説明

抗体、耐ストレス性植物のスクリーニング方法、耐ストレス性植物、耐ストレス性植物のスクリーニングキット

【課題】耐ストレス性の強い植物をスクリーニングする方法、この方法によって選抜された耐ストレス性植物、前記方法によって耐ストレス性植物を選抜するための抗体、及びスクリーニングキットを提供する。
【解決手段】耐ストレス性植物のスクリーニング方法は、(1)植物から組織サンプルを採取する採取工程と、(2)採取した組織サンプルから蛋白質を抽出する抽出工程と、(3)抽出した蛋白質中に含まれるASR蛋白質の含有量を、特定のアミノ酸配列によって構成される抗原決定基を特異的に認識する抗体を使用する抗原抗体反応によって測定する測定工程と、を含む方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乾燥、塩害、凍害等の環境ストレスに強い耐ストレス性植物のスクリーニング方法等について、特に環境ストレスに強い植物のスクリーニングを効率よく行うことができるスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
梅などの核果類植物を含む果樹の場合、優良な形質(味、大きさ等)を備えた品種は、野菜とは異なり、果実から採取した種子を播いて育てても同じ性質の品種はできない。そのため、優良な品種を増やすためには、台木を用意して、この台木に優良な品種の枝(穂木)を接木するのが一般的である。
【0003】
さて、優良な果実を継続して一定量生産するためには、優れた穂木に加えて、乾燥、塩害、凍害、病害虫等の環境ストレスに対して耐性のある台木が必要である。このように、果樹栽培において台木は重要な役目を負っている。
【0004】
それにもにもかかわらず、従来は台木については、特にスクリーニングすることなく実生台木を使用していた。そのため、穂木に優良な品種を使用しても、果実の生産量が安定しないことが多かった(非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】河瀬憲次編 「果樹台木の特性と利用」 農文協 第8章 ウメ p.383−391
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は耐ストレス性の強い植物をスクリーニングする方法、この方法によって選抜された耐ストレス性植物、前記方法によって耐ストレス性植物を選抜するための抗体、及びスクリーニングキットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、梅において発現しているたんぱく質と耐ストレス性との関係について鋭意検討したところ、梅を含む核果類植物の耐ストレス性には複数の蛋白質が関与しており、その種類と発現量とが核果類植物の耐ストレス性と強く関連性していることを発見した。
【0008】
なお、前記蛋白質とは、ASR(Abscisic acid stress ripening)蛋白質のことであり、梅のASR蛋白質のアミノ酸配列は配列番号1に示すとおりである。また、ASR蛋白質の発現量は植物の乾燥、低温ストレス応答や耐性の獲得、種子の成熟、休眠、発芽などの生理機能に関与する植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)により発現量が調節されることが、既に知られている。
【0009】
一方、発明者は、梅以外の植物に含まれるASR蛋白質のアミノ酸配列について調べ、それを梅のASR蛋白質のアミノ酸配列と比較した。その結果を図6及び図7に示す。比較の結果、それらの間には高い相同性を有するアミノ酸配列(conjugate1及びconjugate2)が存在することが判明した。このことは梅以外の植物においても、ASR蛋白質と植物の耐ストレス性との間に強い関連性があることを示唆している。
【0010】
そこで、発明者らは、植物が有するASR蛋白質の発現量を調べることによって、耐ストレス性が強い植物をスクリーニングできることを思いつき、この発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、この発明の請求項1に記載の抗体は、植物のASR蛋白質を特異的に認識するものである。
【0012】
この発明の請求項2に記載の抗体は、請求項1に記載の抗体であって、配列番号1に記載のアミノ酸配列によって構成される梅のASR蛋白質を特異的に認識するものである。
【0013】
この発明の請求項3に記載の抗体は、請求項1又は請求項2に記載の抗体であって、配列番号2に記載のアミノ酸配列によって構成される抗原決定基を特異的に認識するものである。
