説明

抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法及びスーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位を同定する方法。

【課題】 抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法を提供する。
【解決手段】 被検物質の存在下及び非存在下、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞をホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激し、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定し、測定結果に基づいて被検物質を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法に関する。また、本発明は、スーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位を同定する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
抗炎症作用とは、免疫担当細胞の活性酸素や炎症メディエーター等の産生を抑制する作用を言う。抗炎症物質は、スギ花粉症やその他のアレルギー疾患、関節リウマチ、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)などの予防や治療に有効である。一方、抗酸化作用とは、体内で産生された活性酸素を除去する働き、すなわちスカベンジャーとしての作用を言う。細胞膜の重要な成分である不飽和脂肪酸が酸化されて過酸化脂質が連鎖反応で次々に生じ、それによって動脈硬化や癌等の疾患が引き起こされることが知られているが、抗酸化物質は、脂質の過酸化の引き金となるフリーラジカルを破壊し、脂質の過酸化を抑制する働きがある。
【0003】
このように抗炎症物質と抗酸化物質は、その作用も異なり、対象となる症状や疾患が異なるため、両者を明確に識別し、必要に応じて使い分けることが重要であるが、両者は混同されていることが少なくない。
【0004】
スーパーオキシドの測定方法としては、シトクロムCがスーパーオキシドから1電子を受け取って550nmに強い吸収を有する還元型に変化することを利用したシトクロムC還元法や、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)がスーパーオキシドによって還元されて560nmに吸収を有するホルマザンが生じることを利用したNBT還元法がよく知られている(非特許文献1)。これら以外にも、エピネフリンがスーパーオキシドによって酸化されて赤色(480nmに吸収を持つ)のアドレノクロームを生じることを利用したエピネフリン酸化法や、酸素消費の定量で測定する亜硫酸酸化法もある(非特許文献1)。
【0005】
また、抗炎症性物質のスクリーニング方法として、動物(例えば、関節炎モデル動物など)を用いた方法が広く用いられている(非特許文献2及び3)。
【0006】
【非特許文献1】谷口直之監修、「活性酸素実験プロトコール 測定法・遺伝子解析・病態生理モデル」16〜19頁(秀潤社、1994年9月10日発行)
【非特許文献2】中丸幸一ら、日本薬理学雑誌、104巻、303〜311頁(1994年)
【非特許文献3】中丸幸一ら、日本薬理学雑誌、104巻、447〜457頁(1994年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のスーパーオキシド測定方法は、単にスーパーオキシドの定量方法又は半定量方法に過ぎず、活性物質の効果が抗酸化作用によるものか、抗炎症作用によるものかを区別することはできない。また、動物を用いた抗炎症性物質のスクリーニング方法は、候補物質を動物に投与した後、長期間にわたって経過観察する必要があり、時間及びコストの問題がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、明確かつ簡便に抗酸化物質と抗炎症物質とを識別する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、好中球の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量に与える物質の影響と、物質が有する作用(抗炎症作用及び抗酸化作用)との間に、一定の関係があることを見出し、本発明を完成させた。つまり、本発明者は、ある生理活性物質が、細胞に作用してスーパーオキシドの産生自体を抑制しているのか、それとも、スーパーオキシドのスカベンジャーとして作用しているのかを、細胞が産生するスーパーオキシドの量及び細胞内Ca2+濃度を測定することによって簡便に見分けることができる方法を開発した。
【0010】
すなわち、本発明は、抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法であって、
被検物質の存在下及び非存在下で、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激する工程と、
自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する工程と、
被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少する物質を抗炎症物質と同定し、
被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が変化せず、かつ、スーパーオキシド産生量が減少する物質を抗酸化物質と同定する工程と、
を備える方法を提供する。
【0011】
上記方法によれば、明確かつ簡便に、抗炎症物質と抗酸化物質とを識別することが可能である。
【0012】
本発明は、また、抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法であって、
被検物質の存在下及び非存在下で、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激する工程と、
自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する工程と、
被検物質の存在下及び非存在下で、ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系によりスーパーオキシドを生成させ、スーパーオキシド生成量を測定する工程と、
被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少する物質、あるいは
被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が変化せず、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、被検物質の非存在下と比較して被検物質存在下でのヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシド生成量が変化しない物質を抗炎症物質と同定し、
被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が変化せず、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、被検物質の非存在下と比較して被検物質存在下でのヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシド生成量が減少する物質を抗酸化物質と同定する工程と、
を備える方法を提供する。
【0013】
ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシド生成量の測定結果を組み合わせることによって、抗炎症物質と抗酸化物質の識別をより正確に行うことが可能となる。
【0014】
上記方法において、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞は、スーパーオキシドの産生力が強いことから、好中球若しくは好中球様の培養細胞又はマクロファージ若しくはマクロファージ様の培養細胞であることが好ましく、特に好中球又は好中球様の培養細胞であるであることが好ましい。
【0015】
上記方法において、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質は、スーパーオキシドの産生を促すのに充分な程度に強く自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を刺激できることから、ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニン、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子及びC5aからなる群から選択される1以上の刺激物質であることが好ましく、ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニンであることが特に好ましい。
【0016】
上記方法において、抗炎症物質とはスーパーオキシドの産生自体を抑制する物質であり、抗酸化物質とはスーパーオキシドのスカベンジャー物質である。
【0017】
さらに、本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法を応用することにより、スーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位が同定可能であることも本発明者は見出した。
【0018】
すなわち、本発明は、被検物質のスーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位を同定する方法であって、
被検物質の存在下及び非存在下で、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質及びプロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質それぞれで刺激する工程と、
自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する工程と、
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのスーパーオキシド産生量が減少する物質を、プロテインキナーゼCの活性化を阻害する作用及び細胞内Ca2+濃度上昇を抑制する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定し、
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのスーパーオキシド産生量が変化しない物質を、細胞内Ca2+濃度上昇を抑制する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定する工程と、
を備える方法を提供する。
【0019】
本発明は、また、被検物質のスーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位を同定する方法であって、
被検物質の存在下及び非存在下で、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質及びプロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質それぞれで刺激する工程と、
自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する工程と、
被検物質の存在下及び非存在下で、ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系によりスーパーオキシドを生成させ、スーパーオキシド生成量を測定する工程と、
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのスーパーオキシド産生量が減少する物質を、プロテインキナーゼCの活性化を阻害する作用及び細胞内Ca2+濃度上昇を抑制する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定し、
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのスーパーオキシド産生量が変化しない物質を、細胞内Ca2+濃度上昇を抑制する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定し、
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が変化せず、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、被検物質の非存在下と比較して被検物質存在下でのヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシド生成量が変化しない物質を、プロテインキナーゼCの活性化を阻害する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定する工程と、
を備える方法を提供する。
【0020】
ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシド生成量の測定結果を組み合わせることによって、作用部位をより正確に同定することが可能となる。
【0021】
上記方法において、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞は、スーパーオキシドの産生力が強いことから、好中球若しくは好中球様の培養細胞又はマクロファージ若しくはマクロファージ様の培養細胞であることが好ましく、特に好中球又は好中球様の培養細胞であるであることが好ましい。
【0022】
上記方法において、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質は、スーパーオキシドの産生を促すのに充分な程度に強く自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を刺激できることから、ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニン、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子及びC5aからなる群から選択される1以上の刺激物質であることが好ましく、ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニンであることが特に好ましい。
【0023】
上記方法において、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質は、スーパーオキシドの産生を促すのに充分な程度に強く自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を刺激できることから、ホルボールミリステートアセテート及び1−オレオイル−2−アセチルグリセロールからなる群から選択される1以上の刺激物質であることが好ましく、ホルボールミリステートアセテートであることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法によれば、ある生理活性物質が、細胞に作用してスーパーオキシドの産生自体を抑制しているのか、それとも、スーパーオキシドのスカベンジャーとして作用しているのかを、細胞が産生するスーパーオキシドの量及び細胞内Ca2+濃度を測定することによって簡便に見分けることができる。
