説明

抗原の粘膜送達による免疫疾患の治療

本発明は微生物、特にラクトコッカス・ラクティスにより分泌された免疫優勢抗原の粘膜送達による自己免疫疾患及びアレルギー性疾患の治療に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物、特にラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)により分泌された免疫優勢抗原の粘膜送達による自己免疫疾患及びアレルギー性疾患の治療に関する。
【0002】
発明の分野
免疫系は、自己と非自己とを識別する課題を有する。呼吸器、消化器及び尿生殖器に沿って存在する粘膜免疫系は、食物、空気中の抗原又は共生細菌フロラ等の多数の細菌及び無害な抗原と共に共存する追加の負担を負う。粘膜免疫系の主要な特徴は、それがこれらの抗原に対して寛容であり続けるが、効果的に病原体を忌避する能力を保持することができることである。注射によろうと損傷によろうと、抗原の導入は、全身的に炎症細胞の局所浸潤及び特異的免疫グロブリン産生に至る。対照的に、消化管及び尿生殖器等の粘膜表面に導入された抗原は、それらの抗原に対する免疫反応の能動的な阻害を全身的に誘発する。消化管を介した抗原の投与によるこれらの調節された反応の特異的誘導は、経口寛容として既知である。抗原の経口投与は、全身不反応性に至ることがあり、(ステロイドのように)望まれない副作用を有する免疫抑制性医学発明物の魅力的な代替物である。本発明は、特に、低用量の抗原への繰り返し曝露により得られる低用量寛容の分野にある。粘膜を介する寛容の誘導は、自己免疫性疾患、アレルギー性疾患及び炎症性疾患に対する処置戦略として提案されてきた。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景に関する以下の議論は単に、読者が本発明を理解するのを助けるために提供され、本発明に対する先行技術を記載又は構成すると認められるものではない。
【0004】
自己免疫疾患、アレルギー性疾患及び炎症性疾患は、患者及び社会に多大な負担をかけ、生活の質の低下及び莫大な費用をもたらす。さらに、許容可能な副作用がないか、又は社会的に適切である適正な治療は存在しない。自己免疫疾患に対する現在の治療は、大いに姑息的であり、概して免疫抑制的又は抗炎症的である。橋本甲状腺炎又は1型糖尿病におけるホルモン補充等の非免疫療法は、自己攻撃的反応の結果を治療するものである。ステロイド治療又はNSAID治療は、多くの疾患の炎症性症状を制限するものである。IVIGはCIDP及びGBSに対して使用される。TNFα拮抗薬であるエタネルセプト(etanercept)のようなより特異的な免疫調節療法は、RAを治療する上で有用であることが示されている。それでもなお、これらの免疫療法は、感染に対する感受性の増大等の有害作用の危険性の増加に関連し得る。慢性小腸炎症を特徴とし得るセリアック病は、小麦、ライ麦又は大麦を含有する食物を生涯にわたって完全に断つことを必要とする、社会的な食事制限でしか効果的に治療することができない。徹底的な無グルテン食は腸の治癒をもたらし得るが、グルテンに対する不耐性は恒久的である。
【0005】
セリアック病(セリアックスプルー又はグルテン過敏性腸疾患としても知られる)は、グルテンを含有する特定の食物中の穀物に対する免疫反応から発症する慢性炎症性疾患である。診断は、標準的な症状(classical presentation)である下痢、脂肪便、腹部膨満及び筋痙攣、体重減少、代謝性骨疾患、貧血、並びにグリアジン及び組織トランスグルタミナーゼ(tTG)に対して特異性を有する血清抗体(抗筋内膜抗体とも称される)の存在に基づいて為され得る。粘膜病変は小腸の近位部に局在し、絨毛萎縮、腺窩細胞過形成、並びにグリアジンに反応してIL−2及びIFN−γ等の炎症性サイトカインを放出する、上皮及び固有層のリンパ球浸潤を特徴とする。セリアック病は、ヒトにおいて最も一般的な食物過敏性の腸疾患であると見なされ、生涯のどの時点においても発症し得る。有病率は欧米人、アラビア人及びインド人の集団において1:100〜1:300の範囲である。該疾患は、グルテンとは別に、手術、ウイルス感染、強い感情的ストレス、妊娠又は出産後に初めて誘導される可能性がある。
【0006】
したがって、抗原特異的な経口寛容の誘導は、魅力的な治療アプローチであり得る。
経口寛容は1911年に最初に記載されたが、研究者が、関係するメカニズムに取り組み始めたのは1970年代後半になってからであった(非特許文献1)。経口寛容の発生には、抗特異的T細胞の除去、過大な免疫偏向、及びアネルギーの誘導からTregによる抑制まで幾つかのメカニズムが提案されてきた(非特許文献2)。大部分の研究者は、経口寛容を得る二つの別個の方法があることに意見が一致しており、それらは、抗原の単回高用量後に得られる、アネルギー及び/又は除去に基づく高用量寛容(非特許文献3)並びに低用量の抗原への繰り返し曝露によって得られる、Foxp3、IL−10及び/又はTGF−β産生制御性T細胞を含めたCD4T細胞による免疫反応の能動的な抑制によって媒介される低用量寛容である。重要なことに、粘膜寛容により誘導される制御性T細胞は、あるタンパク質に特異的な制御性細胞が別のタンパク質に対する近くのエフェクター細胞の反応を抑制する過程であるバイスタンダー抑制を媒介することが示された。器官特異的自己免疫を誘導する抗原のプールが主として未知であることから、バイスタンダー抑制は抗原誘導性抑制の重要な特徴であり、これはエピトープスプレッディングの現象を無効にする。エピトープスプレッディングは、初期の免疫反応が時間と共に拡大し、他の抗原に対する反応を含むようになる、自己免疫性疾患及びアレルギー性疾患の合併症である。
【0007】
治療的適用及び予防的適用のための、ターゲティングされた、さらに効率的な分子の送達は、製薬業界にとって優先事項である。有効な戦略は、所望の作用部位に分子を集中させることにより必要な用量を減少させ、安全性を上げ、且つ有効性を高めるはずである。粘膜経路の薬物送達及びワクチン送達は、注射に比べて多くの物流の利点及び生物学的利点を与える。経口送達は、投与の容易さを受けて特に魅力的である。しかし、消化管分解及び低レベルの吸収は、一般にこの経路のペプチド性及びタンパク質性薬物の送達を無効にする。鼻、直腸、肺及び眼経路等の代替的な粘膜経路もまた研究されている。
【0008】
したがって、当技術分野において抗原の寛容を効果的に誘導する問題が残る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Mayer andShao, 2004a J. Pediatr. Gastroenterol. Nutr. 39,S746-S747
【非特許文献2】Mucida et al.,2005 J. Clin. Invest. 1 15, 1923-1933
【非特許文献3】Friedman andWeiner, (1994). Proc. Natl. Acad. Sci, 91 ,6688-6692
【発明の概要】
【0010】
驚くべきことに、本発明者らは、患者の粘膜部に送達され、好ましくは持続的に存在する免疫優勢抗原が抗原特異的免疫寛容を誘導することを見出した。特に、免疫優勢抗原を構成的に発現及び分泌する、好ましくはラクトコッカス・ラクティス(LL)等の微生物を粘膜部に毎日送達すると、抗原特異的免疫寛容が誘導された。本発明者らは、微生物ラクトコッカス・ラクティスによるこのような抗原の粘膜送達により、該抗原又は該微生物単独の粘膜送達と比較して有意に良好な抗原特異的免疫反応の抑制がもたらされることを観察した。
【0011】
本発明者らは、本発明によって、抗原又は対照のラクトコッカス・ラクティス単独を用いる単独療法よりもはるかに高い有効性で経口寛容を誘導することができることを実証する。抗原特異的制御性T細胞のin vivo活性化が強く促進された。具体的には、遺伝子操作ラクトコッカス・ラクティスによる、DQ8媒介性T細胞反応に対して免疫優勢であるグリアジン誘導ペプチドの粘膜送達は、局所及び全身のDQ8拘束性T細胞反応の抑制を誘導する。治療により脾細胞及び鼠径リンパ節細胞の増殖能の抗原特異的な低下がもたらされたが、これはIL−10及びTGF−βの産生に非常に依存的であり、Foxp3制御性T細胞の有意な誘導と関連していた。このアプローチの抗原送達細菌は、過敏性が確立された設定においても経口寛容を増強する能力を有するため、セリアック病並びに他の自己免疫疾患及び/又はアレルギー性疾患の治療に適用可能である。本発明の有効性は、自己免疫疾患及びアレルギー性疾患のマウスモデルにおいて、並びに治療剤の免疫不活化に関連して実証された。
【0012】
本発明の詳細な説明
この開示全体にわたり、様々な公報、特許及び公開された特許明細書は、確認引用文献により参照される。これらの公報、特許及び公開された特許明細書の開示は、本発明が属する現行の技術水準をさらに完全に説明するために、これによって本開示への参照により組み入れられる。
【0013】
一般的な技法
本発明の実施は、特に示さない限り、当該技術の熟練の範囲内である有機化学、薬理学、分子生物学(組み換え技法を含む)、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来技法を採用する。そのような技法は、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual" Second Edition(Sambrooket al., 1989); "Oligonucleotide Synthesis" (M. J. Gait, ed., 1984);"Animal Cell Culture" (R. I. Freshney, ed., 1987); "Methods inEnzymology" (Academic Press, Inc.)のシリーズ;"Handbook of Experimental Immunology" (D. M. Weir & C. C.Blackwell, eds.); "Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells" (J. M.Miller & M. P. Calos, eds., 1987); "Current Protocols in MolecularBiology" (F. M. Ausubel et al., eds., 1987及び定期刊行物);"Polymerase Chain Reaction" (Mullis et al., eds., 1994); 及び "Current Protocols in Immunology" (J. E. Coligan et al.,eds., 1991)等の文献に十分に説明されている。
【0014】
定義
本明細書に使用する特定の幾つかの用語は以下の定義した意味を有し得る。明細書及び特許請求の範囲に使用する単数形「a」「an」及び「the」は、状況が明らかに別のものを指示しない限り複数の参照を含む。例えば、「細胞」という用語は、その混合物を含めた複数の細胞を含む。同様に、本明細書に記載される処置又は薬剤の調製のための「化合物」の使用は、状況が明らかに別のものを指示しない限り、そのような処置又は調製のために本発明の一つ又は複数の化合物を使用することを考えている。
【0015】
本明細書に使用する用語「含んでいる」は、その組成物及び方法が、引用された要素を含むが、その他を排除しているわけではないことを意味することを意図する。組成物及び方法を定義するために使用されるときの「から本質的に成る」は、その組み合わせから任意の本質的に重要な他の要素を除外することを意味するものとする。したがって、本明細書に定義される要素から本質的に成る組成物は、単離精製法からの微量混入物、及びリン酸緩衝生理食塩水、保存料等の薬学的に許容され得る担体を除外しない。「から成る」は、他の成分の微量を超える要素及び本発明の組成物を投与するための実質的な方法のステップを除外することを意味するものとする。これらの転換する用語のそれぞれにより定義される実施の形態は、本発明の範囲内に属する。
【0016】
発明
本発明者らは、好ましくはラクトコッカス・ラクティス等の微生物により分泌された免疫優勢抗原の粘膜送達により、局所及び全身のT細胞反応の抑制が誘導されることを実証する。治療により脾細胞及び鼠径リンパ節細胞の増殖能の抗原特異的な低下がもたらされたが、これはIL−10及びTGF−βの産生に非常に依存的であり、Foxp3制御性T細胞の有意な誘導と関連していた。このアプローチの抗原送達細菌は、過敏性が確立された設定においても経口寛容を増強する能力を有するため、セリアック病並びに他の自己免疫疾患及び/又はアレルギー性疾患の治療に適用可能である。本発明の有効性は、自己免疫疾患及びアレルギー性疾患のマウスモデルにおいて、並びに治療剤(therapeutics)の免疫不活化に関連して実証された。
【0017】
本発明の第1の態様は、微生物による上記抗原の粘膜送達を含む、抗原に対する免疫寛容を誘導する方法である。
【0018】
好ましくは本発明は、患者において免疫反応関連疾患を治療する粘膜送達のための薬剤、メディカルフード又は栄養補助食品の調製に対する、抗原を分泌する微生物、好ましくは非病原性微生物、より好ましくは乳酸菌又は酵母、さらにより好ましくはラクトコッカス・ラクティスの使用に関し、該抗原は好ましくは上記患者において持続的に存在する。
【0019】
好ましくは上記抗原は、抗原発現微生物によって送達される。好ましくは該抗原は、抗原分泌微生物若しくは抗原提示微生物又は細胞内抗原によって送達される。したがって、本発明は、該抗原が該抗原発現微生物の表面に提示されるか、又は該抗原が分泌されるか、若しくは該抗原が消化時に解放される実施の形態を包含する。
【0020】
好ましくは、本発明は、免疫寛容を誘導する粘膜送達のための薬剤の調製に対する抗原発現微生物の使用に関する。
【0021】
好ましくは、上記免疫寛容は患者に誘導される。該患者は動物であることが好ましい。該動物は哺乳動物であることが好ましく、好ましくは、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ及びヒトから成る群から選択される。好ましくは、上記哺乳動物はヒトである。好ましくは、上記免疫寛容は粘膜寛容である。
【0022】
粘膜
本明細書に使用する「粘膜」は、口腔粘膜、直腸粘膜、尿道粘膜、膣粘膜、眼粘膜、頬粘膜、肺粘膜及び鼻粘膜等の任意の粘膜であり得る。本出願にわたり使用される「粘膜送達」は、粘膜への送達を包含する。経口粘膜送達には、口腔内、舌下及び歯肉経路の送達が含まれる。したがって、本発明は、上記粘膜送達が、直腸送達、口腔内送達、肺内送達、眼内送達、経鼻送達、膣内送達及び経口送達から成る群から選択される方法に関するものである。好ましくは、上記粘膜送達は経口送達であり、上記寛容は経口寛容である。
【0023】
本出願にわたり本明細書に使用する「粘膜寛容」は、(ヒトを含む)動物が粘膜経路で上記抗原に曝露された後の、動物における抗原に対する特異的免疫反応性の阻害である。好ましくは、上記粘膜寛容は全身寛容である。抗原のその後の曝露は、非経口注射、粘膜送達、又は自己抗原の場合等の内因生産性による曝露等の、当業者に既知のそれぞれの曝露であり得る。「経口寛容」は、(ヒトを含む)動物が経口経路で抗原に曝露された後の、動物における抗原に対する特異的免疫反応性の阻害である。「低用量経口寛容」は、低用量の抗原により誘導される経口寛容であり、ナイーブなホストに寛容を伝達することができるシクロホスファミド感受性制御性T細胞により媒介される能動的な免疫抑制を特徴とする。「高用量経口寛容」は、高用量の抗原により誘導される経口寛容であり、シクロホスファミド処置に非感受性であり、抗原特異的T細胞のアネルギー及び/又は除去によりT細胞反応性低下の誘導に取りかかる。シクロホスファミドに対する感受性の差異は、低用量及び高用量寛容を識別するために使用することができる(Strobel et al., 1983)。好ましくは上記経口寛容は、非特許文献1により記載された低用量経口寛容である。
【0024】
したがって本発明は、本明細書に記載される方法又は使用に関するものであり、ここで、免疫寛容の上記誘導は、上記誘導の前の少なくとも1.5倍、好ましくは2倍、又はさらに好ましくは3倍以上である。又は上記抗原は、上記誘導の前の少なくとも1.5倍、2倍、又は3倍以上寛容化されている。免疫寛容の誘導は、当技術分野で既知の方法により測定することができる。好ましくは、免疫寛容の上記誘導は、上記動物におけるサイトカインレベルの調節により測定することができる。それとしてその調節は、サイトカインレベルの増加であることがあり、例えばサイトカインレベルの上記増加は、上記誘導前の少なくとも1.5倍、2倍、又は3倍以上である(例えばIL−10又はTGF−β)。又は上記調節は、特定のサイトカインレベルのレベルの減少であり、例えばサイトカインレベルの上記減少は、上記誘導前の少なくとも1.5分の1、2分の1、又は3分の1以下である(例えばIL−12、IL−17及びIFN−γ)。調整される(modulated)サイトカインは、任意の関連するサイトカインから選択することができ、好ましくは該サイトカインは、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10、IL−12、IL−13、IL−17、IL−23、TNF−α、IFN−γ、IFN−α、MCP−1、TGF−β、RANK−L及びFlt3Lから成る群から選択される。
【0025】
構築物、送達及び組み込み
本発明では、微生物は抗原を目標とする部位、すなわち粘膜へと送達する。微生物が該抗原を発現した後、抗原は細胞表面に曝露されるか又は分泌される。したがって、好ましい実施の形態では、ラクトコッカス・ラクティス等の微生物は、異種抗原が分泌される、及び/又は目標とする粘膜での条件下、例えば胃腸管において異種抗原が細胞表面に曝露されるように、異種抗原、例えば免疫寛容を誘導するために使用される抗原を細胞内に発現可能な発現ベクターを含む。微生物、例えばラクトコッカス・ラクティスは、異種抗原が分泌される、及び/又は異種抗原が免疫寛容を誘導するのに十分な程度まで細胞表面に曝露されるように、異種抗原を細胞内に発現可能な発現ベクターを含み得る。細胞又は治療を受ける宿主の生存能力を損なうことなく可能な限り高い発現の程度が想定される。発現が高いと、寛容目的のためにはより低い頻度及びより低い用量が必要とされ得る。当然、投与計画は抗原の量だけでなく、抗原の種類及び組成物中の因子を刺激又は抑制する他の免疫原性の存在又は非存在に依存する。
【0026】
通常、発現系は、好ましくは宿主の(hosting)微生物において配列の発現を誘導可能なプロモーターに操作可能に連結する、所望の抗原をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む遺伝子構築物を含む。好適には、発現される抗原は、宿主の好ましいコドンの使用に適する核酸配列によりコードされ得る。該構築物は、当業者に既知のように、選択された宿主において操作可能なエンハンサー、転写開始配列、シグナル配列、レポーター遺伝子、転写終結配列等を含む他の(全ての)適当な要素(複数可)をさらに含有してもよい。構築物は好ましくは、ベクター、プラスミド又はミニ染色体等の、宿主の形質転換に適当な形態、及び/又は宿主において安定して維持することができる形態である。プロモーター配列、ターミネーター断片、エンハンサー配列、マーカー遺伝子及び必要に応じて他の配列を含む適切な制御性配列を含有する、微生物、例えば細菌への導入のための核酸を含む適当なベクターは選択又は構築することができる。ベクターは必要に応じてプラスミド、ウイルス、例えばファージ、又はファージミドであってもよい。さらに詳細には、例えばMolecular Cloning: a Laboratory Manual: 2nd edition, Sambrook et al.,1989, Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。核酸の操作に関する多くの既知の技法及びプロトコル、例えば核酸構築物の調製、突然変異生成、シークエンシング、細胞へのDNAの導入及び遺伝子発現、並びにタンパク質の分析は、Short Protocols in Molecular Biology, Second Edition, Ausubel et al.eds., John Wiley & Sons, 1992に詳細に記載されている。Sambrook etal.及びAusubel et al.の開示は参照により本明細書中に援用される。好ましい実施の形態では、生物学的に活性なポリペプチド及び抗原に対するコード配列はオペロン、すなわち多シストロン発現のための核酸構築物に含有される。オペロンにおいては、プロモーターからの転写は、各々が上流のリボソーム結合部位に適切に位置する1つより多くのコード配列を含むmRNAをもたらす。したがって、単一のmRNAから1つより多くのポリペプチドが翻訳され得る。オペロンの使用によって、調整される生物学的に活性なポリペプチド及び抗原の発現が可能となる。より好ましくは、食品用の構築物が使用される。
【0027】
一実施の形態では、本発明は安定して形質転換される微生物、すなわち抗原をコードする遺伝子が宿主のゲノムに組み込まれている微生物に関する。安定して形質転換される微生物を確立する技法は当該技術分野で既知である。例えば、対象の遺伝子は相同組み換えにより宿主のゲノムにクローン化してもよい。好ましくは、宿主の必須遺伝子は遺伝子の欠失のように、相同組み換えの際に破壊されるか、1つ又は複数のアミノ酸置換によって、必須遺伝子によりコードされるタンパク質の不活性型がもたらされるか、又はフレームシフト変異によって、必須遺伝子によりコードされるタンパク質の切断型が生じる。一実施の形態では、必須遺伝子はthyA遺伝子である。好ましい技法は国際公開第02/090551号パンフレット(その全体が具体的に本明細書中に援用される)に記載される。形質転換プラスミドは、破壊された必須遺伝子、例えばthyA遺伝子を補完することができない限り任意のプラスミドであり得る。プラスミドは、好ましくは1つ又は複数の対象の遺伝子及び1つ又は複数の耐性マーカーを保有する自己複製プラスミドであってもよく、又はプラスミドは組込みプラスミドである。後者の場合、組込みプラスミド自体は、必須遺伝子の位置、例えばthyA部位で組み込みを引き起こすことにより必須遺伝子を破壊するために使用されてもよく、それにより必須遺伝子、例えばthyA遺伝子の機能が破壊される。好ましくは、thyA遺伝子等の必須遺伝子は、thyA標的部位等の必須遺伝子への挿入を目的とするターゲティング配列が横に位置する、対象の遺伝子(複数可)を含むカセットによる二重相同組み換えにより置換される。これらのターゲティング配列は、標的部位への対象の遺伝子の組み込みを可能とするのに十分に長く、且つ十分に相同であることが理解されよう。
【0028】
