抗原特異的エフェクターT細胞の生成法
本発明は、RNA、特にT細胞受容体及び/又はFoxP3をコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたT細胞、及びエレクトロポレーションによってRNAでT細胞をトランスフェクトする方法に関する。本発明の組成物には、抗原に特異的なT細胞受容体(TCR)をコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたT細胞が含まれ、この場合、該T細胞は、MHC分子と複合体化した該抗原を提示する細胞に対して特異的なエフェクター機能をを示す。FoxP3をコードする外来性RNAを含むTreg細胞もまた提供される。トランスフェクトされたT細胞は、免疫療法、特に、腫瘍、病原体感染、自己免疫疾患、移植拒絶反応、移植片対宿主病の治療のために有効である。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、RNA、特にT細胞受容体及び/又はFoxP3をコードするRNA、で一過性にトランスフェクトされたT細胞、及びエレクトロポレーションによってRNAでT細胞をトランスフェクトする方法に関する。トランスフェクトされたT細胞は、免疫療法のために、特に腫瘍、病原体感染、自己免疫疾患、移植拒絶反応、及び移植片対宿主病の治療において、有用である。
【0002】
背景
細胞傷害性Tリンパ球(CTL)は、腫瘍成長の抑制において主要な役割を果たし、そしてそれ故に、癌の免疫療法のための細胞の戦略においてとても重要である[19]。腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を養子移入するという初期の試みはうまくいかなかったが、これは、その移入細胞が多くの場合非特異的で、そして長期間存続しなかったためであり、ほぼ間違いない理由として、そのようなTILはアレルギー性の表現型を持つ可能性があるか、又は腫瘍部位へホーミングできないという事実がある[10, 11]。in vitroで増殖された自己の腫瘍特異的CTLの養子移入は、転移性メラノーマの患者における腫瘍の根絶に有効であることが示された[9, 13, 18, 20, 31]。残念ながら、全ての患者がその腫瘍に対する検出可能なin vivoでの細胞傷害性T細胞応答を開始するわけではない。事実、溶解性の腫瘍特異的T細胞の単離及び/又は増殖は、ある一部の患者においてのみ可能であり、これは、腫瘍患者において顕著に、胸腺選択[28]又はその他の寛容機構[30]のために、末梢T細胞レパートリーが高結合性の腫瘍特異的CTLを通常欠いているという事実がおそらく原因である。その上、これらの細胞及びin vitroで生成された腫瘍特異的T細胞は、限られた寿命しか持たず、そのようなT細胞を薬用量まで増殖させるのは多くの場合実現不可能である[2, 3, 30]。
【0003】
あるいは、CTLの特異性は、T細胞受容体(TCR)によって専ら指示されるので、レトロウイルスによって腫瘍特異的TCRを形質導入された自己T細胞を養子移入のために使用した。レトロウイルスによる形質導入を用いた、T細胞の腫瘍特異性の再プログラミングは、いくつかの抗原、例えば、MART-1 [7]、MAGE-1 [29]、MDM2 [27]、gp100 [16, 24]、及びチロシナーゼ[21]、においてin vitroで既に示されている。これらの自己T細胞は、簡単に薬用量まで増殖した。しかし、プロウイルスは形質導入された細胞のゲノム中にランダムに組み込まれる可能性があるので、自己細胞を非可逆的に遺伝子操作してしまう恐れをもたらす。したがって、プロウイルスはまた細胞周期の調節に関与する遺伝子の中に組み込まれる可能性があり、続いて細胞増殖を阻害する可能性がある(すなわち、挿入変異)。重症複合免疫不全症(SCID)を対象とする遺伝子治療であって、SCID患者では欠損している共通γ鎖をコードする遺伝子を含むベクターをレトロウイルスによって自己造血幹細胞へ形質導入するものの臨床試験のデータは、プロウイルスがLMO-2癌遺伝子中に組み込まれ、白血病様の症状を引き起こすことを示した[6, 12, 15]。その上、レトロウイルスによる形質導入は、休止期の、非分裂期のT細胞を用いても行うことができず[30]、それどころか形質導入の数日前にT細胞を刺激することが要求される。
【0004】
したがって、宿主ゲノムの改変を生ずる可能性のある、レトロウイルスベクター又はその他のトランスフェクションの形態を必要とせずに、腫瘍特異的TCRの機能をT細胞へ効率的に移入する方法が、年来、必要とされている。本発明は、この必要を満たし、さらなる利点をも提供する。
【0005】
発明の概要
本発明者は、T細胞、特に精製CD8+細胞又はCD4+細胞中へのRNAのエレクトロポレーションのための改良法を見いだした。本改良法は、RNAのエレクトロポレーションによる単離T細胞へのTCRの機能移入、及びその後の冷凍保存を可能にする。本発明の方法は、レトロウイルスによる形質導入の不利益を回避し、そして癌、病原体感染、自己免疫、移植、及び移植片対宿主疾患の免疫療法のための新しい戦略を形成する。
【0006】
一側面において、本発明は、抗原に対して特異的なT細胞受容体(TCR)をコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたエフェクターT細胞を含む組成物を提供し、この場合においてT細胞は、MHC分子と複合体化した抗原を提示する細胞に対して特異的なエフェクター機能を示す。好ましい態様において、エフェクター機能は細胞傷害性である。本発明のエフェクターT細胞組成物は、免疫療法のための医薬の生産のために使用することができる。
【0007】
別の側面において、本発明は、精製CD8+ T細胞又は精製CD4+ T細胞を含む組成物を、抗原に対して特異的なTCR受容体をコードするRNAを用いてエレクトロポレーションすることを含む、T細胞に新規の抗原特異性を付与する方法を提供する。
【0008】
さらに別の側面において、本発明は、休止期T細胞を、抗原に対して特異的なTCRをコードするRNAを用いてエレクトロポレーションすることを含む、T細胞に新規な抗原特異性を付与する方法を提供する。
【0009】
別の側面において、本発明は、エレクトロポレーションの前にPHA又はOKT3によってin vitroで刺激されていないT細胞を、RNAを用いて、矩形波パルスを使用して100 V/mm〜150 V/mmの電界強度で2〜10 msエレクトロポレーションすることを含む、T細胞を一過性にトランスフェクトする方法を提供する。
【0010】
さらなる側面において、本発明は、抗原に対して特異的なTCRをコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたT細胞を投与することを含む、被験者に抗原特異的T細胞エフェクター機能を付与する方法であって、この場合において該T細胞がMHC分子と複合体化した抗原を提示する細胞に対してエフェクター機能を示す、前記方法を提供する。
【0011】
別の側面において、本発明は、FoxP3をコードする外来性RNAを含むTreg細胞を提供する。本発明は、CD4+ T細胞を、FoxP3をコードする核酸でトランスフェクションすることを含む、Treg細胞を作製する方法を提供する。FoxP3でトランスフェクトされたT細胞は、免疫療法のための医薬の生産のために使用することができ、そして患者に有効量を投与することができる。
【0012】
図面の簡単な説明
本発明の特徴及び利点をさらに十分に理解するために、添付の図面に沿って本発明の詳細な説明に対する参照を作成する。ここにおいて:
図1は、RNAでトランスフェクトされたCD8+ T細胞のEGFP発現を示す。a)CD8+T細胞をEGFP RNAを用いてエレクトロポレーションし、そしてエレクトロポレーションの4時間後に、これらの細胞中のEGFP発現をFACS解析によって測定した(黒のヒストグラム)。RNA無しでエレクトロポレーションしたCD8+T細胞を、陰性対照とした(灰色のヒストグラム)。b)CD8+ T細胞をTCRα鎖およびβ鎖のRNA(TCR RNA)を用いてエレクトロポレーションし、そしてエレクトロポレーション(EP)の4時間後および24時間後に、これらの細胞上のTCR Vβ14の表面発現をFACS解析によって測定した。RNA無しでエレクトロポレーションしたCD8+T細胞を陰性対照とした(Mock)。c)T細胞の表現型に対するエレクトロポレーションおよびTCR発現の影響を、エレクトロポレーションの24時間後に、CCR7及びCD45RAの染色によって調べた。T細胞表現型の割り当ては、次の通りである:溶解性エフェクター(LE):CD45RA+/CCR7-、エフェクター記憶(EM):CD45RA-/CCR7-、セントラル記憶(CM):CD45RA-/CCR7+、ナイーブ(N):CD45RA+/CCR7+。全てのデータは、3つの標準化された独立した実験の代表値である。
【0013】
図2は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、ペプチドをロードした標的細胞による刺激の後にIFNγを特異的に産生することを示す。CD8+T細胞をEGFP RNAを用いて(EGFP)、又はTCRα鎖及びβ鎖をコードするRNAを用いて(TCR)エレクトロポレーションし、そしてエレクトロポレーション(EP)の4時間後、24時間後及び48時間後に、それらをエフェクター細胞として使用してIFNγ産生アッセイを行った。放射線を照射したT2細胞に対照ペプチド(白の棒グラフ)又はgp100280-288ペプチド(YLE-ペプチド、黒の棒グラフ)のいずれかをロードしたものを刺激細胞として使用し、そして上清中のIFNγ産生をELISAによって測定し、その測定値をpg/mlで表す。三回試行の平均値±SDを示す。エフェクター細胞と刺激細胞の比率は1:1であった。(3つのうちの)1つの代表的T細胞ドナーのデータを示す。
【0014】
図3は、IFNγ産生能力を失わずに、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞を凍結保存することができることを示す。CD8+T細胞を、EGFP RNA(EGFP)又はTCRα鎖及びβ鎖をコードするRNA(TCR)を用いてエレクトロポレーションし、そしてエレクトロポレーションの4時間後に凍結保存した。融解の0時間後(a及びb)、24時間後(a)及び48時間後(a)に、これらのT細胞をエフェクター細胞として使用してIFNγ産生アッセイを行った。放射線を照射したT2細胞に対照ペプチド(白の棒グラフ)又はgp100280-288ペプチド(YLE-ペプチド、黒の棒グラフ)(a及びb)、並びに偽エレクトロポレーションしたDC(Mock、灰色の棒グラフ)又はgp100 RNAを用いてエレクトロポレーションしたDC(GP100、斜線の棒グラフ)(b)のいずれかをロードしたものを刺激細胞として使用し、そして上清中のIFNγ産生をELISAによって測定し、その測定値をpg/mlで表す。三回試行の平均値±SDを示す。エフェクター細胞と刺激細胞の比率は1:1であった。(3つのうちの)1つの代表的T細胞ドナーのデータを示す。
【0015】
図4は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、ペプチドをロードした標的細胞を特異的に溶解することを示す。CD8+T細胞を、EGFP RNA(EGFP、四角)又はTCRα鎖及びβ鎖をコードするRNA(TCR、三角)を用いてエレクトロポレーションし、そしてエレクトロポレーション(EP)の24時間後、48時間後、72時間後に、それらをエフェクター細胞として使用して標準的な4時間の細胞傷害性アッセイを行った。対照ペプチド(塗りつぶしのシンボル)又はgp100280-288ペプチド(YLE-ペプチド、色なしのシンボル)のいずれかをロードしたT2細胞を標的細胞として使用し、そして%溶解を算出した(より詳しくは材料と方法の項を参照)。標的細胞とエフェクター細胞の比率は、1:60、1:20、1:6および1:2(a、48時間の時点を示す)、又は1:20(b、経時変化を示す)であった。三回試行の平均値±SDを示す。(3つのうちの)1つの代表的T細胞ドナーのデータを示す。
【0016】
図5は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、メラノーマ細胞株を特異的に溶解することを示す。3つのドナーのCD8+T細胞を、EGFP RNA(EGFP、色なしのシンボル)又はTCRα鎖及びβ鎖をコードするRNA(TCR、塗りつぶしのシンボル)を用いてエレクトロポレーションし、そしてエレクトロポレーションの24時間後に、それらをエフェクター細胞として使用して標準的な4時間の細胞傷害性アッセイを行った。メラノーマ細胞株SK-MEL526(HLA-A2+/gp100+)、NEMA(HLA-A2+/gp100-)、及びColo829(HLA-A1+/A2-/gp100+)を標的細胞として使用し、そして%溶解を算出した。三回試行の平均値±SDを示す。標的細胞とエフェクター細胞の比率は、1:60、1:20、1:6および1:2であった。
【0017】
図6は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、レトロウイルスによって形質導入されたT細胞と同等の細胞溶解能力を有することを示し、これは親CTLクローンの細胞溶解効率に近似する。CD8+T細胞を、EGFP RNA(Neg)又はTCRα鎖及びβ鎖をコードするRNAを用いてエレクトロポレーションし、そしてエレクトロポレーションの24時間後に、それらをエフェクター細胞として使用して細胞傷害性アッセイを行った。(図で示されるように)異なる濃度のgp100280-288ペプチドをロードしたT2細胞を標的細胞として使用し、そして%溶解を算出した。標的細胞とエフェクター細胞の比率は、1:15であった。細胞溶解効率を評価するために用いられた最大溶解量の50%に対応するペプチド濃度(ED50)を、点線で示す。三回試行の平均値±SDを示す。(5つのうちの)1つの代表的T細胞ドナーのデータを示す。
【0018】
図7は、BDビーズアレイを使用して6つの異なるサイトカインを一度に測定した結果を示す。各群がサイトカインを表す。右にあるほど(FL2シグナルの増加)サイトカイン濃度が高い。A:対照DCに対する、TCRでトランスフェクトされたCD4+細胞の上清。B:対応するペプチドでパルスしたDCに対する、TCRでトランスフェクトされたCD4+細胞の上清。注記:IL-6はT細胞ではなくDCによって産生される。正確な濃度を測定するために、検量線を作成する必要がある。
【0019】
図8は、エレクトロポレーションから24時間後の、RNAでトランスフェクトされたCD4+細胞のFACS解析の結果を示す。A:CD4+細胞をGFP-RNAでトランスフェクトした(黒のヒストグラム)。ここでは、TCR-RNAでトランスフェクトされた細胞を陰性対照とした(灰色のヒストグラム)。B:細胞のFSC/SSCを使用して細胞の状態を示し、95%より多くの細胞が“ライフゲート”(life gate)(R1)に見いだされた。
【0020】
図9は、GFP-RNA(A)又はMage3-DP4特異的TCRをコードするRNA(B)でCD4+ T細胞をトランスフェクトした結果を示す。陰性対照標的として、ロードされていない自己DCを使用した。特異的標的として、Mage3-DP4ペプチドをDCにロードした。20時間後、CBAによって上清中のサイトカイン濃度を測定した。ビーズのMFIのみを測定した。これにより濃度の半定量的比較が可能になる(しかし、非常に比例に近い)。IL-6はT細胞ではなくDCによって産生されることに注目すべきである。
【0021】
図10:GFP-RNA又はMage3-DP4特異的TCRをコードするRNAでCD4+ T細胞をトランスフェクトした。陰性対照標的として、ロードされていない自己DCを使用した。特異的標的として、Mage3-DP4ペプチドをDCにロードした。44時間後、CBAによって上清中のサイトカイン濃度を測定した(A)。IFNγの濃度が目盛りの外に出てしまったので(*)、ビーズのMFIを同時に示す(B)。
【0022】
図11:GFP-RNA(A)又はgp100-A2特異的TCRをコードするRNA(B)でCD4+ T細胞をトランスフェクトした。陰性対照標的として、ロードされていないT2細胞を使用した。特異的標的として、gp100-A2ペプチドをT2細胞にロードした。20時間後、CBAによって上清中のサイトカイン濃度を測定した。ビーズのMFIのみを測定した。これにより濃度の半定量的比較が可能になる(しかし、非常に比例に近い)。
【0023】
図12:GFP-RNA又はgp100-A2特異的TCRをコードするRNAでCD4+ T細胞をトランスフェクトした。陰性対照標的として、ロードされていないT2細胞を使用した。特異的標的として、gp100-A2ペプチドをT2細胞にロードした。44時間後、CBAによって上清中のサイトカイン濃度を測定した(A)。IFNγ及びIL-2の濃度が一つの条件の下でスケールの外に出てしまったので(*)、ビーズのMFIを同時に示す(B)。
【0024】
本発明実施の様式
本発明の様々な態様の構成及び使用を以下に詳細に論ずる一方で、当然のことながら、本発明は、幅広い種類の特定の状況において具体化することができる、多くの適用可能な発明思想を提供する。本明細書中で論ずる特定の態様は、本発明を構成及び使用するための特定の方法を例示するだけであり、本発明の範囲を定めるものではない。
【0025】
本発明の理解を促すために、以下にいくつかの用語を定義する。本明細書中で定義される用語は、本発明の属する分野の当業者によって、一般に理解される意味を有する。“ある”、“一つの”および“その”(“a”, “an” and “the”)といった語は、一つのもののみを言及することは意図せず、それらには、例示のために使用され得る具体的な実施例の一般的種類が含まれる。本明細書中の専門用語を使用して本発明の具体的な態様が記載されるが、特許請求の範囲中に概説されるものを除いて、それらの使用は本発明の範囲を定めない。例えば、“ある細胞(a cell)”という語は、複数個の細胞を含み、それらの混合物も含まれる。これも当然のことながら、常に明記されていなくとも、本明細書中に記載の試薬は単なる例示であり、当該技術分野においてその均等物が知られている。
【0026】
T細胞の活性化状態は、T細胞が“休止期である”(resting)(すなわち、細胞周期のG0期)か、又は、その特異的抗原の認識などの適切な刺激の後、若しくはOKT3抗体、PHA若しくはPMAなどによる刺激によって増殖するよう“活性化されている”かどうかを定める。T細胞の“表現型”(例えば、ナイーブ、セントラル記憶、エフェクター記憶、溶解性エフェクター、ヘルプエフェクター(TH1細胞及びTH2細胞)、及び制御エフェクター)は、活性化された際に細胞が発揮する機能を表す。健康なドナーは、これらの表現型のそれぞれのT細胞を有し、そしてこれらは主に休止状態にある。ナイーブT細胞は活性化に際して増殖し、次いで記憶T細胞又はエフェクターT細胞に分化する。それは次いで、新しい機能を発揮するために次に活性化されるまで再び休止状態を取り、そして再び表現型を変化させることができる。エフェクターT細胞は、活性化および抗原特異的エフェクター機能について分けることができる。
【0027】
“抗原”という用語は、当該技術分野においてよく理解されており、そしてこれには抗体に結合可能なあらゆる分子、並びにエピトープ、MHC分子に結合可能な抗原のペプチド断片、及び免疫原が含まれる。当然のことながら、いずれの抗原の使用も本発明における使用について想定され、それ故に、自己抗原(正常または疾患関係のどちらでも)、腫瘍抗原、病原体抗原(例えば、微生物の抗原、ウイルスの抗原など)、又はその他の外来抗原(例えば、食品構成成分、花粉など)が含まれる(ただし必ずしもこれらには限定されない)。T細胞受容体は、MHC分子に結合した抗原又は抗原のペプチド断片と結合する。本明細書中で使用する場合、抗原に対して特異的なTCR受容体には、抗原のペプチド断片に対して特異的なT細胞受容体も含まれる。
【0028】
“腫瘍関連抗原”又は“TAA”という用語は、腫瘍に関連する抗原を意味する。よく知られたTAAの例には、サバイビン、gp100、MART、MAGE-1及びMAGE-3が含まれる。MHC分子に結合するTAAのいくつかのペプチド断片の配列には、MAGE 1 ノナペプチド(EADPTGHSY)、MART-APLペプチド(LAGIGILTV)又はネイティブペプチド(AAGIGILTV)及びPSA-1ペプチド(FLTPKKLQCV)が含まれる。さらなる腫瘍関連ペプチド及び抗原の配列は、当業者においてよく知られている。
【0029】
“抗原提示細胞(APC)”という用語は、免疫系の特定のエフェクター細胞によって認識可能な、ペプチド-MHC複合体の形で1又はそれ以上の抗原を提示することができ、それによってその抗原又は提示されている抗原に対する効果的な細胞性免疫応答を誘導する、細胞の種類を意味する。APCは、マクロファージ、B細胞、内皮細胞、活性化T細胞、及び樹状細胞などの無傷の全細胞;又は、β2-ミクログロブリンと複合体化する精製MHCクラスI分子などの、天然に存在するか又は合成の、その他の分子であってもよい。多くのタイプの細胞が、T細胞による認識のために、それらの細胞表面上に抗原を提示することができるが、唯一樹状細胞のみが、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答のためにナイーブT細胞を活性化するのに十分な量の抗原を提示する能力を有する。
【0030】
癌又は腫瘍は、相対的に自立した増殖を示す細胞の異常な存在を意味し、癌細胞は、細胞増殖調節の顕著な喪失によって特徴づけられる、異常増殖の表現型を示す。癌性細胞は、良性又は悪性であり得る。さまざまな態様において、癌は、膀胱、血液、脳、乳房、結腸、消化管、肺、卵巣、膵臓、前立腺、又は皮膚の細胞に影響を及ぼす。本明細書中において使用される場合、癌細胞又は腫瘍細胞の定義には、原発性癌細胞だけではなく原癌細胞(cancer cell ancestor)に由来するあらゆる細胞も含まれる。これには、転移した癌細胞、並びに癌細胞に由来するin vitro 培養物及び細胞株が含まれる。癌又は腫瘍には、固形腫瘍、液性腫瘍、血液悪性腫瘍、腎細胞癌、メラノーマ、乳癌、前立腺癌、精巣癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮頸癌、胃癌、食道癌、膵臓癌、肺癌、神経芽細胞腫、膠芽細胞腫、白血病、骨髄腫、リンパ腫、肝細胞腫、腺腫、肉腫、癌腫、芽細胞腫などが含まれる(ただし必ずしもこれらには限定されない)。
【0031】
“共刺激分子”は、抗原提示細胞及びT細胞の表面上に発現される受容体-リガンド対の間の相互作用に関与する。ここ数年にわたって蓄積された研究によって、休止期T細胞はサイトカイン遺伝子の発現の誘導及びT細胞の増殖の誘導のために少なくとも二つのシグナルを必要とすることが、もっともらしく示された(Schwartz, R.H. (1990) Science 248:1349-1356及びFenkins, M.K. (1992) Immunol. Today 13:69-73)。一つ目のシグナルは、特異性を付与するシグナルであり、TCR/CD3複合体と適切なMHC/ペプチド複合体との相互作用によって産生され得る。二つ目のシグナルは、抗原特異的ではなく、“共刺激性”シグナルと呼ばれる。このシグナルは元々、いわゆる“専門(professional)”APCであるマクロファージ及び樹状細胞のような、骨髄由来のアクセサリー細胞によって提供される活性として定義された。いくつかの分子が、共刺激性活性を強化することを示していた。これらは熱耐性抗原(HSA)(Liu, Y. et al. (1992) 3. Exp. Med. 175:437-445)、コンドロイチン硫酸修飾MHC不変鎖(li-CS)(Naujokas, M.F. et al. (1993) Cell 74:257-268)、細胞内接着分子1 (ICAM-1)(Van Seventer, G.A. (1990). Immunol. 144:4579-4586)、B7-1、及びB7-2/B70(Schwartz, R.H. (1992) Cell 71:1065-1068)である。これらの分子はそれぞれ、T細胞上の類似リガンドと相互作用することによって、共刺激を支援するように見える。共刺激性分子は共刺激性シグナルを仲介し、これらは正常な生理条件下において、ナイーブT細胞の完全な活性化を達成するために必須である。一つの例となる受容体-リガンド対は、APCの表面上にあるB7ファミリーの共刺激分子及びT細胞上にあるそのカウンター受容体であるCD28又はCTLA-4である(Freeman, et al. (1993) Science 262:909-911; Young, et al. (1992). Clin. Invest. 90:229及びNabavi, et al. (1992) nature 360:266-268)。その他の重要な共刺激分子にはCD40及びCD54がある。“共刺激分子”には、T細胞の表面上のTCRによって結合されるMHC/ペプチド複合体と供に働く際に、そのペプチドに結合しているT細胞の活性化を達成する共刺激作用をもたらす、あらゆる単分子又は分子の組み合わせが含まれる。それ故にこの用語には、B7、又はAPC、APCの断片(単独で、別の分子(群)と複合体化して、又は融合タンパク質の一部として)のような抗原提示マトリックスが含まれ、これらは、MHC複合体と供に類似リガンドと結合して、T細胞の表面上のTCRがそのペプチドに結合する際に、T細胞の活性化を引き起こす。常に明記されてはいないが、野生型共刺激分子又は精製共刺激分子と同等の生物活性を有する分子(例えば、組換え体又はその変異タンパク質)を本発明の思想と範囲の中で使用することが意図されている。
【0032】
“培養”という用語は、適切な培地おける、in vitroでの細胞の維持、分化、及び/又は増殖を意味する。“濃縮”とは、総細胞数に占める細胞の割合が、生体内でそれらが存在する組織中に見いだされるより多くの割合で存在する細胞を含む組成物を意味する。
【0033】
本明細書中で使用する場合、“サイトカイン”という用語は、例えば成長や増殖を誘導するような、様々な作用を細胞に与える多数の因子のいずれかを意味する。本発明の実施において単独又は組み合わせて使用することができる、サイトカインの限定的ではない例には、インターロイキン-2(IL-2)、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン-3(IL-3)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-12(IL-12)、G-SCF、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン-1アルファ(IL-1α)、インターロイキン-1L(IL-11)、MIP-11、白血病阻害因子(LIF)、c-キットリガンド、トロンボポエチン(TPO)及びflt3リガンドが含まれる。サイトカインは、Genzyme(Framingham, MA)、Genentech(South San Francisco, CA)、Amgen(Thousand Oaks, CA)、R&D Systems(Minneapolis, MN)、及びImmunex(Seattle, WA)などのいくつかのベンダーから市販されている。常に明記されてはいないが、野生型サイトカイン又は精製サイトカインと同等の生物活性を有する分子(例えば、組換え体又はその変異体)を本発明の思想と範囲の中で使用することが意図されている。
【0034】
樹状細胞(DC)という用語は、様々なリンパ系組織及び非リンパ組織中に見いだされる、形態的に同等の細胞種の多様な集合を意味する(Steinman (1991) Ann. Rev. Immunol. 9:271-296)。樹状細胞は、生体内で最も強力で好ましいAPCを構成する。樹状細胞は単球から分化可能であるが、それらは異なる表現型を有する。例えば、特定の分化マーカーであるCD14抗原は、樹状細胞中には見いだされないが、単球はこれを有する。また同時に、成熟樹状細胞は食作用を有しないが、一方で単球は強い食作用を示す細胞である。成熟DCは、T細胞の活性化及び増殖に必要な全てのシグナルを提供できることが示されている。
【0035】
“有効量”とは、免疫応答強化、医学的症状(疾患、感染症など)の治療、予防又は回復のような、有益な又は望ましい結果をもたらすに十分な量である。有効量は、一またはそれ以上の投与、用途又は用量で投与することができる。適切な用量は、体重、年齢、健康状態、治療される疾患又は症状及び投与の経路に依存して変化し得る。
【0036】
本明細書で使用する場合、“発現”とは、in vitroで転写された(IVT)mRNAがトランスフェクトされた細胞内でペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質に翻訳される工程を意味する。発現に必要とされる制御要素には、リボソーム結合のための配列、翻訳開始のための配列、リボソーム脱落のための終始コドンの配列が含まれる。RNAのin vitro転写のためのベクターは、市販のものを手に入れるか、又は当該技術分野において知られている配列によって組み立てることができる。
【0037】
“遺伝子的に修飾された”とは、外来の遺伝子又は核酸配列を、含み及び/又は発現し、次にこの配列がその細胞およびその子孫の細胞型又は遺伝子型を修飾する。言いかえれば、これは、細胞内ヌクレオチドに関するあらゆる付加、欠失、又は破壊を意味する。例えば、レトロウイルスによる形質導入は、細胞のゲノムの遺伝子的修飾をもたらす。一方、mRNAによる一過性のトランスフェクションは、遺伝的修飾をもたらさない。
【0038】
“エフェクターT細胞”という用語は、本明細書中で使用する場合、抗原に特異的に結合でき、そしてさらなる分化を必要とせずに免疫応答(エフェクター機能)を仲介することができるT細胞を意味する。エフェクター細胞の例には、CTL、TH1細胞、TH2細胞及び制御性T細胞(Treg)が含まれる。エフェクターT細胞に対して、ナイーブT細胞はその特異的抗原:MHC複合体に遭遇しておらず、また増殖及びエフェクターT細胞への分化によるナイーブT細胞の抗原への応答もない。エフェクターT細胞は、休止期(細胞周期のG0期中)又は活性型(増殖)であり得る。
【0039】
“免疫応答”とは、外来物質又は自己物質に対するリンパ球の抗原特異的応答を、広く意味する。免疫応答を導くことのできるあらゆる物質は、“免疫原性”であると言われ、“免疫原”と呼ばれる。全ての免疫原は抗原であるが、しかしながら、全ての抗原が免疫原性であるわけではない。免疫応答には、体液性応答(抗体活性を介する)及び細胞性応答(T細胞活性化を介する)が含まれる。
【0040】
“単離”という用語は、細胞及びその他の構成要素から分離されていることを意味し、ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、又はそれらの断片が、普通は事実上関連している。例えば、ポリヌクレオチドに関しては、単離ポリヌクレオチドとは、染色対中で正常に結合している5’配列及び3’配列から分離されたものである。当業者にとって明らかなように、非天然のポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、又はそれらのそれらの断片は、“単離”してその天然の対応物から区別する必要はない。その上、“濃縮”、“分離”又は“希釈”されたポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はそれらの断片は、天然の対応物と比べて、濃度又は体積あたりの分子数が“濃縮”よりも多く“分離”よりも少ないという点で、その天然の対応物から区別できる。ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、又はそれらの断片は、その一次配列において又は例えば糖鎖付加パターンにより、天然の対応物と異なり、その一次配列、又はその代わりに、他の糖鎖付加パターンのような別の性質によってその天然の対応物から区別可能なので、その単離型で存在する必要はない。T細胞のような哺乳類の細胞は、T細胞が生体内で見いだされる解剖学的部位から取り出された場合、単離される。
【0041】
“主要組織適合遺伝子複合体”又は“MHC”という用語は、T細胞への抗原提示及び急性移植片拒絶のために必要とされる細胞表面分子をコードする遺伝子の複合体を意味する。ヒトにおいて、MHCは“ヒト白血球型抗原”又は“HLA”複合体としても知られている。MHCによりコードされているタンパク質は、“MHC分子”として知られ、そしてクラスI及びクラスII MHC分子に分類される。クラスI MHC分子には、β2-ミクログロブリンと非共有結合する、MHC中にコードされたα鎖からなる膜ヘテロ二量体タンパク質が含まれる。クラスI MHC分子は、ほとんど全ての有核細胞によって発現され、CD8+ T細胞に対する抗原提示機能が示されている。クラスI分子には、ヒトのHLA-A、HLA-B、及びHLA-Cが含まれる。クラスII分子にも、非共有結合するα鎖及びβ鎖からなる膜ヘテロ二量体タンパク質が含まれる。クラスII MHC分子はCD4+ T細胞において機能すること、そしてヒトにおいてはHLA-DP、HLA-DQ、及びHLA-DRが含まれることが知られている。
【0042】
“病原体”とは、本明細書中で使用する場合、疾患を引き起こすあらゆる生物又はウイルスを意味し、そして弱毒化されたそれらの誘導体も意味する。病原体という用語は、疾患の原因に関与するあらゆるウイルス又は生物を意味し、そして弱毒化されたそれらの誘導体も意味する。そのような病原体には、必ずしもこれらには限定されないが、Helicobacter(Helicobacter pyloriなど)、Salmonella、Shigella、Enterobacter、Campylobacter、さまざまなMycobacterium(Mycobacterium leaprae、Mycobacterium tuberculosisなど)、Bacillus anthracis、Yersinia pestis、Francisella tulanesis、Brucella species、Leptospira interrogans、Syaphylococcus(S. aureusなど)、Streptococcus、Clostridium、Candida albicans、 Plasmodium、Leishmania、Trypanosoma、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒトパピローマ・ウイルス(HPV)、サイトメガロウイルス(CMV)、HTLV、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型、コロナウイルス、水痘帯状ヘルペスウイルス、及びエプスタイン・バー・ウイルス)、パピローマウイルス、インフルエンザウイルス、B型肝炎ウイルス、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、おたふく風邪ウイルス、及び風疹ウイルスといった、細菌、原生動物、カビ及びウイルスの病原体が含まれる。
