抗体含有安定化製剤
【課題】長期保存した後も活性成分の損失が少ない、安定化させた抗体含有製剤の提供。
【解決手段】グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗体を含んでなる安定化製剤の提供。さらに、塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩を用いてpH調整を行うことを特徴とするタンパク質含有安定化製剤の製造方法を提供する。
【解決手段】グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗体を含んでなる安定化製剤の提供。さらに、塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩を用いてpH調整を行うことを特徴とするタンパク質含有安定化製剤の製造方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗体含有製剤に関し、特に長期保存した後も活性成分の損失が少ない、安定化させた抗体含有製剤に関する。本発明はさらに、塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩を用いてpH調整を行うことを特徴とするタンパク質含有安定化製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質を含有する注射用製剤が多数市場に供給されており、長期保存した後も活性成分の損失が少ない、安定化させたタンパク質含有製剤とするための種々の工夫がなされている。タンパク質製剤は、活性成分と種々の添加剤、例えば希釈剤、溶解補助剤、賦形剤、無痛化剤、緩衝剤、含硫還元剤、酸化防止剤、安定化剤、界面活性剤などを緩衝液に溶解して製造される。
【0003】
一般に、タンパク質を高濃度溶液にて保存する場合、不溶性凝集体の生成を始めとする劣化現象が問題となり、それを防止する必要がある。
例えば、免疫グロブリン、モノクローナル抗体、ヒト型化抗体等の抗体は不安定なタンパク質であり、精製工程において実施するウイルス除去のための濾過ストレス、濃縮ストレス、熱ストレスなどによって会合、凝集などの物理的、化学的変化を生じやすい。
【0004】
これまでに、タンパク質の劣化を抑制し安定に保存する方法として、凍結乾燥による安定化が広く用いられている。しかし、凍結時及び凍結乾燥時のメカニカルストレスにより変性或いは化学変化が起きる可能性があり、それを回避するために何らかの凍結保護剤を添加する必要があった。
【0005】
また、化学的、物理的変化を抑制するための安定化剤としてヒト血清アルブミンあるいは精製ゼラチンなどのタンパク質といった高分子類或いはポリオール類、アミノ酸及び界面活性剤等といった低分子類を添加することによる安定化効果が見出されている。しかしながら、タンパク質のような生体由来の高分子を安定化剤として添加することは、その安定化剤に由来するウイルス等のコンタミを除去するために非常に煩雑な工程を必要とするなどの問題があった。また、ウイルスの不活性化を目的として加熱処理を行うときに、熱ストレスにより会合、凝集などの問題を生じることがあった。
【0006】
インターロイキン−6(IL−6)レセプターは、IL−6が結合する分子量約80KDのリガンド結合性タンパク質である。抗IL−6レセプター抗体は未熟型骨髄腫細胞のIL−6のシグナル伝達を遮断し、IL−6の生物学的活性を阻害することによりIL−6が関与するさまざまな免疫異常症、炎症性疾患、リンパ球腫瘍などに治療効果を示すことが見いだされている(Tsunenari, T. et al., Blood, 90:2437, 1997; Tsunenari T. et al., Anticancer Res. 16:2537, 1996)。また、抗IL−6レセプター抗体は未熟型骨髄腫細胞の治療効果を有することが本出願人によって見いだされた(特開平8−99902号)。
【0007】
本出願人は、このような抗IL−6レセプター抗体として、再構成した(reshaped)ヒト型化抗体であるhPM−1抗体の大量生産に成功し、さらにこの精製した抗IL−6レセプター抗体の製剤化を検討してきた。
【0008】
製剤化にあたっては、その他のタンパク質製剤と同様に化学的及び物理的安定性が重要な課題である。特に、抗IL−6レセプターヒト型化抗体は不安定なタンパク質であり、精製工程において実施するウイルス除菌のための濾過ストレス、濃縮ストレス、加熱ストレスなどによって会合、凝集などの物理的、化学的変化を生じやすい。
【0009】
そこで長期の保存にも安定な抗体含有製剤、特に抗IL−6レセプターヒト型化抗体含有製剤を開発して市場に供給することが求められている。
さらに、種々の生理活性を有するタンパク質についても、これを医薬品として安定した供給量でかつ高品質に提供するためには、構造及び活性を保持しうる製造条件及び保存条件を確立することが必要とされている。特に、タンパク質溶液における不溶性凝集体の生成を抑制する方法の開発が望まれていた。
【発明の概要】
【0010】
上記目的を達成するために鋭意研究した結果、本発明者らは、グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中で抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体を製剤化することによって、加熱による凝集体生成が抑制されること、またグリシン及び/又はスクロースの添加によりさらに安定化されることを見いだし本発明を完成した。
【0011】
さらに本発明者らは、塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はそれらの塩を用いてpH調整を行うことによって凝集体の生成が少なく安定化効果が大きくなることを見いだし本発明を完成した。
【0012】
従って、本発明は、以下のものを提供する。
(1)グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗体を含んでなる安定化製剤。
(2)抗体がキメラ抗体又はヒト型化抗体である前記(1)載の安定化製剤。
(3)抗体が抗インターロイキン−6レセプター抗体である前記(1)又は(2)記載の安定化製剤。
(4)抗インターロイキン−6レセプター抗体が抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体である前記(3)記載の安定化製剤。
(5)グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液の濃度が5mM〜200mMである前記(1)記載の安定化製剤。
(6)等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含むことを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の安定化製剤。
(7)グリシン及び/又はスクロースの添加量が0.05〜1Mである前記(6)記載の安定化製剤。
(8)等張化剤としてNaClを含まない前記(1)〜(7)のいずれかに記載の安定化製剤。
(9)等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含み、かつグリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体を含んでなる安定化製剤。
(10)pHが5〜8である前記(1)〜(9)のいずれかに記載の安定化製剤。
(11)グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗体含むことを特徴とする、抗体製剤の安定化方法。
(12)等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含むことを特徴とする、前記(11)記載の安定化方法。
(13)等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含み、かつグリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体を含むことを特徴とする、抗インターロイキン−6レセプター抗体製剤の安定化方法。
(14)塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はそれらの塩を用いてpH調整を行うことを特徴とする生理活性タンパク質を含有する安定化製剤の製造方法。
(15)塩基性アミノ酸がヒスチジン、アルギニン、リジンから選択される1または2以上である前記(14)記載の製造方法。
(16)塩基性アミノ酸がヒスチジンである前記(15)記載の製造方法。
(17)生理活性タンパク質が組換えタンパク質である前記(14)〜(16)のいずれかに記載の製造方法。
(18)生理活性タンパク質が抗体である前記(14)〜(17)のいずれかに記載の製造方法。
(19)抗体がキメラ化抗体又はヒト型化抗体である前記(18)記載の製造方法。
(20)抗体が抗インターロイキン−6レセプター抗体である前記(18)又は(19)記載の製造方法。
(21)抗インターロイキン−6レセプター抗体が抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体である前記(20)記載の製造方法。
(22)ヒスチジン緩衝液中に抗体を含み、かつpHが5〜7.5である安定化製剤。
(23)抗体が抗インターロイキン−6レセプター抗体である前記(21)記載の安定化製剤。
(24)抗インターロイキン−6レセプター抗体が抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体である前記(23)記載の安定化製剤。
(25)pHが5.5〜6.2である前記(24)記載の安定化製剤。
(26)ヒスチジン濃度が1〜50mMである前記(25)記載の安定化製剤。
(27)ヒスチジン濃度が3〜20mMである前記(26)記載の安定化製剤。
(28)ヒスチジン濃度が5〜10mMである前記(27)記載の安定化製剤。
(29)pHが6.2〜7.5である前記(24)記載の安定化製剤。
(30)ヒスチジン濃度が5〜200mMである前記(29)記載の安定化製剤。
(31)ヒスチジン濃度が10〜150mMである前記(30)記載の安定化製剤。
(32)ヒスチジン濃度が25〜100mMである前記(31)記載の安定化製剤。
(33)グリシン及び/又はスクロースをさらに含む前記(21)〜(32)のいずれかに記載の安定化製剤。
(34)グリシン及び/又はスクロースの添加量が0.05〜1Mである前記(33)記載の安定化製剤。
(35)塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩を用いてpH調整を行うことを特徴とする前記(21)〜(34)のいずれかに記載の安定化製剤。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl、pH6.5に溶解したhPM−1抗体を75℃で熱処理したときの凝集体生成を示すネイティブゲル電気泳動の結果である(電気泳動の写真)。
【図2】図2は、緩衝液の種類が凝集体生成に及ぼす効果を示すネイティブゲル電気泳動の結果である(電気泳動の写真)。
【図3】図3は、緩衝液中に50mM NaClを添加して、加熱したときの凝集体生成に及ぼす効果を示すネイティブゲル電気泳動の結果である(電気泳動の写真)。
【図4】図4は、19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl中の対照hPM−1抗体のDCDTと分析から得られた沈降分布関数、g(s*)を示す。
【図5】図5は、緩衝液の種類が凝集体生成に及ぼす効果を示す沈降分布関数、g(s*)を示す。
【図6】図6は、グリシン及びスクロースの凝集体生成に及ぼす効果を示すネイティブゲル電気泳動の結果である(電気泳動の写真)。
【図7】図7は、6試料検体(サンプル1〜6)を加熱の前後でネイティブゲル分析に付した結果を示す(電気泳動の写真)。
【図8】図8は、サンプル6−1、6−2、6−3及び6−4を加熱の前後でネイティブゲル分析に付した結果を示す(電気泳動の写真)。
