説明

抗ウイルス治療

本出願は、抗ウイルス治療を向上させるための処置、および抗ウイルス治療が有効かどうかを決定するための方法に関する。特に、本出願は、肝臓のウイルス感染を有する被験体が、インターフェロン(IFN)活性の刺激を含む抗ウイルス治療に対して応答性である可能性を決定するための方法、および前記決定の実施のためのキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス治療を向上させるための処置、および抗ウイルス治療が有効であるかどうかを決定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染は、健康にとって深刻な脅威であり、動物および人間の病的状態の主な原因であることが知られている。例えば、C型肝炎ウイルス(HCV)感染は、世界中で慢性肝臓疾患の主な原因である。C型肝炎の重要かつ顕著な特徴は、その慢性化への傾向である。70%を超える感染した個体において、HCVは、数十年にわたる持続的感染を確立し、肝硬変および肝細胞癌へと導く可能性がある。
【0003】
HCV生物学における興味深い仮説として、ウイルスのNS3−4Aプロテアーゼはウイルス性タンパク質をプロセシングするだけでなく、ウイルス感染を検出してI型インターフェロン(IFN)の転写活性化を誘導する細胞内感覚経路の構成要素を切断して不活性化することが提案されている。NS3−4Aの標的の1つは、TRIF(IFNβを誘導するTIRドメイン含有アダプター)であり、それは、TLR3(toll様受容体3)によるエンドソームにおけるdsDNA検出とIFNβの誘導との間を本質的に結びつけるものである。最近になって、レチノイン酸誘導性遺伝子−I(RIG−I)およびMDA5(ヘリカード)がdsRNAの細胞内センサーとして同定された。どちらのセンサーもCardif(IPS−1、MAVS、VISAとしても知られている)を通してシグナル伝達し、IFNβ産生を誘導する。Cardifは、HCV NS3−4Aにより切断されて、不活性化され得る。dsRNAの細胞内センサーとして同定された、2つのRNAヘリカーゼであるRIG−IとMDA5は、Cardifを通してIFNβ産生を誘導するように作用する。
【0004】
I型IFNは、先天免疫系の重大な構成要素であるだけでなく、CHCに対する現行の治療法の最も重要な構成要素でもある。現行の標準治療法は、週1回のペグ化IFNα(pegIFNα)の皮下注射および毎日の経口抗ウイルス剤リバビリンの摂取からなる。このレジメンは、患者の約55%において全体的な持続性ウイルス陰性化(sustained virological response, SVR)を達成し、遺伝子型の間で有意差がある。SVRは、処置中の検出可能なHCV RNAの消失、および治療停止後少なくとも6カ月間のその非存在の継続として定義される。SVRを達成する患者の長期フォローアップのいくつかの研究により、この応答が、95%を超える患者において永続的であることが実証されている。SVRの確率は、処置に対する初期応答に強く依存する。12週間の治療後、少なくとも2log10のウイルス量(viral load)の降下として定義される早期ウイルス陰性化(EVR)を示さない患者は、SVRを生じる可能性は極めて低く、これらの患者では処置を停止することができる。他方、EVRを有する患者は、治癒する可能性がかなりあり、その65%がSVRを達成する。4週間の処置後の血清HCV RNA検出不能として定義される急速ウイルス陰性化(RVR)を生じる患者では、予後はさらに良い。それらのうち、SVRを達成するのは、85%を超えるであろう。残念なことに、遺伝子型1を有する患者の20%未満、遺伝子型2または3を有する患者の約60%がRVRを示す。治療に対する初期応答について重要である宿主因子は、現在知られていない。
【0005】
I型IFNは、数百個の遺伝子(ISG、インターフェロン活性化遺伝子(interferon stimulated gene))の制御を通して強力な抗ウイルス効果をもたらす。ISGの転写活性化は、休止細胞では通常合成されず、かつ細胞内の非ウイルス特異的抗ウイルス状態を確立するタンパク質を誘導する。インターフェロンは、多数のサイトカインおよび成長因子により用いられる細胞シグナル伝達のパラダイムである、Jak−STAT経路を活性化することによってそれらの合成を誘導する。全てのI型IFNは、同じ細胞表面受容体(IFNAR)に結合し、受容体関連ヤヌスキナーゼファミリーメンバー、Jak1およびTyk2を活性化する。その後、そのキナーゼは、シグナル伝達性転写因子1(STAT1)およびSTAT2をリン酸化して活性化する。活性化STATは、核へ移行し、そこで、それらは、ISGのプロモーター内の特定のDNAエレメントと結合する。ISGの多くは、抗ウイルス活性を有するが、脂質代謝、アポトーシス、タンパク質分解、および炎症性細胞応答に関与するものもある。多くのウイルスと同様に、HCVは、おそらく複数のレベルで、IFN系に干渉する。IFN誘導性Jak−STATシグナル伝達は、HCVタンパク質を発現する細胞およびトランスジェニックマウス、ならびにCHCを有する患者の肝臓生検において、阻害されている。in vitroでは、HCVタンパク質のNS5AおよびE2は、重要な非特異的抗ウイルスタンパク質であるプロテインキナーゼR(PKR)と結合して、不活性化する。しかしながら、CHCを有する患者において治療的に適用されたIFNに対する応答にとって重要である分子機構は、現在知られていない。
【0006】
IFN経路に多くの異なるレベルで干渉するHCVの能力は、HCVが慢性感染を確立することに成功することの根底にある機構である可能性が高い(2)。しかしながら、全く矛盾したことに、HCVに急性または慢性感染したチンパンジーにおいて、数百個のISGが肝臓において誘導されている(16、17)。それでもなお、内因性IFN系の活性化にもかかわらず、ウイルスは、慢性感染した動物から排除されない(18)。チンパンジーに関して得られた結果をヒトに当てはめることは難しく、それは、これらの種の間にHCV感染の病理生物学におけるいくつかの重要な違いがあるからである。HCVに急性感染したたいていのチンパンジーは、自発的にそのウイルスを排除するが、ヒトにおける感染ではほとんど慢性になる。他方、慢性感染したチンパンジーはめったにIFNで治癒することはあり得ないが、CHCを有する患者の半分より多くが処置に成功している(19)。
【0007】
ISGの誘導はまた、CHCを有する多くの患者の処置前の肝臓生検に見出され、このことはHCV感染が内因性IFN系の活性化へと導き得ることをやはり実証している(20)。特に、ISGの発現が事前に上昇している患者は、最初の発現が低い患者と比較した場合、治療に対する応答が悪い傾向にあった(20)。この治療に対する異なる応答の原因はわかっていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、本発明者らが、pegIFNαでの治療前と治療中の慢性肝炎の患者の肝臓生検と末梢血単核細胞(PBMC)のペア試料(paired sample)におけるIFN誘導性シグナル伝達およびISG誘導を調べた研究に基づいている。さらに、生化学的データおよび分子データを処置に対する応答に相関づけた。その研究は、添付の実施例でより詳細に述べられている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、肝臓のウイルス感染を有する一部の被験体が、IFNシグナル伝達経路が活性化ISGを伴う刺激状態にあるような、「事前活性化」の状態にあることを明らかにした。本発明者らは、そのような個体が、後でIFNおよび抗ウイルス剤で処置された場合、その抗ウイルス処置に対する応答が悪く、または応答がなかったことを見出している。対照的に、感染した被験体の別の群は、IFN受容体の事前刺激(およびISGの刺激)を生じていないように見え、この群は、抗ウイルス治療に対して良く応答した(すなわち、急速ウイルス陰性化(RVR)を有した)。さらに、被験体が処置に対する不良応答者であるかどうか、またはいくつかの特定の遺伝子(それらの一部はISG遺伝子である)の発現レベルに従ってRVRを有するかどうかを決定することが可能である。換言すれば、本発明者らは、その発現レベルから被験体が抗ウイルス処置に対して応答するかどうかが予測される、予後遺伝子マーカーである1セットの遺伝子を同定した。
【0010】
これにより、本発明者らは、肝臓のウイルス感染を患っている被験体についての処置レジメンを臨床医が決定するのを助ける方法を開発することができることを理解するに至る。感染個体の遺伝子発現は、対照(すなわち、ウイルス感染のない被験体)の遺伝子発現と比較することができる。
【0011】
(対照と比較して)変化した遺伝子発現を有する感染被験体は、処置レジメンにおけるIFNの使用から恩恵を受ける可能性が低いであろう(すなわち、これらの個体はRVRを生じないと予想されるであろう)が、対照発現と比較して遺伝子発現がほとんど変化しなかった感染被験体は、IFN治療から恩恵を受け、RVRを有する可能性が高い。当業者は、ISGの活性化がより良いウイルス排除と関連があり、処置に対して応答が悪い一部の被験体とは関連がないと予想するであろうから、本発明者らはこれらを相関づけてみて驚いた。
【0012】
肝臓のウイルス感染を有する、「応答者」の被験体および「非応答者」の被験体における遺伝子発現レベルの研究、例えば、Chenら(2005)Gastroenterology 128巻、1437〜1444ページが以前にあったが、本発明の一部として行われた調査では、どれが予後マーカーとして働くかを決定するためにより非常に広い遺伝子のセットを研究した。さらに、本発明者らはまた、抗ウイルス処置前および処置後に採取された試料における遺伝子発現レベルを分析し、この情報を用いて、予後遺伝子マーカーを同定したが、以前の研究は、処置前に採取された試料に存在する遺伝子発現レベルに処置の転帰を相関づけることを試みただけである。したがって、下記に示された予後遺伝子マーカーの同定に繋がるデータセットは、以前の研究におけるものよりもはるかに完全かつロバスト(robust)であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】肝臓およびPBMCにおける遺伝子発現のpegIFN−α2b誘導性制御を示す図である。
【図2】HCV感染患者におけるpegIFNα2b誘導性遺伝子制御は、RVR患者の肝臓と非RVR患者の肝臓との間、および肝臓とPBMCとの間に大きな違いを示すことを表す図である。
【図3】選択されたISGおよびPP2Aの触媒サブユニットのRT−qPCR分析を示す図である。
【図4】肝臓生検におけるJak−STATシグナル伝達の分析を示す図である。
【図5】全ての患者生検試料における遺伝子発現の主なパターンはヒートマップとして示されている。
【図6】分類基準として4週間目での処置に対する応答を用いる肝臓生検試料およびPBMCにおける教師あり分類予測(supervised classifier prediction)を示す図である。
【図7】肝臓生検におけるリン酸化STAT1の免疫組織化学的染色の半定量的評価を示す図である(A)。pegIFNα2bに応答したSTAT−DNA結合の誘導が、非RR患者の大部分において障害されることを示す図である(B)。
【図8】ヒトインターフェロンαのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す図である。
【図9−1】ヒトインターフェロン受容体1のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す図である。
【図9−2】ヒトインターフェロン受容体1のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す図である。
【図10−1】ヒトインターフェロン受容体2のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す図である。
【図10−2】ヒトインターフェロン受容体2のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す図である。
【図11】ヒトインターフェロン受容体2bのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す図である。
【図12】ヒトインターフェロン受容体2cのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
したがって、本発明の第1の態様において、肝臓のウイルス感染を有する被験体が、インターフェロン(IFN)活性の刺激を含む抗ウイルス治療に対して応答性である可能性を決定するための方法が提供され、その方法は、
(a)以下の遺伝子群:
(i)KYNU;PAH;LOC129607;DDC;FOLH1;YBX1;BCHE;ACADL;ACSM3;NARF;SLPI;RPS5;RPL3;RPLP0;TRIM5、およびHERC5;
(ii)HTATIP2;CDK4;IFI44L;およびKLHDC3;
(iii)C7;IF;IFI27;IFIT1;OAS2;G1P2;OAS1;IRF7;RSAD2;IFI44;OAS3;SIGIRR;およびIFIT2;
(iv)RAB4A;PPP1R1A;PPM1E;ENPP2;CAP2;ADCY1;CABYR;EVI1;PTGFRN;TRIM55;およびIL28RA;
(v)MME;KCNN2;SLC16A10;AMOTL1;SPP2;LRCH4;HIST1H2BG;TSPYL5;HIST1H2AC;HIST1H2BD;PHTF1;ZNF684;GSTM5;FLJ20035;FIS;PARP12;C14orf21;PNPT1;FLJ39051;GALNTLI;OSBPL1A;LGALS3BP;TXNRD2;LOC201725、TOMM7;SRPX2;DCN;PSMAL;MICALL2;FLJ30046;SAMD9;ANKRD35;LOC284013;LOC402560;およびLOC147646
の各々から少なくとも1つの遺伝子の発現について被験体由来の試料を分析する工程と、
(b)試料における前記遺伝子の発現を対照試料における同じ遺伝子の発現と比較する工程と
を含む。
【0015】
本発明の一実施形態では、対照試料における同じ遺伝子の発現と比較して変化した、試料における遺伝子の発現が、被験体が前記抗ウイルス治療に対して応答性である可能性が低いことを示す。
【0016】
本発明の別の実施形態では、対照試料における同じ遺伝子の発現と比較して変化していない、試料における遺伝子の発現が、被験体が前記抗ウイルス治療に対して応答性である可能性が高いことを示す。
【0017】
本発明の第1の態様において評価された遺伝子のそれぞれに関するさらなる情報は、添付された実施例の表2に提供されている。特に、本発明者らは、遺伝子のそれぞれについてAffimetrix識別番号を与え、それによって、各遺伝子を特定的に同定することができる。
【0018】
本発明の第1の態様の方法は臨床医にとって非常に有益となることが認識されるだろう。IFNはタンパク質成長因子であり、IFNを含む医薬調製物は製造する費用が高い。それゆえに、IFNが適切かつ費用効率が高い方法で用いられることになると確信することは、臨床医にとって非常に重要である。さらに、費用とは無関係に、できる限り迅速に肝臓のウイルス感染を除去することが望ましいことが多い。それゆえに、臨床医がIFNを投与し、その後、それが有益な効果を生じないことを発見するのは、(代わりの治療を利用するのに費やすことができた)時間を無駄にしている。したがって、本発明の第1の態様の方法は、臨床医が被験体を2つの集団に分類することができるため、その大きな助けとなる。1つの集団は、上記および表2に列挙された遺伝子の変化した発現を示し、したがって、IFNでの処置から恩恵を受けないであろう。上記および表2に列挙された遺伝子の発現が対照試料と有意には異ならない他方の集団は、IFNでの治療から恩恵を受けるであろう。
【0019】
別の実施形態において、(処置から4時間後、異なる形で発現した)表3の遺伝子の発現は同じような方法で用いることができると考えられる。
【0020】
「抗ウイルス治療」とは、IFN活性の刺激を含むウイルス感染を低下させるための任意の処置レジメンを意味する。そのようなレジメンは、I型IFN活性を刺激し、かつ/またはIFN活性化遺伝子(IFN stimulated gene)(ISG)を誘導する化合物の使用を含んでもよい。治療は、IFNそれ自体または他のIFN受容体アゴニストでの処置を含んでもよい。例えば、治療は、ペグ化IFNα(pegIFNα)を利用してもよい。
【0021】
治療はIFN活性の刺激のみを含んでもよい。しかしながら、本発明者らは、本発明の第1の態様による方法が、既知の抗ウイルス剤と併用したIFN活性の刺激剤を含む併用療法の使用を含む抗ウイルス治療の有効性を予測するのに特に有用であることを見出している。多くの抗ウイルス剤が当技術分野にとって公知であり、本発明の方法は、いくつかの異なる併用療法の有効性を評価するために用いることができる。しかしながら、本発明者らは、本発明の第1の態様の方法が、抗ウイルス剤リバビリンと併用して用いられるIFN活性の刺激剤での治療の有効性を予測するのに特に価値があることを見出している。