【0043】
“ペプチド”という用語は、二またはそれ以上のサブユニットのアミノ酸、アミノ酸アナログ、又はペプチド類似体の化合物を言及する最も広い意味で使用する。サブユニットはペプチド結合で連結されていてもよい。別の態様において、サブユニットはその他の結合、例えばエステル、エーテルで連結されてもよい。本明細書中で使用する場合、“アミノ酸”は、天然及び/又は非天然若しくは合成アミノ酸のいずれかを意味し、グリシン及びD及びLの両光学異性体、アミノ鎖アナログ並びにペプチド類似体が含まれる。三またはそれ以上のアミノ酸のペプチドは、ペプチド鎖が短い場合、一般にオリゴペプチド呼ばれる。ペプチド鎖が長い場合には、そのペプチドは一般にポリペプチド又はタンパク質と呼ばれる。
【0044】
“ポリヌクレオチド”、“核酸”、及び“核酸分子”と言う用語は、あらゆる長さの多量体型のヌクレオチドを意味し、互換的にに用いられる。ポリヌクレオチドには、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、及び/又はそれらのアナログが含まれてよい。ヌクレオチドはあらゆる三次元構造を有してよく、そして既知又は未知のあらゆる機能を果たしてよい。“ポリヌクレオチド”という用語には、例えば、一本鎖、二本鎖及び三重らせん分子、遺伝子又は遺伝子断片、エキソン、イントロン、mRNA、tRNA、rRNA、リボザイム、cDNA、組換え型ポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、あらゆる配列からの単離DNA、あらゆる配列からの単離RNA、核酸プローブ、並びにプライマーが含まれる。野生型の核酸分子に加えて、本発明の核酸分子には、修飾された核酸分子が含まれていてもよい。
【0045】
“RNA”という用語は、あらゆる長さの多量体型のリボヌクレオチドを意味し、そこにおいてリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドアナログは、リン酸ジエステル結合によって結ばれている。“RNA”という用語には、例えば、一本鎖、二本鎖及び三重らせん分子、一次転写物、mRNA、tRNA、rRNA、in vitro転写物、in vitro合成RNA、分岐ポリリボヌクレオチド、あらゆる配列からの単離RNA、などが含まれる。mRNAとは、細胞内で翻訳され得るRNAを意味する。そのようなmRNAは、典型的にはキャップ化され、リボソーム結合部位(Kozak配列)及び翻訳開始コドンを有する。例えば、一側面において、本発明はトランスフェクトされたT細胞内で翻訳され得るmRNAによるT細胞のトランスフェクションに関する。
【0046】
“医薬組成物”には、不活性又は活性の担体と活性薬剤との組み合わせが含まれることが意図され、in vitro、in vivo又はex vivoで診断又は治療に使うために適した組成物を作る。
【0047】
本明細書中で使用する場合、用語“医薬的に許容される担体”には、例えばリン酸緩衝生理食塩水などのT細胞と適合するあらゆる医薬用担体が含まれ、タンパク質賦形剤には、ヒト血清アルブミン(HSA)、組換え型ヒトアルブミン(rHA)などの血清アルブミン、ゼラチン、カゼイン、などが含まれる。担体、安定化剤、補助剤の例としては、Martin REMINGTON’S PHARM. SCI., 18th Ed.(Mack Publ. Co., Easton (1995))および“PHYSICIAN’S DESK REFERENCE”,58th Ed., Medical Economics, Montvale, N.J. (2004)を参照。担体という用語には、緩衝液又はpH調製剤が含まれ得る;典型的には、緩衝液は有機酸又は有機塩基から調製される塩である。代表的な緩衝液には、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、グルコン酸塩、炭酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、又はフタル酸塩などの有機酸の塩;トリス、トロメタミン塩酸、又はリン酸緩衝液が含まれる。さらなる担体には、ポリビニルピロリドン、フィコール(多量体型糖)、デキストレート(例えば、2-ヒドロキシプロピル-.クワドラチャ.-シクロデキストリン(2-hydroxypropyl-.quadrature.-cyclodextrin)などのシクロデキストリン)、ポリエチレングリコール、抗酸化剤、帯電防止剤、界面活性剤(例えば、“TWEEN 20”及び“TWEEN 80”などのポリソルベート)、脂肪(例えばリン脂質、脂肪酸)、ステロイド(例えば、コレステロール)、及びキレート剤(例えば、EDTA)などの多量体型賦形剤/添加剤が含まれる。氷の生成を防ぐ又は抑制する薬剤が含まれていてもよい。
【0048】
T細胞へのTCRの効率的な移入は、過去には、TCRをコードするレトロウイルスのベクターを用いた安定的形質導入によってのみ可能であった。しかし、レトロウイルスによる形質導入は、自己細胞を非可逆的に遺伝子操作してしまう恐れをもたらす。我々は、T細胞の一過性のRNAトランスフェクションのための、最適化条件を開発した。EGFP-RNA及び最適化条件を用いたトランスフェクション効率は、>90%であった。血中から単離した一次T細胞を、TCRをコードするRNAでエレクトロポレーションすると、親CTLクローンと同等のHLA-A2/gp100特異性をもつ機能的CTLをもたらした(エフェクター:標的の比が20:1で、>60%を殺す)。TCRでトランスフェクトされたT細胞は、IFNγ分泌アッセイにおいて、ペプチドパルスしたT2細胞、又はgp100をコードするRNAを用いてエレクトロポレーションした樹状細胞を特異的に認識し、そしてこの能力は凍結保存後も三日にわたって維持された。重要なことは、TCR RNAを用いてエレクトロポレーションしたCD8+ T細胞が細胞傷害性を示し、そして少なくとも72時間にわたってペプチドをロードしたT2細胞及びHLA-A2+/gp100+メラノーマ細胞を特異的に溶解したのは、これが初めてだということである。我々の知る限り、これが、T細胞へのTCR-RNAトランスフェクションによって細胞傷害の能力を移入させた初めての記述である。ペプチド滴定実験によって、RNAでトランスフェクトされたT細胞の溶解効率は、レトロウイルスによって形質導入されたT細胞のものと同等であり、そして親CTLクローンのものに近似することが示された。TCR RNAを用いてエレクトロポレーションしたCD8+ T細胞を凍結保存したものが、IFNγを産生し細胞傷害性を発揮する能力は、免疫療法のために臨床上実行可能かつ有効なトランスフェクトT細胞を大きな単位で製造するために不可欠である。
【0049】
この戦略がレトロウイルスによる形質導入の欠点(例えば、挿入変異の可能性)を克服するので、この戦略は、癌、病原体感染及び自己免疫疾患の治療の免疫療法、並びに移植拒絶反応の免疫療法のための、抗原特異的Tリンパ球を製造する新規かつよりよい方法を提供する。エレクトロポレーションによってRNAを細胞中へ入れれば、挿入変異の可能性の問題は全く無くなり、そしてある分子の一過性の発現のみを必要とするような利用においては、RNAのエレクトロポレーションは良い代替法である。RNAはトランスフェクトされた細胞内に一過性にしか存在せず、そしてゲノム中に組み込まれることはないので、この手段を遺伝子治療に分類することはできない。したがって、我々のT細胞のTCR RNAトランスフェクションは、レトロウイルスによるT細胞中へのTCR遺伝子の形質導入より、非常に安全である。他の重要な側面は、RNAトランスフェクションの(技術的視点及び制御的視点の両方から見た)安全性と単純さによって、治療上の実用性を対象とする候補TCRの迅速なスクリーニングが可能なことである。養子免疫移入において使用するための、レトロウイルスによって形質導入されたT細胞を超えるTCR RNAでトランスフェクトされたT細胞の利点とは別に、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞を、“試薬”として、そして不安定と報告されているヒトT細胞クローンの代わりとして使用し、in vitro でAPCおよび標的細胞上の特異的MHC/ペプチド複合体を探索し監視することができる。一製造に数バッチを凍結保存できることで、長期間の実験にわたって一定の質を供給できる。
【0050】
多くのT細胞をエレクトロポレーションすることが可能である一方、一過性にトランスフェクトされたT細胞を腫瘍に注入する場合、このことは必要ない。わずかなT細胞で腫瘍の一部の破壊を引き起こすことが可能であり、そのことにより続いて抗原提示細胞による抗原の有効な提示によって、エピトープの伝播をもたらすことができる。併用療法の使用も可能であり、始めにTCRでトランスフェクトされたT細胞を注入してエピトープ伝播を誘導し、続いて、抗原をロードしないか事前にロードしたいずれかの樹状細胞を注入する。これらの場合、多量のT細胞及び/又は特異的TCRの長期間の発現を必要としない。その上、TCRでトランスフェクトされたCD4+細胞は、腫瘍拒絶に関するヘルパーT細胞を提供することができる。
【0051】
TCRのα鎖及びβ鎖(又はγ鎖及びδ鎖)の全長をコードするRNAのエレクトロポレーションは、レトロウイルスによって形質導入されたTCR鎖と内因性のTCR鎖の対合によって引き起こされる自己反応性についての、長期にわたる問題を克服する代替法として利用することができる。一過性トランスフェクションの戦略においてそのような代替的対合が起こったとしても、導入されたTCRα鎖及びβ鎖は一過性にしか発現しないので、生成する可能性のある自己反応性T細胞は、そのうちにこの自己反応性を緩めるだろう。導入されたTCRのα鎖及びβ鎖の発現が減少すると、正常な自己T細胞のみが残る。これは、TCR鎖の全長を安定なレトロウイルスの形質導入によって導入した際にはあてはまらず、そのことは導入されたTCR鎖を決して減少せず、患者において持続的に自己反応性を生じさせる。
【0052】
緑色蛍光タンパク質(GFP)を用いてT細胞をエレクトロポレーションすることについての、いくつかの成功が以前に報告されている。しかし、GFP RNAおよびタンパク質はともに非常に安定であり、GFP RNAにおいて達成されたトランスフェクション効率と比べて、その他のRNAで観察される効率は典型的には小さい。本発明より前には、十分に高い効率で、膜タンパク質、特にヘテロ二量体膜タンパク質をコードしたRNAによるT細胞のトランスフェクションを達成して、機能的発現を達成することは、不可能と考えられていた。本発明は、RNAを用いてT細胞をエレクトロポレーションするための最適化した方法を提供し、これによって一過性にトランスフェクトされたT細胞における、TCR RNA及びその他のRNAの機能的発現を可能にする。本明細書中に開示される方法を使用して、あらゆる型のT細胞をRNAでトランスフェクトすることができる。好ましい態様において、RNAはTCRをコードする。T細胞におけるTCR RNAの発現は、TCRと抗原:MHC複合体とのライゲーションに応答する抗原特異的なエフェクター機能をもたらす。
【0053】
したがって、本発明は、抗原に対して特異的なT細胞受容体(TCR)をコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたエフェクターT細胞を含む組成物であって、ここで、該T細胞が、MHC分子と複合体化した抗原を提示する細胞に対して特異的なエフェクター機能を有する、前記組成物を提供する。
【0054】
“T細胞”とは、Tリンパ球を意味し、必ずしもこれらには限定されないが、そこには、γ:δ+T細胞、NK T細胞、CD4+ T細胞、及びCD8+ T細胞が含まれる。CD4+ T細胞には、TH0、TH1及びTH2細胞、並びに制御性T細胞(Treg)が含まれる。制御性T細胞には少なくとも三つのの型がある:CD4+ CD25+ Treg、CD25- TH3 Treg、及びCD25- TR1 Treg。“細胞傷害性T細胞”とは他の細胞を殺すことができるT細胞を意味する。細胞傷害性T細胞の大部分は、CD8+ MHCクラスI拘束性T細胞であるが、しかし一部の細胞傷害性T細胞は、CD4+である。あらゆる型のT細胞を、本明細書中の方法を使用してトランスフェクトすることができる。好ましい態様において、T細胞はCD4+又はCD8+である。一態様において、T細胞はTreg細胞である。
【0055】
ほとんどのT細胞受容体(TCR)は、MHC分子に結合するペプチド抗原(又は抗原のペプチド断片)の複合体である(MHC:抗原複合体)。TCRは、各T細胞の抗原特異性に関与し、同時にMHCクラスI分子又は対するMHCクラスII分子によって提示される抗原の認識の拘束性にも関与する。CD4+ T細胞に由来するTCRは、MHCクラスII拘束性であり、これはCD4+ T細胞に由来するTCRは、MHCクラスII分子によって提示された抗原しか認識しないことを意味する。CD8+ T細胞に由来するTCRは、MHCクラスI拘束性であり、MHCクラスI分子によって提示された抗原しか認識しない。一態様において、一またはそれ以上のMHCクラスI拘束性TCRをコードするRNAで、CD8+ T細胞をトランスフェクトする。別の態様においては、一またはそれ以上のMHCクラスII拘束性TCRをコードするRNA、CD4+ T細胞をトランスフェクトする。
【0056】
驚くべきことに、本発明者は、MHCクラスI特異的TCRをコードする核酸のトランスフェクションによって、CD4+ T細胞にMHCクラスI特異的抗原認識を付与することができることを、見いだした。同様に、MHCクラスII特異的TCRをコードする核酸のトランスフェクションによって、CD8+ T細胞にMHCクラスII特異的抗原認識を付与することができる。本明細書中で使用される場合、TCRが特定の抗原に対して“特異的”と見なされるのは、関連のない抗原で刺激された場合と比べて、(MHC分子と複合体化した)その抗原によって刺激された場合に、このTCRを持つT細胞が免疫学的機能(例えばサイトカインの放出、刺激細胞の溶解など)を、顕著に強く(p<0.05)発揮する場合である。よって、一態様において、一またはそれ以上のMHCクラスII拘束性TCRをコードする核酸、好ましくはRNAで、CD8+ T細胞をトランスフェクトする。他の態様において、MHCクラスI拘束性TCRをコードする核酸、好ましくはRNAで、CD4+ T細胞をトランスフェクトする。さらに、MHCクラスI及びMHCクラスII拘束性TCRを両方コードする核酸群、好ましくはRNAで、CD8+ T細胞をトランスフェクトする。同様に、MHCクラスI及びMHCクラスII拘束性TCRを両方コードする核酸群、好ましくはRNAで、CD4+ T細胞をトランスフェクトする。本発明で有用なTCRには、抗原がMHC分子と複合体化しているか否かに関わらず抗原を認識することができる、キメラの非MHC拘束性TCRが含まれる。非MHC拘束性TCRが特定の抗原に対して“特異的”と見なされるのは、関連のない抗原で刺激された場合と比べて、(MHC分子と複合体化しているか否かに関わらず)その抗原によって刺激された場合に、このTCRを持つT細胞が免疫学的機能(例えばサイトカインの放出、刺激細胞の溶解など)を、顕著に強く(p<0.05)発揮する場合である。したがって、CD4+ T細胞とCD8+ T細胞の両方を、非MHC拘束性TCRをコードする核酸、好ましくはRNAで、単独に又はMHC拘束性TCRと組み合わせて、トランスフェクトすることができる。
【0057】
天然のTCRは、アルファ鎖及びベータ鎖(TCRα及びTCRβ)又はガンマ鎖及びデルタ鎖(TCRγ及びTCRδ)のいずれかの、二つのポリペプチド鎖を含む、ヘテロ二量体糖タンパク質である。α:βTCRは、CD8+ T細胞及びCD4+ T細胞で天然に発現し、一方、γ:δTCRは、γ:δ+ T細胞と呼ばれるT細胞のサブセットにおいて天然に発現する。TCRの多様性は、胸腺におけるT細胞の発生中に、可変領域の遺伝子断片の一連の再構成によって生成される。各鎖は、細胞外可変領域、細胞外定常領域、二つの鎖の間にジスルフィド結合を形成するためのシステイン残基を有するヒンジ領域、膜貫通領域、及び細胞質尾部を有する。ヘテロ二量体の二つの可変領域が、一つの抗原結合部位を形成する。アルファ及びベータTCR鎖の可変領域の相補性決定領域(CDR)3が、ペプチドと相互作用する。アルファ及びベータTCR鎖の可変領域のCDR1及びCDR2領域が、MHC分子と相互作用する。
【0058】
本発明は、抗原に対して特異的なT細胞受容体をコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたT細胞を提供する。TCRは、MHCクラスI拘束性、MHCクラスII拘束性、又は非MHC拘束性(MHC非依存性)であり得る。これらの型のTCRそれぞれは、当業者に知られている。非MHC拘束性キメラ受容体の例は、Bolhuis et al. Adv Exp Med Biol. 1998;451:547-55; Weijtens et al. Gene Ther. 1998 Sep;5(9):1195-203; Weijtens et al. Int J Cancer. 1998 Jul 17;77(2):181-7; Eshhar et al. J Immunol Methods. 2001 Feb 1;248(1-2):67-76; Hombach et al. Int J Cancer. 2000 Oct 1;88(1):115-20;及びDaly et al. Cancer Gene Ther. 2000 Feb;7(2):284-91;において開示されており、これらの内容が参考文献として援用される。CD4+ T細胞及びCD+8 T細胞の両方を、あらゆる型のTCRでもトランスフェクトすることができる。また、サイトカイン、転写制御因子(例えば、FoxP3)、共刺激分子などの、他の興味あるポリペプチドをコードする追加のRNAで、T細胞を共トランスフェクトすることもできる。しかし、本明細書中で使用する場合、TCRをコードするRNAの割合が、全RNA又は全mRNAにおける正常な存在量に対して濃縮されないならば、T細胞受容体をコードするRNAでのトランスフェクションには、T細胞又はT細胞誘導体(例えばT細胞腫瘍)の全RNA又は全mRNAのトランスフェクションが含まれない。
【0059】
“T細胞受容体をコードするRNA”とは、TCRによって認識されるクラスのMHC分子と抗原が複合体化する場合(又は、TCRが非MHC拘束性TCRである場合は、MHC分子との複合体非存在下)、発現したT細胞受容体が、それが通常認識する抗原に特異的に結合するという点で、機能的なT細胞受容体をコードする一またはそれ以上のRNAを意味する。多くの場合、このRNAには、TCRのアルファ鎖をコードするRNA及び対応するTCRのベータ鎖をコードするRNA(又はその代わりに、TCRのデルタ鎖をコードするRNA及び対応するTCRのガンマ鎖をコードするRNA)が含まれるであろう。あるいは、キメラ受容体を使用することができ、それによって誤対合を回避し、HLA拘束性を避けることができるであろう。キメラTCRポリペプチドは、異なるタンパク質由来のドメインを一緒に融合することによって、生成することができる。例えば、細胞内ドメインには、典型的に、例えばCD3ゼータ鎖といったTCR複合体の細胞内シグナル伝達ドメイン、又は、例えばFc受容体由来のシグナル伝達ドメインといった同じ様式で機能するシグナル伝達ドメインが含まれる。細胞外ドメインは、例えばTCRアルファ鎖及びベータ鎖の細胞外ドメインといったMHCとの関連で抗原と特異的に結合することができるもの、又は、例えば抗原特異的scFvといったMHCと独立して抗原に結合することができるものを、選択することができる。膜貫通ドメインは、細胞内ドメイン又は細胞外ドメインのいずれかも取ったタンパク質から、又は別の膜貫通タンパク質から、取る又は得ることができる。
【0060】
レトロウイルスによってT細胞にTCRを形質導入した多くの研究においては、TCRα鎖及びβ鎖遺伝子の全長を使用して、これらのT細胞を再標的化した。しかしながら、理論的には、導入された鎖が内因性のTCR鎖と対合し得るので、全長TCR鎖遺伝子の使用には、危険を伴う可能性がある[8, 30, 32]。この代替的対合は、想定外の特異性を導く可能性があり、これは自己反応性であり得る。この自己反応性TCRの形成は、遺伝子治療規制委員会(gene therapy regulatory committee)における認識された懸案事項である。その代替的対合が起こったことは、gp100又はMDM-2に特異的なTCR鎖の全長がレトロウイルスによってT細胞へ移入された研究において示された。導入されたTCRβ鎖を発現したT細胞の一部(すなわち、それぞれ50〜60%及び30〜50%)のみが、それぞれのMHC/ペプチド四量体に結合することができた[24, 27]。
【0061】
代替的対合問題に関する一つの解決法は、一つまたは二つの鎖の修飾したTCRに基づく受容体を導入することであり、これらは全長TCRと構造的に異なるので、導入したTCR鎖同士の排他的対合をもたらす[8]。一本鎖TCR(scTCR)を構築する方法は、Lake et al. (1991) Int Immnunol 11:745-751及びNitta et al. (1990) Science 249:672において開示され、その内容が参考文献として援用される。いくつかのメラノーマ抗原、例えばMAGE-1 [29]、gp100 [23]に特異的な、そのような受容体は、レトロウイルスによる形質導入によって、T細胞へ機能的に導入されていた。しかし、OVAペプチドに対して特異的な全長TCRと修飾一本鎖TCRを注意深く比較すると、一本鎖TCRを導入されたT細胞は、OVAペプチドでパルスされた標的細胞による刺激に対して、より低い効率で応答し(すなわち、特に低い濃度のペプチドが使われた場合)、そして、全長TCRを導入されたT細胞と比べて標的細胞を自然に発現していた[32]。したがって、最も効果的なT細胞を生成するためには、TCR移入のための全長TCR鎖を使用することが望ましい。
【0062】
好ましくはTCR鎖は哺乳動物由来であり、より好ましくは霊長類由来であり、最も好ましくはヒト由来である。好ましい態様において、TCRは、腫瘍又は病原体由来の抗体、又は自己抗原を特異的に認識する。好ましくは、抗原は腫瘍特異的抗原又は病原体特異的抗原である。好ましい腫瘍抗原には、以下の型の腫瘍由来のものが含まれる:腎細胞癌、メラノーマ、慢性リンパ性白血病、乳癌、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、及び結腸癌。腫瘍特異的抗原の例には、必ずしもこれらに限定されないが、MART-1、MAGE-1、MAGE-3 gp75、MDM2、チロシナーゼ、テロメラーゼ、gp100、サバイビン(survivin)、アルファ-1フェトプロテイン、G250、又はNY-ESO-1が含まれる。好ましい病原体抗原には、HIV及びHCV由来の抗原が含まれる。
【0063】
非常に多くのアルファ、ベータ、ガンマ、及びデルタTCR鎖の配列が、当該技術分野において知られている(例えば、Arden et al. (1995) Immunogenetics 42:455-500参照、その内容が参考文献として援用される)。GenBankには現在、様々な脊椎動物種のT細胞受容体配列に関する12000より多くの登録が含まれている。TCRライブラリーの作製及びスクリーニングの方法は、U.S.特許公開公報2003/0082719において開示されており、その内容が参考文献として援用される。追加のTCR鎖をクローニングする方法は、当業者において知られている。例えば、所望の特異性のTCRを発現するT細胞を同定し、そしてそのRNAをDNAへ逆転写することによってTCR鎖をクローニングすることができる。次いで、TCRα鎖及びβ鎖のサブタイプをPCRによって決定することができる。サブタイプの同定によって、両鎖の全長コード配列を増幅することができる特異的プライマーを選択することができる。TCRα鎖及びβ鎖のサブタイプを決定し、そしてTCRのRT-PCR増幅のためのプライマーを選択するための、PCRを用いた方法は、Lake et al. (1999) Int Immunol 11:745-751及びNitta et al. (1990) Science 249:672において開示され、その内容が参考文献として援用される。RT-PCRによってTCRγ鎖およびδ鎖をクローニングするための方法及びそのためのプライマーは、Kapp et al. (2004) Immunology 111:155-164; Weber-Arden et al. J Immunol Methods. 1996 197(1-2):187-92;及びOlive (1995) Neuroimmunol 62:1-7において開示されており、その内容が参考文献として援用される。TCRα鎖及びβ鎖のサブタイプの同定によって開始される、上記方法の代替法は、代わりに、TCR RNAの保存領域にハイブリダイズする逆転写のためのプライマーを用いて、TCR RNAのcDNAコピーを逆転写し、そして次いで、cDNAの3’末端へ決まった配列を(例えば、ターミナルトランスフェラーゼによって、又は改良キャップスイッチ法(improved capswitch technique)によって)結合すればよい(WO 2005/052128、その内容が参考文献として援用される)。あらゆる細胞(例えばT細胞)から抽出したRNAのRT-PCR、及びin vitro転写の方法は、同時係属中の出願WO 2005/052128及びPCT/US05/32710において開示されており、その内容が参考文献として援用される。
【0064】
TCR RNAのcDNAコピーは、in vitro転写のために発現カセットへ挿入することができる。あるいは、TCR cDNAは、in vitro転写のために適した、及びエレクトロポレーションされたT細胞内のin vitro 転写(IVT)RNAの翻訳のために適した、転写シグナル及び翻訳シグナルを含有するプライマーを用いて増幅することができる。T細胞における翻訳の最適化を保証するために、TCR鎖をコードするIVT RNAは、キャップ化され及びポリアデニル化されていることが好ましい。また、mRNAの安定性及び/又は翻訳効率は、5’UTR及び3’UTRなどの追加的な非コード配列を組み込むことによって、増加させることができる。
【0065】
in vitro転写の方法は、当業者において知られている(例えばU.S.2003/0194759参照、その内容が参考文献として援用される)。典型的なin vitro転写反応において、鋳型DNAは、全4種のリボヌクレオシド三リン酸及びm7G(5’)ppp(5’)Gなどのキャップジヌクレオチド(cap dinucleotide)又はARCAなどのキャップアナログの存在下で、バクテリオファージRNAポリメラーゼを用いて転写される。そのような方法は当該技術分野においてごく普通のものであり、次の出版物において開示されている:Sambrook et al. MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd edition (1989); CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (Ausubel et al. eds. (1987)); the series METHODS IN ENZYMOLOGY (Academic Press, Inc.); PCR: A PRACTICAL APPROACH (M. MacPherson et al. IRL Press at Oxford University Press (1991));及びPCR 2: A PRACTICAL APPROACH (MacPherson, Hames and Taylor eds. (1995))。
【0066】
TCR IVT mRNAによるT細胞の一過性のトランスフェクションは、RNAの翻訳及び細胞膜中へのTCRヘテロ二量体(又はキメラTCR)の局在化をもたらす。MHC分子と複合体化した抗原とこのTCRとの結合は、活性化T細胞によるエフェクター機能をもたらす。一過性にトランスフェクトされた、とは、細胞内にトランスフェクトしたRNAが、宿主ゲノム中に組み込まれず、又は細胞内で独立して複製されないことを意味する。対照的に、レトロウイルスによる形質導入は、宿主染色体中へレトロウイルスのベクターが組み込まれることに基づいている。
【0067】
好ましい態様において、休止期T細胞、好ましくは休止期エフェクターT細胞を、RNA、好ましくはTCRをコードするRNA及び/又はFoxP3 RNA を用いてエレクトロポレーションする。胸腺細胞は、胸腺において成熟T細胞への分化し、そしてナイーブ表現型かつ休止期状態で、血流及び末梢へ遊出する。それらは、それらが活性化される共刺激シグナルと一緒にその特異的抗原:MHC複合体と遭遇したときに、分裂を開始し、そして例えばエフェクターT細胞又はセントラル記憶T細胞の表現型などの、新しい表現型を得る。抗原が取り除かれると、それらは再び休止期状態に入ることができる。抗原:MHC複合体と再び遭遇したときは、共刺激は必要なく、そしてT細胞は再び急速に活性化される。それは再び分裂して、記憶T細胞はさらにエフェクターT細胞へ分化することができる。しかしその場合にも、それは再び休止期になることができる。健康なドナー由来の末梢T細胞は、通常、ナイーブT細胞、記憶T細胞、及びエフェクターT細胞の混合物を含み、その大部分は休止期である。これらの休止期T細胞は、まれにしか分裂せず、そして一般にクロマチンが凝縮し細胞質が少量であり、小さい。活性化の際に、それらは急速に増殖し、大きさを増す。休止期T細胞は、典型的にはIL-2の存在下で、PHA、PMA又はOKT3による刺激によって、in vitroでも活性化することができる。驚くべきことに、本発明者は、TCR RNAとともに休止期T細胞をエレクトロポレーションすることが、PHA、PMA又はOKT3 Abによる刺激を必要とせずに、トランスフェクトしたTCRに対する特異的なエフェクター機能を付与することを、発見した。
【0068】
休止期CD4+T細胞及びCD8 T細胞は、典型的には CD25-HLA DR-及びL-selectin+であり、分裂せず、またサイトカインを発現しない。活性化T細胞は、典型的にはL-Selectin-、CD25+、HLA DR+であり、急速に分裂し、そしてIL2、IFNγ及びTNFを含む様々なサイトカインを産生する。末梢血液からT細胞を単離する方法は、当業者において知られており、本明細書中にも記載される。
【0069】
T細胞のエフェクター機能には、必ずしもこれらには限定されないが、一またはそれ以上のIL-2分泌、腫瘍壊死因子(TNF-α)分泌、インターフェロン-γ(IFNγ)分泌、細胞傷害性、ヘルパー機能(例えば、マクロファージの活性化及び/又はB細胞の活性化)、及び制御機能が含まれる。エフェクター機能は、トランスフェクトされたT細胞の型に依存する。活性化CD8+ T細胞のエフェクター機能には、細胞傷害性及びIFNγ分泌が含まれる。活性化CD4+ TH1細胞のエフェクター機能には、マクロファージの活性化が含まれる。活性化CD4+ TH2細胞のエフェクター機能には、B細胞を活性化して、増殖させて抗体を産生させることが含まれる。制御性エフェクター機能には、必ずしもこれらには限定されないが、IL-10分泌及び/又はTGF-β分泌が含まれる。エフェクター機能を検出し測定する方法は、当業者に知られている。
【0070】
T細胞のエフェクター機能は、それらのTCRと標的細胞上の抗原:MHC複合体との特異的結合に応答して、それらが放出するエフェクター分子によって決定される。溶解性顆粒中に蓄積され、細胞傷害性CD8+ T細胞によって放出され得る細胞傷害性エフェクター分子には、パーフォリン、グランザイム、グラニュライシン(granulysin)、及びFasリガンドが含まれる。パーフォリンは、標的細胞中に膜貫通孔を形成する。グランザイムは、アポトーシスの引き金を引くことができるセリンプロテアーゼである。グラニュライシンは、標的細胞においてアポトーシスを誘導することができる。Fasリガンドも、標的細胞においてアポトーシスを誘導することができる。細胞傷害性T細胞によって放出され得るその他のエフェクター分子には、IFN-γ、TNF-β及びTNF-αが含まれる。IFN-γは、ウイルスの複製を阻害し、マクロファージを活性化する。TNF-β及びTNF-αは、マクロファージ活性化及びいくつかの標的細胞を殺すことに関与することができる。CD8+ T細胞由来のTCR RNAによるCD8+ T細胞のトランスフェクションは、MHCクラスI拘束性の抗原特異的細胞傷害性(すなわち、抗原:MHCクラスI複合体を提示する標的細胞に対する細胞傷害性)をもたらす。それに対して、CD4+ T細胞由来のTCR RNAによるCD8+ T細胞のトランスフェクションは、MHCクラスII拘束性の抗原特異的細胞傷害性(すなわち、抗原:MHCクラスII複合体を提示する標的細胞に対する細胞傷害性)をもたらす。細胞内病原体(例えば、結核およびハンセン病の原因菌であるマイコバクテリア)由来の抗原は、典型的にはMHCクラスII分子上に提示される。したがって、マイコバクテリア抗原に対して特異的なTCRをコードするRNAによるCD8+ T細胞のトランスフェクションは、マイコプラズマ感染細胞に対する、MHCクラスII拘束性の抗原特異的細胞傷害性をもたらすことができる。
【0071】
CD4+ TH1細胞によって分泌され得るマクロファージ活性化エフェクター分子には、IFN-γ、TNF-α、GM-CSF、CD40リガンド(CD154)及びFasリガンドが含まれる。CD4+ TH1細胞のサブセットは、B細胞活性化を支援することもでき、IFN-γ及びCD40リガンドは、マクロファージを活性化して、飲み込まれたバクテリアを破壊する。TH1細胞によって放出され得るその他のエフェクター分子には、IL-3、TNF-β(B細胞を抑制する)、IL-2、CXCL2及びGROβが含まれる。Fasリガンド及びTNF-βは、細胞内のバクテリアによって慢性的に感染された細胞を殺すことができる。IL-2は、T細胞の増殖を誘導する。IL-3及びGM-CSFは、マクロファージの分化を誘導する。CCL2は、マクロファージの走化性を誘導する。CD4+細胞由来のTCR RNAによるCD4+ TH1細胞のトランスフェクションは、MHCクラスII拘束性のエフェクター機能(すなわち、抗原:MHCクラスII複合体を提示する標的細胞との抗原特異的結合に応答するマクロファージ活性化)をもたらす。それに対して、CD8+ T細胞由来のTCR RNAによるCD4+ TH1細胞のトランスフェクションは、MHCクラスI拘束性のエフェクター機能(すなわち、抗原:MHCクラスI複合体を提示する標的細胞との抗原特異的結合に応答する、IL-2、TNF及びIFNの高分泌とマクロファージ活性化)をもたらす。
【0072】