【図9】図9は、サンプル6−1と6−2を種々のヒスチジン濃度で比較したネイティブゲル分析結果を示す(電気泳動の写真)。
【図10】図10は、サンプル6−1、pH6.5;サンプル6−2、pH6.0;サンプル6−3、pH6.5を種々のヒスチジン濃度で比較したネイティブゲル分析結果を示す(電気泳動の写真)。
【図11】図11は、pH6.0の2つのサンプル、すなわち6−2と6−5でヒスチジンの効果を比較したネイティブゲル分析結果を示す(電気泳動の写真)。
【図12】図12は、サンプル6−1(5mMリン酸/Na、pH6.5)、サンプル6−2(5mMリン酸/His、pH6.0)及びサンプル6−5(5mMリン酸/Na、pH6.0)を比較したネイティブゲル分析結果を示す(電気泳動の写真)。
【図13】図13は、サンプル6−2にスクロース(50−200mM)を添加したとき、ならびにサンプル6−5にグリシン(50−200mM)を添加したときの効果を比較したネイティブゲル分析結果を示す(電気泳動の写真)。
【図14】図14は、pH6.0の2つのサンプル(6−2及び6−5)における200mMグリシン又はスクロースの効果を比較したネイティブゲル分析結果を示す(電気泳動の写真)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の安定化製剤に使用する抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましく、モノクローナル抗体はいかなる方法で製造されたものでもよい。モノクローナル抗体は、基本的には公知技術を使用し、感作抗原を通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作成できる。
【0015】
本発明の安定化製剤に含まれる抗体としては、抗IL−6レセプター抗体、HM1.24抗原モノクローナル抗体、抗副甲状腺ホルモン関連ペプチド抗体(抗PTHrP抗体)、抗組織因子抗体などを挙げることができるが、これに限定されない。例えば、抗IL−6レセプター抗体としては、PM−1抗体(Hirataら、J.Immunol.143:2900−2906,1989),AUK12−20抗体、AUK64−7抗体あるいはAUK146−15抗体(国際特許出願公開番号WO92−19759)などが挙げられる。
【0016】
さらに、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体に限られるものではなく、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変されたキメラ抗体を含む。あるいは再構成(reshaped)したヒト型化抗体を本発明に用いることもできる。これはヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域によりヒト抗体の相補性決定領域を置換したものであり、その一般的な遺伝子組換手法も知られている。その既知方法を用いて、再構成ヒト型化抗体を得ることができる。
【0017】
なお、必要に応じ、再構成ヒト型化抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク(FR)領域のアミノ酸を置換してもよい(Satoら、Cancer Res.53:1−6,1993)。このような再構成ヒト型化抗体としてヒト型化抗IL−6レセプター抗体(hPM−1)が好ましく例示される(国際特許出願公開番号WO92−19759を参照)。また、ヒト型化抗HM1.24抗原モノクローナル抗体(国際特許出願公開番号WO98−14580を参照)、ヒト型化抗副甲状腺ホルモン関連ペプチド抗体(抗PTHrP抗体)(国際特許出願公開番号WO98−13388を参照)、ヒト型化抗組織因子抗体(国際特許出願公開番号WO99−51743を参照)なども本発明で使用する好ましい抗体である。
【0018】
さらに、トランスジェニック動物等によって作製されたヒト抗体も好ましい。
さらに、抗体にはFab, (Fab')2などの抗体断片や、1価又は2価以上の一本鎖抗体(scFV)などの再構成したものも含む。
【0019】
本発明では、生理活性タンパク質含有試料もしくは抗体含有試料とは、生体由来タンパク質もしくは抗体であるか、あるいは組換えタンパク質もしくは抗体であるかを問わず、いかなるタンパク質もしくは抗体を含む試料であってもよく、好ましくは、培養により得られた生理活性タンパク質もしくは抗体を含むCHO細胞などの哺乳動物細胞の培養培地、あるいはこれに部分的精製などの一定の処理を施したものをいう。
【0020】
本発明者らは、19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl、pH6.5に溶解したhPM−1抗体の熱安定性を試験したところ、これを70℃以下で長期間インキュベートしてもほとんど凝集が起きなかった。次に、hPM−1抗体を75℃で熱処理したところ、凝集が形成された。この結果から、hPM−1抗体は72℃の融点で特徴付けられる熱転移を経過した後においてのみ凝集が引き起こされることを示している。インキュベート時間が増加するにつれて、凝集バンドの強度は増加し、60分後にはほとんどモノマーが存在しなくなる。これらの凝集体はドデシル硫酸ナトリウムの存在下で解離するので非共有結合性であると思われた。
【0021】
本発明者らは、この熱処理による凝集体の生成抑制に寄与するさまざまな因子を検討し、抗IL−6レセプターヒト型化抗体をグリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液に溶解することによって凝集体の生成を抑制できることを見いだした。
【0022】
従って、本発明の安定化製剤は、抗体をグリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液に溶解することによって製造できる。
グリシン緩衝液又はヒスチジン緩衝液の濃度は5〜200mM、好ましくは5〜50mM、さらに好ましくは5〜20mMである。グリシン緩衝液及びヒスチジン緩衝液はこれを単独で用いてもあるいは組み合わせて用いてもよく、組み合わせて使用する場合には、合計濃度が上記の範囲のものであればよい。
【0023】
さらに、本発明の安定化製剤は、等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを添加することにより凝集体の生成が少なく安定な製剤を得ることができる。グリシン及び/又はスクロースの添加量は0.05〜1Mである。グリシン及び/又はスクロースの凝集体減少効果はNaClを添加することによって低下し、従って本発明の製剤にはNaClを含まないことが好ましい。
【0024】
本発明の安定化製剤のpHは5〜8とすることが好ましい。
本発明者らはさらに、凝集体の生成抑制に寄与するさまざまな因子を検討し、pH調整を従来法のNaOHで行うよりも塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩を用いて行う方が凝集体の生成が少なく安定化効果が大きいことを発見した。
【0025】
従って、本発明は、塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩を用いてpH調整を行うことを特徴とするタンパク質含有安定化製剤の製造方法を提供する。
本発明の生理活性タンパク質含有安定化製剤の製造方法は、上述した抗体含有製剤のみならず、その他の生理活性タンパク質含有製剤にも有用である。生理活性タンパク質は、例えば、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン等の造血因子、インターフェロン、IL-1やIL-6等のサイトカイン、モノクローナル抗体、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、血清アルブミン、血液凝固第VIII因子、レプチン、インシュリン、幹細胞成長因子(SCF)などを含むが、これらに限定されない。タンパク質の中でも、EPO、G−CSF、トロンボポエチン等の造血因子及びモノクロナール抗体が好ましく、さらに好ましくはEPO、G−CSF及びモノクローナル抗体である。
【0026】
本発明において有効成分として使用する生理活性タンパク質とは、哺乳動物、特にヒトの生理活性タンパク質と実質的に同じ生物学的活性を有するものであり、天然由来のもの、および遺伝子組換え法により得られたものを含むが、好ましいのは遺伝子組換え法により得られたものである。遺伝子組換え法によって得られるタンパク質には天然タンパク質とアミノ酸配列が同じであるもの、あるいは該アミノ酸配列の1又は複数を欠失、置換、付加したもので前記生物学的活性を有するものを含む。さらには、生理活性タンパク質はPEG等により化学修飾されたものも含む。
【0027】
本発明において有効成分として使用する生理活性タンパク質としては、例えば糖鎖を有するタンパク質が挙げられる。糖鎖の由来としては、特に制限はないが、哺乳動物細胞に付加される糖鎖が好ましい。哺乳動物細胞には、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、BHK細胞、COS細胞、ヒト由来の細胞等があるが、この中でも、CHO細胞が最も好ましい。
【0028】
本発明において有効成分として使用する生理活性タンパク質がEPOである場合には、EPOはいかなる方法で製造されたものでもよく、ヒト尿より種々の方法で抽出し、分離精製したもの、遺伝子工学的手法(例えば特開昭61−12288号)によりチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、BHK細胞、COS細胞、ヒト由来の細胞などに産生せしめ、種々の方法で抽出し分離精製したものが用いられる。さらには、PEG等により化学修飾されたEPOも含む(国際特許出願公開番号WO90/12874参照)。さらに、糖鎖のついていないEPOをPEG等により化学修飾したものも含む。また、EPOのアミノ酸配列中のN−結合炭水化物鎖結合部位もしくはO−結合炭水化物鎖結合部位において、1以上のグリコシル化部位の数を増加させるように改変したEPO類似体も含む(例えば、特開平8−151398号、特表平8−506023号参照)。さらには、糖鎖結合部位の数は変化させずに、シアル酸等の含量を増加させることにより糖鎖の量を増加させたものであってもよい。
【0029】
本発明において有効成分として使用する生理活性タンパク質がG−CSFである場合には、G−CSFは高純度に精製されたG−CSFであれば全て使用できる。本発明におけるG−CSFは、いかなる方法で製造されたものでもよく、ヒト腫瘍細胞の細胞株を培養し、これから種々の方法で抽出し分離精製したもの、あるいは遺伝子工学的手法により大腸菌などの細菌類;イースト菌;チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、C127細胞、COS細胞などの動物由来の培養細胞などに産生せしめ、種々の方法で抽出し分離精製したものが用いられる。好ましくは大腸菌、イースト菌又はCHO細胞によって遺伝子組換え法を用いて生産されたものである。最も好ましくはCHO細胞によって遺伝子組換え法を用いて生産されたものである。さらには、PEG等により化学修飾されたG−CSFも含む(国際特許出願公開番号WO90/12874参照)。
【0030】
pH調整に使用する塩基性アミノ酸としては、ヒスチジン、アルギニン、リジンから選択される1または2以上であることが好ましく、ヒスチジンが最も好ましい。
塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩としては、遊離の塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体ならびにそれらのナトリウム塩、カリウム塩、塩酸塩などの塩を含む。本発明の方法及び製剤に使用する塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩はD−、L−またはDL−体であってよく、より好ましいのはL−体である。塩基アミノ酸誘導体には、アミノ酸ニトロ化合物、アミノアルコール、ジペプチド等を含み、例えばヒスチジンの誘導体には、特開平11−315031号に記載の誘導体、すなわちヒスチジンメチルエステル、His−Gly、His−Ala、His−Leu,His−Lys,His−Phe、イミダゾール、ヒスタミン又はイミダゾール−4−酢酸等が挙げられる。