【0022】
本発明の第1の態様の方法を、抗ウイルス治療としてのpegIFNαおよびリバビリンの有用性を予測するために用いることが最も好ましい。
【0023】
本発明の第1の態様の方法は、B型肝炎ウイルス感染およびC型肝炎ウイルス感染を含む、肝臓のいくつかの異なるウイルス感染の処置の有効性を評価するために用いることができる。その方法をC型肝炎ウイルス(HCV)感染の治療の有効性を評価するために利用することが最も好ましい。本発明者らは、本発明の方法を、急速ウイルス陰性化を生じることが予想される被験体(RVR)と生じるとは予想されない被験体(非RVR)を識別するのに特に有用であることを見出した。
【0024】
本発明に従って用いることができる被験体における遺伝子発現を表す試料は、被験体によって発現されている遺伝子に関する情報を提供することができる任意の試料を包含する。
【0025】
適切な試料の例として、生検、外科手術中に切除された試料、血液試料、尿試料、痰試料、脳脊髄液試料、および(唾液スワブ試料などの)スワブ試料が挙げられる。試料の供給源は、被験体が有する可能性があるウイルス感染の型に依存することが認識されているであろう。
【0026】
試料が肝臓組織由来であることが最も好ましい。肝臓試料は、方法がHCV感染を有する被験体を評価するために適用される場合、特に有益であることが見出されている。末梢血白血球がIFNへの曝露前または曝露後に遺伝子発現の有意な変化を示さないのに対して、肝臓試料由来の遺伝子発現を分析することによってRVRを非RVR被験体と区別することができることを本発明者らは見出して驚いた。
【0027】
適切な試料として、組織学的切片または凍結切片などの組織切片を挙げることができる。切片の由来する被験体における遺伝子発現を表す情報を提供することができるような方法でそのような切片を調製することができる方法は、当業者によく知られているであろうし、遺伝子発現を調べる場合、用いる予定である技術を参照して選択されるべきである。
【0028】
被験体由来の組織の一部を含む試料の使用が企図されるが、遺伝子発現を表す試料が、そのような組織から取られた適切な抽出物を含むことが一般的に好ましくあり得、前記抽出物は、被験体における遺伝子発現に関する情報を提供する調査能力がある。被験体における遺伝子発現に関する情報を提供することができる組織抽出物の作製のために用いることができる適切なプロトコールは当業者によく知られているであろう。好ましいプロトコールは、遺伝子発現が調べられることになっている様式を参照して選択することができる。
【0029】
肝臓由来の試料の場合、適切な調製工程は、実施例の1.1.1および1.1.3に開示されている。
【0030】
「対照試料」とは、肝臓のウイルス感染に罹っていない個体に由来している、被験体由来の試料に等価の試料を意味する。対照試料を構成する等価の組織もしくは器官の試料、またはそのような試料由来の抽出物は、対照試料における遺伝子発現に関する情報の供給源として直接用いてもよいが、「理想の」対照試料における選択された遺伝子(または複数の遺伝子)の発現に関する情報を参照データの形として提供することができることが認識されているであろうし、一般的に好ましい。そのような参照データは、選択された対照組織における遺伝子発現を示す表の形で提供されてもよい。あるいは、参照データは、選択された対照組織における遺伝子発現を示す検索情報(retrievable information)を含むコンピュータソフトウェアの形で供給されてもよい。例えば、参照データは、被験体における各遺伝子群から選択された少なくとも1つの選択された遺伝子(複数可)の発現の対照組織試料における同じ遺伝子の発現との比較を可能にするアルゴリズムの形で提供されてもよい。
【0031】
対照試料における上記および表2に列挙された遺伝子の発現が、対照試料を構成する組織または器官の試料の処理によって調べられることになっている場合、そのような処理は、被験体由来の試料を処理するために用いられる同じ方法を用いて行われることが好ましい。被験体試料および対照試料のそのような同等の処理(parallel processing)により、(組織を処理する選択された方法および調査される遺伝子発現に関連したいかなるアーチファクトも被験体試料および対照試料の両方に当てはまるであろうから)これらの組織における遺伝子発現の比較がお互いに対して標準化される信頼度がより大きくなる。
【0032】
本発明の第1の態様による方法は、各遺伝子群から選択された少なくとも1つの遺伝子の遺伝子発現の分析を含み得る。上記および表2または3に列挙された遺伝子の変化した発現が抗ウイルス治療の有効性を決定するのに用いることができるという知見は驚きであり、これは、(STAT1をコードする遺伝子などの)特定の遺伝子の発現はHCV感染と関連づけられていたが、上記および表2に列挙された遺伝子のほとんどは、IFN制御型遺伝子発現に、または治療がウイルス感染を処置するのに有効である可能性に関連しているとして同定されることは以前には決してなかったからである。さらに、これらの遺伝子のIFN活性との関連に関係なく、ISGの発現の増加が、その後のIFN処置に対する不良応答と関連することは全く予想されなかった。
【0033】
本発明者らは、その発現レベルが抗ウイルス治療の転帰(outcome)についての予後マーカーであり得る合計83個の異なる遺伝子を同定している。これらの遺伝子は、それらの機能に従って以下の5つの異なる群に区分されている:群(i)は細胞代謝に関与していると考えられる;群(ii)は細胞周期に関与していると考えられる;群(iii)は免疫応答に関与していると考えられる;群(iv)はシグナル伝達に関与していると考えられる;群(v)はそれぞれ、上記で示されたいかなる特定の群にも割り当てられない。この区分は、各遺伝子群由来の少なくとも1つの遺伝子の発現レベルが、被験体が抗ウイルス治療に応答性である可能性を決定するために評価される、本発明の方法に示されている。本発明者らはさらに、これらの遺伝子のサブセットが特別の価値を有し、かつそれらの各群の少なくとも1つのメンバーの発現レベルが分析される場合、その目的にとって有効であり得ることを見出している。
【0034】
本発明の方法は、上記に列挙された少なくとも5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、50個、55個、60個、65個、70個、71個、72個、73個、74個、75個、76個、77個、または78個の分析に基づいていることが好ましい。
【0035】
上記および表2または3に列挙された遺伝子の発現は、試料における遺伝子発現を表す標的分子の分析によって調べることができる。試料における標的分子の存在または非存在は、一般的に、適切なプローブ分子を用いて検出される。そのような検出は、遺伝子発現に関する情報を提供し、それによって、被験体試料に生じている遺伝子発現と対照試料に生じている発現との比較が可能になる。プローブは、一般的に、遺伝子発現を直接、または間接的に表す標的分子に特異的に結合する能力がある。その後、そのようなプローブの結合は、評価され、遺伝子発現と相関づけられて、被験体における遺伝子発現と対照における遺伝子発現との有効な予後比較を可能にする。
【0036】
「変化した発現」とは、上記で論じられているように、遺伝子発現が、対照と比較したとき、試料において上昇している場合、または低下している場合の両方を含む。
【0037】
逆に、「変化していない発現」とは、上記で論じられているように、遺伝子発現が、対照と比較したとき、試料において上昇も低下もしていない場合を含む。
【0038】
遺伝子発現が変化しているか、変化していないかの評価は、日常的な統計解析方法を用いて行うことができる。
【0039】
標的分子はペプチドまたはポリペプチドであり得る。ペプチドまたはポリペプチドの量は、特異的結合分子、例えば抗体を用いて決定することができる。好ましい例では、試料に存在する特定の標的タンパク質の量は、試料における標的タンパク質の生物活性を参照して評価してもよい。この様式での発現の評価および比較は、酵素活性を有するタンパク質標的の場合、特に適している。試料に存在するタンパク質標的の量の測定の適切な技術として、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、およびウェスタンブロッティングなどのアプタマーおよび抗体に基づいた技術が挙げられるが、それらに限定されない。
【0040】
核酸は、本発明の第3の態様による遺伝子発現を評価するための好ましい標的分子を代表する。
【0041】
本発明の目的のための「核酸」または「核酸分子」は、一本鎖かまたは二本鎖かのいずれかの形でのデオキシリボヌクレオチドポリマーまたはリボヌクレオチドポリマーを指すことは理解されているであろう。さらに、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、これらの用語は、天然に存在するヌクレオチドと類似した様式で機能することができる天然のヌクレオチドの既知の類似体を包含すると解釈されるべきである。
【0042】
さらに、本発明に従って用いるのに適した標的核酸は、「完全長」核酸(例えば、完全長遺伝子転写産物)を含む必要はなく、プローブ分子の特異的結合を可能にするのに十分な長さを含むことだけを必要とする。
【0043】
核酸標的分子がmRNA遺伝子転写産物およびそのような転写産物の人工産物であることが好ましい。遺伝子転写産物から生じる人工標的分子の好ましい例として、cDNAおよびcRNAが挙げられ、それらのいずれも、周知のプロトコールまたは市販されているキットもしくは試薬を用いて作製することができる。
【0044】
本発明の第1の態様の方法の好ましい実施形態において、適切な試料から採取された細胞を溶解するプロセス(Qiagen Ltd.製などの市販されている溶解緩衝液を用いて達成してもよい)、続いて(Qiagen Ltd.製のRNeasy midiスピンカラムなどの)市販されている核酸分子分離カラムを用いる可溶化液の遠心分離によって、RNA標的分子を単離するように試料を処理することができる。RNA抽出のための他の方法として、Chomczynski, P.およびSacchi, N.(1987) Analytical Biochemistry 162巻、156ページ、「Single Step Method of RNA Isolation by Acid Guanidinium Thiocyanate−Phenol−Chloroform Extraction」のフェノールおよびグアニジンイソチオシアネート方法のバリエーションが挙げられる。この様式で得られたRNAは、適切な標的分子自体を構成する場合もあり、または遺伝子発現を表す標的分子の産生のための鋳型としての役割を果たす場合もある。
【0045】
被験体試料または対照試料由来のRNAは、例えば、Superscript System(Invitrogen Corp.)を用いて、cDNA合成の基質として用いることが好ましい場合がある。その後、結果として生じたcDNAを、BioArray RNA Transcript labelling Kit(Enzo Life Sciences Inc.)を用いてビオチン化cRNAに変換し、このcRNAをRNeasyミニキット(Qiagen Ltd)を用いて反応混合液から精製してもよい。
【0046】
遺伝子発現を表すmRNAは、mRNAの抽出または精製の必要性なしに、被験体試料または対照試料由来の組織において直接測定できる。例えば、目的とする被験体試料または対照試料に存在し、かつそれらにおける遺伝子発現を表すmRNAを、そのような組織の適切に固定された切片または生検を用いて調べてもよい。この種の試料の使用は、発現の比較が行われる迅速性に関して有利である可能性があり、加えて、試料を作製するために用いることができる組織処理が比較的安価で簡単である。in situハイブリダイゼーション技術は、この種の組織試料において遺伝子発現を調べかつ比較することができる好ましい方法を代表する。被験体試料または対照試料における遺伝子発現を表すRNAの利用可能性を維持する、目的とする組織の処理のための技術は、当業者には周知である。
【0047】
しかしながら、被験体試料または対照試料における遺伝子発現を表すmRNAを抽出し、収集する技術もまた当業者に周知であり、本発明者らは、そのような技術が本発明に従って有利に用いることができることを見出している。被験体試料または対照試料由来の抽出されたmRNAを含む試料は、本発明の第3の態様の方法に用いるのに好ましい場合があるが、これは、そのような抽出物が、もとの組織を含む試料についての場合より容易に調べられる傾向にあるからである。例えば、遺伝子発現の比較を可能にする適切な標的分子は、被験体由来の組織の試料または対照組織の試料から単離された全RNAを含んでもよい。
【0048】
さらに、抽出されたRNAを容易に増幅して、被験体試料または対照試料における遺伝子発現に関する情報の増加を得ることが可能なmRNA試料の増大を生じさせることができる。mRNA集団の抽出および増幅の技術の適切な例は周知であり、下記でより詳細に考察されている。
【0049】
例として、本発明に従って用いるのに適した核酸標的を生じるための核酸の単離および精製の方法は、Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology:Hybridization With Nucleic Acid Probes, Part1、Theory and Nucleic Acid Preparation、P. Tijssen編、Elsevier、N.Y.(1993)の第3章に詳細に記載されている。
【0050】
好ましい方法において、全核酸は、実施例に記載された技術を用いて所与の試料から単離してもよい。
【0051】
遺伝子発現の調査および比較の前に核酸標的を増幅することが望ましい場合、試料の由来する被験体組織または対照組織において増幅された核酸の相対頻度について維持または調節する方法を用いることが好ましい可能性がある。
【0052】
「定量的」増幅の適切な方法は当業者に周知である。1つのよく知られた例である定量的PCRは、対照試料と被験体試料との間で量が変化しないことが知られている対照配列を同時に共増幅することを含む。これは、PCR反応を較正するために用いることができる内部標準を提供する。
【0053】
上記で概略を述べた方法に加えて、遺伝子転写産物特異的生成物の増幅をシグナルの発生へと結びつける任意のテクノロジーもまた定量化に適し得ることを当業者は認識しているであろう。好ましい例は、mRNAのcDNAへの最初の逆転写を組み込むことによって特定のmRNA転写産物の正確な定量化に適するようにさせている、ポリメラーゼ連鎖反応(US4683195およびUS4683202)への便利な改良を採用している。さらなる重要な改良によって、反応が進行する最中のリアルタイムでの蓄積PCR産物の測定が可能になる。
【0054】
多くの場合、関連する試料において(上記および表2に列挙された1つ以上の遺伝子を表す)標的分子の存在を示す能力があるプローブ分子を用いて被験体試料または対照試料における遺伝子発現の程度を評価することが好ましい可能性がある。
【0055】
本発明の方法で用いるプローブは、調べることになっている遺伝子発現の(直接的または間接的な)産物を参照して選択することができる。適切なプローブの例として、適切な特異性を有するオリゴヌクレオチドプローブ、抗体、アプタマー、および結合タンパク質または小分子が挙げられる。
【0056】
オリゴヌクレオチドプローブは、本発明の方法に従って用いるのに適した好ましいプローブを構成する。適切なオリゴヌクレオチドプローブの作製は当業者に周知である(Oligonucleotide synthesis: Methods and Applications、Piet Herdewijn編、Humana Press(2004))。オリゴヌクレオチドおよび修飾オリゴヌクレオチドは多数の会社から市販されている。
【0057】
本発明の目的のために、オリゴヌクレオチドプローブは、1つ以上の型の化学結合を通して相補的配列の核酸標的分子へ特異的にハイブリダイズする能力があるオリゴヌクレオチドを含むように選ぶことができる。そのような結合は、通常は相補的塩基対形成を通して、水素結合形成を通して通常行うことができる。適切なオリゴヌクレオチドプローブは、天然塩基(すなわち、A、G、C、またはT)または修飾塩基(7−デアザグアノシン、イノシンなど)を含んでもよい。加えて、ホスホジエステル結合以外の結合を、このバリエーションがオリゴヌクレオチドプローブのその標的へのハイブリダイゼーションに干渉しない限り、オリゴヌクレオチドプローブ(複数可)中の塩基を連結するのに用いてもよい。したがって、本発明の方法に用いるのに適したオリゴヌクレオチドプローブは、構成物の塩基がホスホジエステル結合よりむしろペプチド結合によって連結されているペプチド核酸であってもよい。
【0058】
本明細書に用いられる場合、語句「特異的にハイブリダイズする」とは、その配列が(全ての細胞DNAまたはRNAなどの)複雑な混合物中に存在する場合、オリゴヌクレオチドプローブのストリンジェントな条件下での優先的な特定の標的ヌクレオチド配列への結合、二本鎖形成、またはハイブリダイズを指す。一実施形態において、プローブは特定の標的分子にのみ結合し、二本鎖形成し、またはハイブリダイズすることができる。
