抗癌剤耐性癌において抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤
【課題】抗癌剤耐性を獲得した癌において、癌細胞の抗癌剤感受性を回復させ、かつ癌細胞の細胞死を誘導する薬剤の提供。
【解決手段】REIC/Dkk-3のDNAを有効成分として含む、抗癌剤耐性を有する癌細胞用の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤。
【解決手段】REIC/Dkk-3のDNAを有効成分として含む、抗癌剤耐性を有する癌細胞用の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤耐性癌を治療する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌細胞の抗癌剤にたいする感受性・耐性に影響を与える因子として、薬剤の細胞外への排出機構、薬剤代謝、DNA修復、PI3K-Akt経路、アポトーシス経路などの変化が挙げられる。特に、多くの抗癌剤耐性の癌細胞では、抗癌剤の蓄積が減少していること、広範な抗癌剤を能動的に細胞外に排出するポンプであるP-糖タンパク質や抗癌剤多剤耐性関連タンパク質であるMRP1の細胞膜での発現が上昇していることが知られている。従来技術として、P-糖タンパク質発現を減弱させるようコードされた遺伝子を抗癌剤耐性癌細胞内にin vitroで導入することにより、その細胞の抗癌剤耐性を減弱することがいくつか報告されている(非特許文献1から3を参照)。しかし、報告されているのは、in vitroの実験結果であり、動物を用いたin vivoでの有用性は示されていなかった。また、上記報告以後もin vivoで効果が認められたという報告はない。
【0003】
一方、細胞の不死化に関連した遺伝子として、REIC/Dkk-3遺伝子が知られており、がん細胞ではこの遺伝子の発現が抑制されていることが報告されている(特許文献1及び非特許文献4から7を参照)。
【0004】
REIC/Dkk-3遺伝子はDkkファミリーのメンバーであり、Wnt受容体を介してWntシグナル伝達を阻害することが示唆されている(非特許文献8及び9を参照)。Wnt遺伝子は、細胞の成長、分化、がん化などの重要な生物学的状況に多面的な役割を果たすことが報告されている(非特許文献10を参照)。従って、Dkkファミリー(ヒトでは現在4つの遺伝子が知られている)は恐らく同様に細胞の成長、分化、がん化において重要な機能を担うと考えられるが、大部分は未解明のままである。
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO01/038523号パンフレット
【非特許文献1】Masuda Y. et al., Cancer chemother Pharmacol. 1998;42(1):9-16
【非特許文献2】Wang FS. et al., Hum Gene Ther. 1999 May 1;10(7):1185-95
【非特許文献3】Yague E. et al., Gene Ther. 2004 Jul;11(14):1170-4
【非特許文献4】Tsuji, T. et al., BiochemBiophys Res Commun 268, 20-4 (2000)
【非特許文献5】Tsuji, T. et al., BiochemBiophys Res Commun 289, 257-63 (2001)
【非特許文献6】Nozaki, I. et al., Int J Oncol 19, 117-21 (2001)
【非特許文献7】Kurose, K. et al., J Urol 171, 1314-8 (2004)
【非特許文献8】Bafico, A. et al., Nat Cell Biol 3, 683-6 (2001)
【非特許文献9】Hoang, B.H. et al., Cancer Res 64, 2734-9 (2004)
【非特許文献10】Moon, R.T. et al., Science 296, 1644-6 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗癌剤耐性を獲得した癌において、癌細胞の抗癌剤感受性を回復させ、かつ癌細胞の細胞死を誘導する薬剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のように、P-糖タンパク質発現を減弱させるようコードされた遺伝子がin vivoで抗癌剤耐性を減弱することは報告されていなかった。このことは、in vitroの結果から期待されるほどの抗癌剤感受性の回復・抗癌剤併用時の腫瘍縮小効果がin vivoでは認められていないことを強く示唆する。
【0008】
本発明者らは、アデノウイルスベクターにREIC/Dkk-3 DNAを導入したAd-REICを、抗癌剤であるドキソルビシン(アドリアマイシン)に対する耐性を有する癌細胞に投与したところ、癌細胞の抗癌剤に対する感受性が回復し、癌細胞の細胞死(アポトーシス)が誘導されることを見出した。さらに、抗癌剤耐性を有する癌細胞を移植したヌードマウスにおいても、Ad-REICが癌細胞の細胞死を誘導することを見出した。これらの知見は、Ad-REICが癌細胞の抗癌剤に対する感受性を回復させ、すなわち抗癌剤の作用を増強させて、癌に細胞死を誘導する効果を有することを示す。
【0009】
従って、抗癌剤耐性癌において抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、アデノウイルスベクターによる遺伝子導入効率の優位性に基づく強力な抗癌剤耐性解除及び癌細胞死誘導作用により、in vivo動物モデルにおける抗癌剤感受性の回復・抗癌剤併用時の腫瘍縮小効果が期待される。
【0010】
本発明は以下の態様を包含する。
[1] 以下のREIC/Dkk-3のDNAを有効成分として含む、抗癌剤耐性を有する癌細胞用の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤:
(a) 配列番号1に表される塩基配列からなるDNA;
(b) 配列番号1に表される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、細胞死誘導活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列からなるポリヌクレオチド;又は
(d) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、細胞死誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
[2] 以下のREIC/Dkk-3のDNAを含むベクターを有効成分として含む抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤:
(a) 配列番号1に表される塩基配列からなるDNA;
(b) 配列番号1に表される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、細胞死誘導活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列からなるポリヌクレオチド;又は
(d) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、細胞死誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
[3] ベクターがアデノウイルスベクターである[2]の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤。
[4] 抗癌剤が抗癌抗生物質である[1]〜[3]のいずれかの抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤。
[5] [1]〜[4]のいずれかの抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤を含む、抗癌剤に対する耐性を有する癌の癌治療薬。
[6] 抗癌剤と[1]〜[4]のいずれかの癌細胞死誘導剤からなるキットである前記抗癌剤に対する耐性を有する癌の癌治療薬。
[7] 抗癌剤が抗癌抗生物質である[6]の前記抗癌剤に対する耐性を有する癌の癌治療薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗癌剤耐性を有する癌細胞用の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、抗癌剤耐性癌において、単剤でも癌細胞死・抗腫瘍効果を有し、かつ抗癌剤と併用した場合に抗癌剤作用を回復することができるという2面的効果を有する局所投与可能な製剤である。
【0012】
本発明の製剤の投与が予想される症例は、抗癌剤治療に抵抗性が認められるようになった癌病変を持つ患者であり、単剤投与でも癌細胞死・腫瘍縮小効果が認められる本発明の製剤と抗癌剤との併用投与により、抗癌作用が2重に誘導され強い抗腫瘍効果が期待できる。
【0013】
臨床的には、抗癌剤耐性癌と感受性癌の厳密な区別は難しく、感受性癌でも抗癌作用が期待できる本発明の製剤は、抗癌剤耐性癌をターゲットとした従来のP-糖タンパク質の発現を減弱させる手法と比べ抗癌剤治療の初期段階からの投与が可能となり、臨床での投与適応症例の幅が広いという点でも優位性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死(アポトーシス)誘導剤は、REIC/Dkk-3 DNAを有効成分として含む。
【0015】
REIC/Dkk-3 DNAの塩基配列は、配列番号1に表される。また、REIC/Dkk-3 DNAがコードするREIC/Dkk-3タンパク質のアミノ酸配列は配列番号2に表される。
【0016】
また、本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤に含まれるREIC/Dkk-3のDNAは、配列番号1に表される塩基配列に相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、配列番号1に表される塩基配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有しているDNA、又は前記DNAによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列に対して1又は複数若しくは数個(1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1個若しくは2個)のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAなどのうち、癌細胞の細胞死誘導活性を有するタンパクをコードするものである。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、「1XSSC、0.1% SDS、37℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.5XSSC、0.1% SDS、42℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.2XSSC、0.1% SDS、65℃」程度の条件である。このようにハイブリダイゼーションの条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待し得る。ただし、上記のSSC、SDS及び温度の条件の組み合わせは例示であり、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーションの反応時間などを適宜組み合わせることにより、必要なストリンジェンシーを実現することが可能である。さらに、本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤に含まれるREIC/Dkk-3のDNAは、配列番号2に表されるタンパク質をコードするDNAである。
【0017】
さらに、本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤が含有するREIC/Dkk-3 DNAは、該DNAの塩基配列の一部塩基配列からなる断片ヌクレオチドであって、細胞死誘導活性を有するペプチドをコードするヌクレオチドも含まれる。このような断片ヌクレオチドは、全長REIC/Dkk-3 DNAを適当な部位で切断し、細胞死誘導活性を有するかどうか測定することにより容易に得ることができる。このような断片ヌクレオチドとして、例えば、配列番号1に表わされるREIC/Dkk-3 DNAの塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列からなるポリヌクレオチド、並びに配列番号1に表わされるREIC/Dkk-3 DNAの塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、細胞死誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが含まれる。配列番号1に表わされるREIC/Dkk-3 DNAの塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列からなるポリヌクレオチドとしては、第1番目の塩基から第117番目の塩基からなるポリヌクレオチド(配列番号3)又は第1番目から第234番目の塩基からなるポリヌクレオチド(配列番号4)が挙げられる。
【0018】
REIC/Dkk-3 DNAは、配列番号1の配列情報に基づいて、ヒト細胞、ヒト組織等から得ることができる。また、WO01/038523号公報の記載に従って得ることも可能である。
【0019】
さらに、本発明はREIC/Dkk-3 DNAを含むベクターをも包含する。該ベクターを被験体に導入することにより、被験体体内でREIC/Dkk-3タンパク質が発現し抗癌剤増強作用を有しつつ癌細胞死誘導効果を発揮し得る。
【0020】
遺伝子治療における目的の遺伝子(DNA)の被験体への導入は公知の方法により行うことができる。遺伝子を被験体へ導入する方法として、ウイルスベクターを用いる方法及び非ウイルスベクターを用いる方法があり、種々の方法が公知である(別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術、羊土社、1996;別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1997;日本遺伝子治療学会編、遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999)。
