説明

抗体誘導性の断片の成長

本発明は、薬物候補の合成中に小分子断片の成長を導くことに寄与するように抗体−タンパク質標的相互作用から得られる接触残基情報を使用することを含む、創薬のための改良された方法に関する。特に、本発明は、リード最適化中に小分子断片の成長を誘導し、それにしたがって標的タンパク質の生物活性を変化させ得る小分子化合物を生成するための、抗体−タンパク質標的相互作用から得られる原子構造情報の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物候補の合成中に小分子断片の成長を導くことに寄与するように抗体−タンパク質標的相互作用から得られる接触残基情報を使用することを含む、創薬のための改良された方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、リード最適化中に小分子断片の成長を誘導し、それにより標的タンパク質の生物活性を変化させ得る小分子化合物を生成するための、抗体−タンパク質相互作用から得られる原子構造情報の使用に関する。本発明は、同定された化合物の治療上の使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
小分子断片又は化合物断片のスクリーニングは、製薬業界において化学的なヒットを生成する手段として急速に承認を得た。断片に基づいた創薬は、効力単独ではなく結合効率に焦点が合わせられ、断片自体は新規薬物を開発するための最初の構成要素として使用され得る。同様に、それらの断片のサイズが小さいので、標的タンパク質に結合する化合物を同定するために、大きい化合物のライブラリーと比較して化合物の小ライブラリーをスクリーニングする必要がある。一般には、いったん標的タンパク質に結合する断片が同定されると、結晶学的な試験から、断片がそのタンパク質のどこに結合するかについての構造情報が得られる。この情報を使用することにより、隣接部位に結合している断片を鋳型にさらに結合させることができる、又は高分子量の構造を、例えば活性部位の他のポケット内に成長させるための開始点として、個々の断片を使用することができる(Blundellら、2002、Nature Reviews、1、45〜54を参照されたい)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化合物断片の成長は、現在、標的タンパク質についての入手可能な構造情報の量に制限されている。そのような構造情報は、例えば、リガンド、受容体及び/又は小分子阻害物質の存在下又は非存在下における標的タンパク質の活性部位又は受容体結合部位を含み得る。この構造情報により、標的断片を成長させるための標的タンパク質の適切な領域に対する有用な指針がもたらされ得るが、断片の成長が導かれ得る事前検証された部位又は接触原子は必ずしももたらされない。したがって、化合物断片の成長は、本質的に試行錯誤の行き当たりばったりのプロセスである。
【0005】
したがって、化合物断片を成長させるための改良された方法を提供することが当技術分野において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
抗体は、抗原結合特異性及び高い親和性が付与された非常に有用な治療剤である。所与のタンパク質標的に対して、標的タンパク質に結合する機能修飾抗体を得ることが可能であり、各抗体はそのタンパク質の異なる部位において結合する可能性がある。今まで、抗体の構造を模倣するペプチド模倣薬を設計するために抗体の結合についての構造情報が使用されてきた(例えば、Parkら、2000、Nature Biotechnology、18、194〜198;Cassetら、2003、Biochemical and Biophysical Research Communications 307、198〜205を参照されたい)。本発明では、機能修飾抗体がどこに、どのように標的タンパク質に結合するかについての構造情報を使用して、化合物断片の成長を誘導するために使用することができる、標的タンパク質と抗体の両方の事前検証された接触原子をもたらし、したがって抗体誘導性の断片成長によって生成された化合物が標的タンパク質の活性の有効なモジュレーターになる可能性を増大させる。さらに、抗体接触情報を使用することにより、化合物の合成が、このタンパク質の新しい、これまで未開拓の部位に対して導かれ得る。
【0007】
一例では、本発明は、標的タンパク質の活性を変化させ得る小分子化合物を生成する方法であって、
(a)標的タンパク質に結合し、標的タンパク質の生物活性を変化させる1種又は複数の抗体又はその断片を得るステップと、
(b)ステップ(a)において得られた抗体の三次元構造の表示を標的タンパク質と関連付けて生成し、相互作用し、抗体の結合部位内にある、標的タンパク質と抗体の1種又は複数の接触原子対を同定するステップと、
(c)標的タンパク質に結合する1種又は複数の化合物断片を得るステップと、
(d)ステップ(c)において得られた断片のうちの1種又は複数の三次元構造の表示を標的タンパク質と関連付けて生成するステップと、
(e)ステップ(b)において同定された抗体結合部位内又はその付近で標的タンパク質に結合する化合物断片を選択するステップと、
(f)ステップ(e)において選択された化合物断片を、場合により、伸長した断片がステップ(b)において同定された抗体の接触原子のうちの1種又は複数と同じ化学的空間又は3D位置を占めるように化合物断片の化学的成長を導くことによって成長させて、ステップ(b)において同定された標的タンパク質の1種又は複数の接触原子と相互作用する1種又は複数の候補化合物を生成するステップと、
(g)ステップ(f)において作製された候補化合物のうちの1種又は複数を、標的タンパク質に対する改善された親和性及び/又は改善された効力及び/又は標的タンパク質の生物活性を変化させる能力について試験するステップと、
(h)ステップ(g)において試験された候補化合物が、標的タンパク質の活性を調節する又は改善された結合性親和性若しくはリガンド効率を有する場合に、それを選択するステップと、
(i)場合により、ステップ(h)において同定された候補化合物を使用してさらに化学反応及びスクリーニングを行って、標的タンパク質の活性を調節する小分子化合物を生成するステップと
を含む方法を提供する。
【0008】
ステップ(a)〜(d)を正確にその順序通りに行う必要はないことを理解されたい。一例では、ステップ(a)及び(c)をステップ(b)及び(d)の前に行うことができる。一例では、ステップ(a)、(c)及び(d)をステップ(b)の前に行うことができる。一例では、ステップ(c)及び(d)をステップ(a)及び(b)の前に行うことができる。ある特定のステップを必要に応じて順次又は平行して行うことができることも理解されたい。例えば、ステップ(a)及び(c)を平行して行い、ステップ(a)及び(c)の後にステップ(b)及び(d)も平行して行うことができる。
【0009】
標的タンパク質
本発明の標的タンパク質は、別の分子の結合による影響を受けやすい任意の種類のタンパク質又はポリペプチドであってよい。標的の典型的なカテゴリーとして、酵素、サイトカイン、受容体、トランスポーター及びチャネルが挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、標的タンパク質は、疾患の始まり、発生又は成立において機能を有することが公知である。本発明では、望ましい様式で標的タンパク質の活性を調節する、例えば、標的タンパク質の活性を阻害する又は標的タンパク質の活性を刺激する抗体及び化合物を同定する。
【0010】
本発明において使用するための標的ポリペプチドは、「成熟」ポリペプチド又は生物活性断片又はその誘導体であってよい。標的ポリペプチドは、発現系を含む遺伝子操作された宿主細胞から当技術分野で周知のプロセスによって調製することができる、又は天然の生物学的供給源から回収することができる。本出願では、「ポリペプチド」という用語は、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質を含む。これらは、他に特に指定がなければ、互換的に使用される。標的ポリペプチドは、一部の例では、融合タンパク質、例えば親和性タグに融合したタンパク質などの大きなタンパク質の一部であり得る。一部の例では、標的タンパク質は細胞の表面で自然に発現し得、細胞表面発現タンパク質を組換え細胞又は天然に存在する細胞集団のいずれかとして使用することができる。
【0011】
本発明の方法において使用される標的タンパク質の正確な性質は、当該方法の異なる段階において変動し得、例えば、標的タンパク質の断片又はドメイン又は突然変異体を、ある特定のスクリーニング方法又は構造の表示において必要に応じて使用できることを理解されたい。一部の例では、これらには生物活性がなくてよい。
【0012】
各標的タンパク質の活性を決定するための適切なスクリーニング方法は、当技術分野で公知であり得、又は実験的に考案され得る。したがって、そのようなスクリーニング方法により、標的タンパク質の活性に対する抗体又は候補化合物の効果を決定することが可能になる。そのようなスクリーニング方法として、例えば、受容体/リガンド相互作用を検出するシグナル伝達アッセイ、又は酵素活性アッセイが挙げられる。各スクリーニング方法は、標的タンパク質の性質に左右されること、及び2種以上のスクリーニング方法を使用してよいことを理解されたい。
【0013】
本発明の方法では、候補化合物、化合物断片又は抗体を、それぞれ、標的タンパク質の生物活性に対するその影響について試験することができる。例えば、標的タンパク質に結合する同定された抗体及び化合物を、標準のスクリーニング形式によって、化合物又は抗体の阻害活性又は刺激活性を決定するための生物学的アッセイに導入することができ、又はその代わりに又はそれに加えて、ELISA又はBIAcoreなどの結合又は遮断を決定するための結合アッセイが適切であり得る。
【0014】
本発明の方法で作製される抗体の例として、中和抗体、拮抗性抗体又は作動性抗体を挙げることができるが、これらに限定されない。一例では、したがって、当該方法のステップ(a)において同定された抗体は、標的タンパク質の生物活性に対する中和、拮抗又は作動によって標的タンパク質の生物活性を変化させる。一例では、したがって、当該方法のステップ(a)において同定された抗体は、標的タンパク質の生物活性を刺激又は阻害することによって標的タンパク質の生物活性を変化させる。一例では、抗体は、所与のタンパク質のシグナル伝達活性などの生物活性を、例えば、標的タンパク質受容体のうちの1種又は複数に対する標的タンパク質の結合を遮断することによって中和することができる抗体である「中和抗体」であってよい。そのような例では、本発明の方法によって生成された小分子化合物も同様に、標的タンパク質受容体のうちの1種又は複数に対する標的タンパク質の結合を遮断し、そのタンパク質の生物活性を中和し得る。標的タンパク質の活性に関連して本明細書で使用する「調節する」及び「変化させる」という用語は、互換的に使用される。
【0015】
抗体
本発明において使用するための機能修飾抗体は、当技術分野で公知の任意の適切な方法を用いて得ることができる。当該方法のステップ(a)において得られた機能修飾抗体は、本明細書において下記されている方法のうちの1種又は複数を用いて生成されることが好ましい。
