説明

抗原に対する免疫応答を増強する組成物および方法

式の化合物を含む組成物を本明細書で提供する。抗原および組成物を投与することによって、前記抗原に対する対象の免疫応答を増強する方法も提供する。増強された免疫応答は、体液性免疫応答、CD4+T細胞応答、CD8+T細胞応答であってよく、または抗原提示細胞の活性化を引き起こしてもよい。抗原および式Iの化合物を含む組成物を筋肉内投与することによって、免疫応答を増強する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、全体を参照により本明細書に組み込んだ2007年12月5日出願の米国特許仮出願第60/992460号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
ワクチンの基本的な目的は、病的状態に対する持続免疫をもたらすことである。ワクチンは機能的に活性な抗体を形成させ、細胞性免疫を惹起し、特異性の高い反応性ならびに抗原とのさらなる遭遇に備えて防御をもたらすための「記憶」を有するTおよびBリンパ球を活性化することが理想的である。
【0003】
アジュバントは、免疫応答を非特異的に増大させるワクチン添加物である。アジュバントが免疫系を増強する機構は、変化に富んでいる。アジュバントは、「免疫調節」系または「抗原送達」系に分類することができる。免疫調節アジュバントは、リンホカイン産生の改変によって免疫細胞の作用を調節することによって免疫系を刺激する。他方、抗原送達系は、抗原を適切な免疫細胞に送達する機能を果たす。さらに、アジュバントは、免疫応答の速度または期間を増大させ、抗体結合力、特異性、アイソタイプまたはサブクラス分布を調節し、細胞性免疫を刺激するか、粘膜免疫を促進するか、または免疫学的に未熟であるか、もしくは老化した個体における免疫応答を増強することができる。アジュバントは、自然な体液性免疫応答または細胞性免疫応答またはそれらの組合せに影響を及ぼすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許仮出願第60/992460号
【特許文献2】PCT出願PCT/US07/66250
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., (2000)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の種類の合成糖脂質は、ワクチン調製物と組み合わせて使用すると、対象に投与したとき体液性免疫応答および細胞性免疫応答の両方を活性化できることを発見した。したがって、本発明は、下記に示す式Iの化合物を含む組成物を提供する
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1およびR2は独立して-Hまたは-OHから選択され、xは18から26の整数であり、nは10から15の整数である)。式Iの化合物および抗原を含む組成物も提供する。
【0009】
別の態様では、本発明は、式Iの化合物および抗原を含む組成物を投与することによって、対象における抗原に対する免疫応答を増強する方法を提供する。増強された免疫応答は、体液性免疫応答、CD4+T細胞応答、CD8+細胞傷害性T細胞応答または抗原提示細胞(APC)の活性化であってもよい。対象の免疫応答は、適切な対照と比較して増強される。
【0010】
他の態様では、本発明の組成物を筋肉内に投与する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】Ovaと一緒に、または一緒にせずにPBS-96、PBS-14またはPBS-11を静脈内注射(IV)したマウスの血液中のOva特異的標的細胞の特異的溶解のパーセンテージを示した図である。
【図2】Ovaと一緒に、または一緒にせずにαGalCer、PBS-57、PBS-96またはPBS-14をIV注射したマウスの血液中のOva特異的標的細胞の特異的溶解のパーセンテージを示した図である。
【図3】Ovaと一緒に、または一緒にせずにαGalCer、PBS-57、PBS-96またはPBS-14を筋肉内注射(IM)したマウスの血液中のOva特異的標的細胞の特異的溶解を示した図である。
【図4A】様々な濃度のPBS-57を接種して24時間後のマウス血清中のIFNγの蓄積を示した図である。
【図4B】様々な濃度のPBS-14を接種して24時間後のマウス血清中のIFNγの蓄積を示した図である。
【図4C】様々な濃度のPBS-96を接種して24時間後のマウス血清中のIFNγの蓄積を示した図である。
【図4D】様々な濃度のαGalCerを接種して24時間後のマウス血清中のIFNγの蓄積を示した図である。
【図5】PBS-57、PBS-96、PBS-14またはPBS-11 100ngを接種して24時間後のマウス血清中のIFNγの蓄積を比較した図である。
【図6】Ovaと一緒に、または一緒にせずにPBS-11、PBS-57、PBS-96またはPBS-14をIV注射したマウスの血液中のOva特異的標的細胞の特異的溶解を示した図である。
【図7】OVAと一緒に、または一緒にせずに指示したアジュバント100ngをIM注射したマウスのOVA特異的標的細胞の特異的溶解を示した図である。
【図8】OVAと一緒に、または一緒にせずに指示したアジュバント10ngをIM注射したマウスのOVA特異的標的細胞の特異的溶解を示した図である。
【図9】OVAと一緒に、または一緒にせずに指示したアジュバント1μgをIM注射したマウスのSIINFEKLペンタマーに反応するCD8+T細胞のパーセンテージを示した図である。
【図10】OVAと一緒に、または一緒にせずに指示したアジュバント100ngをIM注射したマウスのSIINFEKLペンタマーに反応するCD8+T細胞のパーセンテージを示した図である。
【図11】OVAと一緒に、または一緒にせずに指示したアジュバント100ngをIM注射したマウス血液中のIgG1の力価を示した図である。
【図12】OVAと一緒に、または一緒にせずに指示したアジュバント100ngをIM注射したマウス血液中のIgG2aの力価を示した図である。
【図13】PBS-14、PBS-96、PBS-11、PBS-57およびαGalCerの構造式を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
アジュバントは、様々な方法でワクチン調製物中の抗原の免疫原性を高める。効果的なアジュバントはまた、抗原投与によって惹起される免疫応答を増強するために多種多様な抗原との組合せに有用であろう。例えば、毒素の場合、良好な体液性免疫応答が必要である。細胞内細菌の場合、主に細胞傷害性T細胞およびTh1細胞によって媒介される細胞性応答が重要である。ウイルス感染の場合、体液性応答および細胞性応答の両方が感染の制御に必要である。体液性免疫応答だけでなく細胞性免疫応答を増強するアジュバントの能力は、長期間持続する免疫を起こさせる可能性を高める。
【0013】
