説明

抗真菌性組成物及びその製造方法

【課題】 従来知見による技術では安全性が高く、優れた抗真菌活性の抗真菌性組成物及びその製造方法が工業的優位に出来ていない。
【解決手段】 柑橘類の果皮乾留液をエーテル抽出し、更に分画することを特徴とするキシレノール各種異性体を含むフェノール化合物の混合物は安全性が高く、優れた抗真菌活性をもった抗真菌活性組成物として工業的優位に製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水虫など治療予防の抗真菌性組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国内では果樹類が比較的多く栽培され、果汁の利用も多い。果汁は、例えば、生産量の多い温州みかんでは70〜80℃の熱湯に約1分間浸漬して皮をむき、圧搾機に掛けると果汁が得られるが、果皮と果汁かすが副産物として出来る。これらの大半は目下、産業廃棄物として焼却または埋め立てされており有効利用が待たれている。
一方、植物の抽出物による白癬菌に対する抗菌殺菌作用を利用した水虫治療薬に関する提案は、従来より種々なされている。
特開平8−359504号公報では木酢液を主剤として利用することが提案されている。しかしこの木酢液は異臭が強く患者に不快感を与える難点がある。また木酢液にはいろんな不純物が含まれている。
特開2001−288096号公報では木酢液に梅酢液を併用することを提案している。しかし異臭は梅酢液の持つ甘い香りによるマスキング効果で減少するものの、不快感は残っている。また木酢液のいろんな不純物はそのまま残っている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−359504号公報
【特許文献2】特開2001−288096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明は植物の抽出物を利用した新たな水虫治療予防物質を開発するものであり、産業廃棄物である柑橘類の果皮を有効に活用出来、水虫など治療予防の抗真菌性組成物及びその製造方法を工業的優位に提供することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは柑橘類の果皮乾留液中に含まれる化合物の生理活性性を鋭意研究した結果、キシレノール各種異性体を含むフェノール化合物の混合物が白癬菌に対し、抗真菌活性に優れることを見出し、本発明を完結するに至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明の効果としては、先ず第1に悪臭などのしない水虫など治療予防の抗真菌性組成物を工業的優位に提供できることであり次には産業廃棄物を有効利用できることであり、しかも不純物を分画除去しており安全性が高いことである。すなわち、本発明の目的は産業廃棄物を利用して水虫など治療予防の抗真菌性組成物を工業上有利に提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるキシレノール(以下Xyと略称する)各種異性体、ベンジルアルコール(以下BAと略称する)及び2−イミダゾールカルボキシアルデヒド(以下Imと略称する)は合成品でも良いが、柑橘類の果皮乾留液をエーテル抽出し、更に分画して得られたXy各種異性体を含むフェノール成分そのままでも良い。そのフェノール成分をカラムクロマトグラフィーにより分画したものが産業廃棄物利用の点から好ましい。このうちBAは抗真菌活性を殆んど示さないが、悪影響も及ぼさない。Imも単独では抗真菌活性を余り示さないが、Xy各種異性体の抗真菌活性をあげる効果がある。BA、Imはいずれも柑橘類の果皮乾留液をエーテル抽出し、更に分画して得られたフェノール成分をカラムクロマトグラフィーにより分画したXy各種異性体とともに含まれているのでそのまま利用でき、経済的であるが、合成品を使用する場合はBA、Imを使用しないほうが経済的に有利である。Xyには各種異性体が存在する。いずれの異性体も抗真菌活性を示すが、3、4−Xy及び2、3−Xyの2異性体は抗真菌活性が強く、次いで2、6−Xyの抗真菌活性が強い。また3、4−Xy及び2、3−Xyの2異性体に他のXy異性体を一種以上共存させると抗真菌活性が更に強まり、好ましい。例えば、3、4−Xy、2、3−Xyおよび2、6−Xyの3種類の異性体とImが共存する組み合わせで相乗効果を発揮する。即ち柑橘類の果皮乾留液をエーテル抽出し、更に分画して得られたフェノール成分をそのまま使用しても良いが、更にカラムクロマトグラフィーにより分画して得られるIm、2、6−Xy、3、4−Xy及び2、3−Xyの4成分混合物が抗真菌活性をあげる効果が優れていることが判明している。その抗真菌性活性発現に必要な各成分の最小重量比はIm:2、6−Xy:3、4−Xy:2、3−Xy=3:3:4:3である。
【0008】
本発明におけるフェノール成分の製造は1例としてあげれば次の如くして行なわれる。先ず、柑橘類の果皮乾留液に10%硫酸、飽和食塩水を添加してエチルエーテルで抽出を行ない、そのエーテル層に3%苛性カリウム、20%食塩水を添加してエーテル抽出を行なう。その水層に再度10%硫酸、飽和食塩水を添加してエチルエーテルで抽出を行ない、更に得られたエーテル層に40%亜硫酸水素ナトリウムを添加して、エーテル層を得る。更に10%炭酸ソーダ、20%食塩水を添加して得られたエーテル層にシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ワコーゲル C-200 :和光純薬製)により分画して得られる。
【0009】
本発明におけるXy各種異性体、BA、及びImの製造は前記の如くして得られたフェノール成分を更にカラムクロマトグラフィーで分画を繰返すことにより本発明に使用されるXy各種異性体、BA及びImが製造される。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0011】
(抗真菌活性測定方法)内径35mmのシャーレにサブロウ培地1mlを入れ、サンプルのメタノール溶液(25〜200mg/ml)20mlを白癬菌の生理食塩水縣濁溶液50mlを加えた。メタノール20mlのみを加えた菌ブランク、メタノール20mlと生理食塩水50mlを加えたものを培地ブランクとした。30℃で静置培養した後、肉眼で菌の発育状態を観察した。発育状態の結果は、培地ブランクを0%、菌ブランクを100%として決定した。
【0012】
(白癬菌の保存)サブロウ寒天培地(ブドウ糖4g、ペプトン1g、寒天2gを純水1000mlに加温溶解し、試験管10本に分注して121℃で15分間高圧蒸気滅菌したもの)を用いて、30℃で3〜4日間斜面培養した。新しいコロニーが増殖した後、4℃で保存した。但し、1ケ月ごとに白金耳で古いコロニーを新しい斜面培地に移植して継代した。
【0013】
(機器分析)ガスクロマトグラフィーは日立ガスクロマトグラフィーG−5000(キャピラリーカラム DB−1)型を用いた。液体クロマトグラフィーは島津高速液体クロマトグラフLC−6AD、及び日本分析工業LC−09型を用いた。GC−MSスペクトルは日本電子JEOL−JMN−HX質量分析計を用いて測定した。
【0014】
・ 実施例1
温州みかん果皮からの乾留液7リッターを分液ロートでエーテル抽出し、エーテル濃縮後、280gの抽出物を得た。常法(栗山旭、日本木材学会講要、16、190、1966)により、温州みかん乾留液抽出物を中性成分(A)、塩基性成分(B)、フェノール成分(C)、酸性成分(D)およびカルボニル成分(E)に分画した。それらの抗真菌活性を測定した。
【表1】