CD4+ TH2によって分泌され得るB細胞活性化エフェクター分子には、IL-4、IL-5、IL-9、IL-13、IL-15及びCD40リガンドが含まれる。TH2細胞によって分泌され得るその他のエフェクター分子には、IL-3、GM-CSF、IL-10(マクロファージ活性化を抑制する)、TGF-β、IL-2、CCL11(エオタキシン)及びCCL17(TARC)が含まれる。活性化TH2細胞(およびいくらかのTH1細胞)は、B細胞を刺激して、それらがB細胞によって提示される特異的抗原:MHCクラスII複合体を認識したときに、増殖及び分化するようにする。CD4+ T細胞由来のTCR RNAによるCD4+ TH2細胞のトランスフェクションは、MHCクラスII拘束性のエフェクター機能(すなわち、抗原:MHCクラスII複合体を提示する標的細胞との抗原特異的結合に応答するB細胞活性化)をもたらす。それに対して、CD8+ T細胞由来のTCR RNAによるCD4+ TH2細胞のトランスフェクションは、MHCクラスI拘束性のエフェクター機能(すなわち、抗原:MHCクラスI複合体を提示する標的細胞との抗原特異的結合に応答するB細胞活性化)をもたらす。
【0073】
CD4+制御性T細胞は、免疫応答を下方制御(down-regulate)する。TR1制御性T細胞は、IL-10及びTGF-βなどの免疫抑制性エフェクター分子を分泌する。IL-10は、IL-2、TNF-α及びIL-5のT細胞による産生を減少させることによって、T細胞の応答を下方制御する。TGF-βは、T細胞の増殖、傷害、及びサイトカイン発現を低下させる。TH3制御性T細胞は、免疫抑制性エフェクター分子TGF-βの分泌によって、免疫応答を下方制御する。CD4+ CD25+制御性T細胞は免疫抑制性であり、そしてそれらのTCRとの抗原特異的結合によって活性化される。ひとたび活性化されると、CD4+ CD25+制御性T細胞は、抗原非依存的様式で(antigen-independent manner)免疫抑制性エフェクター機能を示す。
【0074】
一過性にトランスフェクトされたエフェクターT細胞は、腫瘍、病原体感染、自己免疫疾患、GVHDの治療、及び移植拒絶反応の予防のために使用することができる。本発明の好ましい態様において、TCRは、腫瘍抗原、病原体抗原、又は自己抗原に対して特異的である。好ましくは、抗原は、腫瘍抗原又は病原体抗原である。抗原は、必ずしもこれらには限定されないが、腎細胞癌、メラノーマ、慢性リンパ性白血病、乳癌、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、又は結腸癌を含む、あらゆる型の腫瘍に由来し得る。好ましいメラノーマ抗原には、MART-1、MAGE-1、MART-1、及びgp100が含まれる。その他の好ましい腫瘍抗原には、gp75、MDM2、チロシナーゼ、テロメラーゼ、サバイビン、アルファ 1 フェトプロテイン、CA125、CA15-3、CA19-9、PSA、G250、及びNY-ESO-1が含まれる。さらなる腫瘍関連抗原及び、TAAのそれらの同定のための方法は、Nicolette and Miller (2003) Drug Discovery Today 8:31-38; Kawakami and Rosenberg (1997) Immunol Res 16:313及びSlingluff et al. (1994) Curr Opin Immunol 6:733において開示されており、その内容が参考文献として援用される。好ましい病原体抗原は、HIV及びHCV抗原である。癌治療において、腫瘍特異的TCRのための一つの供給源は、腫瘍浸潤リンパ球である。アネルギー的ではあるが、それらは機能的TCRを発現する。別の候補は、患者由来のT細胞のin vitro刺激であり得る。制御機構のない状態では、TAA特異的T細胞を増やすことができる。ひとたびTCRのアレイが作製されれば、これらをもとにするある一揃いを、腫瘍のMHC型及び抗原発現に関して、各患者のために個別に選択することができる。HIV治療においては、いくつかの免疫原性ペプチドがその特性をよく明らかにされている。しかし、ほとんどの患者の免疫システムはすでに弱すぎて、ウイルスに対して効果的な免疫応答を開始することができない。効果的な免疫応答を示すHIV感染患者(例えば、初期に、又は長期間非進行状態(long-term non-progressor)の後期に)から、又はワクチン接種試験に参加した健康なドナーにおいて、TCRを生成することができるであろう。
【0075】
上記のように、MHCクラスI拘束性TCR、MHCクラスII拘束性TCR及び/又は非MHC拘束性TCRのいずれかをコードするRNAを、エレクトロポレーションによってあらゆる型のT細胞へトランスフェクトすることができる。一態様において、T細胞は制御性T細胞(Treg)である。好ましくは、Tregは、CD4+CD25+である。自己抗原に対して特異的なTCR RNAでトランスフェクトされた制御性T細胞は、自己免疫疾患の治療のために有用である。移植抗原に対して特異的なTCR RNAでトランスフェクトした制御性T細胞は、移植拒絶反応の予防のため、及び移植片対宿主病(GCHD)の治療又は予防のために有用である。
【0076】
FoxP3は、CD4+ T細胞が制御性T細胞へ分化することに関与する、転写因子である。FoxP3のレトロウイルスによる発現は、CD4+ T細胞を制御性T細胞へ変換するために十分なものである(Sakaguchi et al. (2003) Science 299:1057-61)。よって、一態様において、本発明は、FoxP3をコードする外来性RNAを含むTreg細胞を提供する。ヒトFoxp3のアミノ酸配列及びcDNA配列は、GenBank受入番号NM_014009(VERSION NM_014009.2 GI:31982942)において開示されている。外来性RNAとは、RNAによるトランスフェクションによって、又は外来性発現カセットの転写によって、直接導入されたRNAを意味する。したがって、FoxP3をコードするRNAによって、又はFoxP3のための発現カセットによって、CD4+ T細胞をトランスフェクトすることができる。好ましい態様において、FoxP3をコードするRNAでT細胞を一過性にトランスフェクトする。同様に、FoxP3 RNA及びTCR RNAで、CD4+ T細胞を共トランスフェクト(cotransfect)することもできる。
【0077】
本発明者は、RNAを用いてT細胞をエレクトロポレーションするための方法を最適化した。好ましくは、精製CD8+ T細胞又は精製CD4+ T細胞をエレクトロポレーションする。TCRをコードするRNAを用いたT細胞のエレクトロポレーションは、トランスフェクトされたT細胞に新規の抗原特異性を付与する。したがって、一側面において、本発明は、抗原に対して特異的なTCR受容体をコードするRNAを用いて精製CD8+ T細胞又はCD4+ T細胞を含む組成物を、エレクトロポレーションすることを含む、T細胞に新規の抗原特異性を付与する方法を提供する。
【0078】
精製CD8+ T細胞とは、精製CD8+ T細胞組成物中のCD8+T細胞:CD8-T細胞の比率が、末梢血液中のCD8+T細胞:CD8-T細胞の比率と比べて増加していることを意味する。同様に、精製CD4+ T細胞とは、精製CD4+ T細胞組成物中のCD4+T細胞:CD4-T細胞の比率が、末梢血液中のCD8+T細胞:CD8-T細胞の比率と比べて増加していることを意味する。好ましくは、精製T細胞(CD8+又はCD4+)は、組成物中に存在する全T細胞の少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは95%、さらには少なくとも99%を含む。CD4+ T細胞又はCD8+ T細胞を精製するための方法は、当業者に知られている。好ましい態様において、T細胞を磁気選別によって精製する。一態様において、TregをCD8+ T細胞又はCD4+ヘルパーT細胞から分離する又は取り出す。
【0079】
エレクトロポレーションの前に、in vitroで、T細胞を刺激しない(そして主に休止期)でもよく、又は刺激してもよい(例えば、OKT3 Ab、PHA、PMAなどによって)。好ましくは、精製CD8+ T細胞又は精製CD4+ T細胞は、エレクトロポレーションの前に、フィトヘマグルチニン(PHA)又はOKT3によって刺激されていない。よって、別の側面において、本発明は、抗原に対して特異的なTCRをコードするRNAで休止期T細胞をエレクトロポレーションすることを含む、T細胞に新規の抗原特異性を付与する方法を提供する。
【0080】
しかし、エレクトロポレーションの前にT細胞の数を増やしておくことが望まれる場合、T細胞を刺激して増殖させ(例えば、好ましくはIL-2の存在下でPHA、PMA及び/又はOKT3を含む培地によって)、その後にRNAを用いてエレクトロポレーションしてもよい。
【0081】
本発明者は、休止期T細胞又は刺激されたT細胞のいずれかのエレクトロポレーションのための最適条件が、矩形波パルスを使用して、ギャップ幅100〜150 ボルト/mm(例えば、4 mmのギャップに対して400〜600 V)の電界強度で2〜10ミリ秒(ms)であることを見いだした。好ましくは、電界強度が110〜140 V/mm、より好ましくは120〜130 V/mm、そして最も好ましくは約125 V/mmである。例えば、2 mmキュベットを使用する態様において、最も好ましい電圧は250 Vになる。好ましくは、3〜7 ms間、より好ましくは4〜6 ms間、最も好ましくは5 ms間、電圧を加える。好ましい態様において、OptiMEM培地中で、又は室温において同じ伝導率の培地中で、細胞をエレクトロポレーションする。
【0082】
一態様において、本発明は、エレクトロポレーションの前にPHA又はOKT3によってin vitroで刺激されていないT細胞を、RNAを用いて、矩形波パルスを使用して100〜150 V/mmの電界強度で2〜10 msエレクトロポレーションすることを含む、T細胞を一過性にトランスフェクトする方法を提供する。好ましくは、T細胞はエレクトロポレーションの前に精製される(例えば、精製CD8+ T細胞、精製CD4+ T細胞、又は精製制御性T細胞)。別の態様において、T細胞はエレクトロポレーション後に精製される。
【0083】
TCR RNAで一過性にトランスフェクトされたT細胞は、腫瘍、病原体感染、自己免疫疾患、移植拒絶反応、及びGVHDの治療のために有用である。よって、一態様において、本発明は、本発明の方法によって生産される、免疫療法のための医薬の生産のためのT細胞の使用を提供する。別の側面において、本発明には、抗原に対して特異的なTCRをコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたT細胞を投与することを含む、被験体に抗原特異的T細胞のエフェクター機能を提供するための方法であって、この場合において該T細胞が、MHC分子と複合体化した抗原を提示する細胞に対してエフェクター機能を示す、前記方法が含まれる。好ましくは、エフェクター機能は細胞傷害性であり、抗原は腫瘍特異的又は病原体特異的である。好ましい態様において、T細胞は被験体について自己由来のものである。
【0084】
本発明のT細胞組成物は、その他の治療剤及び細胞傷害性剤と併用することができ、
それらと結合してもしていなくてもよく、又は同時に投与してもしなくてもよい。それらは、そのような薬剤と同時投与によって併用してもよいし(例えば、単一組成物中で又は別々に)、又はそのような薬剤の投与の前又は後に投与してもよい。そのような薬剤には、IL-2のような免疫刺激性サイトカイン、細胞分裂停止剤のような化学療法薬、抗ウイルス薬、ワクチン、又は治療を助けたり修正したりするその他のあらゆる種類の治療剤が含まれる。
【0085】
in vitroで転写されるRNAを作製するための方法
本発明の特定の態様は、IVT RNAの調製及び使用を必要とする。IVT RNAは、当該技術分野において既知のあらゆる方法を用いて生成することができる。好ましい態様において、発現カセットは、T7プロモーター又はSP6プロモーターなどの、in vitro転写のための適切なプロモーターを含有する。好ましくは、in vitroで転写されるmRNAは、安定性及び翻訳効率に関して最適化されている。例えば、mRNAの安定性及び/又は翻訳効率は、mRNA中に3’UTR及び5’UTRを含めることによって増加させることができる。3’UTRの好ましい例には、ヒトβ-アクチン(Qin and Gunning (1997) Journal of Biochemical and Biophysical Methods 36 pp. 63-72)及びロタウイルス遺伝子6(Yang et. al., 2004 Archives of Virology 149:303-321)由来のものが含まれる。5’UTRの好ましい例には、Hsp70(Vivinus, et al., 2001 European Journal of Biochemistry 268:1908-1917)、VEGF(Stein et al., 1998 Molecular and Cellular Biology 18:3112-3119)、脾臓壊死症ウイルスRU5(Roberts and Boris-Lawrie 2000 Journal of Virology 74:8111-8118)、及びタバコエッチウイルス(Gallie et al. (1995) Gene 165:233-238; Niepel and Gallie (1999) Journal of Virology 73:9080-9088. Gallie, Journal of Virology (2001) 75:12141-12152)の5’UTR中の翻訳エンハンサーが含まれる。
【0086】
T細胞の単離及び増殖
休止期T細胞及び活性化T細胞を含むT細胞は、当業者に知られる方法によって、哺乳動物から単離することができる。限定的ではない一つの方法において、Ficoll-Hypaque密度勾配遠心分離を使用して、確立された手順に従って、赤血球及び好中球からPBMCを分離する。1%ウシ胎仔血清(FBS)を添加した改変AIM-V(2 mMグルタミン、10μg/mlゲンタマイシン硫酸塩、50μg/mlストレプトマイシンを含むAIM-V(GIBCO)からなる)で細胞を洗浄する。標準的な手法に従って、カラム又は磁気ビーズとカップリングした適切なモノクローナル抗体による陰性選択又は陽性選択によって、T細胞を濃縮する。一部分の細胞を、CD4、CD8、CD3及びCD14を含む細胞表面表現型について解析する。例示のみを目的するものとして、細胞を洗浄し、そして、上記のように改変してさらに5% FBS及び100 U/ml 組換えIL-2(rIL-2)を含むAIM-V(添加AIM-V)1 mlあたり約5×105細胞の濃度に懸濁する。細胞がHIV+患者から単離される場合、25 nM のCD4-PE40(転座と連鎖したHIV-1結合性CD4ドメイン及びPseudomonas aeruginosa のexotoxin AのADPリボシル化ドメインからなる組換えタンパク質)、又はHIVと選択的にハイブリダイズするその他の同様の組換え細胞傷害性分子を、細胞増殖の残留物のために細胞培地へ添加し、培地からHIV感染細胞を選択的に取り除く。CD4-PE40は、HIV感染細胞培養においてp24の産生を阻害し、HIV-1感染細胞を選択的に殺すことが示された。T細胞の単離、培養、増殖のための好ましい方法は、実施例の項で開示される。
【0087】
増殖を刺激するために、OKT3モノクローナル抗体(Ortho Diagnostics)を、10 ng/mlの濃度で添加してもよく、そして細胞を1ウェルあたり0.5 mlずつ24ウェルプレートに蒔く。この細胞を、約37℃の温度で、5% CO2の加湿インキュベーターで、48時間培養する。培地を細胞から吸引し、そして5μl/mlのプロタミン硫酸塩、100 U/ml rIL-2、100 U/mlペニシリン、0.25μg/mlアンホテリシンB及び追加の100μg/mlストレプトマイシン(25 nMのCD4-PE40を添加してもよい)を、1 mlのベクター含有上清(以下に記載)に添加する。PHAによってT細胞の増殖を刺激するための方法は、実施例の項で開示される。
【0088】
細胞の単離及び特性解析
別の側面において、細胞表面マーカーを使用して、本発明の方法を実施するために必要な細胞の単離し又は特性解析することができる。例えば、ヒト幹細胞は、典型的にはCD34抗原を発現し、一方DCはMHC分子及び共刺激分子(例えば、B7-1及びB7-2)を発現し、顆粒球、NK細胞、B細胞及びT細胞について特異的なマーカーを欠く。表面マーカーの発現は、これらの細胞の同定及び精製を容易にする。同定及び単離のこれらの方法には、FACS、カラムクロマトグラフィー、磁気ビーズによるパニング法(panning)、ウェスタンブロット、ラジオグラフィー、電気泳動、キャピラリー電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高拡散クロマトグラフィー(hyperdiffusion chromatography)など、並びに液体又はゲル沈降反応、(単純又は二重の)免疫拡散法、免疫電気泳動法、放射免疫測定(RIA)、酵素結合免疫吸着法(ELISA)、免疫蛍光アッセイなどの様々な免疫学的方法が含まれる。一般的な免疫学的手法及び免疫アッセイ手法の概説としては、Stites and Terr (eds.) 1991 Basic and Clinical Immunology (7th ed.)及びPaul(上記)を参照。選択した抗原に対する抗体を作製するための方法の検討については、Harlow and Lane (1989)(上記)を参照。
【0089】
細胞単離及び細胞精製中の細胞の検出のための免疫アッセイは、いくつかの構成のいずれかで実行することができ、それは例えば、Maggio (ed.) (1980) Enzyme Immunoassay CRC Press, Boca Raton, Fla.; Tijan (1985)“Practice and Theory of Enzyme Immunoassays,”Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, Elsevier Science Publishers B.V., Amsterdam; Harlow and Lane, 上記; Chan (ed.) (1987) Immunoassay: A Practical Guide Academic Press, Orlando, Fla.; Price and Newman (eds.) (1991) Principles and Practice of Immunoassays Stockton Press, NY;及びNgo (ed.) (1988) Non-isotopic Immunoassays Plenum Press, NYにおいて概説されているものである。
【0090】
細胞は、FACS解析のようなフローサイトメトリー法によって、単離及び特性解析することができる。各種のフローサイトメトリー法が知られている。蛍光活性化フローサイトメトリーの一般的概説としては、例えば、Abbas et al. (1991) Cellular and Molecular immunology W.B. Saunders Company、特に3章、及びKuby (1992) Immunology W.H. Freeman and Company、特に6章を参照。FACS装置は、例えばBecton Dickinsonから入手可能である。
【0091】
細胞抗原の標識に使用することができる標識剤には、必ずしもこれらには限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、タンパク質、又はアフィニティーマトリックス、炭水化物又は脂肪などのその他の高分子が含まれる。検出は、免疫ブロッティング、ウェスタンブロット解析、放射活性マーカー若しくは生物発光マーカーの追跡、キャピラリー電気泳動法、又は、大きさ、電荷又は親和性に基づいて分子を追跡するその他の方法などの、既知の方法によって進めることができる。
【0092】
治療上の使用
一過性にトランスフェクトされたCD8+ T細胞は、哺乳類に導入することができ、ここでそれらの細胞は、該T細胞が、クラスI MHC分子上で、導入されたTCRによって認識するよう操作されたものと対応する、抗原ペプチドを有する標的細胞に対して細胞傷害性である。MHCクラスII拘束性TCRをコードするRNAによるCD8+ T細胞のトランスフェクションによって、抗原:MHCクラスII複合体を抗原特異的に認識できるようになる。同様に、CD4+ヘルパーT細胞は、MHCクラスIIの文脈で抗原ペプチドを認識するが、MHCクラスI拘束性TCRをコードするRNAでトランスフェクトされた場合は、ペプチド:MHCクラスI複合体を認識することもできる。ヘルパーT細胞はまた、標的細胞に対して免疫反応を刺激することもできる。標的細胞は典型的にはガン細胞又は病原体感染細胞である。
【0093】
T細胞は、活性化T細胞を投与する哺乳動物から単離することができる。あるいは、その細胞は、ドナーから提供されるか又は細胞バンク(例えば、血液バンク)に保存される、同種(allogenic)のものであってもよい。
【0094】
本発明の方法によって生産されるT細胞は、被検体に直接投与し、選択された抗原に対して活性なT細胞を産生することができる。投与は、細胞をうまく運んで最も適切な組織(又は複数の組織)へ完全に接触させるために、当該技術分野において既知の方法を用いることができる。細胞はあらゆる適切な様式で投与され、しばしば医薬的に許容される担体とともに投与される。本発明の文脈で、被検体へ細胞を投与する適切な方法が使用可能であり、一またはそれ以上の経路を使用して特定の細胞組成物を投与することができるが、ある特定の経路は、しばしば別の経路よりも迅速かつ効果的な反応を提供することができる。好ましい投与の経路には、必ずしもこれらには限定されないが、皮内投与、静脈内投与、リンパ節投与及び腫瘍内投与が含まれる。一態様において、T細胞を、ケモカイン受容体をコードするRNA、又は、転移部位(例えば、腸、肝臓、肺など)、自己免疫疾患に冒された組織などといった免疫療法の治療を必要とする部位へ細胞を導くホーミング分子をコードするRNAで、コトランスフェクトする(ケモカイン受容体及びホーミング分子の概説については、Salmi et al. Immunol Rev. 2005 206:100-13; Kim, Curr Opin Hematol. 2005 Jul;12(4):298-304; Kucia et al. Stem Cells. 2005 Aug;23(7):879-94; Ebert et al. Mol Immunol. 2005 May;42(7):799-809; Cambi et al. Cell Microbiol. 2005 Apr;7(4):481-8; Uhlig et al. Novartis Found Symp. 2004;263:179-88; discussion 188-92, 211-8; Kim et al. Curr Drug Targets Immune Endocr Metabol Disord. 2004 Dec;4(4):343-61: Zocchi et al. Leuk Lymphoma. 2004 Nov,45(11):2205-13; Sackstein J Investig Dermatol Symp Proc. 2004 Sep;9(3):215-23; Morris et al. Curr Mol Med. 2004 Jun;4(4):431-8; Marhaba et al J Mol Histol. 2004 Mar;35(3):211-31; Campbell et al. Semin Immunol. 2003 Oct;15(5):277-86; Cyster et al. Immunol Rev. 2003 Aug;194:48-60; Ley Trends Mol Med. 2003 Jun;9(6):263-8; Ono et al. J Allergy Clin Immunol. 2003 Jun;111(6):1185-99;を参照、その内容が参考文献として援用される)。
【0095】
医薬的に許容される担体は、部分的には、投与される特定の組成物によって、及びその組成物を投与するのに使用される特定の方法によって、決められる。したがって、本発明の医薬組成物の様々な適切な製剤がある。最も典型的には、ジフェンヒドラミン及びヒドロコルチゾンの投与の後に品質管理(微生物学、クローン形成法、生存率試験)が実行され、そして細胞を被検体に再注入して戻す。例えば、Korbling et al. (1986) Blood 67:529-532及びHaas et al. (1990) Exp. Hematol. 18:94-98を参照。
【0096】
例えば、腫瘍内、関節内(関節の中)、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、結節内(intranodal)及び皮下の経路などの非経口投与のための適切な製剤、及び担体には、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、及び製剤を対象の受容者の血液と等張にする溶質を含んでもよい水性無菌等張注射液(aqueous isotonic sterile injection solution)、及び、懸濁剤、可溶化剤、贈粘剤、安定化剤及び防腐剤を含んでもよい水性及び非水性無菌懸濁液が、含まれる。皮内投与及び静脈内投与は、本発明のT細胞のための好ましい投与の方法である。
【0097】
被検体に投与する細胞(例えば、活性化T細胞、又は樹状細胞)の用量は、有効量、すなわち被検体において長期にわたって所望の有益な治療上の反応を達成するために有効な量、又は癌細胞の成長を阻害するために有効な量、又は感染を阻害するために有効な量である。
【0098】
例示のみを目的とするものとして、後の解析と比較のために、注入の前に被検体から血液サンプルを得て保存することによって、本法を実行することができる。一般に、70 kgの患者へ、およそ60〜120分かけて、少なくとも約104〜106の細胞、そして典型的には1×108と1×1010の間の数の細胞を静脈内又は腹腔内に注入する。一側面において、投与は腫瘍内注入による。パルスオキシメトリーによって、生命兆候および酸素飽和度を緊密にモニターする。血液サンプルを、注入後5分及び1時間で得て、解析のために保存する。細胞の再注入は、ほぼ毎月、一年間に全部で10〜12回の治療になるように繰り返す。最初の治療の後は、臨床医の裁量に基づいて、外来患者に対して注入を行うことができる。外来患者として再注入が行われる場合、その患者を治療後少なくとも4時間はモニターする。
【0099】
投与のために、本発明の細胞は、有効量、細胞型のLD-50(又は他の毒性の指標)、及び様々な濃度でのその細胞型の副作用により、被検体の質量及び総合的な健康状態に合わせて決定される速度で投与される。投与は、単回投与又は分割投与で行うことができる。本発明の細胞は、細胞傷害性薬剤、ヌクレオチドアナログ及び生物反応修飾物質を含む既知の従来療法による症状についての、他の治療を補うことができる。同様に、生物反応修飾物質を、本発明の活性化T細胞による治療において、追加してもよい。例えば、細胞を、追加的に補助剤又はGM-CSF、IL-12、又はIL-2などのサイトカインと供に投与してもよい。
【0100】
免疫原性を評価する方法
本発明の方法によって生産されるT細胞の免疫原性は、必ずしもこれらには限定されないが、以下のよく知られた方法論によって測定することができる:
51Cr放出溶解アッセイ(51Cr-release lysis assay)。ペプチドパルスした51Cr標識化標的の抗原特異的T細胞による溶解を、比較することができる。“より活性な”組成物は、時間の関数として標的のより多くの溶解を示す。固定した時点(例えば4時間)での溶解の反応速度論及び総合的な標的溶解を使用して、能力を評価することができる。さらに、殺傷のために必要な標的細胞上の抗原密度は、T細胞の親和性を表す。Ware et al. (1983) 3. Immunol. 131:1312。
【0101】
サイトカイン放出アッセイ。修飾APCと接触した際にT細胞が分泌するサイトカインのタイプ及び量の解析は、機能的活性の指標となり得る。サイトカインを測定するための方法には、サイトカイン産生の速度及び全量を測定するためのELISA又はELISPOTアッセイが含まれる。Fujihashi et al. (1993) J. Immunol. Meth. 160:181; Tanquary and Killion (1994) Lymphokine Cytokine Res. 13:259。
【0102】
増殖アッセイ。T細胞は、反応性組成物に応答して増殖し得る。増殖は、例えば3H-チミジンの取り込みを測定することによって、量的にモニターすることができる。Caruso et al. (1997) Cytometry 27:71。
【0103】
トランスジェニック動物モデル。HLAトランスジェニックマウスに本発明の組成物をワクチン接種し、誘導された免疫応答の性質と規模を測定することによって、in vivoで免疫原性を評価することができる。あるいは、ヒトPBLの養子移入によって、hu-PBL-SCIDマウスモデルは、ヒト免疫系をマウス体内で再構築することができる。これらの動物に該組成物をワクチン接種し、そしてShirai et al. (1995) J. Immunol. 154:2733; Mosier et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2443において既に言及されているように、免疫応答を解析することができる。
【0104】
霊長類モデル。非ヒト霊長類(チンパンジー)モデル系を利用して、HLA拘束性リガンドの免疫原性をin vivoでモニターすることができる。チンパンジーは、ヒトMHC分子と部分的に一致するMHCリガンド特異性を共有するので、当業者はHLA拘束性リガンドを相対的in vivoの免疫原性について試験することができる。Bertoni et al. (1998) Immunol. 161:4447。
【0105】
TCRシグナル伝達イベントのモニタリング。いくつかの細胞内シグナル伝達イベント(例えば、リン酸化)は、MHC-リガンド複合体によるTCRの成功した結合と関連する。これらのイベントの定性解析及び定量解析は、TCRとの結合を通してエフェクター細胞を活性化する組成物の相対的能力に相関している。Salazar et al. (2000) Tnt. J. Cancer 85:829; Isakov et al. (1995) J. Exp. Med. 181:375。
【0106】
上記の説明に従い、以下の実施例は、本発明の様々な側面を例示することを意図しており、これを限定しない。
【実施例】
【0107】
材料と方法
細胞及び試薬
PBMCは、健康なドナーの全血(インフォームド・コンセントに従って入手し、施設内倫理委員会によって承認された)から、Lymphoprep(Axis-Shield, Oslo, Norway)を用いた密度遠心分離によって調製した。樹状細胞(DC)及び非接着性画分(NAF)を作製するために、1%の加熱不活性化自己血漿、2 mM L-グルタミン(BioWhittaker)、20 mg/L ゲンタマイシン(Sigma-Aldrich)を含むRPMI 1640(Cambrex)からなる自己培地(autologous medium)中にPBMCを再懸濁し、そして30×106細胞/皿で組織培養皿(BD Falcon)へ移した。接着が行われるように細胞を37℃で1〜2時間培養し、非接着画分を取り除き、そして前記[22]のように接着細胞から成熟DCを作製した。成熟DCを採取し、前記[22]のようにgp100 RNAを用いてエレクトロポレーションした。製造者の手引きに従い、抗CD8 MACSビーズ(anti-CD8 MACS beads)(Miltenyi, Bergisch Gladbach, Germany)を用いて、CD8+ T細胞を単離した。RPMI 1640、10%ヒト血清、2 mM L-グルタミン、20 mg/L ゲンタマイシン 10 mM HEPES、1 mMピルビン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)、1% MEM非必須アミノ酸(100×)からなり、20 U/ml IL-7を補充したMLPC培地中で、T細胞を培養した。20 IU/ml IL-2及び20 U/ml IL-7を、2日目および4日目に添加した。フィトヘマグルチニン(PHA)刺激T細胞培養液を作製するために、T25培養フラスコ中の、10%ヒト血清、1μg/ml PHA(Sigma)、20 U/ml IL-7及び20 IU/ml IL-2を補充したAIM-V培地中で、2×106のNAFを培養した。IL-2及びIL-7を、2日ごとに添加した。
【0108】
メラノーマ細胞株SK-MEL526(HLA-A2+/gp100+)、Colo 829(HLA-A1+/A2-/gp100+)及びNEMA(HLA-A2+/gp100-)、並びにT2細胞(TAP欠損T細胞×B細胞ハイブリッドT2-A1(HLA-A1+/A2+)ATCC# CRL-1992)を、RPMI 1640、2 mM L-グルタミン、ペニシリン-ストレプトマイシン、10%ウシ胎仔血清、2 mM HEPES及び2-βMEからなるR10培地中で培養した。メラノーマ細胞株のgp100の発現を、マウス抗gp100 mAb HMB45(DAKO, Glostrup, Denmark)及びロバ抗マウスPE溶液(RDI, Concord, MA, USA)で細胞内染色して確認した。特に、細胞をCytofix/Cytoperm溶液(BD Biosciences, Heidelberg, Germany)で透過し、そして製造者の手引きに従って、一Ab次及び二次Abで染色した。
【0109】
TCRでトランスフェクトされたT細胞を、PE結合抗TCRVβ14 mAb(すなわち、gp100/A2特異的TCRを認識する)、又はPE標識化gp100/HLA-A2四量体(Proimmune, Oxfored, UK)を用いたフローサイトメトリーによってTCR発現について解析した。
【0110】
本研究において使用したペプチドは、HLA-A2結合性gp100209-217アナログIMDQVPFSV、及びgp100280-288YLEPGPVTAであった。
TCR遺伝子のクローニング
レトロウイルスのpBulletベクター中への、gp100特異的296 TCR遺伝子のクローニングは、以前に記載された[24]。TCR296α鎖のコード配列を、レトロウイルスのpBulletベクター(Dr. R. Debets, ErasmusMC, Rotterdamより快く提供された)から、pGEM4Z-5’UTR-sig-MAGE-A3-DC.LAMP-3’UTRベクター[4](Dr. K. Thielemans, VUB, Brusselsより快く提供された)中へ、両ベクターをNcoIとXhoIで消化することによって、再クローニングした。pGEM4Z-5’UTR-sig-MAGE-A3-DC.LAMP-3’UTRベクターには、Xenopus laevisのβ-グロビン遺伝子の5’及び3’非翻訳領域及びポリAテールが含まれる。ポリAテールの3’末端には、一つしか存在しないNotI及びSpeIサイトがあり、これによってin vitro転写の前にプラスミドを直鎖状にすることができる。バクテリオファージT7プロモーターが、in vitroでのmRNA作製を可能にする。TCRβ296鎖のコーディング配列は、以下のプライマーを用いたPCRによって最初に増幅された。