【0021】
遺伝子導入のためのウイルスベクターとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス等のウイルスベクターを用いた方法が代表的なものである。無毒化したレトロウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40、免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNAウイルス又はRNAウイルスに目的とする遺伝子を導入し、細胞に組換えウイルスを感染させることによって、細胞内に遺伝子を導入することが可能である。
【0022】
本発明に係る遺伝子をウイルスを用いた遺伝子治療に使用するとき、アデノウイルスベクターが好ましく用いられる。アデノウイルスベクターの特徴として、(1)多くの種類の細胞に遺伝子導入ができる、(2)増殖停止期の細胞に対しても効率よく遺伝子導入ができる、(3)遠心により濃縮が可能であり、高タイター(10〜11PFU/ml以上)のウイルスが得られる、(4)in vivoの組織細胞への直接の遺伝子導入に適している、といった点が挙げられる。遺伝子治療用のアデノウイルスとしては、E1/E3領域を欠失させた第1世代のアデノウイルスベクター(Miyake,S.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,93,1320,1996)から、E1/E3領域に加え、E2若しくはE4領域を欠失させた第2世代のアデノウイルスベクター(Lieber,A.,et al.,J.Virol.,70,8944,1996;Mizuguchi,H.&Kay,M.A.,Hum.Gene Ther.,10,2013,1999)、アデノウイルスゲノムをほぼ完全に欠失させた(GUTLESS)第3世代のアデノウイルスベクター(Steinwaerder,D.S.,et al.,J.Virol.,73,9303,1999)が開発されているが、本発明に係る遺伝子を導入するには、特に限定されずいずれのアデノウイルスベクターでも使用可能である。さらに、AAVの染色体に組み込み能を付与したアデノ-AAVハイブリッドベクター(Recchia,A.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,96,2615,1999)や、トランスポゾンの遺伝子を用いることにより染色体に組み込む能力を有したアデノウイルスベクターなどを利用すれば、長期的な遺伝子発現にも応用が可能である。また、アデノウイルスファイバーのH1ループに組織特異的な移行性を示すペプチド配列を挿入することにより、アデノウイルスベクターに組織特異性を付与することも可能である(Mizuguchi,H.&Hayakawa,T.,Nippon Rinsho,7,1544,2000)。
【0023】
本発明において、REIC/Dkk-3 DNAを含むアデノウイルスベクターをAd-REICと呼ぶ。
また、上記ウイルスを用いることなく、プラスミドベクター等の遺伝子発現ベクターが組み込まれた組換え発現ベクターを用いて、目的遺伝子を細胞や組織に導入することができる。例えば、リポフェクション法、リン酸-カルシウム共沈法、DEAE-デキストラン法、微小ガラス管を用いたDNAの直接注入法などにより細胞内へ遺伝子を導入することができる。また、内包型リポソーム(internal liposome)による遺伝子導入法、静電気型リポソーム(electorostatic type liposome)による遺伝子導入法、HVJ-リポソーム法、改良型HVJ-リポソーム法(HVJ-AVEリポソーム法)、HVJ-E(エンベロープ)ベクターを用いた方法、レセプター介在性遺伝子導入法、パーティクル銃で担体(金属粒子)とともにDNA分子を細胞に移入する方法、naked-DNAの直接導入法、種々のポリマーによる導入法等によっても、組換え発現ベクターを細胞内に取り込ませることが可能である。この場合に用いる発現ベクターとしては、生体内で目的遺伝子を発現させることのできるベクターであれば如何なる発現ベクターも用いることができるが、例えばpCAGGS(Gene 108, 193-200(1991))や、pBK-CMV、pcDNA3、1、pZeoSV(インビトロゲン社、ストラタジーン社)、pVAX1などの発現ベクターが挙げられる。
【0024】
REIC/Dkk-3 DNAを含むベクターは、適宜遺伝子を転写するためのプロモーターやエンハンサー、ポリAシグナル、遺伝子が導入された細胞の標識及び/又は選別のためのマーカー遺伝子等を含んでいてもよい。この際のプロモーターとしては、公知のプロモーターを用いることができる。
【0025】
本発明のREIC/Dkk-3 DNAを含む抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤を被験体へ導入するには、遺伝子治療剤を直接体内に導入するin vivo法、及び、ヒトからある種の細胞を取り出して体外で遺伝子治療剤を該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すex vivo法等を用いればよい(日経サイエンス、1994年4月号、20-45頁;月刊薬事、36(1), 23-48 (1994); 実験医学増刊、12(15)、(1994); 日本遺伝子治療学会編、遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999)。
【0026】
本発明のREIC/Dkk-3 DNAを含む抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は抗癌剤に耐性を有する癌の治療薬として用いることができる。
【0027】
本発明において、抗癌剤増強作用とは、癌の抗癌剤耐性を減弱し、抗癌剤の抗癌活性を維持することをいう。すなわち、本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は癌の抗癌剤感受性を回復させ、癌細胞に細胞死を誘導する。
【0028】
本発明が対象とする抗癌剤としては、アドリアマイシン(ドキソルビシン)、ダクチノマイシン、アクチノマイシンD、クロモマイシン、ダウノマイシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ドノルビシン、エピルビシン、マイトマイシンC等の抗癌抗生物質;ニトロソウレア剤、窒素マスタード(サイクロフォスファミド等)、ダカルバジン、カルムスチン(BCNU)、ブスルファン、イフォスファミド、塩酸ニムスチン、ロムスチン(CCNU)、ラニムスチン(MCNU)等のアルキル化剤;メトトレキセート、アミノプテリン、6-メルカプトプリン、5-フルオロウラシル、カルモフール、シタラビン、ヒドロキシカルバミド、ゲムシタビン等の代謝拮抗剤;ビンブラスチン、ビンクリスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、CPT-11(イリノテカン)、エトポシド等の植物アルカロイド剤;ホルモン剤;レンチナン、ピシバニール、ベスタチン等の生物機能修飾物質;プロカルバジン;シスプラチン;カルボプラチンなどが例として挙げられる。また、特に前立腺癌の治療に用いられる男性ホルモンの働きを抑える抗男性ホルモン剤も含まれる。抗男性ホルモン剤としては、たとえばリュープリン、カソデックス、オダイン、プロスタール、エクストラサイト、ホンバン等が挙げられる。さらに、癌細胞特異的な分子を標的として抗癌作用を示す分子標的薬も含まれる。分子標的薬としては、メシル酸イマチニブ、ゲフィニチブ、エルロチニブ、バンデダニブ、スニチニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤、ソラフェニブなどのRafキナーゼ阻害薬、エタネルセプトなどのTNF-α阻害剤、リツキシマブ、セツキシマブ、インフリキシマブ、トラスツズマブ、ベバシツマブ等のモノクローナル抗体が挙げられる。
【0029】
本発明の治療対象となる癌としては、脳・神経腫瘍、皮膚癌、胃癌、肺癌、肝癌、リンパ腫・白血病、結腸癌、膵癌、肛門・直腸癌、食道癌、子宮癌、乳癌、副腎癌、腎癌、腎盂尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、尿道癌、陰茎癌、精巣癌、骨・骨肉腫、平滑筋腫、横紋筋腫、中皮腫等が挙げられる。特に、乳癌、膀胱癌が好ましい。これらの癌のうち、アドリアマイシン等の抗癌剤の静脈内投与治療後に、同抗癌剤の腫瘍縮小効果が減弱した癌病変を有する症例、及び同抗癌剤が腫瘍縮小効果を示さなくなることが臨床的に予測される癌病変を有する症例の癌に対して効果を有する。
【0030】
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、癌細胞において小胞体ストレスを引き起こし、小胞体ストレスがJNKの活性化を導き、その結果P-糖タンパク質の濃度が減少し、細胞における抗癌剤の排出機能が低下し、抗癌剤がより低濃度で癌細胞死を誘導すると考えられる。さらに、小胞体ストレスの誘導及びJNKの活性化を介して細胞内の広範な細胞傷害性シグナルが抗癌剤耐性解除に機能し得る。
【0031】
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、REIC/Dkk-3 DNA若しくは該DNAを含むベクター並びに薬理学的に許容され得る担体、希釈剤若しくは賦形剤を含む。
【0032】
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、種々の形態で投与することができ、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、あるいは注射剤、点滴剤、座薬、スプレー剤、点眼剤、経鼻投与剤、貼付剤などによる非経口投与を挙げることができる。
【0033】
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、局所投与することも可能であり、例えば癌部位に注射により投与することによりその効果を発揮し得る。
【0034】
好ましくは、癌病変局所に1回又は複数回、癌病変全体に本剤が行き渡るように直接注入を行う。この注入前後でアドリアマイシン等の抗癌剤の静脈内投与治療を行えばよい。
【0035】
本発明は、抗癌剤と抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤を組合せて有する医薬組成物をも包含する。すなわち、本発明は抗癌剤とREIC/Dkk-3 DNAからなるキットである癌治療薬、抗癌剤とREIC/Dkk-3 DNAとを含有する癌治療用医薬組成物を包含する。
【0036】
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用しても良い。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用しても良い。
【0037】
その投与量は、症状、年齢、体重などによって異なるが、数日又は数週間又は数ヶ月おきに1回あたり、0.001mg〜100mgを皮下注射、筋肉注射、又は静脈注射によって投与すればよい。
【0038】
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、上記の癌に罹患した癌患者であって抗癌剤治療に抵抗性が認められるようになった癌病変を持つ患者に投与すればよい。
【0039】
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、単剤投与でも癌細胞死・腫瘍縮小効果が認められる。さらに、本剤と抗癌剤との併用により抗癌作用が2重に誘導され強い腫瘍縮小効果が期待される。
【実施例】
【0040】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0041】
実施例1 REIC/Dkk-3の抗癌剤耐性乳癌細胞に対する効果
本実施例において、以下の材料を用い、以下の方法で検討を行った。
【0042】
細胞及び細胞培養
本発明の実施例で用いた細胞株は、ヒト乳癌細胞株MCF7/Wt(野生型)、MDA-MB-231、SK-BR-3、HCC1806及びヒト子宮癌細胞株であるHeLaであった。これらの細胞株は、ATCC(American Type Culture Collection)から入手した。抗癌剤耐性乳癌細胞株(多剤耐性乳癌細胞株)MCF7/ADRはユニバーシティーオブネブラスカメディカルセンターのEppley Institute for Research in Cancer and Allied Diseases のK.H.Cowan博士より供与された(Batist G et al. J Biol Chem 1986; 261:15544-15549)。対照細胞としては、ヒト線維芽細胞及びOUMS24を用いた。これらは本発明者等が確立した(Bai L et al. Int J Cancer 1993; 53: 451-456)。それぞれの細胞株は以下の培養液を用いて培養した。
【0043】
OUMS24は、10%(v/v)ウシ胎児血清、ペニシリン(100IU/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)で補足したDulbecco’s Modified Eagle Medium(Invitrogen)を用い5%CO2条件下で培養した。MCF7/ADRは、10%(v/v)ウシ胎児血清、ペニシリン(100IU/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、10μMドキソルビシン(アドリアシン(商標、協和発酵))で補足したRPMI-1640 medium (Sigma)を用いて培養した。他の細胞株は、10%(v/v)ウシ胎児血清、ペニシリン(100IU/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)で補足したRPMI-1640 medium を用いて培養した。
【0044】
ウエスタンブロット分析
