説明

抗腫瘍作用をもたらすNK細胞活性化のためのリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物

単一の製剤または2つの別々の製剤の同時または連続的な摂取および代謝によってNK細胞の活性を向上させる、治療上有効量含むカロチノイドおよびテルペノイドが開示される。具体的には、この組成物は、リコピンとレスベラトロール(モル比)を、1:10〜10:1、より好ましくは1:1〜3:1、最も好ましくは3:1の範囲で含んでいる。また、この好ましい割合(モル比)を重量比で表現すると、1:4〜25:1、より好ましくは2.5:1〜7.5:1、最も好ましくは7.5:1である。この組成物は、医薬品、栄養補助食品、または食品として構成され、経口摂取用に形成することができ、哺乳類に治療上有効量与えることができる。好ましくは、投与量は、リコピン:レスベラトロールの重量比(w/w)=2.5:1の場合、「約3.5mg/日/哺乳類の体重20g当たり」である。この投与量は、NK細胞活性の向上を必要とする典型的なヒトに対し、1日当たり約400mg〜1000mgと言い換えることができる。好ましくは、上記治療上有効量の組成物は、NK細胞を細胞傷害反応性はたは細胞溶解反応性にトリガリングするのに有用な、代謝的に生産される物質、プロドラッグ、代謝産物、または、中間化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
カロチノイドとテルペノイドとを含む植物化合物の組成物を開示する。具体的には、カロチノイドがリコピンであり、テルペノイドがレスベラトロールであり、哺乳類の体内での代謝によって潜在的な免疫に相乗作用を示すこと、特にナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性化によって、体内での抗腫瘍作用につながることが見出された比率で、リコピンとレスベラトロールとが混合されている。
【背景技術】
【0002】
優先権主張された我々の係属中の特許出願(シンガポール特許出願200903301−0:2009年5月14日出願)において、我々は、哺乳類における癌性増殖の抑制において相乗効果を示す特定の比率または割合で、リコピンとレスベラトロールとを含む新規組成物を開示した。上記組成物により支援される具体的な抗腫瘍機構は知られていなかった。
【0003】
哺乳類の体内の先天性免疫反応は、NK細胞によってもたらされる。NK細胞は、癌化する体内の任意の細胞、病原体に感染した細胞、異物(例えば移植組織)などの 免疫学的監視を行う大型顆粒リンパ球(LGLs)である。第1線の先天性防御において、NK細胞は、抗原に依存する活性化を必要としない。その免疫学的監視機能は、病原体感染に苦しめられた細胞または癌化した細胞の探索と、細胞傷害性または細胞溶解性の手段(すなわち、細胞融解などのアポトーシスにより標的細胞の死を引き起こすパーフォリンおよびグランザイムなど細胞質のタンパク質顆粒の放出)による細胞の殺生である。
【0004】
強力な細胞溶解活性および潜在的な自己活性を付与されると、NK細胞活性は、活性化するために、トリガとなる生化学的シグナルを受けとらなければならないので厳重に管理される。生化学的トリガは、二本鎖RNA、サイトカイン、Fcレセプタ、および他の適用可能なリガンドレセプタを含む。従って、癌化のリスクは、NK細胞群レベルまたはNK細胞活性に反比例する。
【0005】
以下のように、生化学的シグナルを介してNK細胞活性を活性化することが試みられた従来技術が知られている。米国特許第4,883,662 号(Stout)には、癌患者におけるNK細胞群を増やすために生物製剤を使用することが開示されている。この生物製剤は、免疫抑制性のウィルス株を動物に導入することによって製造される。その結果、動物が刺激され、採取および分画できる目的の生物製剤、または、注射によって癌患者の血流に投与するために精製できる目的の生物製剤が製造される。
【0006】