【0111】
-TCRB296BamHI
5’-CTC TGG ATC CBamHIAT GGG CCC CCA GCT CCT TGG CTA TG-3’
-HCB
5’CTC TCT CGA GXhoIGG ATC GCT AGC CTC TGG AAT CCT TTC TC-3’
PCR産物は、BamHI及びXhoIで消化され、BglII及びXhoIで消化されたpGEM4Z-5’UTR-sig-MAGE-A3-DC.LAMP-3’UTRベクター中へクローニングされた。
【0112】
TCR RNAのin vitro転写
gp100遺伝子をpGEM4Z-64Aベクター中へクローニングすることによって、pGEM4Z-gp100-64Aベクターを作製し[1]、部位特異的変異生成によってSphIサイト(代替開始コドン)を消去した。in vitro転写のために、pGEM4Z改良GFPベクター、pGEM4Z-TCRα296、pGEM4Z-TCRβ296、及びpGEM4Z-gp100をSpeI酵素で直鎖状にし、フェノール/クロロホルム抽出及びエタノール沈殿により精製し、そしてDNA鋳型として使用した[14]。製造者の手引きに従い、T7 RNAポリメラーゼ(mMESSAGE mMACHINE T7 Ultra kit; Ambion)でin vitro転写を行った。製造者の手引きに従って、RNeasyカラム(Qiagen)上でDNaseI(Ambion)消化をした後に、in vitro 転写(IVT)RNAを回収した。アガロースゲル電気泳動によってRNAの質を確認し、分光光度計によってRNA濃度を測定し、そしてRNAを小分けして-80℃で保存した。
【0113】
Tリンパ球のRNAエレクトロポレーション
CD8+ T細胞を培養皿から採取し、純粋なRPMI 1640で一度、及びフェノールレッド不含OptiMEM(Invitrogen Life Technologies)で一度洗浄した(全て室温)。細胞を8×107/mlの濃度でOptiMEMに再懸濁した。IVT RNAを4 mmキュベット(Peqlab)に移した(終濃度150μg/ml)。体積100〜600μlの細胞懸濁液を添加し、Genepulser Xcell(Bio-Rad)でパルスする前に3分間インキュベートした。パルス条件は、矩形波パルス、500 V、5 msであった。エレクトロポレーションの後すぐに、前述の濃度のIL-7及び前述の濃度のIL-2を補充したMLPC培地へ、細胞を移した。
【0114】
T細胞の凍結保存
凍結保存は次のように行った:細胞を20〜50×106細胞/mlの濃度で20% HSA(Pharmacia & Upjhon)中に取り、氷上で10分間保存した。等量の凍結保存溶媒、すなわち、55% HSA(20%)、20% DMSO(Sigma-Aldrich)、及び25%グルコース(Glucosteril 40; Fresenius)を、細胞懸濁液に加えた。次いで細胞を、凍結冷凍コンテナ(Nalgene)中で-1℃/minで-80℃まで凍らせた。融解は、細胞の分離が見えるようになるまで、凍結チューブを37℃のウォーターバスに入れておくことで、実行した。次いで、細胞を10 mlのRPMI 1640へ注ぎ入れ、洗浄し、そして20 U IL-7/mlを含む予熱したMLPC培地が入った細胞培養皿に加えた。さらなる実験の前に、細胞を37℃のインキュベーター内に0.5時間静置した。
【0115】
TCRでトランスフェクトされたTリンパ球のフローサイトメトリー
抗TCRVβmAbによる表面染色のために、T細胞を洗浄し、その後、0.1%アジ化ナトリウム(Sigma-Aldrich)及び0.2%HSA(Octapharma)を含む100μlの冷FACS溶液(Dulbecco’s PBS; Bio Whittaker)へ1×105個の細胞を懸濁し、そしてmAbと供に30分間インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、100μlの冷FACS溶液に再懸濁した。染色された細胞を、FACStar細胞解析装置(BD Biosciences)で、二色免疫蛍光(two-color immunofluorescence)について解析した。前方光及び側方光散乱にゲートを使用することで、解析から細胞残渣を除去した。最低限の104個の細胞を、各サンプルについて解析した。結果を、CellQuestソフトウェア(BD Biosciences)を用いて解析した。
【0116】
四量体染色のために、5%のプールされた血清、10 mM HEPES、1 mMピルビン酸ナトリウム、1% MEM非必須アミノ酸(100×)、2 mM L-グルタミン、及び20 mg/Lゲンタマイシンを補充した、90μlのRPMI 1640に、全部で106個のT細胞を再懸濁した。500 ngの四量体を添加した。T細胞の表現型を、抗CCR7 FITC及び抗CD45RA ECD(phycoerythrin-Texas Red)を用いたフローサイトメトリーによって解析した。細胞を5% CO2、37℃で20分間インキュベートし、次いで4℃まで冷やした。細胞を洗浄し、Beckman CoulterのCYTOMICS FC500で解析した。
【0117】
TCRでトランスフェクトされたTリンパ球によるIFN-γ産生の誘導及び測定
TCR RNAを用いてエレクトロポレーションしたT細胞を、無関係のペプチド(gp100/A2209-217アナログIMDQVPFSV)又はTCRによって認識されるペプチド(gp100/A2280-288YLEPGPVTA)(ともに10μM)をロードし、放射線を照射した(0.005 J/cm2)T2細胞と供に、37℃で1時間共培養した。15000個のT細胞を15000個のT2細胞と供に、10%のプールされた血清(健康なドナー由来で、加熱不活性化してフィルター滅菌したもの)、10 mM HEPES(Sigma-Aldrich)、1 mMピルビン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)、1% MEM非必須アミノ酸100×(Sigma-Aldrich)、2 mM L-グルタミン(Cambrex)、20 mg/Lゲンタマイシン(Sigma-Aldrich)、及び20 IU/ml IL-2を補充した100μlのRPMI 1640(Cambrex)中で共培養した。16時間後に上清を採取し、製造者のプロトコルに従い、市販のELISAキット(DPC Biermann)を用いてIFN-γ産生を測定した。
【0118】
細胞傷害性アッセイ
細胞傷害性は、標準的な4〜6時間の51Cr放出アッセイで試験した。要するに、T2標的細胞を、100μCiのNa251CrO4/106細胞によって、37℃/5% CO2で1時間標識化し、洗浄し、37℃/5% CO2で1時間ペプチドをロードし、そして再び洗浄した後にエフェクターT細胞と共培養した。ペプチドを、10μM又は表示の濃度でロードした。別の標的細胞として、gp100 RNAでトランスフェクトされたHLA-A2+DC、又はメラノーマ細胞株SK-MEL562、Colo829及びNEMAを使用した。標的細胞を、1000細胞/ウェルで、96ウェルプレートに加えた。エフェクター細胞、すなわちTCRでトランスフェクトされたT細胞を、E:T比が60:1、20:1、7:1、及び3:1の比率で加えた。%細胞溶解、すなわち51Cr放出は、次のように算出した:[(測定放出値-バックグラウンド放出値)]/[(最大放出値-バックグラウンド放出値)]×100%。
【0119】
結果
T細胞はRNAによって効率的にトランスフェクトされた
最適化した再現可能なCD8+T細胞のトランスフェクションは、EGFP RNAをモデルとして用い、エレクトロポレーションのプロトコルの段階的展開によって達成された。いくつかのドナーのCD8+T細胞を、この最適化したプロトコルに従って、EGFPをコードするRNA又はHLA-A2提示gp100ペプチドに対して特異的なCTLクローン(296 CTLクローン)に由来するTCRのα鎖及びβ鎖をコードするRNAでトランスフェクトした。EGFP及びTCR鎖の発現レベルを、フローサイトメトリーによって測定した。エレクトロポレーションの4時間後に、エレクトロポレーションされたT細胞の約93%がEGFPを発現し(図1)(MFI=135)、T細胞の非常に高いトランスフェクション効率を示した。
【0120】
エレクトロポレーションの4時間後(p=0.0027)及び24時間後(p=0.0025)に、少ないが、顕著なgp100特異的TCRのTCRβ鎖発現を、抗TCRVβ14 mAbで細胞膜上にて検出した(図1b)。しかし、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞を染色した場合、HLA-A2/gp100280-288四量体の結合は全く観察されなかった(データは示さず)、ただし同条件下のEGFP RNAのトランスフェクション効率は>90%であった(図1a及び1b)。それにもかかわらず、TCR RNAを用いてエレクトロポレーションした非活性化CD8+T細胞は、IFNγ放出及び細胞傷害性アッセイの両方に関して機能性であった。四量体は、T細胞膜に強固に接着するためにいくつかのTCRと同時に結合する必要があるので、検出できない四量体の結合は、我々のTCR RNAを用いてエレクトロポレーションしたT細胞の細胞表面の受容体密度が低いためである可能性がある。TCR分子が遠く離れすぎていると、四量体の一価の結合のみが可能であり、それによって結果的に低い結合性となる[17]。それにもかかわらず、一過性にトランスフェクトされたT細胞におけるTCR発現は、それらが標的を溶解し、IFNγを産生する引き金を引くに十分であった。
【0121】
偽トランスフェクトT細胞は、EGFPの発現を全く示さず、内因性のTCRβ鎖の発現のみを示した(図1a及び1b)。さらに、エレクトロポレーションしなかった、偽エレクトロポレーションした、及びTCR RNAでエレクトロポレーションしたT細胞のT細胞表現型を、CCR7及びCD45RにについてのFACS染色によって測定した。図1cに示されるように、エレクトロポレーションされていないT細胞と比較して、エレクトロポレーションされたT細胞の大部分に対するエレクトロポレーションの影響はなかった。
【0122】
抗原陽性の標的細胞はTCRでトランスフェクトされたT細胞を特異的に刺激しIFNγを産生させる
測定されたTCR発現は少なかったが、エレクトロポレーションの4時間後、24時間後及び48時間後に、gp100280-288ペプチドをロードした標的細胞に応答するサイトカイン産生の能力について、TCR RNAでトランスフェクトされたCD8+ T細胞を試験した。図2に示されるように、gp100/A2特異的TCRをコードするRNAでトランスフェクトされたT細胞のみが、gp100280-288ペプチドをロードしたT2細胞に応答して、IFNγを産生したが、一方EGFP RNAでエレクトロポレーションしたT細胞はIFNγを産生することができなかった。さらに、対照ペプチド(すなわち、gp100209-2171アナログ)をロードしたT2細胞は、RNAでトランスフェクトされたT細胞によるIFNγ産生を誘導することができなかった(図2)。エレクトロポレーションの48時間後においてさえ、gp100/A2特異的TCRをコードするRNAでトランスフェクトされたT細胞による、明らかな特異的IFNγ産生があった(図2)。次に、我々は、IFNγ産生能力を失うことなく、TCRでトランスフェクトされたT細胞を凍結保存することができるかどうかを試験した。図3aは、gp100/A2特異的TCRをコードするRNAによるトランスフェクションの4時間後に凍結されたT細胞が、融解直後にgp100280-288ペプチドをロードしたT2細胞で刺激されたとき、それでもなおIFNγを産生したことを示す。さらに、TCRでトランスフェクトされたT細胞によるIFNγ産生を、RNAでエレクトロポレーションしたDCと供にインキュベーションした後に測定した。gp100 RNAを用いてエレクトロポレーションしたDCのみが、TCRでトランスフェクトされたT細胞を刺激してIFNγを産生させることができたが、偽エレクトロポレーションしたDCではできなかった(図3b)。 ペプチドをロードした標的細胞及びメラノーマ細胞はTCRでトランスフェクトされたT細胞によって特異的に溶解される
エレクトロポレーションの24時間後、48時間後及び72時間後に、gp100280-288ペプチドをロードした標的細胞に対する細胞溶解の能力について、TCR RNAでトランスフェクトされたCD8+ T細胞を試験した。図4a(48時間の時点での代表図)に示されるように、gp100280-288ペプチドをロードしたT2細胞のみが、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞によって溶解された。対照ペプチドをロードしたT2細胞は溶解されず、そしてEGFP RNAでトランスフェクトされたT細胞はどの標的も溶解しなかった(図4a)。RNAでトランスフェクトされたT細胞による細胞溶解の経時変化を測定した(図4b)。細胞傷害性の経時変化において測定されるように、T細胞はエレクトロポレーションの3日後でもなお、測定した標的:エフェクター比率の全てで、非常に溶解性であった。1:20の標的:エフェクター比率でのgp100280-288ペプチドをロードしたT2細胞の特異的溶解は、全ての時点で観察された(図4b)。他の全ての測定された標的:エフェクター比率で、特異的溶解性が見られた(データは示さず)。さらに、最も高い標的:エフェクター比率(すなわち、1:60)で、特異的溶解は、T細胞のエレクトロポレーションの一週間後でもなお観察され(データは示さず)、これはTCR RNAでエレクトロポレーションしたT細胞の特異的溶解の持続性を示す。標的細胞の特異的溶解が数日にわたって安定であるという事実は、癌の免疫療法におけるTCRでトランスフェクトされたCD8+T細胞を使用するために、非常に重要である。IFNγ分泌及び細胞傷害性アッセイについて同様の結果が、PHA/IL-2/IL-7で刺激されたT細胞で得られ、このT細胞を、3日間の刺激の後にCD8について磁気によって選択し、次いでRNAでエレクトロポレーションした。PHA/IL-2/IL-7による刺激は、T細胞の増殖をもたらし、そして癌の免疫療法のためのTCR RNAでエレクトロポレーションしたT細胞を大量に作製するために有用である。
【0123】
さらに、TCR RNAでエレクトロポレーションしたT細胞の細胞傷害性の能力は、凍結保存後も失われず、そしてPHAで刺激され、エレクトロポレーションの前に増殖したT細胞は、ペプチドをロードした標的細胞に応答してIFNγを産生することができ、これらの細胞を溶解することもできた(データは示さず)。凍結保存後のTCR RNAでエレクトロポレーションしたT細胞における細胞傷害性の能力の安定性は、患者への繰り返し投与のために、一工程(および一回の白血球フェレーシス(leukopheresis))で複数用量のTワクチンを作製することを可能にする。
【0124】
重要なことには、TCR RNAでエレクトロポレーションしたT細胞(エレクトロポレーションの4時間後)は、gp100+かつHLA-A2+である腫瘍細胞を特異的に認識し、溶解することもできた(図5、SK-MEL526)。gp100-だがHLA-A2+である腫瘍細胞株(NEMA)又はgp100+だがHLA-A2-である腫瘍細胞株(Colo829)は、TCR RNAでエレクトロポレーションしたT細胞によって認識されなかった(図5)。EGFP RNAでエレクトロポレーションしたT細胞は、いずれの標的細胞も溶解しなかった。
【0125】
TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞の細胞傷害性効率はレトロウイルスによって形質導入されたT細胞の効率と同等であり、そして親CTLクローンの効率に近似する
過去に公表した研究から、我々は、親296 CTLクローンの細胞傷害性効率が、レトロウイルスによるT細胞へのTCRの形質導入後に失われなかったことを知っている[24]。TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞の結合活性を試験するために、我々は、細胞傷害性アッセイ(エレクトロポレーションの24時間後)を行い、T2標的細胞に対するgp100280-288ペプチドの力価を測定した(図6)。三回の独立した実験において、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞の最大溶解の50%に対応するペプチド濃度(すなわち、ED50)は、300〜1000 pMの範囲であった(図6)。これは、レトロウイルスによって形質導入されたT細胞の細胞傷害性効率(ED50=300 pM)と同じ範囲であった。両者とも、50 pMのED50を有する親296 CTLクローンの細胞傷害性効率に近似する[24]。EGFP RNAでトランスフェクトされたT細胞は、gp100280-288ペプチド(10μM)をロードしたT2細胞を溶解せず(図6)、ペプチドをロードしなかったT2細胞はTCR RNAでトランスフェクトされたT細胞によって溶解されなかった(データは示さず)。総合すれば、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞は高い結合活性をもって標的を溶解し、これはレトロウイルスによって形質導入したT細胞と同様である。高い細胞傷害性効率により、TCR RNAでトランスフェクトされたCD8+ T細胞は、増殖された腫瘍特異的CTL(TIL)クローンの養子移入に代わる、実行可能な代替法となる。
【0126】
本明細書中の結果は、HLA-A2/gp100280-288特異的CTLクローンに由来するTCRα鎖及びβ鎖をコードするRNAを用いてエレクトロポレーションしたCD8+T細胞が、溶解性のエフェクター機能を得ることを示す。これらのTCRでトランスフェクトしたT細胞の機能性を、いくつかの系列について試験した:1)ペプチドをロードした標的細胞による刺激に応答する、エレクトロポレーションの4時間後、24時間後及び48時間後の、特異的IFNγ産生(図2)、2) ペプチドをロードした標的細胞による刺激に応答する、凍結保存後の(すなわち、融解の0時間後、24時間後及び48時間後の)、特異的IFNγ産生(図3a)、3)gp100 RNAでエレクトロポレーションした樹状細胞による刺激に応答する、特異的IFNγ産生(図3b)、4)エレクトロポレーションの24時間後、48時間後、72時間後(図4)、及び一週間後(データは示さず)の、ペプチドをロードした標的細胞の特異的細胞溶解性、5)HLA-A2+/gp100+メラノーマ細胞株の特異的細胞溶解性(図5)、及び6)ペプチドをロードした標的細胞を使用する細胞溶解効率(図6)。これは、TCRをコードするRNAでのT細胞のトランスフェクションにより細胞溶解性機能を移入することに関する、最初の記載である。
【0127】
TCRをコードするRNAでのCD4+ T細胞のエレクトロポレーションは、そのTCRの特異性を獲得する
記載の実験の目的は、TCRをコードするRNAを用いてエレクトロポレーションしたCD4+T細胞が、そのTCRの特異性を獲得することを示すことであった。CD4+ T細胞を、二つの異なるTCRのうちの一つをコードするRNAを用いてエレクトロポレーションした。第一のTCRは、精巣癌抗原MAGE3(M3-DP4)に由来するMHCクラスII DP4拘束性ペプチドに対して特異的であり、CD4+ T細胞クローンからクローニングされた。第二のTCRは、メラノーマ抗原gp100(gp100-A2)に由来するMHCクラスI A2拘束性ペプチドに特異的であり、上述のようにCD8+ T細胞クローンからクローニングされた。第一のTCRについては、自己の成熟DCを標的として使用し、第二のTCRについては、T2細胞を使用した。両標的に対応するペプチドをロードした。M3-DP4 TCRでトランスフェクトされたT細胞は、IFN-γ、TNF及びIL-2、いくらかのIL-4、並びにわずかなIL-10を特異的に産生した。gp100 TCRでトランスフェクトされたT細胞は、大量のIFN-γ、TNF及びIL-4、並びにいくらかのIL-4及びIL-10も特異的に産生した。このデータは、初めて、TCRをコードするRNAで精製CD4+T細胞をエレクトロポレーションすることが、TCRの標的を特異的に認識するT細胞を生成することを示す。これによって、T細胞が効果的かつ簡便に治療及び研究を補助するように操作することができるだろう。
【0128】
読み出しとして、BDのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(Cytometric Bead Array)(CBA)を選択し、これよって、一度に6つの異なるサイトカインを測定できる(図7)。我々は、IL-2、IL-4、IL-6、IL-10、TNF及びIFN-ガンマを選択した。二つの異なるTCRを実験に使用した:第一は、精巣癌抗原MAGE3(M3-DP4)に由来するMHCクラスII DP4拘束性ペプチドに対して特異的であり、CD4+ T細胞クローンからクローニングされたTCR。第二のTCRは、メラノーマ抗原gp100(gp100-A2)に由来するMHCクラスI A2拘束性ペプチドに特異的な高い親和性を有し、これはCD8+ T細胞クローンから作製され、われわれがCD8+ 細胞においてすでにうまく使用している。
【0129】
加えて、同じ調製物由来のT細胞の第三群を、EGFPでトランスフェクトして、トランスフェクション効率を測定し、サイトカイン放出についての陰性対照とした。M3-DP4 TCRでエレクトロポレーションしたT細胞の標的として、自己の成熟(混合物)DCを使用し、一方T2細胞をgp100-A2のために使用した。エフェクターと標的を共培養し、20時間後及び44時間後に上清からサンプルを取り、サイトカイン含量を試験した。20時間の時点では検量線を作成しなかったが、それは、これがわれわれにとって初めてうまくいったCD4+の実験であり、われわれはとにかく何かが起こっているかどうかを知りたかっただけだからでる。44時間の時点で、検量線を作成した。しかし、いくつかのサイトカインは非常に効率的に産生されたので、それらは検量線の範囲を外れてしまった。
【0130】
トランスフェクション効率を、GFP-RNAでのエレクトロポレーション及びFACS解析によって、24時間後に試験した(図8)。トランスフェクション効率は86%であり、平均蛍光は127であった。細胞のFSC SSCによって判断すると、ライフゲートにおける生存率も非常に高く95%であった。
【0131】
Mage3 DP4に特異的なTCRを用いてエレクトロポレーションしたCD4+ T細胞を、対応するMage3 DP4ペプチドをロードした自己の成熟DCと共培養した。対照として、同じDCで、ペプチド無しのものを使用した。さらに、EGFPでトランスフェクトされたCD4+ T細胞を陰性対照として使用した。サンプルは20時間後及び44時間後に取られ、CBMによって解析された。20時間の時点では検量線を作成せず、故に提供のデータはサイトカインに結合したビーズのMFIでしかないので、このデータは半定量的である。それにもかかわらず、データは、TCR RNAでエレクトロポレーションしたCD4+細胞がその標的を特異的に認識するが、対照標的を認識せず、そしてまた対照エフェクターは何も認識しないことを、非常に明確に示す(図9)。CD4+細胞は大量のIFNγ、TNF及びIL-2を産生し並びにいくらかのIL-4も産生した(目盛りが対数で表されていることに注意)。注目すべきは、DCが自らいくらかのIL-6を分泌することである。T細胞無しのDCが同様であることから、これはT細胞の非特異的反応ではない(データは示さず)。
【0132】
44時間後にもう一つのサンプルを上清から取り、CBIで再び解析した。今回は検量線を作成し、絶対値の概念を得た。上清は、今回1:2に希釈された。IFNγが検量値の最大を超えていたので、MFIも示す(図10)。データは、特異的反応はまだ観察できることを示すが、しかし数値は20時間後ほどに良くはない。おそらくいくつかの非特異的反応が起こっていて、特異的IL-2放出の喪失を導き、そしていくつかのサイトカインはさらに分解し始めているのだろう。
【0133】
gp100特異的TCRでエレクトロポレーションしたCD4+ T細胞を、HLA A2を発現するが内因性ペプチドを全く又はほとんど提示せず、そして外来性ペプチドを効率的にロードすることができる、T2細胞と共培養した。これらの細胞にgp100-A2細胞をロードした。対照として、ペプチド無しのT2細胞を使用した。さらに、EGFPでトランスフェクトされたCD4+ T細胞を追加の陰性対照として使用した。サンプルは、20時間後及び44時間後に取られ、CBMで解析された。この場合も同様に、20時間の時点のデータは半定量的である。それにもかかわらず、データは、TCR RNAでエレクトロポレーションしたCD4+細胞はその標的を特異的に認識するが、対照標的を認識せず、そしてまた対照エフェクターは何も認識しないことを、非常に明確に示す(図11)。CD4+細胞は、M3-DP4 TCRによるものと比べて、さらに大量のIFNγ、TNF、及びIL-2を産生するが、しかしいくらかのIL-4及びIL-10も産生した(目盛りが対数で表されていることに注意)。
【0134】
44時間後にもう一つのサンプルを上清から取り、再びCBIで解析した。今回は検量線を作成し、絶対値の概念を得た。上清も、同様に1:2に希釈された。IFNγ及びIL-2は、特異的標的に対するgp100-A2 TCRでトランスフェクトされたCD4+細胞についての検量値の最大を超えていたので、MFIも示す(図12)。データは、強く明らかな特異的反応が依然として観察できることを示し、これは20時間の時点と実質的に変わらない。非特異的反応は起こらなかったが、これはおそらくT2細胞が共刺激分子を発現しないためであろう。
【0135】
よって総合して、これらのデータは、精製CD4+ T細胞を高効率にRNAでエレクトロポレーションすることができ、そして、さらに重要なことには、RNAエレクトロポレーションの手法を用いることで、HLAクラスI及びクラスII拘束性TCRをこれらの細胞中において機能的に発現させることができること初めてを示す。このことは、免疫療法並びに研究開発の補助となるT細胞を提供又は操作する新しい可能性を明らかにする。
【0136】
【表1−1】
【0137】
【表1−2】
【0138】
【表1−3】
【0139】
【表1−4】
【0140】
【化1−1】
【0141】
【化1−2】
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1−1】図1は、RNAでトランスフェクトされたCD8+ T細胞のEGFP発現を示す。
【図1−2】図1は、RNAでトランスフェクトされたCD8+ T細胞のEGFP発現を示す。
【図1−3】図1は、RNAでトランスフェクトされたCD8+ T細胞のEGFP発現を示す。
【図2】図2は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、ペプチドをロードした標的細胞による刺激の後にIFNγを特異的に産生することを示す。
【図3】図3は、IFNγ産生能力を失わずに、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞を凍結保存することができることを示す。
【図4】図4は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、ペプチドをロードした標的細胞を特異的に溶解することを示す。
【図5】図5は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、メラノーマ細胞株を特異的に溶解することを示す。
【図6】図6は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、レトロウイルスによって形質導入されたT細胞と同等の細胞溶解能力を有することを示し、これは親CTLクローンの細胞溶解効率に近似する。
【図7】図7は、BDビーズアレイを使用して6つの異なるサイトカインを一度に測定した結果を示す。
【図8】図8は、エレクトロポレーションから24時間後の、RNAでトランスフェクトされたCD4+細胞のFACS解析の結果を示す。
【図9】図9は、GFP-RNA(A)又はMage3-DP4特異的TCRをコードするRNA(B)でCD4+ T細胞をトランスフェクトした結果を示す。
【図10】図10:GFP-RNA又はMage3-DP4特異的TCRをコードするRNAでCD4+ T細胞をトランスフェクトした。
【図11】図11:GFP-RNA(A)又はgp100-A2特異的TCRをコードするRNA(B)でCD4+ T細胞をトランスフェクトした。
【図12】図12:GFP-RNA又はgp100-A2特異的TCRをコードするRNAでCD4+ T細胞をトランスフェクトした。
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、RNA、特にT細胞受容体及び/又はFoxP3をコードするRNA、で一過性にトランスフェクトされたT細胞、及びエレクトロポレーションによってRNAでT細胞をトランスフェクトする方法に関する。トランスフェクトされたT細胞は、免疫療法のために、特に腫瘍、病原体感染、自己免疫疾患、移植拒絶反応、及び移植片対宿主病の治療において、有用である。
【0002】
背景
細胞傷害性Tリンパ球(CTL)は、腫瘍成長の抑制において主要な役割を果たし、そしてそれ故に、癌の免疫療法のための細胞の戦略においてとても重要である[19]。腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を養子移入するという初期の試みはうまくいかなかったが、これは、その移入細胞が多くの場合非特異的で、そして長期間存続しなかったためであり、ほぼ間違いない理由として、そのようなTILはアレルギー性の表現型を持つ可能性があるか、又は腫瘍部位へホーミングできないという事実がある[10, 11]。in vitroで増殖された自己の腫瘍特異的CTLの養子移入は、転移性メラノーマの患者における腫瘍の根絶に有効であることが示された[9, 13, 18, 20, 31]。残念ながら、全ての患者がその腫瘍に対する検出可能なin vivoでの細胞傷害性T細胞応答を開始するわけではない。事実、溶解性の腫瘍特異的T細胞の単離及び/又は増殖は、ある一部の患者においてのみ可能であり、これは、腫瘍患者において顕著に、胸腺選択[28]又はその他の寛容機構[30]のために、末梢T細胞レパートリーが高結合性の腫瘍特異的CTLを通常欠いているという事実がおそらく原因である。その上、これらの細胞及びin vitroで生成された腫瘍特異的T細胞は、限られた寿命しか持たず、そのようなT細胞を薬用量まで増殖させるのは多くの場合実現不可能である[2, 3, 30]。
【0003】
あるいは、CTLの特異性は、T細胞受容体(TCR)によって専ら指示されるので、レトロウイルスによって腫瘍特異的TCRを形質導入された自己T細胞を養子移入のために使用した。レトロウイルスによる形質導入を用いた、T細胞の腫瘍特異性の再プログラミングは、いくつかの抗原、例えば、MART-1 [7]、MAGE-1 [29]、MDM2 [27]、gp100 [16, 24]、及びチロシナーゼ[21]、においてin vitroで既に示されている。これらの自己T細胞は、簡単に薬用量まで増殖した。しかし、プロウイルスは形質導入された細胞のゲノム中にランダムに組み込まれる可能性があるので、自己細胞を非可逆的に遺伝子操作してしまう恐れをもたらす。したがって、プロウイルスはまた細胞周期の調節に関与する遺伝子の中に組み込まれる可能性があり、続いて細胞増殖を阻害する可能性がある(すなわち、挿入変異)。重症複合免疫不全症(SCID)を対象とする遺伝子治療であって、SCID患者では欠損している共通γ鎖をコードする遺伝子を含むベクターをレトロウイルスによって自己造血幹細胞へ形質導入するものの臨床試験のデータは、プロウイルスがLMO-2癌遺伝子中に組み込まれ、白血病様の症状を引き起こすことを示した[6, 12, 15]。その上、レトロウイルスによる形質導入は、休止期の、非分裂期のT細胞を用いても行うことができず[30]、それどころか形質導入の数日前にT細胞を刺激することが要求される。
【0004】
したがって、宿主ゲノムの改変を生ずる可能性のある、レトロウイルスベクター又はその他のトランスフェクションの形態を必要とせずに、腫瘍特異的TCRの機能をT細胞へ効率的に移入する方法が、年来、必要とされている。本発明は、この必要を満たし、さらなる利点をも提供する。
【0005】
発明の概要
本発明者は、T細胞、特に精製CD8+細胞又はCD4+細胞中へのRNAのエレクトロポレーションのための改良法を見いだした。本改良法は、RNAのエレクトロポレーションによる単離T細胞へのTCRの機能移入、及びその後の冷凍保存を可能にする。本発明の方法は、レトロウイルスによる形質導入の不利益を回避し、そして癌、病原体感染、自己免疫、移植、及び移植片対宿主疾患の免疫療法のための新しい戦略を形成する。
【0006】
一側面において、本発明は、抗原に対して特異的なT細胞受容体(TCR)をコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたエフェクターT細胞を含む組成物を提供し、この場合においてT細胞は、MHC分子と複合体化した抗原を提示する細胞に対して特異的なエフェクター機能を示す。好ましい態様において、エフェクター機能は細胞傷害性である。本発明のエフェクターT細胞組成物は、免疫療法のための医薬の生産のために使用することができる。
【0007】
別の側面において、本発明は、精製CD8+ T細胞又は精製CD4+ T細胞を含む組成物を、抗原に対して特異的なTCR受容体をコードするRNAを用いてエレクトロポレーションすることを含む、T細胞に新規の抗原特異性を付与する方法を提供する。
【0008】
さらに別の側面において、本発明は、休止期T細胞を、抗原に対して特異的なTCRをコードするRNAを用いてエレクトロポレーションすることを含む、T細胞に新規な抗原特異性を付与する方法を提供する。
【0009】
別の側面において、本発明は、エレクトロポレーションの前にPHA又はOKT3によってin vitroで刺激されていないT細胞を、RNAを用いて、矩形波パルスを使用して100 V/mm〜150 V/mmの電界強度で2〜10 msエレクトロポレーションすることを含む、T細胞を一過性にトランスフェクトする方法を提供する。
【0010】
さらなる側面において、本発明は、抗原に対して特異的なTCRをコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたT細胞を投与することを含む、被験者に抗原特異的T細胞エフェクター機能を付与する方法であって、この場合において該T細胞がMHC分子と複合体化した抗原を提示する細胞に対してエフェクター機能を示す、前記方法を提供する。
【0011】
別の側面において、本発明は、FoxP3をコードする外来性RNAを含むTreg細胞を提供する。本発明は、CD4+ T細胞を、FoxP3をコードする核酸でトランスフェクションすることを含む、Treg細胞を作製する方法を提供する。FoxP3でトランスフェクトされたT細胞は、免疫療法のための医薬の生産のために使用することができ、そして患者に有効量を投与することができる。