【0014】
この発明の請求項4に記載の抗体は、請求項1又は請求項2に記載の抗体であって、配列番号3に記載のアミノ酸配列によって構成される抗原決定基を特異的に認識するものである。
【0015】
この発明の請求項5に記載の耐ストレス性植物のスクリーニング方法は、(1)植物から組織サンプルを採取する採取工程と、(2)採取した組織サンプルから蛋白質を抽出する抽出工程と、(3)抽出した蛋白質中に含まれるASR蛋白質の含有量を、請求項1から請求項4に記載の抗体のうちの少なくとも一種を使用する抗原抗体反応によって測定する測定工程とを含む方法である。
【0016】
この発明の請求項6に記載の耐ストレス性植物のスクリーニング方法は、(1)植物から組織サンプルを採取する採取工程と、(2)採取した組織サンプルから蛋白質を抽出する抽出工程と、(3)抽出した蛋白質中に含まれるASR蛋白質の含有量を、電気泳動によって測定する測定工程とを含む方法である。
【0017】
この発明の請求項7に記載の耐ストレス性植物は、請求項5又は請求項6に記載の耐ストレス性植物のスクリーニング方法によって、選抜されたものである。
【0018】
この発明の請求項8に記載の耐ストレス性植物は、請求項6に記載の耐ストレス性植物の子孫、クローン、又は形質転換体である。
【0019】
この発明の請求項9に記載の耐ストレス性植物のスクリーニングキットは、請求項1から請求項4の何れかに記載の抗体うちの少なくとも一種を含むものである。
【発明の効果】
【0020】
この発明の植物のスクリーニング方法等を利用することにより、環境ストレスに強い植物を高い確率でスクリーニングすることができる。そして、選抜された植物を例えば台木に使用すれば、梅などの果実を安定して生産することができ、これによって栽培農家の生活を安定・向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、conjugate1を使用して測定したASR蛋白質の含有量と吸光度との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、conjugate2を使用して測定したASR蛋白質の含有量と吸光度との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、図1のグラフから求めたASR蛋白質の含有量と吸光度との関係を示す回帰直線である。
【図4】図4は、図2のグラフから求めたASR蛋白質の含有量と吸光度との関係を示す回帰直線である。
【図5】図5は、耐ストレス性の異なる梅から抽出した蛋白質の二次元電気泳動写真である。
【図6】図6は、異なる植物に由来するASR蛋白質のアミノ酸配列の異同を比較した図である。
【図7】図7は、異なる植物に由来するASR蛋白質のアミノ酸配列の異同を比較した図であり、図6の下流側の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.抗体
この発明の抗体は、植物のASR蛋白質を特異的に認識する抗体であり、例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列によって構成される梅のASR蛋白質を特異的に認識する抗体である。具体的には、図6のconjugate1に相当する配列番号2又は図7のconjugate2に相当する配列番号3に記載のアミノ酸配列によって構成される抗原決定基を特異的に認識する抗体が挙げられる。
【0023】
また、前記抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、2つのエピトープを同時に認識することができる二機能性抗体等などが例示できる。なお、これら抗体は、ハイブリドーマ法などの慣用のプロトコールを使用して、ヒト以外の動物に、ASR蛋白質やその断片を投与することにより産生することができる。
【0024】
さらに、前記抗体は、FITC(フルオレセインイソシアネート)又はテトラメチルローダミンイソシアネート等の蛍光物質や、125I、32P、14C、35S又は3H等のラジオアイソトープや、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ又はフィコエリトリン等の酵素で標識してもよく、前記抗体とグリーン蛍光蛋白質(GFP)等の蛍光発光蛋白質などと融合させてもよい。
【0025】
2.スクリーニング方法
