説明

抗ストレス剤

【課題】 利用しやすい原料でかつ抗ストレス効果の高い抗ストレス剤を提供する。
【解決手段】 魚類(特に、鰹、鮪、鯖、鰯、鱈、鯛、鰈、平目、鮫、鮭若しくは鱒)の内臓(特に、卵巣、精巣、心臓、肝臓、胃若しくは腸)から抽出した、ドコサヘキサエン酸を構成成分とするリン脂質を有効成分として含むことを特徴とする抗ストレス剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレスに起因する種々の身体的悪影響を防止若しくは改善する抗ストレス剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ストレスが人の心身に及ぼす影響が非常に大きな問題となっている。
【0003】
すなわち、環境やライフサイクルの変化、仕事・家庭の問題や複雑な人間関係等によりストレスを受ける。厚生労働省の調査によると、日常生活でストレスを感じている人は、男性で76.9%、女性で84.2%にも上る。
【0004】
科学技術の普及やライフスタイルの変化により、生活は便利で快適になった反面、新しい知識に対応するために精神的・時間的な負担が増えたり、人間関係が希薄になったことにより、ひとりで悩みを抱えてしまう人も増えている。また、犯罪の増加や終身雇用の終焉等の不安定な社会情勢や不景気などによる経済状態の悪化も"将来への不安"という新たなストレスの種となり、ストレスの原因になっている。
【0005】
一般に、このようなストレスは、精神面における影響だけでなく、身体の免疫力を低下させ様々な疾患の原因になることが知られている。このようなストレスと免疫力の関係は、年齢を重ね免疫力が低下するに従って非常に大きな問題となる。
【0006】
このような問題を避けるには、ストレスを溜め込まない、食生活に気をつける、規則的な生活を送る、適度な運動をする、十分な睡眠をとる、といったことが一般的に求められる。アロマセラピーやリラクゼーションなどをとり入れるのも有効であるが、とりわけ、バランスのとれた食生活が、心の充足と免疫力の活性を促し保つために不可欠であるといわれており、食生活のバランスを補助するための栄養補助食品も多く利用されている。
【0007】
従来、抗ストレス剤等に使用できる食品成分に関するものとして、以下の特許文献1〜10に示すものが公開されている。
【特許文献1】特開2001−335505号公報
【特許文献2】特開2002−080363号公報
【特許文献3】特開2001−354583号公報
【特許文献4】特開2001−226281号公報
【特許文献5】特開2001−213792号公報
【特許文献6】特開2000−351710号公報
【特許文献7】特開2000−229876号公報
【特許文献8】特開2000−143521号公報
【特許文献9】特開2000−103740号公報
【特許文献10】特開2000−136143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これら従来の抗ストレス剤は、希少な原料を使用するものであったり、有効成分を抽出するのに非常に手間のかかるものであり、それゆえ非常に高価なものになると予想される。特にストレスによる胃潰瘍等は近年増加の傾向にあり、医療費の面から考えて、食品として服用しやすい抗ストレス剤が切望されている。
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、利用しやすい原料でかつ抗ストレス効果の高い抗ストレス剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その第1の主要な観点によれば、魚類の内臓から抽出した、ドコサヘキサエン酸を構成成分とするリン脂質を有効成分として含むことを特徴とする抗ストレス剤が提供される。
【0011】
ストレスに関連した症状は人により様々であるが、一般的に体や精神の不調が見られる。軽症例では肩凝り、頭痛などがある。さらにストレスがたまると、高血圧、不眠、成長期の成長阻害、胃潰瘍、狭心症などの心身症や、ノイローゼ、うつ病や不安神経症などの精神疾患を引き起こす。また最近ではストレスによって遺伝や免疫機能にまで影響し、癌の発病や進行を早めるとの指摘もある。
