説明

抗腫瘍剤の毒性を低減するための調合物及び方法

【課題】抗腫瘍薬の投与を受けている患者に投与される場合に防護剤として有用な化合物の薬学的調合物を提供する。
【解決手段】1以上の抗腫瘍剤の投与を受けている患者に有効量の防護剤を投与することにより各種の抗腫瘍剤の毒性を低減するための方法を含む。防護剤として有用なこの化合物はスルフヒドリル部分を有するか、または還元可能なジスルフィドである。好適にはジメスナ(2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸ジナトリウム)(Disodium−2,2’−dithiobis ethane sulfonate)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗腫瘍薬(antineoplastic drugs)及び解毒剤の薬学的調合に関する。この解毒剤は1以上のスルフヒドリル部分または還元可能なジスルフィドを有し、解毒剤とともに調合または投与される抗腫瘍薬の毒性副作用を低減もしくは消失させる効果を有する化合物である。本発明は更に、抗腫瘍剤の投与の前、同時、及び/または後において有効量の解毒剤を患者に投与することによって各種抗腫瘍剤の毒性を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
50年以上前にナイトロジェンマスタードの抗腫瘍性が発見されて以来、癌の化学療法は常に科学的探求が行われてきた発展分野であり、外科的治療や放射線治療とともに癌治療の重要な要素であった。化学療法は、かつては外科的療法や放射線療法による治癒が不可能であると診断された患者の生存時間を延ばすための手段として受けいれられていただけであったが、現在では2千種類を超える癌のほとんど全てにおいてその効果が認められている治療法である。
【0003】
現在の癌の化学療法では、一般的に2または3種類の異なる薬剤の組み合わせが使用され、技術及び医学的知識の進歩に伴って多くの形態の癌において患者の回復の確率は大幅に向上してきた。癌治療における抗腫瘍剤の役割は癌の形態に応じて大きく異なる。例として、化学療法は、卵巣、睾丸、乳房、膀胱や他の部分の癌において、また白血病やリンパ腫においてはしばしば主要な治療法であり、多くの肉腫、黒色腫、骨髄腫などの治療においては一般に放射線療法と組み合わせて使用される。これに対し、化学療法はしばしば、膵臓及び肺の癌などのほとんどの固形腫瘍に対しては最後の手段すなわち姑息的療法として使用される。腫瘍や他の新生物の各クラスにおいてそれぞれ例外がある。
【0004】
本明細書の全体を通じて共通して「抗腫瘍剤」と呼ばれる化学療法薬は、多くの異なるグループに分類される。これらの薬剤の大半は細胞毒性薬として作用し、特定のグループの各薬剤は通常同様の生物学的機序により細胞毒性作用を発揮するものと仮定される。しかしながら、抗腫瘍薬の生物学的、生化学的な作用機序は完全には理解されていない点は認識しておく必要がある。本明細書に記載される作用機序は当該技術分野の現段階の水準に基づいたものであり、仮定される機序のそれぞれは、薬剤の実際の細胞毒性の機序、またここに述べられる防護剤による毒性の緩和のされ方において重要である場合とそうでない場合とがある。
【0005】
残念なことに、今日使用されている抗腫瘍剤のほとんど全ては、所望の癌細胞を殺す作用とは別に、健康な正常細胞に対して著明な毒性作用を与える可能性を有する。薬の毒性は、生命を脅かす事態を生じるほど深刻である。こうした状況下では他の薬剤の同時投与、抗腫瘍薬投与の低減及び/または中止、または他の予防的措置の実施を必要とするが、これらはいずれも患者の治療及び/または患者のクオリティーオブライフに対して好ましくない影響を与える可能性がある。多くの場合、患者の病気の治療の失敗は、正常細胞に対する抗腫瘍剤の望ましくない毒性を低減するうえで講じられなければならない手段によるものである。