【0059】
用語「ストリンジェントな条件」とは、プローブがその標的配列にハイブリダイズするが、他の配列へのハイブリダイズが最小限であるような条件を指す。いくつかの実施形態において、プローブは、ストリンジェントな条件下でその標的以外の配列にハイブリダイズすることができない。ストリジェントな条件は、配列依存的であり、異なる環境下では異なる。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。
【0060】
一般的に、ストリンジェントな条件は、規定されたイオン強度およびpHにおいて特定の配列についての熱融点(Tm)より約5℃低いように選択することができる。Tmは、標的核酸に相補的なオリゴヌクレオチドプローブの50%が標的核酸に平衡状態でハイブリダイズする温度(規定されたイオン強度、pH、および核酸濃度下における)である。標的核酸は一般的に、過剰に存在するため、Tmにおいて、プローブの50%が平衡状態で占有される。例として、ストリンジェントな条件は、短いプローブ(例えば、10〜50ヌクレオチド)について、塩濃度が、pH7.0〜8.3で少なくとも約0.01〜1.0M Naイオン濃度(または他の塩)であり、温度が少なくとも約30℃である条件である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加で達成してもよい。
【0061】
オリゴヌクレオチドプローブは、適切な代表試料において相補的核酸配列(すなわち、核酸標的)を検出するために用いることができる。そのような相補的結合は、オリゴヌクレオチドを、特定の遺伝子の発現を検出し、それによりそれらの比較を可能にするために用いることができる、たいていの技術の基礎を形成する。好ましいテクノロジーは、複数の遺伝子の発現の同時定量化を可能にし、それらには、定量的逆転写PCRテクノロジーなどの種(species)の増幅と定量化がリアルタイムに連動されているテクノロジー、ならびにアレイテクノロジーなどの増幅された種(species)の定量化を増幅後に行うテクロノジーが挙げられる。
【0062】
アレイテクノロジーは、各プローブが開示された遺伝子に優先的にハイブリダイズする複数のオリゴヌクレオチドプローブを用いる、被験体試料または対照試料内の遺伝子発現を表す試料のハイブリダイゼーションを含む。アレイテクノロジーは、例えば、それらの物理的な位置(例えば、Affymetrix Inc.によって商業的に提供されているような2次元アレイにおけるグリッド)、または別のフィーチャー(feature)(例えば、Illumina IncまたはLuminex Incによって商業的に提供されているような標識ビーズ)との結合によって、特定のオリゴヌクレオチド配列の一意的な同定を提供する。オリゴヌクレオチドアレイは、(例えば、Affymetrix Incによって商業的に提供されているような光照射合成によって)in situで合成してもよいし、またはあらかじめ形成して、(AgilentまたはApplied Biosystemsによって商業的に提供されているような)接触型テクノロジーもしくはインクジェットテクノロジーによってスポットしてもよい。(Clontechによって商業的に提供されているように)cDNA配列の全体または部分もまた、アレイテクノロジーのプローブとして機能し得ることは当業者にとって明らかであろう。
【0063】
オリゴヌクレオチドプローブは、(例えば、遺伝子発現を表すcDNAまたはmRNA標的分子によって)遺伝子発現を検出および比較するために、サザンブロッティングまたはノーザンブロッティングなどのブロッティング技術に用いることができる。サザンブロッティングまたはノーザンブロッティング技術に用いるのに適した技術および試薬は当業者によく知られているであろう。簡単に述べると、DNA(サザンブロッティングの場合)またはRNA(ノーザンブロッティングの場合)標的分子を含む試料が、アクリルアミドまたはアガロースなどの材料のゲルを浸透するそれらの能力に従って分離される。ゲルの浸透は、毛細管作用または電場の活性によって推進することができる。標的分子の分離が達成されたならば、これらの分子を、(例えば、ベーキングまたは紫外線照射によって)膜に固定化する前に薄膜(典型的にはナイロンまたはニトロセルロース)へ移動させる。その後、遺伝子発現を、膜に結合した標的分子へのオリゴヌクレオチドプローブのハイブリダイゼーションによって検出および比較することができる。
【0064】
特定の状況において、遺伝子発現を比較するための伝統的なハイブリダイゼーションプロトコールの使用が問題となる可能性がある。例えば、ブロッティング技術は、おおよそ同じ分子量の2つ以上の遺伝子産物の間を区別することが難しい可能性があり、そのような大きさが同じような産物はゲルを用いて分離することが困難であるためである。したがって、そのような状況においては、下記の技術などの代替技術を用いて遺伝子発現を比較することが好ましい場合がある。
【0065】
被験体における遺伝子発現を表す試料中の遺伝子発現は、高密度オリゴヌクレオチドアレイテクノロジーを用いて適切な核酸試料内の全体的な転写産物レベルに関して評価してもよい。そのようなテクノロジーは、オリゴヌクレオチドプローブが、例えば共有結合によって、固体支持体に繋ぎ止められているアレイを用いる。固体支持体に固定化されたオリゴヌクレオチドプローブのこれらのアレイは、遺伝子発現の比較のための本発明の方法およびキットに用いる好ましい構成要素と言える。多数のそのようなプローブをこのように付着させて、上記および表2に列挙された遺伝子から選択された多数の遺伝子の発現の比較に適したアレイを提供することができる。したがって、上記および表2に列挙された各遺伝子群から選択された1つより多い遺伝子の発現を比較することが望ましい本発明の方法の実施形態において、そのようなオリゴヌクレオチドアレイが特に好ましくあり得ることが認識されているであろう。
【0066】
遺伝子発現を表す核酸標的の比較に用いることができる他の適切な方法として、核酸配列に基づいた増幅(NASBA);またはローリングサークルDNA増幅(RCA)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0067】
プローブを容易に検出できるようにプローブを標識することが通常望ましい。本発明に従って用いるのに適したプローブまたは標的の標識化に用いることができる検出可能な部分の例として、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的、または化学的な手段によって検出可能な任意の組成物が挙げられる。適切な検出可能な部分として、様々な酵素、補欠分子団、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、放射性物質、および比色物質が挙げられる。これらの検出可能な部分は、反対であることが示されない限り、本発明の方法に用いることができる全ての型のプローブまたは標的における取込みに適している。
【0068】
適切な酵素の例として、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが挙げられる;適切な補欠分子団複合体の例として、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが挙げられる;適切な蛍光物質の例として、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル、フィコエリトリン、テキサスレッド、ローダミン、緑色蛍光タンパク質などが挙げられる;発光物質の例として、ルミノールが挙げられる;生物発光物質の例として、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、およびエクオリンが挙げられる;適切な放射性物質の例として、125I、131I、35S、H、14C、または32Pが挙げられる;適切な比色物質の例として、コロイド金、または着色ガラスもしくはプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)のビーズが挙げられる。
【0069】
そのような標識を検出する手段は当業者に周知である。例えば、放射標識は、写真フィルムまたはシンチレーションカウンターを用いて検出することができる;蛍光マーカーは、放射された光を検出する光検出器を用いて検出することができる。酵素標識は、典型的には、酵素に基質を与え、酵素の基質への作用によって生じる反応生成物を検出することによって検出することができ、比色標識は、着色した標識を単純に可視化することによって検出される。
【0070】
本発明の好ましい実施形態において、蛍光標識プローブまたは標的を、レーザー共焦点スキャナを用いて、スキャンして蛍光検出してもよい。
【0071】
標識核酸プローブまたは標的の場合、適切な標識化を行うのは、ハイブリダイゼーションの前でもハイブリダイゼーション中でもハイブリダイゼーションの後でもよい。好ましい実施形態において、本発明の方法に用いる核酸プローブまたは標的は、ハイブリダイゼーションの前に標識される。蛍光標識が特に好ましく、それが用いられる場合、核酸プローブのそれらの核酸標的へのハイブリダイゼーションの定量化は、ハイブリダイズした蛍光標識核酸からの蛍光の定量化による。定量化は、核酸に取り込まれたハプテンと結合する蛍光標識試薬からでもよい。
【0072】
本発明の好ましい実施形態において、ハイブリダイゼーションの分析は、Microarray Analysis Suite(Affymetrix Inc.)などの適切な分析ソフトウェアを用いて達成することができる。
【0073】
有効な定量化は、アレイの自動スキャニングを可能にする自動ステージを装着することができ、かつ蛍光強度情報の自動化された測定、記録、およびその後の処理のためのデータ収集システムを装備することができる蛍光顕微鏡を用いて達成してもよい。そのような自動化のための適切な配置は通常のことであり、当業者に周知である。
【0074】
好ましい実施形態において、ハイブリダイズした核酸は、核酸に付着した1つ以上の検出可能な部分を検出することによって検出される。検出可能な部分は、当業者に周知のいくつかの手段のいずれかによって取り込むことができる。しかしながら、好ましい実施形態において、そのような部分は、試料核酸(プローブまたは標的)の調製における増幅工程中に同時に取り込まれる。したがって、例えば、検出可能な部分で標識されたプライマーまたはヌクレオチドを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、前記部分で標識された増幅産物が供給されるであろう。好ましい実施形態において、蛍光標識ヌクレオチド(例えば、フルオレセイン標識UTPおよび/またはCTP)を用いる転写増幅は、転写された核酸へ標識を組み込む。
【0075】
あるいは、適切な検出可能な部分は、もとの核酸試料(例えば、目的とする組織由来のmRNA、ポリAmRNA、cDNAなど)に、またはもとの核酸の増幅が完了した後の増幅産物に直接付加してもよい。蛍光標識などの標識を核酸に付着させる手段は当業者によく知られており、例えば、ニックトランスレーション、または核酸のリン酸化(kinasing)、続いての、試料核酸に(適切なフルオロフォアなどの)標識を連結する核酸リンカーの付着(ライゲーション)による(例えば、標識RNAでの)末端標識が挙げられる。
【0076】
本発明の第1の態様の方法はヒト被験体に関連して用いるのに最も適しているが、それはまた、非ヒト動物(例えば、ウマ、イヌ、ネコ)においてウイルス感染の治療コースを決定するのにも有用であり得ることは理解されているであろう。
【0077】
本発明の別の方法は、肝臓のウイルス感染を有する被験体が、インターフェロン(IFN)活性の刺激を含む抗ウイルス治療に対して応答性である可能性を決定するための方法を含み、その方法は
(a)下記の表3に列挙された遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現について被験体由来の試料を分析する工程と、
(b)試料における遺伝子の発現を対照試料における同じ遺伝子の発現と比較する工程と
を含む。
【0078】
本方法の一実施形態において、対照試料における同じ遺伝子の発現と比較して変化した、試料における遺伝子の発現が、被験体が前記抗ウイルス治療に対して応答性である可能性が低いことを示している。
【0079】
本方法の別の実施形態において、対照試料における同じ遺伝子の発現と比較して変化していない、試料における遺伝子の発現が、被験体が前記抗ウイルス治療に対して応答性である可能性が高いことを示している。
【0080】
本発明のこの態様を実施するために用いる技術は、本発明の第1の態様に関連して上記に提供されている。特定の遺伝子は異なるが、当業者は、この方法に従って評価されるべき標的分子を同定することも、用いることができる特異的結合作用物質を同定することも理解し、それを行うことができるであろう。
【0081】
本発明者らは、IFN処置に良く応答する感染被験体と応答しない感染被験体との違いを調べる研究を拡大し、IFN誘導性Jak−STATシグナル伝達を調査した。
【0082】
IFNはインターフェロン受容体に結合し、Jak−STAT経路を活性化する。この活性化における中心的事象は、STAT1のリン酸化である。本発明者らは、pegIFNα2bで処置された場合、たいていの被験体において、STAT1リン酸化が誘導されることを見出した。しかしながら、STAT1リン酸化と、抗ウイルス治療における被験体のIFN処置に対する応答性との間に相関はないように思われた。しかしながら、本発明者らは、試料内を調べると、STAT1の位置に関して応答者と非応答者に違いがあることを見出して驚いた。STAT1は、核へ移行し、ISGのプロモーター内の特定の応答エレメントに二量体として結合することが知られている。全ての急速応答型被験体は、pegIFNα2bでの処置後、STAT1位置にIFN誘導性シフトを生じた。対照的に、非応答型被験体(すなわち、事前に活性化されたIFNシグナル伝達を有する被験体)は、検出可能なSTAT1シフトを生じなかった;むしろ、肝細胞の大部分はすでにかなりの核染色を有した。
【0083】
したがって、本発明の第2の態様によれば、肝臓のウイルス感染を有する被験体が、インターフェロン(IFN)活性の刺激を含む抗ウイルス治療に対して応答性である可能性を決定するための方法が提供され、その方法は、被験体由来の試料を調べて、STAT1の細胞内位置を同定する工程を含む。
【0084】
添付の実施例に示されているように、本発明者らは、肝臓細胞におけるSTAT1の位置が、インターフェロン(IFN)活性の刺激を含む抗ウイルス治療に対する被験体の応答性についての予後マーカーであることを決定している。そのデータにおいて、非RVR被験体(すなわち、抗ウイルス治療に対して非応答者)から採取された肝臓試料中の肝細胞の大部分が、抗ウイルス治療の前にすでにSTAT1のかなりの核染色を有したのに対して、RVR被験体由来の肝臓試料中の肝細胞は最小の核染色を有するだけであることが示されている。この全く予想されなかった知見は、当技術分野において開示も示唆もされていない。
【0085】
したがって、肝臓試料中の肝細胞の大部分がSTAT1についての核染色を有する場合には、その被験体は、インターフェロン(IFN)活性の刺激を含む抗ウイルス治療に対して非応答性である可能性が高い。逆に、肝臓試料中の最小数の肝細胞がSTAT1についての核染色を有する場合には、インターフェロン(IFN)活性の刺激を含む抗ウイルス治療に対して応答性である可能性が高い。
【0086】
いくつかの実施形態において、試料は肝臓試料である。またいくつかの実施形態において、方法は、肝細胞におけるSTAT1の細胞内位置を調べる。
【0087】
肝臓試料においてSTAT1タンパク質の位置を決定するための方法は当技術分野において日常的である。そのような方法の例は、市販されている抗STAT抗体または他の特異的結合実体を用いる標準免疫組織化学法である。添付された実施例は、肝臓試料においてSTAT1タンパク質の位置を決定するための詳細な方法を提供する。いくつかの実施形態において、本発明の方法において調べられるSTAT1タンパク質は、リン酸化STAT1である。
【0088】
「被験体」とは、本発明の第1の態様に関して上記で定義された被験体を含む。いくつかの実施形態において、被験体はヒトである。
【0089】
上記で示されているように、本発明は、pegIFNαでの治療前および治療中に慢性肝炎を有する患者の肝臓生検と末梢血単核細胞(PBMC)のペア試料において本発明者らがIFN誘導性シグナル伝達およびISG誘導を調べた研究に基づいている;これは添付された実施例でより詳細に記載されている。
【0090】
本発明者らは、内因性IFN系が多くの感染患者において常に活性化されていることを明らかにした。さらに、本発明者らは、事前に活性化されたIFN系を有する患者をIFN治療に対する不良応答と相関づけて驚いた。この知見は、直観と相容れないことであり、なぜなら、能動先天免疫系はIFNα治療中にウイルスを排除するように助けると予想されるからである。
【0091】