米国特許第5,728,378 号(Hellstrand)には、単球存在下でNK細胞活性を増大する医薬品として、サイトカイン、インターフェロン−α、および、ヒスタミンとセロトニンとを含む組成物の併用が詳述されている。この医薬品は、癌患者またはウィルス感染患者の血流に、注射または注入によって局所的または組織的に投与される。この医薬品は、NK細胞活性を相乗的に高めるように作用する。ヒスタミンとセロトニンを含む組成物は、単球活性を抑制するように機能するので、インターフェロン−αによるNK細胞を活性化する。
【0007】
後願の米国特許第6,063,373 号(Hellstrand)では、NK細胞活性剤と細胞内過酸化水素抑制剤とを含む組成物が、単球存在下でNK細胞活性を促進するために用いられている。NK細胞活性剤は、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−12(IL−12)、インターロイキン−15(IL−15)、インターフェロン−α(INF−α)、インターフェロン−β(INF−β)、または、インターフェロン−γ(INF−γ)を含むサイトカイン群から選択される。NK細胞活性剤は、フラボン−8−酢酸(FAA)とキサンテノン−4−酢酸(XAA)からなる群から選択されるフラボノイド類であってもよい。一方、細胞内過酸化水素抑制剤は、ヒスタミン、水素受容体アゴニスト、および、セロトニンから選択される。
【0008】
腫瘍および感染症に対する有効な治療上の処置を見出すために、NK細胞の増殖またはNK細胞活性の向上によって、NK細胞活性を促進することのできる植物由来のダイエット組成物に関する開示はあまりない。欧州特許第1,243,274 号(Lu Kung-Ming)では、乳酸桿菌属の特別な細菌株、または、細胞アポトーシスを引き起こす任意のサッカロミセス科の酵母によって発酵された水溶性大豆抽出物が提案されている。米国特許出願公開第2002/010149号(Yagita)では、Lentinus edodes (シイタケとしても知られている)の菌糸が、NK細胞を活性化するIL−2生産を引き起こし得ることが記載されている。国際公開第2007/131767(Goral-Czyk) には、前立腺癌治療のためにリコピンとゲニステインとが併用されており、一実施形態ではNK細胞活性についての作用を示唆することなくレスベラトロールを任意に含んでいる。
【発明の概要】
【0009】
我々の一層の研究および継続的な研究によって、抗腫瘍作用に対して、NK細胞の免疫学的監視活性を向上する特定の植物化合物の摂取および代謝が有効であることが明らかになる。我々の植物化合物の組成物は、哺乳類におけるNK細胞の量とNK細胞活性を大幅に向上することが分かる。本明細書において、「NK細胞活性の向上」は、NK細胞の増殖と、細胞溶解能力の増大との混合した効果である。特に、特定の2つの植物化合物の組み合わせによって、それらの単独の場合よりも、顕著な相乗効果が認められる。
【0010】
概略的には、本組成物は、摂取および代謝によって、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の向上を含む大型化顆粒リンパ球(LGL)が活性化されるように、治療上有効量のカロチノイドとテルペノイドとを含んでいる。具体的には、上記組成物は、NK細胞活性を向上するために治療上有効量のリコピンとレスベラトロールとを含んでいる。
【0011】
本発明の第1形態では、請求項2に記載のリコピンとレスベラトロールとを含む組成物は、NK細胞活性の向上が、全リンパ球中のNK細胞の比率の増加を含む。NK細胞活性の向上は、NK細胞を細胞傷害反応性はたは細胞溶解反応性に変化させる生化学シグナルトリガを与えることを含む。また、NK細胞活性の向上は、個々のNK細胞の潜在的な反応性を増大させることを含む。ここで、生化学シグナルトリガは、任意に、二本鎖RNA、サイトカイン、Fcレセプタ、および他の適用可能なリガンドレセプタを、単独または組み合わせて含んでいる。NK細胞の向上による細胞傷害性は、持続され得る。
【0012】