【0016】
標的ポリペプチド又は標的ポリペプチドを発現している細胞を使用して、標的ポリペプチドを特異的に認識する抗体を作製することができる。動物の免疫化が必要である場合、周知の及び通例のプロトコールを用いてポリペプチドを動物、好ましくは非ヒト動物に投与することによって、標的ポリペプチドに対して生成された抗体を得ることができる。例えば、Handbook of Experimental Immunology、D.M.Weir(編)、Vol4、Blackwell Scientific Publishers、Oxford、England、1986)を参照されたい。ウサギ、マウス、ラット、ヒツジ、ウシ、ブタ又はラクダ科の動物(例えば、ラクダ、ラマ)などの多くの温血動物を免疫化することができる。
【0017】
本発明において使用するための抗体として、任意の適切なクラスの全抗体、例えば、IgA、IgD、IgE、IgG若しくはIgM又はIgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4などのサブクラス及びその機能的に活性な断片又は誘導体を挙げることができ、これらに限定されないが、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体又はキメラ抗体であってよい。
【0018】
したがって、本発明において使用するための抗体は、全長の重鎖及び軽鎖又はその断片を有する完全な抗体分子を含んでよく、これらに限定されないが、Fab、修飾Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、単一ドメイン抗体(VH、VL、VHH、IgNAR Vドメインなど)、scFv、二価抗体、三価抗体又は四価抗体、Bis−scFv、二重特異性抗体、三重特異性抗体、四重特異性抗体及び上記のいずれかのエピトープ結合性断片であってよい(例えば、Holliger及びHudson、2005、Nature Biotech.23(9):1126〜1136;Adair及びLawson、2005、Drug Design Reviews−Online 2(3)、209〜217を参照されたい)。これらの抗体断片を作出及び製造する方法は、当技術分野で周知である(例えば、Vermaら、1998、Journal of Immunological Methods、216、165〜181を参照されたい)。本発明において使用するための他の抗体断片として、国際特許出願WO2005/003169、WO2005/003170及びWO2005/003171に記載のFab断片及びFab’断片が挙げられる。多価抗体は、多特異性、例えば二重特異性を含んでよく、又は単一特異性であってよい(例えば、WO 92/22853及びWO05/113605を参照されたい)。
【0019】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、生体適合性のフレームワーク構造に組み込まれた1種又は複数のCDRを含む結合剤も含み得る。一例では、生体適合性のフレームワーク構造は、局所表面領域内の抗原に結合する1種又は複数のアミノ酸配列(例えばCDR、可変領域など)を提示することができる立体構造的に安定な、構造的な支持体又はフレームワーク又は足場を形成するのに十分なポリペプチド又はその一部分を含む。そのような構造は、天然に存在するポリペプチド又はポリペプチドの「折りたたみ」(構造モチーフ)であってよく、又は天然に存在するポリペプチド又は折りたたみと比較して、アミノ酸の追加、欠失又は置換などの1つ又は複数の修飾を有してよい。これらの足場は、ヒト、他の哺乳動物、他の脊椎動物、無脊椎動物、植物、細菌又はウイルスなどの任意の種(又は2つ以上の種)のポリペプチドに由来してよい。
【0020】
一般には、生体適合性のフレームワーク構造は、免疫グロブリンドメイン以外のタンパク質の足場又は骨格に基づいている。例えば、フィブロネクチン、アンキリン、リポカリン、ネオカルチノスタチン、シトクロムb、CP1ジンクフィンガー、PST1、コイルドコイル、LACI−D1、Zドメイン及びテンドラミサト(tendramisat)ドメインに基づくものを使用することができる(例えば、Nygren及びUhlen、1997、Current Opinion in Structural Biology、7、463〜469を参照されたい)。
【0021】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、アドネクチン(Adnectin)、アフィボディ(Affibody)、ダルピン(Darpin)、フィロマー(Phylomer)、アビマー(Avimer)、アプタマー、アンチカリン(Anticalin)、テトラネクチン(Tetranectin)、微小体、アフィリン(Affilin)及びKunitzドメインを含めた、生物学的足場に基づく結合剤も含み得る。
【0022】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法(Kohler&Milstein、1975、Nature、256:495〜497)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozborら、1983、Immunology Today、4:72)及びEBV−ハイブリドーマ法(Coleら、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、pp77〜96、Alan R Liss、Inc.、1985)などの当技術分野で公知の任意の方法によって調製することができる。
【0023】
本発明において使用するための抗体は、単一リンパ球抗体法を用いて、例えば、Babcook、J.ら、1996、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93(15):7843〜78481;WO92/02551;WO2004/051268及び国際特許出願番号WO2004/106377に記載の方法によって特異的な抗体を作製するために選択された単一リンパ球から生成された免疫グロブリン可変領域のcDNAをクローニングし、発現させることによって生成することもできる。
【0024】
ヒト化抗体(CDR移植抗体を含む)は、非ヒト種からの1種又は複数の相補性決定領域(CDR)及びヒト免疫グロブリン分子からのフレームワーク領域を有する抗体分子である(例えばUS5,585,089;WO91/09967を参照されたい)。CDR全体ではなく、CDRの特異性決定残基だけを移行する必要があり得ることを理解されたい(例えば、Kashmiriら、2005、Methods、36、25〜34を参照されたい)。ヒト化抗体は、場合により、CDRを得た非ヒト種に由来する1種又は複数のフレームワーク残基をさらに含んでよい。
【0025】
キメラ抗体は、軽鎖遺伝子及び重鎖遺伝子が異なる種に属する免疫グロブリン遺伝子セグメントで構成されるように遺伝子操作された免疫グロブリン遺伝子によってコードされる抗体である。
【0026】
本発明において使用するための抗体は、当技術分野で公知の、及びBrinkmanら(J.Immunol.Methods、1995、182:41〜50)、Amesら(J.Immunol.Methods、1995、184:177〜186)、Kettleboroughら(Eur.J.Immunol.1994、24:952〜958)、Persicら(Gene、1997 187 9〜18)、Burtonら(Advances in Immunology、1994、57:191〜280)及びWO90/02809;WO91/10737;WO92/01047;WO92/18619;WO93/11236;WO95/15982;WO95/20401;及びUS5,698,426;5,223,409;5,403,484;5,580,717;5,427,908;5,750,753;5,821,047;5,571,698;5,427,908;5,516,637;5,780,225;5,658,727;5,733,743及び5,969,108に記載のものを含めた種々のファージディスプレイ法を用いて生成することもできる。
【0027】
完全ヒト抗体は、重鎖及び軽鎖の両方の可変領域及び定常領域(存在する場合)が、全てヒト由来である又は実質的にヒト由来の配列と同一であり、それらが必ずしも同じ抗体からのものではない抗体である。完全ヒト抗体の例として、例えば上記のファージディスプレイ法によって作製された抗体、及びマウス免疫グロブリン可変領域遺伝子及び定常領域遺伝子が、例えば、EP0546073B1、US5,545,806、US5,569,825、US5,625,126、US5,633,425、US5,661,016、US5,770,429、EP0438474B1及びEP0463151B1に一般用語で記載のそれらのヒト対応物と交換されたマウスによって産生された抗体を挙げることができる。
【0028】
一例では、本発明において使用するための抗体は、ラクダ又はラマなどのラクダ科の動物に由来してよい。ラクダ科の動物は、重鎖抗体と称される軽鎖を欠く抗体の機能クラスを持つ(Hamersら、1993、Nature、363、446〜448;Muyldermansら、2001、Trends.Biochem.Sci.26、230〜235)。これらの重鎖抗体の抗原結合部位は、N末端可変ドメイン(VHH)によってもたらされる3つの超可変ループ(H1〜H3)に限定されている。VHHの第1の結晶構造により、H1ループ及びH2ループは従来の抗体に対して定義された公知の正準構造クラスに制限されないことが明らかになった(Decanniereら、2000、J.Mol.Biol、300、83〜91)。VHHのH3ループは、従来の抗体のものよりも平均して長い(Nguyenら、2001、Adv.Immunol.、79、261〜296)。ヒトコブラクダ重鎖抗体の大部分は、その抗体が生じた対象である酵素の活性部位に結合しやすい(Lauwereysら、1998、EMBO J、17、3512〜3520)。一例では、H3ループは、残りのパラトープから突出し、ニワトリ卵白リゾチームの活性部位に挿入されることが示された(Desmyterら、1996、Nat.Struct.Biol.3、803〜811)。したがって、多くの場合従来の抗体はタンパク質表面の間隙を避けるが、ラクダ科の動物の重鎖抗体は、H3ループによって形成されるVHHの緻密な扁長形状に主に起因して、酵素活性部位に入ることができることが実証されている(De Genstら、2006、PNAS、103、12、4586〜4591及びWO97049805)。
【0029】
これらのループは他の足場及びこれらの足場に作製されたCDRライブラリーにおいて提示され得ることが示唆されている(例えば、WO03050531及びWO97049805を参照されたい)。したがって、本明細書の上部において詳述したように、そのようなループ及びCDRを含有する足場を本発明において使用することができる。
【0030】
