説明

抗原特異的T細胞の新規な誘導方法

【課題】抗原特異的T細胞の新規な誘導方法の提供。
【解決手段】(a)活性成分として抗原タンパク質または抗原ペプチドを含む組成物、および(b)活性成分として非特異的免疫賦活物質を含む組成物、をそれを必要としている患者に投与する、該患者における抗原特異的T細胞を誘導するための方法。該組成物(b)をあらかじめ投与した後に、組成物(a)の活性成分として癌抗原タンパク質または癌抗原ペプチドを皮内の同一部位に投与する該方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原特異的T細胞の新規な誘導方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、非特異的免疫賦活物質を含む組成物をあらかじめ投与した後に、抗原タンパク質または抗原ペプチドを含む組成物を投与することを特徴とする、抗原特異的T細胞の誘導方法に関する。本発明はまた、癌抗原タンパク質WT1または当該WT1由来の癌抗原ペプチドと、菌体由来成分やIFN−αとを併用することを特徴とする、癌の治療剤および/または予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体による癌細胞やウイルス感染細胞の排除には細胞性免疫、とりわけ抗原特異的T細胞である細胞傷害性T細胞(キラーT細胞またはCTLと呼ぶ場合もある)やヘルパーT細胞が中心的な働きをしている。抗原特異的T細胞は、樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞の細胞表面のMHC分子(ヒトの場合はHLA分子とも呼ばれる)と、癌やウイルスに由来する抗原タンパク質の断片ペプチドである抗原ペプチドとの結合複合体をT細胞受容体で認識して分化・増殖する。前記MHC分子に提示される抗原ペプチドは、通常8から20アミノ酸程度の長さであることが知られている。分化・増殖した抗原特異的T細胞は、前記の抗原ペプチド−MHC分子結合複合体を提示している癌細胞やウイルス感染細胞を特異的に傷害したり、各種サイトカインを産生することにより、抗腫瘍効果や抗ウイルス効果を発揮する。
【0003】
癌やウイルスの抗原タンパク質や抗原ペプチドを投与することにより抗原特異的T細胞を増強させる、いわゆるワクチン療法は、癌やウイルス感染症の治療や予防に有用と考えられている。これまでに種々の癌やウイルス感染症について、T細胞に認識される癌抗原やウイルス抗原の探索が行われ、現在までに数多くの癌抗原タンパク質、ウイルス由来抗原タンパク質、並びにこれらに由来する抗原ペプチドが同定されている(Immunogenetics 1995, 41:178、Cancer Immunol. Immunother. 2001, 50:3)。例えばその1つであるWT1は、最初は小児の腎腫瘍であるWilms腫瘍の原因遺伝子として同定された遺伝子である (Nature 1990, 343:774)。当該WT1遺伝子は、正常組織では腎臓、精巣、卵巣などの限定された組織でのみ低発現している一方、癌では白血病、肺癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、膀胱癌、子宮癌、子宮頸癌、胃癌、大腸癌、胚細胞癌、肝癌、皮膚癌などの多様な癌において高発現が認められる(特開平9-104627号公報、特開平11-35484号公報)。近年、HLA-A2.1あるいはHLA-A24.2を持つヒトの末梢血単核球をMHCクラスI結合モチーフを含む9merのWT1ペプチドでin vitro刺激することにより、WT1特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)が誘導されることが明らかとなった(Immunogenetics 51:99-107,2000, Blood 95:2198-203,2000, Blood 95:286-93,2000)。またin vivoでマウスを9merのWT1ペプチド(J Immunol 164:1873-80,2000, Blood 96:1480-9,2000)やWT1 cDNA(J Clin Immunol 20:195-202,2000)で免疫することにより、WT1特異的CTLが誘導され、さらに、その免疫マウスは移植されたWT1高発現腫瘍細胞を拒絶することも明らかにされた(J Immunol 164:1873-80,2000, J Clin Immunol 20:195-202,2000)。これらの知見により、WT1タンパクは癌抗原タンパク質の1つであり、液性癌や固形癌に対する癌ワクチンの指標となることが明らかとなった。
【0004】
ワクチンにより効率良く特異免疫を誘導するためには、主体となる抗原タンパク質や抗原ペプチドと組み合わせて非特異的な免疫賦活物質を投与することが有効である。非特異的免疫賦活物質としては、菌体由来成分、サイトカインまたは植物由来成分などが知られている。また効率良く特異免疫を誘導するためには、ワクチンの剤形も重要なファクターである。ワクチンの剤形としては、アルミニウム製剤、脂質粒子、エマルジョン製剤、マイクロスフェアーなどが知られている。これらのワクチン効果を増強する作用をもつ物質や剤形は、総じてアジュバントと呼ばれている。(Nature Biotech. 1999. 17:1075)。現在、ヒトへの適応が認められたアジュバントとして最も広く用いられているのはアルミニウム製剤であるが、抗原特異的T細胞の誘導能は弱く、またIgE産生などの副作用の問題が指摘されている。
【0005】
最近は、抗原提示細胞である樹状細胞の抗原特異的T細胞誘導能の高さに着目し、患者から得られた樹状細胞にin vitroで抗原タンパク質や抗原ペプチドをパルスして抗原提示させた後に患者に戻すという細胞ワクチンの研究も行われている(Nature Med. 1998, 4:328)。しかしながら、治療に必要な大量の樹状細胞を得るのは技術的に難しいことや、コストが高くなるなど、細胞ワクチン療法を一般に普及させるには解決しなければならない問題点が多い。
【0006】
以上のような状況から、簡便で効率良く抗原特異的T細胞を誘導することのできる新たなワクチンおよびその投与法の開発が求められている状況にあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、効率良く抗原特異的T細胞を誘導することができる新規な誘導方法を提供することにある。すなわち、非特異的免疫賦活物質を含む組成物をあらかじめ投与した後に、抗原タンパク質または抗原ペプチドを含む組成物を投与することを特徴とする、抗原特異的T細胞の誘導方法を提供することにある。さらに本発明の目的は、癌抗原タンパク質WT1または当該WT1由来の癌抗原ペプチドと、菌体由来成分やIFN−αとを併用することを特徴とする、癌の治療剤および/または予防剤を提供することにある。
【0008】
ワクチンによる免疫応答においては、抗原を適切な態様にてタイミングよく投与することが重要である。しかしながら前述のように、抗原特異的T細胞を効率良く誘導して抗腫瘍効果や抗ウイルス効果をもたらすワクチン投与法は、未だ見出されていない状況にあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは、癌抗原タンパク質WT1由来の癌抗原ペプチドを例として用い、in vivo癌モデルにおける治療効果等につき鋭意検討を行った。その結果、免疫賦活物質をあらかじめ投与し、一定時間の後に抗原ペプチドを投与するという投与方法をとることにより、in vivoで効率良く抗原特異的T細胞が誘導されること、例えば抗腫瘍効果の得られることを初めて見出した。さらに前記免疫賦活物質として、由来・性状の異なる5種類の物質のいずれを用いた場合においても、これら免疫賦活物質を抗原投与の前にあらかじめ投与することにより、普遍的に顕著な抗腫瘍効果が示されることも見出した。
【0010】
また癌抗原タンパク質WT1に関して、本発明において初めて、動物への腫瘍細胞移植の後にWT1由来の癌抗原ペプチドを投与するという、言わば「治療の系」を反映する癌モデルを用いてその効果を検討した。その結果、当該WT1が治療上有効であることを初めて確認するに到った。さらに、当該WT1由来の癌抗原ペプチドは、アジュバントとして菌体由来成分若しくはIFN−αと併用することにより、顕著な抗腫瘍効果をもたらすことも見出した。
【0011】
本発明は、以上のような知見に基づいて完成するに至ったものである。
即ち本発明は、
(1−1) (a)活性成分として抗原タンパク質または抗原ペプチドを含む組成物、および
(b)活性成分として非特異的免疫賦活物質を含む組成物、
をそれを必要としている患者に投与する、該患者における抗原特異的T細胞を誘導するための方法であって、該組成物(b)をあらかじめ投与した後、例えば投与後約24時間後に該組成物(a)を投与すること、例えば組成物(a)および(b)をいずれも皮内の同一部位に投与することを特徴とする方法(組成物(a)および(b)による投与サイクルは複数回繰り返すことができる); 好ましくは組成物(a)の活性成分として癌抗原タンパク質または癌抗原ペプチドを含む方法; より好ましくは癌抗原タンパク質または癌抗原ペプチドが、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドである方法; さらに好ましくはWT1由来の癌抗原ペプチドが、Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、および Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)より選択される方法;
組成物(b)の活性成分である非特異的免疫賦活物質が、(i)菌体由来成分またはその誘導体、(ii)サイトカイン、(iii)植物由来成分またはその誘導体、および(iv)海洋生物由来成分またはその誘導体より選択される; 好ましくは菌体由来成分が、ヒト型結核菌由来多糖類成分(例えばアンサー)、溶連菌粉末(例えばピシバニール)、担子菌由来多糖類(例えばレンチナン、クレスチン)、死菌浮遊物カクテル(例えばブロンカスマ・ベルナ)、ムラミルジペプチド(MDP)関連化合物、リポ多糖(LPS)、リピドA関連化合物(例えばMPL)、糖脂質トレハロースジマイコレート(TDM)、および前記菌体由来のDNA(例えばCpGオリゴヌクレオチド)より選択される方法; 好ましくはサイトカインが、IFN−α、IL−12、GM−CSF、IL−2、IFN−γ、IL−18およびIL−15より選択される方法;好ましくは、海洋生物由来成分がα−ガラクトシルセラミドである方法;
具体的には、前記いずれかの誘導方法を含む、患者における癌の治療方法および/または予防方法;
【0012】
他の態様として、
(1−2) 抗原タンパク質または抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための医薬組成物であって、活性成分として非特異的免疫賦活物質を含有する、該抗原タンパク質または抗原ペプチドの投与前に投与される該組成物; または非特異的免疫賦活物質における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための医薬組成物であって、活性成分として抗原タンパク質または抗原ペプチドを含有する、該非特異的免疫賦活物質の投与後に投与される該組成物;
好ましくは、抗原タンパク質または抗原ペプチドが癌抗原タンパク質または癌抗原ペプチドである医薬組成物; より好ましくは癌抗原タンパク質または癌抗原ペプチドが、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドである医薬組成物; さらに好ましくはWT1由来の癌抗原ペプチドが、Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、および Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)より選択される医薬組成物;