本発明の第2形態では、リコピン:レスベラトロールの割合(モル比)は、好ましくは1:10〜10:1であり、より好ましくは1:1〜3:1であり、最も好ましくは3:1である。また、この好ましい割合(モル比)を重量比で表現すると、好ましくは1:4〜25:1であり、より好ましくは2.5:1〜7.5:1であり、最も好ましくは7.5:1である。上記組成物は、医薬品、栄養補助食品、または食品として構成され、治療上有効量を哺乳類に与える。投与量は、リコピン:レスベラトロールの重量比(w/w)=2.5:1の場合、好ましくは「約3.5mg/日/哺乳類の体重20g当たり」である。この投与量は、NK細胞活性の向上を必要とする典型的なヒトに対し、約400mg〜1000mg/日と言い換えることができる。
【0013】
本発明の第3形態では、リコピンとレスベラトロールとを含む組成物は、好ましくは、経口摂取用に構成される。また、連続的な摂取のために、配達または提供され得る。上記組成物の治療上有効な形態は、好ましくは、NK細胞を細胞傷害反応性はたは細胞溶解反応性にトリガリングするのに有用な、代謝的に生産される物質、プロドラッグ、代謝産物、または、中間化合物を含む。
【0014】
本明細書に添付の図面は、以下に示す詳細な説明とともに、本発明のさらなる理解をもたらすであろう。添付の図面は、本発明の典型例を示すことを目的としており、本発明の形態はこれらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】コントロール、リコピンのみ、レスベラトロールのみ、リコピンとレスベラトロールとの併用を含む、異なる処置を施したマウス群におけるNK細胞毒性を示す棒グラフである。
【図2】NK細胞の最も高い細胞傷害活性を得るための、リコピンとレスベラトロールとの最適比を決定する棒グラフである。
【図3】リコピン:レスベラトロール=2.5:1(w/w)の組成物を異なる投与量で処置したマウスのNK細胞毒性を示す図である。
【図4】図2の投与量を3倍にしたときのNK細胞活性の結果を示す図である。
【図5】リコピン(2.5mg/日/マウス)およびレスベラトロール(1mg/日/マウス)で長期間処置されたマウスのNK細胞毒性を示す図である。
【図6】本発明の一形態の栄養補助食品で処置した前後の脳血管腫のある被験者のレントゲン写真を示す図である。
【図7】本発明の一形態の栄養補助食品で処置した前後の胸腺癌のある別の被験者のレントゲン写真を示す図である。
【図8】本発明の一形態の栄養補助食品で処置した前後の脳に非小肺癌転移のある別の被験者のレントゲン写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
概略的には、本発明の組成物は、摂取および代謝によって、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の向上を含む大型化顆粒リンパ球(LGL)が活性化される、治療上有効量のカロチノイドとテルペノイドとを含んでいる。具体的な実施例では、カロチノイドがリコピンであり、テルペノイドがレスベラトロールである。
【0017】
〔リコピン〕
リコピンは、人体に摂取され蓄積され得る6種類のカロチノイドのうちの1つである(参考文献1:Mein(2008))。リコピンは、主に、睾丸、前立腺、肝臓、および腸に分布される。リコピンは、地球上で最も抗酸化作用が強く、βカロチンの3.2倍、ビタミンEの100倍の抗酸化活性を示す。
【0018】
以前の研究では、アンチエイジング(老化防止)、免疫増強、循環器疾患のリスク軽減、および悪性腫瘍(特に、口腔癌、咽喉癌、胃癌、大腸(結腸)癌、子宮癌)の発生軽減を含む、リコピンの健康促進機能が明らかにされてきた。臨床試験では、リコピンが、特に、膵臓癌、肺癌、および胃癌に対し、腫瘍成長の抑制および腫瘍転移の抑制に有効であることが示されている(参考文献2:Giovannucci (1999);参考文献3:Gann (1999))。このような多様な有益な効果を示すため、現在、リコピンは、21世紀における優れた健康補助食品として認識されており、世界的に評判が広まっている。米国、西欧、日本、およびイスラエルを含む先進国では、膨大な費用と労力が、医薬品、栄養補助食品、食品、および化粧品を含むリコピンの研究開発に費やし続けられている。
