説明

抗オステオポンチン抗体およびその用途

【課題】リウマチ性関節炎の病因を明確にし、より優れた治療法を提供する。
【解決手段】RGD配列を認識するインテグリンとオステオポンチンまたはそのフラグメントとの結合を阻害し、かつ、SVVYGLR配列またはその相当配列を認識するインテグリンとオステオポンチンまたはそのフラグメントとの結合を阻害する抗オステオポンチン抗体。この抗体は、自己免疫疾患治療剤、リウマチ治療剤ないしリウマチ性関節炎の治療剤として有用である。また、このオステオポンチン抗体は、リウマチの診断薬および診断方法にも有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ヒトオステオポンチン抗体および該抗体を用いた自己免疫疾患、リウマチおよびリウマチ性関節炎の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オステオポンチン(以下、「OPN」という)は、骨に多く含まれる酸性のカルシウム結合性の糖蛋白質であり、ヒトの場合、mRNAのスプライシング (splicing)の違いから、オステオポンチン−a(以下、「OPN−a」という)、オステオポンチン−b(以下、「OPN−b」という)およびオステオポンチン−c(以下、「OPN−c」という)の少なくとも3つのアイソフォームが生じ得ることが知られている。(Y.Saitohet al., (1995): Laboratory Investigation, 72, 55-63)このうち、OPN−aの前駆体は、後記配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列を持ち、分泌により、シグナルペプチドが切断され、I17−N314の成熟体OPN−aがつくられると考えられている。また、成熟体OPNは、生体内のトロンビンにより168番目のアルギニン残基のC末端側で切断されて、N末端フラグメントおよびC末端フラグメントの2つになる。
上記のOPNは、多種の生理学的病理学的に重要な機能を担っており、例えば、細胞接着、細胞遊走、腫瘍形成、免疫応答および補体が媒介する細胞溶解の阻害等の機能を持っている。この多様な機能は、多種の細胞表面受容体により媒介されている。OPNは、内部にRGD配列をもち(例えば、OPN−aでは、159〜161残基目)、このRGD配列を認識するαVβ3、αVβ1およびαVβ5等のインテグリンは、OPNの主な受容体であり、このうち、αVβ3、αVβ1およびαVβ5インテグリンは、血管の平滑筋細胞において細胞接着を媒介し、更にαVβ3は、マクロファージ、リンパ球、内皮細胞および平滑筋細胞等の遊走に関係している。
さらに、これまでの研究から、OPNは、SVVYGLR配列を介してα9β1、α4β1およびα4β7インテグリンと結合することも明らかにされているが、これらのうちα4β1は、トロンビンで切断されていないOPN(非切断型OPN)とトロンビンで切断されたN末端フラグメント(切断型OPN)の両方に結合し、α9β1はトロンビン切断型OPNにのみ結合するという様式の差も見出されている。(Y. Yokosaki et al., (1999): The Journal of Biological Chemistry274,36328-36334 / P. M. Green et al., (2001): FEBS Letters 503, 75-79 /S.T.Barryet al., (2000): Experimental Cell Research 258, 342-351)。これらのα9及びα4、β1及びβ7のインテグリンサブユニットは、相互にアミノ酸配列間の類似性が高い。そして、α4β1及びα4β7インテグリンは、主として、リンパ球と単球で見出されるが、好中球ではごくわずかに発現しているにすぎない。一方、α9β1は、好中球に選択的に高発現しておりVCAM-1やTenascin-Cなどを介して、好中球遊走に必須の機能を担っている。また、筋肉細胞や上皮細胞、肝細胞などで広く発現している。このように、インテグリンサブユニットα4とα9の細胞質ドメインは、それぞれ微妙に異なった細胞内シグナル伝達経路を通して、互いに協同して炎症部位への白血球の遊走と凝集を促し、それらの浸潤活性を増強することによって、様々な炎症反応に関与していると考えられる。
このように、様々な種類のインテグリンが、白血球の遊走を促進し、炎症反応に関与していることから、これらのインテグリン活性を阻害する薬剤は、潜在的には抗炎症剤としての可能性を有していると思われる。たとえば、インテグリンαVβ3は、破骨細胞、血管内皮細胞および平滑筋細胞等で発現されており、αVβ3インテグリンとその様々な結合リガンドとの結合を阻害することにより、例えば関節では、関節破壊抑制作用が期待できることから、抗αVβ3抗体の開発が実際に行われている。
しかしながら、インテグリンファミリーに属する受容体は、広範な組織で普遍的に発現して生命活動維持に必須の機能を担っていることから、リウマチ性関節炎や変形性関節炎の治療にインテグリンに対する抗体を用いると、他の部位でも同様の阻害がおこる可能性があり、副作用の発生も懸念される。
【0003】
また、WO01/71358にはα4インテグリンとオステオポンチンとの結合を阻害する物質のスクリーニング方法およびスクリーニングで得られた物質を用いた炎症疾患の治療方法等について開示されている。
リウマチ性関節炎の病因としては種々の因子が考えられており、多くの報告があるが確実なものはない。また、その治療法においても、現在知られているものは対症療法的なものであり、必ずしも満足できるものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、リウマチ性関節炎の病因を明確にし、より優れた治療法を提供することが強く求められており、本発明はこのような課題の解決をその目的とするものである。
また、リウマチ性関節炎は、変形性関節症などと識別し難く、このための診断方法の提供も本発明の課題の一つである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、リウマチ患者および変形性関節症患者で、関節腔液のOPN濃度が高値を示すことを知り、さらにリウマチ患者において、全OPNに占めるトロンビン開裂型のN末端フラグメントの割合が増大することを初めて見出し、OPNが、これらの疾患の発症に深く関わっていることに思い至った。そして、後記参考例で示すようにOPNのノックアウトマウスを用いた実験によりこの事実を確認した。
また、OPNをトロンビンで切断したN末端フラグメント及びC末端フラグメントについて、それぞれのフラグメントを区別して認識する抗体を作成し、それらを用いた試験により、リウマチ性関節炎患者では、特にトロンビンにより切断されたN末端フラグメントが関節腔内で高濃度を示すことを見出した。
本発明者らは、前述のリウマチ性関節炎患者に高い濃度で見出されるN末端フラグメントには、ヒト型インテグリンが認識するRGD配列とSVVYGLR配列が共に存在していることに着目し、これら両者の配列を同時にブロックする抗体は、OPNとインテグリンの結合を幅広く阻害し、リウマチ性関節炎や変形性関節炎の治療に効果があるのではないかと予想した。
さらに、OPNは、腎臓・胎盤・卵巣・脳・皮膚などにも分布するが、主として骨組織に発現している。本発明者らは、リウマチ性関節炎の治療に際して、OPNとインテグリンの結合をOPN側により特異的な方法で遮断することが望ましいと考えた。その際、炎症には前述の多岐に渡るインテグリンが協同的に関与していると考えられるので、これらの多岐に渡るインテグリンとの結合が、より幅広く遮断されることが有効であると考えた。
【0006】
そこで、ヒトOPNのRGD配列とインテグリンの結合およびヒトOPNのSVVYGLR配列とインテグリンとの結合を阻害する抗体を作成し、細胞接着および細胞遊走等の実験によりその効果を確認した。さらに、マウスOPNの当該内部配列に対応する合成ペプチドに対する抗体を取得し、マウスの関節炎病態モデルを用いて、そのような抗体の治療薬としての効果を調べた。
すなわち、マウスOPNは、ヒトOPNとアミノ酸配列上で相同な位置にマウスのインテグリンによって認識されるRGD配列及びSLAYGLR配列を有しているので、これらの配列を同時にブロックする抗体として、M5抗体を取得した。このM5抗体とマウスOPNおよびそのトロンビン消化物との結合は、RGD配列を含むGRGDSPペプチドで阻害され、またこのM5抗体は、TNF-αで活性化したマウス脾臓由来の単球の遊走を阻害することが確認された。このM5抗体を、マウスのカルバリア(calvaria)器官培養系で調べてみたところ、骨破壊の抑制作用が観察された。さらに、マウスのコラーゲン関節炎モデルに、上記抗体を投与してみたところ、明らかに治療効果を示すことが確認された。
以上の結果は、RGD配列、SVVYGLR配列とヒト型インテグリンの結合を同時にブロックする抗体が、OPNとインテグリンの結合を阻害し、リウマチ性関節炎等の治療に有効であることを強く示唆しており、さらに、若年性関節リウマチや慢性リウマチ等のリウマチのみならず、乾癬性関節炎や乾癬の治療への効果が期待される。
