説明

抗生物質感受性試験

【課題】特に抗生物質又は生物静力学的薬剤に対する細菌の感受性についての試験、及び細菌の増殖段階及び健康状態を判定するための試験、これら試験を実行する方法及びそれらを達成するキットを提供すること。
【解決手段】細菌細胞の増殖特性に及ぼす外部条件の効果についてのインビトロ試験におけるアデニル酸キナーゼの検定の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌の増殖特性の試験方法に係り、詳細には、特定の抗生物質又は生物静力学的薬剤(biostatic agent)に対する感受性試験、及びその方法で使用するキットに関する。
【背景技術】
【0002】
抗生物質耐性を有する細菌は、ますます重大な問題になっている。1系統の細菌の抗生物質耐性を決定する現在の方法は、非常に時間がかかる。それは、まず純粋培養における生物体の単離を必要とする。そして、細菌の「芝生」(lawn)を調製し、かつ1セットの抗生物質の存在下で増殖させる。特定の抗生物質の周囲における増殖の阻害ゾーンは、該細菌が感受性であることを示す(そのゾーンの大きさは感受性の程度を示す)。抗生物質の存在で増殖が阻害されないことは、耐性を示している。このプロセスは完了までに少なくとも2日かかり、特に、感染された個体の最適な治療法がこれら試験の結果により決定される臨床状況においては、理想からはかけ離れている。
抗生物質耐性又は感受性をかなり速く、例えば数時間以内で判定できる試験が要望されている。
【0003】
アデニル酸キナーゼの測定による微生物検出のための検定法は、例えば国際特許出願番号PCT/GB94/00118及びPCT/GB94/01513によって知られている。アデニル酸キナーゼは、すべての生細胞で必須の酵素であり、以下に示されるように、ADPの存在下、ATPの生成を触媒する。
【化1】

この検定法では、ADPは試薬として、好ましくはマグネシウムイオンの存在下、試験する試料に加えられる。上記アデニル酸キナーゼ反応の結果として生成されるATPは、例えばホタルの生物発光を用いて検出することができる。このため、ルシフェリン/ルシフェラーゼの組合せのような試薬を、通常、例えば約5分のような短いインキュベーション時間後に混合物に加え、生じる発光シグナルを観察する。
この検定法の感度はアデニル酸キナーゼの自然放射能レベル及び使用する試薬の純度によってのみ制限される。例えば、モデル系として大腸菌を使用すると、100以下の細胞由来のアデニル酸キナーゼ活性が、後述する図1に示されるように、5分のインキュベーション検定で測定された。この図を作成するために使用した試験では、試料体積は200μlであった。
【発明の概要】
【0004】
出願人らは、アデニル酸キナーゼをバイオマスの感受性マーカーとして使用でき、かつ上述の検定法が、細菌細胞の増殖特性に関するさらにずっと詳細な情報を与える研究に利用できることを見出した。
従って、本発明は、細菌細胞の増殖特性に関する外部条件の効果に関するインビトロ試験でのアデニル酸キナーゼの検定の使用を提供する。
【0005】
アデニル酸キナーゼの検定は、細菌の増殖及び阻害についての多くの観点を調べる速くかつ高感度の手段を提供する。本発明を使用して調べるうる外部条件の種類は様々である。例えば、アデニル酸キナーゼの検定は、特定細菌株又は混合培養の特定の抗生物質又は生物静力学的薬剤に対する感受性を決定する方法に使用してもよく、又は抗生物質又は生物静力学的特性のために試薬をスクリーニングするための用途に適合しうる方法に使用してもよい。また、細胞培養の細胞外アデニル酸キナーゼ含量と、細胞内及び細胞外の総含量との比較は、細胞培養の増殖状態及び健康状態の指標となるので、アデニル酸キナーゼの検定を使用して、これらの特徴を判定できることがわかった。
【0006】
試験は、行われる調査の性質、入手できる細菌試料のタイプ、もしあれば試験すべき試薬の性質、特にそれらが細胞に溶菌性又は非溶菌性効果を及ぼすかどうかを考慮して構成される。これら試験の種々の形態については、さらに詳しく後述する。
しかし、詳細には、本発明は、試験物質に対する細菌の感受性を決定する方法であって、前記試薬含有の培養から細菌の溶解によって遊離されたアデニル酸キナーゼを検定すること、及びかつその結果を、試薬の添加前の培養、及び/又は異なった時点における同一培養からの溶解された細菌、及び/又は該試薬を含まない同様の培養からの溶解された細菌のいずれかについての同様のアデニル酸キナーゼの検定から得られた結果と比較することを含む方法を提供する。