したがって、本発明の抗原をコードする遺伝子構築物は、過剰染色体として(extra-chromosomally)、好ましくは自身の複製起点を用いて自律的に複製する宿主細胞に存在していてもよく、又は微生物のゲノムDNA、例えば、細菌又は酵母の染色体、例えばラクトコッカス属の染色体に組み込まれていてもよい。後者の場合、単一又は多コピーの上記核酸が組み込まれていてもよく、組み込みは、上記のように染色体のランダム部位、又はその所定部位、好ましくは、好適で非限定的な例ではラクトコッカス属、例えばラクトコッカス・ラクティスのthyA位置のような所定部位で起こってもよい。
【0029】
したがって、一実施の形態では、本発明の抗原をコードする遺伝子構築物は、宿主細胞のゲノム、例えば、染色体への上記遺伝子構築物の挿入を達成するように構成される配列をさらに含んでいてもよい。
【0030】
一例としては、宿主細胞のゲノムの特定の部位、例えば染色体への遺伝子構築物の挿入は、相同組み換えにより促進され得る。例えば、本発明の遺伝子構築物は、宿主細胞のゲノム、例えば染色体の該組み込み部位との1つ又は複数のホモロジー領域を含んでいてもよい。ゲノム、例えば染色体の該部位の配列は、天然、すなわち自然に発生するものであってもよく、又は事前の遺伝子操作により導入された外来性配列であってもよい。
【0031】
例えば、上記ホモロジー領域(複数可)は、少なくとも50bp、好ましくは少なくとも100bp、例えば、少なくとも200bp、より好ましくは少なくとも300bp、例えば、少なくとも400bp、さらにより好ましくは少なくとも500bp、例えば、少なくとも600bp又は少なくとも700bp、さらに好ましくは少なくとも800bp、例えば、少なくとも900bp、又は少なくとも1000bp以上であり得る。
【0032】
好ましい例では、2つのホモロジー領域が、本発明の遺伝子構築物中に存在する関連発現単位の両側に1つが隣接して含まれていてもよい。かかる構成は、関連配列を有利に挿入し得る、すなわち、少なくとも1つがコードされ、宿主細胞中の対象の抗原の発現を達成し得る。特に細菌宿主において相同組み換えを実行する方法及び組み換え体を選択する方法は概して、当該技術分野で既知である。
【0033】
微生物の形質転換方法は当業者に既知であり、例えばプロトプラスト形質転換及びエレクトロポレーションである。
【0034】
高程度の発現は微生物、例えばラクトコッカス・ラクティスに存在する発現ベクター上の相同発現及び/又は分泌シグナルを用いて達成することができる。好適には、実施例の構築物に存在するような発現制御シグナルが有用である。他の発現シグナルは当業者に明らかである。発現ベクターは、それが組み込まれる微生物、例えばラクトコッカス・ラクティスに応じた発現に最適化することができる。例えば、ラクトコッカス属、ラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)、ラクトバチルス・カゼイ(casei)及びラクトバチルス・プランタラム(plantarum)において十分なレベルの発現をもたらす特異的発現ベクターは既知である。さらに、非病原性、非コロニー形成、非侵襲性の食品用細菌であるラクトコッカス・ラクティスにおける異種抗原の発現のために開発されたシステムが知られている(英国特許第2278358号明細書(参照により本明細書中に援用される)を参照)。本発明による特に好ましい構築物は、国際出願第PCT/NL95/00135号明細書(国際公開第96/32487号パンフレット)に記載されている、抗原をコードするヌクレオチド配列が組み込まれた多コピー発現ベクターを含む。このような構築物は乳酸菌、特にラクトバチルス属(Lactobacillus)における所望の抗原の高い発現レベルでの発現に特に適当であり、細菌の細胞表面に発現される産物を指向するためにも有利に使用することができる。(例えば国際出願第PCT/NL95/00135号明細書の)構築物は、少なくともリボソーム認識及びRNA安定化に必要な最小限の配列を含む5’非翻訳核酸配列が、抗原をコードする核酸配列の前に来ることを特徴とし得る。この後に翻訳開始コドンが続き、その後(直後)に乳酸菌遺伝子の翻訳核酸配列の5’末端部の少なくとも5つのコドンの断片、又はその断片の構造的若しくは機能的等価物が続いていてもよい。該断片は、プロモーターにより制御されていてもよい。国際出願第PCT/NL95/00135号明細書の内容(本明細書中で開示のものとは異なる実施の形態も含む)、及び本明細書中で言及される他の全ての文献は、参照により本明細書中に援用される。本発明の一態様は、宿主における高レベルの異種遺伝子の制御された発現、及び発現を分泌に結びつけることを可能にする方法を提供する。さらに好ましい実施の形態では、T7バクテリオファージRNAポリメラーゼ及びその同族プロモーターを、国際公開第93/17117号パンフレット(参照により本明細書中に援用される)に従う強力な発現系を発達させるために使用する。好ましくは発現プラスミドはpT1NXに由来する。
【0035】
本発明に従って採用されるプロモーターは、好ましくは細菌において構成的に発現される。本発明者らは、抗原の構成的発現が誘導性発現とは対照的に免疫寛容の増大をもたらすことを観察した。さらに、構成的プロモーターの使用は、発現を起こす誘導因子又は他の制御性シグナルの供給が必要となるのを回避する。好ましくはプロモーターは、増殖が維持されなくとも細菌の宿主細胞が生存可能であり続ける、すなわち幾つかの代謝活性を保持するレベルで発現を誘導する。また、有利には、かかる発現は低いレベルであってもよい。例えば、発現産物が細胞内に蓄積する場合、発現のレベルは、細胞タンパク質の約10%未満、好ましくは約5%又は5%未満、例えば約1%〜3%の発現産物の蓄積がもたらされるレベルであってもよい。プロモーターは、採用される細菌と同種のもの、すなわち天然の細菌に見られるプロモーターであってもよい。例えば、ラクトコッカス属のプロモーターをラクトコッカス属において使用してもよい。ラクトコッカス・ラクティス(又は他のラクトコックス属)で使用するのに好ましいプロモーターは、ラクトコッカス・ラクティスの染色体に由来する「P1」である(Waterfield, N R, Lepage, R W F, Wilson, P W, et al. (1995). Theisolation of lactococcal promoters and their use in investigating bacterialluciferase synthesis in Lactococcus lactis. Gene 165(1), 9-15)。別の好ましいプロモーターはusp45プロモーターである。
【0036】
核酸構築物(複数可)は分泌シグナル配列を含んでいてもよい。したがって、好ましい実施の形態では、(単一配列をコードする核酸配列を、抗原をコードする核酸配列に適切に結合することによって)抗原をコードする核酸は、該抗原の分泌をもたらし得る。核酸を有する細菌の抗原を分泌する能力は、生物体の生存能力を維持する培養条件においてin vitroで試験することができる。好ましい分泌シグナル配列は、バチルス属(Bacillus)、クロストリジウム属(Clostridium)及びラクトバチルス属等のグラム陽性菌において活性を有する配列のいずれかを含む。かかる配列は、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquetaciens)のα−アミラーゼ分泌リーダー配列、又はグラム陽性及びグラム陰性の宿主の両方において機能すると知られている、一部のスタフィロコッカス属(Staphylococcus)株により分泌されるスタフィロキナーゼ酵素の分泌リーダー配列("GeneExpression Using Bacillus", Rapoport (1990) Current Opinion inBiotechnology 1:21-27を参照)、又は多数の他のバチルス属酵素又はS層タンパク質からのリーダー配列(pp341-344 of Harwood and Cutting, "Molecular Biological Methodsfor Bacillus", John Wiley & Co. 1990を参照)を含んでいてもよい。好ましくは、上記分泌シグナルはusp45に由来する(Van Asseldonk et al. 1993 Mol. Gen. Genet. 240:428-434)。好ましくは、上記抗原は構成的に分泌される。
【0037】
代替的な実施の形態では、生物学的に活性なポリペプチドコード配列及び抗原のコード配列は、同じ核酸ベクターの一部であるか、又は別個のベクターの一部であり、個々に別個のプロモーターの調整制御下にある。プロモーターは同じであっても又は異なっていてもよい。本発明のさらなる態様により、生物学的に活性なポリペプチドのコード配列及び抗原のコード配列(ここで、各コード配列は非侵襲性宿主、例えばラクトコッカス属において発現プロモーターの制御下にある)をオペロンとして(又はそうではなくとも)含む、核酸構築物又はベクターが提供される。
【0038】
抗原
抗原をコードする配列は、任意の天然源から得ることができ、及び/又は既知のDNA合成技法を用いて合成的に調製することができる。抗原をコードする配列を次に(例えば)適当な発現ベクターに組み込んで、本発明の遺伝子構築物を得て、これを次に目標とする宿主に形質転換又は形質移入するために使用する。このように得られる組み換え体を次に培養するが、このとき、採取した細胞を、任意で粉末を形成する凍結乾燥等のさらなる精製工程及び/又は処理工程の後、組成物を処方するために使用することができる。
【0039】
抗原は当業者に既知の任意の抗原であり得る。本願にわたって本明細書中で使用される抗原は、好ましくは動物の体内に導入されると免疫反応を引き起こす任意の物質であり、ここで上記免疫反応はT細胞媒介性及び/又はB細胞媒介性の反応であり得る。抗原はT細胞エピトープ及び/又はB細胞エピトープを含み得る。抗原の長さは、該抗原を本発明の微生物において発現させることができるならば特に限定されない。抗原はポリペプチド又はペプチド等のタンパク質又はその一部であり得る。本発明による抗原は、直線状エピトープ及び/又は立体構造エピトープを含む。T細胞媒介性反応はTh1反応、Th2反応及び/又はTh17反応に及ぶ。抗原は、アレルゲン(食物アレルゲンを含む)、アロ抗原、自己抗原(self-antigens)、自家抗原(auto-antigens)、及び免疫反応を誘導する治療用分子又は抗原等(これらに限定されない)の任意の抗原であり得る。好ましくは、該抗原は免疫反応関連疾患の誘導に関与する。さらにより好ましくは、該抗原はアレルギー性喘息、多発性硬化症、1型糖尿病、自己免疫性ブドウ膜炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性重症筋無力症、関節リウマチ、食物アレルギー、セリアック病又は移植片対宿主疾患の誘導に関与する。
【0040】
本発明者らは、分泌された本発明の免疫優勢抗原が全身炎症性T細胞反応を抑制し、これらの抗原が有意な寛容原性効果の誘導に必要且つ十分であることを観察した。
【0041】
制御性T細胞(Treg)は経口寛容の誘導及び維持において重要な役割を果たす。Tregの誘導は幾つかの自己免疫疾患、アレルギー性疾患及び炎症性疾患に対する免疫療法の主要な目標である。抗原特異的サプレッサー細胞の治療的誘導に対する現在の戦略は大きな障壁に直面しており、通常は適正な数の制御性細胞を単離し、扱い、移行するのに大変な技法を要する。本発明の微生物、例えばラクトコッカス・ラクティスの抗原送達システムは、これらの問題を回避し、抗原特異的Tregを効果的に誘導する。本発明では、Tregの誘導は、粘膜免疫系を低用量の抗原に曝露することにより達成することができると実証された。低用量の抗原への曝露は、好ましくは連続曝露である。したがって、本発明はTreg細胞、好ましくはCD4CD25 Treg細胞、CD4CD25 Treg細胞及びCD8 Treg細胞を誘導及び/又は増大する抗原に関する。
【0042】
本発明では、本発明による抗原により誘導及び/又は増大されるTreg細胞は、TGF−β及び/又はIL−10に依存的な機序によって機能することがさらに実証された。以前に、TGF−βは経口寛容及び末梢誘導Tregの発生において重要な役割を果たすことの証拠が提供されている。
【0043】
これにより、本発明は、内因性TGF−β及び/又はIL−10発現を誘発する免疫優勢抗原を提供する。
【0044】
さらに、抗原特異的TGF−β産生Th3細胞は、末梢において抗原特異的Foxp3制御性細胞の分化を促進することが示されている。その上、末梢CD4CD25T細胞のCD25、CD45RB−/lowサプレッサー細胞へのTGF−β依存的変換が報告されている。CTB共役Agにより誘導される経口寛容は、Foxp3CD25CD4制御性T細胞及びFoxp3CD25CD4制御性T細胞の両方、並びにFoxp3CD25CD4制御性T細胞及びFoxp3CD25CD4制御性T細胞の両方の生成によるTGF−βの増大に関連することが示されている。これらのデータは、Foxp3「適応」Tregの経口寛容の誘導及び維持における重要な役割を示唆している。本発明者らはまた、有意な粘膜Foxp3誘導を示す。さらに、ラクトコッカス・ラクティスは単独でGALTにおいてこのFoxp3上方制御を誘導することができないため、「粘膜」誘導される制御性T細胞は抗原特異的である傾向がある。これにより、本発明は、好ましくはFoxp3+ Treg細胞に関する。
【0045】
本発明によって、本発明による抗原により誘導及び/又は増大されたTreg細胞が、特に脾臓細胞及び鼠径リンパ節細胞において炎症を抑えることがさらに実証された。さらに、IFN−γ及びIL−12の産生が減少した。これにより、本発明は、内因性IFN−γ及び/又はIL−12の産生を減少させ、及び/又は内因性TGF−β及び/又はIL−10の発現を誘発する免疫優勢抗原を提供する。さらに、本発明は、脾臓細胞及び/又は鼠径リンパ節細胞の増殖を低減する抗原に関する。本発明は炎症性抗原特異的T細胞反応を抑制する抗原にも関することが理解されよう。
【0046】
或る特定のHLA−DQアイソフォームが或る特定の自己免疫疾患に、より一般に関連することを理解されたい。例えば、セリアック病を定義する慢性小腸炎症は、摂取グルテンペプチドへの寛容の喪失を特徴とし、HLA−DQ2又はHLA−DQ8拘束性T細胞反応に強く関連する。HLA−DQ2又はHLA−DQ8の発現は、セリアック病の発現に必要であり、欧米人の集団において最大で40%の遺伝的危険率をもたらす。セリアック病の病因において最も重要な側面の1つは、Tヘルパー1免疫反応の活性化であり、これはHLA−DQ2/DQ8分子を発現する抗原提示細胞が、CD4T細胞に対してグルテンペプチドを提示する場合に起こる。
【0047】
DQ8は、セリアック病だけでなく若年性糖尿病とのその強い関連性のために際立っている。DQ8は、RAにかかわると共に、危険性を増大させ得るHLA−DR対立遺伝子にも関係している。HLA−DQは一様に分布しておらず、或る特定の集団において危険性が高い。しかしながら、この危険性は多くの場合、環境(グルテン消費)に依存的であり、幾つかの疾患の有病率(prevelance)の上昇は、危険性の低い環境から危険性の高い環境への個体の移動の結果であり得る。
【0048】
本発明によるHLA−DQ8は、DQA1:DQB1ハプロタイプの血清型の表現である。DQ8は、DQA10301:DQB10302ハプロタイプ、DQA10302:DQB10302ハプロタイプ、又はDQA10303:DQB10302ハプロタイプを表す。これらのハプロタイプは、最も一般的な既知の自己免疫疾患の一部に関連する。DQA10301:DQB10302は、これら3つのハプロタイプの中で最も頻度が高く、全世界のDQ8の約80%に相当する。本発明はしたがって、DQA10301:DQB10302ハプロタイプ、DQA10302:DQB10302ハプロタイプ、及び/又はDQA10303:DQB10302ハプロタイプ(「DQ8エピトープ」とも称される)により認識される抗原に関する。
【0049】
HLA−DQ2は、セリアック病の人々の90%超において発現されている。HLA DR3−DQ2は、HLA−DRB1:DQA1:DQB1ハプロタイプの血清型の表現である。DR3−DQ2は主として、DRB10301:DQA10501:DQB10201ハプロタイプを表す。DR3−DQ2は西半球において比較的多い。DQ2は、他のα対立遺伝子と共にDQB102対立遺伝子によりコードされる。2つの最も一般的なDQ2β鎖は非常に似ている。本発明はしたがって、DQB10201ハプロタイプ、DQB10202ハプロタイプ及び/又はDQB10203ハプロタイプ(「DQ2エピトープ」とも称される)により認識される抗原に関する。
【0050】
本発明は、好ましくは糖タンパク質に由来する抗原に関する。好ましくは、該抗原はグリアジン、好ましくはα−グリアジン及び/又はホルデインに由来する。α−グリアジン、γ−グリアジン及びω−グリアジン、並びにホルデインに細分することができるグリアジンは当該技術分野で既知であり、それらの配列はNCBI等の公のドメインライブラリにより容易に検索可能である。好ましくは、該α−グリアジンはコムギ(T. aestivum)又はリベットコムギ(T. turgidum)等のコムギ属(Triticum)に由来する。
【0051】
本発明は、CD4T細胞がDQ2又はDQ8に関連して天然グルテンペプチドを認識することを実証する。
【0052】
一実施の形態では、本発明はDQ8エピトープ:QYPSGQGSFQPSQQNPQA(UniProtKB/TrEMBLエントリのQ9M4L6により検索可能な配列の残基203〜220に対応する)(配列番号:4)に関する。
【0053】
上記天然DQ8エピトープは、好ましくはヌクレオチド配列5’−caa tac cca tca ggt caa ggt tca ttc caa cca tca caa caa aac cca caa gct−3’(配列番号:3)によりコードされる。
【0054】
一実施の形態では、本発明はDQ2エピトープ:LQLQPFPQPQLPYPQPQLPYPQPQLPYPQPQPF(UniProtKB/TrEMBLエントリのQ9M4L6により検索可能な配列の残基57〜89に対応する)(配列番号:8)に関する。
【0055】
上記DQ2エピトープは、好ましくはヌクレオチド配列5’−tta caa tta caa cca ttc cca caa cca caa tta cca tac cca tta cca tac cca caa cca caa tta cca tac cca caa cca caa cca ttc(配列番号:7)によりコードされる。
【0056】
抗原は一般に、腸において例えば内因性組織トランスグルタミナーゼにより脱アミド化される。脱アミド化抗原は、脱アミド化されていない抗原よりも免疫反応性であり、容易に認識される。内因性組織トランスグルタミナーゼの存在は、抗原が他の手段により脱アミド化される場合と変わらない(indifferent)。一実施の形態では、本発明は、エピトープのグルタミン残基に対するコドンが、好ましくはグルタミン酸残基に対するコドンに置換されたヌクレオチド配列によりコードされる脱アミド化抗原に関する。
【0057】
特に、本発明は脱アミド化DQ8エピトープ:QYPSGEGSFQPSQENPQA(配列番号:2)に関する。
【0058】
上記脱アミド化DQ8エピトープは、好ましくはヌクレオチド配列5’−caa tac cca tca ggt gaa ggt tca ttc caa cca tea caa gaa aac cca caa gct−3’(配列番号:1)によりコードされる。
【0059】
特に、本発明は、脱アミド化DQ2エピトープ:LQL QPF PQP ELP YPQ PQL PYP QPE LPY PQP QPF(配列番号:6)に関する。
【0060】
上記脱アミド化DQ2エピトープは、好ましくはヌクレオチド配列:5’−tta caa tta caa cca ttc cca caa cca gaa tta cca tac cca tta cca tac cca caa cca gaa tta cca tac cca caa cca caa cca ttc(配列番号:5)によりコードされる。
【0061】
エピトープ配列へのタグ等の付加配列の存在は免疫反応に影響を与えないことがさらに実証された。これにより、さらなる実施の形態では、該エピトープはさらなるアミノ酸、例えば50個のアミノ酸、43個、30個、25個、20個、19個、18個、17個、16個、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、又は1個のアミノ酸を含み得る。したがって、本発明は、最大で50個の付加アミノ酸を含むDQ8エピトープに関する。さらなる実施の形態では、本発明は、DQ8エピトープ及びeタグ(GAPVPYPDPLEPR(配列番号:31))を含むアミノ酸配列:GAPVPYPDPLEPRQYPSGEGSFQPSQENPQA(配列番号:16)に関する。
【0062】
免疫反応
本明細書に使用する免疫反応関連疾患は、抗原に対する身体の望まれない免疫反応により起こる疾患であり、ここで上記抗原は、異種抗原又は自己抗原のいずれかであり得る。免疫反応関連疾患には、食物アレルギーを含めたアレルギー反応、セリアック病、アレルギー性喘息、自己免疫性ブドウ膜炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性重症筋無力症、関節リウマチ、I型糖尿病及び多発性硬化症が含まれるが、それに限定されるわけではない。免疫反応関連疾患には、移植片対宿主病又は非内因性第VIII因子に対する抗体産生等の薬物療法の免疫活性化等の望まれない免疫反応もまた含まれる。好ましくは、その疾患は、アレルギー性喘息、食物アレルギー、セリアック病、I型糖尿病及び治療薬の免疫不活性化から成る群から選択される。したがって、免疫反応関連疾患には、食物アレルギーを含めたアレルギー反応、セリアック病、アレルギー性喘息、自己免疫性ブドウ膜炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性重症筋無力症、関節リウマチ、I型糖尿病及び多発性硬化症が含まれるが、それに限定されるわけではないと認識されよう。免疫反応関連疾患には、移植片対宿主病又は非内因性第VIII因子に対する抗体産生等の薬物療法の免疫活性化等の望まれない免疫反応もまた含まれる。好ましくはその疾患は、アレルギー性喘息、食物アレルギー、セリアック病、移植片対宿主病、I型糖尿病及び治療薬の免疫不活性化から成る群から選択される。
【0063】
本発明によると、用語「免疫優勢」とは免疫反応を誘導する主要な抗原を指す。
【0064】
したがって、上記の点を考慮して、本発明は本明細書中に記載されるような方法又は使用に関し、該方法又は使用は治療的及び/又は予防的であることが理解されよう。
【0065】
本発明のさらなる態様は、免疫調節化合物産生微生物の粘膜送達と共に、微生物による抗原の粘膜送達を含む、抗原に対する免疫寛容を誘導する方法に関する。免疫調節化合物及び抗原は同じ微生物によって送達されてもよく、又は微生物は異なる微生物であってもよい。
【0066】
薬剤及び投与