この発明の耐ストレス性植物のスクリーニング方法は、(1)採取工程と、(2)抽出工程と、(3)測定工程の各工程を含んでいる。そこで、各工程について以下に詳説する。
【0026】
(1)採取工程
採取工程は、植物から組織サンプルを採取する工程である。採取する組織としては、特に限定する必要はないが、採取が容易であることから葉が好ましく、中でも植物の育成に要する時間を短縮できることから子葉が好ましい。さらに、採取方法は、葉等を手でちぎる、メスや鋏で切り取るなどの公知の方法であれば特に限定することなく使用できる。なお、植物としては前記抗体によって特異的に認識されるASR蛋白質を含んでいるものであれば特に問題なく使用できるが、中でも核果類が好ましい。ここで、核果類とは子房壁が発達して果実になる果樹であって、梅、杏、サクランボ、スモモ、桃などが例示できる。
【0027】
(2)抽出工程
抽出工程は、植物組織から全蛋白質を抽出する工程であり、後述する測定工程で使用できる量と質の全蛋白質を抽出できる公知の方法であれば特に限定することなく使用することができる。具体的には、植物組織を適当なpHを有する緩衝液に入れ、ホモジナイザーによって組織、細胞を破砕し、遠心分離して上清を得る方法、市販の植物細胞溶解試薬、例えばCelLytic P(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)を使用する方法などが挙げられる。なお、必要に応じて、酵素処理や有機溶媒による処理を加えてもよい。
【0028】
(3)測定工程
測定工程は、植物のASR蛋白質含有量が測定する工程であり、ASR蛋白質含有量が測定できる公知の方法であれば特に限定することなく使用できる。なお、ASR蛋白質の含有量が多ければ多いほど耐ストレス性が高いと判断する。
【0029】
ASR蛋白質含有量は、具体的には抗原抗体反応による測定、電気泳動による測定などが例示できる。抗原抗体反応による測定とは、ASR蛋白質と特異的に結合する抗体とを使用する公知の免疫学的測定方法のことであり、より具体的には、ELISA法、RIA法、蛍光抗体法、免疫組織化学法等が挙げられる。なお、これらに使用する抗体は前記1に記載したものと同一である。
【0030】
また、電気泳動による測定とは、蛋白質が持つ電荷や分子量などの性質を利用して蛋白質を分離したのち、SR蛋白質の含有量を測定できる公知の方法であれば特に限定することなく使用できる。具体的には、一次元又は二次元電気泳動を行ったのち、蛋白質をニトロセルロース膜などに転写して、ASR蛋白質に特異的に認識する抗体を使用するウエスタンブロッティング法、電気泳動後に蛋白質を染色して画像処理しスポットの大きさから蛋白量を推定する方法などが挙げられる。
【0031】
3.植物
この発明の植物は、この発明の選抜方法によってスクリーニングされた植物、その子孫、そのクローン、その形質転換体である。なお、子孫、クローンは、有性生殖、挿し木、組織培養などの公知の方法によって得られる。
【0032】
また、形質転換体は、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し植物体を再生させる方法、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し植物体を再生させる方法、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法、アグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法等の公知の方法によって得られる。
【0033】
4.スクリーニングキット
この発明のスクリーニング方法で使用する一次抗体、二次抗体、発色剤、緩衝液、マイクロタイタープレートの各構成要素は別々に合成・購入して使用してもよい。しかし、これらを組み合わせて予めスクリーニングキットとしておけば、各構成要素を別々に購入する手間を省き、スクリーニングをより容易に行うことができる。
【0034】
以下に、実施例によりこの発明をより具体的に説明する。ただし、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても下記の実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
1.ASR蛋白質の含有量と耐ストレス性との関係
品種が異なる梅のASR蛋白質の含有量を測定し、その測定値と耐ストレス性との関係を調べた。
【0036】
(1)抗原、競合物質及び抗体の調製