【0007】
試験する試薬は、公知の抗生物質又は生物静力学的薬剤でもよく、又は従来は抗生物質として知られていない新規の化合物若しくは試薬でもよく、その結果試験がスクリーニングプログラムの一部をなすこともある。
いくつかの試薬、例えば、ペニシリン、例えばアンピシリン及びアモキシシリンのようなβ-ラクタム抗生物質のような抗生物質は、培養中細菌を溶解するだろう。しかし、これが起こらない場合は、検定を行う前に細菌を溶解することが必要であるかもしれない。これは、溶菌剤による処理及び細菌を磁場若しくは電場、又は超音波に供するような物理的方法を含む、本分野で公知の種々の方法で行うことができる。
【0008】
細菌を溶解させる薬剤は、界面活性剤及び溶菌素のような酵素を含む。しかし、これらは特異的でなく、試料中に存在するすべての生きている物質からAKを遊離させるだろう。これは、試料が純粋な培養を含むときは適するであろう。しかし、調査中の細菌が混合培養の一成分であるときは、他の戦略を採用してもよい。混合試料中の標的細胞由来の特異的な測定は、例えば:1)非特異的なアデニル酸キナーゼの測定後に、問題の細胞を特異的に捕捉してそれらを混入している生物体から分離すること;2)該標的細胞を溶解するだけの方法を使用して、これらからアデニル酸キナーゼのみを測定すること;又は3)それらを併用することによって達成することができる。
【0009】
標的細菌細胞のみ(上記2)からのアデニル酸キナーゼは、調査している特定の細菌に特異的である溶菌剤、例えば、標的細胞に特異的でありかつその細菌を溶解させるバクテリオファージを用いて遊離されうる。これらのバクテリオファージは、細菌に感染するウイルスであり、該細胞を溶解し、かつアデニル酸キナーゼを含む細胞内成分を外部培地に遊離させる。この遊離は、感染後約30〜60分起こる。40分かかる検定にこの方法を使用して、500より少ない細胞が検出されることがわかった。
【0010】
ファージは、純粋培養又は混合培養で、同等によく標的細胞に感染しうる。試料から化学的に抽出できるアデニル酸キナーゼの量と、ファージ感染による設定時間後に遊離される量とを比較することによって、標的細胞が存在するかしないか、及びその試験物質が標的細胞の増殖に及ぼす効果を決定できる。
バクテリオファージを再生し、それによって溶解を引き起こすためには、宿主細胞は増殖の対数期になければならない。増殖が、例えば静菌剤又は抗生物質の存在の結果として阻害されると、バクテリオファージは増殖又は細胞を溶解できないだろう。このことは、以下に示されるように、本発明のさらなる実施形態の基礎として使用できる。
【0011】
代替的又は付加的に、混合培養を、標的細菌の細胞を培養中で濃厚にするか及び/又はそれから分離する前処理工程に供してもよい。このような工程は、技術的に周知である。例えば、分離は、特定の細菌に特異的な抗生物質又はその結合断片を使用してそれらの細胞をビーズ、微量定量プレート、フィルター膜又はカラムのような固体表面上に固定化する免疫捕捉法を使用して達成しうる。磁性ビーズが、特に好ましい固体表面を与えてもよい。ビーズの分離は、磁気分離法を用いることが適切であり、後述するように、標的細菌の実質的な単離を導く。典型的には、磁性ビーズを固体支持体として使用すると、約30分の総検定時間で1000以下の細胞の検出を達成できることがわかった。また、他の物質を固体支持体として用いることもできる。
【0012】
選択的な増殖培地の使用により、さらに特異性が得られてもよい。これを増菌工程で使用して、免疫捕捉検定又はバクテリオファージによる感染の前に、健康な増殖培養を確立できる。さらに、選択的培地をバクテリオファージ感染の過程の間中使用しうる。
このような培地は、存在しうる標的でない生物体による過剰増殖、時には標的細菌よりも非常に過剰となる場合を最小化するだろう。
上述したように、本発明は、特定の抗生物質又は静菌剤に対する細菌の感受性試験での使用に適合しうる。
【0013】
β-ラクタム、例えばペニシリンのような抗生物質は、細胞壁の合成を中断させ、それによって細胞の統合性を失わせ、かつ複製のときに溶解することによって機能する。これは、細菌が活発に増殖していることを条件に、かなり速く、抗生物質にさらした後約10〜15分で起こる。
クロラムフェニコールのような他の抗生物質は、細胞溶解は起こさないが、生物静力学的薬剤が為すような他の方法で細胞増殖を阻害する。使用するいずれの特定薬剤の作用機序形態も一般に理解されている。本発明は、これら薬剤のいずれについても、細菌に対する感受性試験での使用に適合しうる。
