説明

抗真菌性素材及びその用途

【課題】副作用がなく安全でかつ有効に抗真菌活性の改善を図ることが可能な抗真菌性素材、及びその用途を提供する。
【解決手段】本発明の抗真菌性素材は、植物性炭素繊維を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗真菌性素材及びその用途に関し、特に、真菌に起因する真菌症の症状改善及び/又は感染予防に有効な素材及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
真菌は自然界に広く分布し、その種類も数万種に及ぶ。真菌には、醸造や食品の酸味料生成に利用されるもの(アスペルギルス属等)や、抗生物質等の医薬用組成物の開発に利用されるもの(ペニシリウム属)といった有用な菌も含まれるが、一方で、感染症を引き起こす有害な菌も含まれる。真菌による感染症(以下、真菌症と呼ぶ)は、真菌がヒトや動物等の宿主の皮膚あるいは体内に侵入して定着し、宿主に障害を与えるものである。
【0003】
真菌症のうち、白癬菌によって引き起こされる白癬症は、ヒトにおいて感染する頻度が高い。特に、いわゆる水虫と呼ばれ水疱・発赤・痛痒感を足に生じる足白癬は、羅患率が高く、有効な治療及び感染予防の方法が望まれる疾患である。従来、白癬症の治療・感染予防には、抗白癬菌作用を有する外用剤や経口剤が用いられている。特に、イミダゾール系組成物を有効成分とするものが用いられている。また、白癬症に有効な組成物として、植物の精油由来の組成物からなる抗白癬菌組成物(例えば、特許文献1参照)や、ε−ポリ−L−リシンからなる抗白癬菌組成物(例えば、特許文献2参照)や、第4級アンモニウム超強酸塩からなる抗白癬菌組成物(例えば、特許文献3参照)が挙げられる。
【0004】
さらに、抗白癬菌活性を有する各種素材も開発されている。このような素材として、例えば、抗白癬菌活性を有する組成物を含んで構成されたポリウレタン弾性繊維やポリエステル、ポリアミド、アクリル、レーヨン又は綿繊維が挙げられる(例えば、特許文献4及び特許文献5参照)。また、繊維自体が抗白癬菌活性を有するものとして、アクリル系吸放湿繊維(例えば、特許文献6参照)が挙げられる。
【0005】
また、ある種の炭素繊維が黄色ブドウ球菌及び大腸菌等の細菌に対する抗菌活性を有することが知られている(例えば、特許文献7及び特許文献8参照)。
【0006】
【特許文献1】特許第3304329号公報
【特許文献2】特許第3000490号公報
【特許文献3】特開2006−335650号公報
【特許文献4】特開2004−292471号公報
【特許文献5】特開2004−300650号公報
【特許文献6】特開2001−159073号公報
【特許文献7】特開2000−160476号公報
【特許文献8】特開平11−206539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
抗真菌活性を有する組成物(例えば、抗白癬菌作用を有する外用剤及び経口剤の有効成分)は、抗真菌活性に優れるものの、副作用を生じるおそれがあり、使用についてはその安全性が懸念される。例えば、抗真菌活性組成物を含む外用剤では、皮膚に対して刺激が強く皮膚炎を引き起こすおそれがある。また、経口剤では、肝機能や胃腸に障害を引き起こす場合がある。
【0008】
また、抗真菌活性組成物を含む外用剤や経口剤を用いた真菌症(例えば白癬症)の治療では、これら薬剤を一定期間継続して使用する必要があり、治療途中で使用中断又は中止した場合には治癒が困難であるとの問題がある。このような使用継続に関する問題は、白癬症の完治が困難と言われる所以である。さらに、外用剤の使用については、次のような取り扱い性や利便性の問題が挙げられる。具体的に、通常、外用剤は、軟膏、液剤、スプレー剤、貼付剤等の使用態様であるが、当該態様では、患部への塗布等が煩雑であるとともに、衣服に付着し汚れを生じやすい。
【0009】
さらに、抗真菌活性組成物を含む外用剤や経口剤は、感染者の症状改善において有効性を示すものの、当該感染者から他者への感染予防については有効な手段を十分に講じ得ない。例えば、足白癬は、感染者と共通のスリッパやマット等を使用することにより更に感染が広がるものであり、この場合には、感染者本人の外用剤や経口剤の使用のみでは他者への感染を防ぐことが困難である。
【0010】
一方、抗真菌活性を有する素材、例えば抗白癬菌活性を有する繊維から構成される抗菌性物品(例えば、マットやスリッパ等の日用品)、を用いて足白癬等の真菌症症状改善及び感染予防を図る方法がある。かかる方法では、日常生活での使用によって治療及び感染予防が実現される為、安全性及び取り扱い性の面で好ましい。しかしながら、外用剤や経口剤を使用する場合に比べ、十分な有効な抗真菌活性を実現することが困難である。例えば、抗白癬菌剤を含む繊維素材では、繊維に含浸した薬剤の放出が極めて少なく、また、繊維表面における分布にばらつきが生じて十分な効果が得られない。また、素材を構成する繊維自体が抗白癬菌活性を有する繊維素材では、薬剤を含浸した素材に比べ、活性がさらに低く十分な効果が得られない。
【0011】
