質量部に対して、酸化アルミニウム1質量部となるように秤量した。
【0028】
[原料の混合]
次いで、CaOとAlを均一混合するために、下記のような方法で湿式混合を行なった。すなわち、上記秤量された各原料粉末を容量250mlのポリエチレン製容器に入れ、そこへアルミナ製ボール(直径5mm)300gとエタノール100mL加えて、蓋をして密閉した。試料の入った容器を転動型ボールミル装置(AN−6S 日陶科学株式会社)で24時間湿式混合した。
【0029】
[乾燥及び粉砕]
その後、湿式混合した試料を乾燥するために、試料をなす型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーター(R−114 柴田科学株式会社)でエタノールを完全に蒸発させた。次いで、なす型フラスコに入った乾燥試料を取り出して、容量250mlのポリエチレン製容器に入れ、そこへアルミナ製ボール(直径5mm)300gを加えて、転動型ボールミルで2時間乾式粉砕を行なうことで、エバポレーター乾燥により凝集した塊を除いた。その際、15分間隔で運転を止めて、容器壁面に付着した粉末を叩き落しながら運転した。
【0030】
[混合粉末の焼成]
粉末状になった試料を直径19mmの円柱状試料となるように20MPaで一軸加圧成形して、下記の条件で焼成した。
・焼成炉:Supertherm HT04/17 中外エンジニアリング株式会社
・雰囲気制御していない大気中、昇温速度400℃/hで1300℃まで上げ、1300℃で4時間保持後、室温付近まで自然冷却して焼成を行ない、酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体を得た。
次いで、上記のようにして得られた酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体を、アルミナ製乳鉢に入れ、アルミナ乳棒で粉末状となるように破砕した。粒度調整するため目開き106μmの篩いに通すことで、実施例1にかかる酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体粉末を得た。
【0031】
[実施例2〜7及び比較例1〜3]
実施例2〜7及び比較例1〜3については、酸化カルシウムと酸化アルミニウムの混合比を異ならせた点以外は、実施例1と同様にして酸化カルシウム焼結体粉末を得た。なお、比較例1は酸化アルミニウムを加えずに酸化カルシウムのみを焼成しており、酸化アルミニウムを含有しない酸化カルシウム焼結体粉末である。
【0032】
酸化アルミニウムの添加量について、酸化カルシウムと酸化アルミニウムの総量に対する酸化アルミニウムの含有割合(質量%)として表1に纏めて示した。
【0033】
【表1】

【0034】
[抗ウイルス性の評価]
抗ウイルス性については下記のようにして評価した。
すなわち、被験ウイルスとして、インフルエンザウイルスA / コハクチョウ/ 島根 / 499 / 83(H5N3)(鳥分離株)を使用した。滅菌した試験管に各実施例及び比較例にかかる試験粉末50mgを入れて、そこへウイルス液0.95mLを加えて十分に混和させ、4℃で所定時間静置した(以下、この所定時間を「接触時間」という)。なお、ウイルス液については、予め、試験粉末50mgに替えてPBS(pH7.2リン酸緩衝生理食塩水)0.05mlを混和させて以下に述べる方法で測定した場合のウイルス力価が、105.5となるように調製したものを用いた。
【0035】
続いて、上記混合液から0.09mLを採取して、0.81mLのPBSの入った試験管に滴下して十分に混和することで10倍希釈混合液を作成し、更に上記10倍希釈混合液から0.09mLを採取して、0.81mLのPBSの入った試験管に滴下して十分に混和し100倍希釈混合液を作成する、という10倍希釈操作を繰り返すことで、試験粉末及びウイルス液の混合溶液の10倍階段希釈列を作成した。
【0036】
上記得られた各希釈列混合ウイルス液について、3個の10日齢発育鶏卵の尿腔に0.2mLずつ接種し、接種後の発育鶏卵は37℃で3日間ふ卵を続行した。検卵は毎日行い、ウイルス接種から24時間以内に鶏胎児が発育を停止した場合は事故として実験から除外した。
【0037】