【0014】
本発明の特定の実施形態は、溶菌性抗生物質に対する細菌の感受性を決定する方法であって、以下の工程:(i)前記細菌を、例えば免疫捕捉工程を用いて他の菌種から分離する工程;(ii)前記細菌の培養の細胞外アデニル酸キナーゼ含量を決定する工程;(iii)該培養に溶菌性抗生物質を添加し、それを、該抗生物質にその溶菌効果を及ぼすのに十分な時間インキュベートする工程;及び(iv)該培養の細胞外アデニル酸キナーゼ含量を決定して、溶菌が起きたかどうかを判定する工程;を含んでなる方法を包含する。
【0015】
この試験では、感受性細菌は、抗生物質の添加後すぐに、一般に約15分以内で抗生物質によって溶解されるだろう。従って、抗生物質の添加後、細菌細胞が自由な細胞内アデニル酸キナーゼを壊して開くので、培養の遊離アデニル酸キナーゼの含量は有意に増加するだろう。アデニル酸キナーゼレベルの最適な測定は、抗生物質の添加直前に、それから再び抗生物質の添加後少なくとも15分かかるだろう。耐性細菌の培養の遊離アデニル酸キナーゼ含量は、大部分一定のままだろう。従って、普通に存在する低レベルの細胞外アデニル酸キナーゼのみの含量は、上述のように測定され、これは、健康的に増殖する細胞についてはほぼ安定している。この方法を用いて、約40分の時間で抗生物質感受性の判定を行うことができる。
この方法で使用する細菌の培養は、上述の前記細菌に有利な選択的な増殖培地を含んでもよく、これは、コンタミネーションの結果である誤った陽性結果を最少化するだろう。
【0016】
これとは別の本発明の実施形態は、細菌の非溶菌性抗生物質又は生物静力学的薬剤に対する感受性を決定する方法であって、(i)前記細菌を、例えば免疫捕捉法を用いて他の菌種から分離すること、(ii)前記非溶菌性抗生物質又は生物静力学的薬剤及び任意に前記細菌に有利な選択的増殖培地の存在下、前記細菌の培養をインキュベートすること、(iii)間欠的に試料を取り、これら試料中で細菌を溶解し、かつ前記試料中のアデニル酸キナーゼを検定することによって、インキュベーションの時間に渡って、該培養の全アデニル酸キナーゼ含量が増加したか減少したかを決定すること;を含んでなる方法を提供する。
【0017】
この場合、ある時間、例えば約1時間に及ぶ化学的溶解後に得られるアデニル酸キナーゼの量は、該細菌が該抗生物質に感受性であれば、ほぼ一定のままだろう。これは、細菌が該抗生物質の存在下では増殖できないからである。しかし、耐性細菌の場合は、細菌は増殖し続け、そしてアデニル酸キナーゼのレベルは経時的に着々と増加するだろう。
このように、溶菌性又は非溶菌性のいずれの特定の抗生物質に対する純粋培養の感受性も、上記工程Iの方法論を用いて迅速に決定されうる。
【0018】
本発明の他の実施形態は、細菌の単離又は純粋培養の使用を不要とする。詳細には、本発明は、さらに、抗生物質又は生物静力学的薬剤に対する細菌の感受性を決定する方法であって、(a) 前記細菌の培養の第1試料、前記抗生物質の存在下の第2試料、前記標的細菌を特異的に溶解するバクテリオファージの存在下の第3試料、及び前記バクテリオファージ及び前記抗生物質の両方の存在下の第4試料をインキュベートすること、(b) 培養後の第1〜第4試料のおのおのについてアデニル酸キナーゼ含量を決定すること、及び(c) アデニル酸キナーゼの検定結果を基礎とし、かつ抗生物質又は生物静力学的薬剤の作用形態に基づいて、該細菌の感受性又は耐性を決定することを含んでなる方法を提供する。
【0019】
細菌が抗生物質の効果に対して感受性であるためには、活発に増殖していなければならないので、最初の増菌工程に選択的な培地を使用できるだろう。増菌工程は、約1時間のインキュベーションを含んでもよい。この時間後、該標的細胞は、所望により免疫捕捉によって新鮮な選択的培地に増菌されてもよい。抗生物質を標的細菌に添加する効果は、バクテリオファージ媒介の溶解と組み合わせたアデニル酸キナーゼの測定によって決定できる。
【0020】
バクテリオファージが再生するためには、宿主細胞は対数期の増殖になければならない。例えば抗生物質の存在によって増殖が阻害されると、該ファージは複製することができず、それゆえ宿主を溶解できないだろう。バクテリオファージとからめたアデニル酸キナーゼ検定を使用して、細菌の抗生物質感受性を3時間以内で決定することができる。抗生物質にさらす前又はファージによる感染の前に健康的に増殖する細胞を確立するには、さらなる時間が必要である。試験結果の2つのタイプは、関係した抗生物質の作用形態に依存する可能性がある。
