説明

抗微生物性塗膜および工業製品

【課題】 生活環境中に多く生息する微生物、特に菌類に効果的であり、かつ人体への影響が少ない、言い換えれば安全性の高い抗微生物性塗膜の提供。
【解決手段】 抗微生物性塗膜は、フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉、ショウガ科バンウコン植物根茎、シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上全植物体、シソ科コガネヤナギ植物根茎、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および/または枝葉、キク科タイキンギク植物全植物体のいずれかの植物体水抽出物と、塗料樹脂を少なくとも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活環境中に存在する微生物の増殖を抑制あるいは微生物を死滅させるための抗微生物性塗膜に関する。また、生活環境の清潔性向上、建築資材の劣化防止、居住者のアレルギー防止などに有効な抗微生物性塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
生活環境中で使用される建築資材に黴が発生することで、美観を損なうとともに、建築資材の強度劣化を招く。また、黴がアレルギー源となり、居住者の健康も損ないかねない。一方、筆記具などの日用品に抗菌処理を施す「抗菌ブーム」が近年の消費者の志向に加わっている。したがって、身の回りの様々な材料に抗菌処理を施すことが望まれている。かかる要望に応えるべく、材料の表面に抗菌性塗膜を形成するための抗菌性組成物が種々開発されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000-154339 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年の消費者の天然物志向により、抗微生物性塗膜についても、自然界に産し、古くから多用されてきた素材を用いることが要望されている。本発明の目的は、生活環境中に多く生息する微生物、特に菌類に効果的であり、かつ人体への影響が少ない、言い換えれば安全性の高い抗微生物性塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では、フトモモ科(Myrtaceae )ユウカリノキ属(Eucalyptus)植物の枝葉、ショウガ科(Zingiberaceae )バンウコン属(Kaempferia)植物の根茎、シソ科(Laminaceae(Labiatae))イソドン属(Isodon)植物の地上部の全植物体、シソ科(Laminaceae(Labiatae))タツナミソウ属(Scutellaria )植物の根茎、サルオガセ科(Usneaceae )サルオガセ属(Usnea )植物の全植物体、ウルシ科(Anacardiaceae )ランシンボク属(Pistacia)植物の樹皮およびその枝葉ならびにキク科(Compositae)サワギク属(Senecio )植物の全植物体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の植物体の水抽出物が用いられる。
【0005】
フトモモ科ユウカリノキ属植物の枝葉およびショウガ科バンウコン属植物の根茎の各水抽出物は、大腸菌(Escherichia coli)に代表されるグラム陰性菌に対し抗菌性能を有する。シソ科イソドン属植物の地上部の全植物体、シソ科タツナミソウ属植物の根茎、サルオガセ科サルオガセ属植物の全植物体、ウルシ科ランシンボク属植物の樹皮およびその枝葉ならびにキク科サワギク属植物の全植物体の各水抽出物は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus )に代表されるグラム陽性菌に対し抗菌性能を有する。
【0006】
本発明ではまた、シソ科(Labiatae)イソドン属(Isodon)植物の地上部の全植物体、シソ科(Labiatae)タツナミソウ属(Scutellaria )植物の根茎、サルオガセ科(Usneaceae )サルオガセ属(Usnea )植物の全植物体、ウルシ科(Anacardiaceae )ランシンボク属(Pistacia)植物の樹皮およびその枝葉ならびにタデ科(Polygonaceae)ダイオウ属(Rheum )植物の根茎よりなる群から選ばれる少なくとも1種の植物体の有機溶媒抽出物が用いられる。これら有機溶媒抽出物は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus )に代表されるグラム陽性菌に対し抗菌性能を有する。
【0007】
本発明で用いられる植物体は古くからその薬理作用が認められ、漢方薬として疾病の治療に用いられ、あるいは民間薬としてその作用が伝承されている。以下に、これら植物体の具体例を挙げるとともに、その用途を記載する。
【0008】
フトモモ科ユウカリノキ属に属する植物としては、Eucalyptus globulus Labill. Eucalyptus smithii R. T. BakerEucalyptus citriodora Hook. などが挙げられる。例えば中国産のユウカリノキ(Eucalyptus globulus Labill. )は、外用薬として神経痛の治療に用いられ、あるいは蒸気の吸入によって気管支炎の治療に用いられる。
【0009】
シソ科イソドン属に属する植物としては、Isodon eriocalyx (Dunn)Kuds Isodon longitubus Isodon shikokianus var. intermedius Isodon umbrosus Isodon umbrosus var. excisinflexusなどが挙げられる。マンシュウヒキオコシ(Isodon eriocalyx (Dunn)Kuds )は、感冒、咽喉の腫れ痛み、胃炎、肝炎、扁桃腺炎、乳腺炎、癌の初期、月経閉止、打撲傷、関節痛、蛇や虫の咬傷に用いられる。
【0010】
シソ科タツナミソウ属に属する植物としては、Scutellaria baicalensis Georg.Scutellaria cavalerieiScutellaria hebeclada Scutellaria maireiScutellaria taquetiiScutellaria thieretii Scutellaria vaniotianaScutellaria veronicifolia などが挙げられる。コガネヤナギ(Scutellaria baicalensis Georg.)は、猩紅熱の予防や急性腸炎、下痢、急性・慢性肝炎の治療に用いられる。
【0011】
ショウガ科バンウコン属に属する植物としては、バンウコン(Kaempferia galanga L. )が挙げられる。バンウコンは、心腹注痛、寒湿吐瀉などに煎服して用いられる他、外用薬として歯痛の治療に用いられている。
【0012】
サルオガセ科サルオガセ属に属する植物としては、Usnea longissima Ach. Usnea pangianaUsnea rubescens Usnea diffracta などが挙げられる。ナガサルオガセ(Usnea longissima Ach. )は、肺結核、各種の炎症などに煎服して用いられる他、種々の潰瘍に散布薬として外用されている。ただし最近は、専ら薫香料の原料として輸入されることが多く、薬用として使用されることは少なくなっている。
【0013】
ウルシ科ランシンボク属に属する植物としては、ランシンボク(Pistacia weinmannifolia J. Poisson ex Franch)が挙げられる。ランシンボクは、下痢、皮膚痊痒症、瘡瘍などの症状に用いると言われているが、日本では薬用にされることはない。
【0014】
キク科サワギク属に属する植物としては、Senecio scandens Buch.-Ham. Senecio madagascariensis Poiret Senecio rowleyanusSenecio macroglossusSenecio nemorensisSenecio anteuphorbium Senecio glaberrimus Senecio keniodendronSenecio platyphylloides Senecio hybridusSenecio fremontii Senecio integrifolius subsp. faurieiSenecio vulgarisなどが挙げられる。タイキンギク(Senecio scandens Buch.-Ham. )は、上気道感染、扁桃炎、咽喉炎、肺炎、眼の結膜炎、赤痢、腸炎、虫垂炎、急性リンパ管炎丹毒、湿疹、アレルギー性皮膚炎などに用いられる。ただし、日本では薬用にされることはない。