【0012】
図面の簡単な説明
本発明の特徴及び利点をさらに十分に理解するために、添付の図面に沿って本発明の詳細な説明に対する参照を作成する。ここにおいて:
図1は、RNAでトランスフェクトされたCD8+ T細胞のEGFP発現を示す。a)CD8+T細胞をEGFP RNAを用いてエレクトロポレーションし、そしてエレクトロポレーションの4時間後に、これらの細胞中のEGFP発現をFACS解析によって測定した(黒のヒストグラム)。RNA無しでエレクトロポレーションしたCD8+T細胞を、陰性対照とした(灰色のヒストグラム)。b)CD8+ T細胞をTCRα鎖およびβ鎖のRNA(TCR RNA)を用いてエレクトロポレーションし、そしてエレクトロポレーション(EP)の4時間後および24時間後に、これらの細胞上のTCR Vβ14の表面発現をFACS解析によって測定した。RNA無しでエレクトロポレーションしたCD8+T細胞を陰性対照とした(Mock)。c)T細胞の表現型に対するエレクトロポレーションおよびTCR発現の影響を、エレクトロポレーションの24時間後に、CCR7及びCD45RAの染色によって調べた。T細胞表現型の割り当ては、次の通りである:溶解性エフェクター(LE):CD45RA+/CCR7-、エフェクター記憶(EM):CD45RA-/CCR7-、セントラル記憶(CM):CD45RA-/CCR7+、ナイーブ(N):CD45RA+/CCR7+。全てのデータは、3つの標準化された独立した実験の代表値である。
【0013】
図2は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、ペプチドをロードした標的細胞による刺激の後にIFNγを特異的に産生することを示す。CD8+T細胞をEGFP RNAを用いて(EGFP)、又はTCRα鎖及びβ鎖をコードするRNAを用いて(TCR)エレクトロポレーションし、そしてエレクトロポレーション(EP)の4時間後、24時間後及び48時間後に、それらをエフェクター細胞として使用してIFNγ産生アッセイを行った。放射線を照射したT2細胞に対照ペプチド(白の棒グラフ)又はgp100280-288ペプチド(YLE-ペプチド、黒の棒グラフ)のいずれかをロードしたものを刺激細胞として使用し、そして上清中のIFNγ産生をELISAによって測定し、その測定値をpg/mlで表す。三回試行の平均値±SDを示す。エフェクター細胞と刺激細胞の比率は1:1であった。(3つのうちの)1つの代表的T細胞ドナーのデータを示す。
【0014】
図3は、IFNγ産生能力を失わずに、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞を凍結保存することができることを示す。CD8+T細胞を、EGFP RNA(EGFP)又はTCRα鎖及びβ鎖をコードするRNA(TCR)を用いてエレクトロポレーションし、そしてエレクトロポレーションの4時間後に凍結保存した。融解の0時間後(a及びb)、24時間後(a)及び48時間後(a)に、これらのT細胞をエフェクター細胞として使用してIFNγ産生アッセイを行った。放射線を照射したT2細胞に対照ペプチド(白の棒グラフ)又はgp100280-288ペプチド(YLE-ペプチド、黒の棒グラフ)(a及びb)、並びに偽エレクトロポレーションしたDC(Mock、灰色の棒グラフ)又はgp100 RNAを用いてエレクトロポレーションしたDC(GP100、斜線の棒グラフ)(b)のいずれかをロードしたものを刺激細胞として使用し、そして上清中のIFNγ産生をELISAによって測定し、その測定値をpg/mlで表す。三回試行の平均値±SDを示す。エフェクター細胞と刺激細胞の比率は1:1であった。(3つのうちの)1つの代表的T細胞ドナーのデータを示す。
【0015】
図4は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、ペプチドをロードした標的細胞を特異的に溶解することを示す。CD8+T細胞を、EGFP RNA(EGFP、四角)又はTCRα鎖及びβ鎖をコードするRNA(TCR、三角)を用いてエレクトロポレーションし、そしてエレクトロポレーション(EP)の24時間後、48時間後、72時間後に、それらをエフェクター細胞として使用して標準的な4時間の細胞傷害性アッセイを行った。対照ペプチド(塗りつぶしのシンボル)又はgp100280-288ペプチド(YLE-ペプチド、色なしのシンボル)のいずれかをロードしたT2細胞を標的細胞として使用し、そして%溶解を算出した(より詳しくは材料と方法の項を参照)。標的細胞とエフェクター細胞の比率は、1:60、1:20、1:6および1:2(a、48時間の時点を示す)、又は1:20(b、経時変化を示す)であった。三回試行の平均値±SDを示す。(3つのうちの)1つの代表的T細胞ドナーのデータを示す。
【0016】
図5は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、メラノーマ細胞株を特異的に溶解することを示す。3つのドナーのCD8+T細胞を、EGFP RNA(EGFP、色なしのシンボル)又はTCRα鎖及びβ鎖をコードするRNA(TCR、塗りつぶしのシンボル)を用いてエレクトロポレーションし、そしてエレクトロポレーションの24時間後に、それらをエフェクター細胞として使用して標準的な4時間の細胞傷害性アッセイを行った。メラノーマ細胞株SK-MEL526(HLA-A2+/gp100+)、NEMA(HLA-A2+/gp100-)、及びColo829(HLA-A1+/A2-/gp100+)を標的細胞として使用し、そして%溶解を算出した。三回試行の平均値±SDを示す。標的細胞とエフェクター細胞の比率は、1:60、1:20、1:6および1:2であった。
【0017】
図6は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、レトロウイルスによって形質導入されたT細胞と同等の細胞溶解能力を有することを示し、これは親CTLクローンの細胞溶解効率に近似する。CD8+T細胞を、EGFP RNA(Neg)又はTCRα鎖及びβ鎖をコードするRNAを用いてエレクトロポレーションし、そしてエレクトロポレーションの24時間後に、それらをエフェクター細胞として使用して細胞傷害性アッセイを行った。(図で示されるように)異なる濃度のgp100280-288ペプチドをロードしたT2細胞を標的細胞として使用し、そして%溶解を算出した。標的細胞とエフェクター細胞の比率は、1:15であった。細胞溶解効率を評価するために用いられた最大溶解量の50%に対応するペプチド濃度(ED50)を、点線で示す。三回試行の平均値±SDを示す。(5つのうちの)1つの代表的T細胞ドナーのデータを示す。
【0018】
図7は、BDビーズアレイを使用して6つの異なるサイトカインを一度に測定した結果を示す。各群がサイトカインを表す。右にあるほど(FL2シグナルの増加)サイトカイン濃度が高い。A:対照DCに対する、TCRでトランスフェクトされたCD4+細胞の上清。B:対応するペプチドでパルスしたDCに対する、TCRでトランスフェクトされたCD4+細胞の上清。注記:IL-6はT細胞ではなくDCによって産生される。正確な濃度を測定するために、検量線を作成する必要がある。
【0019】
図8は、エレクトロポレーションから24時間後の、RNAでトランスフェクトされたCD4+細胞のFACS解析の結果を示す。A:CD4+細胞をGFP-RNAでトランスフェクトした(黒のヒストグラム)。ここでは、TCR-RNAでトランスフェクトされた細胞を陰性対照とした(灰色のヒストグラム)。B:細胞のFSC/SSCを使用して細胞の状態を示し、95%より多くの細胞が“ライフゲート”(life gate)(R1)に見いだされた。
【0020】
図9は、GFP-RNA(A)又はMage3-DP4特異的TCRをコードするRNA(B)でCD4+ T細胞をトランスフェクトした結果を示す。陰性対照標的として、ロードされていない自己DCを使用した。特異的標的として、Mage3-DP4ペプチドをDCにロードした。20時間後、CBAによって上清中のサイトカイン濃度を測定した。ビーズのMFIのみを測定した。これにより濃度の半定量的比較が可能になる(しかし、非常に比例に近い)。IL-6はT細胞ではなくDCによって産生されることに注目すべきである。
【0021】
図10:GFP-RNA又はMage3-DP4特異的TCRをコードするRNAでCD4+ T細胞をトランスフェクトした。陰性対照標的として、ロードされていない自己DCを使用した。特異的標的として、Mage3-DP4ペプチドをDCにロードした。44時間後、CBAによって上清中のサイトカイン濃度を測定した(A)。IFNγの濃度が目盛りの外に出てしまったので(*)、ビーズのMFIを同時に示す(B)。
【0022】
図11:GFP-RNA(A)又はgp100-A2特異的TCRをコードするRNA(B)でCD4+ T細胞をトランスフェクトした。陰性対照標的として、ロードされていないT2細胞を使用した。特異的標的として、gp100-A2ペプチドをT2細胞にロードした。20時間後、CBAによって上清中のサイトカイン濃度を測定した。ビーズのMFIのみを測定した。これにより濃度の半定量的比較が可能になる(しかし、非常に比例に近い)。
【0023】
図12:GFP-RNA又はgp100-A2特異的TCRをコードするRNAでCD4+ T細胞をトランスフェクトした。陰性対照標的として、ロードされていないT2細胞を使用した。特異的標的として、gp100-A2ペプチドをT2細胞にロードした。44時間後、CBAによって上清中のサイトカイン濃度を測定した(A)。IFNγ及びIL-2の濃度が一つの条件の下でスケールの外に出てしまったので(*)、ビーズのMFIを同時に示す(B)。
【0024】
本発明実施の様式
本発明の様々な態様の構成及び使用を以下に詳細に論ずる一方で、当然のことながら、本発明は、幅広い種類の特定の状況において具体化することができる、多くの適用可能な発明思想を提供する。本明細書中で論ずる特定の態様は、本発明を構成及び使用するための特定の方法を例示するだけであり、本発明の範囲を定めるものではない。
【0025】
本発明の理解を促すために、以下にいくつかの用語を定義する。本明細書中で定義される用語は、本発明の属する分野の当業者によって、一般に理解される意味を有する。“ある”、“一つの”および“その”(“a”, “an” and “the”)といった語は、一つのもののみを言及することは意図せず、それらには、例示のために使用され得る具体的な実施例の一般的種類が含まれる。本明細書中の専門用語を使用して本発明の具体的な態様が記載されるが、特許請求の範囲中に概説されるものを除いて、それらの使用は本発明の範囲を定めない。例えば、“ある細胞(a cell)”という語は、複数個の細胞を含み、それらの混合物も含まれる。これも当然のことながら、常に明記されていなくとも、本明細書中に記載の試薬は単なる例示であり、当該技術分野においてその均等物が知られている。
【0026】
T細胞の活性化状態は、T細胞が“休止期である”(resting)(すなわち、細胞周期のG0期)か、又は、その特異的抗原の認識などの適切な刺激の後、若しくはOKT3抗体、PHA若しくはPMAなどによる刺激によって増殖するよう“活性化されている”かどうかを定める。T細胞の“表現型”(例えば、ナイーブ、セントラル記憶、エフェクター記憶、溶解性エフェクター、ヘルプエフェクター(TH1細胞及びTH2細胞)、及び制御エフェクター)は、活性化された際に細胞が発揮する機能を表す。健康なドナーは、これらの表現型のそれぞれのT細胞を有し、そしてこれらは主に休止状態にある。ナイーブT細胞は活性化に際して増殖し、次いで記憶T細胞又はエフェクターT細胞に分化する。それは次いで、新しい機能を発揮するために次に活性化されるまで再び休止状態を取り、そして再び表現型を変化させることができる。エフェクターT細胞は、活性化および抗原特異的エフェクター機能について分けることができる。
【0027】
“抗原”という用語は、当該技術分野においてよく理解されており、そしてこれには抗体に結合可能なあらゆる分子、並びにエピトープ、MHC分子に結合可能な抗原のペプチド断片、及び免疫原が含まれる。当然のことながら、いずれの抗原の使用も本発明における使用について想定され、それ故に、自己抗原(正常または疾患関係のどちらでも)、腫瘍抗原、病原体抗原(例えば、微生物の抗原、ウイルスの抗原など)、又はその他の外来抗原(例えば、食品構成成分、花粉など)が含まれる(ただし必ずしもこれらには限定されない)。T細胞受容体は、MHC分子に結合した抗原又は抗原のペプチド断片と結合する。本明細書中で使用する場合、抗原に対して特異的なTCR受容体には、抗原のペプチド断片に対して特異的なT細胞受容体も含まれる。
【0028】
“腫瘍関連抗原”又は“TAA”という用語は、腫瘍に関連する抗原を意味する。よく知られたTAAの例には、サバイビン、gp100、MART、MAGE-1及びMAGE-3が含まれる。MHC分子に結合するTAAのいくつかのペプチド断片の配列には、MAGE 1 ノナペプチド(EADPTGHSY)、MART-APLペプチド(LAGIGILTV)又はネイティブペプチド(AAGIGILTV)及びPSA-1ペプチド(FLTPKKLQCV)が含まれる。さらなる腫瘍関連ペプチド及び抗原の配列は、当業者においてよく知られている。
【0029】
“抗原提示細胞(APC)”という用語は、免疫系の特定のエフェクター細胞によって認識可能な、ペプチド-MHC複合体の形で1又はそれ以上の抗原を提示することができ、それによってその抗原又は提示されている抗原に対する効果的な細胞性免疫応答を誘導する、細胞の種類を意味する。APCは、マクロファージ、B細胞、内皮細胞、活性化T細胞、及び樹状細胞などの無傷の全細胞;又は、β2-ミクログロブリンと複合体化する精製MHCクラスI分子などの、天然に存在するか又は合成の、その他の分子であってもよい。多くのタイプの細胞が、T細胞による認識のために、それらの細胞表面上に抗原を提示することができるが、唯一樹状細胞のみが、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答のためにナイーブT細胞を活性化するのに十分な量の抗原を提示する能力を有する。
【0030】
癌又は腫瘍は、相対的に自立した増殖を示す細胞の異常な存在を意味し、癌細胞は、細胞増殖調節の顕著な喪失によって特徴づけられる、異常増殖の表現型を示す。癌性細胞は、良性又は悪性であり得る。さまざまな態様において、癌は、膀胱、血液、脳、乳房、結腸、消化管、肺、卵巣、膵臓、前立腺、又は皮膚の細胞に影響を及ぼす。本明細書中において使用される場合、癌細胞又は腫瘍細胞の定義には、原発性癌細胞だけではなく原癌細胞(cancer cell ancestor)に由来するあらゆる細胞も含まれる。これには、転移した癌細胞、並びに癌細胞に由来するin vitro 培養物及び細胞株が含まれる。癌又は腫瘍には、固形腫瘍、液性腫瘍、血液悪性腫瘍、腎細胞癌、メラノーマ、乳癌、前立腺癌、精巣癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮頸癌、胃癌、食道癌、膵臓癌、肺癌、神経芽細胞腫、膠芽細胞腫、白血病、骨髄腫、リンパ腫、肝細胞腫、腺腫、肉腫、癌腫、芽細胞腫などが含まれる(ただし必ずしもこれらには限定されない)。
【0031】
“共刺激分子”は、抗原提示細胞及びT細胞の表面上に発現される受容体-リガンド対の間の相互作用に関与する。ここ数年にわたって蓄積された研究によって、休止期T細胞はサイトカイン遺伝子の発現の誘導及びT細胞の増殖の誘導のために少なくとも二つのシグナルを必要とすることが、もっともらしく示された(Schwartz, R.H. (1990) Science 248:1349-1356及びFenkins, M.K. (1992) Immunol. Today 13:69-73)。一つ目のシグナルは、特異性を付与するシグナルであり、TCR/CD3複合体と適切なMHC/ペプチド複合体との相互作用によって産生され得る。二つ目のシグナルは、抗原特異的ではなく、“共刺激性”シグナルと呼ばれる。このシグナルは元々、いわゆる“専門(professional)”APCであるマクロファージ及び樹状細胞のような、骨髄由来のアクセサリー細胞によって提供される活性として定義された。いくつかの分子が、共刺激性活性を強化することを示していた。これらは熱耐性抗原(HSA)(Liu, Y. et al. (1992) 3. Exp. Med. 175:437-445)、コンドロイチン硫酸修飾MHC不変鎖(li-CS)(Naujokas, M.F. et al. (1993) Cell 74:257-268)、細胞内接着分子1 (ICAM-1)(Van Seventer, G.A. (1990). Immunol. 144:4579-4586)、B7-1、及びB7-2/B70(Schwartz, R.H. (1992) Cell 71:1065-1068)である。これらの分子はそれぞれ、T細胞上の類似リガンドと相互作用することによって、共刺激を支援するように見える。共刺激性分子は共刺激性シグナルを仲介し、これらは正常な生理条件下において、ナイーブT細胞の完全な活性化を達成するために必須である。一つの例となる受容体-リガンド対は、APCの表面上にあるB7ファミリーの共刺激分子及びT細胞上にあるそのカウンター受容体であるCD28又はCTLA-4である(Freeman, et al. (1993) Science 262:909-911; Young, et al. (1992). Clin. Invest. 90:229及びNabavi, et al. (1992) nature 360:266-268)。その他の重要な共刺激分子にはCD40及びCD54がある。“共刺激分子”には、T細胞の表面上のTCRによって結合されるMHC/ペプチド複合体と供に働く際に、そのペプチドに結合しているT細胞の活性化を達成する共刺激作用をもたらす、あらゆる単分子又は分子の組み合わせが含まれる。それ故にこの用語には、B7、又はAPC、APCの断片(単独で、別の分子(群)と複合体化して、又は融合タンパク質の一部として)のような抗原提示マトリックスが含まれ、これらは、MHC複合体と供に類似リガンドと結合して、T細胞の表面上のTCRがそのペプチドに結合する際に、T細胞の活性化を引き起こす。常に明記されてはいないが、野生型共刺激分子又は精製共刺激分子と同等の生物活性を有する分子(例えば、組換え体又はその変異タンパク質)を本発明の思想と範囲の中で使用することが意図されている。
【0032】
“培養”という用語は、適切な培地おける、in vitroでの細胞の維持、分化、及び/又は増殖を意味する。“濃縮”とは、総細胞数に占める細胞の割合が、生体内でそれらが存在する組織中に見いだされるより多くの割合で存在する細胞を含む組成物を意味する。
【0033】
本明細書中で使用する場合、“サイトカイン”という用語は、例えば成長や増殖を誘導するような、様々な作用を細胞に与える多数の因子のいずれかを意味する。本発明の実施において単独又は組み合わせて使用することができる、サイトカインの限定的ではない例には、インターロイキン-2(IL-2)、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン-3(IL-3)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-12(IL-12)、G-SCF、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン-1アルファ(IL-1α)、インターロイキン-1L(IL-11)、MIP-11、白血病阻害因子(LIF)、c-キットリガンド、トロンボポエチン(TPO)及びflt3リガンドが含まれる。サイトカインは、Genzyme(Framingham, MA)、Genentech(South San Francisco, CA)、Amgen(Thousand Oaks, CA)、R&D Systems(Minneapolis, MN)、及びImmunex(Seattle, WA)などのいくつかのベンダーから市販されている。常に明記されてはいないが、野生型サイトカイン又は精製サイトカインと同等の生物活性を有する分子(例えば、組換え体又はその変異体)を本発明の思想と範囲の中で使用することが意図されている。
【0034】
樹状細胞(DC)という用語は、様々なリンパ系組織及び非リンパ組織中に見いだされる、形態的に同等の細胞種の多様な集合を意味する(Steinman (1991) Ann. Rev. Immunol. 9:271-296)。樹状細胞は、生体内で最も強力で好ましいAPCを構成する。樹状細胞は単球から分化可能であるが、それらは異なる表現型を有する。例えば、特定の分化マーカーであるCD14抗原は、樹状細胞中には見いだされないが、単球はこれを有する。また同時に、成熟樹状細胞は食作用を有しないが、一方で単球は強い食作用を示す細胞である。成熟DCは、T細胞の活性化及び増殖に必要な全てのシグナルを提供できることが示されている。
【0035】
“有効量”とは、免疫応答強化、医学的症状(疾患、感染症など)の治療、予防又は回復のような、有益な又は望ましい結果をもたらすに十分な量である。有効量は、一またはそれ以上の投与、用途又は用量で投与することができる。適切な用量は、体重、年齢、健康状態、治療される疾患又は症状及び投与の経路に依存して変化し得る。
【0036】
本明細書で使用する場合、“発現”とは、in vitroで転写された(IVT)mRNAがトランスフェクトされた細胞内でペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質に翻訳される工程を意味する。発現に必要とされる制御要素には、リボソーム結合のための配列、翻訳開始のための配列、リボソーム脱落のための終始コドンの配列が含まれる。RNAのin vitro転写のためのベクターは、市販のものを手に入れるか、又は当該技術分野において知られている配列によって組み立てることができる。
【0037】
“遺伝子的に修飾された”とは、外来の遺伝子又は核酸配列を、含み及び/又は発現し、次にこの配列がその細胞およびその子孫の細胞型又は遺伝子型を修飾する。言いかえれば、これは、細胞内ヌクレオチドに関するあらゆる付加、欠失、又は破壊を意味する。例えば、レトロウイルスによる形質導入は、細胞のゲノムの遺伝子的修飾をもたらす。一方、mRNAによる一過性のトランスフェクションは、遺伝的修飾をもたらさない。
【0038】
“エフェクターT細胞”という用語は、本明細書中で使用する場合、抗原に特異的に結合でき、そしてさらなる分化を必要とせずに免疫応答(エフェクター機能)を仲介することができるT細胞を意味する。エフェクター細胞の例には、CTL、TH1細胞、TH2細胞及び制御性T細胞(Treg)が含まれる。エフェクターT細胞に対して、ナイーブT細胞はその特異的抗原:MHC複合体に遭遇しておらず、また増殖及びエフェクターT細胞への分化によるナイーブT細胞の抗原への応答もない。エフェクターT細胞は、休止期(細胞周期のG0期中)又は活性型(増殖)であり得る。
【0039】
“免疫応答”とは、外来物質又は自己物質に対するリンパ球の抗原特異的応答を、広く意味する。免疫応答を導くことのできるあらゆる物質は、“免疫原性”であると言われ、“免疫原”と呼ばれる。全ての免疫原は抗原であるが、しかしながら、全ての抗原が免疫原性であるわけではない。免疫応答には、体液性応答(抗体活性を介する)及び細胞性応答(T細胞活性化を介する)が含まれる。
【0040】
“単離”という用語は、細胞及びその他の構成要素から分離されていることを意味し、ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、又はそれらの断片が、普通は事実上関連している。例えば、ポリヌクレオチドに関しては、単離ポリヌクレオチドとは、染色対中で正常に結合している5’配列及び3’配列から分離されたものである。当業者にとって明らかなように、非天然のポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、又はそれらのそれらの断片は、“単離”してその天然の対応物から区別する必要はない。その上、“濃縮”、“分離”又は“希釈”されたポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はそれらの断片は、天然の対応物と比べて、濃度又は体積あたりの分子数が“濃縮”よりも多く“分離”よりも少ないという点で、その天然の対応物から区別できる。ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、又はそれらの断片は、その一次配列において又は例えば糖鎖付加パターンにより、天然の対応物と異なり、その一次配列、又はその代わりに、他の糖鎖付加パターンのような別の性質によってその天然の対応物から区別可能なので、その単離型で存在する必要はない。T細胞のような哺乳類の細胞は、T細胞が生体内で見いだされる解剖学的部位から取り出された場合、単離される。
【0041】
“主要組織適合遺伝子複合体”又は“MHC”という用語は、T細胞への抗原提示及び急性移植片拒絶のために必要とされる細胞表面分子をコードする遺伝子の複合体を意味する。ヒトにおいて、MHCは“ヒト白血球型抗原”又は“HLA”複合体としても知られている。MHCによりコードされているタンパク質は、“MHC分子”として知られ、そしてクラスI及びクラスII MHC分子に分類される。クラスI MHC分子には、β2-ミクログロブリンと非共有結合する、MHC中にコードされたα鎖からなる膜ヘテロ二量体タンパク質が含まれる。クラスI MHC分子は、ほとんど全ての有核細胞によって発現され、CD8+ T細胞に対する抗原提示機能が示されている。クラスI分子には、ヒトのHLA-A、HLA-B、及びHLA-Cが含まれる。クラスII分子にも、非共有結合するα鎖及びβ鎖からなる膜ヘテロ二量体タンパク質が含まれる。クラスII MHC分子はCD4+ T細胞において機能すること、そしてヒトにおいてはHLA-DP、HLA-DQ、及びHLA-DRが含まれることが知られている。
【0042】
“病原体”とは、本明細書中で使用する場合、疾患を引き起こすあらゆる生物又はウイルスを意味し、そして弱毒化されたそれらの誘導体も意味する。病原体という用語は、疾患の原因に関与するあらゆるウイルス又は生物を意味し、そして弱毒化されたそれらの誘導体も意味する。そのような病原体には、必ずしもこれらには限定されないが、Helicobacter(Helicobacter pyloriなど)、Salmonella、Shigella、Enterobacter、Campylobacter、さまざまなMycobacterium(Mycobacterium leaprae、Mycobacterium tuberculosisなど)、Bacillus anthracis、Yersinia pestis、Francisella tulanesis、Brucella species、Leptospira interrogans、Syaphylococcus(S. aureusなど)、Streptococcus、Clostridium、Candida albicans、 Plasmodium、Leishmania、Trypanosoma、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒトパピローマ・ウイルス(HPV)、サイトメガロウイルス(CMV)、HTLV、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型、コロナウイルス、水痘帯状ヘルペスウイルス、及びエプスタイン・バー・ウイルス)、パピローマウイルス、インフルエンザウイルス、B型肝炎ウイルス、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、おたふく風邪ウイルス、及び風疹ウイルスといった、細菌、原生動物、カビ及びウイルスの病原体が含まれる。
【0043】
“ペプチド”という用語は、二またはそれ以上のサブユニットのアミノ酸、アミノ酸アナログ、又はペプチド類似体の化合物を言及する最も広い意味で使用する。サブユニットはペプチド結合で連結されていてもよい。別の態様において、サブユニットはその他の結合、例えばエステル、エーテルで連結されてもよい。本明細書中で使用する場合、“アミノ酸”は、天然及び/又は非天然若しくは合成アミノ酸のいずれかを意味し、グリシン及びD及びLの両光学異性体、アミノ鎖アナログ並びにペプチド類似体が含まれる。三またはそれ以上のアミノ酸のペプチドは、ペプチド鎖が短い場合、一般にオリゴペプチド呼ばれる。ペプチド鎖が長い場合には、そのペプチドは一般にポリペプチド又はタンパク質と呼ばれる。
【0044】
“ポリヌクレオチド”、“核酸”、及び“核酸分子”と言う用語は、あらゆる長さの多量体型のヌクレオチドを意味し、互換的にに用いられる。ポリヌクレオチドには、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、及び/又はそれらのアナログが含まれてよい。ヌクレオチドはあらゆる三次元構造を有してよく、そして既知又は未知のあらゆる機能を果たしてよい。“ポリヌクレオチド”という用語には、例えば、一本鎖、二本鎖及び三重らせん分子、遺伝子又は遺伝子断片、エキソン、イントロン、mRNA、tRNA、rRNA、リボザイム、cDNA、組換え型ポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、あらゆる配列からの単離DNA、あらゆる配列からの単離RNA、核酸プローブ、並びにプライマーが含まれる。野生型の核酸分子に加えて、本発明の核酸分子には、修飾された核酸分子が含まれていてもよい。
【0045】
“RNA”という用語は、あらゆる長さの多量体型のリボヌクレオチドを意味し、そこにおいてリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドアナログは、リン酸ジエステル結合によって結ばれている。“RNA”という用語には、例えば、一本鎖、二本鎖及び三重らせん分子、一次転写物、mRNA、tRNA、rRNA、in vitro転写物、in vitro合成RNA、分岐ポリリボヌクレオチド、あらゆる配列からの単離RNA、などが含まれる。mRNAとは、細胞内で翻訳され得るRNAを意味する。そのようなmRNAは、典型的にはキャップ化され、リボソーム結合部位(Kozak配列)及び翻訳開始コドンを有する。例えば、一側面において、本発明はトランスフェクトされたT細胞内で翻訳され得るmRNAによるT細胞のトランスフェクションに関する。
【0046】
“医薬組成物”には、不活性又は活性の担体と活性薬剤との組み合わせが含まれることが意図され、in vitro、in vivo又はex vivoで診断又は治療に使うために適した組成物を作る。
【0047】
本明細書中で使用する場合、用語“医薬的に許容される担体”には、例えばリン酸緩衝生理食塩水などのT細胞と適合するあらゆる医薬用担体が含まれ、タンパク質賦形剤には、ヒト血清アルブミン(HSA)、組換え型ヒトアルブミン(rHA)などの血清アルブミン、ゼラチン、カゼイン、などが含まれる。担体、安定化剤、補助剤の例としては、Martin REMINGTON’S PHARM. SCI., 18th Ed.(Mack Publ. Co., Easton (1995))および“PHYSICIAN’S DESK REFERENCE”,58th Ed., Medical Economics, Montvale, N.J. (2004)を参照。担体という用語には、緩衝液又はpH調製剤が含まれ得る;典型的には、緩衝液は有機酸又は有機塩基から調製される塩である。代表的な緩衝液には、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、グルコン酸塩、炭酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、又はフタル酸塩などの有機酸の塩;トリス、トロメタミン塩酸、又はリン酸緩衝液が含まれる。さらなる担体には、ポリビニルピロリドン、フィコール(多量体型糖)、デキストレート(例えば、2-ヒドロキシプロピル-.クワドラチャ.-シクロデキストリン(2-hydroxypropyl-.quadrature.-cyclodextrin)などのシクロデキストリン)、ポリエチレングリコール、抗酸化剤、帯電防止剤、界面活性剤(例えば、“TWEEN 20”及び“TWEEN 80”などのポリソルベート)、脂肪(例えばリン脂質、脂肪酸)、ステロイド(例えば、コレステロール)、及びキレート剤(例えば、EDTA)などの多量体型賦形剤/添加剤が含まれる。氷の生成を防ぐ又は抑制する薬剤が含まれていてもよい。
【0048】
T細胞へのTCRの効率的な移入は、過去には、TCRをコードするレトロウイルスのベクターを用いた安定的形質導入によってのみ可能であった。しかし、レトロウイルスによる形質導入は、自己細胞を非可逆的に遺伝子操作してしまう恐れをもたらす。我々は、T細胞の一過性のRNAトランスフェクションのための、最適化条件を開発した。EGFP-RNA及び最適化条件を用いたトランスフェクション効率は、>90%であった。血中から単離した一次T細胞を、TCRをコードするRNAでエレクトロポレーションすると、親CTLクローンと同等のHLA-A2/gp100特異性をもつ機能的CTLをもたらした(エフェクター:標的の比が20:1で、>60%を殺す)。TCRでトランスフェクトされたT細胞は、IFNγ分泌アッセイにおいて、ペプチドパルスしたT2細胞、又はgp100をコードするRNAを用いてエレクトロポレーションした樹状細胞を特異的に認識し、そしてこの能力は凍結保存後も三日にわたって維持された。重要なことは、TCR RNAを用いてエレクトロポレーションしたCD8+ T細胞が細胞傷害性を示し、そして少なくとも72時間にわたってペプチドをロードしたT2細胞及びHLA-A2+/gp100+メラノーマ細胞を特異的に溶解したのは、これが初めてだということである。我々の知る限り、これが、T細胞へのTCR-RNAトランスフェクションによって細胞傷害の能力を移入させた初めての記述である。ペプチド滴定実験によって、RNAでトランスフェクトされたT細胞の溶解効率は、レトロウイルスによって形質導入されたT細胞のものと同等であり、そして親CTLクローンのものに近似することが示された。TCR RNAを用いてエレクトロポレーションしたCD8+ T細胞を凍結保存したものが、IFNγを産生し細胞傷害性を発揮する能力は、免疫療法のために臨床上実行可能かつ有効なトランスフェクトT細胞を大きな単位で製造するために不可欠である。
【0049】