所定のふ卵が終了した接種発育鶏卵は、冷蔵庫に入れて一晩静置した。翌日、尿液を採取して、試験管内で0.5%鶏赤血球浮遊液と混合して、赤血球凝集の有無を調べた。インフルエンザウイルスは鶏赤血球凝集能を持っているため、赤血球凝集の有無から発育鶏卵がウイルスに感染したかどうか調べることができる。このようにしてウイルス力価(EID50/0.2ml:50%発育鶏卵感染量)を求めたが、これはReed and Muenchの方法に従って算出した(参照文献:Reed, L. J., Muench, H.: A simple method of estimating fifty per cent endpoints, Am. J. Hyg., 27, 493−497(1938))。
【0038】
[加速劣化処理]
更に、抗ウイルス性についての持続性を調べるため、各試験粉末を強制的に劣化させる加速劣化処理を行った上で抗ウイルス性を評価した。加速劣化処理は以下のようにして行った。試料をステンレス製反応容器(直径φ180mm×高さ230mm)に入れ、容器底部に水を入れ、そこへCOガス流量100mL/minとなるように導入した。導入したガスを容器底部の水でバブリングさせながら、24時間ないし48時間フローさせた。ステンレス製反応容器は、試験温度が40℃となるように恒温器に入れて処理を実施した。
【0039】
[実験例1]
実施例3、5〜7及び比較例1〜3にかかる酸化カルシウム焼結体粉末について、抗ウイルス性を評価した。結果を表2に纏めて示す。なお、以下においては、表の見易さを向上させるため、各表においては得られたウイルス力価についてそのまま表記せず、ウイルス力価の値の常用対数を算出して抗ウイルス性指標として示してある。
【0040】
【表2】

【0041】
表2より以下のことがわかる。すなわち、実施例3及び5〜7は、比較例1に対して、加速劣化処理後の抗ウイルス性に優れており、抗ウイルス性の効果が比較例1に対してより持続している。このことから、酸化カルシウムに対して酸化アルミニウムを添加した混合物を焼成することで、酸化アルミニウムを含有しない酸化カルシウムの焼成物に対して、抗ウイルス性をより持続させることができることがわかる。
【0042】
なお、比較例2及び3においては、抗ウイルス性について加速劣化処理前及び加速劣化処理後の双方において、比較例1よりも劣る結果となっている。このことは、抗ウイルス性を期待して酸化カルシウムを焼成して焼結体とする場合には、酸化アルミニウムの含有量に注意すべきであることを示しており、表2の結果より、酸化アルミニウム添加による上記抗ウイルス活性の持続効果を奏するためには、酸化アルミニウムの含有量を焼結体総量に対して、40質量%未満とすることが必要であることがわかる。
【0043】
また、実施例3及び5と実施例6及び7とを比較すると、ともに比較例1と比べて加速劣化処理後の抗ウイルス性に優れているが、実施例3及び5は接触時間10分の条件でも加速劣化処理後の抗ウイルス活性を有している。このことから、酸化カルシウムに添加する酸化アルミニウムは、10質量%以下とすることが好ましいことがわかる。
【0044】
[実験例2]
酸化アルミニウムの含有量が10質量%以下である実施例1〜5については、比較例1及び2とともに、焼結体を更に水和させて焼結体水和物として、抗ウイルス性を評価した。
【0045】
[酸化カルシウム焼結体の水和]
上述のようにして得られた酸化カルシウム焼結体粉末をガラス製容器に入れ、そこへ焼結体粉末と同質量の蒸留水を添加し、水和反応を完全に行うために室温大気中で24時間保管した。その後、真空定温乾燥器(ADP200 ヤマト科学株式会社製)で100℃、1時間の真空乾燥を行い、余分な水分を除去することで、各実施例及び比較例にかかる酸化カルシウム焼結体水和物の試験粉末とした。なお、本水和処理においては、焼結体粉末に加える水の量は酸化カルシウム焼結体を充分に水和できれば良いため、酸化カルシウム焼結体に対して60質量%程度以上あれば良い。
【0046】
[X線回折による試料の同定]
上記のようにして得られた実施例1〜5及び比較例1、2にかかる酸化カルシウム焼結体水和物について、粉末X線回折(X−ray diffraction[XRD])測定の結果より、完全に水和されていることを確認した。測定装置及び測定条件を下記に示す。
装置名 :X線回折装置 M03X−HF (株)マックサイエンス(現ブルカー・エイエックスエス株式会社)
ターゲット :Cu
電圧/電流 :40kV 30mA
サンプリング幅:0.020 deg.