【0019】
人の腸では、リコピンは、脂肪および胆汁酸と共にミセルを形成している。このミセルは、腸粘膜細胞で観察することができる。天然のリコピンは、オールトランス型で存在する。胃酸は、オールトランスリコピンを、より高い生物活性を示すと考えられている種々のシス異性体に変換することができる。人の体内では、合計15〜18の異性体が見出されており、リコピンの種々の生理的機能に対応するものと考えられる。しかし、抗酸化活性だけでは、リコピンの抗腫瘍作用および循環器疾患の予防効果を説明できない。最近、哺乳類において、リコピノイドが、ビタミンAと同様の方式で遺伝子発現を調節する可能性があるとの仮説が立てられている。公知のリコピノイドは、5,6−ジヒドロキシ−5’,6’−ジヒドロリコピン、2,6−シクロリコピン−1,5−ジオールA&B、アポ−10’−リコピン酸、アシクロレチノイン酸、アポ−8’−リコピナール、アポ−10’−リコペナール、アポ−12’−リコペナール、アポ−14’−リコペナールを含む(参考文献4:Ruhl (2004);参考文献5:Lindshield, (2007);参考文献1:Mein (2008))。
【0020】
インビトロおよびインビボの実験では、人体での濃度よりもかなり高濃度でリコピンの効果が観察され、共同因子(co-factors)の可能性を示唆している。2008年には、リコピンの最適な抗腫瘍作用に対する共同因子の必要性について説明した最初の報告が登場した(参考文献6:Mossine (2008);参考文献7:Venkateswaran (2009))。
【0021】
〔レスベラトロール〕
レスベラトロールは、ブドウの皮、ピーナッツ、パイナップル、およびタデの地下茎に豊富に見出されるテルペノイドである。レスベラトロールは、抗酸化作用、血液粘性減少、血小板凝固抑制、血管拡張促進を示すため、通常、血液循環を良くする。レスベラトロールは、脂質低下特性を有するため(参考文献8:Arichi (1982))、アテローム性動脈硬化疾患および虚血性心疾患の予防に重要な役割を果たす。レスベラトロールは、抗腫瘍作用を示すことも知られており、エストロゲンの天然代替物である。さらに、レスベラトロールの作用には、アンチエイジング作用、悪玉コレステロール(LDL(低比重リポタンパク)コレステロール)の酸化抑制、抗炎症作用、および抗アレルギー作用が含まれる。レスベラトロールの他の用途には、急性伝染性肝炎、月経期間延長、リウマチ、骨痛、筋肉痛、気管支炎、胆嚢結石症、高コレステロール血症、トリグリセリド過剰症が含まれる。
【0022】
レスベラトロールは、免疫系を調節することも知られている(参考文献9:Kimura (1985);参考文献10:Gao (2001))。レスベラトロールは、炎症メディエーター前駆体の合成および放出を阻害し、シクロオキシゲナーゼ−1、シクロオキシゲナーゼ−2などの酵素を阻害し、リンパ球の増殖を抑制し、細胞傷害性T細胞の活性を促進し、細胞因子の分泌を刺激する。最も重要なのは、レスベラトロールは、核内因子−kB(NF−kB)などの転写因子の活性を阻害できるため、ヒトの免疫を調節して、抗腫瘍作用を有する可能性があることである(参考文献11:Tsai (1999);参考文献12:Falchetti (2001):;参考文献13:Heynekamp (2006))。
【0023】
たとえレスベラトロールを大量摂取しても、原型を保ったレスベラトロールは、人の体内に微量しか存在せず(参考文献14:Andlauer (2000))、インビトロにおいて癌細胞を殺す量をはるかに下回る。しかし、レスベラトロールの抗腫瘍作用は、多くのインビボの実験から明白である(参考文献16:Vitrac X (2003))。これらの研究成果は、レスベラトロールの抗腫瘍作用が、人体またはマウスにおいて、レスベラトロールの代謝産物の一部を介していることを示唆している。我々は、後述する手順および結果の実験を多数実施した。
【0024】
〔手順〕
(NK細胞の単離)