そこで、本発明は、副作用がなく安全でかつ有効に抗真菌活性を奏することが可能な抗真菌性素材を提供することを目的とし、さらに、当該素材を利用した抗真菌活性を有する物品、特に、真菌に起因する疾患の症状改善及び感染予防に有効な物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、炭素繊維の中でも植物性炭素繊維が優れた抗真菌活性を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0013】
請求項1に係る本発明の抗真菌性素材は、植物性炭素繊維を真菌に対する抗菌活性成分として含むことを特徴とする。
請求項2に係る本発明の抗真菌作用を有する物品は、請求項1記載の素材から構成されることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る本発明の真菌症の症状改善及び/又は感染予防用素材は、植物性炭素繊維を真菌症関連菌に対する抗菌活性成分として含むことを特徴とする。
請求項4に係る本発明の素材は、請求項3に係る素材において、前記真菌症関連菌が白癬菌属である。
【0015】
請求項5に係る本発明の素材は、請求項3又は4に係る素材において、前記植物性炭素繊維が綿花を原料とするものである。
請求項6に係る本発明の素材は、請求項3〜5のいずれか一つに係る素材において、前記植物性炭素繊維が、木酢液及び/又は竹酢液を含浸させ乾燥したものである。
【0016】
請求項7に係る本発明の真菌症の症状改善及び/又は感染予防用物品は、請求項3〜6のいずれか一つに係る素材から構成されることを特徴とする。
請求項8に係る本発明の物品は、請求項7に係る物品において、前記真菌症が白癬菌属に起因するものである。
【0017】
請求項9に係る物品は、請求項7又は8に係る物品において、靴中敷、靴下、スリッパ、サポータ及び包帯から選ばれたいずれか一つの形態を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る抗真菌性素材及び当該素材を含んで構成される抗真菌作用を有する物品によれば、副作用を生じず、安全かつ簡便に有効な抗真菌活性が奏される。したがって、本発明を真菌に起因する諸々疾患(いわゆる真菌症)に適用すれば、安全かつ簡便に疾患症状の改善緩和及び感染予防を図ることが可能となる。特に、本発明は、抗白癬菌性に優れることから、白癬菌により引き起こされる白癬症、より詳細には足白癬、の症状改善及び感染予防に有効である。
【0019】
ところで、植物性炭素繊維については、特開2000−160476号公報において抗菌活性を有することが開示されている。しかしがながら、当該出願では、細菌(具体的には枯草菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌及び大腸菌)に対する抗菌活性に言及するにとどまり、真菌に対する抗菌活性及び真菌症への適用については開示も示唆もされていない。したがって、当該出願から植物性炭素繊維の真菌に対する抗菌活性や抗菌スペクトルを推察することは困難であり、特に、真菌症(より具体的には白癬症)に対する植物性炭素繊維の有用性について容易に想到するものではない。このように、本発明は、植物性炭素繊維が真菌に対し優れた抗菌活性を有し、特に真菌症(より具体的には白癬症)の症状改善及び感染予防に有効であるとの新たな知見に基づいてなされたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはない。下記の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0021】
1.定義
本発明の実施形態を述べるにあたり、まず、本明細書中の用語の定義について説明する。本明細書において、「抗真菌活性、抗真菌性、抗真菌作用」とは、経済産業省が発表したカビ以外の細菌に関する「抗菌加工製品ガイドライン」の定義に準じ、素材又は物品の表面における真菌の増殖を抑制することと定義する。当該定義の趣旨の範疇であれば、一般に用いられる「殺菌」、「除菌」、「減菌」、「制菌」、「静菌」のいずれの意味であってもよい。
【0022】
また、「増殖の抑制」とは、具体的には、1)はじめの状態と比較して生菌数が減少する場合、2)はじめの状態と生菌数がほぼ同程度である場合、及び、3)はじめの状態と比較した生菌数の増加が一定レベルに抑えられる場合を含む。生菌数の差による抗菌活性の評価の具体例として、例えば、JIS L 1902における「繊維製品の抗菌性試験方法」の定量法による評価(具体的には、「静菌活性値」又は「殺菌活性値」による評価)に従ってもよい。
【0023】
抗菌対象となる「真菌」は、生物学的分類上の真菌に属する範囲内であれば、特には限定されない。例えば、接合菌類、子嚢菌類、担子菌類、及び不完全菌類のいずれであってもよい。より具体的には、ムコール属、ヒストプラズマ属、クリプトコッカス属、カンジダ属、黒色真菌、アスペルギルス属、ペニシリウム属、皮膚糸状菌(白癬菌属、表皮菌属、小胞子菌属)、トルロプシス属、ケトミウム属、ミロテシウムベルカリア属等が例示される。また、ここでは、特に真菌症の発症に関連する真菌を「真菌症関連菌」と総称することがある。
【0024】