【0015】
タデ科ダイオウ属に属する植物としては、Rheum officinale Baill. Rheum palmatum L. Rheum tanguticum Maxim. Rheum coreanum NakaiRheum rhaponticum Linn. Rheum undulatum L.などが挙げられる。ダイオウ(Rheum officinale Baill. )は、大腸性瀉下、消炎性健胃薬などとして用いられる。
【0016】
上述の通り、本発明で用いられる植物体は、疾病などの治療を主目的として用いられ、対症療法として利用されているに過ぎない。これら植物体の成分による抗微生物作用、例えば抗菌作用などに関する調査研究報告は少ない。例えば特開平11-80012号公報には、フトモモ科ユウカリ属植物の枝葉の極性有機溶媒抽出物が白癬菌、ニキビ菌またはMRSA(methicillin resistant Staphylococcus aureus )に効果的であることが開示されている。しかし後述するように、グラム陰性に対しては、同公報に開示された極性有機溶媒抽出物よりも、本発明の水抽出物のほうが高い抗菌性能を有する。
【0017】
本発明の第1の局面による抗微生物性塗膜は、フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉、ショウガ科バンウコン植物根茎、シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体、シソ科コガネヤナギ植物根茎、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体、ウルシ科ランシンボク植物樹皮およびその枝葉ならびにキク科タイキンギク植物全植物体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の植物体の水抽出物を少なくとも含有し、典型的には塗料樹脂をさらに含有する。
【0018】
本発明の第2の局面による抗微生物性塗膜は、シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体、シソ科コガネヤナギ植物根茎、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体、ウルシ科ランシンボク植物樹皮およびその枝葉ならびにタデ科ダイオウ植物根茎よりなる群から選ばれる少なくとも1種の植物体の有機溶媒抽出物を少なくとも含有し、典型的には塗料樹脂をさらに含有する。
【0019】
本明細書において「植物体」は、その植物の全体(全植物体)だけでなくその一部、例えば枝葉、根茎、樹皮を包含する。「微生物」は、細菌、糸状菌、酵母、変形菌、単細胞藻類、原生動物、ウイルスを包含する。「抗微生物性塗膜」は、微生物の増殖を抑制あるいは微生物を死滅させるための塗膜であり、例えば抗菌性塗料や抗菌性スプレーを塗付することにより形成される。
【0020】
「水抽出物」は水蒸気蒸留や浸漬などにより植物体から有効成分を抽出した抽出物であり、「有機溶媒抽出物」は有機溶媒(水と有機溶媒との混合溶媒を含む)に植物体を浸漬して植物体から有効成分を抽出した抽出物である。なお、水抽出物および有機溶媒抽出物を「植物体抽出物」と総称することがある。
【0021】
有機溶媒抽出物は、有機溶媒または水と有機溶媒との混合溶媒を用いて抽出された抽出物である。有機溶媒としては、エチルアルコール、メチルアルコール、アセトン、クロロホルム、ベンゼン、塩化メチレンなどが例示される。水と有機溶媒との混合溶媒としては、例えば水とアセトンとの混合溶媒や水とエチルアルコールとの混合溶媒が挙げられる。水と有機溶媒との混合重量比は、水5〜95重量部:有機溶媒95〜5重量部、好ましくは水15〜85重量部:有機溶媒85〜15重量部、より好ましくは水25〜75重量部:有機溶媒75〜25重量部である。
【0022】
植物体から有効成分を抽出する方法としては、一般に用いられる方法でよい。例えば溶媒中に原料植物部位を長時間浸漬する方法、溶媒の沸点以下の温度で加温、撹拌しながら抽出を行い、濾過して抽出物を得る方法などがある。エバポレータやスプレードライ法を用いて、抽出液を濃縮することにより、抽出物を調製するのが望ましい。
【0023】
本発明の第1および第2の局面による抗微生物性塗膜は、水溶性樹脂塗料や合成樹脂エマルション塗料などの水性塗料に含まれる樹脂を塗料樹脂として含んでいても良い。水溶性樹脂塗料は、水溶性コロイドを形成する水溶性樹脂、例えばカルボキシメチルセルロースやポリビニルアルコールを塗料樹脂(以下、塗料バインダともいう。)として用いた塗料である。合成樹脂エマルション塗料は、乳化重合などにより得た合成樹脂エマルションを塗料バインダとして水に分散させた塗料である。合成樹脂として、一般には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、アミノアルキッド樹脂、尿素樹脂、不飽和樹脂、ビニル樹脂などが用いられる。具体例には、例えば親水性の高い塗料樹脂としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびポリエステル樹脂が挙げられる。
【0024】
本発明の第1および第2の局面による抗微生物性塗膜は、典型的には、抗微生物性塗料を基材上に塗付し、乾燥させることによって形成される。抗微生物性塗料は、本発明による植物体抽出物と、塗料樹脂と、本発明による植物体抽出物および塗料樹脂を分散させるための塗付溶媒とを少なくとも含む。なお、塗付溶媒とは、抗微生物性塗膜を形成するための溶媒を指し、植物体を抽出するための溶媒とは区別する。
【0025】
抗微生物性塗料は、植物体抽出物の少なくとも一種が分散された分散液と、塗料樹脂および塗付溶媒を含有する塗料とを混合して調製することができる。あるいは、塗料樹脂および塗付溶媒を含有する塗料に、植物体抽出物の少なくとも一種を分散させて、抗微生物性塗料を調製しても良い。
【0026】
植物体抽出物を分散させるための塗付溶媒は、植物体抽出物の溶解性や塗料樹脂との相性から選択される。具体的には、植物体抽出物を分散させるための塗付溶媒として、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールおよびアセトンからなる群から選ばれる一種類の溶媒または複数種類の溶媒を組み合わせた混合溶媒を好適に用いることができる。
【0027】
植物体抽出物を分散させるための溶媒と、塗料に含まれる溶媒とは、典型的には、同じ種類の溶媒であるが、両溶媒が異なる種類の溶媒であっても良い。例えば、植物体抽出物を分散させるための溶媒が水であり、塗料に含まれる溶媒が水とエチルアルコールとの混合溶媒であっても良い。
【0028】
植物体抽出物は、塗料樹脂の固形分100重量部に対して1重量部以上500重量部以下、好ましくは1重量部以上100重量部以下、より好ましくは1重量部以上50重量部以下を塗膜中に含有していても良い。
【0029】
本発明の第1および第2の局面による抗微生物性塗膜は、塗料樹脂を含んでいなくても良い。言い換えれば、本明細書において「抗微生物性塗料」は、植物体抽出物と塗付溶媒とが混合分散された塗料を包含する。
【0030】
本発明の第1および第2の局面による抗微生物性塗膜は、無機担体をさらに含有していても良い。無機担体は、シリカゲルなどの多孔質な無機酸化物から主として構成されていることが好ましい。無機担体は、表面にシラノール基を有する粒子状粉体であっても良い。無機担体は、抽出物の担体への吸着性の観点から、300m2 /g以上、好ましくは500m2 /g以上の比表面積を有することが望ましい。また塗装後の塗膜表面凹凸性の観点から、粒度50μm以下、好ましくは1μm以上30μm以下であることが望ましい。
【0031】
なお、比表面積は、“The journal of the American Chemical Society”,Vol.60,page 309,February 1938に記載されたブルナウアー・エメット・テーラー(BET)法やガス吸着の測定に基づくBET法に従って測定することができる。また、粒子状粉体の粒度は、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡または沈降法を用いて測定することができる。
【0032】
前記無機担体は、層間化合物からなる粒子状粉体であっても良い。層間化合物としては、ハイドロタルサイト類化合物やスメクタイト類化合物が挙げられる。ハイドロタルサイト類化合物は、下記の一般式で表される。
【0033】
〔M2+1-x 3+x (OH)2 x+〔An-x/n ・yH2 O〕x-
(式中、M2+はマグネシウム、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛などの2価金属イオン、M3+はアルミニウム、鉄、マンガン、クロムなどの3価金属イオン、An-は水酸基、塩素、硝酸基、炭酸基、硫酸基などのn価の陰イオンである。)
