説明

抗体製造の最適化

例えば特定の収集時点及び/又は特定の精製スキームを選択することにより、例えば治療効果を向上させるために、クロマトグラフィー法による抗体変異体からの抗体分子の分離により精製された抗体を製造するための一般的方法が提供される。よって、本発明は、抗体分子とその変異体を含有する試料を提供し、上記試料の一定分量中における、抗体分子及び/又はその変異体の存在、及び/又は抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子とその変異体の量の比を決定し、先に得られたデータに基づいて次の収集時点及び/又は抗体精製スキームを決定する工程を含み、それによって抗体分子とその変異体を含有する抗体組成物を製造する、抗体分子とその変異体を含有する抗体組成物を製造する方法を報告する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリペプチド生産及び精製の分野に関する。例えば特定の収集時点及び/又は特定の精製スキームを選択することにより、例えば治療効果を向上させるために、クロマトグラフィー法による抗体変異体からの抗体分子の分離により精製された抗体を製造するための一般的方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体は多大な治療潜在性を有しており、今日の医療製品ラインにおいて重要な役割を果たしている。ここ10年の間、製薬産業における顕著な傾向は、癌、喘息、関節炎、多発性硬化症等のような多くの疾患の治療のための治療剤としてのモノクローナル抗体(mAbs)の開発であった。最近の報告は376のmAb開発プログラム(前臨床から市場へ)を示し、モノクローナル抗体は臨床試験における全生物製剤の約20%を現在構成している。モノクローナル抗体は遺伝子操作された哺乳動物細胞培養において組換えタンパク質として主に製造される。典型的には、上流プロセスである、分泌されたmAbの生産に撹拌タンクバイオリアクターが使用され、収集、クロマトグラフィー捕獲及びポリッシュ工程からなる下流プロセスが続く。典型的には液体である薬剤物質がついで薬剤製品に製剤化される。
【0003】
ヒトへの応用では、あらゆる医薬物質は明確な基準に合致しなければならない。ヒトに対する生物製剤用薬剤の安全性を保証するために、一又は複数の精製工程が製造プロセスの後に続かなければならない。従って、下流プロセス開発の目標は、高純度製品が得られる高収量、頑強で、スケーラブルで信頼性のあるプロセスを開発することである。プロセスにおける典型的な汚染物質は、DNA、宿主細胞タンパク質(HCP)、ウイルス、凝集及び断片化製品、及び残留培地成分を含む。これらの汚染物質からの抗体製品の分離には、様々な態様の精製を利用するオルソゴナルな精製プロセスが必要とされる。一般に、mAb精製プロセスは、濾過及びクロマトグラフィー工程の様々な組合せを含む。純度の他に、処理量及び収率が製薬産業における適切な精製プロセスを決定する際に重要な役割を果たす。モノクローナル抗体に対して製造コストの概略40−60%が下流プロセスから生じる。
【0004】
調和国際会議(ICH)ガイダンス文書によれば、薬剤物質の不均一性がその品質を定義し、ロット間の一貫性を確保するために程度及びプロファイルがモニターされ、特徴付けられるべきである。従って、mAbsの微小不均一性が、生産、特に下流プロセスに対しての関心事である。製品の特徴付けは、類似の性質をもって存在しうる変異体を決定するのに必要であり、精製を複雑化しうる(例えばAhrer, K.,及びJungbauer, A., J. Chromatogr. B 841 (2006) 110-122を参照)。mAbsの微小不均一性は例えば翻訳後修飾、酵素的修飾、標的タンパク質の不正確な翻訳、及びプロセシング及び変化によって引き起こされる修飾から生じる。各修飾は最終製品の生物学的活性又は安定性に影響を及ぼす場合がある。よって、迅速で信頼性がある定量的分析方法がタンパク質の幾つかの変異体を分離するために必要とされる。例えばクロマトグラフィー及び電気泳動法はタンパク質分離のツールである。
【0005】
タンパク質におけるアスパラギン及びグルタミン残基の側鎖の非酵素的脱アミドはしばしば組換えタンパク質の電荷不均一性の原因である。これらのアミノ酸の非荷電側鎖が修飾されてイソ-グルタメート及びイソ-アスパルテート残基又はグルタメート及びアスパルテート残基になる。従って、更なる電荷が修飾毎にタンパク質に導入される(Aswald, D.W.等, J. Pharmaceut. Biomed. Anal. 21 (2000) 1129-1136)。
【0006】
組換えモノクローナル抗体では、脱アミドは、細胞内、分泌後、精製中、保存中、及び様々なストレス条件下、任意の段階で生じうる。アスパラギンの脱アミドは、高温での塩基性pH下で抗体又はその分離された画分をインキュベートした後に、より酸性の種が観察されることによりモノクローナル抗体の電荷不均一性に関与していることが報告されている(概説 Liu, H.等, J. Pharmac. Sciences 97 (2008) 2426-2447)。脱アミドは抗体に一つの更なる負の電荷を導入し、酸性種を生成し、これが一般にカチオン交換クロマトグラフィーでの早期の溶離を生じる。
【0007】
抗体の他の典型的な修飾は、糖変異体を生じるその糖鎖付加パターンに関し、例えば細胞培養の過程で又は培養条件により変動しうる(概説については、Beck, A.等, Curr. Pharm. Biotechnol. 9 (2008) 482-501を参照)。
【0008】
組換え的に生産された免疫グロブリンの精製では、しばしば異なったカラムクロマトグラフィー工程の組合せが用いられる。一般に、アフィニティークロマトグラフィー工程には一、二又は更に多い付加的な分離工程が続く。最終精製工程は、微量不純物及び汚染物質、例えば凝集免疫グロブリン、残留HCP(宿主細胞タンパク質)、DNA(宿主細胞核酸)、ウイルス、又は内毒素の除去のためのいわゆる「ポリッシュ工程」である。
【0009】
Tsai, P.K.等, Pharmac. Res. 10 (1993) 1580-1586は、抗ヒトCD18モノクローナル抗体の等電点不均一性を記載している。電荷不均一性は免疫グロブリン重鎖の連続的脱アミドから生じると推測されている。
【0010】
Moorhouse, K.G.等(J. Pharmac. Biomed. Anal. 16 (1997) 593-603)は、抗ヒトCD20モノクローナル抗体の電荷不均一性の分析のためのHPLCの使用を検討している。
【0011】
Kaltenbrunner, O.等, J. Chrom 639 (1993) 41-49は、そのpI値が異なる抗体変異体を分離するために塩勾配と組み合わせて線形のpH勾配を使用している。
【0012】
国際公開第2006/084111号(Glaxo Group Ltd)では、脱アミドポリペプチドの量に従って収集時点が計算される方法が述べられている。
【0013】
Robinson, D.K.等, Biotech. and Bioeng. 44 (1994) 727-735は、幾つかの酸性モノクローナル抗体種が製造され、その発生が培養条件に依存する流加プロセスを開示している。
【0014】
重鎖のC末端にリジン残基が存在することが異なる3種のmAb変異体が、中性pHで線形NaCl勾配を使用するカチオン交換クロマトグラフィーによって分離されている(Weitzhandler, M., Proteomics 1 (2001) 179-185)。
【0015】
RhuMAb HER2又はトラスツズマブ(商品名ハーセプチン(登録商標)で販売)は、HER2過剰発現/HER2遺伝子増幅転移性乳癌の治療に使用される組換えヒト化抗HER2モノクローナル抗体(ここではher2抗体)である。トラスツズマブは、Hudziak, R.M.等, Mol. Cell. Biol 9 (1989) 1165-1172に記載されたマウス抗HER2抗体4D5と同じHER2のエピトープに特異的に結合する。トラスツズマブは、rhuMAb 4D5又はトラスツズマブと称されるマウス抗HER2抗体4D5の組換えヒト化型であり、広範な抗癌治療を先に受けたHER2過剰発現転移性乳癌の患者において臨床的に活性である(Baselga, J.等, J. Clin. Oncol. 14 (1996) 737-744)。トラスツズマブとその調製方法は米国特許第5821337号に記載されている。レセプターチロシンキナーゼのHERファミリーは細胞増殖、分化及び生存の重要なメディエーターである。該レセプターファミリーは、上皮増殖因子レセプター(EGFR、ErbB1、又はHER1)、HER2(ErbB2又はp185neu)、HER3(ErbB3)及びHER4(ErbB4又はtyro2)を含む4つの区別されるメンバーを含む。
【0016】
her2/neu遺伝子の遺伝子産物に対するモノクローナルher2抗体は、7つの異なった変異体で存在することが見出されている。組換え的に生産されたher2抗体の脱アミド及び他の酸性変異体が電荷不均一性を生じ、溶離のためにイオン強度の線形増加を使用するカチオン交換クロマトグラフィーによって該変異体を分離することができる。分析技術の組み合わせ、とりわけイオン交換クロマトグラフィー(IEC)を使用して、主ピークの他、6種全てのマイナーな形態を割り当てることができている。Harris R. J.等(J. Chromatogr. B 752 (2001), 233-245)は、IEC−ピーク3が73.8%のピーク面積を有しており、her2抗体の活性型を表し、これが最も豊富な変異体であることを報告している。脱アミド及び他の酸性変異体は分離された全抗体の約25%を構成していた。
【0017】
欧州特許第1075488B1号及び同第1308455B9号は、第四の導電率での溶離(結合-溶離モジュール)の前に異なった導電率での洗浄工程を使用するカチオン交換クロマトグラフィーによるher2抗体の精製を報告している。それによって、組成物中の酸性変異体の量が低減されたher2抗体の組成物が得られている。同様に、国際公開第2004/024866号(Genentech社)は特定の勾配の洗浄を使用するカチオン交換クロマトグラフィーによるher2抗体の精製を開示している。
【0018】
現在の仕様によれば、市場にあるハーセプチン(登録商標)は≧65%の活性型(IECピーク3/3)及び分析的イオン交換クロマトグラフィープロファイルにおけるピーク4に対応する≦20%の不活性型を含んでいなければならない(図2及び表1を参照)。
【発明の概要】
【0019】
よって、組換え的に生産される抗体の精製及びその抗体変異体に対しての抗体分子の濃縮のための他の方法を適用することが本発明の目的である。
本発明に係る方法によれば、コストと治療効果についての均衡を得ることができる。抗体分子及び/又はその変異体の存在及び/又は抗体分子又はその変異体の量と抗体分子及びその変異体の合計の比が収集又は精製スキームの決定前に決定されるインプロセス制御工程を抗体組成物の製造中に導入することにより、最適化を得ることができることが更に見出された。この方法では、収集時点及び精製スキームが抗体源材料の変異体パターン又は品質に適応される。
【0020】
よって、本発明の第一の態様は、抗体分子とその変異体を含有する抗体組成物の製造方法であり、
a)抗体分子とその変異体を含有する試料を提供し、
b)上記試料の一定分量中における、抗体分子とその変異体の存在、及び/又は抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子とその変異体の量の比を決定し、
c)工程b)で得られたデータに基づいて次の収集時点及び/又は抗体精製スキームを決定する
工程を含み、それによって抗体分子とその変異体を含有する抗体組成物を製造する方法である。
【0021】
本発明の他の態様は、ポリペプチドを含有する試料の一定分量の、上記試料の次のポリペプチド精製スキームの決定のための、分析的イオン交換クロマトグラフィーの使用である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は第一の態様において高収率で高い割合の抗体分子を含有する抗体の大規模な生産を可能にし、非常に経済的な抗体組成物の製造方法を提供する。
【0023】
よって、本発明の第一の態様は、抗体分子とその変異体を含有する抗体組成物の製造方法であり、
a)抗体分子とその変異体を含有する試料を提供し、
b)上記試料の一定分量中における、抗体分子とその変異体の存在、及び/又は抗体分子とその変異体の量と抗体分子とその変異体の量の合計の比を決定し、
c)工程b)で得られたデータに基づいて次の収集時点及び/又は抗体精製スキームを決定する
工程を含み、それによって抗体分子とその変異体を含有する抗体組成物を製造する方法である。
【0024】
他の実施態様では、本発明はポリペプチドを含有する試料の一定分量の、上記試料の次のポリペプチド精製スキームの決定のための、分析的イオン交換クロマトグラフィーの使用を含む。
【0025】
本発明の実施では、当業者の技量の範囲内である分子生物学、微生物学、組換えDNA技術、及び免疫学の一般的な技術を用いる。かかる技術は文献において十分に説明されている。例えばSambrook, Fritsch & Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989), Cold Spring Harbor, NY;Glover, D.M. (編), DNA Cloning - A Practical Approach, Volumes I and II, IRL Press Limited (1985);Gait, M.J. (編), Oligonucleotide Synthesis - A Practical Approach, IRL Press Limited (1984);Hames, B.D. and Higgins, S.J. (eds.), Nucleic acid hybridisation, IRL Press Limited (1984);Freshney, R.I. (編) Animal cell culture - a practical approach, IRL Press Limited (1986);Perbal, B., A practical guide to molecular cloning, Wiley Interscience (1984); the series Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.);Miller, J.H.及びCalos, M.P. (編), Gene transfer vectors for mammalian cells, Cold Spring Harbor Laboratory (1987); Methods in Enzymology, Vol. 154 and Vol. 155 (それぞれWu及びGrossman, 及びWu編);Mayer及びWalker (編), Immunochemical methods in cell and molecular biology, Academic Press, London (1987);Scopes, R.K., Protein Purification - Principles and Practice, 2版, Springer-Verlag, N.Y. (1987);及びWeir, D.M.及びBlackwell, C. (編), Handbook of Experimental Immunology, Volumes I-IV, Blackwell Scientific Publications (1986)を参照のこと。
【0026】