【0012】
このようなストレスへの身体の対応は、脳を含め神経伝達によるものである。この神経伝達は神経細胞間の神経伝達物質の送受信、すなわち、神経末端から放出された神経伝達物質が細胞表面の受容体に取り込まれることによりなされる。
【0013】
ストレスの少ない正常の場合、神経回路を伝達する興奮性の情報と抑制性の情報はバランスよくコントロールされた状態で伝達されている。しかし、ストレスによる脳の興奮が慢性化すると、前記神経伝達物質の異常な放出や神経細胞の活動低下によってこの興奮性と抑制性の情報伝達のバランスが崩れ、神経回路に伝達異常が生じることになる。その神経回路の伝達異常によって、上記のような様々な症状が生じると考えられている。
【0014】
発明者らは、ストレスが神経細胞表面での神経伝達物質の放出や取り込みに影響を与えていると考え、この点における障害を解消することで、ストレスに起因する生体の症状を緩和できるものとの知見に基づき、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、神経細胞などの細胞膜はリン脂質で構成されている。このリン脂質は細胞膜内のタンパク質を活性化し、活動を調節する働きをする。特に脳においては細胞内への栄養取り込み、老廃物の代謝、ホルモンや神経伝達物質の放出に関連していると知られている。さらに、脳の細胞膜はDHA(ドコサヘキサエン酸)を主要構成要素として含むリン脂質(DHA結合リン脂質)が多く含まれていることが知られている。
【0016】
そこで、本発明者らは、このDHA結合リン脂質を非常に多く含む魚類の内臓から抽出したリン脂質組成物、特に生殖腺油がストレス下における身体への影響の軽減、すなわち抗ストレス効果をもたらすのではないかという仮説を得、これに基づいて誠意検討、実験を重ねた結果、本発明を完成するに至ったものである。魚類の生殖腺油等は、魚加工における副産物であるので、大量にかつ安価に手に入れることができる。また、生殖腺油等は天然物であるので身体への副作用などはない。したがって、非常に安全で利用しやすい抗ストレス剤を得ることが出来る。
【0017】
また、このように得られた抗ストレス剤によれば、ストレスに対する身体の影響、例えば成長期の成長阻害、胃潰瘍、副腎肥大、血清中コルチコステロン上昇などを有効に抑制することが可能になる。それだけでなく、中性脂肪/コレステロール低下作用、ストレス下の記憶・学習能力の低下抑制効果等も期待できる。
【0018】
さらに、本発明で得られる抗ストレス剤は、脳内の神経伝達物質、例えば海馬内におけるノルエピネフリン系神経伝達物質、セロトニン系神経伝達物質、及び大脳皮質内におけるドーパミン系神経伝達物質などを減少抑制若しくは亢進する。従って、本発明で得られる抗ストレス剤は、上記の神経伝達物質が関与していると考えられているうつ病などの精神疾患に対しても有効である。
【0019】
ここで、前記魚類は、鰹、鮪、鯖、鰯、鱈、鯛、鰈、平目、鮫、鮭、鱒であり、特に、鰹及び鮪であることが好ましい。また、内臓は、卵巣、精巣、心臓、肝臓、胃、腸であり、特に精巣及び卵巣であることが好ましい。
【0020】
また、この発明の1の実施形態によれば、前記脂質組成物は、ドコサヘキサエン酸を構成成分とするフォスファチジルセリン、及びドコサヘキサエン酸を構成成分とするフォスファチジルエタノールアミンを含有する脂質組成物である。
【0021】
また、この発明の別の1の実施形態によれば、前記リン脂質は、(a)魚類の内臓を熱水若しくはスチームにより加熱処理する工程と、(b)前記加熱処理された魚類の内臓から多価不飽和脂肪酸を構成成分とするリン脂質を含む脂質組成物を溶媒を用いて抽出する工程とを含む方法によって抽出されたものである。
【0022】
このような方法によれば、リン脂質の分解を最小限にして前記リン脂質の抽出を行うことができるから、リン脂質の濃度を高くすることが可能になる。
【0023】
この発明の更なる特徴及び顕著な効果は次に記載する発明の実施の形態の項の記載から当業者にとって明らかになるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0025】