好ましくは、非特異的免疫賦活物質が、(i)菌体由来成分またはその誘導体、(ii)サイトカイン、(iii)植物由来成分またはその誘導体、および(iv)海洋生物由来成分またはその誘導体より選択される医薬組成物; 具体的には、菌体由来成分が、ヒト型結核菌由来多糖類成分(例えばアンサー)、溶連菌粉末(例えばピシバニール)、担子菌由来多糖類(例えばレンチナン、クレスチン)、死菌浮遊物カクテル(例えばブロンカスマ・ベルナ)、ムラミルジペプチド(MDP)関連化合物、リポ多糖(LPS)、リピドA関連化合物(例えばMPL)、糖脂質トレハロースジマイコレート(TDM)、および前記菌体由来のDNA(例えばCpGオリゴヌクレオチド)より選択される医薬組成物; 具体的にはサイトカインが、IFN−α、IL−12、GM−CSF、IL−2、IFN−γ、IL−18およびIL−15より選択される医薬組成物;具体的には、海洋生物由来成分がα−ガラクトシルセラミドである医薬組成物;
具体的には、癌を治療および/または予防するための上記医薬組成物;および
【0013】
他の態様として、
(1−3) 抗原タンパク質または抗原ペプチドの投与前に投与される、該抗原タンパク質または抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強する医薬を調製するための、非特異的免疫賦活物質の使用;または非特異的免疫賦活物質の投与後に投与される、該非特異的免疫賦活物質における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強する医薬を調製するための、抗原タンパク質または抗原ペプチドの使用、および上記(1−2)にて説明している好ましい態様および具体的な態様に相当する態様;ならびに
【0014】
さらに別の態様として、
(2−1)配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための医薬組成物であって、活性成分として菌体由来成分またはその誘導体を含有する該組成物; または菌体由来成分またはその誘導体における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための医薬組成物であって、活性成分として配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを含有する該組成物; 好ましくは菌体由来成分がヒト型結核菌由来多糖類成分(例えばアンサー)、溶連菌粉末(例えばピシバニール)、担子菌由来多糖類(例えばクレスチン)または死菌浮遊物カクテル(例えばブロンカスマ・ベルナ)である医薬組成物; および
配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための医薬組成物であって、活性成分としてIFN−αを含有する該組成物; またはIFN−αにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための医薬組成物であって、活性成分として配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを含有する該組成物;
好ましくはWT1由来の癌抗原ペプチドが、Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、および Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)より選択される医薬組成物; 具体的には癌を治療および/または予防するための前記医薬組成物;
【0015】
他の態様として
(2−2)患者において配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するため方法であって、抗原特異的T細胞誘導活性を増強するに有効な量の菌体由来成分またはその誘導体を該患者に投与することを特徴とする方法;
患者において菌体由来成分またはその誘導体における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための方法であって、免疫賦活作用に基づく抗癌活性を増強するに有効な量の配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを該患者に投与することを特徴とする方法;
患者において配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための方法であって、抗原特異的T細胞誘導活性を増強するに有効な量のIFN−αを該患者に投与することを特徴とする方法;
患者においてIFN−αにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための方法であって、免疫賦活作用に基づく抗癌活性を増強するに有効な量の配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを該患者に投与することを特徴とする方法;および
癌患者に投与し、癌を治療および/または予防するための前記方法;および上記(2−1)にて説明している好ましい態様および具体的な態様に相当する態様;および
【0016】
他の態様として
(2−3)配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強する医薬を調製するための、菌体由来成分またはその誘導体の使用;
菌体由来成分またはその誘導体における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強する医薬を調製するための、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドの使用;
配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強する医薬を調製するための、IFN−αの使用;および
IFN−αにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強する医薬を調製するための、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドの使用;および上記(2−1)にて説明している好ましい態様および具体的な態様に相当する態様;
に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、腫瘍細胞の移植、およびWT1ペプチドと各免疫賦活物質による免疫(vaccination)のスケジュールを示す。
【図2】図2は、腫瘍細胞移植後35日目までのWT1ペプチドおよびアンサー投与における腫瘍長径(mm)を示したグラフである。図中、●はWT1ぺプチド+アンサー投与の結果を、◆はアンサー投与の結果を、そして■は非免疫の結果を、それぞれ示す。
【図3】図3は、腫瘍細胞移植後32日目までのWT1ペプチドおよびブロンカスマ・ベルナ投与における腫瘍長径(mm)を示したグラフである。図中、●はWT1ぺプチド+ブロンカスマ・ベルナ投与の結果を、◆はブロンカスマ・ベルナ投与の結果を、そして■は非免疫の結果を、それぞれ示す。
【図4】図4は、WT1ペプチドおよびピシバニール投与による抗原ぺプチド特異的CTL誘導効果を示したグラフである。
【図5】図5は、WT1ペプチドおよびIFN-α投与による抗原ぺプチド特異的CTL誘導効果を示したグラフである。
【図6】図6は、腫瘍細胞移植後18日目の腫瘍径(mm)の平均値を示したグラフである。1群は非免疫群、2群はWT1ペプチドのみを投与した群、3群はクレスチンのみを投与した群、4群はクレスチンとWT1ペプチドを投与した群を示す。図のカラムに付随したバーは各群の標準偏差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記のように、本発明は第1の態様として、(a)活性成分として抗原タンパク質または抗原ペプチドの治療学的有効量を含む組成物、および(b)活性成分として非特異的免疫賦活物質の治療学的有効量を含む組成物を、それを必要としている患者に投与する、該患者における抗原特異的T細胞を誘導するための方法であって、該組成物(b)をあらかじめ投与した後に該組成物(a)を投与することを特徴とする該方法を提供する。この方法は、アジュバントである非特異的免疫賦活物質をあらかじめ投与し、一定時間の後に抗原(抗原タンパク質または該抗原タンパク質に由来する抗原ペプチド)を投与するという投与方法をとるところに特徴を有している。本発明の投与方法によれば、抗原単独または非特異的免疫賦活物質単独の場合と比して良好な抗原特異的T細胞の誘導効果、そして結果として抗腫瘍効果や抗ウイルス効果をもたらすことが可能である。
【0019】
前記組成物(a)の活性成分として含まれる「抗原タンパク質または抗原ペプチド」とは、抗原タンパク質および当該抗原タンパク質に由来する抗原ペプチドを意味するものであり、抗原ペプチド特異的なT細胞を誘導できるものであれば特に限定されない。また前記「抗原タンパク質または抗原ペプチド」の範疇には、抗原提示細胞の細胞表面のMHC分子(HLA分子)との複合体を直接形成することにより抗原特異的T細胞を誘導可能なものと、間接的に、すなわち細胞内に取り込まれ、その後細胞内分解されて生じたペプチド断片がMHC分子と結合して複合体を形成し、該結合複合体が細胞表面に提示されることにより抗原特異的T細胞を誘導可能なものとの両方が含まれる。
【0020】
抗原タンパク質には、ウイルス由来の抗原タンパク質、細菌由来の抗原タンパク質または癌抗原タンパク質(腫瘍抗原タンパク質とも呼ばれる)等が含まれる。以下、既に抗原タンパク質として公知である幾つかの抗原タンパク質につき列挙する。ウイルス由来の抗原タンパク質としては、HIV、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、HPV、HTLV、EBV等のウイルス由来の抗原タンパク質が挙げられる。細菌由来の抗原タンパク質としては、結核菌等の細菌由来の抗原タンパク質が挙げられる。癌抗原タンパク質としては、Immunity, vol.10: 281, 1999 のTable1、あるいは Cancer Immunol. Immunother., vol.50,3-15,2001のTable1〜Table6に記載のものが代表例として挙げられる。具体的には、例えば、メラノーマ抗原タンパク質として、MAGE(Science, 254:1643,1991)、gp100(J.Exp.Med., 179:1005,1994)、MART−1(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:3515 ,1994)、チロシナーゼ(J.Exp.Med.,178:489 ,1993);メラノーマ以外の癌抗原タンパク質として、HER2/neu(J.Exp.Med.,181:2109,1995)、CEA(J. Natl. Cancer. Inst., 87:982, 1995)、PSA(J.Natl.Cancer.Inst. ,89:293,1997)等の腫瘍マーカー、または扁平上皮癌由来のSART−1(J.Exp.Med.,vol.187,p277-288, 1998 、国際公開第97/46676号パンフレット)、サイクロフィリンB(Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A. 88: 1903, 1991)、SART−3(Cancer Res., vol.59, 4056 (1999)、あるいはWT1(Immunogenetics,vol.51,99,2000, Blood 95: 2198-203, 2000, Blood 95:286-93,2000、また本願配列表の配列番号:1に記載されたヒト型WT1)等が挙げられる。以上の抗原タンパク質は、全長のみならず、その部分ポリペプチドや改変体であっても、抗原ペプチド特異的なT細胞を誘導可能なものであればよい。