一例では、本発明において使用するための抗体は、サメなどの軟骨魚類に由来してよい。軟骨魚類(サメ、ガンギエイ、エイ及びキメラ)は、IgNARとして公知の非定型的な免疫グロブリンアイソタイプを持つ。IgNARは軽鎖を伴わないH鎖ホモ二量体である。各H鎖は1つの可変ドメインと5つの定常ドメインを有する。IgNAR Vドメイン(又はV−NARドメイン)は2つの密接に関連するサブタイプ、I及びIIに分類できるいくつもの非正準システインを担持する。II型V領域は、CDR1及びCDR3に、ラクダ科の動物VHHドメインにおいて観察されるドメイン限定ジスルフィド結合と類似したドメイン限定ジスルフィド結合を形成することが提唱されている付加的なシステインを有する。そこでCDR3はより広がった立体構造をとり、ラクダ科の動物のVHHと類似した抗体フレームワークから突出すると思われる。実際に、上記のVHHドメインと同様に、ある特定のIgNAR CDR3残基についても、ニワトリ卵白リゾチーム活性部位に結合できることが実証されている(Stanfieldら、2004、Science、305、1770〜1773)。
【0031】
VHH及びIgNAR Vドメインを作製する方法の例は、例えば、Lauwereysら、1998、EMBO J.1998、17(13)、3512〜20;Liuら、2007、BMC Biotechnol.、7、78;Saerensら、2004、J.Biol.Chem.、279(5)、51965〜72に記載されている。
【0032】
標的タンパク質の間隙に結合する突出CDRを持つある特定のVHH、IgNAR及び他のそのような抗体ドメイン及び構造の能力を考えると、一例では、これらの抗体は、本発明において使用するために好ましい抗体である。同様に、これらのCDRの凸状性を考えると、標的タンパク質の結合部位は多くの場合、比較的小さく集中的であり、近接して位置している接触原子のクラスターを同定するためのこれらの有用な抗体を、化合物断片の成長において使用するために適切なものにしている。したがって一実施形態では、本発明において使用するための抗体は、VHHドメイン抗体又はそれに由来する1種又は複数のCDRなどのVHH抗体又はそのエピトープ結合断片である。一実施形態では、本発明において使用するための抗体は、IgNAR Vドメイン又はV−NARドメイン又はそれに由来する1種又は複数のCDRなどのIgNAR抗体又はそのエピトープ結合断片である。一実施形態では、本発明において使用するための抗体は、VHHドメイン抗体又はIgNAR抗体に由来するCDR3を含む、CDR3含有抗体又はCDR3含有足場タンパク質である。一般には、そのような抗体又は足場は、10アミノ酸を超える長さのCDR3領域を含有する。一例では、CDR3領域は、20アミノ酸を超える長さである。一例では、CDR3領域は、最大30アミノ酸の長さである。一例では、CDR3領域は、20〜30アミノ酸の長さである。
【0033】
本発明において使用される機能修飾抗体分子は、標的タンパク質に対して、好ましくはナノモル又はピコモルの高い結合親和性を有することが好ましい。一例では、本発明において使用される中和抗体分子は、標的タンパク質に対して、好ましくはナノモル又はピコモルの高い結合親和性を有することが好ましい。親和性は、天然又は組換えの標的タンパク質を使用するBIAcoreを含めた当技術分野で公知の任意の適切な方法を用いて測定することができる。一例では、本発明において使用するための抗体分子は、約10nM以上の結合親和性を有する。一例では、本発明において使用するための抗体分子は、約1nM以上の結合親和性を有する。一例では、本発明において使用するための抗体分子は、約500pM以上の結合親和性を有する。一例では、本発明において使用するための抗体分子は、約200pM以上の結合親和性を有する。一実施形態では、本発明において使用するための抗体分子は、約100pM以上の結合親和性を有する。一実施形態では、本発明において使用するための抗体分子は、約50pM以上の結合親和性を有する。本発明の方法で生成された抗体の親和性は、当技術分野で公知の任意の適切な方法を用いて変化させることができることを理解されたい。そのような変異型は、CDRの突然変異(Yangら、J.Mol.Biol.、254、392〜403、1995)、鎖シャッフリング(Marksら、Bio/Technology、10、779〜783、1992)、大腸菌(E.coli)突然変異誘発株の使用(Lowら、J.Mol.Biol.、250、359〜368、1996)、DNAシャッフリング(Pattenら、Curr.Opin.Biotechnol.、8、724〜733、1997)、ファージディスプレイ(Thompsonら、J.Mol.Biol.、256、77〜88、1996)及びセクシャルPCR(sexual PCR)(Crameriら、Nature、391、288〜291、1998)を含めたいくつもの親和性突然変異プロトコールによって得ることができる。Vaughanら(上記)は、これらの親和性突然変異の方法を考察している。
【0034】
本発明では、本明細書において上記した適切なスクリーニング方法を用いて決定されたように、標的タンパク質に結合し、標的タンパク質の活性を望ましい様式で変化させる1種又は複数の抗体が得られる。一実施形態では、1種の抗体又はその断片が本発明の方法で生成される。一実施形態では、標的タンパク質に結合する2種の抗体又はその断片が作製される。一実施形態では、標的タンパク質に結合する3種の抗体又はその断片が作製される。一実施形態では、標的タンパク質に結合し、標的タンパク質の生物活性を変化させる3種以上の抗体又はその断片のパネルが作製される。そのような抗体のパネルは3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種又は10種又はそれ以上の抗体を含んでよいことを理解されたい。抗体のそれぞれが、標的タンパク質の活性を同程度又は異なる程度に調節し得ること、及びそれらは標的タンパク質の同じ位置、類似した位置、重複した位置又は異なる位置において結合し得ることも理解されたい。さらに、抗体のそれぞれは、同じ手段又は異なる手段によって生成することができ、例えばそれらは同種又は異なる種から得ることができ、且つ/又は、例えばヒト化又はキメラなど同じ種類又は異なる種類の抗体であってよく、且つ/又は、それらは例えばVHH又はIgNARドメインなど、異なる形式であってよい。別の例では、単一の親抗体から、例えば突然変異誘発によって2種以上の抗体を得ることができ、したがって、異なる位置で標的タンパク質に結合し、且つ/又は異なる親和性を持ち、且つ/又は標的タンパク質の活性を調節するさまざまな能力を持つ3種以上の関連する抗体のパネルが生成される。さらに、そのような突然変異誘発は、抗体及び標的タンパク質の両方の決定的な残基/接触原子の同定を可能にすることにより、抗体の接触原子の検証を助け、且つ/又はファルマコフォア部位に優先順位を付けるために、アラニンスキャニングなどの方法によって抗体のパネルを生成するために使用することができる。したがって、一実施形態では、当該方法のステップ(a)において得られる少なくとも1つの抗体は、当該方法のステップ(a)において得られる別の抗体の突然変異誘発によって生成される。
【0035】
抗体:標的の3D構造の表示
本発明では、本明細書に記載の適切なスクリーニング方法を用いて決定されたように、標的タンパク質に結合し、標的タンパク質の生物活性を望ましい様式で変化させる(例えば阻害活性又は刺激活性)1種又は複数の抗体が得られる。その後、抗体がどこで標的タンパク質に結合しているか、及び標的タンパク質及び抗体のどのアミノ酸残基、したがってどの原子が互いに接触している又は相互作用するかについての情報を得るために、標的タンパク質と複合した少なくとも1つのそのような抗体の三次元構造の表示を生成する。標的タンパク質に結合し、その活性を調節する2種以上の抗体が得られた場合、標的タンパク質と複合した抗体のそれぞれについて構造情報を得ることが好ましい。ステップ(a)及び(b)は反復性であってよいこと、及び別の抗体を得る前に、各抗体の標的タンパク質と関連付けた3D構造を生成してよいことを理解されたい。
【0036】
当技術分野で公知の任意の適切な方法を用いて抗体:標的タンパク質複合体の三次元構造の表示を生成することができる。そのような方法の例として、NMR及びX線結晶構造解析が挙げられる。X線結晶構造解析を使用することが好ましい。本明細書において上記したように、標的タンパク質は成熟タンパク質又はその適切な断片又は誘導体であってよい。
【0037】
X線結晶は、一般には、抗体又は抗体断片と複合した野生型又は突然変異型の標的タンパク質に対応する結晶化したポリペプチド複合体を含み、ここで抗体断片は、例えば本明細書において上記した抗体VHHドメイン、IgNARドメイン、dAb断片、Fab断片又はFab’断片である。そのような結晶として、結晶化したタンパク質:抗体断片複合体が実質的に純粋であるネイティブな結晶、及び結晶化したタンパク質:抗体断片複合体が、これらに限定されないが、阻害物質、拮抗物質、抗体又は1種又は複数の受容体を含めた1種又は複数の付加的な化合物を伴うポリ結晶が挙げられる。
【0038】
作製された結晶は、結晶化ポリペプチド(単数又は複数)の三次元X線回折構造を、高解析度、好ましくは約3Å超、一般には約1Å〜約3Åの範囲の解析度で決定可能にするのに十分な質であることが好ましい。一般に、結晶は、実質的に純粋なポリペプチド複合体を、ポリペプチド複合体を沈殿させるために必要な濃度をちょうど下回る濃度で沈殿剤を含む水性緩衝液に溶解させることによって成長させる。次いで水を制御蒸発によって除去して沈殿条件を生じ、これを結晶成長が終わるまで維持する。上記の方法に従って調製されたネイティブな結晶を、所望の複合体のポリ結晶に添加する化合物を含む溶剤に浸漬することによってポリ結晶を調製する。或いは、ポリ結晶は、ポリペプチド複合体を上記の方法による化合物の存在下で共結晶化することによって調製することができる。
【0039】
得られた三次元構造情報は、一般には、結晶化したポリペプチド複合体又はポリ複合体の原子構造座標、又は、その一部分、例えば、抗体結合部位又は中和エピトープなどの原子構造座標を含むが、原子構造座標のベクトル表示などの他の構造情報を含み得る。
【0040】
抗体−標的タンパク質複合体に関する三次元構造情報は、原子構造座標を含むことが好ましい。構造情報は、抗体が結合した標的タンパク質の結合部位の全て又は一部を含むことが好ましい。
【0041】
本発明では、三次元構造情報を使用して、当技術分野で公知の適切なモデル及びコンピュータプログラムを用いて(例えば、CCP4 Collaborative Project Number 4(1994)、The CCP4 Suite;Programs for Protein Crystallography、Acta Cryst、D50、760〜763を参照されたい)標的タンパク質と複合した抗体の三次元表示を生成する。次いでこの3D表示を使用して、標的タンパク質の抗体結合部位(単数又は複数)内にある、標的タンパク質及び抗体の1種又は複数の接触残基又は接触原子を同定する。抗体結合部位において互いに接触している又は相互作用する、標的タンパク質の各原子と抗体の各原子を同定して、抗体−標的タンパク質の原子対を同定する。2種以上の抗体−標的タンパク質複合体の構造が生成される場合、そのときは、各抗体の結合部位において1種又は複数の原子、好ましくは1種又は複数の原子対を同定する。一般には、各抗体の結合部位の各原子対を同定する。
【0042】
一般には、本発明の抗体結合部位は、本発明の方法で同定された抗体と接触している又は相互作用する標的タンパク質の残基又は原子1種又は複数、及び標的タンパク質とそれらの接触又は相互作用を生じる抗体の1種又は複数の残基又は原子とを含む。