【0006】
(抗腫瘍薬の分類)
米国では1997年1月の時点において70種類以上の市販の抗腫瘍剤の使用が認められている。海外では更に多くの抗腫瘍剤が認可されている。また米国内及び海外において200種類を上回る新たな薬について、臨床治験による抗腫瘍剤としての評価が行われている。更に、毎年、何千もの新たに発見された化合物について抗腫瘍剤としての可能性の評価が行われている。
【0007】
現在のところ認可されている抗腫瘍薬にはおよそ20のクラスがある。この分類は特定の薬群に共通の構造またはその薬群に共通の作用機序のいずれかに基づいて一般化を行ったものである。薬剤によっては2以上のクラスに属するものもあるが、一般的に受けいれられている分類は以下のようなものである(分類群は特定の順序にて並べられたものではない)。
【0008】
(構造に基づいたクラス)
1.フルオロピリミジン系、2.ピリミジンヌクレオシド系、3.プリン系、4.白金類似物質、5.アントラサイクリン系/アントラセンジオン系、6.ポドフィロトキシン系、7.カンプトテシン系、8.ホルモン及びホルモン類似体、9.酵素、たんぱく質、及び抗体、10.ビンカアルカロイド系、11.タキサン系。
【0009】
(作用機序に基づいたクラス)
1.抗ホルモン剤、2.葉酸代謝拮抗剤、3.抗微小管剤、4.アルキル化剤(古典または非古典)、5.代謝拮抗剤、6.抗生物質、7.トポイソメラーゼ阻害剤、8.抗ウイルス剤、9.各種細胞毒性物質。
【0010】
上記細胞毒性物質の分類は研究が進むにつれて将来間違いなく広がることであろう。上述したように、構造的に類似した薬の多くは作用機序も同様であり、またはこの逆が成り立つことにより、今日使用されている認可された抗腫瘍剤の多くは2以上の分類群に属する。
【0011】
一般的に知られている商業的に認可された(または開発中の)抗腫瘍剤の一部を分類したものを以下に示す。
【0012】
1.フルオロピリミジン系:5−フルオロウラシル、フルオロデオキシウリジン、フトラフル、5’−デオキシフルオロウリジン、UFT、S−1、カペシタビン。
【0013】
2.ピリミジンヌクレオシド系:デオキシシチジン、シトシンアラビノシド、5−アザシトシン、ゲムシタビン、5−アザシトシン−アラビノシド。
【0014】
3.プリン系:6−メルカプトプリン、チオグアニン、アザチオプリン、アロプリノール、クラドリビン、フルダラビン、ペントスタチン、2−クロロアデノシン。
【0015】
4.白金類似物質:シスプラチン、カルボプラチン、オキザリプラチン、テトラプラチン、白金−DACH、オルマプラチン、CI−973、JM−216。
【0016】
5.アントラサイクリン系/アントラセンジオン系:ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン。
【0017】
6.エピポドフィロトキシン系:エトポシド、テニポシド。
【0018】
7.カンプトテシン系:イリノテカン、トポテカン、9−アミノカンプトテシン、10,11−メチレンジオキシカンプトテシン、9−ニトロカンプトテシン、TAS103。
【0019】
8.ホルモン及びホルモン類似体:ジエチルスチルベストロール、タモキシフェン、トレミフェン、トルムデックス(Tolmudex)、チミタック(Thymitaq)、
フルタミド、ビカルタミド、フィナステリド、エストラジオール、トリオキシフェン、ドロルオキシフェン(Droloxifen)、酢酸メドロキシプロゲステロン(Medroxyprogesterone Acetate)、酢酸メゲステロール(Megesterol Acetate)、アミノグルテチミド、テストラクトン他。
【0020】
9.酵素、たんぱく質及び抗体:アスパラギナーゼ、インターロイキン類、インターフェロン類、ロイプロリド、ペグアスパーガーゼ(Pegaspargase)他。