また、臓器移植後の慢性拒絶は、血管や気管支の閉塞性病変を特徴としているが、その組織学的検討から、T細胞やマクロファージの活性化がサイトカイン、増殖因子の産生、血管内皮細胞障害を引き起こし、さらに血管平滑筋の増殖が線維化などを引き起こすために血管閉塞へ進展して行くと考えられている(P. Freese et al., (2001): Nephrol DialTransplant,16, 2401-2406 / J. R. Waller et al., (2001): British Journal of Surgery, 88,1429-1441/ S. R. Lehtonen et al., (2001): Transplantation, 72,1138-1144)。そして、これらのマクロファージの活性化や血管平滑筋の線維化にはOPNが必須の蛋白として機能することが報告されており(A. O’Regan et al., (2000): Int J Exp Pathol, 81,373-390)、本発明のOPN阻害抗体は、単球や好中球の遊走を抑制することにより、このような線維化に向けての過程を抑制する可能性がある。
【0007】
従って、臓器移植後の慢性拒絶反応を抑制し、臓器生着に寄与し、また、全身性自己免疫疾患、エリテマトーデス、ぶとう膜炎、ベーチェト病、多発性筋炎、糸状体増殖性腎炎、サルコイドーシス等の自己免疫疾患の治療への効果が期待される。
すなわち本発明は、RGD配列を認識するインテグリンとOPNまたはそのフラグメントとの結合を阻害し、かつ、SVVYGLR配列またはその相当配列を認識するインテグリンとオステオポンチンまたはそのフラグメントとの結合を幅広く阻害する抗オステオポンチン抗体を提供するものである。
また本発明は、上記抗体を有効成分として含む自己免疫疾患治療剤、リウマチ治療剤ないしリウマチ性関節炎の治療剤を提供するものである。
更に本発明は、リウマチ患者ないしはリウマチ性関節炎患者に、前記の抗オステオポンチン抗体を投与し、オステオポンチンのRGD配列とインテグリンの結合および/または、SVVYGLR配列とインテグリンとの結合を阻害することにより、自己免疫疾患、リウマチないしはリウマチ性関節炎を治療する方法を提供するものである。
また更に本発明は、上記オステオポンチン抗体を利用するリウマチの診断薬および診断方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の、RGD配列を認識するインテグリンとOPNまたはそのフラグメントとの結合を阻害し、かつ、SVVYGLR配列またはその相当配列を認識するインテグリンとOPNまたはそのフラグメントとの結合を阻害する抗オステオポンチン抗体(以下、「OPN阻害抗体」という)は、RGD配列を認識するインテグリン、例えばαvβ1,αvβ3,αvβ5等とOPN−a,OPN−b,OPN−cまたはそれらのN末端フラグメントとの結合を阻害し、かつ、SVVYGLR配列を認識するインテグリン、例えばα9β1,α4β1、α4β7等とOPN−a,OPN−b,OPN−cまたはそれらのN末端フラグメントとの結合を阻害できるものであればどのような抗体でもよい。SVVYGLR配列またはその相当配列とは、ヒトOPNの162番目のセリンから168番目のアルギニンまでの配列を指し、その相当配列とは、他の哺乳動物のOPNのSVVYGLRに相当する配列を言い、例えばブタではヒトと同じくSVVYGLR、サルではSVAYGLR、マウスやラットではSLAYGLR、ウシではSVAYGLK、ウサギではSVAYRLKである。本発明のOPN阻害抗体は、上記のような性質を保持する抗体であれば、その製法は特に限定されず、例えばOPN−a、OPN−b、OPN−cや、これらのN末端フラグメント、あるいはアミノ酸配列RGDSVVYGLR配列またはその相当配列を含んでいるペプチド(以下、これらを「OPN関連ペプチド」と総称する)を抗原として用いることにより作成できる。なお、ここでいうOPNのフラグメントとは、OPNがタンパク質分解酵素等により分解されたフラグメントをいい、例えばトロンビンにより分解されたフラグメントをいう。
上記ヒトOPN阻害抗体は、好ましくは、RGDSVVYGLR配列を含んでいるペプチドを抗原として用いることにより作製される。より好ましくは、例えばこの両配列を連続して有するOPN−aの153番目バリン残基から169番目セリン残基までのペプチド(VDTYDGRGDSVVYGLRS)を抗原として用い、以下常法に従って処理することによって得ることができる。抗原性を高めるためには、上記OPN関連ペプチドと生体高分子化合物との結合物を抗原として用いることが好ましい。
【0009】
また、実験動物としてマウスを用い、OPNに関連する疾患等の研究を行う場合は、マウスのOPNに対応するOPN阻害抗体を用いることが望ましく、そのような抗体は、好ましくは、RGDSLAYGLR配列を含んでいるペプチドを抗原として用いることにより作製される。
上記OPN関連ペプチドと結合させる生体高分子化合物の例としては、スカシ貝のヘモシアニン(以下「KLH」という)、卵白アルブミン(以下、「OVA」という)、ウシ血清アルブミン(以下「BSA」という)、ウサギ血清アルブミン(以下「RSA」という)、サイログロブリン等が挙げられ、このうちKLHおよびサイログリブリンがより好ましい。
上記OPN関連プペチドと生体高分子化合物との結合は、例えば、混合酸無水物法 (B. F. Erlanger et al., (1954): J. Biol. Chem., 234, 1090-1094)または活性化エステル法(A.E.Karu et al., (1994): J. Agric. Food Chem., 42, 301-309)等の公知の方法によって行うことができる。
混合酸無水物法において用いられる混合酸無水物は、OPN関連ペプチドを通常のショッテン−バウマン反応に付すことにより得られ、これを生体高分子化合物と反応させることにより目的とするペプチド−高分子化合物結合体が作製される。この混合酸無水物法において使用されるハロ蟻酸エステルとしては、例えばクロロ蟻酸メチル、ブロモ蟻酸メチル、クロロ蟻酸エチル、ブロモ蟻酸エチル、クロロ蟻酸イソブチル等が挙げられる。当該方法におけるペプチドとハロ蟻酸エステルと高分子化合物の使用割合は、広い範囲から適宜選択され得る。
なお、ショッテン−バウマン反応は塩基性化合物の存在下に行われるが、当該反応に用いられる塩基性化合物としては、ショッテン−バウマン反応に慣用の化合物、例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ピリジン、ジメチルアニリン、N−メチルモルホリン、ジアザビシクロノネン(DBN)、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロオクタン(DABCO)等の有機塩基、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基等を使用することができる。
また上記反応は、通常、−20℃から100℃、好ましくは0℃から50℃において行われ、反応時間は5分から10時間程度、好ましくは5分から2時間である。
得られた混合酸無水物と生体高分子化合物との反応は、通常マイナス20℃から150℃、好ましくは0℃から100℃において行われ、反応時間は5分から10時間程度、好ましくは5分から5時間である。混合酸無水物法は一般に溶媒中で行われるが、溶媒としては、混合酸無水物法に慣用されているいずれの溶媒も使用可能であり、具体的にはジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0010】
一方、活性化エステル法は、一般に以下のように行うことができる。まず、OPN関連ペプチドを有機溶媒に溶解し、カップリング剤の存在下にてN−ヒドロキシコハク酸イミドと反応させ、N−ヒドロキシコハク酸イミド活性化エステルを生成する。
カップリング剤としては、縮合反応に慣用されている通常のカップリング剤を使用でき、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、カルボニルジイミダゾール、水溶性カルボジイミド等が挙げられる。また、有機溶媒としては、例えばN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、ジオキサン等が使用できる。反応に使用するペプチドとN−ヒドロキシコハク酸イミド等のカップリング剤のモル比は好ましくは1:10〜10:1、最も好ましくは1:1である。反応温度は、0〜50℃、好ましくは22〜27℃で、反応時間は5分〜24時間、好ましくは1〜2時間である。反応温度は各々の融点以上沸点以下の温度で行うことができる。
カップリング反応後、反応液を生体高分子化合物を溶解した溶液に加え反応させると、例えば生体高分子化合物が遊離のアミノ基を有する場合、当該アミノ基とペプチドのカルボキシル基の間に酸アミド結合が生成される。反応温度は、0〜60℃、好ましくは5〜40℃、より好ましくは22〜27℃で、反応時間は5分〜24時間、好ましくは1〜16時間、より好ましくは1〜2時間である。