脂質種のアジュバント特性が研究されている。いくつかの天然および合成脂質分子は抗原提示細胞によって処理され、CD1分子によってNKT細胞に対して提示される。インビトロおよびインビボにおいてNKT細胞活性化を研究するために使用した原型となる化合物は、海綿アゲラス・マウリチアヌス(Agelas mauritianus)から得られたα-ガラクトシルセラミド(「αGalCer」)、KRN7000である。最近同定された他の化合物には、内在性糖脂質であり、開示を本明細書に参考として組み込んだPCT出願PCT/US07/66250に記載された改変6”アミノ6”デオキシガラクトシルセラミドであるイソグロボトリヘキソシルセラミド(「iGB3」)が含まれる。これらの化合物は、NKT細胞を活性化し、インビトロにおいてサイトカイン応答を上方制御する。しかし、インビボにおけるワクチン接種の場合、これらの化合物の脂質アジュバント活性の有効性に関してはほとんど知られていない。
【0014】
本発明者らは、アミノ基および飽和脂肪酸鎖を含有する式Iのスフィンゴ糖脂質が、予期せぬことにインビボにおいて細胞性および体液性免疫応答の両方を刺激する能力を有することを発見した。さらに、式Iの化合物は弱い微量な抗原(weak nominal antigen)に対して免疫応答を誘発して、抗体を産生し、同時に特異的な表面抗原を発現する細胞の細胞媒介性溶解をもたらすことができる。PBS-96およびPBS-14と呼ばれる式Iの2種類の化合物は、インビボにおいて細胞性および体液性免疫応答の両方を刺激することが示された。これらの化合物はまた、弱い微量の抗原に対して免疫応答を誘発し、抗体を産生し、細胞性応答を惹起した。さらに、これらの化合物は、PBS-57およびαGalCerなどのその他のスフィンゴ糖脂質と比較して、筋肉内注射したとき、より強い応答を誘発するか、またはより低い用量でより強い応答を誘発することが発見された。
【0015】
一実施形態では、本発明は、下記の式Iの化合物を含む組成物を提供する
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、R1およびR2は独立して-Hまたは-OHから選択され、xは18から26の整数であり、nは10から15の整数である)。式Iの化合物は、ガラクトースまたはグルコース分子のC6位にアミド基を有し、化合物のセラミド部分に飽和アシル鎖を有することが適切である。この組成物はさらに、生理学的に許容される担体を含んでいてもよい。「生理学的に許容される」担体は、インビボ投与(例えば、経口、経皮もしくは非経口投与)またはインビトロ使用、すなわち、細胞培養のために適した任意の担体である。インビボ投与に適した生理学的に許容される担体には特に、水、緩衝溶液およびグルコース溶液が含まれる。この組成物の他の成分には、生理学的に許容される担体に加えて、添加剤、例えば、安定剤、保存剤、賦形剤、乳化剤または滑沢剤を含めることができる。適切な添加剤には、限定はしないが、Tween20、DMSO、スクロース、L-ヒスチジン、ポリソルベート20および血清が含まれる。式Iの化合物はリポソーム中に製剤化することが適している。リポソームは、8μモル/2μモル/5μモル/1mgの比のホスファチジルコリン(PC)/ホスファチジルグリセロール(PG)/コレステロールから構成されるSUV型であることが適している。当業者であれば、式Iの化合物は対象に投与するために様々な方法で製剤化できることを理解するであろう。
【0018】
別の実施形態では、本発明は、式Iの化合物および抗原を含有する組成物を投与することによって、抗原に対する対象の免疫応答を増強する方法を提供する。本明細書では、「対象」とは、哺乳類、例えば、マウス、より適切にはヒトである。「免疫応答の増強」とは、抗原に対する対象の体液性および/または細胞性免疫応答を適切な対照と比較して増強する化合物の能力のことである。抗原提示細胞の活性化の増強はまた、対象の増強された免疫応答として含まれる。免疫応答が対照と比較して増強されているかどうかを決定するために、抗原および化合物でワクチン接種された対象の試料におけるシグナルを、抗原のみでワクチン接種された対象の試料におけるシグナルと定量的に比較することができる。抗原に対する免疫応答は、当業者には明白な様々な方法で測定することができる。実施例では、免疫応答は、細胞傷害性特異的細胞溶解アッセイ、ペンタマー結合アッセイまたはELISAアッセイによって測定し、その実施は、当業者にとっては日常的なものである。
【0019】
特定の実施形態では、免疫応答は適切な対照と比較して少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも400%、少なくとも500%、少なくとも750%または少なくとも1000%増強される。適切な対照とは、抗原を投与されたが本発明の組成物は投与されていない対象である。増強のパーセントは、以下の式:
[(式Iの化合物を含有する組成物で処理した後の対象の免疫応答を表す値)-(対照の免疫応答を表す値)/(式Iの化合物を含有する組成物で処理した後の対象の免疫応答を表す値)]×100
を使用して算出することができる。
【0020】
本明細書では、「投与」、「共投与」および「共投与する」という用語は、アジュバントおよび抗原を同時、すなわち、時間的に同時、または連続的に投与することであり、すなわち、アジュバントを投与した後に抗原を投与するか、または抗原を投与した後にアジュバントを投与することである。アジュバントまたは抗原を投与した後、他方の成分を実質的に直後または効果的な期間の後で投与することができ、効果的な期間とは、成分投与から最大限の利益を実現するために与えられた時間量である。あるいは、アジュバントおよび抗原は、一緒に製剤化してもよい。
【0021】
抗原は、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、または炭水化物部分またはそれらの組合せ、例えば、糖タンパク質であってもよい。抗原は、感染因子(例えば、病原性微生物)、腫瘍、内因性分子(例えば、「自己」分子)から得られるか、または、研究目的のため、卵白アルブミン(本明細書では「OVA」と称する)などの名目上の抗原であることが適切である。抗原は、ワクチン内に包含されることが適切である。ワクチン組成物は、式Iの化合物を含むように製剤化することが適切である。「ワクチン」とは、対象に投与すると、細胞性または体液性免疫応答を誘導する組成物のことである。本発明と併用する医薬組成物には、式Iの化合物およびワクチンが含まれることが適切である。いくつかの実施形態では、本発明と併用する医薬組成物には、PBS-96および抗原またはPBS-14および抗原を含むことが適切である。PBS-96およびPBS-14の構造を図13に示す。PBS-96およびPBS-14は、インビトロおよびインビボにおいてNKT細胞を活性化する。PBS-96およびPBS-14はいずれも、ガラクトースのC6位にアミド基および化合物のセラミド部分に飽和アシル鎖を含有する。PBS-96およびPBS-14は、抗原に対するCD8+T細胞応答を増強し、PBS-96およびPBS-14はインビボにおいてIFN-γの放出を誘導する。さらに、予期せぬことに、PBS-96およびPBS-14は、低濃度で使用したとき、また筋肉内に注射したとき、その他のスフィンゴ糖脂質よりも優れている。