【0043】
一例では、抗体の結合部位内にある標的タンパク質の接触原子は、可変領域及び定常領域を含めた抗体の任意の一部と接触している又は相互作用する原子であり、これらの領域内の任意の側鎖原子及び主鎖原子を含む。一例では、結合部位における標的タンパク質の接触原子は、抗体の可変領域と接触している又は相互作用する原子である。一例では、結合部位における標的タンパク質の接触原子は、CDR及びフレームワーク領域内の側鎖原子及び主鎖原子を含めた、CDR及び可変領域フレームワークの任意の一部のいずれか1つと接触している又は相互作用する原子である。一例では、結合部位内にある標的タンパク質の接触原子は、軽鎖のフレームワーク1、2、3又は4のうちの1つ又は複数の任意の一部と接触している又は相互作用する原子である。一例では、結合部位内にある標的タンパク質の接触原子は、重鎖のフレームワーク1、2、3又は4のうちの1つ又は複数の任意の一部と接触している又は相互作用する原子である。一例では、結合部位における標的タンパク質の接触原子は、抗体のCDRのうちの1つ又は複数の任意の一部と接触している又は相互作用する原子である。一例では、結合部位内にある標的タンパク質の接触原子は、抗体のCDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2又はCDRL3のうちの1つ又は複数の任意の一部と接触している又は相互作用する原子である。一例では、結合部位内にある標的タンパク質の接触原子は、抗体のCDRH1及び/又はCDRH2及び/又はCDRH3の任意の一部と接触している又は相互作用する原子である。一例では、結合部位における標的タンパク質の接触原子は、抗体重鎖CDR3の任意の一部と接触している又は相互作用する原子である。一例では、結合部位における標的タンパク質の接触原子は、抗体のCDRH3、例えばVHHドメインのCDR3と接触している原子である。
【0044】
一例では、抗体の結合部位内にある抗体の接触原子は、標的タンパク質の任意の側鎖原子及び主鎖原子を含めた、標的タンパク質の任意の一部と相互作用する又は接触している接触原子である。したがって、結合部位内にある抗体の接触原子は、一般には可変領域及び/又は定常領域の内部にあり、これらの領域内の任意の側鎖原子及び主鎖原子を含む。一例では、結合部位における抗体の接触原子は、標的タンパク質と接触している又は相互作用する抗体の可変領域内の原子である。一例では、結合部位内にある抗体の接触原子は、標的タンパク質と接触する又は相互作用する抗体の軽鎖のフレームワーク1、2、3又は4のうちの1つ又は複数の任意の一部内の原子である。一例では、結合部位内にある抗体の接触原子は、標的タンパク質と接触する又は相互作用する抗体の重鎖のフレームワーク1、2、3又は4のうちの1つ又は複数の任意の一部内の原子である。一例では、抗体の接触原子は、CDR及びフレームワーク領域内の側鎖原子及び主鎖原子を含めた、CDR及び可変領域フレームワークの任意の一部のいずれか1つ内の原子である。一例では、結合部位内にある抗体の接触原子は、標的タンパク質と接触する又は相互作用する抗体のCDRのうち1つ又は複数の任意の一部内の原子である。一例では、結合部位内にある抗体の接触原子は、標的タンパク質と接触する又は相互作用する抗体のCDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2又はCDRL3のうちの1つ又は複数の任意の一部内の原子である。一例では、結合部位内にある抗体の接触原子は、標的タンパク質と接触する又は相互作用する抗体のCDRH1及び/又はCDRH2及び/又はCDRH3の任意の一部内の原子である。一例では、結合部位内にある抗体の接触原子は、標的タンパク質と接触する又は相互作用する抗体重鎖CDR3の任意の一部内の原子である。一例では、抗体の結合部位内にある抗体の接触原子は、抗体のCDRH3、例えばVHHドメインのCDR3内の原子である。
【0045】
例えば、抗体及び標的タンパク質の異なる部分間の2つ以上の相互作用がある場合、抗体と接触している又は相互作用している標的タンパク質の残基又は原子の結合部位又はクラスターが2つ以上あることを理解されたい。したがって、一例では、いったん各抗体−標的タンパク質複合体の3D構造の表示が生成されたら、抗体結合部位を目視検査によって決定し、選択することができる。例えば、標的タンパク質の構造的特徴及び/又は標的タンパク質のトポグラフィー及び/又はこれらの部位が新薬の開発につながると考えられるかどうかによって、適切な抗体結合部位を同定することができる。例えば、抗体が標的タンパク質の天然に存在する溝又は間隙に結合する場合、又は抗体が結合した結果そのような溝又は間隙が生成される場合、そのような部位が好ましいことがある。実際に、これらの部位は、例えば受容体又はリガンド結合のための部位としてすでに公知であり得る。或いは、抗体が結合することによってこれまで未知の機能修飾部位が初めて明らかになる可能性があり、これらの部位が好ましいことがある。一例では、結合部位は抗体のCDRH3、例えばVHH抗体のDRH3と接触している部位であると考えられ得る。場合によって、2箇所以上の部位が選択され得ることを理解されたい。
【0046】
標的タンパク質に結合する抗体が2種以上得られた場合、これらの抗体のそれぞれの結合部位からもたらされた構造情報集団を「プール」して1種又は複数の抗体結合部位を選択するために役立たせることができることも理解されたい。例えば、機能修飾抗体がある特定の位置で頻繁に結合する場合、その結合部位が優先的に選択され得る。2種以上の抗体−標的タンパク質複合体3D構造が決定された場合、この情報を組み合わせて、本発明において使用することができる標的タンパク質及び/又は抗体の抗体結合部位、したがって原子の選択を補助することができる。例えば、抗体の大部分が標的タンパク質の特定の領域において結合する場合、その領域内で頻繁に起こる相互作用が優先的に選択され得る。したがって、2種以上の抗体からの接触原子対、例えば、第1の抗体のCDRH2からの接触原子対及び第2の抗体のCDRH3からの接触原子対をステップ(b)において同定することができ、ステップ(f)において、そのような接触原子対を使用して化合物断片の成長を誘導する。
【0047】
一例では、抗体結合部位において少なくとも1つの標的タンパク質の接触原子が同定される。一例では、抗体結合部位内にある少なくとも1つの抗体の接触原子が同定される。一例では、少なくとも1つの標的タンパク質の接触原子及びそれと相互作用する抗体の接触原子が同定される、すなわち、少なくとも1つの原子対が同定される。抗体と標的タンパク質原子との間の分子間相互作用は、一般には水素結合及びファンデルワールス非極性相互作用などの静電気的相互作用である。抗体結合部位内の全ての抗体−標的タンパク質接触原子対が同定されることが好ましい。
【0048】
所与の結合部位、例えば標的タンパク質の結合部位及び抗体の結合部位において2つ以上の接触原子対が同定される場合、タンパク質の接触原子は、本明細書において下記したように、続く断片の成長において有用になるために、互いに適切な距離内にあることが好ましい。一例では、結合部位において同定された接触原子は、最短の非共有結合性の原子相互作用又は水素結合の距離、及び同じ結合部位内にあると考えられ得るタンパク質原子間の最長距離に基づいて、互いに適切な距離内、一般には約1Å〜約30Åにあることが理想的である。同定されたタンパク質の接触原子について、実験的なタンパク質突然変異誘発試験又は分子力学自由エネルギー計算などのコンピュータを用いた方法によって優先順位を付けることができる[Moreiraら J Comput Chem.2007 Feb;28(3):644〜54]。
【0049】
化合物断片のスクリーニング
本発明の方法のステップ(c)において、標的タンパク質に結合する1種又は複数の化合物断片が得られる。
【0050】
本発明において使用するための化合物断片は、一般には600Da未満の分子量を有する。一例では、化合物断片は500Da未満の分子量を有する。一例では、化合物断片は400Da未満の分子量を有する。一例では、化合物断片は350Da未満の分子量を有する。一例では、化合物断片は300Da未満の分子量を有する。一例では、化合物断片は250Da未満の分子量を有する。一例では、化合物断片は200Da未満の分子量を有する。そのような断片は、一般には小さく、単純な化合物であり、通常小数の置換基を持つわずか1つ又は2つの環からなる。
【0051】
そのような化合物断片のライブラリーをスクリーニングすることにより、通常、少ない標的タンパク質との相互作用を介するのみ、したがって、これらは通常、低親和性相互作用ではあるが、標的タンパク質に非常に効率的に結合する小さい化合物断片を同定することが可能になる。これらの化合物断片ヒットは、より大きく、潜在的にはるかに効力があり、薬らしいリード化合物を形成するために、組み合わせる、例えば合併又は連結することができる構成要素とみなすことができる。或いは、これらのヒットは、標的タンパク質とのますます大きな相互作用を獲得しているリード化合物に合成的に発展させることができる「種」又は「アンカーポイント」であり得る。一例では、両方の手法を合わせて、スクリーニングするための次の化合物を生成することができる。
【0052】
一般には、断片に基づくスクリーニングは、いくつもの化合物断片、一般には数千種の化合物をスクリーニングして高マイクロモルからミリモルまでの範囲内のKd値を持つ親和性の低い断片を見出すことを伴う。断片に基づくスクリーニング方法の総説については、Hajduk及びGreer、2007、Nat.Rev.Drug.Discov.6(3)、211〜219を参照されたい。
【0053】
適切な化合物断片ライブラリーは、当技術分野で公知の任意の適切な方法を用いて設計することができ、それによってライブラリーに含まれる化合物断片についての選択は、望ましい化学官能性又は望ましくない化学官能性及び溶解性、形状、柔軟性又は分光特性などの、ライブラリーに置かれ得る他の制約の存在又は非存在に基づき得る。さらに、その後の断片における化学反応に対する戦略も、ライブラリーの設計に影響を与え得る。断片ライブラリーの戦略についての総説は、Baurinら、2004、J.Chem.Inf.Comput.Sci、44、2157〜2166;Hubbardら、2007、Curr.Opin.Drug Discov.Devel.、10、289〜297;Zartier及びShapiro、2005、Curr.Opin.Chem.Biol.、9、366〜370に提供されている。
【0054】
本発明の方法では、化合物断片を、標的タンパク質への結合について直接又は仮想的にのいずれかでスクリーニングする。結合情報は、当技術分野で公知の任意の適切な方法を用いて得ることができる。例えば、異なる手法の概要は、書籍「創薬における断片に基づく手法(Fragment−based approaches in drug discovery)」(Jahnke、Erlanson、Mannhold、Kubinyi&Folkers(2006)、Wileyより出版)及びRees及び共同研究者らの総説(Reesら(2004)Nature Rev.Drug Discov.3、660〜672)に示されている。
【0055】