「化合物」は、単純又は複合の有機分子及び無機分子、ペプチド、ペプチド模倣体、タンパク質、タンパク質複合体、抗体、炭水化物、核酸又はその誘導体を含めた任意の化学的又は生物学的な化合物又は複合体を意味する。免疫調節化合物は、免疫系の機能を改変する化合物である。本明細書に使用する免疫調節化合物は、寛容誘導化合物であり、寛容の誘導は、非限定的な例としてTreg、Tr1若しくはTr3等の制御性T細胞を誘導することによる、又はTh1/Th2バランスをTr1若しくはTr2に傾けることによる直接的な方法で、あるいは未熟樹状細胞から寛容化樹状細胞への活性化及び/又は成熟樹状細胞上の「共刺激」因子の発現を誘導しているTh2免疫反応を阻害することによる間接的な方法で得ることができる。免疫調節化合物及び免疫抑制化合物は、当業者に既知であり、それらには、スペルグアリン等の細菌代謝物、タクロリムス、ラパマイシン又はシクロスポリン等の真菌及びストレプトミセス代謝物、IL−4、IL−10、IFNα、TGFβ(制御性T細胞に関する選択的アジュバントとして)、Flt3L、TSLP、CTB及びRank−L(選択的寛容原性DC誘導因子として)、抗体及び/又はアンタゴニスト、例えば抗CD40L、抗CD25、抗CD20、抗IgE、抗CD3、抗IL−6(又はIL6R)、並びにCTL−4 Ig又はCTLA−4アゴニスト融合タンパク質等のタンパク質、ペプチド又は融合タンパク質が含まれ得るが、それに限定されるわけではない。
【0067】
したがって免疫調節化合物は、当業者に既知の任意の免疫調節化合物であり得る。好ましくは、該免疫調節化合物は免疫抑制化合物であり、なおさらに好ましくは、該化合物は免疫抑制サイトカイン又は抗体である。好ましくは、該免疫抑制サイトカインは、寛容増強サイトカイン又は抗体である。免疫抑制サイトカインは当業者に既知であり、それらには、制御性T細胞に対する選択的アジュバントとしてのIL−4、IL−10、IFN−α及びTGFβ;並びに選択的寛容原性DC誘導因子としてのFlt3L、TSLP、CTB及びRank−Lが含まれるが、それに限定されるわけではない。好ましくは、上記免疫抑制サイトカインは、IL−4、IL−10、IFNα及びFlt3Lから成る群から選択される。本発明が、その機能的ホモログにもまた関することは、当業者に認識されていよう。機能的ホモログは、少なくとも意図される目的について本質的に同一又は類似の機能を有するが構造的に異なり得る分子を意味する。最も好ましくは、上記免疫抑制寛容増強サイトカインは、IL−10又はその機能的ホモログである。好ましくは、上記免疫抑制抗体は、抗IL−2、抗IL12、抗IL6及び抗IFN−γから成る群から選択される。
【0068】
本明細書に使用する「送達」は、当業者に既知の送達の任意の方法を意味し、それには、任意に粘膜送達及び/又は粘膜取り込みを高めることができる化合物の存在下での、送達する化合物のコーティングされた、又はコーティングされていない薬学的製剤、送達する化合物を含むか、若しくは保有するカプセル、リポソーム、油体若しくはポリマー粒子、又は送達する化合物を分泌、表出若しくは蓄積している微生物が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0069】
本明細書に記載される化合物又は組成物は、純粋な形態で、他の活性成分と組み合わせて、又は薬学的に許容され得る無毒性賦形剤若しくは担体と組み合わせて投与することができる。経口組成物は、一般に不活性な希釈担体又は食用担体を含むものである。薬学的に適合性の結合剤及び/又はアジュバント物質を組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤、浣腸剤等は、以下の成分又は類似の性質の化合物のいずれかを含むことがある:微結晶セルロース、トラガカントゴム若しくはゼラチン等の結合剤;デンプン若しくは乳糖等の賦形剤;アルギン酸、Primogel若しくはトウモロコシデンプン等の分散剤;ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素等の流動促進剤(glidant);ショ糖若しくはサッカリン等の甘味料;又はペパーミント、サリチル酸メチル若しくはオレンジ香味料等の香味料。ユニット投薬形態がカプセルの場合、カプセルは、上記の種類の物質に加えて、脂肪油等の液体担体を含むことがある。加えて、ユニット投薬形態は、投薬ユニットの物理的形態を改変する様々な他の物質、例えば砂糖、セラック又は腸溶剤等のコーティングを含むことがある。さらにシロップは、活性化合物に加えて、甘味料としてショ糖及びある種の保存料、色素、着色料及び香味料を含むことがある。薬学的に許容され得る担体の形態及び性質は、その担体が組み合わされる活性成分の量、投与経路、及び他の既知の変数により指示されることが認識されているものである。担体は、その製剤の他の成分と適合する意味で「許容され」なければならず、そのレシピエントに有害であってはならない。
【0070】
投与のための代替調製物には、滅菌した水性又は非水性の液剤、懸濁剤及び乳剤が含まれる。非水性溶媒の例は、ジメチルスルホキシド、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、及びオレイン酸エチル等の注射可能な有機エステルである。水性担体には、アルコール及び水の混液、緩衝媒質及び生理食塩水が含まれる。静注用ビヒクルには、液体栄養補液、リンゲルデキストロースに基づく補液のような電解質補液等が含まれる。保存料、及び例えば抗微生物剤、抗酸化剤、キレート剤及び不活性ガス等の他の添加物もまた存在し得る。これらの送達法のために、生理食塩水、アルコール、DMSO及び水性溶液を含めた様々な液体製剤が可能である。
【0071】
好ましくは、上記免疫抑制サイトカインは、低量で、好ましくはマウスの実験設定で投与される細菌用量あたり0.1μg以下で発現され、ヒトの疾患設定においてその量を変換することができる。
【0072】
本明細書に使用する「処置」及び「処置する」等の用語には、発生した精神病若しくは状態が一度確立したならばその改善若しくは除去、又は該疾患又は状態の特徴的な症状の緩和が含まれる。本明細書に使用するこれらの用語は、患者の状態に応じて、疾患又は状態に伴う苦痛の前にそれに関連する疾患若しくは状態又は症状の重症度を低減することを含めて、上記疾患若しくは状態又はそれに関連する症状の開始を予防することもまた包含する。苦痛の前のそのような予防又は低減は、投与時にその疾患若しくは状態に苦しんでいない患者に本発明の化合物又は組成物を投与することを表す。「予防」は、例えば回復期後に疾患若しくは状態、又はそれに関連する症状の再発を予防すること、すなわち再燃予防もまた包含する。精神状態が身体愁訴を担い得ることも明らかなはずである。この点で、「処置する」という用語には、身体疾患若しくは状態の予防、又は発生した身体疾患若しくは状態が一度確立したならばその身体疾患又は状態の改善若しくは除去、又はその該状態の特徴的な症状の緩和もまた含まれる。
【0073】
本明細書に使用する「薬剤」という用語は、「薬物」、「治療薬」、「一服」又は治療若しくは予防効果を有する調製物を示すために医学の分野で使用される他の用語もまた包含する。
【0074】
本発明の化合物、すなわち抗原は、治療有効量で送達又は発現されることもまた認識されているものである。本明細書に使用する「治療有効量」という用語は、所望の処置方式により投与した場合に所望の治療的又は予防的な効果又は反応を誘発するものである、本発明の化合物又は組成物の量を表すことを意味する。免疫優勢抗原が持続的に存在する場合、炎症性抗原特異的細胞反応はさらに低下することが観察される。この低下は抗原自体、微生物自体の投与、又は抗原の非持続的な存在と比較して有意に大きい。本発明による用語「持続的に存在する」又は「持続的な存在」とは、目標とする粘膜部、例えば炎症部位での本発明による抗原の持続する又は中断されない存在を指す。抗原の存在は、例えば実施例の節及び上記に詳述するようなPCR、ELISA又は免疫沈降技法等の当該技術分野で既知の技法により測定することができる。さらに、ラクトコッカス・ラクティスの存在は抗原の存在の尺度であり得る。また、抗原による影響、例えば内因性TGF−β若しくはIL−10の存在又はそのレベルの上昇、又はIFN−Y又はIL−12のレベルの低下、又は本明細書中に記載されるようなTreg細胞の存在、又は脾細胞及び流入領域リンパ節細胞の増殖能の低下は、抗原の存在の尺度であり得る。したがって、抗原のレベルは変化し得るが、それでも抗原は持続的に存在すると見なされることが理解されよう。
【0075】
好ましくは、その化合物又は組成物は、ユニット投薬形態、例えば錠剤、カプセル剤、浣腸剤又は定量エアロゾル用量で提供されることにより、1回用量が対象、例えば患者に投与される。
【0076】
活性成分は、所望の活性を示すのに十分な、1日に1〜6回投与されることがある。これらの1日量は、1日1回の単回投与として与えることもできるし、全体で特定の1日量となる2回以上の小用量として、1日の同じ時間又は異なる時間に与えることもできる。好ましくは、活性成分は1日に1回又は2回投与される。例えば、一つの活性成分は朝に摂取し、もう一つはその後に日中に摂取することもできよう。
【0077】
本発明の全ての態様において、1日維持用量は、患者に臨床的に望まれる期間、例えば1日間から最長数年間(例えばその哺乳動物の全残存寿命);例えば約(2若しくは3若しくは5日間、1若しくは2週間、又は1ヶ月)より長く、且つ/又は例えば最長約(5年間、1年間、6ヶ月、1ヶ月、1週間、又は3若しくは5日間)与えることができる。約3から約5日間又は約1週間から約1年間の1日維持用量の投与が典型的である。液体製剤の他の構成成分には、保存料、無機塩、酸、塩基、緩衝液、栄養素、ビタミン又はその他の医薬品が含まれることがある。
【0078】
抗原を投与している微生物は、1日に少なくとも10コロニー形成単位(CFU)から1012CFU、好ましくは1日に10CFUから1012CFU、最も好ましくは1日に10CFUから1012CFUの用量で送達することができる。Steidler et al.(Science 2000)に記載された方法に従って、例えば約10CFUの免疫調節化合物は、少なくとも1ngから100ngまで分泌される。当業者に既知のELISAにより、当業者は、任意の他の用量のCFUに関して免疫調節化合物及び/又は抗原の分泌範囲を計算することができる。
【0079】
抗原は低用量反応を誘導する用量で送達することができる。好ましくは、該抗原は、少なくとも1日10fgから500μg、好ましくは1日1pgから250μg、さらに好ましくは1日100pgから200μg、また好ましくは1ngから150μg、さらに好ましくは1日10ngから125μg、さらにより好ましくは1日100ngから100μg、さらに好ましくは1日1μg及び90μg、最も好ましくは1日10μgから75μg、の用量で送達することができる。例えば、1日25μg、30μg、40μg、50μg、60μg及び70μg。
【0080】
好ましくは化合物又は組成物は、ユニット投薬形態、例えば錠剤、液剤、カプセル剤又は定量エアロゾル用量で提供されることにより、1回用量が対象、例えば患者に投与される。
【0081】
投与様式、例えば経口又は上記の投与様式のうち任意のものに応じて、当業者は、患者に投与される実際の用量を規定又は計算する方法を知っている。当業者は、患者、微生物、ベクター等に応じて用量を調整することに精通しているものである。
【0082】
本発明の化合物は、薬理学的に許容され得る塩、水和物、溶媒和物又は代謝物の形態を採ることもある。薬理学的に許容され得る塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、リンゴ酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、マレイン酸、サリチル酸、安息香酸、フェニル酢酸及びマンデル酸等を含むがこれらに限定されない無機酸及び有機酸の塩基性塩が含まれる。本発明の化合物がカルボキシ基等の酸性官能基を含む場合、カルボキシ基についての適切な薬学的に許容され得る陽イオンの対は、当業者に既知であり、それらには、アルカリ、アルカリ土類、アンモニウム及び第四アンモニウム陽イオン等が含まれる。
【0083】
微生物
本発明による微生物は、粘膜送達に適した、細菌、酵母又は真菌を含めた任意の微生物であり得る。好ましくは、該微生物は非病原微生物であり、なおさらに好ましくは、該微生物はプロバイオティック微生物である。プロバイオティック生物は、当業者に既知である。プロバイオティック生物には、Lactobacillus sp.、Lactococcus sp.等の細菌及びSaccharomyces cerevisiae亜種boulardii等の酵母が含まれるが、それに限定されるわけではない。好ましくは、上記細菌は乳酸菌である。なおさらに好ましくは、該乳酸菌は、Lactobacillus、Leuconostoc、Pediococcus、Lactococcus、Streptococcus、Aerococcus、Carnobacterium、Enterococcus、Oenococcus、Teragenococcus、Vagococcus及びWeisellaから成る群から選択される。さらに好ましい一実施の形態では、上記微生物はLactococcus lactisである。別の好ましい実施の形態では、該微生物はSaccharomycescerevisiaeであり、なおさらに好ましくは、上記酵母はSaccharomyces cerevisiae亜種Boulardiiである。
【0084】
乳酸菌による、経口及び膣送達の両方を含めた粘膜への異種タンパク質(すなわち非乳酸菌タンパク質)の送達が記載されており(Steidler and Rottiers, 2006; Liu et al., 2006)、それによりこれらの乳酸菌は抗原及び免疫抑制化合物の両方の送達に極めて適したものになっていることから、最も好ましくは、上記プロバイオティック微生物は乳酸菌である。ラクトコッカス・ラクティスは非病原性、非侵襲性、非コロニー形成のグラム陽性菌である。多様な遺伝子操作ラクトコッカス・ラクティス株が、腸粘膜への免疫調節タンパク質の局所合成及び送達のために作成されている。さらに、遺伝子操作ラクトコッカス・ラクティスの臨床応用を実現可能な戦略とする生物学的封じ込めシステムが確立されている。
【0085】
好ましい一実施の形態では、該微生物はラクトコッカス・ラクティスthyA突然変異体である。特に好ましい実施の形態では、ラクトコッカス・ラクティスthyA突然変異体が使用され、ここで抗原をコードする遺伝子はthyA遺伝子を破壊するために使用されている。
【0086】
栄養補助食品及びメディカルフード
本発明の化合物及び組成物は、ニュートラシューティカル(nutraceutical)、機能性食品若しくはメディカルフードとして、又は上記ニュートラシューティカル、機能性食品、若しくはメディカルフード中の添加物として使用され得ることが認識されよう。別の実施の形態は、好ましくはヒトの消費に適合する、ニュートラシューティカル及び香味料を含む食品又は飲料を提供し、ここで、そのニュートラシューティカルは、農産物からの抽出物を含む。
【0087】
液体抽出物の形態であろうと乾燥組成物の形態であろうと、ニュートラシューティカルは食用であり、ヒトが直接食てもよいが、好ましくは添加物又は栄養補助食品の形態で、例えば健康食品店で販売されている類の錠剤の形態で、又は食用固形物中の成分、より好ましくはシリアル、パン、豆腐、クッキー、アイスクリーム、ケーキ、ポテトチップ、プレッツェル、チーズ等の加工食品として、及び飲用液体、例えば牛乳、ソーダ、スポーツ飲料及び果汁等の飲料に入れてヒトに提供される。したがって一実施の形態では、有効な量のニュートラシューティカルと食品又は飲料を混合して、食品又は飲料の栄養価を高めることによる、食品又は飲料の栄養価を高めるための方法が提供される。
【0088】
別の実施の形態は、ニュートラシューティカルと食品又は飲料を混合して栄養的に高まった食品又は飲料を生産することを含む、食品又は飲料の栄養価を高めるための方法を提供し、ここで、そのニュートラシューティカルは、その食品又は飲料の栄養価を高めるために有効な量で混合され、ここで、そのニュートラシューティカルは、本発明の抗原を含む農作物からの抽出物を含み、ここで、栄養的に高まった食品又は飲料は、さらに香味料を含むことがある。好ましい香味料には、砂糖、コーンシロップ、果糖、デキストロース、マルトデキストロース、シクラメート、サッカリン、フェニルアラニン、キシリトール、ソルビトール、マルチトール及びハーブ甘味料、例えばステビア等の甘味料が含まれる。
【0089】
本明細書に記載されるニュートラシューティカルは、ヒトの消費を意図され、したがってそれらを得るための工程は、好ましくは優良製造規範(GMP)及び該工程に適用される任意の適用可能な政府規制にしたがって行われる。特に好ましい工程は、天然由来溶媒のみを利用する。本明細書に記載されるニュートラシューティカルは、好ましくは比較的高レベルの健康増進物質を含む。ニュートラシューティカルを、相互に混合してその健康増進効果を増大することができる。
【0090】
ニュートラシューティカルとは対照的に、いわゆる「メディカルフード」は、一般の人々に使用されることを予定しておらず、店舗又はスーパーマーケットでは入手できない。メディカルフードは、低脂肪食品又は低ナトリウム食品等の、疾患のリスクを減少させるための健康食の中に含まれる食品ではなく、体重減少製品でもない。疾患状態又は健康状態を管理するために患者が特殊な栄養要求を有し、その患者が医師の継続的な治療を受けている場合に、その医師はメディカルフードを処方する。ラベルは、その製品が特定の医学的障害又は状態を管理するために使用されることを意図することをはっきりと提示しなければならない。メディカルフードの例は、慢性炎症状態を有する患者のためにターゲティングされた栄養支援を提供するように設計された栄養的に多様なメディカルフードである。この製品の活性化合物は、例えば本明細書に記載される化合物の一つ又は複数である。機能性食品は、低脂肪食品若しくは低ナトリウム食品、又は体重減少製品等の、疾患のリスクを減らす健康食の中に含まれる食品を包含することがある。したがって本発明は、本発明によるニュートラシューティカルを含む食品又は飲料を考えている。
【0091】
当業者は、本発明の好ましい実施の形態に多数の変更及び改変を加えることができ、そのような変更及び改変は本発明の精神から逸脱せずに行うことができることを認識しているものである。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神及び範囲の中に属するそのような均等な改変の全てを包含することが意図される。
【0092】
加えて、本発明の化合物の記載に使用される全ての用語は、当技術分野において既知であるそれらの意味を有する。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】LL−OVAの経口摂取がDTH反応を有意に低減することを示す図である。Balb/cマウスを、0日目にOVA/CFAの皮下注射により感作し、21日目にOVA/IFAのブースト免疫を行なった。7日目〜11日目、14日目〜18日目、21日目〜25日目及び28日目〜31日目にマウスをBM9、LLpTREXI、LL−OVA及び1μgのOVAで経口処理した。31日目に、マウスの耳介に10μlの生理食塩水中10μgのOVAを抗原投与した。抗原投与の24時間後、DTH反応は、両耳へのOVA抗原投与の前後の耳厚の差異として表れた。図中英文は以下の意味:Increase in ear thickness mm-2 耳厚の増加(mm−2
【図2】LL−OVAの経口摂取が、バルク脾細胞のOVA特異的増殖(A)及びIFN−γ(B)産生、IL−6(C)産生及びIL−10(D)産生を有意に低減することを示す図である。BALB/cマウスを、0日目にOVA/CFAの皮下注射により感作し、21日目にOVA/IFAのブースト免疫を行なった。21日目〜25日目及び28日目〜31日目に、マウスをBM9、LLpTREX1及びLL−OVAで経口処理した。31日目に、バルク脾細胞を単離し、OVA特異的増殖(異なるOVA濃度での平均cpm±SEMとして表される)、並びに100μg/mlのOVAでのex vivo刺激の72時間後のIFN−γ産生、IL−6産生及びIL−10産生について試験した。図中英文は以下の意味:Bulk splenocytes バルク脾細胞Bulk spleen IFN-g バルク脾臓IFN−gBulk spleen IL-6 バルク脾臓IL−6Bulk spleen IL-10 バルク脾臓IL−10
【図3】LL−OVAの経口摂取が、CD4脾臓T細胞のOVA特異的増殖を有意に低減することを示す図である。BALB/cマウスを、0日目にOVA/CFAの皮下注射により感作し、21日目にOVA/IFAのブースト免疫を行なった。21日目〜25日目及び28日目〜31日目に、マウスをBM9(A)、LLpTREXI(B)及びLL−OVA(C)で経口処理した。31日目に、バルク脾細胞を単離し、100μg/mlのOVAでの90時間のex vivo再刺激の後、CFSE及びCD4−APC標識及びフローサイトメトリー分析によりCD4脾臓T細胞のOVA特異的増殖について試験した。図中英文は以下の意味:CD4+ SpleenCD4脾臓T細胞Count 数
【図4】LL−OVA処理マウスのCD4T細胞が、未処理レシピエントに寛容を移行することを示す図である。BALB/cマウスを、0日目にOVA/CFAの皮下注射により感作し、21日目にOVA/IFAのブースト免疫を行なった。21日目〜25日目及び28日目〜31日目に、マウスをBM9、LLpTREX1及びLL−OVAで経口処理した。31日目にCD4脾臓T細胞を単離し、寛容移行能を試験した。CD4脾臓T細胞によるLL−OVA及びLL−pTREX処理マウスから未処理レシピエントへの寛容の移行は、DTH反応に関する未処理レシピエントの感作及び抗原投与により評価したが、これは抗原投与の24時間後に、両耳へのOVA抗原投与の前後の耳厚の差異として表れた。図中英文は以下の意味:Increase in ear thickness mm-2 耳厚の増加(mm−2)LLpTREX CD4+spleenic T cells LLpTREX CD4脾臓T細胞LLOVA CD4+spleenic T cells LL−OVA CD4脾臓T細胞
【図5】NOD AB DQ8トランスジェニックマウスを、1日目にCFA中100μgのeDQ8dを皮下注射することにより免疫化した。1〜10日目にマウスをLL−eDQ8d又はLL−pT1NXで経口処理した。対照マウスにはBM9を与えた。10日目に、マウスの耳介に10μlの生理食塩水中10μgのeDQ8dを抗原投与した。DTH反応は、注射の24時間後の増大の平均値からeDQ8d抗原投与前の耳厚を減算した値として表す。結果は1群に6匹のマウスを含む3つの独立実験のデータをまとめたものである。図中英文は以下の意味:Increase in ear thickness mm-2 耳厚の増加(mm−2)Control 対照(BM9)Control 対照(NOD AB