【0021】
得られた結果を図4にまとめた。図中、「−」は、細胞外アデニル酸キナーゼのみの検出と一致する結果を示し、「+」は、増殖しない生存試料の細胞内及び細胞外アデニル酸キナーゼの検出と一致する適度な陽性結果を示し、かつ「++」は、増殖培養の溶解と一致するアデニル酸キナーゼの上昇したレベルの検出を示す。
【0022】
図4より明らかなように、この一連の試験を用いて得られた結果のパターンにより、薬剤の作用形態(溶菌性又は非溶菌性)がわかれば、感受性細菌と耐性細菌との区別を容易にできる。以下の実施例でさらに詳細に説明するように、種々の試薬と細菌との相互作用の結果として様々な効果が引き起こされる。
細胞培養の細胞外アデニル酸キナーゼ含量と、細胞内及び細胞外の総含量との比較により、細胞培養の増殖状態及び健康状態が示されることがわかった。
【0023】
従って、本発明のさらに別の実施形態は、細菌培養の増殖期の決定方法であって、(a)前記細菌培養の第1試料を溶菌剤にさらして、その中で細菌細胞を溶解させること、(b)前記第1試料中及び溶菌剤にさらされなかった前記培養の第2試料中のアデニル酸キナーゼを検定すること、及び(c)前記第1及び第2培養から得られた結果を比較し、かつ該培養の増殖期を判定することを含んでなる方法を提供する。
【0024】
健康な対数期培養は、相対的に低い(全アデニル酸キナーゼの約1%)細胞外アデニル酸キナーゼレベルを有しており、細胞外アデニル酸キナーゼの比率は対数期を通して相対的に一定のままであり、かつ培養が静止期に近づくにつれて増加する。静止期の培養は、培養培地中の全アデニル酸キナーゼの3分の1程度を有しうる。従って、アデニル酸キナーゼを用いて、細胞の健康状態、及びその数を迅速に決定できる。
【0025】
この方法を使用して、例えば最適な増殖が要求される、例えば発酵又は細胞生成が要求される他のプロセスで、例えば特定の細胞培養がよく増殖することを確認できる。これとは別に、試験において弱い又は静止期の培養が使用されたための誤った陽性結果を回避するために、抗生物質又は静菌化合物をスクリーニングする際、細胞が非常に増殖することを確かめる必要があるかもしれない。さらに、それを使用して、いかなる特定培養の増殖に関しても温度又は培養培地のようなどんな効果的な環境因子を有するかを決定してもよい。
それぞれの場合に、アデニル酸キナーゼ含量は、培養の試料を取り、かつ例えば国際特許出願番号PCT/GB94/00118及びPCT/GB94/01513で記載されているようなアデニル酸キナーゼ検定法を行うことによって判定してもよい。
【0026】
また、本発明は、本発明の方法を達成する試験キットをも提供する。該試験キットは、特定の検定法を実行できる適切な成分を含む。抗生物質感受性用試験キットは、例えば凍結乾燥又は他の保存状態の一連の抗生物質を含んでもよい。それは、界面活性剤又は他の化学的溶菌剤のような試料からアデニル酸キナーゼを抽出するための試薬、及びルシフェリン/ルシフェラーゼ等のようなアデニル酸キナーゼを検定するための試薬をも含んでもよい。また、混合細菌培養を試験すべき場合での使用のためには、キットは適切なバクテリオファージを、凍結乾燥バクテリオファージのような保存状態でも含みうる。さらに、該キットは、適切な選択的増殖培地をも含んでよい。試薬は、マルチ−ウェルプレートのような適切な反応容器に供給してもよい。ここで、添付図面を参照して、実施例により本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】大腸菌細胞からのアデニル酸キナーゼ活性を測定するための実験結果を示すグラフである。
【図2】純粋培養中、3.5×105バシラスサチリスバールニガー増殖型細胞の存在下、サルモネラチフィムリウムについての磁性ビーズ免疫捕捉検定の結果を示し;ここで、■はビーズにより捕捉された細胞によるアデニル酸キナーゼ活性を示し;□は試料中の残りの細胞によるアデニル酸キナーゼ活性を示す(すなわち、左側のグラフは、捕捉されないサルモネラ細胞由来、右側のグラフはこれらプラス非特異的細胞由来)。
【図3】大腸菌細胞の培養からのアデニル酸キナーゼのファージ媒介遊離の時間経過を調査するための実験結果を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態によって得られた抗生物質試験結果の概要図である。