一般的なクロマトグラフィー法及びその用途は当業者には知られている。例えば、Heftmann, E. (編), Chromatography, 5版, Part A: Fundamentals and Techniques, Elsevier Science Publishing Company, New York, (1992);Deyl, Z. (編), Advanced Chromatographic and Electromigration Methods in Biosciences, Elsevier Science BV, Amsterdam, The Netherlands (1998);Poole, C. F.,及びPoole, S. K., Chromatography Today, Elsevier Science Publishing Company, New York (1991);Scopes, R.K., Protein Purification: Principles and Practice, Springer-Verlag, N.Y. (1987);Sambrook, J.等 (編), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., (1989); Ausubel, F. M.等 (編), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York;又はFreitag, R., Chromatographical Techniques in the Downstream Processing of (Recombinant) Proteins, Methods in Biotechnology, Vol. 24: Animal Cell Biotechnology: Methods and Protocols, 2版, Humana Press Inc. (2007), pp. 421-453を参照のこと。
【0027】
ポリペプチドを精製するための方法は十分に確立され、広く使用されている。それらは単独で又は組み合わせて用いられる。かかる方法は、例えば、微生物由来タンパク質を使用するアフィニティークロマトグラフィー(例えばプロテインA又はプロテインGアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えばカチオン交換(カルボキシメチル樹脂)、アニオン交換(アミノエチル樹脂)及び混合モード(mixed-mode)交換クロマトグラフィー)、チオフィリック吸着(例えばβ-メルカプトエタノール及び他のSHリガンドを用いる)、疎水性相互作用又は芳香族吸着クロマトグラフィー(例えばフェニル-セファロース、アザ-アレノフィリック(aza-arenophilic)樹脂、又はm-アミノフェニルボロン酸を用いる)、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(例えば、Ni(II)−及びCu(II)−アフィニティ物質を用いる)、分子ふるいクロマトグラフィー、及び調製用電気泳動法(ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動等)である(Vijayalakshmi, M. A., Appl. Biochem. Biotech. 75 (1998) 93-102)。
【0028】
組換え産生された免疫グロブリンの精製のために、しばしば様々なカラムクロマトグラフィー工程の組み合わせが用いられる。一般的に、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーに、一又は二の更なる分離工程が続く。最終精製工程は、凝集免疫グロブリン、残留HCP(宿主細胞タンパク質)、DNA(宿主細胞核酸)、ウイルス、又はエンドトキシンのような微量不純物及び汚染物質の除去のための、いわゆる「ポリッシュ工程(polishing step)」である。このポリッシュ工程では、しばしばフロースルー態様のアニオン交換材料が使用される。
【0029】
次の用語は、特段の記載がない限り、次の意味を有するものと理解されなければならない。
【0030】
「宿主細胞」なる用語は植物細胞及び動物細胞を包含する。動物細胞は、無脊椎動物、非哺乳類脊椎動物(例えばトリ、爬虫類及び両生類)及び哺乳動物細胞を包含する。無脊椎動物細胞の例は次の昆虫細胞を含む:スポドプテラ・フルギペルダ(イモムシ)、ネッタイシマカ(蚊)、ヒトスジシマカ(蚊)、キイロショウジョウバエ(ショウジョウバエ)、及びカイコ(例えば、Luckow, V.A.等, Bio/Technology 6 (1988) 47-55;Miller, D.W.等, Genetic Engineering, Setlow, J. K.等(編), Vol. 8, Plenum Publishing (1986), pp. 277-298;及びMaeda, S.等, Nature 315 (1985) 592-594を参照のこと)。
【0031】
「発現」又は「発現する」なる用語は、宿主細胞の中で生じる転写及び翻訳を意味する宿主細胞内での生産物遺伝子の発現レベルは、細胞内に存在する対応するmRNAの量又は細胞中に発現される構造遺伝子によってコードされるポリペプチドの量の何れかに基づいて決定されうる。
【0032】
本出願中で使用される「培養」なる用語は、宿主細胞の発酵、すなわち異種ポリペプチドの生産が実施される容器の全内容物を意味する。これは、生産された異種ポリペプチド、培地に存在する他のタンパク質及びタンパク質断片、宿主細胞、細胞断片、及び栄養培地で供給され培養中に宿主によって生産された全ての成分を含む。
【0033】
「細胞培養培地」及び「培養培地」なる用語は、多細胞生物又は組織の外側の人工的なインビトロ環境における細胞の維持、成長、繁殖、又は増殖のための栄養素溶液を意味する。細胞培養培地は、例えば細胞増殖を促進するように処方される細胞培養増殖培地又は組換えタンパク質生産を促進するように処方される細胞培養産生培地を含む、特定の細胞培養用途に対して最適化されうる。
【0034】
ここで使用される「流加細胞培養」及び「流加培養」は、細胞、好ましくは哺乳動物細胞及び培養培地が最初に培養容器に供給され、培養中に更なる培養栄養素が培養に連続的に又は離散的な増分として供給される細胞培養を意味し、培養の終了前に周期的な細胞及び/又は生成物収穫を伴うか又は伴わない。栄養供給は特定の細胞培養成分の消費に基づく場合がある。
【0035】
ここで精製される「試料」なる用語は、対象のポリペプチドと一又は複数の汚染物質を含む。組成物は例えば「部分的に精製され」得(つまり、プロテインAクロマトグラフィーのような一又は複数の精製工程に供されている)又は例えばポリペプチドを生産する宿主細胞又は生物から直接得られうる(例えば組成物は収集した細胞培養液を含みうる)。
【0036】
「汚染物質」なる用語は、負荷液のような溶液中に存在する任意の外来の又は望まれない分子を意味する。汚染物質は、精製される対象のタンパク質の試料中にまた存在する生物学的高分子、例えばDNA、RNA、又は精製される対象のタンパク質以外のタンパク質でありうる。汚染物質は、例えば望まれないタンパク質変異体、例えば凝集タンパク質、ミスフォールドタンパク質、不十分なジスルフィド結合の(underdisulfide-bonded)タンパク質、高分子量種;精製されるタンパク質を分泌する宿主細胞からの他のタンパク質、宿主細胞DNA、細胞培養培地からの成分、前の精製工程中に試料中に浸出するアフィニティークロマトグラフィーのための吸収剤セットの一部である分子、例えばプロテインA;エンドトキシン;核酸;ウイルス;又は上記のものの何れかの断片を含む。
【0037】
本出願内で使用される「クロマトグラフィー材料」なる用語は、クロマトグラフィー官能基が好ましくは共有結合により結合しているバルクコア材料を含む固形材料を意味する。バルクコア材料は、クロマトグラフィープロセスに、すなわち分離されるポリペプチドとクロマトグラフィー材料のクロマトグラフィー官能基との間の相互作用に関与しないことが理解される。それは、クロマトグラフィー官能基が結合し、分離される物質を含む溶液がクロマトグラフィー官能基に接近できることを保証する三次元フレームワークを単に提供している。好ましくは、上記バルクコア材料は固相である。よって、好ましくは、上記「クロマトグラフィー材料」は、クロマトグラフィー官能基が好ましくは共有結合により結合している固相である。好ましくは、上記「クロマトグラフィー官能基」は、異なるクロマトグラフィー官能基がある種のポリペプチド又は共有結合した荷電基にのみ結合するために組み合わされるイオン化可能な疎水基、又は疎水基、又は錯体基である。
【0038】
「固相」は、非液状物質を意味し、ポリマー、金属(常磁性、強磁性粒子)、ガラス、及びセラミックなどの材料から作られた粒子(微小粒子及びビーズを含む);シリカ、アルミナ、及びポリマーゲルなどのゲル物質;ゼオライト及び他の多孔性物質を含む。固相は、充填クロマトグラフィーカラムなどの固定相成分であり得、又はビーズ及び微小粒子などの非固定相成分でありうる。そのような粒子は、ポリスチレン及びポリメタクリル酸メチルなどのポリマー粒子;金ナノ粒子及び金コロイドなどの金粒子;及びシリカ、ガラス、及び酸化金属粒子などのセラミック粒子を含む。例えば、Martin, C.R.等, Analytical Chemistry-News & Features, May 1 (1998) 322A-327Aを参照のこと。
【0039】
本出願内で互換的に使用されうる「疎水性電荷誘導クロマトグラフィー」又は「HCIC」なる用語は、「疎水性電荷誘導クロマトグラフィー材料」を用いるクロマトグラフィー法を意味する。「疎水性電荷誘導クロマトグラフィー材料」は、一つのpH範囲で被分離物質と疎水性結合を形成しうるクロマトグラフィー官能基を含み、他のpH範囲で正又は負の何れかに荷電しているクロマトグラフィー材料であり、すなわちHCICは、クロマトグラフィー官能基としてイオン化可能な疎水性基を使用する。一般に、ポリペプチドは、中性pH条件下で疎水性電荷誘導材料に結合し、その後、pH値の変化により電荷の反発が発生することにより回収される。例示的な「疎水性電荷誘導クロマトグラフィー材料」は、BioSepra MEP又はHEA Hypercel(Pall Corp., USA)である。
【0040】
本出願内で互換的に使用できる「疎水性相互作用クロマトグラフィー」又は「HIC」なる用語は、「疎水性相互作用クロマトグラフィー材料」が用いられるクロマトグラフィー法を意味する。「疎水性相互作用クロマトグラフィー材料」は、ブチル基、オクチル基、又はフェニル基などの疎水性基がクロマトグラフィー官能基として結合しているクロマトグラフィー材料である。ポリペプチドは、疎水性相互作用クロマトグラフィー材料の疎水性基と相互作用できるそれらの表面に露出したアミノ酸側鎖の疎水性に応じて分離される。ポリペプチドとクロマトグラフィー材料の間の相互作用は、温度、溶媒、及び溶媒のイオン強度により影響されうる。アミノ酸側鎖の運動が増加し、より低温ではポリペプチド内部に埋もれていた疎水性アミノ酸側鎖がアクセス可能になることから、温度増加は、例えばポリペプチドと疎水性相互作用クロマトグラフィー材料間の相互作用を支持する。また、疎水性相互作用は、コスモトロピックな塩により促進され、カオトロピックな塩により減少する。「疎水性相互作用クロマトグラフィー材料」は、例えばフェニルセファロースCL−4B、6FF、HP、フェニルスペロース(Phenyl Superose)、オクチルセファロースCL−4B、4FF、及びブチルセファロース4FF(全てGE Healthcare Life Sciences, Germanyから入手可能)であり、それはバルク材料へのグリシジル−エーテルカップリングにより得られる。
【0041】
本出願内で使用される「アフィニティークロマトグラフィー」なる用語は、「アフィニティークロマトグラフィー材料」を用いるクロマトグラフィー法を意味する。アフィニティークロマトグラフィーでは、ポリペプチドは、クロマトグラフィー官能基への静電相互作用、疎水性結合の形成、及び/又は水素結合の形成に応じてその生物学的活性又は化学構造に基づき分離される。特異的に結合したポリペプチドをアフィニティークロマトグラフィー材料から回収するために、競合体リガンドが添加されるか、又はバッファーのpH値、極性又はイオン強度などのクロマトグラフィー条件が変更されるかの何れかである。「アフィニティークロマトグラフィー材料」は、ある種のポリペプチドだけと結合させるために、異なる単一のクロマトグラフィー官能基が組合された複合クロマトグラフィー官能基を含むクロマトグラフィー材料である。このクロマトグラフィー材料は、そのクロマトグラフィー官能基の特異性に応じて、ある種のポリペプチドと特異的に結合する。例示的な「アフィニティークロマトグラフィー材料」は、ヘキサヒスチジンタグを有する融合ポリペプチド、又は表面に露出した多数のヒスチジン、システイン、および/もしくはトリプトファン残基を有するポリペプチドの結合のための、Ni(II)−NTA又はCu(II)−NTA含有材料などの「金属キレートクロマトグラフィー材料」、あるいはプロテインA又は抗原などの「抗体結合性クロマトグラフィー材料」、あるいはクロマトグラフィー官能基として酵素基質アナログ、酵素補因子、もしくは酵素阻害剤を含むクロマトグラフィー材料などの「酵素結合性クロマトグラフィー材料」、あるいはクロマトグラフィー官能基として多糖、細胞表面レセプター、糖タンパク質、もしくはインタクトな細胞を含むクロマトグラフィー材料などの「レクチン結合性クロマトグラフィー材料」である。
【0042】
ここで使用される場合、「プロテインA」なる用語は、その天然源から回収されるプロテインA、(例えばペプチド合成により又は組換え技術により)合成的に製造されるプロテインA、及びCH2/CH3領域を有するタンパク質に結合する能力を保持しているその変異体を包含する。プロテインAは例えばGE Healthcare Life Sciences, Germanyから商業的に購入可能である。
【0043】
「プロテインAアフィニティークロマトグラフィー」はプロテインAを使用する物質及び/又は粒子の分離又は精製を意味し、ここで、プロテインAは一般に固相に固定される。CH2/Ch3領域を含むタンパク質は可逆的にプロテインAに結合し又は吸着されうる。ここでのプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにおける使用のためのプロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムの例は、制御された細孔を持つガラス骨格に固定したプロテインA、ポリスチレン固相に固定したプロテインA、例えばPOROS 50A(TM)カラム(Applied BioSystems Inc.);又はアガロース固相に固定したプロテインA、例えばrPROTEIN A SEPHAROSE FAST FLOW(TM)又はMABSELECT(TM)カラム(GE Healthcare Life Sciences, Germany)を含む。
【0044】
本出願内で使用される「金属キレートクロマトグラフィー」なる用語は、「金属キレートクロマトグラフィー材料」を用いるクロマトグラフィー法を意味する。金属キレートクロマトグラフィーは、クロマトグラフィー官能基としてバルク材料に結合した、Cu(II)、Ni(II)又はZn(II)などの金属イオンと、ポリペプチドの表面に露出したアミノ酸側鎖の電子供与基との間の、特にイミダゾール含有側鎖及びチオール基含有側鎖とのキレート形成に基づく。キレートは、その側鎖が少なくとも部分的にプロトン化されていないpH値で形成する。結合したポリペプチドは、pH値の変化により、すなわちプロトン化により、クロマトグラフィー材料から回収される。例示的な「金属キレートクロマトグラフィー材料」は、HiTrap Chelating HP(GE Healthcare Life Sciences, Germany)又はFraktogel EMD(EMD Chemicals Inc, USA)である。
【0045】