【0034】
ハイドロタルサイト類化合物は、一般式A6 2 (CO3 )(OH)16・4H2 O〔但し、A=Mg,Ni ;B=Al,Cr3+ ,Fe3+ ,Mn2+ ,Co3+ 〕で表わせる三方晶系の炭酸塩鉱物を含む。この炭酸塩鉱物としては、例えば、Mg6Al2(CO3)(OH)16 ・4H2Oで表されるハイドロタルサイトが挙げられる。その他にもcomblainite 、desautelsite、iowaite 、pyroaurite、reevesite 、stichtite 、takoviteなどが挙げられる。
【0035】
スメクタイト類化合物は、一般式X0.3 2-3 4 10(OH)2 ・nH2 O〔但し、X(交換性イオン)=Ca/2,Li,Na;Y=Al,Cr3+ ,Cu2+ ,Fe2+ ,Fe3+ ,Li,Mg,Ni,Zn;Z=Al,Si 〕で表わせる単斜晶系の珪酸塩鉱物である。この珪酸塩鉱物として、例えば、(Na,Ca)0.3(Al,Mg)2Si4O10(OH)2 ・nH2Oで表されるモンモリロナイトが挙げられる。その他にも、aliettite 、beidellite、hectorite 、nontronite、saponite、sauconite 、stevensite、swinefordite、volkonskoite、yakhontoviteなどが挙げられる。
【0036】
本発明の第1および第2の局面による抗微生物性塗膜は、1重量部以上30重量部以下の塗料樹脂と、10重量部以上50重量部以下の無機担体と、49重量部以上89重量部以下の本抽出物とを含んでいても良い。
【0037】
本発明の第1および第2の局面による抗微生物性塗膜は、他の抗菌または殺菌剤、忌避剤、効力増強剤、防虫剤、誘引剤、消臭剤、紫外線防止剤(紫外線吸収剤や紫外線による劣化防止剤を含む)、酸化防止剤、増粘剤、安定剤、光沢剤、顔料、染料、フィラーなどを含有していても良い。さらに、合成系の抗黴剤を含有していても良い。
【0038】
植物体抽出物を含有する抗微生物性塗膜は、典型的には、有効成分以外の抽出物も含む。有効成分およびそれ以外の抽出物は、ともに微生物資化性が大きいと考えられるので、腐敗が進行するおそれがある。抽出物の腐敗は、単に有効成分の低下のみならず、害虫の誘引をもたらすおそれがある。
【0039】
そこで、植物体抽出物の腐敗を防止するために、本発明の抗微生物性塗膜は、銀系抗菌剤および/または天然系抗菌剤を含んでいることが望ましい。銀系抗菌剤は、銀錯体および/または銀イオンが担持された担体を含んでいても良い。銀錯体が担持された担体としては、チオスルファト銀錯体が担持されたシリカゲル(商品名:アメニトップ、松下電器産業株式会社製)が挙げられる。銀イオンが担持された担体としては、銀イオン担持ゼオライト、銀イオン担持リン酸塩、銀イオン担持ガラスなどが挙げられる。これら担体に、少なくとも一種の植物体抽出物が吸着担持されていても良い。
【0040】
天然系抗菌剤としては、カテキン類、ワサビ(アブラナ科Eutrema japonica)抽出物、孟宗竹(イネ科Phyllostachys pubescens )抽出物などを用いることができる。また、天然系抗菌剤に含まれる有効成分の合成品を用いても良い。例えば、ワサビ抽出物に含まれるアリルイソチオシアネートの合成品を用いても良い。
【0041】
銀系抗菌剤または天然系抗菌剤の添加量は、全固形分100重量部に対して、0.1重量部以上50重量部以下が好ましい。さらに、抗黴性能を発揮させるため、合成系の抗黴剤を用いることで、抗微生物性塗膜の真菌に対する抗分解性を向上させることができる。
【0042】
本発明は、以下の第1〜第4の局面による工業製品をも提供する。本発明の第1の局面による工業製品には、エアフィルタを装着した空質調整電気機器が含まれる。空質調整電気機器としては、空気清浄機、エアコン、加湿器、掃除機が挙げられる。エアフィルタは、織物、不織布あるいはその併用物であり、少なくとも繊維交点に本発明の抗微生物性塗膜が形成されている。
【0043】
本発明の第2の局面による工業製品は、本発明の抗微生物性塗膜が表面に印刷あるいは塗工されたシートを備える。抗微生物性塗膜は、抗微生物性塗料をシート表面に種々のパターン(例えば、ドット状、ストライプ状、マトリクス状など)にて印刷あるいは塗工することにより形成される。抗微生物性塗膜の表面積は、シートの表面積の50%以上、好ましくは90%以上である。印刷あるいは塗工方法としては、スプレー塗装、スクリーン印刷、ロールコーター法、グラビア印刷、凸版印刷、どぶ漬け法などが例示される。
【0044】
シートは、典型的には、紙製、布製、金属製または合成樹脂製であり、単層または多層構造を有する。シートは、工業製品の所定箇所に設けられる。例えば、使用者の手指が頻繁に接触する箇所、細菌の繁殖の可能性のある湿潤した箇所である。具体的には、タッチパネル等のコントロールパネル、入力あるいは制御機器インターフェイスパネル、押ボタンパネル、床下などである。また、本発明の抗微生物性塗膜が表面に印刷あるいは塗工されたシートが壁面に貼付または装着するための壁紙であっても良い。
【0045】
本発明の第3の局面による工業製品は、本発明の抗微生物性塗膜が筐体、部品基材または回路基板(典型的には、プリント配線基板)上に形成された電気機器である。抗微生物性塗膜は、筐体、部品基材または回路基板の片面または両面に抗微生物性塗料を印刷または塗工し、あるいは筐体、部品基材または回路基板に抗微生物性塗料を含浸させることによって形成される。電気機器としては、調理電化機器、家庭電化機器、セキュリティ機器、通信機器、事務機器、トイレタリー機器などが例示される。具体的には、冷蔵庫、ワインセラ、冷凍庫、レンジ、ジャーポット、ミキサ、ジューサ、フードプロセッサ、ホットプレート、グリル鍋、フィッシュロースタ、クッキングヒータ、もちつき機、冷・温水ボトル、電気温水器、アルカリイオン整水器、ジャー炊飯器、コーヒーメーカ、コーヒーミル、ホームベーカリ、浄水器、ミネラル整水器、システムキッチン、食器洗い乾燥機、食器乾燥器、生ごみ処理機、洗濯機、衣類乾燥機、掃除機、イオン洗浄水メーカ、ふとん乾燥機、ポリッシャ、風呂ブザー、電気バケツ、シュレッダ、除湿機、除湿乾燥機、空気清浄機、温水洗浄便座、冷暖房エアコン、石油ストーブ、電気ストーブ、扇風機、加湿機、電気毛布、温水ルームヒータ、石油遠赤ヒータ、電気温風器、オイルヒータ、石油ファンヒータ、石油温風機、ふく射ヒータ、ガス給湯機、電気温水器、換気扇、床下乾燥機、ヒートポンプ給湯機、シェーバ、脱毛・除毛器具、ドライヤ、電動ハブラシ、マッサージ椅子、照明器具、配線器具、通報端末装置、炎検知装置、煙検知装置、鉛筆削り、デスククリーナ、テレビ、ビデオ、ビデオカメラ、オーディオ、DVD(Digital Versatile Disc)プレーヤ、パソコン、パソコン周辺機器、ファックス、電子楽器、電話機、携帯電話などが例示される。
【0046】
本発明の第4の局面による工業製品は、本発明の抗微生物性塗膜が形成された部材を備える。抗微生物性塗膜は、抗微生物性塗料を部材に印刷または塗工し、あるいは部材に含浸させることによって形成される。部材は、典型的には、紙製、金属製または合成樹脂製の基材である。部材の形状は、部材が備えられる工業製品に適した形状であれば、特に限定されない。例えば、シートやチューブ、曲面を有する成型品などに抗微生物性塗料を塗工することにより、表面に抗微生物性塗膜を形成することができる。
【0047】
本発明の第4の局面による工業製品は、各種の部材や機器を包含する。例えば、建材、文具、衣類、装身具、家庭園芸資材、事務機器、インテリア部材、エクステリア部材、自動販売機、自動車部品、電気製品部品、交通関連機器、家具、日用雑貨、調理機器、医療品、介護医療福祉設備を含む。
【0048】
建材としては、壁紙、床下シート、手摺りなどが例示される。文具としては、万年筆、シャープペンシル、ボールペン、筆箱、書類箱、キャリーケース、書類ホルダー、下敷き、マウスパッド、カードフォルダー、鋏、玩具、乳幼児用品、楽器などが例示される。衣類としては、下着、靴下、カッターシャツ、タオル類、シーツ、ベッドカバー、寝間着、枕、布団、布団綿、ベッド、マットレスなどが例示される。装身具としては、ベルト、メガネ、時計用品、手袋、エプロン、入れ歯関連器具などが例示される。
【0049】
家庭園芸資材としては、マルチフィルム、寒冷紗、ビニールハウスフィルム、果実覆袋、誘引紐、支持柱などが例示される。事務機器としては、書類庫、備品保管庫、ロッカーなどが例示される。インテリア部材としては、食器棚、床下収納庫、動物檻、カーテン、ブラインドなどが例示される。エクステリア部材としては、防水シート、フェンス、網戸などが例示される。
【0050】
