説明

抗癌剤および免疫調節因子としてのトリプトリドC環誘導体

治療(例えば、抗増殖治療、抗癌治療、および免疫抑制治療)において使用するためのトリプトリドおよびヒドロキシル化トリプトリドのC環およびD環の改変に基づく化合物が開示される。一局面において、本発明は、明細書に記載される構造Iを有する化合物を提供し、式中、R、R、R、およびRのうちの各々は、水素、ヒドロキシル、−O(CO)X、−O(CO)OR、および−O(CO)N(Rから独立して選択され、ここでXは、ハロゲンであり、Rは、水素もしくは低級アルキルであり、nは、1〜2であり、ただし、R、R、R、およびRのうちの少なくとも3つは、水素であり;mは1〜2であり;Xは、ハロゲンであり;そしてXはハロゲンでありかつWはヒドロキシルであるか、またはXおよびWは一緒になって、エポキシ基を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
この出願は、米国特許法§119(e)の下、2009年2月5日に出願された米国仮特許出願第61/150,207号(この開示は、その全体が参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、免疫抑制剤、抗炎症剤、および抗癌剤として有用な化合物に関する。
【0003】
(参考文献)
【0004】
【化1】

【背景技術】
【0005】
(発明の背景)
免疫抑制剤は、自己免疫疾患の処置において、および移植拒絶を処置もしくは予防すること(移植片対宿主病(GVHD)の処置を含む)において、広く使用されている。一般的な免疫抑制剤としては、アザチオプリン、コルチコステロイド、シクロホスファミド、メトトレキサート、6−メルカプトプリン、ビンクリスチン、およびシクロスポリンAが挙げられる。
【0006】
一般に、これら薬物のうちのいずれも、完全には有効でなく、大部分は、毒性によって制限される。例えば、シクロスポリンA(広く使用されている薬剤)は、腎臓に対して顕著に毒性である。さらに、有効な処置に必要とされる用量は、種々の日和見病原体(opportunistic invader)による感染に対する患者の罹りやすさを増大させ得る。
【0007】
化合物、トリプトリド(中国の薬用植物であるTripterygium wilfordii(TW)から得られる)、ならびにその特定の誘導体およびプロドラッグは、例えば、自己免疫疾患の処置において、および移植拒絶を処置もしくは予防すること(移植片対宿主病(GVHD)の処置を含む)において、免疫抑制活性を有するとして同定された。トリプトリドならびにその特定の誘導体およびプロドラッグはまた、抗癌活性を示すことが報告された。トリプトリドのこのような誘導体およびプロドラッグは、薬物動力学もしくは生体分布のような分野において、天然のトリプトリドと比較して(例えば、脂質溶解度もしくは水溶解度における差異によって、またはプロドラッグとしてのそれらの活性を介して)利益を提供した;しかし、それらの生物学的活性は、しばしば、天然のトリプトリドより顕著に低い。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一局面において、本発明は、免疫抑制治療、抗炎症治療および抗癌治療に有用な化合物を提供する。一実施形態において、上記化合物は、式I:
【0009】
【化2】

によって表され、ここで
、R、R、およびRのうちの各々は、水素、ヒドロキシル、−O(CO)X、−O(CO)OR、および−O(CO)N(Rから独立して選択され、ここでXはハロゲンであり、Rは水素もしくは低級アルキルであり、nは、1〜2であり、
ただし、R、R、R、およびRのうちの少なくとも3つは、水素であり;
mは、1〜2であり;
は、ハロゲン(例えば、FもしくはCl)であり;そして
は、ハロゲン、好ましくは、Clであり、かつWは、ヒドロキシルであるか;またはXおよびWは一緒になって、エポキシ基を形成する。
【0010】
、R、R、およびRのうちの各々のいずれかが、−O(CO)X、−O(CO)OR、もしくは−O(CO)N(Rから選択される場合、変数nは、好ましくは、1である。
【0011】
式Iの選択された実施形態において、R、R、R、およびRのうちの各々は、水素である。さらに選択された実施形態において、m=1である。
【0012】
さらなる局面において、本発明は、構造II:
【0013】
【化3】