本出願内で使用される「イオン交換クロマトグラフィー」なる用語は、「イオン交換クロマトグラフィー材料」を用いるクロマトグラフィー法を意味する。「イオン交換クロマトグラフィー材料」なる用語は、カチオンが「カチオン交換クロマトグラフィー」で、「カチオン交換クロマトグラフィー材料」と交換されるか、又はアニオンが「アニオン交換クロマトグラフィー」で「アニオン交換クロマトグラフィー材料」と交換されるかに依存することを包含する。本出願内で使用される「イオン交換クロマトグラフィー材料」なる用語は、クロマトグラフィー官能基として共有結合した荷電基を担持する固定された高分子量固相を意味する。総電荷を中性にするために、共有結合していない対イオンがそれと会合される。「イオン交換クロマトグラフィー材料」は、その共有結合していない対イオンと、周囲の溶液中の類似の荷電したイオンを交換する能力を有する。その交換可能な対イオンの電荷に応じて、「イオン交換クロマトグラフィー材料」は、「カチオン交換クロマトグラフィー材料」又は「アニオン交換クロマトグラフィー材料」と称される。更に、荷電基の性質に応じて、「イオン交換クロマトグラフィー材料」は、例えば、スルホン酸基(S)又はカルボキシルメチル基(CM)を有するカチオン交換クロマトグラフィー材料の場合におけるように称される。荷電基の化学的性質に依存して、「イオン交換クロマトグラフィー材料」を、共有結合した荷電置換基の強度に応じて更に強又は弱イオン交換クロマトグラフィー材料と分類することができる。例えば、強カチオン交換クロマトグラフィー材料は、クロマトグラフィー官能基としてスルホン酸基を有し、弱カチオン交換クロマトグラフィー材料は、クロマトグラフィー官能基としてカルボン酸基を有する。例えば、「カチオン交換クロマトグラフィー材料」は、例えばBio−Rex、Macro−Prep CM(Biorad Laboratories、Hercules, CA, USAから入手可能)、弱カチオン交換体WCX2(Ciphergen, Fremont, CA, USAから入手可能)、Dowex(登録商標)MAC−3(Dow chemical company-liquid separations, Midland, MI, USAから入手可能)、Mustang C(Pall Corporation, East Hills, NY, USAから入手可能)、セルロースCM−23、CM−32、CM−52、hyper−D、及びパーティスフィア(Whatman plc, Brentford, UKから入手可能)、Amberlite(登録商標)IRC76、IRC747、IRC748、GT73(Tosoh Bioscience GmbH, Stuttgart, Germanyから入手可能)、CM1500、CM3000(BioChrom Labs, Terre Haute, IN, USAから入手可能)、及びCM−Sepharose(商標)Fast Flow(GE Healthcare-Amersham Biosciences Europe GmbH, Freiburg, Germanyから入手可能)などの複数の会社から異なる名称で入手することができる。市販のカチオン交換樹脂は更にカルボキシ-メチル-セルロース、Bakerbond ABX(商標)、アガロースに固定されたスルホプロポル(SP)(例えば GE Healthcare - Amersham Biosciences Europe GmbH, Freiburg, Germanyから入手可能な、SP-Sepharose Fast Flow(商標)又はSP-Sepharose High Performance(商標))及びアガロースに固定したスルホニル(例えば GE Healthcare, Life Sciences, Germanyから入手可能なS-Sepharose Fast Flow(商標))を含む。
【0046】
本出願内で使用される「ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー」なる用語は、ある形態のリン酸カルシウムをクロマトグラフィー材料として用いるクロマトグラフィー法を意味する。例示的なヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー材料は、Bio−Gel HT、Bio−Gel HTP、Macro−Prep Ceramic(Biorad Laboratoriesから入手可能)、ヒドロキシルアパタイトI型、II型、HA Ultrogel(Sigma Aldrich Chemical Corp., USA)、ヒドロキシルアパタイトFast Flow及びHigh Resolution(Calbiochem)、又はTSKゲルHA−1000(Tosoh Haas Corp., USA)である。
【0047】
本出願内で使用される「緩衝」なる用語は、酸性又は塩基性物質の添加又は放出によるpH変化が緩衝物質により同一水準に合わされる溶液を意味する。そのような効果を生じる任意の緩衝物質を使用することができる。好ましくは、例えばリン酸もしくはその塩、酢酸もしくはその塩、クエン酸もしくはその塩、モルホリンもしくはその塩、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸もしくはその塩、ヒスチジンもしくはその塩、グリシンもしくはその塩、又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)もしくはその塩などの、薬学的に許容される緩衝物質が使用される。特に好ましいものはリン酸もしくはその塩、又は酢酸もしくはその塩、又はクエン酸もしくはその塩、又はヒスチジンもしくはその塩である。場合によっては、緩衝液は、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、クエン酸ナトリウム、又はクエン酸カリウムなどの更なる塩を含みうる。
【0048】
本出願内で使用される「膜」なる用語は、ミクロ細孔膜又はマクロ細孔膜の両方を示す。膜自体は、ポリマー物質、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド(ナイロン、例えば、Zetapore(商標)、N66 Posidyne(商標))、ポリエステル、酢酸セルロース、再生セルロース、セルロース複合体、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアクリロニトリル、フッ化ポリビニリデン、不織布及び織布(例えば、Tyvek(登録商標))、繊維性物質、又は無機物質、例えば、ゼオライト、SiO、Al、TiO、もしくはヒドロキシアパタイトからなる。
【0049】
「充填バッファー」は対象のポリペプチド分子と一又は複数の汚染物質を含有する組成物をイオン交換樹脂上に添加するために使用されるものである。充填バッファーは、対象のポリペプチド分子(及び一般には一又は複数の汚染物質)がイオン交換樹脂に結合するような導電率及び/又はpHを有している。
【0050】
「洗浄バッファー」なる用語は、対象のポリペプチド分子を溶離させる前に、例えばイオン交換樹脂のようなクロマトグラフィー材料を洗浄又は再平衡化するために使用されるバッファーを意味する。洗浄バッファーと充填バッファーは同じでもよいが、それは必要とはされない。
【0051】
「溶離バッファー」は、対象のポリペプチドを固相から溶離させるために使用されるバッファーを意味する。例えば、溶離バッファーの導電率及び/又はpHは、対象のポリペプチドがクロマトグラフィー材料、例えばイオン交換樹脂から溶離されうるように適合化される。
【0052】
「再生バッファー」なる用語は、クロマトグラフィー材料、例えばイオン交換又はプロテインAを、それを再使用することができるように再生するために使用することができるバッファーを意味する。
【0053】
「導電率」なる用語は二つの電極間に電流を伝導する水溶液の能力を意味する。導電率の測定の単位はmS/cmであり、導電率計を使用して測定することができる。溶液の導電率はその中のイオンの量を変化させることによって変えることができる。例えば、溶液中の緩衝剤の量及び/又は塩(例えばNaCl)の量を、所望の導電率を達成するために変更することができる。
【0054】
ポリペプチド及び一又は複数の汚染物質を含有する溶液から抗体又はポリペプチドを「精製する」とは、組成物から少なくとも一種の汚染物質を除去することによって抗体又はポリペプチドの純度の度合いを増加させることを意味する。
【0055】
ポリペプチドの「pI」又は「等電点」は、タンパク質が正味の電荷を持たないpHを意味する。等電点以下では、タンパク質は正味の正電荷を、それより上では正味の負電荷を有する。等電点はタンパク質精製において重要であり、例えば等電点電気泳動又はコンピュータプログラムで決定することができる。更に、分析的イオン交換クロマトグラフィーは、非常に類似したpI値を持つ、つまり例えば0.1pI単位だけ異なるタンパク質変異体を分離することができるであろう。
【0056】
クロマトグラフィー材料、例えばイオン交換材料に分子を「結合させる」とは、分子が分子とイオン交換材料の荷電基又は荷電基群との間のイオン相互作用によってクロマトグラフィー材料、例えばイオン交換材料中に又はその上に可逆的に固定されるように、適切な条件(pH/導電率)下でイオン交換材料に分子を曝露することを意味する。
【0057】
材料を「洗浄する」とは、適切なバッファーをクロマトグラフィー材料、例えばイオン交換材料に通して又はそれにわたって通過させることを意味する。
分子を「溶離させる」とは、例えばクロマトグラフィー材料から、溶媒によって、ある物質(例えばポリペプチド又は汚染物質)を他のものから(例えば抗体から)分離する行為を意味する。
【0058】
本発明において使用される「結合−溶離モード」なる用語及びその文法的同等語は、対象の物質を含む溶液が固定相、好ましくは固相と接触させられ、それによって対象の物質が固定相に結合するクロマトグラフィー法の作用モードを意味する。その結果、対象の物質が固定相に保持される一方、対象ではない物質はフロースルー又は上清と共に除去される。対象の物質は、その後、第2の工程で固定相から溶離され、それによって溶離液と共に固定相から回収される。これは、対象ではない物質の100%が必ずしも除去されることを意味せず、対象ではない物質の本質的に100%が除去され、すなわち対象ではない物質の少なくとも50%が除去され、好ましくは対象ではない物質の少なくとも75%が除去され、好ましくは対象ではない物質の少なくとも90%が除去され、好ましくは対象ではない物質の95%より多くが除去されることを意味する。
【0059】
本発明において使用される「フロースルーモード」なる用語及びその文法的等価物は、対象の物質を含有する溶液が固定相、好ましくは固相に接触させられ、対象の物質が固定相に結合しないクロマトグラフィー法の作用モードを意味する。その結果、対象の物質は、フロースルー又は上清の何れかに得られる。溶液中にまた存在していた対象ではない物質は、固定相に結合し、溶液から除去される。これは、対象ではない物質の100%が必ずしも溶液から除去されることを意味せず、対象ではない物質の本質的に100%が除去され、すなわち、対象ではない物質の少なくとも50%が溶液から除去され、好ましくは対象ではない物質の少なくとも75%が溶液から除去され、好ましくは対象ではない物質の少なくとも90%が溶液から除去され、好ましくは対象ではない物質の95%より多くが溶液から除去されることを意味する。
【0060】
本出願内で互換的に使用される「勾配溶離」、「勾配溶離モード」、「連続溶離」及び「連続溶離法」なる用語は、ここでは、例えば、溶離、すなわちクロマトグラフィー材料からの結合した物質の溶解を生じせしめる物質の濃度が連続的に増大又は減少させられ、すなわちその量が、溶離を生じる物質の量の2%、好ましくは1%の変化をそれぞれ超えない一連の小さな段階だけ変化するクロマトグラフィー法を意味する。この「勾配溶離」において、一又は複数の条件、例えばクロマトグラフィー法のpH、イオン強度、塩の量、及び/又は流量を線形に変化させても、又は指数的に変化させても、又は漸近的に変化させてもよい。好ましくは、その変化は線形である。これらの線形変化は固定相によって分離されうる。更に、線形変化の傾きは溶離中に変わりうる。以下に記載されるように、特定のカラムからの結合分子の溶離のために特定のクロマトグラフィー工程では段階溶離が勾配溶離に続く場合がある。
【0061】
本出願内で互換的に使用される「段階溶離」、「段階溶離モード」及び「段階溶離法」なる用語は、例えば溶離、すなわちクロマトグラフィー材料からの結合した物質の溶解を生じせしめる物質の量が、一度に、すなわち一つの値/レベルから次の値/レベルに直接的に、増加させ又は減少させられるクロマトグラフィー法を意味する。この「段階溶離」では、一又は複数の条件、例えばクロマトグラフィー法のpH、イオン強度、塩の量、及び/又は流量が、第1の値、例えば出発値から第2の値、例えば最終値に全て一度に変化させられる。その段階における変化は、溶離を生じせしめる物質の量の5%、好ましくは10%の変化よりも大きい。「段階溶離」は、その条件が線形変化と対照的に増加的に、すなわち段階的に変化することを意味する。各増加の後に溶離法の次の段階まで条件が維持される。
【0062】
「段階溶離のみ」なる用語は、各クロマトグラフィー工程において勾配溶離ではなく、ポリペプチドを溶離させるのに段階溶離のみを使用することによるあるクロマトグラフィーカラムからの溶離を意味する。
【0063】
「単一工程」は、一又は複数の条件、例えばクロマトグラフィーのpH、イオン強度、塩の量、及び/又は流量が、出発値から最終値に全て一度に変化させられる、つまり条件が線形変化と対照的に増分的に、つまり段階的に変化させられるプロセスを示す。
【0064】
本出願内で使用される「に適用する」なる用語及びその文法的等価物は、精製しようとする対象の物質を含む溶液を固定相と接触させる精製方法の部分的工程を示す。これは、a)溶液を、固定相が位置されているクロマトグラフィー装置に添加すること、又はb)固定相を溶液に添加することを示す。a)の場合、精製しようとする対象の物質を含む溶液を固定相に通し、溶液中の物質と固定相との間の相互作用を可能にする。例えば、pH、導電率、塩の量、温度、及び/又は流量などの条件に応じて、溶液の幾つかの物質は固定相へ結合し、従って溶液から除去される。他の物質は溶液中に残存する。溶液中に残存する物質はフロースルー中に見出すことができる。「フロースルー」は、クロマトグラフィー装置の通過後に得られる溶液を示す。好ましくは、クロマトグラフィー装置はカラム、又はカセットである。固定相に結合していない目的の物質は、例えば、沈殿、塩析、限外ろ過、ダイアフィルトレーション、凍結乾燥、アフィニティークロマトグラフィー、又は濃縮溶液を得るための溶媒容積低下などの当業者によく知られる方法によってフロースルーから回収することができる。b)の場合、固定相を、例えば粉末として、精製しようとする目的の物質を含む溶液に添加し、溶液中の物質と固定相との間の相互作用を可能にする。相互作用後、固定相を例えばろ過により除去し、固定相に結合していない目的の物質を上清中に得る。
【0065】
本出願内で使用される「に結合しない」なる用語及びその文法的等価物は、目的の物質、例えば、免疫グロブリンが、固定相、例えばイオン交換材料と接触させられたときに溶液中に残存することを示す。これは、目的の物質の100%が溶液中に残存することを必ずしも示さず、目的の物質の本質的に100%が溶液中に残存する、つまり、目的の物質の少なくとも50%が溶液中に残存し、好ましくは目的の物質の少なくとも65%が溶液中に残存し、好ましくは目的の物質の少なくとも80%が溶液中に残存し、好ましくは目的の物質の少なくとも90%が溶液中に残存し、好ましくは目的の物質の95%より多くが溶液中に残存することを示す。
【0066】
「インプロセス制御パラメーター」(IPC)なる用語は、プロセス検証に適用される反応プロセスをモニターするために使用されるパラメーターである。IPCは例えば抗体を発現する細胞の培養中にモニターできる。「インプロセス制御パラメーター」を測定し又は決定することによって反応プロセスに対して特定の作用を惹起する値が得られる。「IPC」の例は、例えば抗体の発酵中における酸素及びグルコースレベル、pH及びCO値である。これらのパラメーターを測定することによって惹起される作用は例えば酸素及びグルコース供給についてのフィードバック制御でありうる。他のIPCは、製造される抗体についての情報、例えば培養培地中の量、品質、例えば活性変異体及び不活性変異体の割合、又は特定の糖変異体の含有量をもたらしうる。特定のIPCの決定には、試料が例えば培地から取り除かれ、又はIPCが発酵中にオンラインで決定されうる。
【0067】