本発明者らは、肝臓生検においてISG発現を分析し、HCVが驚くべきことに内因性IFN系を誘導する(遮断しない)患者もあれば、HCVが内因性IFN系を誘導しない(TRIFおよび/またはCardifを切断することによる可能性がある)患者もあるのだが、この違いが慢性感染を維持するHCVの能力に全く影響を及ぼさないことをさらに結論づけた。
【0092】
IFN系を事前に活性化しない患者において、本発明者らは、pegIFNα2bが4時間以内に肝臓において多くのISGのロバストな(亜)最大上方制御(robust (sub-) maximal up-regulation)を誘導することを見出した。驚くべきことに、そのような高ISG発現レベルは、後になって4週間目で急速ウイルス陰性化を示さない患者の処置前生検にすでに存在していた。
【0093】
内因性IFN系の事前活性化は、HCV遺伝子型1(および4)に感染した患者の肝臓生検において、遺伝子型2または3に感染した患者のものよりも頻繁に見られることも見出した。これは興味そそることであり、なぜなら、遺伝子型2および3の感染は、遺伝子型1を有する患者の50%未満と比較して、患者の80%を超えて治癒し得ることはよく知られているからである。内因性IFN系の事前活性化の頻度および程度がHCV遺伝子型に依存するという本発明者らの知見によって、HCV遺伝子型の異なる処置感受性について説明がつく。
【0094】
本発明者らは、これらのデータから、HCVがIFNシグナル伝達に干渉し、それによって治療に対する応答を障害することが明らかにされることを理解した。さらに、HCVによるIFNαシグナル伝達の阻害は、なぜ内因性IFN系の強い事前活性化がHCVの自発的排除をもたらさないのかを説明している。本発明者らはいかなる仮説によっても縛られるつもりはないが、IFNαがHCVに感染している肝細胞において抗ウイルス状態を誘導しないことをこれが意味すると考える。多くの患者の肝臓で観察されるISGの上方制御は、その後、非感染肝細胞においてのみ起こるであろう。肝臓生検に見出されるISGの強い誘導は、そのようなモデルと矛盾せず、なぜなら、感染肝細胞より非感染肝細胞が多くあるからである。IFNβ産生は、Cardifおよび/またはTRIFの切断に成功していないウイルスに感染した肝細胞に生じるであろう。Jak−STAT経路のHCV誘導性阻害のため、分泌されたIFNβは、これらの感染した肝細胞において抗ウイルス状態を誘導せずに、感染していない隣接細胞においてのみ誘導するであろう。
【0095】
本発明者らは、HCVと免疫系との間の相互作用の新しい理解は、HCV感染などのウイルス感染についての処置レジメンの計画および選択に大いに関連性があることを理解した。したがって、ウイルス感染を処置する新規な手段を提供することが本発明の特定の実施形態の目的である。
【0096】
本発明の第3の態様によれば、肝臓のウイルス感染の予防または処置のためのIFN系の活性化を低下させる作用物質の使用が提供される。
【0097】
本発明の第4の態様によれば、肝臓のウイルス感染の予防または処置のための薬物の製造におけるIFN系の活性化を低下させる作用物質が提供される。
【0098】
上記および実施例で説明したように、本発明者らは、ウイルス感染を有する一部の被験体がIFN系の活性化(および関連したISGの上方制御)を生じ、これがその後のIFNでの抗ウイルス治療に対する不良応答に関連していると理解している。これは、そのような事前活性化を防ぐ、本発明の第3または第4の態様による作用物質が、IFN経路の活性を低下させるのに有用であり、かつIFNを利用するその後の抗ウイルス治療に対してより良く応答するように被験体を有効に「プライム」することの理解へと導く。当業者は被験体におけるIFN活性の増加がより良いウイルス排除(viral clearance)と関連しており、処置に対して応答が悪い被験体の一部とは関連していないと予想したであろうから、本発明者らはこれらの相関づけを行って驚いた。
【0099】
したがって、本発明の第3または第4の態様に従って用いられる作用物質を、(非感染対照の被験体と比較して)IFN系の活性化の増加も生じているウイルス感染を有する被験体を処置するために用いることが好ましい。
【0100】
「低下させる」とは、ISGの発現レベルが対照組織における発現レベルと有意には異ならないようにISGの刺激を低下させるのに作用物質が有効であることを意味する。
【0101】
作用物質は、B型肝炎ウイルス感染およびC型肝炎ウイルス感染を含む、肝臓のいくつかの異なるウイルス感染の処置に用いることができる。作用物質は、C型肝炎ウイルス(HCV)感染を予防し、または低下させるために用いられることが最も好ましい。
【0102】
本発明に従って用いることができる作用物質の例として、作用物質がIFNαポリペプチドに結合し、IFN機能活性を阻止することができる場合、例えば、抗体ならびにそれらの断片および誘導体(例えば、ドメイン抗体またはFab)が挙げられる。あるいは、作用物質は、IFNα受容体(例えば、IFNAR1、IFNAR2a、IFNAR2b、またはIFNAR2c)においてアンタゴニストとして作用することによってIFN系に対する競合的阻害剤として作用することができる。あるいは、作用物質は、IFN経路における酵素または他の分子を阻害することができる。あるいは、作用物質は、IFNαポリペプチドをコードするmRNAへ、そのmRNAの減少、およびそれに従って、IFNαポリペプチドの減少をもたらすような様式で結合することができる。あるいは、作用物質は、IFNαをコードする核酸配列へ、それがIFNαポリペプチドをコードする転写されるmRNAの量の低下をもたらすような様式で結合することができる。例えば、作用物質は、IFNα遺伝子のコード領域もしくは非コード領域へ、またはIFNのDNA5’もしくは3’へ結合し、それによってそのタンパク質の発現を低下させることができる。
【0103】
本発明の第3または第4の態様の作用物質が、IFNαポリペプチド、IFNα受容体、またはIFNαポリペプチドをコードする核酸に結合することが好ましい。
【0104】
いくつかの異なるヒトインターフェロンαポリペプチド配列がある。これらの配列のアラインメントは図8に示されている。このアラインメントから、以下のコンセンサス配列が決定されている。この情報を当業者が用いてIFNαポリペプチドに対する結合作用物質を開発することができる。
【0105】
作用物質がIFNαポリペプチドに結合する場合、作用物質が、天然型へと正しく折り畳まれているタンパク質によって規定されるエピトープに結合することが好ましい。種間およびまた遺伝子型間にいくつかの配列変動性があり得ることは認識されているであろう。したがって、他の好ましいエピトープは、遺伝子の変異体由来の等価の領域を含む。さらなるIFNポリペプチド由来の等価の領域は、上記の本発明の第1の態様に概要を示しているように、配列類似性と同一性のツール、およびデータベース検索方法を用いて同定することができる。
【0106】
作用物質がIFNαポリペプチドの保存領域またはその断片に結合することが最も好ましい。図8におけるIFNαポリペプチド配列のアラインメントからわかるように、異なるポリペプチド間で保存されているいくつかのアミノ酸配列領域がある。そのような保存領域の例は、その図に示された「コンセンサス」配列の位置161〜174であると考えられる。
【0107】
そのような領域に結合する作用物質は、IFNα活性に特に劇的な効果を生じ、それゆえにIFN系の事前活性化を阻止し、それによって抗ウイルス治療を受ける被験体からのHCVの排除を向上させるのに特に効果がある。
【0108】
作用物質がIFN受容体に結合する場合、作用物質がIFN受容体に結合し、IFNαのIFN受容体への結合を阻害することが好ましい。
【0109】
いくつかの異なるインターフェロン受容体がある。これらのアミノ酸配列は図9に示されている。この情報を当業者が用いて、IFN受容体ポリペプチドに対する結合作用物質を開発することができる。
【0110】
作用物質が、天然型へと正しく折り畳まれているIFN受容体タンパク質によって規定される受容体上のエピトープに結合することが好ましい。種間およびまた遺伝子型間にいくつかの配列変動性があり得ることは認識されているであろう。したがって、他の好ましいエピトープは、受容体遺伝子の変異体由来の等価の領域を含む。さらなるIFNポリペプチド由来の等価の領域は、上記の本発明の第1の態様に概要を示しているように、配列類似性と同一性のツール、およびデータベース検索方法を用いて同定することができる。
【0111】
本発明の第3または第4の態様の実施形態において、作用物質は抗体またはその断片である。
【0112】
ポリペプチド活性を調節するための作用物質としての抗体の使用はよく知られている。実際に、抗体に基づいた治療剤は、ますます薬に用いられつつある。上記で示したように、本発明者らは、抗体を用いて、IFN系をそれに結合することによって中和することができ、またはIFN受容体の阻害剤として作用することができることを理解した。したがって、そのような作用物質が、HCV感染の処置を向上させるための薬剤として大きな有用性があることは明らかである。さらに、そのような抗体は、上記の本発明のさらなる態様に示された予後的方法に用いることができる。
【0113】
ヒト被験体を処置するのに用いる抗体は、
(a)IFNαポリペプチドそれ自体もしくはIFNαポリペプチド由来のいくつかのペプチド、またはIFNαポリペプチドに見出されるアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を含むペプチド;または
(b)IFN受容体もしくはIFN受容体由来のいくつかのペプチド、またはIFN受容体に見出されるアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を含むペプチド
に対して産生することができる。
【0114】
抗体は、ヒトIFNαポリペプチド、ヒトIFN受容体、ならびにそれらのペプチド誘導体および断片由来の抗原構造に対して産生されることが好ましい。
【0115】
抗体は、抗原を動物へ注入することによってポリクローナル血清として産生してもよい。好ましいポリクローナル抗体は、当技術分野に公知の技術を用いて動物(例えば、ウサギ)に抗原(IFNαポリペプチドの全部または断片)を接種することによって産生することができる。
【0116】
あるいは、抗体は、モノクローナルであってもよい。通常のハイブリドーマ技術は、そのような抗体を産生するために用いることができる。本発明に用いるモノクローナル抗体を作製するために用いられる抗原は、ポリクローナル血清を作製するために用いられるのと同じであってもよい。
【0117】
最も単純な形において、抗体または免疫グロブリンタンパク質は、γ−免疫グロブリン(IgG)クラスの抗体によって通常例示されるY形分子である。分子は、それぞれ約50kDと25kDの2つの同一の重(H)鎖と2つの同一の軽(L)鎖の4つのポリペプチド鎖からなる。各軽鎖は、ジスルフィド結合および非共有結合によって重鎖に結合している(H−L)。2つの同一のH−L鎖組合せは、2つのH鎖間の同様の非共有結合およびジスルフィド結合によってお互いに連結され、基本的な4つの鎖の免疫グロブリン構造(H−L)を形成している。
【0118】
軽鎖免疫グロブリンは、1つのVドメイン(V)および1つの定常ドメイン(C)で構成され、一方、重鎖は、1つのVドメイン、およびH鎖アイソタイプに依存して、3つまたは4つのCドメイン(C1、C2、C3、およびC4)からなる。
【0119】
各軽鎖または重鎖のN末端領域には、配列の点で大きく異なり、かつ抗原への特異的結合に関与する可変(V)ドメインがある。抗原についての抗体特異性は、実際には、超可変ループまたは相補性決定領域(CDR)として知られたV領域内のアミノ酸配列によって決定される。各H鎖およびL鎖のV領域は、3つのそのようなCDRを有し、抗体の抗原結合部位を形成するのが、全6つの組合せである。あまり変異を示さず、かつ超可変ループを支える残りのV領域アミノ酸は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。
【0120】
可変ドメインを超えた領域(Cドメイン)は、配列の点では比較的不変である。本発明による抗体の特徴的なフィーチャー(characterising feature)は、VおよびVのドメインであることが認識されているであろう。CドメインおよびCドメインの正確な性質は、全体的に見ると、本発明にとって重大な意味をもたないことがさらに認識されているであろう。実際、本発明に用いる好ましい抗体は、非常に異なるCドメインおよびCドメインを有してもよい。さらに、下記でより十分に論じているように、好ましい抗体機能性誘導体は、Cドメインなしで可変ドメインを含んでもよい(例えば、scFv抗体)。
【0121】
本発明の第3または第4の態様による作用物質であると考えられる好ましい抗体は、Vドメイン(第1ドメイン)およびVドメイン(第2ドメイン)を有してもよい。それらの誘導体は、75%配列同一性、例えば、90%配列同一性、または少なくとも95%配列同一性を有し得る。ほとんどの配列変異はフレームワーク領域(FR)に生じてもよいが、抗体およびそれらの機能性誘導体のCDRの配列はほとんど保存されているべきである。
【0122】
本発明の第3または第4の態様の作用物質のいくつかの好ましい実施形態は、可変ドメインと定常ドメインの両方を有する分子に関する。しかしながら、本質的に、少しの定常領域も含まず、抗体の可変領域を含む抗体断片(例えば、scFV抗体またはFAb)もまた、本発明に包含されることが認識される。
【0123】
本発明の第3または第4の態様の作用物質であると考えられるscFV抗体断片は、IFNポリペプチドに対して産生された抗体のVドメインおよびVドメインの全体を含んでもよい。VドメインとVドメインは、適切なリンカーペプチドによって分離していてもよい。
【0124】
1つの種において作製された抗体、特にmAbは、異なる種を処置するのに用いられる場合、いくつかの重篤な欠点を有することが知られている。例えば、マウス抗体がヒトに用いられる場合、それらは、血清中循環半減期が短い傾向にあり、処置されることになっている患者の免疫系によって外来タンパク質として認識され得る。これは、望ましくないヒト抗マウス抗体(HAMA)応答の発生を引き起こす可能性がある。これは、抗体の頻繁な投与が必要とされる場合、それが抗体の排除を促進し、その治療効果を遮断し、過敏症反応を誘発し得るため、特に問題となる。これらの因子は、ヒト治療におけるマウスモノクローナル抗体の使用を制限し、ヒト化抗体を作製する抗体操作テクノロジーの開発を促している。
【0125】
それゆえに、IFN活性を低下させる能力がある抗体が、ヒト被験体においてHCV感染を処置するための治療剤として用いられることになっている場合、非ヒト源の抗体およびそれらの断片はヒト化されることが好ましい。
【0126】
ヒト化は、(例えば、非ヒトハイブリドーマで作製されたモノクローナル抗体由来の)V領域配列をヒト抗体由来のC領域(および理想的には、V領域由来のFR)配列とスプライシングすることによって達成することができる。その結果として生じた「操作された」抗体は、それらが由来している非ヒト抗体よりもヒトにおいて免疫原性が少なく、それゆえ、臨床用途により良く適している。
【0127】
ヒト化抗体は、組換えDNAテクロノジーを用いて齧歯類免疫グロブリン定常領域がヒト抗体の定常領域に置き換えられているキメラモノクローナル抗体であってもよい。その後、キメラH鎖およびL鎖遺伝子は、適切な制御エレメントを含む発現ベクターへクローン化し、完全にグリコシル化された抗体を産生するために哺乳類細胞へ導入することができる。このプロセスのために適切なヒトH鎖C領域遺伝子を選択することによって、抗体の生物活性をあらかじめ決定することができる。そのようなキメラ抗体は、本発明に従って癌を処置または予防するために用いることができる。
【0128】
抗体のさらなるヒト化は、抗体のCDRグラフトまたは再形成(reshaping)を含めてもよい。そのような抗体は、(抗体の抗原結合部位を形成する)非ヒト抗体の重鎖CDRおよび軽鎖CDRをヒト抗体の対応するフレームワーク領域へ移植することによって作製される。
【0129】
ヒト化抗体断片は、本発明に従って用いる好ましい作用物質と言える。IFNαポリペプチドまたはIFN受容体上のエピトープを認識するヒトFAbは、可変鎖ヒト抗体のファージライブラリーをスクリーニングすることによって同定することができる。(例えば、MorphosysまたはCambridge Antibody Technologyによって開発されたような)当技術分野に公知の技術を用いて、本発明による作用物質として用いることができるFabを作製することができる。簡単に述べると、ヒトコンビナトリアルFab抗体ライブラリーは、一本鎖Fvライブラリー由来の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をFabディスプレイベクターへ移入することによって作製することができる。このライブラリーは、2.1×1010個の異なる抗体断片を生じ得る。その後、ペプチドは、所望の結合性質を有する抗体断片をライブラリーから同定するための「ベイト(bait)」として用いることができる。
【0130】