【図6】DTH測定の後、BM9群(対照)、LL−pT1NX群及びLL−eDQ8d群の脾臓(A)及び鼠径リンパ節(B)を単離し、50μgのeDQ8dペプチドでex vivo再刺激した。バルク脾細胞(p=0.048)及び鼠径リンパ節細胞(p=0.0022)のeDQ8d特異的増殖反応は、平均cpmとして表した。図中英文は以下の意味:Control 対照(BM9)
【図7】脾臓細胞(A)及び鼠径リンパ節細胞(B)の上清中のサイトカイン測定を再刺激の24時間後に実行した。結果は少なくとも2つの別個の実験を表すサイトカイン分泌の平均(pg/ml)である。図中英文は以下の意味:Control 対照(BM9)
【図8】脾臓eDQ8d特異的増殖の減少がIL−10及びTGF−βに依存することを示す図である。
【実施例】
【0094】
実施例A:OVAを送達する遺伝子操作ラクトコッカス・ラクティスによるOVA感作野生型マウスへのOVA特異的寛容の誘導
序論
この目的で本発明者らは、OVA分泌LL(LL−OVA)を遺伝子工学によって作成し、自己免疫/アレルギーに対する治療モデル、すなわちOVA免疫化モデルにおいて全身寛容の誘導を評価した。
【0095】
材料及び方法
細菌及び培地:ラクトコッカス・ラクティスMG1363(LL)株を遺伝子操作し、この研究全体にわたって使用した。0.5%グルコース及び5μg/mlのエリスロマイシン(Abbott)で補充したM17ブロスから成るGM17E培地(Difco Laboratories、Detroit、MI)において細菌を培養した。LL株の懸濁原液(Stock suspensions)は、GM17E培地で50%グリセロール中−20℃で保管した。懸濁原液をGM17E培地で500倍に希釈し、30℃で一晩インキュベートした。16時間以内に、2×10コロニー形成単位(CFU)/mlの飽和密度に達した。遠心分離により細菌を採取し、BM9培地に2×1010細菌/mlで再懸濁した。各マウスに100μlのこの懸濁液を胃内カテーテルによって毎日与えた。
【0096】
プラズミド:Gallus gallus(ニワトリ)卵アルブミンをコードしているmRNA配列は、Genbank(アクセッション番号AY223553)及び公開されているデータから検索した。総RNAをニワトリ子宮部から単離し、cDNAは、体積25μl中の総RNA 2μg、2μMオリゴdTプライマー(Promega Corporation Benelux, Leiden, The Netherlands)、0.01mM DTT(Sigma-Aldrich, Zwijndrecht, The Netherlands)、0.5mM dNTP(Invitrogen, Merelbeke, Belgium)、Rnasin(PromegaIncorporation Benelux)20U、及びsuperscript II逆転写酵素(Invitrogen)100Uを使用して合成した。OVA cDNA断片は、以下のプライマーを使用したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅させた:フォワードプライマー:5’−GGCTCCATCGGTGCAGCAAGCATGGAATT−3’(配列番号:9)及びリバースプライマー:5’−ACTAGTTAAGGGGAAACACATCTGCCAAAGAAGAGAA−3’(配列番号:10)。反応条件は94℃2分に続いて、94℃45秒、62℃30秒、及び72℃90秒を30サイクル。増幅された断片は、ラクトコッカスP1プロモーター17の下流で、エリスロマイシン耐性pT1NXベクターのUsp45分泌シグナルに融合させた。OVA cDNAを保有するプラスミドで形質転換したMG1363株は、OVAを分泌しているラクトコッカス・ラクティス(LL−OVA)とした。空のベクターであるpTREX1を含むMG1363であるラクトコッカス・ラクティス−pTREX1(LL−pTREX)を対照として利用した。
【0097】
マウス:7週齢雌性BALB/cマウスは、Charles River Laboratories(Calco, Italy)から得た。これらのマウスを特定病原体除去条件で飼育し、標準的な実験室用飼料及び水道水を自由摂取させた。動物実験は、Ghent大学、the Department for MolecularBiomedical Researchの倫理委員会により承認された(ファイル番号07/029)。
【0098】
抗原:全ての実験において、無傷のLPSフリーOVAグレードVタンパク質(Sigma Aldrich)を抗原として使用した。
【0099】
マウスの免疫化及び経口寛容の誘導:第1日目に、CFA(Difco、BD Bioscience、Erembodegem、Belgium)と生理食塩溶液との1:1の混合物100μl中100μgのOVAを尾の付け根へ皮下注射することにより、BALB/cマウスを免疫化した。7日目〜11日目、14日目〜18日目、21日目〜25日目及び28日目〜31日目(計画1)、及び21日目〜25日目及び28日目〜31日目(計画2)に、100μlのBM9に溶解したLL−OVA、LL−pTREX1、又は1μgの精製OVAを毎日投与した。対照マウスにはBM9のみを与えた。抗原又は細菌の懸濁液を、18ゲージステンレス動物給餌ニードルを用いて胃に導入した。21日目に、IFA(Sigma-Aldrich)の1:1混合物100μl中100μgのOVAを皮下注射することにより、ブースト免疫を行なった。寛容誘導をDTH反応、サイトカイン及びOVA特異的増殖の測定、及び養子移入実験により評価した。
【0100】
遅延型過敏反応:31日目に、抗原特異的DTH反応をOVAの注射により評価した。24時間後、DTH測定を実行した。抗原特異的DTH反応の測定のために、マウスの耳介に生理食塩水10μl中10μgのOVAで抗原投与した。抗原投与による耳厚の増大として定義される耳の腫脹を、抗原投与の24時間後にデジタルマイクロメータ(Conrad、Belgium)を用いて盲検方式で測定した。DTH反応は、両耳へのOVA抗原投与前後の耳厚の差異として表れた。
【0101】
OVA特異的増殖及びサイトカイン検定:39日目に、脾臓を採取し、脾細胞をOVA特異的増殖及びサイトカイン産生について評価した。細胞を70μmセルストレーナー(Becton/Dickinson Labware)に通すことにより、脾臓の単一細胞懸濁液を調製した。細胞懸濁液中の赤血球を、赤血球溶解バッファーとのインキュベートにより溶解した。CD4T細胞を、CD4T細胞単離キット及びmidiMACSカラム(Miltenyi Biotec、Germany)を用いて濃縮した。
【0102】
全脾細胞集団の増殖を検定するために、2×10個の細胞を、96ウェルU底プレートにおいて全容量で200μlの完全培地(すなわち、10%ウシ胎仔血清(FCS)、10U/mlのペニシリン、10μg/mlのストレプトマイシン、2mMのL−glutamax、0.4mMのピルビン酸ナトリウムを含有するRPMI−1640)中で、単独で、又は1.2μg/ml〜100μg/mlの範囲の濃度で添加したOVAと共に培養した。5,6−CFSE標識(Invitrogen、Merelbeke、Belgium)により増殖をさらに評価した。脾細胞をPBS中に10/mlで再懸濁し、最終濃度10μMのCFSE中で37℃で12分間インキュベートした。標識された細胞を氷冷完全培地で2回洗った後、96ウェルU底プレートにおいて全容量で200μlの完全培地中で100μg/mlのOVAと共に2×10個の細胞数で培養した。加湿インキュベーターにおいて37℃及び5%CO中での90時間の培養後、細胞を採取し、細胞をアロフィコシアニン標識抗CD4(BD、Biosciences)で染色し、フローサイトメトリー(FACSCanto、BD Biosciences)を用いて増殖を求めた。
【0103】
CD4T細胞の増殖を検定するために、2×10個の細胞数のCD4T細胞を、全容量で200μlの完全培地中1/1、1/0.3、1/0.1、1/0.03及び1/0の比率の抗原提示細胞として働くマイトマイシンC処理OVA負荷脾細胞と共に、96ウェルU底プレートにおいて培養した。細胞を加湿インキュベーターにおいて37℃及び5%COで90時間培養した。増殖検定のために、培養の最後の18時間に1μCi/ウェルの[H]−チミジンを添加し、ガラス繊維フィルタマット(Perkin Elmer、Boston、USA)上でDNAを採取し、DNA結合放射能をシンチレーションカウンター(Perkin Elmer)で測定した。サイトカイン測定のために、異なる増殖検定で使用された細胞培養上清を72時間の培養後に回収し、−20℃で凍結した。サイトカイン産生を、Mouse Flex Set Cytometric Bead Array(BD Biosciences、Mountain View、CA、USA)を用いて定量化した。
【0104】
養子移入実験:39日目に、脾臓を処理群から回収した。脾臓を刻み、70μmセルストレーナー(Becton/Dickinson Labware)を通して濾すことにより、単一細胞懸濁液を得た。細胞懸濁液を上記のようにCD4T細胞について濃縮した。CD4濃縮細胞を、1×10個のCD4T細胞の静脈注射により未処理BALB/c受容マウスに養子移入した。養子移入の1日後に、100μgのOVA/25μlの生理食塩水/25μlのIFA(Sigma-Aldrich)を尾の付け根に皮下注射することにより全マウスを感作し、その5日後に、上記のDTHプロトコルに従ってマウスに抗原投与した。
【0105】
統計分析:群間での耳厚及びサイトカイン測定の差異の有意性を、一元配置ANOVAを用いて試験した。統計有意性は、(p<0.05)又は**(p<0.01)として示す。
【0106】
結果
LL−OVAは、OVA免疫化モデルにおいて寛容誘導能を遊離OVAと比較して有意に高める。
経口寛容の誘導を研究するために、マウスを上記のように経口摂取させた。OVA感作BALB/cマウスへのLL−OVAの投与により、DTH反応において、感作対照マウス(BM9群)及びLL−pTREX1又は1μgの精製OVAで処理したマウスと比較して有意な減少がもたらされた(図1)。
【0107】
これらのデータでは、LL−OVA処理マウスのバルク脾細胞の増殖能、並びにIFN−γ、IL−10及びIL−6の産生(図2)において、BM9処理群又はLL−pTREX1処理群と比較して有意な減少が見られる。
【0108】
LL−OVAはCD4T細胞を介して経口寛容を高める。
CD4T細胞が経口寛容の誘導を媒介するか否かを評価するために、脾細胞においてOVA特異的増殖CD4T細胞反応を研究した。フローサイトメトリーによって、LL−OVA群のOVA再刺激の後、BM9群及びLL−pTREX1群の4.5%及び11.6%と比較して、CD4脾臓T細胞の0.8%しか増殖しないことが実証された(図3)。さらに、LL−OVA処理群から未処理BALB/cマウスへのCD4脾臓T細胞の養子移入によって、受容マウスのOVAでの免疫化及び抗原投与の後、これらの細胞がDTH反応を低減可能であるように、これらの細胞は寛容を移行することができることが実証された(図4)。
【0109】
結論
ここで、本発明者らは、OVA分泌ラクトコッカス・ラクティスの胃内投与により、CD4制御性の誘導を介してOVA特異的T細胞反応が抑制されることを実証した。本発明者らは、この免疫寛容誘導は遊離OVAタンパク質よりも強力であり、これは治療の設定において確立することができることを実証した。
【0110】
実施例B:DQ8特異的免疫優勢グリアジンエピトープをグルテン感作クラスIIトランスジェニックマウスに送達する遺伝子操作ラクトコッカス・ラクティスによる抗原特異的経口寛容の誘導。
序論
セリアック病(セリアックスプルー又はグルテン過敏性腸疾患としても知られる)は、グルテンを含有する特定の食用穀物に対する免疫反応から発症する慢性炎症性疾患である。セリアック病は、ヒト白血球抗原変異体であるHLA−DQ2又はHLA−DQ8をコードする遺伝子と強く関連する複合多遺伝子性障害である。セリアック病の病因において最も重要な側面の1つは、Tヘルパー1免疫反応の活性化である。これはHLA−DQ2/DQ8分子を発現する抗原提示細胞が、毒性グルテンペプチドをCD4()T細胞に対して提示する場合に起こる。グルテンタンパク質クラスのグリアジン及びグルテニンは共に、DQ2及びDQ8に結合するペプチドを含有する。グルテン特異的T細胞からのIFN−γの産生等の免疫反応は、セリアック病患者の小腸において粘膜の破壊を誘発することが一般に認められている。したがって、セリアック病患者の腸における有害な免疫T細胞反応の活性化は、疾患の発症及び進行において鍵であると思われる。
【0111】
抗原特異的免疫抑制は、セリアック病の治療の魅力的な治療目標である。ラクトコッカス・ラクティス(LL)の遺伝子操作による組み換えグルテンタンパク質/ペプチドの腸粘膜での能動的送達によって、寛容誘導に対する新規の治療アプローチがもたらされる。この目的で、本発明者らは、脱アミド化DQ8エピトープ分泌LL(LL−eDQ8d)を遺伝子操作し、グルテン感作NOD AB DQ8クラスIIトランスジェニックマウスにおける経口補給後の局所及び全身の免疫反応を評価した。
【0112】
ここで、本発明者らは、グリアジンペプチド産生ラクトコッカス・ラクティスの経口送達が、抗原特異的CD4制御性T細胞の誘導を介してグリアジン特異的免疫反応を抑制することを実証する。
【0113】
材料及び方法
細菌及び培地:ラクトコッカス・ラクティスMG1363(LL)株を遺伝子操作し、この研究全体にわたって使用した。細菌をGM17E培地(0.5%グルコース及び5μg/mlのエリスロマイシン(Abbott)で補充したM17ブロス(Difco、Laboratories、Detroit、MI))中で培養した。LL株の懸濁原液は、GM17E培地において50%グリセロールに入れて−20℃で保管した。懸濁原液をGM17E培地で200倍に希釈し、30℃で一晩インキュベートした。16時間以内の培養で、2×10コロニー形成単位(CFU)/mlの飽和密度に達した。細菌を遠心分離により採取して、BM9接種バッファー中で2×10細菌/100μlで10倍に濃縮した。処理のために、各マウスに100μlのこの懸濁液を胃内カテーテルにより毎日与えた。
【0114】
プラスミド:脱アミド化DQ8エピトープをコードする配列(コード化DQ8d:caa tac cca tca ggt gaa ggt tca ttc caa cca tca caa gaa aac cca caa gct(配列番号:1))を公表データから検索した。手短に言うと、α−グリアジンペプチド中の2つのグルタミン残基をグルタミン酸に変換し、DQ8保有セリアック病患者に対して脱アミド化免疫優勢α−グリアジン反応を誘発させると、このエピトープはこれらのマウスのT細胞により認識される。DQ8dのcDNA断片を合成的に作成し(オペロン、The Netherlands)、以下のフォワードプライマー:5’−caatacccatcaggtgaaggttc−3’(配列番号:11)及びリバースプライマー:5’−cgactagttaagcttgtgggttttcttgtgat−3’(配列番号:12)を用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅した。検出目的で、断片に以下の配列:ggt gct cca gtt cca tac cca gat cca ctt gaa cca cgt(配列番号:13)から成るeタグ(e)を付けた。eタグをDQ8d遺伝子の5’末端に付加するために、工程1において作成したPCR産物(DQ8d)をPCRにおいて鋳型として、オリゴヌクレオチド:5’−ggtgctccagttccatacccagatccacttgaaccacgtcaatacccatca−3’(配列番号:14)及び5’−cgactagttaagcttgtgggttttcttgtgat−3’(配列番号:15)と共に使用した。増幅断片を、ラクトコッカスP1プロモーターの下流でエリスロマイシン耐性pT1NXベクターのUsp45分泌シグナルに融合した。eDQ8dのcDNAを保有するプラスミドで形質転換したMG1363株を、eDQ8dを分泌するラクトコッカス・ラクティス(LL−eDQ8d)とした。空のベクターpT1NXを含有するMG1363であるLL−pT1NXを対照とした。
【0115】
分泌されたエピトープの機能分析:分泌されたeDQ8dエピトープの機能分析のために、セリアック病(CD)患者の腸に由来するヒトT細胞クローンを用いた増殖検定を実行した。細菌を上記のように一晩増殖させ、1:50に希釈し(deluded)、それぞれさらに4時間又は6時間増殖させた。グルテンに特異的なT細胞のクローンを、数年間無グルテン食をとっていたオランダ人の成人CD患者である患者Sから採取した小腸の生検から作成した。該患者には研究に対して、病院倫理委員会によって承認されているインフォームドコンセントを与えた。該患者はHLA−DR3/4、DQ2/8であると血清学的に分類され、したがってCD関連DQダイマーの両方を保有していた。T細胞クローンII29はHLA−DQ8に結合する場合に、最小限の9個のアミノ酸コア:QGSFQPSQQを有するα−グリアジン誘導ペプチドに応答することを見出した。組織トランスグルタミナーゼの活性によるP1及び/又はP9グルタミン残基(Q)のグルタミン酸(E)への脱アミド化が、このグルテンペプチドのT細胞刺激能を実質的に高めることを見出した。増殖検定は、幾つかの濃度の上清の非存在又は存在下で10個のHLA−DQに適合した3000RAD照射末梢血単核細胞で刺激した10個のT細胞を用いて、96ウェル平底プレート(Falcon)において150μlの培養培地(Iscoves)中で二連又は三連で実行した。48時間後、培養物を0.5uCiのH−チミジンでパルスして、その18時間後に採取し、増殖の指標としてH−チミジン取り込みを求めた。
【0116】
マウス:内因性MHC II欠損背景においてHLA−DQ8を発現するトランスジェニックマウス(AB DQ8)を、NODマウスに10世代の間戻し交配し、交雑させてコンジェニックNOD AB DQ8マウスを作成した。7週〜16週齢のマウスを実験に使用した。マウスは離乳させ、8週〜12週齢まで従来の動物施設において維持した。
【0117】
抗原及び抗体:eタグを有する(GAPVPYPDPLEPRQYPSGEGSFQPSQENPQA(配列番号:16))、及び有しない(QYPSGEGSFQPSQENPQA(配列番号:2))脱アミド化DQ8エピトープを合成した。T細胞の表現型検定のために、CD4抗体及びCD25抗体をBD-Biosciences(San Jose、CA)から、及びAPC抗Foxp3染色キットをeBiosciences(San Diego、USA)からそれぞれ購入した。抗IL−10中和モノクローナル抗体(1μg/ml、クローンJES052A5)、TGF−β中和モノクローナル抗体(1μg/ml、クローン1D11)及びLAP中和抗体(1μg/ml、クローン27235)はR&D systems(Minneapolis、MN)から得た。
【0118】
経口給餌及びDTH(遅延型過敏)反応:無グルテン飼料を与えていたNOD AB DQ8マウスを、1日目に100μlの1:1CFA(Difco of Becton、Dickinson and Company、San Jose、CAから購入)生理食塩溶液中100μgの脱アミド化eDQ8ペプチドを尾の付け根に皮下注射することにより感作した。感作に使用されるペプチドは分泌されたエピトープと同じ配列を有していた。マウスに陰性対照としてBM9、LL−pT1NX又はLL−eDQ8d(全て1日目〜10日目に100μlのBM9中に溶解した)を給餌した。給餌は、抗原又は細菌の懸濁液を18ゲージステンレス強制飼養ニードルを用いて胃内投与することにより実行した。免疫化の10日後、抗原特異的DTH反応を評価した。その24時間後、DTH測定を実行した。抗原特異的DTH反応の測定のために、マウスの耳介に生理食塩水10μl中10μgのeDQ8dを抗原投与した。耳厚の増大を、抗原投与の24時間後に技術者用マイクロメータ(Mitutoyo、Tokyo、Japan)を用いて盲検方式で測定した。DTH反応は抗原投与前の耳厚を減算した後のeDQ8d注射の24時間後の増大の差として表した。続いてマウスを屠殺して、脾臓及びリンパ節を採取し、細胞をDQ8d特異的増殖及びサイトカイン産生について評価した。eタグ干渉のために、1日目にNOD AB DQ8マウスを尾の付け根で、1:1完全フロイントアジュバント(CFA、Difco、BD)生理食塩溶液100μl中のEタグを有する(eDQ8d)又は有しない(DQ8d)脱アミド化DQ8ペプチド100μgで免疫化した。7日目に、マウスのDTH測定を、免疫化に使用されるペプチドと対応するeタグを有する又は有しない10μgのDQ8dを用いて上記のように実行した。
【0119】
細胞培養、増殖及びサイトカイン産生の検定:脾臓及びリンパ節の細胞懸濁液を、実験の11日目に1×PBS中で組織グラインダーを用いて組織を均質化することにより組織を均質化した。ACK(塩化アンモニウム/カリウム(溶解バッファー))とインキュベートすることにより、赤血球を脾臓細胞懸濁液から除去した。細胞を96ウェルマイクロタイタープレートにおいて、培地単独、10μgのCon A、又は50μgのeDQ8dエピトープのいずれかを含有する補充物を有するRPMI1640(1.5%Hepes、1%Penstrep及び10%FBS)中、0.2mlの容量で5×10細胞/ウェルで37℃でインキュベートした。別個の実験では、IL−10、TGF−β、IL−10&TGF−β又はLAP中和抗体を、LL−eDQ8d処理マウスの脾細胞に添加した。培養の最後の24時間に1μCi/ウェルの[H]−チミジンを添加することにより、24時間後に増殖を評価した。DNA結合放射能をガラス繊維フィルタマット上で採取し、チミジンの取り込みをシンチレーションカウンター(Perkin Elmer)で測定した。結果は三連のウェルの平均cpmとして表した。サイトカイン測定のために、上記の異なる増殖検定において使用した細胞培養物の上清を培養の24時間後に回収し、サイトカイン分析を実行するまで−20℃で凍結した。サイトカイン産生をMouse Inflammation Cytometric Bead Array(BD Biosciences)を用いて定量化した。
【0120】
フローサイトメトリー分析:BM9、LL−pT1NX又はLL−eDQ8d処理マウスの脾臓及び腸管関連リンパ節組織(GALT)を単離して、上記のように調製し、CD4、CD25及びFoxp3について染色した。細胞内染色を、メーカーの使用説明書(eBiosciences、San Diego、CA)に従ってFoxp3について実行し、続いてBecton DickinsonのFACSCaliburでのフローサイトメトリーを用いて測定した。分析のために、細胞をCD4CD25及びCD4CD25亜集団に分け(gated)、これらの集団内で、Foxp3ヒストグラムを平均蛍光強度(MFI)を求めるために使用した。
【0121】