自動車部品としては、ハンドル、シート部材、車内清掃用品、カーエアコン、車載冷蔵庫、車載AV(視聴覚)機器などが例示される。電気製品部品としては、上述の電気機器に用いられる部品が例示される。交通関連機器としては、吊り輪、ETC(自動料金収受システム)車載装置、ETCカード、列車通信装置(車載公衆電話)などが例示される。家具としては、食器棚、ベッドなどが例示される。日用雑貨としては、入浴用品、洗面用品、歯ブラシ、理容・美容用品、台所用品、食器類、飲食用品、ワンウエイ容器、リターナブル瓶類、保存容器などが例示される。調理機器としては、炊飯器、ミキサ、冷蔵庫、ワインセラ、配膳盆、米櫃、調味料サーバなどが例示される。医療品としては、化粧品、絆創膏、コンタクトレンズ用品、マスクなどが例示される。医療福祉設備としては、介護用品、杖、ベッド、車椅子、寝具類、配膳車、便器などが例示される。
【0051】
本明細書に記載された発明を以下に例示的に列挙する。
【0052】
(請求項1)フトモモ科ユウカリノキ属植物の枝葉、ショウガ科バンウコン属植物の根茎、シソ科イソドン属植物地上部の全植物体、シソ科タツナミソウ属植物の根茎、サルオガセ科サルオガセ属植物の全植物体、ウルシ科ランシンボク属植物の樹皮およびその枝葉ならびにキク科サワギク属植物の全植物体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の植物体の水抽出物を含有する抗微生物性塗膜。
【0053】
(請求項2)シソ科イソドン属植物地上部の全植物体、シソ科タツナミソウ属植物の根茎、サルオガセ科サルオガセ属植物の全植物体、ウルシ科ランシンボク属植物の樹皮およびその枝葉ならびにタデ科ダイオウ属植物の根茎よりなる群から選ばれる少なくとも1種の植物体の有機溶媒抽出物を含有する抗微生物性塗膜。
【0054】
(請求項3)塗料樹脂をさらに含有する請求項1または2に記載の抗微生物性塗膜。
【0055】
(請求項4)前記塗料樹脂は、エマルション化され、かつ水に分散された、水性塗料中の樹脂を含有する請求項3に記載の抗微生物性塗膜。
【0056】
(請求項5)前記水抽出物または前記有機溶媒抽出物の含有量は、前記塗料樹脂の固形分100重量部に対して1重量部以上500重量部以下である請求項3または4に記載の抗微生物性塗膜。
【0057】
(請求項6)無機担体をさらに含有する請求項1から5のいずれか1項に記載の抗微生物性塗膜。
【0058】
(請求項7)前記無機担体は層間化合物からなる粒子状粉体である請求項6に記載の抗微生物性塗膜。
【0059】
(請求項8)前記無機担体は、多孔質な無機酸化物から主として構成され、300m2 /g以上の比表面積を有し、表面にシラノール基を有する粒度50μm以下の粒子状粉体である請求項6または7に記載の抗微生物性塗膜。
【0060】
(請求項9)カテキン類および/または銀系抗菌剤をさらに含有する請求項1から8のいずれか1項に記載の抗微生物性塗膜。
【0061】
(請求項10)前記銀系抗菌剤は銀錯体および/または銀イオンが担持された担体を含む請求項9に記載の抗微生物性塗膜。
【0062】
(請求項11)複数の繊維が交差するフィルタであって、請求項1から10のいずれか1項に記載の抗微生物性塗膜が前記繊維の交点に形成されたフィルタ。
【0063】
(請求項12)請求項11に記載のフィルタが装着された空質調整電気機器。
【0064】
(請求項13)空気清浄機、エアコン、加湿器、掃除機のいずれかである請求項12に記載の空質調整電気機器。
【0065】
(請求項14)請求項1から10のいずれか1項に記載の抗微生物性塗膜が筐体上または部品基材上に形成された工業製品。
【0066】
(請求項15)建材、文具、衣類、装身具、家庭園芸資材、事務機器、インテリア部材、エクステリア部材、自動販売機、自動車部品、電気製品部品、交通関連機器、家具、日用雑貨、調理機器、医療品、介護医療福祉設備のいずれかである請求項14に記載の工業製品。
【発明の効果】
【0067】
本発明の抗微生物性塗膜は、生活環境中に存在する有害な微生物、言い換えればアメニティ環境創出に際し駆除すべき微生物に対して、強い抗微生物性能を発揮する。また本発明で用いる植物体抽出物は、漢方の原料として古くより利用された実績から、その安全性が確認されている。本発明の抗微生物性塗膜が形成された生活環境中の資材(什器備品や建材など)は高い安全性を有するので、安心して利用することができる。この利用上の効果は、緊急の場合にのみ限定的に使用される合成系抗菌剤と異なり、生活環境中に常在させるために必要な効果である。
【0068】
したがって、生活環境中の資材の抗微生物処理のために、本発明の抗微生物性塗膜を資材に形成することで、安全性が確保された上で、生活環境を清潔に保ちかつ建築資材などの生活関連資材の微生物による劣化を防ぐことができる。さらに、有害微生物の増殖を抑止することにより、微生物の浮遊飛散に伴うアレルギー発症を未然に防止できる。このように、本発明による工業的効果は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0069】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態では、フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉の水抽出物、ショウガ科バンウコン植物根茎の水抽出物、シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上全植物体の水抽出物、シソ科コガネヤナギ植物根茎の水抽出物、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体の水抽出物、ウルシ科ランシンボク植物樹皮の水抽出物、ウルシ科ランシンボク植物枝葉の水抽出物、キク科タイキンギク植物全植物体の水抽出物、シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上全植物体の有機溶媒抽出物、シソ科コガネヤナギ植物根茎の有機溶媒抽出物、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体の有機溶媒抽出物、ウルシ科ランシンボク植物樹皮の有機溶媒抽出物、ウルシ科ランシンボク植物枝葉の有機溶媒抽出物およびタデ科ダイオウ植物根茎の有機溶媒抽出物のうち少なくとも一種の植物体抽出物を用いる。
【0070】
(実施形態1)
中国産フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉の水抽出物による抗菌性能と、本抽出物を含有する抗微生物性塗膜の製法を簡略に以下に記す。抽出に供したフトモモ科ユウカリノキ植物枝葉は、摘み取った後に陰干ししたものである。フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉を水抽出、具体的には水蒸気蒸留することによって、温水可溶な物質が得られた。これをロータリーエバポレータにより濃縮することによって、茶褐色飴状物質が得られた。
【0071】
一般に用いられる抽出方法としては、例えば有機溶媒中に原料植物部位を長時間浸漬する方法、有機溶媒の沸点以下の温度で加温し、撹拌しながら抽出を行い、濾過して抽出物を得る方法などがある。しかし、水による抽出を実施することで、抗菌性能が高く、かつ抗菌スペクトルの広いものが得られる。
【0072】
抗菌性能の評価については、抽出物そのものに対する抗菌性能評価と、実使用に適用できるように抽出物を加工した抗微生物性塗膜に対する評価とがある。まず抽出物そのものに対する抗菌性能評価を行った後に、抗微生物性塗膜に対する評価を行う。
【0073】
本実施形態の水抽出物と、特開平11-80012号公報に開示された極性有機溶媒抽出物とを対比するために、それぞれの抗菌性能の評価結果を表1に示す。なお、極性有機溶媒としてはケトン類のアセトンを使用した。
【0074】
供試菌種として、グラム陰性の代表菌としての大腸菌(Escherichia coli)、グラム陽性の代表菌としての黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus )をそれぞれ用いた。抗菌性能の指標として一般的に用いられる最小発育阻止濃度(MIC)を用い、その試験方法は定法(日本化学療法学会法、抗菌製品技術協議会法)に従った。抗菌性能は、菌株に対する最小発育阻止濃度(MIC)で評価する。したがって、MICの値が小さいほど、抗菌性能が強いことを示す。なお、MICの値(ppm )が1600以下の場合に、抗菌性能を有することとした。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示すように、本実施形態のユウカリノキ水抽出物は、大腸菌を初めとするグラム陰性菌および黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対して抗菌性能を示した。一方、ユウカリノキ有機溶媒抽出物は、黄色ブドウ球菌に対してのみ抗菌性能を示し、大腸菌に対しては良好なあるいは実用的な抗菌性能を示さなかった。