ドメイン抗体(dAb)は、本発明のこの実施形態に従って用いることができるもう1つの好ましい作用物質と言える。dAbは、抗体の最小の機能性結合単位であり、ヒト抗体の重鎖または軽鎖のいずれかの可変領域に対応する。そのようなdAbは、約13kDa(完全抗体のサイズの約1/10(またはそれ未満)に相当)の分子量を有し得る。
【0131】
本発明の第3および第4の態様の別の実施形態によれば、ペプチドはIFNαポリペプチド活性を低下させるために用いることができる。そのようなペプチドは、本発明に従って用いる他の好ましい作用物質と言える。これらのペプチドは、例えば、ペプチドのライブラリーから、ライブラリーのどのメンバーがIFNαポリペプチドの活性または発現を低下させることができるかを同定することによって単離することができる。適切なライブラリーは、ファージディスプレイ技術を用いて作製することができる。
【0132】
アプタマーは、本発明の第3または第4の態様のもう1つの好ましい作用物質と言える。アプタマーは、特定の配列依存的形をとり、アプタマーとリガンドの間の鍵と鍵穴の適合に基づいた特異的な標的リガンドに結合する核酸分子である。典型的には、アプタマーは、一本鎖もしくは二本鎖DNA分子(ssDNAまたはdsDNA)、または一本鎖RNA分子(ssRNA)のいずれかを含み得る。アプタマーは、核酸標的および非核酸標的のどちらと結合するのにも用いることができる。したがって、IFNαを認識し、その活性または発現を低下させるアプタマーを作製することができる。適切なアプタマーは、ランダム配列プールから選択してもよく、そこから、選択された標的分子に高親和性で結合する特異的なアプタマーを同定することができる。
【0133】
所望の特異性を有するアプタマーの作製および選択のための方法は、当業者によく知られており、SELEX(指数関数的濃縮(exponential enrichment)によるリガンドの系統的進化法(systematic evolution))プロセスが挙げられる。簡単に述べると、オリゴヌクレオチドの大きなライブラリーを作製し、in vitro選択の反復プロセスによって大量の機能性核酸の単離、続いて、ポリメラーゼ連鎖反応による増幅を可能にする。
【0134】
アンチセンス分子は、本発明の第3または第4の態様に従って用いるもう1つの好ましい作用物質と言える。アンチセンス分子は、典型的には、一本鎖核酸であり、遺伝子によって産生された相補的核酸配列に特異的に結合し、それを不活性化し、有効にその遺伝子を「オフ」にすることができる。当業者は認識していることであるが、その分子は、それが、「センス」配列と呼ばれる遺伝子のmRNAに相補的であるため、「アンチセンス」と名付けられている。アンチセンス分子は、典型的には、長さが15〜35塩基のDNA、RNA、または化学的類似体である。アンチセンス核酸は、特定の遺伝子のmRNAに結合し、その発現を阻止するために実験的に用いられている。これは、癌、糖尿病、および炎症性疾患の処置のための薬物として「アンチセンス治療」の開発に繋がっている。アンチセンス薬物は、ヒト治療的使用としてUS FDAによって最近、認可された。したがって、IFNポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列に対するアンチセンス分子を設計することによって、細胞におけるIFNαポリペプチドの発現を低下させ、それによって、IFNα活性を低下させ、HCV感染に見られる事前活性化を低下させることが可能であろう。IFNαポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、図8に提供されている。
【0135】
ときに短い干渉RNAまたはサイレンシングRNAとして知られている、小さな干渉RNA(siRNA)は、本発明の第3または第4の態様に従って用いるさらなる好ましい作用物質と言える。上記で示されているように、本発明者らは、IFN系の事前活性化が抗ウイルス治療に対する抵抗性と関連していることを理解した。したがって、IFNα発現を低下させることができるsiRNA分子は、HCV感染の処置のための薬剤の調製において大きな有用性があることは明らかである。20〜25ヌクレオチド長クラスのRNA分子であるsiRNAは、RNA干渉経路(RNAi)に関与し、それによって、siRNAは特定の遺伝子の発現の低下を引き起こすことができ、または具体的には、そのようなmRNAの翻訳に干渉し、それによって、そのmRNAによってコードされたタンパク質の発現を阻害することができる。siRNAは、いずれかの末端上に2ヌクレオチドの3’オーバーハングを有する短い(通常、21ヌクレオチド)二本鎖のRNA(dsRNA)という、詳細に明らかにされた構造を有する。各鎖は、5’リン酸基および3’ヒドロキシル(−OH)基を有する。in vivoでこの構造は、長いdsRNAかまたはヘアピンRNAのいずれかをsiRNAへ変換する酵素であるダイサーによるプロセシングの結果である。siRNAはまた、様々なトランスフェクション方法によって外因的に(人為的に)細胞に導入し、目的とする遺伝子の特異的ノックダウンを引き起こすことができる。本質的に、配列が知られているいかなる遺伝子もこのように、適切に合わせて作製されたsiRNA(tailored siRNA)との配列相補性に基づいて標的にすることができる。目的とする本質的にいかなる遺伝子もノックダウンする能力を考えると、siRNAによるRNAiは、基本生物学および応用生物学の両方において大きな関心を生み出している。様々な生物学的経路における重要な遺伝子を同定するように設計される大規模RNAiスクリーニングの数が増加している。疾患プロセスもまた多数の遺伝子の活性に依存しているため、いくつかの状況において、遺伝子の活性をsiRNAでオフにすることは治療的利益を生じ得ることは予想される。したがって、それらの知見は、生物医学研究および薬物開発のためにRNAiを利用することへの関心の高まりを引き起こしている。治療的RNAi治験の最近の第I相の結果により、siRNAが耐容性が良く、かつ適切な薬物動態学的性質を有することが実証されている。したがって、siRNAおよび関連のRNAi導入方法は、予見できる将来において重要な新しいクラスの薬物になりそうな気配である。IFNαポリペプチドをコードする核酸へと設計されたsiRNA分子は、IFNαの発現を低下させ、それに従って、IFN系の事前活性化の低下をもたらすために用いることができる。したがって、本発明のこの態様の実施形態において、作用物質はIFNαポリヌクレオチドに対する相補的配列を有するsiRNA分子である。
【0136】
IFNαポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は図8に提供されている。
【0137】
そのような情報を用いて、IFNαポリヌクレオチドに対する相補的配列を有するsiRNA分子を設計することは、単純で、かつ十分当業者が対応できる範囲内である。例えば、簡単なインターネット検索によって、siRNA分子を設計するために用いることができる多数のウェブサイトが得られる。
【0138】
「siRNA分子」とは、siRNA分子を構成するその2つの一本鎖RNAのそれぞれに加えて、二本鎖の20〜25ヌクレオチド長RNA分子も含む。
【0139】
siRNAはヘアピンRNA(shRNA)の形で用いられることが最も好ましい。そのようなshRNAは、(例えば、約9ヌクレオチドの)スペーサー配列によって連結される2つの相補的siRNA分子を含み得る。相補的siRNA分子は、それらが共に結合するように折り畳み得る。
【0140】
IFNαポリペプチドをコードするRNAまたはDNAを切断する能力があるリボザイムは、本発明の第3または第4の態様のもう1つの好ましい作用物質と言える。
【0141】
本発明の第3または第4の態様の作用物質は、処置されることになっている被験体においてIFN系の活性化を低下させることができるが、被験体に与えられたその後の抗ウイルス治療の活性を低下させることはできないことが好ましい。
【0142】
例えば、本発明の第3または第4の態様の作用物質が抗体またはその断片である場合、作用物質は、内因性IFNαポリペプチドと結合し、その活性を低下させることができるが、外因的に供給されたIFNαポリペプチドについてはできないことが好ましい。当技術分野において日常的な方法、および本発明のこの態様においてあらかじめ提供される情報を用いて、そのような抗体を得ることは可能である。
【0143】
本発明により必要とされる作用物質の量は、生物活性および生物学的利用率によって決定され、それらがまた投与様式および作用物質の物理化学的性質に依存している。投与頻度もまた、上記の因子、および特に、標的組織または処置されることになっている被験体内での作用物質の半減期によって影響されるであろう。
【0144】
製薬産業に通常利用されるものなどの公知の手順(例えば、in vivo実験、臨床試験など)を用いて、作用物質の特定の製剤および正確な(1日用量および投与頻度などの)治療レジメンを確立することができる。
【0145】
一般的に、作用物質の0.01μg/kg体重〜0.1g/kg体重の1日用量が、HCV感染を処置するための処置レジメンに用いることができる;例えば、1日用量は、0.01mg/kg体重〜100mg/kg体重である。
【0146】
例として、本発明による抗体の適切な用量は、10μg/kg体重〜100mg/kg体重、例えば、約01mg/kg体重〜10mg/kg体重、いくつかの実施形態においては、約6mg/kg体重である。
【0147】
1日用量は単回投与(例えば、単回の連日注射または吸入器からの単一用量)として与えてもよい。あるいは、作用物質(例えば、抗体またはアプタマー)は1日に2回またはそれ以上の回数での投与を必要とする場合もある。
【0148】
本発明による薬剤は、治療有効量の作用物質および医薬的に許容されるビヒクルを含むべきである。
【0149】
「治療有効量」は、被験体に投与された場合、癌の増殖または転移を阻害または予防する、本発明による作用物質の任意の量である。
【0150】
「被験体」は、脊椎動物、哺乳動物、家畜、またはヒトであってもよい。処置されることになっている被験体はヒトであることが好ましい。この場合、作用物質は、ヒト治療に最も適しているように設計してもよい(例えば、上記で論じられているように、抗体のヒト化)。しかしながら、獣医学で目的とする他の動物(例えば、ウマ、イヌ、またはネコ)を処置するために作用物質を用いてもよいことは理解され得ることであろう。
【0151】
本明細書で言及される場合、「医薬的に許容されるビヒクル」は、医薬組成物を製剤化するのに有用であるとして当業者に知られている任意の生理学的ビヒクルである。
【0152】
一実施形態において、薬剤は、約0.01μg〜0.5gの作用物質を含んでもよい。組成物における作用物質の量は、0.01mg〜200mg、例えば、約0.1mg〜100mg、または約1mg〜10mgであり得る。したがって、組成物は、約2mg〜5mgの作用物質を含み得る。
【0153】
いくつかの実施形態において、薬剤は、約0.1%(w/w)〜90%(w/w)の作用物質、いくつかの実施形態においては、1%(w/w)〜10%(w/w)を含む。組成物の残りの部分はビヒクルを含んでもよい。
【0154】
核酸作用物質は、リポソーム内への取込みによって被験体に送達することができる。あるいは、「裸の」DNA分子を、適切な手段、例えば、直接的エンドサイトーシス摂取によって被験体の細胞へ挿入してもよい。核酸分子は、トランスフェクション、感染、マイクロインジェクション、細胞融合、プロトプラスト融合、または弾道的衝撃(ballistic bombardment)によって、処置されることになっている被験体の細胞へ導入することができる。例えば、導入(transfer)は、コーティングされた金粒子での弾道的トランスフェクション、DNA分子を含むリポソーム、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス)、およびDNA分子の標的組織へ直接の局所適用または注射による直接的DNA摂取(例えば、エンドサイトーシス)を提供する手段によることができる。
【0155】
抗体またはその機能性誘導体はいくつかの方法で用いることができる。例えば、全身投与が必要とされる場合、抗体またはその誘導体は、例えば、錠剤、カプセル、または液体の形で経口で摂取することができる組成物内に含めることができる。抗体またはその誘導体が、血流への注射によって投与されることが好ましい。注射は、静脈内(ボーラスまたは点滴)または皮下(ボーラスまたは点滴)であってもよい。あるいは、抗体は肝臓へ直接、注射してもよい。
【0156】
核酸またはポリペプチドの治療用実体は、特に、組成物が用いられることになっている様式に依存する、いくつかの異なる形を有する医薬組成物中で組み合わせてもよい。したがって、例えば、組成物は、粉末、錠剤、カプセル、液体、軟膏、クリーム、ゲル、ハイドロゲル、エアロゾル、スプレー、ミセル、経皮パッチ、リポソームの形、またはヒトもしくは動物に投与することができる任意の他の適切な形をとることができる。本発明の組成物のビヒクルは、それが与えられる被験体によって十分許容され、かつ標的の細胞、組織、または器官への治療用物質の送達を可能にすることができるものであるべきことは認識されているであろう。
【0157】
好ましい実施形態において、医薬的ビヒクルは液体であり、医薬組成物は溶液の形をとる。別の実施形態において、医薬的ビヒクルはゲルであり、組成物はクリームなどの形をとる。
【0158】
そのような治療用実体を含む組成物はいくつかの方法で用いることができる。例えば、全身投与が必要とされる場合、実体は、例えば、錠剤、カプセル、または液体の形で経口で摂取することができる組成物内に含めることができる。あるいは、組成物は、血流への注射によって投与することができる。注射は、静脈内(ボーラスまたは点滴)または皮下(ボーラスまたは点滴)であってもよい。実体は吸入によって(例えば、鼻腔内に)投与してもよい。
【0159】
治療用実体はまた、徐放性または遅延放出性デバイス内に組み込んでもよい。そのようなデバイスは、例えば、皮膚の上または下に挿入することができ、化合物は、数週間またはさらに数カ月間かけて放出され得る。そのようなデバイスは、実体での長期間処置が必要とされ、かつそれが通常、頻回の投与(例えば、少なくとも連日注射)を必要とするだろう場合、特に有利であり得る。
【0160】
本発明の第1の態様の作用物質は、IFN(例えば、pegIFN)およびリバビリンなどの抗ウイルス剤を用いる抗ウイルス治療での処置を受けようとしている患者を前処置するのに特に有用である。それゆえに、作用物質はウイルス感染した個体にIFNおよびリバビリンでの治療が開始される前に投与することが好ましい。
【0161】
本発明の第3および第4の態様に関して定義された作用物質での前処置と抗ウイルス治療との間の時間の長さは、用いられる作用物質に依存し得る。例えば、作用物質が処置されることになっている被験体におけるIFN系の活性化を低下させることができるが、被験体に与えられるその後の抗ウイルス治療の活性を低下させることはできない場合、時間の長さは、非常に短くあり得る。例えば、被験体は、同時に、または併用処置レジメンでも処置することができる。
【0162】
作用物質を区別していない(not distinguishing)場合には、時間の長さは作用物質の性質に依存し得る。例えば、外因的に供給された抗体は、ヒト身体から排除されるために約4〜6週間かかることが知られている。したがって、作用物質がIFNαポリペプチドもしくは受容体、またはIFN系の他のそのようなメンバーに対する抗体である場合、その後の抗ウイルス治療は、患者に4〜6週間後、例えば、少なくとも6週間後、供給することができる。
【0163】
技術者が本発明の第1の態様の方法を実施するために必要とされる様々な要素は、キットの中へ組み込んでもよい。
【0164】
したがって、本発明の第5の態様によれば、肝臓のウイルス感染を有する被験体がインターフェロン(IFN)活性の刺激を含む抗ウイルス治療に対して応答性である可能性を決定するためのキットであって、
(i)上記に列挙され、および表2に示された各遺伝子群の少なくとも1つの遺伝子の発現を被験体由来の試料において分析するための手段と、任意で
(ii)試料における遺伝子の発現を対照試料における同じ遺伝子の発現と比較するための手段と
を含むキットが提供される。
【0165】
「上記に列挙され、および表2に示された各遺伝子群の少なくとも1つの遺伝子の発現を被験体由来の試料において分析するための手段」とは、試料における遺伝子発現を表す分子を標的にすることができる、本発明の第1の態様において示した特異的結合分子を含む。いくつかの実施形態において、特異的結合分子はオリゴヌクレオチドプローブ、抗体、アプタマー、または上記で述べた結合タンパク質もしくは小分子である。
【0166】
「試料における遺伝子の発現を対照試料における同じ遺伝子の発現と比較するための手段」とは、上記の本発明の第1の態様において述べた対照試料を含める。そこに述べられた対照参照データも含む。
【0167】
本発明の第5の態様のキットはまた、
(iii)前記遺伝子の発現を分析するための適切な緩衝液および試薬
を含んでもよい。
【0168】
キットで提供される緩衝液および試薬は、液体の形をとってもよく、いくつかの実施形態において、あらかじめ測定されたアリコートとして提供されてもよい。あるいは、緩衝液および試薬は、希釈のために濃縮された形(またはさらに粉末の形)でもよい。
