説明

抗悪性腫瘍性熱ショックアポトーシス活性化因子(HSAA)と組み合わせられたアルファチモシンペプチドによる黒色腫の処置の方法

黒色腫を処置する組み合わせを処置計画中のヒト黒色腫患者へ投与する工程を含む組み合わせ治療において、ヒト患者における黒色腫またはその転移が処置される。組み合わせは、アルファチモシンペプチドおよびSTA-4783のような抗悪性腫瘍性熱ショックアポトーシス活性化因子(HSAA)(および、任意で、パクリタクセルのような抗悪性腫瘍性細胞障害性化学療法剤)、および/または、任意で、一つまたは複数のさらなる抗黒色腫剤を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その開示が参照により本明細書に完全に組み入れられる2007年12月14日出願の米国仮出願第60/013,808号の恩典を主張する。
【0002】
発明の領域
本発明は黒色腫処置の領域に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
皮膚癌は米国において最も一般的な癌の型である。2007年、American Cancer Societyは、この国で、およそ8,110人が黒色腫によって死亡し、今後、さらに59,940例の黒色腫が診断されることが予想される、と推定している。
【0004】
黒色腫は、主に皮膚に見出され、腸および眼(ブドウ膜黒色腫)にも見出されるメラノサイトの悪性腫瘍である。それは、皮膚癌の比較的稀な型のうちの一つであるが、皮膚癌に関連する死亡の過半数を引き起こしている。
【0005】
その処置には、腫瘍の外科的除去;補助処置;化学療法および免疫療法、または放射線治療が含まれる。特に危険であるのは、原発性黒色腫腫瘍の転移である。
【0006】
黒色腫の改善された処置が当技術分野において必要とされ続けている。
【発明の概要】
【0007】
本発明により、黒色腫を処置する組み合わせを処置計画中のヒト黒色腫患者へ投与する工程を含む組み合わせ治療においてヒト患者における黒色腫またはその転移を処置する方法であって、組み合わせが、アルファチモシンペプチドおよび抗悪性腫瘍性熱ショックアポトーシス活性化因子(heat shock apoptosis activator)(HSAA)を含む、方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
好ましい態様の説明
本発明は、ヒト患者における黒色腫またはその転移を処置する方法に関する。方法は、アルファチモシンペプチドおよび抗悪性腫瘍性熱ショックアポトーシス活性化因子(HSAA)を含む黒色腫を処置する有効な組み合わせを、ヒト黒色腫患者へ投与する工程を含む。
【0009】
ある種の態様において、組み合わせは、黒色腫に対抗するかまたは黒色腫を処置するための一つまたは複数のさらなる薬剤をさらに含む。
【0010】
アルファチモシンペプチドには、天然に存在するTA1を含むチモシンアルファ1(TA1)ペプチドのみならず、天然に存在するTA1のアミノ酸配列、それに実質的に類似したアミノ酸配列、またはそれらの短縮配列型を有する合成TA1および組換えTA1、ならびにTA1のものに実質的に類似した生理活性を保有している、置換、欠失、延長、交換、またはその他の修飾を受けた配列を有するそれらの生物学的に活性のアナログ、例えば、TA1と実質的に同一の活性を有し、実質的に同一の方式で機能するために十分なTA1とのアミノ酸相同性を有するTA1由来ペプチドも含まれる。アルファチモシンペプチドの適当な投薬量は、約0.001〜10mg/kg/日の範囲内にあり得る。
【0011】
「チモシンアルファ1」および「TA1」という用語は、米国特許第4,079,137号(その開示は参照によって本明細書に組み入れられる)に開示されたアミノ酸配列を有するペプチドをさす。
【0012】
当初、チモシンフラクション5(TF5)から単離されたチモシンアルファ1(TA1)は、配列決定され化学合成されている。TA1は、3108という分子量を有する28アミノ酸ペプチドである。
【0013】
アルファチモシンペプチドの有効量は、TA1約0.1〜20mg、TA1約1〜10mg、TA1約2〜10mg、TA1約2〜7mg、またはTA1約3〜6.5mgに相当する範囲内の投薬単位であり得る量である。投薬単位は、約1.6mg、約3.2mg、または約6.4mgのTA1を含んでいてもよく、約3.2mgまたは約6.4mgのTA1を含んでいてもよい。投薬単位は、1日1回投与されてもよいし、または1日複数回投与されてもよい。
【0014】