化合物断片のタンパク質への結合を決定するために有用な実験方法として、下記の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
タンパク質のX線結晶構造解析[Hartshornら(2005)J.Med.Chem.48、403〜413]。タンパク質のX線結晶構造解析を用いた効率的な断片のスクリーニングには、標的タンパク質の予め形成された結晶を断片の反応混液に浸漬する必要がある。X線データを収集した後の反応混液からの断片の同定は、得られた電子密度を手動又は自動で分析することに依存する。これらの試験の結果は、どの断片がタンパク質標的に結合するか、及び活性部位における実際の結合の立体配置に関する情報である。実際の結合の強度又は親和性についての情報は得られない。
【0056】
断片が対象の標的タンパク質に結合した結果としてのNMRスペクトルの化学シフトを同定し、解釈することを伴う、NMRに基づくスクリーニング[Shukerら(1996)Science 21A、1531〜1534]又はNMRによる構造活性相関(SAR)。結果は、タンパク質標的に結合する断片に関する情報である。一般には、実際の結合の強度又は親和性の情報は得られない。標的固定化NMRスクリーニングを使用することもできる(Vanwetswinkelら、2005、Chemistry&Biology、12(2):207〜216)。
【0057】
断片の標的タンパク質への結合を安定化させるためにジスルフィド結合を使用すること[DeLano(2002)Curr.Opin.Struct.Biol.12、14〜20]。これは、タンパク質の表面にシステインと称される硫黄含有アミノ酸を置くことにより、硫黄含有断片の集団に対するタンパク質をスクリーニングするために実現される。システインの近くに結合する断片は、タンパク質とジスルフィド結合を形成し、タンパク質の重量を増加させ、質量分析によって断片を検出することが可能になる。結果は、タンパク質に結合する断片の一覧である。断片の結合強度に関する詳細な情報は得られない。
【0058】
MicroCal LLC(USA)のアプリケーションノート[「分離すれば低下するか?ITCによるリガンドの低親和性実在分子種の研究(Divided we fall? Studying low affinity real molecular species of ligands by ITC)」、MicroCal LLC、USA、2005]に記載されている、断片−タンパク質の結合プロセスによる熱生成を測定し、エントロピー基準及びエンタルピー基準などの熱力学的パラメータに変換する、マイクロカロリメトリーに基づく断片のスクリーニング。この実験の結果は、結合断片のアイデンティティー、及び場合により、対応する結合親和性である。
【0059】
親和性が低い断片の結合を測定するために適応されたin vitro結合アッセイも記載されている[Boehmら(2000)J.Med.Chem.43、2664〜2674]。これらの実験の結果は、特定のタンパク質標的に対して対応する結合親和性を持つ断片のセットである。
【0060】
沈降分析は、断片/タンパク質相互作用を測定することが記載されている新規技術である[Lebowitzら(2002)Protein Sci.11、2067〜2079]。沈降平衡により、溶液中の平衡状態での成分濃度が測定され、沈降平衡実験からの読み取り値は、吸光度対距離曲線である。これらの実験の結果は、特定のタンパク質標的に対して結合親和性を示す断片のアイデンティティーである。
【0061】
固相検出は、一般用語では、バイオ受容体とシグナル伝達物質の両方を組み合わせて断片のタンパク質への結合を検出する、共通の作用原理を共有する幅広い技術を包含する。最もよく知られている固相検出法は、表面プラズモン共鳴法(SPR)であり、Graffinity Pharmaceuticals GmbH(Germany)によって最初に記載され、実行された。このプロセスは、所有権を使用した化学マイクロアレイの高度に平行な生産、高度に定義された表面化学、続くSPRイメージングによる10,000断片までのタンパク質相互作用の同時検出を伴う。相互作用のデータを物理化学的な化合物データと組み合わせてアレイの結果を解釈する。SPRの具体的な一例はBIAcore(商標)であり、これは断片のライブラリーをスクリーニングするために使用されている(Metzら、2003、Meth.Principles.Med.Chem、19、213〜236及びNeumannら、2005、Lett.Drug.Des.Discovery、2、590〜594)。代替的な固相検出法として、Akubio Ltd(UK)が商品化した破壊事象走査(rupture event scanning)(REVS)及び音響共鳴プロファイリング(resonant acoustic profiling)(RAP)技術、反射干渉(RIf)、全反射照明蛍光(TIRF)、及びConcentris GmbH(Suisse)が商品化したマイクロカンチレバー技術が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
キャピラリー電気泳動法も、断片/タンパク質相互作用を測定するためのツールとして言及されてきた[Carbeckら(1998)Ace.Chem.Res.31、343〜350]。
【0063】
上記の方法のうちの1つ又は複数を用いることができることを理解されたい。例えば、NMRを使用して断片の結合を決定することができ、また、これをBIAcore(商標)スクリーニングと組み合わせて親和性及び同定された断片ヒットの「順位」を決定することができる。一例では、BIAcore(商標)を使用して標的タンパク質への結合及び親和性を同時に決定する。
【0064】
断片−結合データを生成するための上記の実験手法に捕捉して、文献ソースから集めた情報も、ある特定の断片の、特異的な標的タンパク質に対する親和性についての知見の生成において有用であり得る。
【0065】
断片結合のデータを収集するためにどんな手法を用いても、結果は、標的タンパク質に結合することが公知である、又はそう考えられている化合物断片構造の一覧である。解離値又はIC50値の形式の定量的な親和性情報が有用であるが、必須ではない。
【0066】
公的に入手可能なデータなどの標的タンパク質に関する適切な構造情報がすでに利用可能である場合、仮想的なスクリーニング方法を使用して標的タンパク質に結合することが予想される断片を同定することができることを理解されたい。化合物断片のタンパク質への結合を決定するために有用な仮想的なスクリーニング方法として、GLIDE[Friesnerら J Med Chem.2004 Mar 25;47(7):1739〜49]及びGOLD[Jonesら J Mol Biol.1997 Apr 4;267(3):727〜48]が挙げられるが、これらに限定されない。一例では、上記のタンパク質の接触原子は、構造に基づく仮想的なスクリーニング方法における計算パラメータとして使用することができるファーマコアの特徴を同定し得る。
【0067】
一例では、種々の異なる化学断片を用いて標的タンパク質結晶の構造を探索して、そのような候補分子と標的タンパク質との間の相互作用に最適な部位を決定することができる。次いで、これらの部位に密接に結合すると思われる小分子断片を設計し、場合により、合成し、標的タンパク質に結合するそれらの能力について試験することができる。
【0068】
別の例では、小分子データベースのコンピュータによるスクリーニングを使用して、標的タンパク質に全部又は一部が結合し得る化学断片を同定する。このスクリーニング方法及びその有用性は、当技術分野で周知である。例えば、そのようなコンピュータモデリング技法は、WO97/16177及びWO2007/011392に記載されている。
【0069】
一実施形態では、コンピュータによるスクリーニング方法は、候補断片を合成し、その候補断片を本明細書において上記した通り標的タンパク質に結合する能力についてスクリーニングするステップをさらに含む。
【0070】
一般には、本発明の方法のステップ(c)において、標的タンパク質に結合する1種又は複数の化合物断片が同定される。一例では、2種以上の断片が同定される。一例では、3種以上の断片が同定される。一例では、4種以上の断片が同定される。一例では、5種以上の断片が同定される。一例では、10種以上の断片が同定される。一例では、20種以上の断片が同定される。一例では、50種以上の断片が同定される。
【0071】
例えば、数多くの断片が同定される場合、同定された断片全てがさらなる3D構造解析のために選択されるのではない可能性があることを理解されたい。ある特定の断片を、その総合的な取扱い易さ及び/又はリピンスキーのルールオブファイブ(Lipinski’s rule of five)(Lipinskiら、1997、Adv.Drug.Del.Rev、23、3〜25)に準拠する可能性に基づいて選択することができる。
【0072】
その代わりに、又はそれに加えて、断片の標的タンパク質に対する親和性が決定されている場合、この親和性を使用して、親和性又はリガンド効率が最も高い断片がさらなる試験に進むよう断片に順位を付けることができる。リガンド効率は、サイズによって基準化された結合親和性である(すなわち、抗力/サイズ)。
【0073】
その代わりに、又はそれに加えて、標的タンパク質に結合することが公知の化合物断片の類似体を、例えば、予測される改善された結合性又は総合的な取扱い易さに基づいて同定し、選択することができる。直接又は仮想的にのいずれかで、これらの類似体を標的タンパク質への結合について試験することができることを理解されたい。
【0074】
その代わりに、又はそれに加えて、本明細書において上記した通り同定された抗体のうちの1種又は複数を使用して行う競合アッセイに基づいて、同定された抗体のうちの1種又は複数と同じ領域において結合する断片が選択されるように、例えば、抗体の存在下で標的タンパク質に結合することができない化合物断片が優先的に選択されるよう化合物断片に順位を付けることができる。
【0075】
上記の異なる因子を組み合わせて使用して、3D構造解析を用いるための1種又は複数の化合物断片を選択することができる可能性がある。
【0076】
化合物断片の3D構造解析
本発明の方法のステップ(d)において、選択された化合物断片のうちの1種又は複数について、三次元構造の表示を標的タンパク質と組み合わせて生成する。そのような構造の表示のための適切な方法として、X線結晶構造解析及びNMRが挙げられる。X線結晶構造解析を使用することが好ましい。
【0077】
生成された三次元構造表示により、化合物断片が標的タンパク質にどのように結合するか、及び標的タンパク質のどこに結合するかについての情報がもたらされる。次いで、この情報を使用して、1種又は複数の機能修飾抗体の標的タンパク質への結合について得られた3D構造情報と比較することができる。Sybyl[www.tripos.com]などの分子モデリングプログラムを使用して同定された重要な相互作用を用いて構造に基づくドラッグデザインのためのファルマコフォアを生成することができる。
【0078】
本発明の方法によって同定された抗体結合部位内又はそれと同じ付近で標的タンパク質に結合する1種又は複数の化合物断片を、1種又は複数の候補小分子化合物を、例えば化合物断片の成長によって合成することに使用するために、ステップ(e)において選択する。