【0169】
技術者が本発明の第2の態様の方法を実施するのに必要とされる様々な要素はキットへと組み込んでもよい。
【0170】
したがって、本発明の第6の態様によれば、肝臓のウイルス感染を有する被験体がインターフェロン活性(IFN)の刺激を含む抗ウイルス治療に対して応答性である可能性を決定するためのキットであって、被験体由来の試料を調べてSTAT1の細胞内位置を同定するための手段を含むキットが提供される。
【0171】
「被験体由来の試料を調べてSTAT1の細胞内位置を同定するための手段」とは、STAT1の細胞内位置を同定することができる、本発明の第2の態様において示した特異的結合分子を含む。いくつかの実施形態において、前記特異的結合分子は、抗STAT抗体;いくつかの実施形態において、抗リン酸化STAT1抗体である。
【0172】
本発明の第6の態様のキットはまた、
(iii)STAT1の細胞内位置を同定するための適切な緩衝液および試薬
を含む。
【0173】
キットで提供される緩衝液および試薬は、液体の形をとってもよく、いくつかの実施形態において、あらかじめ測定されたアリコートとして提供されてもよい。あるいは、緩衝液および試薬は、希釈のために濃縮された形(またはさらに粉末の形)でもよい。
【0174】
(任意の添付された特許請求の範囲、要約、および図面を含む)本明細書に記載された特徴の全ておよび/またはそのように開示された任意の方法もしくはプロセスの工程の全ては、そのような特徴および/または工程の少なくとも一部が相互排他的である組合せを除き、上記態様のいずれとも任意の組合せで組み合わせてもよい。
【0175】
これから、以下の実施例および図を参照して本発明をさらに記載する。
【0176】
[図1 肝臓およびPBMCにおける遺伝子発現のpegIFN−α2b誘導性制御]
(A)急速応答者は、非RR患者より、pegIFN−α2bに応答して肝臓において有意により多い遺伝子を上方制御または下方制御する。肝臓生検およびPBMCにおける75%を超える患者で有意水準p<0.01(レーン1、2、5、および6)およびp<0.05(レーン3、4、7、および8)で2倍より大きく変化した遺伝子の平均(+SEM)数が示されている。RR患者群と非RR患者群との差は、肝臓生検において有意であったが、PBMCにおいては有意ではなかった(図ではマンホイットニー検定のp値が示されている)。
(B)6つの非RR生検試料および6つのランダムに選択されたRR生検試料の50%より多くにおける、pegIFN−αに応答して2倍を超えて有意(p<0.05)に上方制御または下方制御された遺伝子のベン図。
(C)6人のランダムに選択されたRR患者の50%より多くの生検およびPBMC試料における、pegIFN−αに応答して2倍を超えて有意(p<0.05)に上方制御または下方制御された遺伝子のベン図。
【0177】
[図2 HCV感染患者におけるpegIFNα2b誘導性遺伝子制御は、RVR患者の肝臓と非RVR患者の肝臓との間、および肝臓とPBMCとの間に大きな違いを示す]
(A)5つのISG(Mx1、ビペリン、Mda5/ヘリカード、OAS1、USP18)が、RR患者においてB−1とB−2との間で2倍を超えて有意(p<0.05)に制御された遺伝子のリストから選択された。非RR患者の肝臓において、これらの遺伝子の発現は処置前(レーン25〜30)にすでに高く、pegIFNα後(レーン31〜36)、さらには増加しなかった。RR患者において、処置前発現(レーン15〜14)は対照(レーン1〜4)と類似しており、pegIFNαは強い上方制御を誘導する(レーン15〜24)。RR患者および非RR患者の両方において、PBMC(レーン37〜46および57〜62)では事前活性化は見出されず、pegIFNαは、これらの遺伝子を強く誘導する(レーン47〜56および63〜68)。y軸は絶対発現値を示す。
(B)RR患者および非RR患者の両方における、pegIFN−α2bに応答して肝臓で上方制御された遺伝子(CCL8)の例。PBMCにおける発現値はレーン37〜68に示されている。
【0178】
[図3 選択されたISGおよびPP2Aの触媒サブユニットのRT−qPCR分析]
(A)USP18 mRNAのRT−qPCR分析はアレイデータを裏付けている。個々の患者におけるB−1とB−2の間でのUSP18 mRNAの倍数誘導(fold induction)が示されている。
(B)処置前生検における選択されたISGの発現レベルは、初期非応答(PNR=12週間目での2log未満のウイルス量の降下)を示す患者においてより早期ウイルス陰性化(EVR=12週間目での2logを超えるウイルス量の降下)を示す患者において低い。
(C)遺伝子型1および4を有する患者群(治療が「困難」)内ならびに遺伝子型2および3を有する群(治療が「容易」)内の両方において、PNR患者は、USP18およびIFI127の高い処置前発現レベルを有する。
パネルBおよびCにおいて、y軸は、GAPDHの発現に対する発現を示す。統計的有意性をマンホイットニー検定で検定した。N=各群における患者数。
(D)持続性ウイルス陰性化(SVR=処置終了から6カ月後検出不可能なHCV RNA)または処置終了時応答(EoTR)を有する患者は、PNRを有するまたはEoTRをもたない患者においてよりUSP18およびIFI27の有意に低い発現を示す。
【0179】
[図4 肝臓生検におけるJak−STATシグナル伝達の分析]
(A)pegIFNα2b注射前(B−1)および注射後(B−2)に収集された肝臓生検の抽出物におけるSTAT1リン酸化。抽出物を、PY(701)−STAT1に特異的な抗体を用いてウェスタンブロットにより分析した。シグナルを、積分強度を計算するOdysseyイメージングソフトウェアを用いて定量化した(キロカウント×mm)。値は、B−2試料におけるリン酸化の倍数増加を表す。RR患者番号は青色で、非RR患者は赤色で示されている。ブロットを切り取り、試料の各ペアのローディング対照として用いられる全STAT1について再調査(reprobe)した。
(B)RR患者および非RR患者のB−1およびB−2の代表例。RR患者(患者4番)の処置前生検において明らかな核染色はない。核の薄青色はヘマトキシリンでの対比染色から生じている。pegIFNαから4時間後、たいていの肝細胞は強い核染色を示す。非RR患者(患者12番)において、処置前生検において弱い核染色がすでに存在しており、pegIFNαは肝細胞においてほとんど変化を引き起こさない。明らかな核染色の増加はクッパー細胞に限局している。
【0180】
[図5 全ての患者の生検試料における遺伝子発現の主なパターンはヒートマップとして示されている]
<0.05のp値を有する全RRの50%より多くにおいて2倍より大きく変化している252個の遺伝子のリストを用いてマップを作成した。生発現値の色コード化は左側に示されている。多くの遺伝子は、対照患者、およびRR患者の処置前生検(B−1)において低い発現レベルを有する。RR患者において、pegIFNαは上方制御を誘導する(B−2)。非RR患者において遺伝子の大部分は、処置前生検試料(B−1)においてすでに強く誘導されており、それから、pegIFNα後(B−2)、さらなる誘導は見出されない。
【0181】
[図6 分類基準として4週間目での処置に対する応答を用いる肝臓生検試料およびPBMCにおける教師あり分類予測(supervised classifier prediction)]
(A)2つの応答群のB−1生検を用いる教師あり分類予測により、4.3%の誤分類率をもつ処置の転帰の最良の予測因子として29個の遺伝子(33個の転写産物)のリストがもたらされた。
(B)2つの応答群のB−2生検を用いる教師あり分類予測により、19.5%の誤分類率をもつ処置の転帰の最良の予測因子として16個の遺伝子(16個の転写産物)のリストが明らかにされた。
(CおよびD)PBMC−1およびPBMC−2試料の教師あり分類予測によっては、用いられた4つの統計的検定(サポートベクターマシン、スパース線形判別分析、フィッシャー線形判別分析、K近傍法)のいずれを用いても予測遺伝子の有用なリストは作成されなかった。誤分類率は、PBMC−1について38.5%、PBMC−2について42.6%であった。
【0182】
[図7]
(A)肝臓生検におけるリン酸化STAT1の免疫組織化学的染色の半定量的評価
肝細胞の核染色を、示された患者(患者番号は表1の番号に対応する)のB−1試料(青色)およびB−2試料(赤色)における200個の肝細胞での繰り返しカウント(5回)によって定量化した。6人の非RR患者のうちの5人において、かなりの割合の肝細胞が、処置前生検においてすでに弱いが明らかな核染色を生じた。全てのRR患者は、処置前の核においてリン酸化STAT1シグナルを生じなかったが、pegIFNα後、強い誘導を示した。
(B)pegIFNα2bに応答したSTAT−DNA結合の誘導が、非RR患者の大部分において障害される
B−1試料およびB−2試料由来の核抽出物を、放射標識SIE−m67オリゴヌクレオチドプローブを用いるEMSAで分析した。アスタリスク()は、オリゴヌクレオチド配列と結合している活性化STAT1二量体のシグナルを示す。ゲルシフトパネルより上の数字は、表1にすでに用いられている患者番号を表す。上部パネルは、4週間目に急速応答を有する10人の患者(番号1〜10)を示す。下部パネルは、6人の非RR患者(番号11〜16)を示す。
【0183】
[図8 ヒトインターフェロンαのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列]
【0184】
[図9 ヒトインターフェロン受容体1のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列]
【0185】
[図10 ヒトインターフェロン受容体2のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列]
【0186】
[図11 ヒトインターフェロン受容体2bのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列]
【0187】
[図12 ヒトインターフェロン受容体2cのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列]
【実施例1】
【0188】
1.1 方法
1.1.1 被験体試料および処置
2006年1月から2007年4月まで、University Hospital Baselの外来肝臓診療所の紹介を受けたCHCを有する患者に、研究目的として彼らの診断的肝臓生検(B−1)の一部を用いる許可を求めた。その後、ペグ化IFNα2b(PegIntron)およびリバビリン(Rebetol、どちらもEssex Chemie AG、Switzerland)で処置された患者に、この研究に参加してくれるよう頼んだ。16人の患者が、1.5μg/kg体重のpegIFNα2b(PegIntron)の最初の注射から4時間後、2回目の肝臓生検(B−2)を受けることに同意した。彼らの全ては白色人種であった。リバビリンの初回投与を、さらなる交絡因子を避けるためにこの2回目の生検後に行った。プロトコールは、University Hospital Baselの倫理委員会によって承認された。書面のインフォームドコンセントを全ての患者から入手した。PBMC単離のための血液を、処置前および最初のpegIFNα2b注射から4時間後、収集した。患者をpegIFNα2b(1.5μg/kg体重)およびリバビリン(体重に基づいた投与:<65kg:800mg/日(mg/d);65〜85kg:1g/日;>85kg:1.2g/日)で処置した。HCV RNAを処置開始前、ならびに処置の4週間目および12週間目に定量化した。処置期間は、遺伝子型2/3を有する患者については24週間、遺伝子型1については48週間であった。非CHC対照として、局所性病変の超音波ガイド下の肝臓生検を受けた4人の患者から、局所性病変の外側の正常肝臓組織からの生検についてのインフォームドコンセントを得た。CHCを有する96人の追加の患者(彼らの1人を除く全てが白色人種であった)由来の処置前肝臓生検を、選択されたISGについてのRT−qPCRに用いた。
【0189】
16人の慢性感染HCV被験体由来のペアのヒト肝臓生検試料を入手した。2006年1月から2007年4月まで、University Hospital Baselの外来肝臓診療所の紹介を受けた慢性C型肝炎を有する全被験体に、研究目的として彼らの診断的肝臓生検の一部を用いる許可を求めた。肝臓生検を、同心型針電極を用いる超音波ガイド下の技術によって採取した。
【0190】
Metavirスコアリングシステムによって肝臓疾患のグレード付けおよびステージングのための日常的な病理組織学的精密検査についての2つの20〜25mm長の生検検体の切除後、残りの5〜20mm長の生検円柱をB1(生検1として)と標識し、さらなる研究参加者の処置前試料として保存した。ペグ化IFNα2b(Essex Chemie AG、Switzerland)をこの研究に参加した全被験体に処方した。2回目の生検(B2)を、最初のpegIFNα2b注射から4時間後、実施した。リバビリンの初回投与を、さらなる交絡因子を避けるためにこの2回目の生検後に行った。プロトコールは、BaselのUniversity Hospitalsの倫理委員会によって承認された。書面のインフォームドコンセントを全被験体から入手した。
【0191】
加えて、末梢血単核細胞(PBMC)単離のための血液を、処置前および最初のpegIFNα2b注射から4時間後、収集した。
【0192】
HCV被験体は、pegIFNα2b(1.5μg/kg体重)およびリバビリン(体重に基づいた投与:<65kg:800mg/日;65〜85kg:1g/日;<85kg:1.2g/日)での標準併用処置を受けた。HCV−RNAを処置開始前、ならびに処置の4週間目および12週間目に定量化した(表1)。処置期間は、遺伝子型2/3を有する患者については24週間、遺伝子型1については48週間である。研究に含まれる16人の被験体から、2人の被験体(10番および16番)は、一次非応答を生じ、処置を12週間目に中止した。残りの9人の被験体から、2人(1番、2番)が処置応答の終了で治療を完了している。
【0193】
非HCV対照として、局所性病変(癌腫の転移)の超音波ガイド下の肝臓生検を受けた2人の被験体から、局所性病変の外側の正常肝臓組織からの生検についてのインフォームドコンセントを得た。再び、生検の一部を日常的な病理組織学的診断に用い、後で記載したように、残りの組織をRNAの抽出に用いた。両方の対照試料は、日常的な病理組織学的検査(workup)において肝臓疾患の確認された非存在を示した。
【0194】
1.1.2 IFNα血清濃度の測定
処置前のhIFNα血清レベルおよび最初の注射から4時間後のpegIFNα2bの血清濃度を、製造会社の使用説明書に従ってPBL Biomedical Laboratories製のヒトインターフェロンαELISAキットを用いて測定した。このELISAキットは以前、非ペグ化ヒトIFNαとペグ化ヒトIFNαの両方を認識することが示されている34
【0195】
1.1.3 ヒト肝臓生検からの抽出物の調製
肝臓生検試料を、細胞全体、細胞質、および核の抽出物の調製に用いた。細胞全体抽出物について、試料を、100mmol/lのNaCl、50mmol/lのTris pH7.5、1mmol/lのEDTA、0.1%のTriton X−100、10mmol/lのNaF、1mmol/lのフッ化フェニルメチルスルホニル、および1mmol/lのバナジン酸塩を含む100μlの溶解緩衝液中でDounceホモジナイズした。可溶化液を14,000 rpmで、4℃、5分間、遠心分離した。タンパク質濃度をLowry(BioRadタンパク質アッセイ)によって決定した。
【0196】
核抽出物および細胞質抽出物について、肝臓を、200mmol/lのHepes pH7.6、10mmol/lのKCl、1mmol/lのEDTA、1mmol/lのEGTA、0.2%のNP−40、10%のグリセロール、および0.1mmol/lのバナジン酸塩を含む低塩緩衝液に溶解した。15,000 rpmで5分間の遠心分離後、ペレットを高塩緩衝液(420mmol/LのNaClを追加した低塩緩衝液)中に再懸濁した。遠心分離後、核抽出物のアリコートを、電気泳動移動度シフト解析(EMSA)のために作製した。
【0197】
1.1.4 ウェスタンブロットおよび電気泳動移動度シフトアッセイ
ヒト肝臓可溶化液由来の10μgの総タンパク質を、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動にロードし、ニトロセルロース膜(Schleicher & Schuell、Bottmingen、Switzerland)に転写した。膜を3%のBSA/ミルク(1:1)−0.1%のTriton X−100中、1時間、ブロッキングし、Tris緩衝食塩水Tween−20(TBST)で洗浄し、一次抗体と4℃で一晩、インキュベートした。
【0198】