【0021】
このような抗原タンパク質は、前記に記載の各文献や Molecular Cloning 2nd Edt., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)等の基本書に従って、所望の抗原タンパク質をコードするcDNAのクローニング工程、当該cDNAの発現ベクターへの連結工程、当該組換え発現ベクターの宿主細胞への導入工程、および抗原タンパク質の発現工程を経ることにより得ることができる。具体的には、例えば所望の抗原タンパク質をコードするcDNAをハイブリダイゼーション法やPCR法によりクローニングする。次にクローニングされたcDNAを適当な発現ベクター(例えばpSV−SPORT1など)に組み込みこんで作製された組換え発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換体を得、この形質転換体を適当な培地で培養することにより、所望の抗原タンパク質を発現・生産することができる。ここで宿主細胞としては、大腸菌などの原核生物、酵母のような単細胞真核生物、昆虫、動物などの多細胞真核生物の細胞などが挙げられる。また、宿主細胞への遺伝子導入法としては、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法、電気パルス法などがある。以上のようにして得られたポリペプチドは、一般的な生化学的方法によって単離精製することができる。
【0022】
前記抗原タンパク質がin vitroで抗原特異的T細胞誘導活性を有することは、例えば癌抗原タンパク質の場合、以下のような試験により調べることができる。すなわちまず、アフリカミドリザル腎臓由来のCOS-7(ATCC CRL1651)や繊維芽細胞VA-13(理化学研究所細胞開発銀行)といった癌抗原タンパク質を発現していない細胞に対し、所望の癌抗原タンパク質をコードするcDNAを有する組換え発現ベクターと、HLA抗原をコードするDNAを有する組換え発現ベクターとをダブルトランスフェクトする。該トランスフェクトは、例えばリポフェクトアミン試薬(GIBCO BRL社製)を用いたリポフェクチン法などにより行うことができる。その後、用いたHLA抗原に拘束性の腫瘍反応性のCTLを加えて作用させ、該CTLが反応して産生する種々のサイトカイン(例えばIFN-γ)の量を、例えばELISA法などで測定することによって、所望の癌抗原タンパク質の抗原特異的T細胞誘導活性を調べることができる。
【0023】
抗原タンパク質に由来する抗原ペプチド(以下、単に抗原ペプチドと略す)には、前記抗原タンパク質の一部であって8〜20アミノ酸残基程度からなるペプチド、もしくはその機能的に同等の特性を有する改変ペプチド、または該ペプチドもしくはその改変ぺプチドを2以上連結したポリトープ等が含まれる。ここで「8〜20」との定義は、MHC分子に提示される抗原ペプチドは、通常8〜20アミノ酸程度の長さであるという当業者の常識に基くものである。また「機能的に同等の特性を有する改変ぺプチド」とは、抗原ペプチドのアミノ酸配列の1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失および/または付加(ペプチドのN末端、C末端へのアミノ酸の付加も含む)した改変体であって、かつ抗原ペプチド特異的なT細胞を誘導可能なものをいう。
【0024】
癌抗原ペプチドやウイルス由来抗原ペプチドのうち、HLA-A1, -A0201, -A0204, -A0205, -A0206, -A0207, -A11, -A24, -A31, -A6801, -B7, -B8, -B2705, -B37, -Cw0401, -Cw0602などのHLAの型については、該HLAに結合して提示される抗原ペプチドの配列の規則性(モチーフ)が判明している(例えばImmunogenetics,41:p178,1995などを参照のこと)。例えばHLA-A24のモチーフとしては、8〜11アミノ酸よりなるペプチドのうちの第2位のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンであり、C末端のアミノ酸がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンとなることが知られている(J.Immunol.,152,p3913,1994、Immunogenetics, 41: p178,1995、J.Immunol., 155:p4307,1994)。またHLA-A2のモチーフについては、以下の表1に示したモチーフが知られている(Immunogenetics, 41, p178,1995、J.Immunol.,155:p4749,1995)。
【0025】
【表1】

【0026】
さらに近年、HLA抗原に結合可能と予想されるペプチド配列を、インターネット上、NIHのBIMASのソフトを使用することにより検索することができる(http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/ )。またBIMAS HLA peptide binding prediction analysis(J.Immunol.,152,163,1994)を用いて検索することも可能である。
【0027】
従って、前述の癌抗原タンパク質やウイルス由来抗原タンパク質のアミノ酸配列から、これらのモチーフに関わる抗原ペプチド部分を選び出すのは容易である。このようにして選択された抗原ペプチドの具体例としては、例えば癌抗原ペプチドの場合、以下のものが挙げられる。すなわちWT1由来の癌抗原ペプチドとしては、国際公開第2000/18795号パンフレットのTableII〜TableXLVIに列挙されたペプチドが挙げられ、特に、本願配列表の配列番号:2および配列番号:3に記載のHLA-A24およびHLA-A2結合モチーフを有するペプチドが挙げられる。またSART−1由来の癌抗原ペプチドとしては、国際公開第97/46676号パンフレット、国際公開第2000/02907号パンフレット、および国際公開第2000/06595号パンフレットの配列表に列挙されたぺプチドが挙げられる。また、サイクロフィリンB由来の癌抗原ペプチドとしては、国際公開第99/67288号パンフレットの配列表に列挙されたぺプチドが挙げられる。また、SART−3由来の癌抗原ペプチドとしては、国際公開第2000/12701号パンフレットの配列表に列挙されたペプチドが挙げられる。以上のペプチドを後述の活性測定に供することにより、抗原特異的T細胞誘導活性を有する抗原ペプチドを選択することができる。
【0028】
さらに、前記抗原ペプチドと機能的に同等の特性を有する改変ペプチドとしては、前記のようにHLA抗原に結合して提示される抗原ペプチド配列の規則性(モチーフ)が判明しているものについては、当該モチーフに基いてアミノ酸を置換した改変ペプチドを例示することができる。すなわちHLA−A24の結合モチーフを例にとり説明すると、当該HLA-A24の結合モチーフは、前述のように、8 〜11アミノ酸よりなるペプチドのうちの第2位のアミノ酸がチロシン、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンであり、C末端がフェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、トリプトファンまたはメチオニンとなることが知られている(J.Immunol.,152,p3913,1994, Immunogenetics, 41: p178, 1995, J. Immunol., 155: p4307, 1994 )。従ってHLA-A24抗原に結合して提示される改変ペプチドとしては、HLA-A24拘束性の天然型ペプチドの第2位および/またはC末端のアミノ酸において、前記に列挙したアミノ酸の範囲内での置換を施した改変ペプチドを例示することができる。当該改変ペプチドの具体例としては、例えば癌抗原の改変ペプチドの場合、以下のものが挙げられる。すなわちWT1由来の改変ペプチドとしては、国際公開第2000/18795号パンフレットのTableII〜TableXLVIに列挙されたペプチドを前記のモチーフに基き改変した改変ペプチドが挙げられ、特に本願配列表の配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。またSART−1、サイクロフィリンB、SART−3等に由来する改変ペプチドについても、前記の文献に挙げられた各抗原ペプチドをモチーフに基き改変した改変ペプチドが挙げられる。このような改変ペプチドも本発明における抗原ペプチドに包含される。
【0029】
以上のような抗原ペプチド(改変ペプチドを含む)は、通常のペプチド化学において用いられる方法に準じて合成することができる。合成方法としては、文献(ペプタイド・シンセシス(Peptide Synthesis ),Interscience,New York,1966;ザ・プロテインズ(The Proteins),Vol 2 ,Academic Press Inc. ,New York,1976;ペプチド合成,丸善(株),1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株),1985;医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成,広川書店,1991)などに記載されている方法が挙げられる。また、前記Molecular Cloningに従って、抗原ペプチドをコードするDNAを発現させた組換えペプチドを常法により精製する方法で調製しても良い。
【0030】
前記抗原ペプチドが in vitroで抗原特異的T細胞誘導活性を有することは、癌抗原ペプチドの場合、例えば J.Immunol.,154,p2257,1995に記載の測定方法により調べることができる。具体的には、HLA抗原陽性のヒトから末梢血リンパ球を単離し、イン・ビトロで所望のペプチドを添加して刺激した場合に、該ペプチドをパルスしたHLA陽性細胞を特異的に認識するCTLが誘導されることにより、そのペプチドが抗原特異的T細胞誘導活性を有することを確認することができる。ここでCTLの誘導の有無は、例えば、抗原ペプチド提示細胞に反応してCTLが産生したIFN-γの量を酵素免疫測定法(ELISA)により測定することによって調べることができる。また、抗原ペプチド提示細胞に反応してCTLが産生したTNF-αの量を、TNF-α感受性細胞株(例えばWEHI164S細胞;ATCC Cat.No.CRL-1751)の生存率で測定することによっても、調べることができる。
【0031】
さらに、51Crで標識した抗原ペプチド提示細胞に対するCTLの傷害性を測定する方法(51Crリリースアッセイ、Int.J.Cancer,58:p317,1994 )によっても調べることができる。またHLAのcDNAを発現する発現プラスミドを、例えばCOS-7細胞(ATCC No. CRL1651)やVA-13細胞(理化学研究所細胞銀行)に導入した細胞に対して所望のペプチドをパルスし、この細胞に対して、前記で調製したCTLなどを反応させ、該CTLが産生する種々のサイトカイン(例えばIFN-γやTNF-α)の量を測定することによっても、調べることができる。
【0032】
ポリトープとは、複数の抗原ペプチドを連結させた組換えペプチドをいい(例えば Journal of Immunology, 160,p1717,1998等を参照のこと)、本発明においては前記抗原ペプチドの1種または2種以上を適宜組み合わせたアミノ酸配列を含有するポリペプチドのことである。ポリトープは、前記抗原ペプチドをコードするDNAを1種または2種以上連結させることにより作製された組換えDNAを、適当な発現ベクターに挿入し、得られた組換えベクターを宿主細胞内で発現させることにより得られる。当該ポリトープが抗原特異的T細胞誘導活性を有することは、前記の抗原タンパク質のアッセイに供することにより、確認することができる。このポリトープも本発明において抗原ペプチドとして使用することができる。