【0022】
式Iの化合物を含む組成物は、当業者に公知の様々な調製方法および不活性成分を使用して製剤化することができる。(本明細書に参考として組み込んだRemington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., (2000))。本発明の組成物はまた、抗原を免疫細胞に標的化するために適切な抗原送達系を含有する。抗原送達系は当業界では公知で、限定はしないが、MVA(改変ウイルスアンカラ)、アデノウイルス、レンチウイルス、百日咳もしくは滋賀毒素の転位サブユニットまたは抗原を密封したリポソームを含む。ワクチン組成物中の式Iの化合物の有効な投薬量は、当業者が決定することができるが、通常、体重1キログラム当たり約1ナノグラムから約10000マイクログラムの範囲であり、典型的には、体重1キログラム当たり約1000マイクログラム以下である。いくつかの実施形態では、有効な投薬量は、体重1キログラム当たり、約10ナノグラムから約1000マイクログラムの範囲である。別の実施形態では、有効な投薬量は、体重1キログラム当たり、約100ナノグラムから約500マイクログラムの範囲である。別の実施形態では、有効な投薬量は、体重1キログラム当たり、約1マイクログラムから約250マイクログラムの範囲である。研究目的では、マウスに適した投薬量は、投与経路に応じて100μl用量当たり式Iの化合物1ngから1μgである。例えば、約100ngの投薬量は、マウスへの静脈内注射に適しており、10ngという少ない投薬量は、筋肉内注射に有効であることが示された。式Iの化合物を含む組成物は、単回投与するか、または数週間または数ヶ月の期間にわたって複数回で分割投与することができる。
【0023】
1種または複数の抗原を組成物中に含めてもよく、または独立して製剤化してもよい。本明細書では、「抗原」とは、投与した対象において免疫応答を誘発する分子を意味する。抗原の投薬量は、特異的な抗原ならびに対象の年齢および免疫状態ならびに当業者によって決定され得るその他の関連要素に左右されることを理解されたい。
【0024】
微生物全体またはそれらの一部(例えば、膜ゴースト、粗膜調製物、溶解物および微生物のその他の調製物)を抗原として利用することができる。抗原は弱毒化した、または殺滅した感染因子から得ることが適当である。抗原を入手できる適切な感染因子には、限定はしないが、病原体および細菌、寄生虫およびウイルスなどの微生物が含まれる。いくつかの場合では、適切な抗原は、限定はしないが、HIV/AIDS(レトロウイルス科(Retroviridae)、例えば、HIV-1およびHIV-2単離物、HTLV-1、HTLV-11のgp120分子)、インフルエンザウイルス(オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、例えば、A、BおよびC型)、ヘルペス(例えば、単純疱疹ウイルス、HSV-1およびHSV-2糖タンパク質gB、gDおよびgH)、ロタウイルス感染(レオウイルス科(Reoviridae))、呼吸器感染(パラインフルエンザおよび呼吸器多核体ウイルス)、灰白髄炎(ピコルナウイルス科(Picornaviridae)、例えば、ポリオウイルス、ライノウイルス)、麻疹および流行性耳下腺炎(パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae))、風疹(トガウイルス科(Togaviridae)、例えば、風疹ウイルス)、肝炎(例えば、A、B、C、D、Eおよび/またはG型肝炎ウイルス)、サイトメガロウイルス(例えば、gBおよびgH)、胃腸炎(カリシウイルス科(Caliciviridae))、黄熱病および西ナイル熱(フラビウイルス(Flaviviridae))、狂犬病(ラブドウイルス科(Rhabdoviridae))、韓国型出血熱(ブニヤウイルス科(Bunyaviridae))、ベネズエラ熱(アレナウイルス科(Arenaviridae))、疣贅(パピローマウイルス)、サル免疫不全ウイルス、脳炎ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタインバーウイルスならびにコロナウイル科(Coronaviridae)、ビルナウイルス科(Birnaviridae)およびフィロウイルス科(Filoviridae)を含むその他のウイルス科を含む、ヒト疾患に関連したウイルス病原体から入手するか、または得られる。
【0025】
適切な細菌および寄生虫抗原はまた、公知の疾患原因菌から入手するか、または得ることができ、限定はしないが、ジフテリア、百日咳、破傷風、結核、細菌性もしくは真菌性肺炎、中耳炎、淋病、コレラ、腸チフス、髄膜炎、単核球症、ペスト、細菌性赤痢またはサルモネラ症、レジオネラ病、ライム病、ライ病、マラリア、鉤虫症、オンコセルカ症、住血吸虫症、トリパノソーマ症、リーシュマニア症、ランブル鞭毛虫症、アメーバ症、フィラリア症、ボレリア(Borrelia)および旋毛虫症を含む疾患に対してワクチン接種するために組成物中で使用することができる。さらに他の抗原は、クールー病、クロイツフェルトヤコブ病(CJD)、スクレイピー、伝達性ミンク脳症および慢性消耗性疾患の原因菌などの非定型病原菌または狂牛病に関連したプリオンなどのタンパク質性感染粒子から入手するか、または得ることができる。
【0026】
抗原を得る他の特定の病原体には、結核菌(M. tuberculosis)、クラミジア(Chlamydia)、淋菌(N. gonorrhoeae)、赤痢菌(Shigella)、サルモネラ菌(Salmonella)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、シュードモナス(Pseudomonas)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、ブルセラ菌(Brucella)、野兎病菌(Francisella tularensis)、ピロリ菌(Helicobacter pylori)、レプトスピラ・インターローガンス(Leptospira interrogans)、在郷軍人病菌(Legionella pneumophila)、ペスト菌(Yersinia pestis)、連鎖球菌(Streptococcus)(A型およびB型)、肺炎球菌、髄膜炎菌、ヘモフィラスインフルエンザ菌(Haemophilus influenza)(b型)、トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)、カタル球菌(Moraxella catarrhalis)、鼠径リンパ肉芽腫症および放線菌症が含まれ、真菌病原体には、カンジダ症およびアスペルギルス症が含まれ、寄生虫病原体には、条虫類(Taenia)、吸虫、回虫、アメーバ症、ジアルジア症、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)、住血吸虫(Schistosoma)、カリニ肺炎菌(Pneumocystis carinii)、トリコモナス症および旋毛虫症が含まれる。本発明はまた、数多くの動物疾患、例えば、口蹄疫、コロナウイルス、パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)、ヘリコバクター、普通円虫(Strongylus vulgaris)、アクチノバチルス・プルロニューモニア、ウシウイルス性下痢症ウイルス(Bovine Viral Diarrhea Virus)(BVDV)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、大腸菌(E. coli)および百日咳菌(Bordetella pertussis)、バラ百日咳(parapertussis)およびブロキセプティカ(brochiseptica)に対する適切な免疫応答をもたらすために使用することができる。