また、「改善」とは、悪い状態から良い状態にすることはもちろんのこと、そのまま放っておけばさらに悪化する状態を一定レベルに保持したり、あるいは悪化の程度を最小限に止めることも含む意味である。具体的に、例えば「症状改善」とは、症状が完全に消失することはもちろん、完全には消失しないものの、以前に比べて低減、後退、進行逆転する場合や、その進行を阻止あるいは遅延させる場合も含む。一方、「感染予防」とは、感染が完全に抑えられる場合はもちろんのこと、感染を最小限に抑えるといった完全防止以外の場合も含める。
【0025】
2.植物性炭素繊維について
本発明に係る「抗真菌性素材」、「真菌症の症状改善及び/又は感染予防用素材」及びこれらの素材を利用した「物品」は、植物性炭素繊維を真菌に対する抗菌活性成分として含むものである。以下においては、まず、本発明に係る素材及び物品の特徴的構成である植物性炭素繊維について詳述する。
【0026】
「植物性」とは、セルロース系の有機物から構成されたものであることを意図する。植物性炭素繊維は、綿(綿花)、ウバメガシ繊維、竹繊維、その他の天然植物繊維、あるいは材木を原料とし、これらを高温で焼成することにより得られる。植物性炭素繊維から構成される本発明の素材や物品では、化学繊維に炭を練り混ぜたものとは異なり均一な組成構造の繊維を形成している為、シート等への加工が容易である。さらに、炭を素材にする通常の製品が有するデメリット、例えば、加工により生じる炭の特徴や作用の低下等を回避することが可能となる。
【0027】
植物性炭素繊維の分子構造は特に限定されず、例えば、黒鉛質系炭素、非晶質系炭素、これらの中間的結晶構造を持つ炭素等が挙げられる。また、繊維径は、所望の効果を得られる限り特には限定されないが、例えば、5〜20μm程度、好ましくは7〜15μm程度、より好ましくは7〜11μm程度である。また。トウを形成してもよく、撚糸されていてもよい。撚糸された炭素繊維束の直径は、所望の効果を得られる限り特には限定されないが、例えば、0.05〜10mm程度、好ましくは0.1〜5mm程度である。
【0028】
本発明に係る抗真菌性素材等の構成成分である植物性炭素繊維について、その製造方法は、当該技術分野で知られる種々の公知技術を用いることができる。例えば、このような植物性繊維の製造方法では、焼成前に、まず予備酸化処理として、原料の植物繊維(具体的には、綿繊維及び竹繊維等)を酸化雰囲気中(例えば、空気中)で加熱することにより不融化処理又は耐炎化処理を行ってもよい。また、原料の植物繊維を硫酸、塩酸、リン酸及び硝酸等の無機酸の溶液に浸漬した後、不融化処理又は耐炎化処理を行うこともできる。このような酸で処理することにより不融化処理又は耐炎化処理が促進される。その後、適宜適切に不活性ガス雰囲気中で加熱(すなわち焼成)することにより、植物性炭素繊維を製造することができる。
【0029】
予備酸化処理時の加熱温度は、例えば100〜300℃であり、好ましくは150〜250℃である。また、加熱時間は、例えば0.1〜10時間、好ましくは0.2〜5時間、また好ましくは0.5〜2時間である。
【0030】
上記焼成時の加熱は、例えば高圧水蒸気処理等を適宜行ってもよい。また、上記焼成時の温度は、150〜1500℃、好ましくは200〜1100℃、またより好ましくは250〜350℃であり、そして、不活性ガスとしては窒素ガス等を用いることができる。焼成時間は、例えば0.1〜10時間、好ましくは0.2〜5時間、また好ましくは0.3〜1時間である。このような炭化及び賦活工程を適宜行うことにより、得られる植物性炭素繊維の一本一本にミクロ単位のポア(ミクロ細孔)を適宜形成してもよい。
【0031】
以上のような植物性炭素繊維の製造方法により、有害物質(例えば、焼成中に発生する一酸化炭素)等の不純物が使用時に放出されない、言い換えれば使用者の身体に影響を及ぼすことのない安全な素材が得られる。また、繊維一本ごとに柔軟性を付与することができるので、十分な引張強度や摩擦強度を実現することが可能であり、耐久性にも優れる。
【0032】
また、特開平11−206539号公報及び特開2000−160476号公報に開示されるように、植物性炭素繊維は、木酢液及び竹酢液の少なくともいずれか一方を主成分とする処理液中に浸漬及び加熱処理し、その後に乾燥させることにより製造されることが好ましい。このような処理を施した植物性炭素繊維では、真菌及び細菌に対して優れた抗菌活性が実現される。上記処理液としては、木酢液及び竹酢液をそれぞれ単独で使用してもよく、あるいは、これらを所望の割合で混合して使用してもよい。木酢液及び竹酢液は、原液で用いてもよく、所望の濃度に希釈(例えば2倍希釈程度)して用いてもよい。また、上記処理液は、木酢液及び竹酢液以外の成分、例えば、ヨモギエキス等を含むものであってもよい。
【0033】
本発明の植物性炭素繊維は、原料の植物繊維を空気中、150〜250℃の温度で加熱することによって予備酸化処理し、その後、窒素雰囲気下、250〜350℃の温度で焼成し、そして木酢液で処理することによって製造されたものであることが好ましい。
【0034】