【0031】
本発明の製造方法では、塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はそれらの塩、好ましくはヒスチジン、アルギニン、リジンならびにその誘導体及び塩から選択される1または2以上、最も好ましくはヒスチジン又はその誘導体、又はそれらの塩を用いてpHを5〜7.5とすることが好ましい。最も好ましくはヒスチジンを用いてpHを調整する。
【0032】
本発明の製造方法の好ましい態様では、抗体をヒスチジン緩衝液中に含む製剤について、塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩を用いてpH調整を行う。例えば、従来のリン酸緩衝液よりもヒスチジン緩衝液中に抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体を含む方が凝集体の生成を少なくできる。しかし、その他の緩衝液を使用することもできる。
【0033】
製剤のpHと緩衝液中の好ましいヒスチジン濃度には相関があり、製剤pHを5.5〜6.2、好ましくは5.7〜6.2としたときには、ヒスチジン濃度が1〜50mM、好ましくは3〜20mM、より好ましくは5〜10mMで特に安定化効果が顕著である。また、製剤pHを6.2〜7.5、好ましくは6.3〜7.0としたときには、ヒスチジン濃度が5〜200mM、好ましくは10〜150mM、より好ましくは25〜100mMで安定化効果が顕著である。
【0034】
本発明の安定化製剤は、グリシン及び/又はスクロースをさらに添加することによって凝集体生成が少なくなり、より安定化された製剤とすることができる。好ましいグリシン及び/又はスクロースの添加量は0.05〜1Mである。
【0035】
本発明の製剤には等張化剤としてさらに、ポリエチレングリコール;デキストラン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、ラフィノースなどの糖類を加えることができる。
【0036】
本発明の安定化製剤には界面活性剤をさらに含むことができる。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの;陰イオン界面活性剤、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。本発明の製剤には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。
【0037】
本発明の安定化製剤には、所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、緩衝剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。例えば、含硫還元剤としては、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等が挙げられる。また、酸化防止剤としては、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤が挙げられる。さらには、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩;クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの有機塩などの通常添加される成分を含んでいてよい。
【0038】
本発明の安定化製剤は通常非経口投与経路で、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、経皮、経粘膜、経鼻、経肺などで投与されるが、経口投与も可能である。
本発明の安定化製剤は、溶液製剤であっても、使用前に溶解再構成するために凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥のための賦形剤としては例えばマンニトール、ブドウ糖などの糖アルコールや糖類を使用することが出来る。
【0039】
本発明の製剤中に含まれる抗体の量は、治療すべき疾患の種類、疾患の重症度、患者の年齢などに応じて決定できるが、一般には最終投与濃度で0.1〜200mg/ml、好ましくは1〜120mg/mlである。
【0040】
産業上の利用可能性
本発明の安定化製剤は、後述の実施例に示すように、グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に製剤化することによって加熱による凝集体の生成を抑制することができ、またグリシン及び/又はスクロースを添加することによって凝集体減少効果がさらに確認された。
【0041】
また、本発明の生理活性タンパク質を含有する安定化製剤の製造方法では、塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はそれらの塩を用いてpH調整を行うことにより、加熱による凝集体の生成を抑制することができ、安定な製剤を提供することができる。
【0042】
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されない。本発明の記載に基づき種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
【実施例】
【0043】
試験方法
(1)材料
抗IL−6レセプターヒト型化抗体としてhPM−1抗体を使用した。hPM−1抗体は国際特許出願公開番号WO92/19759号公報の実施例10に記載されたヒトエロンゲーションファクターIαプロモーターを利用し、特開平8−99902号公報の参考例2に記載された方法に準じて作成したhPM−1ヒト型化抗体である。hPM−1抗体はプロテインAカラムで精製し、19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl、pH6.5に貯蔵しておいた。
(2)タンパク質濃度の測定
タンパク質溶液の濃度は、分光光度計(DU-600, Beckman-Coulter)を用いて測定した280nmの吸光度から、1mg/mlあたりの吸光係数(アミノ酸配列から算出)を用いて算出した。
(3)沈降速度
分析超遠心で測定した沈降速度はタンパク質凝集のわずかな変化を検出するのに優れた方法である。この方法によると約1重量%のレベルで凝集を検出することができる。
【0044】
全ての試料を測定直前に種々の製剤緩衝液で約0.5mg/mlに希釈し、20℃において、Beckman XLA分析用超遠心機を用いて、ローターを3,000rpmの低速で遠心し、試料をスキャンして非常に大きな凝集体の沈降を観察した。次いでローターを45,000rpmにし、モノマー及び小さいオリゴマーを沈降させた。
【0045】
データはdc/dt法(Stafford, Anal. Biochem. 203:295-230, 1992)を用いて、John Philoの開発したプログラムDCDT+で分析した。いくつかの場合には、プログラムSVEDBERG(同じくJohn Philoにより開発された)を用いた。
(4)ネイティブゲル電気泳動
タンパク質の凝集をSDS非存在下で行うネイティブゲル電気泳動によって調べた。この方法ではタンパク質の移動度は流体力学的(hydrodynamic)サイズと荷電状態の両方によって決まる。SDSが存在しないので、ネイティブゲルはタンパク質の非共有結合的凝集を検出することができる。hPM−1抗体は塩基性タンパク質であり、通常のトリス−グリシン緩衝液系やSDSゲル電気泳動で通常使用する極性は使用できないので、本発明者らはhPM−1抗体のネイティブゲル分析用のプロトコールを開発した。
【0046】
7%Novex NuPAGE Tris-acetate(Novexから購入)ゲルを用いてネイティブゲル電気泳動を行った。使用した電極緩衝液は80mM β−アラニン/40mM AcOH、pH4.4又は30mMヒスチジン/30mM MES、pH6.1であった。hPM−1抗体はpH6.1で正に荷電しているため、泳動はアノードからカソードに向けて行った。試料をスクロースとメチルグリーンを含む5倍の電極緩衝液と混合した。
【0047】
実施例1:hPM−1抗体の熱安定性
19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl、pH6.5に溶解したhPM−1抗体の熱安定性を試験した。熱処理前、75℃で5〜60分熱処理したときのネイティブゲル電気泳動を行った結果を図1に示す。
【0048】
図1では、熱処理の前にはバンドが1つであり、精製タンパク質が荷電状態とサイズにおいて極めて均一であることを示している。また、同サンプルを用いた沈降速度は単一であり、モノマー種であることを示している。75℃で5分加熱した後、凝集体に対応するバンドが確認された。インキュベート時間が増加するにつれて、凝集バンドの強度は増加し、60分後にはほとんどモノマーが存在しなくなる。これらの凝集体はドデシル硫酸ナトリウムの存在下で解離するので非共有結合性である。
【0049】
実施例2:緩衝液の種類が凝集体生成に及ぼす効果
5種類の緩衝液(いずれも19mM)を用いて凝集に及ぼす効果を調べた。これらの緩衝液中にhPM−1抗体試料(濃度:約1mg/ml)を溶解して調製した試料のpHは以下の通りである。
1)リン酸ナトリウム(pH6.8)
2)ヒスチジン−HCl(pH7.1)
3)クエン酸ナトリウム(pH6.7)
4)tris−HCl(pH7.2)
5)グリシン(pH7.6)。
【0050】
これらの試料を75℃、60分加熱し、ネイティブゲル分析に付した。加熱前と加熱後の結果を図2に示す。最もモノマーが多く、凝集体が少ないのはグリシンであり、次いでヒスチジン−HCl、tris−HCl、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムの順であった。グリシンでは凝集体が極めて少ないことが観察された。
【0051】
これらの緩衝液中に50mM NaClを添加すると、加熱後の凝集はいずれの緩衝液を用いた場合でも大きく増加した(図3)。
実施例3:緩衝液の種類が沈降分布に及ぼす効果
次に、これらの異なる緩衝液中での熱凝集の性質を調べるために、沈降試験を行った。図4は、19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl中の対照hPM−1抗体のdc/dt分析から得られた沈降分布関数、g(s*)を示す。沈降係数約6.2スベドベリ(S)の単一種であることがわかる。さらに、図5は、実施例2に記載した5種類の緩衝液中に溶解したhPM−1抗体含有製剤試料を、75℃、60分加熱し、これを分析したときの沈降プロフィールを示す。19mMグリシン、pH7.6を除いて、かなりの凝集体の形成とモノマー種の損失が観察された。モノマーの損失が最も多いのはクエン酸ナトリウムであり、次いでリン酸ナトリウム、tris−HCl、ヒスチジン−HCl、グリシンの順であった。リン酸、クエン酸及びtrisは凝集体の存在を示すブロードな分布が観察され、これは40S以上まで及び、ピークは約15−18Sである。ヒスチジンで観察される凝集体は約25S以上には観察されず、約10Sにピークがある。これらの結果は実施例2に記載した熱処理後の製剤でのネイティブゲルの結果と一致する。
【0052】
実施例4:グリシン及びスクロースの効果
本実施例では、NaClに代えてグリシン又はスクロースを使用することによる凝集への効果を調べた。19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl、pH6.5中に溶解したhPM−1抗体試料を、0.2Mグリシン又は0.2Mスクロースを含む19mMリン酸ナトリウム、pH6.5に対して透析した。この試料を同時に75℃で20〜60分加熱した。ネイティブゲルを用いた結果を図6に示す。モノマーのバンドを比較すると、20分加熱後では19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl処方の方がモノマーが少なかった。この相違はインキュベート時間を40及び60分にするとさらに大きくなった。グリシンよりもスクロースの方が熱処理によって誘導されるhPM−1抗体の凝集を減少する効果が大きかった。従って、実施例2で示した結果と同様に、NaClは凝集体形成にマイナスの効果を示した。