上記の方法によるOPN関連ペチドと生体高分子化合物との反応物を、透析、脱塩カラム等によって精製することにより、OPN関連ペプチドと生体高分子化合物との結合物(以下、単に「結合物」ということがある)を得ることができる。
次に、上のようにして得られた結合物を抗原として用いる抗体の作製法および当該抗体を用いる免疫化学的測定法について説明する。尚、抗体の調製にあたっては、公知の方法、例えば続生化学実験講座、免疫生化学研究法(日本生化学会編)等に記載の方法を適宜利用することができる。
上記結合体を使用して、本発明のポリクローナル抗体を作製するには、当該結合物で動物を免疫し、当該動物から抗体を採取すれば良い。
【0011】
すなわち、まず、例えば、OPN関連ペプチド−サイログロブリン結合物等の結合物をリン酸ナトリウム緩衝液(以下、「PBS」という)に溶解し、これとフロイント完全アジュバントまたはフロイント不完全アジュバント、あるいはミョウバン等の補助剤とを混合したものを、免疫原として用いて、哺乳動物を免疫する。
免疫される動物としては当該分野で常用されるものであればいずれも使用できるが、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ等を挙げることができる。また、免疫の際の免疫原の投与法は、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、筋肉内注射のいずれでもよいが、皮下注射または腹腔内注射が好ましい。免疫は、1回または適当な間隔で複数回、好ましくは1週間ないし5週間の間隔で複数回、行うことができる。
次いで、常法に従い、免疫した動物から血液を採取して、血清を分離し、ポリクローナル抗体画分を精製することにより、OPN阻害抗体を得ることができる。
また、常法に従い、前記結合物で動物を免疫して得た免疫細胞と、ミエローマ細胞とを融合させてハイブリドーマを得、当該ハイブリドーマの培養物から抗体を採取することによってモノクローナル抗体としてOPN阻害抗体を得ることもできる。
本発明の抗体をヒトあるいは動物の治療用途に用いる場合には、得られたOPN阻害抗体の定常領域を治療対象とするヒトあるいは動物の抗体と同じ定常領域を持つように遺伝子工学的に改変したキメラ抗体(欧州特許公開公報EP0125023参照)や当該動物化抗体(欧州特許公開公報EP0239400またはEP045126参照)を用いることが望ましい。あるいは、治療対象とするヒトあるいは動物の抗体産生に関与する遺伝子を人為的に導入したトランスジェニック動物を用いて作製したモノクローナル抗体(当該動物型抗体)(欧州特許公開公報EP0546073またはWO97/07671参照)を利用することが望ましい。
【0012】
例えば、治療の対象がヒトであり、OPN阻害抗体産生動物がマウスの場合には、ヒトマウスキメラ抗体やヒト化抗体を用いるのが望ましく、さらには、抗体産生に関与するヒト遺伝子を導入したマウス等のトランスジェニック動物を用いてヒト型モノクローナル抗体を作成して用いるのが望ましい。また、抗体産生のためにはファージディスプレー (phage display)法を用いることもできる。
このようにして得られたOPN阻害抗体については、さらに抗原認識領域をプローテアーゼ等で切り出したFv、FabやF(ab')のかたちで用いることもできる。
かくして得られたOPN阻害抗体は、必要によりさらに精製された後、常法に従って製剤化され、リウマチ性関節炎・若年性関節リウマチや慢性リウマチ等のリウマチ・乾癬性関節炎・乾癬等の治療、臓器移植後の慢性拒絶反応抑制、全身性自己免疫疾患・エリテマトーデス・ぶとう膜炎・ベーチェト病・多発性筋炎・糸状体増殖性腎炎・サルコイドーシス等の自己免疫疾患の治療に用いることができる。
本発明のOPN阻害抗体は、好ましくは、リウマチ治療剤あるいはリウマチ性関節炎治療剤として用いることができる。これらリウマチ治療剤等の剤型の例としては、注射剤、点滴用剤等の非経口剤とすることができ、静脈内投与、皮下投与等により投与することが好ましい(自己免疫疾患治療剤とする場合もこれに準じればよい)。また製剤化にあたっては、薬学的に許容される範囲で、これら剤型に応じた担体や添加剤を使用することができる。
上記製剤化に当たってのOPN阻害抗体の添加量は、患者の症状の程度、年齢や使用する製剤の剤型あるいはOPN阻害抗体の結合力価等により異なるが、例えば0.1mg/kgないし100mg/kg程度を用いればよい。
このようにして得られた本発明の治療剤は、有効成分であるOPN阻害抗体がOPNのRGD配列とSVVYGLR配列に強く結合し、OPNのこの部分とインテグリンとの結合を阻害することによって、結果的にリウマチ及びリウマチ性関節炎やそれ以外の自己免疫疾患の症状の増悪を押さえることができると期待される。
そして、本発明のOPN阻害抗体は、インテグリン側でなくOPN側に特異的に結合するものであるため、インテグリンの他の重要な機能を阻害するおそれは少なく、副作用の問題は回避されるものと期待される。
【0013】
更に本発明のOPN阻害抗体は、自己免疫疾患治療剤をスクリーニングする目的にも使用することができる。すなわち、前述のように、OPNのRGD配列とインテグリンの結合およびSVVYGLR配列とインテグリンとの結合を阻害する化合物は、自己免疫疾患の治療剤となりうる。そこで、例えば、所定量のOPNとインテグリンが存在する測定系内にスクリーニングするべき物質(被検物質)とOPN阻害抗体とを競合的に加えた反応系を構成し、使用したOPN阻害抗体の量に対するOPN−インテグリン間の結合の阻害程度を測定すれば、被検物質の自己免疫疾患治療剤としての利用可能性を評価することができる。
同様に、OPNのRGD配列とインテグリンの結合およびSVVYGLR配列とインテグリンとの結合を阻害する化合物は、リウマチないしはリウマチ性関節炎の治療剤となりうるので、OPN阻害抗体を用いて、上記と同様の反応系を構成すれば、リウマチないしはリウマチ性関節炎のスクリーニングに使用することができる。
更にまた、本発明のOPN阻害抗体は、リウマチ診断剤として利用することができる。先述のように、リウマチ性関節炎患者の関節では、特にトロンビンにより切断されたOPNのN末端フラグメントが高濃度で見出されることが判明している。そこで、このOPN阻害抗体を用いて検体中のOPNまたはそのN末端フラグメントの量を測定すれば、リウマチの診断に役立てることができる。その手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(E. Engvall et al., (1980): Methods in Enzymol., 70, 419-439)、蛍光抗体法、プラーク法、スポット法、凝集法、オクタロニー(Ouchterlony)等の、一般の免疫化学的測定法において使用されている種々の方法(「ハイブリドーマ法とモノクローナル抗体」、株式会社R&Dプランニング発行、第30頁−第53頁、昭和57年3月5日)を利用することができる。
上記手法は種々の観点から適宜選択することができるが、感度、簡便性等の点からはELISA法が好ましい。より好ましい方法の例としては、例えば本発明のOPN阻害抗体を担体上に固相化し、本発明のOPN阻害抗体とはOPN上の異なる部位を認識する抗体を標識化することにより、OPNまたはそのN末端フラグメントを検出することができ、これをリウマチ性関節炎の診断薬とすることができる。
上記抗体を標識するにあたり使用される標識物質としては、西洋わさびペルオキシダーゼ(以下「HRP」という)、アルカリフォスファターゼ(以下「AP」という)等の酵素、フルオレセインイソシアネート、ローダミン等の蛍光物質、32P、125I等の放射性物質、化学発光物質などが挙げられる。
【0014】
より具体的なOPNアイソフォームの検出方法について、サンドイッチ法を例にとってその手順を説明すれば次の通りである。すなわち、まず、(a)本発明のOPNアイソフォームに対する抗体を担体に固相化し、次いで、(b)抗体が固相化されていない担体表面を抗原と無関係な、例えばタンパク質により、ブロッキングする。更に、(c)これに各種濃度のOPNアイソフォームを含む検体を加え、OPNアイソフォーム−抗体複合体を生成させた後、(d)標識した抗OPNアイソフォーム抗体を加え、固相化抗原−抗体複合体と結合させ、最後に(e)担体に結合した標識量を測定することにより、予め作成した検量線から検体中の遊離OPNアイソフォームの量を決定することができる。
まず、(a)工程において、抗体を固相化するために用いられる担体としては、特別な制限はなく、免疫化学的測定法において常用されるものをいずれも使用することができる。例えば、ポリスチレン製の96穴マイクロタイタープレートあるいは、アミノ基結合型のマイクロタイタープレートが挙げられる。また、抗体を固相化させるには、例えば、抗体を含む緩衝液を担体上に加え、インキュベーションすればよい。緩衝液としては公知のものが使用でき、例えば10mMのPBSを挙げることができる。緩衝液中の抗体の濃度は広い範囲から選択できるが、通常0.01−100μg/ml程度、好ましくは0.1−20μg/mlが適している。また、緩衝液の量は、担体として96ウェルのマイクロタイタープレートを使用する場合には、300μl/ウェル以下で、より好ましくは、20−150μl/ウェル程度が望ましい。更に、インキュベーションの条件にも特に制限はないが、通常4℃程度で一晩インキュベーションが適している。