【0025】
また、本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法を応用することにより、被検物質のスーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位を同定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0027】
(抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法)
本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する第一の方法は、以下の工程(1)〜(3)を備える。
(1)被検物質の存在下及び非存在下で、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激する工程。
(2)自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する工程。
(3)被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少する物質を抗炎症物質と同定し、
被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が変化せず、かつ、スーパーオキシド産生量が減少する物質を抗酸化物質と同定する工程。
【0028】
工程(1)では、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞(以下、説明を簡略化するために、自然免疫を担う白血球様の培養細胞も含めて自然免疫を担う白血球と表現する場合がある)を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激することにより、自然免疫を担う白血球にスーパーオキシドの産生を促す。自然免疫を担う白血球の由来は限定されないが、哺乳類、特にヒトの自然免疫を担う白血球であることが好ましい。自然免疫を担う白血球は、常法により血液から採取・精製することができる。例えば、モノ・ポリ分離溶液(大日本製薬)を用いた密度勾配遠心により血液から調製可能である。自然免疫を担う白血球様の培養細胞とは、自然免疫を担う白血球様に分化した細胞をいい、当該技術分野において周知の方法(所定の培養細胞を適切な分化誘導剤で分化させる等)を用いて調製することが可能である。
【0029】
自然免疫を担う白血球は、好中球若しくは好中球様の培養細胞(以下、説明を簡略化するために、好中球様の培養細胞も含めて好中球と表現する場合がある)又はマクロファージ若しくはマクロファージ様の培養細胞(以下、説明を簡略化するために、マクロファージ様の培養細胞も含めてマクロファージと表現する場合がある)であることが好ましく、好中球であることが特に好ましい。好中球及びマクロファージはスーパーオキシドの産生力が強いからである。
【0030】
好中球様の培養細胞とは、好中球様に分化した細胞をいい、マクロファージ様の培養細胞とは、マクロファージ様に分化した細胞をいい、それぞれ、当該技術分野において周知の方法を用いて調製することが可能である。好中球様の培養細胞として、例えば、HL−60細胞(ヒト前骨髄芽球系株化細胞)をDMSOなどの分化誘導剤で分化させた細胞やTHP−1細胞(ヒト単球系株化細胞)をBtcAMP(ジブチリルcAMP)などの分化誘導剤で分化させた細胞などが挙げられる。
【0031】
自然免疫を担う白血球の刺激は、培養液中や緩衝液中で行うことが可能である。自然免疫を担う白血球の培養に用いられている培地(例えば、RPMI1640培地など)や一般的な緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液など)が使用可能である。培地又は緩衝液の好適なpH及び温度は、それぞれ6〜8及び37℃である。培養液や緩衝液中のCa2+は、典型的には0.5mM〜2mMの範囲で調整される。
【0032】
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質は、ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニン(以下、fMLPと略す)、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子及びC5aからなる群から選択される1以上の刺激物質であることが好ましく、fMLPであることが特に好ましい。これらの物質は、スーパーオキシドの産生を促すのに充分な程度に強く自然免疫を担う白血球を刺激できるからである。
【0033】
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質の濃度は、自然免疫を担う白血球を刺激しスーパーオキシドの産生を促すのに充分な濃度であればよく、至適濃度は刺激物質の種類に依存する。例えば、fMLPの場合、その至適濃度は典型的には0.1μM〜10μMである。
【0034】
刺激物質による自然免疫を担う白血球の刺激を、被検物質の存在下(複数の濃度であってもよい)及び非存在下の双方で行うことにより、自然免疫を担う白血球の挙動(具体的には、細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量)の変化が異なるため、その挙動の違いにより、被検物質が抗炎症物質なのか抗酸化物質なのかを識別することが可能である。
【0035】
工程(2)では、刺激を受けた自然免疫を担う白血球の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する。ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質による刺激を受けた自然免疫を担う白血球は、通常、細胞内Ca2+濃度が上昇し、スーパーオキシド産生量が増加する。しかし、抗炎症物質又は抗酸化物質の存在下では、その挙動が変化する。
【0036】
細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量は、常法に従って、また、市販の試薬や測定キットを用いて、測定することが可能である。細胞内Ca2+濃度の測定は、例えば、カルシウム蛍光指示薬(例えば、Fura−2やFluo−3、膜透過性を高めたそれらのエステル誘導体など、数多くのカルシウム蛍光指示薬が市販されている)を、自然免疫を担う白血球に導入し、励起光を照射して発生した蛍光を測定することにより可能である。スーパーオキシド産生量の測定は、例えば、CLA(2−メチル−6−フェニル−3,7−ジヒドロイミダゾ[1,2−a]ピラジン−3−オン)などのスーパーオキシドと反応して化学発光を生じる試薬を測定系に添加し、自然免疫を担う白血球がスーパーオキシドを産生するに伴い発生する化学発光を測定することにより可能である。
【0037】
本出願人が開発した化学発光及び蛍光の同時測定装置(特開2004−61438号公報、特開2000−338045号公報及び特開2000−131234号公報等に記載)は、化学発光及び蛍光を同時に測定できるため、自然免疫を担う白血球の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量の測定に特に適している。
【0038】