以下の手順で調製した抗原及び抗体を使用した。なお、これらの抗原及び抗体は、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社に調製を依頼して入手したものを使用した。
【0037】
1)抗原の調製
配列番号2及び配列番号3に記載のアミノ酸配列によって構成されるペプチドを、通常の方法であるペプチド固相合成法によって合成した。合成したペプチドは、そのままでは抗原として認識され難いため、MBS法(m-Maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester)によって、キャリアプロテインであるKLH(Keyhole limpet hemocyanin)に結合(コンジュゲーション)させた。
【0038】
このようにして調製したペプチド−キャリアプロテインコンジュゲートのうち、配列番号2のペプチドが結合したものをConjugate1、配列番号3のペプチドが結合したものをConjugate2と名付けた。
【0039】
2)競合物質の調製
また、配列番号2及び配列番号3に記載のアミノ酸配列によって構成されるペプチドを、同様の方法でアルカリフォスファターゼ(ALP)に結合し、競合物質となるALP-Conjugate1、ALP-Conjugate2を調製した。
【0040】
3)抗体の調製
Conjugate1及びConjugate2の2抗原を混合した。この混合抗原を1羽のウサギに複数回注射して免疫し、最初に免疫してから56日後にウサギから全採血した。なお、一回当たりのペプチド−キャリアプロテインコンジュゲートの投与量は、コンジュゲートごとに100〜200μg(ペプチド相当量)である。
【0041】
全採血により得られた血液を遠心分離して抗血清を分離した。抗血清を硫安塩析して蛋白質を回収し、回収した蛋白質を簡易ゲルろ過(PD-10カラム、GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)して抗ASR抗体とした。
【0042】
なお、以下の実験では、ペプチド−キャリアプロテインコンジュゲートに応じて異なる緩衝液を使用した。具体的には、Conjugate1の濃度を測定するときには、炭酸ナトリウム(30mM)−炭酸水素ナトリウム(70mM)緩衝液(pH9.6)を使用した。また、Conjugate2の濃度を測定するときには、0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.0)を使用した。
【0043】
(2)種類の異なる梅のASR蛋白質含有量の測定
(1)で調製した抗原、競合物質及び抗体を使用して、競合法により種類の異なる梅のASR蛋白質含有量を測定した。
【0044】
1)サンプル溶液の調製
暖房なしのビニールハウスにおいて、黄土とパーライトを8:2の割合で含むプラスチックの鉢植え(高さ13cm、直径14cm)で2年間栽培した梅に水200mlを毎日散布して栽培し、ストレス処理を行っていない若葉を0.3gずつ採取した。植物細胞溶解試薬(CelLytic P、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)を添付の説明書に沿って使用して、得られた若葉から全蛋白質溶液を得た。なお、梅は耐ストレス性の弱い品種である南高、耐ストレス性の強い品種である二青の二種類を使用した。
【0045】
2)競合法によるASR蛋白質含有量の測定
マイクロタイタープレートを使用して、南高、二青に由来するサンプル溶液中のASR蛋白質の含有量を調べた。なお、Conjugate1溶液及びConjugate2溶液の希釈系列を調製して、その吸光度を同一の方法で測定して検量線を作成した。そして、この検量線に基づいてサンプル溶液中のASR蛋白質の含有量を定量的に決定した。具体的には以下の手順で行った。
【0046】
a)1次抗体の固定とブロッキング
1次抗体(Affinity Purified Antibody To Rabbit IgG(H+L) 1mg/ml、Kirkegaard & Perry Laboratories社製)を各緩衝液で50倍に希釈したのち、ヌンクイムノプレート(96well、ナルゲン・ヌンク社製)の各Wellに100μl/wellとなるように注入して、37℃で1時間放置した。抗体の希釈に使用した緩衝液に0.1% Tween20(終濃度)を添加した緩衝液を使用して、各wellを2回ずつ洗浄した。
【0047】
1次抗体の希釈に使用した緩衝液に1%BSA(終濃度)を添加した緩衝液を調製したのち、各Wellに100μl/wellとなるように注入して、37℃で1時間放置した。そして、抗体の希釈に使用した緩衝液に0.1% Tween20(終濃度)を添加した緩衝液を使用して、各wellを3回ずつ洗浄した。