上述したように、本発明は、魚類の内臓から抽出した、ドコサヘキサエン酸を構成成分とするリン脂質を有効成分として含む抗ストレス剤である。このようなリン脂質を含むリン脂質組成物として、この実施形態では、DHA結合リン脂質含有魚類生殖腺油を使用する。
【0026】
上述したように、本発明者らは、ストレスが神経細胞表面での神経伝達物質の放出や取り込みに影響を与えていると考え、この点における障害を解消することで、ストレスに起因する生体の症状を緩和できるではないかと考え、これに基づいて本発明を完成したものである。
【0027】
すなわち、神経細胞などの細胞膜はリン脂質で構成されている。このリン脂質は細胞膜内のタンパク質を活性化し、活動を調節する働きをする。特に脳においては細胞内への栄養取り込み、老廃物の代謝、ホルモンや神経伝達物質の放出に関連していると知られている。さらに、脳の細胞膜はDHA(ドコサヘキサエン酸)と結合したリン脂質(DHA結合リン脂質)が多く含まれていることが知られている。
【0028】
本発明者らは、このDHA結合リン脂質を非常に多く含む魚類の生殖腺油がストレス下における身体への影響の軽減、すなわち抗ストレス効果をもたらすのではないかというという新たな知見を得、これに基づいて誠意検討、実験を重ねた結果、本発明を得たものである。魚類の生殖腺油は、魚加工における副産物であるので、大量にかつ安価に手に入れることができる。また、生殖腺油は天然物であるので身体への副作用などはない。したがって、非常に安全で利用しやすい抗ストレス剤を得ることが出来る。
【0029】
本発明で用いる魚類の生殖腺油は、特に、鰹や鮪、鮭、鯖などの魚類の卵巣や精巣の油であることが好ましい。この魚類生殖腺油には、DNA結合リン脂質が多く含まれていることが見出されている。
【0030】
この実施形態では、上記魚類の内臓を取得し、これを速やかにこれを所定の温度で熱水(温水)若しくはスチームにより加熱処理することで、魚類の内臓中に含まれるリン脂質の分解を進行させるフォスフォリパーゼのような酵素を失活化する。この方法によれば、例えば魚類の内臓を熱水若しくはスチームにより加熱処理することで中心部まで熱が加わり確実にフォスフォリパーゼを失活化でき、さらには魚類の内臓に存在する水溶性成分(有機酸、アミノ酸、アミン類など)を除去する事が可能となり、設備投資などであまりコストをかけず高濃度の多価不飽和脂肪酸を構成成分とするリン脂質を得ることができる。
【0031】
加熱する方法ではフォスフォリパーゼの失活化は温度が高いほど、時間が長いほど確実であるが不必要に温度と時間をかけて処理してしまうと魚類の内臓中の多価不飽和脂肪酸を構成成分とするリン脂質が分解するなどダメージが大きくなり、多価不飽和脂肪酸を構成成分とするリン脂質を高濃度で得る事が出来なくなる。一般的な酵素の失活化する温度は60℃以上であることが多く、また衛生面を考慮すると、食品中に大腸菌が検出されるのは問題であり、少なくとも大腸菌が死滅する温度、つまり60℃以上で加熱処理し、80℃〜110℃で熱水若しくはスチームにより加熱処理する。尚、加熱処理温度の下限を60℃とするのは、フォスフォリパーゼを失活化させる為にも好ましい。
【0032】
60℃以上の温度では、中性脂質の溶出、水分の減少、水溶性成分(有機酸、アミノ酸、アミン類など)の溶出等が生じることが考えられ、さらに純度が高く生臭さの少ない脂質組成物の抽出が可能となる。さらには、まだ生臭さが気になるようであれば、例えばケイ酸アルミニウムや活性炭などで処理する脱臭工程を溶媒抽出後に行う事も可能である。
【0033】
この加熱処理方法は、ボイルに限定されるものではく、原料を60℃以上の環境に置くことが必要であるのであり、熱水中に魚類の内臓を沈めてもよく、例えば、熱水を原料に噴射もしくは噴霧するようにして魚類の内臓を加熱するようにしても良い。
【0034】
さらに、加熱処理時間としては、後の実施例に示されるように、180分以内であることが好ましく、10分〜90分程度が最も好ましい。
【0035】