「ポリペプチド」は、自然に産生されたものであろうと合成的に製造されたものであろうと、ペプチド結合により結合したアミノ酸からなるポリマーである。約20より少ないアミノ酸残基のポリペプチドは「ペプチド」と称され得、二以上のポリペプチドからなるか又は100を越えるアミノ酸残基の一つのポリペプチドを含む分子は「タンパク質」と称されうる。ポリペプチドはまた糖鎖基、金属イオン、又はカルボン酸エステルのような非アミノ酸成分を含みうる。非アミノ酸成分は、ポリペプチドが発現される細胞により付加される場合があり、細胞のタイプと共に変わりうる。ポリペプチドは、そのアミノ酸骨格構造又はそれをコードする核酸によりここで定義される。糖鎖基などの付加は、一般に特定されないが、それにもかかわらず存在しうる。
【0068】
「組換えポリペプチド」なる用語は、ポリペプチドをコードする核酸で形質転換又は形質移入され、又は相同組換えの結果としてポリペプチドを産生する宿主細胞中で産生されたポリペプチドを意味する。
【0069】
「異種性DNA」又は「異種性ポリペプチド」なる用語は、与えられた細胞内に天然には存在しないDNA分子又はポリペプチド、又はDNA分子の集団又はポリペプチドの集団を意味する。特定の細胞に異種性であるDNA分子は、その細胞のDNAが非細胞のDNA(つまり外因性DNA)と組み合わされる限り、細胞の種から誘導されたDNA(つまり、内因性DNA)を含みうる。例えば、プロモーターを含む細胞のDNAセグメントに作用可能に連結されたポリペプチドをコードする非細胞のDNAセグメントを含むDNA分子は異種性DNA分子であると考えられる。逆に、異種性DNA分子は外因性プロモーターに作用可能に連結された内因性構造遺伝子を含みうる。非細胞のDNA分子によってコードされるペプチド又はポリペプチドは「異種性」ペプチド又はポリペプチドである。
【0070】
「抗体」なる用語は、任意の免疫グロブリン又はその断片を意味し、抗原結合部位を含む任意のポリペプチドを包含する。該用語は、限定されないが、ポリクローナル、モノクローナル、単一特異性、多特異性、非特異的、ヒト化、ヒト、単鎖、キメラ、合成、組換え、ハイブリッド、変異、グラフト、二重特異性、三重特異性及びインビトロ産生抗体を含む。抗体断片は、抗原結合機能を保持している場合があるFab、F(ab’)、Fv、scFv、Fd、dAbを含む。典型的には、かかる断片は抗原結合ドメインを含む。
【0071】
ここで使用される「量」なる用語は、ポリペプチド又は抗体の量に対応する。該量は相対的な単位、例えばクロマトグラムにおけるピーク下面積、又は例えばμgで表されうる。
【0072】
ここで使用される「抗体分子」は、例えばその変異体と比較して最も活性な形態でありうる対象の抗体を意味する。変異体及び抗体分子は同じ配列から発現される。
【0073】
ここで使用される「活性な抗体又は活性な変異体」は、高生物学的効力を有する抗体を意味し、つまり「活性な変異体」の活性は全ての抗体変異体(抗体変異体は同じ抗体配列から発現される)の平均活性の70から150%である。例えば、イオン交換クロマトグラムにおいて主ピーク、ピーク3/3*に対応する(図2及び表1を参照)そのアスパラギン残基の異性化又は脱アミドを含まないハーセプチン変異体は、分離された他の変異体と比較して最も高い生物学的効力を有している。
【0074】
抗体分子の「酸性変異体」は、対象の抗体分子よりも(例えば等電点電気泳動又はイオン交換クロマトグラフィーにより決定して)より酸性である対象の抗体分子の変異体である。酸性変異体の例は脱アミド変異体である。また含まれるものはイオン交換クロマトグラフィー中に主ピークと比較して酸性領域に溶離する全ての変異体である。
【0075】
ポリペプチド分子の「脱アミド」変異体は、例えば元のポリペプチドの一又は複数のアスパラギン残基がアスパルテートに転換したポリペプチドであり、つまり、中性アミド側鎖が全体的に酸性の性質を持つ残基に転換されている。脱アミドher2変異体は、例えばイオン交換クロマトグラムにおいてピーク1に対応するアミノ酸位置30においてアスパラギンをアスパルテートに転換させたher2抗体変異体である(図2、表1)。
【0076】
抗体分子の「塩基性変異体」は、対象の抗体分子よりも(例えば等電点電気泳動又はイオン交換クロマトグラフィーにより決定して)より塩基性である抗体分子の変異体である。ここで、抗体の全体的な理論電荷を理論的に改変すべきではない例えばアスパラギンの異性化だけが異なるが、イオン交換クロマトグラフィー中に未修飾抗体と比較してより塩基性領域に抗体が溶離するような抗体の高次構造を生じるかもしれない変異体がまた含まれる。これは例えばピーク4に分離されたハーセプチン変異体の場合にしかりである(図2,表1)。
【0077】
糖変異体なる用語は、抗体分子と比較して異なった糖鎖付加パターンを特徴とする抗体変異体を意味する。それは、抗体に結合した多糖類(グリカン)のタイプと分布が糖変異体間で異なっていることを意味する。抗体分子の糖変異体は、そのpI値が抗体分子とは異なるならば、カテゴリーが塩基性又は酸性変異体にまた入りうる。
【0078】
全ての抗体変異体は抗体分子と同じ配列から発現され、よって例えばインビボ又はインビトロで、翻訳後に修飾される。
【0079】
ここで使用される「閾比」なる用語は、特定の決定が引き出される抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子又はその変異体の量の比を意味する。例えば、閾比は精製スキーム又は発酵中の収穫時点に対して決定因子でありうる。あるいは、実施されるカチオン交換クロマトグラフのタイプが決定因子であり、つまり閾比以下では、比が閾比よりも高いならば実施される溶離とは異なって実施される(例えば勾配対段階溶離)。
【0080】
「抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子又はその変異体の量の比」なる用語は、ある体積中の抗体分子又はその変異体の量の同体積中の抗体分子とその変異体の量に対する商に対応する比を意味する。よって、抗体分子又はその変異体の量は、抗体分子の量とその変異体の全量の合計に関連して設定される。よって、抗体含有溶液中の各抗体変異体及び抗体分子に対して、所定の比が寄与し得、これらの比全ての合計は100%でなければならない。このような比は、例えばUV吸収がプロットされている図2に示すようなイオン交換クロマトグラムから、又はタンパク質測定を介して抗体量を決定した後に決定することができる。それは単に比であって絶対値ではなく、所定の蛋白質量に対応するUV吸収のみで比を計算するには十分でありうるので、タンパク質の絶対量測定は比の決定には必要ではない。例えば、クロマトグラム下のピーク面積を、抗体分子とその変異体の合計に対する抗体分子又はその変異体の量の比の決定に使用することができる。そのとき、全ピーク面積の合計(抗体分子及び変異体)が分母に対応し、単一ピーク下面積が各分子に対応する。
【0081】
特段の記載がない限り、ここで使用される「her2」なる用語は、ヒトher2タンパク質を意味し、「her2」はヒトher2遺伝子を意味する。ヒトher2遺伝子及びher2タンパク質は例えばSemba等, PNAS (USA) 82:6497-6501 (1985)及びYamamoto等 Nature 319:230-234 (1986) (Genbank accession number X03363)に記載されている。
【0082】
ここで使用される「医薬品」なる用語は、患者の治療に使用される製剤バッファー中の精製抗体を意味する。医薬品は最小レベルの活性な抗体と最大レベルの不活性な変異体を含んでいる。これらの値は開発中に評価され、保健機関に提出される。
【0083】
「治療」は治癒的治療と予防的又は防止的対策の双方を意味する。治療を必要とする者は疾患を既に持つ者並びに疾患が防止されなければならない者を含む。
【0084】
「疾患」はここに記載の精製されたポリペプチドでの治療から恩恵を受けうる任意の症状である。これは、慢性及び急性疾患又は当該疾患に哺乳動物を罹らせる病態を含む疾病を含む。
【0085】
抗体の発酵中、対象の抗体である抗体分子だけでなく、その抗体の変異体も生産される。これら変異体は抗体分子と比較して類似の活性を有しうるが、例えば患者の治療において活性が少ない場合もあり、原体医薬品では望まれないかもしれない。一例は脱アミド抗体変異体であり、これはインビボ分解を受けやすいかもしれない。本発明に係る方法は、望まれない変異体に関して高収量及び高純度での抗体分子の生産を可能にする。本発明に係る方法は、抗体の収穫時点及び/又は次の抗体精製スキームを適合させることにより、例えば抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比として表すことができる変異体分布に関して、抗体組成物が所望の方向にシフトされうる。
【0086】
よって、本発明は、第一の態様では、抗体分子とその変異体を含有する抗体組成物を製造する方法において、
a)抗体分子とその変異体を含有する試料を提供し、
b)上記試料中の抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比を、該試料の一定分量において決定し、
c)工程b)において得られたデータを元にして次の収集時点及び/又は抗体精製スキームを決定する
工程を具備し、
それによって抗体分子とその変異体を含有する抗体組成物を製造する
方法を提供する。
【0087】
本発明の好ましい態様では、試料は、細胞及び細胞片を含まない抗体分子とその変異体を含有する細胞培養培地であるか又はプロテインAアフィニティークロマトグラフィー工程の溶離液である。本発明のまた更なる態様では、抗体分子とその変異体を含有する試料は、抗体分離に使用される他のカラム、例えばアニオン交換カラム、疎水性相互作用カラム、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーカラム等から得られる溶離液である。
【0088】
本発明の所定の態様では、抗体分子の変異体は酸性変異体、塩基性変異体、糖変異体、又は抗体分子と比較して定まった抗原に対して異なった結合親和性を持つ変異体である。
【0089】
更に他の好ましい実施態様では、抗体分子の変異体は抗体分子自体よりも活性が少ない変異体である。活性は例えば「インビトロ」アッセイ(例えば抗原を中和する効力)又は例えば動物モデルにおいて測定することができるであろう。
【0090】
他の好ましい実施態様では、抗体分子のpIは、抗体分子のpIとは0.1から0.5pI単位だけ異なる。PI値は、例えば分析されるタンパク質の配列が知られているならば、理論的なソフトウェアプログラムを用いて、あるいは例えば等電点電気泳動のような当業者によって知られている方法によって決定される。
【0091】
本発明の所定の態様では、培地、細胞、抗体分子とその変異体を含有する試料を提供することが、次の工程:
i)上記抗体分子をコードする核酸配列を含んでなる核酸分子を含む細胞を提供する工程、
ii)培地中で上記細胞を4−28日間培養する工程、
iii)培地から試料を得る工程、
を含む。
【0092】
本発明の他の更なる態様では、工程ii)における培地中での細胞の培養は、少なくとも4−28日間、好ましくは4−18日間、最も好ましくは4−16日間である。
【0093】
本発明のまた更なる態様では、工程ii)における培地中での細胞の培養は、少なくとも200mg、好ましくは少なくとも800mg/l、より好ましくは少なくとも1000mg/ml、最も好ましくは少なくとも1500mg/mlの特定の抗体濃度が得られるまで実施される。これらの濃度はとりわけ発現された抗体の種類に依存する。ハーセプチンの場合、少なくとも200mg/lの抗体濃度が好ましい。
【0094】
本発明の好ましい態様では、抗体分子及び/又はその変異体の存在及び抗体分子又はその変異体の量と抗体分子とその変異体の合計の比はイオン交換クロマトグラフィー、例えば分析的イオン交換クロマトグラフィーによって決定される。この技術は一般に当業者によって知られており、例えば勾配溶離を使用するカチオン交換クロマトグラフィーを含む。抗体分子とその変異体の相対量の計算に対しては、ピーク下面積が分離された各ピークに対して決定される(可能な方法の詳細について、以下の実施例を参照のこと)。抗体分子及び/又はその変異体の存在の決定は、単に抗体分子及び/又はその変異体が特定の試料中に含まれているか否かの決定である。その相対量にかかわらず、特定の変異体が含まれているという単なる知見は、収穫時点又は精製スキームの決定因子になりうる。
【0095】
本発明の更なる実施態様では、抗体分子、つまり対象の抗体分子又はその変異体の割合が、当業者によって知られている他の適切な方法、例えば等電点電気泳動(この文脈では、Ahrer及びJungbauer: J. of Chromatog. 2006, Vol. 841, pages 110-122の概説をまた参照)によって決定される。
【0096】
本発明の更なる態様では、糖変異体の存在及び/又は量が、例えばMALDI−TOF分析又は当業者によって知られている他の方法によって決定される。
【0097】
本発明のまた更なる態様では、最も活性の変異体と他のその変異体の合計に対する、イオン交換クロマトグラム中のピーク3/3*に対応する最も活性なher2抗体変異体の量が決定される。例えば図2及び表1を参照のこと(Harris, R. J., J. Chromatogr. B 752 (2001) 233-245を参照)。
【0098】
本発明の他の実施態様では、抗体分子及び/又はその変異体の存在又は比が、毎日、隔日に、又は他の定まった増分で、例えば発酵後3、5、又は7日目又は発酵培地中のある種の抗体濃度0.2から1.5mg/mlに達した後に、決定される。本発明のまた更なる実施態様では、活性な抗体の相対量は、所定の期間の発酵後、好ましくはハーセプチンでは10、11又は12日の発酵後に発酵中一度だけ決定される。
【0099】
本発明の方法のある実施態様では、ある発酵日における全抗体量(試料中の抗体分子及び全変異体の量の合計)が、例えばタンパク質測定及びELISAのように当業者に知られた方法を使用して決定される。本発明の更なる態様では、ある時点における全抗体量は以前の類似の発酵操作で知られている全抗体量の経時変化に基づいて計算される。以下の実施例では、試料中のher2量の決定について例示的方法が記載される。
【0100】
本発明の好ましい態様では、抗体分子とその変異体は、場合によってはアフィニティークロマトグラフィー工程の実施後にカチオン交換クロマトグラフィーによって精製される。しかしながら、使用される溶離モードは供給源材料の純度に、つまり抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比に依存する。本発明の好ましい態様によれば、カチオン交換カラムからの抗体の溶離が、
i)カチオン交換カラムに適用されるバッファーの導電率及び/又はpHの漸増により、
ii)第二に、工程a1)において決定された抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比が、閾比以下であるならば、カチオン交換カラムに適用される溶離バッファーの導電率及び/又はpHの段階的増加により、あるいは
工程a1)において決定された抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比が閾比より上であるならば、カラムに適用される溶離バッファーの導電率及び/又はpHの漸増なしに導電率及び/又はpHの段階的増加によって、
実施される。
【0101】
本発明の文脈におけるこの閾比は次のようにして決定することができる:目標はその抗体の仕様において設定された対象の抗体分子の予め定められた最小レベルとその変異体の予め定められた最大レベルの製剤化された治療用抗体薬剤(原体医薬品)である。これらのレベルは例えば規制当局に関連している。変異体は例えばインビボで活性が少ないかもしれず、他の理由で望まれない。この閾比は収穫時点及び精製スキーム、特にカチオン交換クロマトグラフィー中の溶離モードを決定する。例えば、閾比以下では、十分に高純度の抗体分子及び収量を得るためにカチオン交換クロマトグラフィーにおいて勾配溶離と続く段階溶離によって精製され、その比より上では、高収率と尚も安全基準を満たす抗体を得るために段階溶離だけによって精製されるであろう。よって、閾値は、原材料の性質にかかわらず、規制当局の要求に合致する抗体を得ることができ、また可能な限り最も高い収率を得ることができるように決定される。他の好ましい実施態様では、閾比は、例えば収穫が、カチオン交換クロマトグラフィーにおいて常に段階溶離単独モードを使用するために閾値を超える値に達した場合にのみ(以下を参照)実施されるように、収穫時点を決定する。ここでのバックグラウンドは、発酵中に、特定の抗体変異体が生じ、その相対量を増加させるかもしれない一方、抗体分子の量が発酵中に減少するかもしれないことである。