の化合物を提供し、ここで
、R、R、およびRのうちの各々は、水素、ヒドロキシル、−O(CO)X、−O(CO)OR、および−O(CO)N(Rから独立して選択され、ここでXは、ハロゲンであり、Rは、水素もしくは低級アルキルであり、そしてnは、1〜2であるが、ただし、R、R、R、およびRのうちの少なくとも3つは、水素であり;そしてpは、0〜4である。好ましくは、R、R、R、およびRのうちのいずれかが、−O(CO)X、−O(CO)OR、および−O(CO)N(Rである場合、n=1であり、Xは、Clである。選択された実施形態において、R、R、R、およびRのうちの各々は、水素である。さらに選択された実施形態において、p=0である。
【0014】
関連する局面において、本発明は、免疫抑制をもたらす方法を提供し、上記方法は、このような処置が必要な被験体に、薬学的に受容可能なビヒクル中、有効量の上記構造Iもしくは構造IIの化合物を投与する工程を包含する。本発明はまた、(例えば、抗癌処置のために)細胞においてアポトーシスを誘導する方法を提供し、上記方法は、上記細胞と、有効量の上記構造Iもしくは構造IIの化合物とを接触させる工程を包含する。これら方法の具体的実施形態は、上記の式Iおよび式IIの具体的実施形態のうちのいずれかを使用し得る。
【0015】
本発明のこれらおよび他の目的および特徴は、以下の発明の詳細な説明が、添付の図面と共に読まれる場合、より十分に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1A〜1Cは、本明細書中の構造Iの実施形態である、本発明の例示的化合物を示す。
【図2】図2は、本明細書中の構造IIの実施形態である、本発明の例示的化合物を示す。
【図3】図3は、トリプトリド(PG490と称される)と比較して、PG757と称される本発明の化合物の、Jurkat細胞における細胞傷害効果を示す(実施例4)。
【図4】図4は、トリプトリド(PG490と称される)と比較して、PG762と称される本発明の化合物の、Jurkat細胞における細胞傷害効果を示す(実施例4)。
【図5】図5は、トリプトリド(PG490と称される)と比較して、PG782と称される本発明の化合物の、Jurkat細胞における細胞傷害効果を示す(実施例4)。
【図6】図6は、トリプトリド(PG490と称される)と比較して、PG757と称される本発明の化合物による、Jurkat細胞におけるIL−2生成の阻害を示す(実施例5)。
【図7】図7は、トリプトリド(PG490と称される)と比較して、PG762と称される本発明の化合物による、Jurkat細胞におけるIL−2生成の阻害を示す(実施例5)。
【図8】図8は、トリプトリド(PG490と称される)と比較して、PG782と称される本発明の化合物による、Jurkat細胞におけるIL−2生成の阻害を示す(実施例5)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(発明の詳細な説明)
(I.定義)
「アルキル」とは、炭素および水素を含む飽和の非環式の1価ラジカルをいい、これは、直鎖状であってもよいし、分枝状であってもよい。アルキル基の例は、メチル、エチル、n−ブチル、t−ブチル、n−ヘプチル、およびイソプロピルである。「シクロアルキル」とは、炭素および水素を含む完全に飽和した環式の1価ラジカルをいい、これは、アルキルでさらに置換されていてもよい。シクロアルキル基の例は、シクロプロピル、メチルシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、エチルシクロペンチル、およびシクロヘキシルである。「低級アルキル」とは、1〜6個の炭素原子、好ましくは、1〜4個の炭素原子を有するそのような基をいう。
【0018】
「アリール」とは、1個の環(例えば、ベンゼン)もしくは2個の縮合環(例えば、ナフチル)を有する1価の芳香族ラジカルをいう。本明細書で使用される場合、アリールは、好ましくは、単環式および炭素環式(非複素環式)(例えば、ベンゼン(フェニル)環もしくは置換されたベンゼン環)である。「置換された」とは、1個以上の環水素が、ハロゲン(例えば、フッ素、塩素もしくは臭素)、低級アルキル、ニトロ、アミノ、低級アルキルアミノ、ヒドロキシ、低級アルコキシ、もしくはハロ(低級アルキル)のような基で置換されていることを意味する。
【0019】
「ハロゲン」もしくは「ハロ」とは、フッ素、塩素、臭素、もしくはヨウ素、そして好ましくは、フッ素もしくは塩素をいう。
【0020】
本開示の目的で、以下の番号付けスキームが、トリプトリドおよびトリプトリド誘導体について使用される:
【0021】
【化4】

(II.本発明の化合物)
本発明の化合物は、ダイマー構造(構造II)を生成するために14−ヒドロキシ基のアシル化から、または好ましくは、以下に記載されるように、新たな8,14環構造(構造I)を生成するために7,8−エポキシ基の開環と組み合わせて、得られるトリプトリドの誘導体もしくはヒドロキシル化トリプトリドである。構造Iにおける上記新たな環構造は、カーボネート(-OC(O)O-)もしくはオキサレート(-OC(O)C(O)O-)部分を組み込む。
【0022】
より具体的には、本発明は、構造I:
【0023】
【化5】

によって表される化合物を提供し、ここで
、R、R、およびRのうちの各々は、水素、ヒドロキシル、−O(CO)X、−O(CO)OR、および−O(CO)N(Rから独立して選択され、ここでXは、ハロゲンであり、Rは、水素もしくは低級アルキルであり、nは、1〜2であり、
ただし、R、R、R、およびRのうちの少なくとも3つは、水素であり;
mは、1〜2であり;
は、ハロゲン(例えば、FもしくはCl)であり;
は、ハロゲン、好ましくは、Clであり、かつWは、ヒドロキシルであるか;またはXおよびWは一緒になって、エポキシ基を形成する。
【0024】
、R、R、およびRのうちの各々のいずれかが、−O(CO)X、−O(CO)OR、もしくは−O(CO)N(Rから選択される場合、変数nは、好ましくは、1である。
【0025】
式Iの選択された実施形態において、R、R、R、およびRのうちの各々は、水素である。さらに選択された実施形態において、m=1である。
【0026】
さらなる局面において、本発明は、構造II:
【0027】
【化6】