黒色腫は、0期、I期、II期、III期、およびIV期、ならびにそれらの亜病期を含み得る様々な病期を有する。ある種の態様において、処置される黒色腫は、悪性転移性黒色腫である。ある種の態様において、処置される黒色腫は、I期、II期、III期、またはIV期である。その他の態様において、処置される黒色腫は、M1a期、M1b期、またはM1c期の黒色腫である。
【0015】
アルファチモシンペプチドは、抗悪性腫瘍性熱ショックアポトーシス活性化因子(HSAA)の患者への投与を含む処置計画において投与される。これらには、非限定的に、STA-4783(エレスクロモル)が含まれる。エレスクロモルは、酸化ストレスレベルを限界点を越えて上昇させ、プログラム細胞死を誘発することにより、癌細胞を死滅させる。エレスクロモルは、癌細胞内で、酸化ストレス、即ち、活性酸素(ROS)のレベルの劇的な増加を急速に引き起こすことが示されている。
【0016】
本発明の方法は、処置計画の過程で、抗悪性腫瘍性熱ショックアポトーシス活性化因子(HSAA)を投与すると共に、アルファチモシンペプチドを投与することを含む。HSAAは、連続的に(即ち、毎日)投与されてもよいし、1日複数回投与されてもよいし、隔日投与されてもよく、処置計画の間にアルファチモシンペプチドと同時に投与されてもよいし、または別々に投与されてもよく、例えば、処置計画の過程で、アルファチモシンペプチドと同一の日に投与されてもよいし、または異なる日に投与されてもよい。ある種の態様において、HSAAは、例えば、約0.01〜1000mg/kg/投与日、約0.1〜500mg/kg/日、または約1〜200mg/kg/日の投薬量範囲で投与される。一日投薬量は、例えば、25mg/kg、100mg/kg等であり得る。
【0017】
ある種の態様において、アルファチモシンペプチドは、HSAAの患者への投与を含み、これに限定はされないが、パクリタクセルのような抗悪性腫瘍性細胞障害性化学療法(CC)剤の投与をさらに含む処置計画において投与される。パクリタクセルの細胞障害特性および抗腫瘍特性は、チューブリン二量体からの微小管の組み立てを誘導し、微小管の脱重合を防止することにより、アポトーシス(プログラム細胞死)を促進する能力に由来する。安定化された微小管は、生命維持に必要な間期および有系分裂機能のために不可欠な微小管ネットワークの正常な動的再編成を阻害する。さらに、パクリタクセルは、細胞周期を通じて微小管の異常なアレイまたは「束」を誘導し、有糸分裂の間、微小管の複数の星状体を誘導する。細胞障害性化学療法薬(CC)は、処置1回当たり約1〜500mg以内の投薬量範囲で、または処置1回当たり約70〜280mgの投薬量範囲で患者に投与され得る。
【0018】
ある種の態様において、処置計画は、複数の日を含み、アルファチモシンペプチドはチモシンアルファ1(TA1)を含み、かつTA1は約0.5〜10mg/日の範囲内の投薬量で処置計画の少なくとも一部分の間に患者に投与さる。ある種の態様において、TA1投薬量は、約1.5〜7mg/日の範囲内、または約1.6〜6.4mg/日の範囲内にある。ある種の態様において、TA1投薬量は、約1.7〜10mg/日、1.7〜7mg/日、または約3〜7mg/日の範囲内にある。例示的な投薬量には、1.6mg/日、3.2mg/日、および6.4mg/日が含まれる。
【0019】
ある種の態様において、処置計画は、約1〜10日の期間、アルファチモシンペプチドを投与すること、それに続く約1〜5日間のアルファチモシンペプチドの非投与を含む。アルファチモシンペプチドは、約3〜5日間毎日投与され、その後、約2〜4日間のアルファチモシンペプチドの非投与が続いてもよい。または、アルファチモシンペプチドは、約4日間毎日投与され、その後、約3日間のアルファチモシンペプチドの非投与が続いてもよい。
【0020】
上述のように、ある種の態様において、組み合わせは、黒色腫に対抗するかまたは黒色腫を処置するための一つまたは複数のさらなる薬剤をさらに含む。そのようなさらなる薬剤は、これに限定はされないが、ダカルバジン(DTIC)を含む、アルキル化抗悪性腫瘍剤(AlkAA)のような抗悪性腫瘍剤であり得る。アルキル化抗悪性腫瘍剤剤(AlkAA)のような、組み合わせのさらなる薬剤は、例えば、約700〜1300mg/m2/日、約800〜1200mg/m2/日、および/または約1000mg/m2/日の投薬量範囲内で患者に投与され得る。
【0021】
組み合わせの様々な成分は、処置計画中、その他の成分と同時に投与されてもよいし、または別々に投与されてもよい。
【0022】