統計分析:サイトカイン測定からの結果は平均±SEMとして表す。eDQ8d特異的増殖、耳厚及びサイトカイン測定の有意性を、一元配置ANOVA、続いてスチューデントt検定比較(2つの試料を等分散であると仮定する)を用いて試験し、個々の群間の差異を求めた。両試験の統計有意性を示すために、全試験でp値<0.05:、<0.01:**を使用した。
【0122】
結果
ラクトコッカス・ラクティスによるeDQ8dエピトープの粘膜送達は、バルク脾臓細胞及び鼠径リンパ節細胞のDQ8d誘導DTH反応及び増殖能を有意に減少させた。
eDQ8d免疫化NOD AB DQ8クラスIIトランスジェニックマウスにおけるLL−eDQ8dの毎日の胃内投与により、DTH反応において感作陰性対照マウス(図5)と比較して有意な減少がもたらされた。(BM9を給餌した)対照マウスはeDQ8dに対して明らかに免疫化されていたが、LL−eDQ8dの毎日の胃内投与は、DTHを有意に低下させた(13.1×10−2mm対5.1×10−2mm、p=0.0031)。LL−pT1NX処理マウスでは、耳腫脹も対照と比較してわずかに低下したが(9.3×10−2mm対13.1×10−2mm、p=0.0343)、LL−eDQ8d処理マウスよりも程度は低かった。非DQ8トランスジェニックNOD ABマウスは、わずかな耳厚の増大(3.2×10−2mm)のみを示した。これらのデータは、経口投与されるLL−eDQ8dが免疫化NOD AB DQ8トランスジェニックマウスにおいて全身炎症性T細胞反応を抑制し、分泌された抗原が有意な寛容原性効果の誘導に必要であることを示す。これらのデータでは、脾細胞及び鼠径リンパ節細胞の増殖能の有意な減少が認められる(図6)。増殖反応の低下は、ex vivoでの脾細胞のeDQ8d刺激後のIL−10の有意な上方制御、及びIL−12産生の下方制御を伴っていた(図7)。さらに、LL−eDQ8dは鼠径リンパ節において、eDQ8d誘導IFN−γ産生をBM9及びLL−pT1NX処理マウスと比較して有意に低下した。これらのデータは共に、LL−eDQ8d処理がeDQ8d刺激後のT細胞活性化を抑制することを示し、DC活性化も調節され得る(my also be)ことを示唆している。
【0123】
脾臓eDQ8d特異的増殖の減少はIL−10及びTGF−βに依存し、LL−DQ8d処理は脾臓及びGALTのFoxp3発現を有意に増大させる
eDQ8d特異的脾臓増殖反応に対するTGF−β、IL−10、及びLAP(膜関連TGF−β)の機能的重要性を中和抗体を用いて分析した。IL−10、TGF−β又はLAPの中和抗体は、LL−eDQ8d処理マウスの脾臓増殖反応の低下を有意に阻害しなかったが、TGF−β及びIL−10中和モノクローナル抗体の組み合わせを添加することで、LL−eDQ8d処理マウスの脾細胞のeDQ8d特異的増殖能の低下が完全になくなった(図8)。これらのデータは、LL−eDQ8d処理により、eDQ8d免疫化NOD AB DQ8クラスIIトランスジェニックマウスにおけるT細胞活性化が抑制可能となり、この抑制はIL−10及びTGF−βの両方に依存的であることを強く示唆している。さらに、LL−eDQ8d処理マウスの脾臓CD4CD25及びCD4CD25細胞集団において、対照(BM9)と比較して有意なFoxp3の上方制御が見られる(それぞれMFI 171対61及び35対6)。注目すべきことに、CD4CD25集団ではLL−eDQ8d処理マウスの腸管関連リンパ節組織(GALT)においても、BM9処理と比較してFoxp3が上方制御されたが(MFI 73対30)、CD4CD25集団のGALTにおいては上方制御されなかった。LL−pT1NX給餌によっても幾らかのFoxp3上方制御が誘導されるが、脾臓CD4CD25T細胞集団に限られ、LL−eDQ8dよりも程度が低かった(それぞれMFI 15対35)。
【0124】
結論
本発明者らのデータによって、遺伝子操作ラクトコッカス・ラクティスによるDQ8媒介性T細胞反応に免疫優勢なグリアジン誘導ペプチドの粘膜送達が、NOD AB DQ8クラスIIトランスジェニックマウスにおいて局所及び全身DQ8拘束性T細胞反応の抑制を誘導することが実証された。処理は脾細胞及び鼠径リンパ節細胞の増殖能の抗原特異的な低下をもたらすが、これはIL−10及びTGF−βの産生に非常に依存的であり、Foxp3制御性T細胞の有意な誘導と関連していた。このアプローチの抗原送達細菌は、過敏性が確立された設定であっても経口寛容を増強する能力を有するため、該細菌はセリアック病の治療、場合によっては他の自己免疫疾患及び/又はアレルギー性疾患に適用可能であり得る。
【0125】
天然DQ8エピトープ
上記の実験を天然α−グリアジンエピトープ、すなわちUniProtKB/TrEMBLエントリのQ9M4L6で検索可能な配列の残基203〜220に対応する、QYPSGQGSFQPSQQNPQA(配列番号:4)を用いて繰り返した。該天然DQ8エピトープはヌクレオチド配列:5’−caa tac cca tca ggt caa ggt tca ttc caa cca tca caa caa aac cca caa gct−3’(配列番号:3)によってコードされる。
【0126】
天然α−グリアジンDQ8エピトープでの結果は、脱アミド化α−グリアジンDQ8エピトープに関する上記の結果と本質的に同一である。
【0127】
DQ8エピトープを用いたセリアック病患者での試行
前述の研究において、本発明による改変したラクトコッカス・ラクティスを、セリアック病の患者での試行における治療剤として使用する。本発明者らの研究結果によって、このアプローチが抗原特異的な方法で効果的であることが保証される。
【0128】
セリアック病は、抗原を一次反応の部位に送達して直接的な寛容及びバイスタンダー寛容の両方を達成するLLの能力により(due tot)、このアプローチにとって特に魅力的な標的である。
【0129】
DQ2エピトープを用いたセリアック病患者での試行
上記で使用されたようなHLA−DQ8マウスに相当する、内因性MHC II欠損背景でHLA−DQ2を発現するトランスジェニックマウスは存在しない。これにより、DQ8エピトープに対する上記の実験は、適切なマウスモデルにおいて可能ではなかった。したがって、本発明者らは、セリアック病の患者において、天然及び脱アミド化α−グリアジンDQ2エピトープの両方を用いて幾つかの予備実験を実施する。
【0130】
具体的には、上記の実験をヌクレオチド配列:5’−tta caa tta caa cca ttc cca caa cca gaa tta cca tac cca tta cca tac cca caa cca gaa tta cca tac cca caa cca caa cca ttc(配列番号:5)によりコードされる脱アミド化DQ2エピトープ:LQLQPFPQPELPYPQPQLPYPQPELPYPQPQPF(配列番号:6)、及びヌクレオチド配列:5’−tta caa tta caa cca ttc cca caa cca caa tta cca tac cca tta cca tac cca caa cca caa tta cca tac cca caa cca caa cca ttc(配列番号:7)によりコードされる天然DQ2エピトープ:LQLQPFPQPQLPYPQPQLPYPQPQLPYPQPQPF(配列番号:8)を用いて繰り返した。
【0131】
天然及び脱アミド化α−グリアジンDQ2エピトープでの結果は、α−グリアジンDQ8エピトープに関する上記の結果と本質的に同一である。
【0132】
実施例C:第VIII凝固因子及び第IX凝固因子を分泌しているラクトコッカス・ラクティスの経口投与後の上記因子に対する寛容の誘導
序論
インターフェロン、第VIII/IX因子、及び抗体(レミケード)等の幾つかの治療用(組み換え)タンパク質は、長期処置期間にわたり高用量で投与される。しかし、その使用に伴う合併症は、抗体等のタンパク質特異的免疫反応の発生である。阻害物質とも呼ばれるこれらの抗体(Ab)は、治療用タンパク質をあまり効果的でないものにする。例には、血友病における第VIII/IX因子、慢性腎不全の治療を受けている患者におけるエリスロポイエチン(Epo)、及び多発性硬化症のための治療を受けている患者におけるIFN−に対する阻害物質の形成が含まれる。ここでは、IL−10産生ラクトコッカス・ラクティスによる第VIII因子(及び第IX因子)の経口送達が、抗原特異的CD4制御性T細胞の誘導により上記因子に対する阻害物質の形成を抑制することを実証する。
【0133】
材料及び方法
細菌及びプラスミド:ラクトコッカス・ラクティスMG1363株をこの研究全体にわたり使用する。細菌は、GM17培地、すなわち0.5%グルコースを補充したM17(Difco Laboratories, Detroit, MI)中で培養する。全ての株の懸濁原液は、GM17中の50%グリセロールに入れて−20℃で保存する。胃内接種のために、懸濁原液を新鮮GM17で200倍に希釈し、30℃でインキュベートする。これらは16時間以内に2×10コロニー形成単位(CFU)/mlの飽和密度に達する。この研究にわたり、混合した細菌懸濁液を使用する。したがって、混合した細菌を遠心分離により採集し、両細菌培養物のペレットをBM9培地に入れて10倍濃縮する(Schotte, Steidler et al. 2000)。処置のために、各マウスは胃内カテーテルによりこの懸濁液100μlの投与を受ける。
【0134】
FVIII及びFIX特異的CD4T細胞エピトープを代表するヒトFVIII及びFIXのcDNA又はcDNA断片を増幅させ、ラクトコッカスP1プロモーターの下流でエリスロマイシン耐性pT1NXベクターのUsp45分泌シグナルに融合させる。
【0135】
ヒトFVIII(及び/又はエピトープ断片)、FIX(及び/又はエピトープ断片)を保有するプラスミドで形質転換したMG1363株を、LL−FVIII、LL−FIXを分泌するラクトコッカス・ラクティスとする。空のベクターpT1NXを含有するMG1363であるLL−pT1NXを対照とする。
【0136】
FVIII及びFIXの定量化:それぞれLL−FVIII及びLL−IX由来のFVIII又はFIXは、上述したヒトFVIII及びFIX特異的酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)(Chuah et al., 2003)を使用して求める。組み換えタンパク質は、記載されたようにウエスタンブロット分析及びCOATest及びaPTT検定(Chuah et al., 2003; VandenDriessche et al., 1999)によっても分析する。このタンパク質のNH末端は、自動エドマン分解により求める。FVIII及びFIXは、肝臓に通常発現し、そこでそれらは大規模な翻訳後修飾を受けることから、操作されたラクトコッカス・ラクティスから産生された凝固因子は、生物学的に不活性であり得る。しかし、これらの翻訳後の差異は、これらのラクトコッカス・ラクティスに産生された組み換えタンパク質が免疫寛容を誘導する能力に影響を有しない傾向がある。実際に、これまでに詳細に特徴づけられた大部分の阻害物質は、典型的にはグリコシル化部分よりもアミノ酸残基を認識する(Villard et al., 2003)。
【0137】
動物:(Bi et al.(1995)及びWang et al.(1997)により記載されたように、ES細胞における相同組換えを使用してマウスFVIII又はFIX遺伝子をノックアウトすることによって得た血友病A又はBマウスを、研究室で繁殖させる。これらのレシピエントマウスは、CFAの存在下で精製組み換えFVIII又はFIX抗原を用いて抗原投与したときに中和抗体を産生する(Mingozzi et al., 2003)。この阻害物質の状態は、Bethesda検定又は抗FVIII/抗FIX特異的ELISAを使用して経時的にモニターすることができる。FVIII又はFIX(+CFA)を用いて抗原投与されたレシピエントマウスは、典型的には抗原投与の2〜3週間後に阻害物質を発生する。
【0138】
実験の設定:4〜6週齢のマウスに、FVIII、FIX、LL−FVIII、LL−FIX若しくはLL−pT1NX又はLL−OVA(無関係の抗原)(1μg又は10μg)の投与を受けさせる。寛容誘導のための陽性対照として、肝細胞特異的プロモーターからFIXを発現しているアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)をマウスに注射する。レシピエント動物は、FIX+CFAを用いたその後の抗原投与の際の抗FIX抗体の誘導を防止するFIX特異的免疫寛容を発生する。
【0139】
予防の設定では、FVIII、FIX、LL−FVIII及びLL−FIXを単独で胃内カテーテルを使用して異なる処置間隔及び用量を使用して血友病A又はBマウスに経口投与する。続いてCFAの存在下で精製組み換えFVIII又はFIX抗原を用いてこれらのレシピエントマウスを抗原投与する(Mingozzi et al., 2003)。対照動物は、LL−pT1NX及びLL−OVAに曝露する。眼窩後採血により血漿を採集する。FVIII又はFIXに対する抗体の産生は、Bethesda検定(Kasper et al., 1975)を使用して、又は改変抗FVIII又は抗FIX特異的ELISA(VandenDriessche et al., 1999)を使用して異なる時間間隔で評価する。
【0140】
治療の設定では、記載されたようにFVIII又はFIXを血友病A又はBマウスに最初に免疫する(Mingozzi et al., 2003)。Bethesda検定又は抗FVIII/抗FIX特異的ELISAを使用して阻害物質の状態を経時的にモニターする。低い又は高い阻害物質力価を有するマウスは、続いてFVIII、FIX、LL−FVIII、LL−FIX単独で異なる処置間隔及び用量を使用して処置し、阻害物質の力価を経時的に求める。FVIII、FIX、LL−FVIII、LL−FIXの投与を単独で、無関係な抗原(破傷風トキソイド又はOVA)を用いて抗原投与することによって、可能な免疫寛容の特異性を評価する。
【0141】
細胞培養、増殖及びサイトカイン検定:脾臓及びリンパ節の単細胞懸濁液は、細胞に70μmフィルタ細胞ストレーナー(Becton/Dickinson Labware)を通過させることにより調製する。赤血球溶解緩衝液と共にインキュベートすることによって、脾臓細胞懸濁液から赤血球を除去する。
【0142】
総脾臓細胞集団の増殖検定、2×10個の細胞を、単独又は精製FVIII若しくはFIXと一緒のいずれかで、抗IL−10又は抗TGF−β中和モノクローナル抗体の存在下又は非存在下のいずれかで、96ウェルU底プレート中で総体積200μlの完全培地に入れて培養する。FVIII及びFIXを1μg/ml〜100μg/mlの範囲の濃度で加える。中和抗体は、1μg/ml、0.1μg/ml及び0.01μg/mlで加える。CD4T細胞及びCD4CD25T細胞集団の増殖検定のために、0.2×10個のCD4T細胞又はCD4CD25T細胞を、抗原提示細胞として作用する1×10個の放射線照射CD4細胞及びFVIII又はFIX(0μg/ml又は100μg/ml)と共に、中和抗体の存在下又は非存在下のいずれかの合計体積200μlの完全培地に入れて96ウェルU底プレート中で培養する。37℃の5%CO加湿インキュベーターに入れて72時間後に、1μCi/ウェルの[H]チミジンの添加により増殖を評価する。DNAに結合した放射能を16時間〜18時間後にガラス繊維フィルタマット(Perkin Elmer, Boston, USA)上に採集し、チミジンの取込みをシンチレーションカウンター(Perkin Elmer)で測定する。
【0143】
サイトカイン測定のために、異なる増殖検定に使用される細胞培養物の上清を培養の24時間、48時間及び72時間後に収集し、サイトカイン分析を行うまで−20℃で凍結する。サイトカイン産生は、Mouse Inflammation Cytometric Bead Array(BD Biosciences, Mountain View, CA, USA)を使用して定量化する。
【0144】
in vivo T制御性活性検定:マウスにおける抗体形成の能動的な抑制を試験するために、異なる実験のラクトコッカス・ラクティス処置群から単離した脾臓細胞、ビーズ精製CD4T細胞、CD4CD25T細胞又はCD4CD25T細胞をナイーブC3H/HeJマウスに養子移入する。未処置マウスを対照として使用する。移入された細胞数は、全脾臓細胞、亜集団枯渇脾臓細胞、又は正の選択をされたCD4細胞並びにCD4CD25T細胞及びCD4CD25T細胞について10個である。養子移入の36時間後にcFA中のhF.IX 5μgをレシピエントマウス(実験コホートあたりn=4〜5)に皮下注射した。免疫の2.5週間後に血漿中の抗hF.IX IgG力価を測定した。
【0145】
結果
LL−FVIII及びLL−IXは遊離FVIII又は遊離FIXと比較して血友病A又はBマウスにおいての寛容誘導能を有意に高める
経口寛容の誘導を研究するために、上記(実験の設定)のようにマウスに経口給餌する。LL−FVIII又はLL−FIXの添加は、FVIII及びFIXに対する寛容誘導を有意に高める。それは、対照及び遊離FVIII群又は遊離FIX群に比べてこの群において脾臓細胞の因子特異的増殖反応が有意に減少するからである。
【0146】
LL−FIIIV及びLL−FIXは、FVIII及びFIXの特異的力価とIFN−γとの減少並びに上記因子に反応したIL10及びTGF−βのより多い産生に関連して経口寛容を強化する
経口寛容の誘導を研究するために、上記(実験の設定)のようにマウスに経口給餌する。脾臓細胞及びリンパ節におけるFVIII及びFIX特異的抗体並びに上記因子に反応したサイトカインの産生は、上記のように定量化する。対照群及び遊離FVIII/IX群に比べてLL−FVIII/FIX群では、阻害物質の形成及び炎症性サイトカインであるIFN−γの産生は大幅に減少し、免疫抑制サイトカインであるIL−10及びTGF−βは有意に増加する。
【0147】
LL−FVIII/FIXはCD4T細胞を介して経口寛容を高める
CD4T細胞が経口寛容の誘導を媒介するかどうかを評価するために、脾臓細胞及びリンパ節における因子特異的増殖性CD4T細胞反応を研究する。したがって、上記(実験の設定)のようにマウスに経口給餌し、「細胞培養、増殖及びサイトカイン検定」に記載されるように因子特異的CD4T細胞増殖を求める。LL−FVIII/FIX群における因子特異的CD4 T細胞反応は、対照群及び遊離FVIII/FIX群に比べて有意に減少する。
【0148】
LL−FVIII/FIX治療後に抗原に誘導されるT制御性細胞は、in vivo阻害物質形成からの防御を伝達することができる
経口寛容プロトコルで処置されたマウスにおける抗体形成の能動的な抑制について試験するために、上記の異なる処置群からの脾臓細胞を養子移入する(in vivo T制御性活性検定)。対照及び遊離FVIII/IX群に比べて、抗因子IgGの形成はLL−FVIII/FIX群で有意に減少し、本発明者らの組み合わせ経口寛容プロトコルにおける制御性CD4T細胞の活性化を示している。
【0149】
結論
本発明者らのデータにより、組み換えFVIII又はFIX分泌ラクトコッカス・ラクティスの粘膜送達は、FVIII及びFIX特異的阻害物質の形成の抑制に関して、それぞれ血友病A及びBマウスにおいて、遊離FVIII又はFIXよりも強力であることが実証される。
【0150】
実施例D:アレルゲンDer p 1を分泌しているラクトコッカス・ラクティスを経口投与後の上記アレルゲンに対する寛容の誘導
序論
アレルギー性喘息は、気道の慢性炎症性障害である。アレルギー性喘息は、可逆性気道閉塞、アレルゲン特異的免疫グロブリンEの血清レベルの上昇、粘液の過剰分泌、及び気管支痙攣原性刺激に対する気道反応亢進(AHR)を特徴とする。その症状は、患者が感作されたアレルゲン(例えば樹木、草及び雑草の花粉、塵及び塵性ダニ、カビ、動物のフケ)への曝露により悪化する。2型Tヘルパー(Th2)リンパ球は、この疾患の発症、進行及び持続に重大な役割を果たす。現在のデータは、アレルゲンに対するTh2反応が通常は制御性T細胞により抑制されることを示唆している。さらにアレルギーを有する個体では、このサブセットによる抑制は減少する。ここで、本発明者らは、ラクトコッカス・ラクティスのアレルゲンの経口送達が、抗原特異的CD4制御性T細胞の誘導を介して喘息様反応を抑制することを実証する。
【0151】
材料及び方法
ヒト疾患を模倣するアレルギー性喘息の2つのマウスモデルは、OVAアレルゲンモデル及びヒト化SCIDモデルである。
【0152】
OVAアレルゲンモデル:ヒトアレルギー性喘息に高度に特徴的な所見であるTh2サイトカイン依存性好酸球性気道炎症、気管支反応性亢進、及びIgE産生に至るOVAエアロゾルを用いてOVA感作マウスを吸入により抗原投与する(Brusselle, 1994, Clin Exp Allergy 24:73; Kips et al. 1996, Am JRespir Crit Care Med 153:535; Brusselle et al. 1995, Am J Respir Cell Mol Biol12:254)。
【0153】
細菌:この研究にわたりラクトコッカス・ラクティスMG1363株を使用する。細菌は、GM17培地、すなわち0.5%グルコースを補充したM17(Difco Laboratories, Detroit, MI)で培養する。全ての株の懸濁原液は、GM17中の50%グリセロールに入れて−20℃で保存する。胃内接種のために、懸濁原液を新鮮GM17で500倍に希釈し、30℃でインキュベートする。これらは16時間以内に2×10コロニー形成単位(CFU)/mlの飽和密度に達する。細菌は遠心分離により採集し、BM9培地に入れて10倍に濃縮する。処置のために、各マウスは胃内カテーテルによりこの懸濁液100μlの投与を毎日受ける。
【0154】
プラスミド:Gallus gallus卵アルブミンをコードしているmRNA配列はGenbank(アクセッション番号AY223553)から検索する。総RNAはニワトリ子宮部から単離し、cDNAは、体積25μl中の総RNA 2μg、2μMオリゴdTプライマー(Promega Corporation Benelux, Leiden, The Netherlands)、0.01mM DTT(Sigma-Aldrich, Zwijndrecht, The Netherlands)、0.5mM dNTP(Invitrogen, Merelbeke, Belgium)、Rnasin(PromegaIncorporation Benelux)20U、及びsuperscript II逆転写酵素(Invitrogen)100Uを使用して合成する。OVA cDNA断片は、以下の条件を使用したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅させる:以下のフォワードプライマー及びリバースプライマーを用いて94℃2分に続いて94℃45秒、62℃30秒、及び72℃90秒を30サイクル5’−GGCTCCATCGGTGCAGCAAGCATGGAATT−3’(配列番号:17)及び5’−ACTAGTTAAGGGGAAAC−ACATCTGCCAAAGAAGAGAA−3’(配列番号:18)。