また、(b)工程のブロッキングについては、次の段階で添加する検体中のOPNには抗原抗体反応とは無関係に担体に吸着される部分が存在する場合があるので、そのような非特異的吸着を防ぐ目的で行う。ブロッキング剤としては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)やスキムミルク溶液を使用できる。あるいは、ブロックエース(「Block−Ace」、大日本製薬、コードNo.UK−25B)等のブロッキング剤として市販されているものを使用することもできる。具体的には、限定されるわけではないが、例えば抗原を固相化した部分に、ブロックエースを適量加え、約4℃で、一晩インキュベーションした後、緩衝液で洗浄することにより行われる。緩衝液としては特に制限はないが、例えば、10mM PBS(pH7.2)、0.8%(w/v)NaCl、0.02%(w/v)KCl、0.02%(v/v)Tween20の組成のものが適している。
次いで(c)工程において、OPNアイソフォームを含む検体を固相化抗体と接触させることにより、固相化抗体でOPNアイソフォームを捕捉し、固相化抗体−OPNアイソフォーム複合体を生成させる。反応は限定されるわけではないが、37℃程度で約1時間行えばよい。反応終了後、緩衝液で担体を洗浄し、未反応の蛋白質等を除去させる。この反応に用いる緩衝液としては、10mM PBS(pH7.2)、0.05%(v/v)Tween20の組成のものが好ましい。
更に(d)工程において、固相化抗体に捕捉されたOPNアイソフォームの別のエピトープを認識する標識抗体を加え、固相化抗体−OPNアイソフォーム−標識抗体複合体を形成させる。この反応終了後、緩衝液で担体を洗浄し、未反応の蛋白質等を除去させることが好ましい。この反応に用いる緩衝液としては、(c)工程において前記したものが使用される。
上記(d)工程において使用される標識抗体は、(a)工程の固相化抗体と異なるエピトープを認識するものであることが要求される。例えば固相化抗体としてOPNアイソフォームの前半領域を認識するポリクローナル抗体を用いる場合、酵素(例えば、HRPまたはAP等)を結合した標識抗体としては、OPNアイソフォームの後半領域を認識するポリクローナル抗体を用いることが好ましい。このように異なる部位を認識する抗体を用いることで、選択スプライシングにより生じるOPNアイソフォームを高感度でかつ特異的に測定できる。
(d)工程において使用される標識抗体の量は、担体に結合した固相化抗体に対して約5,000−10,000倍、好ましくは最終測定時の最大吸光度が1.5−2.0となるように希釈した標識抗体を反応させるのが望ましい。希釈には緩衝液を用いることができ、反応は限定されるわけではないが、約37℃で約30分間行い、反応後、緩衝液で洗浄することが好ましい。以上の反応により、担体に抗体−OPNアイソフォーム−標識抗体複合体を結合することができる。
最後に(e)工程において、固相化抗体−OPNアイソフォーム−標識抗体複合体の標識物質と反応する発色基質溶液を加え、吸光度を測定することによって検量線からOPNの量を算出することができる。
標識抗体の標識物として、酵素であるペルオキシダーゼを使用する場合には、例えば、過酸化水素と3,3',5,5'−テトラメチルベンジン(TMB)又はo−フェニレンジアミン(OPD)を含む発色基質溶液を使用することができる。発色反応は、限定されるわけではないが、発色基質溶液を加え約25℃で約20分間反応させた後、1Nの硫酸を加えて酵素反応を停止させることにより行うことができる。TMBを使用する場合、発色は450nmの吸光度により測定する。一方、標識物として、酵素であるAPを使用する場合には、p−ニトロフェニルリン酸(pNPP)を基質として発色させ、2NのNaOHを加えて酵素反応を止め、415nmでの吸光度を測定する方法が適している。
既知の濃度のOPNアイソフォームを添加した反応液の吸光度により予め作成しておいた検量線を用いて、検体中のOPNアイソフォームの濃度を算出できる。
上記した本発明のOPNアイソフォームの検出方法は、OPNの働きの解明や、OPNの関連する疾患の診断、治療のために使用されるが、その使用方法の一例としては、トロンビンにより切断されたOPNのN末端フラグメントと非切断型OPNを区別して検出することにより、炎症異常の有無を検出し、例えばリウマチと変形性関節症を区別する炎症異常の検出キットを挙げることができる。
先述のように、リウマチ性関節炎患者の関節腔内では、特にトロンビンにより切断されたOPNのN末端フラグメントが高濃度で見出される傾向があるが、変形性関節炎患者ではそのような傾向は有意に低い。このように、関節腔内のOPN中に占めるN末端フラグメントの割合がそれぞれの患者では異なっているので、リウマチと変形性関節症を区別して診断する為には、OPN全体の中に占めるN末端フラグメントの割合を測定できればよい。
【0015】
より具体的な例としては、OPNの3種のアイソフォーム、OPN−a、OPN−bおよびOPN−cのすべてに共通に存在する下記3種の配列について、それぞれのペプチドに対する抗体を作製する。
CVDTYDGRGDSVVYGLRS
(C+V153からS169)(1)
KSKKFRRPDIQYPDATDEC
(K170からE187+C)(2)
IPVKQADSGSSEEKQC
(I17からQ31+C) (3)
このうち、配列(1)は、トロンビン切断部位のN末端側に存在し、トロンビン非切断型である全長OPNとN末端側フラグメント上で共通に存在する。一方、配列(2)は、トロンビン切断部位よりC末端側に存在し、トロンビン非切断型である全長OPNでは存在するが、N末端側フラグメントには含まれない。また、配列(3)は、OPNのN末端側17番目から31番目までのアミノ残基に対応し、トロンビン非切断型である全長OPNとN末端側フラグメントで共通に存在する。 リウマチ患者と変形性関節症患者の鑑別の為の診断キットは、上記の3種の配列のペプチドそれぞれに対する抗体を利用した2種類の免疫検出試薬から構成することができる。 すなわち、第一の免疫検出試薬では、上記の配列(3)および(2)で表されるペプチドに対する2種の抗体を用いて、検体中の両方の抗体で共通に認識されるトロンビン非切断型OPNを定量する。その際、例えば、配列(3)のペプチドに対する抗体を担体に固相化し、患者由来の検体と反応させ、洗浄した後、標識抗体として配列(2)のペプチドに対する抗体を加え前述のサンドイッチ法と同様の方法で検出することができる。また、第二の免疫検出試薬では、上記の配列(1)および(3)で表されるペプチドに対する2種の抗体を用いて、検体中の両方の抗体で共通に認識されるトロンビン非切断型OPNとトロンビン切断により生成したN末端側フラグメントを合わせた総量を定量する。その際、例えば、配列(1)のペプチドに対する抗体を担体に固相化し、患者由来の検体と反応させ、洗浄した後、標識抗体として配列(3)のペプチドに対する抗体を加え前述のサンドイッチ法と同様の方法で検出することができる。そして、同一の患者検体に対する上記の2種類の免疫検出試薬による結果を比較照合することにより、該患者における全OPN中に占めるトロンビン切断により生成したN末端側フラグメントの割合を明らかにすることができ、リウマチと変形性関節症の区別が可能となる。
【実施例】
【0016】
次に実施例および参考例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
実 施 例 1
GST−OPN融合蛋白のクローニング、構築、精製および
試薬:
クローニング及び蛋白精製については、基本的に、文献(S. Kon et al., (2000): J. Cell. Biochem., 77, 487-498)に記載の方法に従って行った。
ヒトOPNのアイソフォームであるa,bについては、そのcDNAを次のようにして得た。ヒト腎癌細胞株であるNRC−12細胞から調整したRNAを鋳型としてcDNAを合成し、それを鋳型とし、下記OPN−5、OPN−3プライマーを用いてPCRを行うことにより、それぞれシグナルペプチド領域を含むヒトOPN−a、OPN−bの全長をコードするcDNAを得た。
次に、上記文献に記載したようにして、このようにしてクローニングしたOPN−a,OPN−b cDNAを、pGEX4Tベクター(Amersham Pharmacia Biotech,Tokyo,Japan)にGST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ、EC2.5.1.18)遺伝子と同じリーディングフレームとなるように挿入し、大腸菌JM109を用いてGST融合蛋白として発現させた(以下、このようにして得られたGST−OPN融合蛋白を、それぞれ、「GST−OPN−a」,「GST−OPN−b」という)。