【0079】
一例では、化合物断片が、抗体結合部位にあると同定された、標的タンパク質の1種又は複数のタンパク質接触原子及び/又は抗体の1種又は複数のタンパク質接触原子と分子間相互作用する場合、それを選択する。分子間相互作用として、水素結合又は疎水性ファンデルワールス相互作用などの静電気的相互作用が挙げられる。
【0080】
一例では、化合物断片が抗体結合部位の付近で分子間相互作用する場合に、それを選択する。分子間相互作用として、水素結合又は疎水性ファンデルワールス相互作用などの静電気的相互作用が挙げられる。一例では、化合物断片が、ステップ(b)において抗体結合部位にあると同定された、標的タンパク質の1種又は複数のタンパク質接触原子及び/又は抗体1種又は複数のタンパク質接触原子の付近で分子間相互作用する場合に、それを選択する。本明細書で使用される「の付近で」という用語は、1〜30Åの距離を指す。一例では、「の付近で」という用語は、1〜20Å又は1〜10Åの距離を指す。一例では、化合物断片が、ステップ(b)において抗体結合部位にあると同定された、標的タンパク質の1種又は複数のタンパク質接触原子及び/又は抗体の1種又は複数のタンパク質接触原子の1〜30Å以内で分子間相互作用する場合に、これを選択する。
【0081】
上記のように、どの抗体結合部位が化合物断片の標的になるはずであるかを選択すること、したがって、どの断片が選択され得るかは、2種以上の抗体の集合データ又は例えば抗体結合部位データ及び既知リガンド又は受容体結合部位に基づき得る。標的タンパク質の同じ領域において結合する2種以上の抗体が同定されている場合、標的タンパク質において同定された、抗体と相互作用する接触原子を、断片の成長に使用するために組み合わせることができる。
【0082】
例えば、標的タンパク質の所与の領域において結合する抗体の頻度を用いて、標的タンパク質の残基又は原子と相互作用する抗体残基又は原子の位置と一致させるための化学的空間又は3D位置の特定の領域への断片の成長又はアナロギング(analoguing)を誘導することができる。したがって、得られた、結合した抗体−標的タンパク質の接触情報を使用して、標的タンパク質の特定の領域まで化合物断片の成長を導き、且つ/又はその領域において結合する化合物断片の選択を補助することができ、且つ/又は標的タンパク質の特定の領域内の残基の複合集団をもたらして化合物断片の成長を誘導することができ、且つ/又は化合物断片の成長を化学的空間又は3D位置のある特定の領域まで導くことができる。
【0083】
ステップ(c)及び(d)は反復性であってよく、別の化合物断片を得る前に、標的タンパク質と関連付けた化合物断片の3D構造を生成してよいことを理解されたい。さらに、ステップ(c)及び(d)は、ステップ(b)において同定された抗体結合部位内又はその付近で結合する化合物断片が同定されるまで繰り返すことができる。
【0084】
化合物断片の成長
いったん抗体結合部位内又はその付近における化合物断片の結合が同定されると、所与の抗体結合部位(単数又は複数)から得られた接触原子情報を使用して化合物断片の成長を誘導して候補小分子化合物又はそのような化合物のライブラリーを生成することができる。
【0085】
一般には、そのような標的誘導性の合成の目的は、モジュラー方式で分子を構築して、標的タンパク質に対する結合親和性が個々の部分又は断片よりも高く、標的タンパク質に対して所望の生物学的効果を及ぼすことができる分子集合体を作製することである。このプロセスにおいて、他の構造情報、例えばリガンド、阻害物質、他の化合物断片からの情報を、抗体接触情報と組み合わせて用いることができることを理解されたい。
【0086】
化合物断片(単数又は複数)−標的タンパク質相互作用及び抗体−標的タンパク質相互作用から得られた構造情報を使用して、任意の適切な断片の集合/成長/合理的方法を用いて新規小分子候補化合物を生成するために選択された断片(単数又は複数)を成長させることができる。そのような方法として、NMRによるSAR、動的ライブラリー、アナロギング(analoguing)及び仮想的なスクリーニングが挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
断片に基づいてリードを生成し、その後、効力が高いヒット類似体及び小分子を合理的に設計する方法は当技術分野で公知であり、例えば、Szczepankiewiczら、Journal of the American Chemical Society(2003)、125(14)、4087〜4096;Raimundoら、Journal of Medicinal Chemistry(2004)、47(12)、3111〜3130、Braistedら、Journal of the American Chemical Society(2003)、125(13)、3714〜3715、Huthら、Chemical Biology&Drug Design(2007)、70(1)、1〜12、Petrosら、Journal of Medicinal Chemistry(2006)、49(2)、656〜663、Geschwindnerら、Journal of Medicinal Chemistry(2007)、50(24)、5903〜5911、Edwardsら、Journal of Medicinal Chemistry(2007)、50(24)、5912〜5925及びHubbardら、Current Topics in Medicinal Chemistry(2007)、7(16)、1568〜1581を参照されたい。
【0088】
一般には、そのような化合物断片を成長させる方法として、リード化合物を最適化するための、反復性構造に基づくドラッグデザインが挙げられる。方法として、スクリーニングによって同定された化合物断片の最近接化合物断片又は類似化合物断片を同定するための、化合物断片の「アナロギング(analoguing)」も挙げられ、これらの化合物断片は、次いで標的タンパク質への結合についてスクリーニングすることができる。
【0089】
同定された断片(単数又は複数)の成長は、タンパク質表面の付加的なサブサイトに結合する官能性を付加することによって行うことができる。これは、断片と同じ下部構造を含有する化合物について入手可能な化学物質のデータベースを検索することによって、又は断片の重要な付加点に官能性を付加する小ライブラリーを合成することによって実現することができる。断片の標的タンパク質への結合の場所及び方向並びに同じ付近で結合する抗体から得られた構造情報を使用して、コンピュータによる検索又はライブラリー合成を誘導することができる。リガンド結合などの付加的な関連する構造情報が入手可能である場合、これも断片の成長を誘導するために使用できることを理解されたい。
【0090】
したがって、化合物断片を「成長させること」は、官能性を付加すること、小ライブラリーを作り上げること、データベースを検索すること、コンピュータによる検索及び/又は「アナロギング(analoguing)」を含めた、いくつもの作業を包含し得る。
【0091】
一般には、本発明の方法において化合物断片を「成長させること」は、
(1)抗体結合部位内にあると同定された標的タンパク質の接触原子と相互作用し、且つ/又は
(2)抗体結合部位内の抗体接触原子と同じ又は類似した化学的空間又は3D位置を占める
ように化学合成を導くことを含む。
【0092】
一例では、当該方法のステップ(f)は、伸長した断片がステップ(b)において同定された1種又は複数の抗体の接触原子と同じ又は類似した化学的空間又は3D位置を占めるように化合物断片の化学的成長を導くことにより、ステップ(e)において選択された化合物断片を成長させて、ステップ(b)において同定された標的タンパク質の1種又は複数の接触原子と相互作用する1種又は複数の候補化合物を生成することを含む。抗体の各接触原子は、ステップ(b)において同定された抗体−標的タンパク質原子対からの対応する接触原子であることが好ましい。
【0093】
断片の成長が、抗体結合部位内の抗体接触原子と同じ又は類似した化学的空間又は3D位置を占めるように導かれた場合、断片は、抗体に用いられるのと同じ分子間相互作用又は分子形状を組み込み得る。この分子間相互作用として、例えば、静電気的相互作用、水素結合、疎水性相互作用又はファンデルワールス相互作用が挙げられる。
【0094】
したがって、抗体接触原子の空間位置及び分子間相互作用の種類を用いることにより、断片を成長させて抗体の標的タンパク質の接触原子との相互作用を模倣することができる。この空間位置を、本明細書では3D位置又は化学的空間と称する。したがって、同じ化学的空間又は3D位置が、3D表示、例えばX線結晶構造解析において同定され得る。これは、特に異なる原子が用いられる場合、抗体原子の位置と正確に同じである必要はないが、ほとんど同等であり、類似した化学的空間を占め得ることを理解されたい。
【0095】
断片の成長が、抗体と同じ3D位置又は化学的空間を占める原子を組み込まずに標的タンパク質の原子と相互作用するように導かれた場合、抗体原子の性質及び抗体原子の標的タンパク質との相互作用をさらに使用して、例えば仮想的なスクリーニングツール及び/又はモデリングツールを使用することにより、同等の相互作用を生じる別の適切な位置まで断片を成長させることができる。
【0096】
上記のように、標的タンパク質の同じ領域において結合する2種以上の抗体が同定されている場合、同定された接触原子を、断片の成長に使用するために組み合わせることができる。この情報を使用して1種又は複数の新しい相互作用を断片に同時に組み込むことができ、又はそれらを反復的に生成することができる。ステップ(e)において選択された化合物が、段階的に成長して、ステップ(b)において同じ抗体又は異なる抗体から同定された別の接触原子と相互作用し得るように、ステップ(f)〜(h)は反復性であってよいことを理解されたい。同様にステップ(i)は、この、ステップ(h)において選択された候補化合物に対する反復性のさらなる改善の概念を包含する。
【0097】
一連の新しい化合物を生成することができ、次いでこれらを標的タンパク質に対する改善された親和性及び/又は標的タンパク質への改善された結合性及び/又は改善された効力及び/又は標的タンパク質の生物活性を変化させる能力についてスクリーニングすることができる。これは、さらなる化学反応及び断片の成長の反復性ラウンドを伴ってよく、場合により、抗体結合構造の表示から同定された、標的タンパク質の接触原子との1つ又は複数の別の相互作用が組み込まれることを理解されたい。
【0098】
したがって、一実施形態では、本発明は、標的タンパク質の活性を変化させる小分子化合物を生成するために使用することができる候補化合物又は候補化合物のライブラリーを生成する方法を提供する。
【0099】
これらの方法を用いて生成された候補小分子化合物(単数又は複数)は、次いで、標的タンパク質の生物活性を変化させるその能力について、本明細書に記載の適切なスクリーニング方法を用いて試験することができる。そのような小分子化合物は、一般には<650Daのサイズであり、ペプチド模倣体ではない。
【0100】