この戦略がレトロウイルスによる形質導入の欠点(例えば、挿入変異の可能性)を克服するので、この戦略は、癌、病原体感染及び自己免疫疾患の治療の免疫療法、並びに移植拒絶反応の免疫療法のための、抗原特異的Tリンパ球を製造する新規かつよりよい方法を提供する。エレクトロポレーションによってRNAを細胞中へ入れれば、挿入変異の可能性の問題は全く無くなり、そしてある分子の一過性の発現のみを必要とするような利用においては、RNAのエレクトロポレーションは良い代替法である。RNAはトランスフェクトされた細胞内に一過性にしか存在せず、そしてゲノム中に組み込まれることはないので、この手段を遺伝子治療に分類することはできない。したがって、我々のT細胞のTCR RNAトランスフェクションは、レトロウイルスによるT細胞中へのTCR遺伝子の形質導入より、非常に安全である。他の重要な側面は、RNAトランスフェクションの(技術的視点及び制御的視点の両方から見た)安全性と単純さによって、治療上の実用性を対象とする候補TCRの迅速なスクリーニングが可能なことである。養子免疫移入において使用するための、レトロウイルスによって形質導入されたT細胞を超えるTCR RNAでトランスフェクトされたT細胞の利点とは別に、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞を、“試薬”として、そして不安定と報告されているヒトT細胞クローンの代わりとして使用し、in vitro でAPCおよび標的細胞上の特異的MHC/ペプチド複合体を探索し監視することができる。一製造に数バッチを凍結保存できることで、長期間の実験にわたって一定の質を供給できる。
【0050】
多くのT細胞をエレクトロポレーションすることが可能である一方、一過性にトランスフェクトされたT細胞を腫瘍に注入する場合、このことは必要ない。わずかなT細胞で腫瘍の一部の破壊を引き起こすことが可能であり、そのことにより続いて抗原提示細胞による抗原の有効な提示によって、エピトープの伝播をもたらすことができる。併用療法の使用も可能であり、始めにTCRでトランスフェクトされたT細胞を注入してエピトープ伝播を誘導し、続いて、抗原をロードしないか事前にロードしたいずれかの樹状細胞を注入する。これらの場合、多量のT細胞及び/又は特異的TCRの長期間の発現を必要としない。その上、TCRでトランスフェクトされたCD4+細胞は、腫瘍拒絶に関するヘルパーT細胞を提供することができる。
【0051】
TCRのα鎖及びβ鎖(又はγ鎖及びδ鎖)の全長をコードするRNAのエレクトロポレーションは、レトロウイルスによって形質導入されたTCR鎖と内因性のTCR鎖の対合によって引き起こされる自己反応性についての、長期にわたる問題を克服する代替法として利用することができる。一過性トランスフェクションの戦略においてそのような代替的対合が起こったとしても、導入されたTCRα鎖及びβ鎖は一過性にしか発現しないので、生成する可能性のある自己反応性T細胞は、そのうちにこの自己反応性を緩めるだろう。導入されたTCRのα鎖及びβ鎖の発現が減少すると、正常な自己T細胞のみが残る。これは、TCR鎖の全長を安定なレトロウイルスの形質導入によって導入した際にはあてはまらず、そのことは導入されたTCR鎖を決して減少せず、患者において持続的に自己反応性を生じさせる。
【0052】
緑色蛍光タンパク質(GFP)を用いてT細胞をエレクトロポレーションすることについての、いくつかの成功が以前に報告されている。しかし、GFP RNAおよびタンパク質はともに非常に安定であり、GFP RNAにおいて達成されたトランスフェクション効率と比べて、その他のRNAで観察される効率は典型的には小さい。本発明より前には、十分に高い効率で、膜タンパク質、特にヘテロ二量体膜タンパク質をコードしたRNAによるT細胞のトランスフェクションを達成して、機能的発現を達成することは、不可能と考えられていた。本発明は、RNAを用いてT細胞をエレクトロポレーションするための最適化した方法を提供し、これによって一過性にトランスフェクトされたT細胞における、TCR RNA及びその他のRNAの機能的発現を可能にする。本明細書中に開示される方法を使用して、あらゆる型のT細胞をRNAでトランスフェクトすることができる。好ましい態様において、RNAはTCRをコードする。T細胞におけるTCR RNAの発現は、TCRと抗原:MHC複合体とのライゲーションに応答する抗原特異的なエフェクター機能をもたらす。
【0053】
したがって、本発明は、抗原に対して特異的なT細胞受容体(TCR)をコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたエフェクターT細胞を含む組成物であって、ここで、該T細胞が、MHC分子と複合体化した抗原を提示する細胞に対して特異的なエフェクター機能を有する、前記組成物を提供する。
【0054】
“T細胞”とは、Tリンパ球を意味し、必ずしもこれらには限定されないが、そこには、γ:δ+T細胞、NK T細胞、CD4+ T細胞、及びCD8+ T細胞が含まれる。CD4+ T細胞には、TH0、TH1及びTH2細胞、並びに制御性T細胞(Treg)が含まれる。制御性T細胞には少なくとも三つのの型がある:CD4+ CD25+ Treg、CD25- TH3 Treg、及びCD25- TR1 Treg。“細胞傷害性T細胞”とは他の細胞を殺すことができるT細胞を意味する。細胞傷害性T細胞の大部分は、CD8+ MHCクラスI拘束性T細胞であるが、しかし一部の細胞傷害性T細胞は、CD4+である。あらゆる型のT細胞を、本明細書中の方法を使用してトランスフェクトすることができる。好ましい態様において、T細胞はCD4+又はCD8+である。一態様において、T細胞はTreg細胞である。
【0055】
ほとんどのT細胞受容体(TCR)は、MHC分子に結合するペプチド抗原(又は抗原のペプチド断片)の複合体である(MHC:抗原複合体)。TCRは、各T細胞の抗原特異性に関与し、同時にMHCクラスI分子又は対するMHCクラスII分子によって提示される抗原の認識の拘束性にも関与する。CD4+ T細胞に由来するTCRは、MHCクラスII拘束性であり、これはCD4+ T細胞に由来するTCRは、MHCクラスII分子によって提示された抗原しか認識しないことを意味する。CD8+ T細胞に由来するTCRは、MHCクラスI拘束性であり、MHCクラスI分子によって提示された抗原しか認識しない。一態様において、一またはそれ以上のMHCクラスI拘束性TCRをコードするRNAで、CD8+ T細胞をトランスフェクトする。別の態様においては、一またはそれ以上のMHCクラスII拘束性TCRをコードするRNA、CD4+ T細胞をトランスフェクトする。
【0056】
驚くべきことに、本発明者は、MHCクラスI特異的TCRをコードする核酸のトランスフェクションによって、CD4+ T細胞にMHCクラスI特異的抗原認識を付与することができることを、見いだした。同様に、MHCクラスII特異的TCRをコードする核酸のトランスフェクションによって、CD8+ T細胞にMHCクラスII特異的抗原認識を付与することができる。本明細書中で使用される場合、TCRが特定の抗原に対して“特異的”と見なされるのは、関連のない抗原で刺激された場合と比べて、(MHC分子と複合体化した)その抗原によって刺激された場合に、このTCRを持つT細胞が免疫学的機能(例えばサイトカインの放出、刺激細胞の溶解など)を、顕著に強く(p<0.05)発揮する場合である。よって、一態様において、一またはそれ以上のMHCクラスII拘束性TCRをコードする核酸、好ましくはRNAで、CD8+ T細胞をトランスフェクトする。他の態様において、MHCクラスI拘束性TCRをコードする核酸、好ましくはRNAで、CD4+ T細胞をトランスフェクトする。さらに、MHCクラスI及びMHCクラスII拘束性TCRを両方コードする核酸群、好ましくはRNAで、CD8+ T細胞をトランスフェクトする。同様に、MHCクラスI及びMHCクラスII拘束性TCRを両方コードする核酸群、好ましくはRNAで、CD4+ T細胞をトランスフェクトする。本発明で有用なTCRには、抗原がMHC分子と複合体化しているか否かに関わらず抗原を認識することができる、キメラの非MHC拘束性TCRが含まれる。非MHC拘束性TCRが特定の抗原に対して“特異的”と見なされるのは、関連のない抗原で刺激された場合と比べて、(MHC分子と複合体化しているか否かに関わらず)その抗原によって刺激された場合に、このTCRを持つT細胞が免疫学的機能(例えばサイトカインの放出、刺激細胞の溶解など)を、顕著に強く(p<0.05)発揮する場合である。したがって、CD4+ T細胞とCD8+ T細胞の両方を、非MHC拘束性TCRをコードする核酸、好ましくはRNAで、単独に又はMHC拘束性TCRと組み合わせて、トランスフェクトすることができる。
【0057】
天然のTCRは、アルファ鎖及びベータ鎖(TCRα及びTCRβ)又はガンマ鎖及びデルタ鎖(TCRγ及びTCRδ)のいずれかの、二つのポリペプチド鎖を含む、ヘテロ二量体糖タンパク質である。α:βTCRは、CD8+ T細胞及びCD4+ T細胞で天然に発現し、一方、γ:δTCRは、γ:δ+ T細胞と呼ばれるT細胞のサブセットにおいて天然に発現する。TCRの多様性は、胸腺におけるT細胞の発生中に、可変領域の遺伝子断片の一連の再構成によって生成される。各鎖は、細胞外可変領域、細胞外定常領域、二つの鎖の間にジスルフィド結合を形成するためのシステイン残基を有するヒンジ領域、膜貫通領域、及び細胞質尾部を有する。ヘテロ二量体の二つの可変領域が、一つの抗原結合部位を形成する。アルファ及びベータTCR鎖の可変領域の相補性決定領域(CDR)3が、ペプチドと相互作用する。アルファ及びベータTCR鎖の可変領域のCDR1及びCDR2領域が、MHC分子と相互作用する。
【0058】
本発明は、抗原に対して特異的なT細胞受容体をコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたT細胞を提供する。TCRは、MHCクラスI拘束性、MHCクラスII拘束性、又は非MHC拘束性(MHC非依存性)であり得る。これらの型のTCRそれぞれは、当業者に知られている。非MHC拘束性キメラ受容体の例は、Bolhuis et al. Adv Exp Med Biol. 1998;451:547-55; Weijtens et al. Gene Ther. 1998 Sep;5(9):1195-203; Weijtens et al. Int J Cancer. 1998 Jul 17;77(2):181-7; Eshhar et al. J Immunol Methods. 2001 Feb 1;248(1-2):67-76; Hombach et al. Int J Cancer. 2000 Oct 1;88(1):115-20;及びDaly et al. Cancer Gene Ther. 2000 Feb;7(2):284-91;において開示されており、これらの内容が参考文献として援用される。CD4+ T細胞及びCD+8 T細胞の両方を、あらゆる型のTCRでもトランスフェクトすることができる。また、サイトカイン、転写制御因子(例えば、FoxP3)、共刺激分子などの、他の興味あるポリペプチドをコードする追加のRNAで、T細胞を共トランスフェクトすることもできる。しかし、本明細書中で使用する場合、TCRをコードするRNAの割合が、全RNA又は全mRNAにおける正常な存在量に対して濃縮されないならば、T細胞受容体をコードするRNAでのトランスフェクションには、T細胞又はT細胞誘導体(例えばT細胞腫瘍)の全RNA又は全mRNAのトランスフェクションが含まれない。
【0059】
“T細胞受容体をコードするRNA”とは、TCRによって認識されるクラスのMHC分子と抗原が複合体化する場合(又は、TCRが非MHC拘束性TCRである場合は、MHC分子との複合体非存在下)、発現したT細胞受容体が、それが通常認識する抗原に特異的に結合するという点で、機能的なT細胞受容体をコードする一またはそれ以上のRNAを意味する。多くの場合、このRNAには、TCRのアルファ鎖をコードするRNA及び対応するTCRのベータ鎖をコードするRNA(又はその代わりに、TCRのデルタ鎖をコードするRNA及び対応するTCRのガンマ鎖をコードするRNA)が含まれるであろう。あるいは、キメラ受容体を使用することができ、それによって誤対合を回避し、HLA拘束性を避けることができるであろう。キメラTCRポリペプチドは、異なるタンパク質由来のドメインを一緒に融合することによって、生成することができる。例えば、細胞内ドメインには、典型的に、例えばCD3ゼータ鎖といったTCR複合体の細胞内シグナル伝達ドメイン、又は、例えばFc受容体由来のシグナル伝達ドメインといった同じ様式で機能するシグナル伝達ドメインが含まれる。細胞外ドメインは、例えばTCRアルファ鎖及びベータ鎖の細胞外ドメインといったMHCとの関連で抗原と特異的に結合することができるもの、又は、例えば抗原特異的scFvといったMHCと独立して抗原に結合することができるものを、選択することができる。膜貫通ドメインは、細胞内ドメイン又は細胞外ドメインのいずれかも取ったタンパク質から、又は別の膜貫通タンパク質から、取る又は得ることができる。
【0060】
レトロウイルスによってT細胞にTCRを形質導入した多くの研究においては、TCRα鎖及びβ鎖遺伝子の全長を使用して、これらのT細胞を再標的化した。しかしながら、理論的には、導入された鎖が内因性のTCR鎖と対合し得るので、全長TCR鎖遺伝子の使用には、危険を伴う可能性がある[8, 30, 32]。この代替的対合は、想定外の特異性を導く可能性があり、これは自己反応性であり得る。この自己反応性TCRの形成は、遺伝子治療規制委員会(gene therapy regulatory committee)における認識された懸案事項である。その代替的対合が起こったことは、gp100又はMDM-2に特異的なTCR鎖の全長がレトロウイルスによってT細胞へ移入された研究において示された。導入されたTCRβ鎖を発現したT細胞の一部(すなわち、それぞれ50〜60%及び30〜50%)のみが、それぞれのMHC/ペプチド四量体に結合することができた[24, 27]。
【0061】
代替的対合問題に関する一つの解決法は、一つまたは二つの鎖の修飾したTCRに基づく受容体を導入することであり、これらは全長TCRと構造的に異なるので、導入したTCR鎖同士の排他的対合をもたらす[8]。一本鎖TCR(scTCR)を構築する方法は、Lake et al. (1991) Int Immnunol 11:745-751及びNitta et al. (1990) Science 249:672において開示され、その内容が参考文献として援用される。いくつかのメラノーマ抗原、例えばMAGE-1 [29]、gp100 [23]に特異的な、そのような受容体は、レトロウイルスによる形質導入によって、T細胞へ機能的に導入されていた。しかし、OVAペプチドに対して特異的な全長TCRと修飾一本鎖TCRを注意深く比較すると、一本鎖TCRを導入されたT細胞は、OVAペプチドでパルスされた標的細胞による刺激に対して、より低い効率で応答し(すなわち、特に低い濃度のペプチドが使われた場合)、そして、全長TCRを導入されたT細胞と比べて標的細胞を自然に発現していた[32]。したがって、最も効果的なT細胞を生成するためには、TCR移入のための全長TCR鎖を使用することが望ましい。
【0062】
好ましくはTCR鎖は哺乳動物由来であり、より好ましくは霊長類由来であり、最も好ましくはヒト由来である。好ましい態様において、TCRは、腫瘍又は病原体由来の抗体、又は自己抗原を特異的に認識する。好ましくは、抗原は腫瘍特異的抗原又は病原体特異的抗原である。好ましい腫瘍抗原には、以下の型の腫瘍由来のものが含まれる:腎細胞癌、メラノーマ、慢性リンパ性白血病、乳癌、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、及び結腸癌。腫瘍特異的抗原の例には、必ずしもこれらに限定されないが、MART-1、MAGE-1、MAGE-3 gp75、MDM2、チロシナーゼ、テロメラーゼ、gp100、サバイビン(survivin)、アルファ-1フェトプロテイン、G250、又はNY-ESO-1が含まれる。好ましい病原体抗原には、HIV及びHCV由来の抗原が含まれる。
【0063】
非常に多くのアルファ、ベータ、ガンマ、及びデルタTCR鎖の配列が、当該技術分野において知られている(例えば、Arden et al. (1995) Immunogenetics 42:455-500参照、その内容が参考文献として援用される)。GenBankには現在、様々な脊椎動物種のT細胞受容体配列に関する12000より多くの登録が含まれている。TCRライブラリーの作製及びスクリーニングの方法は、U.S.特許公開公報2003/0082719において開示されており、その内容が参考文献として援用される。追加のTCR鎖をクローニングする方法は、当業者において知られている。例えば、所望の特異性のTCRを発現するT細胞を同定し、そしてそのRNAをDNAへ逆転写することによってTCR鎖をクローニングすることができる。次いで、TCRα鎖及びβ鎖のサブタイプをPCRによって決定することができる。サブタイプの同定によって、両鎖の全長コード配列を増幅することができる特異的プライマーを選択することができる。TCRα鎖及びβ鎖のサブタイプを決定し、そしてTCRのRT-PCR増幅のためのプライマーを選択するための、PCRを用いた方法は、Lake et al. (1999) Int Immunol 11:745-751及びNitta et al. (1990) Science 249:672において開示され、その内容が参考文献として援用される。RT-PCRによってTCRγ鎖およびδ鎖をクローニングするための方法及びそのためのプライマーは、Kapp et al. (2004) Immunology 111:155-164; Weber-Arden et al. J Immunol Methods. 1996 197(1-2):187-92;及びOlive (1995) Neuroimmunol 62:1-7において開示されており、その内容が参考文献として援用される。TCRα鎖及びβ鎖のサブタイプの同定によって開始される、上記方法の代替法は、代わりに、TCR RNAの保存領域にハイブリダイズする逆転写のためのプライマーを用いて、TCR RNAのcDNAコピーを逆転写し、そして次いで、cDNAの3’末端へ決まった配列を(例えば、ターミナルトランスフェラーゼによって、又は改良キャップスイッチ法(improved capswitch technique)によって)結合すればよい(WO 2005/052128、その内容が参考文献として援用される)。あらゆる細胞(例えばT細胞)から抽出したRNAのRT-PCR、及びin vitro転写の方法は、同時係属中の出願WO 2005/052128及びPCT/US05/32710において開示されており、その内容が参考文献として援用される。
【0064】
TCR RNAのcDNAコピーは、in vitro転写のために発現カセットへ挿入することができる。あるいは、TCR cDNAは、in vitro転写のために適した、及びエレクトロポレーションされたT細胞内のin vitro 転写(IVT)RNAの翻訳のために適した、転写シグナル及び翻訳シグナルを含有するプライマーを用いて増幅することができる。T細胞における翻訳の最適化を保証するために、TCR鎖をコードするIVT RNAは、キャップ化され及びポリアデニル化されていることが好ましい。また、mRNAの安定性及び/又は翻訳効率は、5’UTR及び3’UTRなどの追加的な非コード配列を組み込むことによって、増加させることができる。
【0065】
in vitro転写の方法は、当業者において知られている(例えばU.S.2003/0194759参照、その内容が参考文献として援用される)。典型的なin vitro転写反応において、鋳型DNAは、全4種のリボヌクレオシド三リン酸及びm7G(5’)ppp(5’)Gなどのキャップジヌクレオチド(cap dinucleotide)又はARCAなどのキャップアナログの存在下で、バクテリオファージRNAポリメラーゼを用いて転写される。そのような方法は当該技術分野においてごく普通のものであり、次の出版物において開示されている:Sambrook et al. MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd edition (1989); CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (Ausubel et al. eds. (1987)); the series METHODS IN ENZYMOLOGY (Academic Press, Inc.); PCR: A PRACTICAL APPROACH (M. MacPherson et al. IRL Press at Oxford University Press (1991));及びPCR 2: A PRACTICAL APPROACH (MacPherson, Hames and Taylor eds. (1995))。
【0066】
TCR IVT mRNAによるT細胞の一過性のトランスフェクションは、RNAの翻訳及び細胞膜中へのTCRヘテロ二量体(又はキメラTCR)の局在化をもたらす。MHC分子と複合体化した抗原とこのTCRとの結合は、活性化T細胞によるエフェクター機能をもたらす。一過性にトランスフェクトされた、とは、細胞内にトランスフェクトしたRNAが、宿主ゲノム中に組み込まれず、又は細胞内で独立して複製されないことを意味する。対照的に、レトロウイルスによる形質導入は、宿主染色体中へレトロウイルスのベクターが組み込まれることに基づいている。
【0067】
好ましい態様において、休止期T細胞、好ましくは休止期エフェクターT細胞を、RNA、好ましくはTCRをコードするRNA及び/又はFoxP3 RNA を用いてエレクトロポレーションする。胸腺細胞は、胸腺において成熟T細胞への分化し、そしてナイーブ表現型かつ休止期状態で、血流及び末梢へ遊出する。それらは、それらが活性化される共刺激シグナルと一緒にその特異的抗原:MHC複合体と遭遇したときに、分裂を開始し、そして例えばエフェクターT細胞又はセントラル記憶T細胞の表現型などの、新しい表現型を得る。抗原が取り除かれると、それらは再び休止期状態に入ることができる。抗原:MHC複合体と再び遭遇したときは、共刺激は必要なく、そしてT細胞は再び急速に活性化される。それは再び分裂して、記憶T細胞はさらにエフェクターT細胞へ分化することができる。しかしその場合にも、それは再び休止期になることができる。健康なドナー由来の末梢T細胞は、通常、ナイーブT細胞、記憶T細胞、及びエフェクターT細胞の混合物を含み、その大部分は休止期である。これらの休止期T細胞は、まれにしか分裂せず、そして一般にクロマチンが凝縮し細胞質が少量であり、小さい。活性化の際に、それらは急速に増殖し、大きさを増す。休止期T細胞は、典型的にはIL-2の存在下で、PHA、PMA又はOKT3による刺激によって、in vitroでも活性化することができる。驚くべきことに、本発明者は、TCR RNAとともに休止期T細胞をエレクトロポレーションすることが、PHA、PMA又はOKT3 Abによる刺激を必要とせずに、トランスフェクトしたTCRに対する特異的なエフェクター機能を付与することを、発見した。
【0068】
休止期CD4+T細胞及びCD8 T細胞は、典型的には CD25-HLA DR-及びL-selectin+であり、分裂せず、またサイトカインを発現しない。活性化T細胞は、典型的にはL-Selectin-、CD25+、HLA DR+であり、急速に分裂し、そしてIL2、IFNγ及びTNFを含む様々なサイトカインを産生する。末梢血液からT細胞を単離する方法は、当業者において知られており、本明細書中にも記載される。
【0069】
T細胞のエフェクター機能には、必ずしもこれらには限定されないが、一またはそれ以上のIL-2分泌、腫瘍壊死因子(TNF-α)分泌、インターフェロン-γ(IFNγ)分泌、細胞傷害性、ヘルパー機能(例えば、マクロファージの活性化及び/又はB細胞の活性化)、及び制御機能が含まれる。エフェクター機能は、トランスフェクトされたT細胞の型に依存する。活性化CD8+ T細胞のエフェクター機能には、細胞傷害性及びIFNγ分泌が含まれる。活性化CD4+ TH1細胞のエフェクター機能には、マクロファージの活性化が含まれる。活性化CD4+ TH2細胞のエフェクター機能には、B細胞を活性化して、増殖させて抗体を産生させることが含まれる。制御性エフェクター機能には、必ずしもこれらには限定されないが、IL-10分泌及び/又はTGF-β分泌が含まれる。エフェクター機能を検出し測定する方法は、当業者に知られている。
【0070】
T細胞のエフェクター機能は、それらのTCRと標的細胞上の抗原:MHC複合体との特異的結合に応答して、それらが放出するエフェクター分子によって決定される。溶解性顆粒中に蓄積され、細胞傷害性CD8+ T細胞によって放出され得る細胞傷害性エフェクター分子には、パーフォリン、グランザイム、グラニュライシン(granulysin)、及びFasリガンドが含まれる。パーフォリンは、標的細胞中に膜貫通孔を形成する。グランザイムは、アポトーシスの引き金を引くことができるセリンプロテアーゼである。グラニュライシンは、標的細胞においてアポトーシスを誘導することができる。Fasリガンドも、標的細胞においてアポトーシスを誘導することができる。細胞傷害性T細胞によって放出され得るその他のエフェクター分子には、IFN-γ、TNF-β及びTNF-αが含まれる。IFN-γは、ウイルスの複製を阻害し、マクロファージを活性化する。TNF-β及びTNF-αは、マクロファージ活性化及びいくつかの標的細胞を殺すことに関与することができる。CD8+ T細胞由来のTCR RNAによるCD8+ T細胞のトランスフェクションは、MHCクラスI拘束性の抗原特異的細胞傷害性(すなわち、抗原:MHCクラスI複合体を提示する標的細胞に対する細胞傷害性)をもたらす。それに対して、CD4+ T細胞由来のTCR RNAによるCD8+ T細胞のトランスフェクションは、MHCクラスII拘束性の抗原特異的細胞傷害性(すなわち、抗原:MHCクラスII複合体を提示する標的細胞に対する細胞傷害性)をもたらす。細胞内病原体(例えば、結核およびハンセン病の原因菌であるマイコバクテリア)由来の抗原は、典型的にはMHCクラスII分子上に提示される。したがって、マイコバクテリア抗原に対して特異的なTCRをコードするRNAによるCD8+ T細胞のトランスフェクションは、マイコプラズマ感染細胞に対する、MHCクラスII拘束性の抗原特異的細胞傷害性をもたらすことができる。
【0071】
CD4+ TH1細胞によって分泌され得るマクロファージ活性化エフェクター分子には、IFN-γ、TNF-α、GM-CSF、CD40リガンド(CD154)及びFasリガンドが含まれる。CD4+ TH1細胞のサブセットは、B細胞活性化を支援することもでき、IFN-γ及びCD40リガンドは、マクロファージを活性化して、飲み込まれたバクテリアを破壊する。TH1細胞によって放出され得るその他のエフェクター分子には、IL-3、TNF-β(B細胞を抑制する)、IL-2、CXCL2及びGROβが含まれる。Fasリガンド及びTNF-βは、細胞内のバクテリアによって慢性的に感染された細胞を殺すことができる。IL-2は、T細胞の増殖を誘導する。IL-3及びGM-CSFは、マクロファージの分化を誘導する。CCL2は、マクロファージの走化性を誘導する。CD4+細胞由来のTCR RNAによるCD4+ TH1細胞のトランスフェクションは、MHCクラスII拘束性のエフェクター機能(すなわち、抗原:MHCクラスII複合体を提示する標的細胞との抗原特異的結合に応答するマクロファージ活性化)をもたらす。それに対して、CD8+ T細胞由来のTCR RNAによるCD4+ TH1細胞のトランスフェクションは、MHCクラスI拘束性のエフェクター機能(すなわち、抗原:MHCクラスI複合体を提示する標的細胞との抗原特異的結合に応答する、IL-2、TNF及びIFNの高分泌とマクロファージ活性化)をもたらす。
【0072】
CD4+ TH2によって分泌され得るB細胞活性化エフェクター分子には、IL-4、IL-5、IL-9、IL-13、IL-15及びCD40リガンドが含まれる。TH2細胞によって分泌され得るその他のエフェクター分子には、IL-3、GM-CSF、IL-10(マクロファージ活性化を抑制する)、TGF-β、IL-2、CCL11(エオタキシン)及びCCL17(TARC)が含まれる。活性化TH2細胞(およびいくらかのTH1細胞)は、B細胞を刺激して、それらがB細胞によって提示される特異的抗原:MHCクラスII複合体を認識したときに、増殖及び分化するようにする。CD4+ T細胞由来のTCR RNAによるCD4+ TH2細胞のトランスフェクションは、MHCクラスII拘束性のエフェクター機能(すなわち、抗原:MHCクラスII複合体を提示する標的細胞との抗原特異的結合に応答するB細胞活性化)をもたらす。それに対して、CD8+ T細胞由来のTCR RNAによるCD4+ TH2細胞のトランスフェクションは、MHCクラスI拘束性のエフェクター機能(すなわち、抗原:MHCクラスI複合体を提示する標的細胞との抗原特異的結合に応答するB細胞活性化)をもたらす。
【0073】
CD4+制御性T細胞は、免疫応答を下方制御(down-regulate)する。TR1制御性T細胞は、IL-10及びTGF-βなどの免疫抑制性エフェクター分子を分泌する。IL-10は、IL-2、TNF-α及びIL-5のT細胞による産生を減少させることによって、T細胞の応答を下方制御する。TGF-βは、T細胞の増殖、傷害、及びサイトカイン発現を低下させる。TH3制御性T細胞は、免疫抑制性エフェクター分子TGF-βの分泌によって、免疫応答を下方制御する。CD4+ CD25+制御性T細胞は免疫抑制性であり、そしてそれらのTCRとの抗原特異的結合によって活性化される。ひとたび活性化されると、CD4+ CD25+制御性T細胞は、抗原非依存的様式で(antigen-independent manner)免疫抑制性エフェクター機能を示す。
【0074】
一過性にトランスフェクトされたエフェクターT細胞は、腫瘍、病原体感染、自己免疫疾患、GVHDの治療、及び移植拒絶反応の予防のために使用することができる。本発明の好ましい態様において、TCRは、腫瘍抗原、病原体抗原、又は自己抗原に対して特異的である。好ましくは、抗原は、腫瘍抗原又は病原体抗原である。抗原は、必ずしもこれらには限定されないが、腎細胞癌、メラノーマ、慢性リンパ性白血病、乳癌、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、又は結腸癌を含む、あらゆる型の腫瘍に由来し得る。好ましいメラノーマ抗原には、MART-1、MAGE-1、MART-1、及びgp100が含まれる。その他の好ましい腫瘍抗原には、gp75、MDM2、チロシナーゼ、テロメラーゼ、サバイビン、アルファ 1 フェトプロテイン、CA125、CA15-3、CA19-9、PSA、G250、及びNY-ESO-1が含まれる。さらなる腫瘍関連抗原及び、TAAのそれらの同定のための方法は、Nicolette and Miller (2003) Drug Discovery Today 8:31-38; Kawakami and Rosenberg (1997) Immunol Res 16:313及びSlingluff et al. (1994) Curr Opin Immunol 6:733において開示されており、その内容が参考文献として援用される。好ましい病原体抗原は、HIV及びHCV抗原である。癌治療において、腫瘍特異的TCRのための一つの供給源は、腫瘍浸潤リンパ球である。アネルギー的ではあるが、それらは機能的TCRを発現する。別の候補は、患者由来のT細胞のin vitro刺激であり得る。制御機構のない状態では、TAA特異的T細胞を増やすことができる。ひとたびTCRのアレイが作製されれば、これらをもとにするある一揃いを、腫瘍のMHC型及び抗原発現に関して、各患者のために個別に選択することができる。HIV治療においては、いくつかの免疫原性ペプチドがその特性をよく明らかにされている。しかし、ほとんどの患者の免疫システムはすでに弱すぎて、ウイルスに対して効果的な免疫応答を開始することができない。効果的な免疫応答を示すHIV感染患者(例えば、初期に、又は長期間非進行状態(long-term non-progressor)の後期に)から、又はワクチン接種試験に参加した健康なドナーにおいて、TCRを生成することができるであろう。
【0075】
上記のように、MHCクラスI拘束性TCR、MHCクラスII拘束性TCR及び/又は非MHC拘束性TCRのいずれかをコードするRNAを、エレクトロポレーションによってあらゆる型のT細胞へトランスフェクトすることができる。一態様において、T細胞は制御性T細胞(Treg)である。好ましくは、Tregは、CD4+CD25+である。自己抗原に対して特異的なTCR RNAでトランスフェクトされた制御性T細胞は、自己免疫疾患の治療のために有用である。移植抗原に対して特異的なTCR RNAでトランスフェクトした制御性T細胞は、移植拒絶反応の予防のため、及び移植片対宿主病(GCHD)の治療又は予防のために有用である。
【0076】
FoxP3は、CD4+ T細胞が制御性T細胞へ分化することに関与する、転写因子である。FoxP3のレトロウイルスによる発現は、CD4+ T細胞を制御性T細胞へ変換するために十分なものである(Sakaguchi et al. (2003) Science 299:1057-61)。よって、一態様において、本発明は、FoxP3をコードする外来性RNAを含むTreg細胞を提供する。ヒトFoxp3のアミノ酸配列及びcDNA配列は、GenBank受入番号NM_014009(VERSION NM_014009.2 GI:31982942)において開示されている。外来性RNAとは、RNAによるトランスフェクションによって、又は外来性発現カセットの転写によって、直接導入されたRNAを意味する。したがって、FoxP3をコードするRNAによって、又はFoxP3のための発現カセットによって、CD4+ T細胞をトランスフェクトすることができる。好ましい態様において、FoxP3をコードするRNAでT細胞を一過性にトランスフェクトする。同様に、FoxP3 RNA及びTCR RNAで、CD4+ T細胞を共トランスフェクト(cotransfect)することもできる。
【0077】
本発明者は、RNAを用いてT細胞をエレクトロポレーションするための方法を最適化した。好ましくは、精製CD8+ T細胞又は精製CD4+ T細胞をエレクトロポレーションする。TCRをコードするRNAを用いたT細胞のエレクトロポレーションは、トランスフェクトされたT細胞に新規の抗原特異性を付与する。したがって、一側面において、本発明は、抗原に対して特異的なTCR受容体をコードするRNAを用いて精製CD8+ T細胞又はCD4+ T細胞を含む組成物を、エレクトロポレーションすることを含む、T細胞に新規の抗原特異性を付与する方法を提供する。
【0078】
精製CD8+ T細胞とは、精製CD8+ T細胞組成物中のCD8+T細胞:CD8-T細胞の比率が、末梢血液中のCD8+T細胞:CD8-T細胞の比率と比べて増加していることを意味する。同様に、精製CD4+ T細胞とは、精製CD4+ T細胞組成物中のCD4+T細胞:CD4-T細胞の比率が、末梢血液中のCD8+T細胞:CD8-T細胞の比率と比べて増加していることを意味する。好ましくは、精製T細胞(CD8+又はCD4+)は、組成物中に存在する全T細胞の少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは95%、さらには少なくとも99%を含む。CD4+ T細胞又はCD8+ T細胞を精製するための方法は、当業者に知られている。好ましい態様において、T細胞を磁気選別によって精製する。一態様において、TregをCD8+ T細胞又はCD4+ヘルパーT細胞から分離する又は取り出す。