上記処理液は、炭素繊維を浸漬させる前に加熱しておくことが好ましい。処理液の加熱温度は、90℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは煮沸温度(例えば、120〜150℃)とする。処理液への浸漬時間は、3〜15秒、好ましくは5〜8秒である。このような浸漬処理により、木酢液及び/又は竹酢液を含む処理液を含浸させた炭素繊維は、蒸留水で洗浄した後に乾燥させる。かかる洗浄により、木酢液や竹酢液による独特の臭いを除去することができる。
【0035】
植物性炭素繊維を乾燥させる工程では、温風により乾燥を行ってもよく、あるいは真空中での加熱により乾燥を行ってもよい。温風で乾燥する場合及び真空で加熱乾燥する場合の加熱温度や真空度は、適宜適切に選択される。
【0036】
以上の方法により製造される植物性炭素繊維は、後述の実施例及び表1ならびに表2に示すように、真菌に対して優れた抗菌活性を奏し、特に、白癬菌等の真菌症に関連する真菌に対して有効な抗真菌活性を奏する。したがって、かかる植物性炭素繊維を含んで構成される本発明の抗真菌性素材、真菌症の症状改善及び/又は感染予防用素材、及びこれらを利用した物品では、優れた抗真菌活性、安全性、及び利便性(取り扱い性)を充足することが可能である。このような植物性繊維では、繊維自体が抗真菌活性を有する為、抗菌剤を繊維に含浸させた場合のような薬剤放出の不均一が生じることはなく、抗菌活性強度のばらつきが生じない。
【0037】
3.本発明に係る抗真菌性素材
次に、本発明に係る抗真菌性素材について説明する。本発明の抗真菌性素材は、植物性炭素繊維を真菌に対する抗菌活性成分として含むものであるかかる抗真菌性素材は、上記植物性炭素繊維のみから構成されてもよく、また、当該繊維以外の材料を含んで構成されてもよい。例えば、上記植物性炭素繊維の他に、ポリアクリルニトリル系炭素繊維;フェノール樹脂系炭素繊維、フラン系炭素繊維及びポリカルボジイミド系炭素繊維等のガラス状炭素繊維;異方性ピッチ又は合成ピッチ等のピッチ系炭素繊維;ポリビニルアルコール系炭素繊維;活性炭繊維;その他のセルロース系炭素繊維などが挙げられ、これらの繊維を適宜組み合わせて構成されてもよい。このように他の材料と組み合わせる場合、その混合比率は、所望する素材の強度、手触り、製造効率、コスト等を鑑みて適宜選択される。
【0038】
本発明の抗真菌性素材の形態は特に限定されず、例えば、織布、不織布、フェルト等のいずれであってもよい。また、加工形状は特に限定されず、例えばシート状であってもよい。シート状に加工する場合、厚さが2〜3mm程度のシートに加工することができる。さらに、抗真菌性素材において、植物性炭素繊維からなる基材の表裏面が、天然繊維、合成繊維等からなる生地により被覆された構成であってもよい。
【0039】
図1は、本発明に係る抗真菌性素材の構成を例示した模式図である。具体的に、図1(a)は外観斜視図であり、図1(b)は垂直断面図である。図1(a)、(b)に示すように、この場合の抗真菌性素材1は、シート状に加工された上記植物性炭素繊維からなる炭素繊維シート2と、その上下表面に配置されたカバー生地3とを有し、キルティング加工が施されて炭素繊維シート2がカバー生地3間に挟持された構成を有する。炭素繊維シート2は、綿状、編物状及び織物状のいずれであってもよいが、例えばこの場合には綿状である。また、カバー生地3は、綿等の天然繊維やポリエステル等の合成繊維から構成された任意の生地である。
【0040】
図1においてはキルティング加工が施される場合について説明したが、炭素繊維シート2の上下表面にカバー生地3が接着(ボンディング加工)された構成であってもよい。図2は、ボンディング加工により製造される場合の一連の製造工程を示す概略図である。図2に示すように、例えば、炭素繊維シート2の上下表面に接着剤4により2枚のカバー生地3がそれぞれ接着されてシート状の抗真菌性素材1が形成される。この場合、例えば、炭素繊維シート2は、編物状又は織物状の炭素繊維から構成される。
【0041】
具体的に製造工程を説明すると、まず、送りローラ11aにより送り出された炭素繊維シート2の上下表面に熱可塑性の接着剤4(加熱前は「○」)が塗布されるとともに、当該炭素繊維シート2の上方及び下方において、送りローラ11b及び11cにより2枚のカバー生地3がそれぞれ炭素繊維シート2と順方向に送り出される。炭素繊維シート2及び2枚のカバー生地3はローラの回転に従い同方向に進む。そして、この際、炭素繊維シート2に塗布された接着剤4に熱が加えられる。図2では、加熱後の接着剤4は「●」で示されている。さらに、加圧ローラ12により上方及び下方から加圧されてカバー生地3と炭素繊維シート2とが圧着され、熱圧着で一体化したシート状の抗真菌性素材1が形成される。このようにして製造された抗真菌性素材1は、巻き取りローラ13に巻き取られる。接着剤4としては、従来から使用されている熱可塑性接着剤を任意に利用可能であり、例えば、ポリアミド樹脂系接着剤を用いることができる。接着剤4の接着温度は、特に限定はされないが、例えばポリアミド樹脂系接着剤の場合は125〜130℃であることが好ましい。また、カバー生地3の素材は、天然繊維や合成繊維等特に限定されない。例えば、ポリエステルからなる生地であってもよい。
【0042】