【0053】
実施例5:加熱前後のhPM−1抗体試料のネイティブゲル分析
19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl、pH6.5に貯蔵しておいた上記hPM−1抗体試料の6試料検体(サンプル1〜6)をネイティブゲル分析に付した。試料約28μgをゲルにのせて実施した結果を図7の右側に示す。
【0054】
上記6検体を20mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl、pH6.5に希釈して約2mg/ml濃度のhPM−1抗体溶液を調製し、上記緩衝液に透析した。透析後、タンパク質濃度を分光光学的に吸光係数1.401で測定し、以下の結果を得た。
【0055】
サンプル1: 1.87mg/ml
サンプル2: 1.77mg/ml
サンプル3: 1.89mg/ml
サンプル4: 1.89mg/ml
サンプル5: 1.87mg/ml
サンプル6: 1.85mg/ml
これらの試料をネイティブゲルで分析した。結果は図7右側と同様であり、希釈、透析による凝集体形成の影響のないことが確認された。
【0056】
次にこれらの試料を75℃で1時間加熱して同様にネイティブゲル分析(ただし49μg)に付した。結果を図7の左側に示す。全てのサンプルでhPM−1抗体モノマーが著しく減少し、凝集体が生成したことを示す。
【0057】
実施例6:緩衝液の種類及びpHが凝集体生成に及ぼす効果
サンプル6を以下の5種類の緩衝液に希釈し、約2mg/ml濃度のhPM−1抗体溶液を調製した。
【0058】
サンプル6−1:5mMリン酸/Na、pH6.5[5mMリン酸ナトリウム(一塩基)を濃NaOHでpH6.5に調整]
サンプル6−2:5mMリン酸/His、pH6.0[5mMリン酸ナトリウム(一塩基)を濃ヒスチジン(塩基)でpH6.0に調整、最終ヒスチジン濃度は1mM]
サンプル6−3:5mMリン酸/His、pH6.5[5mMリン酸ナトリウム(一塩基)を濃ヒスチジン(塩基)でpH6.5に調整、最終ヒスチジン濃度は6.6mM]
サンプル6−4:5mMリン酸/Na+20mM His/HCl、pH6.5[10mMリン酸、pH6.5を等量の40mM His/HCl、pH6.5と混合]
サンプル6−5:5mMリン酸/Na、pH6.0[5mMリン酸ナトリウム(一塩基)を濃NaOHでpH6.0に調整]
これらのサンプルを上記それぞれの緩衝液に透析した。透析後、タンパク質濃度を測定し、以下の結果を得た。
【0059】
サンプル6−1: 1.80mg/ml
サンプル6−2: 1.75mg/ml
サンプル6−3: 1.82mg/ml
サンプル6−4: 1.84mg/ml
サンプル6−5: 1.68mg/ml
これらの試料を75℃、1時間の加熱処理の前後でネイティブゲルにかけて分析した。
【0060】
図8は、サンプル6−1、6−2、6−3及び6−4の分析結果を示す。サンプル6−2が凝集体生成が最も少なく、次いでサンプル6−4であった。従って、pH6.0はpH6.5よりもよい結果を与え、またヒスチジンによるpH調節が安定化効果を示すことが明らかになった。
【0061】
図9は、サンプル6−1と6−2を種々のヒスチジン濃度で比較した結果を示す。サンプルの調製は、サンプル6−1又は6−2に0.25Mのヒスチジン溶液(対応する緩衝液を混合してpHを調整)を混合して行った。pH6.5(サンプル6−1)よりもpH6.0(サンプル6−2)の方が凝集が少なく、ヒスチジンの効果はpHにより異なることが明らかになった。
【0062】
また、pH6.0では、5−10mM濃度のヒスチジンで安定化効果が大きいが、pH6.5では、25−50mM濃度の結果が示すように、ヒスチジン濃度が増すにつれて安定化効果が大きくなった。
【0063】
次に、別のサンプルでヒスチジン濃度が凝集体生成に及ぼす効果を検討した。図10はサンプル6−1、pH6.5;サンプル6−2、pH6.0;サンプル6−3、pH6.5を種々のヒスチジン濃度で比較した結果を示す。
【0064】
サンプル6−3、pH6.5では、100mMまで濃度を増加しても安定化効果がいくらかみられたが、pH6.0(サンプル6−2)でヒスチジン5−10mMのような低濃度の方が、pH6.5における全ての濃度のヒスチジンよりも効果的であった。ただし、サンプル6−3では元の濃度が6.6mMヒスチジンを既に含んでいるので、実際のヒスチジン濃度は記載よりも3.3mM大きい。
【0065】
サンプル6−1と6−3を50又は100mMで比較すると(この場合も同様の理由により6−3は記載よりも3.3mM多いヒスチジンを含む)、サンプル6−3の方がモノマーが多く、凝集体生成の少ないことが観察された。サンプル6−1と6−3の違いはpHを6.5に調整する方法の違いである。すなわち、6−1ではNaOHを用いてpH6.5に調整したが、6−3では濃ヒスチジンを塩基として用いて調整した。従って、pH6.5では従来法のNaOHを用いるよりもヒスチジンを用いてpH調整を行う方が安定化効果が大きい。
【0066】
図11は、pH6.0の2つのサンプル、すなわち6−2と6−5でヒスチジンの効果を比較した結果を示す。いずれのサンプルでも5−10mMヒスチジンが最も効果的であった。
【0067】
図12は、サンプル6−1(5mMリン酸/Na、pH6.5)、サンプル6−2(5mMリン酸/His、pH6.0)及びサンプル6−5(5mMリン酸/Na、pH6.0)を比較した結果を示す。6−2が最も凝集体が少なく、次いで6−5、6−1の順であった。これによってhPM−1抗体はpH6.0とする方が安定であることが確認された。サンプル6−2と6−5の違いはpHを6.0に調整する方法の違いである。すなわち、6−5ではNaOHを用いてpH6.0に調整したが、6−2では濃ヒスチジンを塩基として用いて調整した。従って、pH6.5の場合と同様に、pH6.0でも従来法のNaOHを用いるよりもヒスチジンを用いてpH調整を行う方が安定化効果が大きいことを示す。
【0068】
サンプル6−2にスクロース(50−200mM)を添加したときの効果を図13に示す。スクロース濃度の増加に伴って凝集体生成に対する保護効果が観察された。
サンプル6−5にグリシン(50−200mM)を添加したときの効果を同じく図13に示す。グリシン濃度添加によって凝集体生成に対する顕著な保護効果が観察された。
【0069】
図14は、pH6.0の2つのサンプル(6−2及び6−5)における200mMグリシン又はスクロースの効果を比較したものである。6−2は6−5よりも凝集が少なかった。これらの結果から、NaOHでpH調整をするよりもヒスチジンで行う方が効果的であることがさらに確認できた。
【技術分野】
【0001】
本発明は抗体含有製剤に関し、特に長期保存した後も活性成分の損失が少ない、安定化させた抗体含有製剤に関する。本発明はさらに、塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩を用いてpH調整を行うことを特徴とするタンパク質含有安定化製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質を含有する注射用製剤が多数市場に供給されており、長期保存した後も活性成分の損失が少ない、安定化させたタンパク質含有製剤とするための種々の工夫がなされている。タンパク質製剤は、活性成分と種々の添加剤、例えば希釈剤、溶解補助剤、賦形剤、無痛化剤、緩衝剤、含硫還元剤、酸化防止剤、安定化剤、界面活性剤などを緩衝液に溶解して製造される。
【0003】
一般に、タンパク質を高濃度溶液にて保存する場合、不溶性凝集体の生成を始めとする劣化現象が問題となり、それを防止する必要がある。
例えば、免疫グロブリン、モノクローナル抗体、ヒト型化抗体等の抗体は不安定なタンパク質であり、精製工程において実施するウイルス除去のための濾過ストレス、濃縮ストレス、熱ストレスなどによって会合、凝集などの物理的、化学的変化を生じやすい。
【0004】
これまでに、タンパク質の劣化を抑制し安定に保存する方法として、凍結乾燥による安定化が広く用いられている。しかし、凍結時及び凍結乾燥時のメカニカルストレスにより変性或いは化学変化が起きる可能性があり、それを回避するために何らかの凍結保護剤を添加する必要があった。
【0005】
また、化学的、物理的変化を抑制するための安定化剤としてヒト血清アルブミンあるいは精製ゼラチンなどのタンパク質といった高分子類或いはポリオール類、アミノ酸及び界面活性剤等といった低分子類を添加することによる安定化効果が見出されている。しかしながら、タンパク質のような生体由来の高分子を安定化剤として添加することは、その安定化剤に由来するウイルス等のコンタミを除去するために非常に煩雑な工程を必要とするなどの問題があった。また、ウイルスの不活性化を目的として加熱処理を行うときに、熱ストレスにより会合、凝集などの問題を生じることがあった。
【0006】
インターロイキン−6(IL−6)レセプターは、IL−6が結合する分子量約80KDのリガンド結合性タンパク質である。抗IL−6レセプター抗体は未熟型骨髄腫細胞のIL−6のシグナル伝達を遮断し、IL−6の生物学的活性を阻害することによりIL−6が関与するさまざまな免疫異常症、炎症性疾患、リンパ球腫瘍などに治療効果を示すことが見いだされている(Tsunenari, T. et al., Blood, 90:2437, 1997; Tsunenari T. et al., Anticancer Res. 16:2537, 1996)。また、抗IL−6レセプター抗体は未熟型骨髄腫細胞の治療効果を有することが本出願人によって見いだされた(特開平8−99902号)。
【0007】
本出願人は、このような抗IL−6レセプター抗体として、再構成した(reshaped)ヒト型化抗体であるhPM−1抗体の大量生産に成功し、さらにこの精製した抗IL−6レセプター抗体の製剤化を検討してきた。
【0008】
製剤化にあたっては、その他のタンパク質製剤と同様に化学的及び物理的安定性が重要な課題である。特に、抗IL−6レセプターヒト型化抗体は不安定なタンパク質であり、精製工程において実施するウイルス除菌のための濾過ストレス、濃縮ストレス、加熱ストレスなどによって会合、凝集などの物理的、化学的変化を生じやすい。
【0009】
そこで長期の保存にも安定な抗体含有製剤、特に抗IL−6レセプターヒト型化抗体含有製剤を開発して市場に供給することが求められている。
さらに、種々の生理活性を有するタンパク質についても、これを医薬品として安定した供給量でかつ高品質に提供するためには、構造及び活性を保持しうる製造条件及び保存条件を確立することが必要とされている。特に、タンパク質溶液における不溶性凝集体の生成を抑制する方法の開発が望まれていた。
【発明の概要】
【0010】
上記目的を達成するために鋭意研究した結果、本発明者らは、グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中で抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体を製剤化することによって、加熱による凝集体生成が抑制されること、またグリシン及び/又はスクロースの添加によりさらに安定化されることを見いだし本発明を完成した。
【0011】
さらに本発明者らは、塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はそれらの塩を用いてpH調整を行うことによって凝集体の生成が少なく安定化効果が大きくなることを見いだし本発明を完成した。
【0012】
従って、本発明は、以下のものを提供する。
(1)グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗体を含んでなる安定化製剤。