【0155】
増幅された断片は、ラクトコッカスP1プロモーター下流でエリスロマイシン耐性pT1NXベクターのUsp45分泌シグナルに融合させる。
【0156】
OVA cDNAを保有するプラスミドで形質転換したMG1363株を、LL−OVAとする。空のベクターを含有するMG1363であるLL−pTREX1を対照とする。
【0157】
OVAの定量化:LL−OVAからのOVAは社内で開発したOVA特異的酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を使用して求める。組み換えタンパク質の産生は、ウエスタンブロット分析によっても評価する。
【0158】
マウス:BALB/cマウス(6〜8週齢)は、Charles River Laboratories(Calco, Italy)から購入する。マウスは、特定病原体未感染の状態で維持する。
【0159】
マウスの免疫:水酸化アルミニウム(ミョウバン)1mg中のOVA(グレードV;Sigma-Aldrich)10μgをマウスに腹腔内免疫する。この免疫は、21日で繰り返す(0日及び21日)。対照マウスは、OVA/ミョウバン溶液の代わりに生理食塩水の注射を受ける。免疫の26日後に、感作されたマウスは、PBSに溶解した1%OVAのエアロゾル化溶液を10分間吸入する。OVAの吸入は、3日連続で行う(47日、48日及び49日)。対照マウスは実験群に使用するものと同じ条件でPBS単独を吸入する。
【0160】
経口寛容の誘導:0日〜4日、7日〜11日、14日〜18日及び21日〜25日にLL−OVA、LL−pTREX1、1μg OVA又はBM9をマウスに補給する。経口寛容誘導のための陽性対照として、胃内カテーテルによる最初の免疫OVAの30mgをマウスに給餌し、その給餌は気管支好酸球及び気道反応性亢進を減少させ、高用量給餌の方が低用量給餌よりも有効である。
【0161】
気道反応性亢進(AHR)の測定:最後の吸入(50日目)の24時間後に、メタコリン誘導性気流閉塞により気道反応性亢進を評価する。噴霧した生理食塩水(Otsuka Pharmaceutical)にマウスを2.5分曝露し、続いて漸増する用量(1mg/ml〜30mg/ml)の噴霧したメタコリンに曝露する。噴霧後にこれらのマウスを全身プレチスモグラフに2.5分入れ、Biosystem XA WBPシステム(Buxco Electronics)を使用して休止の増大(enhanced pause)(Penh)を測定する。「Penh」は肺気流閉塞を表し、次式を使用して計算される:Penh=((Te−Tr)/(Tr×PEF/PIF))(式中、Penh=休止の増大(無次元)、Te=呼気時間(秒)、Tr=緩和時間(秒)、PEF=最大呼気流量(ミリリットル/秒)、及びPIF=最大吸気流量(ミリリットル/秒)とする)。ほぼ5秒毎にPenhを測定し、平均し、累積値を各時点についてのPenhの値として平均する。気道反応性亢進はPC200Mch(メタコリン誘発濃度200%)として表現し、これは、ベースラインのPenh値を2倍にしたメタコリン濃度である。
【0162】
気管支肺胞洗浄液(BALF)の分析:気道反応性亢進の測定後に、気管支肺胞洗浄液試料を得る。過量のケタミン及びキシラジンの腹腔内注射によりマウスを麻酔し、それから生理食塩水0.5mlで4回肺を洗浄する。洗浄液を遠心分離し、1%BSAを有する生理食塩水1mlに細胞を再懸濁する。総細胞数は、血球計数器を使用して計数する。サイトスピン試料は、この懸濁液を300rpmで5分間遠心分離することによって調製する。好酸球を好中球とはっきりと識別するために、三つの異なる染色、すなわちDiff-Quick、メイ−グリュンワルト−ギムザ、及びハンセル(エオシン)染色を適用する。標準的な形態基準に基づき、少なくとも300個の白血球を光学顕微鏡により識別する。BALF中のIL−13、IL−4及びIL−5レベルは、製造業者の説明書に従ってCytometric Bead Array(BD Biosciences, Mountain View, CA, USA)により検出する。
【0163】
血清総IgE及びOVA特異的Igの測定:50日目に、麻酔下で眼窩後静脈叢(retro-orbital sinus)から血液試料を得る。試料が完全に凝固した後で、試料を遠心分離し、血清を収集し、使用まで−80℃で保存する。総IgEは、ペアAb(BD Pharmingen)を使用して製造業者の説明書に従ってELISAにより検定する。血清中のOVA特異的IgE、IgG1及びIgG2aを測定するために、マイクロタイタープレート(Maxisorp, Nunc, VWR International, Haasrode, Belgium)を2μg/ml OVAでコーティングする。続いて、ウェルをPBS中の0.1%カゼインで遮断し、その後、ヤギ抗マウスIgG2a−HRP[SouthernBiotechnology Associates (SBA), Imtec ITK Diagnostics, Antwerpen, Belgium、1:5000希釈]、ヤギ抗マウスIgG1−HRP、又はヤギ抗マウスIgE−HRP(SBA、1:5000希釈)と共に0.1%カゼイン及び0.05%Tween20を含有するPBS(PBS−CT)で1:10から1:20480に希釈したマウス血清試料と共に、そのプレートをインキュベートする。洗浄後、基質[3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)基質試薬、Pharmingen, Becton Dickinson, Erembodegem, Belgium]を各ウェルに加える。最後に、ウェルに1M HSOを加えることによって反応を停止させる。450nmで吸光度を読み取る。ELISAスコアは、計算されたカットオフ値よりも高いOD450をまだ有した最高希釈の逆数である力価として表現する。カットオフは、5匹の非免疫マウスの平均OD450にSDの3倍を加えたものとして計算する。
【0164】
肺組織の組織学的検査:肺胞洗浄液試料を得た後に、生理食塩水で肺を潅流し、マウスから切除する。この肺を中和緩衝ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋する。切片(厚さ3μm)をH&E又は過ヨウ素酸−シッフ(PAS)で染色する。肺における組織学的変化の強度は、1)上皮剥離又は気管支上皮細胞核の凹凸、2)杯細胞数の増加、3)血管から気管支及び気管支周囲間質の粘膜及び粘膜下領域への炎症細胞の浸潤、並びに4)平滑筋細胞層の肥大及び肥厚という所見の分布及び強度に従って、4つの等級スコア(0:炎症なし、1:微弱/軽度、2:中度、及び3:重度)で評価する。
【0165】
肺におけるサイトカイン及びケモカイン遺伝子発現の分析のためのRT−PCR:生理食塩水で潅流後に肺を取り出し、製造業者の説明書に従ってISOGEN(Nippon Gene)を使用して総RNAを抽出する。総RNA(10μg)は、オリゴ(dT)15プライマー(Promega)及びSuperscript II Rnase H逆転写酵素(InvitrogenLife Technologies)を使用して42℃で2時間逆転写する。各試料が同量のcDNAを含んでいたことを確認するために、β−アクチン特異的プライマーを使用して各試料のβ−アクチンcDNA濃度を最初に求める。適切なサイクル数の間増幅させることによって、これらの試料はPCR産物の量が増幅曲線の直線部に残った。PCR産物を2%アガロースゲルで電気泳動させ、臭化エチジウム染色により視覚化した。以下の特異的プライマーセットを使用してIL−13、エオタキシン、IL−10、IFN−γ及びTGF−βのレベルを求める。
βアクチンについてのセンスプライマー:5’−ACGACATGGAGAAGATCTGG−3’(配列番号:19)及び
アンチセンスプライマー:5’−TCGTAGATGGGCACAGTGTG−3’(配列番号:20)。
IL−13についてのセンスプライマー:5’−TCTTGCTTGCCTTGGTGGTCTCGC−3’(配列番号:21)及び
アンチセンスプライマー:5’−GATGGCATTGCAATTGGAGATGTTG−3’(配列番号:22)。
エオタキシンについてのセンスプライマー:5’−GGGCAGTAACTTCCATCTGTCTCC−3’(配列番号:23)及び
アンチセンスプライマー:5’−CACTTCTTCTTGGGGTCAGC−3’(配列番号:24)。
IL−10についてのセンスプライマー:5’−TACCTGGTAGGAGTGATGCC−3’(配列番号:25)及び
アンチセンスプライマー:5’−GCATAGAAGCATACATGATG−3’(配列番号:26)。
IFN−γについてのセンスプライマー:5’−CATAGATGTGGAAGAAAAGA−3’(配列番号:27)及び
アンチセンスプライマー:5’−TTGCTGAAGAAGGTAGTAAT−3’(配列番号:28)。
TGF−βについてのセンスプライマー:5’−CTTTAGGAAGGACCTGGGTT−3’(配列番号:29)及び
アンチセンスプライマー:5’−CAGGAGCGCACAATCATGTT−3’(配列番号:30)。
【0166】
細胞培養、増殖及びサイトカイン検定:最後の吸入(第50日)の1日後に、細胞に70μmフィルタ細胞ストレーナー(Becton/Dickinson Labware)を通過させることにより、脾臓及び縦隔リンパ節の単細胞懸濁液を調製する。赤血球溶解緩衝液と共にインキュベートすることにより脾臓細胞懸濁液から赤血球を除去する。それぞれCD4T細胞単離キット(Miltenyi Biotec, Germany)又はCD4CD25制御性T細胞単離キット(Miltenyi Biotec, Germany)、及びMACSカラム(midiMACS;Miltenyi Biotec)を使用して、CD4T細胞及びCD4CD25T細胞を濃縮する。
【0167】
バルク脾臓細胞集団及びLN集団の増殖検定、2×10個の細胞は、総体積200μlの完全培地に入れて、単独又は精製OVAの存在下のいずれかで96ウェルU底プレート中で培養する。OVAは1μg/ml〜100μg/mlの範囲の濃度で添加する。CD4T細胞集団及びCD4CD25T細胞集団の増殖検定のために、2×10個のCD4T細胞又はCD4CD25T細胞は、抗原提示細胞として作用する、1mg/ml OVAを16時間ロードされたマイトマイシン処理脾臓細胞と共に、CD4T細胞又はCD4CD25T細胞/APCの比が1/1、1/0.3、1/0.1、1/0.03、1/0で、合計体積200μlの完全培地に入れて96ウェルU底プレート中で16時間培養する。37℃の5%CO加湿インキュベーター中で72時間後に、1μCi/ウェルの[H]チミジンの添加により増殖を評価する。DNAに結合した放射能は、18時間後にガラス繊維フィルタマット(Perkin Elmer, Boston, USA)上に採集し、チミジンの取込みはシンチレーションカウンター(Perkin Elmer)で測定する。
【0168】
サイトカイン測定のために、異なる増殖検定に使用される細胞培養物の上清を培養の24、48及び72時間後に収集し、サイトカイン分析を行うまで−80℃で凍結する。サイトカイン産生は、Mouse Inflammation Cytometric Bead Array(BD Biosciences, Mountain View, CA, USA)を使用して定量化する。
【0169】
in vivo T制御性活性の検定:最後の吸入(第21日)の1日後に、処置マウスの脾臓を0.1%コラゲナーゼ(Sigma-Aldrich)を用いて37℃で20分間消化する。一部の実験では、全脾臓細胞の単細胞懸濁液を調製し、ConA(2μg/ml;Sigma-Aldrich)と共に48時間培養する。細胞を収集し、10個の細胞をナイーブBALB/cマウスに静脈内養子移入する。負の選択のために、ビオチン化抗マウスCD4、CD8、CD11c、CD19及びCD11bmAb(BD Pharmingen)を有する磁気ビーズ(MACS; MiltenyiBiotec)を製造業者の説明書に従って使用して、全脾臓細胞からCD4、CD8、CD11c、CD19又はCD11b細胞を枯渇させる。枯渇の効率は、フローサイトメトリーにより調べる(>99%)。CD4T細胞単離キット、制御性T細胞単離キットを製造業者の説明書に従って使用してCD4細胞、CD4CD25細胞を精製する。正の選択をされた細胞の純度は、フローサイトメトリーを使用してチェックする。細胞移入実験のために、OVA/ミョウバンを用いたそれらの最初の免疫の直前又はそれらの2回目の免疫の直後にBALB/cマウスに尾静脈から細胞を移入する。移入された細胞数は、全脾臓細胞、亜集団枯渇脾臓細胞、又は正の選択をされたCD4細胞及びCD4CD25細胞について10個である。
【0170】
ヒト化SCID(hu−SCID)モデルにおいて(Duez et al., 2000; Hammad et al., 2000に記載された通り)
このモデルでは、屋内塵性ダニ(HDM)アレルゲンであるDer p 1に対するアレルギー性免疫反応を研究することができる。HDMアレルギー患者からのPBMCを用いて腹腔内再構成し、続いてHDMエアロゾルに曝露した該hu−SCIDマウスはヒトIgEを産生し、活性化T細胞及びDCから成る肺浸潤液を発生し、気管支収縮剤に反応してAHRを示す(Pestel et al. 1994, J Immunol, 153:3804; Duez et al., Am J RespirCrit Care Med, vol 161 , ppp 200-206, 2000)。
【0171】
細菌
この研究にわたりラクトコッカス・ラクティスMG1363株を使用する。細菌は、GM17培地、すなわち0.5%グルコースを補充したM17(Difco Laboratories, Detroit, MI)で培養する。全ての株の懸濁原液は、GM17中の50%グリセロールに入れて−20℃で保存する。胃内接種のために、懸濁原液を新鮮GM17で200倍に希釈し、30℃でインキュベートする。これらは16時間以内に2×10コロニー形成単位(CFU)/mlの飽和密度に達した。細菌を遠心分離により採集し、BM9培地に入れて10倍に濃縮する。処置のために、各マウスは胃内カテーテルによりこの懸濁液100μlの投与を毎日受ける。
【0172】
プラスミド
222アミノ酸残基の球状糖タンパク質であるDer p 1は、Dermatophagoides pteronyssinus(Dpt)ダニ由来の主要アレルギンの一つである。Der p 1タンパク質をコードしている、最適のラクトコッカス・ラクティスコドン利用を有するDNA配列を合成し、増幅させ、ラクトコッカスP1プロモーターの下流でエリスロマイシン耐性pT1NXベクターのUsp45分泌シグナルに融合させる。Der p 1、Der p 1 aa52−71及びDer p 1 aa117−133cDNAを保有するプラスミドで形質転換したMG1363株を、LL−Der p 1、LL−Der p 1 aa52−71及びLL−Der p 1 aa117−133とする。空のベクターpT1NXを含有するMG1363であるLL−pT1NXを対照とする。
【0173】
Der p 1の定量化
LL−Der p 1由来のDer p 1は、社内で開発したDer p 1特異的酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を使用して求める。組み換えタンパク質の産生は、ウエスタンブロット分析によっても評価する。
【0174】
患者
血液は、屋内塵性ダニに感受性又は非感受性のドナーから収集する。アレルギー患者は、屋内塵性ダニ感作の通常の特徴を提示する。Dermatophagoides pteronyssinus(Dpt)アレルゲンに関する皮膚穿刺試験(Stallergenes, Fresnes, France)(直径≧10mm)は陽性であり、全ての患者は血清中特異的IgE抗体を有する。総IgE濃度は150IU/ml(150〜1600IU/ml)を超える。健康なドナーは陰性対照として試験する(合計IgEレベルは150IU/ml未満であり、彼らは通常に吸入されたアレルギンに関して陰性の皮膚穿刺試験を有する)。
【0175】
ヒト末梢血単核細胞の調製
遠心分離(120×g、15分間)後に血小板に富む血漿を得て、捨てる。それから血球をRPMI1640(Life Technologies, Paisley, Scotland)(vol/vol)で希釈し、Ficoll勾配(Pharmacia, Uppsala, Sweden)の上に層化する。遠心分離(400×g、30分間)後に、界面でPBMCを採集し、滅菌RPMI培地で3回洗浄してから移し替える。
【0176】
マウス
C.B.−17 SCIDマウス(6〜8週齢)を、特定動物施設の中で無菌床敷を有する隔離飼育器で維持する。ELISAによりマウス血清免疫グロブリンの非存在についてSCIDコロニーを定期的にチェックする。
【0177】
SCIDマウスへの末梢血単核細胞の移入:PBMC hu−SCIDマウス
SCIDマウスは、細胞移入時に6〜8週齢である。アレルギー患者又は健康ドナーからの単核細胞10×10個をRPMI 400μlに入れたものを23ゲージの針を通して腹腔内注射することにより、マウスを再構成する。同じ日に、これらのマウスに2反応性指数[IR]ユニットのDptの投与を腹腔内で受けさせる。細胞の再構成の4日後に、100IRユニットのDpt(100IRユニットはDpt抽出物に含まれるタンパク質約200μgに等しい)を含むアレルゲンエアロゾルにSCIDマウスを連続4日間毎日曝露する(第0日から第4日)。対照群はDptに曝露しない。気道反応性の測定(第35日及び第60日)の1日前に、100IRユニットのDpt溶液の別のエアロゾルにhu−SCIDマウスを曝露する。
【0178】
実験の設定
Der p 1又は陰性対照として無関係の抗原(OVA)を発現するように遺伝子操作されたラクトコッカス・ラクティスの投与をマウスに受けさせる。
遺伝子操作されたラクトコッカス・ラクティス細菌は、PBMC再構成の1日後に開始して、異なる処置間隔及び用量を用いて胃内カテーテルを使用してSCIDマウスに経口投与する。経口寛容の誘導は、ヒト血清IgE抗体の測定、肺浸潤の分析、AHRの測定、並びにBALF中の細胞集団及びサイトカイン産生の分析により評価する。さらに、寛容の誘導は、Der p 1に対する増殖T細胞反応の分析により評価する。
【0179】
気道反応性(AHR)の評価
気道反応性(肺抵抗の50%の増加を引き起こすカルバコールの誘発用量として表現)は、Duez et al.,2000により記載されたように第35日又は第60日に測定する。
【0180】
ヒトIgEの測定
ヒト細胞の移植の数日後に、エーテル麻酔下でマウスの眼窩後静脈叢から採血する。ε鎖に特異的な二つの異なるマウスmAb(Immunotech International, Luminy, France)を使用して二部位免疫放射法により総ヒトIgEを研究する。少なくとも20μlの血清を2回繰り返しの試験に使用する。方法の感度は、0.1IUiml(0.24ng/ml)の検出を許容する。
【0181】
Dptアレルゲンに対する特異的IgE Abは、ELISAにより定量化する。簡潔には、0.1M炭酸/重炭酸バッファー(pH9.6)中のDptアレルゲンでプラスチック試験管(Maxisorb Startube, Nunc, Denmark)を4℃で一晩コーティングし、0.1M PBS(pH7.4)中の1%BSAで室温で2時間飽和させる。洗浄後、BSA(1%)及びTween(0.01%)を含むPBSで希釈したHu−SCIDマウス血清と共に試験管を室温で2時間、及び4℃で一晩インキュベートする。大規模に洗浄後、HRP標識化抗ヒトIgE Abを加える。洗浄後、基質[3,3’,5,5’テトラメチルベンジジン(TMB)基質試薬、Pharmingen, Becton Dickinson, Erembodegem, Belgium]を各ウェルに加える。最後に、ウェルに1M HSOを加えることによって反応を停止する。吸光度を450nmで読み取る。
【0182】
肺の組織検査
肺を35日目に切除し、パラホルムアルデヒド中で固定し、パラフィン包埋用に加工する。パラフィン組織切片は、ヒトCD45細胞の検出用に染色し、その後、マウス肺切片上のヒト細胞は、Duez et.al.,2000に記載されたように組織スコア付けにより定量化した。
【0183】
気管支肺胞洗浄液(BALF)の分析
OVAアレルゲンモデルに記載したようにBALFを分析する。
【0184】
細胞培養、増殖及びサイトカイン検定:
脾臓の単細胞懸濁液は、細胞に70μmのフィルタ細胞ストレーナー(Becton/Dickinson Labware)を通過させることによって調製する。赤血球は、赤血球溶解バッファーと共にインキュベートすることによって脾臓細胞懸濁液から除去する。CD4T細胞及びCD4CD25T細胞は、それぞれヒトCD4T細胞単離キット(Miltenyi Biotec, Germany)又はヒトCD4CD25制御性T細胞単離キット(Miltenyi Biotec, Germany)、及びMACSカラム(midiMACS;Miltenyi Biotec)を使用して濃縮する。
【0185】
バルク脾臓細胞の増殖検定、2×10個の細胞は、単独又は精製Der p 1存在下のいずれかで、且つ抗IL−10又は抗TGF−β中和モノクローナル抗体の存在下又は非存在下のいずれかの合計体積200μlの完全培地に入れて96ウェルU底プレート中で培養する。Der p 1は、1〜100μg/mlの範囲の濃度で加える。中和抗体は、1、0.1及び0.01μg/mlで加える。ヒトCD4T細胞及びヒトCD4CD25T細胞集団の増殖検定のために、2×10個のCD4T細胞又はCD4CD25T細胞は、中和抗体の存在下又は非存在下のいずれかの合計体積200μlの完全培地に入れて、抗原提示細胞として作用する、1mg/ml Der p 1を16時間ロードされたマイトマイシン処理ヒトPBMCと共に、CD4T細胞又はCD4CD25T細胞/APCの比が1/1、1/0.3、1/0.1、1/0.03、1/0で96ウェルU底プレート中で培養する。37℃の5%CO加湿インキュベーター中で72時間後に、1μCi/ウェルの[H]チミジンの添加により増殖を評価する。DNAに結合した放射能は、18時間後にガラス繊維フィルタマット(Perkin Elmer, Boston, USA)上に採集し、チミジンの取込みは、シンチレーションカウンター(Perkin Elmer)で測定する。
【0186】
サイトカイン測定のために、異なる増殖検定に使用される細胞培養物の上清を培養の24時間、48時間及び72時間後に収集し、サイトカイン分析を行うまで−80℃で凍結する。サイトカイン産生は、ヒト炎症サイトメトリービーズ検定(BD Biosciences, Mountain View, CA, USA)を使用して定量化する。
【0187】
結果