【0027】
その他の実施形態では、本発明と併用できる組成物に含めるための抗原は、腫瘍由来抗原または自己由来もしくは同種の腫瘍細胞全体である。腫瘍抗原は、腫瘍特異的抗原(TSA)または腫瘍関連抗原(TAA)であると適切である。いくつかの腫瘍抗原およびそれらの発現パターンは、当業界では公知で、処置する腫瘍の種類に基づいて選択することができる。腫瘍抗原の非限定的な例には、cdk4(黒色腫)、β-カテニン(黒色腫)、カスパーゼ-8(扁平上皮細胞癌)、MAGE-1およびMAGE-3(黒色腫、乳癌、神経膠腫)、チロシナーゼ(黒色腫)、表面Igイディオタイプ(例えば、BCR)(リンパ腫)、Her-2/neu(乳癌、卵巣癌)、MUC-1(乳癌、膵癌)ならびにHPVE6およびE7(子宮頸癌)が含まれる。他の適切な腫瘍抗原には、前立腺特異的抗原(PSA)、シアリルTn(STn)、熱ショックタンパク質および腫瘍関連ペプチド(例えば、gp96)、ガングリオシド分子(例えば、GM2、GD2およびGD3)、癌胎児抗原(CEA)ならびにMART-1が含まれる。
【0028】
当業者には明らかなように、医薬組成物は、企図した投与経路に適合するように製剤化することが適切である。適切な投与経路には、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、筋肉内、経口(例えば、吸入)、経腸、経皮(局所)、経粘膜および直腸投与が含まれる。実施例で示したように、式Iの化合物は、筋肉内に投与した後、免疫応答の予期せぬ着実な増強をもたらすことが発見された。
【0029】
本発明の別の実施形態は、抗原に対する体液性免疫応答の誘発方法である。該方法には、前述のように、式Iの化合物および抗原の対象への共投与が含まれる。本明細書では、「体液性免疫応答」とは、B細胞による抗体産生およびそれに関連した付属のプロセスのことで、限定はしないが、例えば、Th2活性化およびサイトカイン産生、胚中心形成およびアイソタイプ転換、親和性成熟生成および記憶細胞発生が含まれる。体液性免疫応答が活性化されているかどうかを決定するために、抗原および式Iの化合物を投与された対象の試料におけるシグナルを、抗原のみを投与された対象の試料中と定量的に比較することができる。体液性免疫応答は、病原体または毒素の中和、古典的な補体活性化ならびに食作用および病原体排除のオプソニンによる促進を含む抗体のエフェクター機能を測定することによって評価することができる。式Iの化合物および抗原の共投与に応じて産生された抗体は、任意の型、例えば、IgM、IgAまたはIgG(例えば、IgG1もしくはIgG2)であってもよい。体液性免疫応答は、当業界で公知の任意の定量法、例えば、ELISA、一元放射免疫拡散法(SRID)、酵素免疫測定法(EIA)または赤血球凝集阻止試験(HAI)によって測定することができる。
【0030】
本発明の他の実施形態は、対象においてCD4+Tリンパ球を活性化する方法である。当業界で理解されているように、CD4+T細胞または「Tヘルパー細胞」は、抗原提示細胞の表面上のクラスII主要組織適合マーカー(MHC)によって表された抗原を認識し、免疫系の細胞性部門および抗体性部門の両方を刺激するリンホカインを分泌する細胞である。CD4+T細胞活性化は、リンホカイン分泌、免疫グロブリンアイソタイプ転換、抗体応答の親和性成熟、マクロファージ活性化およびナチュラルキラー(NK)細胞および細胞傷害性T細胞(CTL)の活性増強を促進する。リンホカインは、自身の活性化および/またはその他の細胞の活性化に影響を及ぼす、リンパ球によって分泌されるタンパク質である。リンホカインには、限定はしないが、インターロイキンおよびサイトカイン、例えば、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10、IL-12またはIFNγが含まれる。CD4+Tリンパ球が活性化されているかどうかを決定するために、抗原および式Iの化合物をワクチン接種された対象の試料におけるシグナルを、抗原のみをワクチン接種された対象の試料と定量的に比較することができる。CD4+T細胞活性化の測定方法は当業界では公知である。
【0031】
本発明の別の実施形態は、対象においてCD8+Tリンパ球を活性化する方法である。CD8+Tリンパ球は、クラスIMHC分子(有核細胞全てに存在する)によって提示される抗原を認識する。MHCクラスIペプチド複合体の関与は、溶解性顆粒の標的細胞への輸送を引き起こし、標的細胞の溶解の原因となる。CD8+T細胞の活性化を測定するために使用した方法は当業界では公知で、限定はしないが、ELISPOT、ELISA、テトラマー/ペンタマー結合のためのFACS分析および細胞傷害性アッセイが含まれる。あるいは、マウスモデルは、全体を参考として組み込んだHermansら、2004、Journal of Immunologic Methods、285:25〜40に記載されたように、細胞媒介性細胞傷害性を測定する蛍光測定法を使用してCD8+T細胞の活性化をモニターするために使用することができる。このアッセイでは、マウスを、被験化合物を含む、または含まないワクチンで0日目に免疫する。同系の標的細胞は、第2組のマウスから脾細胞を単離し、2種類の別々の細胞標識蛍光色素か、または高濃度および低濃度の単一の蛍光色素、例えば、CFSEもしくはCMTMRで細胞を標識することによって作製する。第1組の標的細胞に抗原特異的ペプチドを添加し、一方、第2組の標的細胞に無関係なペプチドを添加する。2種類の標的細胞集団を等量で混合し、免疫したマウスに注射する。24時間後、マウスを殺処分し、脾細胞および血液試料を得る。各組の標的細胞のレベルをフローサイトメトリーによって分析する。CD8+リンパ球の活性化は、抗原および被験化合物でワクチン接種した試料の標的細胞の数を抗原のみでワクチン接種した対象の試料の標的細胞の数と比較することによって測定する。
【0032】
本発明のその他の態様は、以下の非限定的実施例および添付の図を考察することによって明らかになるだろう。
【実施例】
