説明

抗プロテインSモノクローナル抗体

【課題】優れたアフィニティタグであるプロテインSに対して、操作が簡便で、精度、特異性、再現性に優れた検出手段及び精製手段を開発すること。
【解決手段】Myxococcus xanthus由来プロテインSを認識する抗プロテインSモノクローナル抗体、当該モノクローナル抗体を含有する測定試薬、当該モノクローナル抗体を使用するプロテインS、そのフラグメント又は分子内にプロテインSもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質の測定方法、プロテインS、そのフラグメント又は分子内にプロテインSもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質の精製方法、当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Myxococcus xanthus(M.xanthus)のプロテインSに対して特異性を有するモノクローナル抗体及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の結晶構造解析あるいはプロテオーム解析などでは、タンパク質を大量に発現・精製することが大変重要である。従来、このような目的には、目的のタンパク質にアフィニティタグ(親和性物質)を付加し、この目的タンパク質を含む試料をアフィニティタグに親和性を有する担体に接触させて担体に目的タンパク質を吸着させ、さらに夾雑物を洗浄、除去した担体から吸着物を脱離させることにより、目的タンパク質を濃縮、精製する方法が知られている。
【0003】
M.xanthusは土壌に生息するグラム陰性の粘液細菌の一種で、直径0.5〜1μm、長さ5〜10μmの長桿形の細胞形態を有する。M.xanthusは通常の栄養状態においては好気的な二分裂の増殖を行い、抗生物質や加水分解酵素を分泌し、土壌中の高分子有機態や他の微生物を栄養源として利用しているが、それらの有機体が欠乏したり、細胞密度が高くなったりすると細胞が集まり、胞子を形成する子実体形成過程の分化に転じる独特な生活環を持っている。
【0004】
M.xanthusの子実体で形成される胞子は、プロテインSと呼ばれる主要コートタンパク質で覆われる。プロテインSは、2つのカルシウム結合ドメインを有し、カルシウム依存的にM.xanthus胞子表面に集合する。タンパク質をプロテインSとの融合タンパク質として発現させた場合には、その産生量と可溶性が向上することが知られている(特許文献1)。これらのプロテインSの特性をアフィニティタグとして利用する方法、すなわち、目的のタンパク質を調製する際に、目的タンパク質をプロテインSとの融合タンパク質として発現させ、カルシウム存在下でM.xanthus胞子上に融合タンパク質を結合させ、その後融合タンパク質を溶出させるタンパク質の精製方法が考案されている(特許文献1)。
しかしながら、M.xanthus胞子は当該粘菌を培養して調製する以外の方法がなく、精製用担体としての供給に問題がある。また、胞子は生物体であり、品質、安定性を保つことが難しい。さらに、胞子は不溶性であるため、融合タンパク質の検出手段として使用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/109697号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
優れたアフィニティタグであるプロテインSに対して、操作が簡便で、精度、特異性、再現性に優れた検出手段及び精製手段の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意努力を重ね、従来入手されていなかった、プロテインSを特異的に認識する抗プロテインSモノクローナル抗体の創成に成功し、当該モノクローナル抗体を使用することにより、従来の課題が解決されること、すなわち当該モノクローナル抗体がプロテインSを利用した目的タンパク質の調製に際して、当該タンパク質の検出、定量、精製に有用であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明を概説すれば、
[1]Myxococcus xanthus由来プロテインSを認識する抗プロテインSモノクローナル抗体、
[2]モノクローナル抗体が、ハイブリドーマ細胞ProS−C57Z S6S−6F(FERM P−21816)より産生され得るモノクローナル抗体ProS−C57Z S6S−6Fである[1]記載の抗プロテインSモノクローナル抗体、
[3]モノクローナル抗体が、ハイブリドーマ細胞ProS−C57Z 7B−8F(FERM P−21817)より産生され得るモノクローナル抗体ProS−C57Z 7B−8Fである[1]記載の抗プロテインSモノクローナル抗体、
[4][1]記載の抗プロテインSモノクローナル抗体を含むプロテインS測定試薬、
[5][1]記載の抗プロテインSモノクローナル抗体又は[4]記載のプロテインS測定試薬を使用することを特徴とする被験試料中のプロテインS、そのフラグメント又は分子内にプロテインSもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質の測定方法、
[6]以下の工程を包含するプロテインS、そのフラグメント又は分子内にプロテインSもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質の精製方法;
(a)プロテインS、そのフラグメント又は分子内にプロテインSもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質を含有する試料を、固定化担体に固定化した[1]記載のモノクローナル抗体と接触させる工程;