【0033】
以上述べたような抗原タンパク質または抗原ペプチドから少なくとも1種を選択し、前記組成物(a)の活性成分とする。目的に応じて、抗原タンパク質を2種以上、または抗原ペプチドを2種以上有していても良い。当該抗原タンパク質または抗原ペプチドの治療学的有効量は、生体において抗原特異的T細胞を誘導可能であれば特に限定されないが、1回の投与当たり、好ましくは通常0.0001mg〜1000mg、より好ましくは0.001mg〜100mg、さらに好ましくは0.01mg〜10mgである。
【0034】
前記組成物(a)は、所望の薬理効果を奏するような投与剤形にすることが好ましい。この目的に適する投与剤形としては、油中水型(w/o)エマルション製剤、水中油型(o/w)エマルション製剤、水中油中水型(w/o/w)エマルション製剤、リポソーム製剤、マイクロスフェアー製剤、マイクロカプセル製剤、固形注射剤または液剤等が挙げられる。
【0035】
油中水型(w/o)エマルション製剤は、有効成分を水の分散相に分散させた形態をとる。水中油型(o/w)エマルション製剤は、有効成分を水の分散媒に分散させた形態をとる。また水中油中水型(w/o/w)エマルション製剤は、有効成分を最内相の水の分散相に分散させた形態をとる。このようなエマルション製剤の調製は、例えば、特開平8−985号公報、特開平9−122476号公報等を参考にして行うことができる。
【0036】
リポソーム製剤は、有効成分を脂質二重膜構造のリポソームで水相内または膜内に包み込んだ形の微粒子である。リポソームを作るための主要な脂質としては、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン等が挙げられ、これにジセチルホスフェート、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン等を加えてリポソームに荷電を与えて安定化させる。リポソームの調製方法としては、超音波法、エタノール注入法、エーテル注入法、逆相蒸発法、フレンチプレスエクストラクション法等が挙げられる。
【0037】
マイクロスフェアー製剤は、均質な高分子マトリックスから構成され、該マトリックス中に有効成分が分散された形の微粒子である。マトリックスの材料としては、アルブミン、ゼラチン、キチン、キトサン、デンプン、ポリ乳酸、ポリアルキルシアノアクリレート等の生分解性高分子が挙げられる。マイクロスフェアー製剤の調製方法としては公知の方法(Eur. J. Pharm. Biopharm. 50:129-146, 2000、Dev. Biol. Stand. 92:63-78, 1998、Pharm. Biotechnol. 10:1-43, 1997)等に従えばよく特に限定されない。
【0038】
マイクロカプセル製剤は、有効成分を芯物質として被膜物質で覆った形の微粒子である。被膜物質に用いられるコーティング材料としては、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、エチルセルロース、ゼラチン、ゼラチン・アラビアゴム、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース等の膜形成性高分子が挙げられる。マイクロカプセル製剤の調製方法は、コアセルベーション法、界面重合法等が挙げられる。
【0039】
固形注射剤は有効成分をコラーゲンやシリコン等の基材に封入して固形化させた剤形である。固形注射剤の調製方法としては文献(Pharm. Tech. Japan,7 (1991), p402-409)記載の方法等が挙げられる。
【0040】
液剤は、有効成分を医薬上許容されうる溶媒、担体等と混合した剤形である。医薬上許容されうる溶媒としては、水、ブドウ糖液、生理食塩水等が挙げられる。さらに、医薬として許容される補助剤、例えば、pH調節剤または緩衝剤、張度調節剤、浸潤剤等を含有することができる。
【0041】
さらに組成物(a)は、前記の投与剤形に応じて凍結乾燥製剤の形とすることも可能である。また必要に応じて安定化剤(例えば多糖類、アミノ酸、タンパク質、ウレア、塩化ナトリウム等)や賦形剤(例えば糖類、アミノ酸、ウレア、塩化ナトリウム等)、酸化防止剤、防腐剤、等張化剤、あるいは緩衝剤等を添加することも可能である。
【0042】
以上のような組成物(a)は、あらかじめ製剤化したものを使用することもできれば、患者への投与時に用時調製することも可能である。すなわち、当該組成物(a)の活性成分である抗原タンパク質または抗原ペプチド、および投与剤形であるエマルション等は、あらかじめ混合して製剤化したものを使用することもできれば、患者への投与時に用時調製することも可能である。
【0043】
次に前記組成物(b)、すなわち活性成分として非特異的免疫賦活物質を含む組成物につき説明する。
【0044】
組成物(b)の活性成分として含まれる「非特異的免疫賦活物質」とは、抗原タンパク質や抗原ペプチドの有する抗原特異的T細胞の誘導活性を増強する作用を有する物質であれば、特に限定されない。具体的には、(i)菌体由来成分またはその誘導体、(ii)サイトカイン、(iii)植物由来成分またはその誘導体、または(iv)海洋生物由来成分またはその誘導体などが挙げられる。
【0045】
抗原特異的T細胞の誘導活性を増強する作用を有する「菌体由来成分またはその誘導体」とは、例えば(1)細菌の死菌、(2)細菌由来の細胞壁骨格(Cell Wall Skeleton, CWSと略する)、(3)菌体由来の特定の成分またはその誘導体等に分類される。
【0046】
ここで(1)細菌の死菌としては、例えば溶連菌粉末(例えばピシバニール;中外製薬株式会社)、死菌浮遊物カクテル(例えばブロンカスマ・ベルナ;三和化学研究所)、あるいはヒト型結核菌の死菌等が挙げられる。
【0047】
(2)細菌由来のCWSとしては、マイクバクテリア属由来のCWS(例えばマイコバクテリア属ウシ型結核菌であるBCG株のCWS)、ノカルディア属由来のCWS(例えばノカルディア・ノブラのCWS)、あるいはコリネバクテリア属由来のCWS等が挙げられる。
【0048】
(3)菌体由来の特定の成分またはその誘導体としては、例えば菌体由来多糖類であるヒト型結核菌由来多糖類成分(例えばアンサー;ゼリア新薬工業株式会社)や担子菌由来多糖類(例えばレンチナン;味の素、クレスチン;三共株式会社、担子菌カワラタケ)、またムラミルジペプチド(MDP)関連化合物、リポ多糖(LPS)、リピドA関連化合物(MPL)、糖脂質トレハロースジマイコレート(TDM)、細菌由来のDNA(例えばCpGオリゴヌクレオチド)、あるいはこれらの誘導体などが挙げられる。
【0049】
これら菌体由来成分およびその誘導体は、既に市販されているものであればそれを入手するか、または公知文献(例えばCancer Res.,33,2187-2195(1973)、J. Natl.Cancer Inst., 48,831-835(1972)、J.Bacteriol.,94,1736-1745(1967)、Gann, 69, 619-626(1978)、J.Bacteriol.,92,869-879(1966)、J.Natl.Cancer Inst.,52,95-101(1974))等に基き単離または製造することが可能である。
【0050】
抗原特異的T細胞の誘導活性を増強する作用を有する「サイトカイン」としては、例えばIFN-α、IL-12、GM-CSF、IL-2、IFN-γ、IL-18、あるいはIL-15などが挙げられる。これらのサイトカインは、天然品であっても遺伝子組換え品であっても良い。これらのサイトカインは、既に市販されていればそれを入手して使用することができる。また遺伝子組換え品であれば、例えばGenBank、EMBL、あるいはDDBJ等のデータベースにおいて登録されている各塩基配列に基き、常法により所望の遺伝子をクローニングし、適当な発現ベクターに連結して作製された組換え発現ベクターで宿主細胞を形質転換することにより、発現・生産することができる。
【0051】
抗原特異的T細胞の誘導活性を増強する作用を有する「植物由来成分またはその誘導体」としては、例えばサポニン由来成分であるQuil A(Accurate Chemical & Scientific Corp)、 QS-21(Aquila Biopharmaceuticals inc.)、あるいはグリチルリチン(SIGMA-ALDRICHなど)などが挙げられる。
【0052】
抗原特異的T細胞の誘導活性を増強する作用を有する「海洋生物由来成分またはその誘導体」としては海綿由来の糖脂質が挙げられ、具体的にはα−ガラクトシルセラミドなどが挙げられる(J. Med. Chem, 1995, Jun 9, 38(12) p2176-2787)。
【0053】
以上述べたような非特異的免疫賦活物質から少なくとも1種を選択し、前記組成物(b)の活性成分とする。目的に応じて、当該非特異的免疫賦活物質を2種以上有していても良い。当該非特異的免疫賦活物質の治療学的有効量は、生体において抗原特異的T細胞の誘導増強活性を有すれば特に限定されないが、1回の投与当たり、好ましくは通常0.0001mg〜1000mg、より好ましくは0.001mg〜100mg、さらに好ましくは0.01mg〜10mgである。また前記サイトカインの場合は、力価として、1回当たり10U〜1x108U程度が挙げられる。
【0054】
前記組成物(b)は、前記組成物(a)と同様に、所望の薬理効果を奏するような投与剤形にすることが好ましい。この目的に適する投与剤形としては、油中水型(w/o)エマルション製剤、水中油型(o/w)エマルション製剤、水中油中水型(w/o/w)エマルション製剤、リポソーム製剤、マイクロスフェアー製剤、マイクロカプセル製剤、固形注射剤または液剤等が挙げられる。
【0055】
油中水型(w/o)エマルション製剤は、有効成分を水の分散相に分散させた形態をとる。水中油型(o/w)エマルション製剤は、有効成分を水の分散媒に分散させた形態をとる。また水中油中水型(w/o/w)エマルション製剤は、有効成分を最内相の水の分散相に分散させた形態をとる。このようなエマルション製剤の調製は、例えば、特開平8−985号公報、特開平9−122476号公報等を参考にして行うことができる。
【0056】
リポソーム製剤は、有効成分を脂質二重膜構造のリポソームで水相内または膜内に包み込んだ形の微粒子である。リポソームを作るための主要な脂質としては、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン等が挙げられ、これにジセチルホスフェート、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン等を加えてリポソームに荷電を与えて安定化させる。リポソームの調製方法としては、超音波法、エタノール注入法、エーテル注入法、逆相蒸発法、フレンチプレスエクストラクション法等が挙げられる。
【0057】
マイクロスフェアー製剤は、均質な高分子マトリックスから構成され、該マトリックス中に有効成分が分散された形の微粒子である。マトリックスの材料としては、アルブミン、ゼラチン、キチン、キトサン、デンプン、ポリ乳酸、ポリアルキルシアノアクリレート等の生分解性高分子が挙げられる。マイクロスフェアー製剤の調製方法としては公知の方法(Eur. J. Pharm. Biopharm. 50:129-146, 2000、Dev. Biol. Stand. 92:63-78, 1998、Pharm. Biotechnol. 10:1-43, 1997)等に従えばよく特に限定されない。
【0058】