のダイマー化合物を提供し、ここで
、R、R、およびRのうちの各々は、水素、ヒドロキシル、−O(CO)X、−O(CO)OR、および−O(CO)N(Rから独立して選択され、ここでXは、ハロゲンであり、Rは、水素もしくは低級アルキルであり、nは、1〜2であり、ただし、R、R、R、およびRのうちの少なくとも3つは、水素であり;pは、0〜4である。
【0028】
好ましくは、R、R、R、およびRのうちのいずれかが、−O(CO)X、−O(CO)OR、および−O(CO)N(Rである場合、n=1であり、Xは、Clである。選択された実施形態において、R、R、R、およびRのうちの各々は、水素である。
【0029】
変数pは、0、1、2、3、および4のうちのいずれかであり;選択された実施形態において、p=0であり、その結果、上記多環式環構造は、PG782と称される例示的化合物にあるように、オキサリル(−C(O)−C(O)−)リンカーを介してつながれる。
【0030】
(A.調製)
本発明の化合物は、トリプトリドもしくはそのヒドロキシル化誘導体から調製され得る。後者は、トリプジオリド(2−ヒドロキシトリプトリド)および16−ヒドロキシトリプトリドを含み、これらは、トリプトリドとともに、上記中国の薬用植物Tripterygium wilfordii(TW)の根の木部から、もしくは他の既知の供給源から得られ得る。上記TW植物は、福建省および他の中国南部の省において見いだされる;TW植物材料は、一般に、中国で、もしくは米国の商業的供給元から得られ得る。トリプトリド、トリプジオリドおよび16−ヒドロキシトリプトリドを調製するための方法は、当該分野で公知であり、例えば、Kupchanら(1972,1977);Lipskyら(1994);Puら(1990);およびMaら(1992)に記載されている。
【0031】
構造Iの化合物は、二酸クロリド(diacid chloride)Cl(CO)Cl(すなわち、m=1であればホスゲンまたはm=2であれば、塩化オキサリル)との反応によって、トリプトリド、またはトリプトリド誘導体もしくはアナログから調製され得る。有機塩基(例えば、トリエチルアミン)は、代表的には、触媒として含められるが、その反応は、上記触媒なしでも進むと予測される。反応条件に依存して、上記12,13−エポキシ化合物は、単独で、または12−クロロ−13−ヒドロキシ(開環)アナログとともに形成される。上記化合物は、標準的なクロマトグラフィー法によって分離され得、後者(12−クロロ−13−ヒドロキシ(開環)アナログ)は、塩基での処理によって前者(上記12,13−エポキシ化合物)へと変換され得る。
【0032】
構造Iの例示的化合物(PG757、PG762およびPG830)の調製は、以下の実施例1〜2に記載される。
【0033】
構造IIのダイマー化合物は、トリプトリド、またはトリプトリド誘導体もしくはアナログと、二酸クロリドCl(CO)Cl(ここでmは、0もしくは1である)とを、低温(すなわち、<0℃、好ましくは、<−20℃)で、塩基性触媒の存在下で反応させることによって調製され得る。構造Iの例示的化合物(PG782)の調製は、以下の実施例3に記載される。
【0034】
(B.生物学的活性)
構造Iの3種の化合物(PG757、PG762およびPG830と称される)および構造IIの1種の化合物(PG782と称される)の細胞傷害活性を、実施例4に記載されるように、標準的MTTアッセイを使用して評価した。これら化合物の免疫抑制活性を、実施例5に記載されるように、標準的IL−2阻害アッセイで評価した。
【0035】
細胞傷害アッセイの結果を、図3〜5に示し、IL−2免疫抑制アッセイの結果を、図6〜8に示す。これら図面の凡例において、「マウス」、「ヒト」および「サル」は、インキュベーションのために使用した血清をいう。呼称「変換されていない」もしくは呼称なしは、上記化合物が、血清中でインキュベートされなかったことを示す。血清中でのインキュベーションは、上記化合物をトリプトリドに変換すると予測され、このことは、PG757およびPG762に関しては、約5分以内に起こることが示された。
【0036】
図3に示されるように、血清中でインキュベートされた上記化合物PG757は、上記MTTアッセイにおいてトリプトリドより顕著に細胞傷害性であった;以下の表1もまた参照のこと(表中の試験化合物のデータは、血清中で24時間インキュベートした化合物についてである)。インキュベートしたPG782はまた、トリプトリドより強力であり、インキュベートしたPG762は、匹敵する程度に強力であった。図6〜8に示されるように、上記試験化合物の全ては、血清中でインキュベートした場合、IL−2の抑制において、トリプトリドに匹敵した。
【0037】
【表1】