また、本発明に使用する魚類は、鰹、鮪、鯖、鰯等の赤身魚、鱈、鯛、鰈、平目、鮫等の白身魚の他、鮭、鱒を挙げることができる。また、使用する魚類の内臓としては、卵巣、精巣、心臓、肝臓、胃、腸等を挙げることができる。特に鰹又は鮪の精巣や卵巣から抽出する生殖油がリン脂質の抽出効率の点で最も適しており、また、水産加工業における副産物としての精巣や卵巣を使用することがコスト面からも好ましい。
【0036】
本発明により抽出される生殖油等に含まれるリン脂質としては、有効な生理的役割が解明されてきたリン脂質としてドコサヘキサエン酸を構成成分とするフォスファチジルセリン及びドコサヘキサエン酸を構成成分とするフォスファチジルエタノールアミンを含有する脂質組成物が挙げられる。
【0037】
熱水若しくはスチーム加熱処理後の生殖油等の抽出に際しては、有機溶媒または有機溶媒と水との混合溶媒を使用することができる。具体的に使用する有機溶媒としては、エタノール、メタノール、プロパノール、エチルエーテル、ヘキサン、クロロホルム等を挙げることができる。
【0038】
本実施例では、このように抽出された魚類の生殖油に関し、動物を用いた水浸拘束ストレス実験により抗ストレス効果を確認した。本実施例では、慢性ストレスに対するストレスマーカーとして「体重増加」、急性ストレスに対するストレスマーカーとして「胃潰瘍」並びに「血清コレステロール」を用いた。(「季恩有、小川秀道;ラットの実験的ストレス胃潰瘍に対するpropofol前投与の影響(第45回日本麻酔学会;1998)」等を参照のこと。)
この実施例によれば、本発明の抗ストレス剤を使用することによって、長期にわたる慢性ストレス、及び短期的な急性ストレス下における成長阻害、胃潰瘍、血清コレステロール上昇抑制効果が認められ、ヒト及びその他の動物への抗ストレス剤としての利用が有効であることが明らかになり、本発明者らの知見が正しいことが確認された。すなわち、本実施形態の魚類抽出の生殖油を有効成分として含む抗ストレス剤によれば、神経細胞表面での神経伝達物質の放出や取り込みに肯定的な影響を与え、ストレスに起因する体機能の低下を防止することができる。
【0039】
したがって、本実施形態の抗ストレス剤により症状が緩和すると考えられる医学的症状は、上記神経細胞表面での神経伝達物質の放出や取り込みに起因するものであれば良く、例えば、成長期の成長阻害、胃潰瘍、副腎肥大、血清中コルチコステロン上昇、中性脂肪/コレステロール上昇、ストレス下の記憶・学習能力の低下が含まれる。
【0040】
さらに、本発明で得られる抗ストレス剤は、脳内の神経伝達物質、例えば海馬内におけるノルエピネフリン系神経伝達物質、セロトニン系神経伝達物質、及び大脳皮質内におけるドーパミン系神経伝達物質などを減少抑制若しくは亢進する。従って、本発明で得られる抗ストレス剤は、上記の神経伝達物質が関与していると考えられている鬱病などの精神疾患に対しても有効である
また本発明における前記抗ストレス剤の形態は特に問わず、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤であってよい。また、通常の食品に混ぜてもよい。
【0041】
次に、本発明の実施例として、本実施形態に係る抗ストレス剤の効果検証を説明する。
【0042】
まず、ストレスには、長期にわたる慢性ストレスと短期的な急性ストレスがあると考えられている。本実施例においては、両ストレスにおけるDHA結合リン脂質含有魚類生殖腺油の抗ストレス効果を検討した。
【実施例1】
【0043】
(魚類の内臓から抽出したDHA結合リン脂質を含むリン脂質組成物について)
静岡県焼津市の鰹節製造工場で副産物として得られた鰹の精巣を60℃〜110℃で熱水により加熱処理し、エタノールで抽出した後、エタノールを除去して脂質組成物(生殖油)を得た。
【0044】
このようにして得られた本実施例による脂質組成物は、中性脂質27.6重量%、リン脂質72.4重量%を含有していた。比較例として、鰹の精巣を採取後加熱せず速やかにエタノールで抽出して得た脂質組成物では、中性脂質30.7重量%、リン脂質69.3重量%であった。すなわち、本実施例によれば、高比率でリン脂質を含む脂質組成物が得られる事が明らかである。
【0045】