【図5】抗生物質耐性について細菌を試験するための測定プレートを示す図である。
【図6】大腸菌10243のアンピシリン感受性及び耐性培養についてのファージ10359及び50mg/リットルのアンピシリンの効果を示し、ここで、○はアンピシリン及びファージ10359を有する感受性大腸菌10243の結果を表し、▽は溶菌剤なしの結果を表し、かつ、□はアンピシリン及びファージを有する耐性大腸菌10243の結果を表す。
【図7】大腸菌10243の培養に及ぼすクロラムフェニコール(34mg/リットル)及びファージ10359の効果を示し、ここで、○はファージのみを表し、▽はファージ10359及びクロラムフェニコールを表し、□はクロラムフェニコールのみを表し、かつ◇はファージ又はクロラムフェニコールなしを表す。
【0028】
実施例1
培養のアデニル酸キナーゼの細胞外含量と総含量との比較
例えば、一実施形態では、細菌細胞の試料を第1及び第2試料に分ける。細菌細胞の第1試料を、マグネシウムイオンの存在下ADP及び界面活性剤を含有する溶液と混ぜる。これは、試料中に存在するすべての細胞からアデニル酸キナーゼを抽出するので、ATP生成反応を起こさせる。反応を必要な時間、例えば5分間行わせ、その後生物発光試薬を添加し、その結果生じる光をルミノメーターで測定する。このように行われる検定法により、試料中の細胞外又は細胞内のアデニル酸キナーゼの総量を決定する。
第2試料を界面活性剤がないこと以外は同様の検定法に供して、細胞外アデニル酸キナーゼのみを測定する。
【0029】
実施例2
混合懸濁液から標的細胞を分離するたの免疫捕捉の使用
純粋試料及び3.5×105バシラスサチリスバールニガー(Bacillus Subtilis var niger)(BG)増殖型細胞をも含有する試料によるサルモネラチフィムリウム(Salmonella typhimurium)についての免疫捕捉検定を行った。免疫捕捉検定は、全体積300μlで行った。S.チフィムリウム特異性抗体で被覆された磁性マイクロビーズへの免疫捕捉工程は10分かかった。その固定化されたビーズを洗浄して非結合粒子を除去し、かつ非特異的溶解工程を行って、結合物質からアデニル酸キナーゼを遊離させた。これは、5分間のアデニル酸キナーゼ検定によって検出した。
結果を図2に示した。グラフは、標的細胞の約70%が懸濁液から選択的に除去されること、かつこのことは、混入物質(BG細胞)の存在によってあまり影響されないことを示している。
【0030】
実施例3
ファージ媒介溶解の使用
大腸菌特異性バクテリオファージで感染されたものもある大腸菌細胞の培養からのアデニル酸キナーゼ遊離の時間経過を調べた。100μlの試料(それぞれちょうど350個の細胞を含有)を、大腸菌特異性バクテリオファージで感染された培養から間欠的に取り出し、40分後に細胞外アデニル酸キナーゼ活性を検定した。結果を図3に示し、ここで、○=感染された培養、●=感染されていない対照である。
これらの結果から、この方法により500個以下の細胞が検出されることがわかった。
【0031】
実施例4
抗生物質感受性検定:−溶菌性抗生物質
試料細胞(混合培養でも純粋培養でもよい)を2つのフラクションに分割し、1つをバクテリオファージで感染させた。これらフラクションをそれぞれさらに2つのフラクションに分割し、1つは抗生物質にさらし、もう一方は処理しないでおいた。所定時間で生成された細胞外アデニル酸キナーゼの相対レベルは、抗生物質とバクテリオファージの標的細胞に及ぼす効果を示す。実際に得られた試験結果を表1に示した。
結果は、細胞及び対照の両方の抗生物質耐性状態が、本試験が正確に機能したことを保証することを示している。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例5
抗生物質感受性検定:−非溶菌性抗生物質又は生物静力学的薬剤
同様の方法によって、細胞を溶解しないが、他の方法で細胞増殖を阻害する抗生物質(及び細菌細胞の増殖を阻害する生物静力学的薬剤のような他の化学薬品)に対する細菌の感受性を迅速に決定することができる。
混合培養中の細胞の非溶菌性抗生物質に対する感受性試験は、溶解を起こす抗生物質に対する感受性についての試験と同様な方法で実行できるだろう。しかし、バクテリオファージ感染を許容するためには細菌は活発に増殖していなければならないので、抗生物質に対する感受性は、処理された試料中のファージ媒介溶解の欠如によって示されるだろう。
観察されるであろう結果を表2にまとめた。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例6