タンパク質を、リン酸化STAT1(PY(701)−STAT1;Cell Signaling, Bioconcept、Allschwil、Switzerland)およびSTAT1(カルボキシ末端;Transduction Laboratories、BD Biosciences、Pharmingen)に特異的な一次抗体で検出した。TBSTでの3回の洗浄後、膜を赤外蛍光二次ヤギ抗マウス(IRDye 680)または抗ウサギ(IRDye 800)抗体(どちらもLI−COR Biosciences製)と室温で1時間、インキュベートした。ブロットをLI−COR製のOdyssey赤外イメージングシステムによって分析した。赤外画像を一回のスキャンで獲得し、シグナルを積分強度を用いて定量化した。
【0199】
ローディング対照として、膜を剥離し、抗β−アクチン抗体(Sigma)とインキュベートした。
【0200】
2μgの核抽出物およびSTAT応答エレメント配列に対応する32P放射標識DNA−オリゴヌクレオチド血清誘導性エレメント(SIE)−m67を用いて、EMSAを行った。
【0201】
1.1.5 免疫組織化学
標準間接免疫ペルオキシダーゼ手順を免疫組織化学のために用いた(ABC−Elite、Vectra Laboratories)。4mm厚の切片をパラフィンブロックから切り取り、再水和し、前処理し(ER2溶液中20分間)、リン酸化STAT1に対するウサギモノクローナル抗体(希釈1:200、#9167Cell Signaling)とインキュベートし、ヘマトキシリンで対比染色した。全染色手順(脱水、前処理、インキュベーション、対比染色、およびマウンティング)を自動染色装置(Bond(登録商標)、Vision BioSystems Europe、Newcastle−upon−Tyne、UK)を用いて行った。核リン酸化STAT1染色の定量化について、各患者のB−1試料およびB−2試料のそれぞれについて200個の肝細胞を5回、カウントした。補足的な図3において、標準偏差を有する平均値が示されている。
【0202】
1.1.6 RNA単離およびマイクロアレイ分析
全RNAを、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて製造会社の使用説明書に従い、肝臓試料およびPBMC試料から抽出した。RNAを分注し、−80℃で保存した。転写産物あたり11個の完全マッチ/ミスマッチプローブ対を有する56,000個を越える転写産物および変異体を表すAffymetrix Human Genome U133 Plus 2.0アレイを用いるマイクロアレイ分析によって肝臓およびPBMCにおいて遺伝子発現を評価した。マイクロアレイハイブリダイゼーションを、BaselのFriedrich Miescher Institute for Biomedical Researchのゲノム機能解析施設で行った。各試料由来の全RNA(1〜2μg)を、Affymetrix1サイクル増幅キットを用いて製造会社の使用説明書の通り、逆転写し、ビオチン化した。(Affymetrixの使用説明書の通り)ビオチン化cRNA(20μg)をマグネシウムとの加熱により断片化し、15μgの断片化cRNAを、製造会社の使用説明書に従って、Human U133 Plus 2.0 GeneChipsにハイブリダイズした。品質管理およびバックグラウンド標準化を、Genedata AG(Basel, Switzerland)製のRefiner 4.1を用いて行った。発現値の推定を、Refiner 4.1. LOWESS標準化におけるGC−RMA実行を用いて得て、およびプレゼントコールされた(called present)(検出P値<0.04)遺伝子の500の値への中央値スケーリングを、Genedata’s Analyst 4.1パッケージにおいて実行した。LOWESS標準化データをこの明細書においては「生」発現値と呼ぶ。本発明者らはまた、各遺伝子を、1.0におけるその発現レベルを中央に置くためにその中央値で割ることによって、遺伝子に点別割り算(point-wise division)を実行した。このスケーリングされたデータは、変化の大きさおよび方向を示すだけで、絶対的発現レベルについては示さない。スケーリングされたデータをクラスタリング分析に用いた。断りのない限り、全ての他の分析については、生データを用いて行った。
【0203】
データ分析をGenedata AGのExpressionist(登録商標)Analyst 4.1を用いて実行した。遺伝子は、P<0.05でのt検定を合格し、各群内の患者の少なくとも60%においてペア患者試料の間で1.3、1.5、2、および5、またはそれ以上の倍数変化中央値(median fold change)を有することが要求された。分類基準として4週間目における応答を用いる肝臓生検試料およびPBMCの教師あり分類予測(supervised classifier prediction)として、4つの統計的検定を用いた(サポートベクターマシン、スパース線形判別分析、フィッシャー線形判別分析、K近傍法)。誤分類率は、用いられた検定ごとに決定することができ、最低率のものを選択した。
【0204】
1.1.7 RNA単離、逆転写、およびSYBR−PCR
アレイデータを、STAT1、IP10、USP18、IFI27、SOCS1、SOCS3を含むいくつかのIFN制御遺伝子の定量的リアルタイムRT−PCR分析によって検証した。
【0205】
RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて、製造会社の使用説明書に従い、肝臓から全RNAを抽出した。ランダムヘキサマー(Promega)およびデオキシヌクレオシド三リン酸の存在下でモロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素(Promega Biosciences,Inc.、Wallisellen、Switzerland)によってRNAを逆転写した。反応混合物を70℃で5分間、その後、37℃で1時間、インキュベートした。反応を、95℃で5分間、加熱することによって停止した。SYBR緑色蛍光(SYBR緑色PCRマスターミックス:Applied Biosystems、Foster City、CA)に基づいてSYBR−PCRを行った。GAPDH(グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)、STAT1、誘導性タンパク質10(IP10)、SOCS1、SOCS3、USP18、IFI27、およびPP2Acについてのプライマーをエキソン−イントロン接合部にわたって設計した。プライマー配列は表4に示されている。サイクル閾値における差(ΔC)を、内部対照の役割を果たすGAPDHのC値をSTAT1または目的とする他の転写産物のC値から引き算することによって導いた。全ての反応を、ABI 7000配列検出システム(Applied Biosystems)を用いて2連で実行した。転写産物のmRNA発現レベルを、式:2−ΔCTを用いてΔC値からGAPDHに対して計算した。ペア肝臓生検試料における発現の変化を式:2(ΔCB−1−ΔCB−2)に従って倍数変化として計算した。
【0206】
ボックスプロット図、独立t検定(unpaired t-test)、およびマンホイットニー検定を、GraphPad Software、San Diego California USA、www.graphpad.comのMacintosh用GraphPad Prism バージョン4.00を用いて実行した。
【0207】
1.2 結果
患者および処置に対する応答
この研究に含まれる16人の患者である、6人の女性および10人の男性を週1回の皮下注射のpegIFN2αbと1日2回の経口リバビリンの体重調整型併用で処置した。彼ら全員は処置前生検(B−1)およびpegIFNα2bの最初の注射から4時間後に採取される2回目の生検(B−2)の2回の肝臓生検を受けた。本発明者らは、pegIFNα2b注射から4時間後に遺伝子発現を分析するよう選択しており、その理由は、チンパンジーの肝臓におけるpegIFNαによるISGの誘導の反応速度がこの時点で最大であり、続いて、多数の遺伝子の急速な下方制御があったからである(22)。本発明者らは、おそらくいくつかの遅発型誘導性ISGの上方制御を見逃した可能性があるが、急速な下方制御により、より遅い時点を用いる場合、より多くのISGを見逃すことになったであろうと理解する。
【0208】
患者のうちの7人はHCV遺伝子型(GT)1に、2人はGT4に、4人はGT3に、3人がGT2に感染していた。4週間の処置後に陰性血清HCV RNAであった8人の患者、および最初の4週間内にウイルス価の3logより大きい降下があった2人の患者を急速応答者(RR)と分類し、一方、6人の患者が1.5log未満のウイルス量低下を示し、非RRと分類した(表1)。
【0209】
血清IFNα濃度は、処置前の全患者において検出限界より下であり、以前に発表された薬物動態学的データ(24)に従って、pegIFNα2b注射の4時間後に得られた試料において34〜360pg/mlであった(データ示さず)。注射後4週間目のウイルス陰性化と4時間目における血清IFNα濃度との間に有意な相関はなかった。さらに、血清IFNαレベルにおける差にもかかわらず、全患者はPMBCにおいて同様のISG誘導を示した(下記参照)。
【0210】
標的遺伝子のIFN誘導性制御
B−1試料およびB−2試料においてAffymetrix U133plus2.0アレイを用いて遺伝子発現を分析し、最初のpegIFNα2b注射の前(PBMC−1)およびその注射から4時間後(PBMC−2)に得られた血液から単離されたPBMCにおいても分析した。各患者について、処置後試料において(処置前と比較して)2倍より大きく上方制御または下方制御された遺伝子を同定し、遺伝子リストに保存した。その後、本発明者らは、10人のRR患者および6人の非RR患者それぞれからランダムに選択された4人の患者の群を7つおよび3つ作った。各群において、4人の患者のうちの少なくとも3人において有意に(p<0.05またはp<0.01)変化した遺伝子を同定し、カウントした。7つのRR群の肝臓生検において、制御された遺伝子の平均数(±SEM)は、有意水準p<0.01およびp<0.05、それぞれにおいて76.71(±17.46)および196.7(±31.55)であった。3つの非RR群において、これらの数は、p<0.01およびp<0.05、それぞれについて11.67(±3.76)および28.33(±6.12)であった。RR群と非RR群の間の差は統計的に有意であった(図1A)。RR試料および非RR試料に見出される有意に制御された遺伝子において重複があった。例として、非RR生検試料の50%より多くにおいて、B1とB2との間で2倍より大きく変化した36個の遺伝子のうちの30個は、ランダムに選択されたRR患者の50%より多くにおいて変化した177個の遺伝子の中にも存在した(図1B)。
【0211】
驚くほどのことではないが、制御された遺伝子の多くは、既知のISGを表している。しかしながら、本発明者らの予想に反して、これらのISGの発現レベルは、非RRと比較して、RR患者由来のpegIFNα2b処置後生検においては高くなかった。むしろ、非RR患者試料は、B−1においてすでにISG発現がより高いレベルであり、それゆえ、B−2試料における倍数変化はほんのわずかであった。これは、5つのISGの例において図2Aに示されている。それらの遺伝子は、C型肝炎なしの個体由来の生検およびRR患者のB−1の生検において非常に低い発現を示す。6人の非RR患者は、処置前にこれらの遺伝子の高い発現を生じ、pegIFNα2a投与は、それらの発現を増加させず、または最小限のみ増加させた。このルールの例外は極少数であった(例は図2Bに示されている)。これらの遺伝子は、全患者において、処置前生検において低い発現を示したが、pegIFNα2bがそれらを誘導した。とは言っても、遺伝子発現の主なパターンは図2Aに示されたのと似ていた。RR群においてB−1とB−2の間で2倍より大きく有意に(p<0.05)変化した252個の遺伝子の発現のリストおよびヒートマップは、補足情報(SI)表2およびSI 図6において全生検試料について示されている。
【0212】
肝臓およびPBMCにおいてpegIFNα2bで制御された遺伝子のかなりの重複があった(図1C)。興味深いことに、全患者において、pegIFNα2bは肝臓においてよりPBMCにおいてより多くの遺伝子を制御した。しかしながら、RRと非RRの間のPBMCにおけるISGの上方制御の差は有意ではなかった(図1A)。RR患者および非RR患者において、ISGの事前活性化はPBMCにおいて見出されず、pegIFNα2b処置がISG制御に同じ効果を生じた(SI 図5)。これは、慢性HCV感染が肝臓におけるIFN系に強い局所効果を生じるが、PBMCにおいてほとんど効果を生じないことを示す。
【0213】
処置に対する応答を予測する遺伝子のサブセット
アレイデータの教師あり分類分析により、本発明者らの場合、4週間目における急速応答対非応答である、転帰を最も良く予測する遺伝子のサブセットの同定が可能になる。全ての肝臓生検およびPBMCデータセットを、分類基準として処置の4週間目の応答を用いる教師あり分類予測に供した。PBMC試料について、分析によって、処置の転帰を予測することができる遺伝子のサブセットが同定されなかった。対照的に、19.5%のエラー発生率(error rate)で、処置に対する応答を予測する肝臓B−2試料において16個の遺伝子のサブセットが同定された。さらに良い予測が、処置前生検B−1における29個の遺伝子のサブセットに関して可能であり、エラー発生率は4.3%であった。このセットにおいて、pegIFNα2bによって上方制御された22個の遺伝子があった(表2)。したがって、76%の最良予測因子遺伝子はISGを表す。
【0214】
処置前生検から設定された最良予測因子においてISGが優勢であることに反して、B−2生検の分析に由来する16個の最良予測因子遺伝子の3個(19%)のみがISGであった(表3)。これらの結果は、B−2におけるISGの発現レベルがRR試料と非RR試料の間で異ならず、したがって応答者と非応答者の識別に適さないという図2に示された知見を支持する。上記で論じられたB−1およびB−2の肝臓生検リストに存在する非ISGの中で、シグナル伝達、細胞周期制御、アポトーシス、およびアミノ酸代謝において機能を果たす遺伝子がある。
【0215】
肝臓生検におけるISG発現のRT−qPCR分析
ペア肝臓生検のアレイ分析により、治療の転帰についてのB−1生検におけるISG発現の重要性が浮き彫りにされた。これらのデータを確認するために、本発明者らは、B1生検およびB2生検を受けた16人の患者ならびにCHCを有する96人の追加の患者の処置前生検において選択されたISG(USP18、Stat1、IP10、IFI27)の発現をリアルタイム定量的PCR(RT−qPCR)によって測定した。ペア生検を受けた16人の患者において、RT−qPCR値はアレイ発現によく一致し、アレイデータの品質を確証した(図3A、およびデータ示さず)。治療前生検における全ての4つのISGの発現は、EVR群とPNR群の間で有意に異なっており(図3C)、肝臓におけるISGの処置前発現とIFNα治療に対する応答との間の逆相関があるという結論をさらに支持していた。ISGの有意な上方制御は、12週間目における非応答、および最終処置の転帰とも相関した。
【0216】
処置前ISG発現レベルはHCV遺伝子型と相関する
本発明者らは、HCV遺伝子型(GT)に関してISGの発現を分析した。興味深いことに、調べたISGは、「治療が困難な」GT 1およびGT 4に感染した患者において、80%を超える患者において治療に成功することができるGT 2およびGT 3に感染した患者よりも、有意に高い発現を示した。重要なことには、ISGの発現レベルは、HCV GTとは無関係に非RR患者においてRR患者より高かった。したがって、非RR患者におけるISG発現レベルの増加は、GT 1が非RR群において大きな比率を占めるという事実だけで説明することができない。むしろ、HCT GT 1およびGT 4を有する患者は、彼らの肝臓においてISGの発現が増加している頻度がより高いという事実が、IFN治療に対するこれらの患者の不良応答についてのもっともらしい説明を与えている。
【0217】
非応答者はPP2Acのより高い発現を有する
本発明者らは以前、PP2Aの触媒サブユニット(PP2Ac)が、対照と比較してCHCを有する患者の肝臓において過剰発現していること、およびPP2Acの過剰発現がIFNαシグナル伝達を阻害することを示している(14、25)。したがって、本発明者らは、12週間目の処置応答がわかっている患者群におけるPP2Ac mRNAレベルを分析した。EVR群の患者は、PNR患者よりPP2Ac mRNAの発現が有意に少なかった(図3B)。
【0218】
IFN誘導性Jak−STATシグナル伝達
注射されたpegIFNα2bはIFN受容体と結合し、Jak−STAT経路を活性化する。この活性化における中心的事象は、STAT1のチロシン701におけるリン酸化である(26)。本発明者らは、リン酸化部位特異的(phospho-specific)STAT1抗体を用いるウェスタンブロットによって全てのB−1生検およびB−2生検からの抽出物を分析した(図4A)。リン酸化STAT1バンドの半定量的分析によって、RR患者における3.6倍の導入中央値(median induction)、および非RR患者における1.6倍の導入中央値が明らかにされた(p=0.03)。