(b)前記(a)の固定化担体から捕捉されたタンパク質を溶出させる工程、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、操作が簡便で、かつ測定精度が高く、特異性並びに再現性にも優れた抗プロテインS抗体が安定して提供される。
本発明の試薬は、被験試料中のプロテインS又はプロテインSを分子内に含有するタンパク質(例えばプロテインSと他のタンパク質との融合タンパク質)を検出、定量することができ、さらにプロテインSをタグとしたプロテインSと他のタンパク質との融合タンパク質の精製に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ウェスタンブロッティング解析を示す図である。
【図2】図2は、プロテインS融合タンパク質の精製を示す図である。
【図3】図3は、プロテインS融合タンパク質の精製を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において「プロテインS」とは、約19kDaのM.xanthusの粘菌胞子の主要コートタンパク質を意味する。プロテインSをコードする遺伝子は2つあり、遺伝子1及び遺伝子2と呼ばれている。天然のプロテインSは遺伝子2の翻訳産物であるが、本明細書においては、いずれの遺伝子の翻訳産物であってもよい。プロテインSをコードする核酸配列は、Genbank Accession No.J01745、遺伝子1由来のプロテインSのアミノ酸配列についてはAAA25406、遺伝子2由来のプロテインSのアミノ酸配列についてはAAA25407に開示されている。
【0012】
本発明において「プロテインSを分子内に含有するタンパク質」とは、分子内にプロテインS又はその一部(フラグメント)のアミノ酸配列を含有するタンパク質を意味する。特に限定するものではないが、例えば、目的の任意のタンパク質とプロテインS又はそのフラグメントとの融合タンパク質(以下プロテインS融合タンパク質と記載する)が例示される。本発明に使用されるプロテインS融合タンパク質は、プロテインS又はそのフラグメントが目的のタンパク質のN末端、C末端のどちらかに結合している融合タンパク質、両方に結合している融合タンパク質の両方が含まれる。さらに、本発明に使用されるプロテインS融合タンパク質は、別のタグ配列を含有していてもよい。本明細書において、プロテインSのフラグメントとは、プロテインSのN末端側の配列を有するポリペプチド、C末端側の配列を有するポリペプチド、中央部分の配列を有するポリペプチドのいずれもが含まれる。例えば、Genbank Accession No.AAA25407のアミノ酸番号1〜92の配列に相当する、配列番号2のアミノ酸配列を有するプロテインSのN末端ポリペプチドが含まれる。プロテイン融合タンパク質は、プロテインS又はそのフラグメントを1個又は複数含有し得る。特に限定はされないが、Hisタグ、2つのプロテインSのN末端ポリペプチド及び目的のタンパク質を含むプロテインS融合タンパク質である配列表の配列番号1の塩基配列にコードされるタンパク質が例示される。
【0013】
本発明において「モノクローナル抗体」とは、単一クローンの抗体生産細胞が分泌する抗体を意味し、単クローン(性)抗体ともいう。特定の抗原決定基を認識する抗体であり、アミノ酸配列の一次構造が均一である。本発明のモノクローナル抗体は、細胞融合法により調製されるハイブリドーマが産生する抗体に加えて、抗体産生細胞のmRNA等を用いて遺伝子工学的に作製された抗体も含まれる。
【0014】
(1)本発明の抗プロテインSモノクローナル抗体
本発明は抗プロテインSモノクローナル抗体を提供する。本発明の抗体は、簡便で、かつ測定精度が高く、特異性並びに再現性よくプロテインS又はプロテインS融合タンパク質を検出することができる。例えば、ウェスタンブロッティング解析に使用することができる。
【0015】
また、本発明の抗体にペプシン、パパイン等のタンパク質分解酵素を作用させ、抗体のFc部分を除去して得られる、F(ab’)、Fab’、Fab等のフラグメントも本発明で使用する抗体に含まれる。
【0016】
さらに、得られたモノクローナル抗体を基に、遺伝子工学的に製造される組換え抗体や、定常領域を他の抗体の定常領域に置換したキメラ抗体であっても良い。このような抗体は、二重特異性抗体(二価抗体)、scFv、Fab、Diabody、Triabody、Tetrabody、Minibody、Bis−scFv、(scFv)−Fc、intact−IgGが例示され、Holligerら、Nature Biotechnology、第23巻、第9号、p.1126−36(2005)に詳述される。
【0017】
本発明のモノクローナル抗体は、いわゆる細胞融合法によって作製されたハイブリドーマを使用して製造され得る。前記ハイブリドーマは、抗体産生細胞の集団と骨髄腫細胞と融合ハイブリドーマを形成させ、該ハイブリドーマをクローン化し、プロテインSを認識する抗体を産生するクローンを取捨選択し、さらに本発明の目的に好適なクローンを選別することによって初めて樹立される。