タンパク質の発現は、ウエスタンブロットにより調べた。細胞をPBSで2回洗浄し、溶解バッファー(50 mM HEPES, pH 7.4、250 mM NaCl、1 mM EDTA、1% NP-40、1 mM DTT、1 mM PMSF、5μg/ml ロイペプチン、5μg/ml アプロチニン、2 mM Na3VO4、1 mM NaF、10 mM β-GP)にてタンパク質を抽出した。遠心分離後、上清中のタンパク質量を調整し、同量の2 x SDS sample bufferで希釈し、95℃で5分間加熱した。サンプル(10μgタンパク質)を7.5% SDS-PAGEゲルで泳動し、PVDF膜に転写した。10%無脂肪ミルク粉末、6%グリシン、0.1% Tween-20を含むTris buffered saline (TBS)を用いて室温で1時間ブロッキングを行った。抗ヒト REIC/Dkk-3抗体(1:1000)、抗JNK抗体sc-571 (1:500) (Santa Cruz Biotechnology)、抗c-Jun抗体sc-1694(1:500) (Santa Cruz Biotechnology)、抗リン酸化JNK抗体#9255 (1:500) (Cell Signaling Technology)、抗リン酸化c-Jun抗体#9261 (1:500) (Cell Signaling Technology)、抗開裂カスペース-3抗体#9661 (1:500) (Cell Signaling Technology)、抗チューブリン抗体T5168 (1:8000)(Sigma)、抗P-糖タンパク質抗体C219 (1:250)(Calbiochem)を一次抗体として用いた。TBS(T-TBS)、0.1% Tween-20を用いて十分に洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体を添加した。さらに、T-TBSを用いて十分に洗浄した後、enhanced chemiluminescence detection method (ECL kit)により、発色させた。一部においては、1μMのJNKインヒビターSP600125(A. G. Scientific, Inc.)を添加してJNKのキナーゼ活性を阻害した。
【0045】
REIC/Dkk-3 DNAを含むアデノウイルスベクター(Ad-REIC)の作製
全長REIC/Dkk-3 cDNAをコスミドベクターpAxCAwtに導入し、COS-TPC法(Takara Bio)によりアデノウイルスベクターにトランスファーした(Abarzua F et al. Cancer Res 2005; 65: 9617-9622)。LacZ遺伝子を含むアデノウイルスベクター(Ad-LacZ)を対照として用いた。
【0046】
細胞死(アポトーシス)アッセイ
in vitroにおける細胞死誘導を調べるために、細胞を平底6ウェルプレートに播き24時間培養した。細胞をAd-LacZ及びAd-REICで種々のMOI(multiplicity of infection)で無血清培地中にて2時間処理した後、新鮮完全培地に交換した。48時間のインキュベーション後、Hoechst33342ストック溶液を2μg/mlの濃度で添加し、細胞を暗条件下で10分間インキュベーションした。Hoecht33342は、インタキレーター染色試薬であり、クロマチンの総量とクロマチンンの凝縮程度を調べることができる(Belloc F et al., Cytometry 1994; 17: 59-65、Maciorowski Z et al., Cytometry 1998; 32: 44-50)。蛍光顕微鏡を用いて高度に凝縮し分断した核を有する細胞死が認められた細胞を同定した。細胞死が認められた細胞は、顕微鏡下で3〜5の異なる視野において計数した。
【0047】
in vivoで細胞死が認められた細胞を検出するために、In situ Cell Detection Kit, Fluorescein(Roche)を用いてTUNEL(terminal deoxynucleotidyltransferase-mediated UTP end labeling)アッセイを行った。すなわち、腫瘍組織を切断し、OCT化合物中に入れ、液体窒素中で急速凍結した。凍結切片(10μm)サンプルをメタノールを用いて30分室温で固定し洗浄し、0.1%Triton X-100を含むPBSを浸透させ、TUNEL反応混合液で染色した。
【0048】
細胞生存率アッセイ
細胞を96ウェル平底マイクロプレートにウェル当り1000個播いた。24時間のインキュベーション後、細胞を無血清培地中100MOIのAd-LacZ及びAd-REICで2時間処理し、新鮮完全培地に交換した。48時間後浮遊死細胞を培地交換により除去し、付着細胞を種々の濃度のドキソルビシンと共に72時間培養した。インキュベーションの最後に、CellTiter96(登録商標)Aqueous One Sokution Cell Proliferation Assay (Promega Corp.)を用いて細胞生存率を測定した。
【0049】
細胞内のドキソルビシン蓄積の検出及び定量
細胞を6ウェル平底プレートに播き24時間培養した。24時間のインキュベーション後、細胞を無血清培地中100MOIのAd-LacZ及びAd-REICで2時間処理し、新鮮完全培地に交換した。48時間後浮遊死細胞を培地交換により除去し、付着細胞を10μMのドキソルビシンと共に36時間培養した。インキュベーションの最後に、ドキソルビシンの赤色の自己蛍光を観察し、スキャンした。スキャンした像をScion Image (Scion Corp)を用いてドキソルビシンの集積密度の定量に供した。
【0050】
異種移植モデル
5〜6週齢の雌の胸腺欠損(nu/nu)マウスをチャールズリバー研究所より入手した。腫瘍細胞の注入の3日前に、17βエストラジオールペレット(SE-121、 Innovative Research of America)をマウスの右肩領域に皮下注射により移植した。MCF7/Wt細胞 5×106細胞/0.1ml PBS)をマウスの左側背部に注入した。腫瘍を3〜6mmに増加させ、マウスをランダムに7群に分けた。その後、1.2×108プラーク形成ユニット(PFU)のアデノウイルスベクター(Ad-LacZ及びAd-REIC)をPBSで0.1mlに調整し腫瘍内に注射した。陰性対照として、同量のPBSを注射した。腫瘍の大きさを2週間に1度測定した。腫瘍体積は実験により導き出した式(1/2×(w1×w2×w2);w1は腫瘍の最大径、w2は腫瘍の最小径を表す)により計算した。
【0051】
統計的解析
データは平均±SEで示した。Unpaired Student's t test を2群の間で行い、P<0.05の場合に有意の差があるとした。解析は、Statview 4.5 software program (Abucus concepts)を用いて行った。
【0052】
(1) ヒト乳癌細胞株におけるREIC/Dkk-3遺伝子の発現の低下
種々の細胞株におけるREIC/Dkk-3タンパク質の発現を調べた。用いた細胞は、ヒト乳癌細胞株MCF7/Wt(野生型)、MDA-MB-231、SK-BR-3、HCC1806及びヒト子宮癌細胞株であるHeLaであった。ヒト線維芽細胞及びOUMS24を発現の陽性対照として用いた(Abarzua F et al., Cancer Res 2005; 65: 9617-9622)。チューブリンをローディング対照として用いた初代培養ヒト乳癌上皮細胞(HMEC)において、REIC/Dkk-3蛋白質は分子量60から70kDaの間に明瞭に認められた。これは、ウエスタンブロットにおいてREIC/Dkk-3タンパク質に複数のバンドが認めらることと合致する(barzua F et al., Cancer Res 2005; 65: 9617-9622、Kurose K et al., J Urol 2004; 171: 1314-13181、Hsieh SY, Oncogene 2004; 23: 9183-9189)。図1に結果を示す。図1はREIC/Dkk-3のヒト乳癌細胞株での発現を示す。図1に示すように癌細胞株では、REIC/Dkk-3の発現を示すバンドは認められなかった。
【0053】
(2) Ad-REIC処理によるMCF7/Wt及びMCF7/ADR細胞での細胞死の誘導
Ad-REICを用いてREIC/Dkk-3を乳癌細胞株で過剰発現させ、REIC/Dkk-3を用いた乳癌の遺伝子治療の可能性を検討した。実験は3から6回行った。結果を図2A及び図2Bに示す。図2Aに示すように、Hoechst33342を用いた細胞死アッセイにおいて、細胞死した細胞は、Ad-REICで処理したMCF7/Wt及びMCF7/ADRにおいて高頻度で認められた。一方で、HMECでは認められなかった。100MOIにおける細胞死の出現率は、HMEC、MCF7/Wt、MCF7/ADR及びSK-BR-3細胞において、それぞれ5.5%、21.2%、25.0%及び15.2%であった(図2B)。対照であるAd-LacZ処理と比較すると、100MOIでのAd-REIC処理はMCF7/Wt及びMCF7/ADR細胞において有意に細胞死を誘導した。Ad-REICとAd-LacZ処理管で有意の差(p<0.05)が認められた。MDA-MB-231細胞においては、Ad-REICと対象との間で細胞死の誘導に差は認められなかった。
【0054】
(3) 多剤耐性MCF7/ADRのドキソルビシンへの感受性のAd-REICによる増大
癌治療におけるAd-REICのさらなる有用性を検討するために、多剤耐性であるMCF7/ADR細胞を用いて検討を行った。MCF/Wt及びMCF7/ADR細胞を、無処理、Ad-LacZ処理及びAd-REIC処理の3群に分けた。細胞を種々の濃度のドキソルビシンにさらし、REIC/Dkk-3過剰発現が、薬剤耐性から細胞を回復させる能力を評価した。MCF7/Wt細胞においては、処理群による有意の差は認められなかった。図3に結果を示す。図3においては、ドキソルビシン毒性に対する用量反応曲線を示す。図3に示すように、MCF7/ADR細胞ではドキソルビシンの毒性の用量反応曲線はAd-REIC処理で顕著に低濃度にフトした。10μMのドキソルビシンにおいて、細胞の生存率は、無処理、Ad-LacZ及びAd-REIC群でそれぞれ88.1%、85.6%及び32.3%であった。25μMのドキソルビシンの場合、細胞の生存率は、無処理、Ad-LacZ及びAd-REIC群でそれぞれ45.9%、32.1%及び14.3%であった。処理群の間で有意の差(p<0.05)が認められた。
【0055】
(4) MCF7/ADR細胞におけるAd-REIC処理による、活性化JNK-c-Jun依存性様式でのP-糖タンパク質のダウンレギュレート
ウエスタンブロットによりREIC/Dkk-3過剰発現下での種々のタンパク質の発現レベルを測定した。細胞を100MOIでAd-LacZ及びAd-REIC処理し、48時間後、浮遊死細胞を除去し、付着細胞を溶解させサンプルとして用いた。Ad−REIC処理においてJNKのキナーゼ活性を阻害するために1μMのJNKインヒビター(SP600125)をAd-REIC処理後直ちに添加した。図4に結果を示す。図4中、p-はリン酸化を示し、P-gpはP-糖タンパク質を示す。Ad-REIC処理により、MCF7/Wt及びMCF7/ADRの両方の細胞でREIC/Dkk-3タンパク質の発現が増大した。両方の細胞のいずれの処理においても、JNKレベルの変化は認められなかった。MCF7/ADR細胞のC-Junタンパク質レベルはMCF7/Wt細胞より大きかった。Ad-REIC処理後のMCF7/Wt及びMCF7/ADR細胞におけるJNKの活性化はリン酸化JNK特異抗体を用いてc-Junのリン酸化を検出することにより行った。REIC/Dkk-3の過剰発現はMCF7/ADR細胞においてP-糖タンパク質を顕著にダウンレギュレートした。JNKインヒビターであるSP600125はJNKのキナーゼ活性を阻害するが、JNKそれ自体のリン酸化は阻害しないことが知られている(Bennett BL et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2001; 98: 13681-13686)。Ad-REIC及びSP600125の併用により、JNKの活性は変化しなかった。しかしながら、リン酸化c-Junの発現レベルは減少しMCF7/ADR細胞のP-糖タンパク質レベルが逆転した。P-糖タンパクの発現の変化に対して、MCF7/Wt及びMCF7/ADR細胞における開裂したカスペース-3のレベルはAd-REIC処理によりアップレギュレートし、SP600125により逆転した。
【0056】
(5) Ad-REIC処理により細胞内のドキソルビシンの蓄積
それぞれのタイプの細胞におけるAd-REIC処理のドキソルビシン動態への影響を調べるため、ドキソルビシンの細胞内への蓄積を10μMの濃度で調べた。図5A及び図5Bに結果を示す。図5Aは、処理細胞の蛍光顕微鏡像の代表例を示す。図5Bは赤色蛍光をランダムにスキャンし、集積密度を定量化した結果を示す。それぞれの細胞株において、無処理細胞の平均値を1.0に調整した。図5A及び図5Bに示すように、MCF7/ADR細胞において、Ad-REIC処理はドキソルビシンの細胞内への蓄積を顕著に増大させ、対照群の2倍の蓄積が認められた。Ad-REIC処理とAd-LacZ処理間で有意の差(p<0.05)が認められた。MCF7/Wt細胞においては、処理による差は認められなかった。
【0057】
(6) 腫瘍内Ad-REIC処理(投与)による乳癌異種移植モデルでの乳癌の増殖の抑制
REIC/Dkk-3の過剰発現によるin vitroでの細胞死の誘導がMCF/Wt細胞で認められたので、次に腫瘍皮下注射モデルを用いてAd-REICのin vivoでの抗腫瘍効果について検討を行った。図6A、図6B及び図6Cに結果を示す。図6A及び図6Bは、3週間の観察期間の最後におけるAd-LacZ及びAd-REIC処理後の異種移植腫瘍の出現を示し、図6Aは腫瘍が出現したヌードマウスの写真、図6Bは腫瘍の平均体積をそれぞれの群において7頭のマウスについて計算し作成した腫瘍増殖曲線を示す。Ad-REIC処理とAd-LacZ処理間で有意の差(p<0.05)が認められた。図6Cは、ウイルス投与3日後に回収した腫瘍のTUNEL染色の結果を示す。核はDAPI染色により染色した。図6Bに示すように、PBS投与群及びAd-LacZ投与群において、腫瘍サイズは3週間の観察期間において徐々に増大した。一方、Ad-REIC処理群においては、腫瘍体積は2週間の間ほとんど変化せず、その後徐々に減少した。無処理群、Ad-LacZ投与群、Ad-REIC投与群の間で、7日目から3週間目にかけて顕著な差が認められた。REIC/Dkk-3発現及びAd-REIC処理の細胞死効果を確認するため、腫瘍組織をベクター投与の3日後に切除した。図6Cに示すように、Ad-REIC処理腫瘍においては、ウエスタンブロットによりREIC/Dkk-3の過剰発現が認められた。その後、腫瘍切片をTUNEL染色により調べた。Ad-LacZを投与した腫瘍ではほとんど細胞死は認められなかった。一方、Ad-REICを投与した腫瘍では多くのTUNEL陽性細胞が認められた。
【0058】