【0077】
表1の結果から、抽出方法により、抽出物の抗菌スペクトルが異なることが判明した。具体的には、特開平11-80012号公報に開示された有機溶媒抽出物では、大腸菌などのグラム陰性菌に対して、MICなどの数値化した評価での効果が見出せなかった。しかし、水抽出物は抗菌スペクトルが広く、グラム陰性菌に対しても抗菌効果があることを見出した。
【0078】
次に、本実施形態の水抽出物を含有する抗微生物性塗膜の製法について説明する。先ず、塗料バインダ(塗料樹脂)として、水性アクリル樹脂エマルション(東洋インキ製造(株)製、商品名:PAW水性スクリーンインキ)10重量部(固形重量換算)を準備した。これに水抽出物1重量部を混合し、十分に分散させて、抗微生物性塗料を調製した。
【0079】
下記に示すように、得られた抗微生物性塗料を用いて抗微生物性塗膜を形成し、その抗菌性能を評価した。
【0080】
1.塗料樹脂と水抽出物を混練し、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に薄く伸ばして塗付する。塗付量は約0.1g/枚(乾燥前)である。なお、PETフィルムとして、125μm厚のPETフィルム(東レ製、商品名:ルミラー(U943))を用いた。
【0081】
2.塗装した後、常温で風乾させる。その後、乾燥機を用いて60℃で1時間の強制乾燥を行い、試験に供する。
【0082】
3.塗膜上に菌液(0.4ml)を滴下し、その上をフィルムでカバーする。37℃で24時間放置した後、菌液を回収し、培養を行って生菌数を求める。なお、培養時間は、黄色ブドウ球菌については48時間、大腸菌については24時間とした。
【0083】
水抽出物を用いない以外は、本実施形態と同様にして試験片を作成し、これをブランクとして評価に供した。また有機溶媒抽出物を用いて、本実施形態と同様に試験片を作成した。本実施形態の抗微生物性塗膜による抗菌性能の評価試験結果を表2に示す。また有機溶媒抽出物を用いた場合の抗菌性能の評価試験結果を表3に示す。
【0084】
なお、表2および表3中のEとその後の数字は、べき乗の数字を表す。また表2および表3において、MICの値(ppm )が3200以上のものについては、その抗菌性が乏しいので、表への記載を省略した。
【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
その結果、MIC値の低い抽出物を含有する抗微生物性塗膜に高い抗菌性能が認められた。具体的には、大腸菌を初めとするグラム陰性菌に対して、ユウカリノキ水抽出物を含有する抗微生物性塗膜が高い抗菌性能を示した(表2参照)。一方、ユウカリノキ有機溶媒抽出物については、その抗微生物性塗膜もグラム陰性菌に対して良好な抗菌性能を示さなかった(表3参照)。
【0088】
黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対して、ユウカリノキ水抽出物および有機溶媒抽出物の両方の抗微生物性塗膜が高い抗菌性能を示した(表2および表3参照)。以上の結果から、ユウカリノキ水抽出物を用いた本実施形態の抗微生物性塗膜は、グラム陰性菌およびグラム陽性菌に対し高い抗菌性能を示すことが確認された。
【0089】
上記では水抽出物を塗膜化するために水性アクリル樹脂エマルションを用いたが、塗料樹脂として他の樹脂を用いても同様の抗菌性能を発揮するとの結果が得られた。具体的には、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂などの他のポリマーを含むエマルションを用いても、水性アクリル樹脂エマルションと同様の抗菌性能を発揮するとの結果が得られた。また、親水性の大きい樹脂あるいはバインダとして、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性樹脂を用いても、抗微生物性塗膜としての実用的な抗菌性能を発揮できることが確認された。
【0090】
特に、水抽出により植物体抽出物が作成されるので、植物体抽出物の水親和性が大きく、水系塗料との親和性が良好である。したがって、本実施形態の抗微生物性塗膜は、水系塗料に展開し易い水抽出物を用い、有機溶媒を用いずに形成することかできるので、塗装作業上の点において有利であり、環境汚染への配慮の点からも工業的価値が大きい。さらに、微生物は水と共存し、水分の蒸発と共に飛散するので、水抽出物中の抗菌成分は微生物の周囲の水と親和性が良い。したがって、本実施形態の抗微生物性塗膜は、微生物への効果の点においても、抗菌成分が微生物に影響を与え易いという実使用上の利点を有する。
【0091】
(実施形態2)
中国産ショウガ科バンウコン植物根茎の水抽出物による抗菌性能と、本抽出物を含有する抗微生物性塗膜の製法と、各塗膜の抗菌性能について簡略に以下に記す。抽出に供したショウガ科バンウコン植物根茎は、摘み取った後に陰干ししたものである。ショウガ科バンウコン植物根茎を水抽出、具体的には水蒸気蒸留することによって、温水可溶な物質が得られた。これをロータリーエバポレータにより濃縮することによって、薄茶色液状物質が得られた。
【0092】
本実施形態の水抽出物と、有機溶媒(アセトン)抽出物とを対比するために、それぞれの抗菌性能の評価結果を表1に示す。なお、供試菌種、抗菌性能評価法および指標(MIC)については、実施形態1と同様である。また抗菌性能については、MIC値が1600以下の場合に、抗菌性能を有するとした。
【0093】
その結果、本実施形態のバンウコン水抽出物は、大腸菌を初めとするグラム陰性菌および黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対して、実施形態1のユウカリノキ水抽出物よりも少し弱いが、抗菌性能を示した。しかし、バンウコン有機溶媒抽出物については、グラム陰性菌およびグラム陽性菌のいずれの供試菌に対しても抗菌性能を示さなかった。
【0094】
次に、実施形態1と同様の製法で、水抽出物を含有する抗微生物性塗膜を作成した。得られた抗微生物性塗膜について、実施形態1と同様にして、抗菌性能を評価した。本実施形態の抗微生物性塗膜による抗菌性能の評価試験結果を表2に示す。また有機溶媒抽出物を含有する抗微生物性塗膜による抗菌性能の評価試験結果を表3に示す。
【0095】
その結果、MIC値の低い抽出物を含有する抗微生物性塗膜に抗菌性能が認められた。具体的には、大腸菌を初めとするグラム陰性菌に対して、バンウコン水抽出物を含有する抗微生物性塗膜が抗菌性能を示した。また、黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対しても、バンウコン水抽出物を含有する抗微生物性塗膜が抗菌性能を示した。
【0096】
しかし、バンウコン有機溶媒抽出物を含有する抗微生物性塗膜については、グラム陰性菌およびグラム陽性菌のいずれの供試菌に対しても抗菌性能を示さなかった(表への記載を省略)。
【0097】
以上の結果から、ショウガ科バンウコン植物根茎の水抽出物を含有する、本実施形態の抗微生物性塗膜は、グラム陰性菌およびグラム陽性菌に対し抗菌性能を示すことが確認された。
【0098】
(実施形態3)
シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体の水抽出物、シソ科コガネヤナギ植物根茎の水抽出物、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体の水抽出物、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および枝葉の水抽出物、キク科タイキンギク植物全植物体の水抽出物それぞれの抗菌性能と、各水抽出物を含有する抗微生物性塗膜の製法と、各塗膜の抗菌性能について簡略に以下に記す。
【0099】
シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体、シソ科コガネヤナギ植物根茎、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および枝葉、キク科タイキンギク植物全植物体は、摘み取った後に陰干ししたものをそれぞれ抽出に供した。
【0100】
それぞれの植物体あるいはその一部を水抽出、具体的には水蒸気蒸留することによって温水可溶な物質が得られた。さらにロータリーエバポレータにより成分を濃縮した。それぞれの水抽出物は以下の特徴を有する。シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体は茶褐色飴状、シソ科コガネヤナギ植物根茎は茶褐色飴状、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体は淡茶色粉末状、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および枝葉は茶褐色飴状、キク科タイキンギク植物全植物体は黒色グリス状である。