工程(3)では、工程(2)で得られた測定結果に基づいて被検物質を評価する。ここで、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度(スーパーオキシド産生量)が「変化しない」とは、被検物質の存在下での測定値を被検物質の非存在下での測定値で除した数値が0.8以上1.2以下であることが好ましい。また、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度(スーパーオキシド産生量)が「増加する」とは、被検物質の存在下での測定値を被検物質の非存在下での測定値で除した数値が1.2よりも大きいことが好ましい。また、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度(スーパーオキシド産生量)が「減少する」とは、被検物質の存在下での測定値を被検物質の非存在下での測定値で除した数値が0.8未満であることが好ましい。特に、細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量の増減の評価に当っては、複数用量(濃度)の被検物質で測定を行い、用量(濃度)依存曲線を作成し、その最大変化量について評価を行うことが好ましい。
【0039】
細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少する物質は抗炎症物質と同定され、細胞内Ca2+濃度が変化せず、かつ、スーパーオキシド産生量が減少する物質は抗酸化物質と同定される。このように同定された抗炎症物質はスーパーオキシドの産生自体を抑制する物質であり、一方、このように同定された抗酸化物質はスーパーオキシドのスカベンジャー物質である。両者はその作用が顕著に異なる。
【0040】
本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する第二の方法は、抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する第一の方法と無細胞系であるヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシドの生成量の減少の観察とを組み合わせたものである。すなわち、本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法は、以下の工程(1)〜(4)を備える。
(1)被検物質の存在下及び非存在下で、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激する工程。
(2)自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する工程。
(3)被検物質の存在下及び非存在下で、ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系によりスーパーオキシドを生成させ、スーパーオキシド生成量を測定する工程。
(4)被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少する物質、あるいは
被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が変化せず、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、被検物質の非存在下と比較して被検物質存在下でのヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシド生成量が変化しない物質を抗炎症物質と同定し、
被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が変化せず、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、被検物質の非存在下と比較して被検物質存在下でのヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシド生成量が減少する物質を抗酸化物質と同定する工程。
【0041】
自然免疫を担う白血球等の細胞を用いない、ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系によりスーパーオキシドを生成させた場合、抗酸化物質はそのスカベンジャー作用によって生成したスーパーオキシドを捕捉し破壊するため、抗酸化物質の非存在下と比較してスーパーオキシドの生成量が減少する。一方、抗炎症物質は細胞に作用して細胞のスーパーオキシド産生を抑制することはできても、スーパーオキシドそのものに作用することはできない。つまり、抗炎症物質は、無細胞系のヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系により生成するスーパーオキシドに何ら影響を与えない。この性質の違いを利用することにより、抗炎症物質と抗酸化物質とをより確実に識別することが可能となる。
【0042】
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときの細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量の測定結果にのみ基づいて抗酸化物質に分類された物質の中には、抗炎症物質が含まれる可能性がある。ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系と組み合わせた方法であれば、そのような抗炎症物質を確実に識別することが可能である。
【0043】
工程(1)及び(2)における用語の定義や条件等は、抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する第一の方法で説明した通りである。
【0044】
工程(3)では、ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系によりスーパーオキシドを生成させ、その生成量を測定する。ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系によりスーパーオキシドを生成させることは、当業者にとって既知であり、例えば、「活性酸素実験プロトコール 測定法・遺伝子解析・病態生理モデル」(前出)63〜65頁などに記載されている。簡潔に説明すると、キサンチンオキシダーゼによってヒポキサンチンがキサンチンに酸化されるのに伴って、また、さらにキサンチンが尿酸に酸化されるのに伴って、酸素が還元されてスーパーオキシドが生成する。ヒポキサンチン及びキサンチンオキシダーゼはともに市販されている。典型的には、1mMのヒポキサンチン溶液に0.01〜100mU/mlの濃度でキサンチンオキシダーゼを加えてスーパーオキシドを生成させるが、これに限定されず、また、ヒポキサンチンの濃度、ヒポキサンチン溶液のpH及び温度、キサンチンオキシダーゼの濃度及び添加量などの条件は、当業者が適宜決定することが可能である。
【0045】
生成したスーパーオキシドの測定は、前述の通り、スーパーオキシドと反応して化学発光を生じる試薬を添加し、その化学発光量を測定することにより行うことができ、そのような試薬としては、前述のCLAなどが挙げられる。
【0046】
工程(4)では、自然免疫を担う白血球の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量の測定結果及びヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系によるスーパーオキシドの生成量の測定結果に基づいて被検物質を評価する。ここで、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシド生成量が「変化しない」とは、被検物質の存在下での測定値を被検物質の非存在下での測定値で除した数値が0.8以上1.2以下であることが好ましい。また、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシド生成量が「増加する」とは、被検物質の存在下での測定値を被検物質の非存在下での測定値で除した数値が1.2よりも大きいことが好ましい。また、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシド生成量が「減少する」とは、被検物質の存在下での測定値を被検物質の非存在下での測定値で除した数値が0.8未満であることが好ましい。特に、スーパーオキシド生成量の増減の評価に当っては、複数用量(濃度)の被検物質で測定を行い、用量(濃度)依存曲線を作成し、その最大変化量について評価を行うことが好ましい。