マイクロカプセル製剤は、有効成分を芯物質として被膜物質で覆った形の微粒子である。被膜物質に用いられるコーティング材料としては、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテートフタレート、エチルセルロース、ゼラチン、ゼラチン・アラビアゴム、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース等の膜形成性高分子が挙げられる。マイクロカプセル製剤の調製方法は、コアセルベーション法、界面重合法等が挙げられる。
【0059】
固形注射剤は有効成分をコラーゲンやシリコン等の基材に封入して固形化させた剤形である。固形注射剤の調製方法としては文献(Pharm. Tech. Japan, 7(1991), p402-409)記載の方法等が挙げられる。
【0060】
液剤は、有効成分を医薬上許容されうる溶媒、担体等と混合した剤形である。医薬上許容されうる溶媒としては、水、ブドウ糖液、生理食塩水等が挙げられる。さらに、医薬として許容される補助剤、例えば、pH調節剤または緩衝剤、張度調節剤、浸潤剤等を含有することができる。
【0061】
これらの投与剤形のうち、好ましいのは油中水型(w/o)エマルション製剤、水中油型(o/w)エマルション製剤、水中油中水型(w/o/w)エマルション製剤、あるいはマイクロスフェアー製剤である。特に、非特異的免疫賦活物質が菌体由来成分、植物由来成分、あるいはこれらの誘導体の場合はこれらの剤型をとることが好ましい。
【0062】
さらに前記組成物(b)は、前記の投与剤形に応じて凍結乾燥製剤の形とすることも可能である。また必要に応じて安定化剤(例えば多糖類、アミノ酸、タンパク質、ウレア、塩化ナトリウム等)や賦形剤(例えば糖類、アミノ酸、ウレア、塩化ナトリウム等)、酸化防止剤、防腐剤、等張化剤、あるいは緩衝剤等を添加することも可能である。
【0063】
以上のような組成物(b)は、あらかじめ製剤化したものを使用することもできれば、患者への投与時に用時調製することも可能である。すなわち、当該組成物(b)の活性成分で非特異的免疫賦活物質、および投与剤形であるエマルション等は、あらかじめ混合して製剤化したものを使用することもできれば、患者への投与時に用時調製することも可能である。
【0064】
以上のような組成物(a)および(b)を投与する本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法は、組成物(b)をあらかじめ投与した後に、組成物(a)を投与することを特徴とするものである。具体的には、前記組成物(b)を投与後6時間以上おいた後に前記組成物(a)を投与することが好ましく、また前記組成物(b)を投与後12時間以上おいた後に前記組成物(a)を投与することがより好ましい。さらに、前記組成物(b)を投与後、約12時間〜48時間おいた後に前記組成物(a)を投与することがより好ましく、前記組成物(b)を投与後、約24時間〜48時間おいた後に前記組成物(a)を投与することがさらに好ましい。最も好ましいのは、前記組成物(b)を投与後、約24時間(ca 1day;20〜28時間)おいた後に前記組成物(a)を投与するという投与タイミングである。
【0065】
なお、前記のように組成物(b)をあらかじめ投与した後に組成物(a)を投与するという投与タイミングでさえあれば、如何なる投与を行っても良く、例えば以下のような投与法が例示される。
【0066】
1)組成物(b)を1回〜複数回投与し、前記の如き一定時間おいた後に組成物(a)を投与する。
2)組成物(b)を1回〜複数回投与し、前記の如き一定時間おいた後に、組成物(b)と組成物(a)とを同時に投与する。
ここで組成物(b)の複数回投与の投与回数は、具体的には2回〜10回が挙げられ、好ましくは2回〜5回が挙げられる。
【0067】
以上の(a)および(b)による投与を1投与サイクルとした場合、T細胞誘導効果をさらに上げるために、当該1投与サイクルを複数回繰り返して行っても良い。すなわち前記1投与サイクルを1回以上、対象とする疾患、患者の症状、年齢および体重等に応じて、適宜繰り返すことができる。当該繰り返し投与の投与間隔も、患者の症状等に応じて、1週間〜1年程度の範囲から適宜選択することができる。
【0068】
本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法に使用する前記組成物(a)および(b)の投与ルートとしては、皮内投与、皮下投与、持続皮下投与、静脈注射、動脈注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与等が挙げられる。浸透圧ポンプなどを用いて連続的に徐々に投与することや、徐放性製剤(例えばミニペレット製剤)を調製し、埋め込むことも可能である。好ましくは皮内投与あるいは皮下投与を挙げることができる。特に前記組成物(a)および(b)を、いずれも皮内投与することが好ましい。その際、前記組成物(a)および(b)を、いすれも皮内の同一部位に投与することが好ましい。
【0069】
本発明の抗原特異的T細胞誘導方法における前記組成物(a)および(b)の活性成分の組み合わせは、抗原タンパク質と菌体由来成分またはその誘導体との組み合わせ、抗原タンパク質とサイトカインとの組み合わせ、抗原タンパク質と植物由来成分またはその誘導体との組み合わせ、または抗原タンパク質と海洋生物由来成分またはその誘導体との組み合わせ、あるいは抗原ペプチドと菌体由来成分またはその誘導体との組み合わせ、抗原ペプチドとサイトカインとの組み合わせ、抗原ペプチドと植物由来成分またはその誘導体との組み合わせ、または抗原ペプチドと海洋生物由来成分またはその誘導体との組み合わせ等が例示される。このうち抗原が癌抗原の場合、より効果的に抗原特異的T細胞の誘導が行い得るという観点から、癌抗原タンパク質と菌体由来成分またはその誘導体との組み合わせ、若しくは癌抗原ペプチドと菌体由来成分またはその誘導体との組み合わせが好ましい。ここで菌体由来成分としては、アンサー、ブロンカスマ・ベルナ、クレスチン若しくはピシバニールが好ましい。また前記(b)の活性成分がサイトカインの場合は、癌抗原タンパク質とIFN−αとの組み合わせ、若しくは癌抗原ペプチドとIFN−αとの組み合わせが好ましい。前記(b)の活性成分が海洋生物由来成分の場合は、癌抗原タンパク質または癌抗原ペプチドとα−ガラクトシルセラミドとの組み合わせが好ましい。
【0070】
前記組成物(a)の有効成分が癌抗原タンパク質の場合、具体的にはWT1(配列番号:1)と菌体由来成分またはその誘導体との組み合わせ、WT1とサイトカインとの組み合わせ、若しくはWT1と植物由来成分またはその誘導体との組み合わせ、若しくはWT1と海洋生物由来成分またはその誘導体との組み合わせが例示される。好ましくはWT1と菌体由来成分またはその誘導体との組み合わせが挙げられ、より好ましくはWT1とアンサー、WT1とブロンカスマ・ベルナ、クレスチン若しくはWT1とピシバニールの組み合わせが挙げられる。また、WT1とIFN-αとの組み合わせおよびWT1とα−ガラクトシルセラミドとの組み合わせも好ましい態様として挙げられる。
【0071】
また前記組成物(a)の有効成分が癌抗原ペプチドの場合、具体的にはWT1由来の癌抗原ペプチドと菌体由来成分またはその誘導体との組み合わせ、WT1由来の癌抗原ペプチドとサイトカインとの組み合わせ、若しくはWT1由来の癌抗原ペプチドと植物由来成分またはその誘導体との組み合わせ、若しくはWT1由来の癌抗原ペプチドと海洋生物由来成分またはその誘導体との組み合わせが例示される。好ましくはWT1由来の癌抗原ペプチドと菌体由来成分またはその誘導体との組み合わせが挙げられ、より好ましくはWT1由来の癌抗原ペプチドとアンサー、WT1由来の癌抗原ペプチドとブロンカスマ・ベルナ、WT1由来の癌抗原ペプチドとクレスチン、若しくはWT1由来の癌抗原ペプチドとピシバニールとの組み合わせが挙げられる。また、WT1由来の癌抗原ペプチドとIFN-αとの組み合わせ、およびWT1由来の癌抗原ペプチドとα−ガラクトシルセラミドとの組み合わせも好ましい態様として挙げられる。
【0072】
ここでWT1由来の癌抗原ペプチドとしては、配列番号:1に記載のヒトWT1のアミノ酸配列中、前述したようなHLA抗原に結合して提示されるモチーフ構造を有するペプチド、およびその改変ペプチドが挙げられる。具体的には、国際公開第2000/18795号パンフレットのTableII〜TableXLVIに列挙されたペプチドおよびそのモチーフに基く改変ペプチドが挙げられ、より好ましくはHLA-A2およびHLA-A24の結合モチーフを有する Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、若しくはそのHLA-A24またはHLA-A2結合モチーフに基く改変ペプチドが挙げられる。当該改変ペプチドの具体例としては、配列番号:3に記載のペプチドの第2位のMetをモチーフ上とり得るアミノ酸Tyrに置換した Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)などが挙げられる。
【0073】
以上のような本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法は、以下のようにしてその抗原特異的T細胞の誘導能を調べることができる。
【0074】
実験動物に本発明にかかる組成物(b)を皮内注射し、24時間後に組成物(a)を皮内注射する。これを1クールとし、1回、または 1〜2週間おきに数回免疫する。最後の投与から1週間後に脾臓を摘出し、脾臓のリンパ球を調製する。未感作のマウスの脾細胞も同時に調製し、抗原ペプチドを数時間パルスした後、2000〜5000rad 程度のX 線を照射し、これを抗原提示細胞とする。免疫したマウスのリンパ球に抗原提示細胞を加えることにより培養系で抗原ペプチドによる再刺激を行う。必要に応じて同様の刺激を1週間に1回の割合で複数回行う。最後の刺激から1週間後にリンパ球を回収し、抗原ペプチドをパルスした細胞、抗原陽性の細胞などを標的細胞として、リンパ球内に誘導された抗原ペプチド特異的T細胞が反応して産生する種々のサイトカイン( 例えばIFN-γ) の量を定量したり、51Crでラベルした標的細胞に対する抗原ペプチド特異的T細胞の傷害活性を51Cr遊離測定法(J.Immunol.,139:2888,1987)で測定することなどにより抗原特異的T細胞の誘導能を調べることができる。ヒトの場合は、実験動物の脾臓リンパ球の代わりに、末梢血からフィコール法などで分離した末梢血単核球(PBMC)を用いて同様な方法で抗原ペプチド特異的T細胞の誘導能を調べることができる。
【0075】
また、実施例に記載した以下の手法を用いることにより、癌抗原特異的T細胞の誘導能を調べることもできる。簡単に述べると、まず、所望の癌抗原タンパク質をコードするcDNAを腫瘍細胞に導入することにより、所望の癌抗原タンパク質を高発現する腫瘍細胞を調製する。当該腫瘍細胞を実験動物の腹腔内に投与し、翌日より免疫を開始する。免疫は、まず前記組成物(b)を皮内注射し、24時間後に組成物(a)を皮内注射するという1投与クールを1週間おきに計4回繰り返すことにより行う。その後、腫瘍形成率や生存率、さらには無病生存率を常法により測定することにより、抗原特異的T細胞の誘導能に基く抗腫瘍効果を調べることができる。また実験動物の代わりに腫瘍患者に対して前記と同様の投与を行うことにより、抗原ペプチド特異的T細胞の誘導能を調べることができる。
【0076】
本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法によれば、抗原陽性の患者に投与すると、抗原提示細胞のHLA抗原に抗原ペプチドが高密度に提示され、提示されたHLA抗原−ペプチド複合体特異的なT細胞が増殖してターゲット細胞(抗原ペプチド陽性の細胞)を破壊したり、各種のサイトカインを産生して免疫を活性化することができる。本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法は、抗原が癌抗原の場合は癌の治療または予防に用いられる。具体的には、例えば肺癌、卵巣癌、前立腺癌、および白血病などの治療または予防に用いられる。また抗原がウイルス由来抗原の場合はウイルス感染症の治療または予防に用いられる。