【0033】
(実施例1:マウスモデルにおいて静脈内注射したPBS-96、PBS-14およびPBS-11によるCD8+T細胞応答増強の試験)
マウスモデルは、静脈内投与したとき、抗原と組み合わせた被験アジュバント化合物によって惹起される特異的細胞傷害性T細胞応答(CD8+)をインビボにおいて試験するために使用した。マウス3匹ずつの8群を0日目に、PBSで総量100μlとした、アジュバントを含む、または含まない抗原(卵白アルブミン、Ova、等級VII、Sigma、St. Louis、MO)、アジュバント単独、あるいは担体単独(対照)で静脈内で免疫した(側尾静脈)。被験アジュバント化合物は、卵白アルブミン(OVA)抗原50μgを含む、または含まない1μgのPBS-96、1μgのPBS-14、1μgのPBS-11であった。
【0034】
同系の標的細胞は、セカンドセットのC57/B1/6J CD45.2雌マウスから脾細胞を単離し、低濃度(0.6μMで37℃で8分にわたる)または高濃度(6μMで37℃で8分にわたる)のCFSE(蛍光色素)で細胞を標識することによって調製した。高濃度のCFSEで標識した集団には、SINFEKLペプチド(Ova特異的ペプチド、NeoMPS、Inc、San Diego, CA)5μMを予め添加し、37℃で60分にわたり置いた。低濃度のCFSEで標識した集団には、LCMVgp33-41ペプチド(非Ovaペプチド、NeoMPS、Inc、San Diego, CA)5μlを予め添加し、37℃で60分にわたり置いた。標的細胞は、低濃度のCFSE添加細胞と高濃度のCFSE添加細胞を最終比47/53で混合し(100μl当たり全細胞2×107個)、免疫したマウスそれぞれに10日目に静脈内注射した。マウスは11日目に殺処分し、脾細胞および眼窩静脈洞の血液試料を採取した。ペプチドパルス(peptide-pulsed)標的細胞(高濃度標識CFSE)の平均生存パーセンテージは、フローサイトメトリー分析によって対照集団に対して算出した。細胞傷害性活性は、特異的溶解パーセンテージとして表した(100 - 「ペプチドでパルスした標的の平均残存パーセント」)。図1は、免疫したマウスの血液における標的細胞の特異的溶解のパーセンテージを表している。OvaおよびPBS-96またはPBS-14の組合せの投与のみが、Ova特異的標的細胞の細胞傷害性溶解を引き起こした。対照的に、PBS-11の投与は、細胞の特異的溶解を引き起こさなかった。
【0035】
(実施例2:マウスモデルにおいて静脈内および筋肉内に注射したときのPBS-96、PBS-14、PBS-11、PBS-57およびαGalCerによるCD8+T細胞応答増強の比較)
抗原と組合せ投与したとき、特異的細胞傷害性T細胞応答(CD8+)をインビボにおいて誘導する被験アジュバント化合物の能力を測定するために、被験アジュバント化合物をさらに実施例1で記載した方法を使用して測定した。0日目に静脈内(IV)(群1〜9で、群当たりマウス3匹)または筋肉内(IM)(群10〜18で、群当たりマウス6匹)のいずれかで免疫した18群のマウスは以下の通りである。
- 群1:PBS 100μlにOva 400μgでIVによる
- 群2:PBS 100μlにαGalCer 1μgでIVによる
- 群3:PBS 100μlにPBS-57 1μgでIVによる
- 群4:PBS 100μlにPBS-14 1μgでIVによる
- 群5:PBS 100μlにPBS-96 1μgでIVによる
- 群6:PBS 100μlにOva 400μg+αGalCer 1μgでIVによる
- 群7:PBS 100μlにOva 400μg+PBS-57 1μgでIVによる
- 群8:PBS 100μlにOva 400μg+PBS-14 1μgでIVによる
- 群9:PBS 100μlにOva 400μg+PBS-96 1μgでIVによる
- 群10:PBS 50μlにOva 400μgでIMによる
- 群11:PBS 50μlにαGalCer 1μgでIMによる
- 群12:PBS 50μlにPBS-57 1μgでIMによる
- 群13:PBS 50μlにPBS-14 1μgでIMによる
- 群14:PBS 50μlにPBS-96 1μgでIMによる
- 群15:PBS 50μlにOva 400μg+αGalCer 1μgでIMによる
- 群16:PBS 50μlにOva 400μg+PBS-57 1μgでIMによる
- 群17:PBS 50μlにOva 400μg+PBS-14 1μgでIMによる
- 群18:PBS 50μlにOva 400μg+PBS-96 1μgでIMによる
【0036】
標的細胞は、低濃度のCFSE添加細胞と高濃度のCFSE添加細胞を最終比50/50で混合し(各濃度について細胞1×107個、100μl当たり細胞は全部で2×107個)、免疫したマウスそれぞれに10日目に静脈内注射した。11日目にマウスを殺処分し、血液試料を眼窩から採取した。OVA特異的標的細胞の細胞溶解を末梢血細胞のフローサイトメトリーによってモニターした。特異的な細胞溶解は、前述のように測定した。
【0037】
図2は、静脈内注射したマウスの結果を示している。Ova単独で処置したマウスのOva特異的細胞傷害性応答の平均は、11.8±14.4%で、OvaおよびαGalCerでは79.9±8%で、OvaおよびPBS-57で処置したマウスでは88.1±6.2%で、OvaおよびPBS-14で処置したマウスでは83.3±6.1%で、OvaおよびPBS96で処置したマウスでは89.2±10.3%であった。結果は、PBS-14およびPBS-96がインビボにおけるOVA特異的細胞傷害性応答の誘導においてPBS-57と同様に有効であることを示した。
【0038】
図3は、筋肉内注射したマウスの結果を示している。Ova単独で処置したマウスのOVA特異的細胞傷害性応答の平均は、1.60±14.33%で、OVAおよびαGalCerで処置したマウスでは-5.85±11.01%で、OvaおよびPBS-57で処置したマウスでは56.11±13.34%で、OvaおよびPBS-14で処置したマウスでは52.07±29.56%で、OVAおよびPBS-96で処置したマウスでは50.29±42.6%であった。これらの結果は、PBS-96およびPBS-14はいずれも静脈内および筋肉内の両方においてPBS-57と同様に効果的に免疫応答を惹起し、PBS-14、PBS-96およびPBS-57は筋肉内注射後、αGalCerよりも効果的であることを示している。
【0039】
(実施例3:被験アジュバント化合物によるIFNγのインビボ誘発)
アジュバント被験化合物がインビボにおいてサイトカイン放出を誘発する能力を試験するために、C57BL/6マウスに化合物を様々な濃度で静脈内投与し、血清中のIFNγの産生をELISAによって24時間後に測定した。マウス3匹の群に0日目に以下のように静脈内接種(尾静脈)した。
- 群1:PBS100μlのみ
- 群2:PBS 100μlにαGalCer 1μg
- 群3:PBS 100μlにαGalCer 100ng
- 群4:PBS 100μlにαGalCer 1ng