また本実施例により得た前記脂質組成物のリン脂質からHPLCでフォスファチジルセリンを分画した結果によれば、全リン脂質中9.5重量%〜12.7重量%[12.7重量%(試料1)、12.4重量%(試料2)、9.6重量%(試料3)、9.5重量%(試料4)(試料1〜試料4の平均・・・11.05重量%)]と非常に高濃度に含まれていた。また、このフォスファチジルセリンの構成成分である脂肪酸をGCによって分析した結果、ドコサヘキサエン酸は50.2重量%〜55.2重量%[53.8重量%(試料1)、51.8重量%(試料2)、50.2重量%(試料3)、55.2重量%(試料4)(試料1〜試料4の平均・・・52.8重量%)]と非常に高い比率を占めていた。
【0046】
なお、フォスファチジルセリンの構成成分である脂肪酸は、ペンタデカン酸0.6±0.4重量%、パルミチン酸2.2±0.2重量%、マルガリン酸1.0±0.2重量%、ステアリン酸22.5±2.4重量%、パルミトオレイン酸0.1±0.1重量%、オレイン酸1.0±0.2重量%、シス−バクセン酸0.5±0.1重量%、リノール酸0.1±0.1重量%、α−リノレイン酸1.9±0.3重量%、アラキドン酸1.5±0.7重量%、エイコサペンタエン酸1.1±0.2重量%、ドコサトリエン酸1.7±0.3重量%、ドコサテトラエン酸5.6±0.4重量%、ドコサペンタエン酸4.8±0.4重量%、ドコサヘキサエン酸52.8±1.9重量%であった。
【0047】
また、同様にしてフォスファチジルエタノールアミンを調べた結果、全リン脂質中29.3重量%〜38.2重量%[38.2重量%(試料1)、30.7重量%(試料2)、29.5重量%(試料3)、29.3重量%(試料4)(試料1〜試料4の平均・・・31.93重量%)]と非常に高濃度に含まれ、構成脂肪酸のドコサヘキサエン酸も46.0重量%〜50.9重量%[49.2重量%(試料1)、50.9重量%(試料2)、46.0重量%(試料3)、50.9重量%(試料4)(試料1〜試料4の平均・・・49.3重量%)]で非常に高い割合を占めた。
【0048】
なお、フォスファチジルエタノールアミンの構成成分である脂肪酸は、ミリスチン酸0.1±0.1重量%、ペンタデカン酸0.3±0.1重量%、パルミチン酸19.8±1.1重量%、マルガリン酸1.4±0.2重量%、ステアリン酸8.4±0.6重量%、パルミトオレイン酸0.6±0.2重量%、オレイン酸3.3±0.6重量%、シス−バクセン酸1.2±0.1重量%、リノール酸0.3±0.1重量%、α−リノレイン酸0.2±0.1重量%、アラキドン酸2.8±0.4重量%、エイコサペンタエン酸2.1±0.4重量%、ドコサトリエン酸0.8±0.1重量%、ドコサテトラエン酸3.2±0.2重量%、ドコサペンタエン酸2.4±0.3重量%、ドコサヘキサエン酸49.3±2.0重量%であった。
【実施例2】
【0049】
(慢性ストレスに対する影響について)
4週齢のウイスター系雄ラットを金網で拘束し、毎日2.5時間水に浸す行為を15日間にわたり続ける慢性ストレス下で、各試験食を与えて、体重増加率を観察した。
【0050】
飼育は、対照群として飼料に菜種油を加えた群、試験食群として鮪眼窩油(中性脂質DHA)を加えた群、鮪眼窩油と同濃度のDHAを含む鰹卵巣抽出油(DHA結合リン脂質を含む)を加えた群の3つの群に分けた。
【0051】
飼育期間内の体重及び摂取量を図1に示した。図1より明らかなように、体重は対照である菜種油群、鮪眼窩油群、鰹卵巣油群の順に多く、摂取量については各群において差はなかった。
【0052】
また、15日間の体重増加率を図2に示した。図2より、対照の菜種油摂取群と比較して、鮪眼窩油群では増加傾向にあったが、有意な差はなかった。
【0053】
それに対して、鰹卵巣油摂取群では対照群と比較して有意に体重増加率が高かった。
【0054】
3つの群において摂取量が変わらないことから考えても、鰹卵巣油摂取は慢性ストレス下における成長阻害を抑制している可能性が考えられた。
【実施例3】
【0055】
(急性ストレスに対する影響について)
4週齢のウイスター系雄ラットを15日間通常飼育後、24時間絶食させ、その後金網で拘束し、水に7時間浸して急性ストレスを負荷した時の胃潰瘍の様子と血清コレステロール値を観察した。