一つの態様によると、本発明は、ヒト黒色腫患者における黒色腫またはその転移を処置するための処置計画において使用するための黒色腫を処置する有効な薬学的組み合わせまたは医薬の製造における、アルファチモシンペプチドおよび抗悪性腫瘍性熱ショックアポトーシス活性化因子(HSAA)(および、任意で、パクリタクセルのような抗悪性腫瘍性細胞障害性化学療法剤)の使用を含む。
【0023】
一つの態様によると、医薬は、黒色腫またはその転移の処置のために有意義な量で、処置計画中の患者への任意の免疫刺激性サイトカインを実質的に排除する処置計画において使用するためのものである。
【0024】
一つの態様によると、ヒト黒色腫患者は、実質的に上昇したLDH血中レベルを有しておらず、例えば、LDH血中レベルは475IU/L未満である。
【0025】
一つの態様によると、LDH血中レベルは100〜335IU/Lである。
【0026】
一つの態様は、処置計画の過程において使用するための、アルファチモシンペプチドを含み、抗悪性腫瘍性熱ショックアポトーシス活性化因子(HSAA)(および、任意で、パクリタクセルのような抗悪性腫瘍性細胞障害性化学療法剤)をさらに含む薬学的組み合わせの製造である。ここで、アルファチモシンペプチドおよび抗悪性腫瘍性熱ショックアポトーシス活性化因子(HSAA)(および、任意で、パクリタクセルのような抗悪性腫瘍性細胞障害性化学療法剤)、および/または、任意で、一つまたは複数のさらなる抗黒色腫剤は、別々に投与されてもよいし、または一緒に投与されてもよい。
【0027】
一つの態様によると、HSAAはSTA-4783(エレスクロモル)である。
【0028】
一つの態様によると、抗悪性腫瘍性細胞障害性化学療法剤はパクリタクセルである。
【0029】
一つの態様によると、医薬は複数の日を含む処置計画において使用するためのものであり、アルファチモシンペプチドはチモシンアルファ1(TA1)を含み、かつTA1は0.5〜10mg/日の範囲内の投薬量で処置計画の少なくとも一部分の間に患者への投与において使用するためのものである。
【0030】
一つの態様によると、TA1投薬量は、1.5〜7mg/日の範囲内にある。
【0031】
一つの態様によると、TA1投薬量は、3.2mg/日である。
【0032】
一つの態様によると、TA1投薬量は、6.4mg/日である。
【0033】
一つの態様によると、アルファチモシンペプチドはTA1であり、医薬は、約1〜10日の期間のTA1の毎日投与、それに続く約1〜5日間のTA1の非投与を含む処置計画において使用するためのものである。
【0034】
一つの態様によると、TA1は、約3〜5日間の毎日投与、それに続く約2〜4日間のTA1の非投与において使用するためのものである。
【0035】
一つの態様によると、TA1は、約4日間の毎日投与、それに続く約3日間のTA1の非投与において使用するためのものである。
【0036】
本発明は、黒色腫患者への投与のための薬学的組み合わせの製造における、アルファチモシンペプチドおよび抗悪性腫瘍性熱ショックアポトーシス活性化因子(HSAA)(および、任意で、パクリタクセルのような抗悪性腫瘍性細胞障害性化学療法剤)の使用にも関し、ここで、アルファチモシンペプチドおよび抗悪性腫瘍性熱ショックアポトーシス活性化因子(HSAA)(および、任意で、パクリタクセルのような抗悪性腫瘍性細胞障害性化学療法剤)は、別々に投与されてもよいし、または一緒に投与されてもよい。本発明はさらに、アルファチモシンペプチド、抗悪性腫瘍性熱ショックアポトーシス活性化因子(HSAA)(および、任意で、パクリタクセルのような抗悪性腫瘍性細胞障害性化学療法剤)、および/または、任意で、一つまたは複数のさらなる抗黒色腫剤を含み、任意で、黒色腫の処置における使用に関する説明書をさらに含むキットにも関する。
【実施例】
【0037】
実施例1
皮下黒色腫保持マウスにおけるチモシンアルファ-1、パクリタクセル、およびエレスクロモルの組み合わせ処置の抗腫瘍効力研究
【0038】
略語
BW 体重
CO2 二酸化炭素
コンボ 組み合わせ
Ele エレスクロモル
G グラム
IR 阻害率
i.v. 静脈内
Kg キログラム
L 長さ
Mg ミリグラム
mL ミリリットル
Pac パクリタクセル
PBS リン酸緩衝生理食塩水
s.c. 皮下
SD 標準偏差
TA-1 チモシンアルファ-1
TV 腫瘍体積
TW 腫瘍重量
BLBF Bridge Laboratories Beijing Facility
W 幅
【0039】
概要