NK細胞は、Balb/c系マウスの脾臓から単離した。リコピン/レスベラトロールの給餌から7日後、各グループのマウスを殺生した。脾臓を切除し、75%エタノールに5分間浸漬させ、静かに細胞篩にかけた。篩にかけたものをRPMI−1640媒体で洗浄し単細胞を回収した。2000rpmで遠心分離し、リンパ球分離溶液の上澄の混合物を25分間静置することによって、生成した全脾臓細胞を単離した。白色のリンパ球層を注意深く回収し、無血清RPMI−1640媒体で2回洗浄し、カウントし細胞株として6穴プレートに移した。このようにして、NK細胞を10〜20%含有するリンパ球を調製し、NK細胞評価に用いた(参考文献18:Zhang (2006))。
【0025】
(B16メラノーマ細胞の単離) B16メラノーマ細胞を腫瘍をもったC57マウスから切除し、Hank媒体に30分間浸漬させた。腫瘍から脂肪部分および壊死部分を取り除き、その腫瘍を、4℃で12時間0.1%のII型コラーゲンを含むRPMI−1640媒体で処理した。消化された腫瘍組織は、遠心分離により腫瘍細胞を分離するために用いた。
【0026】
(NK細胞の細胞傷害活性の測定) マウスの脾臓から単離したNK細胞とB16メラノーマ細胞とを、25:1、50:1、および100:1の割合で混合し、37℃で培養した。5時間後、培地100μL中の乳酸脱水素酵素(LDH)活性を、NK細胞の細胞傷害活性として測定した。細胞傷害性は、以下の式にしたがい算出した。
【0027】
【数1】

【0028】
ここで、
OD(実験値):標的細胞およびNK細胞の共同培地の媒体から算出した光学密度
OD(エフェクターの自然発生値):NK細胞培地から算出した光学密度
OD(ターゲットの自然発生値):標的細胞培地から算出した光学密度
OD(最大値):1%NP40により標的細胞を100%溶解した場合の光学密度
である。
【実施例】
【0029】
〔実施例1〕
本実施例では、マウスを4つのグループ(各グループ6匹)に分類した。(1)コントロール(対照),(2)リコピン処置(2mg/日)したテストグループ,(3)レスベラトロール処置(4mg/日)したテストグループ,(4)Golden Lypres処置(6mg/日)したテストグループ。Golden Lypresは、リコピンとレスベラトロールとが1:2(重量比:w/w)の割合で構成された登録済の製品(Hsiehs Biotech社)である。標的グループには、1週間、毎日経口投与し、上述した標準的な手順にしたがい、NK細胞傷害活性(細胞毒性)を測定した。リコピンまたはレスベラトロールを投与したグループのNK細胞傷害活性は、ほんのわずか上昇した(大幅な上昇ではない)。一方、Golden Lypres(登録商標)を投与したグループでは、NK細胞傷害活性(P<0.01)が向上(>100%)した。
【0030】
NK細胞活性の向上におけるリコピンおよびレスベラトロールの作用は、図1の棒グラフに示されている。NK細胞傷害性の増大は、リコピンおよびレスベラトロールの相乗作用によって起こっている。コントロール群については、上述した植物化合物は全く投与していないので、エフェクター/ターゲットの割合(E:T)が25:1、50:1、100:1のときの細胞傷害活性は、それぞれ、約10%、約20%、約40%となった。リコピンおよびレスベラトロールの両方を投与した場合、エフェクター/ターゲットの割合(E:T)が25:1、50:1、100:1のときの細胞傷害活性は、それぞれ、約20%、約40%、約80%と大きく上昇した。
【0031】
図1に示す実験結果から、実験された各割合(E:T)で上述の植物化合物の併用により示されたように、細胞溶解を引き起こす能力が略2倍に上昇することが観察されている。さらに、上述の植物化合物の併用により示された細胞傷害活性は、リコピンまたはレスベラトロールを単独で使用した場合よりも、略2倍高くもなっている。リコピンとレスベラトロールとの併用による相乗作用によって、リンパ球における抗原非依存性細胞傷害性NK細胞の促進を優遇する結果がもたらされることを示している。
【0032】
〔実施例2〕