当該方法のステップ(f)において生成された1種又は複数の候補化合物は、標的タンパク質に対する改善された親和性及び/又は改善された効力及び/又は改善されたリガンド効率及び/又は標的タンパク質の生物活性を変化させる能力について、ステップ(g)において試験される。上記のように、化合物断片の成長は、反復性であってよく、したがって、ステップ(f)及び(g)は、2回以上繰り返されてよい。したがって、ステップ(f)において作製され、ステップ(g)において試験された候補化合物は、薬物として使用するためにその化学構造をさらに変化させる必要がない、標的タンパク質の活性を変化させる小分子化合物になる可能性を有する。或いは、ステップ(f)において作製され、ステップ(g)において試験された候補化合物は、小分子化合物を生成するために、さらなる修飾、例えば、標的タンパク質の活性を調節する程度まで改善すること、及び/又は化合物をより薬らしくすることを必要とし得る。したがって、ステップ(h)において選択された化合物は、本明細書において下記したように、薬物として使用するために必要な程度に標的タンパク質の活性を調節する小分子化合物であり得る。或いは、ステップ(h)において選択された化合物は、適切な小分子化合物を生成するためにさらなる化学反応及びスクリーニングが必要な候補化合物であり得る。したがって、本発明の方法のステップ(i)において、さらなる化学反応は、場合により、ステップ(f)及び(g)を繰り返して、(h)において選択された断片を、ステップ(b)において同じ抗体又は異なる抗体から同定された1種又は複数の別の接触原子と相互作用するように成長させることにより、場合により、ステップ(h)において選択された化合物に対して行われる。
【0101】
本発明による小分子化合物は、一般には650Da未満のサイズであり、ペプチドではない。一例では、本発明の小分子化合物は600Da未満の分子量を有する。一例では、本発明の小分子化合物は550Da未満の分子量を有する。一例では、本発明の小分子化合物は500Da未満の分子量を有する。
【0102】
一例では、本発明の方法によって作製された小分子は、リピンスキーのルールオブファイブ(Lipinski’s rule of five)(Lipinskiら、1997、Adv.Drug.Del.Rev、23、3〜25)の少なくとも1つに準拠し、全てに準拠することが好ましい。
【0103】
したがって、一例では、本発明の方法によって作製された小分子は、5個以下の水素結合供与体(1つ又は複数の水素原子を伴う窒素原子又は酸素原子)を含有する。
【0104】
一例では、本発明の方法によって作製された小分子は、10個以下の水素結合受容体(窒素原子又は酸素原子)を含有する。
【0105】
一例では、本発明の方法によって作製された小分子は、5未満のオクタノール/水分配係数logPを有する。
【0106】
一例では、本発明の方法によって作製された小分子は、以下の基準に対する3つ以上の違反を有さない:
5つ以下の水素結合供与体(1つ又は複数の水素原子を伴う窒素原子又は酸素原子)を含有する
10個以下の水素結合受容体(窒素原子又は酸素原子)を含有する
5未満のオクタノール/水分配係数logPを有する。
500ダルトン未満の分子量
【0107】
組成物/治療用途
本発明の方法によって同定された化合物は、病的状況の治療及び/又は予防において有用であり得、本発明は、本発明の化合物を薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体のうちの1種又は複数と一緒に含む医薬組成物又は診断用組成物も提供する。したがって、医薬品を製造するための本発明の化合物の使用が提供される。組成物は、通常、薬学的に許容される担体を標準的に含む滅菌医薬組成物の一部として供給される。本発明の医薬組成物は、薬学的に許容されるアジュバントをさらに含み得る。
【0108】
本発明は、標的タンパク質に媒介される又は標的タンパク質レベルの上昇に関連付けられる病的障害の治療又は予防において使用するための、本発明の方法によって作製される化合物も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の例
【実施例】
【0110】
ここで、本発明を例のみの目的で、以下を参照して記載する。
図1a 側鎖残基Tyr1、Tyr2及びAsn1(濃い灰色の球体及び棒)を持つ抗体のFab断片(黒い骨格)並びに標的タンパク質(白い分子表面)
図1b NCE断片(濃い灰色の分子表面)及び標的タンパク質(白い分子表面)
図1c NCE断片(濃い灰色の分子表面)、標的タンパク質(白い分子表面)及び抗体のFab断片(黒い骨格)
図1d NCE断片が成長してTyr1で定義されるフェノール基を組み込んでいる
図1e NCE断片が成長してTyr2で定義されるフェノール基を組み込んでいる
図1f NCE断片が成長してAsn1側鎖で定義される酸素原子及び窒素原子を組み込んでいる
図1g NCE断片が成長してTyr1で定義されるフェノール基、Tyr2で定義されるフェノール基及びAsn1側鎖で定義される酸素原子及び窒素原子を組み込んでいる
【0111】
(例1)
抗体:標的複合体の構造
標的タンパク質(サイトカイン)を、標準のプロトコールを使用して細菌発現系において過剰発現させた(例えば、Baneyx[1999]「大腸菌(Escherichia coli)における組換えタンパク質の発現(Recombinant protein expression in Escherichia coli)」Current Opinion in Biotechnology 10、411〜421に記載されている)。簡単に述べると、標的遺伝子をコードするベクターDNAを大腸菌(Escherichia coli)細菌(Origami strain;Novagen、San Diego/California)中に導入し、形質転換した。イソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシドを加えることによってタンパク質の発現を誘導し、誘導した16〜20時間後に細胞を回収した。細胞を再懸濁することによって標的タンパク質を抽出し、それらをbasic Z cell disruptor(Constant systems)を通過させた。次いで遠心分離によって溶解物を透明にし、溶解物にNi−NTA superflow beads(QIAGEN)2〜4mlを加え、試料を4℃で2時間攪拌した。その後、Ni−NTA beadsを洗い流し、タンパク質を250〜500mMのイミダゾールを含有する緩衝液に溶出させた。溶出した物質を、50mMのTRIS−HCl(pH8.0)、100mMのNaClなどの適切なタンパク質緩衝液でゲル濾過することによってさらに精製した。
【0112】
標的サイトカインに結合する抗体を、Babcook、J.ら、1996、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93(15):7843〜78481に記載の方法を用いて単離した。抗体は、pMの親和性で標的サイトカインに結合し、そのサイトカインの生物活性を中和することができる。結晶構造解析において使用するために、抗体のFab断片をクローン化し、発現させ、精製した。
【0113】
抗体のFab断片を、標準のプロトコールを使用して一過性の哺乳動物細胞培養物において発現させた(例えば、Aricescuら[2006]「真核生物の発現:構造プロテオミクスのための開発(Eukaryotic Expression: Developments for Structural Proteomics)」Acta Crystallographica D62:1114〜1124に記載されている)。簡単に述べると、ヒト胎児の腎臓(HEK293)細胞を抗体の重鎖及び軽鎖をコードするベクターDNAでトランスフェクトした。ベクターは、発現された重鎖及び軽鎖が培地中に分泌されるように、ターゲティング配列を含有した。6日後、細胞を遠心分離によって培地から分離し、親和性クロマトグラフィー(KappaSelect resin;GE healthcare、Amersham/UK)とゲル濾過を組み合わせて用いることによってタンパク質を培地から精製した。
【0114】
化学量論的な量の抗体を標的タンパク質に加えることによって抗体::標的複合体を生成し、その後4℃で2時間インキュベートし、その後ゲル濾過を使用して精製した。精製された抗体::標的複合体を、結晶化に適したレベルまで濃縮した(この場合は8mg/mL)。Mosquito robotic dispensing system(TTP Labtech、Cambridge/UK)を使用してシッティングドロップ(Sitting−drop)結晶化試験を設定した。本明細書に記載の標的タンパク質について、5〜10日以内に、200mMの硫酸アンモニウム、100mMのME緩衝液(pH6.5)、22%(w/v)のPEG−8000のリザーバー溶液と平衡した、4mg/mlの精製された抗体::標的複合体、100mMの硫酸アンモニウム、50mMのMES緩衝液(pH6.5)、11%(w/v)のPEG−8000を含有するシッティングドロップ800nl中に回折品質結晶が成長した。結晶を80%のリザーバーと20%のグリセロールを含有する溶液中で凍結保護し、液体窒素、100Kで急速冷凍した。
【0115】
回折データをDiamond Light Source(Didcot/UK)beamline I02で収集し、コンピュータプログラムMOSFLMを使用して加工した(Leslie[1999]「高分子の回折データの統合(Integration of macromolecular diffraction data)」Acta Crystallographica D55:1696〜1702)。抗体::標的複合体の結晶構造を、標的タンパク質の既知構造及び抗体をプログラムPHASER(McCoyら[2007]「Phaser結晶学的ソフトウェア(Phaser crystallographic software)」Journal of Applied Crystallography 40:658〜674)の検索モデルとして使用した分子置換によって解析した。分子置換溶液を、プログラムCOOT(Emsley及びCowtan[2004]「Coot:分子グラフィックのためのモデル構築ツール(Coot:model−building tools for molecular graphics)」Acta Crystallographica D60:2126〜2132)を使用して再構築し、プログラムCCP4 program(Collaborative Project Number 4[1994]「CCP4 Suite:タンパク質結晶構造解析のためのプログラム(The CCP4 Suite:Programs for Protein Crystallography)」Acta Crystallographica D50:760〜763)を使用して精製した。
【0116】
結晶構造を解析することにより、抗体が標的タンパク質のどこに結合したかが明らかになり、抗体結合部位内の接触原子対、すなわち、抗体結合部位内の標的タンパク質の原子と抗体の原子が同定された。
【0117】
標的::断片複合体の構造
上記の通り、標的タンパク質を発現させ、精製し、結晶化した。
小分子断片のライブラリーを、Biacore A100に基づいたスクリーニング方法で標的サイトカインへの特異的な結合についてスクリーニングすることによってNCE断片を得た。標的サイトカインを、溶液相からの結合しているNCE断片と一緒にチップの表面に結合させた。断片の結合は、再生ステップを必要としないために十分に弱かった。このアッセイ形式において、この特異的な断片についての典型的な結合の方形波プロファイルを得た。同定された断片は、400μMの結合親和性を有した。