この研究においては、チモシンアルファ-1(TA-1)、パクリタクセル(Pac)、およびエレスクロモル(Ele)の組み合わせ処置の抗腫瘍効果を、B16黒色腫細胞保持C57BL/6マウスにおいて評価した。投薬計画の毒性効果もモニタリングした。計60匹のマウスに、マウスB16細胞を皮下移植した後、14日連続で、単独で、または組み合わせて、TA-1またはPac/Eleにより処置した。TA-1はs.c.を介して毎日与えられ、PacおよびEleは1日目、7日目、および13日目に同時にi.v.投与された。全部で6つの群を使用した:群1:媒体;群2:TA-1 6mg/kg;群3:Pac 10mg/kg+Ele 10mg/kg;群4:Pac 30mg/kg+Ele 30mg/kg;群5:TA-1 6mg/kg+Pac 10mg/kg+Ele 10mg/kg;および群6:TA-1 6mg/kg+Pac 30mg/kg+Ele 30mg/kg。腫瘍体積および体重を3日毎に測定し、腫瘍重量を研究終了時17日目に測定した。
【0040】
腫瘍測定データは、6日目、9日目、12日目、および15日目の全ての処置の平均腫瘍体積が群1のものより統計的に有意に小さかったことを示した。17日目には、全ての処置群の平均腫瘍重量が、群1より低かった。群2、群3、群4、群5、および群6のPItw値は、それぞれ、55.67%、62.6%、55.42%、73.61%、および54.19%であり、このことから、全ての処置計画の有効性が示された。TA-1を低用量Pac/Eleと組み合わせて使用した場合には、統計的に有意ではなかったが、増強された腫瘍阻害効果が観察された。
【0041】
研究の過程を通じて、化学療法処置を受けた群、群3、群5、および群6において、7匹の動物の死亡が認められた。死亡の大部分は、腫瘍が触知可能でなかった処置過程の初期に観察された。さらに、群6(高用量三種薬物組み合わせ処置群)における平均体重は、有意に減少した。これらの観察は、高用量組み合わせ処置の毒性効果を示唆した。単独で使用された場合、TA-1は、研究の過程を通じて減量を引き起こさず、このことから、TA-1が毒性でないことが示された。低用量Pac/Ele処置と組み合わせられた場合、TA-1は、Pac/Ele処置によって引き起こされる軽度の体重減少を減弱させたようであった。
【0042】
要約すると、腫瘍成長が陽性対照薬Pac/Eleによって阻害されたように、この研究において使用された腫瘍モデルは妥当であった。6mg/kgの被験物TA-1の毎日投与は、腫瘍成長に対して有効であった。Pac/Ele処置またはTA-1が付加されたPac/Ele処置も、有効であった。より高用量のPac/Eleは、低用量処置と比べて改善された腫瘍阻害を与えなかった。TA-1を低用量Pac/Ele処置と組み合わせた場合、増強された腫瘍阻害および減弱した体重減少が観察され、このことから、有益な効果が示された。
【0043】
序論
チモシンアルファ-1(TA-1)は、可能性のある抗腫瘍活性を保有している免疫調整剤である。パクリタクセル(Pac)は、様々な型の癌のための従来の化学療法薬である。エレスクロモル(Ele)は、細胞酸化ストレスを増強し、癌細胞の死滅をもたらすことが報告された治検薬である。臨床試験において、Pacと組み合わせられたEleは、転移性黒色腫を有する患者において抗癌効力を示した。この研究は、C57BL/6マウスに皮下移植されたB16黒色腫に対する、PacおよびEleと組み合わせられたTA-1の効力を評価するために実施された。
【0044】
材料および方法
被検物および対照物
PBSを、陰性対照物として使用し、化学療法薬PacおよびEleの組み合わせを、陽性対照として使用した。Pac(Lot#LX-P-070416)はKnowshine(Shanghai)Pharmachemicals Inc.より購入され、Ele(Lot#E08010-34)はSciCloneより供給された。それぞれ24mg/mLおよび8mg/mLの濃度に相当する二つの中間ストック溶液を作成するため、PacおよびEleを、Cremophor EL/エタノールの混合物(50:50;Sigma Cremophor EL、95%エチルアルコール)に同時溶解させた。それぞれ6mg/mLおよび2mg/mLの投薬溶液を作成するため、中間ストック溶液を、3倍容量のPBSでさらに希釈した(表1)。新鮮な調製物を各投薬のために作成した。TA-1(SciClone, Lot#PPL-Tα10502)を、表1に示されるような適切な用量濃度を達成するため、PBSに溶解させた。TA-1溶液は、最長1週間、2〜8℃で保管された。従って、この研究中、TA-1については二つの新鮮な調製物が作成された。
【0045】
(表1)用量処方