【0047】
(スーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位を同定する方法)
本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法は、スーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位の同定に応用できる。すなわち、本発明の被検物質のスーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位を同定する第一の方法は、以下の工程(1)〜(3)を備える。
(1)被検物質の存在下及び非存在下で、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質及びプロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質それぞれで刺激する工程。
(2)自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する工程。
(3)ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのスーパーオキシド産生量が減少する物質を、プロテインキナーゼCの活性化を阻害する作用及び細胞内Ca2+濃度上昇を抑制する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定し、
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのスーパーオキシド産生量が変化しない物質を、細胞内Ca2+濃度上昇を抑制する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定する工程。
【0048】
工程(1)では、本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法と同じように、自然免疫を担う白血球の刺激を行い、自然免疫を担う白血球スーパーオキシドの産生を促す。ただし、この方法においては、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質だけでなく、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質でも刺激を行う。両刺激物質による刺激は、同一の細胞を一方の刺激物質で刺激し、充分な時間(例えば、5分)が経過した後に、もう一方の刺激物質で刺激を行ってよい。また、異なる細胞に対して独立して刺激を行ってもよい。
【0049】
自然免疫を担う白血球の定義、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質の定義、刺激を行う条件等に関しては、本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法の説明に記載した通りである。
【0050】
プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質は、スーパーオキシドの産生を促すのに充分な程度に強く自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を刺激できることから、ホルボールミリステートアセテート(以下、PMAと略す)及び1−オレオイル−2−アセチルグリセロール(以下、OAGと略す)からなる群から選択される1以上の刺激物質であることが好ましく、PMAであることが特に好ましい。プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質の濃度は、自然免疫を担う白血球を刺激しスーパーオキシドの産生を促すのに充分な濃度であればよく、至適濃度は刺激物質の種類に依存する。例えば、PMAの場合、その至適濃度は典型的には0.01μM〜1μMである。
【0051】
刺激物質による自然免疫を担う白血球の刺激を、被検物質の存在下(複数の濃度であってもよい)及び非存在下の双方で行うことにより、自然免疫を担う白血球の挙動(具体的には、細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量)の変化が異なり、かつ、その変化が刺激物質の種類により異なるため、その挙動の違いにより、被検物質のスーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位を同定することが可能である。
【0052】
工程(2)では、刺激を受けた自然免疫を担う白血球の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する。測定方法は、本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法の説明に記載した通りである。
【0053】
工程(3)では、工程(2)で得られた測定結果に基づいて被検物質を評価する。ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少する物質は、本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法の説明に記載した通り、スーパーオキシドの産生自体を抑制する物質である。そして、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのスーパーオキシド産生量が減少する物質は、その作用部位がプロテインキナーゼCの活性化の阻害及び細胞内Ca2+濃度上昇の抑制の双方にあると考えられる。また、作用部位がNADPHオキシダーゼの活性化の阻害にあることも考えられる。
【0054】
一方、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのスーパーオキシド産生量が変化しない物質は、その作用部位が細胞内Ca2+濃度上昇の抑制にあると考えられる。細胞内Ca2+濃度上昇の抑制とは、より具体的には、例えば、Ca2+の細胞内への流入の阻害、PIレスポンスの阻害、Gタンパク質活性化阻害などが考えられる。
【0055】
本発明の被検物質のスーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位を同定する第二の方法は、被検物質のスーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位を同定する第一の方法と無細胞系であるヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシドの生成量の減少の観察とを組み合わせたものである。すなわち、本発明の被検物質のスーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位を同定する第二の方法は、以下の工程(1)〜(4)を備える。
(1)被検物質の存在下及び非存在下で、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質及びプロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質それぞれで刺激する工程。
(2)自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する工程。