【0102】
もちろん、閾比の値は、精製される抗体、発酵条件、保健機関の要求、及び使用される下流及び発酵手順(クロマトグラフィー工程、濾過等)にとりわけ依存し、よって、各治療用抗体生産プロセスに対して個々に定められなければならない。
【0103】
定められた閾比以下では、ある種の例えば望まれない変異体の相対量が相対的に高く、対象の抗体分子が相対的に低い。この場合、同じカラムでの勾配溶離モードと続く段階溶離が、市場に適した医薬品を得ることができる程度に変異体から抗体分子を精製するのに適していることが見出された。しかしながら、段階溶離単独モードは、その変異体からの抗体分子の精製度合いが低いため、この場合にはあまり適していない。最悪の場合、段階溶離は、精製される抗体含有溶液が閾比以下の抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比を有しているならば、抗体分子と市場に適した医薬に導くことはないであろう。以下の実施例を参照のこと。
【0104】
他方、精製される抗体含有溶液における抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比が閾比よりも高いならば、勾配溶離に段階溶離が続く場合と比較してこの溶離モードが高収率を生じ、また市場に適した医薬品を得ることができるので、カチオン交換クロマトグラフィー中において段階溶離単独モードが好ましい。換言すれば、比によって表されるカチオン交換カラムに適用される供給源材料の高い品質のために、収率に対して最適化された溶離モードを選択することができる(段階溶離)。
【0105】
カチオン交換クロマトグラフィーにおける段階溶離は収率に関しては好ましいので、収穫条件は、抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比が常に閾比より高いように選択することができ、よって段階溶離は常に許容可能な医薬品を生じる。
【0106】
好ましくは、抗体は、抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比が閾比よりも0−2%高いとき、及び最も好ましくはそれが閾比に非常に近いか又は同一である場合には細胞培養培地から回収される。従って、高絶対量の抗体を得るためにできる限り長く発酵が続くが、抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の好ましくない比を避けるためには長すぎてはいけないことが利用される。我々の知見によれば、ある長さの発酵後に抗体分子の割合が減少する一方、その変異体の割合が増加する(ハーセプチンについては図1を参照)。
【0107】
本発明の所定の態様では、勾配に続く段階溶離か又は段階溶離単独の何れかで抗体がカチオン交換クロマトグラフィーによって分離されるかどうかを決定するための閾比は、50から100%、好ましくは60から80%の範囲、最も好ましくは65から75%の範囲である。本発明の更なる好ましい実施態様では、閾比は67.5%である。
【0108】
本発明に係る抗体は好ましくは組換え手段によって生産される。よって、本発明の一態様は、本発明に係る抗体をコードする核酸であり、更なる態様は、本発明に係る抗体をコードする上記核酸を含む細胞である。抗体の組換え生産のための一般的方法は、先行技術においてよく知られており、原核生物又は真核生物中でのタンパク質発現と、続く抗体の単離と通常は薬学的に許容可能な製品までの精製を含む(例えば次の概説を参照:Makrides, S.C., Protein Expr. Purif. 17, 183-202 (1999);Geisse, S.等, Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282;Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-160;Werner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880。
【0109】
宿主細胞中での上述のような抗体の発現では、各修飾軽鎖及び重鎖をコードする核酸が常法により発現ベクター中に挿入される。ハイブリドーマ細胞はかかるDNA及びRNAの供給源となり得る。ひとたび単離されると、DNAを発現ベクターに挿入し、これをついでさもないと免疫グロブリンタンパク質を産生しない宿主細胞、例えばCHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、PER.C6細胞、酵母、大腸菌細胞、又はミエローマ細胞に形質移入して、宿主細胞中で組換えモノクローナル抗体の合成を達成する。宿主細胞は異種性 ポリペプチドの発現に適し、異種性ポリペプチドが細胞又は培養物上清から単離される条件下で培養される。
【0110】
一般的に、本発明の方法及び組成物は組換えタンパク質の生産に有用である。組換えタンパク質は遺伝子工学の方法によって製造されたタンパク質である。本発明の方法及び組成物に係る生産のために特に好ましいタンパク質は、生物製剤としても知られているタンパク質ベースの治療薬である。好ましくは、タンパク質は細胞外産物として分泌される。
【0111】
本発明の方法の一実施態様では、細胞は異種性ポリペプチドを発現可能な組換え細胞クローンである。
【0112】
本発明に係る方法は、原理的には抗体の生産に適している。一実施態様では、本発明に係る方法で生産される免疫グロブリンは組換え型免疫グロブリンである。他の実施態様では、免疫グロブリンはヒト化免疫グロブリン、免疫グロブリン断片、免疫グロブリンコンジュゲート又はキメラ免疫グロブリンである。
【0113】
本発明の他の態様では、抗体はモノクローナル及びポリクローナル抗体の群から選択される。好ましい実施態様では、抗体はモノクローナル抗体である。
【0114】
本発明の他の態様は、IgG又はIgEクラスの免疫グロブリンの精製である。好ましい一実施態様では、抗体はモノクローナル抗体である。更に他の実施態様では、本発明に係る方法によって製造される抗体は治療用又は診断用抗体である。好ましい一実施態様では、抗体は治療用抗体である。
【0115】
異種性ポリペプチドの生産のために本発明に係る方法で有用な細胞は、原理的には任意の真核生物細胞、例えば酵母細胞又は昆虫細胞又は原核生物細胞でありうる。しかしながら、本発明の一実施態様では、真核生物細胞は哺乳動物細胞である。好ましくは上記哺乳動物細胞はCHO細胞株、又はBHK細胞株、又はHEK293細胞株、又はヒト細胞株、例えばPER.C6(登録商標)である。更に、本発明の一実施態様では、真核生物細胞は動物又はヒト由来の持続的細胞株、例えばヒト細胞株HeLaS3 (Puck, T.T.等, J. Exp. Meth. 103 (1956) 273-284), (Nadkarni, J.S.等, Cancer 23 (1969) 64-79), HT1080 (Rasheed, S.等, Cancer 33 (1974) 1027-1033)、又はそれから由来した細胞株である。
【0116】
本発明のある態様では、細胞は、抗体が発現される条件下で培地中で培養される。組換え細胞クローンは一般に任意の所望の方法で培養することができる。本発明のこの態様に従って添加される栄養分は必須アミノ酸、例えばグルタミン、又はトリプトファン、又は/及び 炭水化物、及び場合によっては非必須アミノ酸、ビタミン、微量元素、塩、又は/及び増殖因子、例えばインスリン、及び/又は例えば植物から由来するペプチドを含む。一実施態様では、栄養分は細胞の全増殖期(培養)に対して添加される。本発明に係る細胞培養物は、培養された細胞に適した培地中で調製される。本発明の一実施態様では、培養された細胞はCHO細胞である。哺乳動物細胞に対して適した培養条件は知られている(例えば Cleveland, W.L.等, J. Immunol. Methods 56 (1983), 221-234を参照)。更に、特定の細胞株に対する、その量を含む培地に対して必要な栄養分及び増殖因子を、例えば Mather (編) in: Mammalian cell culture, Plenum Press, NY (1984);Rickwood, D., 及びHames, B.D. (編), Animal cell culture: A Practical Approach, 2版, Oxford University Press, NY (1992);Barnes及びSato, Cell 22 (1980) 649に記載されたように過度の実験をしないで経験的に決定することができる。
【0117】
「発現に適した条件下」なる用語は、ポリペプチドを発現する細胞の培養に使用され、当業者に知られているか又は当業者によって容易に決定することができる条件を示す。これらの条件は培養される細胞のタイプ及び発現されるポリペプチドのタイプに応じて変動しうることが当業者に知られている。一般に、細胞はある温度、例えば20℃から40℃で、コンジュゲートの効果的な生産を可能にするのに十分な時間の間、例えば4から28日、培養される。
【0118】
本発明の一実施態様では、培養は懸濁培養である。更に、他の実施態様では、細胞は低血清含有量の培地、例えば最大1%(v/v)の培地で培養される。好ましい実施態様では、培養は、例えば無血清低タンパク質発酵培地(例えば国際公開第96/35718号を参照)中での無血清培養であり、また更に好ましい環境では、培地は無タンパク質及び/又は完全に合成である。適切な添加剤を含む市販培地、例えばハムF10又はF12(Sigma)、 基礎培地(MEM, Sigma)、RPMI−1640(Sigma)、又はダルベッコ変法イーグル培地(DMEM, Sigma)は例示的な栄養分溶液である。これらの培地の何れにも上述のような成分が必要に応じて補充されうる。
【0119】
抗体の大規模又は小規模生産のための細胞培養手順は本発明の文脈において潜在的に有用である。限定するものではないが、流動床バイオリアクター、中空繊維バイオリアクター、回転(ローラーボトル)培養、又は攪拌タンクバイオリアクターシステムを含む手順を、後者の二つのシステムでは、マイクロキャリアと共に又はマイクロキャリアなしに使用できる。システムは回分、流加、スプリットバッチ(split-batch)、連続、又は連続-灌流モードの一つで操作できる。本発明の所定の実施態様では、培養は、培養の要件に従って供給されるスプリットバッチプロセスで実施され、培養ブロスの一部が増殖期後に収穫され、培養ブロスの残りが発酵槽に残り、それに作用体積になるまで新鮮培地が続いて供給される。本発明に係る方法は所望の抗体を非常に高い収量で収穫することを可能にする。
【0120】
本発明の他の態様によれば、細胞培養の増殖期における哺乳動物細胞の増殖を向上させるための流加又は連続細胞培養条件が案出される。増殖期において、細胞は、増殖が最大になる条件及び時間、増殖される。培養条件、例えば温度、pH、溶存酸素(DO)等は特定の宿主で使用されるものであり、当業者によって知られている。
【0121】
本発明によれば、細胞培養の生産相中の細胞培養環境が制御される。生産される抗体の培養条件は次のパラメータによって定義される:
a)基礎培地:栄養分の量及びタイプ、任意の血漿成分、増殖因子、塩及びバッファー、ヌクレオシド及び塩基、タンパク加水分解物、抗生物質及び脂質、適切な担体、
b)炭水化物のタイプ及び量、溶存酸素、量、アンモニウム量、pH値、浸透圧、温度、細胞密度、増殖期、
c)任意の更なる添加剤(例えば血漿成分、増殖因子、例えば 血清成分、成長ホルモン、ペプチド加水分解物、小分子(例えばデキサメタゾン、コルチゾール、鉄キレート剤等)、無機化合物(例えばセレン等)、及び グリコシル化プロファイルの効果を有していることが知られている化合物(例えばブチレート又はキニジン、アルカン酸又は銅、インスリン、トランスフェリン、EGF、ホルモン、塩、無機イオン、バッファー、ヌクレオシド及び塩基、タンパク質加水分解物、抗生物質、脂質例えばリノール酸)が加えられる。
【0122】
更なる添加剤は例えば細胞増殖を刺激し、及び/又は細胞生存を亢進し、及び/又はグリコシル化抗体のグリコシル化プロファイルを任意の所望の方向に操作する非必須化合物である。
【0123】
ポリペプチド生産相は一般に増殖期の始まり後少なくとも3時間、例えば約12から約224時間で、又は別に増殖期の始まり後約120から192時間で始まる。生産相は例えば4から14日続きうる。別法では、生産相は18−21日又は例えば28日のように更に長くさえありうる。この相の間、細胞増殖は一般的にプラトーになり、例えば対数増殖期は終わり、タンパク質生産が主である。
【0124】
本発明の一態様では、例えば特定の細胞培養パラメータ(乳酸塩生成、抗体量)の決定又は生産される抗体の品質チェック(活性型及び非活性型変異体の相対量の決定)のために、培養培地の間欠的試料採取をなすことができる。
【0125】
本発明の所定の態様では、細胞は、特定の抗体を発現し、その変異体に対して所定の割合の抗体を生じるのに適した条件下で、培養される。この割合は、発酵中に変動し得、つまり予想可能であれ(例えば線形的減少/増加又は特定の式に従う)又は予想可能ではない場合であれ、増加し又は減少しうる。一般に、宿主細胞によって産生される抗体は、抗体をコードする核酸が同一であっても、構造及びアミノ酸配列に関して同一ではなく、発酵中にまた異なったプロセスにより後で修飾される。一般的な修飾は例えば脱アミド及びグリコシル化であり、単一の発酵バッチで生産される抗体の電荷不均一性を生じうる。電荷不均一性を生じる他の修飾は、不完全なジスルフィド結合形成、N末端ピログルタミン環化、C末端リジンプロセシング、異性化、及び酸化、及びマレイン酸(maleuric acid)によるN末端アミノ酸のあまり一般的ではない修飾及びC末端アミノ酸のアミド化である。
【0126】
収穫時点は、抗体の発酵中にあって、抗体が収穫される、つまり培養から引き出され、例えば凍結されるか培地から分離される時点を表す。この時点は、抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子又はその変異体の量の比によって表される抗体含有培地の組成又は品質に基づいて本発明に従って選択される。例えば、ある種の変異体(例えば酸性、塩基性、糖変異体)の存在又は出現は、更なる培養中における望まれない、例えば活性がより少ない抗体変異体の更なる濃縮を避けるために、発酵が停止されなければならなかったことを決定するかも知れない。また対象の抗体分子に対するある変異体の相対量、つまり、抗体分子の変異体及び抗体分子とその変異体の量の合計の比が、好ましい精製スキームを決定する所望の抗体組成物を得るための収穫時点を決定するかも知れない。
【0127】
ついで、決定された比を、所望の抗体組成物を得るためにある種のクロマトグラフィープロトコルに従うことができるように、例えば発酵が停止されなければならないか又は継続されなければならなかった(定義された)閾比と比較することができる。例えば、ある試料中において、ある種の望まれない変異体の相対量が比較的多いか、又は対象の抗体分子の相対量が少なく、ついで、望まれない変異体が許容できるだけ少なくなるように対象の抗体分子の精製を可能にする精製プロトコルが選択されなければならなかったという場合があるかも知れない。他方、工程b)において決定される比は、更に所望の比が得られるまで発酵を継続しなければならないことを示しているかも知れない。比の決定は反復して実施することができるが、比はまた更なる培養のために外挿されうる。以下を参照。
【0128】
抗体産生細胞株の発酵期間及び下流の手順の条件は、試料中の対象の抗体分子と比較した例えば脱アミド化変異体の相対量に影響することがここで示されている例示的パラメーターである。以下の実施例を参照。