(III.治療用組成物)
本発明のトリプトリド誘導体を含む処方物は、固体、半固体、凍結乾燥粉末、もしくは液体投与形態(例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、徐放性処方物、液剤、懸濁物、エマルジョン、軟膏剤、ローション剤、もしくはエアロゾル)の形態を(好ましくは、正確な投与量の1回の投与に適した単位投与形態で)とり得る。上記組成物は、代表的には、従来の薬学的キャリアもしくは賦形剤を含み、さらに他の薬剤、キャリア、補助薬を含み得る。好ましくは、上記組成物は、約0.5重量%〜75重量%の本発明の化合物(複数)(残りは、適切な薬学的賦形剤からなる)である。経口投与については、このような賦形剤としては、製薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、ゼラチン、スクロース、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。望ましい場合、上記組成物はまた、少量の非毒性の補助物質(例えば、湿潤剤、乳化剤、もしくは緩衝剤)を含み得る。
【0038】
上記組成物は、経口的に、経皮的に、もしくは非経口的に(例えば、静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射、もしくは筋肉内注射によって)、被験体に投与され得る。経口用液体調製物における使用については、上記組成物は、液剤、懸濁物、エマルジョン、もしくはシロップ剤として調製され得、液体形態、または水もしくは通常の生理食塩水中での水和に適した乾燥形態のいずれかで供給される。非経口投与については、非経口投与のための注射用組成物は、代表的には、適切な静脈内溶液(例えば、滅菌生理食塩水)中に上記トリプトリド誘導体を含む。
【0039】
液体組成物は、上記トリプトリド誘導体(約0.5%〜約20%)、および必要に応じて薬学的補助薬を、薬学的に受容可能なキャリア(例えば、生理食塩水、デキストロース水溶液、グリセロール、もしくはエタノール)中に溶解もしくは分散させて、液剤もしくは懸濁物を形成することによって、調製され得る。
【0040】
上記化合物はまた、吸入によって、エアロゾル粒子の形態(固体もしくは液体のいずれか)で(好ましくは、呼吸に適するサイズの)、投与され得る。このような粒子は、吸入の際に口もしくは喉頭を通過して、気管支もしくは肺胞に入るのに十分小さい。一般に、約1〜10ミクロンのサイズ、および好ましくは、約5ミクロン未満のサイズの範囲の粒子が、呼吸に適している。吸入のための液体組成物は、水性キャリア(例えば、滅菌発熱物質非含有生理食塩水もしくは滅菌発熱物質非含有水)中に分散された上記活性薬剤を含む。所望であれば、上記組成物は、プロペラントと混合されて、上記組成物を噴霧し、エアロゾルを形成するのを補助し得る。
【0041】
このような投与形態を調製するための方法は公知であるか、または当業者に明らかである;例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(第19版,Williams&Wilkins,1995)を参照のこと。投与されるべき上記組成物は、被験体において免疫抑制をもたらすか、もしくは標的細胞においてアポトーシスをもたらすのに有効な量で、一定量の選択された化合物を含む。
【0042】
(IV.免疫調節および抗炎症処置)
図6〜8に示されるように、式Iの2種の化合物(PG757およびPG762と称される)、および式IIの化合物(PG782と称される)は、用量依存様式でJurkat細胞においてIL−2生成を阻害した(実施例5を参照のこと)。従って、本発明は、本発明の化合物の、免疫抑制剤としての(例えば、移植手順に付随して、もしくは自己免疫疾患の処置において)使用を含む。
【0043】
免疫調節の異常は、広く種々の自己免疫疾患および慢性炎症性疾患(全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosis)、慢性関節リウマチ、I型糖尿病およびII型糖尿病、炎症性腸疾患、胆汁性肝硬変、ぶどう膜炎、多発性硬化症および他の障害(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎、水疱性類天疱瘡、サルコイドーシス、乾癬、魚鱗癬、グレーブス眼症および喘息)が挙げられる)に存在することが示されてきた。これら状態のうちの各々の根底にある病因は、極めて異なり得るが、それらは、共通して、種々の自己抗体および自己反応性リンパ球の出現を有する。このような自己反応性は、一部は、正常な免疫系が機能する恒常性制御の損失に起因し得る。
【0044】
同様に、成熟リンパ球を含むドナー組織源由来の骨髄移植もしくは造血幹細胞の他の移植の後に、その移植されたリンパ球は、外来物質として上記宿主組織抗原を認識する。これら細胞は活性化されかつ生命を脅かす可能性のある、上記宿主に対する攻撃を開始する(移植片対宿主応答)。さらに、臓器移植の後、上記宿主リンパ球は、臓器移植片の外来組織抗原を認識し、移植片損傷および拒絶をもたらす細胞媒介性免疫応答および抗体媒介性免疫応答を開始する(宿主対移植片応答)。
【0045】
自己免疫もしくは拒絶反応の1つの結果は、炎症性細胞およびそれらが放出するメディエーターによって引き起こされる組織破壊である。抗炎症剤(例えば、NSAID)は、主に、これらメディエーターの効果もしくは分泌をブロックすることによって作用するが、上記疾患の免疫学的根本原理を改変することはしない。他方では、細胞傷害性薬剤(例えば、シクロホスファミド)は、正常応答および自己免疫応答の両方が遮断されるような非特異的様式で作用する。実際に、このような非特異的免疫抑制剤で処置される患者は、彼らの自己免疫疾患から解放されるほど、感染に負ける可能性が高い。
【0046】
本発明の組成物は、自己免疫疾患を処置する、移植拒絶を予防する、または移植片対宿主病(GVHD)を処置もしくは予防するように、トリプトリドおよびそのプロドラッグおよび他の誘導体が有効であると判明した適用において(例えば、免疫抑制治療において)有用である。例えば、共有に係る米国特許第6,150,539号(これは、本明細書に参考として援用される)を参照のこと。トリプトリドおよび本発明の誘導体はまた、他の炎症状態(例えば、外傷性炎症)の処置のために、および男性の繁殖可能性を低下させることにおいて有用である。
【0047】
上記組成物は、不適合ヒトドナーからの固形臓器移植物、組織移植片、もしくは細胞移植物の拒絶を阻害し、従って、上記移植物の生存および機能、ならびにレシピエントの生存を長期化するために有用である。これの使用は、固形臓器移植物(例えば、心臓、腎臓および肝臓)、組織移植片(例えば、皮膚、腸、膵臓、生殖腺、骨、および軟骨)、および細胞移植物(例えば、膵臓、脳および神経組織、筋肉、皮膚、骨、軟骨および肝臓に由来する細胞)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
上記組成物はまた、構成が天然であろうと、ヒト遺伝子、RNA、タンパク質、ペプチドもしくは他の天然でない異種分子を発現するように生体操作(遺伝的に操作)されていようと、または上記動物の天然の遺伝子、RNA、タンパク質、ペプチドもしくは他の正常に発現される分子の発現を欠くように生体操作されていようと、異種移植片(種間)拒絶を阻害するために;すなわち、非ヒト動物に由来する固形臓器移植物、組織移植片、もしくは細胞移植物の拒絶を予防することにおいて、有用である。本発明はまた、非ヒト動物に由来するこのような固形臓器移植物、組織移植片、もしくは細胞移植物の生存を長期化するために、上記の組成物の使用を包含する。
【0049】
自己免疫疾患もしくは自己免疫発現を有する疾患(例えば、アジソン病、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性甲状腺炎、クローン病、糖尿病(I型)、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、全身性エリテマトーデス(SLE)、ループス腎炎、多発性硬化症、重症筋無力症、乾癬、原発性胆汁性肝硬変、関節リウマチおよびぶどう膜炎、喘息、アテローム硬化症、橋本甲状腺炎、アレルギー性脳脊髄炎、糸球体腎炎、ならびに種々のアレルギー)の方法もまた、含まれる。
【0050】
さらなる使用は、炎症性および過剰増殖性皮膚疾患、ならびに免疫学的に媒介される病気の皮膚発現(例えば、乾癬、アトピー性皮膚炎、天疱瘡、蕁麻疹、皮膚好酸球増多症(cutaneous eosinophilias)、ざ瘡、および円形脱毛症);種々の眼疾患(例えば、結膜炎、ぶどう膜炎、角膜炎、およびサルコイドーシス);粘膜および血管の炎症(例えば、胃潰瘍、虚血性疾患および血栓症によって引き起こされる血管損傷、虚血性腸疾患、炎症性腸疾患、ならびに壊死性腸炎);腸の炎症/アレルギー(例えば、セリアック病および潰瘍性大腸炎);腎疾患(例えば、間質性腎炎、グッドパスチャー症候群、溶血性尿毒症性症候群、および糖尿病性腎症);造血系の疾患(hematopoietic disease)(例えば、特発性血小板減少性紫斑病および自己免疫性溶血性貧血);皮膚疾患(例えば、皮膚筋炎および皮膚T細胞リンパ腫);循環性疾患(例えば、動脈硬化症およびアテローム硬化症);腎疾患(例えば、虚血性急性腎不全および慢性腎不全);ならびにベーチェット病の処置および予防を包含し得る。
【0051】
本発明の組成物および方法はまた、炎症状態(例えば、喘息、内因性および外因性両方の発現(例えば、気管支喘息、アレルギー性喘息、内因性喘息、外因性喘息および塵埃喘息)、特に、慢性もしくは難治性の喘息(例えば、遅発型喘息(late asthma)および気道過敏性(airway hyperresponsiveness))の処置のために有用である。上記組成物および方法はまた、他の炎症状態(外傷性炎症、ライム病における炎症、慢性気管支炎(慢性感染性肺疾患)、慢性洞炎、急性呼吸促迫症候群と関連する敗血症、および肺サルコイドーシスを含む)の処置のために有用であり得る。呼吸状態(例えば、喘息)の処置については、上記組成物は、好ましくは、吸入を介して投与されるが、任意の従来の投与経路も有用であり得る。
【0052】
自己免疫状態を処置することにおいて、上記患者は、周期的な基準(base)で(例えば、1週間に1〜2回)、症状を軽減しかつ患者の快適性を改善するに十分な投与量レベルにおいて、上記組成物を与えられる。特に、関節リウマチを処置するために、上記組成物は、静脈内注射によって、または罹患した関節の中への直接注射によって、投与され得る。上記患者は、少なくとも24時間の反復した間隔で、上記患者において上記疾患の症状が開始した後数週間にわたって処置され得る。上記投与される用量は、好ましくは、1〜25mg/kg 患者体重/日の範囲にあり、少ない方の量は、非経口投与に好ましく、多い方の量は、経口投与に好ましい。最適な投与量は、当該分野で公知の方法に従って、慣用的な実験によって決定され得る。
【0053】
移植拒絶における治療については、上記方法は、心臓、腎臓、肝臓、細胞、および骨髄の移植物の拒絶の処置について特に意図されており、また、GVHDの処置において使用され得る。上記処置は、代表的には、周術期に、外科手術による移植手順の直前もしくは直後のいずれかに開始され、急性移植拒絶の処置のために、少なくとも数週間の期間にわたって毎日の投与レジメンで継続される。上記処置期間の間に、上記患者は、例えば、同種異系リンパ球を含む混合リンパ球反応によって、もしくは上記移植された組織の生検を行うことによって、免疫抑制レベルについて定期的に試験され得る。
【0054】
さらに、上記組成物は、移植片拒絶を予防するために、後期移植片拒絶の急性エピソードを処置することにおいて、長期間投与され得る。上記のように、上記投与される用量は、好ましくは、1〜25mg/kg 患者体重/日であり、少ない方の量は、非経口投与に好ましく、多い方の量は、経口投与に好ましい。上記用量は、上記患者の応答、そして処置の期間にわたり、上記患者が感染に耐える能力に依存して、適切に、増大させてもよいし、減少させてもよい。
【0055】
適合したもしくは適合していない骨髄、脾細胞、胎児組織、臍帯血、または不死化もしくは他の方法で採取した幹細胞のレシピエントへの移植から生じる、移植片対宿主病の処置もしくは予防において、上記用量は、好ましくは、0.25〜2mg/kg 体重/日、好ましくは、0.5〜1mg/kg/日の範囲であり、経口的にもしくは非経口的に与えられる。
【0056】