【0021】
10.ビンカアルカロイド系:ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンオレルビン、ビンデシン。
【0022】
11.タキサン系:パクリタキセル、ドセタキセル他。
【0023】
作用機序に基づいたクラス
1.抗ホルモン剤:ホルモン及びホルモン類似体についての分類を参照。アナストロゾール。
【0024】
2.葉酸代謝拮抗剤:メトトレキセート、アミノプテリン、トリメトレキセート、トリメトプリム、ピリトレキシム、ピリメタミン、エダトレキセート、MDAM。
【0025】
3.抗微小管剤:タキサン類及びビンカアルカロイド類。
【0026】
4.アルキル化剤(古典または非古典):ナイトロジェンマスタード系(メクロレサミン、クロラムブシル、メルファラン、ウラシルマスタード)、オキサアザフォスフォリン系(イフォスファミド、シクロフォスファミド、ペルフォスファミド、トロフォスファミド)、アルキルスルホネート(ブサルファン)、ニトロソ尿素類(カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン)、チオテパ、ダカルバジン他。
【0027】
5.代謝拮抗剤:上記のプリン、ピリミジン及びヌクレオシド。
【0028】
6.抗生物質:アントラサイクリン類/アントラセンジオン類、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、マイトマイシン、プリカマイシン、ペントスタチン、ストレプトゾシン。
【0029】
7.トポイソメラーゼ阻害剤:カンプトテシン類(TopoI)、エピポドフィロトキシン類、m−AMSA、エリプチシン類(TopoII)。
【0030】
8.抗ウイルス剤:AZT、ザルシタビン、ゲムシタビン、ジダノシン他。
【0031】
9.各種細胞毒性物質:ヒドロキシ尿素、ミトタン、融合毒素、PZA、ブリオスタチン、レチノイド類、酪酸及び酪酸誘導体、ペントサン、フマギリン他。
【0032】
全ての抗腫瘍薬の目的は、癌細胞を消滅させる(治癒)か、成長及び転移を遅らせる(寛解)ことである。上に列記した抗腫瘍剤の大半は一次細胞傷害活性を有し、癌細胞を直接殺すことによってこの目的を達成している。他の抗腫瘍薬は身体の本来の免疫を刺激して癌細胞を殺す。この文献では上記薬剤及び他の多くの薬剤の活性及び作用機序についての充分な考察を行う。
【0033】
全ての抗腫瘍薬において、主たる難点及び懸念材料は、健康な正常細胞に対する薬の毒性である。上に列記した薬剤の全て(及び現在開発中の薬剤)は、治療上の有効投与量にて投与された場合においても深刻かつ生命に関わる毒性副作用をもたらす可能性を有する。有効投与量にて安全に使用することが可能な抗腫瘍薬の開発に多大な労力が費やされてきたが、こうした薬剤はほとんど全ての場合毒性副作用をともなう。
【0034】
抗腫瘍薬の毒性副作用の発現の仕方は各クラスにおいてほぼ一貫している。注目すべき例外としては白金類似物質があり、現在認可されている2つの薬剤は異なる一次毒性を発現する(シスプラチンの一次毒性は腎臓に対するものであり、カルボプラチンの一次毒性は骨髄に対するものである)。
【0035】
幾つかの例外を除いて多くの抗腫瘍剤の一次毒性は、骨髄や消化管上部に見られるような、活発に分裂中の細胞に影響を及ぼす。他の一次及び二次毒性が発現する場合もあり、その内のあるものは可逆的であり、あるものは永久的である。各薬剤の主要毒性を表1に示した。表の下に略語の説明を付した。
【0036】
【表1】

【0037】
略号
TX−毒性 BM−骨髄
GI−胃腸 RT−腎臓
NT−神経 DT−皮膚
LT−肝臓 PT−肺
HYP−感度 MUC−粘膜炎
NM−ナイトロジェンマスタード類 OX−オキサアザフォスフォリン類
BS−ブサルファン NU−ニトロソ尿素類
TT−チオテパ TX−タキサン類