- 群5:PBS 100μlにαGalCer 0.1ng
- 群6:PBS 100μlにαGalCer 100ngおよびOva 400μg
- 群7:PBS 100μlにPBS-57 1μg
- 群8:PBS 100μlにPBS-57 100ng
- 群9:PBS 100μlにPBS-57 1ng
- 群10:PBS 100μlにPBS-57 0.1ng
- 群11:PBS 100μlにPBS-57 100ngおよびOva 400μg
- 群12:PBS 100μlにPBS-14 1μg
- 群13:PBS 100μlにPBS-14 100ng
- 群14:PBS 100μlにPBS-14 1ng
- 群15:PBS 100μlにPBS-14 0.1ng
- 群16:PBS 100μlにPBS-14 100ngおよびOva 400μg
- 群17:PBS 100μlにPBS-96 1μg
- 群18:PBS 100μlにPBS-96 100ng
- 群19:PBS 100μlにPBS-96 1ng
- 群20:PBS 100μlにPBS-96 0.1ng
- 群21:PBS 100μlにPBS-96 100ngおよびOva 400μg
接種後24時間して、血液試料をマウスから採取し、IFNγレベルをELISAキットによって検出した。2種類のELISAキットを使用し、QuantikineマウスIFNγ(RD systems)は、全試料を試験するために使用し、ELISA mIFNγ(Diaclone)は群1、2、3、6、7、8、11、12、13、16、17、18および21を試験するために使用した。全血清は、ELISAで使用する前に以下のように希釈した。
- 群1:1/1 群2:1/50 群3:1/50
- 群4:1/20 群5:1/10 群6:1/50
- 群7:1/50 群8:1/50 群9:1/20
- 群10:1/10 群11:1/50 群12:1/50
- 群13:1/50 群14:1/20 群15:1/10
- 群16:1/50 群17:1/50 群18:1/50
- 群19:1/20 群20:1/10 群21:1/50
【0040】
結果は、血清中のIFNγ濃度(pg/ml)として表し、希釈倍率を考慮に入れる。図4は、RD systemsのQuantikineマウスIFNγキットを使用した結果を示している。図4AはPBS-57で免疫したマウスのIFNγレベルの結果を示しており、図4BはPBS-14で免疫したマウスのIFNγレベルの結果を示しており、図4CはPBS-96で免疫したマウスのIFNγレベルの結果を示しており、図4DはαGalCerで免疫したマウスのIFNγレベルの結果を示している。0.1ngでは、全アジュバント候補はサイトカイン放出を誘導したが、αGalCerで免疫したマウスはPBS-57、PBS-14またはPBS-96で免疫したマウスよりもIFNγの産生が3または4倍少なかった(それぞれ1540.57±397.53pg/ml、4398.05±880.86pg/ml、6669.31±1231.82pg/ml、5823.33±720.69pg/ml)。被験アジュバント化合物1ngでは、PBS-57、PBS-14およびPBS-96(それぞれ平均して11425.98±833.04pg/ml、7481.15±3454.03pg/mlおよび6271.95±3737.53pg/ml)はαGalCer(平均して3802.99±586.02pg/ml)よりも大きな応答を示した。被験アジュバント化合物100ngでは、PBS-57、PBS-96およびPBS-14は全てαGalCerよりも高いIFNγレベルを産生した(平均して、PBS-57では21432.76±4312.76pg/ml、PBS-96では19679.89±1443.48pg/ml、PBS-14では19582.18±3421.20pg/mlおよびαGalCerでは7714.37±3529.07pg/ml)。被験化合物1μgでは、PBS-57は100ngの用量(21432.76±4312.76pg/ml)と比較して弱い応答(3353.45±867.57pg/ml)を示し、一方、PBS-14またはPBS-96は依然として低いが、100ngの用量(それぞれ19582.18±3421.20pg/mlおよび19679.89±1443.48pg/ml)よりもなお着実な応答(それぞれ16392.53±5957.70pg/mlおよび17720.11±2869.97pg/ml)を示した。
【0041】
別の組のマウスは、前述の方法によってサイトカイン放出を誘発するアジュバント化合物の能力をインビボにおいて比較するために使用した。C57BL/6マウスの5群に静脈内にPBS100μlに溶かしたPBS-57、PBS-14、PBS-96またはPBS-11 100ngまたはPBS100μlのみを投与した。血清中のIFNγの産生は、ELISAによって24時間後に測定した。図5は、PBS-11、PBS-96、PBS-14およびPBS-57 100ngで免疫したマウスの結果を示している。
【0042】
全体的に見て、PBS-14およびPBS-96の投与は、PBS-57と類似のIFNγ応答を示し、予期せぬことにPBS-11の投与よりも大きい応答を示す。
【0043】
(実施例4:PBS-96、PBS-14、PBS-11およびPBS-57によるCD8+T細胞応答増強の比較)
抗原と併用した被験アジュバント化合物の、インビボにおいて特異的細胞傷害性T細胞応答(CD8+)を誘導する能力を測定するために、該被験化合物を実施例1で記載した方法によって試験した。0日目に静脈内(IV)で免疫したマウス9群は以下の通りである。
- 群1:PBS 100μlにOva 400μg
- 群2:PBS 100μlにPBS-11 1μg
- 群3:PBS 100μlにPBS-57新規製剤 1μg
- 群4:PBS 100μlにPBS-14 1μg
- 群5:PBS 100μlにPBS-96 1μg
- 群6:PBS 100μlにOva 400μg+PBS-11 1μg
- 群7:PBS 100μlにOva 400μg+PBS-57新規製剤 1μg
- 群8:PBS 100μlにOva 400μg+PBS-14 1μg
- 群9:PBS 100μlにOva 400μg+PBS-96 1μg
標的細胞は、低濃度のCFSE添加細胞と高濃度のCFSE添加細胞を最終比50/50で混合し(各濃度について細胞1×107個、100μl当たり細胞は全部で2×107個)、免疫したマウスそれぞれに10日目に静脈内注射した。11日目にマウスを殺処分し、血液試料を眼窩から採取した。Ova特異的標的細胞の特異的細胞溶解物を末梢血細胞のフローサイトメトリーによってモニターした。特異的な細胞溶解は、前述のように測定した。結果は図6に示す。Ova特異的細胞溶解の平均は、Ova単独で処置したマウスでは11.8±14.4%で、OvaおよびPBS-11で処置したマウスでは32.3±2.5%で、OvaおよびPBs-57で処置したマウスでは88.1±6.2%で、OvaおよびPBS-14で処置したマウスでは83.3±6.1%で、OvaおよびPBS-96で処置したマウスでは89.2±10.3%であった。これらの結果は、PBS-14およびPBS-96は、抗原と組み合わせて静脈投与した後のインビボにおける細胞傷害性応答の誘導ではPBS-57と同様に有効であることを示している。