【0129】
下流の手順が、単一のアミノ酸の電荷が異なるのみでありうる密接に関連した抗体変異体の精製に対してある種の限界を設定すると仮定すると、そのとき、例えば発酵培地中の抗体分子のレベルは、下流の手順が十分に純度のある原体医薬品を尚も高収率で生じるように、所定の閾値以下にしてはいけない。従って、発酵は、例えば抗体分子量の相対値が定義された閾比よりも高い場合に抗体を細胞培養培地から回収することによって、特定の時点で停止させなければならなかった。
【0130】
本発明の好ましい態様によれば、抗体が培養培地から回収される時点が、先に定義された閾比との比較から導きだされる。
【0131】
本発明の好ましい実施態様では、収穫時点は、所定の毎日の割合だけ抗体分子の相対量が線形的に減少又は増加すると仮定して、抗体分子又はその変異体の量及び抗体分子とその変異体の量の合計の比を推定することによって決定される。すなわち、この場合、分析的イオン交換クロマトグラフィーによる抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子又はその変異体の比の一回の測定が、培養培地から抗体を回収する時点を決定するのに十分であるかも知れないが、これは時点を更なる測定から導かないで計算することができるためである。ある実施態様では、抗体回収の時点は、培地中の抗体分子の量がある毎日の割合で所定の培養期間後に減少することを仮定することによって計算される。
【0132】
本発明の他の好ましい態様によれば、試料採取と抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比の決定は、比が所定の閾比より0−2%上になるまで実施され、及び/又は次の式に従った比を計算することによって、工程iii)において試料が得られた日の後の培養のために培地中の抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比を外挿することによってなされる:
=R−C×(D−D
ここで、
は工程c)における試料が得られる培養日、
はDの次の培養日、
はDにおける抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比、
は工程iv)において決定されたDにおける抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比であり、
Cは1%/日と5%/日の範囲の値である。
ついで、抗体分子は培地中のRが閾比より0−2%高いときに培地から回収される。
【0133】
好ましくは、抗体分子は、培地中のRx が閾比より0−2%高いときに、最も好ましくは比が閾値に近いか又は同一でさえあるときに、培地から回収される。
【0134】
上で検討されているように、閾比はとりわけ 抗体分子の性質及び抗体組成物中に得られる純度に依存する。
【0135】
本発明の他の実施態様では、イオン交換クロマトグラムにおけるピーク3/3*に対応する活性なher2変異体の量は、所定期間の培養後、例えば10dの培養後、約2%だけ毎日減少する(図1を参照)。
【0136】
本発明の所定の態様では、Rは一回だけ、好ましくは収穫のすぐ前に(例えば収穫の1−2d前、又は例えばハーセプチンの発酵ではd11に)決定される。このようにして決定されたRは例えば閾比より2%高い場合、培養は更に一日実施され、よって抗体の収穫はRの決定から一日後に生じる。ハーセプチン発酵の場合、収穫時のRxは、閾比に非常に近いが、それは比が約2%だけd11からd12までに減少するからで、これは多くの過去の発酵実験から知られている。
【0137】
しかしながら、d11での決定されたRが閾比の2%上未満、例えば発酵11日目(d11)で比の1.5%上であれば、ハーセプチンの発酵は即座に停止されて、原体医薬品の十分高い品質が担保される。
【0138】
本発明の好ましい態様では、抗体分子とその変異体を含有する培養培地からの試料が得られる。また更なる実施態様では、試料採取は一回より多く、例えば毎日、隔日等、又は一日当たり一回より多くさえ、実施される。この試料採取は培養開始直ぐに、又は所定時間後、例えば培養7又は10日目に開始できる。この試料において、抗体分子及び/又はその変異体の量及び抗体分子とその変異体の量の合計の比、例えば活性な抗体変異体の割合が決定される。別法では、他のパラメーターがこの試料において決定される。この試料採取は当業者によって知られている方法によって実施することができる。本発明の他の態様では、活性な抗体の絶対量がまた決定されうる。
【0139】
試料採取は自動的に又は手作業の何れかでなされうる。本発明のある実施態様では、試料採取工程は自動的に実施される。試料体積は例えば1μlから10000μlの範囲であり得る。
【0140】
本発明の他の実施態様では、記載された方法で得ることができる原体医薬品における活性なher2抗体変異体の割合は≧65%で、不活性なher2変異体の割合は≦20%であり、ここで、活性なher2変異体はイオン交換クロマトグラムにおけるピーク3/3*に対応し、この文脈における不活性な変異体はこのクロマトグラムのピーク4に対応する(図1を参照)。
【0141】
本発明の所定の態様では、生産された抗体組成物中の抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比は50−100%、好ましくは60から100%、最も好ましくは65から100%である。これらの値は特に精製される抗体に依存する。
【0142】
本発明の所定の態様では、対象のポリペプチドは好ましくは分泌ポリペプチドとして培養培地から回収されるが、分泌シグナルなしに直接発現される場合は宿主細胞可溶化物からまた回収されうる。収穫、つまり細胞培養培地からの抗体の回収は、当業者に知られた方法によって、例えば発酵培地から細胞を分離することによって、実施される。最初の工程として、例えば培養培地又は可溶化物が遠心分離されて粒状細胞片及び細胞が除去される。 深層濾過又は他の濾過及び/又は遠心分離工程が続くかも知れない。その後、細胞及び細胞片を含まない抗体含有溶液が得られる。
【0143】
ついで、ポリペプチドは、汚染物質を除去するために、適切な精製手順である次の手順を用いて:免疫親和性及びイオン交換カラムでの分画;エタノール沈殿;逆相 HPLC;シリカ又はカチオン交換樹脂、例えばDEAEでのクロマトグラフィー; クロマトフォーカシング;SDS−PAGE;硫酸アンモニウム沈殿;例えばSephadex G−75を使用するゲル濾過;及びプロテインASepharoseカラムによって、汚染物質から精製される。プロテアーゼインヒビター、例えばフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)又はEDTAもまた精製中におけるタンパク質分解を阻止するのに有用であり得る。当業者であれば、対象のポリペプチドに適した精製方法が組換え細胞培養中での発現の際のポリペプチドの性質変化に対処するために変更を必要としうることを理解するであろう。
【0144】
本発明の好ましい実施態様では、抗体の精製は、アフィニティークロマトグラフィーと続くカチオン交換クロマトグラフィーを含む。双方のクロマトグラフィー工程間に、当業者に知られている抗体の精製に適した更なるクロマトグラフィー 及び/又は濾過工程を、またカチオン交換クロマトグラフィー工程の後、及びプロテインAアフィニティー工程の前に更なるクロマトグラフィー 及び/又は濾過工程を含めることができる。また、クロマトグラフィー工程の順序を逆にすることも可能である。精製方法の一工程(又は次の工程)への溶液の適用の前に、パラメーター、 例えば溶液のpH値又は導電率が調節されなければならない。
【0145】
本発明の好ましい態様では、抗体分子とその変異体を含む培地がアフィニティークロマトグラフィーカラムに適用され、アフィニティークロマトグラフィーが実施される。本発明の更に所定の態様では、最重要な精製工程としてアフィニティークロマトグラフィー工程が宿主細胞タンパク質のバルク及び培養副産物を除去するために用いられる。この工程の条件は当業者に知られている。本発明の所定の態様は、アフィニティーカラム材料は、プロテインA材料、プロテインG材料、金属アフィニティークロマトグラフィー材料、疎水性電荷誘導クロマトグラフィー材料(HCIC)、又は疎水性相互作用クロマトグラフィー材料(HIC,例えばフェニル−セファロース、アザ−アレノフィリック樹脂、又はm−アミノフェニルボロン酸)である。好ましくは、アフィニティーカラム材料はプロテインA材料又は金属アフィニティークロマトグラフィー材料である。
【0146】
本発明の所定の態様では、固相に固定されたプロテインAが抗体を精製するために使用される。固相は好ましくはプロテインAを固定するためのガラス又はシリカ表面を有するカラムである。好ましくは、固相は制御細孔ガラスカラム又はケイ酸カラムである。しばしば、カラムには、カラムへの非特異的な付着を防止するために、グリセロールのような試薬が被覆されている。Bioprocessing社から市販されているPROSEP Aカラムは、グリセロールが被覆されているプロテインA制御細孔ガラスカラムの例である。本発明の所定の態様では、プロテインA材料は25mg抗体/mlプロテインA材料より高い結合能を特徴とする。本発明のまた更なる態様では、プロテインAがエポキシ活性化を介して基材マトリックスに結合されている高流量アガロース基材マトリックスがアフィニティークロマトグラフィー工程において用いられれる。本発明に係る方法に適したプロテインA材料の例示的な材料はMabSelect Sure及びMabSelect Xtraである(共にGE Healthcare, Lifesciences, Germanyから入手可能)。
【0147】
本発明の所定の態様では、プロテインAクロマトグラフィーの固相は適切なバッファーで平衡にされる。例えば、平衡バッファーはTRIS, NaCl, pH 7.1でありうる。この発明の所定の態様では、このバッファーはEDTA又は他のプロテアーゼインヒビター及び/又は抗体安定剤を含む。
【0148】
本発明の所定の態様では、例えば遠心分離及び/又は濾過又は深層濾過によって細胞及び細胞片から分離された抗体含有培地は、平衡バッファーと同じであってもよい充填バッファーを使用して平衡化された固相に添加される。汚染された調製物が固相を通って流れる際に、タンパク質が固定化プロテインAに吸着され、他の汚染物質、例えばタンパク質がCHO細胞で生産される場合にチャイニーズハムスター卵巣タンパク質(CHOP)及びDNAが固相に非特異的に結合する。
【0149】
その後に実施される次工程は、固相に結合した汚染物質を除去することを含む。本発明の所定の態様では、洗浄バッファーは、洗浄工程において疎水性電解質溶媒、例えば二価イオン又は溶媒を含みうるTMAC 及び/又はTEAC(約0.1から約1.0M)を含む。この目的に適したバッファーは、例えばトリス、ホスフェート、MES、及びMOPSOバッファー(以下の実施例を参照)を含む。本発明の他の態様では、洗浄バッファーは中性又は酸性pHでアルギニンを含有する。
【0150】
上述の洗浄工程後に、対象のタンパク質が適切な溶離バッファーを用いてカラムから回収される。タンパク質は、例えば約2から約5の範囲の、低pHを有する溶離バッファーを使用してカラムから例えば溶離されうる。この目的のための溶離バッファーの例はシトレート又はアセテートバッファーを含む。別法では、溶離バッファーはアルギニン、二価塩又は溶媒を含む。
【0151】
溶離したタンパク質調製物に更なる精製工程を施してもよい。例示的な更なる精製工程は、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー;透析、タンパク質の捕捉に抗体を使用するアフィニティークロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、疎水性電荷相互作用クロマトグラフィー(HCIC)、硫酸アンモニウム沈殿、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング及びゲル濾過を含む。
【0152】
本発明の好ましい態様では、カチオン交換クロマトグラフィーがアフィニティークロマトグラフィーの後に用いられる。本発明の所定の態様では、カチオン交換クロマトグラフィーが、間に他のクロマトグラフィー工程を入れないで、アフィニティークロマトグラフィー工程に直接続く。本発明の更なる態様では、他のクロマトグラフィー工程及び/又は精製工程がアフィニティーとカチオン交換クロマトグラフィーの間で用いられる。
【0153】
このカチオン交換クロマトグラフィー工程は、望まれない抗体変異体、宿主細胞タンパク質(HCP)の量ばかりでなく、浸出したプロテインA、他の浸出材料、及び/又は精製されるタンパク質を含む溶液中のウイルスも低減させることを目的としている。
【0154】
本発明の所定の態様によれば、カチオン交換クロマトグラフィー工程が抗体を精製するために実施される。カチオン交換クロマトグラフィーにおいて使用できる例示的なバッファープロファイルを示す図3を特に参照して、各バッファーのpH及び/又は導電率が先のバッファーに対して増加される。対象のポリペプチドと汚染物質を含有する水溶液が、リペプチド及び汚染物質がカチオン交換樹脂に結合するようなpH 及び/又は導電率にある充填バッファーを使用してカチオン交換樹脂に充填される。
【0155】
例示的には、充填バッファーの導電率は、低く、例えば約5.2から約6.6mS/cmでありうる。充填バッファーの例示的なpHは5.7mS/cmでありうる。
【0156】
本発明に係る段階又は勾配溶離モードでは、カチオン交換樹脂は、増加する導電率及び/又はpHの洗浄バッファーで洗浄されうる。段階溶離モードでは、第一の洗浄バッファーは充填バッファーと同じ導電率 及び/又はpHを有しうる。以下の実施例では、カチオン交換カラムは、洗浄バッファーI(充填バッファーと同じ導電率及びpH、つまりpH 5.6,κ=5.7±0.5mS/cm)で洗浄され、ついで対象のポリペプチドではなく汚染物質の殆どを溶離するように第二の導電率及び/又はpHを有する洗浄バッファーII で洗浄される。これは、洗浄バッファーの導電率又はpH、又は双方を増加させることによって達成されうる。本発明の所定の態様では、このバッファーは7.0から8.5mS/cm、好ましくは7.6+/−0.5mS/cmの導電率を有している。洗浄バッファーIから洗浄バッファーIIへの変更は段階溶離モードにおいて段階的である。
【0157】
例示的には、洗浄バッファーIIは充填バッファー及び洗浄バッファーIのものよりも大なる導電率を有していた。別法では、洗浄バッファーIIのpHは、充填バッファー及び洗浄バッファーIのものを越えうる。
【0158】
勾配溶離モードでは、カチオン交換カラムの洗浄において、例えば充填バッファー中定まった割合の溶離バッファーを用いた洗浄により、pH及び/又は導電率が連続的に増加させられるが、必ずしも線形的ではない(以下の実施例では、21%の溶離バッファーから72%の溶離バッファー)。複数傾きの勾配が本発明では好ましい。
【0159】
洗浄工程後、勾配又は段階溶離モードの何れかで、溶離が、所望のポリペプチドがもはやカチオン交換樹脂に結合せす、よってカラムから溶離できるようなpH及び/又は導電率を有する溶離バッファーで達成される。溶離バッファーのpH及び/又は導電率は一般に段階溶離モードで先の工程で使用された充填バッファー、洗浄バッファーI、及び洗浄バッファーIIのpH及び/又は導電率を越える。例示的には、溶離バッファーの導電率は約9.5から約11mS/cmの範囲にあった。
【0160】
抗体の溶離中の導電率及び/又はpHの変化は、段階溶離モードでは段階的であり、勾配溶離では徐々である。
【0161】
本発明の所定の態様では、単一パラメーター、つまり導電率又はpHの何れかが、ポリペプチドと汚染物質の双方のカチオン交換カラムからの段階又は勾配溶離に対して変化させられ、他のパラメーター(つまり、それぞれpH又は導電率)がおよそ一定のままである。
【0162】
本発明の更なる所定の態様では、イオン交換樹脂は、カラムを再使用できるように、ポリペプチドの溶離後に再生バッファーで再生される。
【0163】