本実施例では、最高のNK細胞活性化を得るためのリコピンとレスベラトロールとの最適比の決定を試みている。5つのグループのマウス(各グループともn=6)に、5日間、リコピンとレスベラトロールとを異なる比率で経口投与した。マウスを殺生し、上述の手順にしたがい、NK細胞傷害性を測定した。その結果は、表1および図2の棒グラフに示されている。
【0033】
【表1】

【0034】
リコピン:レスベラトロールのモル比が3:1(重量比(w/w)の場合7.5:1)において、最も高いNK細胞傷害性の向上が得られた。この比率では、エフェクター/ターゲットの割合(E:T)が50:1のときに測定された細胞溶解の百分率が、約63%となっている。
【0035】
〔実施例3〕
NK細胞傷害性におけるリコピン:レスベラトロールの投与量の効果。マウスに異なる投与量のリコピンおよびレスベラトロールの混合物(重量比:2.5:1)を5日間、毎日与えた。5日目のNK細胞活性を調査した結果を図3に示す。エフェクター/ターゲットの割合が50:1であるNK細胞の細胞傷害性を測定した。この結果は、リコピンおよびレスベラトロールの混合物によるNK細胞傷害性の活性化は、用量依存的であり、NK細胞傷害性の最大上昇を示すために、2.5:1(重量比)の混合物における1日最低投与量が3.5mgであることを示している。
【0036】
なお、最大のNK細胞活性を得るための1日最低投与量は、比率に依存する。ただし、過剰投与はコストを無視することを考慮すれば、比率依存的に、NK細胞の最大活性化を実現することができる。図4は、図2の投与量を3倍にしたときのNK細胞活性の結果を示す図である。最大NK細胞活性を得るためには、リコピンおよびレスベラトロールの各々に最低投与量があると思われる。
【0037】
〔実施例4〕
リコピンおよびレスベラトロールの混合物(重量比2.5:1)の経口投与によるNK細胞活性の上昇の経時変化を調査した。マウスに3.5mgの混合物を毎日経口投与し、上述の手順の方法にしたがい、図示したような種々の日におけるNK細胞傷害性を測定した。
【0038】
図5に示すように、NK細胞の細胞傷害活性は、3日目に上昇し始めており、5日目には最大値(1日目の約2.5倍)にまで高まった。5日目〜14日目までのデータに示すように、リコピンおよびレスベラトロールの混合物を経口投与している間は、NK細胞傷害性の向上は持続することができた(14日目以降は続けていない)。
【0039】
一方、上述した特定の比率および対象への摂取期間でリコピンとレスベラトロールとを併用することによって大幅な相乗効果が得られることが実験結果から明らかである。当業者であれば、リコピンとレスベラトロールの各々の純度およびナノ結晶形態、または、リコピンとレスベラトロールの各々の原料の豊富さにしたがい、これら2種類の植物化合物の比率を変更することは明らかである。上述の範囲および比率は、各々の植物化合物の規格状態、活性化状態、または凍結乾燥状態に応じて、この産業分野によって精製されつづける上記植物化合物によって変更してもよい。
【0040】
上述の実施例は、マウスについて良好な結果を示しているが、体表面積(BSA)の概念に基づく科学的な投与量変換を用いて、投与対象をげっ歯類から人に変更することもできる。ここで、人の投与量は、統計データから、マウスに対する投与量(有効成分の量(mg)/体重(kg))の1/25〜1/50の範囲であると経験的に推定することができ、文献(参考文献17:Reagan-Shaw (2007))に報告されているように、理論的には1/12とすることができる。図3にから、マウスに対する投与量は、最大のNK細胞活性を得るためのマウスに対する投与量は、3.5mg/マウスである。マウスの体重は約20gであるので、マウスに対する投与量は、3.5×50=175mg/kgと表すことができる。従って、75kgの人に対する投与量は、上述の変換に基づき、以下のように算出することができる。
実験値,(75×175)÷(25〜50)=262.5〜525mg;
理論値,(75×175)÷12=1094mg。
【0041】