【0077】
癌の治療または予防の場合、本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法により、癌細胞に対する特異的細胞性免疫が誘導・増強され、癌を治療し、または癌の増殖・転移を予防することができる。さらに、本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法を、従来の化学療法や放射線療法と併用することにより、治療効果を上げることも可能である。またウイルス感染症を治療または予防する場合、本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法により、ウイルス感染細胞に対する特異的細胞性免疫が誘導・増強され、ウイルス感染症を治療または予防することができる。
【0078】
本発明の抗原特異的T細胞誘導方法の開始時期は、特に制限されるものではないが、癌患者への処置の場合、例えば白血病が完全寛解(complete remission: CR)に到達した後や、固形癌の手術後の腫瘍細胞が少ない、つまりMRD(minimal residual disease)の状態の時に行うことが好ましい。
【0079】
上記態様に関連し、本発明は、患者における抗原特異的T細胞を誘導するための本発明の方法を含む、患者における癌の治療方法および/または予防方法を提供する。
【0080】
本発明は別の態様として、抗原タンパク質または抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための医薬組成物であって、活性成分として非特異的免疫賦活物質を含有する、該抗原タンパク質または抗原ペプチドの投与前に投与される該組成物、および;
【0081】
非特異的免疫賦活物質における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための医薬組成物であって、活性成分として抗原タンパク質または抗原ペプチドを含有する、該非特異的免疫賦活物質の投与後に投与される該組成物に関する。前記非特異的免疫賦活物質を含有する組成物は上記の組成物(b)に関する説明に基づいて調製、使用することができ、他方前記抗原タンパク質または抗原ペプチドを含有する組成物は上記組成物(a)に関する説明に基づいて調製、使用することができる。
【0082】
上記態様に関連し、本発明は、抗原タンパク質または抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための本発明医薬組成物、または非特異的免疫賦活物質における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための本発明医薬組成物であって、癌を治療および/または予防するための医薬組成物を提供する。
【0083】
また、本発明は上記態様に関連し、抗原タンパク質または抗原ペプチドの投与前に投与される、該抗原タンパク質または抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強する医薬を調製するための、非特異的免疫賦活物質の使用、および非特異的免疫賦活物質の投与後に投与される、該非特異的免疫賦活物質における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強する医薬を調製するための、抗原タンパク質または抗原ペプチドの使用を提供する。さらに、本発明は、抗原タンパク質または抗原ペプチドの投与前に投与される、該抗原タンパク質または抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強し、それにより癌を治療および/または予防する医薬を調製するための、非特異的免疫賦活物質の使用、ならびに非特異的免疫賦活物質の投与後に投与される、該非特異的免疫賦活物質における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強し、それにより癌を治療および/または予防する医薬を調製するための、抗原タンパク質または抗原ペプチドの使用を提供する。この態様において、抗原タンパク質または抗原ペプチド、および非特異的免疫賦活物質は上記の組成物(a)および(b)に関する説明に基づいて調製、使用することができる。
【0084】
さらに本発明は特定の態様として、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための医薬組成物であって活性成分として菌体由来成分またはその誘導体を含有する該組成物、および菌体由来成分またはその誘導体における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための医薬組成物であって、活性成分として配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを含有する該組成物を提供する。また本発明は、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための医薬組成物であって活性成分としてIFN−αを含有する該組成物、およびIFN−αにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための医薬組成物であって活性成分として配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを含有する該組成物をも提供する。この態様には、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチド、および菌体由来成分またはその誘導体をともに含有する、抗原特異的T細胞誘導のための医薬組成物が含まれる。さらに、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチド、およびIFN−αをともに含有する、抗原特異的T細胞誘導のための医薬組成物も含まれる。
【0085】
後述の実施例に示したように、WT1を、種々の菌体由来成分やIFN−αと併用することにより、いずれの場合においても良好なCTL(細胞傷害性T細胞)の誘導効果、すなわち抗腫瘍効果が得られた。従ってWT1と菌体由来成分とを併用に供することによる癌の治療剤および/または予防剤、あるいはWT1とIFN-αとを併用に供することによる癌の治療剤および/または予防剤は、優れた抗腫瘍特異的免疫療法剤として臨床効果を発揮するものと考えられる。WT1を種々の菌体由来成分またはIFN−αと併用する際にはその順序は、WT1および菌体由来成分やIFN−αのいずれを先に投与してもよし、あるいは両者を混合して投与してもよい。
【0086】
WT1タンパク質との組み合わせにおいて使用される菌体由来成分またはその誘導体は特に制限されないが、好ましくはWT1とアンサー、WT1とブロンカスマ・ベルナ、WT1とクレスチン、若しくはWT1とピシバニールとの組み合わせが挙げられる。
【0087】
またWT1由来の癌抗原ペプチドとの組み合わせにおいて使用される菌体由来成分またはその誘導体も特に制限されないが、好ましくはWT1由来の癌抗原ペプチドとアンサー、WT1由来の癌抗原ペプチドとブロンカスマ・ベルナ、WT1由来の癌抗原ペプチドとクレスチン、若しくはWT1由来の癌抗原ペプチドとピシバニールとの組み合わせが挙げられる。ここでWT由来の癌抗原ペプチドとしては、配列番号:1に記載のヒトWT1のアミノ酸配列中、前述したようなHLA抗原に結合して提示されるモチーフ構造を有するペプチド、およびその改変ペプチドが挙げられる。具体的には、国際公開第2000/18795号パンフレットのTableII〜TableXLVIに列挙されたペプチドおよびそのモチーフに基く改変ペプチドが挙げられ、より好ましくはHLA-A2およびHLA-A24の結合モチーフを有する Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、若しくはそのHLA-A24またはHLA-A2結合モチーフに基く改変ペプチドが挙げられる。当該改変ペプチドの具体例としては、配列番号:3に記載のペプチドの第2位のMetをモチーフ上とり得るアミノ酸Tyrに置換した Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)などが挙げられる。
【0088】
以上のようなWT1と菌体由来成分との組み合わせに係る癌の治療剤および/または予防剤の投与法、投与量、投与形態等は、前述の抗原特異的T細胞の誘導方法におけるものと同様である。
【0089】
この態様に関連し、本発明は、患者において配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するため方法であって、抗原特異的T細胞誘導活性を増強するに有効な量の菌体由来成分またはその誘導体、あるいはIFN−αを該患者に投与することを特徴とする方法;
【0090】
患者において菌体由来成分またはその誘導体、あるいはIFN−αにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための方法であって、免疫賦活作用に基づく抗癌活性を増強するに有効な量の配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを該患者に投与することを特徴とする方法;
【0091】
癌患者に投与し、癌を治療および/または予防するための上記方法;および
【0092】
配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチド、および菌体由来成分またはその誘導体、あるいはIFN−αを同時に投与する上記方法;ならびに
【0093】
配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強する医薬を調製するための、菌体由来成分またはその誘導体、あるいはIFN−αの使用;
【0094】
菌体由来成分またはその誘導体、あるいはIFN−αにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強する医薬を調製するための、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドの使用;
【0095】
癌患者に投与し、癌を治療および/または予防するため医薬を調製するための、上記方法;
【0096】
配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチド、および菌体由来成分またはその誘導体、あるいはIFN−αをともに含有する医薬を調製するための、上記使用に関する。
【0097】
以上のようなWT1と菌体由来成分またはIFN−αとの組み合わせに係る方法または使用の態様等は、前述の抗原特異的T細胞の誘導方法におけるものと同様である。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0099】
実施例1
WT1ペプチドとアンサーとの併用による抗腫瘍効果
1.材料と方法
1)細胞
C57BL/6マウス由来のWT1を発現していない白血病細胞細胞株であるC1498は、ATCC(Rockville,MD)より購入した。マウスWT1を発現しているC1498(WT1-C1498)は、マウスWT1のcDNA(WO00/06602)を常法によりC1498細胞に遺伝子導入することにより作製した。
2)ペプチド