【0056】
飼育は、対照群として飼料に菜種油を加えた群、試験食群として、鰹卵巣抽出油(DHA結合リン脂質を含む)を加えた群とし、それぞれ比較検討した。
【0057】
図3は対照群と試験食群における各胃潰瘍撮影図であり、図4は図3と同様な条件での胃出血性損傷面積率を示したものである。図3、図4より、菜種油群(対照群)と比較して、鰹卵巣油群(試験食群)は明らかに胃潰瘍が抑制されており、胃出血も少なかった。
【0058】
また、図5は対照群と試験食群における血清中総コレステロール濃度を測定した結果である。図5より、菜種油摂取群(対照群)では、血清コレステロール値がストレス負荷後に上昇したが、鰹卵巣油摂取群(試験食群)では、完全に上昇を抑制した。
【0059】
これらの結果より、鰹卵巣油摂取が急性ストレス下における胃潰瘍の発症と血清コレステロール値の上昇を抑制し、急性ストレス下における抗ストレス効果を有することが明らかになった。
【0060】
以上の結果より、DHA結合リン脂質含有魚類生殖腺油は、慢性及び急性ストレス下における成長阻害抑制、胃潰瘍抑制、血清コレステロール上昇抑制効果を有し、ヒト及びその他の動物への抗ストレス剤としての利用が有効であることが明らかになった。
【0061】
なお、この発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、以下の条件で飼育したラット:対照群として飼料に菜種油を加えた群、試験食群として鮪眼窩油(中性脂質DHA)を加えた群、鮪眼窩油と同濃度のDHAを含む鰹卵巣抽出油(DHA結合リン脂質を含む)を加えた群、の飼育期間内の体重及び摂取量を示したものである。
【図2】図2は、図1で行った実験における15日間の体重増加率を示したものである。
【図3】図3は、以下の条件で飼育したラット:対照群として飼料に菜種油を加えた群、試験食群として、鰹卵巣抽出油(DHA結合リン脂質を含む)を加えた群、のそれぞれにおける各胃潰瘍撮影図である。
【図4】図4は、図3で行った実験と同条件における各ラットの胃出血性損傷面積率を示したものである。
【図5】図5は、図3で行った実験と同条件における各ラットの血清中総コレステロール濃度を測定した結果を示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類の内臓から抽出した、ドコサヘキサエン酸を構成成分とするリン脂質を有効成分として含むことを特徴とする抗ストレス剤。
【請求項2】
請求項1記載の抗ストレス剤において、前記リン脂質は、魚類の生殖腺油であることを特徴とする抗ストレス剤。
【請求項3】
請求項1記載の抗ストレス剤において、
前記脂質組成物は、ドコサヘキサエン酸を構成成分とするフォスファチジルセリン、及びドコサヘキサエン酸を構成成分とするフォスファチジルエタノールアミンを含有する脂質組成物であることを特徴とする抗ストレス剤
【請求項4】
請求項1記載の抗ストレス剤において、
前記魚類は、鰹、鮪、鯖、鰯、鱈、鯛、鰈、平目、鮫、鮭、鱒であることを特徴とする抗ストレス剤。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、
前記内臓は、卵巣、精巣、心臓、肝臓、胃、腸であることを特徴とする抗ストレス剤。
【請求項6】
請求項1記載の抗ストレス剤において、
前記リン脂質は、
(a)魚類の内臓を熱水若しくはスチームにより加熱処理する工程と、(b)前記加熱処理された魚類の内臓から多価不飽和脂肪酸を構成成分とするリン脂質を含む脂質組成物を溶媒を用いて抽出する工程とを含む方法
によって抽出されたものであることを特徴とする抗ストレス剤

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−96674(P2006−96674A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281315(P2004−281315)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(591040513)株式会社マルハチ村松 (6)
【Fターム(参考)】