LL−OVA及びLL−Der p 1はそれぞれ、喘息についてのOVAモデル及びhuSCIDマウスモデルにおける寛容誘導能を有意に高める
経口寛容の誘導を研究するために、上記(実験の設定)のようにマウスに経口補給する。LL−OVA/Der p 1の添加はOVA/Der p 1への寛容誘導を有意に高める。それは、対照群及び遊離OVA/Der p 1群に比べてLL−OVA/Der p 1群において脾臓細胞のアレルゲン特異的増殖反応が有意に減少するからである。
【0188】
LL−OVA/Der p 1は、上記アレルゲンに反応したAHR、好酸球浸潤、血清IgEレベルの減少、並びにIL−13、IL−4及びIL−5サイトカイン産生の低下と関連して経口寛容を強化する。
経口寛容の誘導を研究するために、上記(実験の設定)のようにマウスに経口補給する。上記抗原に反応したAHR、好酸球のBALF浸潤、IgE力価、及びサイトカイン産生を上記のように求める。LL−OVA/Der p 1群では、対照及び遊離OVA/Der p 1群に比べてAHR、好酸球BALF浸潤、IgE力価は大きく減少し、IL−13、IL−4及びIL−5は有意に低下する。
【0189】
LL−OVA/Der p 1はCD4T細胞を介して経口寛容を高める
CD4 T細胞が経口寛容の誘導を媒介するかどうかを評価するために、脾臓細胞及びリンパ節におけるアレルゲン特異的増殖性CD4 T細胞反応を研究する。したがって、上記(実験の設定)のようにマウスに経口補給し、「細胞培養、増殖及びサイトカイン検定(Cellculture, proliferation and cytokine assay)」に記載されるようにアレルゲン特異的CD4T細胞増殖を求める。LL−OVA/Der p 1群におけるアレルゲン特異的CD4 T細胞反応は、対照群及び遊離OVA/Der p 1群に比べて有意に減少する。
【0190】
LL−OVA治療後に抗原に誘導されたT制御性細胞は、喘息様反応からの防御をin vivoで伝達することができる
経口寛容プロトコルで処置されたマウスにおける喘息様反応の能動的な抑制について試験するために、上記(in vivo T制御性活性検定)の異なる処置群由来の脾臓細胞を養子移入する。対照群及び遊離OVA群と比べて、喘息様反応は、LL−OVA群において有意に減少しており、これは、本発明者らの組み合わせ経口寛容プロトコルにおける制御性CD4T細胞の活性化を示している。
【0191】
結論
本発明者らのデータにより、アレルゲン分泌ラクトコッカス・ラクティスの粘膜送達は、過敏性が確立された設定であっても、抗原特異的CD4制御性T細胞の誘導を介してアレルゲン特異的免疫寛容を誘導するのに遊離アレルゲンよりも強力であることが実証される。
【0192】
実施例E:BLG食物アレルゲンを分泌しているラクトコッカス・ラクティスの経口投与後の該食物アレルゲンに対する寛容の誘導
【0193】
導入
食物アレルギーは、人口の約2%から5%を苦しめる疾患である。ヒトでは、高いIgE抗体及びIL−4産生抗原特異的Tリンパ球の存在はTh2偏向メカニズムを示唆する。ここで、食物アレルゲンの経口送達が、抗原特異的CD4制御性T細胞の誘導を介してアレルゲン特異的免疫反応を抑制することを実証する。
【0194】
実施例に対する材料及び方法
細菌及びプラスミド
ラクトコッカス・ラクティスMG1363株をこの研究にわたり使用する。細菌は、GM17培地、すなわち0.5%グルコースを補充したM17(Difco Laboratories, Detroit, MI)で培養する。全ての株の懸濁原液は、GM17中の50%グリセロールに入れて−20℃で保存する。胃内接種のために、懸濁原液を新鮮GM17で200倍に希釈し、30℃でインキュベートする。それらは、16時間以内に2×10コロニー形成単位(CFU)/mLの飽和密度に達する。遠心分離により細菌を採集し、BM9培地に入れて10倍に濃縮する。処置のために、胃内カテーテルによりこの懸濁液の100μLの投与を各マウスに毎日受けさせる。ウシβ−ラクトグロブリンcDNAを増幅させ、ラクトコッカスP1プロモーターの下流でエリスロマイシン耐性pT1NXベクターのUsp45分泌シグナルに融合させる。マウスBLGを保有するプラスミドを用いて形質転換されたMG1363株は、LL−BLGと呼ぶ。空のベクターpT1NXを含むMG1363であるLL−pT1NXは対照として役立つ。
【0195】
ウシβ−ラクトグロブリン(BLG)の定量化
LL−BLG由来のBLGは、社内で開発したBLG特異的酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)及びウエスタンブロット分析を使用して求める。
【0196】
実験の設定
ラクトコッカス・ラクティスの防御効果を探求するために使用する食物アレルギーのマウスモデルは、Frossard et al.,(J Allergy Clin Immunol113:958-964, 2004)に記載された食物誘導IgE型反応のマウスモデルである。マウスは、LL−BLG又は陰性対照として無関係の抗原(OVA)の投与を受ける。寛容誘導の陽性対照として、飲料水に入れた高用量のBLGの投与をマウスに受けさせ、その飲料水はBLGの経口抗原投与の際のアナフィラキシーからマウスを予防する。
【0197】
予防の設定では、BLGを産生するように遺伝子操作をされたラクトコッカス・ラクティス細菌を、異なる処置間隔及び用量を用いて、胃カテーテルを使用してマウスに経口投与する。その後、コレラ毒素の存在下で、精製BLG抗原を用いてこれらのレシピエントマウスを経口抗原投与する。BLGを発現せず(代わりにOVAを発現する)対照ベクターで遺伝子操作されたラクトコッカス・ラクティスに対照動物を曝露する。寛容の誘導は、胃内抗原投与後のアナフィラキシーの分析により、血清及び便中のBLG特異的IgG1、IgG2a及びIgE力価の測定により、脾臓及びPP中の抗体分泌細胞数を求めることにより、MLN、PP及び脾臓におけるT細胞増殖及びサイトカイン産生の分析により評価する。
【0198】
BLGへの免疫寛容の誘導がラクトコッカス・ラクティスにより高まり得るかどうかを評価するために、LL−BLG又は1μgの遊離BLGをマウスに投与する。
【0199】
BLGに対する経口感作
0.2mol/L NaHCO中のBLG(Sigma)20mg及びList Biological Laboratoriesから購入したCTX10μgを、0日目、7日目、14日目及び21日目に4〜5週齢雌性C3H/HeOuJマウス(Charles River)に胃内強制投与により免疫する。陽性対照群(寛容化マウス)は飲料水に入れた0.8mg/mL BLGを4週間自由に与えられる。与えるタンパク質の合計量(22.4mg)は感作されたマウスに投与されたBLGの合計量と類似している。この寛容化手順が永続的に末梢性免疫系も活性化し、粘膜免疫系だけを活性化するわけではないことを実証するために、ミョウバン1mgに吸着させたBLG80μgを寛容化マウスの群に第28日及び第42日に2回腹腔内注射する。
【0200】
抗原の抗原投与
第28日に、0.2mol NaHCO 0.4mL中のBLG100mgを用いて全てのマウスを胃内強制投与により抗原投与する。アナフィラキシーを観察し、他(Frosssard et al., 2001)に詳細に記載された反応スコア(0:無反応〜3:重度の反応又は死亡)を使用することにより等級分けする。中核体温は、抗原投与前及び強制投与の30分後に耳で赤外線により測定する。動物を屠殺し、心穿刺により血液をEDTA含有試験管に収集し、市販のELISAキット(Immunotech, Marseille, France)によるヒスタミン測定のために血漿を得る。
【0201】
細胞培養、増殖及びサイトカイン検定
脾臓、腸間膜リンパ節及びPPの単細胞懸濁液は、Frossard et al.,2004により記載されたように調製する。CD4T細胞及びCD4CD25T細胞は、それぞれCD4T細胞単離キット(Miltenyi Biotec, Germany)又はCD4CD25制御性T細胞単離キット(Miltenyi Biotec, Germany)及びMACSカラム(midiMACS、MiltenyiBiotec)を使用して濃縮する。
【0202】
バルク脾臓細胞及びLN集団の増殖検定、2×10個の細胞は、単独又は精製BLGの存在下のいずれかで、且つ抗IL−10又は抗TGF−β中和モノクローナル抗体の存在下又は非存在下のいずれかの合計体積200μlの完全培地に入れて96ウェルU底プレート中で培養する。BLGは1〜100μg/mlの範囲の濃度で加える。中和抗体は、1、0.1及び0.01μg/mlで加える。CD4T細胞及びCD4CD25T細胞集団の増殖検定のために、2×10個のCD4T細胞又はCD4CD25T細胞は、抗原提示細胞として作用する、1mg/ml BLGを16時間ロードされたマイトマイシン処理脾臓細胞と共に、CD4T細胞又はCD4CD25T細胞/APCの比率が1/1、1/0.3、1/0.1、1/0.03、1/0で、中和抗体の存在下又は非存在下のいずれかの合計体積200μlの完全培地に入れて96ウェルU底プレート中で培養する。37℃の5%CO加湿インキュベーター中で37℃で72時間後に、1μCi/ウェル[H]チミジンの添加により増殖を評価する。DNAと結合した放射能は、18時間後にガラス繊維フィルタマット(Perkin Elmer, Boston, USA)上に採集し、チミジンの取込みは、シンチレーションカウンター(Perkin Elmer)で測定する。
【0203】
サイトカイン測定のために、異なる増殖検定に使用される細胞培養物の上清を培養の24時間、48時間及び72時間後に収集し、サイトカイン分析を行うまで−80℃で凍結する。サイトカイン産生は、マウス炎症サイトメトリビーズ検定(BD Biosciences, Mountain View, CA, USA)を使用して定量化する。
【0204】
in vivo T制御性活性の検定
マウスにおける抗体形成の能動的な抑制について試験するために、異なる実験のラクトコッカス・ラクティス処置群から単離した脾臓細胞、ビーズ精製CD4T細胞、CD4CD25T細胞又はCD4CD25T細胞をナイーブC3H/HeOuJマウスに養子移入する。未処置マウスは対照として使用する。移入した細胞数は、全脾臓細胞、亜集団を枯渇させた脾臓細胞、又は正の選択をされたCD4細胞並びにCD4CD25T細胞及びCD4CD25T細胞について10個である。Tregが関係しているならば、BLG抗原を用いたこれらのマウスのその後の抗原投与は、BLGに対する体液性免疫反応及びアナフィラキシーの誘導を予防するはずである。
【0205】
BLG特異的な血清抗体及び便抗体についての酵素結合免疫吸着検定
0日目、7日目、14日目、21日目及び28日目の尾採血から血清を得る。同時に便を得て、ペプスタチン1:1000(Fluka)を0.1mg/mL補充したPBS+1%FCS(Lifetechnologies)に再懸濁する。試料を機械的に脱凝集させ、2分間ボルテックス処理し、続いて14000rpmで4℃で20分間、2回の遠心分離を行う。
【0206】
Adel-Patientet al.,(2000, J. Immunol Methods)から改良した方法により、BLG特異的IgE、IgG1、IgG2a及び/又はIgA抗体レベルについて血清及び便を評価する。簡潔には、MaxiSorpマイクロタイタープレート(Nunc)に250ng/ウェルのストレプトアビジン(Fluka)を室温で18時間、続いてポリビニルピロリドンK25(Fluka)溶液300μLを一晩コーティングする。ビオチン化BLG 1μgを3時間インキュベートし、0.5μg/mLヤギ抗マウスIgA、ラット抗マウスIgG1、又は抗マウスIgG2aペルオキシダーゼ標識抗体(Southern Biotechnologies)の存在下でPBS+10%ウマ血清中で希釈した血清(IgG1について1:6666及び1:2222、IgG2aについて1:666及び1:222、IgEについて1:66及び1:22)又は便(1:3、1:10、及び1:33)を、2回の繰り返しで2時間加える。IgEの測定のために、ラット抗マウスIgEモノクローナルAb(クローンR35−72、BD Pharmingen)に続いてペルオキシダーゼ結合抗ラットAb(Caltag)を加える。吸光度を490nmで測定する。結果は任意の単位として表現し、BLG+ミョウバンで免疫されたマウス由来のプール血清を基準血清として使用する。
【0207】
抗原特異的抗体の産生ELISPOTにより測定する
腸管からパイエル板を機械的に切除し、5mmol EDTA(Life Technologies)を補充したHBSS培地中で30分間インキュベートする。同様に、パイエル板及び腸間膜リンパ節を穏やかに破砕し、70mのナイロンフィルタを通して濾過する。脾臓細胞は、トリス緩衝NHCl中で5分間予備インキュベートして赤血球を除去する。リンパ芽球は、Percollの60%/66%勾配(Amersham)で単離する。
【0208】
BLG特異的IgG1、IgG2a及びIgA抗体の測定のために、ELISPOTプレート(Millipore)にストレプトアビジンを37℃で一晩コーティングし、続いてビオチン化BLG 1μgを3時間加える。Percollの60%/66%勾配で単離したリンパ芽球は、ペニシリン、ストレプトマイシン、L−グルタミン、ゲンタマイシン、ポリミキシンB及び5%FCSを補充したイスコフ改変ダルベッコ培地中で二つの異なる濃度、すなわち1×10個及び2×10個で37℃で24時間再懸濁し、続いて抗IgA、抗IgG1及び抗IgG2a抗体(Southern Biotechnology)と共に4℃で一晩インキュベートする。100μL/ウェルのアミノエチルカルバゾールを10分間加え、KS ELISPOT4.2.1ソフトウェア(Zeiss)を使用してスポットを自動計数し、細胞10個あたりの細胞形成単位(CFU)として表わす。
【0209】
食物アレルギーのマウスモデルにおいてLL−BLGがBLGの寛容誘導能を有意に高める
経口寛容の誘導を研究するために、上記(実験の設定)のようにマウスに経口補給する。LL−BLGの添加はBLGへの寛容誘導を有意に高める。それは、LL−BLG群における脾臓細胞のアレルゲン特異的増殖反応は対照群及び遊離BLG群に比べて有意に減少するからである。
【0210】
LL−BLGは、BLG特異的抗体反応の減少及び上記アレルゲンに反応したIL−4サイトカイン産生の低下に関連する経口寛容を強化する
経口寛容の誘導を研究するために、上記(実験の設定)のようにマウスを経口補給する。BLG特異的抗体反応及び上記因子に反応したサイトカイン産生は上記のように求める。LL−BLG群におけるBLG特異的抗体レベル及びIL−4は、対照群及び遊離BLG群に比べて有意に低下する。
【0211】
結果
LL−BLGは、CD4T細胞を介して経口寛容を高める
CD4 T細胞が経口寛容の誘導を媒介するかどうかを評価するために、脾臓細胞及びリンパ節におけるアレルゲン特異的増殖性CD4 T細胞反応を研究する。したがって、上記(実験の設定)のようにマウスに経口補給し、「細胞培養、増殖及びサイトカイン検定」に記載されるようにアレルゲン特異的CD4T細胞増殖を求める。LL−BLG群におけるアレルゲン特異的CD4 T細胞反応は、対照群及び遊離BLG群に比べて有意に減少する。
【0212】
LL−BLG治療後に抗原に誘導されるT制御性細胞はin vivoアレルギー様反応からの防御を伝達することができる
経口寛容プロトコルで処置したマウスにおけるアレルギー様反応の能動的な抑制について試験するために、上記(in vivo T制御性活性検定)の異なる処置群からの脾臓細胞を養子移入する。遊離BLG群におけるアレルギー様反応は、対照群及び遊離BLG群に比べて有意に減少し、これは、本発明者らの組み合わせ経口寛容プロトコルにおける制御性CD4T細胞の活性化を示している。
【0213】
結論
本発明者らのデータにより、アレルゲン分泌ラクトコッカス・ラクティスの粘膜送達は、抗原特異的CD4制御性T細胞の誘導を介してアレルゲン特異的免疫寛容を誘導するのに遊離アレルゲンよりも強力であることが実証される。
【0214】
実施例F:上記自己抗原を分泌しているラクトコッカス・ラクティスを経口投与後の、インスリンに対する寛容性の誘導
導入
自己免疫は、自発性の炎症性組織損傷及び自己抗原に対する寛容の欠如に起因する生理学的機能不全を特徴とする。自己免疫は、部分的に活動しすぎる免疫系と関連し、その免疫系は、過剰のTヘルパー(Th)細胞を特徴とする。感受性遺伝子等の素因及び環境因子は影響することが困難であるため、免疫療法を開発する近年の努力は、病原性エフェクター細胞を枯渇させ、且つ/又は免疫制御性T細胞を高めることにより、病原性エフェクター細胞と免疫制御性T細胞との間の機能的均衡を再確立することに向けられている。膵島β細胞の自己免疫性破壊は、1型糖尿病(T1D)の主要な原因である。この破壊は、幾つかのβ細胞自己抗原に対する細胞性及び体液性免疫反応と関連し、両方の免疫反応が疾患の臨床的発症に先行することがある。
【0215】
ここでは、ラクトコッカス・ラクティスを送達する自己抗原の経口送達が、抗原特異的CD4制御性T細胞の誘導により糖尿病特異的免疫反応を抑制することを実証する。
【0216】
材料及び方法
細菌及びプラスミド
この研究全体にわたりラクトコッカス・ラクティスMG1363株を使用する。細菌は、GM17培地、すなわち0.5%グルコースを補充したM17(Difco Laboratories, Detroit, MI)で培養する。全ての株の懸濁原液は、GM17中の50%グリセロールに入れて−20℃で保存する。胃内接種のために、懸濁原液を新鮮GM17で200倍に希釈し、30℃でインキュベートする。それらは、16時間以内に2×10コロニー形成単位(CFU)/mLの飽和密度に達する。遠心分離により細菌を採集し、BM9培地に入れて10倍に濃縮する。処置のために、胃内カテーテルによりこの懸濁液100μLの投与を各マウスに毎日受けさせる。ヒトプロインスリンII B24−C36ペプチド(hpIIp)、ブタインスリン及び免疫優性ペプチドInsB9−23(B9−23は、ヒト、ラット及びマウスという多種にわたり本質的に同一である)をコードしている、最適のラクトコッカス・ラクティスコドン利用を有するDNA配列を合成し、増幅させ、ラクトコッカスP1プロモーターの下流で、エリスロマイシン耐性pT1NXベクターのUsp45分泌シグナルに融合させる。
【0217】
マウスIL−10、hpIIp、インスリン、InsB9−23を保有するプラスミドを用いて形質転換されたMG1363株は、LL−hpIIp、LL−インスリン、LL−InsB9−23と呼ぶ。空のベクターpT1NXを含むMG1363であるLL−pT1NXは対照として役立つ。これらのタンパク質の発現は、抗原特異的ELISA及びウエスタンブロット分析を使用して求める。
【0218】
マウス
雌性及び雄性非肥満糖尿病(NOD)マウス及びNOD重度複合免疫不全(SCID)(BALB/cバックグラウンド)マウスは、Jackson laboratoryから購入する。BALB/c野生型(WT)マウスは、CharlesRiver Italyから購入する。マウスは、特定病原体を除去した中央動物施設で維持する。施設のガイドラインに沿ってマウスを処置及び使用する。
【0219】
実験の設定
予防の設定では、LL−hpIIp、LL−インスリン、LL−InsB9−23を、21日齢(離乳)から開始して、最適な補給方式を使用して、又は(大部分のマウスが糖尿病を発症する)100日齢までNODマウスに経口投与する。加えて、LL−pT1NXを陰性対照として経口投与する。陽性(寛容化)対照群について、3週齢のNODマウスをヒトインスリンhpIIp/InsB230.8mgで週3回2週間又は4週間経口投与する。糖尿病の発症は、週3回及び血中グルコースレベルの糖尿モニタリングの場合に、尿グルコースレベルの連続モニタリングにより求める。12〜23週及び実験の終了時(35週)に膵臓を収集し、連続切片をヘマトキシリン/エオシンで染色し、単核細胞の浸潤を評点するか、又は免疫組織化学によりT細胞の浸潤を分析する。
【0220】
治療の設定では、LL−hpIIp、LL−インスリン、LL−InsB9−23を、安定した糖尿及び高血糖を示している糖尿病NOD雌に経口投与する(12〜23週)。加えて、陰性対照としてLL−pT1NXを経口投与する。陽性(寛容化)対照群について、Bresson et al.,2006に記載されたように糖尿病NODマウスを処置する。完全寛解は、糖尿の消失及び正常血糖への復帰と定義する。
【0221】
同系膵島移植の設定においては、発症間際の糖尿病の雌NODマウスをLL−hpIIp、LL−インスリン、LL−InsB9−23で、又は陰性対照としてLL−pT1NXで3週間経口処理する。3週間後、非糖尿病NODマウスから新鮮分離した500個の膵島細胞を糖尿病NODマウスに移植する。次に血中グルコースを糖尿病が再発するまで、又は移植後15週間、週に3回モニタリングする。グルコースレベルが2回連続して≧250mg/dLの動物は糖尿病と見なし、続いて血清回収及び移植片の組織学的分析のために屠殺する。
【0222】
寛容誘導の詳細なメカニズムは、in vitroで、特異的自己抗原をNODマウスに再抗原投与後にin vivoで、及びNOD−SCIDマウスにT細胞を養子移入することにより分析する。
【0223】
糖尿病の検出:
グルコースのモニタリング:尿グルコースはDiastix(Miles)により測定し、血中グルコースモニタリングシステムOneTouch Ultra(LifeScan Inc.)を用いた血中グルコース測定により確認する。糖尿病は、250mg/dlを超える2回の連続する血中グルコース値として定義する。
【0224】
膵島炎:マウスは、COを用いた窒息により屠殺し、膵臓を10%ホルマリン中で一晩固定し、パラフィンに包埋し、5μmの連続切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色する。膵島炎スコア(平均±SD)は、以下のように10〜15膵島/マウスにおける細胞浸潤度を顕微鏡で等級分けすることにより求める:0:膵島浸潤の徴候はみられない、1:膵島周囲への浸潤、2:<50%の浸潤、3:>50%の浸潤。
【0225】
膵島単離及び移植:膵島炎及び糖尿病を有しない14日齢〜21日齢のドナーNODマウスの膵島を、膵腺をハンクス平衡塩溶液中で激しく振盪しながらコラゲナーゼで消化することによる無菌(asceptic)除去後に単離する。膵島単離は、実体顕微鏡下での直接のハンドピッキングにより実行する。糖尿病レシピエントNODマウスをavertin(0.02ml/g BWT)の腹腔内注射により麻酔し、左腎を腰部切開により露出させ、新鮮分離した500個の膵島細胞を腎被膜下に入れた。
【0226】
免疫組織化学
膵臓β細胞におけるインスリン、CD4及びCD8の発現を検出するために、一次Ab(Dakoからのモルモット抗ブタインスリン[希釈1:300]、抗CD4 RM4.5、及びBDBiosciencesからの抗CD8a IHC[希釈1:50])を、Christen et al.,2004に記載されたように凍結組織切片に適用する。
【0227】
in vitro増殖検定