EleはPacと組み合わせられて調製される。
【0046】
試験系および動物管理
マウスB16黒色腫細胞
マウスB16黒色腫細胞は、Cell Culture Center,Institute of Basic Medical Sciences,Peking Union Medical College and Chinese Academy of Medical Sciences(PUMC & CAMS,Beijing,P.R.China)のストックから解凍された。腫瘍細胞は実験において使用する前にC57BL/6マウスに順応させられた(細胞順応の詳細に関してはセクション4.3.1を参照のこと)。
【0047】
試験系
健康な未感作C57BL/6マウス雄30匹および雌30匹を、Institute of Laboratory Animal Science,CAMS,Beijing,P.R.Chinaより受け取った。研究開始時、動物は6週齢であり、体重18〜22グラムであった。
【0048】
動物管理
オートクレーブ処理された木材チップを床材料として有するオートクレーブ処理されたシューボックス型ケージに、動物を集団収容した。動物飼育室の温度を22〜25℃に維持し、相対湿度を40〜60%に維持した。研究に関連する事象によって中断される時以外は、12時間明/12時間暗のサイクルを維持した。滅菌水およびBeijing KeAoXieLi Rodent Diet(認可済)を動物に自由に摂取させた。全ての動物を腫瘍接種前に3日間順応させた。
【0049】
実験手順
腫瘍細胞順応
無菌組織培養手順を使用して、B16黒色腫細胞の一つのバイアルを液体窒素ストックから取り出し、37℃の水浴中に置いた。バイアルの内容物が解凍されるまで、温和な回旋を実施した。解凍後、直ちに、1000rpmで、20〜25℃で、5分間、TD5A-WS遠心機により細胞を遠心分離した。遠心分離後、細胞を0.1〜0.5mLの普通生理食塩水(NS)に懸濁させ、10匹のマウスに皮下注射した(0.1mL/匹、細胞約1×106個)。7〜10日後、腫瘍の直径がおよそ1cmになった時点で、動物をCO2過量投与により安楽死させ、腫瘍を切除した。適度の移植可能性を有する十分な数のB16黒色腫細胞を作成するため、その手順を20匹のマウスを用いて繰り返した。
【0050】
腫瘍細胞接種
腫瘍移植の日に、およそ0.1mLの1×106個の細胞を、各マウスの右腋窩区域に皮下注射した。腫瘍移植の日を0日目と定義した。
【0051】
研究設計および処置計画
1日目、動物を、異なる同体重群へとランダムに割り当て、表2による計画を使用して投薬を開始した。簡単に説明すると、TA-1を、腫瘍細胞移植の部位とは異なる部位に14日連続で皮下(s.c.)注射を介して毎日1回投与し、PacおよびEleを静脈内(i.v.)注射を介して1日目、7日目、および13日目に投与した。
【0052】
(表2)処置計画および研究設計