抗生物質耐性試験用試験キット
好適な試験キットは、図5に示されるような多数のウェルが形成され、典型的にはプラスチックプレートである試料容器を含む。各ウェルに保持できる液体の総体積は、約0.5mlでよい。プレートは、好適には前調製して、特定のウェルが、抗生物質及び/又はバクテリオファージの適切な凍結乾燥(又は他の保存状態の)調製品、及び任意に選択的な増殖培地をも含む。
図5に示されるようなプレートでは、各列に4つのウェルが配置され、特定の抗生物質に対する耐性を試験するのに使用されており、このプレートを用いて、3つの抗生物質を同時に試験することができる。
【0036】
約0.2mlの体積の試験用試料が使用され、それは純粋培養、免疫捕捉により増菌された調製品、選択的培地からの試料、又は適当なニートな試料でよく、各ウェルに添加される。例えば、37℃で1時間のインキュベーション後、アデニル酸キナーゼ活性を測定するための試薬を添加してよい。これらは、アデニル酸キナーゼの存在下、比色分析シグナルを生じる試薬でよく、さらに好ましくは生物発光シグナルを生成する試薬である。
詳細には、ルシフェリン及びルシフェラーゼによる5分後、ADP及びマグネシウムイオン源を添加する。1つのウェルを管へ移動して管ルミノメーター中で測定することによって、光の放射を決定するか、又は好ましくはプレートをプレートルミノメーター中で自動的に検定し、又はCCDカメラシステムを使用して全体として画像化する。
【0037】
実施例7
溶菌性抗生物質と非溶菌性抗生物質が培養増殖に及ぼす効果の比較
溶菌性抗生物質(アンピシリン)及び非溶菌性抗生物質(クロラムフェニコール)の大腸菌培養増殖に及ぼす効果を調べた。
アンピシリン耐性をコードするプラスミド(PUC18)を大腸菌10243の純粋培養中に導入して、ファージの宿主特異性を変えずに耐性にさせた。また、プラスミドの輸送がその増殖率又はファージ10359による感染を変えないことを保証するために耐性菌株を試験し、耐性菌株は増殖及び感染に関して感受性菌株と同様であることがわかった。
大腸菌バクテリオファージ10359の存在下、感受性(輸送されない)細菌及び耐性細菌から遊離されるアデニル酸キナーゼと、溶菌性抗生物質(アンピシリン)又は非溶菌性抗生物質(クロラムフェニコール)のいずれかと比較した。
【0038】
大腸菌10243の耐性菌株と感受性菌株の両方の対数期培養を、105ファージ10359によってT0で、また50μl/mlのアンピシリンによってT5で感染させた。アンピシリンによる細胞溶解は、感受性菌株中T10で明白であり、T20で顕著であり、バクテリオファージによるいかなるタイティック(tytic)な効果をも遮蔽している。耐性菌株は、抗生物質によって感染されなかったが、20分後のファージ感染による溶解を示したが、これは有意でない単位T40であった。結果を図6に示した。図6は、アンピシリン及びファージの存在下、40分のみのインキュベーション後、大腸菌10243の培養のアンピシリンに対する感受性を決定できることを示している。
【0039】
大腸菌10243の対数期培養を、ファージ10359及び/又はクロラムフェニコール(34μg/ml)の存在下、80分間にわたってインキュベートし、前記と同様にアデニル酸キナーゼを検定した。結果を図7に示した。
培養をバクテリオファージ及びクロラムフェニコールの両方と共にインキュベートした場合、クロラムフェニコールのみの場合に比し、多くの細胞溶解が示された。クロラムフェニコールは溶菌性抗生物質ではないが、インキュベーションの間中、おそらく細胞死によるであろう細胞の溶解を示した。ファージ媒介溶解の度合は、抗生物質含有培養中でかなり少なかった。細菌が十分に増殖せず、ファージが複製サイクルを達成するのを妨げたからである。
【0040】
アンピシリン耐性変異体によって得られた結果によれば、クロラムフェニコール耐性変異体は、抗生物質が存在してもしなくても同様にふるまうだろう。従って、60分のインキュベーション後、自然放射能の発光の増加度が、培養がクロラムフェニコールに対して感受性であるか否かを示すだろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌細胞の増殖特性に及ぼす外部条件の効果についてのインビトロ試験におけるアデニル酸キナーゼの検定の使用。
【請求項2】