【0101】
各植物体の水抽出物と、有機溶媒(アセトン)抽出物とを対比するために、それぞれの抗菌性能の評価結果を表1に示す。なお、供試菌種、抗菌性能評価法および指標(MIC)については、実施形態1と同様である。また抗菌性能については、MIC値が1600以下の場合に、抗菌性能を有するとした。
【0102】
その結果、水抽出物では、黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対し、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボク、タイキンギクが抗菌性能を示した。一方、有機溶媒抽出物では、黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対し、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボクが抗菌性能を示した。
【0103】
次に、実施形態1と同様の製法で、各水抽出物を含有する抗微生物性塗膜をそれぞれ作成した。得られた抗微生物性塗膜について、実施形態1と同様にして、抗菌性能を評価した。本実施形態の抗微生物性塗膜による抗菌性能の評価試験結果を表2に示す。また有機溶媒抽出物を含有する抗微生物性塗膜による抗菌性能の評価試験結果を表3に示す。
【0104】
その結果、MIC値の低い抽出物を含有する抗微生物性塗膜に抗菌性能が認められた。具体的には、黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対して、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボク、タイキンギクの各水抽出物をそれぞれ含有する抗微生物性塗膜が高い抗菌性能を示した。
【0105】
以上の結果から、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボク、タイキンギクの各水抽出物を含有する、本実施形態の抗微生物性塗膜は、グラム陽性菌に対し高い抗菌性能を示すことが確認された。なお、本実施形態ではウルシ科ランシンボク植物の樹皮および枝葉の水抽出物を用いたが、ウルシ科ランシンボク植物の樹皮の水抽出物または枝葉の水抽出物のいずれか一方を用いた場合でも、両者の水抽出物と同等の抗菌性能を示した。
【0106】
(実施形態4)
シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体の有機溶媒抽出物、シソ科コガネヤナギ植物根茎の有機溶媒抽出物、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体の有機溶媒抽出物、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および枝葉の有機溶媒抽出物、タデ科ダイオウ植物根茎の有機溶媒抽出物それぞれの抗菌性能と、各有機溶媒抽出物を含有する抗微生物性塗膜の製法と、各塗膜の抗菌性能について簡略に以下に記す。
【0107】
シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体、シソ科コガネヤナギ植物根茎、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および枝葉、タデ科ダイオウ植物根茎は、摘み取った後に陰干ししたものをそれぞれ抽出に供した。
【0108】
それぞれの植物体(全植物体あるいはその一部)を有機溶媒、具体的にはアセトン70%と水30%の混合有機溶媒で抽出し、ロータリーエバポレータによる蒸留によって上記有機溶媒に可溶な物質が得られた。さらにロータリーエバポレータにより成分を濃縮した。それぞれの有機溶媒抽出物は以下の特徴を有する。シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上部の全植物体は濃土色粉末状、シソ科コガネヤナギ植物根茎は黄色粉末状、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体はアイボリー色針状結晶粉末状、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および枝葉は薄オレンジ色粉末状、タデ科ダイオウ植物根茎は茶褐色高粘凋である。
【0109】
各植物体の有機溶媒抽出物と水抽出物とを対比するために、それぞれの抗菌性能の評価結果を表1に示す。供試菌種、抗菌性能評価法および指標(MIC)については、実施形態1と同様である。また抗菌性能については、MIC値が1600以下の場合に、抗菌性能を有することとした。
【0110】
その結果、水抽出物では、黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対し、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボクが抗菌性能を示した。一方、有機溶媒抽出物では、黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対し、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボク、ダイオウが抗菌性能を示した。
【0111】
次に、それぞれの植物体の有機溶媒抽出物を含有する抗微生物性塗膜の製法について説明する。先ず、塗料バインダ(塗料樹脂)として、水系ウレタン樹脂10重量部(固形重量換算)とアクリル系ラテックス1重量部(固形重量換算)の混合液を準備した。これに有機溶媒抽出物1重量部を混合し、十分に分散させて、抗微生物性塗料を調製した。ここで用いた水系ウレタン樹脂は日本エヌエスシー(株)製のRA85(商品名)であり、アクリル系ラテックスは日本ゼオン(株)製のLX854C(商品名)である。
【0112】
実施形態1と同様の製法で、各有機溶媒抽出物を含有する抗微生物性塗膜をそれぞれ作成した。得られた抗微生物性塗膜について、実施形態1と同様にして、抗菌性能を評価した。本実施形態の抗微生物性塗膜による抗菌性能の評価試験結果を表3に示す。
【0113】
その結果、MIC値の低い抽出物を含有する抗微生物性塗膜に高い抗菌性能が認められた。具体的には、黄色ブドウ球菌を初めとするグラム陽性菌に対して、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボク、ダイオウの各有機溶媒抽出物を含有する抗微生物性塗膜が高い抗菌性能を示した。一方、大腸菌を初めとするグラム陰性菌に対しては、高い抗菌性能を示すものはなかった。
【0114】
以上の結果から、マンシュウヒキオコシ、コガネヤナギ、ナガサルオガセ、ランシンボク、ダイオウの各有機溶媒抽出物を含有する、本実施形態の抗微生物性塗膜は、グラム陽性菌に対し高い抗菌性能を示すことが確認された。なお、本実施形態ではウルシ科ランシンボク植物の樹皮および枝葉の有機溶媒抽出物を用いたが、ウルシ科ランシンボク植物の樹皮の有機溶媒抽出物または枝葉の有機溶媒抽出物のいずれか一方を用いた場合でも、両者の有機溶媒抽出物と同等の抗菌性能を示した。
【0115】
(実施形態5)
本実施形態では、塗膜中の抽出物濃度が抗菌性能および塗膜特性に与える影響について評価する。試験に供する抽出物として、実施形態4で調製したナガサルオガセの有機溶媒抽出物を用いた。使用した樹脂はウレタン系樹脂であり、水を溶媒とする水溶性ウレタン樹脂である。固形分量換算で、100重量部の水溶性ウレタン樹脂に対して、本抽出物0.1から500重量部を混合分散させ、その抗菌性能を評価した。評価試験法は、実施形態1に記載の抗菌性能評価と同様の方法である。評価試験に用いる試料は、具体的には以下の方法で作成した。
【0116】
(1) 1重量部の本抽出物と、固形重量換算100重量部の上記樹脂と、塗付溶媒(水)とを混合させて抗微生物性塗料を調製した。塗装しやすい粘度に塗付溶媒(水)で希釈して用いた。
【0117】
(2) 上記(1) で調製した塗料を5cm角、125μm厚のPETフィルム表面に、ロールコーター法にて約100mg/25cmの塗布量(乾燥重量換算)で塗装した。塗装後、充分乾燥するまで埃のかからない場所で、換気を充分行いながら乾燥させた。その後約1時間、60℃にて乾燥機で強制乾燥させた後、抗菌性能評価に供した。
【0118】