【0053】
抗腫瘍効果の評価
1日目から15日目まで、死亡率および瀕死を1日2回チェックし、3日毎に体重を記録し、3日毎にノギスを使用して腫瘍を測定した。研究終了時(17日目)、動物をCO2窒息によって安楽死させ、腫瘍を切除し、計量した。
【0054】
腫瘍サイズに基づき、腫瘍体積(TV)を式:[TV=(長さ×幅×幅)/2]により計算し、TVの阻害率(PI)(PITV)を下記方程式により計算した:
PITV(%)=(媒体TV-薬物処理TV)/媒体TV×100
【0055】
被験物の抗腫瘍効果を、剖検日(17日目)に測定された腫瘍重量(TW)によりさらに評価した。TWのPIを、下記方程式を使用して計算した:
PITW(%)=100×(媒体TW-薬物処理TW)/媒体TW
【0056】
PITVおよびPITWの計算は、Excelスプレッドシートを使用して実施され、スタディ・ディレクターおよびスタディ・モニターによって再調査された。
【0057】
処置の毒性の評価
薬物により誘導された動物死と共に、実験動物の体重により、全ての処置計画の毒性を評価した。体重の阻害は、下記方程式に従って、Excelを使用して計算された:
PIBW(%)=100×(媒体BW-薬物処理BW)/媒体BW
【0058】
統計分析
腫瘍体積、腫瘍重量、および体重に関して、スチューデントt検定を使用して、群間比較を実施した。0.05未満のP値を、統計的に有意と見なした。
【0059】
結果
死亡率
研究の過程を通じて、7匹の動物の死亡があった。群5(三種薬物コンボ1)の1匹は2日目に死亡した。群3(低用量Pac/Ele)の2匹、群5の1匹、および群6(三種薬物コンボ2)の1匹が、3日目に死亡した。初期の死亡に加えて、群5の1匹は11日目に死亡し、群6の1匹は14日目に死亡した。これらの死亡の大部分が処置過程の初期に起こった。初期の死亡が認められた時、測定可能な腫瘍は存在しなかったが、有意に減少した体重がそれらのマウスには観察され、このことから、これらの初期の死亡が化学療法処置の毒性効果に関連していることが示された。
【0060】
腫瘍サイズ
腫瘍サイズの生測定データは、付録1〜10の表に示される。各処置群対媒体群の平均腫瘍体積計算値および統計試験の結果が、表3〜7に示される。
【0061】
3日目および6日目には、極少数のマウスが触知可能な腫瘍を有しており、媒体対照群(群1)と処置群との間に腫瘍体積の統計的な差は存在しなかった。9日目には、群1の全てのマウスが触知可能な腫瘍を有していた。対照的に、各処置群の4匹または5匹のみが腫瘍を有していた。12日目および15日目には、群1〜6の全ての生存マウスが触知可能な腫瘍を示し、各処置群の平均腫瘍体積は、群1のものより統計的に有意に小さかった(p<0.05)。TA-1およびPac/Eleの組み合わせ処置を受けた群、群5が、全ての処置群の中で、最低の平均腫瘍体積を有していた。
【0062】
腫瘍重量
17日目に測定された腫瘍重量の生データは、付録11の表に示される。腫瘍重量に基づき計算された阻害率計算値(PItw)、および各薬物処置群と媒体群との間の統計的比較の結果は、表8に示される。表8に示されるように、各処置群の平均腫瘍重量は媒体群(群1)のものより低かった。群2、群3、群4、群5、および群6のPItw値は、それぞれ、55.67%、62.6%、55.42%、73.61%、および54.19%であった。15日目の腫瘍体積データと一致して、TA-1およびPac/Eleの組み合わせ処置を受けた群、群5が、最低の腫瘍負荷を有していた。
【0063】
体重
体重測定の生データは付録12〜17にリストされる。各処置群対媒体群の統計的比較の結果は、表9〜14に示される。
【0064】
表9〜14に示されるように、全ての時点の群6、および9日目の群4を除き、その他の全ての群、およびその他の時点の群4は、媒体対照群と比べて統計的に有意な(p<0.05)体重の阻害を示していない。群4および6は、高用量のPac/Eleを受けた群であるため、その結果は、化学療法処置計画が毒性に関連していることを示している。媒体群と比較して、低用量Pac/Ele処置は、統計的に有意ではない軽度の体重減少をもたらした。低用量Pac/EleをTA-1と組み合わせた場合、体重減少が低下した。この結果は、TA-1が、比較的低用量の化学療法処置に関連した軽微な毒性を減弱させ得ることを示唆している。
【0065】
結論および考察
結論として、腫瘍成長が陽性対照薬Pac/Eleによって阻害されたように、この研究において使用された腫瘍モデルは妥当であった。6mg/kgのTA-1の毎日投与は、腫瘍成長に対して有効であった。研究の過程を通じて、TA-1処置を受けた群2の動物の平均腫瘍体積は、媒体対照群のものと比較して50%超、有意に低下した。17日目に測定された平均腫瘍重量は、TA-1処置動物において55.67%低下した。低用量Pac/Ele処置は、腫瘍重量測定に基づき腫瘍成長の62.6%の阻害をもたらし、高用量Pac/Eleのそれは55.42%であった。より高い用量が改善された腫瘍阻害を与えることはなかった。TA-1を低用量Pac/Ele処置と組み合わせた場合、群5は、低用量Pac/Ele処置単独(62.60%)またはTA-1処置単独(55.67%)のものより高い73.61%の腫瘍阻害を示した。比較的高い個体差のため、差は統計的有意性に達しないが、増加した腫瘍阻害は、低用量Pac/Ele処置の効力に対するTA-1の相加効果を示唆しているかもしれない。TA-1を高用量Pac/Eleと組み合わせた場合には、相加効果は存在しなかった。実際、組み合わせ処置群(群6)および高用量Pac/Ele処置群(群4)の腫瘍阻害率は、それぞれ、55.42%および54.19%であった。
【0066】
単独で使用された場合、TA-1は、研究の過程を通じて統計的に有意な体重減少を引き起こさず、このことから、TA-1が毒性でないことが示唆された。対照的に、群6(高用量三種薬物組み合わせ処置群)の平均体重は、統計的に有意に低下し、このことから、化学療法処置の毒性効果が示された。
【0067】
(表3)3日目の腫瘍サイズの統計的結果