【0118】
標的タンパク質を、アポ型に結晶化し、続いてその結晶を、断片を含有する緩衝溶液に浸漬した。回折データをSwiss Light Source(Villingen、Switzerland)で収集し、プログラムXDS及びXSCALE(Kabsch[1993]「最初未知の対称及びセル定数の結晶からの回転回折データの自動加工(Automatic processing of rotation diffraction data from crystals of initially unknown symmetry and cell constants)」Journal of Applied Crystallography 26:795〜800)を使用して加工した。標的::断片複合体の構造を、標的タンパク質の既知構造を検索モデルとして使用した分子置換によって解析した。分子置換溶液を、プログラムCOOTを使用して再構築し、プログラムCCP4 programを使用して精製した。
【0119】
抗体誘導性の断片の成長を例示している方法
本例では、高い親和性のFab断片、中和抗体及び標的サイトカインの複合体の第1の結晶構造を得、抗体結合部位と同じ標的サイトカインに同じ付近で結合する小分子断片の第2の結晶構造を得た。
【0120】
抗体を、選択リンパ球抗体法(Selected Lymphocyte Antibody Method)に従って生成し、その標的との相互作用の親和性を確証するためのBiacoreによって、及び機能修飾特性を確証するためのバイオアッセイにおいて、スクリーニングした。抗体は、pMの親和性を有する標的サイトカインに結合し、そのサイトカインの生物活性を中和することができた。抗体のFab断片をクローン化し、発現させ、精製して結晶構造解析を補助した。
【0121】
小分子断片のライブラリーから、Biacore A100に基づいたスクリーニング方法で標的サイトカインへの特異的な結合が実証されたNCE断片を得た。標的サイトカインを溶液相からの結合しているNCE断片と一緒にチップの表面に結合させた。断片の結合は、再生ステップを必要としないために十分に弱かった。このアッセイ形式において、この特異的な断片についての典型的な結合の方形波プロファイルを得た。同定された断片は、標的サイトカインに対して400μMの結合親和性及び205の分子量を有した。
【0122】
予想通り、抗体は、断片と比較して、いくつもの付加的な原子を使って抗原と接触し、特異的且つ誘導性の様式で断片を成長させる機会を与えて抗体−検証された接触原子及びそれらの標的サイトカインの表面に対する三次元空間における場所及び小分子断片に対する三次元空間における場所を生かしている。
【0123】
抗体のFab断片と標的サイトカインとの間のそのような相互作用の1つは、抗体のCDR3重鎖の第1のチロシン(Tyr1)とタンパク質標的のトリプトファン残基との間にあり、エッジ−表面(edge−to−face)パイ−パイスタッキング相互作用を形成している。抗体のFab断片と標的サイトカインとの間の別の相互作用は、抗体のFab断片のCDR2重鎖領域のアスパラギン(Asn1)とタンパク質標的のアルギニン残基との間の水素結合である。別の相互作用は、抗体のCDR2重鎖領域の第2のチロシン(Tyr2)とタンパク質標的のアルギニンとの間にあり、陽イオン−パイ接触を形成する。NCE断片は、これらの相互作用の4Å以内の部位に結合するが、これらの場所における適切な構造を欠いているので、3つの特異的な接触を生かすことができない。
【0124】
断片の中心に対して適切な場所における抗体の相互作用を模倣する構造モチーフを特色とする第1の断片の類似体を、さらなる分析のために優先的に選択することができる。そのような類似体として、Tyr1若しくはTyr2を模倣するためのフェノール環又はAsn1を模倣するための一級アミドを挙げることができるが、これらに限定されない。或いは、抗体からのこれらの相互作用を適切な場所で模倣している構造を持つ新しい化合物を特異的に合成することができる。図1は、この様式でどのように断片が成長し得るか、及び新しい断片がどのように抗体のFab断片残基Tyr1、Tyr2又はAsn1で観察される類似の相互作用を通して結合が増強したことを実証することが予想され得るかを示している。
【0125】
図1a 側鎖残基Tyr1、Tyr2及びAsn1(濃い灰色の球体及び棒)を持つ抗体のFab断片(黒い骨格)並びに標的タンパク質(白い分子表面)
図1b NCE断片(濃い灰色の分子表面)及び標的タンパク質(白い分子表面)
図1c NCE断片(濃い灰色の分子表面)、標的タンパク質(白い分子表面)及び抗体のFab断片(黒い骨格)
図1d NCE断片が成長してTyr1で定義されるフェノール基を組み込んでいる
図1e NCE断片が成長してTyr2で定義されるフェノール基を組み込んでいる
図1f NCE断片が成長してAsn1側鎖で定義される酸素原子及び窒素原子を組み込んでいる
図1g NCE断片が成長してTyr1で定義されるフェノール基、Tyr2で定義されるフェノール基及びAsn1側鎖で定義される酸素原子及び窒素原子を組み込んでいる
【0126】
抗体がすでに、付加的な化学物質と、現存する断片に対するその場所の両方について検証されたので、化合物断片を成長させることによって生成された新しい候補断片は、市販の類似体からの無作為な置換による、又は無作為な選択による成長と比較して親和性及び/又は効力が増加している確率が高いことが予想され得る。
【0127】
結合の増加又は効力の増加の確認は、適切なアッセイ、例えばBIAcore、FRETスクリーニングによって、又は適切な細胞に基づくアッセイにおいて得られ得る。
【0128】
断片を成長させるための新しい機会及び付随する効力の増加を探求することができるように、合成された断片の新しい結晶構造を得、抗体−標的複導体の構造と比較するという点において当該方法は反復性であることが予測される。
【図1(a)】

【図1(b)】

【図1(c)】

【図1(d)】

【図1(e)】

【図1(f)】

【図1(g)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的タンパク質の活性を変化させ得る小分子化合物を生成する方法であって、
(a)標的タンパク質に結合し、標的タンパク質の生物活性を変化させる1種又は複数の抗体又はその断片を得るステップと、
(b)ステップ(a)において得られた抗体の三次元構造の表示を標的タンパク質と関連付けて生成し、相互作用し、抗体の結合部位内にある、標的タンパク質と抗体の1種又は複数の接触原子対を同定するステップと、
(c)標的タンパク質に結合する1種又は複数の化合物断片を得るステップと、
(d)ステップ(c)において得られた断片のうちの1種又は複数の三次元構造の表示を標的タンパク質と関連付けて生成するステップと、
(e)ステップ(b)において同定された抗体結合部位内又はその付近で標的タンパク質に結合する化合物断片を選択するステップと、
(f)ステップ(e)において選択された化合物断片を、場合により、伸長した断片がステップ(b)において同定された抗体の接触原子のうちの1種又は複数と同じ化学的空間又は3D位置を占めるように化合物断片の化学的成長を導くことによって成長させて、ステップ(b)において同定された標的タンパク質の1種又は複数の接触原子と相互作用する1種又は複数の候補化合物を生成するステップと、
(g)ステップ(f)において作製された候補化合物のうちの1種又は複数を、標的タンパク質に対する改善された親和性及び/又は改善された効力及び/又は標的タンパク質の生物活性を変化させる能力について試験するステップと、
(h)ステップ(g)において試験された化合物が、標的タンパク質の活性を調節する又は改善された結合性親和性若しくはリガンド効率を有する場合に、それを選択するステップと、
(i)場合により、ステップ(h)において同定された化合物を使用してさらに化学反応及びスクリーニングを行って、標的タンパク質の活性を調節する小分子化合物を生成するステップと
を含む上記方法。
【請求項2】
ステップ(a)において得られた各抗体又はその断片が、完全な抗体、Fab、修飾Fab、Fab’、Fv、VH、VL、VHH及びIgNAR Vドメインからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)において2種以上の抗体が得られる、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)において同定された少なくとも1種の接触原子対が、相互作用する、標的タンパク質の接触原子と抗体の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域内の接触原子とからなる、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)において同定された少なくとも1種の接触原子対が、相互作用する、標的タンパク質の接触原子と抗体のCDR内の接触原子とからなる、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(b)において同定された各接触原子対が、相互作用する、標的タンパク質の接触原子と抗体のCDR内の接触原子とからなる、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)において同定された少なくとも1種の接触原子対が、相互作用する、標的タンパク質の接触原子と抗体重鎖CDR内の接触原子とからなる、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(c)において2種以上の化合物が同定される、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(c)において得られた各化合物断片が、500Da未満の分子量を有する、請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(e)において選択された化合物断片が、ステップ(b)において同定された接触原子対の1〜30Å以内で標的タンパク質に結合する、請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(b)及び/又はステップ(d)において生成される三次元構造が、X線結晶構造解析によって生成される、請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか一項に記載の方法によって生成される小分子化合物。

【公表番号】特表2012−515330(P2012−515330A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544922(P2011−544922)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000040
【国際公開番号】WO2010/079345
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(507073918)ユセベ ファルマ ソシエテ アノニム (70)
【Fターム(参考)】