本発明に係る抗真菌性素材によれば、真菌に対して有効に抗真菌活性効果が奏される。また、ここではデータの開示を省略するが、本発明の抗真菌性素材に関し、皮膚における安全性を常法に従い検討したところ、安全性が有意に確認された。以上のことから、本発明に係る抗真菌性素材では、副作用を生じることなく、安全かつ有効に抗真菌活性を実現することが可能となるとともに、良好な利便性(取り扱い性)が実現される。
【0043】
特に、後述の実施例及び表1ならびに表2に示すように、本発明の抗真菌性素材は、白癬菌属、カンジダ属、トルロプシス属、アスペルギルス属、ペニシリウム属、ケトミウム属、ミロテシウムベルカリア属、ムコール属といった広範囲に有効であり、抗菌スペクトルが広い。さらに、本発明の抗真菌性素材は、前述の真菌に対する抗菌活性のみに留まらず、ブドウ球菌や大腸菌等の細菌にも優れた抗菌活性を有しており(詳細については特開2000−160476号公報参照)、かかる抗菌効果も付随して奏される。また、植物性炭素繊維の機能に鑑み、脱臭作用や血流促進作用や遠赤外線放射作用も付随して奏される。
【0044】
4.抗真菌作用を有する物品
本発明に係る抗真菌作用を有する物品(以下、単に「抗真菌性物品」と呼ぶことがある)は、植物性炭素繊維を含む上記抗真菌性素材から構成されるものである。かかる本発明の抗真菌性物品によれば、当該物品を構成する抗真菌性素材によって前述の効果が奏される為、広範囲の真菌に対し有効な抗真菌活性が安全かつ簡便に奏される。さらに、このような抗真菌効果に加え、前述したブドウ球菌等への抗菌効果、脱臭効果等も同時に奏される。
【0045】
本発明に係る抗真菌性物品の形態は、特に限定されない。例えば、本発明の抗真菌性物品は、物品の全体又は少なくとも一部分が発明の抗真菌性素材により構成された繊維製品であってもよい。本発明は繊維製品のいずれにも適用可能であるが、例えば、マット、カーペット、シート等のカバー、カーテン、タオル、スリッパ、靴下、ストッキング、帽子、手袋、衣類(肌着や下着を含む)、マスク、サポータ、包帯、靴中敷、内装用クロス、エアコン等の各種フィルタが例示される。
【0046】
上記各繊維製品は、所望の用途及び機能に合わせて図1又は図2に示す本発明の抗真菌性素材を最適な形態に加工(具体的には、裁断、縫製、貼付等)することにより得られる。この場合、製品の用途及び機能に合わせ、炭素繊維シート2(図1及び図2参照)の形状が綿状・編物状・織物状のいずれかから適宜選択され、また、カバー生地3(図1及び図2参照)の構成繊維が天然繊維・合成繊維から適宜選択される。
【0047】
上記においてはヒトに主眼をおいた場合の本発明の抗真菌活性物品の態様について例示したが、ヒト以外の動物あるいは植物に主眼をおいた物品の態様であってもよい。例えば、ペットや家畜等に主眼をおいた物品であってもよく(具体例としては、ペット用の衣類やマット等の繊維製品)であってもよい。さらには、無生物(食品等)に対して使用する物品(具体例としては、カビ発生防止シート等の繊維製品)であってもよい。
【0048】
5.真菌症の症状改善及び/又は感染予防用素材(医療用素材)
本発明に係る真菌症の症状改善及び/又は感染予防用素材(以下、「真菌症医療用素材」と呼ぶことがある)は、植物性炭素繊維を真菌症関連菌に対する抗菌活性成分として含むものである。かかる真菌症医療用素材は、前述の植物性炭素繊維からなり、その構成は本発明に係る抗真菌性素材と同様、図1及び図2に例示される。このような真菌症医療用素材では、植物性炭素繊維が安全かつ有効に真菌関連菌に対し抗真菌活性を奏する。その結果、有意に真菌症の症状改善(いわゆる治療)及び感染予防が図られる。また、抗真菌性素材の場合と同様、本発明に係る真菌症医療用素材は、植物性炭素繊維の機能に鑑み、抗真菌活性の他に、抗菌作用、脱臭作用、遠赤外線放射作用、及び血流促進作用を有する。したがって、上記のような真菌症の治療及び感染予防効果に加え、これらの作用による効果も付随して奏される。特に、特開2000−160476号公報で開示されているように、植物性炭素繊維はブドウ球菌等の細菌に対して抗菌活性を有することから、本発明に係る抗真菌性医療用素材では、細菌感染による腫れ、痛み、痒み等を有意に抑制することが可能となる。
【0049】
ところで、「真菌症」とは、真菌感染による疾患の総称であり、病変部位の深さにより、1)表在性真菌症、2)深在性真菌症、及び、3)深部皮膚真菌症に大別される。1)の表在性真菌症としては、体部・頭部・手足・爪等の白癬症、皮膚・粘膜のカンジダ症(粘膜指間びらん、間擦疹、爪囲炎、及び乳児寄生菌性紅斑を含む)、癜風が例示される。また、2)の深在性真菌症としては、クリプトコッカス症、アスペルギルス症、ブラストミセス症、ヒストプラマ症、コクシジオイデス症、肺・腸管・全身カンジダ症が例示される。また、3)の深部皮膚真菌症としては、クロモミコーシス、足菌腫、角膜真菌症が例示される。実施例及び表1ならびに表2に示すように、本発明に係る真菌症医療用素材は、これらの真菌症に関連する広範囲の真菌に対して抗真菌活性を奏し、真菌関連菌による疾患の治療及び感染予防に有効である。
【0050】