(3)被検物質の存在下及び非存在下で、ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系によりスーパーオキシドを生成させ、スーパーオキシド生成量を測定する工程。
(4)ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのスーパーオキシド産生量が減少する物質を、プロテインキナーゼCの活性化を阻害する作用及び細胞内Ca2+濃度上昇を抑制する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定し、
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのスーパーオキシド産生量が変化しない物質を、細胞内Ca2+濃度上昇を抑制する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定し、
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が変化せず、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、被検物質の非存在下と比較して被検物質存在下でのヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシド生成量が変化しない物質を、プロテインキナーゼCの活性化を阻害する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定する工程。
【0056】
ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系と組み合わせた第二の方法は、作用部位をより正確に同定することが可能となる。
【0057】
工程(1)及び(2)における用語の定義や条件等は、スーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位を同定する第一の方法で説明した通りである。
【0058】
工程(3)における用語の定義や条件等は、抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する第二の方法で説明した通りである。
【0059】
工程(4)では、自然免疫を担う白血球の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量の測定結果及びヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系によるスーパーオキシドの生成量の測定結果に基づいて被検物質を評価する。この方法では、プロテインキナーゼCの活性化を阻害する作用及び細胞内Ca2+濃度上昇を抑制する作用の双方によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質、細胞内Ca2+濃度上昇を抑制する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質に加えて、プロテインキナーゼCの活性化を阻害する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質を同定することが可能である。
【0060】
(スクリーニング方法)
本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法は、抗炎症物質をスクリーニングする方法及び抗酸化物質をスクリーニングする方法に応用することができる。各スクリーニング方法について以下に説明する。
【0061】
本発明の抗炎症物質をスクリーニングする方法は、以下の工程(1)〜(3)を備える。
(1)被検物質の存在下及び非存在下で、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激する工程。
(2)自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する工程。
(3)被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少する物質を選択する工程。
【0062】
工程(1)では、自然免疫を担う白血球を刺激することにより、自然免疫を担う白血球にスーパーオキシドの産生を促す。自然免疫を担う白血球の種類、自然免疫を担う白血球の刺激等については、本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法の説明に記載した通りである。工程(2)では、刺激を受けた自然免疫を担う白血球の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する。本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法の説明に記載した測定方法と同様の測定方法で、測定を行うことが可能である。工程(3)では、工程(2)で得られた測定結果に基づいて被検物質が抗炎症作用を有するか否かを評価し選択する。評価方法については、本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法の説明に記載した通りである。
【0063】
また、スクリーニング方法は、本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法で記載したように、ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシドの生成量の減少の観察を組み合わせたものでもよい。
【0064】
このスクリーニング方法で選択された抗炎症物質は、アレルギー疾患、関節リウマチ、炎症性腸疾患などの予防や治療に有効である。
【0065】
本発明の抗酸化物質をスクリーニングする方法は、以下の工程(1)〜(3)を備える。
(1)被検物質の存在下及び非存在下で、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激する工程。
(2)自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する工程。
(3)被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が変化せず、かつ、スーパーオキシド産生量が減少する物質を選択する工程。
【0066】
工程(1)では、自然免疫を担う白血球を刺激することにより、自然免疫を担う白血球にスーパーオキシドの産生を促す。自然免疫を担う白血球の種類、自然免疫を担う白血球の刺激等については、本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法の説明に記載した通りである。工程(2)では、刺激を受けた自然免疫を担う白血球の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する。本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法の説明に記載した測定方法と同様の測定方法で、測定を行うことが可能である。工程(3)では、工程(2)で得られた測定結果に基づいて被検物質が抗酸化作用を有するか否かを評価し選択する。評価方法については、本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法の説明に記載した通りである。
【0067】
また、スクリーニング方法は、本発明の抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法で記載したように、ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシドの生成量の減少の観察を組み合わせたものでもよい。