式Iの化合物および1種以上の従来の免疫抑制剤を含む組み合わせ治療もまた、本発明の範囲内にある。本発明の範囲内のこれら免疫抑制剤としては、Imurek(登録商標)(アザチオプリンナトリウム)、ブレキナルナトリウム、SpanidinTM(グスペリムストリヒドロクロリド、デオキシスペルグアリンとしても公知)、ミゾリビン(ブレジニンとしても公知)、Cellcept(登録商標)(ミコフェノール酸モフェチル)、Neoral(登録商標)(シクロスポリンA;商標Sandimmune(登録商標)の下で異なる処方物として市販されてもいる)、PrografTM(タクロリムス、FK−506としても公知)、Rapimmune(登録商標)(シロリムス、ラパマイシンとしても公知)、レフルノミド(HWA−486としても公知)、Zenapax(登録商標)、グルココルチコイド(例えば、プレドニゾロンおよびその誘導体)、抗体(例えば、オルソクローン(OKT3)、および抗胸腺細胞グロブリン(antithymyocyte globulin)(例えば、サイモグロブリン))が挙げられるが、これらに限定されない。上記化合物は、上記で議論されるように、免疫抑制処置のための別の免疫抑制薬物と同時に投与される場合に、増強因子として有用である。従来の免疫抑制薬物(例えば、上記のとおり)は、従って、上記化合物が単独で投与される場合より実質的に少ない量(例えば、標準用量の20%〜50%)で投与され得る。あるいは、本発明の化合物および免疫抑制薬物は、得られる免疫抑制が、予測されるものもしくは、上記薬物および本発明の化合物が単独で使用されて得られる効果の和から得られるものより大きいような量で、投与される。代表的には、上記免疫抑制薬物および増強因子は、少なくとも2週間の期間にわたって規則的な間隔で投与される。
【0057】
本発明の組成物はまた、従来の抗炎症薬物と組み合わせて投与され得、ここで上記薬物もしくは投与される薬物の量は、それだけでは、炎症の適切な抑制もしくは阻害を誘導するのに有効ではない。
【0058】
インビボでの化合物の免疫抑制活性は、当該分野で公知の確立された動物モデルによって評価され得る。このようなアッセイは、免疫抑制化合物の相対的な有効性を評価し、免疫抑制処置の適切な用量を概算するために使用され得る。これらアッセイとしては、例えば、Ono and Lindsey(1969)によって記載される、同種移植片について十分に特徴付けられたラットモデル系(ここで移植された心臓は、同種レシピエント動物の腹部主要血管に付着させられ、上記移植した心臓の生存性は、上記レシピエント動物において上記心臓が拍動する能力によって測定される)が挙げられる。異種移植片モデル(ここでそのレシピエント動物は、異なる種である)は、Wang(1991)およびMurase(1993)によって記載される。GVHDに対する有効性を評価するためのモデルは、正常なF1マウスに親の脾細胞を注射することを含む;上記マウスは、脾腫および免疫抑制によって特徴付けられるGVHD症候群を発症させる(Korngold,1978;Gleichmann,1984)。単一細胞の懸濁物は、個々の脾臓から調製され、マイクロウェル培養が、コンカナバリンAの存在下および非存在下で確立されて、有糸分裂促進性の応答(mitogenic responsiveness)の程度が評価される。
【0059】
(V.抗癌処置)
図3〜5に示されるように、式Iの2種の化合物(PG757およびPG762と称される)および式IIの1種の化合物(PG782と称される)は、用量依存性様式で、Jurkat細胞に対して細胞傷害性であった(実施例4を参照のこと)。本発明は、従って、特に癌を処置するための、本発明の化合物の細胞傷害性薬剤としての使用を包含する。本明細書で使用される場合、「癌」とは、哺乳動物(特に、ヒト)において見いだされる癌もしくは新生物もしくは悪性腫瘍の全てのタイプ(白血病、肉腫、癌腫および黒色腫が挙げられる)をいう。
【0060】
用語「白血病」とは、造血器官の進行性の悪性疾患に広く言及し、一般に、血液および骨髄中での白血球およびその前駆細胞のゆがんだ増殖および発生によって特徴付けられる。用語「肉腫」とは、一般に、胚性結合組織のような物質から作られる腫瘍に言及し、一般に、原線維性もしくは均質な物質中に埋め込まれた非常に密な細胞から構成される。用語「黒色腫」とは、皮膚および他の臓器のメラノサイト系から生じる腫瘍を意味すると理解される。用語「癌腫」とは、周辺組織に浸潤しかつ転移を生じる傾向にある、上皮細胞から作られる悪性の新生物に言及する。
【0061】
例えば、生殖組織(例えば、セルトリ細胞、生殖細胞、発生中もしくはより成熟した精祖細胞、精子細胞もしくは精母細胞、ならびに栄養細胞、生殖細胞および卵巣の他の細胞)、リンパ系もしくは免疫系(例えば、ホジキン病および非ホジキンリンパ腫)、造血系、および上皮(例えば、皮膚(悪性黒色腫を含む)、および胃・腸管)、固形臓器、神経系(例えば、神経膠腫(Y.X.Zhouら,2002を参照のこと)、ならびに筋骨格組織(musculo−skeletal tissue)に由来する細胞に影響を与える癌が含まれる。上記化合物は、種々の癌細胞タイプ(脳腫瘍(髄芽腫が挙げられる)、頭頚部腫瘍、乳房腫瘍、結腸腫瘍、小細胞肺腫瘍、大細胞肺腫瘍、甲状腺腫瘍、精巣腫瘍、膀胱腫瘍、前立腺腫瘍、肝臓腫瘍、腎臓腫瘍、膵臓腫瘍、食道腫瘍、胃腫瘍、卵巣腫瘍、子宮頚部腫瘍もしくはリンパ腫腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない)の処置のために有用であり得る。乳房、結腸、肺、および前立腺の腫瘍の処置が、特に企図される。
【0062】
上記組成物は、上記で議論されるように、癌および/もしくは白血病に罹患した患者へ、任意の従来の投与経路によって投与され得る。上記方法は、腫瘍の増殖を遅延させ、腫瘍増殖を予防し、腫瘍の部分的退縮を誘導し、および完全な消失といってもよい程度まで腫瘍の完全な退縮を誘導するために有用である。上記方法はまた、固形腫瘍に由来する転移の生長(outgrowth)を予防することにおいて有用である。
【0063】
本発明の組成物は、単独治療として、もしくは上記被験体において抗癌効果を有するように設計されていない他の補助的もしくは治療的処置とともに、投与され得る。上記方法はまた、本発明の組成物を、1種以上の従来の抗癌薬物もしくは生体タンパク質薬剤と組み合わせて投与する工程を包含し、ここで上記薬物もしくは薬剤の量は、単独では、上記被験体における所望の抗癌効果を有するに有効な量では癌増殖の適切な抑制を誘導するには有効ではない。このような抗癌薬物としては、アクチノマイシンD、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、シトシンアラビノシド、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エトポシド、フルダラビン、5−フルオロウラシル、ヒドロキシウレア、ゲムシタビン、イリノテカン、メトトレキサート、マイトマイシンC、ミトキサントロン、パクリタキセル、タキソテール、テニポシド、トポテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、およびビノレルビンが挙げられる。抗癌性の生体タンパク質薬剤としては、腫瘍壊死因子(TNF)、TNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)、他のTNF関連もしくはTRAIL関連リガンドおよび因子、インターフェロン、インターロイキン−2、他のインターロイキン、他のサイトカイン、ケモカイン、および因子、腫瘍関連分子もしくはレセプターに対する抗体(例えば、抗HER2抗体)、ならびにこれら薬剤と反応するかもしくは結合する薬剤(例えば、TNFスーパーファミリーのレセプターのメンバー、他のレセプター、レセプターアンタゴニスト、およびこれら薬剤に対して特異性を有する抗体)が挙げられる。
【0064】
特定の組成物のインビボでの抗腫瘍活性は、例えば、Fidlerら、米国特許第6,620,843号に記載されるように、確立された動物モデルの使用によって評価され得る。臨床的用量およびレジメンは、臨床医に公知の方法に従って、上記患者の疾患の重篤度および全体的な状態のような要因に基づいて、決定される。
【0065】
(VI.他の適応症)
本発明の化合物はまた、特定のCNS疾患の処置において使用され得る。グルタミン酸(glutamate)は、多くの生理学的機能を果たしている。これら機能としては、種々の神経学的疾患および精神医学上の疾患の病態生理における重要な役割が挙げられる。グルタミン酸興奮毒性および神経毒性は、低酸素症、虚血および外傷、ならびに慢性神経変性疾患もしくは神経代謝性疾患、アルツハイマー型痴呆、ハンチントン病およびパーキンソン病に関与している。トリプトリドの報告された神経保護効果、特に、グルタミン酸誘導性細胞死からの保護(Q.Heら,2003;X.Wangら,2003)に鑑みて、本発明の化合物は、グルタミン酸の神経毒性効果に拮抗すると想定され、従って、このような疾患のための有用な治療を提供し得る。
【0066】
再発しているMS患者からの最近の証拠は、脳における変化したグルタミン酸ホメオスタシスを示唆する。MS患者に存在する神経毒性事象は、乏突起細胞死およびニューロン細胞死の原因であり得る。本発明の化合物での処置によるグルタミン酸レセプター媒介性興奮毒性の拮抗は、MS患者における治療的な関係を有し得る。他のCNSおよび神経変性疾患(例えば、ギラン・バレー症候群、メニエール病、多発性神経炎(polyneuritis)、多発性神経炎(multiple neuritis)、単神経炎神経根症(mononeuritis radiculopathy)、アレキサンダー病、アルパーズ病(Alper’s disease)、筋萎縮性側索硬化症、毛細管拡張性失調症、バッテン病、ウシ海綿状脳症(BSE)、カナバン病、コケーン症候群、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト・ヤコブ病、ハンチントン病、HIV関連痴呆、ケネディー病、クラッベ病、レビー小体型痴呆、マシャド・ジョセフ病(脊髄小脳性運動失調3型)、多系統萎縮症、ペリツェウス‐メルツバッハー病、ピック病、原発性側索硬化症、レフサム病、サンドホフ病、シルダー病、総合失調症、脊髄小脳性運動失調、脊髄性筋萎縮症、進行性核上性麻痺(Steele−Richardson−Olszewski’s disease)、および脊髄癆)はまた、本発明の化合物で処置され得る。
【0067】
本発明の化合物はまた、臓器の線維症(例えば、肺および肝臓)の処置において使用され得る。特発性肺線維症(PF)は、公知の病因がない、進行性の間質性肺疾患である。PFは、肺間隙における細胞内マトリクスおよびコラーゲンの過剰な沈着、および炎症および線維症の結果として瘢痕組織によって肺胞が徐々に置換されることによって特徴付けられる。上記疾患が進行するにつれて、瘢痕組織の増加は、肺からの酸素が血流へ入る能力を妨げる。トリプトリドの14−スクシンイミドエステルは、ブレオマイシン誘導性PFをブロックすることが報告された(G.Krishnaら,2001)。よって、本発明の化合物は、PFの処置に有用であり得る。他の呼吸器疾患(例えば、サルコイドーシス、肺線維症、および特発性間質性肺炎)の処置はまた、考慮される。
【0068】
肺に関わりかつ本発明の化合物によって処置可能であると想定される他の疾患としては、重症急性呼吸器症候群(SARS)および急性呼吸促迫症候群(ARDS)が挙げられる。特に、SARSに関しては、上記疾患の過程のピーク前のウイルス含有量(SARS−CoV)の低下および以下に示されるように、コルチコステロイド処置の有用性は、最も重篤な生命を脅かすSARSの影響の発生が、ウイルス自体の影響よりむしろ、上記感染に対する身体の悪化した応答(免疫機能亢進)から生じ得ることを示唆する(共有に係るPCT公開WO 2005/020887(これは、本明細書に参考として援用される)もまた参照のこと)。コルチコステロイド処置は、免疫機能亢進相を特徴付け得るサイトカインの大量放出を抑制するために、次の相における肺疾患の進行を停止させることを期待して、SARS患者において使用されてきた。コルチコステロイド処置は、SARSの主要な症状のうちのいくつかの軽減において良好な臨床的結果を生じた。しかし、いくつかの処置に関連した副作用があり、より選択的な免疫抑制剤および/もしくは抗炎症剤が明らかに必要である。
【実施例】
【0069】
以下の実施例は、例示であることを意図するのであって、本発明を限定するとはいかようにも意図しない。
【0070】
(実施例1.PG757およびPG762の調製)
トリプトリド(PG490)(360mg,1.0mmol)およびEtN(103mg,1.02mmol)の、CHCl(5mL)中の混合物を、−78℃(ドライアイスおよびアセトン)へと冷却した乾燥CHC1(25mL)中のホスゲン(101mg,1.02mmol)の溶液に滴下して添加した。次いで、上記反応混合物の温度を、ゆっくりとー20℃へと上昇させた。形成したEtNHClの沈殿物を濾過し、その溶媒を、減圧下で除去した。上記生成物を、シリカゲルを使用するカラムクロマトグラフィーによって精製した。得られた主要な生成物は、ジエポキシドPG762(以下に、および図1Bに示される)であった。その開環アナログであるPG757を、副生成物として得た。これは、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン)のような塩基を使用して、PG762へと変換され得る。
【0071】
【化7】