本発明に係る真菌症医療用素材の使用態様について、その詳細は後の医療用物品の項において述べるが、真菌症の治療及び予防に用いられる態様であれば特には限定されない。当該素材は、所望の用途及び機能に合わせて適宜適切な形態に加工され使用される。例えば、白癬症、皮膚カンジダ症といった表在性真菌症に対しては、患部となる部分(手足、爪等)に少なくとも当該素材を直接的あるいは間接的に接触させる使用態様(例えば、靴中敷、靴下、手袋、マット、スリッパ、タオル、サポータ、包帯、患部貼付パッド、衣類等)で用いられる。一方、深在性真菌症及び深部皮膚真菌症に対しては、感染予防を主たる目的とする使用態様で用いることが好ましい。例えば、真菌症関連菌の吸入防止の為、大気中に生育・浮遊する真菌を抗菌すべく、マスク、カーペット、カーテン等に本発明の素材を用いてもよい。
【0051】
ここで、本発明の真菌症医療用素材は、特に、患部に直接的又は間接的に接触させて抗真菌活性を発揮させる使用態様がより効果的であり、それゆえ、表在性真菌症の治療及び予防の用途・使用態様が好ましい。さらに好ましくは、白癬症、より具体的には足白癬(いわゆる水虫)の症状改善及び感染予防の用途で用いることが好ましい。後述の実施例及び表1に示すように、本発明に係る真菌症医療用素材は、白癬菌に対して有効な抗菌活性を有している。したがって、かかる素材を白癬症の医療用途で用いることにより、白癬症の有効な治療及び予防を実現することが可能となる。
【0052】
6.真菌症の症状改善及び/又は感染予防用物品(医療品)
本発明に係る真菌症の症状改善及び/又は感染予防用物品(以下、単に「真菌症医療用物品」と呼ぶことがある)は、植物性炭素繊維を含む上記の抗真菌性医療用素材から構成されるものである。かかる本発明の抗真菌性医療用物品によれば、当該物品を構成する抗真菌性医療用素材によって前述の効果が奏される為、真菌症に関連する広範囲の真菌に対して有効な抗真菌活性を奏することが可能となる。このような本発明の医療用物品は、真菌症の治療等の為の外用剤や経口剤と併用することが可能である。
【0053】
本発明の抗真菌性医療用物品は、外用剤や経口剤を用いる場合のような副作用が生じず、皮膚炎や臓器障害を引き起こすおそれがない。また、外用剤のように使用に伴い衣服等が汚れるといったことがなく、取り扱い等の利便性にも優れる。さらに、本発明に係る真菌症医療用物品によれば、感染者は意識的に治療しなくても、通常の日常生活における使用のみで真菌症の症状改善を図ることが可能となり、一方、非感染者においては、日用品等を介した感染を防止することが可能となる。したがって、効果的な治療及び予防が手軽に可能となり、患者の負担無く長期間の継続使用が可能となる。
【0054】
また、本発明に係る真菌症医療用物品は、植物性炭素繊維の機能に鑑み、抗真菌活性の他に、脱臭作用、遠赤外線放射作用、及び血流促進作用を有する。したがって、上記抗真菌活性に加え、これらの作用による効果も付随して得られる。さらに、特開2000−160476号公報で開示されているように、植物性炭素繊維はブドウ球菌等の細菌に対して抗菌活性を有することから、本発明に係る真菌症医療用物品は、細菌感染による腫れ、痛み、痒み等を有意に抑制することが可能となる。例えば足白癬(水虫)に本発明を適用した場合には、ブドウ球菌等の増殖も抑制することができる為、これらの菌感染による足の腫れ、痒みの発生を抑制するとともに、菌の増殖による悪臭の発生も抑制することが可能となる。
【0055】
本発明の真菌症医療用物品の形態は特に限定されない。当該医療用物品は、物品の全体又は少なくとも一部分が本発明の真菌症医療用素材により構成されたものであってもよく、例えば、真菌症医療用繊維製品であってもよい。繊維製品の形態としては、例えば、マット、カーペット、シート等のカバー、カーテン、タオル、スリッパ、靴下、ストッキング、帽子、手袋、衣類(肌着や下着を含む)、マスク、サポータ、包帯、患部貼付パッド、靴中敷等が例示される。
【0056】
上記各繊維製品は、所望の用途及び機能に合わせ図1又は図2に示す本発明の抗真菌性医療用素材を最適な形態に加工(具体的には、裁断、縫製、貼付等)することにより得られる。この場合、製品の用途及び機能に合わせ、炭素繊維シート2(図1及び図2参照)の形状が綿状・編物状・織物状のいずれかから適宜選択され、また、カバー生地3(図1及び図2参照)の構成繊維が天然繊維・合成繊維から適宜選択される。
【0057】
例えば、白癬症、皮膚カンジダ症といった表在性真菌症に対する真菌症医療用物品としては、患部となる部分(手足、爪等)に少なくとも一部が直接的あるいは間接的に接触する態様(具体的には、靴中敷、靴下、手袋、マット、スリッパ、タオル、サポータ、包帯、患部貼着パッド、衣類等)が挙げられる。一方、深在性真菌症及び深部皮膚真菌症に対する真菌症医療用物品としては、感染予防を主たる目的とする態様(具体的には、マスク、カーペット、カーテン等)が挙げられる。
【0058】