本実施例によりREIC/Dkk-3は癌に対する遺伝子治療に有用であることが示された。アデノウイルス介在REIC/Dkk-3過剰発現は乳癌細胞で細胞死を誘導し、細胞死はJNKリン酸化依存的様式で起こった。マウスモデルにおけるMCF/Wt腫瘍増殖阻害は、in vivoでのAd-REIC処理による腫瘍の細胞死効果により説明できる。さらに、REIC/Dkk-3の過剰発現は、薬剤耐性乳癌細胞MCF7/ADRにおけるJNK活性化を介してP-糖タンパクの発現をダウンレギュレートし、ドキソルビシンに対する薬剤耐性を薬剤感受性に変えた。
【0059】
本発明者らは、先にAd-REIC投与によるJNK活性化が種々の癌細胞株における細胞死に主要な役割を有していることを報告した(Abarzua F et al., Cancer Res 2005; 65: 9617-9622、Abarzua F et al., Int J Mol Med 2007; 20: 37-43、Tanimoto R et al., Int J Mol Med 2007; 19: 363-368)。前立腺癌PC-3細胞においては、REIC/Dkk-3の過剰発現がJNKを活性化し、Bcl-2タンパク質レベルを減少させ、BaXタンパク質のミトコンドリアでの局在化を誘導し、サイトクロームCを細胞質に放出し、細胞死(アポトーシス)をもたらす(Abarzua F et al., Cancer Res 2005; 65: 9617-9622)。
【0060】
本実施例においては、Ad-REIC投与が多数の乳癌細胞株、MCF7/Wt、MCF7/ADR及びSK-BR-3において細胞死を誘導するが、初代ヒト乳房上皮細胞では誘導しないことが示された。さらに、REIC/Dkk-3タンパク質の発現は乳癌細胞株ではほとんど認めらないが、初代上皮細胞ではREIC/Dkk-3タンパク質が豊富に存在することが示された。この結果は、REIC/Dkk-3の過剰発現が内在性のREIC/Dkk-3発現がない乳癌細胞の細胞死を選択的に誘導することを示唆する。この現象は、先の報告(Abarzua F et al., Cancer Res 2005; 65: 9617-9622、Abarzua F et al., Int J Mol Med 2007; 20: 37-43、Tanimoto R et al., Int J Mol Med 2007; 19: 363-368)と同様であり、REIC/Dkk-3タンパク質発現の欠失又は不存在は、癌細胞における細胞死誘導に重要であることが示唆される。REIC/Dkk-3が存在しない癌細胞へのAd-REIC投与が小胞体ストレス(ER-stress)をもたらし、JNK依存性様式で細胞死を誘導する。興味深いことに、ある種のタンパク質の過剰発現が小胞体ストレスに誘起されるJNK活性化と細胞死の原因となる(Cudna RE, Biotechnol Bioeng 2003: 81: 56-65、Herr I. et al, Blood 2001; 98: 2603-2614)。従って、REIC/Dkk-3タンパク質の過剰発現それ自体が顕著な小胞体ストレスを誘起し、REIC/Dkk-3タンパク質発現がないか円滑に進まない癌細胞の小胞体でJNKを活性化することにより細胞死が起こると考えられる。
【0061】
P-糖タンパク質は、抗癌剤の流出に中心的な働きをし、抗癌剤に対する細胞生存を増大させる。また、P-糖タンパク質のアップレギュレーションは癌細胞が抗癌剤の毒性効果に対して耐性になる重要なメカニズムの1つである(Ueda K. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 1987; 84: 3004-3008、Giai M. et al., Eur J Gynaecol Oncol 1991; 12: 359-373,11)。興味深いことに、先の検討で転写因子であるc-JunがP-糖タンパク質のダウンレギュレーションの主要な決定要因であることがわかった(Fujita T et al., Int J Cancer 2005; 117: 670-682、Miao ZH et al., Cancer Res 2003; 63: 4527-4532)。MCF7/ADR細胞におけるREIC/Dkk-3の過剰発現は、P-糖タンパクのダウンレギュレーションと同様に、JNK依存性様式でc-Junの活性化をもたらすので、Ad-REIC投与細胞においては、JNK活性化により誘導されるリン酸化c-JunがP-糖タンパク依存性の抗ドキソルビシン耐性の逆転を仲介すると考えられる。このことは、薬剤耐性のMCF7/ADR細胞におけるドキソルビシンの細胞内への蓄積がAd-REIC投与後に顕著に高くなることにより裏付けられている。さらに、他のドキソルビシン(アドリアマイシン)耐性癌細胞株である、膀胱癌細胞のKK47/ADR(KK47/ADM)を用いて、Ad-REICによるREIC/Dkk-3の過剰発現がJNK及びc-Jun依存性様式でP-糖タンパク質をダウンレギュレートし、薬剤体制が促進されることが確認された(実施例2)。従って、Ad-REIC投与による薬剤耐性の逆転効果のメカニズムはP-糖タンパクのダウンレギュレーションに依存したJNK活性化であり得る。しかし、Ad-REIC投与後の顕著な細胞死誘導を考慮すると、細胞の傷害そのものが、抗癌耐性に関与した細胞内システムに変化を与えている可能性もある。
【0062】
本実施例において、in vitro及びin vivoでのAd-REIC投与の乳癌の治療効果が実証された。Ad-REICは細胞死を誘導するだけでなく、単剤で抗癌剤耐性を復活させる。すなわち、REIC/Dkk-3は従来より用いられている抗癌剤と併用することにより、著しい抗癌効果を奏することができる。
【0063】
実施例2 REIC/Dkk-3の抗癌剤耐性膀胱癌細胞に対する効果
正常膀胱癌細胞及び抗癌剤耐性を獲得した膀胱癌細胞を用いて実施例1と同様の検討を行った。
【0064】
用いた細胞は、膀胱癌細胞株KK47(KK47/Wt)及びその抗癌剤(ドキソルビシン)耐性株KK47/ADR(KK47/ADM)(Kimiya K. et al., J Urol. 1992 Aug;148(2 Pt 1):441-5、Hasegawa S. et al., Br J Cancer. 1995 May;71(5):907-13)であった(いずれも九州大学医学部泌尿器科学教室から供与)。
【0065】
Ad-REIC処理後の細胞死誘導効果を図7に示す。100MOIのAd-REICを投与したKK47/Wt及びKK47/ADR細胞で、Ad-LacZコントロール群と比べ、有意に細胞死発生率が上昇した。
【0066】
Ad-REIC処理後の抗癌剤耐性の変化を図8に示す。100MOIのAd-REICを投与後、ドキソルビシンに対する細胞死の感受性が有意に上昇していた。
【0067】
Ad-REIC投与によるP-糖タンパク質の発現抑制を図9に示す。KK47/ADR細胞において、100MOIのAd-REICを投与後、P-糖タンパク質の発現が有意に抑制された。この発現の変化は、JNKタンパク質のインヒビター投与により打ち消された。
【0068】
実施例3 REIC/Dkk-3 DNA断片による細胞死誘導
PC3(1 x 105cells)を6ウェルプレートにまき、24時間後に各REIC/Dkk-3フラグメントcDNAを挿入したプラスミドpTracer-EF-A-1(#1: 1-39 aa)、-2(#2: 1-78 aa)、-6(Full: 1-350aa)をTransIT(登録商標) Keratinocyte試薬(トランスフェクション試薬(Mirus Bio Corporation))を用いてPC3に導入した。pTracer-EF-A-1は配列番号2に表されるアミノ酸配列の第1番目〜39番目のアミノ酸をコードするcDNA(配列番号1に表される塩基配列の第1番目〜117番目の塩基からなるcDNA)を含み、pTracer-EF-A-2は配列番号2に表されるアミノ酸配列の第1番目〜78番目のアミノ酸をコードするcDNA(配列番号1に表される塩基配列の第1番目〜234番目の塩基からなるcDNA)を含み、pTracer-EF-A-3は配列番号2に表されるアミノ酸配列の第1番目〜350番目のアミノ酸をコードするcDNA(配列番号1に表される塩基配列の第1番目〜1050番目の塩基からなるcDNA)を含む。OUMS-24に対しては、FuGENE(登録商標)-HD試薬(トランスフェクション試薬(ロシュ アプライド サイエンス))を用いて各プラスミドを導入した。48時間後、細胞を生きたままHoechst33342により核染色し、蛍光顕微鏡にて観察した。細胞死を起こした細胞(核の凝集した細胞)の%は、GFP陽性細胞(プラスミドの入った細胞)を分母にして計算した。
【0069】
PC3への導入に用いたプラスミドは、挿入遺伝子(REIC/Dkk-3フラグメント)とGFPをそれぞれ別々のプロモーターによって同時に発現させることが可能である。したがってGFP(緑)を検出することでREICフラグメントが発現している細胞を間接的に検出することが可能となる。導入後、48時間で細胞のアポトーシス誘導を評価した。染色像を図10に示す。図10に示すようにGFP陽性の細胞に顕著に核(Hoechst染色:青)の凝集(アポトーシス)した細胞が1と2の場合に認められた。図10中、(-)はREICフラグメントを挿入していない空のプラスミドpTracer-EF-Aを示す。
【0070】
PC3を用いた場合の細胞死(核の凝集した細胞)の%を、GFP陽性細胞(プラスミドの入った細胞)を分母にして計算した結果を図11Aに示す。REICフラグメント1(#1: 1-39 aa)と2(#2: 1-78 aa)に顕著な細胞死誘導効果が認められた。一方、図11BはOUMS-24を用いた場合の結果を示す。PC3で認められた細胞死誘導効果は、正常線維芽細胞OUMS-24では認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】REIC/Dkk-3のヒト乳癌細胞株での発現を示す図である。
【図2A】Ad-REICによるヒト乳癌細胞におけるin vitroでの細胞死誘導を示し、処理後のMCF7/Wt及びMCF7/ADR細胞のHoechst4452染色の結果を示す図である。
【図2B】Ad-REICによるヒト乳癌細胞におけるin vitroでの細胞死誘導を示し、処理後のヒト初代乳房上皮細胞(HMEC)及び乳癌細胞株の細胞死率を示す図である。
【図3】Ad-REICによるMCF7/ADR細胞のドキソルビシンへの感受性の回復を示す図である。
【図4】MCF7/ADR細胞におけるP-糖タンパク質の発現のAd-REICによるリン酸化JNK-c-Jun依存性様式によるダウンレギュレートを示す図である。
【図5A】Ad-REIC処理後のドキソルビシンの細胞内蓄積を示す蛍光顕微鏡像を示す図である。
【図5B】Ad-REIC処理後のドキソルビシンの細胞内蓄積を示す図である。
【図6A】ヌードマウスにおけるMCF/Wt腫瘍増殖へのAd-REIC処理の阻害効果を示す図である。
【図6B】ヌードマウスにおけるMCF/Wt腫瘍増殖へのAd-REIC処理の阻害効果を表す腫瘍増殖曲線を示す図である。
【図6C】ヌードマウスへのウイルス投与3日後に回収した腫瘍のTUNEL染色の結果を示す。
【図7】膀胱癌細胞(KK47)及びそのドキソルビシン耐性細胞(KK47/ADR)における、Ad-REIC投与後のアポトーシス誘導効果を示す図である。
【図8】KK47/ADR細胞において、Ad-REICを投与した場合のドキソルビシンに対する細胞死の感受性の変化を示す図である。
【図9】KK47/ADR細胞において、Ad-REIC投与によるP-糖タンパク質の発現の抑制を示す図である。
【図10】REIC/Dkk-3 DNAの各断片により誘導されたPC3の細胞死の状態を示す図である。
【図11】REIC/Dkk-3 DNAの各断片により誘導されたPC3及びOUMS-24の細胞死誘導効果を示す図である。AがPC3の結果であり、BがOUMS-24の結果である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤耐性癌を治療する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌細胞の抗癌剤にたいする感受性・耐性に影響を与える因子として、薬剤の細胞外への排出機構、薬剤代謝、DNA修復、PI3K-Akt経路、アポトーシス経路などの変化が挙げられる。特に、多くの抗癌剤耐性の癌細胞では、抗癌剤の蓄積が減少していること、広範な抗癌剤を能動的に細胞外に排出するポンプであるP-糖タンパク質や抗癌剤多剤耐性関連タンパク質であるMRP1の細胞膜での発現が上昇していることが知られている。従来技術として、P-糖タンパク質発現を減弱させるようコードされた遺伝子を抗癌剤耐性癌細胞内にin vitroで導入することにより、その細胞の抗癌剤耐性を減弱することがいくつか報告されている(非特許文献1から3を参照)。しかし、報告されているのは、in vitroの実験結果であり、動物を用いたin vivoでの有用性は示されていなかった。また、上記報告以後もin vivoで効果が認められたという報告はない。
【0003】
一方、細胞の不死化に関連した遺伝子として、REIC/Dkk-3遺伝子が知られており、がん細胞ではこの遺伝子の発現が抑制されていることが報告されている(特許文献1及び非特許文献4から7を参照)。
【0004】
REIC/Dkk-3遺伝子はDkkファミリーのメンバーであり、Wnt受容体を介してWntシグナル伝達を阻害することが示唆されている(非特許文献8及び9を参照)。Wnt遺伝子は、細胞の成長、分化、がん化などの重要な生物学的状況に多面的な役割を果たすことが報告されている(非特許文献10を参照)。従って、Dkkファミリー(ヒトでは現在4つの遺伝子が知られている)は恐らく同様に細胞の成長、分化、がん化において重要な機能を担うと考えられるが、大部分は未解明のままである。
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO01/038523号パンフレット
【非特許文献1】Masuda Y. et al., Cancer chemother Pharmacol. 1998;42(1):9-16
【非特許文献2】Wang FS. et al., Hum Gene Ther. 1999 May 1;10(7):1185-95
【非特許文献3】Yague E. et al., Gene Ther. 2004 Jul;11(14):1170-4
【非特許文献4】Tsuji, T. et al., BiochemBiophys Res Commun 268, 20-4 (2000)
【非特許文献5】Tsuji, T. et al., BiochemBiophys Res Commun 289, 257-63 (2001)