(実施例2.PG830の調製)
ベンゼン(8mL)中のトリプトリド(PG490)(360mg,1.0mmol)およびEtN(103mg,1.02mmol)の混合物を、不活性雰囲気下で氷浴中で冷却した乾燥ベンゼン(10mL)中の塩化オキサリル(130mg,1.02mmol)の溶液に滴下して添加した。次いで、上記反応混合物の温度を、室温に到達させ、形成したEtNHClの沈殿物を不活性雰囲気下で濾過した。その濾液を、穏やかに1.5時間にわたって加熱し、溶媒を真空中でエバポレートした。得られた固体を、シリカゲル上で精製して、PG830(以下に、および図1Cに示される)を得た。
【0072】
(実施例3.PG782の調製)
CHCl(5mL)中の塩化オキサリル(130mg,1.02mmol)の溶液を、−45℃に冷却した乾燥CHC1(10mL)中のトリプトリド(PG490)(720mg,2.0mmol)およびEtN(103mg,1.02mmol)の溶液に滴下して添加した。上記反応混合物の温度を、−20℃へと上昇させ、形成したEtNHClの沈殿物を濾過した。その溶媒を真空中でエバポレートし、その固体残渣を、シリカゲル上のカラムクロマトグラフィーによって精製して、PG782(以下におよび図2に示される)を得た。
【0073】
【化8】