前記試験が、抗生物質又は生物静力学的薬剤に対する細菌の感受性についてである請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記試験が、細菌の増殖段階を判定することである請求項1に記載の使用。
【請求項4】
ある試薬に対する細菌の感受性を決定する方法であって、前記試薬を含有する培養から、細菌の溶解によって遊離されたアデニル酸キナーゼを検定すること、及びその結果を、試薬の添加前の培養、及び/又は異なった時点における同一培養からの溶解された細菌、及び/又は前記試薬を含まない同様の培養からの溶解された細菌のいずれかについての同様のアデニル酸キナーゼの検定から得られた結果と比較することを含む方法。
【請求項5】
細菌が、化学的溶菌剤を用いて溶解される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記溶菌剤が、特定の細菌に特異的である請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記溶菌剤が、特異的な細菌属、種又は株に感染し、かつ溶解するバクテリオファージである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
細菌が、酵素によって溶解される請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記酵素が、溶菌素である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細菌が、前記培養中のいずれの標的でない細菌をも実質的に除去するために、まず分離工程に供される請求項3〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記分離が、免疫捕捉法を用いて行われる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細菌が、前記標的細菌に対して特異的である抗体又はその結合断片が、その上に固定化されている固体表面に濃縮されている請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記培養が、さらに選択的な前記細胞に有利な増殖培地を含んでなる、請求項4〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
溶菌性抗生物質に対する細菌の感受性を決定する方法であって、(i)前記細菌を他の微生物種から分離する工程、(ii)前記細菌の培養の細胞外アデニル酸キナーゼ含量を決定する工程、(iii)前記培養に前記溶菌性抗生物質を添加し、それを、前記抗生物質がその溶菌効果を発揮できるのに十分な時間インキュベートする工程、及び(iv)前記培養のアデニル酸キナーゼ含量を決定して、溶解が起こったかどうかを判定する工程を含んでなる請求項4に記載の方法。
【請求項15】
工程(i)において、前記細菌が、免疫捕捉法によって分離される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
細菌の前記培養が、前記細菌に有利な選択的増殖培地を含む請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
非溶菌性抗生物質又は生物静力学的薬剤に対する細菌の感受性を決定する方法であって、(i)前記細菌を他の微生物種から分離する工程、(ii)前記細菌の培養を、前記非溶菌性抗生物質又は生物静力学的薬剤の存在下、インキュベートする工程、(iii)そのインキュベーションの間に、間欠的に試料を取り出し、これら試料中の細菌を溶解し、かつ前記試料中のアデニル酸キナーゼを検定することによって、前記培養のすべてのアデニル酸キナーゼ含量が増加するか又は減少するかを決定する工程を含んでなる請求項4に記載の方法。
【請求項18】
前記細菌が、化学的溶菌剤を用いて溶解される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程(i)において、前記細菌が、免疫捕捉法によって分離される請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
細菌の前記培養が、前記細菌に有利な選択的増殖培地を含む請求項17〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