OPN−5:
5'−CGGGATCCACTACCATGAGAATTG
CAGTGATTTGC−3'
OPN−3:
5'−CCGCTCGAGTTAATTGACCTCAGA
AGATGCACTATC−3'

ヒトOPN−cアイソフォームをコードするcDNAについては、上記のOPN−a cDNAを鋳型とし、二段階PCRにより作製した。一段階目はOPN−5と下記のOPNct−3プライマー、下記のOPNct−5とOPN−3プライマーでそれぞれPCRを行い、二つのPCR産物を混ぜ、熱を加え徐々に冷却することによりアニールさせ、酵素を加えて伸長させた。次いで二段階目として、OPN−5とOPN−3プライマーでPCRを行うことによりシグナルペプチド領域を含むヒトOPN−cの全長をコードするcDNAを得た。このアイソフォームccDNAは、アイソフォームa、bと同様な方法でpGEX4Tベクターに組み換え、GST融合蛋白を作製した(以後、「GST−OPN−c」という)。

OPNct−3:
5'−ACACAGCATTCTTTTCCACAGAAC
TTCCAGAATCAGC−3'
OPNct−5:
5'−TGAGGAAAAGAATGCTGTGTCCTC
TGAAGAAAACC−3'

OPN−aのトロンビン開裂部位よりアミノ末端側半分(M1−R168)をコードするcDNAは、上記のOPN−a cDNAを鋳型として、OPN−5と下記のOPNnh−3プライマーを用いてPCRをうことによって、得られた。アイソフォームa、bと同様な方法でpGEX4Tベクターに組み換え、GSTタンパク質を作製した(以後、「GST−Nhalf」という)。
OPNnh−3:
5'−GCCTCGAGTTACCTCAGTCCATAA
ACCACACT−3'

OPN−aのトロンビン開裂部位よりカルボキシル基側のオステオポンチンタンパク質(hOPNChalf)は、二段階PCRによりOPN−a cDNAを鋳型として作製した。一段階目はOPN−5、下記のOPNch−3プライマー、下記のOPNch−5とOPN−3プライマーでそれぞれPCRを行った。二段階目はOPN−5とOPN−3プライマーでPCRを行うことによりカルボキシル基側OPNタンパク質を作製した。アイソフォームa、bと同様な方法でpGEX4Tベクターに組み換え、GSTタンパク質を作製した(以後、「GST−Chalf」とする)。

OPNch−3:
5'−TCTTAGATTTGGCACAGGTGATGC
CTAGGAG−3'
OPNch−5:
5'−CACCTGTGCCAAATCTAAGAAGTT
TCGCAGA−3'

種々の組換えGST−OPN融合蛋白は、常法に従って大腸菌より調製し、上記文献で述べた方法によりグルタチオン−セファローズカラムを使用して、精製した。このうち、GST−Nhalf蛋白については、連結部分をプレシジョン・プロテアーゼ(PreScission;アマーシャム・ファーマシア・バイオテック社)で開裂させることによって、GST蛋白部分を取り除き、OPNのアミノ末端側半分(I17−R168)のみから構成される蛋白(以下、「nOPN」という)を得た。

一方、OPN−aの全長 (M1−N314)をコードするcDNAについては、さらに、pcDNA3.1(+)ベクター(インビトロゲン社)に挿入し、CHO−K1細胞(大日本製薬(株)社製)にトランスフェクトした(以下、「CHO/OPN−a細胞」という)。 この細胞より得られた糖鎖結合型のOPN−a(以下、「CHO/OPN−a」という)については、以下のようにして精製した。即ち、CHO/OPN−a細胞の培養上清をDEAE−セファローズCL−6Bカラム(アマルシャム・ファルマシア・バイオテク社製)を用いたイオン交換クロマトグラフィー、ULTROGELAcA44カラム(BioSepra SA製)を用いたゲル濾過クロマトグラフィーに付し、これに引き続いて、RESOURCERPCカラム(アマーシャム・ファルマシア・バイオテク社製)での逆相カラムクロマトグラフィーにより精製した。
免疫感作や結合の研究に用いた種々のペプチドは、シグマ・ゲノシス・ジャパン社から入手し、あるいは、ペプチド合成機(モデル432A、パーキンエルマーライフサイエンス社)でFmoc(N−(9−フルオレニル)メトキシカルボニル)法により化学合成した後、C18逆相カラムクロマトグラフィーで精製することにより得た。

実 施 例 2
モノクローナル抗体の製造:
下に示すような、ヒトOPNの内部配列に対応する合成ペプチドを用意し、免疫に使用した。
ペプチド1;
CVDTYDGRGDSVVYGLRS(C+V153からS169)
ペプチド2;
CIDSQELSKVSREFHSH(C+I261からH276)
このうち、ペプチド1は、それぞれαvβ3とα9β1インテグリンレセプターを認識するRGDとSVVYGLR配列を有する。
これらのペプチドを、サイログロブリン(thyroglobulin)と結合させ、常法に従ってマウスの免疫に用いた。続いて、免疫されたマウスから脾細胞(splenocytes)を分離し、ポリエチレングリコールを用いてマウス骨髄腫細胞P3−X63−Ag8−653と細胞融合に付した。そして、文献(M.Kinebuchiet al., (1991): J. Immunol., 146, 3721-3728) に述べた方法により、免疫に使用したペプチドに反応するハイブリドーマを選択した。
ペプチド1および2で免疫したマウスから、それぞれ2K1および4C1と名付けたモノクローナル抗体を得た。なお、モノクローナル抗体2K1を産生するハイブリドーマについて、2001年6月20日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地 1 中央第6)にFERM BP−7883として寄託した。また、モノクローナル抗体53(mAb53)は、全長組換えヒトOPNで免疫することにより得られたものである(D.S.Bautista at al., (1994): J. Biol. Chem., 269, 23280-23285)。

実 施 例 3
OPNおよびそのトロンビン消化物とモノクローナル抗体の反応性:
実施例2で得られたモノクローナル抗体2K1および4C1のOPNおよびそのトロンビン消化物に対する結合能をウエスタンブロット法を用いて試験した。2K1抗体はGST−OPN−a、GST−OPN−b、GST−OPN−cおよびGST−Nhalfと反応することがわかった。また、4C1抗体はGST−OPN−a、GST−OPN−b、GST−OPN−cおよびGST−Chalfと反応することがわかった。更に、これらのモノクローナル抗体は、大腸菌から生産した糖鎖非結合型の組換えOPNと結合するばかりでなく、糖鎖結合型CHO/OPN−a蛋白及びそのトロンビン消化物(以下、「トロンビン開裂OPN」という)とも反応した。

実 施 例 4
モノクローナル抗体によるOPNに対する細胞接着の阻害:
モノクローナル抗体がOPNに対する細胞の接着を阻害するかどうかを以下の方法で調べた。まず、96穴プレートを、4℃で一晩、種々の濃度のCHO/OPN−aでプレコートし、次いで10分間、37℃の条件で0.5%BSAのPBSにより非特異的接着をブロックするための処理を行った。ヒト線繊維芽細胞TIG−7またはインテグリンα9サブユニットcDNAで形質転換したSW480細胞(以下、「α9形質転換SW480細胞」という)を、0.25%BSAを含むD−MEMに懸濁させ、細胞懸濁液(細胞濃度は、5×10細胞/ウエル)200μlを、種々の濃度のモノクローナル抗体または合成ペプチドの存在または不存在下でCHO/OPN−aまたはnOPNでプレコートした96穴プレートに注入し、1時間、37℃でインキュベートした。
培地をプレートから除去し、全てのウエルを0.25%BSAを含むD−MEMで2回洗浄した。接着した細胞は固定し、20%メタノール中の0.5%クリスタルバイオレットで30分間染色した。
全てのウエルは、水で3回すすぎ、接着した細胞は20%酢酸により転溶させた。各ウエルから得られた結果物の上清をイムノリーダーで分析し、590nmの吸収をウエルに接着した細胞の相対的数を求めるために測定した。全てのアッセイは、3回行い、少なくとも3つの独立した実験を行った。示される値は、少なくとも3つの別々の実験の平均である。
TIG−7はOPNに良く接着することが知られているが、図1のAに示されているように、この接着は明らかにGRGDSPペプチド(100μg/ml)で阻害され、コントロールペプチド(OPNのC末部分であるK296−N314)(100μg/ml)で阻害されないので、RGD依存である。また、図1のBに示すように、200μg/mlの2K1抗体はOPNに対する細胞接着を阻害することが明らかになった。更に、図1のCに示すように、2K1の細胞接着阻害効果は、mAb53が示すものに匹敵し、濃度依存的である。なお、2K1およびmAb53は、TIG−7細胞のビトロネクチン(VN)やフィブロネクチン(FN)への接着は阻害しない。
図2は、nOPNおよびビトロネクチンと、α9形質転換SW480細胞との接着に対するモノクローナル抗体の阻害を示した図面である。図2のAに示すように、1μg/mlのビトロネクチンとα9形質転換SW480細胞との接着は、200μMのGRGDSPペプチド(RGD)で阻害されることからRGD依存である。3μg/mlのnOPNに対するα9形質転換SW480細胞の接着は、200μMのGRGDSPペプチド(RGD)と抗α9β1モノクローナル抗体であるY9A2(A. Wang et al., (1996): Am. J. Respir. Cell Mol. Biol., 15,664-672)を併用することにより阻害されることから、RGD依存および非依存性の接着である。また、図2のBは、α9形質転換SW480細胞とnOPNおよびビトロネクチンの接着に対する2K1の影響を示している。α9形質転換SW480細胞とビトロネクチンの接着は、2K1により阻害されないが、nOPNとの接着は2K1により阻害される。この結果、2K1はRGD依存性の接着阻害能を保持していることが判明した。