VCR−ビンクリスチン VBL−ビンブラスチン
VOR−ビンオレルビン MTX−メトトレキセート
CIS−シスプラチン CARB−カルボプラチン
PT−他の白金錯体 CPT−カンプトテシン類
PUR−プリン類 PYR−ピリミジン類
POD−エピポドフィロトキシン類 ANTH−アントラサイクリン類
AB-他の抗生物質
毒性のレベル:1=軽度もしくはほとんど見られない、2=中度、3=重度、DL=投与量制限。各種毒性:a=出血性膀胱炎、b=筋骨格痛、c=低血圧症、d=甲状腺機能不全、e=心毒性(アントラサイクリン類にて投与量制限)、f=放射線回収(radiation recall)。
上に列記した毒性副作用の特定の発現は、多くの腫瘍学の教科書、刊行物、特許や他の印刷物のいずれにおいても述べられていることである。既に証明されているか、または仮定されている詳細な作用機序及び毒性については従来技術の全体にわたって詳細に記載されている。これらの作用機序を以下に概観し、抗腫瘍薬の代謝ならびに、悪性組織及び正常組織に対するその影響についてまとめる。
【0038】
作用機序(実際上の、または理論上の)
1.抗ホルモン剤
その名が示すとおり、抗ホルモン抗腫瘍薬は、ホルモンの最終受容臓器においてホルモンの作用を阻害することによって細胞毒性活性を発現する。幾つかの新生物では細胞の増殖においてホルモンによる刺激を必要とする。抗ホルモン剤はホルモンの作用を阻害することにより、腫瘍細胞が増殖するために必要な刺激が与えられなくしてしまう。細胞は寿命の終わりに近づくと分裂を行ったり更なる悪性細胞を生じることなく正常に死滅する。
【0039】
抗腫瘍薬は、乳房、子宮、前立腺、睾丸、及び性別に特有の他の臓器における悪性腫瘍の治療薬として、異なる成功度で使用されてきた。一般に抗ホルモン薬は、男性ではアンドロゲン受容体を、女性ではエストロゲンまたはプロゲステロン受容体を標的としている。近年では多くの研究がアロマターゼ阻害剤の開発に力を注いでいる。アロマターゼ阻害剤はアンドロゲンのエストロゲンへの変換を阻害することにより血中のエストロゲンレベルを間接的に低下させる。抗ホルモン抗腫瘍剤はステロイド性のものと非ステロイド性のものとに大別される。
【0040】
抗ホルモン抗腫瘍剤の毒性は一般に軽度乃至中度である。これらの薬剤は通常天然の生理活性物質の類似体であるため、その作用機序は比較的特異的であり、DNA合成は阻害しない。このため、多くの抗腫瘍剤に見られる深刻な副作用を伴わない。
【0041】
抗ホルモン剤療法における毒性の発現としては、顔面潮紅、体重増(及び体重減)、皮膚発疹、にきびなどの、ホルモン欠損症に通常ともなうものが含まれる。むかつきや嘔吐をともなう場合もあるが、消化管において感じられる苦痛は通常は軽度乃至中度であり、通常は投与量を減らす必要はない。抗ホルモン剤療法は通常、ホルモンに対して陽性応答を示す患者に限定して行われる。
【0042】
2.葉酸代謝拮抗剤
葉酸代謝拮抗剤は、細胞の増殖にとって重要な酵素であるジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)の作用を阻害することにより細胞毒性活性を発現する。DHFRは、ジヒドロ葉酸を、完全に還元された活性テトラヒドロ型に還元することはよく知られている。テトラヒドロ葉酸は重要なDNAの前駆体であるプリンのde novo合成において補酵素として機能する。テトラヒドロ葉酸プールの欠乏はチミジル酸の生合成をも阻害し、デオキシウリジル酸(dUMP)の、DNAヌクレオチドの前駆体であるデオキシチミジル酸(dTMP)への変換が阻害される。
【0043】