(実施例4.細胞傷害性(MTT)アッセイ)
試験化合物を、血清もしくは培地中、24時間にわたって37℃でインキュベートした。ヒトT細胞リンパ腫(Jurkat)細胞を、示された濃度の上記試験化合物もしくはトリプトリド(PG490)の存在下で、24時間にわたって、100mL/ウェル RPMI1640完全培地中で、培養した。
【0074】
上記化合物の細胞傷害性を、細胞増殖キットI(#1 465 007,Roche Diagnostics,Mannheim,Germany)を使用して、標準的MTTアッセイにおいて決定した。代表的アッセイにおいて、Jurkat細胞(4×10/ウェル)を、24時間にわたって、96ウェル組織培養プレート中で、試験化合物の連続3倍希釈物もしくは培地の存在下で培養した。次いで、上記培養物に、10μl/ウェル MTT試薬を4時間にわたって補充し、次いで、0.1mL/ウェル 可溶化試薬をさらに16時間にわたって補充した。570nmでの光学密度(OD570)を、ThermoScanマイクロプレートリーダー(Molecular Devices,Menlo Park,CA)で測定した。
【0075】
そのデータは、上記化合物の濃度に対するOD570値として提示される。本発明の化合物PG757、PG762、およびPG782についての結果を、トリプトリド(PG490)および培地コントロールと比較して、それぞれ図3〜5に示す。
【0076】
(実施例5:IL−2生成アッセイ)
Jurkat細胞(10/ml)を、示された濃度のトリプトリド(PG490)もしくは試験化合物の存在下で、24時間にわたってインキュベートして、50ng/ml PMAおよび10mg/ml PHAで刺激した。上記プレートを遠心分離して、上記細胞をペレットにし、150μlの上清を、各ウェルから取り出し、上記サンプルを、−20℃で保存した。上記保存した上清を、Luminex 100(Luminex Corporation,Austin,TX)、抗IL−2捕捉抗体と結合したLuminexマイクロスフェア、および蛍光色素結合抗IL−2検出抗体を使用して、ヒトIL−2濃度について分析した。
【0077】
上記データは、IL−2のpg/mlとして表し、化合物の濃度 対 IL−2濃度としてプロットした。本発明の化合物PG757、PG762、およびPG782の結果を、トリプトリド(PG490)および培地コントロールと比較して、それぞれ、図6〜8に示す。
【図1A】