また、本抽出物を含まず、それ以外の樹脂成分を含む「ブランク」試料も同様の方法で作成した。それぞれの試料について塗装前後の重量を測定して、本抽出物の正味重量を算出した。同様にして、本抽出物と塗料樹脂との混合比を種々変更した試料を作成し、各試料の抗菌性能を評価した。その結果を表4に示す。試料とブランクとで生残菌数を比較して、試験開始24時間後の生残菌数の比(ブランク/試料)が1000以上のとき「◎」、1000未満100以上のとき「○」、100未満50以上のとき「△」をそれぞれ表4に付した。
【0119】
【表4】

【0120】
上記結果から、塗膜中の乾燥重量比0.1以上の塗布量にて抗微生物性塗料を塗布することにより、生活環境中に存在する微生物に対して実用的レベル以上の抗菌性能を示すことが分かる。特に、100重量部の水溶性ウレタン樹脂に対して1重量部〜500重量部の本抽出物を混合した抗微生物性塗料を用いて形成された抗微生物性塗膜が実用的な抗菌性能を有することが確認された。また、100重量部の水溶性ウレタン樹脂に対して100重量部以下の本抽出物を混合した場合には、実用的な塗膜特性が得られることが確認された。本抽出物の原料が漢方薬製剤原料として永年にわたって用いられてきた実績により、抗微生物性塗膜の安全性についても高いと考えられる。
【0121】
水溶性ウレタン樹脂に代えて、塗料樹脂としてポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂に変更した場合についても、水溶性ウレタン樹脂を用いた場合と同様の傾向を示した。また、他の抽出物についても同じ実験を行い、同様の結果を得た。
【0122】
(実施形態6)
本実施形態では、植物体の有効成分が無機担体に担持された抗微生物性塗膜について説明する。植物体としてシソ科マンシュウヒキオコシ地上部の全植物体を用いた。シソ科マンシュウヒキオコシ地上部の全植物体を夏から秋にかけて刈り取り、異物を除き、充分乾燥の後、抽出に供した。
【0123】
マンシュウヒキオコシ地上部の全植物体をアセトン70%と水30%の混合有機溶媒中に浸漬させ、混合溶媒に可溶な物質を抽出した。スプレードライ法を用いて含有成分を濃縮して、水/エタノール系溶媒に可溶な濃土色粉末を得た。
【0124】
無機担体としてハイドロタルサイト類化合物(板面径0.3μm、厚み0.06μm、比表面積14m2 /g)の粉体(戸田工業(株) 製)を準備した。この粉体1重量部および本抽出物1重量部を70%エチルアルコールと30%水の混合溶媒に分散させた。充分に分散させた後、撹拌させながら溶媒を蒸発させると、無機担体に本抽出物が担持された抗微生物性粒子が得られる。
【0125】
塗料樹脂としてのポリビニルアルコールを塗付溶媒としての水に溶解した水性塗料中にこの抗微生物性粒子を分散させて、抗微生物性塗料を調製した。具体的には、塗布後の膜重量換算として、本抽出物を5重量部、無機担体としてハイドロタルサイト類化合物を5重量部、ポリビニルアルコールを90重量部の比率で含むように、抗微生物性塗料を調製した。この抗微生物性塗料について、実施形態1で記載した評価方法を用いて、同様に抗菌性能を評価した。その結果、本抽出物が担持された抗微生物性粒子を分散させた抗微生物性塗膜は、実用的な塗膜性能と、グラム陽性菌に対する抗菌性能を有することが確認された。
【0126】
本実施形態では、本抽出物が無機担体に担持されているので、本抽出物の耐熱性を向上させることができる。また、本抽出物が無機担体の外側表面だけでなく、無機担体の細孔中にも存在するので、外側表面の本抽出物が雨水などにより喪失した場合でも、細孔中の本抽出物が残存し、抗微生物性作用を持続させることができる。
【0127】
ポリビニルアルコールに代えて、塗料樹脂として、水溶性ウレタン樹脂、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂に変更した場合についても、ポリビニルアルコールを用いた場合と同様の傾向を示した。また、他の抽出物についても同じ実験を行い、同様の結果を得た。
【0128】
(実施形態7)
無機担体として、多孔質な無機酸化物から主として構成され、300m2 /g以上の比表面積を有し、表面にシラノール基を有する粒度50μm以下の粒子状粉体を用いた以外は、実施形態6と同様にして、抗微生物性塗膜を作成した。具体的には、表面を疎水処理した粒度1μmのシリカゲル微粒子(商品名:サイロホービック200、富士シリシア化学(株)製)を用いて、実施形態6と同様の工程を経て、抗微生物性粒子を調製した。
【0129】
この抗微生物性粒子を用いて、抗微生物性塗料を調製した。具体的には、ランシンボク樹皮および/または枝葉の水抽出物5重量部、シリカゲル粉末2重量部、水溶性ウレタン樹脂93重量部(固形重量換算)を混合した抗微生物性塗料を調製した。
【0130】
その結果、無機担体としてハイドロタルサイト類化合物を用いた場合と同様に、本抽出物が担持されたシリカゲル微粒子を含有する抗微生物性塗膜は、実用的な塗膜性能と抗菌性能を有することが確認された。
【0131】
水溶性ウレタン樹脂に代えて、塗料樹脂としてポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂に変更した場合についても、水溶性ウレタン樹脂を用いた場合と同様の傾向を示した。また、他の抽出物についても同じ実験を行い、同様の結果を得た。
【0132】
(実施形態8)
本実施形態では、近年注目を集めているカテキン類と、少なくとも一種の植物体抽出物を含有する抗微生物性塗膜について説明する。本実施形態の抗微生物性塗膜は、フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉の水抽出物、カテキン類および塗付溶媒を含有する。
【0133】
カテキン類は、茶葉に含まれる水溶性成分であり、渋味があることから一般にはタンニンと呼ばれている。茶のカテキン類には、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、カテキンなどの種類がある。
【0134】
本実施形態で使用するカテキン類は茶葉の抽出物であり、グラム陽性菌に対するMICは黄色ブドウ球菌に対して250〜800ppm であると報告されている(抗菌剤の化学II、工業調査会刊)。しかし、グラム陰性菌に対するカテキン類の抗菌性能については報告されていない。
【0135】
実施形態1で説明した製法により、中国産フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉の水抽出物を準備した。本抽出物とカテキン類とを重量比で1:1になるように混合し、これらを塗装性能の出る程度の濃度で塗付溶媒(水)に分散させて、抗微生物性塗料を調製した。
【0136】
この抗微生物性塗料を用いて、実施形態5と同様の方法で抗微生物性塗膜を作成し、抗菌性能を評価した。その結果、実用的な抗菌性能と塗膜特性が得られることが確認された。
【0137】
(実施形態9)
本実施形態では、銀系抗菌剤を含有する抗微生物性塗膜について説明する。本実施形態の抗微生物性塗膜は、シソ科コガネヤナギ植物根茎の水抽出物、銀錯体系抗菌剤、塗料樹脂および塗付溶媒を含有する。
【0138】
シソ科コガネヤナギ植物根茎を充分乾燥させた後、抽出に供した。シソ科コガネヤナギ植物根茎を水中に浸漬させることによって、温水可溶な物質が得られた。スプレードライ法を用いて、この物質を粉末化することにより、黄色粉末が得られた。
【0139】
チオスルファト銀錯体をシリカゲルに吸着担持させ、その表面をテトラエトキシシラン加水分解物で被覆した銀錯体系抗菌剤(商品名:アメニトップ、松下電器産業株式会社製)1重量部と、シソ科コガネヤナギ植物根茎の水抽出物1重量部とを、溶媒としての20重量部の水に分散させた後、撹拌しながら水分を蒸発乾燥させた。これにより、銀錯体抗菌剤表面に本抽出物が固着した抗菌性粒子が調製された。塗装性能が出る程度に、カルボキシメチルセルロース98重量部を塗付溶媒(水)に分散させて、塗料バインダを調製した。この塗料バインダ中に上記抗菌性粒子2重量部を分散させて、抗微生物性塗料を調製した。
【0140】
この抗微生物性塗料を用いて、実施形態5と同様の方法で抗微生物性塗膜を作成し、抗菌性能を評価した。その結果、実用的な抗菌性能と塗膜特性が得られることが確認された。
【0141】
カルボキシメチルセルロースに代えて、塗料樹脂としてポリビニルアルコール、水溶性ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂に変更した場合についても、水溶性ウレタン樹脂を用いた場合と同様の傾向を示した。また、他の抽出物についても同じ実験を行い、同様の結果を得た。
【0142】
(実施形態10)