【0079】
エレクトロポレーションの前に、in vitroで、T細胞を刺激しない(そして主に休止期)でもよく、又は刺激してもよい(例えば、OKT3 Ab、PHA、PMAなどによって)。好ましくは、精製CD8+ T細胞又は精製CD4+ T細胞は、エレクトロポレーションの前に、フィトヘマグルチニン(PHA)又はOKT3によって刺激されていない。よって、別の側面において、本発明は、抗原に対して特異的なTCRをコードするRNAで休止期T細胞をエレクトロポレーションすることを含む、T細胞に新規の抗原特異性を付与する方法を提供する。
【0080】
しかし、エレクトロポレーションの前にT細胞の数を増やしておくことが望まれる場合、T細胞を刺激して増殖させ(例えば、好ましくはIL-2の存在下でPHA、PMA及び/又はOKT3を含む培地によって)、その後にRNAを用いてエレクトロポレーションしてもよい。
【0081】
本発明者は、休止期T細胞又は刺激されたT細胞のいずれかのエレクトロポレーションのための最適条件が、矩形波パルスを使用して、ギャップ幅100〜150 ボルト/mm(例えば、4 mmのギャップに対して400〜600 V)の電界強度で2〜10ミリ秒(ms)であることを見いだした。好ましくは、電界強度が110〜140 V/mm、より好ましくは120〜130 V/mm、そして最も好ましくは約125 V/mmである。例えば、2 mmキュベットを使用する態様において、最も好ましい電圧は250 Vになる。好ましくは、3〜7 ms間、より好ましくは4〜6 ms間、最も好ましくは5 ms間、電圧を加える。好ましい態様において、OptiMEM培地中で、又は室温において同じ伝導率の培地中で、細胞をエレクトロポレーションする。
【0082】
一態様において、本発明は、エレクトロポレーションの前にPHA又はOKT3によってin vitroで刺激されていないT細胞を、RNAを用いて、矩形波パルスを使用して100〜150 V/mmの電界強度で2〜10 msエレクトロポレーションすることを含む、T細胞を一過性にトランスフェクトする方法を提供する。好ましくは、T細胞はエレクトロポレーションの前に精製される(例えば、精製CD8+ T細胞、精製CD4+ T細胞、又は精製制御性T細胞)。別の態様において、T細胞はエレクトロポレーション後に精製される。
【0083】
TCR RNAで一過性にトランスフェクトされたT細胞は、腫瘍、病原体感染、自己免疫疾患、移植拒絶反応、及びGVHDの治療のために有用である。よって、一態様において、本発明は、本発明の方法によって生産される、免疫療法のための医薬の生産のためのT細胞の使用を提供する。別の側面において、本発明には、抗原に対して特異的なTCRをコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたT細胞を投与することを含む、被験体に抗原特異的T細胞のエフェクター機能を提供するための方法であって、この場合において該T細胞が、MHC分子と複合体化した抗原を提示する細胞に対してエフェクター機能を示す、前記方法が含まれる。好ましくは、エフェクター機能は細胞傷害性であり、抗原は腫瘍特異的又は病原体特異的である。好ましい態様において、T細胞は被験体について自己由来のものである。
【0084】
本発明のT細胞組成物は、その他の治療剤及び細胞傷害性剤と併用することができ、
それらと結合してもしていなくてもよく、又は同時に投与してもしなくてもよい。それらは、そのような薬剤と同時投与によって併用してもよいし(例えば、単一組成物中で又は別々に)、又はそのような薬剤の投与の前又は後に投与してもよい。そのような薬剤には、IL-2のような免疫刺激性サイトカイン、細胞分裂停止剤のような化学療法薬、抗ウイルス薬、ワクチン、又は治療を助けたり修正したりするその他のあらゆる種類の治療剤が含まれる。
【0085】
in vitroで転写されるRNAを作製するための方法
本発明の特定の態様は、IVT RNAの調製及び使用を必要とする。IVT RNAは、当該技術分野において既知のあらゆる方法を用いて生成することができる。好ましい態様において、発現カセットは、T7プロモーター又はSP6プロモーターなどの、in vitro転写のための適切なプロモーターを含有する。好ましくは、in vitroで転写されるmRNAは、安定性及び翻訳効率に関して最適化されている。例えば、mRNAの安定性及び/又は翻訳効率は、mRNA中に3’UTR及び5’UTRを含めることによって増加させることができる。3’UTRの好ましい例には、ヒトβ-アクチン(Qin and Gunning (1997) Journal of Biochemical and Biophysical Methods 36 pp. 63-72)及びロタウイルス遺伝子6(Yang et. al., 2004 Archives of Virology 149:303-321)由来のものが含まれる。5’UTRの好ましい例には、Hsp70(Vivinus, et al., 2001 European Journal of Biochemistry 268:1908-1917)、VEGF(Stein et al., 1998 Molecular and Cellular Biology 18:3112-3119)、脾臓壊死症ウイルスRU5(Roberts and Boris-Lawrie 2000 Journal of Virology 74:8111-8118)、及びタバコエッチウイルス(Gallie et al. (1995) Gene 165:233-238; Niepel and Gallie (1999) Journal of Virology 73:9080-9088. Gallie, Journal of Virology (2001) 75:12141-12152)の5’UTR中の翻訳エンハンサーが含まれる。
【0086】
T細胞の単離及び増殖
休止期T細胞及び活性化T細胞を含むT細胞は、当業者に知られる方法によって、哺乳動物から単離することができる。限定的ではない一つの方法において、Ficoll-Hypaque密度勾配遠心分離を使用して、確立された手順に従って、赤血球及び好中球からPBMCを分離する。1%ウシ胎仔血清(FBS)を添加した改変AIM-V(2 mMグルタミン、10μg/mlゲンタマイシン硫酸塩、50μg/mlストレプトマイシンを含むAIM-V(GIBCO)からなる)で細胞を洗浄する。標準的な手法に従って、カラム又は磁気ビーズとカップリングした適切なモノクローナル抗体による陰性選択又は陽性選択によって、T細胞を濃縮する。一部分の細胞を、CD4、CD8、CD3及びCD14を含む細胞表面表現型について解析する。例示のみを目的するものとして、細胞を洗浄し、そして、上記のように改変してさらに5% FBS及び100 U/ml 組換えIL-2(rIL-2)を含むAIM-V(添加AIM-V)1 mlあたり約5×105細胞の濃度に懸濁する。細胞がHIV+患者から単離される場合、25 nM のCD4-PE40(転座と連鎖したHIV-1結合性CD4ドメイン及びPseudomonas aeruginosa のexotoxin AのADPリボシル化ドメインからなる組換えタンパク質)、又はHIVと選択的にハイブリダイズするその他の同様の組換え細胞傷害性分子を、細胞増殖の残留物のために細胞培地へ添加し、培地からHIV感染細胞を選択的に取り除く。CD4-PE40は、HIV感染細胞培養においてp24の産生を阻害し、HIV-1感染細胞を選択的に殺すことが示された。T細胞の単離、培養、増殖のための好ましい方法は、実施例の項で開示される。
【0087】
増殖を刺激するために、OKT3モノクローナル抗体(Ortho Diagnostics)を、10 ng/mlの濃度で添加してもよく、そして細胞を1ウェルあたり0.5 mlずつ24ウェルプレートに蒔く。この細胞を、約37℃の温度で、5% CO2の加湿インキュベーターで、48時間培養する。培地を細胞から吸引し、そして5μl/mlのプロタミン硫酸塩、100 U/ml rIL-2、100 U/mlペニシリン、0.25μg/mlアンホテリシンB及び追加の100μg/mlストレプトマイシン(25 nMのCD4-PE40を添加してもよい)を、1 mlのベクター含有上清(以下に記載)に添加する。PHAによってT細胞の増殖を刺激するための方法は、実施例の項で開示される。
【0088】
細胞の単離及び特性解析
別の側面において、細胞表面マーカーを使用して、本発明の方法を実施するために必要な細胞の単離し又は特性解析することができる。例えば、ヒト幹細胞は、典型的にはCD34抗原を発現し、一方DCはMHC分子及び共刺激分子(例えば、B7-1及びB7-2)を発現し、顆粒球、NK細胞、B細胞及びT細胞について特異的なマーカーを欠く。表面マーカーの発現は、これらの細胞の同定及び精製を容易にする。同定及び単離のこれらの方法には、FACS、カラムクロマトグラフィー、磁気ビーズによるパニング法(panning)、ウェスタンブロット、ラジオグラフィー、電気泳動、キャピラリー電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高拡散クロマトグラフィー(hyperdiffusion chromatography)など、並びに液体又はゲル沈降反応、(単純又は二重の)免疫拡散法、免疫電気泳動法、放射免疫測定(RIA)、酵素結合免疫吸着法(ELISA)、免疫蛍光アッセイなどの様々な免疫学的方法が含まれる。一般的な免疫学的手法及び免疫アッセイ手法の概説としては、Stites and Terr (eds.) 1991 Basic and Clinical Immunology (7th ed.)及びPaul(上記)を参照。選択した抗原に対する抗体を作製するための方法の検討については、Harlow and Lane (1989)(上記)を参照。
【0089】
細胞単離及び細胞精製中の細胞の検出のための免疫アッセイは、いくつかの構成のいずれかで実行することができ、それは例えば、Maggio (ed.) (1980) Enzyme Immunoassay CRC Press, Boca Raton, Fla.; Tijan (1985)“Practice and Theory of Enzyme Immunoassays,”Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, Elsevier Science Publishers B.V., Amsterdam; Harlow and Lane, 上記; Chan (ed.) (1987) Immunoassay: A Practical Guide Academic Press, Orlando, Fla.; Price and Newman (eds.) (1991) Principles and Practice of Immunoassays Stockton Press, NY;及びNgo (ed.) (1988) Non-isotopic Immunoassays Plenum Press, NYにおいて概説されているものである。
【0090】
細胞は、FACS解析のようなフローサイトメトリー法によって、単離及び特性解析することができる。各種のフローサイトメトリー法が知られている。蛍光活性化フローサイトメトリーの一般的概説としては、例えば、Abbas et al. (1991) Cellular and Molecular immunology W.B. Saunders Company、特に3章、及びKuby (1992) Immunology W.H. Freeman and Company、特に6章を参照。FACS装置は、例えばBecton Dickinsonから入手可能である。
【0091】
細胞抗原の標識に使用することができる標識剤には、必ずしもこれらには限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、タンパク質、又はアフィニティーマトリックス、炭水化物又は脂肪などのその他の高分子が含まれる。検出は、免疫ブロッティング、ウェスタンブロット解析、放射活性マーカー若しくは生物発光マーカーの追跡、キャピラリー電気泳動法、又は、大きさ、電荷又は親和性に基づいて分子を追跡するその他の方法などの、既知の方法によって進めることができる。
【0092】
治療上の使用
一過性にトランスフェクトされたCD8+ T細胞は、哺乳類に導入することができ、ここでそれらの細胞は、該T細胞が、クラスI MHC分子上で、導入されたTCRによって認識するよう操作されたものと対応する、抗原ペプチドを有する標的細胞に対して細胞傷害性である。MHCクラスII拘束性TCRをコードするRNAによるCD8+ T細胞のトランスフェクションによって、抗原:MHCクラスII複合体を抗原特異的に認識できるようになる。同様に、CD4+ヘルパーT細胞は、MHCクラスIIの文脈で抗原ペプチドを認識するが、MHCクラスI拘束性TCRをコードするRNAでトランスフェクトされた場合は、ペプチド:MHCクラスI複合体を認識することもできる。ヘルパーT細胞はまた、標的細胞に対して免疫反応を刺激することもできる。標的細胞は典型的にはガン細胞又は病原体感染細胞である。
【0093】
T細胞は、活性化T細胞を投与する哺乳動物から単離することができる。あるいは、その細胞は、ドナーから提供されるか又は細胞バンク(例えば、血液バンク)に保存される、同種(allogenic)のものであってもよい。
【0094】
本発明の方法によって生産されるT細胞は、被検体に直接投与し、選択された抗原に対して活性なT細胞を産生することができる。投与は、細胞をうまく運んで最も適切な組織(又は複数の組織)へ完全に接触させるために、当該技術分野において既知の方法を用いることができる。細胞はあらゆる適切な様式で投与され、しばしば医薬的に許容される担体とともに投与される。本発明の文脈で、被検体へ細胞を投与する適切な方法が使用可能であり、一またはそれ以上の経路を使用して特定の細胞組成物を投与することができるが、ある特定の経路は、しばしば別の経路よりも迅速かつ効果的な反応を提供することができる。好ましい投与の経路には、必ずしもこれらには限定されないが、皮内投与、静脈内投与、リンパ節投与及び腫瘍内投与が含まれる。一態様において、T細胞を、ケモカイン受容体をコードするRNA、又は、転移部位(例えば、腸、肝臓、肺など)、自己免疫疾患に冒された組織などといった免疫療法の治療を必要とする部位へ細胞を導くホーミング分子をコードするRNAで、コトランスフェクトする(ケモカイン受容体及びホーミング分子の概説については、Salmi et al. Immunol Rev. 2005 206:100-13; Kim, Curr Opin Hematol. 2005 Jul;12(4):298-304; Kucia et al. Stem Cells. 2005 Aug;23(7):879-94; Ebert et al. Mol Immunol. 2005 May;42(7):799-809; Cambi et al. Cell Microbiol. 2005 Apr;7(4):481-8; Uhlig et al. Novartis Found Symp. 2004;263:179-88; discussion 188-92, 211-8; Kim et al. Curr Drug Targets Immune Endocr Metabol Disord. 2004 Dec;4(4):343-61: Zocchi et al. Leuk Lymphoma. 2004 Nov,45(11):2205-13; Sackstein J Investig Dermatol Symp Proc. 2004 Sep;9(3):215-23; Morris et al. Curr Mol Med. 2004 Jun;4(4):431-8; Marhaba et al J Mol Histol. 2004 Mar;35(3):211-31; Campbell et al. Semin Immunol. 2003 Oct;15(5):277-86; Cyster et al. Immunol Rev. 2003 Aug;194:48-60; Ley Trends Mol Med. 2003 Jun;9(6):263-8; Ono et al. J Allergy Clin Immunol. 2003 Jun;111(6):1185-99;を参照、その内容が参考文献として援用される)。
【0095】
医薬的に許容される担体は、部分的には、投与される特定の組成物によって、及びその組成物を投与するのに使用される特定の方法によって、決められる。したがって、本発明の医薬組成物の様々な適切な製剤がある。最も典型的には、ジフェンヒドラミン及びヒドロコルチゾンの投与の後に品質管理(微生物学、クローン形成法、生存率試験)が実行され、そして細胞を被検体に再注入して戻す。例えば、Korbling et al. (1986) Blood 67:529-532及びHaas et al. (1990) Exp. Hematol. 18:94-98を参照。
【0096】
例えば、腫瘍内、関節内(関節の中)、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、結節内(intranodal)及び皮下の経路などの非経口投与のための適切な製剤、及び担体には、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、及び製剤を対象の受容者の血液と等張にする溶質を含んでもよい水性無菌等張注射液(aqueous isotonic sterile injection solution)、及び、懸濁剤、可溶化剤、贈粘剤、安定化剤及び防腐剤を含んでもよい水性及び非水性無菌懸濁液が、含まれる。皮内投与及び静脈内投与は、本発明のT細胞のための好ましい投与の方法である。
【0097】
被検体に投与する細胞(例えば、活性化T細胞、又は樹状細胞)の用量は、有効量、すなわち被検体において長期にわたって所望の有益な治療上の反応を達成するために有効な量、又は癌細胞の成長を阻害するために有効な量、又は感染を阻害するために有効な量である。
【0098】
例示のみを目的とするものとして、後の解析と比較のために、注入の前に被検体から血液サンプルを得て保存することによって、本法を実行することができる。一般に、70 kgの患者へ、およそ60〜120分かけて、少なくとも約104〜106の細胞、そして典型的には1×108と1×1010の間の数の細胞を静脈内又は腹腔内に注入する。一側面において、投与は腫瘍内注入による。パルスオキシメトリーによって、生命兆候および酸素飽和度を緊密にモニターする。血液サンプルを、注入後5分及び1時間で得て、解析のために保存する。細胞の再注入は、ほぼ毎月、一年間に全部で10〜12回の治療になるように繰り返す。最初の治療の後は、臨床医の裁量に基づいて、外来患者に対して注入を行うことができる。外来患者として再注入が行われる場合、その患者を治療後少なくとも4時間はモニターする。
【0099】
投与のために、本発明の細胞は、有効量、細胞型のLD-50(又は他の毒性の指標)、及び様々な濃度でのその細胞型の副作用により、被検体の質量及び総合的な健康状態に合わせて決定される速度で投与される。投与は、単回投与又は分割投与で行うことができる。本発明の細胞は、細胞傷害性薬剤、ヌクレオチドアナログ及び生物反応修飾物質を含む既知の従来療法による症状についての、他の治療を補うことができる。同様に、生物反応修飾物質を、本発明の活性化T細胞による治療において、追加してもよい。例えば、細胞を、追加的に補助剤又はGM-CSF、IL-12、又はIL-2などのサイトカインと供に投与してもよい。
【0100】
免疫原性を評価する方法
本発明の方法によって生産されるT細胞の免疫原性は、必ずしもこれらには限定されないが、以下のよく知られた方法論によって測定することができる:
51Cr放出溶解アッセイ(51Cr-release lysis assay)。ペプチドパルスした51Cr標識化標的の抗原特異的T細胞による溶解を、比較することができる。“より活性な”組成物は、時間の関数として標的のより多くの溶解を示す。固定した時点(例えば4時間)での溶解の反応速度論及び総合的な標的溶解を使用して、能力を評価することができる。さらに、殺傷のために必要な標的細胞上の抗原密度は、T細胞の親和性を表す。Ware et al. (1983) 3. Immunol. 131:1312。
【0101】
サイトカイン放出アッセイ。修飾APCと接触した際にT細胞が分泌するサイトカインのタイプ及び量の解析は、機能的活性の指標となり得る。サイトカインを測定するための方法には、サイトカイン産生の速度及び全量を測定するためのELISA又はELISPOTアッセイが含まれる。Fujihashi et al. (1993) J. Immunol. Meth. 160:181; Tanquary and Killion (1994) Lymphokine Cytokine Res. 13:259。
【0102】
増殖アッセイ。T細胞は、反応性組成物に応答して増殖し得る。増殖は、例えば3H-チミジンの取り込みを測定することによって、量的にモニターすることができる。Caruso et al. (1997) Cytometry 27:71。
【0103】
トランスジェニック動物モデル。HLAトランスジェニックマウスに本発明の組成物をワクチン接種し、誘導された免疫応答の性質と規模を測定することによって、in vivoで免疫原性を評価することができる。あるいは、ヒトPBLの養子移入によって、hu-PBL-SCIDマウスモデルは、ヒト免疫系をマウス体内で再構築することができる。これらの動物に該組成物をワクチン接種し、そしてShirai et al. (1995) J. Immunol. 154:2733; Mosier et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2443において既に言及されているように、免疫応答を解析することができる。
【0104】
霊長類モデル。非ヒト霊長類(チンパンジー)モデル系を利用して、HLA拘束性リガンドの免疫原性をin vivoでモニターすることができる。チンパンジーは、ヒトMHC分子と部分的に一致するMHCリガンド特異性を共有するので、当業者はHLA拘束性リガンドを相対的in vivoの免疫原性について試験することができる。Bertoni et al. (1998) Immunol. 161:4447。
【0105】
TCRシグナル伝達イベントのモニタリング。いくつかの細胞内シグナル伝達イベント(例えば、リン酸化)は、MHC-リガンド複合体によるTCRの成功した結合と関連する。これらのイベントの定性解析及び定量解析は、TCRとの結合を通してエフェクター細胞を活性化する組成物の相対的能力に相関している。Salazar et al. (2000) Tnt. J. Cancer 85:829; Isakov et al. (1995) J. Exp. Med. 181:375。
【0106】
上記の説明に従い、以下の実施例は、本発明の様々な側面を例示することを意図しており、これを限定しない。
【実施例】
【0107】
材料と方法
細胞及び試薬
PBMCは、健康なドナーの全血(インフォームド・コンセントに従って入手し、施設内倫理委員会によって承認された)から、Lymphoprep(Axis-Shield, Oslo, Norway)を用いた密度遠心分離によって調製した。樹状細胞(DC)及び非接着性画分(NAF)を作製するために、1%の加熱不活性化自己血漿、2 mM L-グルタミン(BioWhittaker)、20 mg/L ゲンタマイシン(Sigma-Aldrich)を含むRPMI 1640(Cambrex)からなる自己培地(autologous medium)中にPBMCを再懸濁し、そして30×106細胞/皿で組織培養皿(BD Falcon)へ移した。接着が行われるように細胞を37℃で1〜2時間培養し、非接着画分を取り除き、そして前記[22]のように接着細胞から成熟DCを作製した。成熟DCを採取し、前記[22]のようにgp100 RNAを用いてエレクトロポレーションした。製造者の手引きに従い、抗CD8 MACSビーズ(anti-CD8 MACS beads)(Miltenyi, Bergisch Gladbach, Germany)を用いて、CD8+ T細胞を単離した。RPMI 1640、10%ヒト血清、2 mM L-グルタミン、20 mg/L ゲンタマイシン 10 mM HEPES、1 mMピルビン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)、1% MEM非必須アミノ酸(100×)からなり、20 U/ml IL-7を補充したMLPC培地中で、T細胞を培養した。20 IU/ml IL-2及び20 U/ml IL-7を、2日目および4日目に添加した。フィトヘマグルチニン(PHA)刺激T細胞培養液を作製するために、T25培養フラスコ中の、10%ヒト血清、1μg/ml PHA(Sigma)、20 U/ml IL-7及び20 IU/ml IL-2を補充したAIM-V培地中で、2×106のNAFを培養した。IL-2及びIL-7を、2日ごとに添加した。
【0108】
メラノーマ細胞株SK-MEL526(HLA-A2+/gp100+)、Colo 829(HLA-A1+/A2-/gp100+)及びNEMA(HLA-A2+/gp100-)、並びにT2細胞(TAP欠損T細胞×B細胞ハイブリッドT2-A1(HLA-A1+/A2+)ATCC# CRL-1992)を、RPMI 1640、2 mM L-グルタミン、ペニシリン-ストレプトマイシン、10%ウシ胎仔血清、2 mM HEPES及び2-βMEからなるR10培地中で培養した。メラノーマ細胞株のgp100の発現を、マウス抗gp100 mAb HMB45(DAKO, Glostrup, Denmark)及びロバ抗マウスPE溶液(RDI, Concord, MA, USA)で細胞内染色して確認した。特に、細胞をCytofix/Cytoperm溶液(BD Biosciences, Heidelberg, Germany)で透過し、そして製造者の手引きに従って、一Ab次及び二次Abで染色した。
【0109】
TCRでトランスフェクトされたT細胞を、PE結合抗TCRVβ14 mAb(すなわち、gp100/A2特異的TCRを認識する)、又はPE標識化gp100/HLA-A2四量体(Proimmune, Oxfored, UK)を用いたフローサイトメトリーによってTCR発現について解析した。
【0110】
本研究において使用したペプチドは、HLA-A2結合性gp100209-217アナログIMDQVPFSV、及びgp100280-288YLEPGPVTAであった。
TCR遺伝子のクローニング
レトロウイルスのpBulletベクター中への、gp100特異的296 TCR遺伝子のクローニングは、以前に記載された[24]。TCR296α鎖のコード配列を、レトロウイルスのpBulletベクター(Dr. R. Debets, ErasmusMC, Rotterdamより快く提供された)から、pGEM4Z-5’UTR-sig-MAGE-A3-DC.LAMP-3’UTRベクター[4](Dr. K. Thielemans, VUB, Brusselsより快く提供された)中へ、両ベクターをNcoIとXhoIで消化することによって、再クローニングした。pGEM4Z-5’UTR-sig-MAGE-A3-DC.LAMP-3’UTRベクターには、Xenopus laevisのβ-グロビン遺伝子の5’及び3’非翻訳領域及びポリAテールが含まれる。ポリAテールの3’末端には、一つしか存在しないNotI及びSpeIサイトがあり、これによってin vitro転写の前にプラスミドを直鎖状にすることができる。バクテリオファージT7プロモーターが、in vitroでのmRNA作製を可能にする。TCRβ296鎖のコーディング配列は、以下のプライマーを用いたPCRによって最初に増幅された。
【0111】
-TCRB296BamHI
5’-CTC TGG ATC CBamHIAT GGG CCC CCA GCT CCT TGG CTA TG-3’
-HCB
5’CTC TCT CGA GXhoIGG ATC GCT AGC CTC TGG AAT CCT TTC TC-3’
PCR産物は、BamHI及びXhoIで消化され、BglII及びXhoIで消化されたpGEM4Z-5’UTR-sig-MAGE-A3-DC.LAMP-3’UTRベクター中へクローニングされた。
【0112】
TCR RNAのin vitro転写
gp100遺伝子をpGEM4Z-64Aベクター中へクローニングすることによって、pGEM4Z-gp100-64Aベクターを作製し[1]、部位特異的変異生成によってSphIサイト(代替開始コドン)を消去した。in vitro転写のために、pGEM4Z改良GFPベクター、pGEM4Z-TCRα296、pGEM4Z-TCRβ296、及びpGEM4Z-gp100をSpeI酵素で直鎖状にし、フェノール/クロロホルム抽出及びエタノール沈殿により精製し、そしてDNA鋳型として使用した[14]。製造者の手引きに従い、T7 RNAポリメラーゼ(mMESSAGE mMACHINE T7 Ultra kit; Ambion)でin vitro転写を行った。製造者の手引きに従って、RNeasyカラム(Qiagen)上でDNaseI(Ambion)消化をした後に、in vitro 転写(IVT)RNAを回収した。アガロースゲル電気泳動によってRNAの質を確認し、分光光度計によってRNA濃度を測定し、そしてRNAを小分けして-80℃で保存した。
【0113】
Tリンパ球のRNAエレクトロポレーション
CD8+ T細胞を培養皿から採取し、純粋なRPMI 1640で一度、及びフェノールレッド不含OptiMEM(Invitrogen Life Technologies)で一度洗浄した(全て室温)。細胞を8×107/mlの濃度でOptiMEMに再懸濁した。IVT RNAを4 mmキュベット(Peqlab)に移した(終濃度150μg/ml)。体積100〜600μlの細胞懸濁液を添加し、Genepulser Xcell(Bio-Rad)でパルスする前に3分間インキュベートした。パルス条件は、矩形波パルス、500 V、5 msであった。エレクトロポレーションの後すぐに、前述の濃度のIL-7及び前述の濃度のIL-2を補充したMLPC培地へ、細胞を移した。
【0114】
T細胞の凍結保存
凍結保存は次のように行った:細胞を20〜50×106細胞/mlの濃度で20% HSA(Pharmacia & Upjhon)中に取り、氷上で10分間保存した。等量の凍結保存溶媒、すなわち、55% HSA(20%)、20% DMSO(Sigma-Aldrich)、及び25%グルコース(Glucosteril 40; Fresenius)を、細胞懸濁液に加えた。次いで細胞を、凍結冷凍コンテナ(Nalgene)中で-1℃/minで-80℃まで凍らせた。融解は、細胞の分離が見えるようになるまで、凍結チューブを37℃のウォーターバスに入れておくことで、実行した。次いで、細胞を10 mlのRPMI 1640へ注ぎ入れ、洗浄し、そして20 U IL-7/mlを含む予熱したMLPC培地が入った細胞培養皿に加えた。さらなる実験の前に、細胞を37℃のインキュベーター内に0.5時間静置した。
【0115】
TCRでトランスフェクトされたTリンパ球のフローサイトメトリー
抗TCRVβmAbによる表面染色のために、T細胞を洗浄し、その後、0.1%アジ化ナトリウム(Sigma-Aldrich)及び0.2%HSA(Octapharma)を含む100μlの冷FACS溶液(Dulbecco’s PBS; Bio Whittaker)へ1×105個の細胞を懸濁し、そしてmAbと供に30分間インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、100μlの冷FACS溶液に再懸濁した。染色された細胞を、FACStar細胞解析装置(BD Biosciences)で、二色免疫蛍光(two-color immunofluorescence)について解析した。前方光及び側方光散乱にゲートを使用することで、解析から細胞残渣を除去した。最低限の104個の細胞を、各サンプルについて解析した。結果を、CellQuestソフトウェア(BD Biosciences)を用いて解析した。
【0116】
四量体染色のために、5%のプールされた血清、10 mM HEPES、1 mMピルビン酸ナトリウム、1% MEM非必須アミノ酸(100×)、2 mM L-グルタミン、及び20 mg/Lゲンタマイシンを補充した、90μlのRPMI 1640に、全部で106個のT細胞を再懸濁した。500 ngの四量体を添加した。T細胞の表現型を、抗CCR7 FITC及び抗CD45RA ECD(phycoerythrin-Texas Red)を用いたフローサイトメトリーによって解析した。細胞を5% CO2、37℃で20分間インキュベートし、次いで4℃まで冷やした。細胞を洗浄し、Beckman CoulterのCYTOMICS FC500で解析した。
【0117】
TCRでトランスフェクトされたTリンパ球によるIFN-γ産生の誘導及び測定
TCR RNAを用いてエレクトロポレーションしたT細胞を、無関係のペプチド(gp100/A2209-217アナログIMDQVPFSV)又はTCRによって認識されるペプチド(gp100/A2280-288YLEPGPVTA)(ともに10μM)をロードし、放射線を照射した(0.005 J/cm2)T2細胞と供に、37℃で1時間共培養した。15000個のT細胞を15000個のT2細胞と供に、10%のプールされた血清(健康なドナー由来で、加熱不活性化してフィルター滅菌したもの)、10 mM HEPES(Sigma-Aldrich)、1 mMピルビン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)、1% MEM非必須アミノ酸100×(Sigma-Aldrich)、2 mM L-グルタミン(Cambrex)、20 mg/Lゲンタマイシン(Sigma-Aldrich)、及び20 IU/ml IL-2を補充した100μlのRPMI 1640(Cambrex)中で共培養した。16時間後に上清を採取し、製造者のプロトコルに従い、市販のELISAキット(DPC Biermann)を用いてIFN-γ産生を測定した。
【0118】
細胞傷害性アッセイ
細胞傷害性は、標準的な4〜6時間の51Cr放出アッセイで試験した。要するに、T2標的細胞を、100μCiのNa251CrO4/106細胞によって、37℃/5% CO2で1時間標識化し、洗浄し、37℃/5% CO2で1時間ペプチドをロードし、そして再び洗浄した後にエフェクターT細胞と共培養した。ペプチドを、10μM又は表示の濃度でロードした。別の標的細胞として、gp100 RNAでトランスフェクトされたHLA-A2+DC、又はメラノーマ細胞株SK-MEL562、Colo829及びNEMAを使用した。標的細胞を、1000細胞/ウェルで、96ウェルプレートに加えた。エフェクター細胞、すなわちTCRでトランスフェクトされたT細胞を、E:T比が60:1、20:1、7:1、及び3:1の比率で加えた。%細胞溶解、すなわち51Cr放出は、次のように算出した:[(測定放出値-バックグラウンド放出値)]/[(最大放出値-バックグラウンド放出値)]×100%。