抗体産生細胞には、プロテインS又はそのフラグメントや、これらを含むポリペプチドを抗原(免疫原)として免疫された動物の脾細胞、リンパ節細胞、Bリンパ球等が利用できる。免疫させる動物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウマ、ヤギ、ウサギ等が挙げられる。前記の抗原は、M.xanthusから精製して、又はこれら抗原をコードする遺伝子を使用して遺伝子工学的に組換えタンパク質として調製することができる。また、化学的にプロテインSやフラグメント等を合成して調製することができる。かくして得られた抗原を、そのまま単独で動物の免疫に使用することができる。また、例えばKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)に代表されるキャリアタンパク質と結合させた抗原、又はPVP(ポリビニルピロリドン)と混合した抗原を、フロイントのアジュバントと混合し、動物の免疫に使用してもよい。あるいは抗原を直接フロイントのアジュバントと混合し、動物の免疫に使用することもできる。免疫は動物の皮下、筋肉内あるいは腹腔内に1回に20〜200μgの抗原−アジュバント混合物を投与することにより行われる。例えば、抗原−アジュバント混合物を2〜3週間に1回の間隔で3〜7回投与することにより、最終免疫より約3〜5日後、免疫動物の脾臓から抗体産生細胞を分取することができる。また、抗原−アジュバント混合物を1回投与し、約2〜3週間後に免疫動物のリンパ節から抗体産生細胞を分取することができる。
【0018】
骨髄腫細胞としてはマウス、ラット、ヒト等由来のものが使用される。細胞融合は例えばG.ケラー(G.Kehler)、ネーチャー(Nature)第256巻、第495頁(1975)に記載の方法、又はこれに準ずる方法により行われる。この際、30〜50%ポリエチレングリコール(分子量1000〜6000)を用い、抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを30〜40℃の温度下、約1〜3分間程度反応させる。細胞融合により得られたハイブリドーマはスクリーニングに付される。例えば、抗原としてプロテインSを用いた酵素抗体法(EIA)等により配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むプロテインS融合タンパク質と反応する抗体を生産するハイブリドーマのスクリーニングが行われる。得られた抗体産生ハイブリドーマは、例えば限界希釈法によりクローン化される。得られたクローンは、次いで目的とする高感度、高特異性のモノクローナル抗体を産生するクローンを選択するため、例えば酵素抗体法等によるスクリーニングに供される。
こうして選ばれたクローンは、例えばあらかじめプリスタン(2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン)やFIA(Freund incomplete adjuvant)を投与したBALB/cマウスの腹腔内へ移植し、10〜14日後にモノクローナル抗体を高濃度に含む腹水を採取する。この腹水からのモノクローナル抗体の回収は、イムノグロブリンの精製法として従来既知の硫安分画法、ポリエチレングリコール分画法、イオン交換クロマトグラフ法、ゲルクロマトグラフ法、アフィニティークロマトグラフ法等を応用することで達成される。
【0019】
例えば、本発明の一態様として、プロテインS又はプロテインS融合タンパク質と反応することを特徴とする抗プロテインSモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞ProS−C57Z S6S−6Fにより産生されるモノクローナル抗体ProS−C57Z S6S−6Fが挙げられる。ハイブリドーマ細胞ProS−C57Z S6S−6Fは、平成21年6月9日(原寄託日)より独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566))にFERM P−21816として寄託されている。
また、本発明の一態様として、プロテインS又はプロテインS融合タンパク質と反応することを特徴とする抗プロテインSモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞ProS−C57Z 7B−8Fにより産生されるモノクローナル抗体ProS−C57Z 7B−8Fが挙げられる。ハイブリドーマ細胞ProS−C57Z 7B−8Fは、平成21年6月9日(原寄託日)より独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM P−21817として寄託されている。
【0020】
本発明は前記の抗体を産生する細胞、すなわち本発明のモノクローナル抗体ProS−C57Z S6S−6Fを産生するハイブリドーマ細胞ProS−C57Z S6S−6F、本発明のモノクローナル抗体ProS−C57Z 7B−8Fを産生するハイブリドーマ細胞ProS−C57Z 7B−8Fを包含する。
【0021】
(2)本発明のプロテインS測定試薬及び測定方法
本発明のプロテインS測定試薬は、被験試料中のプロテインS又はプロテインS融合タンパク質を測定可能な試薬であって、前記(1)記載の抗プロテインSモノクローナル抗体を含むことを特徴とする。本発明の測定試薬は、菌体培養物などの被験試料中のプロテインS又はプロテインS融合タンパク質を、簡便、精度、特異性並びに再現性よく定量することができる。
【0022】
本発明の一態様として、本発明はさらにハイブリドーマ細胞ProS−C57Z S6S−6Fより産生されるモノクローナル抗体ProS−C57Z S6S−6F及びハイブリドーマ細胞ProS−C57Z 7B−8Fより産生されるモノクローナル抗体ProS−C57Z 7B−8Fを含むプロテインS測定試薬である。
【0023】
本発明の測定試薬は、0.156ng/mLの濃度で存在するプロテインS又はプロテインS融合タンパク質を検出することが可能である。
【0024】