走査範囲 :2θ = 10〜70°
走査速度 :5 deg./min
スリット :発散スリット 1.00 deg.
散乱スリット :1.00 deg.
受光スリット :0.30 mm
【0047】
図1は実施例3、5〜7及び比較例1、2にかかる酸化カルシウム焼結体のXRD測定結果であり、図2は実施例1〜4及び比較例1にかかる酸化カルシウム焼結体を上記水和条件で水和させたもののXRD測定結果である。
【0048】
図1においては、実施例3、5〜7及び比較例1に共通して酸化カルシウムに相当するピーク(例えば、2θ=38°弱付近のピーク)が検出されている一方、図2においては、酸化カルシウムに相当するピークが消失するとともに、水酸化カルシウムに相当するピーク(例えば、2θ=18°付近や、2θ=34°付近のピークなど)が検出されていることから、上記水和条件によって各酸化カルシウム焼結体は充分に水和されているものと認められた。
【0049】
抗ウイルス性の評価方法については実験例1と同様に実施し、実施例1〜5及び比較例1、2にかかる酸化カルシウム焼結体水和物の抗ウイルス性について評価した。なお、実験例1における加速劣化処理後の比較例1の結果を鑑みて、より劣化を進めた状態で評価するために、実験例1において24時間としていた加速劣化処理時間を48時間とした。結果を表3に纏めて示す。
【0050】
【表3】

【0051】
表3より以下のことがわかる。すなわち、接触時間10分における比較例1及び実施例5の結果から、酸化カルシウム焼結体水和物においても比較例1及び実施例5の抗ウイルス活性は失われていないことがわかる。
【0052】
また、実施例1〜4の結果から、酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体に含有させる酸化アルミニウムの割合を7質量%以下とすると、酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体の有する抗ウイルス活性の持続効果がより顕著なものとなるためより好ましく、3質量%以下とすることが特に好ましいことがわかる。
【0053】
なお、酸化アルミニウムの含有量を、実施例1〜4とそれぞれ等しくするとともに、焼成していない、酸化アルミニウムと酸化アルミニウムの混合粉末を比較例4〜7として加速劣化処理48時間後の抗ウイルス性を評価した。結果を表4に纏めて示す。
【表4】

【0054】
表4に示されるとおり、比較例4〜7ではいずれも抗ウイルス活性が見られなかった。このことから、本発明にかかる抗ウイルス活性の持続効果を奏するためには、酸化カルシウムと酸化アルミニウムとの混合物を焼成する工程が必要であることがわかる。
【0055】
また、上記実施例及び比較例においては、酸化カルシウム焼結体のアルミナの添加量が多い程、アルミン酸カルシウムの存在を示す2θ=33°付近のピークが増強されており(図1参照)、実験例1の結果とあわせて考えると、本発明にかかる抗ウイルス活性の持続効果に対してアルミン酸カルシウムは関与していないものと推測される。
【0056】
また、上記実施例においては焼成工程において昇温速度400℃/hで1300℃まで上げ、1300℃で4時間保持することで、酸化カルシウムと酸化アルミニウムとの混合物を焼成したが、本発明においては、焼成する際の処理温度及び処理時間は主成分である酸化カルシウムが焼結体となる処理条件であれば特に限定されない。通常、温度が高いほど固体粉末の焼結体化はより早く進むが、一般的に用いられる焼成炉で実現できる1000℃〜1450℃程度の温度であれば、本発明にかかる抗ウイルス性組成物の製造方法を実施するには充分である。その場合、2時間程度焼成することで抗ウイルス活性の持続性に優れた抗ウイルス性組成物が得られることから、生産効率やコストの視点から処理時間は10時間以下で充分である。
【0057】