【0068】
このスクリーニング方法で選択された抗酸化物質は、動脈硬化や癌などの予防や治療に有効である。
【実施例】
【0069】
好中球として、HL−60細胞をDMSO(ジメチルスルホキシド;分化誘導剤)で分化させたものを用いた。すなわち、終濃度1.28%のDMSOを含む10%ウシ胎児血清(FCS)入りRPMI1640培地にて、HL−60細胞を3.0×10cell/mLの密度で、37℃、5%COの条件下で4日間培養した。培地から細胞を回収し、RHバッファー(10mM HEPES、154mM NaCl、5.6mM KCl、pH7.4)で2回洗浄し、10%FCS入りRPMI1640培地に懸濁させた。
【0070】
この細胞懸濁液に3μMのFluo3−AM(1−[2−アミノ−5−(2,7−ジクロロ−6−ヒドロキシ−3−オキシ−9−ザンテニル)フェノキシ]−2−(2−アミノ−5−メチルフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸;カルシウム検出試薬;蛍光性指示薬)を加えて、37℃、5%COの条件下で45分間インキュベーションし、細胞内にFluo3−AMを取り込ませた。この細胞をRHバッファーで2回洗浄し、同バッファーに懸濁させた。得られた細胞懸濁液(8.0×10cell/mL)に適切な濃度の被検物質のRHバッファー溶液を加え、さらにCaCl及びCLA(2−メチル−6−フェニル−3,7−ジヒドロイミダゾ[1,2−a]ピラジン−3−オン;スーパーオキシド検出試薬;化学発光性指示薬)をそれぞれ終濃度が1mM、1μMとなるように加えた。
【0071】
このように調製した試料溶液1mLをセルに入れ、化学発光及び蛍光の同時測定装置(特開2004−61438号公報に記載の装置)のセルホルダーにセルをセットした。セル内の試料溶液は、撹拌しながら37℃でインキュベートした。500μ秒の間隔でチョッパーを作動させながら、励起光としてアルゴンレーザー光(488nm)を細胞に照射した。照射開始から1.5分後、試料溶液に50μMのfMLPを20μL(最終濃度1μM)加えて好中球を刺激し、Fluo−3の蛍光強度及びCLAの化学発光強度の変化をモニターした。さらに、fMLPの刺激から6分後、試料溶液に5μMのPMAを20μL(最終濃度0.1μM)加えて好中球をさらに刺激し、Fluo−3の蛍光強度及びCLAの化学発光強度の変化をモニターした。
【0072】
用いた被検物質は、抗酸化物質であるSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)及びアスコルビン酸、並びに、抗炎症性物質として亜鉛及び板藍茶(アブラナ科の植物であるホソバタイセイ又はタイセイの根のエキスから得られるお茶)である。また、各物質の添加量は、成人1回分の投与量の1/500、1/5000及び1/50000倍量となるように設定した。ただし、アスコルビン酸に関しては、成人1回分の投与量を100mgとしたところ活性が強すぎたため、その半分の量で行った。
【0073】
図1〜4に結果を示した。図中(a)はfMLP刺激時の変化を表し、(b)はPMA刺激時の変化を表す。また、縦軸は、SOD添加時の蛍光(細胞内Ca2+濃度)及び化学発光(スーパーオキシド産生量)のピーク面積をブランク(被検物質非添加)のピーク面積で除した比を表し、横軸は被検物質の添加量(対数)を表す。図1〜4は、それぞれ、被検物質としてSOD、アスコルビン酸、亜鉛及び板藍茶を添加したときの結果を表している。
【0074】
図1(SOD)及び図2(アスコルビン酸)から明らかなように、抗酸化物質の存在下、好中球をfMLPで刺激すると、細胞内Ca2+濃度は変化せず、スーパーオキシドの産生量が減少した。また、抗酸化物質の存在下、PMAでさらに好中球を刺激した場合には、スーパーオキシドの産生量が減少した。
【0075】
一方、図3(亜鉛)及び図4(板藍茶)から明らかなように、抗炎症物質の存在下、好中球をfMLPで刺激すると、細胞内Ca2+濃度は減少し、スーパーオキシドの産生量も減少した。また、亜鉛の存在下、PMAでさらに好中球を刺激した場合、スーパーオキシドの産生量が減少したが、板藍茶の存在下、PMAでさらに好中球を刺激した場合には、スーパーオキシドの産生量は変化しなかった。以上の結果より、板藍茶のスーパーオキシド産生抑制は、細胞内Ca2+濃度上昇の抑制に深く関与していることが予想された。その一方、亜鉛は、細胞内Ca2+濃度上昇の抑制によるスーパーオキシド産生抑制に関与するだけでなく、細胞内Ca2+濃度に関与しない部分でのプロテインキナーゼCの活性化を阻害する作用も有していることが推測できた。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】SOD存在下での、好中球の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量の変化を表すグラフである。(a)はfMLP刺激時の変化を表し、(b)はPMA刺激時の変化を表す。
【図2】アスコルビン酸存在下での、好中球の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量の変化を表すグラフである。(a)はfMLP刺激時の変化を表し、(b)はPMA刺激時の変化を表す。
【図3】亜鉛存在下での、好中球の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量の変化を表すグラフである。(a)はfMLP刺激時の変化を表し、(b)はPMA刺激時の変化を表す。
【図4】板藍茶存在下での、好中球の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量の変化を表すグラフである。(a)はfMLP刺激時の変化を表し、(b)はPMA刺激時の変化を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法であって、
被検物質の存在下及び非存在下で、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激する工程と、
自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する工程と、
被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少する物質を抗炎症物質と同定し、
被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が変化せず、かつ、スーパーオキシド産生量が減少する物質を抗酸化物質と同定する工程と、
を備える方法。
【請求項2】
抗炎症物質と抗酸化物質とを識別する方法であって、
被検物質の存在下及び非存在下で、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激する工程と、
自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する工程と、
被検物質の存在下及び非存在下で、ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系によりスーパーオキシドを生成させ、スーパーオキシド生成量を測定する工程と、
被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少する物質、あるいは
被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が変化せず、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、被検物質の非存在下と比較して被検物質存在下でのヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシド生成量が変化しない物質を抗炎症物質と同定し、