【0044】
(実施例5:筋肉内注射後の少量のアジュバントによるCD8+T細胞応答増強の比較)
被験アジュバント化合物が免疫応答を増強する相対能力を測定するために、実施例2で記載したのと類似の実験を実施した。この実験では、マウスには0日目に以下のようにOVA抗原50μgと組み合わせて少量のアジュバント(それぞれ、100ngおよび10ng)を静脈内注射した。
実験A
群1:PBS 100μlにOva 50μg
群2:αGalCer 100ng
群3:PBS-11 100ng
群4:PBS-14 100ng
群5:PBS-57 100ng
群6:PBS-96 100ng
群7:αGalCer 100ngと共にOva 50μg
群8:PBS-11 100ngと共にOva 50μg
群9:PBS-14 100ngと共にOva 50μg
群10:PBS-57 100ngと共にOva 50μg
群11:PBS-96 100ngと共にOva 50μg
実験B:
群1:PBS 100μlにOva 50μg
群2:αGalCer 10ng
群3:PBS-11 10ng
群4:PBS-14 10ng
群5:PBS-57 10ng
群6:PBS-96 10ng
群7:αGalCer 10ngと共にOva 50μg
群8:PBS-11 10ngと共にOva 50μg
群9:PBS-14 10ngと共にOva 50μg
群10:PBS-57 10ngと共にOva 50μg
群11:PBS-96 10ngと共にOva 50μg
標的細胞は、実験10日目に投与し、血液は11日目に採取した。各アジュバント100ngを使用した実験Aの結果は図7に示し、実験Bの結果は図8に示す。図7および8は、PBS-14およびPBS-96は、筋肉内に投与したとき、予期せぬことに低用量でその他のアジュバントよりも抗原に対するCD8+T細胞応答を増強することを示している。実際に、OVAおよびわずか10ngの量のPBS-14もしくはPBS-96を筋肉内に投与した後、CD8+T細胞による標的細胞の特異的溶解のパーセンテージはまだ60%を上回っており、一方、OVAおよび同量のPBS-57、PBS-11またはαGalCerを投与した後では、標的細胞の特異的溶解のパーセンテージは対照と区別がつかなかった。
【0045】
(実施例6:筋肉内注射後の少量のアジュバントによるCD8+T細胞応答増強の比較)
前記の実施例で記載したインビボにおける細胞傷害性アッセイを使用して得られた結果を確かめるため、類似の実験を実施し、CD8+T細胞活性化を、ペンタマーアッセイを使用してOVA特異的CD8+T細胞のパーセンテージを測定することによって測定した。簡単に説明すると、以下のように、マウスに指示した量のOVAおよびマウス当たり1μgまたは100ngのいずれかの被験アジュバント化合物をそれぞれ0日目に筋肉内注射した。
実験A:
群1:PBS 100μl
群2:PBS 100μlにOva 50μg
群3:αGalCer 1μgと共にOva 50μg
群4:PBS-11 1μgと共にOva 50μg
群5:PBS-14 1μgと共にOva 50μg
群6:PBS-57 1μgと共にOva 50μg
群7:PBS-96 1μgと共にOva 50μg
実験B:
群1:PBS 100μl
群2:PBS 100μlにOva 50μg
群3:αGalCer 100ngと共にOva 50μg
群4:PBS-11 100ngと共にOva 50μg
群5:PBS-14 100ngと共にOva 50μg
群6:PBS-57 100ngと共にOva 50μg
群7:PBS-96 100ngと共にOva 50μg
二回目の注射は、14日目にマウスに投与し、血液は21日目にマウスから採取した。リンパ球を採取し、OVAに応答するCD8+T細胞を検出するためのH-2KbSIINFEKLペンタマーおよびCD8抗体を使用したFACS分析によって分析した。実験Aの結果は図9に示し、実施例Bの結果は図10に示す。図9は、PBS-14、PBS-96およびPBS-57 1μgを投与すると、ワクチン摂取後、OVA特異的CD8+T細胞のパーセンテージを高め、一方、PBS-11およびαGalCerは効果的ではなかったことを示している。図10は、PBS-14およびPBS-96 100ngの低用量では、PBS-57、PBS-11およびαGalCerと比較して、抗原に対するCD8+T細胞応答を驚くほど強く増強することを示している。
【0046】
(実施例7:アジュバントおよび抗原で筋肉内免疫した後の体液性応答増強の比較)
体液性およびCD4+Tヘルパー細胞免疫応答も被験アジュバントと抗原との投与によって増強されるかどうかを評価するために、IgG1およびIgG2a抗体応答を、被験アジュバントと一緒にした、または一緒にしていないOVAでワクチン接種したマウスで測定した。マウス(群当たり6匹)の筋肉内にOVA50μgを単独か、または指示したアジュバント(フロイントアジュバントを陽性対照として使用した)100ngと組み合わせて、以下の通りに筋肉内注射した。
群1:CFA/IFA(陽性対照)と共にOva 500μg
群2:Ova 50μg
群3:Ova 50μgαおよびαGalCer 100ng
群4:Ova 50μgおよびPBS-11 100ng
群5:Ova 50μgおよびPBS-14 100ng
群6:Ova 50μgおよびPBS-57 100ng
群7:Ova 50μgおよびPBS-96 100ng
注射後14日目に、血液試料を採取し、OVAアイソタイプIgG1またはIgG2aに特異的なマウスモノクローナル抗体を使用してIgG1およびIgG2aのELISAを実施した。結果は、末梢血中の抗体の力価としてng/mlで示す。IgG1の結果は図11に示し、IgG2aの結果は図12に示す。図11に示したように、PBS-14、PBS-96、PBS-57は全て着実なIgG1力価を惹起することができ、OVA単独またはPBS-11もしくはαGalCerと組み合わせたOVAによるワクチン接種と比較してOVA特異的IgG1力価を増強させた。驚くべきことに、PBS-14およびPBS-96はOVA特異的IgG2a力価をフロイントアジュバントとほぼ同程度に、かつPBS-57よりもずっと強く増強させた。
【0047】
本発明の組成物および方法は例示した実施形態を用いて説明してきたが、当業者であれば、本発明の概念、精神および範囲を逸脱することなく、本明細書で記載した組成物および方法およびステップまたは方法のステップの順番に変更を加えてもよいことを理解するだろう。さらに具体的には、化学的および生理学的に関連のある特定の因子を本明細書で記載した因子と置換して、同様または類似の結果が実現されることも明らかであろう。当業者に明らかなこのような類似の置換および改変は全て、本発明の精神、範囲および概念内にあると見なされる。さらに、本明細書で挙げるか、または記載した特許および出版物は全て、全体が参考として組み込まれる。