上表よりフェノール成分(C)が良いことが判る。次に活性の認められたフェノール成分(C)についてシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ワコーゲル C−200 :和光純薬製)による分画を下図の如く行なった。
【表2】

上図の各フラクションの抗真菌活性測定結果は下表の如くであった。なおC2-1とC2-4は同一成分と認められた。
【表3】

フェノール成分より分画したC1-1〜C1-4の抗真菌活性測定の結果はC1-1及びC1-2に活性が認められた。C1-1より分画した C-1〜C-3およびC1-2より分画したC-4〜 C-7の抗真菌活性を測定した結果、C-1 とC-4に活性が認められた。但し前述のようにC-1 とC-4は同一成分と確認された。次にC-1より分画した C-1〜C-3の抗真菌活性を測定した結果、C-1に活性が認められた。C-1より分画した C-1〜C-4の抗真菌活性を測定した結果、C-3に活性が認められた。C-3より分画した C-1〜C-4の抗真菌活性を測定した結果、C-2に活性が認められた。GC-MSの開裂パターンによる同定を行なったところ、Xy各種異性体(2,5−Xy、3,5―Xy、2,6―Xy、3,4−Xyおよび2,3―Xy)、BA及びImであった。
【0015】
・ 比較例1
実施例1で得られたC-2即ち、Xy各種異性体(2,5−Xy、3,5―Xy、2,6―Xy、3,4−Xyおよび2,3―Xy)、BA及びIm各化合物単独の抗真菌活性を各化合物の標品を用いて測定した。
【表4】

上表の如くXy各種異性体(2,5−Xy、3,5―Xy、2,6―Xy、3,4−Xyおよび2,3―Xy)、BA及びIm各化合物は単独では強い抗真菌活性を示さなかった。
【0016】
・ 実施例2
実施例1で得られたC-2即ち、Xy各種異性体(2,5−Xy、3,5―Xy、2,6―Xy、3,4−Xyおよび2,3―Xy)、BA及びIm各化合物を混合した種々のサンプルを調整(原液はDMSO1mlに溶解)して、その抗真菌活性を各化合物の標品を用いて測定した。
【表5】

上表で見ると、Xy異性体は抗真菌活性に必須であり、特に3,4−Xyと2,3−Xyの共存する系が活性が強く、更に3,4−Xyと2,3−Xyの共存する系に他のXy異性体が1種類以上存在すると活性が強まることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は植物の抽出物を利用した新たな水虫治療予防物質を開発するものであり、産業廃棄物である柑橘類の果皮を有効に活用出来、水虫など治療予防の抗真菌性組成物及びその製造方法を工業的優位に提供することである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシレノール各種異性体を含むフェノール化合物の混合物からなる抗真菌性組成物。
【請求項2】
フェノール化合物がベンジルアルコール、2−イミダゾールカルボキシアルデヒド及びキシレノール各種異性体の混合物である請求項1記載の抗真菌性組成物。
【請求項3】
フェノール化合物が2−イミダゾールカルボキシアルデヒドとキシレノール各種異性体の混合物である請求項1記載の抗真菌性組成物。
【請求項4】
フェノール化合物がキシレノール各種異性体の混合物である請求項1記載の抗真菌性組成物。
【請求項5】
前記キシレノール各種異性体の混合物が3,4―キシレノール、2,3―キシレノールおよび他のキシレノール異性体を1種類以上含有することを特徴とする請求項1、2、3および4記載の抗真菌性組成物。
【請求項6】
柑橘類の果皮乾留液をエーテル抽出し、更に分画することを特徴とするキシレノール各種異性体を含むフェノール化合物の混合物の製造方法。
【請求項7】
柑橘類の果皮乾留液をエーテル抽出し、更に分画して得られたフェノール成分をカラムクロマトグラフィーにより分画することを特徴とするベンジルアルコール、2−イミダゾールカルボキシアルデヒド及びキシレノール各種異性体の混合物の製造方法。
【請求項8】
柑橘類が温州みかんであることを特徴とする請求項6、7記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−308431(P2008−308431A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157038(P2007−157038)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(591210909)協同組合ラテスト (6)
【Fターム(参考)】