被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が変化せず、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、被検物質の非存在下と比較して被検物質存在下でのヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシド生成量が減少する物質を抗酸化物質と同定する工程と、
を備える方法。
【請求項3】
自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞が、好中球若しくは好中球様の培養細胞又はマクロファージ若しくはマクロファージ様の培養細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞が、好中球若しくは好中球様の培養細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質が、ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニン、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子及びC5aからなる群から選択される1以上の刺激物質である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質が、ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
抗炎症物質がスーパーオキシドの産生自体を抑制する物質であり、抗酸化物質がスーパーオキシドのスカベンジャー物質である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
被検物質のスーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位を同定する方法であって、
被検物質の存在下及び非存在下で、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質及びプロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質それぞれで刺激する工程と、
自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する工程と、
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのスーパーオキシド産生量が減少する物質を、プロテインキナーゼCの活性化を阻害する作用及び細胞内Ca2+濃度上昇を抑制する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定し、
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのスーパーオキシド産生量が変化しない物質を、細胞内Ca2+濃度上昇を抑制する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定する工程と、
を備える方法。
【請求項9】
被検物質のスーパーオキシドの産生抑制に対する作用部位を同定する方法であって、
被検物質の存在下及び非存在下で、自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞を、ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質及びプロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質それぞれで刺激する工程と、
自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞の細胞内Ca2+濃度及びスーパーオキシド産生量を測定する工程と、
被検物質の存在下及び非存在下で、ヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系によりスーパーオキシドを生成させ、スーパーオキシド生成量を測定する工程と、
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのスーパーオキシド産生量が減少する物質を、プロテインキナーゼCの活性化を阻害する作用及び細胞内Ca2+濃度上昇を抑制する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定し、
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が減少し、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下でのスーパーオキシド産生量が変化しない物質を、細胞内Ca2+濃度上昇を抑制する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定し、
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質で刺激したときに、被検物質の非存在下と比較して被検物質の存在下での細胞内Ca2+濃度が変化せず、かつ、スーパーオキシド産生量が減少し、かつ、被検物質の非存在下と比較して被検物質存在下でのヒポキサンチン−キサンチンオキシダーゼ系におけるスーパーオキシド生成量が変化しない物質を、プロテインキナーゼCの活性化を阻害する作用によりスーパーオキシドの産生を抑制する物質であると同定する工程と、
を備える方法。
【請求項10】
自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞が、好中球若しくは好中球様の培養細胞又はマクロファージ若しくはマクロファージ様の培養細胞である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
自然免疫を担う白血球又は自然免疫を担う白血球様の培養細胞が、好中球若しくは好中球様の培養細胞である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項12】
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質が、ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニン、ロイコトリエンB4、血小板活性化因子及びC5aからなる群から選択される1以上の刺激物質であり、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質が、ホルボールミリステートアセテート及び1−オレオイル−2−アセチルグリセロールからなる群から選択される1以上の刺激物質である、請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ホスホリパーゼCの活性化による細胞内Ca2+濃度上昇を伴うスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質が、ホルミルメチオニルロイシルフェニルアラニンであり、プロテインキナーゼCを直接活性化してスーパーオキシド産生を惹起する刺激物質が、ホルボールミリステートアセテートである、請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−288346(P2006−288346A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117290(P2005−117290)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】