上述の製品(Golden Lypres )に基づけば、リコピンおよびレスベラトロールの混合物を200mg含むカプセルの場合、2〜5カプセル/日、または、400mg〜1000mg/日の投与量を処方することができる。
【0042】
〔実施例5〕 脳血管腫の治療
53歳の女性患者のケースについて報告する。この患者は、2008年8月のMRIで、脳に直径約2cmの血管腫があると診断された。この患者は、2008年10月から2009年2月まで、1日当たり4〜5カプセルのGolden Lypres(各カプセルはリコピン65mg、レスベラトロール135mgを含む。リコピン:レスベラトロール(モル比)=1:5)を摂取した。この血管腫に起因する症状の消失後、この患者はCTスキャンを受けた。図6の左図は、Golden Lypres摂取前(2008年6月)の患者の脳のMRIを示しており、矢印で腫瘍が示されている。図6の右図は、Golden Lypresを4ヶ月間摂取後(2009年2月まで)のCT画像を示している。図6は、Golden Lypres摂取後に血管腫が消失したことを示しており、血管腫が存在した位置には小さな点しかない。Golden Lypresの摂取期間中、この患者は、Golden Lypres以外の治療を受けなかった。
【0043】
〔実施例6〕 胸腺癌の治療
42歳の女性患者のケースについて報告する。ただし、この患者は、一連の手術および放射線治療を受けた後、2009年1月に腫瘍を再発した。この患者は、2009年2月から、1日当たり5カプセルのGolden Lypres(各カプセルはリコピン65mg、レスベラトロール135mgを含む。リコピン:レスベラトロール(モル比)=1:5)を摂取した。2009年5月18日に、別のCT検査を受け、再発した腫瘍が完全に消失した。図7の上図は、Golden Lypres摂取前の患者の胸部CT画像を示しており、矢印で再発した腫瘍が示されている。図7の下図は、Golden Lypresを3.5ヶ月間摂取後の同じ部分のCT画像を示している。Golden Lypres摂取後、図7の上図に存在する腫瘍が完全に消失したことを示している。この患者は、Golden Lypres以外の投薬を受けなかった。
【0044】
〔実施例7〕 脳における非小肺癌転移の治療
64歳の男性患者のケースについて報告する。この男性患者は、2007年末に、非小肺癌転移があると診断された。腫瘍は、手術により取り除かれ、手術後、化学療法を受けた。2009年5月、この患者は、気分が悪くなったため、頭部のMRI検査を受けた。その結果、この患者の脳に転移していることが判明した。この患者は、2009年6月から、1日当たり3〜4カプセルのGolden Lypres(各カプセルはリコピン65mg、レスベラトロール135mgを含む。リコピン:レスベラトロール(モル比)=1:5)を摂取し始めた。この患者は、2009年7月7日と10月10日の2回CT検査を受けた。その結果、転移した腫瘍が経時的に縮小し続けた。図8は、脳転移の経時的なサイズ変化を示している。図8の上図および下図は、矢印で示す同一腫瘍の別画像である。
【0045】
上述したリコピンとレスベラトロールとの比率は、上述したマウスと各実験条件での結果に基づき提案したものであり、人の体重に当てはめることができ、当てはめる際に変動や許容誤差があってもよい。上述した処方および投与形態または投与量の多くは、上記植物化合物の連続的な消費によって、または、当業者に概念上知られた他の変換方法によっても、同様に実現することができる。これらの改良、変更、代替は、本発明と均等であり、以下に示す特許請求の範囲の範囲および文言の範囲内であるとみなされる。
【0046】
〔非特許文献の一覧〕
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2.Giovannucci E., “Tomatoes, tomato-based products, lycopene, and cancer: Review of the epidemiologic literature”, Journal of the National Cancer Institute 1999; 91: 317- 331.