【0048】
b)抗原抗体反応
全蛋白質溶液の蛋白質濃度を、プロテインアッセイ(バイオラド社製)と吸光光度計(UV mini 1240,島津製作所社製)を使用して測定した。測定値に基づいて、全蛋白質溶液を150μg/mlとなるように緩衝液で希釈し、サンプル溶液とした。検量線の作成に利用するため、Conjugate1溶液及びConjugate2溶液の希釈系列を調製した。さらに、ALP-Conjugate溶液及び抗ASR抗体は、2μg/mlとなるように緩衝液で希釈した。なお、緩衝液は、1次抗体の希釈に使用した緩衝液に1%BSAと0.1% Goat Serum(GIBCO社製)(何れも終濃度)を添加した緩衝液を使用した。
【0049】
各WellにALP-Conjugate溶液 37.5μl/well、抗ASR抗体溶液37.5μl/well、サンプル溶液30.0μl/wellとなるように注入して、37℃で1時間放置した。そして、抗体の希釈に使用した緩衝液に0.1% Tween20(終濃度)を添加した緩衝液を使用して、各wellを3回ずつ洗浄した。
【0050】
c)吸光度の測定
p-ニトロフェニルリン酸二ナトリウム(pNPP)18.7mgをグリシン緩衝液(pH10.4、100mM グリシン、1mM ZnCl2、1mM MgCl2)5mlに溶解して、発色液を調整した。この発色液を各wellに50μl/wellずつ注入したのち、37℃で2時間放置して発色させた。マイクロタイタープレートをプレートリーダー(iMark マイクロプレートリーダー、バイオ・ラド社製)にセットし、各wellの405nmにおける吸光度を測定した。その結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
(3)検量線の作成と蛋白質含有量の決定
表1の左側にある「ASR-15μg/ml」から「ASR-0μg/ml」の部分は、Conjugate1溶液及びConjugate2溶液の希釈系列について吸光度を測定した結果を示している。この部分をグラフ化した結果を図1及び図2に示す。なお、図1はConjugate1溶液を使用した場合のグラフであり、図2はConjugate2溶液を使用した場合のグラフである。
【0053】
図3及び図4には、図1及び図2のグラフから求めた回帰直線、回帰直線の方程式、決定係数R2が記載してある。なお、図3は図1の回帰直線であり、図4は図2の回帰直線である。
【0054】
(5)結論
ここで図3及び図4に記載の決定係数が1に近いことから、この回帰直線及びその方程式を利用して、サンプル溶液のASR蛋白質含有量を吸光度から推定した。その結果を表2に示す。この表2から、Conjugate1、Conjugate2の何れを使用しても、耐ストレス性の強い品種である二青が、耐ストレス性の弱い品種である南高よりもASR蛋白質の量が多いことが分かった。このことはASR蛋白質の含有量と耐ストレス性の間に強い相関があることを示唆している。
【0055】
【表2】

【実施例2】
【0056】
2.二次元電気泳動による比較
耐ストレス性の異なる梅の全蛋白質を二次元電気泳動し、プロテオームと耐ストレス性との関係について調べた。
【0057】
(1)一次元目(等電点電気泳動)
実施例1で得たサンプル溶液を膨潤液(420mg/ml尿素,140.3mg/mlチオ尿素,40mg/ml CHAPS,0.5% IPG緩衝液(IPG Buffer pH 4-7 NL(GEヘルスケア株式会社製),0.05% TBP,0.1 mg/ml BPBを含む。)に蛋白質濃度が5mg/mlとなるように混和・希釈した。膨潤液400μlを膨潤トレイ(GEヘルスケア株式会社製)に注入し、その上側からドライストリップゲル(Immobiline DryStrip pH 4-7,13 cm,GEヘルスケア株式会社製)で覆った。
【0058】
ドライストリップゲルの乾燥を防ぐため、ドライストリップゲルの上にミネラルオイル(Immobiline DryStrip Cover Fluid, GEヘルスケア株式会社製)を重層するとともに、膨潤トレイにカバーをして6時間以上静置し、ドライストリップゲルを膨潤させた。実施例1で得られたサンプル溶液を(蛋白質350μg)試料塗布用ろ紙(アナテック社製)に塗布し、ドライストリップゲル上にのせクールホレスター IPG-IEF Type P (アナテック社製)にセットして、20℃、500V 1時間、700V、1000V、1500V、2000V、2500V、3000Vを各15分、3500Vで5時間等電点電気泳動した。