実 施 例 5
モノクローナル抗体によるOPN−誘導単球遊走の阻害:
U937細胞を用いた細胞遊走試験は、ChemoTx101−8システム(ニューロプローブ社)を用いて行った。細胞は、0.1%BSAを含むD−MEMで2×106/mlとなるように調整し、フィルター(ポアサイズ8μm)の上層に加え、下層にはOPNタンパク質を加えた。
ChemoTxプレートは、37℃、5%CO存在下で4時間静置した。静置後、フィルターをメタノールで固定し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H−E)で染色した。フィルターの裏面まで遊走した細胞数を顕微鏡下、倍率400倍で算定した。試験は3回行い、その平均をデータとした。この結果を図3に示す。
図3aは、表示された濃度における、CHO/OPN−a、トロンビン開裂OPNおよびGST−Nhalfに対するU937細胞の細胞遊走を示す。また、図3bは、50μg/mlの抗原特異精製された2K1、mAb53または対照であるマウスIgGの存在または不存在下、10μg/mlの各OPNを用いた阻害アッセイである。
図3aおよび図3bに示されるように、CHO/OPN−a、トロンビン開裂OPNおよびGST−Nhalfは、ヒト単球細胞U937の遊走を濃度依存的に誘導する(A)。2K1抗体は、CHO/OPN−a、トロンビン開裂OPNおよびGST−Nhalfにより誘導された単球細胞遊走を明らかに阻害する。これに対し、mAb53は、全長OPNにより誘導される単球細胞遊走を阻害するだけである(B)。
参 考 例 1
OPNと関節炎誘発:
関節炎におけるOPNの働きを明らかにするため、常法に従ってOPN遺伝子欠損マウス(S. R. Rittling et al., (1998): J. Bone Mminer.Res.,13 (7), 1101-1111)を人工的に作製し、正常なマウスと比較実験を行った。
OPN遺伝子欠損マウス(OPN−/−)と正常マウス(OPN+/+)のそれぞれに、関節炎を引き起こす薬剤として市販されている関節炎惹起用モノクローナル抗体カクテル(商品名:関節炎用カクテル、Arthrogen-CIA(登録商標) mAb, Arthritogenic mAb cocktail、岩井化学薬品社製)を用い、製品添付書類に従い投与し、関節炎を惹起し、その程度を観察した。対照としては、両マウスに生理食塩水を投与したものを用いた。
関節炎の程度は、下記に従った関節炎スコアと、投与10日後のリストの腫れで比較した。この結果を図4および図5に示す。
図4から明らかなように、関節炎用カクテル/リポポリサッカライド(以下、「LPS」という)を投与された正常マウスでは、4日目から関節炎スコアが上昇し、10日目で最高(12以上)に達した。これに対し、OPN遺伝子欠損マウスでは、5日目から関節炎スコアは上昇するものの、最高でも4以下であった。また、生理食塩水を投与した群では、いずれも関節炎スコアの上昇が見られなかった。
また、図5に見るように、リストの腫れ(手首の腫れ)もOPN遺伝子欠損マウスは正常マウスに比べて明らかに弱く、関節炎に対しOPNが関係していることが明らかである。

実 施 例 6
2K1抗体のヒト末梢血白血球遊走に対する阻害活性:
下記方法により、2K1抗体のサイトカイン活性化ヒト末梢血白血球遊走に対する阻害活性を調べた。好中球遊走阻害活性についての結果を表1に、単球遊走阻害活性についての結果を表2にそれぞれ示す。

< 実験方法 >
健常人ヒト末梢血からフィコール(Ficoll)法にて単核球画分と好中球画分を分離した(P. M.Daftarianet al., (1996): Journal of Immunology, 157, 12-20)。単球はフィコールと血清の中間層を採取し、フラスコにて37℃で1時間培養した後に付着した細胞を用いた。単球画分を採取した残りの赤血球層に3%デキストラン−PBSを5倍量加えて赤血球を凝集させてから、150×g、4℃で5分間遠心した。
凝集した赤血球が沈殿し、上清には好中球が懸濁状態で存在するので、この画分を500×g、室温で20分間遠心すると好中球が得られた。このようにして得られた単球と好中球をヒトTNF−α(20ng/mL)で一晩培養し、活性化したものを遊走実験に用いた。
遊走実験は48−ウエル マイクロ ケモタキシス チャンバー(micro chemotaxis chamber)(Neuro ProbeInc.製)を用いて行った。トロンビン開裂OPNに、2K1抗体を種々の濃度で添加したものを予め37℃で15分間放置してから、ローワー チェンバー(Lower chamber)に加えた(ヒトOPN最終濃度は 10μg/mL)。その上からポリカーボネートフィルター(ポアサイズ 5μm)を載せて、さらにアッパー チェンバー(Upper chamber)に50μLの細胞懸濁液(2×106cells/mL)を加えた。
37℃、5%CO存在下で2時間培養してから、ポリカーボネートフィルターを取り外して、フィルター上側表面の細胞を除去してから、フィルターの裏側に浸潤した細胞をディフ−クイック(Diff-Quick)(Baxter社製)にて染色した。染色した細胞数を40倍の倍率下で計測した。この結果は6ウエルの平均細胞数(cells/mm)±SDとして示した。
< 実験結果 >
2K1抗体は、TNF−αで活性化したヒト末梢血好中球および単球のトロンビン開裂OPNに対する遊走を阻害した。
好中球遊走阻害:
【表1】

単球遊走阻害:
【表2】

実 施 例 7
M5抗体の製造:
下に示すような、マウスOPNの内部配列(C+V138からR153)に対応する合成ペプチドを用意し、免疫に使用した。
M5ペプチド:
CVDVPNGRGDSLAYGLR
このペプチドをサイログログリンと結合し、これを用い常法に従ってウサギを免疫した。免疫されたウサギの抗血清を採取し、M5ペプチドN末のシステインとチオールセファロースビーズ(アマシャムファルマシアバイオテック社製)とをジスルフィド結合により結合させたカラムを用いてM5抗体を製造した。

実 施 例 8
OPNおよびそのトロンビン消化物とM5抗体の反応性:
実施例7で得られたM5抗体のOPN、およびそのトロンビン消化物に対する結合能はウエスタンブロット法を用いて試験した。用いたOPNはCHO細胞から生産されたグリコシル化フォームの組換えマウスOPNを用いた。M5抗体はOPNおよびそのトロンビン消化物と反応した。

実 施 例 9
M5抗体によるOPNに対する細胞接着の阻害:
M5抗体がOPNに対する細胞接着を阻害するかどうかを、文献(S. Kon et al., (2002): J. Cell. Biochem., 84(2),420-432)に述べた方法で調べた。OPNは、プレシジョン・プロテアーゼ(アマシャムファルマシアバイオテック社製)によりGST部を除去した全長マウスOPN(以下、「mOPN/de−GST」という)を使用した。細胞はマウスNIH3T3細胞を使用した。
図6に示されているように、NIH3T3細胞はmOPN/de−GSTに対し濃度依存的に接着する。また、図7に示すように、この接着は明らかにGRGDSPペプチド(100μg/mL)で阻害されるので、RGD依存である。図8に示すように、200μg/mLのM5抗体はOPNに対する細胞接着を阻害することが明らかとなった。