以下、本発明に係る真菌症医療用物品の一実施形態として、足白癬の治療及び予防用物品(以下、単に「足白癬医療用物品」と呼ぶことがある)について説明する。このような足白癬医療用物品として、例えば、図1又は図2に示す構成を有する本発明の抗真菌性医療用素材を足底の形状に合わせて裁断及び縫製し成形加工した靴中敷や靴下、あるいは、抗真菌性医療用素材を患部に直接接触させるべく矩形シート状又は帯状に成形加工した医療用パッドや包帯、あるいは、足先を被覆するよう袋状に成形加工した足先カバーや足先サポータが例示される。さらに、保菌者から他者への感染を防止すべく、本発明の抗真菌性医療用素材で構成されたマット(例えば、バスマットや玄関マット)やスリッパであってもよい。このような足白癬医療用物品によれば、表1に示すように白癬菌に対し有効な抗菌活性(言い換えれば抗白癬性)が奏される為、白癬症の治療及び予防を実現することが可能となる。
【0059】
なお、上記においては真菌症に対する医療用素材及び医療用物品について説明したが、本発明に係る医療用素材及び医療用物品は、真菌症以外にも、真菌に関連して発症する疾患の治療及び予防にも適用可能である。例えば、カンジダ性アレルギー喘息等の真菌性アレルギー疾患や、マイコトキシン等に起因する真菌中毒症の治療及び予防にこれらを利用してもよい。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
〔実施例1〕
本発明に係る抗真菌性素材(抗菌性医療用素材)の真菌症関連菌に対する抗菌活性について、JIS L 1902「繊維製品の抗菌性試験方法」の10.1定量試験(菌液吸収法)に準じて抗菌試験を行いその抗菌効果を調べた。かかる抗菌試験は、(財)日本食品分析センターに依頼した。以下、詳細を説明する。
【0062】
<試料>
本発明に係る抗真菌性素材(抗菌性医療用素材)として、図2に示す構成を有する抗真菌性素材1からなる18mm角の正方形片を試料とした。ここでは、炭素繊維シート2(図2)が織物状である試料を用い、また、比較の為、綿からなる標準布を用いた。これら各試料は3セットずつ用意し、各々を各試験容器に収容して容器ごと高圧蒸気滅菌(121℃、15分間)した。
【0063】
抗真菌性素材は次のようにして作製した。まず、綿繊維の織布を予備酸化処理(空気中、温度200℃、1時間)した後、焼成(窒素雰囲気中、温度300℃、0.5時間)した。焼成後、木酢液に含浸し、蒸留水で洗浄した後、温風で乾燥して炭素繊維シートを得た。次に、その炭素繊維シート、ポリエステルのカバー生地(東レ(株)製、テトニット(登録商標))及びポリアミド系接着剤を用いて、図2に示した方法によって抗真菌性素材を作製した。
【0064】
<試験菌及び試験菌液の調製>
試験菌として、白癬菌:Trichophyton rubrum TIMM 2659及びカンジダ菌:Candida albicans NBRC 1594を用いた。白癬菌はPDA培地を用いて25℃で4日間培養し、その後、形成された胞子を0.005%スルホこはく酸ジオクチルナトリウム溶液を用いて胞子数約10/mlに調製して白癬菌試験菌液とした。一方、カンジダ菌はPDA培地を用いて25℃で4日間培養し、その後、形成された菌体を、氷冷した1/20NA培地を用いて菌数約10/mlに調製してカンジダ菌試験菌液とした。
【0065】
<試験方法>
上記試料及び標準布の各々に対し、上記の白癬菌試験菌液及びカンジダ菌試験菌液0.2mlを接種した。そして、当該接種試料をそれぞれ37℃で培養し、18時間培養後の各試料における生菌数を測定した。また、生菌数変化の目安の為、18時間培養するものとは別に標準布を用意し、かかる標準布を用いて各試験菌液を接種した直後の生菌数を測定した。
【0066】
生菌数の測定の際には、試料を収容した各試験容器に0.2%ポリソルベート80添加生理食塩水20mlを加え、約30cmの振幅で30回上下に振とうし、試料中の試験菌を分散させた。そして、このようにして得られた各試料の分散液について、PDA培地を用いた混釈平板培養法により生菌数を測定した。この場合、白癬菌を接種したものについては25℃、7日間培養後に生菌数を測定し、カンジダ菌を接種したものについては25℃、2日間培養後に生菌数を測定した。
【0067】
<結果>
実施例1の結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表中の数値は、3セットずつ用意した各試料の平均値である。また、表中の「<20」の記載は、菌が検出されなかった場合に相当する。表1に示すように、本発明に係る抗真菌性素材である試料は、白癬菌及びカンジダ菌の両方に対し優れた抗真菌活性を示し、これらの真菌の生育を有効に抑制・阻害することが明らかとなった。さらに、白癬菌及びカンジダ菌は白癬症及びカンジダ症の原因菌であることから、これらの真菌に対し優れた抗真菌活性を示す本発明は、白癬症及びカンジダ症の症状改善及び予防に有効であることが明らかとなった。
【0070】
〔実施例2〕
本発明に係る抗真菌性素材の真菌症関連菌に対する抗菌活性について、JIS Z 2911「かび抵抗性試験」の乾式法に準じて試験を行いその効果を調べた。かかる試験は、(財)日本化学繊維検査協会に依頼した。以下、詳細を説明する。
【0071】
<試料>
実施例1と同様にして作製した抗真菌性素材を50mm角の正方形片とし試料とした。
試料は3セット用意し、各々を各試験容器に収容して容器ごと乾熱滅菌した。
【0072】
<試験菌、胞子懸濁液及び胞子担体の調製>
試験菌として、次の5種類の真菌を用いた。