本発明の好ましい態様では、カチオン交換クロマトグラフィー工程に使用されるカチオン交換材料は、ファースト・フロー・セファロースFF(GE Healthcare, Lifesciences, Germany)のようにスルホプロピル基を持つ強いカチオン交換体である。本発明の他の態様では、当業者によって知られている他の適切なカチオン交換材料を使用することができる。
【0164】
本発明の他の態様では、タンパク質は、本発明の方法におけるカチオン交換クロマトグラフィー工程の前又は後にアニオン交換樹脂を用いるアフィニティークロマトグラフィーの後に分離される。導電率の変化は一般的にカチオン交換樹脂に関して上に記載した通りである。しかしながら、pHの変化の方向はアニオン交換樹脂に対して異なっている。別法では、アニオン交換クロマトグラフィーはフロースルーモードで実施される。
【0165】
イオン交換クロマトグラフィー工程後に回収された抗体組成物に必要に応じて上で検討された更なる精製工程を施すことができる。本発明の所定の態様では、タンパク質は、更なる3又はそれ以上のクロマトグラフィー工程、例えばカチオン交換クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー及び疎水性相互作用クロマトグラフィーを任意の順序で用いるアフィニティークロマトグラフィー後に分離される。
【0166】
ここに開示されたクロマトグラフィー法は少なくとも一種の汚染物質から抗体分子を分離するために特に有用であり、ここで、汚染物質と対象の抗体分子は、例えば脱アミド又は異性化のために電荷不均一性を示すタンパク質の場合のように、その等電点がほんの僅かに異なっている。本発明に係る方法では、そのpIが約0.05から約0.2pI単位だけ異なれば、ポリペプチド及び汚染物質を分離することができる。以下の実施例において、この方法は8.79のpIを有するその単一に脱アミド化された変異体から8.87のpIを有するher2抗体を分離することができた(Harris R. J.等 J. Chromatogr. B 752 (2001), 233-245を参照)。
【0167】
本発明の他の実施態様では、該方法を使用して、例えば非変異体ポリペプチドと比較してシアル酸の異なった分布を有するポリペプチドの変異体を分離するために、抗体分子をその糖変異体から分離することができる。
【0168】
本発明の他の態様では、分離される抗体は一又は複数の異種性分子にコンジュゲートされる。この異種性分子は例えばポリペプチド(例えばPEG)、細胞傷害性分子(例えば 毒素、化学療法薬、又は放射性同位体等)の血清半減期を増加させることができ、又はそれは標識(例えば酵素、蛍光標識及び/又は放射性核種)でありうる。
【0169】
本発明の所定の態様では、精製される抗体含有溶液は、汚染物質を含む抗体とあるレベルの活性抗体変異体を含む任意の材料、例えば濾過又はクロマトグラフィー法によって前もって精製された試料でありうる。
【0170】
本発明の一実施態様では、カチオン交換クロマトグラフィー工程は、単一クロマトグラフィー工程において、勾配溶離と続く段階溶離を用いて実施される。
【0171】
本発明の所定の態様では、精製される抗体はモノクローナル抗体である。
【0172】
本発明の更なる態様では、抗体は、EGFR、HER3、HER4、Ep−CAM、CEA、TRAIL、TRAIL−レセプター1、TRAIL−レセプター2、リンホトキシン−βレセプター、CCR4、CD19、CD20、CD22、CD28、CD33、CD40、CD80、CSF−1R、CTLA−4、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、ヘプシン、メラノーマ関連コンドロイチン表面プロテオグリカン(MCSP)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、VEGFレセプター1、VEGFレセプター2、IGF1−R、TSLP−R、PDGF−R、TIE−1、TIE−2、TNF−α、アポトーシスのTNF様弱インデューサー(TWEAK)、IL−1R、好ましくはEGFR、CEA、CD20、又はIGF1−R、及び腫瘍形成に関与する増殖因子、例えば VEGF、EGF、PDGF、HGF及び アンジオポエチンからなる群から選択される腫瘍抗原(例えば増殖因子レセプター及び増殖因子)に対して産生されている。
【0173】
他の実施態様では、モノクローナル抗体は、アレムツズマブ、アポリズマブ、セツキシマブ、エプラツズマブ、ガリキシマブ、ゲムツズマブ、イピリムマブ、ラベツズマブ、パニツムマブ、リツキシマブ、ニモツズマブ、マパツムマブ、マツズマブ及びペルツズマブ、ING−1、Xomaによって開発された抗Ep−CAM抗体、好ましくはトラスツズマブ、セツキシマブ、及びペルツズマブ、より好ましくはトラスツズマブの群から選択される。
【0174】
本発明の好ましい態様では、精製される抗体はモノクローナル抗HER2抗体、つまりher2抗体、好ましくはトラスツズマブ又はペルツズマブ、より好ましくはトラスツズマブである。
【0175】
本発明の好ましい態様では、本発明に係る方法によって生産される原体医薬hers製品は、イオン交換クロマトグラムにおいてピーク3/3*及びピーク4にそれぞれ対応して、65%より多い活性抗体と20%未満の不活性抗体含有量を有している(図2を参照)。
【0176】
単一のクロマトグラフィー工程における勾配溶離と続く段階溶離の例を図3aに示す。本発明による勾配溶離又は連続溶離において、導電率 及び/又はpHが、抗体が汚染物質から分離されうるように連続的に増加される。これらの変化は線形変化であり得、固定相によって分離されうる。更に、線形変化の傾きは溶離中に変わりうる。例えば図3aを参照。別法では、変化はまた非線形、例えば指数関数的でありうる。原理的には、段階溶離又は勾配溶離モードの何れかで実施されるカチオン交換クロマトグラフィーは類似のバッファーを用いる(様々な実施態様については上記を参照のこと)。本発明の所定の態様では、溶離バッファーの導電率は約9.5から約11mS/cmの範囲である。
【0177】
本発明の所定の態様では、単一のクロマトグラフィー工程において勾配溶離工程に洗浄工程(例えば充填バッファーと同じ導電率及び/又はpH)とついで段階溶離が続く。更なる態様では、勾配溶離に続いて段階溶離が、導電率が9.5から約11mS/cmの範囲にある100%の溶離バッファーを用いて実施される。
【0178】
本発明のまた更なる態様では、活性型変異体は、勾配溶離後に導電率及び/又はpHを段階的に上昇させることによってカチオン交換カラムから溶離させられる。
【0179】
本発明の所定の態様では、カチオン交換クロマトグラフィー工程において抗体の溶離に使用される勾配は、次のバッファーを逐次的に含む:3.9カラム体積:21%から49.4%の溶離バッファー、3.6カラム体積:49.4%から58.8%の溶離バッファー、7.8カラム体積:58.8%から72%の溶離バッファー、1カラム体積:0%のバッファーB、6.5カラム体積:100%B。
【0180】
以下の実施例では、活性型her2変異体が、図3bに示されるバッファープロファイルを使用して、導電率を段階的に増加させて溶離される。
【0181】
カチオン交換クロマトグラフィー工程における溶離モード(勾配又は段階)を供給源材料の純度、つまり活性型変異体の割合に適合化させることによって、十分に高品質で高収率を得ることができる。本発明の所定の態様では、溶離モードは、活性型her2変異体の割合に関して純度に適合化される。
【0182】
本発明の更に他の態様では、溶離モードは、精製される溶液中の脱アミド化された、酸性又は塩基性変異体の割合に、また本発明の所定の態様では、脱アミド化された酸性her2変異体の割合に適合化される。本発明の更なる所定の態様では、溶離モードは決定されるある種の糖変異体の割合に関して純度に適合化される。
【0183】
カチオン交換クロマトグラフィーにおいて段階溶離を用いると、勾配溶離に段階溶離が続くものと比較して高収率を得ることができるが、混入している変異体からの分離は勾配溶離モードに段階溶離が続くもの程、良好ではないことが見出された。よって、前者の溶離タイプは、更に精製されるタンパク質の純度が既に所定の閾値を越える場合に好ましく、段階溶離に伴う高収率を利用する。逆も同様で、精製される抗体の純度が所定の閾値未満である場合には、勾配溶離に段階溶離が続くものと比較して悪い分離のため、段階溶離は用いられず、よって低収率を受け入れる。換言すれば、治療効果及び安全性のために必要とされる純度は、精製される試料中の最も望まれる抗体変異体、抗体分子の割合が所定の割合よりも高い(又は望まれない抗体変異体の相対量が所定の割合よりの少ない)場合に、勾配溶離でのみ得ることができる。
【0184】
本発明の他の好ましい態様では、収率、つまりカチオン交換クロマトグラフィーに添加された抗体分子とその変異体を含む工程a2)の溶離液中の抗体分子とその変異体の量に対する、カラムに適用されたバッファーの導電率 及び/又はpHの漸増なしの導電率 及び/又はpHの段階的増加によって実施されるカチオン交換クロマトグラフィーによって産生された抗体組成物中の抗体分子とその変異体の量の比は、65%より多く、好ましくは70%より多く、最も好ましくは75%より多い。
【0185】
本発明の更なる態様では、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー工程は、抗体分子の量及び抗体分子と抗体変異体の量の比の決定の工程とカチオン交換クロマトグラフィー工程の間に実施される。
【0186】
クロマトグラフィー工程後に回収されるタンパク質は薬学的に許容可能な担体中に処方され得、そのような分子に対して知られている様々な診断、治療又は他の用途に使用される。
【0187】
本発明の所定の態様は、本発明に係る方法によって製造されるher2抗体を含有する組成物に関する。
【0188】
次の実施例、参考例、及び図面は、その真の範囲が添付の特許請求の範囲に記載されている本発明の理解を助けるために提供されるものである。本発明の精神から逸脱することなく記載された手順に変更をなすことができることが理解される。
【0189】
ハーセプチン(登録商標)、つまりher2抗体(国際公開第99/57134号)は、本発明の時点で我々の研究室で十分な量で入手でき、従って、本発明はこの免疫グロブリンを用いて例証される。同様に、本発明は一般に免疫グロブリンで例証できる。この例証される記載は単に例示としてなされるのであって発明を限定するものではない。これらの実施例は、その真の範囲が添付の特許請求の範囲に記載されている本発明の理解を助けるために提供されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0190】
【図1】発酵中のハーセプチン変異体分布。示されているものは、それぞれ発酵10日目、11日目及び12日目(F10、F11及びF12)におけるイオン交換クロマトグラム中のピーク1、3/3*及び4に起因する特定の変異体の割合である。示されているものは、15回の発酵実施からの平均値と標準偏差である。
【図2】分析的イオン交換クロマトグラム。カチオン交換カラムでのトラスツズマブの分離。ピークの割り当ては表1に記載する。
【図3】カチオン交換クロマトグラフィー工程において溶離のために使用したバッファープロファイル:a)勾配溶離、b)段階溶離。
【実施例】
【0191】
実施例1
発酵中における抗体変異体パターンの変化
発酵中におけるハーセプチン抗体の変異体分布を、培養開始から10日目、11日目及び12日目に原体医薬品を生じる抗体の大規模発酵のやめに分析した。試料を10日目、11日目及び12日目に集め、変異体パターン及び変異体の割合について分析的イオン交換クロマトグラフィーによって分析した。変異体の割合を、得られた各クロマトグラムにおけるピーク面積から計算した。15回の大規模な発酵実験から得たデータをまとめている図1から分かるように、発酵の10日目から12日目にイオン交換クロマトグラム中にピーク1及び4に起因する変異体の明確な増加がある(図2及び表1と比較)。ピーク1は、ハーセプチンの酸性、脱アミド化で活性の低い変異体に対応する。ピーク4は、アスパラギン及び/又はLys450残基の異性化を伴う変異体からなる。更に、同時に、ハーセプチンの未修飾の最も活性な型に対応し、発酵10日目から12日目に集められた試料中に観察される主ピーク3/3*の減少がある。よって、発酵10日目から11日目の間に変異体パターンの明確なシフトが存在し、つまり、変異体の相対量が増加する一方、対象の抗体分子の相対量が同じ時間で減少する。
【0192】

【0193】
実施例2
プロテインAアフィニティークロマトグラフィーでのher2抗体の精製と活性なher2変異体の割合の決定
組換えDNA技術:
Sambrook, J.等, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., (1989)に記載されたようにして、標準的な方法を使用してDNAを操作した。分子生物学試薬は製造者の指示書に従って使用した。
【0194】
タンパク質決定:
各クロマトグラフィー画分のタンパク質量を、各試料の分光光度スキャンによって決定した。結果を使用して生成物回収収率を計算した。her2の吸光係数は1.45である。結果を導き出すために使用した計算は次の通りである:
タンパク質量(mg/ml)= 280 nm/1.45×希釈係数
各画分中のタンパク質質量(mg)=タンパク質量(mg/ml)×画分体積(ml)
収率(%)=画分質量(mg)/全質量(mg)×100
【0195】
宿主細胞タンパク質決定:
マイクロタイタープレートのウェルの壁部を、血清アルブミンとストレプトアビジンの混合物で被覆する。HCPに対するヤギ由来ポリクローナル抗体をマイクロタイタープレートのウェルの壁部に結合させる。洗浄工程後、マイクロタイタープレートの異なったウェルを、HCP較正配列の異なった量及び試料溶液と共にインキュベートする。インキュベーション後に、非結合試料はバッファー溶液での洗浄によって除去される。検出のために、ウェルを抗体ペルオキシダーゼコンジュゲートと共にインキュベートして、結合した宿主細胞タンパク質を検出する。固定されたペルオキシダーゼ活性は、ABTSと共にインキュベーションし、405nmで検出することによって検出される。
【0196】
DNA決定:
試料中のDNA量を既知の手順に従って定量的PCRによって決定した。
【0197】
プロテインAアフィニティークロマトグラフィー:
二回の異なる発酵から生じる次のher2抗体材料を使用した:
F1: her2 A<her2>=0.907mg/mL
F2: her2 B<her2>=1.739mg/mL
発酵2から生じた上清の材料F2を、人工的に脱アミド化した抗体材料、よってF1の抗体と比較して活性異性体の割合が低く、低品質の抗体を生成するために、アルカリ条件(pH9)で12時間保存した。活性な異性体の量に対応する3/3*ピーク面積の割合の減少はイオン交換クロマトグラム中に見ることができる(表2も参照のこと)。次においてこの試料はF2’と示す。
F2’: her2 B<Her2>=1.739mg/ml
【0198】
her2抗体、つまりF1、F2及びF2’を何れか含む溶液を、第一工程において、プロテインAアフィニティーカラムに適用した。
クロマトグラフィー条件は次の通りであった:
樹脂:MabSelect SuRe(GE Healthcare, Life Sciences, Germany)
平衡:25mM Tris,25mM NaCl,5mM EDTA pH;7.1
洗浄工程I:25mM Tris;25mM NaCl;5mM EDTA,pH7.1
洗浄工程II:25mM NaCl;500mM TMAC;5mM EDTA;pH5.0
洗浄工程III:25mM Tris;25mM NaCl;5mM EDTA pH;7.1±0.5
溶離:25mM シトレート;pH2.8±0.4
【0199】
分析的イオン交換クロマトグラフィー:
活性型及び不活性型her2抗体変異体の相対含有量の決定を分析的イオン交換HPLCによって実施した。
クロマトグラフィー条件:
樹脂: Dionex ProPac(商標) WCX-10 Analytical, 4×250 mm, Dionex 54993