実 施 例 10
M5抗体のマウス脾臓由来単核球遊走に対する阻害活性:
下記方法により、M5抗体のサイトカイン活性化マウス脾臓由来単球遊走に対する阻害活性を調べた。この結果を表3に示す。

< 実験方法 >
C57BL/6マウスの脾臓細胞をスライドガラスですり潰して単細胞にしてから、フラスコにて37℃で1時間培養して付着した細胞を単球として用いた。この単球をヒトTNF−α(20ng/mL)で一晩培養し、活性化したものを遊走実験に用いた。遊走実験は、前記実施例6のヒトの場合と同様の方法で行った。

< 実験結果 >
M5抗体は、全長マウスOPN(Genzyme社製)をウシトロンビン(Sigma社製)にて切断した得られたトロンビン切断型マウスOPNに対するTNF−αで活性化したマウス脾臓由来単球の遊走を阻害した。

【表3】

実 施 例 11
M5抗体の骨破壊抑制作用:
下記方法により、M5抗体のマウスカルバリア器官培養系における骨破壊抑制作用を調べた、この結果を表4に示す。

< 実験方法 >
生後1日目の仔マウスの頭蓋骨を切り出し、その半分を大きさを揃えてから24ウエルプレートの各ウエルに入れた。これらに、ヒトパラチロイドホルモン(Parathyroid hormone,PTH )(1−34)を最終濃度が10nMになるようにD−MEM培養液(10%ウシ血清添加)に添加したものを加えて骨破壊を引き起こした。M5抗体は、最終濃度200μg/mLになるように添加した。37℃で1週間培養した後に、骨から培養液中へ遊離したカルシウム量をカルシウムEテストワコー(和光純薬)にて定量した。

< 実験結果 >
PTH未添加では、7.02mg/mLのカルシウム値を示したが、PTH添加により、9.11mg/mLと骨からのカルシウムの遊離促進が見られた。 M5抗体を200μg/mLの濃度で添加しておくと、骨吸収が約70%阻害されることが確認された。
【表4】

実 施 例 12
M5抗体のマウスコラーゲン関節炎モデルにおける効果:
下記方法により、M5抗体のマウスコラーゲン関節炎モデルにおける効果を調べた。関節炎スコアについての結果を表5に、足浮腫に対する結果を表6に、体重変化についての結果を表7に、摂餌量変化についての結果を表8にそれぞれ示す。

< 実験方法 >
関節炎の惹起には、コラーゲンに特異的な4つのエピトープを認識する関節炎惹起抗体カクテル(商品名:関節炎用カクテル、Arthrogen-CIA(登録商標) mAb, Arthritogenic mAb cocktail、岩井化学薬品社製)を用いた。マウスに、この関節炎カクテルを静脈内投与し、その3日後にLPS(100μg)を腹腔内投与することにより惹起した。関節炎はLPS投与後3日目から観察され、6日目で最大となった。
M5抗体については、LPS投与直前と3日後に、40μg,150μgまたは400μgの用量で静脈内投与した。そのコントロール群にはウサギIgG投与群(投与量:400μg)をおいた。また、抗マウスTNF−α抗体については、LPS投与直前と3日後に、200μg/マウスの用量で静脈内投与した。そのコントロール群にはラットIgG投与群(投与量:200μg)をおいた。また、MTXについては、LPS投与日から一日一回の頻度で経口(投与量:3.2mg/kg)で投与した。その際、MTXは、0.5% メチルセルロース溶液5mlに溶解したものを用いた。そのコントロール群としては、0.5% メチルセルロース溶液5mlをおいた。
評価は、1群5匹ずつで、関節炎スコア、足浮腫、体重変化、摂餌量の4項目に関して行った。
< 実験結果 >
M5抗体は、表5から表8に示すようにマウス関節炎モデル(治療効果)に対し、関節炎スコアの改善、発症遅延や足浮腫の改善など明確な抑制作用を示した。関節炎の発症は、用量依存的に抑制され、その程度は、抗マウスTNF−α抗体(投与量:200μg/マウス)投与による効果を上回るものであった。これに対して、MTXはほとんど薬効を示さなかった。
さらに、本モデルのノーマル群では、LPS投与後3日間で、約3gという著しい体重減少が観察され、この傾向は、減少率はやや緩和されるものの、3−6日目まで続いた。これに対し、M5抗体(150μg,400μg)投与群及び抗マウスTNF−α抗体投与群では、明らかな体重減少の改善が認められた。また、摂餌量については、LPS投与後3日目までは、いずれの薬剤についても激しい体重減少が観察されたが、3−6日目にかけては、M5抗体投与群及び抗マウスTNF−α抗体投与群で改善が認められた。関節スコアに対する効果を表5に、足浮腫抑制効果を表6に、体重変化および摂餌量変化をそれぞれ表7および表8に示す。
【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

実 施 例 13
OPN関連フラグメントペプチドの入手:
OPN関連フラグメントペプチドは、HPLCクロマトグラフィー精製した状態の品をオースペップ(Auspep Inc.,Parkiville,Australia)より購入した。それらのアミノ酸配列は、下記の(1)から(3)の通りである。
hOPN5: CVDTYDGRGDSVVYGLRS
(C+V153からS169)(1)
hOPN3: KSKKFRRPDIQYPDATDEC
(K170からE187+C)(2)
hOPN1: IPVKQADSGSSEEKQC
(I17からQ31+C) (3)

実 施 例 14
免疫用抗原の作製:
免疫原として、OPN関連フラグメントペプチドとサイログロブリンとの結合体をEMCS(N−(6−Maleimidocaproyloxy)−succinimide)法により、以下のようにして作製した。なお、結合体を作るにあたり、サイログロブリンとOPN関連フラグメントペプチドとEMCSのモル比をそれぞれ1:300:400とした。
実施例13の各OPN関連フラグメントペプチド4mgを、それぞれ約1mlの蒸留水に溶解した。一方、1mlの0.01Mリン酸バッファー(pH7.0)に5mgのサイログロブリンを溶解したものと、ジメチルホルムアミドで溶解したEMCS80μg/μlとをそれぞれ上述モル相当量になるように混合し、サイログロブリン−EMCS複合体溶液を作製した。この複合体溶液を3つに分け、その各々に上記OPN関連フラグメントペプチド溶液を上述モル相当量加えることにより、EMCSで架橋されたOPN関連フラグメントペプチドとサイクログロブリンとの結合体溶液を作製した。
この結合体溶液を、PBSを用いて透析し、結合体として10μg/μlになるように濃度調製した。このようにして得られたOPN関連フラグメントペプチドとサイログロブリンとの結合体を免疫用抗原として用いた。

実 施 例 15
スクリーニング用抗原の作製:
スクリーニング用OPNタンパク質として、GSTとヒトOPNアイソフォームとの融合蛋白であるGST−OPN−a、GST−OPN−b、GST−OPN−c、トロンビン開裂部位よりアミノ基側のOPNフラグメント(GST−Nhalf)、及びカルボキシル基側のOPNフラグメント(GST−Chalf)は、それぞれ実施例1に述べた方法により調製し、抗血清のOPNに対する反応性に用いた。

実 施 例 16
免 疫 感 作 :
免疫用抗原として、実施例14において得られたOPN関連フラグメントペプチドとサイログロブリンとの結合体を用い、ウサギに免疫を行った。免疫は、1週間、または2週間おきに結合体溶液100μl(100μg)を投与することにより行った。抗原は初回免疫のみにフロイント完全アジュバントと混和し、二回目からはフロイント不完全アジュバントと混和した。8回免疫後、採血を行い、血清を分離しこれを抗血清とした。

実 施 例 17
抗血清のOPNに対する反応性:
実施例13で調製したOPN関連フラグメントペプチドを10μg/mlになるように0.1M炭酸バッファー(pH9.5)に希釈し、50μl/ウェルにて96ウェルプレートに固相した。PBSにて洗浄、0.1%BSA/PBS/0.05% NaN溶液でブロッキングした後、実施例16で得た抗血清の100倍希釈液を順次2倍希釈し、ウェルに50μl入れ、37℃にて30分間反応させた。
反応終了後、0.05%Tween20−PBSにて4回洗浄後、HRP標識抗ウサギIgG(IBL社製)を50μlずつ各ウェルに添加し、37℃で30分反応させた。反応終了後、0.4mg/mlオルトフェニレンジアミン(OPD)と0.03%過酸化水素水を含む0.05Mクエン酸緩衝液(pH4.5)を100μlずつ各ウェルにいれ、室温で15分間遮光状態で放置し、発色させた。発色後、1N硫酸100μlを各ウェルに加え、反応を停止させ、492nmの吸光度を測定した。
一方、実施例15で調製したOPNタンパク質を用いて、ウエスタンブロット法にて抗血清の反応性を調べた。その結果、OPN関連フラグメントペプチドhOPN1およびhOPN5に対する抗血清は、GST-OPN-a,GST−OPN−b, GST−OPN−cおよびGST−Nhalfに反応するが、GST−Chalfには反応しなかった。一方、OPN関連フラグメントペプチドhOPN3に対する抗血清は、GST-OPN-a,GST−OPN−b, GST−OPN−cおよびGST−Chalfに反応するが、GST−Nhalfには反応しなかった。