【非特許文献6】Nozaki, I. et al., Int J Oncol 19, 117-21 (2001)
【非特許文献7】Kurose, K. et al., J Urol 171, 1314-8 (2004)
【非特許文献8】Bafico, A. et al., Nat Cell Biol 3, 683-6 (2001)
【非特許文献9】Hoang, B.H. et al., Cancer Res 64, 2734-9 (2004)
【非特許文献10】Moon, R.T. et al., Science 296, 1644-6 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗癌剤耐性を獲得した癌において、癌細胞の抗癌剤感受性を回復させ、かつ癌細胞の細胞死を誘導する薬剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のように、P-糖タンパク質発現を減弱させるようコードされた遺伝子がin vivoで抗癌剤耐性を減弱することは報告されていなかった。このことは、in vitroの結果から期待されるほどの抗癌剤感受性の回復・抗癌剤併用時の腫瘍縮小効果がin vivoでは認められていないことを強く示唆する。
【0008】
本発明者らは、アデノウイルスベクターにREIC/Dkk-3 DNAを導入したAd-REICを、抗癌剤であるドキソルビシン(アドリアマイシン)に対する耐性を有する癌細胞に投与したところ、癌細胞の抗癌剤に対する感受性が回復し、癌細胞の細胞死(アポトーシス)が誘導されることを見出した。さらに、抗癌剤耐性を有する癌細胞を移植したヌードマウスにおいても、Ad-REICが癌細胞の細胞死を誘導することを見出した。これらの知見は、Ad-REICが癌細胞の抗癌剤に対する感受性を回復させ、すなわち抗癌剤の作用を増強させて、癌に細胞死を誘導する効果を有することを示す。
【0009】
従って、抗癌剤耐性癌において抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、アデノウイルスベクターによる遺伝子導入効率の優位性に基づく強力な抗癌剤耐性解除及び癌細胞死誘導作用により、in vivo動物モデルにおける抗癌剤感受性の回復・抗癌剤併用時の腫瘍縮小効果が期待される。
【0010】
本発明は以下の態様を包含する。
[1] 以下のREIC/Dkk-3のDNAを有効成分として含む、抗癌剤耐性を有する癌細胞用の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤:
(a) 配列番号1に表される塩基配列からなるDNA;
(b) 配列番号1に表される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、細胞死誘導活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列からなるポリヌクレオチド;又は
(d) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、細胞死誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
[2] 以下のREIC/Dkk-3のDNAを含むベクターを有効成分として含む抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤:
(a) 配列番号1に表される塩基配列からなるDNA;
(b) 配列番号1に表される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、細胞死誘導活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列からなるポリヌクレオチド;又は
(d) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、細胞死誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
[3] ベクターがアデノウイルスベクターである[2]の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤。
[4] 抗癌剤が抗癌抗生物質である[1]〜[3]のいずれかの抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤。
[5] [1]〜[4]のいずれかの抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤を含む、抗癌剤に対する耐性を有する癌の癌治療薬。
[6] 抗癌剤と[1]〜[4]のいずれかの癌細胞死誘導剤からなるキットである前記抗癌剤に対する耐性を有する癌の癌治療薬。
[7] 抗癌剤が抗癌抗生物質である[6]の前記抗癌剤に対する耐性を有する癌の癌治療薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗癌剤耐性を有する癌細胞用の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、抗癌剤耐性癌において、単剤でも癌細胞死・抗腫瘍効果を有し、かつ抗癌剤と併用した場合に抗癌剤作用を回復することができるという2面的効果を有する局所投与可能な製剤である。
【0012】
本発明の製剤の投与が予想される症例は、抗癌剤治療に抵抗性が認められるようになった癌病変を持つ患者であり、単剤投与でも癌細胞死・腫瘍縮小効果が認められる本発明の製剤と抗癌剤との併用投与により、抗癌作用が2重に誘導され強い抗腫瘍効果が期待できる。
【0013】
臨床的には、抗癌剤耐性癌と感受性癌の厳密な区別は難しく、感受性癌でも抗癌作用が期待できる本発明の製剤は、抗癌剤耐性癌をターゲットとした従来のP-糖タンパク質の発現を減弱させる手法と比べ抗癌剤治療の初期段階からの投与が可能となり、臨床での投与適応症例の幅が広いという点でも優位性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死(アポトーシス)誘導剤は、REIC/Dkk-3 DNAを有効成分として含む。
【0015】
REIC/Dkk-3 DNAの塩基配列は、配列番号1に表される。また、REIC/Dkk-3 DNAがコードするREIC/Dkk-3タンパク質のアミノ酸配列は配列番号2に表される。
【0016】
また、本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤に含まれるREIC/Dkk-3のDNAは、配列番号1に表される塩基配列に相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、配列番号1に表される塩基配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有しているDNA、又は前記DNAによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列に対して1又は複数若しくは数個(1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1個若しくは2個)のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAなどのうち、癌細胞の細胞死誘導活性を有するタンパクをコードするものである。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、「1XSSC、0.1% SDS、37℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.5XSSC、0.1% SDS、42℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.2XSSC、0.1% SDS、65℃」程度の条件である。このようにハイブリダイゼーションの条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待し得る。ただし、上記のSSC、SDS及び温度の条件の組み合わせは例示であり、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーションの反応時間などを適宜組み合わせることにより、必要なストリンジェンシーを実現することが可能である。さらに、本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤に含まれるREIC/Dkk-3のDNAは、配列番号2に表されるタンパク質をコードするDNAである。
【0017】
さらに、本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤が含有するREIC/Dkk-3 DNAは、該DNAの塩基配列の一部塩基配列からなる断片ヌクレオチドであって、細胞死誘導活性を有するペプチドをコードするヌクレオチドも含まれる。このような断片ヌクレオチドは、全長REIC/Dkk-3 DNAを適当な部位で切断し、細胞死誘導活性を有するかどうか測定することにより容易に得ることができる。このような断片ヌクレオチドとして、例えば、配列番号1に表わされるREIC/Dkk-3 DNAの塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列からなるポリヌクレオチド、並びに配列番号1に表わされるREIC/Dkk-3 DNAの塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、細胞死誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが含まれる。配列番号1に表わされるREIC/Dkk-3 DNAの塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列からなるポリヌクレオチドとしては、第1番目の塩基から第117番目の塩基からなるポリヌクレオチド(配列番号3)又は第1番目から第234番目の塩基からなるポリヌクレオチド(配列番号4)が挙げられる。
【0018】
REIC/Dkk-3 DNAは、配列番号1の配列情報に基づいて、ヒト細胞、ヒト組織等から得ることができる。また、WO01/038523号公報の記載に従って得ることも可能である。
【0019】
さらに、本発明はREIC/Dkk-3 DNAを含むベクターをも包含する。該ベクターを被験体に導入することにより、被験体体内でREIC/Dkk-3タンパク質が発現し抗癌剤増強作用を有しつつ癌細胞死誘導効果を発揮し得る。
【0020】
遺伝子治療における目的の遺伝子(DNA)の被験体への導入は公知の方法により行うことができる。遺伝子を被験体へ導入する方法として、ウイルスベクターを用いる方法及び非ウイルスベクターを用いる方法があり、種々の方法が公知である(別冊実験医学、遺伝子治療の基礎技術、羊土社、1996;別冊実験医学、遺伝子導入&発現解析実験法、羊土社、1997;日本遺伝子治療学会編、遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999)。
【0021】
遺伝子導入のためのウイルスベクターとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス等のウイルスベクターを用いた方法が代表的なものである。無毒化したレトロウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40、免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNAウイルス又はRNAウイルスに目的とする遺伝子を導入し、細胞に組換えウイルスを感染させることによって、細胞内に遺伝子を導入することが可能である。
【0022】
本発明に係る遺伝子をウイルスを用いた遺伝子治療に使用するとき、アデノウイルスベクターが好ましく用いられる。アデノウイルスベクターの特徴として、(1)多くの種類の細胞に遺伝子導入ができる、(2)増殖停止期の細胞に対しても効率よく遺伝子導入ができる、(3)遠心により濃縮が可能であり、高タイター(10〜11PFU/ml以上)のウイルスが得られる、(4)in vivoの組織細胞への直接の遺伝子導入に適している、といった点が挙げられる。遺伝子治療用のアデノウイルスとしては、E1/E3領域を欠失させた第1世代のアデノウイルスベクター(Miyake,S.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,93,1320,1996)から、E1/E3領域に加え、E2若しくはE4領域を欠失させた第2世代のアデノウイルスベクター(Lieber,A.,et al.,J.Virol.,70,8944,1996;Mizuguchi,H.&Kay,M.A.,Hum.Gene Ther.,10,2013,1999)、アデノウイルスゲノムをほぼ完全に欠失させた(GUTLESS)第3世代のアデノウイルスベクター(Steinwaerder,D.S.,et al.,J.Virol.,73,9303,1999)が開発されているが、本発明に係る遺伝子を導入するには、特に限定されずいずれのアデノウイルスベクターでも使用可能である。さらに、AAVの染色体に組み込み能を付与したアデノ-AAVハイブリッドベクター(Recchia,A.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,96,2615,1999)や、トランスポゾンの遺伝子を用いることにより染色体に組み込む能力を有したアデノウイルスベクターなどを利用すれば、長期的な遺伝子発現にも応用が可能である。また、アデノウイルスファイバーのH1ループに組織特異的な移行性を示すペプチド配列を挿入することにより、アデノウイルスベクターに組織特異性を付与することも可能である(Mizuguchi,H.&Hayakawa,T.,Nippon Rinsho,7,1544,2000)。
【0023】
本発明において、REIC/Dkk-3 DNAを含むアデノウイルスベクターをAd-REICと呼ぶ。