(2)抗体がキメラ抗体又はヒト型化抗体である前記(1)載の安定化製剤。
(3)抗体が抗インターロイキン−6レセプター抗体である前記(1)又は(2)記載の安定化製剤。
(4)抗インターロイキン−6レセプター抗体が抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体である前記(3)記載の安定化製剤。
(5)グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液の濃度が5mM〜200mMである前記(1)記載の安定化製剤。
(6)等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含むことを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の安定化製剤。
(7)グリシン及び/又はスクロースの添加量が0.05〜1Mである前記(6)記載の安定化製剤。
(8)等張化剤としてNaClを含まない前記(1)〜(7)のいずれかに記載の安定化製剤。
(9)等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含み、かつグリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体を含んでなる安定化製剤。
(10)pHが5〜8である前記(1)〜(9)のいずれかに記載の安定化製剤。
(11)グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗体含むことを特徴とする、抗体製剤の安定化方法。
(12)等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含むことを特徴とする、前記(11)記載の安定化方法。
(13)等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含み、かつグリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体を含むことを特徴とする、抗インターロイキン−6レセプター抗体製剤の安定化方法。
(14)塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はそれらの塩を用いてpH調整を行うことを特徴とする生理活性タンパク質を含有する安定化製剤の製造方法。
(15)塩基性アミノ酸がヒスチジン、アルギニン、リジンから選択される1または2以上である前記(14)記載の製造方法。
(16)塩基性アミノ酸がヒスチジンである前記(15)記載の製造方法。
(17)生理活性タンパク質が組換えタンパク質である前記(14)〜(16)のいずれかに記載の製造方法。
(18)生理活性タンパク質が抗体である前記(14)〜(17)のいずれかに記載の製造方法。
(19)抗体がキメラ化抗体又はヒト型化抗体である前記(18)記載の製造方法。
(20)抗体が抗インターロイキン−6レセプター抗体である前記(18)又は(19)記載の製造方法。
(21)抗インターロイキン−6レセプター抗体が抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体である前記(20)記載の製造方法。
(22)ヒスチジン緩衝液中に抗体を含み、かつpHが5〜7.5である安定化製剤。
(23)抗体が抗インターロイキン−6レセプター抗体である前記(21)記載の安定化製剤。
(24)抗インターロイキン−6レセプター抗体が抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体である前記(23)記載の安定化製剤。
(25)pHが5.5〜6.2である前記(24)記載の安定化製剤。
(26)ヒスチジン濃度が1〜50mMである前記(25)記載の安定化製剤。
(27)ヒスチジン濃度が3〜20mMである前記(26)記載の安定化製剤。
(28)ヒスチジン濃度が5〜10mMである前記(27)記載の安定化製剤。
(29)pHが6.2〜7.5である前記(24)記載の安定化製剤。
(30)ヒスチジン濃度が5〜200mMである前記(29)記載の安定化製剤。
(31)ヒスチジン濃度が10〜150mMである前記(30)記載の安定化製剤。
(32)ヒスチジン濃度が25〜100mMである前記(31)記載の安定化製剤。
(33)グリシン及び/又はスクロースをさらに含む前記(21)〜(32)のいずれかに記載の安定化製剤。
(34)グリシン及び/又はスクロースの添加量が0.05〜1Mである前記(33)記載の安定化製剤。
(35)塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩を用いてpH調整を行うことを特徴とする前記(21)〜(34)のいずれかに記載の安定化製剤。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl、pH6.5に溶解したhPM−1抗体を75℃で熱処理したときの凝集体生成を示すネイティブゲル電気泳動の結果である(電気泳動の写真)。
【図2】図2は、緩衝液の種類が凝集体生成に及ぼす効果を示すネイティブゲル電気泳動の結果である(電気泳動の写真)。
【図3】図3は、緩衝液中に50mM NaClを添加して、加熱したときの凝集体生成に及ぼす効果を示すネイティブゲル電気泳動の結果である(電気泳動の写真)。
【図4】図4は、19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl中の対照hPM−1抗体のDCDTと分析から得られた沈降分布関数、g(s*)を示す。
【図5】図5は、緩衝液の種類が凝集体生成に及ぼす効果を示す沈降分布関数、g(s*)を示す。
【図6】図6は、グリシン及びスクロースの凝集体生成に及ぼす効果を示すネイティブゲル電気泳動の結果である(電気泳動の写真)。
【図7】図7は、6試料検体(サンプル1〜6)を加熱の前後でネイティブゲル分析に付した結果を示す(電気泳動の写真)。
【図8】図8は、サンプル6−1、6−2、6−3及び6−4を加熱の前後でネイティブゲル分析に付した結果を示す(電気泳動の写真)。
【図9】図9は、サンプル6−1と6−2を種々のヒスチジン濃度で比較したネイティブゲル分析結果を示す(電気泳動の写真)。
【図10】図10は、サンプル6−1、pH6.5;サンプル6−2、pH6.0;サンプル6−3、pH6.5を種々のヒスチジン濃度で比較したネイティブゲル分析結果を示す(電気泳動の写真)。
【図11】図11は、pH6.0の2つのサンプル、すなわち6−2と6−5でヒスチジンの効果を比較したネイティブゲル分析結果を示す(電気泳動の写真)。
【図12】図12は、サンプル6−1(5mMリン酸/Na、pH6.5)、サンプル6−2(5mMリン酸/His、pH6.0)及びサンプル6−5(5mMリン酸/Na、pH6.0)を比較したネイティブゲル分析結果を示す(電気泳動の写真)。
【図13】図13は、サンプル6−2にスクロース(50−200mM)を添加したとき、ならびにサンプル6−5にグリシン(50−200mM)を添加したときの効果を比較したネイティブゲル分析結果を示す(電気泳動の写真)。
【図14】図14は、pH6.0の2つのサンプル(6−2及び6−5)における200mMグリシン又はスクロースの効果を比較したネイティブゲル分析結果を示す(電気泳動の写真)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の安定化製剤に使用する抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましく、モノクローナル抗体はいかなる方法で製造されたものでもよい。モノクローナル抗体は、基本的には公知技術を使用し、感作抗原を通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作成できる。
【0015】
本発明の安定化製剤に含まれる抗体としては、抗IL−6レセプター抗体、HM1.24抗原モノクローナル抗体、抗副甲状腺ホルモン関連ペプチド抗体(抗PTHrP抗体)、抗組織因子抗体などを挙げることができるが、これに限定されない。例えば、抗IL−6レセプター抗体としては、PM−1抗体(Hirataら、J.Immunol.143:2900−2906,1989),AUK12−20抗体、AUK64−7抗体あるいはAUK146−15抗体(国際特許出願公開番号WO92−19759)などが挙げられる。
【0016】
さらに、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体に限られるものではなく、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変されたキメラ抗体を含む。あるいは再構成(reshaped)したヒト型化抗体を本発明に用いることもできる。これはヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域によりヒト抗体の相補性決定領域を置換したものであり、その一般的な遺伝子組換手法も知られている。その既知方法を用いて、再構成ヒト型化抗体を得ることができる。
【0017】
なお、必要に応じ、再構成ヒト型化抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク(FR)領域のアミノ酸を置換してもよい(Satoら、Cancer Res.53:1−6,1993)。このような再構成ヒト型化抗体としてヒト型化抗IL−6レセプター抗体(hPM−1)が好ましく例示される(国際特許出願公開番号WO92−19759を参照)。また、ヒト型化抗HM1.24抗原モノクローナル抗体(国際特許出願公開番号WO98−14580を参照)、ヒト型化抗副甲状腺ホルモン関連ペプチド抗体(抗PTHrP抗体)(国際特許出願公開番号WO98−13388を参照)、ヒト型化抗組織因子抗体(国際特許出願公開番号WO99−51743を参照)なども本発明で使用する好ましい抗体である。
【0018】
さらに、トランスジェニック動物等によって作製されたヒト抗体も好ましい。
さらに、抗体にはFab, (Fab')2などの抗体断片や、1価又は2価以上の一本鎖抗体(scFV)などの再構成したものも含む。
【0019】
本発明では、生理活性タンパク質含有試料もしくは抗体含有試料とは、生体由来タンパク質もしくは抗体であるか、あるいは組換えタンパク質もしくは抗体であるかを問わず、いかなるタンパク質もしくは抗体を含む試料であってもよく、好ましくは、培養により得られた生理活性タンパク質もしくは抗体を含むCHO細胞などの哺乳動物細胞の培養培地、あるいはこれに部分的精製などの一定の処理を施したものをいう。
【0020】
本発明者らは、19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl、pH6.5に溶解したhPM−1抗体の熱安定性を試験したところ、これを70℃以下で長期間インキュベートしてもほとんど凝集が起きなかった。次に、hPM−1抗体を75℃で熱処理したところ、凝集が形成された。この結果から、hPM−1抗体は72℃の融点で特徴付けられる熱転移を経過した後においてのみ凝集が引き起こされることを示している。インキュベート時間が増加するにつれて、凝集バンドの強度は増加し、60分後にはほとんどモノマーが存在しなくなる。これらの凝集体はドデシル硫酸ナトリウムの存在下で解離するので非共有結合性であると思われた。
【0021】
本発明者らは、この熱処理による凝集体の生成抑制に寄与するさまざまな因子を検討し、抗IL−6レセプターヒト型化抗体をグリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液に溶解することによって凝集体の生成を抑制できることを見いだした。
【0022】
従って、本発明の安定化製剤は、抗体をグリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液に溶解することによって製造できる。