多くの葉酸代謝拮抗薬が米国内における使用を認められているが、商業的に認可されている抗腫瘍剤はメトトレキセートただ1種類のみである。他の認可されている葉酸代謝拮抗剤は、ヒトDHFRと比較してより強力かつ高い頻度で細菌DHFRに結合する性質のため、主として抗感染症薬として使用されている。メトトレキセート自体も、乳房、子宮、睾丸、卵巣の癌や、様々な形態の白血病に対して使用されるのと同時に、慢性関節リューマチ、乾癬、及び関連する炎症性疾患の治療に用いられてきた。メトトレキセート1種類だけで、稀な種類の癌である絨毛癌を治癒させることが可能である。
【0044】
葉酸代謝拮抗剤は、広範な組合せの毒性副作用及び他の好ましくない副作用をもたらす。血液毒性はメトトレキセートや他の葉酸代謝拮抗剤に関連する主たる投与量制限毒性である。葉酸代謝拮抗剤に関連する他の毒性及び好ましくない作用として、時として重篤かつ不可逆的である神経毒性、主として粘膜炎、むかつき、下痢、嘔吐、食欲不振等である消化管障害、肝毒性、しばしば発疹、脱毛症及び組織の炎症により発現する皮膚毒性、肺毒性、腎毒性、及び、他の好ましくない副作用が含まれる。葉酸代謝拮抗剤は、治療指数が低く、毒性副作用の指数が高い薬剤として一般的に認識されている。
【0045】
3.抗微小管剤
抗微小管剤は、細胞の微小管の正常な機能を損なわせることにより細胞分裂を阻害する。微小管は細胞にとって非常に重要な要素であり、細胞分裂の際の染色体の複製において重要な役割を果たすのと同時に、細胞形状の維持や構造支持、細胞内輸送、分泌、神経伝達などの、間期における多くの細胞機能において重要な役割を果たす。
【0046】
微小管に影響を与える抗腫瘍剤の2つのクラスは、タキサン類(このクラスの代表的な薬剤としてはパクリタキセル及びドセタキセルがある)及びビンカアルカロイド類(このクラスの認可された薬剤としてビンクリスチン、ビンブラスチン、及びビンオレルビンがある)である。
【0047】
タキサン類及びビンカアルカロイド類は、植物由来の天然化合物から自然に、または半合成的に誘導される類似体である。詳細にはタキサン類はヨーロッパイチイ(Taxus baccata)の針葉及び枝、またはタイヘイヨウイチイ(Taxus brevifolia)の樹皮から得られる。現在最も広く知られているタキサン類はパクリタキセル(タキソール(登録商標))及びドセタキセル(タキソテール(登録商標))であり、抗腫瘍剤として広く市販されている。
【0048】
ビンカアルカロイド類としては、ビンクリスチン(オンコビン(登録商標))、ビンブラスチン(ベルバン(登録商標))、及びビンオレルビン(ナベルビン(登録商標))があり、一般にニチニチソウ(Cantharanthus roseus)から得られる。これらの薬も抗腫瘍薬として広く市販されている。
【0049】
タキサン類とビンカアルカロイド類とは作用機序において異なるものの、いずれも細胞の微小管に生物学的な作用を及ぼす。タキサン類は紡錘体微小管を形成するタンパク質サブユニットであるチューブリンの重合化を促進する。結果的には微小管の脱重合が阻害され、安定的な非機能性微小管が形成される。これにより微小管系の動的平衡が乱されて細胞周期はG期の終わり及びM期において停止され、細胞分裂が阻害される。
【0050】
タキサン類と同様、ビンカアルカロイド類も細胞内の微小管系に対して作用する。タキサン類とは異なり、ビンカアルカロイド類はチューブリンに結合し、チューブリンサブユニットの微小管への重合化を阻害もしくは防止する。ビンカアルカロイド類はまた、微小管の脱重合を誘発し、これにより微小管の形成が阻害されて細胞周期は中期において阻止される。ビンカアルカロイド類は更に、核酸及びタンパク質合成、アミノ酸、サイクリックAMPならびにグルタチオン合成、及び細胞呼吸に対して影響を及ぼすとともに、高濃度では免疫抑制活性を示す。
【0051】
タキサン類及びビンカアルカロイド類はいずれも治療指数の低い毒性化合物である。これらの薬剤について最も多く報告されている臨床的毒性には神経毒性や骨髄抑制がある。
【0052】