【0059】
(2)二次元目(SDS-PAGE)
等電点電気泳動が完了したドライストリップゲルをSDS平衡化緩衝液(a)(6.057mg/ml Tris-HCl(pH8.8),360.4mg/ml Urea, 30%グリセロール, 20mg/ml SDS, 10mg/ml DTTを含む。)に15分間浸透し、SDS平衡化緩衝液(a)を捨てSDS平衡化緩衝液(b)(6.057mg/ml Tris-HCl(pH8.8),360.4mg/ml Urea,30% グリセロール,20mg/ml SDS,25mg/ml ヨードアセトアミドを含む。)に15分間浸透して平衡化した。平衡化したドライストリップゲルを自作のSDS-PAGEゲル(ゲル濃度10%)の上部に置いた。
【0060】
ラピダス・スラブ電気泳動槽装置(AE-6200,アトー株式会社製)にゲルをセットして、泳動バッファー(3mg/mgトリス,14.4mg/ml グリシン,1mg/ml SDS)を満たし、20mAで2.5時間、BPBバンドがゲル下端に見えるまで泳動した。
【0061】
(3)染色
電気泳動が完了したゲルをプラスチック容器に移し、超純水で5分間静かに振盪した。
【0062】
プラスチック容器から超純水を捨て、シンプリーブルーセーフステイン(インビトロジェン社製)を加え、プラスチック容器を、室温で約2時間静かに振盪した。
【0063】
プラスチック容器から染色液を除き、ゲルが充分浸る量の超純水を加えた。プラスチック容器を、室温で約1時間静かに振盪し脱色した。染色したゲルを観察した。その結果を図5に示す。
【0064】
なお、図5(a)は二青の電気泳動像写真であり、図5(b)は南高の電気泳動像写真である。また、図中の四角で囲まれた部分にあるスポットが、ASR蛋白質に該当するスポットである。
【0065】
(4)結論
この図5から、環境ストレスがない状況でも、耐ストレス性の強い二青のほうが、耐ストレス性の弱い南高よりもASR蛋白質の含有量が多いことが分かった。このことは、植物のASR蛋白質含有量と耐ストレス性との間に、強い相関関係があることを示唆している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物のASR蛋白質を特異的に認識する抗体。
【請求項2】
配列番号1に記載のアミノ酸配列によって構成される梅のASR蛋白質を特異的に認識する請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
配列番号2に記載のアミノ酸配列によって構成される抗原決定基を特異的に認識する請求項1又は請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
配列番号3に記載のアミノ酸配列によって構成される抗原決定基を特異的に認識する請求項1又は請求項2に記載の抗体。
【請求項5】
(1)植物から組織サンプルを採取する採取工程と、
(2)採取した組織サンプルから蛋白質を抽出する抽出工程と、
(3)抽出した蛋白質中に含まれるASR蛋白質の含有量を、請求項1から請求項4に記載の抗体のうちの少なくとも一種を使用する抗原抗体反応によって測定する測定工程と、
を含む耐ストレス性植物のスクリーニング方法。
【請求項6】
(1)植物から組織サンプルを採取する採取工程と、
(2)採取した組織サンプルから蛋白質を抽出する抽出工程と、
(3)抽出した蛋白質中に含まれるASR蛋白質の含有量を、電気泳動によって測定する測定工程と、
を含む耐ストレス性植物のスクリーニング方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の耐ストレス性植物のスクリーニング方法によって、選抜された耐ストレス性植物。
【請求項8】
請求項7に記載の耐ストレス性植物の子孫、クローン、又は形質転換体である耐ストレス性植物。
【請求項9】
請求項1から請求項4の何れかに記載の抗体うちの少なくとも一種を含む耐ストレス性植物のスクリーニングキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−229119(P2010−229119A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81637(P2009−81637)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】