本発明の測定試薬が測定対象とする被験試料には特に限定はなく、菌体培養物、細胞培養物、細菌、細胞、これらの抽出物及び培養上清等が例示される。前記菌体は、本発明の測定試薬により測定可能な試料であれば特に限定はされないが、例えば大腸菌、枯草菌、酵母などが挙げられる。前記細胞は、本発明の測定試薬により測定可能な試料であれば特に限定はされないが、例えばヒト、マウス、ラットなどの哺乳動物細胞、昆虫細胞などが挙げられる。
【0025】
本発明の測定試薬の好適な態様は、測定方法として固相酵素免疫検定(ELISA)法を含むエンザイムイムノアッセイに用いることができる、プロテインS又はプロテインS融合タンパク質の測定試薬である。その一態様として、プロテインSを認識する2種の抗体を使用する二抗体サンドイッチ法によりプロテインSの検出を行う測定試薬が例示される。このような試薬の一例として、上記(1)に記載する抗プロテインSモノクローナル抗体2種を構成成分とする測定試薬が挙げられる。これらの抗体のうち、一方は固相抗体(1次抗体)、他方は標識抗体(2次抗体)として使用することができる。ここで、固相抗体とは適切な不溶性担体に固定化された抗体を意味し、標識抗体とは適切な標識物質により標識化された抗体を意味する。固相抗体はプロテインSとの抗原抗体反応によって、対象試料中の被験物質であるプロテインSをトラップするために使用され、トラップされた前記の被験物質を検出するために標識抗体が使用される。特に(1)に記載するモノクローナル抗体ProS−C57Z S6S−6Fを固相抗体、モノクローナル抗体ProS−C57Z 7B−8Fを標識抗体とする測定試薬が好適に使用できる。
【0026】
本発明に使用されるモノクローナル抗体は、特に限定されるものではないが、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質、タンパク質などを用いて標識化され、標識抗体が作製される。放射性同位元素としては、特に限定されるものではないが、例えば[125I]、[131I]、[H]、[14C]などが好ましい。酵素としては、特に限定されるものではないが、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えばβ−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ(POD)、リンゴ酸脱水素酵素などが挙げられる。蛍光物質としては、特に限定されるものではないが、例えばフルオレスカミン、フルオレッセインイソチオシアネートなどが挙げられる。発光物質としては、特に限定されるものではないが、例えばルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが挙げられる。さらに、ビオチンのような化合物を用いることができる。本発明の測定試薬において、標識抗体は溶液又は凍結乾燥等の各種形態で提供することができる。
【0027】
固相抗体は、ビーズ、マイクロタイタープレート、試験管、ニトロセルロース膜、ナイロン膜等の担体表面に、当業者には公知の方法によって、プロテインSを認識する本発明の抗体を結合させることによって調製される。また、固相抗体を調製するための抗体、担体及び固相化に必要な試薬を、固定化する前の段階で提供しても良い。前記目的に使用される抗体も、本発明の固相抗体に含まれる。
【0028】
本発明の測定試薬の態様としては、本発明の一態様の2種のモノクローナル抗体に加えて、様々な試薬、材料、器具等を適宜含有させることができる。本発明の測定試薬を構成するモノクローナル抗体を吸着させるための吸着プレートを含んでいてもよい。また、標識した抗体を検出するための試薬、使用する際にコントロールとなる試薬を含んでいてもよい。
【0029】
(3)本発明のプロテインS又はプロテインS融合タンパク質の精製方法
本発明のプロテインS又はプロテインS融合タンパク質の精製方法は、固定化用担体に固定化した前記(1)に記載の抗プロテインSモノクローナル抗体を使用し、プロテインS又はプロテインS融合タンパク質を捕捉することを特徴とする方法であり、以下の工程を包含する。
(a)プロテインS、そのフラグメント又は分子内にプロテインSもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質を含有する試料を、固定化用担体に固定化した前記(1)に記載のモノクローナル抗体と接触させる工程;
(b)前記(a)の固定化担体から捕捉されたタンパク質を溶出させる工程。
【0030】
工程(a)において、固定化用担体への抗体の固定化手段としては、(I)疎水性相互作用や静電相互作用にもとづく吸着による固定化、(II)予め捕捉部に導入した、抗体と反応性を有する官能基との化学結合による固定化、(III)予め捕捉部に導入した、抗体と特異的に結合する物質との相互作用による固定化、などを利用することができる。
【0031】
(II)に記述の官能基としては、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシル基、ヒドラジド基、カルボジイミド基、エポキシ基、チオール基、ヒドロキシル基、各種の無水環、マレイミドなどを好適に用いることができ、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシル基がより好ましい。官能基の導入には、プラズマ処理、コロナ放電処理、紫外線照射、火炎処理、薬剤処理、表面グラフト重合、カップリング剤処理、官能基を有する物質のコーティングなどの手段を用いることができる。
【0032】