タキサン類は多くの異なる有毒な好ましくない副作用を患者にもたらすことが示されている。最もよく知られている深刻なタキサン類の副作用は神経毒性及び血液毒性であり、重篤な好中球減少症及び血小板減少症がある。タキサン類は更に、かなりの割合の患者において、消化管に対する作用(むかつき、下痢、嘔吐が一般的である)、脱毛症、及び他の好ましくない作用などの過敏性反応を、推奨される投与量にて引き起こす。
【0053】
ビンカアルカロイド類は主として、神経毒性作用(ビンクリスチンを与えた患者における副作用の主なもの)、血液毒性(白血球減少症はしばしば重篤であり、ビンブラスチンの場合には投与量制限条件である)、消化管に対する作用(むかつき、下痢、及び嘔吐)、脱毛症、特に注射部位における組織の刺激や壊死、及び他の有害な好ましくない作用をともなう。
【0054】
4.アルキル化剤
その名が示すとおり、アルキル化剤はDNAをアルキル化して細胞の増殖サイクルを直接阻害することにより細胞毒性活性を発現する。上記のリストに一般的に示したように、抗腫瘍アルキル化剤は一般的構造及びDNAをアルキル化する際の作用機序に基づいて多くのサブクラスに分けられる。
【0055】
抗腫瘍性アルキル化剤のいくつかのサブクラスが化学療法薬として販売されている。最もよく知られているのは、クロラムブシル、メクロレサミン、メルファラン、ウラシルマスタードなどを含むナイトロジェンマスタードである。
【0056】
オキサアザフォスフォリンはナイトロジェンマスタードのサブタイプの1つであり、イフォスファミド、シクロフォスファミド、トロフォスファミドなどが含まれる。アルキル化剤として作用する、この出願がなされた時点において市販されている他の抗腫瘍薬としては、アルキルスルホネート(ブサルファン)、及びニトロソ尿素類(カルムスチン、ロムスチン、及びある程度はストレプトゾシンも)が含まれる。他の抗腫瘍薬もDNA及び/またはRNAをアルキル化する能力を有する。ダカルバジン及びプロカルバジンは、DNAのアルキル化剤として作用する、現在米国において認可されている薬剤である。
【0057】
抗腫瘍アルキル化剤は、広範な組み合わせの毒性副作用及び他の好ましくない副作用を及ぼす。血液毒性は全てのアルキル化剤に関連する主たる投与量制限毒性であり、しばしば重篤である。アルキル化剤に関連する他の毒性作用及び好ましくない作用としては、神経毒性、主としてむかつき、下痢、嘔吐、食欲不振などである消化管障害、肝毒性、しばしば発疹、脱毛及び組織の炎症や壊死により発現する皮膚及び局所感受性、肺毒性、尿生殖器毒性(出血性膀胱炎はシクロフォスファミド療法を受けた患者においてしばしば重篤である)、及び他の好ましくない毒性副作用がある。抗腫瘍アルキル化剤は、治療指数が低く、毒性副作用指数が高い薬剤として一般に認識されている。
【0058】
5.代謝拮抗剤
代謝拮抗剤は一般的に、細胞DNA内に擬似ヌクレオチドを置換し、これにより細胞分裂を阻害するか、細胞の重要な酵素の作用を阻害してDNAの複製を阻害することによって細胞毒性活性を発現する。代謝拮抗剤はプリン(グアニンまたはアデノシン)塩基またはピリミジン(シチジンまたはチミジン)塩基のいずれかを例外なく有し、糖部分を有する場合も有さない場合もある。
【0059】
プリン代謝拮抗剤は、特に様々な小児性白血病の治療において抗白血病薬として広く用いられている。6−メルカプトプリン(6−MP)は1940年代中頃から急性リンパ芽球性白血病の治療薬として投与されてきた。6−チオグアニン(6−TG)は現在、急性骨髄性白血病(AML)の寛解誘導剤として用いられている。6−MPのプロドラッグであるアザチオプリンは臨床的移植手術において免疫抑制剤として広く用いられている。一般にプリン代謝拮抗剤は固体腫瘍に対して有効ではないが、これは恐らく固体腫瘍細胞の寿命が白血球に比較して長いことによるものと考えられる。
【0060】