グリシン緩衝液又はヒスチジン緩衝液の濃度は5〜200mM、好ましくは5〜50mM、さらに好ましくは5〜20mMである。グリシン緩衝液及びヒスチジン緩衝液はこれを単独で用いてもあるいは組み合わせて用いてもよく、組み合わせて使用する場合には、合計濃度が上記の範囲のものであればよい。
【0023】
さらに、本発明の安定化製剤は、等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを添加することにより凝集体の生成が少なく安定な製剤を得ることができる。グリシン及び/又はスクロースの添加量は0.05〜1Mである。グリシン及び/又はスクロースの凝集体減少効果はNaClを添加することによって低下し、従って本発明の製剤にはNaClを含まないことが好ましい。
【0024】
本発明の安定化製剤のpHは5〜8とすることが好ましい。
本発明者らはさらに、凝集体の生成抑制に寄与するさまざまな因子を検討し、pH調整を従来法のNaOHで行うよりも塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩を用いて行う方が凝集体の生成が少なく安定化効果が大きいことを発見した。
【0025】
従って、本発明は、塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩を用いてpH調整を行うことを特徴とするタンパク質含有安定化製剤の製造方法を提供する。
本発明の生理活性タンパク質含有安定化製剤の製造方法は、上述した抗体含有製剤のみならず、その他の生理活性タンパク質含有製剤にも有用である。生理活性タンパク質は、例えば、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン等の造血因子、インターフェロン、IL-1やIL-6等のサイトカイン、モノクローナル抗体、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、血清アルブミン、血液凝固第VIII因子、レプチン、インシュリン、幹細胞成長因子(SCF)などを含むが、これらに限定されない。タンパク質の中でも、EPO、G−CSF、トロンボポエチン等の造血因子及びモノクロナール抗体が好ましく、さらに好ましくはEPO、G−CSF及びモノクローナル抗体である。
【0026】
本発明において有効成分として使用する生理活性タンパク質とは、哺乳動物、特にヒトの生理活性タンパク質と実質的に同じ生物学的活性を有するものであり、天然由来のもの、および遺伝子組換え法により得られたものを含むが、好ましいのは遺伝子組換え法により得られたものである。遺伝子組換え法によって得られるタンパク質には天然タンパク質とアミノ酸配列が同じであるもの、あるいは該アミノ酸配列の1又は複数を欠失、置換、付加したもので前記生物学的活性を有するものを含む。さらには、生理活性タンパク質はPEG等により化学修飾されたものも含む。
【0027】
本発明において有効成分として使用する生理活性タンパク質としては、例えば糖鎖を有するタンパク質が挙げられる。糖鎖の由来としては、特に制限はないが、哺乳動物細胞に付加される糖鎖が好ましい。哺乳動物細胞には、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、BHK細胞、COS細胞、ヒト由来の細胞等があるが、この中でも、CHO細胞が最も好ましい。
【0028】
本発明において有効成分として使用する生理活性タンパク質がEPOである場合には、EPOはいかなる方法で製造されたものでもよく、ヒト尿より種々の方法で抽出し、分離精製したもの、遺伝子工学的手法(例えば特開昭61−12288号)によりチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、BHK細胞、COS細胞、ヒト由来の細胞などに産生せしめ、種々の方法で抽出し分離精製したものが用いられる。さらには、PEG等により化学修飾されたEPOも含む(国際特許出願公開番号WO90/12874参照)。さらに、糖鎖のついていないEPOをPEG等により化学修飾したものも含む。また、EPOのアミノ酸配列中のN−結合炭水化物鎖結合部位もしくはO−結合炭水化物鎖結合部位において、1以上のグリコシル化部位の数を増加させるように改変したEPO類似体も含む(例えば、特開平8−151398号、特表平8−506023号参照)。さらには、糖鎖結合部位の数は変化させずに、シアル酸等の含量を増加させることにより糖鎖の量を増加させたものであってもよい。
【0029】
本発明において有効成分として使用する生理活性タンパク質がG−CSFである場合には、G−CSFは高純度に精製されたG−CSFであれば全て使用できる。本発明におけるG−CSFは、いかなる方法で製造されたものでもよく、ヒト腫瘍細胞の細胞株を培養し、これから種々の方法で抽出し分離精製したもの、あるいは遺伝子工学的手法により大腸菌などの細菌類;イースト菌;チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、C127細胞、COS細胞などの動物由来の培養細胞などに産生せしめ、種々の方法で抽出し分離精製したものが用いられる。好ましくは大腸菌、イースト菌又はCHO細胞によって遺伝子組換え法を用いて生産されたものである。最も好ましくはCHO細胞によって遺伝子組換え法を用いて生産されたものである。さらには、PEG等により化学修飾されたG−CSFも含む(国際特許出願公開番号WO90/12874参照)。
【0030】
pH調整に使用する塩基性アミノ酸としては、ヒスチジン、アルギニン、リジンから選択される1または2以上であることが好ましく、ヒスチジンが最も好ましい。
塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩としては、遊離の塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体ならびにそれらのナトリウム塩、カリウム塩、塩酸塩などの塩を含む。本発明の方法及び製剤に使用する塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩はD−、L−またはDL−体であってよく、より好ましいのはL−体である。塩基アミノ酸誘導体には、アミノ酸ニトロ化合物、アミノアルコール、ジペプチド等を含み、例えばヒスチジンの誘導体には、特開平11−315031号に記載の誘導体、すなわちヒスチジンメチルエステル、His−Gly、His−Ala、His−Leu,His−Lys,His−Phe、イミダゾール、ヒスタミン又はイミダゾール−4−酢酸等が挙げられる。
【0031】
本発明の製造方法では、塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はそれらの塩、好ましくはヒスチジン、アルギニン、リジンならびにその誘導体及び塩から選択される1または2以上、最も好ましくはヒスチジン又はその誘導体、又はそれらの塩を用いてpHを5〜7.5とすることが好ましい。最も好ましくはヒスチジンを用いてpHを調整する。
【0032】
本発明の製造方法の好ましい態様では、抗体をヒスチジン緩衝液中に含む製剤について、塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩を用いてpH調整を行う。例えば、従来のリン酸緩衝液よりもヒスチジン緩衝液中に抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体を含む方が凝集体の生成を少なくできる。しかし、その他の緩衝液を使用することもできる。
【0033】
製剤のpHと緩衝液中の好ましいヒスチジン濃度には相関があり、製剤pHを5.5〜6.2、好ましくは5.7〜6.2としたときには、ヒスチジン濃度が1〜50mM、好ましくは3〜20mM、より好ましくは5〜10mMで特に安定化効果が顕著である。また、製剤pHを6.2〜7.5、好ましくは6.3〜7.0としたときには、ヒスチジン濃度が5〜200mM、好ましくは10〜150mM、より好ましくは25〜100mMで安定化効果が顕著である。
【0034】
本発明の安定化製剤は、グリシン及び/又はスクロースをさらに添加することによって凝集体生成が少なくなり、より安定化された製剤とすることができる。好ましいグリシン及び/又はスクロースの添加量は0.05〜1Mである。
【0035】
本発明の製剤には等張化剤としてさらに、ポリエチレングリコール;デキストラン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、ラフィノースなどの糖類を加えることができる。
【0036】
本発明の安定化製剤には界面活性剤をさらに含むことができる。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの;陰イオン界面活性剤、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。本発明の製剤には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。
【0037】
本発明の安定化製剤には、所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、緩衝剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。例えば、含硫還元剤としては、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等が挙げられる。また、酸化防止剤としては、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤が挙げられる。さらには、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩;クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの有機塩などの通常添加される成分を含んでいてよい。
【0038】
本発明の安定化製剤は通常非経口投与経路で、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、経皮、経粘膜、経鼻、経肺などで投与されるが、経口投与も可能である。
本発明の安定化製剤は、溶液製剤であっても、使用前に溶解再構成するために凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥のための賦形剤としては例えばマンニトール、ブドウ糖などの糖アルコールや糖類を使用することが出来る。
【0039】
本発明の製剤中に含まれる抗体の量は、治療すべき疾患の種類、疾患の重症度、患者の年齢などに応じて決定できるが、一般には最終投与濃度で0.1〜200mg/ml、好ましくは1〜120mg/mlである。
【0040】
産業上の利用可能性
本発明の安定化製剤は、後述の実施例に示すように、グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に製剤化することによって加熱による凝集体の生成を抑制することができ、またグリシン及び/又はスクロースを添加することによって凝集体減少効果がさらに確認された。
【0041】
また、本発明の生理活性タンパク質を含有する安定化製剤の製造方法では、塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はそれらの塩を用いてpH調整を行うことにより、加熱による凝集体の生成を抑制することができ、安定な製剤を提供することができる。
【0042】
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されない。本発明の記載に基づき種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
【実施例】
【0043】
試験方法
(1)材料
抗IL−6レセプターヒト型化抗体としてhPM−1抗体を使用した。hPM−1抗体は国際特許出願公開番号WO92/19759号公報の実施例10に記載されたヒトエロンゲーションファクターIαプロモーターを利用し、特開平8−99902号公報の参考例2に記載された方法に準じて作成したhPM−1ヒト型化抗体である。hPM−1抗体はプロテインAカラムで精製し、19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl、pH6.5に貯蔵しておいた。