(III)に記述の、抗体と特異的に結合する物質としては、プロテインA、プロテインG、プロテインL、固定化したい抗体に対する抗体(二次抗体)、アビジン及びその誘導体、ビオチン及びその誘導体、各種金属イオンなどを用いることができる。ただし、アビジン、ビオチン及びそれらの誘導体を用いる場合には、抗体にそれぞれビオチンあるいはアビジンを導入しておく必要がある。プロテインA、プロテインG、プロテインLによる抗体の固定化は、抗原との結合能を阻害しにくいため、特に好ましく用いることができる。
【0033】
固定化用担体は、被験試料中に含まれるプロテインS又はプロテインS融合タンパク質の捕捉効率を高めるため、被験試料と接触する面積を可能な限り大きくすることが好ましい。この観点から、固定化担体は、微小な粒子又は多孔体などであることが好ましい。前記粒子としてはガラス、各種プラスチック、ゲル状物質、金属、セラミック粉末などが利用可能であり、その好ましい粒径は、直径が0.001〜1000μm、より好ましくは0.01〜500μm、さらに好ましくは0.01〜100μmであり、特に好ましくは0.1〜100μmである。多孔体としては多孔質ポリマー、多孔質ガラス、多孔質プラスチック、多孔質セラミック、金属の焼結体などが利用可能であり、その好ましい孔径は、0.001〜1000μm、より好ましくは0.01〜500μm、さらに好ましくは0.01〜100μmであり、特に好ましくは0.1〜100μmである。
【0034】
抗体が固定化された担体(以下固定化抗体と記載する)は、カラムなどに充填されていてもよい。この場合、プロテインS又はプロテインS融合タンパク質を含有する試料との接触は、試料をカラムにアプライし、重力又は吸引により試料をカラムに通すことにより実施される。
【0035】
また、固定化抗体とプロテインS又はプロテインS融合タンパク質を含有する試料との接触は、固定化抗体をプロテインS又はプロテインS融合タンパク質を含有する試料中に懸濁、分散させることにより実施することができる。この場合、固定化抗体を添加した試料を振とう又は撹拌し、その後遠心分離又は静置することにより固定化抗体を回収することができる。
【0036】
プロテインS又はプロテインS融合タンパク質を含有する試料を、固定化抗体と接触させた後、固定化抗体を洗浄することができる。プロテインS又はプロテインS融合タンパク質が結合する固定化抗体を洗浄することにより、プロテインS又はプロテインS融合タンパク質の精製純度を向上させることができる。
【0037】
工程(b)において、固定化抗体からプロテインS又はプロテインS融合タンパク質を溶出(離脱)させる手段としては、pH変化、塩濃度の変化、各種有機溶剤、界面活性剤による溶出などの一般的な方法が利用可能である。
【0038】
本発明のプロテインS又はプロテインS融合タンパク質の精製方法により、50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上の純度のプロテインS又はプロテインS融合タンパク質に精製することができる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。
【0040】
実施例1 M.xanthusのプロテインS(PrS)とStaphylococcus aureusのMazE(MazE−Sa)の融合タンパク質の発現、精製。
プロテインSとMazE−Saの融合タンパク質の発現プラスミドベクターの構築とタンパク質発現・精製は以下のようにして行った。Journal of Biological Chemistry、第259巻、第6105〜6109頁(1984)及びJournal of Bacteriology、第189巻、第8871〜8879頁(2007)の記載を参考にして、2つのプロテインSのN末端ポリペプチド及びそのC末端側に目的のタンパク質としてMazE−Saが接続された融合タンパク質をコードする遺伝子(配列番号1)及びその両端に制限酵素Nco I及びBamH I認識配列を有するDNAを合成し、これを制限酵素Nco I及びBamH Iで消化した。このDNAをpET28a(Novagen社製)ベクターの制限酵素サイトNco I−BamH I間に挿入した発現プラスミドベクター、pHisPrS2MazEsaを構築した。pHisPrS2MazEsaは、そのN末端側からヒスチジン(His)タグ、配列番号2のアミノ酸配列を有するプロテインSのN末端ポリペプチドが2つ、MazE−Saが並んだ形のキメラタンパク質の発現ベクターである。
【0041】
このプラスミドベクターで大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、得られた形質転換体を3LのLB培地中でJar培養した。OD600nmが0.5付近になった時点で終濃度1mMになるようにIPTGを添加して発現を誘導し、引き続き4時間培養を続けた。得られた菌体を400mMのNaCl、10mMのイミダゾールを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁後、超音波処理して無細胞抽出液を調製し、これからHis Trap HPを用いてプロテインSとMazE−Saとの融合タンパク質を精製した。
【0042】
実施例2 抗体の作製
(1)抗原免疫・細胞融合
実施例1で調製した1mg/mLの融合タンパク質0.2mLと、10mg/mLのKLH(Thermo社製)0.1mL、10mg/mLの架橋剤BS3(Thermo社製)50μLを混合し、室温で45分反応後、1Mグリシン緩衝液(pH8.0)を添加し、架橋抗原を調製した。1mg/mLの架橋抗原0.3mLをフロイント完全アジュバント(Thermo社製)とエマルジョンを形成させてからC57BL6マウス2匹に等分して投与した。その後、眼窩静脈血清中の抗体価の上昇を確認した上で、すべての個体に最終追加免疫を実施した。この最終免疫3日後に、2匹のマウスの脾臓を摘出し、無血清培地で分散・洗浄し脾臓細胞とした後、細胞融合用ミエローマ(P3U1)と5:1(脾臓細胞:ミエローマ)の割合で混合し、遠心上清を除いた細胞ペレットとした。この細胞混合物に適温に保温した50%PEG溶液1mLを一定速度で、軽い振とうを加えながら混合し、そのあとは無血清培地1mLを同様に一定速度で加え、合計40mLまで加え、この操作で細胞融合を実施した。