【0068】
(表4)6日目の腫瘍サイズの統計的結果

【0069】
(表5)9日目の腫瘍サイズの統計的結果

【0070】
(表6)12日目の腫瘍サイズの統計的結果

【0071】
(表7)15日目の腫瘍サイズの統計的結果

【0072】
(表8)17日目の腫瘍重量の統計的結果

【0073】
(表9)0日目の体重の統計的結果

【0074】
(表10)3日目の体重の統計的結果

【0075】
(表11)6日目の体重の統計的結果

【0076】
(表12)9日目の体重の統計的結果

【0077】
(表13)12日目の体重の統計的結果

【0078】
(表14)15日目の体重の統計的結果

【0079】
付録
(付録1)3日目の腫瘍測定(cm)

注:記号「-」は腫瘍が測定可能なサイズに達していないことを示し、記号「/」は死亡した動物を示す。
【0080】
(付録2)3日目の腫瘍体積(cm3

注:記号「-」は腫瘍が測定可能なサイズに達していないことを示す。
【0081】
(付録3)6日目の腫瘍測定(cm)

注:記号「-」は腫瘍が測定可能なサイズに達していないことを示し、記号「/」は死亡した動物を示す。
【0082】
(付録4)6日目の腫瘍体積(cm3

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0083】
(付録5)9日目の腫瘍測定(cm)