実 施 例 18
抗OPN関連フラグメントペプチド抗体とHRPとの
結合体作製:
OPN関連フラグメントペプチドhOPN3とhOPN1に対する抗体とHRPとの結合体作製は以下のように作製した。各抗OPN関連フラグメントペプチド抗体20mgをペプシン消化し、ゲル濾過することにより抗OPN関連フラグメントペプチド抗体のF(ab')フラグメントを精製し、2−メルカプトエタノールを用いることによりF(ab')フラグメントをFab'フラグメントに還元した。HRPとEMCSとを、37℃で60分反応させ、ゲル濾過することによりHRP−EMCS結合体を作製し、さらにこれと抗OPN関連フラグメントペプチド抗体Fab'フラグメントとを4℃で一晩反応させ、ゲル濾過することによりEMCS架橋による抗OPN関連フラグメントペプチド抗体とHRPとの結合体を作製した。

実 施 例 19
サンドイッチELISA系の構築:
サンドイッチELISA用プレートと標識抗体の組合せで1−3、5−1の2種類の系を作製した。このうち、1−3系は以下のように作製した。10μg/mlのOPN関連フラグメントペプチドhOPN1に対する抗体を100μlずつ96wellELISA用プレートに加えた。4℃一晩反応させた後、10%BSA/PBS/NaN3溶液にてブロッキングを行い、この状態をサンドイッチELISA用プレートとした。実施例18で作製したOPN関連フラグメントペプチドhOPN3に対する抗体とHRPとの結合抗体を標識抗体とした。このようにhOPN1に対する抗体を用いた固相プレートとhOPN3に対する抗体を用いた標識抗体の組合せを1−3系とした。
同様にして、hOPN5に対する抗体を用いた固相プレートと、hOPN1に対する抗体を用いた標識抗体の組合せを5−1系として構築した。

実 施 例 20
サンドイッチELISA系による被験者におけるオステオ
ポンチンの測定:
OPNタンパク質の測定は以下のように行った。1−3系及び5−1系のサンドイッチELISA用プレートに被験者から採取した血漿および関節腔液サンプルを含む溶液を100μl加え、37℃で一時間反応させた。反応後、0.05%Tween20−PBSで4回洗浄、それぞれの系に特異的な標識抗体を100μl加え、4℃で30分反応させた。反応後、0.05%Tween20−PBSで6回洗浄し、TMB(Tetramethylbenzidine)溶液を100μl加え、室温、遮光下30分放置した。1N硫酸で反応を止め、吸光度450nmで測定した。
上記の方法により測定したリウマチ患者関節腔液(13例)のOPN値を表9に、変形性関節症患者関節腔液(12例)のOPN値を表10に示す。また、リウマチ患者血漿(16例)のOPN値を表11に、変形性関節症患者血漿(7例)のOPN値を表12に、正常人血漿(6例)のOPN値を表13に示す。
これらの結果から明らかなように、血漿中OPN値との比較において、1−3の系では、リウマチ性関節炎患者、変形性関節症患者および健常人間で、有意差は認められなかった。しかしながら、5−1の系では、リウマチ性関節炎患者、変形性関節症患者ともに健常人との比較において、その測定値は有意に高く、その程度はリウマチ性関節炎患者に優位であった。このことは、5−1の系が反映する総OPN量が関節炎全般における診断の有効性を示唆するものである。
一方、リウマチ性関節炎患者および変形性関節症患者の関節腔液のOPN値は、血漿におけるOPN値と比較して上昇しており、局所でのOPN産生が強く示唆された。
また、関節腔液中OPN値のリウマチ性関節炎患者、変形性関節症患者間での比較において、1−3および5−1のいずれの系でも、リウマチ性関節炎患者は、変形性関節症患者と比較し、OPN値が有意に高かった。
さらに新しい指標として1−3系/5−1系のOPN値比の検討を行った。この指標は、トロンビン開裂OPNの割合を比較することができる。リウマチ性関節炎患者の血漿および関節腔液のOPN値は1以下、変形性関節症患者では2以上となり、有意差が認められた。
したがって、1−3系/5−1系のOPN値を利用することにより、リウマチ患者と変形性関節症患者を区別することが可能となる早期の検査方法として利用できる。
【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

【表13】



【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、OPNに対するRGD依存性細胞接着の阻害を示す図面である。
【図2】図2は、抗体2K1による、α9形質転換SW480細胞とnOPNのRGD依存性、およびRGD非依存性細胞接着の阻害を示す図面である。
【図3a】図3aは、OPN−誘導細胞遊走を示す図面である。
【図3b】図3bは、OPN−誘導細胞遊走の、抗体による抑制を示す図面である。
【図4】図4は、OPN遺伝子欠損マウスと正常マウスのそれぞれに、関節炎惹起抗体カクテル/LPSを投与した場合の関節炎スコアの経時変化を示す図面である。
【図5】図5は、OPN遺伝子欠損マウスと正常マウスのそれぞれに、関節炎惹起抗体カクテル/LPSを投与した場合の手首の腫れを比較した図面である。
【図6】図6は、マウスOPNとNIH3T3の濃度依存的な接着を示す図面である。
【図7】図7は、マウスOPNとNIH3T3の接着をGRGDSPペプチドが阻害することを示す図面である。
【図8】図8は、抗体M5によるマウスOPNとNIH3T3の接着阻害を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オステオポンチンのアイソフォームに対応するフラグメントペプチドと生体高分子化合物とを結合させ、当該結合物でヒトを除く動物を免疫し、当該ヒトを除く動物から抗体を採取することにより得られるオステオポンチンのアイソフォームに対する抗体。
【請求項2】
オステオポンチンのアイソフォームに対応するフラグメントペプチドが、次の式(1)、(2)または(3)で表されるペプチドである請求項第1項記載のオステオポンチンのアイソフォームに対する抗体。
CVDTYDGRGDSVVYGLRS (1)
KSKKFRRPDIQYPDATDEC (2)
IPVKQADSGSSEEKQC (3)
【請求項3】
請求項第2項記載のオステオポンチンのアイソフォームに対する抗体3種のうち、2種の抗体の組み合わせを利用する第一の免疫検出試薬と、異なる2種の抗体の組み合わせを利用する第二の免疫検出試薬とを組み合わせてなる炎症異常の検出用キット。
【請求項4】
第一の免疫検出試薬で用いる2種の抗体が、それぞれ次の式(3)および(2)
IPVKQADSGSSEEKQC (3)
KSKKFRRPDIQYPDATDEC (2)
で表されるオステオポンチンのアイソフォームに対応するフラグメントペプチドに対する抗体であり、第二の免疫検出試薬で用いる2種の抗体が、それぞれ次の式(1)および(3)
CVDTYDGRGDSVVYGLRS (1)
IPVKQADSGSSEEKQC (3)
で表されるオステオポンチンのアイソフォームに対応するフラグメントペプチドに対する抗体である請求項第3項記載の炎症異常の検出用キット。
【請求項5】
請求項第4項記載のオステオポンチンのアイソフォームに対応するフラグメントペプチド(3)および(2)に対する抗体の組み合わせを用いてトロンビン非切断型である全長オステオポンチンを検出し、請求項第4項記載のオステオポンチンのアイソフォームに対応するフラグメントペプチド(1)および(3)に対する抗体の組み合わせを用いてオステオポンチンのトロンビン切断型N末端フラグメントを検出し、トロンビン非切断型である全長オステオポンチン量とオステオポンチンのトロンビン切断型N末端フラグメント量の比率を出すことにより、リウマチ性関節炎と変形性関節症の炎症異常を鑑別する診断方法。
【請求項6】
請求項第5項記載の炎症異常の鑑別に関節腔液または血漿を使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−106767(P2007−106767A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281027(P2006−281027)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【分割の表示】特願2002−579907(P2002−579907)の分割
【原出願日】平成14年4月4日(2002.4.4)
【出願人】(399032282)株式会社 免疫生物研究所 (14)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】