上記操作により多数の融合細胞を取得した。この幅広い母集団より抗原に特異的な抗体をスクリーニングした。
【0043】
(2)HAT選択
融合細胞のスクリーニングには、クローニング培地(三光純薬社製)にHAT(H:ヒポキサンチン、A:アミノプテリン、T:チミジン)を加えたものを用意し、融合日の翌日から3回の培地交換をこのHAT培地で行った。この培地交換操作で、成長してきた細胞は、脾臓由来のde novo合成系を持ちかつ不死化した融合細胞であった。
【0044】
(3)スクリーニング
実施例1で調製したプロテインS融合タンパク質、ならびにMazE−Saを他のタンパク質に代えて同様に調製したプロテインS融合タンパク質をそれぞれ2μg/mL PBSの濃度で調製し、50μL/ウェルで、イムノプレート(ナルジェヌンク社製)上に添加して、4℃で一晩放置して物理吸着させた。翌日、抗原溶液を捨てて、25%ブロッカーカゼイン(Thermo社製)を200μL/ウェルになるように加えて、室温(20〜30℃)で一晩放置して、ブロッキング操作を行った。その後、ブロッキング溶液を捨て、上記(2)で得られた融合細胞の培養上清(原液使用)を、ナンバリングした上でイムノプレートに投入し、一次反応を室温(20〜30℃)で1時間行った。0.1% Tween20を含むPBSで反応が終了した各ウェルを3回洗浄し、ペーパータオルで充分に液を切った。検出には、抗マウスIgGラットモノクローナル抗体カクテル−ペルオキシダーゼ(POD)標識抗体を使用した。前記抗体を1μg/mL、50μL/ウェルで添加し、室温(20〜30℃)で1時間反応を行った。その後、標識抗体液を捨て、ウェルをPBSで4回洗浄した。ペーパータオルで、洗浄液を充分に除き、POD基質であるTMBZ(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)溶液(BioFX社製)を50μL/ウェルで投入し、室温で15〜30分発色させ、等量の1N 硫酸を加えて反応を停止させた後、肉眼及びプレートリーダーで陽性株を確認し、2種類のプロテインS融合タンパク質のいずれにも特異的に反応する株の選抜を試みた。
【0045】
(4)陽性株選抜とクローニング、株樹立
(3)に示す厳格なスクリーニングの結果、プロテインSに特異的に反応する株は、試験した959ウェルに含まれる10,000以上のコロニー(株)中わずかに7株であった。この7株を用い、直ちに限界希釈法によりクローニングを行った。クローニングされた抗プロテインS抗体産生ハイブリドーマ7種類について、それぞれクローンを各2種(本株・亜株)確保することができた。
【0046】
(5)マウス腹水採取
プロテインSに反応性を示した前記のハイブリドーマクローンは、本株・亜株ともに凍結細胞としてマスター細胞を保管後、ほぼ並行しながら、本株をscid(T、B細胞欠損型)マウスの腹腔内で大量培養し、腹水として粗精製抗体を得た。腹水は、1個体あたりおよそ3〜5mLであった。
【0047】
(6)抗体精製
得られた腹水は、50%飽和硫安塩析・透析を行い、その画分をProtein Aカラムに供した。平衡化緩衝液は、3M NaCl、1.5M glycin−NaOH緩衝液(pH8.9)の高塩濃度のものを調製し、どのサブクラスのIgGであっても良好に結合する条件を採用した。平衡化緩衝液で2倍希釈した腹水硫安塩析画分を腹水液量とほぼ等量の容積のProtein A樹脂にアプライし、波長280nmの吸光度がほぼゼロになるまで平衡化緩衝液でカラムを洗った。その後、クエン酸緩衝液(pH4.0)とクエン酸緩衝液(pH3.0)の2段階で溶出を行った。溶出画分は、ただちに1M Tris−HCl緩衝液(pH9.0)で中和し、硫安塩析もしくは、遠心限外ろ過濃縮を行った。最終抗体は、PBSで透析し、0.22μmフィルターろ過により無菌化した。抗体の純度は、10%SDS−PAGE(還元加熱条件)により分析し、H鎖とL鎖以外のものがない良好な純度の抗体であることが初めて確認された。
【0048】
実施例3 抗体の選抜
(1)測定系構築のための抗体の選抜
実施例2(1)〜(6)の操作で得られた7種類の抗体に過ヨウ素酸法によってPOD標識を施した。過ヨウ素酸法は、PODの糖鎖ジオールを脱水素酸化させシッフベースを形成させ、抗体側のアミノ基と結合する方法である。すべての抗体について抗原との結合活性を保持した状態で酵素標識抗体とすることができた。これらの標識抗体を、同じ7種類の固相抗体と組みあわて、合計49通りの組み合わせで、プロテインSを定量できる系をスクリーニングした。本スクリーニングによって、高感度にプロテインSを測りこむことのできる測定系をようやく1種類得ることに成功した。その組合せは、固相抗体としてモノクローナル抗体ProS−C57Z S6S−6F、標識抗体としてモノクローナル抗体ProS−C57Z 7B−8Fを使用するものであった。モノクローナル抗体ProS−C57Z S6S−6Fを産生するハイブリドーマProS−C57Z S6S−6F、モノクローナル抗体ProS−C57Z 7B−8Fを産生するハイブリドーマProS−C57Z 7B−8FはそれぞれFERM P−21816、FERM P−21817として平成21年6月9日(原寄託日)より独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されている。