【0219】
リン酸化STAT1は、核へ移行し、ISGプロモーターの特異的応答エレメントに二量体として結合する(26)。抗リン酸化STAT1抗体を用いる免疫組織化学による核移行の評価は、おそらく、生検材料に存在する肝細胞におけるSTAT1活性化と他の細胞におけるSTAT1活性化とを識別することを可能にするはずである。RVR患者のペア生検の分析により、B−1試料におけるわずかな核染色、およびpegIFNαの注射後のB−2試料におけるほとんどの肝細胞核の強い染色が明らかにされた(図4B)。対照的に、1人(11番)を除く全ての非RVR患者は、顕著に異なる染色パターンを示した。処置前生検において、肝細胞の大部分は、すでにかなりの核染色を有し、それはB−2試料において増加しなかった。非RVR患者のB−2試料における核染色の明らかな増加は、クッパー細胞(肝臓マクロファージ)におけるSTAT1の核移行から生じ、肝細胞からは生じなかった(図4B)。クッパー細胞および場合により、混入した血液細胞におけるSTAT1の活性化が、ウェスタンブロッティングで観察されるSTAT1リン酸化の増加に寄与した可能性がある(図4A)。
【0220】
シグナル伝達経路における次の工程は、核リン酸化STAT1のISGのプロモーターエレメントへの結合である。したがって、本発明者らは、B−1生検およびB2生検の抽出物におけるSTAT1 DNA結合を電気泳動移動度シフト解析(EMSA)を実行することによって評価した。全ての急速応答者は、B−2試料においてSTAT1 DNA結合の著しい増加を示した。対照的に、たいていの非RVR患者は、pegIFNα適用でゲルシフトシグナルのわずかな増加を示し、またはシグナルの増加を示さなかった。
【0221】
これらのデータは、免疫組織化学的検査およびEMSAアッセイが、リン酸化STAT1についてのウェスタン分析の結果より治療の転帰と良く相関することを示す。総合すれば、データは、RVR患者と非RVR患者の間のIFN誘導性Jak−STATシグナル伝達の実質的差を実証している。
【0222】
1.3 考察
IFN治療に対するHCV感染患者の異なる応答の根底にある考えられる機構についてより学ぶために、本発明者らは、pegIFNα治療前および治療中にCHCを有する患者から収集されたペア肝臓生検においてIFN誘導性シグナル伝達およびISG誘導を調べた。同じ患者から得られた2つの肝臓試料におけるIFNシグナル伝達の比較、および同じ患者に由来するマッチングしたPBMC試料におけるISG誘導との比較により、治療に対して応答が悪い患者が彼らのIFN系の事前活性化を示すこと、および事前活性化が肝臓に限局されており、PBMCにおいては明らかではないことの明確な証拠を得ることが可能になった。重要なことには、治療に対する将来の応答者を意味する、低い最初のISG発現を有する患者において、pegIFNαに応答したIFN系の活性化は、治療前も治療後も、非応答者で見られたものを超えなかった。これは、将来の非応答者である、IFN系の最初の事前活性化を有する患者は、ISG発現の下流の工程でいくつかの欠陥を有し、彼らを内因性IFNおよびIFN治療の両方に対して抵抗性にさせていることを示唆し得るものであった。
【0223】
IFNα処置は、1人の患者を除く全員においてSTAT1リン酸化を誘導した。非RVR試料と比較してRVRにおいてより強いSTAT1活性化の傾向があった。しかしながら、免疫組織化学的分析によって、より顕著な違いが明らかにされた。非RVR試料において、pegIFNαは、核STAT1蓄積が主に肝細胞で誘導されたRVR試料とは違って、クッパー細胞において核STAT1移行を強く誘導した。興味深いことに、(1人だけ例外として)非RVR患者は、処置前生検にすでに存在する核リン酸化STAT1を有した。これは、ISG転写産物がより遅い非応答者の処置前生検で上方制御されているという観察と一致する。どのようにこのJak−STAT経路の事前活性化が非RVR患者におけるIFN系の治療抵抗性と関係しているかはさらなる研究を必要とする。
【0224】
ここ数年にわたって、HCVの先天免疫系への干渉への重要な洞察が得られている。第一に、一連の見事な論文により、IFNβ誘導のTLR3−TRIF−IRF3シグナル伝達経路とRIG−I/MDA5−Cardifシグナル伝達経路の両方を阻害するHCVの能力が実証された(27〜33)。このHCVの能力は、なぜそのウイルスは慢性感染を確立することが多いのかの説明に役立ち得る。しかしながら、本発明者らのデータおよび以前に発表された結果(20)により、内因性IFN系が多くの患者において常に活性化されていることが実証されている。さらに、事前に活性化されたIFN系を有する患者は、IFN治療に対して応答が悪いように思われる。この知見は、反直感的である(能動先天免疫系はIFNα治療中にウイルスを排除するように助けると予想される)が、チンパンジーおよびヒト患者からの他の発表されたデータによって概ね支持されている(16、17、20)。肝臓生検におけるISG発現の分析から、HCVが内因性IFN系を誘導する(または少なくとも遮断しない)患者もいれば、HCVがおそらくTRIFおよび/またはCardifを切断することによって内因性IFN系を首尾よく抑圧する患者もいることは明らかである。逆説的なことに、この違いは、慢性感染を維持するHCVの能力へ明らかな影響を与えていない。
【0225】
事前活性化されていないIFN系をもたない患者において、pegIFNα2bは、4時間以内に肝臓で多数のISGのロバストな上方制御を誘導した。類似した高ISG発現は、後に4週間目で急速なウイルス陰性化を示さなかった患者の処置前生検にすでに存在していた。なぜ後者の患者が、IFN系の強い活性化にもかかわらず慢性HCV感染を自発的に解決しないのかについては幾分困惑している。1つの可能性として、どちらの場合にも上方制御されているISGタンパク質は異なる転写後修飾を有することである。別のシナリオとしては、内因性IFNαと外因性IFNαの両方に対する非応答が、HCVの排除に特異的に必要とされる数個の重大なISGの誘導の欠損によって引き起こされる可能性がある。本発明者らはこの可能性を排除することはできないが、ペア肝臓試料で行ったアレイ分析によっては、急速応答者において特異的に上方制御されたISGは明らかにされなかった。さらに、このモデルでは、なぜ内因性IFN系の事前活性化が後での処置に対する非応答とそれほど密接に関連づけられるのかを説明することができない。
【0226】
あるいは、インターフェロン応答の誘導の反応速度は決定的であり得た。事前に活性化されたIFN系をもたない患者において、処置中の外因性IFNαの注射は、たいていの肝臓細胞において非常に急速に抗ウイルス状態を誘導するはずであり、HCVはIFN誘導性防御から逃避するのに「十分な」時間をもたないであろう。他方、抗ウイルス状態の増強(built-up)は、細胞内抗ウイルス防御系に適応しかつ逃れるのに十分な時間をHCVに与えるであろう他の患者群においては遅くあり得、それがまたその後のIFN治療に対して抵抗性にさせている。
【0227】
どのようにして内因性IFN系の誘導がIFNα治療の成功を損なうのであろうか?明らかに、IFNシグナル伝達を阻害するネガティブフィードバックループの活性化が役割を果たし得る。ネガティブ制御因子のうち顕著な候補は、IFN受容体に結合し、かつJak1およびTyk2の活性を阻害する2つのIFN誘導性タンパク質である、サイトカインシグナル抑制因子1(SOCS1)およびSOCS3(34);ならびに、IFNα受容体2(IFNAR2)に結合し、Jak1のそれへのアクセスを遮断するIFN活性化タンパク質である、最近になって記載された抑制因子Ubp43(35)である。しかしながら、本発明者らは、非RVR患者と比較してRVRのpegIFNα2b刺激された肝臓生検におけるこれらのネガティブ抑制因子の発現レベルの有意な差を見出すことができなかった(データ示さず)。さらに、SOCSおよびUbp43などのネガティブ抑制因子の一般的な上方制御は、IFN治療に対して応答が悪い患者のサブセットにおいて多数のISGの観察された強い構成的発現と矛盾している。IFNαシグナル伝達が実際、肝臓細胞の大部分においてSOCSおよびUbp43の誘導によって阻害されたとすれば、処置前肝臓においてISGのそのような顕著な事前活性化を観察するはずはないであろう。
【0228】
特に、試験されたISGの事前活性化は、HCV遺伝子型1および4に感染した患者の肝臓生検において、遺伝子型2または3に感染したものより頻繁に起こっていた。遺伝子型2および3の感染は、遺伝子型1での感染の50%未満と比較して、80%を超える患者において治癒することができることは周知である(4)。内因性IFN系の事前活性化の頻度および程度はHCV遺伝子型に依存するという本発明者らの知見によって、この異なる感受性を説明することができる。
【0229】
おそらく、HCV遺伝子型2および3は、Cardifおよび/またはTRIFのより有効な切断によって肝臓における先天免疫の活性化を阻止するのにより多く成功する。しかしながら、内因性IFN系の誘導を阻止することのウイルスの成功は、IFNα治療に対して感受性がより高いという代償の上で成り立っているであろう。注目すべきは、遺伝子型3 HCVに感染したただ1匹のチンパンジーは、遺伝子型1に感染した動物より低いISG発現レベルを有することが示されている(17)。
【0230】
本発明者らは以前、HCVがIFNα誘導性シグナル伝達を、タンパク質ホスファターゼPP2Aを上方制御することによってJak−STAT経路を介して阻害することを示している(12、14、25、36)。PP2Aは、スキャフォールディングAサブユニット、制御Bサブユニット、および触媒Cサブユニットのヘテロ三量体複合体である。PP2Acサブユニット発現は、遺伝子型3より遺伝子型1に感染した患者の肝臓において有意に高い(25)。この研究で示されているように、PP2Ac mRNAの発現は、応答者より、後での非応答者の生検において高い。これらのデータは、IFNシグナル伝達へのHCV干渉が治療に対する応答を障害するモデルを支持する。さらに、HCVによるIFNαシグナル伝達の阻害はまた、なぜ内因性IFN系の強い事前活性化がHCVの自発的排除をもたらさないのかを説明することができる。もし、全ての肝細胞がHCVに感染するとは限らない、いや、むしろ少数であると仮定するならば、非RVR患者の処置前生検に観察されるISGの誘導は、主に非感染肝細胞において起こり得る。感染細胞において、IFNは、Jak−STATシグナル伝達経路の阻害のために無効であろう。その系の事前活性化に関与するIFNは、Cardifおよび/またはTRIFを切断するのに成功していないウイルスに感染した肝細胞によって分泌されるであろう。Jak−STAT経路のHCV誘導性阻害のため、分泌されたIFNβは、抗ウイルス状態を感染した肝細胞において誘導せずに、むしろ感染していない隣接細胞において誘導するであろう。CHCの病理生物学へのさらなる洞察を得るために、将来的な研究は、単細胞レベルでの分析に焦点を合わせるべきである。残念なことに、肝臓生検におけるHCV感染した肝細胞の検出は、まだ十分ではなく、そのような研究を困難にさせている。
【0231】
免疫防御系からのHCV回避の正確な機構はまだ解明されていないままであるが、内因性IFN系の事前活性化によるC型肝炎治療の障害は今、十分明らかにされている。この事前活性化が可逆的プロセスであるかどうかを調べることは興味深いであろう。中和抗IFNα/β抗体、またはIFN応答を遮断する他の因子の処置前の注射が、内因性IFN系を「ナイーブ」状態へ戻すことができて、IFNαに基づく治療に対する応答を増強する可能性がある。
【0232】
【表1】

【0233】
【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【0234】
【表3−1】

【表3−2】

【表3−3】

【0235】
(c)1.4 参考文献
【表4−1】

【表4−2】

【表4−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝臓のウイルス感染を有する被験体がインターフェロン(IFN)活性の刺激を含む抗ウイルス治療に対して応答性である可能性を決定するための方法であって、
(a)以下の遺伝子群:
(i)LOC129607;RPLP0;およびHERC5;
(ii)HTATIP2;およびIFI44L;
(iii)IFI27;IFIT1;G1P2;IRF7;RSAD2;IFI44;OAS3;およびIFIT2;
(iv)LAMP3;HERC6;LOC286208;IFIT3;RALGPS1;PARP9;CCDC75;およびCNP;
(v)HIST1H2BG;HIST1H2BD;FLJ20035;PARP12;PNPT1;LGALS3BP;SAMD9;およびLOC402560
の各々から少なくとも1つの遺伝子の発現について被験体由来の試料を分析する工程と、
(b)試料における前記遺伝子の発現を対照試料における同じ遺伝子の発現と比較する工程と
を含む、前記方法。
【請求項2】
対照試料における同じ遺伝子の発現と比較して変化した、試料における遺伝子の発現が、被験体が前記抗ウイルス治療に対して応答性である可能性が低いことを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対照試料における同じ遺伝子の発現と比較して変化していない、試料における遺伝子の発現が、被験体が前記抗ウイルス治療に対して応答性である可能性が高いことを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
抗ウイルス治療がペグ化IFNαを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
抗ウイルス治療がpegIFNαおよびリバビリンを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ウイルス感染がB型肝炎ウイルス感染またはC型肝炎ウイルス感染である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ウイルスがC型肝炎ウイルスである、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
試料が肝臓組織を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、20個、25個、26個、27個、28個、または29個の遺伝子の発現が分析される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
遺伝子発現が、試料におけるmRNA遺伝子転写産物の量、または前記mRNAに由来するcDNAの量を測定することによって決定される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
遺伝子発現が、試料において、遺伝子によってコードされるペプチドまたはポリペプチドの量を測定することによって決定される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ペプチドまたはポリペプチドの量が特異的結合分子を用いて決定される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
被験体がヒトである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
(i)請求項1に列挙された遺伝子群の各々の少なくとも1つの遺伝子の発現を被験体由来の試料において分析するための手段と、任意で
(ii)試料における遺伝子の発現を対照試料における同じ遺伝子の発現と比較するための手段と
を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキット。
【請求項15】
試料における前記遺伝子発現を表す分子を標的にすることができる1以上の特異的結合分子を含み、前記特異的結合分子がオリゴヌクレオチドプローブ、抗体、またはアプタマーである、請求項14に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−519551(P2011−519551A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505470(P2011−505470)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054641
【国際公開番号】WO2009/130176
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(502407336)ノバルティス・フォルシュングスシュティフトゥング・ツヴァイクニーダーラッスング・フリードリッヒ・ミーシェー・インスティトゥート・フォー・バイオメディカル・リサーチ (19)
【氏名又は名称原語表記】Novartis Forschungsstiftung Zweigniederlassung Friedrich Miescher Institute for Biomedical Research
【出願人】(504051928)ユニバーシティ ホスピタル バーゼル (2)
【Fターム(参考)】