・Aspergillus niger(アスペルギルス ニゲル)
・Penicillium citriun(ペニシリウム シトリナム)
・Chaetomium globosum(ケトミウム グロボスム)
・Myrothecium verrucaria(ミロテシウム ベルカリア)
・Mucor racemosus(ムコール ラセマウセス)
【0073】
PDA培地を使用し、上記各試験菌を常法に従い培養した。その後、各試験菌において形成された胞子を用いて試験菌の胞子懸濁液をそれぞれ調製するとともに、常法に従い、各胞子懸濁液を混合して混合胞子懸濁液を調製した。次に、この混合胞子懸濁液とMucor racemosusの胞子懸濁液(以下、単一胞子懸濁液と呼ぶ)とをそれぞれ別に用い、混合胞子懸濁液を用いて5種類の試験菌の胞子を付着した胞子担体と、単一胞子懸濁液を用いてMucor racemosusの胞子のみを付着した胞子担体とを調製した。これら胞子担体の調製の際には、あらかじめ乾熱滅菌した磁器製の素焼きふるいを各胞子懸濁液に浸し、その後、ふるいを液中から取り出して乾燥させることにより調製を行った。
【0074】
<試験方法>
あらかじめ乾熱滅菌したペトリ皿を用意し、上記試料をそれぞれペトリ皿の中央に平らに配置した。さらに、この試料の中央に、上記方法により調製した胞子担体を配置した。この状態で、ガラス板を用いてペトリ皿に蓋をし、28℃で1週間培養した。また、Mucor racemosusの胞子のみを付着した胞子担体については、1週間の培養とは別に、2週間の培養も行った。
以上のような培養を行った後、試料の表面に生じた菌糸の発育状態を肉眼で調べた。
【0075】
<結果>
実施例2の結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表中の数値は試料の真菌(カビ)抵抗性を示すものであり、評価の詳細は次の通りである。ここでの評価結果は、試料3セットについて行った試験結果を総合したものを示す。
・「0」:試料の接種した部分に菌糸の発育が認められない。
・「1」:試料の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は、全面積の1/3を超えない。
・「2」:試料の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は、全面積の1/3を超える。
【0078】
表2に示すように、本発明に係る抗真菌性素材である試料は、上記5種類の真菌に対し、2週間経過後に至るまでほぼ完全に菌糸の発育を抑制するといった優れた抗真菌活性を示した。このことから、本発明は、これらの真菌の生育を有効に抑制・阻害することが明らかとなるとともに、かかる抗真菌活性に基づき、アスペルギルス症、ペニシリウム症、ムコール症の症状改善及び予防に有効であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係る抗真菌性素材の構成を例示する外観斜視図及び垂直断面図である。
【図2】本発明に係る抗真菌性素材の他の構成を例示する製造工程外略図である。
【符号の説明】
【0080】
1 抗真菌性素材
2 炭素繊維シート
3 カバー生地
4 接着剤
10 抗真菌性素材
11a 送りローラ
11b 送りローラ
11c 送りローラ
12 加圧ローラ
13 巻き取りローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性炭素繊維を真菌に対する抗菌活性成分として含むことを特徴とする、抗真菌性素材。
【請求項2】
請求項1記載の素材から構成されることを特徴とする、抗真菌作用を有する物品。
【請求項3】
植物性炭素繊維を真菌症関連菌に対する抗菌活性成分として含むことを特徴とする、真菌症の症状改善及び/又は感染予防用素材。
【請求項4】
前記真菌症関連菌が白癬菌属である、請求項3記載の素材。
【請求項5】
前記植物性炭素繊維が綿花を原料とするものである、請求項3又は4記載の素材。
【請求項6】
前記植物性炭素繊維は、木酢液及び/又は竹酢液を含浸させ乾燥したものである、請求項3〜5のいずれか一つに記載の素材。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか一つに記載の素材から構成されることを特徴とする、真菌症の症状改善及び/又は感染予防用物品。
【請求項8】
前記真菌症が白癬菌属に起因するものである、請求項7記載の物品。
【請求項9】
靴中敷、靴下、スリッパ、サポータ及び包帯から選ばれたいずれか一つの形態を有する、請求項7又は8記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−189636(P2008−189636A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28800(P2007−28800)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(506023932)セラスメディコ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】