抗生物質又は生物静力学的薬剤に対する細菌の感受性を決定する方法であって、(a) 前記細菌の第1試料、前記抗生物質の存在下の第2試料、前記標的細菌を特異的に溶解するバクテリオファージの存在下の第3試料、及び前記バクテリオファージ及び前記抗生物質の両方の存在下の第4試料をインキュベートする工程;
(b) 培養後の前記第1〜第4の各試料のアデニル酸キナーゼ含量を決定する工程;及び(c) そのアデニル酸キナーゼの検定の結果を基礎とし、かつ前記抗生物質又は生物静力学的薬剤の作用形態に基づき、前記細菌の感受性又は耐性を決定する工程;
を含んでなる方法。
【請求項22】
工程(c)で得られた結果を、図4に示される結果と比較して、前記細菌が前記抗生物質又は生物静力学的薬剤に対して感受性であるか、又は耐性であるかを決定する請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記培養中の前記細菌の濃度が、工程(a)の前に、免疫捕捉法によって高められる請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記試料が、さらに、他の菌種に優先して前記細菌の増殖に有利な選択的増殖培地を含む請求項21〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
細菌培養の増殖期を決定する方法であって、(a) 前記細菌培養の第1試料を、溶菌剤に供して、その中で細菌細胞を溶解させる工程;
(b) 前記第1試料中のアデニル酸キナーゼを検定する工程;
(c) 前記溶菌剤にさらされなかった前記培養の第2試料中のアデニル酸キナーゼを検定する工程;
(c) 前記第1及び第2培養から得られた結果を比較し、かつ前記培養の増殖期を判定する工程を含んでなる方法。
【請求項26】
工程(c)において、第1試料中で見出されるレベルの1%のオーダーである第2試料中のアデニル酸キナーゼレベルが、健康な対数期の培養及び1%の過剰レベルを指すことを示す結果が、静止期への進行を指し示している請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記溶菌剤が、界面活性剤及び特定の標的細菌の細胞に特異的に感染し、かつ溶解するバクテリオファージを含む請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
抗生物質に対する細菌の感受性を試験するための試験キットであって、1以上の抗生物質、及びアデニル酸キナーゼの検定に必要な1以上の試薬を含んでなる試験キット。
【請求項29】
アデニル酸キナーゼの検定に必要な前記試薬が、ADP、マグネシウムイオン源、ルシフェリン及びルシフェラーゼを含む請求項28に記載の試験キット。
【請求項30】
前記抗生物質が、凍結乾燥されている請求項28又は29に記載の試験キット。
【請求項31】
さらに、溶菌剤を含んでなる請求項28〜30のいずれか1項に記載の試験キット。
【請求項32】
前記溶菌剤が、化学薬品を含んでなる請求項31に記載の試験キット。
【請求項33】
前記溶菌剤が、特定の標的細菌の細胞に特異的なバクテリオファージを含んでなる請求項31に記載の試験キット。
【請求項34】
さらに、マルチ−ウェルプレートを含んでなる請求項28〜33のいずれか1項に記載の試験キット。
【請求項35】
実質的に、実施例を参照して上述したような請求項1に記載の使用。
【請求項36】
実質的に、実施例を参照して上述したような請求項4に記載の方法。
【請求項37】
実質的に、実施例6を参照して上述したような試験キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−148303(P2009−148303A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92366(P2009−92366)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【分割の表示】特願2000−528706(P2000−528706)の分割
【原出願日】平成11年1月12日(1999.1.12)
【出願人】(390040604)イギリス国 (58)
【氏名又は名称原語表記】THE SECRETARY OF STATE FOR DEFENCE IN HER BRITANNIC MAJESTY’S GOVERNMENT OF THE UNETED KINGDOM OF GREAT BRITAIN AND NORTHERN IRELAND
【Fターム(参考)】