【0049】
(2)プロテインS測定系
確立した測定系を使用した測定方法を以下に示す。
(A)イムノプレート器材(ナルジェヌンク製)に、PBSで10μg/mLに希釈したモノクローナル抗体ProS−C57Z S6S−6F溶液を100μL/ウェルで投入し、4℃で一晩放置する。翌日、抗体溶液を捨て、25%ブロッカーカゼイン/PBS溶液(ブロッキング溶液)を200μL/ウェルで投入し、4℃一晩放置し、前記抗体が結合しなかった部分をタンパク質ブロックする。翌日、ブロッキング溶液を捨て、以下の測定に使用する。
(B)各濃度の検体を100μLずつマイクロピペットで各ウェルに2連ずつ加え、室温(20〜30℃)で1時間反応させる。(第一反応)
(C)反応液を捨て、0.1%Tween20含有PBSで3回洗浄後、モノクローナル抗体ProS−C57Z 7B−8F酵素標識抗体液を100μLずつ各ウェルに加え、室温(20〜30℃)で一時間反応させる。(第二反応)
(D)反応液を捨て、0.1%Tween20含有PBSで4回洗浄後、TMBZ溶液を100μLずつ各ウェルに加え、室温(20〜30℃)で15分反応させる。(発色反応)
(E)1N 硫酸を100μLずつ、TMBZ溶液を入れた順番に各ウェルに加え、反応を停止させた後よく混和する。
蒸留水を対照としてマイクロプレートリーダーをブランク補正し、波長450nmで吸光度を測定する。
標準曲線を作成し、検体の吸光度から対応するプロテインSの濃度を読み取る。
【0050】
プロテインSの標準品として、実施例1と同様の方法で、Hisタグ及び配列番号2のアミノ酸配列を有するプロテインSのN末端ポリペプチドが2つ連結したポリペプチドを調製した。上記測定系により、プロテインS標準品を測定した結果を表1に示す。上記測定系は、必要サンプル量が100μL/ウェルであり、0.156ng/mLのプロテインSも検出可能で、極めて高感度な測定系であることを確認した。
【0051】
【表1】

【0052】
(3)同時再現性試験
実施例2(2)記載の測定系により、実施例3(2)で調製したプロテインS標準品を25%ブロッカーカゼインを含むPBSで希釈して作成した3種類の濃度コントロールを用いて同時再現性試験を行った。表2に結果を示すように、CV値は良好な同時再現性を示した。
【0053】
【表2】

【0054】
(4)日差再現性試験
実施例2(2)記載の測定系で、三日間にわたり3種類の濃度コントロールを定量して日差再現性試験を行った。表3に結果を示すように、良好な日差再現性を示した。
【0055】
【表3】

【0056】
(5)添加回収試験
実施例2(2)記載の測定系でプロテインSの添加回収試験を行った。各種濃度の検体2種を等量に混合したサンプルを測定し、実測値からプロテインS量の理論値との差(=回収率)を求めた。表4に結果を示すように、添加回収率100.4%から119.1%(平均値108.38%)と良好な結果が得られた。
【0057】
【表4】

【0058】
実施例4 ウェスタンブロッティング
実施例2(1)で調製したモノクローナル抗体ProS−C57Z 7B−8Fを酵素標識してウェスタンブロッティングを行った。pCold(登録商標)ProS2(タカラバイオ社製)ベクターに、ヒトOct4遺伝子(GenBank Accession No.NM_002701.4)又はヒトLin28遺伝子(GenBank Accession No.NM_024674.4)を導入したpCold(登録商標)ProS2−Oct4及びpCold(登録商標)ProS2−Lin28を構築し、プロテインSとヒトOct4又はヒトLin28の融合タンパク質サンプルを調製した。pCold(登録商標)ProS2ベクターは、目的タンパク質とプロテインSのN末端ポリペプチドが2つ連結したポリペプチド(ProS2)との融合タンパク質を発現するベクターである。対照として、プロテインSをコードする配列を含まないpCold(登録商標)Iベクター、目的タンパク質をコードする配列を含まないpCold(登録商標)ProS2ベクターの発現タンパク質サンプルを調製した。これらのタンパク質サンプル2μLをBis−Trisゲル(NuPAGE、10%Bis、インビトロジェン社製)にアプライし、電気泳動後PVDF膜(IPVH000 10、ミリポア社製)にトランスファーした。このPVDF膜を、50%ブロッカーカゼインを含むPBS中で振とう後、1μg/mLのPOD標識したモノクローナル抗体ProS−C57Z 7B−8F、25%ブロッカーカゼインを含むPBS中で振とうして反応させた。0.1%Tween20を含むPBSで洗浄後、POD基質であるTMB Particle One Component HRP Membrane Substrate(BioFX社製)を使用して発色させた。Bis−TrisゲルのCBB(Coomassie Brilliant Blue)染色と、PVDF膜のPOD標識抗体の発色結果を図1に示す。図1に示すとおり、本発明の抗体を使用して良好にウェスタンブロッティング解析を実施することができた。
【0059】
実施例5 抗体固定化樹脂によるプロテインS融合タンパク質の精製
(1)抗体固定化樹脂の調製