本実施形態では、抗微生物性塗膜を有するエアフィルタについて説明する。実施形態1と同様の製法で調製した中国産フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉の水抽出物と、実施形態4と同様の製法で調製したサルオガセ科ナガサルオガセ植物の全植物体の水抽出物とを準備した。両者を1:1で混合した抽出混合物2重量部と、固形物重量換算で98重量部の水性アクリル樹脂とを混合分散させて、抗微生物性塗料を調製した。
【0143】
一方、空気清浄機用のフィルタに用いられている不織布を準備した。このフィルタはプレフィルタ層と帯電フィルタ層とを有する。プレフィルタ層は、直径が約30μmの繊維からなるポリプロピレン不織布であり、その上にメルトブローされたポリプロピレン極細繊維により帯電フィルタ層が形成されている。帯電フィルタ層に対して反対側のプレフィルタ層の面にのみ抗微生物性塗料をグラビア印刷法で印刷した。印刷された抗微生物性塗料を乾燥させることにより、抗微生物性塗膜が形成された。
【0144】
図1はプレフィルタ層の部分拡大図である。図1に示すように、不織布は互いに交差する複数のポリプロピレン繊維(1) を有しており、抽出混合物(3) が分散された抗微生物性塗膜(2) が繊維(1) の交点に形成されている。なお、実際には、抽出混合物(3) が抗微生物性塗膜(2) 中に溶解、分散されており、抽出混合物(3) が粒子状とならないが、図1では分散を模式的に表すために、抽出混合物(3) を粒子化して表示している。
【0145】
抗微生物性塗料をグラビア印刷法で印刷することにより、不織布の少なくとも繊維交点に抗微生物性塗料を付着、塗工することが可能となる。言い換えれば、抗微生物性塗料がプレフィルタ層表面の繊維交点付近に塗工されるので、抗微生物性塗料がフィルタ層内部に入らず、フィルタを通過する空気の圧損になり難い。また気流からフィルタ部表面(特に繊維交点付近)に捕集され、添着した微生物に対して、抗微生物性塗膜(2) が抗菌性能を発揮する。
【0146】
このフィルタ表面の抗菌性能を測定した結果を表5に示す。対数増殖期に活性化された微生物を初期菌数としてフィルタ上に滴下し、24時間、35℃雰囲気中に放置した後の生存菌数を計数した。なお、抗微生物性塗料による加工を施していない従来の無加工フィルタについても同様に抗菌性能を測定し、その結果を「従来フィルタ」として表5中に記載した。表5中の数字はフィルタ表面の生菌数(単位:cfu/ml)である。
【0147】
【表5】

【0148】
表5に示すように、本実施形態のフィルタには実用的な抗菌性能が認められた。また本フィルタが装着された空気清浄機も実用的な抗菌性能を発揮した。
【0149】
本実施形態では空気清浄機用のフィルタについて説明したが、抗微生物性塗膜が形成されたフィルタを浄水器に適用しても良い。
【0150】
(実施形態11)
本実施形態では、抗微生物性塗膜を有する工業製品としてカルテファイルを例示的に説明する。実施形態1と同様の製法で調製した中国産フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉の水抽出物と、実施形態2と同様の製法で調製したショウガ科バンウコン植物根茎の水抽出物とを準備した。両者を1:1で混合した抽出混合物3重量部と、固形物重量換算で97重量部の水性アクリル樹脂とを混合分散させて、抗微生物性塗料を調製した。
【0151】
一方、基材となる原紙(150g/m2 )を準備し、合成ゴムラテックス樹脂を原紙に含浸させる。カレンダー加工により、原紙の表面に膜厚約80μmの軟質塩化ビニル樹脂皮膜を形成して、表面の風合いと色調を整える。表面加工した原紙上に、上記抗微生物性塗料をグラビアコーティングにより膜厚およそ2μm〜6μmで塗工する。これを裁断、穿孔、折り曲げ加工して、カルテファイルを作成した。
【0152】
実施の形態1と同様の試験方法にて、上記カルテファイル表面の抗菌性能を評価した。その結果を表6に示す。なお、カルテファイル表面に抗菌加工を施していないカルテファイルについても同様に抗菌性能を測定し、その結果を「無処理品」として表6中に記載した。表6中の数字はカルテファイル表面の生菌数(単位:cfu/ml)である。
【0153】
【表6】

【0154】
表6に示すように、本実施形態のカルテファイルには実用的な抗菌性能が認められた。また、本発明で規定する植物体抽出物の少なくとも1種を含有する抗微生物性塗料を筐体上または部品基材上に塗工し、あるいは基材に含浸することによって、抗微生物性塗膜を有する工業製品を作成した。作成された工業製品は、壁紙、文具、自動車部品、家具、調理器具、医療器具である。これら工業製品の表面抗菌性能を評価した結果、いずれも実用上良好な抗菌性能を示した。
【0155】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲に限定されない。上記実施形態は例示であり、それらの各構成要素を種々変更した変更例が可能なこと、またそうした変更例も本発明の技術的範囲に属することは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明の抗微生物性塗膜は、微生物に起因した様々な弊害を防止するために利用することができる。例えば、生活関連資材に対する抗菌加工表面処理、工業製品およびその部材に対する防腐処理、微生物による建築関連資材の腐食を防止するための処理、食品関連資材に対する防腐処理、流通包装資材に対する微生物制御および悪臭防止、水処理における微生物制御などの用途等に有用である。また、医薬関連資材に対する微生物制御薬剤、公衆衛生用消毒薬剤等としても適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】プレフィルタ層の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0158】
1 ポリプロピレン繊維
2 抗微生物性塗膜
3 抽出混合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉、ショウガ科バンウコン植物根茎、シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上全植物体、シソ科コガネヤナギ植物根茎、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および/または枝葉、キク科タイキンギク植物全植物体のいずれかの植物体水抽出物と、塗料樹脂を少なくとも含むことを特徴とする抗微生物性塗膜。
【請求項2】
シソ科マンシュウヒキオコシ植物地上全植物体、シソ科コガネヤナギ植物根茎、サルオガセ科ナガサルオガセ植物全植物体、ウルシ科ランシンボク植物樹皮および/または枝葉、タデ科ダイオウ植物根茎のいずれかの植物体有機溶媒抽出物と、塗料樹脂を少なくとも含むことを特徴とする抗微生物性塗膜。
【請求項3】
前記塗料樹脂は、樹脂をエマルション化して水に分散した水性塗料の樹脂を含むことを特徴とする請求項1または2記載の抗微生物性塗膜。
【請求項4】
前記植物体水抽出物または前記植物体有機溶媒抽出物の量が、前記塗料樹脂固形分100重量部に対して抗微生物性塗膜中の1重量部から500重量部であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の抗微生物性塗膜。
【請求項5】
少なくとも無機担体が塗膜中に分散されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の抗微生物性塗膜。
【請求項6】
上記無機担体が無機酸化物化合物で、少なくとも300m2 /g以上の比表面積を有し、表面にシラノール基を有する粒径50μm以下の粒子状粉体からなることを特徴とする請求項5記載の抗微生物性塗膜。
【請求項7】
カテキンおよび/または銀系抗菌剤を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の抗微生物性塗膜。
【請求項8】
上記銀系抗菌剤は、銀錯体および/または銀イオンを主成分として担体に担持された構成からなることを特徴とする請求項7記載の抗微生物性塗膜。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項記載の抗微生物性塗膜を、少なくとも不織布の繊維交点に含むことを特徴とするエアフィルタを装着した工業製品。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項記載の抗微生物性塗膜を、少なくとも製品筐体、部品基材上に設けてなる工業製品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−22074(P2006−22074A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203734(P2004−203734)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】