【図1B】

【図1C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造I:
【化9】

を有する化合物であって、ここで
、R、R、およびRのうちの各々は、水素、ヒドロキシル、−O(CO)X、−O(CO)OR、および−O(CO)N(Rから独立して選択され、ここでXは、ハロゲンであり、Rは、水素もしくは低級アルキルであり、nは、1〜2であり、
ただし、R、R、R、およびRのうちの少なくとも3つは、水素であり;
mは1〜2であり;
は、ハロゲンであり;そして
はハロゲンでありかつWはヒドロキシルであるか、またはXおよびWは一緒になって、エポキシ基を形成する、
化合物。
【請求項2】
、R、R、およびRのうちの各々は、水素である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
ハロゲンは、FもしくはClである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
n=1である、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
はハロゲンであり、Wはヒドロキシルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
はClである、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
m=1である、請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
構造II:
【化10】

を有する化合物であって、ここで
、R、R、およびRのうちの各々は、水素、ヒドロキシル、−O(CO)X、−O(CO)OR、および−O(CO)N(Rから独立して選択され、ここでXは、ハロゲンであり、Rは水素もしくは低級アルキルであり、nは、1〜2であり、ただし、R、R、R、およびRのうちの少なくとも3つは、水素であり;そしてpは、0〜4である、化合物。
【請求項9】
n=1である、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
ハロゲンはClである、請求項8に記載の化合物。
【請求項11】
、R、R、およびRのうちの各々は、水素である、請求項8に記載の化合物。
【請求項12】
p=0である、請求項8に記載の化合物。
【請求項13】
免疫抑制をもたらす方法であって、該方法は、このような処置の必要な被験体に、薬学的に受容可能なビヒクル中、有効量の請求項1もしくは請求項8に記載の化合物を投与する工程を包含する、方法。
【請求項14】
細胞におけるアポトーシスを誘導する方法であって、該方法は、該細胞と、有効量の請求項1もしくは請求項8に記載の化合物とを接触させる工程を包含する、方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−516899(P2012−516899A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549263(P2011−549263)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/023220
【国際公開番号】WO2010/091193
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(501085821)ファーマジェネシス, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】