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナチュラルキラー細胞(NK細胞)を含む大型顆粒リンパ球(LGL)の活性を代謝的に向上するために、少なくともカロチノイドおよびテルペノイドを治療上有効量含有する組成物。
【請求項2】
ナチュラルキラー細胞(NK細胞)を含む大型顆粒リンパ球(LGL)の活性を代謝的に向上するために、リコピンおよびレスベラトロールを治療上有効量含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
NK細胞活性の向上は、全リンパ球中のNK細胞の比率の増加を含む請求項2に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項4】
NK細胞活性の向上は、NK細胞を細胞傷害反応性はたは細胞溶解反応性に変化させる生化学シグナルトリガを与えることを含む請求項2に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項5】
NK細胞活性の向上は、個々のNK細胞の潜在的な反応性を増大させることを含む、請求項2に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項6】
生化学シグナルトリガが、二本鎖RNA、サイトカイン、Fcレセプタ、および他の適用可能なリガンドレセプタを、単独または組み合わせて含んでいる請求項4に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項7】
NK細胞活性の向上は、細胞傷害性を持続させることを含む、請求項2に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項8】
リコピン:レスベラトロールの割合(モル比)は、好ましくは1:10〜10:1である請求項2に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項9】
上記割合(モル比)が、より好ましくは1:1〜3:1であり、最も好ましくは3:1である請求項8に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項10】
リコピン:レスベラトロールの割合(重量比)は、好ましくは1:4〜25:1である請求項2に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項11】
リコピン:レスベラトロールの割合(重量比)は、より好ましくは2.5:1〜7.5:1であり、最も好ましくは7.5:1である請求項10に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項12】
医薬品、栄養補助食品、または食品として構成されている請求項2に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項13】
哺乳類に治療上有効量を与えられる請求項12に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項14】
投与量が、約3.5mg/日/哺乳類の体重20gである請求項13に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項15】
投与量が、NK細胞活性の向上を必要とする典型的なヒトに対し、約400mg〜1000mg/日である請求項12に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項16】
経口摂取用に構成されている請求項12に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項17】
リコピンおよびレスベラトロールの各々が、連続的な摂取のために、配達または提供されるように構成されている請求項12に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物。
【請求項18】
上記リコピンおよびレスベラトロールを含む組成物が、NK細胞を細胞傷害反応性はたは細胞溶解反応性にトリガリングするのに有用な、代謝的に生産される物質、プロドラッグ、代謝産物、または中間化合物の状態である、請求項2に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物の使用。
【請求項19】
リコピンおよびレスベラトロールが、以下のいずれか1つによって摂取される請求項18に記載のリコピンおよびレスベラトロールを含む組成物の使用。
・リコピンおよびレスベラトロールを含む単一製剤
・同時に摂取されるリコピンおよびレスベラトロールの各製剤
・同順または逆順で連続的に摂取されるリコピンおよびレスベラトロールの各製剤。
【請求項20】
NK細胞を細胞傷害反応性または細胞溶解反応性にすることのできるクレーム18に記載の物質、プロドラッグ、代謝産物、または、中間化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−526807(P2012−526807A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510781(P2012−510781)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【国際出願番号】PCT/SG2010/000147
【国際公開番号】WO2010/132024
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(511276220)シェーズ バイオテック(シンガポール)プライベート リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】HSIEHS BIOTECH(SINGAPORE)PTE LTD
【住所又は居所原語表記】29 Mandai Estate,#06−10 Innovation Place,Singapore 729932
【Fターム(参考)】