(弱カチオン交換クロマトグラフィー)
流量:0.8ml/分
添加:50μl又は50μg
圧力:最大210bar
バッファーA:10mM Na−ホスフェート,pH7.5
バッファーB:バッファーA中0.1MのNaCl
温度:室温
平衡、勾配溶離及び再生を次のスキームに従って実施する:

【0200】
her2抗体の活性型の割合を、ピーク3及び3*(次の表では3/3*と示す)の相対ピーク面積を決定することによって計算した。ここで、3*はピーク3の小さい肩部を表す。活性が少ないher2変異体の割合は、ピーク1及び4の相対ピーク面積を決定することによって計算した。ピーク1に、脱アミドされた酸性のher2変異体(一つの軽鎖中において30位をAsnからAspに)を、ピーク4に一つの重鎖中において102位のイソアスパルテートを特徴とするher2変異体を見出すことができる(図2及び表1を参照)。
【0201】
表2は、以下の実施例3に記載されるカチオン交換クロマトグラフィーに使用されるF1、F2及びF2’試料から得られたプロテインAの溶離液の品質をまとめる。her2抗体の主形態を表す分析的イオン交換クロマトグラムにおいてピーク下相対面積として表されるIECピーク3/3*が、曝露前の試料に対してアルカリ条件に曝露された試料中で減少し(54.3%対58%)、逆もまた同様に、アルカリ条件への曝露後に、ピーク1のher2変異体、つまり酸性で脱アミドされたher2変異体の割合が増加する(9.7%から13.3%)ことが分かる。
【0202】

【0203】
実施例3
異なった溶離モードを使用するカチオン交換クロマトグラフィーでのアフィニティー精製her2抗体の精製
プロテインAクロマトグラフィーに従って、カチオン交換クロマトグラフィーを実施して、所望のher2抗体を更に分離した。カチオン交換クロマトグラフィー前に、プロテインA溶離液のpHを、1MのTRISを用いて5.5に調節した。各試料(F1,F2及びF2’のプロテインA溶離液)を、勾配に段階溶離が続くものか又は段階溶離単独を使用してSP Sepharose FF(GE Healthcare) でのカチオン交換クロマトグラフィーによって精製し、6つの実験結果を得た。得られたクロマトグラムの各々を、単量体含量(SEC)、変異体パターン、特に活性型及び脱アミド変異体の割合、DNA及びHCP減少について分析した。
クロマトグラフィー条件は次の通りであった:
樹脂: SP Sepharose FF,GE Healthcare
カラム長: 35 cm
添加: 条件プロテインAプール
勾配溶離と続く段階溶離に使用したバッファー:
平衡バッファー及び洗浄バッファー:30mM MES,45mM NaCl,pH5.6±0.05;κ=5.7±0.5mS/cm
溶離バッファー:30mM MES,95mM NaCl,pH5.6±0.05;κ=10.35±0.65mS/cm
溶離に使用した勾配は図3aに示す。
【0204】
段階溶離に使用したバッファー:
平衡及び洗浄バッファーI:25mM MES,50mM NaCl,5.6±0.1;κ=5.7±0.5mS/cm
洗浄バッファーII:25mM MES,70mM NaCl,pH5.6±0.1;κ=7.6±0.5mS/cm
溶離バッファー:25mM MES;95mM NaCl;pH5.6±0.1;κ=10.0±0.5mS/cm
段階溶離に使用したバッファープロファイルは図3bに示す。
次の表3及び4は、プロテインAアフィニティーと、段階溶離単独で又は勾配溶離と続く段階溶離で実施されたカチオン交換クロマトグラフィー後にF1(表3)及びF2’(表4)試料から得られたher2抗体の変異体分布、純度及び収率を示している。
【0205】


【0206】
表3及び4から分かるように、勾配溶離と続く段階溶離は、段階溶離単独と比較して高い割合(4%−6%)の最も活性な抗体(3/3*ピーク)を生じている。勾配及び段階溶離は混入している宿主細胞タンパク質(HCP)の量を減少させるのに等しく適している。しかしながら、収率は勾配溶離と比較して段階の場合に顕著に高い(約2の係数)。部分的には、これは、段階溶離モードにおける洗浄勾配中における抗体の消失による。よって、収率か純度のどのパラメータの改善が必要かに応じて、勾配又は段階溶離が抗体の精製に対して最適であるかもしれない。
【0207】
更に、プロテインA溶離液が相対的に高含量の最も活性な抗体変異体を既に含んでいる場合、カチオン交換クロマトグラフィー工程における溶離の好ましい種類は、勾配溶離と続く段階溶離と比較してより高収率の十分に純粋な抗体を得ることができるので、段階溶離である。顕著に高い収率は、より高い抗体生産割合を直接生じる産生されたより多い絶対抗体量に対応する。
【0208】
しかしながら、最も活性な抗体(3/3*)がプロテインA溶離液中において所定の割合より少なくしか存在していない場合、勾配溶離と続く段階溶離が好ましいが、これは、この主の溶離だけで十分に活性なher2抗体を得ることができるためである。そのとき、この方法で得られる低い収率は受け入れられなければならない。混入するDNA及びHCPの低減は両溶離モードに対して同様である。
【0209】
本発明の他の態様では、ポリペプチドを含有する試料の一定量の分析的イオン交換クロマトグラフィーが該試料の次のポリペプチド精製スキームの決定に使用される。ポリペプチドは好ましくは抗体、より好ましくはモノクローナル抗体、最も好ましくはher2抗体である。試料は好ましくは細胞及び/又は細胞片を含まない試料であるか又はポリペプチドの精製のためのクロマトグラフィー中に得られる試料である。好ましくは、分析的イオン交換クロマトグラフィーは抗体変異体を分離することを目標としている。好ましくは、分析的イオン交換クロマトグラフィーはカチオン交換クロマトグラフィーである。好ましくは、分析的イオン交換クロマトグラフィーの使用は、カチオン交換クロマトグラフィー工程に使用されるプロトコルを決定する。最も好ましくは、次の精製スキームにおいて、抗体は、
抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比が閾比以下であるならば、
i)カチオン交換カラムに適用される溶離バッファーの導電率及び/又はpHの漸増により、及び
ii)第二に、カチオン交換カラムに適用される溶離バッファーの導電率及び/又はpHの段階的増加により、あるいは、
抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比が閾比より上であるならば、カチオン交換カラムに適用される溶離バッファーの導電率及び/又はpHの漸増なしに導電率及び/又はpHの段階的増加によって、
カチオン交換カラムから溶離される。
【0210】
抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比は、好ましくは分析的イオン交換クロマトグラムにおけるピーク面積から決定される。
【0211】
閾比は得られる純度に基づいて決定され、とりわけ、抗体自体及び使用される精製プロトコルに依存する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体分子とその変異体を含有する抗体組成物を製造する方法において、
a)抗体分子とその変異体を含有する試料を提供し、
b)上記試料中の抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比を、該試料の一定分量について実施される分析法によって決定する
工程を具備し、
工程c)が、
a1)場合によっては工程a)の上記試料を濾過及び/又は遠心分離し、
a2)場合によっては工程a1)の更に濾過及び/又は遠心分離された上記試料又は工程a)の上記試料をアフィニティークロマトグラフィーカラムに適用してアフィニティークロマトグラフィーを実施し、場合によってはカラムを洗浄し、抗体をカラムから溶離させ、
a3)抗体を含む工程a)、a1)の試料又は工程a2)の溶離液を、場合によってpH及び/又は導電率を調節した後に、カチオン交換クロマトグラフィーカラムに充填することによってカチオン交換クロマトグラフィーを実施し、場合によってはカラムを洗浄し、
a4)抗体を、
工程b)において決定された抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比が、65から75%の範囲から選択される閾比以下であるならば、
i)カチオン交換カラムに適用されるバッファーの導電率及び/又はpHの漸増により、
ii)第二に、カチオン交換カラムに適用される溶離バッファーの導電率及び/又はpHの段階的増加により、
あるいは、
工程a1)において決定された抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比が、65から75%の範囲から選択される閾比より上であるならば、カラムに適用される溶離バッファーの導電率及び/又はpHの漸増なしに導電率及び/又はpHの段階的増加によって、
カチオン交換クロマトグラフィーカラムから溶離させること
を含み、
それによって抗体分子とその変異体を含有する抗体組成物を製造する方法。
【請求項2】
抗体分子の変異体が酸性又は塩基性変異体である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗体分子のpIが変異体のpIとは0.1から0.5pI単位だけ異なる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)において、分析法がイオン交換クロマトグラフィー、ELISA、又はMALDI−TOF分析である請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程a)における上記試料が、アフィニティークロマトグラフィー工程の溶離液であるか又は細胞及び細胞片を含まない抗体及びその変異体を含有する細胞培養培地である請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
試料を提供する工程a)が、
i)上記抗体分子をコードする核酸配列を含んでなる核酸分子を含む細胞を提供し、
ii)培地中で上記細胞を4−28日間培養し、
iii)培地から試料を得、
それによって、培地、細胞、抗体分子及びその変異体を含有する試料を提供する、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の工程b)が、
iv)請求項6における工程ii)において培地から得られる試料の一定分量中の抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比を、分析的イオン交換クロマトグラフィーによって決定し、
v)場合によっては工程iii)及びiv)を、工程iv)において決定された比が、65%から75%の範囲から選択される閾比より0−2%高くなるまで繰り返し、及び/又は
特定の培養日Dに対して培地中の抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比を、次の式:
=R−C×(D−D
に従って該比を計算することによって外挿し、ここで、
は工程c)における試料が得られる培養日、
はDの次の培養日、
はDにおける抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比、
は工程iv)において決定されたDにおける抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比であり、
Cは1%/日と5%/日の範囲の値であり、抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比の毎日の変更割合に対応し、
vi)培地中のRが65から75%の範囲から選択される閾比より0−2%高いときに培地から抗体分子を回収する
ことからなり、
請求項1に記載の工程a3)が、
vii)抗体を含む工程vi)の試料を、場合によってpH及び/又は導電率を調節した後に、カチオン交換クロマトグラフィーカラムに充填することによってカチオン交換クロマトグラフィーを実施し、場合によってはカラムを洗浄し、
viii)カラムに適用される溶離バッファーの導電率及び/又はpHの漸増なしに導電率及び/又はpHの段階的増加を用いてカチオン交換クロマトグラフィーカラムから抗体を溶離させる
ことを含み、
それによって抗体分子とその変異体を含有する抗体組成物を製造する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
閾比が67.5%である請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
製造された抗体組成物中の抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比が、50から100%、好ましくは60から100%の範囲、最も好ましくは65から100%の範囲である請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
カチオン交換クロマトグラフィーに充填された抗体分子とその変異体を含む工程a4)の溶離液中の抗体分子とその変異体の量に対する、カラムに適用されるバッファーの導電率及び/又はpHの漸増なしに導電率及び/又はpHの段階的増加によって実施されたカチオン交換クロマトグラフィーによって製造された抗体組成物中の抗体分子とその変異体の量の比である収率が、65%より多く、好ましくは70%より多く、最も好ましくは75%より多い請求項1から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
アフィニティークロマトグラフィー工程が含められる場合、アフィニティークロマトグラフィーがプロテインA、又はプロテインG、又は金属アフィニティークロマトグラフィーであることを特徴とする請求項1から10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
抗体がモノクローナル抗体である請求項1から11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
モノクローナル抗体がher2抗体である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
抗体がトラスツズマブである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
抗体分子とその変異体を含有する試料を分析するための分析的イオン交換クロマトグラフィーの、次の該試料のポリペプチド精製スキームの決定のための使用。
【請求項16】
次の精製スキームにおいて、
抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比が閾比以下であるならば、
i)カチオン交換カラムに適用される溶離バッファーの導電率及び/又はpHの漸増により、
ii)第二に、カチオン交換カラムに適用される溶離バッファーの導電率及び/又はpHの段階的増加により、
あるいは、
抗体分子とその変異体の量の合計に対する抗体分子の量の比が閾比より上であるならば、カチオン交換カラムに適用される溶離バッファーの導電率及び/又はpHの漸増なしに導電率及び/又はpHの段階的増加によって、
カチオン交換カラムから抗体が溶離させられる請求項15に記載の使用。
【請求項17】
抗体がher2抗体である請求項16及び17の何れか一項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−500244(P2013−500244A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520957(P2012−520957)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004509
【国際公開番号】WO2011/009623
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(306021192)エフ・ホフマン−ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト (58)
【Fターム(参考)】