注:記号「-」は腫瘍が測定可能なサイズに達していないことを示し、記号「/」は死亡した動物を示す。
【0084】
(付録6)9日目の腫瘍体積(cm3

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0085】
(付録7)12日目の腫瘍測定(cm)

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0086】
(付録8)12日目の腫瘍体積(cm3

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0087】
(付録9)15日目の腫瘍測定(cm)

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0088】
(付録10)15日目の腫瘍体積(cm3

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0089】
(付録11)17日目の腫瘍重量(g)

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0090】
(付録12)0日目の体重(g)

【0091】
(付録13)3日目の体重(g)

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0092】
(付録14)6日目の体重(g)

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0093】
(付録15)9日目の体重(g)

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0094】
(付録16)12日目の体重(g)

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0095】
(付録17)15日目の体重(g)

注:記号「/」は死亡した動物を示す。
【0096】
実施例2
この計画においては、TA-1が、0.5〜10mg/日の範囲内の投薬量で、処置計画中の黒色腫患者に投与される。
【0097】
黒色腫患者は、25mg/kgまたは100mg/kgの用量レベルのSTA-4783(エレスクロモル)によっても毎日処置される。
【0098】
実施例3
この計画においては、TA-1が、0.5〜10mg/日の範囲内の投薬量で、処置計画中の黒色腫患者に投与される。
【0099】
黒色腫患者は、25mg/kgまたは100mg/kgの用量レベルのSTA-4783(エレスクロモル)によっても毎日処置される。
【0100】
黒色腫患者は、さらに、処置1回当たり約70〜280mg、または1〜15mg/kg/日(例えば、約7.5mg/kg/日)の範囲内の投薬量で、パクリタキセルによっても処置される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色腫を処置する有効な組み合わせを処置計画中のヒト黒色腫患者へ投与する工程を含む組み合わせ治療においてヒト患者における黒色腫またはその転移を処置する方法であって、組み合わせが、アルファチモシンペプチドおよび抗悪性腫瘍性熱ショックアポトーシス活性化因子(HSAA)を含む、方法。
【請求項2】
HSAAがSTA-4783(エレスクロモル)を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
処置計画が複数の日を含み、アルファチモシンペプチドがチモシンアルファ1(TA1)を含み、かつTA1が約0.5〜10mg/日の範囲内の投薬量で処置計画の少なくとも一部分の間に患者に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
投薬量が約1.5〜7mg/日の範囲内にある、請求項3記載の方法。
【請求項5】
投薬量が約3〜7mg/日の範囲内にある、請求項3記載の方法。
【請求項6】
投薬量が約3.2mg/日である、請求項3記載の方法。
【請求項7】
投薬量が約6.4mg/日である、請求項3記載の方法。
【請求項8】
アルファチモシンペプチドがTA1であり、かつ、処置計画が、約1〜10日の期間のTA1の毎日投与、それに続く、約1〜5日間のTA1の非投与を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
TA1が約3〜5日間毎日投与され、その後、約2〜4日間のTA1の非投与が続く、請求項8記載の方法。
【請求項10】
TA1が約4日間毎日投与され、その後、約3日間のTA1の非投与が続く、請求項8記載の方法。
【請求項11】
HSAAが約0.01〜1000mg/kg/日の範囲内の投薬量で患者に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
HSAAが約1〜200mg/kg/日の投薬量で患者に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
組み合わせが、抗悪性腫瘍性細胞障害性化学療法(CC)剤の投与をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
CC剤がパクリタクセルを含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
CC剤が約1〜500mgの範囲内の投薬量で患者に投与される、請求項13記載の方法。
【請求項16】
CC剤が約1〜15mg/kg/日の範囲内の投薬量で患者に投与される、請求項13記載の方法。

【公表番号】特表2011−506467(P2011−506467A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538159(P2010−538159)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/086427
【国際公開番号】WO2009/079338
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(593199563)サイクローン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】SciClone Pharmaceuticals,Inc.
【住所又は居所原語表記】950 Tower Lane, Suite 900, Foster City, California 94404, United States of America
【Fターム(参考)】