(2)タンパク質濃度の測定
タンパク質溶液の濃度は、分光光度計(DU-600, Beckman-Coulter)を用いて測定した280nmの吸光度から、1mg/mlあたりの吸光係数(アミノ酸配列から算出)を用いて算出した。
(3)沈降速度
分析超遠心で測定した沈降速度はタンパク質凝集のわずかな変化を検出するのに優れた方法である。この方法によると約1重量%のレベルで凝集を検出することができる。
【0044】
全ての試料を測定直前に種々の製剤緩衝液で約0.5mg/mlに希釈し、20℃において、Beckman XLA分析用超遠心機を用いて、ローターを3,000rpmの低速で遠心し、試料をスキャンして非常に大きな凝集体の沈降を観察した。次いでローターを45,000rpmにし、モノマー及び小さいオリゴマーを沈降させた。
【0045】
データはdc/dt法(Stafford, Anal. Biochem. 203:295-230, 1992)を用いて、John Philoの開発したプログラムDCDT+で分析した。いくつかの場合には、プログラムSVEDBERG(同じくJohn Philoにより開発された)を用いた。
(4)ネイティブゲル電気泳動
タンパク質の凝集をSDS非存在下で行うネイティブゲル電気泳動によって調べた。この方法ではタンパク質の移動度は流体力学的(hydrodynamic)サイズと荷電状態の両方によって決まる。SDSが存在しないので、ネイティブゲルはタンパク質の非共有結合的凝集を検出することができる。hPM−1抗体は塩基性タンパク質であり、通常のトリス−グリシン緩衝液系やSDSゲル電気泳動で通常使用する極性は使用できないので、本発明者らはhPM−1抗体のネイティブゲル分析用のプロトコールを開発した。
【0046】
7%Novex NuPAGE Tris-acetate(Novexから購入)ゲルを用いてネイティブゲル電気泳動を行った。使用した電極緩衝液は80mM β−アラニン/40mM AcOH、pH4.4又は30mMヒスチジン/30mM MES、pH6.1であった。hPM−1抗体はpH6.1で正に荷電しているため、泳動はアノードからカソードに向けて行った。試料をスクロースとメチルグリーンを含む5倍の電極緩衝液と混合した。
【0047】
実施例1:hPM−1抗体の熱安定性
19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl、pH6.5に溶解したhPM−1抗体の熱安定性を試験した。熱処理前、75℃で5〜60分熱処理したときのネイティブゲル電気泳動を行った結果を図1に示す。
【0048】
図1では、熱処理の前にはバンドが1つであり、精製タンパク質が荷電状態とサイズにおいて極めて均一であることを示している。また、同サンプルを用いた沈降速度は単一であり、モノマー種であることを示している。75℃で5分加熱した後、凝集体に対応するバンドが確認された。インキュベート時間が増加するにつれて、凝集バンドの強度は増加し、60分後にはほとんどモノマーが存在しなくなる。これらの凝集体はドデシル硫酸ナトリウムの存在下で解離するので非共有結合性である。
【0049】
実施例2:緩衝液の種類が凝集体生成に及ぼす効果
5種類の緩衝液(いずれも19mM)を用いて凝集に及ぼす効果を調べた。これらの緩衝液中にhPM−1抗体試料(濃度:約1mg/ml)を溶解して調製した試料のpHは以下の通りである。
1)リン酸ナトリウム(pH6.8)
2)ヒスチジン−HCl(pH7.1)
3)クエン酸ナトリウム(pH6.7)
4)tris−HCl(pH7.2)
5)グリシン(pH7.6)。
【0050】
これらの試料を75℃、60分加熱し、ネイティブゲル分析に付した。加熱前と加熱後の結果を図2に示す。最もモノマーが多く、凝集体が少ないのはグリシンであり、次いでヒスチジン−HCl、tris−HCl、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムの順であった。グリシンでは凝集体が極めて少ないことが観察された。
【0051】
これらの緩衝液中に50mM NaClを添加すると、加熱後の凝集はいずれの緩衝液を用いた場合でも大きく増加した(図3)。
実施例3:緩衝液の種類が沈降分布に及ぼす効果
次に、これらの異なる緩衝液中での熱凝集の性質を調べるために、沈降試験を行った。図4は、19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl中の対照hPM−1抗体のdc/dt分析から得られた沈降分布関数、g(s*)を示す。沈降係数約6.2スベドベリ(S)の単一種であることがわかる。さらに、図5は、実施例2に記載した5種類の緩衝液中に溶解したhPM−1抗体含有製剤試料を、75℃、60分加熱し、これを分析したときの沈降プロフィールを示す。19mMグリシン、pH7.6を除いて、かなりの凝集体の形成とモノマー種の損失が観察された。モノマーの損失が最も多いのはクエン酸ナトリウムであり、次いでリン酸ナトリウム、tris−HCl、ヒスチジン−HCl、グリシンの順であった。リン酸、クエン酸及びtrisは凝集体の存在を示すブロードな分布が観察され、これは40S以上まで及び、ピークは約15−18Sである。ヒスチジンで観察される凝集体は約25S以上には観察されず、約10Sにピークがある。これらの結果は実施例2に記載した熱処理後の製剤でのネイティブゲルの結果と一致する。
【0052】
実施例4:グリシン及びスクロースの効果
本実施例では、NaClに代えてグリシン又はスクロースを使用することによる凝集への効果を調べた。19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl、pH6.5中に溶解したhPM−1抗体試料を、0.2Mグリシン又は0.2Mスクロースを含む19mMリン酸ナトリウム、pH6.5に対して透析した。この試料を同時に75℃で20〜60分加熱した。ネイティブゲルを用いた結果を図6に示す。モノマーのバンドを比較すると、20分加熱後では19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl処方の方がモノマーが少なかった。この相違はインキュベート時間を40及び60分にするとさらに大きくなった。グリシンよりもスクロースの方が熱処理によって誘導されるhPM−1抗体の凝集を減少する効果が大きかった。従って、実施例2で示した結果と同様に、NaClは凝集体形成にマイナスの効果を示した。
【0053】
実施例5:加熱前後のhPM−1抗体試料のネイティブゲル分析
19mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl、pH6.5に貯蔵しておいた上記hPM−1抗体試料の6試料検体(サンプル1〜6)をネイティブゲル分析に付した。試料約28μgをゲルにのせて実施した結果を図7の右側に示す。
【0054】
上記6検体を20mMリン酸ナトリウム、0.2M NaCl、pH6.5に希釈して約2mg/ml濃度のhPM−1抗体溶液を調製し、上記緩衝液に透析した。透析後、タンパク質濃度を分光光学的に吸光係数1.401で測定し、以下の結果を得た。
【0055】
サンプル1: 1.87mg/ml
サンプル2: 1.77mg/ml
サンプル3: 1.89mg/ml
サンプル4: 1.89mg/ml
サンプル5: 1.87mg/ml
サンプル6: 1.85mg/ml
これらの試料をネイティブゲルで分析した。結果は図7右側と同様であり、希釈、透析による凝集体形成の影響のないことが確認された。
【0056】
次にこれらの試料を75℃で1時間加熱して同様にネイティブゲル分析(ただし49μg)に付した。結果を図7の左側に示す。全てのサンプルでhPM−1抗体モノマーが著しく減少し、凝集体が生成したことを示す。
【0057】
実施例6:緩衝液の種類及びpHが凝集体生成に及ぼす効果
サンプル6を以下の5種類の緩衝液に希釈し、約2mg/ml濃度のhPM−1抗体溶液を調製した。
【0058】
サンプル6−1:5mMリン酸/Na、pH6.5[5mMリン酸ナトリウム(一塩基)を濃NaOHでpH6.5に調整]
サンプル6−2:5mMリン酸/His、pH6.0[5mMリン酸ナトリウム(一塩基)を濃ヒスチジン(塩基)でpH6.0に調整、最終ヒスチジン濃度は1mM]
サンプル6−3:5mMリン酸/His、pH6.5[5mMリン酸ナトリウム(一塩基)を濃ヒスチジン(塩基)でpH6.5に調整、最終ヒスチジン濃度は6.6mM]
サンプル6−4:5mMリン酸/Na+20mM His/HCl、pH6.5[10mMリン酸、pH6.5を等量の40mM His/HCl、pH6.5と混合]
サンプル6−5:5mMリン酸/Na、pH6.0[5mMリン酸ナトリウム(一塩基)を濃NaOHでpH6.0に調整]
これらのサンプルを上記それぞれの緩衝液に透析した。透析後、タンパク質濃度を測定し、以下の結果を得た。
【0059】
サンプル6−1: 1.80mg/ml
サンプル6−2: 1.75mg/ml
サンプル6−3: 1.82mg/ml
サンプル6−4: 1.84mg/ml
サンプル6−5: 1.68mg/ml
これらの試料を75℃、1時間の加熱処理の前後でネイティブゲルにかけて分析した。
【0060】
図8は、サンプル6−1、6−2、6−3及び6−4の分析結果を示す。サンプル6−2が凝集体生成が最も少なく、次いでサンプル6−4であった。従って、pH6.0はpH6.5よりもよい結果を与え、またヒスチジンによるpH調節が安定化効果を示すことが明らかになった。
【0061】
図9は、サンプル6−1と6−2を種々のヒスチジン濃度で比較した結果を示す。サンプルの調製は、サンプル6−1又は6−2に0.25Mのヒスチジン溶液(対応する緩衝液を混合してpHを調整)を混合して行った。pH6.5(サンプル6−1)よりもpH6.0(サンプル6−2)の方が凝集が少なく、ヒスチジンの効果はpHにより異なることが明らかになった。
【0062】
また、pH6.0では、5−10mM濃度のヒスチジンで安定化効果が大きいが、pH6.5では、25−50mM濃度の結果が示すように、ヒスチジン濃度が増すにつれて安定化効果が大きくなった。
【0063】
次に、別のサンプルでヒスチジン濃度が凝集体生成に及ぼす効果を検討した。図10はサンプル6−1、pH6.5;サンプル6−2、pH6.0;サンプル6−3、pH6.5を種々のヒスチジン濃度で比較した結果を示す。
【0064】
サンプル6−3、pH6.5では、100mMまで濃度を増加しても安定化効果がいくらかみられたが、pH6.0(サンプル6−2)でヒスチジン5−10mMのような低濃度の方が、pH6.5における全ての濃度のヒスチジンよりも効果的であった。ただし、サンプル6−3では元の濃度が6.6mMヒスチジンを既に含んでいるので、実際のヒスチジン濃度は記載よりも3.3mM大きい。
【0065】
サンプル6−1と6−3を50又は100mMで比較すると(この場合も同様の理由により6−3は記載よりも3.3mM多いヒスチジンを含む)、サンプル6−3の方がモノマーが多く、凝集体生成の少ないことが観察された。サンプル6−1と6−3の違いはpHを6.5に調整する方法の違いである。すなわち、6−1ではNaOHを用いてpH6.5に調整したが、6−3では濃ヒスチジンを塩基として用いて調整した。従って、pH6.5では従来法のNaOHを用いるよりもヒスチジンを用いてpH調整を行う方が安定化効果が大きい。
【0066】
図11は、pH6.0の2つのサンプル、すなわち6−2と6−5でヒスチジンの効果を比較した結果を示す。いずれのサンプルでも5−10mMヒスチジンが最も効果的であった。
【0067】
図12は、サンプル6−1(5mMリン酸/Na、pH6.5)、サンプル6−2(5mMリン酸/His、pH6.0)及びサンプル6−5(5mMリン酸/Na、pH6.0)を比較した結果を示す。6−2が最も凝集体が少なく、次いで6−5、6−1の順であった。これによってhPM−1抗体はpH6.0とする方が安定であることが確認された。サンプル6−2と6−5の違いはpHを6.0に調整する方法の違いである。すなわち、6−5ではNaOHを用いてpH6.0に調整したが、6−2では濃ヒスチジンを塩基として用いて調整した。従って、pH6.5の場合と同様に、pH6.0でも従来法のNaOHを用いるよりもヒスチジンを用いてpH調整を行う方が安定化効果が大きいことを示す。