また、上記各実施例及び比較例においては、酸化カルシウム焼結体を粉砕後目開き106μmの篩いを用いて粒度調整をしているが、本発明にかかる抗ウイルス性組成物の抗ウイルス作用そのものは、酸化カルシウム焼結体の表面において発揮されているものと推測されることから、抗ウイルス活性の持続性向上という本発明にかかる抗ウイルス性組成物の効果は粒子径の大小に拠るものではなく、粒子径が106μmを超えるものであっても本発明にかかる抗ウイルス性組成物の上記効果は当然奏されるものと考えられる。しかしながら、単位質量当たりの抗ウイルス活性を考慮すれば単位質量当たり表面積がより大きい方が好ましい。単位質量当たり表面積を大きくする方法としては、例えば物理的に粒子径を小さくする方法が挙げられ、その場合は上記実施例で行ったように乳鉢と乳棒を用いて粉砕する等、周知の方法で粉末化ないし小粒子径化すれば良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化カルシウム及び酸化アルミニウムの混合粉体を焼成して得られる酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体であって、前記酸化アルミニウム含有量が1質量%以上30質量%以下であることを特徴とする、抗ウイルス性組成物。
【請求項2】
前記酸化アルミニウムの含有量が1質量%以上7質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項3】
前記酸化アルミニウム含有酸化カルシウム焼結体は水和されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗ウイルス性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の抗ウイルス性組成物が担持された抗ウイルス性繊維。
【請求項5】
請求項4に記載の抗ウイルス性繊維を用いた抗ウイルス性マスク。
【請求項6】
請求項4に記載の抗ウイルス性繊維を用いた抗ウイルス性フィルター。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の抗ウイルス性組成物を含有する抗ウイルス性樹脂。
【請求項8】
請求項7に記載の抗ウイルス性樹脂を用いた抗ウイルス性フィルム。
【請求項9】
請求項7に記載の抗ウイルス性樹脂を用いた抗ウイルス性シート。
【請求項10】
酸化カルシウムと酸化アルミニウムとを含有し、かつ、前記酸化カルシウム及び前記酸化アルミニウムの総量に対する前記酸化アルミニウムの含有割合が1質量%以上30質量%以下である混合粉体を焼成することを特徴とする、抗ウイルス性組成物の製造方法。
【請求項11】
前記混合粉体として、前記酸化カルシウム及び前記酸化アルミニウムの総量に対する前記酸化アルミニウムの含有割合が1質量%以上7質量%以下であるものを用いることを特徴とする、請求項10に記載の抗ウイルス性組成物の製造方法。
【請求項12】
前記混合粉体を加圧成形した後に焼成することで、前記混合粉体の焼結体を得ることを特徴とする、請求項10又は11に記載の抗ウイルス性組成物の製造方法。
【請求項13】
1000℃以上1450℃以下の温度を2時間以上維持することで、前記混合粉体を焼成することを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の抗ウイルス性組成物の製造方法。
【請求項14】
前記混合粉体を焼成して得られる焼結体を、さらに水和することを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の抗ウイルス性組成物の製造方法。
【請求項15】
前記混合粉体の焼結体100質量部に対し60質量部以上の水を加えることで、前記混合粉体の焼結体を水和することを特徴とする、請求項14に記載の抗ウイルス性組成物の製造方法。
【請求項16】
24時間かけて前記混合粉体の焼結体の水和反応を行うことを特徴とする、請求項14又は15に記載の抗ウイルス性組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−197252(P2012−197252A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63338(P2011−63338)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【出願人】(393012367)株式会社モチガセ (5)
【Fターム(参考)】