WT1由来の癌抗原ペプチドである9merのペプチド(配列:Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu;配列番号:2)はFmoc 法を使用し、ABI430A peptide synthesizer(Applied Biosystems Inc, Foster)により合成後、C18 Microbondasphere (Waters Japan,Osaka)カラムを用いた逆相液体クロマトグラフィーにより精製した。合成したペプチドは、API IIIE triple quadrupole mass spectrometer (Sciex,Toronto,Canada)で確認し、ペプチド濃度はBSAをスタンダードとし、MicroBCA アッセイ (Pierce,Rockford,III)により決定した。
3)非特異的免疫賦活物質
非特異的免疫賦活物質として、ヒト結核菌の熱水抽出物を精製して得られた多糖類を主成分とする放射線療法による白血球減少抑制剤のアンサー20注(ゼリア新薬工業株式会社)を購入して用いた。
4)マウス
6-8週齢の雄C57BL/6マウスは日本クレアより購入した。
5)腫瘍細胞の移植と免疫(vaccination)スケジュール
WT1-C1498細胞1×106個をマウスの腹腔内に投与し、翌日より免疫を開始した。アンサー20注0.2mlをマウスの側腹部へ皮内注射し、24時間後に同一部位に2mg/mlのWT1ペプチド(配列番号:2)溶液を0.1ml皮内注射した。これを1クールとし、1週間おきに計4回免疫した(図1)。1群当たり5匹のマウスを用いた。
【0100】
2.結果
図1に示したスケジュールに従い、腫瘍細胞の移植とワクチン投与を行い、その後の腫瘍塊形成を観察した。図2は非特異的免疫賦活剤としてアンサーを用いた場合のマウスの腫瘍径を表したものである。非免疫群は5匹中3匹で急速な腫瘍塊の形成が認められた。アンサーのみを投与した群では、5匹中2匹で腫瘍塊の形成が認められたが、非免疫群の腫瘍塊の形成が認められた個体に比べて腫瘍塊形成の速度は遅く、腫瘍径は小さかった。WT1ペプチドとアンサーを投与した群では、5匹全例で腫瘍塊の形成が認められなかった。
これらの結果より、非特異的免疫賦活剤のみの投与でも弱い腫瘍増殖抑制作用がみとめられるが、非特異的免疫賦活剤とWT1ペプチドを組み合わせることにより、より強い抗腫瘍効果の得られることが示された。
【0101】
実施例2
WT1ペプチドとブロンカスマ・ベルナとの併用による抗腫瘍効果
1.材料と方法
1)細胞、ペプチドおよびマウス
実施例1と同様に調製した。
2)非特異的免疫賦活物質
非特異的免疫賦活物質として、各種菌体死菌浮遊液で上気道アレルギーの免疫療法剤であるブロンカスマ・ベルナ(三和化学研究所)を購入して用いた。
3)腫瘍細胞の移植と免疫(vaccination)スケジュール
WT1-C1498細胞1×106個をマウスの腹腔内に投与し、翌日より免疫を開始した。ブロンカスマ・ベルナ0.5mlをマウスの側腹部へ皮内注射し、24時間後に同一部位に2mg/mlのWT1ペプチド(配列番号:2)溶液を0.1ml皮内注射した。これを1クールとし、1週間おきに計4回免疫した(図1)。1群当たり5匹のマウスを用いた。
【0102】
2.結果
図1に示したスケジュールに従い、腫瘍細胞の移植とワクチン投与を行い、その後の腫瘍塊形成を観察した。図3は非特異的免疫賦活剤としてブロンカスマ・ベルナを用いた場合のマウスの腫瘍径を表したものである。非免疫群は5匹中3匹で急速な腫瘍塊の形成が認められた。ブロンカスマ・ベルナのみを投与した群では、5匹中2匹で急速な腫瘍塊の形成が認められ、腫瘍移植35日後の腫瘍径はともに25mm以上に増大していた。WT1ペプチドとブロンカスマ・ベルナを投与した群では、5匹中1匹で腫瘍塊の形成が認められたものの、残りの4匹のうち3匹では腫瘍の形成が全く認められず、また1匹では腫瘍形成は明らかに抑制されており腫瘍径は5mm以下であった。
これらの結果より、非特異的免疫賦活剤のみの投与でも弱い腫瘍増殖抑制作用が認められるが、非特異的免疫賦活剤とWT1ペプチドを組み合わせることにより、より強い抗腫瘍効果の得られることが示された。
【0103】
実施例3
WT1ペプチドとピシバニールとの併用による抗原ペプチド特異的CTL誘導効果
1.材料と方法
1)ペプチド
ヒトWT1由来のHLA-A24拘束性の抗原ペプチド誘導体である9merのペプチド(配列:Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu;配列番号:4)はFmoc 法により合成した。
2)非特異的免疫賦活物質
非特異的免疫賦活物質として、溶連菌由来の抗腫瘍剤ピシバニール(中外製薬株式会社)を購入して用いた。投与当日に5KE/バイアルのピシバニールを0.5mlの生理的食塩水で懸濁して10KE/mlの溶液を調製した。
3)マウス
α1、α2ドメインがヒトのHLA-A2402由来であり、残りの領域がマウスのKb由来のキメラ遺伝子(HLA-A2402/Kbと表記する場合もある)を導入したトランスジェニックマウスを作出して実験に用いた。トランスジェニックマウスの作出方法は下記の通りである。HLA-A2402ゲノムDNA断片はヒト腫瘍細胞株RERF-LC-AI(理研細胞バンクRCB0444)のゲノムDNAよりPCR法で増幅した。プライマーはHind IIIの制限酵素サイトを持った上流プライマー 5’-CGC AGG CTC TCA CAC TAT TCA GGT GAT CTC-3’とBgl IIの制限酵素サイトを持った下流プライマー 5’-CGG GAG ATC TAC AGG CGA TCA GGT AGG CGC-3’を用いた。HLA-A2402のプロモーター、α1およびα2の領域の遺伝子を含む増幅断片をファージミドベクターpBluescript(STRATAGENE社)の制限酵素Hind IIIおよびBam HI切断部位に連結して、キメラ遺伝子の構築に必要なHLA-A2402遺伝子領域をコードするプラスミドを得た。H-2KbのゲノムDNA断片はマウス腫瘍細胞株EL-4(ATCC T1B-39)のゲノムDNAよりPCR法で増幅した。プライマーは上流プライマー 5’-CGC AGG CTC TCA CAC TAT TCA GGT GAT CTC-3’と制限酵素Eco RI部位を付加した下流プライマー 5’-CGG AAT TCC GAG TCT CTG ATC TTT AGC CCT GGG GGC TC-3’を用いた。増幅断片をファージミドベクターpBluescriptの制限酵素Kpn IおよびEco RI切断部位に挿入し、キメラ遺伝子の構築に必要なH-2Kb遺伝子のα3、膜貫通領域および細胞質領域をコードするプラスミドを得た。上記HLA-A2402ゲノムDNAをコードするプラスミドを制限酵素Bgl II部位で切断し、一方、上記H-2Kb遺伝子を制限酵素Bam HI部位で切断し、これら部位を連結してHLA-A2402とH-2Kbのキメラ遺伝子HLA-A2402/Kbを作製した。HLA-A2402/KbをC57BL/6マウスの受精卵に導入してHLA-A2402を発現するトランスジェニックマウスを作出した。
4)免疫(vaccination)スケジュールとCTL活性の測定
Day0にマウス腹側皮内に2KEのピシバニールを投与し、翌日に同一部位に2mg/mlのWT1ペプチド(配列番号:4)溶液を0.1ml皮内注射した。マウスは3匹を使用した。Day8に脾臓を摘出し、スライドガラスのフロスト部分で擦り合わせて破壊し、ACKバッファー(0.15M NH4Cl, 10mM KHCO3, 0.1mM EDTA, pH7.2-7.4)にて溶血処理して脾細胞を回収・調製した。脾細胞の一部をX線照射(2,000 rad)した後、前記ペプチドを100ug/mlで1時間パルスして0.7×106個/wellで24穴プレートに播種した。このとき、非照射・非ペプチドパルスの7×106個/wellの脾細胞を同時に加えて37℃下でペプチド再刺激を施行した(ペプチド終濃度1μg/ml)。脾細胞の培養は個体ごとに行った。培養には、RPMI1640培地に10%FCS、10mM HEPES、20mM L-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、1mM MEM非必須アミノ酸、1%MEMビタミン、55μM 2-メルカプトエタノールを含む培養液(CTM培養液)を10ml用い、5日間イン・ビトロ刺激した。他方、ヒト腫瘍細胞株Jurkat(ATCC T1B-152)に前記 HLA-A2402/Kb遺伝子を安定的に導入した細胞であるJurkat-A2402/Kb細胞を 3.7MBq/106個で51Crラベル後、前記ペプチドを100μg/mlで1時間パルスした。(ラベル時間2時間、ラベル開始1時間後にペプチドを終濃度100μg/ml添加)。また、ペプチド非パルスの細胞をコントロール標的細胞として調製した。当該Jurkat-A2402/Kbを標的細胞とし、ペプチド再刺激を行ったトランスジェニックマウス脾細胞を添加して、CTL活性を51Crリリースアッセイ(J.Immunol., 159:4753, 1997)により測定した。脾細胞と標的細胞の細胞数の比は60:1であった。
【0104】
2.結果
図4に免疫した3匹のマウスのCTL活性を示した。3匹のマウスの脾細胞は、抗原ペプチドをパルスしていない標的細胞に対してよりも抗原ペプチドをパルスした標的細胞に対して強い細胞傷害活性を示した。この結果よりピシバニールを皮内投与した翌日にWT1ペプチド溶液を同一部位に皮内投与する免疫方法で効率的にペプチド特異的CTLが誘導されることが示された。
【0105】
実施例4
WT1ペプチドとIFN-αとの併用による抗原ペプチド特異的CTL誘導効果
1.材料と方法
1)ペプチドおよびマウス
実施例3と同様に調製した。
2)非特異的免疫賦活物質
非特異的免疫賦活物質としてマウスIFN-αを用いた。IFN-αは、酪酸ナトリウムで前処理したマウス細胞株EAT細胞(エールリッヒ腹水癌由来、ATCC CCL-77)にニューキャッスル病ウイルスを感染させ、テオフィリン処理することにより産生させた後にCPGカラムと坑IFN-α抗体カラムで精製した。
3)免疫(vaccination)スケジュールとCTL活性の測定
Day0にマウス腹側皮内に200μlのIFN‐α(5×104U相当)を投与し、翌日に同一部位に2mg/mlのWT1ペプチド(配列番号:4)溶液を0.1ml皮内注射した。マウスは3匹用いた。Day8以降、実施例と同様にペプチド再刺激を行い抗原ペプチド特異的CTLの活性を測定した。ただし再刺激用の脾細胞は3匹のマウスの脾細胞を合一して調製した。
【0106】
2.結果
図5に結果を示した。脾細胞は抗原ペプチドをパルスしていない標的細胞に対してよりも抗原ペプチドをパルスした標的細胞に対して強い細胞傷害活性を示した。この結果よりIFN-αを皮内投与した翌日にWT1ペプチド溶液を同一部位に皮内投与する免疫方法で効率的にペプチド特異的CTLが誘導されることが示された。
【0107】
実施例5
WT1ペプチドとクレスチンとの併用による抗腫瘍効果
1.材料と方法
1)細胞
C57BL/6マウス由来の肺癌細胞株である3LLにマウスWT1のcDNAを定法により遺伝子導入して作製した細胞WT1−3LLを用いた。
2)ペプチド
実施例1と同様に調製した。
3)非特異的免疫賦活物質
非特異的免疫賦活物質として、担子菌由来多糖類の抗腫瘍剤クレスチン(三共株式会社)を購入して用いた。
4)腫瘍細胞の移植と免疫(vaccination)スケジュール
WT1−3LL細胞5×104個をマウスの皮下に移植し、翌日より免疫を開始した。クレスチン100μgをマウスの側腹部へ皮内注射し、24時間後に同一部位に2mg/mlのWT1ペプチド(配列番号:2)溶液を0.1ml皮内注射した。これを1クールとし、1週間おきに計3回免疫した。
【0108】
2.結果