脾臓、腸間膜LN(MLN)及びPLNの単細胞懸濁液を調製する。総脾臓細胞集団の増殖検定、2×10個の細胞は、完全培地単独あるいは段階濃度(1μg/ml〜100μg/ml)の精製ヒトインスリン又はCD4 T細胞(InsB9−23、(H−2又はH−2拘束性)若しくはCD8 T細胞(InsB15−23、K拘束性)(Sigma)に特異的なペプチドの存在下で、且つ抗IL−10又は抗TGF−β中和モノクローナル抗体の存在下又は非存在下のいずれかの合計体積200μlの完全培地に入れて、96ウェルU底プレート中で培養する。中和抗体は、1、0.1及び0.01μg/mlで加える。総CD3T細胞、CD8T細胞、CD4T細胞及びCD4CD25T細胞集団の増殖検定のために、0.2×10個のT細胞は、インスリン又はGAD65又はCD4T細胞若しくはCD8T細胞に特異的なペプチドをロードされたWT BALB/cマウスからの照射した脾臓細胞1×10個と共に、中和抗体の存在下又は非存在下のいずれかの合計体積200μl完全培地に入れて96ウェルU底プレート中で培養する。37℃の5%CO加湿インキュベーター中で72時間後に、1μCi/ウェルの[H]チミジンの添加により増殖を評価する。DNAに結合した放射能を16〜18時間後にガラス繊維フィルタマット(Perkin Elmer, Boston, USA)上に採集し、シンチレーションカウンター(Perkin Elmer)でチミジンの取込みを測定する。T細胞は、CD3、CD4又はCD8単離キット(MACS、Milteny Biotec, Auburn, CA)を使用した磁気ビーズ分離による負の選択によりPLN又は脾臓から精製する。CD4T細胞は、総細胞として使用するか、又はCD25単離キット(Milteny Biotec)を使用したMACSによりCD25及びCD25にさらに分離する。細胞集団の純度(>90%)は、フローサイトメトリー分析により求める。
【0228】
サイトカイン測定のために、上記の異なる増殖検定(抗原特異的刺激)に使用される細胞培養物の上清を培養の72時間後に収集し、サイトカイン分析を行うまで−80℃で凍結する。サイトカイン産生は、マウス炎症サイトメトリービーズ検定(BD Biosciences, Mountain View, CA, USA)を使用して定量化する。精製CD3T細胞、CD4T細胞又はCD8T細胞を培養し、それらの細胞を抗CD3/抗CD28混合物(各1μg/ml)で24時間in vitroで非特異的に刺激するか、又は対照として未刺激のままとする。上清を採集し、BD(商標)サイトメトリービーズ検定フレックスセットをBD FACSArray Bioanalyzerで使用して、FCAPアレイソフトウェア(BD Biosciences)を使用して、IL−10、IL−4、IL−5及びIFNγ産生について分析する。捕捉ELISA実験は、Quantikineキット(R&D Systems)を使用してTGF−β1を求めるために使用する。
【0229】
in vitro T細胞増殖阻害検定
最近糖尿病になった雌性NOD(8〜12週)から単離した精製総脾臓CD4CD25T細胞2×10個は、WT BALB/cマウス由来の、T細胞が枯渇し、放射線照射され、インスリン又はペプチドをロードした脾臓細胞2×10個の存在下で、異なる実験群からの脾臓、MLN又はPLNから単離した様々な数のCD8T細胞、CD4T細胞及びCD4CD25T細胞集団と共に、共培養する。37℃の5%CO加湿インキュベーター中で72時間後に、1μCi/ウェルの[H]チミジンの添加により増殖を評価する。DNAに結合した放射能を、16〜18時間後にガラス繊維フィルタマット(Perkin Elmer, Boston, USA)上に採集し、シンチレーションカウンター(Perkin Elmer)でチミジンの取込みを測定する。
【0230】
in vitro細胞毒性検定
使用するリンパ芽球ターゲットは、BALB/cマウスからのCon A活性化脾臓細胞である。合計10個のターゲット細胞を100μCiの51Cr(Amersham International, Buckinghamshire, U.K)で37℃で90分標識し、3回洗浄し、それから1μg/mlのペプチド(InsB15−23又は無関係のペプチド)と共に37℃で1時間インキュベートする。ターゲット細胞を2回洗浄し、10個/ウェルで播種する。脾臓、MLN及びPLNから単離したCD8T細胞を各ウェルに3回の繰り返しで様々なエフェクター:ターゲット(E:T)比で加える。プレートを500rpmで2分間遠心分離し、37℃で4時間インキュベートする。インキュベート後に、51Crの放出[%溶解=100×(試験cpm−自発cpm)/(総cpm−自発cpm)]の求めるために上清を収集する。間接的致死検定のために、CD8T細胞は、エフェクターと共にインキュベートする前に5μg/ml抗CD3抗体(クローン145−2C11、Pharmingen)と共にインキュベートする。
【0231】
糖尿病の養子移入
8〜10週齢のNOD−SCIDマウスに、糖尿病雌性NODマウス(6週、12週及び18週)から単離した脾臓細胞2×10個を静脈内で、又は5×10個を腹腔内で、異なるラクトコッカス・ラクティス処置実験群から単離した、段階数のビーズ精製CD3T細胞、CD8T細胞、CD4T細胞、CD4CD25T細胞、又はCD4CD25T細胞と組み合わせて、又は組み合わせずに注射する。未処置マウスを対照として用いる。糖尿病の発症を週に3回、血中グルコースレベルの連続モニタリングにより求める。
【0232】
結果
LL−hpIIp、LL−インスリン、LL−InsB9−23は同系膵島移植後の糖尿病の再発を遅らせる
LL−hpIIp、LL−インスリン及びLL−InsB(9−23)が経口寛容を誘導するか否かを評価するために、同系膵島移植後の糖尿病の再発を研究する。このため、マウスを上記(実験の設定)のように経口摂取させ、膵島細胞を記載(膵島単離及び移植)のように移植する。糖尿病の再発は、対照と比較してLL−hpIIp/インスリン/InsB9−23群において遅延した。
【0233】
LL−hpIIp、LL−インスリン及びLL−InsB9−23は、非肥満糖尿病マウスにおける遊離hpIIp、インスリン、及びInsB9−23の寛容誘導能を有意に高める。
【0234】
経口寛容の誘導を研究するために、上記(実験の設定)のようにマウスに経口補給する。LL−hpIIp/インスリン/InsB9−23群における脾臓細胞の自己抗原特異的増殖反応は、対照群及び遊離hpIIp/インスリン/InsB9−23群に比べて有意に減少することから、LL−hpIIp、LL−インスリン及びLL−InsB9−23の添加は、自己抗原への寛容誘導を有意に高める。
【0235】
LL−hpIIp、LL−インスリン及びLL−InsB9−23は、膵島炎の低減、β細胞破壊の速度減少、及び脾臓細胞によるIL−10産生増加と関連して経口寛容を強化する。経口寛容の誘導を研究するために、上記(実験の設定)のようにマウスに経口補給する。膵島炎の存在、β細胞破壊速度、及び上記自己抗原に対するサイトカイン産生は、上記のように求める。組織学的分析は、対照群及び遊離−hpIIp/インスリン/InsB9−23群に比べてLL−hpIIp/インスリン/InsB9−23群において有意に低度の膵島炎及びβ細胞破壊、並びにIL−10産生増加を示す。
【0236】
LL−hpIIp、LL−インスリン及びLL−InsB9−23はCD4 T細胞を介して経口寛容を高める
CD4 T細胞が経口寛容の誘導を媒介するかどうかを評価するために、脾臓細胞及びリンパ節における自己抗原特異的増殖性CD4 T細胞反応を研究する。したがって、上記(実験の設定)のようにマウスに経口補給し、自己抗原特異的CD4T細胞増殖を記載(in vitro増殖検定)のように求める。対照群及び遊離hpIIp/インスリン/InsB9−23群に比べたLL−hpIIp/インスリン/InsB9−23群における自己抗原特異的CD4 T細胞反応を用いて、サイトカイン産生を定量化する。
【0237】
実施例F5:LL−InsB9−23治療後のNODマウスにおいて自己攻撃性CD8反応は抑制される
本発明者らの組み合わせアプローチが、バイスタンダー抑制メカニズムにより糖尿病を調節することができる抑制性CD4T細胞を誘導するかどうかを調べるために、CD8自己攻撃性T細胞が受ける効果を分析する。抗原特異的自己攻撃性CD8細胞の割合及び/又は活性は、LL−InsB9−23治療後に強く減少する。
【0238】
LL−InsB9−23治療後の抗原誘導性T制御性細胞は、アレルギー様反応の防御をin vivoで伝達することができる。
経口寛容プロトコルで処置したマウスにおける糖尿病様反応の能動的抑制を試験するために、上記のように異なる処置群からの脾臓細胞を養子移入する(糖尿病の養子移入)。対照及び遊離InsB9−23群に比べて、LL−InsB9−23群では、糖尿病様反応は有意に減少し、これは、本発明者らの組み合わせ経口寛容プロトコルにおける制御性CD4T細胞の活性化を示している。
【0239】
結論
本発明者らは、自己抗原送達ラクトコッカス・ラクティスの経口送達が、糖尿病特異的免疫反応を抗原特異的CD4制御性T細胞の誘導を介して抑制することを実証する。
【0240】
考察
全体的に見て、上記に提示したデータは、抗原を分泌する遺伝子操作ラクトコッカス・ラクティスの経口補給は、感作した被験者においても、この抗原により誘導される全身炎症を減少させ得ることを示す。有利なことに、ラクトコッカス属媒介性抑制は多くの場合、遊離抗原の粘膜投与後より強力であると思われる。抑制は、Foxp3制御性T細胞の誘導により媒介される可能性がある。
【0241】
[引用文献]
- Friedman A. and Weiner, H. L. (1994).Induction of anergy or active suppression following oral tolerance isdetermined by antigen dosage. Proc. Natl. Acad. Sci, 91 , 6688-6692. –
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における免疫反応関連疾患を治療するための、粘膜送達で使用される抗原を分泌する微生物であって、前記免疫反応関連疾患が、アレルギー性喘息、多発性硬化症、1型糖尿病、自己免疫性ブドウ膜炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性重症筋無力症、関節リウマチ、食物アレルギー又はセリアック病から成る群から選択される、微生物。
【請求項2】
患者におけるアレルギー性喘息、多発性硬化症、1型糖尿病、自己免疫性ブドウ膜炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性重症筋無力症、関節リウマチ、食物アレルギー又はセリアック病から成る群から選択される免疫反応関連疾患を治療、予防及び/又は緩和するための粘膜送達で使用される組成物であって、前記組成物が、抗原を分泌する少なくとも1つの微生物を含むことを特徴とする、組成物。
【請求項3】
上記微生物が乳酸菌又は酵母、より好ましくはラクトコッカス・ラクティス(LL)である、請求項1に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項2に記載の使用される組成物。
【請求項4】
前記抗原が構成的に分泌される、請求項1又は3のいずれか一項に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項2又は3に記載の使用される組成物。
【請求項5】
前記微生物が毎日投与される、請求項1、3又は4のいずれか一項に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項2、3又は4のいずれか一項に記載の使用される組成物。
【請求項6】
前記抗原が制御性T細胞(Treg)を誘導する、請求項1又は3〜5のいずれか一項に記載の使用する抗原を分泌する微生物、又は請求項2〜5のいずれか一項に記載の使用される組成物。
【請求項7】
前記Treg細胞がFoxp3 Treg細胞である、請求項6に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項6に記載の使用する組成物。
【請求項8】
前記抗原が免疫優勢脱アミド化抗原である、物請求項1又は3〜7のいずれか一項に記載の使用する抗原を分泌する微生物、又は請求項2〜7のいずれか一項に記載の使用される組成物。
【請求項9】
前記抗原がHLA−DQ2又はHLA−DQ8に関連して認識される、請求項1又は3〜8のいずれか一項に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項2〜8のいずれか一項に記載の使用される組成物。
【請求項10】
前記抗原がα−グリアジン又はホルデインである、請求項1又は3〜9のいずれか一項に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項2〜9のいずれか一項に記載の使用される組成物。
【請求項11】
前記抗原が配列番号:2、4、6又は8を含むか、又はそれから成る、請求項10に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項10に記載の使用される組成物。
【請求項12】
前記抗原が、脾臓細胞及び鼠径リンパ節細胞の増殖を低減する、請求項1又は3〜11のいずれか一項に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項2〜11のいずれか一項に記載の使用される組成物。
【請求項13】
前記抗原が、炎症性抗原特異的T細胞反応を抑制する、請求項1又は3〜12のいずれか一項に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項2〜12のいずれか一項に記載の使用される組成物。
【請求項14】
前記粘膜送達が、直腸送達、口腔内送達、肺内送達、眼内送達、経鼻送達、膣内送達及び経口送達から成る群から選択される、請求項1又は3〜13のいずれか一項に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項2〜13のいずれか一項に記載の使用される組成物。
【請求項15】
前記微生物が、少なくとも1週間、より好ましくは少なくとも1ヶ月又は1年間送達される、請求項1又は3〜14のいずれか一項に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項2〜14のいずれか一項に記載の使用される組成物。
【請求項16】
前記微生物が、少なくとも1日1回、好ましくは1日2回送達される、請求項1又は3〜15のいずれか一項に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項2〜15のいずれか一項に記載の使用される組成物。
【請求項17】
前記微生物が、1日100fg(フェムトグラム)〜10mg、又は1日1pg〜1mg、又は1日10pg〜100μg、又は1日100pg〜10μg、又は1日1ng〜1μg、又は1日10ng〜100mg等のように、1日に少なくとも10fg〜100mgの用量で送達される、請求項1又は3〜16のいずれか一項に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項2〜16のいずれか一項に記載の使用される組成物。
【請求項18】
前記微生物が噴霧剤、カプセル剤、エアロゾル、舐剤、巨丸剤、錠剤、サシェ、液剤、懸濁剤、乳剤又はトローチ剤により送達される、請求項1又は3〜17のいずれか一項に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項2〜17のいずれか一項に記載の使用される組成物。
【請求項19】
前記微生物又は組成物が薬剤、メディカルフード又は栄養補助食品として処方される、請求項1又は3〜18のいずれか一項に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項2〜18のいずれか一項に記載の使用される組成物。
【請求項20】
患者における免疫反応関連疾患を治療、予防及び/又は緩和する方法であって、抗原を発現する微生物を含む組成物の粘膜送達を含み、前記抗原が分泌され、且つ前記組成物を毎日送達する、方法。
【請求項21】
前記微生物が、乳酸菌又は酵母、より好ましくはラクトコッカス・ラクティス(LL)である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記疾患が、アレルギー性喘息、多発性硬化症、1型糖尿病、自己免疫性ブドウ膜炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性重症筋無力症、関節リウマチ、食物アレルギー又はセリアック病から成る群から選択される、請求項20又は21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記分泌が構成的である、請求項20〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記抗原が制御性T細胞(Treg)を誘導する、請求項20〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記Treg細胞がFoxp3 Treg細胞である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記抗原が免疫優勢脱アミド化抗原である、請求項20〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記抗原が、HLA−DQ2又はHLA−DQ8に関連して認識される、請求項20〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記抗原がα−グリアジン又はホルデインである、請求項20〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記抗原が、配列番号:2、4、6若しくは8を含むか、又はそれから成る、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記抗原が、脾臓細胞及び鼠径リンパ節細胞の増殖を低減する、請求項20〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記抗原が、炎症性抗原特異的T細胞反応を抑制する、請求項20〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記粘膜送達が、直腸送達、口腔内送達、肺内送達、眼内送達、経鼻送達、膣内送達及び経口送達から成る群から選択される、請求項20〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記微生物が、少なくとも1週間、より好ましくは少なくとも1ヶ月又は1年間送達される、請求項20〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記微生物が、少なくとも1日1回、好ましくは1日2回送達される、請求項20〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記微生物が、1日100fg(フェムトグラム)〜10mg、又は1日1pg〜1mg、又は1日10pg〜100μg、又は1日100pg〜10μg、又は1日1ng〜1μg、又は1日10ng〜100mg等のように、1日に少なくとも10fg〜100mgの用量で送達される、請求項20〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記微生物が、噴霧剤、カプセル剤、エアロゾル、舐剤、巨丸剤、錠剤、サシェ、液剤、懸濁剤、乳剤又はトローチ剤により送達される、請求項20〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
微生物を含む組成物であって、前記微生物が、アレルギー性喘息、多発性硬化症、1型糖尿病、自己免疫性ブドウ膜炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性重症筋無力症、関節リウマチ、食物アレルギー又はセリアック病の誘導に関与する抗原を構成的に分泌する、組成物。
【請求項38】
前記微生物が乳酸菌又は酵母、より好ましくはラクトコッカス・ラクティス(LL)である、請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
前記微生物が、100fg(フェムトグラム)〜10mg、又は1pg〜1mg、又は10pg〜100μg、又は100pg〜10μg、又は1ng〜1μg、又は10ng〜100mg等のように、少なくとも10fg〜100mgの用量で存在する、請求項37又は38のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項40】
請求項37〜39のいずれか一項に記載の組成物を含む製品。
【請求項41】
前記製品が噴霧剤、カプセル剤、エアロゾル、舐剤、巨丸剤、錠剤、サシェ、液剤、懸濁剤、乳剤又はトローチ剤から成る群から選択される、請求項40に記載の製品。
【請求項42】
少なくとも1つの微生物を含む、免疫反応関連疾患を含む疾患又は障害を治療、予防及び/又は緩和するための薬剤、栄養補助食品又はメディカルフードであって、前記微生物が、アレルギー性喘息、多発性硬化症、1型糖尿病、自己免疫性ブドウ膜炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性重症筋無力症、関節リウマチ、食物アレルギー又はセリアック病の誘導に関与する抗原を構成的に分泌する、薬剤、栄養補助食品又はメディカルフード。
【請求項43】
前記微生物が乳酸菌又は酵母、より好ましくはラクトコッカス・ラクティス(LL)である、請求項42に記載の薬剤、栄養補助食品又はメディカルフード。
【請求項44】
前記抗原が前記患者において持続的に存在するように調製される、請求項1又は3〜19のいずれか一項に記載の使用される抗原を分泌する微生物、又は請求項2〜19のいずれか一項に記載の使用される組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−516269(P2010−516269A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546770(P2009−546770)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050900
【国際公開番号】WO2008/090223
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(507055501)アクトジェニックス・エヌブイ (11)
【氏名又は名称原語表記】Actogenix NV
【Fターム(参考)】