また、上記ウイルスを用いることなく、プラスミドベクター等の遺伝子発現ベクターが組み込まれた組換え発現ベクターを用いて、目的遺伝子を細胞や組織に導入することができる。例えば、リポフェクション法、リン酸-カルシウム共沈法、DEAE-デキストラン法、微小ガラス管を用いたDNAの直接注入法などにより細胞内へ遺伝子を導入することができる。また、内包型リポソーム(internal liposome)による遺伝子導入法、静電気型リポソーム(electorostatic type liposome)による遺伝子導入法、HVJ-リポソーム法、改良型HVJ-リポソーム法(HVJ-AVEリポソーム法)、HVJ-E(エンベロープ)ベクターを用いた方法、レセプター介在性遺伝子導入法、パーティクル銃で担体(金属粒子)とともにDNA分子を細胞に移入する方法、naked-DNAの直接導入法、種々のポリマーによる導入法等によっても、組換え発現ベクターを細胞内に取り込ませることが可能である。この場合に用いる発現ベクターとしては、生体内で目的遺伝子を発現させることのできるベクターであれば如何なる発現ベクターも用いることができるが、例えばpCAGGS(Gene 108, 193-200(1991))や、pBK-CMV、pcDNA3、1、pZeoSV(インビトロゲン社、ストラタジーン社)、pVAX1などの発現ベクターが挙げられる。
【0024】
REIC/Dkk-3 DNAを含むベクターは、適宜遺伝子を転写するためのプロモーターやエンハンサー、ポリAシグナル、遺伝子が導入された細胞の標識及び/又は選別のためのマーカー遺伝子等を含んでいてもよい。この際のプロモーターとしては、公知のプロモーターを用いることができる。
【0025】
本発明のREIC/Dkk-3 DNAを含む抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤を被験体へ導入するには、遺伝子治療剤を直接体内に導入するin vivo法、及び、ヒトからある種の細胞を取り出して体外で遺伝子治療剤を該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すex vivo法等を用いればよい(日経サイエンス、1994年4月号、20-45頁;月刊薬事、36(1), 23-48 (1994); 実験医学増刊、12(15)、(1994); 日本遺伝子治療学会編、遺伝子治療開発研究ハンドブック、エヌ・ティー・エス、1999)。
【0026】
本発明のREIC/Dkk-3 DNAを含む抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は抗癌剤に耐性を有する癌の治療薬として用いることができる。
【0027】
本発明において、抗癌剤増強作用とは、癌の抗癌剤耐性を減弱し、抗癌剤の抗癌活性を維持することをいう。すなわち、本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は癌の抗癌剤感受性を回復させ、癌細胞に細胞死を誘導する。
【0028】
本発明が対象とする抗癌剤としては、アドリアマイシン(ドキソルビシン)、ダクチノマイシン、アクチノマイシンD、クロモマイシン、ダウノマイシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ドノルビシン、エピルビシン、マイトマイシンC等の抗癌抗生物質;ニトロソウレア剤、窒素マスタード(サイクロフォスファミド等)、ダカルバジン、カルムスチン(BCNU)、ブスルファン、イフォスファミド、塩酸ニムスチン、ロムスチン(CCNU)、ラニムスチン(MCNU)等のアルキル化剤;メトトレキセート、アミノプテリン、6-メルカプトプリン、5-フルオロウラシル、カルモフール、シタラビン、ヒドロキシカルバミド、ゲムシタビン等の代謝拮抗剤;ビンブラスチン、ビンクリスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、CPT-11(イリノテカン)、エトポシド等の植物アルカロイド剤;ホルモン剤;レンチナン、ピシバニール、ベスタチン等の生物機能修飾物質;プロカルバジン;シスプラチン;カルボプラチンなどが例として挙げられる。また、特に前立腺癌の治療に用いられる男性ホルモンの働きを抑える抗男性ホルモン剤も含まれる。抗男性ホルモン剤としては、たとえばリュープリン、カソデックス、オダイン、プロスタール、エクストラサイト、ホンバン等が挙げられる。さらに、癌細胞特異的な分子を標的として抗癌作用を示す分子標的薬も含まれる。分子標的薬としては、メシル酸イマチニブ、ゲフィニチブ、エルロチニブ、バンデダニブ、スニチニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤、ソラフェニブなどのRafキナーゼ阻害薬、エタネルセプトなどのTNF-α阻害剤、リツキシマブ、セツキシマブ、インフリキシマブ、トラスツズマブ、ベバシツマブ等のモノクローナル抗体が挙げられる。
【0029】
本発明の治療対象となる癌としては、脳・神経腫瘍、皮膚癌、胃癌、肺癌、肝癌、リンパ腫・白血病、結腸癌、膵癌、肛門・直腸癌、食道癌、子宮癌、乳癌、副腎癌、腎癌、腎盂尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、尿道癌、陰茎癌、精巣癌、骨・骨肉腫、平滑筋腫、横紋筋腫、中皮腫等が挙げられる。特に、乳癌、膀胱癌が好ましい。これらの癌のうち、アドリアマイシン等の抗癌剤の静脈内投与治療後に、同抗癌剤の腫瘍縮小効果が減弱した癌病変を有する症例、及び同抗癌剤が腫瘍縮小効果を示さなくなることが臨床的に予測される癌病変を有する症例の癌に対して効果を有する。
【0030】
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、癌細胞において小胞体ストレスを引き起こし、小胞体ストレスがJNKの活性化を導き、その結果P-糖タンパク質の濃度が減少し、細胞における抗癌剤の排出機能が低下し、抗癌剤がより低濃度で癌細胞死を誘導すると考えられる。さらに、小胞体ストレスの誘導及びJNKの活性化を介して細胞内の広範な細胞傷害性シグナルが抗癌剤耐性解除に機能し得る。
【0031】
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、REIC/Dkk-3 DNA若しくは該DNAを含むベクター並びに薬理学的に許容され得る担体、希釈剤若しくは賦形剤を含む。
【0032】
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、種々の形態で投与することができ、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、あるいは注射剤、点滴剤、座薬、スプレー剤、点眼剤、経鼻投与剤、貼付剤などによる非経口投与を挙げることができる。
【0033】
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、局所投与することも可能であり、例えば癌部位に注射により投与することによりその効果を発揮し得る。
【0034】
好ましくは、癌病変局所に1回又は複数回、癌病変全体に本剤が行き渡るように直接注入を行う。この注入前後でアドリアマイシン等の抗癌剤の静脈内投与治療を行えばよい。
【0035】
本発明は、抗癌剤と抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤を組合せて有する医薬組成物をも包含する。すなわち、本発明は抗癌剤とREIC/Dkk-3 DNAからなるキットである癌治療薬、抗癌剤とREIC/Dkk-3 DNAとを含有する癌治療用医薬組成物を包含する。
【0036】
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤を含む。たとえば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどが使用される。注射用の水性液としては、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが使用され、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、プロピレングリコールなどのポリアルコール、非イオン界面活性剤などと併用しても良い。油性液としては、ゴマ油、大豆油などが使用され、溶解補助剤としては安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用しても良い。
【0037】
その投与量は、症状、年齢、体重などによって異なるが、数日又は数週間又は数ヶ月おきに1回あたり、0.001mg〜100mgを皮下注射、筋肉注射、又は静脈注射によって投与すればよい。
【0038】
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、上記の癌に罹患した癌患者であって抗癌剤治療に抵抗性が認められるようになった癌病変を持つ患者に投与すればよい。
【0039】
本発明の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤は、単剤投与でも癌細胞死・腫瘍縮小効果が認められる。さらに、本剤と抗癌剤との併用により抗癌作用が2重に誘導され強い腫瘍縮小効果が期待される。
【実施例】
【0040】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0041】
実施例1 REIC/Dkk-3の抗癌剤耐性乳癌細胞に対する効果
本実施例において、以下の材料を用い、以下の方法で検討を行った。
【0042】
細胞及び細胞培養
本発明の実施例で用いた細胞株は、ヒト乳癌細胞株MCF7/Wt(野生型)、MDA-MB-231、SK-BR-3、HCC1806及びヒト子宮癌細胞株であるHeLaであった。これらの細胞株は、ATCC(American Type Culture Collection)から入手した。抗癌剤耐性乳癌細胞株(多剤耐性乳癌細胞株)MCF7/ADRはユニバーシティーオブネブラスカメディカルセンターのEppley Institute for Research in Cancer and Allied Diseases のK.H.Cowan博士より供与された(Batist G et al. J Biol Chem 1986; 261:15544-15549)。対照細胞としては、ヒト線維芽細胞及びOUMS24を用いた。これらは本発明者等が確立した(Bai L et al. Int J Cancer 1993; 53: 451-456)。それぞれの細胞株は以下の培養液を用いて培養した。
【0043】
OUMS24は、10%(v/v)ウシ胎児血清、ペニシリン(100IU/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)で補足したDulbecco’s Modified Eagle Medium(Invitrogen)を用い5%CO2条件下で培養した。MCF7/ADRは、10%(v/v)ウシ胎児血清、ペニシリン(100IU/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、10μMドキソルビシン(アドリアシン(商標、協和発酵))で補足したRPMI-1640 medium (Sigma)を用いて培養した。他の細胞株は、10%(v/v)ウシ胎児血清、ペニシリン(100IU/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)で補足したRPMI-1640 medium を用いて培養した。
【0044】
ウエスタンブロット分析
タンパク質の発現は、ウエスタンブロットにより調べた。細胞をPBSで2回洗浄し、溶解バッファー(50 mM HEPES, pH 7.4、250 mM NaCl、1 mM EDTA、1% NP-40、1 mM DTT、1 mM PMSF、5μg/ml ロイペプチン、5μg/ml アプロチニン、2 mM Na3VO4、1 mM NaF、10 mM β-GP)にてタンパク質を抽出した。遠心分離後、上清中のタンパク質量を調整し、同量の2 x SDS sample bufferで希釈し、95℃で5分間加熱した。サンプル(10μgタンパク質)を7.5% SDS-PAGEゲルで泳動し、PVDF膜に転写した。10%無脂肪ミルク粉末、6%グリシン、0.1% Tween-20を含むTris buffered saline (TBS)を用いて室温で1時間ブロッキングを行った。抗ヒト REIC/Dkk-3抗体(1:1000)、抗JNK抗体sc-571 (1:500) (Santa Cruz Biotechnology)、抗c-Jun抗体sc-1694(1:500) (Santa Cruz Biotechnology)、抗リン酸化JNK抗体#9255 (1:500) (Cell Signaling Technology)、抗リン酸化c-Jun抗体#9261 (1:500) (Cell Signaling Technology)、抗開裂カスペース-3抗体#9661 (1:500) (Cell Signaling Technology)、抗チューブリン抗体T5168 (1:8000)(Sigma)、抗P-糖タンパク質抗体C219 (1:250)(Calbiochem)を一次抗体として用いた。TBS(T-TBS)、0.1% Tween-20を用いて十分に洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体を添加した。さらに、T-TBSを用いて十分に洗浄した後、enhanced chemiluminescence detection method (ECL kit)により、発色させた。一部においては、1μMのJNKインヒビターSP600125(A. G. Scientific, Inc.)を添加してJNKのキナーゼ活性を阻害した。
【0045】
REIC/Dkk-3 DNAを含むアデノウイルスベクター(Ad-REIC)の作製
全長REIC/Dkk-3 cDNAをコスミドベクターpAxCAwtに導入し、COS-TPC法(Takara Bio)によりアデノウイルスベクターにトランスファーした(Abarzua F et al. Cancer Res 2005; 65: 9617-9622)。LacZ遺伝子を含むアデノウイルスベクター(Ad-LacZ)を対照として用いた。
【0046】
細胞死(アポトーシス)アッセイ
in vitroにおける細胞死誘導を調べるために、細胞を平底6ウェルプレートに播き24時間培養した。細胞をAd-LacZ及びAd-REICで種々のMOI(multiplicity of infection)で無血清培地中にて2時間処理した後、新鮮完全培地に交換した。48時間のインキュベーション後、Hoechst33342ストック溶液を2μg/mlの濃度で添加し、細胞を暗条件下で10分間インキュベーションした。Hoecht33342は、インタキレーター染色試薬であり、クロマチンの総量とクロマチンンの凝縮程度を調べることができる(Belloc F et al., Cytometry 1994; 17: 59-65、Maciorowski Z et al., Cytometry 1998; 32: 44-50)。蛍光顕微鏡を用いて高度に凝縮し分断した核を有する細胞死が認められた細胞を同定した。細胞死が認められた細胞は、顕微鏡下で3〜5の異なる視野において計数した。