【0068】
サンプル6−2にスクロース(50−200mM)を添加したときの効果を図13に示す。スクロース濃度の増加に伴って凝集体生成に対する保護効果が観察された。
サンプル6−5にグリシン(50−200mM)を添加したときの効果を同じく図13に示す。グリシン濃度添加によって凝集体生成に対する顕著な保護効果が観察された。
【0069】
図14は、pH6.0の2つのサンプル(6−2及び6−5)における200mMグリシン又はスクロースの効果を比較したものである。6−2は6−5よりも凝集が少なかった。これらの結果から、NaOHでpH調整をするよりもヒスチジンで行う方が効果的であることがさらに確認できた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗体を含んでなる安定化製剤。
【請求項2】
抗体がキメラ抗体又はヒト型化抗体である請求項1記載の安定化製剤。
【請求項3】
抗体が抗インターロイキン−6レセプター抗体である請求項1又は2記載の安定化製剤。
【請求項4】
抗インターロイキン−6レセプター抗体が抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体である請求項3記載の安定化製剤。
【請求項5】
グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液の濃度が5mM〜200mMである請求項1記載の安定化製剤。
【請求項6】
等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の安定化製剤。
【請求項7】
グリシン及び/又はスクロースの添加量が0.05〜1Mである請求項6記載の安定化製剤。
【請求項8】
等張化剤としてNaClを含まない請求項1〜7のいずれかに記載の安定化製剤。
【請求項9】
等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含み、かつグリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体を含んでなる安定化製剤。
【請求項10】
pHが5〜8である請求項1〜9のいずれかに記載の安定化製剤。
【請求項11】
グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗体含むことを特徴とする、抗体製剤の安定化方法。
【請求項12】
等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含むことを特徴とする、請求項11記載の安定化方法。
【請求項13】
等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含み、かつグリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体を含むことを特徴とする、抗インターロイキン−6レセプター抗体製剤の安定化方法。
【請求項14】
塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はそれらの塩を用いてpH調整を行うことを特徴とする生理活性タンパク質を含有する安定化製剤の製造方法。
【請求項15】
塩基性アミノ酸がヒスチジン、アルギニン、リジンから選択される1または2以上である請求項14記載の製造方法。
【請求項16】
塩基性アミノ酸がヒスチジンである請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
生理活性タンパク質が組換えタンパク質である請求項14〜16のいずれかに記載の製造方法。
【請求項18】
生理活性タンパク質が抗体である請求項14〜17のいずれかに記載の製造方法。
【請求項19】
抗体がキメラ化抗体又はヒト型化抗体である請求項18記載の製造方法。
【請求項20】
抗体が抗インターロイキン−6レセプター抗体である請求項18又は19記載の製造方法。
【請求項21】
抗インターロイキン−6レセプター抗体が抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体である請求項20記載の製造方法。
【請求項22】
ヒスチジン緩衝液中に抗体を含み、かつpHが5〜7.5である安定化製剤。
【請求項23】
抗体が抗インターロイキン−6レセプター抗体である請求項21記載の安定化製剤。
【請求項24】
抗インターロイキン−6レセプター抗体が抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体である請求項23記載の安定化製剤。
【請求項25】
pHが5.5〜6.2である請求項24記載の安定化製剤。
【請求項26】
ヒスチジン濃度が1〜50mMである請求項25記載の安定化製剤。
【請求項27】
ヒスチジン濃度が3〜20mMである請求項26記載の安定化製剤。
【請求項28】
ヒスチジン濃度が5〜10mMである請求項27記載の安定化製剤。
【請求項29】
pHが6.2〜7.5である請求項24記載の安定化製剤。
【請求項30】
ヒスチジン濃度が5〜200mMである請求項29記載の安定化製剤。
【請求項31】
ヒスチジン濃度が10〜150mMである請求項30記載の安定化製剤。
【請求項32】
ヒスチジン濃度が25〜100mMである請求項31記載の安定化製剤。
【請求項33】
グリシン及び/又はスクロースをさらに含む請求項21〜32のいずれかに記載の安定化製剤。
【請求項34】
グリシン及び/又はスクロースの添加量が0.05〜1Mである請求項33記載の安定化製剤。
【請求項35】
塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩を用いてpH調整を行うことを特徴とする請求項21〜34のいずれかに記載の安定化製剤。
【請求項1】
グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗体を含んでなる安定化製剤。
【請求項2】
抗体がキメラ抗体又はヒト型化抗体である請求項1記載の安定化製剤。
【請求項3】
抗体が抗インターロイキン−6レセプター抗体である請求項1又は2記載の安定化製剤。
【請求項4】
抗インターロイキン−6レセプター抗体が抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体である請求項3記載の安定化製剤。
【請求項5】
グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液の濃度が5mM〜200mMである請求項1記載の安定化製剤。
【請求項6】
等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の安定化製剤。
【請求項7】
グリシン及び/又はスクロースの添加量が0.05〜1Mである請求項6記載の安定化製剤。
【請求項8】
等張化剤としてNaClを含まない請求項1〜7のいずれかに記載の安定化製剤。
【請求項9】
等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含み、かつグリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体を含んでなる安定化製剤。
【請求項10】
pHが5〜8である請求項1〜9のいずれかに記載の安定化製剤。
【請求項11】
グリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗体含むことを特徴とする、抗体製剤の安定化方法。
【請求項12】
等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含むことを特徴とする、請求項11記載の安定化方法。
【請求項13】
等張化剤としてグリシン及び/又はスクロースを含み、かつグリシン緩衝液及び/又はヒスチジン緩衝液中に抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体を含むことを特徴とする、抗インターロイキン−6レセプター抗体製剤の安定化方法。
【請求項14】
塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はそれらの塩を用いてpH調整を行うことを特徴とする生理活性タンパク質を含有する安定化製剤の製造方法。
【請求項15】
塩基性アミノ酸がヒスチジン、アルギニン、リジンから選択される1または2以上である請求項14記載の製造方法。
【請求項16】
塩基性アミノ酸がヒスチジンである請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
生理活性タンパク質が組換えタンパク質である請求項14〜16のいずれかに記載の製造方法。
【請求項18】
生理活性タンパク質が抗体である請求項14〜17のいずれかに記載の製造方法。
【請求項19】
抗体がキメラ化抗体又はヒト型化抗体である請求項18記載の製造方法。
【請求項20】
抗体が抗インターロイキン−6レセプター抗体である請求項18又は19記載の製造方法。
【請求項21】
抗インターロイキン−6レセプター抗体が抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体である請求項20記載の製造方法。
【請求項22】
ヒスチジン緩衝液中に抗体を含み、かつpHが5〜7.5である安定化製剤。
【請求項23】
抗体が抗インターロイキン−6レセプター抗体である請求項21記載の安定化製剤。
【請求項24】
抗インターロイキン−6レセプター抗体が抗インターロイキン−6レセプターヒト型化抗体である請求項23記載の安定化製剤。
【請求項25】
pHが5.5〜6.2である請求項24記載の安定化製剤。
【請求項26】
ヒスチジン濃度が1〜50mMである請求項25記載の安定化製剤。
【請求項27】
ヒスチジン濃度が3〜20mMである請求項26記載の安定化製剤。
【請求項28】
ヒスチジン濃度が5〜10mMである請求項27記載の安定化製剤。
【請求項29】
pHが6.2〜7.5である請求項24記載の安定化製剤。
【請求項30】
ヒスチジン濃度が5〜200mMである請求項29記載の安定化製剤。
【請求項31】
ヒスチジン濃度が10〜150mMである請求項30記載の安定化製剤。
【請求項32】
ヒスチジン濃度が25〜100mMである請求項31記載の安定化製剤。
【請求項33】
グリシン及び/又はスクロースをさらに含む請求項21〜32のいずれかに記載の安定化製剤。
【請求項34】
グリシン及び/又はスクロースの添加量が0.05〜1Mである請求項33記載の安定化製剤。
【請求項35】
塩基性アミノ酸又は塩基性アミノ酸誘導体、又はその塩を用いてpH調整を行うことを特徴とする請求項21〜34のいずれかに記載の安定化製剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−72173(P2012−72173A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260248(P2011−260248)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【分割の表示】特願2002−518999(P2002−518999)の分割
【原出願日】平成13年8月13日(2001.8.13)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【分割の表示】特願2002−518999(P2002−518999)の分割
【原出願日】平成13年8月13日(2001.8.13)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】
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