【0048】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用したように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈で特に明確に規定していなければ、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「ポリヌクレオチド」を含有する組成物を参照する場合は2種類以上のポリヌクレオチドの混合物を含む。「または」という用語は一般的に、文脈で特に明確に規定していなければ、「および/または」を含む意味で使用される。本明細書で参照した出版物、特許および特許出願は全て、本発明が関係する当業者のレベルの指標である。出版物、特許および特許出願は全て、それぞれ個々の出版物または特許出願が参考として具体的かつ個々に示されたのと同程度に本明細書に参考として明らかに組み込まれる。本発明の開示と組み込まれた特許、出版物および参考文献の間の矛盾については、本開示が制御すべきである。
【0049】
本明細書で引用した任意の数値は、低い値から高い値までの全値を含み、すなわち、列挙された最低値と最高値の間の数値の可能な全組合せが本明細書で明らかに記載されていると見なされることも特に理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物を含む組成物
【化1】

(式中、R1は-Hまたは-OHであり、R2は-Hまたは-OHであり、xは18から26の整数であり、nは10から15の整数である)。
【請求項2】
xが23である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
xが21である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
nが13である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
抗原をさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物および抗原を含む医薬組成物。
【請求項7】
抗原に対する対象の免疫応答を増強する方法であって、前記抗原および請求項1に記載の組成物を前記対象に投与することを含み、前記抗原に対する前記対象の免疫応答が前記抗原に対する対照の免疫応答と比較して増強されている方法。
【請求項8】
抗原に対する対象の免疫応答を増強する方法であって、前記抗原および請求項1に記載の組成物を前記対象に筋肉内投与することを含み、前記抗原に対する前記対象の免疫応答が前記抗原に対する対照の免疫応答と比較して増強されている方法。
【請求項9】
前記対象の免疫応答が前記対照と比較して少なくとも50%増強されている、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記対象の免疫応答が前記対照と比較して少なくとも100%増強されている、請求項7または8に記載の方法。
【請求項11】
前記対象の免疫応答が前記対照と比較して少なくとも1000%増強されている、請求項7または8に記載の方法。
【請求項12】
前記抗原および請求項1に記載の組成物を同時投与する、請求項7または8に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物を静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、鼻腔内および吸入からなる群から選択された経路から投与する、請求項7〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
抗原に対する対象の体液性免疫応答を増強する方法であって、前記抗原および請求項1に記載の組成物を対象に投与することを含み、前記抗原に対する前記対象の体液性免疫応答が前記抗原に対する対照の免疫応答と比較して増強されている方法。
【請求項15】
前記体液性免疫応答がIgG抗体の産生を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記体液性免疫応答がIgA抗体の産生を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
抗原に対する対象のCD4+T細胞応答を増強する方法であって、前記抗原および請求項1の組成物を対象に投与することを含み、前記抗原に対する前記対象の免疫応答が前記抗原に対する対照のCD4+T細胞応答と比較して増強されている方法。
【請求項18】
増強されたCD4+T細胞応答がCD4+Tリンパ球の活性化を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
CD4+T細胞リンパ球の活性化がTh1免疫応答の増加を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
CD4+T細胞リンパ球の活性化がTh2免疫応答の増加を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
CD4+T細胞リンパ球の活性化がTh1およびTh2免疫応答の両方の増加を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
抗原に対する対象のCD8+T細胞応答を増強する方法であって、前記抗原および請求項1に記載の組成物を対象に投与することを含み、前記抗原に対する前記対象の免疫応答が前記抗原に対する対照のCD8+T細胞応答と比較して増強されている方法。
【請求項23】
増強されたCD8+T細胞応答がCD8+Tリンパ球の活性化を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
CD8+T細胞リンパ球の活性化が細胞傷害性応答の増加を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
抗原に対する対象の抗原提示細胞の活性化を増強する方法であって、前記抗原および請求項1に記載の組成物を対象に投与することを含み、前記抗原に対する前記対象の免疫応答が前記抗原に対する対照の抗原提示細胞の活性化と比較して増強されている方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2011−506306(P2011−506306A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536551(P2010−536551)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【国際出願番号】PCT/IB2008/003945
【国際公開番号】WO2009/101475
【国際公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(510157513)
【Fターム(参考)】