【0047】
in vivoで細胞死が認められた細胞を検出するために、In situ Cell Detection Kit, Fluorescein(Roche)を用いてTUNEL(terminal deoxynucleotidyltransferase-mediated UTP end labeling)アッセイを行った。すなわち、腫瘍組織を切断し、OCT化合物中に入れ、液体窒素中で急速凍結した。凍結切片(10μm)サンプルをメタノールを用いて30分室温で固定し洗浄し、0.1%Triton X-100を含むPBSを浸透させ、TUNEL反応混合液で染色した。
【0048】
細胞生存率アッセイ
細胞を96ウェル平底マイクロプレートにウェル当り1000個播いた。24時間のインキュベーション後、細胞を無血清培地中100MOIのAd-LacZ及びAd-REICで2時間処理し、新鮮完全培地に交換した。48時間後浮遊死細胞を培地交換により除去し、付着細胞を種々の濃度のドキソルビシンと共に72時間培養した。インキュベーションの最後に、CellTiter96(登録商標)Aqueous One Sokution Cell Proliferation Assay (Promega Corp.)を用いて細胞生存率を測定した。
【0049】
細胞内のドキソルビシン蓄積の検出及び定量
細胞を6ウェル平底プレートに播き24時間培養した。24時間のインキュベーション後、細胞を無血清培地中100MOIのAd-LacZ及びAd-REICで2時間処理し、新鮮完全培地に交換した。48時間後浮遊死細胞を培地交換により除去し、付着細胞を10μMのドキソルビシンと共に36時間培養した。インキュベーションの最後に、ドキソルビシンの赤色の自己蛍光を観察し、スキャンした。スキャンした像をScion Image (Scion Corp)を用いてドキソルビシンの集積密度の定量に供した。
【0050】
異種移植モデル
5〜6週齢の雌の胸腺欠損(nu/nu)マウスをチャールズリバー研究所より入手した。腫瘍細胞の注入の3日前に、17βエストラジオールペレット(SE-121、 Innovative Research of America)をマウスの右肩領域に皮下注射により移植した。MCF7/Wt細胞 5×106細胞/0.1ml PBS)をマウスの左側背部に注入した。腫瘍を3〜6mmに増加させ、マウスをランダムに7群に分けた。その後、1.2×108プラーク形成ユニット(PFU)のアデノウイルスベクター(Ad-LacZ及びAd-REIC)をPBSで0.1mlに調整し腫瘍内に注射した。陰性対照として、同量のPBSを注射した。腫瘍の大きさを2週間に1度測定した。腫瘍体積は実験により導き出した式(1/2×(w1×w2×w2);w1は腫瘍の最大径、w2は腫瘍の最小径を表す)により計算した。
【0051】
統計的解析
データは平均±SEで示した。Unpaired Student's t test を2群の間で行い、P<0.05の場合に有意の差があるとした。解析は、Statview 4.5 software program (Abucus concepts)を用いて行った。
【0052】
(1) ヒト乳癌細胞株におけるREIC/Dkk-3遺伝子の発現の低下
種々の細胞株におけるREIC/Dkk-3タンパク質の発現を調べた。用いた細胞は、ヒト乳癌細胞株MCF7/Wt(野生型)、MDA-MB-231、SK-BR-3、HCC1806及びヒト子宮癌細胞株であるHeLaであった。ヒト線維芽細胞及びOUMS24を発現の陽性対照として用いた(Abarzua F et al., Cancer Res 2005; 65: 9617-9622)。チューブリンをローディング対照として用いた初代培養ヒト乳癌上皮細胞(HMEC)において、REIC/Dkk-3蛋白質は分子量60から70kDaの間に明瞭に認められた。これは、ウエスタンブロットにおいてREIC/Dkk-3タンパク質に複数のバンドが認めらることと合致する(barzua F et al., Cancer Res 2005; 65: 9617-9622、Kurose K et al., J Urol 2004; 171: 1314-13181、Hsieh SY, Oncogene 2004; 23: 9183-9189)。図1に結果を示す。図1はREIC/Dkk-3のヒト乳癌細胞株での発現を示す。図1に示すように癌細胞株では、REIC/Dkk-3の発現を示すバンドは認められなかった。
【0053】
(2) Ad-REIC処理によるMCF7/Wt及びMCF7/ADR細胞での細胞死の誘導
Ad-REICを用いてREIC/Dkk-3を乳癌細胞株で過剰発現させ、REIC/Dkk-3を用いた乳癌の遺伝子治療の可能性を検討した。実験は3から6回行った。結果を図2A及び図2Bに示す。図2Aに示すように、Hoechst33342を用いた細胞死アッセイにおいて、細胞死した細胞は、Ad-REICで処理したMCF7/Wt及びMCF7/ADRにおいて高頻度で認められた。一方で、HMECでは認められなかった。100MOIにおける細胞死の出現率は、HMEC、MCF7/Wt、MCF7/ADR及びSK-BR-3細胞において、それぞれ5.5%、21.2%、25.0%及び15.2%であった(図2B)。対照であるAd-LacZ処理と比較すると、100MOIでのAd-REIC処理はMCF7/Wt及びMCF7/ADR細胞において有意に細胞死を誘導した。Ad-REICとAd-LacZ処理管で有意の差(p<0.05)が認められた。MDA-MB-231細胞においては、Ad-REICと対象との間で細胞死の誘導に差は認められなかった。
【0054】
(3) 多剤耐性MCF7/ADRのドキソルビシンへの感受性のAd-REICによる増大
癌治療におけるAd-REICのさらなる有用性を検討するために、多剤耐性であるMCF7/ADR細胞を用いて検討を行った。MCF/Wt及びMCF7/ADR細胞を、無処理、Ad-LacZ処理及びAd-REIC処理の3群に分けた。細胞を種々の濃度のドキソルビシンにさらし、REIC/Dkk-3過剰発現が、薬剤耐性から細胞を回復させる能力を評価した。MCF7/Wt細胞においては、処理群による有意の差は認められなかった。図3に結果を示す。図3においては、ドキソルビシン毒性に対する用量反応曲線を示す。図3に示すように、MCF7/ADR細胞ではドキソルビシンの毒性の用量反応曲線はAd-REIC処理で顕著に低濃度にフトした。10μMのドキソルビシンにおいて、細胞の生存率は、無処理、Ad-LacZ及びAd-REIC群でそれぞれ88.1%、85.6%及び32.3%であった。25μMのドキソルビシンの場合、細胞の生存率は、無処理、Ad-LacZ及びAd-REIC群でそれぞれ45.9%、32.1%及び14.3%であった。処理群の間で有意の差(p<0.05)が認められた。
【0055】
(4) MCF7/ADR細胞におけるAd-REIC処理による、活性化JNK-c-Jun依存性様式でのP-糖タンパク質のダウンレギュレート
ウエスタンブロットによりREIC/Dkk-3過剰発現下での種々のタンパク質の発現レベルを測定した。細胞を100MOIでAd-LacZ及びAd-REIC処理し、48時間後、浮遊死細胞を除去し、付着細胞を溶解させサンプルとして用いた。Ad−REIC処理においてJNKのキナーゼ活性を阻害するために1μMのJNKインヒビター(SP600125)をAd-REIC処理後直ちに添加した。図4に結果を示す。図4中、p-はリン酸化を示し、P-gpはP-糖タンパク質を示す。Ad-REIC処理により、MCF7/Wt及びMCF7/ADRの両方の細胞でREIC/Dkk-3タンパク質の発現が増大した。両方の細胞のいずれの処理においても、JNKレベルの変化は認められなかった。MCF7/ADR細胞のC-Junタンパク質レベルはMCF7/Wt細胞より大きかった。Ad-REIC処理後のMCF7/Wt及びMCF7/ADR細胞におけるJNKの活性化はリン酸化JNK特異抗体を用いてc-Junのリン酸化を検出することにより行った。REIC/Dkk-3の過剰発現はMCF7/ADR細胞においてP-糖タンパク質を顕著にダウンレギュレートした。JNKインヒビターであるSP600125はJNKのキナーゼ活性を阻害するが、JNKそれ自体のリン酸化は阻害しないことが知られている(Bennett BL et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2001; 98: 13681-13686)。Ad-REIC及びSP600125の併用により、JNKの活性は変化しなかった。しかしながら、リン酸化c-Junの発現レベルは減少しMCF7/ADR細胞のP-糖タンパク質レベルが逆転した。P-糖タンパクの発現の変化に対して、MCF7/Wt及びMCF7/ADR細胞における開裂したカスペース-3のレベルはAd-REIC処理によりアップレギュレートし、SP600125により逆転した。
【0056】
(5) Ad-REIC処理により細胞内のドキソルビシンの蓄積
それぞれのタイプの細胞におけるAd-REIC処理のドキソルビシン動態への影響を調べるため、ドキソルビシンの細胞内への蓄積を10μMの濃度で調べた。図5A及び図5Bに結果を示す。図5Aは、処理細胞の蛍光顕微鏡像の代表例を示す。図5Bは赤色蛍光をランダムにスキャンし、集積密度を定量化した結果を示す。それぞれの細胞株において、無処理細胞の平均値を1.0に調整した。図5A及び図5Bに示すように、MCF7/ADR細胞において、Ad-REIC処理はドキソルビシンの細胞内への蓄積を顕著に増大させ、対照群の2倍の蓄積が認められた。Ad-REIC処理とAd-LacZ処理間で有意の差(p<0.05)が認められた。MCF7/Wt細胞においては、処理による差は認められなかった。
【0057】
(6) 腫瘍内Ad-REIC処理(投与)による乳癌異種移植モデルでの乳癌の増殖の抑制
REIC/Dkk-3の過剰発現によるin vitroでの細胞死の誘導がMCF/Wt細胞で認められたので、次に腫瘍皮下注射モデルを用いてAd-REICのin vivoでの抗腫瘍効果について検討を行った。図6A、図6B及び図6Cに結果を示す。図6A及び図6Bは、3週間の観察期間の最後におけるAd-LacZ及びAd-REIC処理後の異種移植腫瘍の出現を示し、図6Aは腫瘍が出現したヌードマウスの写真、図6Bは腫瘍の平均体積をそれぞれの群において7頭のマウスについて計算し作成した腫瘍増殖曲線を示す。Ad-REIC処理とAd-LacZ処理間で有意の差(p<0.05)が認められた。図6Cは、ウイルス投与3日後に回収した腫瘍のTUNEL染色の結果を示す。核はDAPI染色により染色した。図6Bに示すように、PBS投与群及びAd-LacZ投与群において、腫瘍サイズは3週間の観察期間において徐々に増大した。一方、Ad-REIC処理群においては、腫瘍体積は2週間の間ほとんど変化せず、その後徐々に減少した。無処理群、Ad-LacZ投与群、Ad-REIC投与群の間で、7日目から3週間目にかけて顕著な差が認められた。REIC/Dkk-3発現及びAd-REIC処理の細胞死効果を確認するため、腫瘍組織をベクター投与の3日後に切除した。図6Cに示すように、Ad-REIC処理腫瘍においては、ウエスタンブロットによりREIC/Dkk-3の過剰発現が認められた。その後、腫瘍切片をTUNEL染色により調べた。Ad-LacZを投与した腫瘍ではほとんど細胞死は認められなかった。一方、Ad-REICを投与した腫瘍では多くのTUNEL陽性細胞が認められた。
【0058】
本実施例によりREIC/Dkk-3は癌に対する遺伝子治療に有用であることが示された。アデノウイルス介在REIC/Dkk-3過剰発現は乳癌細胞で細胞死を誘導し、細胞死はJNKリン酸化依存的様式で起こった。マウスモデルにおけるMCF/Wt腫瘍増殖阻害は、in vivoでのAd-REIC処理による腫瘍の細胞死効果により説明できる。さらに、REIC/Dkk-3の過剰発現は、薬剤耐性乳癌細胞MCF7/ADRにおけるJNK活性化を介してP-糖タンパクの発現をダウンレギュレートし、ドキソルビシンに対する薬剤耐性を薬剤感受性に変えた。
【0059】
本発明者らは、先にAd-REIC投与によるJNK活性化が種々の癌細胞株における細胞死に主要な役割を有していることを報告した(Abarzua F et al., Cancer Res 2005; 65: 9617-9622、Abarzua F et al., Int J Mol Med 2007; 20: 37-43、Tanimoto R et al., Int J Mol Med 2007; 19: 363-368)。前立腺癌PC-3細胞においては、REIC/Dkk-3の過剰発現がJNKを活性化し、Bcl-2タンパク質レベルを減少させ、BaXタンパク質のミトコンドリアでの局在化を誘導し、サイトクロームCを細胞質に放出し、細胞死(アポトーシス)をもたらす(Abarzua F et al., Cancer Res 2005; 65: 9617-9622)。
【0060】
本実施例においては、Ad-REIC投与が多数の乳癌細胞株、MCF7/Wt、MCF7/ADR及びSK-BR-3において細胞死を誘導するが、初代ヒト乳房上皮細胞では誘導しないことが示された。さらに、REIC/Dkk-3タンパク質の発現は乳癌細胞株ではほとんど認めらないが、初代上皮細胞ではREIC/Dkk-3タンパク質が豊富に存在することが示された。この結果は、REIC/Dkk-3の過剰発現が内在性のREIC/Dkk-3発現がない乳癌細胞の細胞死を選択的に誘導することを示唆する。この現象は、先の報告(Abarzua F et al., Cancer Res 2005; 65: 9617-9622、Abarzua F et al., Int J Mol Med 2007; 20: 37-43、Tanimoto R et al., Int J Mol Med 2007; 19: 363-368)と同様であり、REIC/Dkk-3タンパク質発現の欠失又は不存在は、癌細胞における細胞死誘導に重要であることが示唆される。REIC/Dkk-3が存在しない癌細胞へのAd-REIC投与が小胞体ストレス(ER-stress)をもたらし、JNK依存性様式で細胞死を誘導する。興味深いことに、ある種のタンパク質の過剰発現が小胞体ストレスに誘起されるJNK活性化と細胞死の原因となる(Cudna RE, Biotechnol Bioeng 2003: 81: 56-65、Herr I. et al, Blood 2001; 98: 2603-2614)。従って、REIC/Dkk-3タンパク質の過剰発現それ自体が顕著な小胞体ストレスを誘起し、REIC/Dkk-3タンパク質発現がないか円滑に進まない癌細胞の小胞体でJNKを活性化することにより細胞死が起こると考えられる。