腫瘍細胞移植日を0日として、ワクチン投与を3回行った後の18日目の腫瘍径を測定した結果を図6に示した。クレスチンとWT1ペプチドを投与した群では、5匹中3匹で腫瘍の生着が認められなかった。一方、非免疫群(5匹)、ペプチドのみを投与した群(5匹)、クレスチンのみを投与した群(4匹)では、全例で腫瘍の生着が観察され、平均値はクレスチンとWT1ペプチドを投与した群より大きかった。非免疫群と他の群の腫瘍径についてStudentのt検定を行ったところ、クレスチンとWT1ペプチドを投与した群のみ有意差が認められた(p<0.05)。
これらの結果より、非特異的免疫療法剤とWT1ペプチドを組み合わせることにより強い抗腫瘍効果の得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明方法により、効率良く抗原特異的T細胞を誘導することができる。本発明の抗原特異的T細胞の誘導方法および関連する医薬組成物は、効率よくかつ簡便に抗原特異的T細胞を誘導することができるため、抗癌剤または抗ウイルス剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)活性成分として抗原タンパク質または抗原ペプチドの治療学的有効量を含む組成物、および
(b)活性成分として非特異的免疫賦活物質の治療学的有効量を含む組成物、
をそれを必要としている患者に投与する、該患者における抗原特異的T細胞を誘導するための方法であって、組成物(b)をあらかじめ投与した後に組成物(a)を投与することを特徴とする方法。
【請求項2】
組成物(b)の投与後約24時間後に組成物(a)を投与することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
組成物(a)および(b)を、いずれも皮内の同一部位に投与することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
組成物(a)および(b)による投与サイクルを複数回繰り返すことを特徴とする、請求項1〜3いずれか記載の方法。
【請求項5】
組成物(a)の活性成分として癌抗原タンパク質または癌抗原ペプチドを含む、請求項1〜4いずれか記載の方法。
【請求項6】
癌抗原タンパク質または癌抗原ペプチドが、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
WT1由来の癌抗原ペプチドが、Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、および Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
組成物(b)の活性成分である非特異的免疫賦活物質が、(i)菌体由来成分またはその誘導体、(ii)サイトカイン、(iii)植物由来成分またはその誘導体、および(iv)海洋生物由来成分またはその誘導体より選択される、請求項1〜7いずれか記載の方法。
【請求項9】
菌体由来成分が、ヒト型結核菌由来多糖類成分、溶連菌粉末、担子菌由来多糖類、死菌浮遊物カクテル、ムラミルジペプチド(MDP)関連化合物、リポ多糖(LPS)、リピドA関連化合物、糖脂質トレハロースジマイコレート(TDM)、および前記菌体由来のDNAより選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
サイトカインが、IFN−α、IL−12、GM−CSF、IL−2、IFN−γ、IL−18およびIL−15より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項11】
海洋生物由来成分がα−ガラクトシルセラミドである、請求項8記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11いずれか記載の誘導方法を含む、患者における癌の治療方法および/または予防方法。
【請求項13】
抗原タンパク質または抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための医薬組成物であって、活性成分として非特異的免疫賦活物質を含有する、該抗原タンパク質または抗原ペプチドの投与前に投与される該組成物。
【請求項14】
非特異的免疫賦活物質における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための医薬組成物であって、活性成分として抗原タンパク質または抗原ペプチドを含有する、該非特異的免疫賦活物質の投与後に投与される該組成物。
【請求項15】
抗原タンパク質または抗原ペプチドが癌抗原タンパク質または癌抗原ペプチドである、請求項13または14記載の医薬組成物。
【請求項16】
癌抗原タンパク質または癌抗原ペプチドが、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドである、請求項15記載の医薬組成物。
【請求項17】
WT1由来の癌抗原ペプチドが、Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、および Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)より選択される、請求項16記載の医薬組成物。
【請求項18】
非特異的免疫賦活物質が、(i)菌体由来成分またはその誘導体、(ii)サイトカイン、(iii)植物由来成分またはその誘導体、および(iv)海洋生物由来成分またはその誘導体より選択される、請求項13〜17いずれか記載の医薬組成物。
【請求項19】
菌体由来成分が、ヒト型結核菌由来多糖類成分、溶連菌粉末、担子菌由来多糖類、死菌浮遊物カクテル、ムラミルジペプチド(MDP)関連化合物、リポ多糖(LPS)、リピドA関連化合物、糖脂質トレハロースジマイコレート(TDM)、および前記菌体由来のDNAより選択される、請求項18記載の医薬組成物。
【請求項20】
サイトカインが、IFN−α、IL−12、GM−CSF、IL−2、IFN−γ、IL−18およびIL−15より選択される、請求項18記載の医薬組成物。
【請求項21】
海洋生物由来成分がα−ガラクトシルセラミドである、請求項18記載の医薬組成物。
【請求項22】
癌を治療および/または予防するための請求項13〜21いずれか記載の医薬組成物。
【請求項23】
抗原タンパク質または抗原ペプチドの投与前に投与される、該抗原タンパク質または抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強する医薬を調製するための、非特異的免疫賦活物質の使用。
【請求項24】
非特異的免疫賦活物質の投与後に投与される、該非特異的免疫賦活物質における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強する医薬を調製するための、抗原タンパク質または抗原ペプチドの使用。
【請求項25】
配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための医薬組成物であって、活性成分として菌体由来成分またはその誘導体を含有する該組成物。
【請求項26】
菌体由来成分またはその誘導体における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための医薬組成物であって、活性成分として配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを含有する該組成物。
【請求項27】
菌体由来成分がヒト型結核菌由来多糖類成分、溶連菌粉末、担子菌由来多糖類または死菌浮遊物カクテルである、請求項25または26記載の医薬組成物。
【請求項28】
配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための医薬組成物であって、活性成分としてIFN−αを含有する該組成物。
【請求項29】
IFN−αにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための医薬組成物であって、活性成分として配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを含有する該組成物。
【請求項30】
WT1由来の癌抗原ペプチドが、Arg Met Phe Pro Asn Ala Pro Tyr Leu(配列番号:2)、Cys Met Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:3)、および Cys Tyr Thr Trp Asn Gln Met Asn Leu(配列番号:4)より選択される、請求項25〜29いずれか記載の医薬組成物。
【請求項31】
癌を治療および/または予防するための請求項25〜30記載の医薬組成物。
【請求項32】
患者において配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するため方法であって、抗原特異的T細胞誘導活性を増強するに有効な量の菌体由来成分またはその誘導体を該患者に投与することを特徴とする方法。
【請求項33】
患者において菌体由来成分またはその誘導体における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための方法であって、免疫賦活作用に基づく抗癌活性を増強するに有効な量の配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを該患者に投与することを特徴とする方法。
【請求項34】
患者において配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強するための方法であって、抗原特異的T細胞誘導活性を増強するに有効な量のIFN−αを該患者に投与することを特徴とする方法。
【請求項35】
患者においてIFN−αにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強するための方法であって、免疫賦活作用に基づく抗癌活性を増強するに有効な量の配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドを該患者に投与することを特徴とする方法。
【請求項36】
癌患者に投与し、癌を治療および/または予防するための請求項32〜35記載の方法。
【請求項37】
配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強する医薬を調製するための、菌体由来成分またはその誘導体の使用。
【請求項38】
菌体由来成分またはその誘導体における免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強する医薬を調製するための、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドの使用。
【請求項39】
配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドにおける抗原特異的T細胞誘導活性を増強する医薬を調製するための、IFN−αの使用。
【請求項40】
IFN−αにおける免疫賦活作用に基づく抗癌活性を抗原特異的T細胞誘導活性を介して増強する医薬を調製するための、配列番号:1に記載のWT1タンパク質または該WT1由来の癌抗原ペプチドの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−248204(P2010−248204A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126896(P2010−126896)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【分割の表示】特願2003−532087(P2003−532087)の分割
【原出願日】平成14年9月27日(2002.9.27)
【出願人】(505443953)株式会社癌免疫研究所 (8)
【Fターム(参考)】