【0119】
結果
T細胞はRNAによって効率的にトランスフェクトされた
最適化した再現可能なCD8+T細胞のトランスフェクションは、EGFP RNAをモデルとして用い、エレクトロポレーションのプロトコルの段階的展開によって達成された。いくつかのドナーのCD8+T細胞を、この最適化したプロトコルに従って、EGFPをコードするRNA又はHLA-A2提示gp100ペプチドに対して特異的なCTLクローン(296 CTLクローン)に由来するTCRのα鎖及びβ鎖をコードするRNAでトランスフェクトした。EGFP及びTCR鎖の発現レベルを、フローサイトメトリーによって測定した。エレクトロポレーションの4時間後に、エレクトロポレーションされたT細胞の約93%がEGFPを発現し(図1)(MFI=135)、T細胞の非常に高いトランスフェクション効率を示した。
【0120】
エレクトロポレーションの4時間後(p=0.0027)及び24時間後(p=0.0025)に、少ないが、顕著なgp100特異的TCRのTCRβ鎖発現を、抗TCRVβ14 mAbで細胞膜上にて検出した(図1b)。しかし、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞を染色した場合、HLA-A2/gp100280-288四量体の結合は全く観察されなかった(データは示さず)、ただし同条件下のEGFP RNAのトランスフェクション効率は>90%であった(図1a及び1b)。それにもかかわらず、TCR RNAを用いてエレクトロポレーションした非活性化CD8+T細胞は、IFNγ放出及び細胞傷害性アッセイの両方に関して機能性であった。四量体は、T細胞膜に強固に接着するためにいくつかのTCRと同時に結合する必要があるので、検出できない四量体の結合は、我々のTCR RNAを用いてエレクトロポレーションしたT細胞の細胞表面の受容体密度が低いためである可能性がある。TCR分子が遠く離れすぎていると、四量体の一価の結合のみが可能であり、それによって結果的に低い結合性となる[17]。それにもかかわらず、一過性にトランスフェクトされたT細胞におけるTCR発現は、それらが標的を溶解し、IFNγを産生する引き金を引くに十分であった。
【0121】
偽トランスフェクトT細胞は、EGFPの発現を全く示さず、内因性のTCRβ鎖の発現のみを示した(図1a及び1b)。さらに、エレクトロポレーションしなかった、偽エレクトロポレーションした、及びTCR RNAでエレクトロポレーションしたT細胞のT細胞表現型を、CCR7及びCD45RにについてのFACS染色によって測定した。図1cに示されるように、エレクトロポレーションされていないT細胞と比較して、エレクトロポレーションされたT細胞の大部分に対するエレクトロポレーションの影響はなかった。
【0122】
抗原陽性の標的細胞はTCRでトランスフェクトされたT細胞を特異的に刺激しIFNγを産生させる
測定されたTCR発現は少なかったが、エレクトロポレーションの4時間後、24時間後及び48時間後に、gp100280-288ペプチドをロードした標的細胞に応答するサイトカイン産生の能力について、TCR RNAでトランスフェクトされたCD8+ T細胞を試験した。図2に示されるように、gp100/A2特異的TCRをコードするRNAでトランスフェクトされたT細胞のみが、gp100280-288ペプチドをロードしたT2細胞に応答して、IFNγを産生したが、一方EGFP RNAでエレクトロポレーションしたT細胞はIFNγを産生することができなかった。さらに、対照ペプチド(すなわち、gp100209-2171アナログ)をロードしたT2細胞は、RNAでトランスフェクトされたT細胞によるIFNγ産生を誘導することができなかった(図2)。エレクトロポレーションの48時間後においてさえ、gp100/A2特異的TCRをコードするRNAでトランスフェクトされたT細胞による、明らかな特異的IFNγ産生があった(図2)。次に、我々は、IFNγ産生能力を失うことなく、TCRでトランスフェクトされたT細胞を凍結保存することができるかどうかを試験した。図3aは、gp100/A2特異的TCRをコードするRNAによるトランスフェクションの4時間後に凍結されたT細胞が、融解直後にgp100280-288ペプチドをロードしたT2細胞で刺激されたとき、それでもなおIFNγを産生したことを示す。さらに、TCRでトランスフェクトされたT細胞によるIFNγ産生を、RNAでエレクトロポレーションしたDCと供にインキュベーションした後に測定した。gp100 RNAを用いてエレクトロポレーションしたDCのみが、TCRでトランスフェクトされたT細胞を刺激してIFNγを産生させることができたが、偽エレクトロポレーションしたDCではできなかった(図3b)。 ペプチドをロードした標的細胞及びメラノーマ細胞はTCRでトランスフェクトされたT細胞によって特異的に溶解される
エレクトロポレーションの24時間後、48時間後及び72時間後に、gp100280-288ペプチドをロードした標的細胞に対する細胞溶解の能力について、TCR RNAでトランスフェクトされたCD8+ T細胞を試験した。図4a(48時間の時点での代表図)に示されるように、gp100280-288ペプチドをロードしたT2細胞のみが、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞によって溶解された。対照ペプチドをロードしたT2細胞は溶解されず、そしてEGFP RNAでトランスフェクトされたT細胞はどの標的も溶解しなかった(図4a)。RNAでトランスフェクトされたT細胞による細胞溶解の経時変化を測定した(図4b)。細胞傷害性の経時変化において測定されるように、T細胞はエレクトロポレーションの3日後でもなお、測定した標的:エフェクター比率の全てで、非常に溶解性であった。1:20の標的:エフェクター比率でのgp100280-288ペプチドをロードしたT2細胞の特異的溶解は、全ての時点で観察された(図4b)。他の全ての測定された標的:エフェクター比率で、特異的溶解性が見られた(データは示さず)。さらに、最も高い標的:エフェクター比率(すなわち、1:60)で、特異的溶解は、T細胞のエレクトロポレーションの一週間後でもなお観察され(データは示さず)、これはTCR RNAでエレクトロポレーションしたT細胞の特異的溶解の持続性を示す。標的細胞の特異的溶解が数日にわたって安定であるという事実は、癌の免疫療法におけるTCRでトランスフェクトされたCD8+T細胞を使用するために、非常に重要である。IFNγ分泌及び細胞傷害性アッセイについて同様の結果が、PHA/IL-2/IL-7で刺激されたT細胞で得られ、このT細胞を、3日間の刺激の後にCD8について磁気によって選択し、次いでRNAでエレクトロポレーションした。PHA/IL-2/IL-7による刺激は、T細胞の増殖をもたらし、そして癌の免疫療法のためのTCR RNAでエレクトロポレーションしたT細胞を大量に作製するために有用である。
【0123】
さらに、TCR RNAでエレクトロポレーションしたT細胞の細胞傷害性の能力は、凍結保存後も失われず、そしてPHAで刺激され、エレクトロポレーションの前に増殖したT細胞は、ペプチドをロードした標的細胞に応答してIFNγを産生することができ、これらの細胞を溶解することもできた(データは示さず)。凍結保存後のTCR RNAでエレクトロポレーションしたT細胞における細胞傷害性の能力の安定性は、患者への繰り返し投与のために、一工程(および一回の白血球フェレーシス(leukopheresis))で複数用量のTワクチンを作製することを可能にする。
【0124】
重要なことには、TCR RNAでエレクトロポレーションしたT細胞(エレクトロポレーションの4時間後)は、gp100+かつHLA-A2+である腫瘍細胞を特異的に認識し、溶解することもできた(図5、SK-MEL526)。gp100-だがHLA-A2+である腫瘍細胞株(NEMA)又はgp100+だがHLA-A2-である腫瘍細胞株(Colo829)は、TCR RNAでエレクトロポレーションしたT細胞によって認識されなかった(図5)。EGFP RNAでエレクトロポレーションしたT細胞は、いずれの標的細胞も溶解しなかった。
【0125】
TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞の細胞傷害性効率はレトロウイルスによって形質導入されたT細胞の効率と同等であり、そして親CTLクローンの効率に近似する
過去に公表した研究から、我々は、親296 CTLクローンの細胞傷害性効率が、レトロウイルスによるT細胞へのTCRの形質導入後に失われなかったことを知っている[24]。TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞の結合活性を試験するために、我々は、細胞傷害性アッセイ(エレクトロポレーションの24時間後)を行い、T2標的細胞に対するgp100280-288ペプチドの力価を測定した(図6)。三回の独立した実験において、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞の最大溶解の50%に対応するペプチド濃度(すなわち、ED50)は、300〜1000 pMの範囲であった(図6)。これは、レトロウイルスによって形質導入されたT細胞の細胞傷害性効率(ED50=300 pM)と同じ範囲であった。両者とも、50 pMのED50を有する親296 CTLクローンの細胞傷害性効率に近似する[24]。EGFP RNAでトランスフェクトされたT細胞は、gp100280-288ペプチド(10μM)をロードしたT2細胞を溶解せず(図6)、ペプチドをロードしなかったT2細胞はTCR RNAでトランスフェクトされたT細胞によって溶解されなかった(データは示さず)。総合すれば、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞は高い結合活性をもって標的を溶解し、これはレトロウイルスによって形質導入したT細胞と同様である。高い細胞傷害性効率により、TCR RNAでトランスフェクトされたCD8+ T細胞は、増殖された腫瘍特異的CTL(TIL)クローンの養子移入に代わる、実行可能な代替法となる。
【0126】
本明細書中の結果は、HLA-A2/gp100280-288特異的CTLクローンに由来するTCRα鎖及びβ鎖をコードするRNAを用いてエレクトロポレーションしたCD8+T細胞が、溶解性のエフェクター機能を得ることを示す。これらのTCRでトランスフェクトしたT細胞の機能性を、いくつかの系列について試験した:1)ペプチドをロードした標的細胞による刺激に応答する、エレクトロポレーションの4時間後、24時間後及び48時間後の、特異的IFNγ産生(図2)、2) ペプチドをロードした標的細胞による刺激に応答する、凍結保存後の(すなわち、融解の0時間後、24時間後及び48時間後の)、特異的IFNγ産生(図3a)、3)gp100 RNAでエレクトロポレーションした樹状細胞による刺激に応答する、特異的IFNγ産生(図3b)、4)エレクトロポレーションの24時間後、48時間後、72時間後(図4)、及び一週間後(データは示さず)の、ペプチドをロードした標的細胞の特異的細胞溶解性、5)HLA-A2+/gp100+メラノーマ細胞株の特異的細胞溶解性(図5)、及び6)ペプチドをロードした標的細胞を使用する細胞溶解効率(図6)。これは、TCRをコードするRNAでのT細胞のトランスフェクションにより細胞溶解性機能を移入することに関する、最初の記載である。
【0127】
TCRをコードするRNAでのCD4+ T細胞のエレクトロポレーションは、そのTCRの特異性を獲得する
記載の実験の目的は、TCRをコードするRNAを用いてエレクトロポレーションしたCD4+T細胞が、そのTCRの特異性を獲得することを示すことであった。CD4+ T細胞を、二つの異なるTCRのうちの一つをコードするRNAを用いてエレクトロポレーションした。第一のTCRは、精巣癌抗原MAGE3(M3-DP4)に由来するMHCクラスII DP4拘束性ペプチドに対して特異的であり、CD4+ T細胞クローンからクローニングされた。第二のTCRは、メラノーマ抗原gp100(gp100-A2)に由来するMHCクラスI A2拘束性ペプチドに特異的であり、上述のようにCD8+ T細胞クローンからクローニングされた。第一のTCRについては、自己の成熟DCを標的として使用し、第二のTCRについては、T2細胞を使用した。両標的に対応するペプチドをロードした。M3-DP4 TCRでトランスフェクトされたT細胞は、IFN-γ、TNF及びIL-2、いくらかのIL-4、並びにわずかなIL-10を特異的に産生した。gp100 TCRでトランスフェクトされたT細胞は、大量のIFN-γ、TNF及びIL-4、並びにいくらかのIL-4及びIL-10も特異的に産生した。このデータは、初めて、TCRをコードするRNAで精製CD4+T細胞をエレクトロポレーションすることが、TCRの標的を特異的に認識するT細胞を生成することを示す。これによって、T細胞が効果的かつ簡便に治療及び研究を補助するように操作することができるだろう。
【0128】
読み出しとして、BDのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(Cytometric Bead Array)(CBA)を選択し、これよって、一度に6つの異なるサイトカインを測定できる(図7)。我々は、IL-2、IL-4、IL-6、IL-10、TNF及びIFN-ガンマを選択した。二つの異なるTCRを実験に使用した:第一は、精巣癌抗原MAGE3(M3-DP4)に由来するMHCクラスII DP4拘束性ペプチドに対して特異的であり、CD4+ T細胞クローンからクローニングされたTCR。第二のTCRは、メラノーマ抗原gp100(gp100-A2)に由来するMHCクラスI A2拘束性ペプチドに特異的な高い親和性を有し、これはCD8+ T細胞クローンから作製され、われわれがCD8+ 細胞においてすでにうまく使用している。
【0129】
加えて、同じ調製物由来のT細胞の第三群を、EGFPでトランスフェクトして、トランスフェクション効率を測定し、サイトカイン放出についての陰性対照とした。M3-DP4 TCRでエレクトロポレーションしたT細胞の標的として、自己の成熟(混合物)DCを使用し、一方T2細胞をgp100-A2のために使用した。エフェクターと標的を共培養し、20時間後及び44時間後に上清からサンプルを取り、サイトカイン含量を試験した。20時間の時点では検量線を作成しなかったが、それは、これがわれわれにとって初めてうまくいったCD4+の実験であり、われわれはとにかく何かが起こっているかどうかを知りたかっただけだからでる。44時間の時点で、検量線を作成した。しかし、いくつかのサイトカインは非常に効率的に産生されたので、それらは検量線の範囲を外れてしまった。
【0130】
トランスフェクション効率を、GFP-RNAでのエレクトロポレーション及びFACS解析によって、24時間後に試験した(図8)。トランスフェクション効率は86%であり、平均蛍光は127であった。細胞のFSC SSCによって判断すると、ライフゲートにおける生存率も非常に高く95%であった。
【0131】
Mage3 DP4に特異的なTCRを用いてエレクトロポレーションしたCD4+ T細胞を、対応するMage3 DP4ペプチドをロードした自己の成熟DCと共培養した。対照として、同じDCで、ペプチド無しのものを使用した。さらに、EGFPでトランスフェクトされたCD4+ T細胞を陰性対照として使用した。サンプルは20時間後及び44時間後に取られ、CBMによって解析された。20時間の時点では検量線を作成せず、故に提供のデータはサイトカインに結合したビーズのMFIでしかないので、このデータは半定量的である。それにもかかわらず、データは、TCR RNAでエレクトロポレーションしたCD4+細胞がその標的を特異的に認識するが、対照標的を認識せず、そしてまた対照エフェクターは何も認識しないことを、非常に明確に示す(図9)。CD4+細胞は大量のIFNγ、TNF及びIL-2を産生し並びにいくらかのIL-4も産生した(目盛りが対数で表されていることに注意)。注目すべきは、DCが自らいくらかのIL-6を分泌することである。T細胞無しのDCが同様であることから、これはT細胞の非特異的反応ではない(データは示さず)。
【0132】
44時間後にもう一つのサンプルを上清から取り、CBIで再び解析した。今回は検量線を作成し、絶対値の概念を得た。上清は、今回1:2に希釈された。IFNγが検量値の最大を超えていたので、MFIも示す(図10)。データは、特異的反応はまだ観察できることを示すが、しかし数値は20時間後ほどに良くはない。おそらくいくつかの非特異的反応が起こっていて、特異的IL-2放出の喪失を導き、そしていくつかのサイトカインはさらに分解し始めているのだろう。
【0133】
gp100特異的TCRでエレクトロポレーションしたCD4+ T細胞を、HLA A2を発現するが内因性ペプチドを全く又はほとんど提示せず、そして外来性ペプチドを効率的にロードすることができる、T2細胞と共培養した。これらの細胞にgp100-A2細胞をロードした。対照として、ペプチド無しのT2細胞を使用した。さらに、EGFPでトランスフェクトされたCD4+ T細胞を追加の陰性対照として使用した。サンプルは、20時間後及び44時間後に取られ、CBMで解析された。この場合も同様に、20時間の時点のデータは半定量的である。それにもかかわらず、データは、TCR RNAでエレクトロポレーションしたCD4+細胞はその標的を特異的に認識するが、対照標的を認識せず、そしてまた対照エフェクターは何も認識しないことを、非常に明確に示す(図11)。CD4+細胞は、M3-DP4 TCRによるものと比べて、さらに大量のIFNγ、TNF、及びIL-2を産生するが、しかしいくらかのIL-4及びIL-10も産生した(目盛りが対数で表されていることに注意)。
【0134】
44時間後にもう一つのサンプルを上清から取り、再びCBIで解析した。今回は検量線を作成し、絶対値の概念を得た。上清も、同様に1:2に希釈された。IFNγ及びIL-2は、特異的標的に対するgp100-A2 TCRでトランスフェクトされたCD4+細胞についての検量値の最大を超えていたので、MFIも示す(図12)。データは、強く明らかな特異的反応が依然として観察できることを示し、これは20時間の時点と実質的に変わらない。非特異的反応は起こらなかったが、これはおそらくT2細胞が共刺激分子を発現しないためであろう。
【0135】
よって総合して、これらのデータは、精製CD4+ T細胞を高効率にRNAでエレクトロポレーションすることができ、そして、さらに重要なことには、RNAエレクトロポレーションの手法を用いることで、HLAクラスI及びクラスII拘束性TCRをこれらの細胞中において機能的に発現させることができること初めてを示す。このことは、免疫療法並びに研究開発の補助となるT細胞を提供又は操作する新しい可能性を明らかにする。
【0136】
【表1−1】
【0137】
【表1−2】
【0138】
【表1−3】
【0139】
【表1−4】
【0140】
【化1−1】
【0141】
【化1−2】
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1−1】図1は、RNAでトランスフェクトされたCD8+ T細胞のEGFP発現を示す。
【図1−2】図1は、RNAでトランスフェクトされたCD8+ T細胞のEGFP発現を示す。
【図1−3】図1は、RNAでトランスフェクトされたCD8+ T細胞のEGFP発現を示す。
【図2】図2は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、ペプチドをロードした標的細胞による刺激の後にIFNγを特異的に産生することを示す。
【図3】図3は、IFNγ産生能力を失わずに、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞を凍結保存することができることを示す。
【図4】図4は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、ペプチドをロードした標的細胞を特異的に溶解することを示す。
【図5】図5は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、メラノーマ細胞株を特異的に溶解することを示す。
【図6】図6は、TCR RNAでトランスフェクトされたT細胞が、レトロウイルスによって形質導入されたT細胞と同等の細胞溶解能力を有することを示し、これは親CTLクローンの細胞溶解効率に近似する。
【図7】図7は、BDビーズアレイを使用して6つの異なるサイトカインを一度に測定した結果を示す。
【図8】図8は、エレクトロポレーションから24時間後の、RNAでトランスフェクトされたCD4+細胞のFACS解析の結果を示す。
【図9】図9は、GFP-RNA(A)又はMage3-DP4特異的TCRをコードするRNA(B)でCD4+ T細胞をトランスフェクトした結果を示す。
【図10】図10:GFP-RNA又はMage3-DP4特異的TCRをコードするRNAでCD4+ T細胞をトランスフェクトした。
【図11】図11:GFP-RNA(A)又はgp100-A2特異的TCRをコードするRNA(B)でCD4+ T細胞をトランスフェクトした。
【図12】図12:GFP-RNA又はgp100-A2特異的TCRをコードするRNAでCD4+ T細胞をトランスフェクトした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原に対して特異的なT細胞受容体(TCR)をコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたエフェクターT細胞を含む組成物であって、この場合において該T細胞が、MHC分子と複合体化した抗原を提示する細胞に対して特異的なエフェクター機能を示す、前記組成物。
【請求項2】
抗原が、腫瘍抗原、病原体抗原、又は自己抗原である、請求項1の組成物。
【請求項3】
(i)抗原が腫瘍抗原であって、好ましくは該腫瘍が腎細胞癌、メラノーマ、慢性リンパ球性白血病、乳癌、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、又は結腸癌である、及び/又は抗原がMART-1、MAGE-1、MAGE-3 gp75、MDM2、チロシナーゼ、テロメラーゼ、gp100、サバイビン(survivin)、アルファ-1フェトプロテイン、G250、又はNY-ESO-1であるか;
(ii)抗原が病原体抗原であって、好ましくは該病原体がHIV又はHCVである、
請求項2の組成物。
【請求項4】
(i)エフェクター機能が、IL-2分泌、TNFα分泌、TNFβ分泌、インターフェロン-γ(INF-γ)分泌、細胞傷害性、及び制御性エフェクター機能からなる群から選択される、一またはそれ以上の機能であるか;又は
(ii)T細胞がCD8+であり、好ましくはTCRがMHCクラスI拘束性である、又はTCRがMHCクラスII拘束性である、又はエフェクター機能が細胞傷害性であるか;又は
(iii)T細胞がCD4+であり、好ましくはTCRがMHCクラスI拘束性である、又はTCRがMHCクラスII拘束性である、又はエフェクター機能がマクロファージの活性化及び/又はB細胞の活性化である、又はT細胞がFoxP3をコードするRNAで一過性にトランスフェクトされているか;又は
(iv)前記T細胞をエレクトロポレーション後に凍結保存する、
請求項1の組成物。
【請求項5】
CD4+ T細胞が
(i)制御性T細胞(Treg)であり、好ましくはエフェクター機能が制御性エフェクター機能であり、最も好ましくは制御性機能がIL-10分泌及び/又はTGF-β分泌である、又は該TregがCD4+CD25+である、又はT細胞がFoxP3+である、又は前記TCRが自己抗原に対して特異的であるか;又は
(ii)TH1細胞であるか;
(iii)TH2細胞である、
請求項4の組成物。
【請求項6】
免疫療法のための医薬の生産のための、請求項1〜5のいずれか一項の組成物の使用。
【請求項7】
精製CD8+ T細胞又は精製CD4+ T細胞を含む組成物を、抗原に対して特異的なTCR受容体をコードするRNAを用いてエレクトロポレーションすることを含む、T細胞に新規の抗原特異性を付与する方法。
【請求項8】
(i)T細胞を、磁気分離法(magnetic sorting)によって精製するか;又は
(ii)精製T細胞が、組成物中にある全T細胞の少なくとも75%を含み、好ましくは組成物中にある全T細胞の少なくとも90%を含むか;又は
(iii)精製T細胞が、エレクトロポレーションの前に、フィトヘマグルチニン(PHA)又はOKT3によってin vitroで刺激されていないか;又は
(iv)精製T細胞が、エレクトロポレーションの前に、増殖するよう刺激されており、好ましくは精製T細胞がPHA及び/又はOKT3で刺激されるか;又は
(v)T細胞を、制御性T細胞からの分離によって精製するか;又は
(vi)T細胞を、矩形波パルスを使用して100 V/mm〜150 V/mmの電界強度で2〜10 msエレクトロポレーションする、
請求項7の方法。
【請求項9】
休止期T細胞を、抗原に対して特異的なTCRをコードするRNAを用いてエレクトロポレーションすることを含む、T細胞に新規の抗原特異性を付与する方法。
【請求項10】
(i)休止期T細胞が、精製CD8+ T細胞又は精製CD4+ T細胞のいずれかであるか;又は
(ii)該細胞を磁気分離法によって精製するか;又は
(iii)T細胞を、矩形波パルスを使用して100 V/mm〜150 V/mmの電界強度で2〜10 msエレクトロポレーションする、
請求項9の方法。
【請求項11】
エレクトロポレーションの前にPHA又はOKT3によってin vitroで刺激されていないT細胞を、RNAを用いて、矩形波パルスを使用して100 V/mm〜150 V/mmの電界強度で2〜10 msエレクトロポレーションすることを含む、T細胞を一過性にトランスフェクトする方法。
【請求項12】
(i)前記T細胞が、精製CD8+ T細胞であるか;又は
(ii)前記T細胞が、精製CD4+ T細胞であり、好ましくはT細胞が精製制御性T細胞であるか;又は
(iii)RNAがFoxP3をコードする、
請求項11の方法。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか一項の方法で生産されるT細胞。
【請求項14】
免疫療法のための医薬の生産のための、請求項13のT細胞の使用。
【請求項15】
抗原に対して特異的なTCRをコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたT細胞を投与することを含む、被験者に抗原特異的T細胞エフェクター機能を提供する方法であって、この場合において該T細胞が、MHC分子と複合体化した抗原を提示する細胞に対してエフェクター機能を示す、前記方法。
【請求項16】
(i)エフェクター機能が細胞傷害性であるか;又は
(ii)抗原が腫瘍特異的であり、好ましくは投与が腫瘍内注入によるか;又は
(iii)抗原が病原体特異的であるか;又は
(iv)T細胞が、被験者について自己由来のものである、
請求項15の方法。
【請求項17】
CD4+ T細胞を、FoxP3をコードする核酸でトランスフェクトすることを含む、Treg細胞を作製する方法。
【請求項18】
核酸がmRNAである、請求項17の方法。
【請求項19】
FoxP3をコードする外来性RNAを含み、及び/又は請求項17又は18の方法によって生産される、Treg細胞。
【請求項20】
免疫療法のための医薬の生産のための、請求項19のTreg細胞の使用。
【請求項1】
抗原に対して特異的なT細胞受容体(TCR)をコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたエフェクターT細胞を含む組成物であって、この場合において該T細胞が、MHC分子と複合体化した抗原を提示する細胞に対して特異的なエフェクター機能を示す、前記組成物。
【請求項2】
抗原が、腫瘍抗原、病原体抗原、又は自己抗原である、請求項1の組成物。
【請求項3】
(i)抗原が腫瘍抗原であって、好ましくは該腫瘍が腎細胞癌、メラノーマ、慢性リンパ球性白血病、乳癌、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、又は結腸癌である、及び/又は抗原がMART-1、MAGE-1、MAGE-3 gp75、MDM2、チロシナーゼ、テロメラーゼ、gp100、サバイビン(survivin)、アルファ-1フェトプロテイン、G250、又はNY-ESO-1であるか;
(ii)抗原が病原体抗原であって、好ましくは該病原体がHIV又はHCVである、
請求項2の組成物。
【請求項4】
(i)エフェクター機能が、IL-2分泌、TNFα分泌、TNFβ分泌、インターフェロン-γ(INF-γ)分泌、細胞傷害性、及び制御性エフェクター機能からなる群から選択される、一またはそれ以上の機能であるか;又は
(ii)T細胞がCD8+であり、好ましくはTCRがMHCクラスI拘束性である、又はTCRがMHCクラスII拘束性である、又はエフェクター機能が細胞傷害性であるか;又は
(iii)T細胞がCD4+であり、好ましくはTCRがMHCクラスI拘束性である、又はTCRがMHCクラスII拘束性である、又はエフェクター機能がマクロファージの活性化及び/又はB細胞の活性化である、又はT細胞がFoxP3をコードするRNAで一過性にトランスフェクトされているか;又は
(iv)前記T細胞をエレクトロポレーション後に凍結保存する、
請求項1の組成物。
【請求項5】
CD4+ T細胞が
(i)制御性T細胞(Treg)であり、好ましくはエフェクター機能が制御性エフェクター機能であり、最も好ましくは制御性機能がIL-10分泌及び/又はTGF-β分泌である、又は該TregがCD4+CD25+である、又はT細胞がFoxP3+である、又は前記TCRが自己抗原に対して特異的であるか;又は
(ii)TH1細胞であるか;
(iii)TH2細胞である、
請求項4の組成物。
【請求項6】
免疫療法のための医薬の生産のための、請求項1〜5のいずれか一項の組成物の使用。
【請求項7】
精製CD8+ T細胞又は精製CD4+ T細胞を含む組成物を、抗原に対して特異的なTCR受容体をコードするRNAを用いてエレクトロポレーションすることを含む、T細胞に新規の抗原特異性を付与する方法。
【請求項8】
(i)T細胞を、磁気分離法(magnetic sorting)によって精製するか;又は
(ii)精製T細胞が、組成物中にある全T細胞の少なくとも75%を含み、好ましくは組成物中にある全T細胞の少なくとも90%を含むか;又は
(iii)精製T細胞が、エレクトロポレーションの前に、フィトヘマグルチニン(PHA)又はOKT3によってin vitroで刺激されていないか;又は
(iv)精製T細胞が、エレクトロポレーションの前に、増殖するよう刺激されており、好ましくは精製T細胞がPHA及び/又はOKT3で刺激されるか;又は
(v)T細胞を、制御性T細胞からの分離によって精製するか;又は
(vi)T細胞を、矩形波パルスを使用して100 V/mm〜150 V/mmの電界強度で2〜10 msエレクトロポレーションする、
請求項7の方法。
【請求項9】
休止期T細胞を、抗原に対して特異的なTCRをコードするRNAを用いてエレクトロポレーションすることを含む、T細胞に新規の抗原特異性を付与する方法。
【請求項10】
(i)休止期T細胞が、精製CD8+ T細胞又は精製CD4+ T細胞のいずれかであるか;又は
(ii)該細胞を磁気分離法によって精製するか;又は
(iii)T細胞を、矩形波パルスを使用して100 V/mm〜150 V/mmの電界強度で2〜10 msエレクトロポレーションする、
請求項9の方法。
【請求項11】
エレクトロポレーションの前にPHA又はOKT3によってin vitroで刺激されていないT細胞を、RNAを用いて、矩形波パルスを使用して100 V/mm〜150 V/mmの電界強度で2〜10 msエレクトロポレーションすることを含む、T細胞を一過性にトランスフェクトする方法。
【請求項12】
(i)前記T細胞が、精製CD8+ T細胞であるか;又は
(ii)前記T細胞が、精製CD4+ T細胞であり、好ましくはT細胞が精製制御性T細胞であるか;又は
(iii)RNAがFoxP3をコードする、
請求項11の方法。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか一項の方法で生産されるT細胞。
【請求項14】
免疫療法のための医薬の生産のための、請求項13のT細胞の使用。
【請求項15】
抗原に対して特異的なTCRをコードするRNAで一過性にトランスフェクトされたT細胞を投与することを含む、被験者に抗原特異的T細胞エフェクター機能を提供する方法であって、この場合において該T細胞が、MHC分子と複合体化した抗原を提示する細胞に対してエフェクター機能を示す、前記方法。
【請求項16】
(i)エフェクター機能が細胞傷害性であるか;又は
(ii)抗原が腫瘍特異的であり、好ましくは投与が腫瘍内注入によるか;又は
(iii)抗原が病原体特異的であるか;又は
(iv)T細胞が、被験者について自己由来のものである、
請求項15の方法。
【請求項17】
CD4+ T細胞を、FoxP3をコードする核酸でトランスフェクトすることを含む、Treg細胞を作製する方法。
【請求項18】
核酸がmRNAである、請求項17の方法。
【請求項19】
FoxP3をコードする外来性RNAを含み、及び/又は請求項17又は18の方法によって生産される、Treg細胞。
【請求項20】
免疫療法のための医薬の生産のための、請求項19のTreg細胞の使用。
【図1−1】
【図1−2】
【図1−3】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1−2】
【図1−3】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2009−518021(P2009−518021A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543852(P2008−543852)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【国際出願番号】PCT/EP2006/069549
【国際公開番号】WO2007/065957
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(506175781)アルゴス・セラピューティクス・インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【国際出願番号】PCT/EP2006/069549
【国際公開番号】WO2007/065957
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(506175781)アルゴス・セラピューティクス・インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】
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