【0061】
P-糖タンパク質は、抗癌剤の流出に中心的な働きをし、抗癌剤に対する細胞生存を増大させる。また、P-糖タンパク質のアップレギュレーションは癌細胞が抗癌剤の毒性効果に対して耐性になる重要なメカニズムの1つである(Ueda K. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 1987; 84: 3004-3008、Giai M. et al., Eur J Gynaecol Oncol 1991; 12: 359-373,11)。興味深いことに、先の検討で転写因子であるc-JunがP-糖タンパク質のダウンレギュレーションの主要な決定要因であることがわかった(Fujita T et al., Int J Cancer 2005; 117: 670-682、Miao ZH et al., Cancer Res 2003; 63: 4527-4532)。MCF7/ADR細胞におけるREIC/Dkk-3の過剰発現は、P-糖タンパクのダウンレギュレーションと同様に、JNK依存性様式でc-Junの活性化をもたらすので、Ad-REIC投与細胞においては、JNK活性化により誘導されるリン酸化c-JunがP-糖タンパク依存性の抗ドキソルビシン耐性の逆転を仲介すると考えられる。このことは、薬剤耐性のMCF7/ADR細胞におけるドキソルビシンの細胞内への蓄積がAd-REIC投与後に顕著に高くなることにより裏付けられている。さらに、他のドキソルビシン(アドリアマイシン)耐性癌細胞株である、膀胱癌細胞のKK47/ADR(KK47/ADM)を用いて、Ad-REICによるREIC/Dkk-3の過剰発現がJNK及びc-Jun依存性様式でP-糖タンパク質をダウンレギュレートし、薬剤体制が促進されることが確認された(実施例2)。従って、Ad-REIC投与による薬剤耐性の逆転効果のメカニズムはP-糖タンパクのダウンレギュレーションに依存したJNK活性化であり得る。しかし、Ad-REIC投与後の顕著な細胞死誘導を考慮すると、細胞の傷害そのものが、抗癌耐性に関与した細胞内システムに変化を与えている可能性もある。
【0062】
本実施例において、in vitro及びin vivoでのAd-REIC投与の乳癌の治療効果が実証された。Ad-REICは細胞死を誘導するだけでなく、単剤で抗癌剤耐性を復活させる。すなわち、REIC/Dkk-3は従来より用いられている抗癌剤と併用することにより、著しい抗癌効果を奏することができる。
【0063】
実施例2 REIC/Dkk-3の抗癌剤耐性膀胱癌細胞に対する効果
正常膀胱癌細胞及び抗癌剤耐性を獲得した膀胱癌細胞を用いて実施例1と同様の検討を行った。
【0064】
用いた細胞は、膀胱癌細胞株KK47(KK47/Wt)及びその抗癌剤(ドキソルビシン)耐性株KK47/ADR(KK47/ADM)(Kimiya K. et al., J Urol. 1992 Aug;148(2 Pt 1):441-5、Hasegawa S. et al., Br J Cancer. 1995 May;71(5):907-13)であった(いずれも九州大学医学部泌尿器科学教室から供与)。
【0065】
Ad-REIC処理後の細胞死誘導効果を図7に示す。100MOIのAd-REICを投与したKK47/Wt及びKK47/ADR細胞で、Ad-LacZコントロール群と比べ、有意に細胞死発生率が上昇した。
【0066】
Ad-REIC処理後の抗癌剤耐性の変化を図8に示す。100MOIのAd-REICを投与後、ドキソルビシンに対する細胞死の感受性が有意に上昇していた。
【0067】
Ad-REIC投与によるP-糖タンパク質の発現抑制を図9に示す。KK47/ADR細胞において、100MOIのAd-REICを投与後、P-糖タンパク質の発現が有意に抑制された。この発現の変化は、JNKタンパク質のインヒビター投与により打ち消された。
【0068】
実施例3 REIC/Dkk-3 DNA断片による細胞死誘導
PC3(1 x 105cells)を6ウェルプレートにまき、24時間後に各REIC/Dkk-3フラグメントcDNAを挿入したプラスミドpTracer-EF-A-1(#1: 1-39 aa)、-2(#2: 1-78 aa)、-6(Full: 1-350aa)をTransIT(登録商標) Keratinocyte試薬(トランスフェクション試薬(Mirus Bio Corporation))を用いてPC3に導入した。pTracer-EF-A-1は配列番号2に表されるアミノ酸配列の第1番目〜39番目のアミノ酸をコードするcDNA(配列番号1に表される塩基配列の第1番目〜117番目の塩基からなるcDNA)を含み、pTracer-EF-A-2は配列番号2に表されるアミノ酸配列の第1番目〜78番目のアミノ酸をコードするcDNA(配列番号1に表される塩基配列の第1番目〜234番目の塩基からなるcDNA)を含み、pTracer-EF-A-3は配列番号2に表されるアミノ酸配列の第1番目〜350番目のアミノ酸をコードするcDNA(配列番号1に表される塩基配列の第1番目〜1050番目の塩基からなるcDNA)を含む。OUMS-24に対しては、FuGENE(登録商標)-HD試薬(トランスフェクション試薬(ロシュ アプライド サイエンス))を用いて各プラスミドを導入した。48時間後、細胞を生きたままHoechst33342により核染色し、蛍光顕微鏡にて観察した。細胞死を起こした細胞(核の凝集した細胞)の%は、GFP陽性細胞(プラスミドの入った細胞)を分母にして計算した。
【0069】
PC3への導入に用いたプラスミドは、挿入遺伝子(REIC/Dkk-3フラグメント)とGFPをそれぞれ別々のプロモーターによって同時に発現させることが可能である。したがってGFP(緑)を検出することでREICフラグメントが発現している細胞を間接的に検出することが可能となる。導入後、48時間で細胞のアポトーシス誘導を評価した。染色像を図10に示す。図10に示すようにGFP陽性の細胞に顕著に核(Hoechst染色:青)の凝集(アポトーシス)した細胞が1と2の場合に認められた。図10中、(-)はREICフラグメントを挿入していない空のプラスミドpTracer-EF-Aを示す。
【0070】
PC3を用いた場合の細胞死(核の凝集した細胞)の%を、GFP陽性細胞(プラスミドの入った細胞)を分母にして計算した結果を図11Aに示す。REICフラグメント1(#1: 1-39 aa)と2(#2: 1-78 aa)に顕著な細胞死誘導効果が認められた。一方、図11BはOUMS-24を用いた場合の結果を示す。PC3で認められた細胞死誘導効果は、正常線維芽細胞OUMS-24では認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】REIC/Dkk-3のヒト乳癌細胞株での発現を示す図である。
【図2A】Ad-REICによるヒト乳癌細胞におけるin vitroでの細胞死誘導を示し、処理後のMCF7/Wt及びMCF7/ADR細胞のHoechst4452染色の結果を示す図である。
【図2B】Ad-REICによるヒト乳癌細胞におけるin vitroでの細胞死誘導を示し、処理後のヒト初代乳房上皮細胞(HMEC)及び乳癌細胞株の細胞死率を示す図である。
【図3】Ad-REICによるMCF7/ADR細胞のドキソルビシンへの感受性の回復を示す図である。
【図4】MCF7/ADR細胞におけるP-糖タンパク質の発現のAd-REICによるリン酸化JNK-c-Jun依存性様式によるダウンレギュレートを示す図である。
【図5A】Ad-REIC処理後のドキソルビシンの細胞内蓄積を示す蛍光顕微鏡像を示す図である。
【図5B】Ad-REIC処理後のドキソルビシンの細胞内蓄積を示す図である。
【図6A】ヌードマウスにおけるMCF/Wt腫瘍増殖へのAd-REIC処理の阻害効果を示す図である。
【図6B】ヌードマウスにおけるMCF/Wt腫瘍増殖へのAd-REIC処理の阻害効果を表す腫瘍増殖曲線を示す図である。
【図6C】ヌードマウスへのウイルス投与3日後に回収した腫瘍のTUNEL染色の結果を示す。
【図7】膀胱癌細胞(KK47)及びそのドキソルビシン耐性細胞(KK47/ADR)における、Ad-REIC投与後のアポトーシス誘導効果を示す図である。
【図8】KK47/ADR細胞において、Ad-REICを投与した場合のドキソルビシンに対する細胞死の感受性の変化を示す図である。
【図9】KK47/ADR細胞において、Ad-REIC投与によるP-糖タンパク質の発現の抑制を示す図である。
【図10】REIC/Dkk-3 DNAの各断片により誘導されたPC3の細胞死の状態を示す図である。
【図11】REIC/Dkk-3 DNAの各断片により誘導されたPC3及びOUMS-24の細胞死誘導効果を示す図である。AがPC3の結果であり、BがOUMS-24の結果である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のREIC/Dkk-3のDNAを有効成分として含む、抗癌剤耐性を有する癌細胞用の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤:
(a) 配列番号1に表される塩基配列からなるDNA;
(b) 配列番号1に表される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、細胞死誘導活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列からなるポリヌクレオチド;又は
(d) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、細胞死誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
以下のREIC/Dkk-3のDNAを含むベクターを有効成分として含む抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤:
(a) 配列番号1に表される塩基配列からなるDNA;
(b) 配列番号1に表される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、細胞死誘導活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列からなるポリヌクレオチド;又は
(d) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、細胞死誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
ベクターがアデノウイルスベクターである請求項2記載の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤。
【請求項4】
抗癌剤が抗癌抗生物質である請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤を含む、抗癌剤に対する耐性を有する癌の癌治療薬。
【請求項6】
抗癌剤と請求項1〜4のいずれか1項に記載の癌細胞死誘導剤からなるキットである前記抗癌剤に対する耐性を有する癌の癌治療薬。
【請求項7】
抗癌剤が抗癌抗生物質である請求項6記載の前記抗癌剤に対する耐性を有する癌の癌治療薬。
【請求項1】
以下のREIC/Dkk-3のDNAを有効成分として含む、抗癌剤耐性を有する癌細胞用の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤:
(a) 配列番号1に表される塩基配列からなるDNA;
(b) 配列番号1に表される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、細胞死誘導活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列からなるポリヌクレオチド;又は
(d) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、細胞死誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
以下のREIC/Dkk-3のDNAを含むベクターを有効成分として含む抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤:
(a) 配列番号1に表される塩基配列からなるDNA;
(b) 配列番号1に表される塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、細胞死誘導活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列からなるポリヌクレオチド;又は
(d) 配列番号1に表わされる塩基配列中の第1番目の塩基に始まり第117番目の塩基〜第234番目のいずれかの塩基に終わる塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、細胞死誘導活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
ベクターがアデノウイルスベクターである請求項2記載の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤。
【請求項4】
抗癌剤が抗癌抗生物質である請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗癌剤増強作用を有する癌細胞死誘導剤を含む、抗癌剤に対する耐性を有する癌の癌治療薬。
【請求項6】
抗癌剤と請求項1〜4のいずれか1項に記載の癌細胞死誘導剤からなるキットである前記抗癌剤に対する耐性を有する癌の癌治療薬。
【請求項7】
抗癌剤が抗癌抗生物質である請求項6記載の前記抗癌剤に対する耐性を有する癌の癌治療薬。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−114103(P2009−114103A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287373(P2007−287373)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(507365318)桃太郎源株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(507365318)桃太郎源株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]