樹脂1g(CNBr−activated Sepharose 4B、GEヘルスバイオサイエンス製)を用意し、グラスフィルター(3G)上で1mM 塩酸溶液により洗浄と膨潤を繰り返した。カップリングバッファー[0.25M NaCl含む0.2M ホウ酸バッファー(pH8.5)]で洗浄した樹脂と、前日よりカップリングバッファーで透析した10mgのモノクローナル抗体ProS−C57Z 7B−8Fを混合し、室温で2時間振とうした。グラスフィルターにより反応液を除去し、樹脂を0.2Mグリシンバッファー(pH8.0)と混合して樹脂の残りの活性基をブロックした。その後、カップリングバッファー、溶出試薬(8M尿素/PBS)及び0.2Mグリシンバッファー(pH2.3)で洗浄し、樹脂をPBSに懸濁して0.1%となるようにアジ化ナトリウムを添加した。
【0060】
(2)抗体固定化樹脂のプロテインS融合タンパク質捕捉能力
実施例5(1)で調製した抗体固定化樹脂(50%スラリー)1mLを1000×gで1分間遠心し、上清を捨てて480μLのPBSを添加した。そこに、実施例1で調製した556ng/μLのプロテインS融合タンパク質20μLを添加し、4℃で60分間静置した。その後、4℃、1000×gで1分間遠心し、上清を素通りサンプルとして除去した。樹脂に溶出試薬(8M尿素/PBS)250μL加え、5回のピペッティング操作により静かに混合して5分間静置した後、4℃、1000×gで1分間遠心し、上清を溶出サンプルとして回収した。上記プロテインS融合タンパク質、素通りサンプル、溶出サンプルを各5μL用いてSDS−PAGEによりプロテインS融合タンパク質の挙動を解析した。その結果を図2に示す。添加したプロテインS融合タンパク質を100%とした場合、素通りサンプル中のプロテインS融合タンパク質は約11%、溶出サンプル中のプロテインS融合タンパク質は73%であった。本発明の抗体を固定化した樹脂は、70%以上の回収率でプロテインS融合タンパク質を捕捉することが可能であることが示された。
【0061】
(3)抗体固定化樹脂によるプロテインS融合タンパク質の精製
実施例1のプロテインS融合タンパク質発現大腸菌を25mLの培地で培養し、遠心分離により菌体沈殿物を得た。菌体をPBS 2.5mLに懸濁し10分間超音波破砕した。破砕物を4℃、10000×gで20分間遠心し、上清を得た。実施例5(1)で調製した抗体固定化樹脂2mLにPBS 8mLを添加し、これを15mL容のチューブに移して2mLの上記菌体破砕物上清を添加した。抗体固定化樹脂と菌体破砕物上清を4℃で60分間混合した後、樹脂を10mLのPBSで2回洗浄した。最後に、樹脂に1mLの溶出試薬(8M尿素/PBS)を加え、5回のピペッティング操作により静かに混合して20分間室温で静置した後、溶出サンプルとして回収した。上記菌体破砕物上清と溶出サンプルを各5μL用いてSDS−PAGEにより解析した。その結果を図3に示す。図3の矢印はプロテインS融合タンパク質のバンドを示す。菌体破砕物上清中と溶出サンプル中のプロテインS融合タンパク質量はほぼ同量で、溶出サンプル中のプロテインS融合タンパク質は不純物が除去され、純度が78%と極めて純度の高いタンパク質を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上の結果は、本発明のプロテインS抗体及び測定試薬を使用する検出系は、プロテインSを特異的に高感度で測定し、性能的にも安定な系であることを示している。
【配列表フリーテキスト】
【0063】
SEQ ID NO:1 ; Nucleotide sequence encoding a fusion protein consisting of His-tag, proteinS and MazE-Sa.
SEQ ID NO:2 ; N terminal sequense of M. xanthus protein S

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Myxococcus xanthus由来プロテインSを認識する抗プロテインSモノクローナル抗体。
【請求項2】
モノクローナル抗体が、ハイブリドーマ細胞ProS−C57Z S6S−6F(FERM P−21816)より産生され得るモノクローナル抗体ProS−C57Z S6S−6Fである請求項1記載の抗プロテインSモノクローナル抗体。
【請求項3】
モノクローナル抗体が、ハイブリドーマ細胞ProS−C57Z 7B−8F(FERM P−21817)より産生され得るモノクローナル抗体ProS−C57Z 7B−8Fである請求項1記載の抗プロテインSモノクローナル抗体。
【請求項4】
請求項1記載の抗プロテインSモノクローナル抗体を含むプロテインS測定試薬。
【請求項5】
請求項1記載の抗プロテインSモノクローナル抗体又は請求項4記載のプロテインS測定試薬を使用することを特徴とする被験試料中のプロテインS、そのフラグメント又は分子内にプロテインSもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質の測定方法。
【請求項6】
以下の工程を包含するプロテインS、そのフラグメント又は分子内にプロテインSもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質の精製方法;
(a)プロテインS、そのフラグメント又は分子内にプロテインSもしくはそのフラグメントを含有するタンパク質を含有する試料を、固定化担体に固定化した請求項1に記載のモノクローナル抗体と接触させる工程;
(b)前記(a)の固定化担体から捕捉されたタンパク質を溶出させる工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−37775(P2011−37775A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187276(P2009−187276)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】