他の細胞毒性薬剤と同様、プリン代謝拮抗剤もやはり健康な正常細胞の機能に影響を及ぼす。プリン代謝拮抗剤によって最も影響を受ける細胞は、比較的寿命が短い、活発に増殖を行っている細胞、すなわち骨髄や消化管上部に見られるような細胞である。
【0061】
プリン代謝拮抗剤の毒性及び他の好ましくない作用の範囲は一般に狭い。血液毒性は、6−メルカプトプリン、アザチオプリン、6−チオグアニン、及び他のプリン代謝拮抗剤における主たる投与量制限毒性である。これらの薬剤の作用として広く報告されてきたものとして特に、白血球減少症、貧血症、及び血小板減少症がある。プリン代謝拮抗剤に関連する他の毒性及び好ましくない作用として、主としてむかつき、下痢及び嘔吐である消化管障害、肝毒性、及び他の好ましくない毒性副作用がある。プリン代謝拮抗剤は、治療指数が低く、毒性副作用指数が高い薬剤として一般的に認識されている。
【0062】
一般に全てのヌクレオシド類似体はin vivoで通常はデオキシシチジンキナーゼによって対応するヌクレオチドにリン酸化される。全ての薬剤はこの活性化型で代謝拮抗剤として作用し、DNAの複製に必要な1以上の酵素を阻害するものと考えられる。抗腫瘍ヌクレオシドの多くは、細胞周期に特異的であり、S期、恐らくはG1期とS期との間において作用する。抗腫瘍代謝拮抗剤によって阻害されると考えられる酵素には、リボヌクレオチドリダクターゼ、DNAポリメラーゼ、チミジル酸シンテターゼ、ウラシルリボシドホスホリラーゼ、DNAプライマーゼなどが含まれる。細胞の複製に関わる酵素の阻害作用のため、抗腫瘍ヌクレオシドの多くは抗ウイルス活性も示す。
【0063】
ヌクレオシド代謝拮抗剤は広範な組合せの毒性及び好ましくない作用をもたらす。血液毒性は全ての抗腫瘍ヌクレオシドに関連する主たる投与量制限毒性であり、しばしば重篤である。ヌクレオシドに関連する他の毒性作用及び好ましくない作用としては、時として重篤かつ不可逆的である神経毒性、主としてむかつき、下痢、嘔吐、食欲不振などである消化管障害、肝毒性、しばしば発疹、脱毛及び組織の炎症により発現する皮膚毒性、肺毒性、及び他の好ましくない毒性副作用がある。抗腫瘍ヌクレオシドは、治療指数が低く、毒性副作用指数が高い薬剤として一般的に認識されている。
【0064】
6.アントラサイクリン/アントラセンジオン
このクラスの抗腫瘍薬もやはり抗生活性を有し、もともとはこうした目的で開発された。これらの化合物の主な作用機序はよく分かっていないが、開裂可能な錯体を形成してトポイソメラーゼII(TopoII)を阻害することにより作用するものと考えられている。アントラサイクリン類の広い作用範囲を説明するうえで他の作用機序も提案されている。
【0065】
アントラサイクリン及びアントラセンジオンは、作用する範囲が広いために過去25年の間、重点的に研究、報告がなされてきた。現在、3種類のこうした薬剤が米国において使用を認められており(ドキソルビシン、ダウノマイシン、ミトキサントロン)、更に2種類がヨーロッパにおいて使用を認められている(エピルビシン及びイダルビシン)。
【0066】
他の細胞毒性薬と同様、抗腫瘍アントラサイクリン及びアントラセンジオンも健康な正常細胞に影響を及ぼす。詳細には、これらの薬剤の使用には、他の抗腫瘍剤には見られないタイプの心毒性をともなう。心毒性は一般的ではない(約20%において著しい問題を生じる)が、慢性化する場合があり、生命にかかわる。アントラサイクリン化学療法を受けた患者ではうっ血性心不全及び他の同様に深刻な心疾患が生じる場合がある。多くの場合、重い心毒性は累加的な投与にともない、不可逆的な作用を及ぼす場合もある。
【0067】
抗腫瘍アントラサイクリン及びアントラセンジオンによって他の毒性及び好ましくない作用が一般的にもたらされる。血液毒性は全てのアントラサイクリン及びアントラセンジオンにおける主たる投与量制限毒性である。これらの薬剤の副作用として広く報告されているものとして特に、白血球減少症、貧血症、及び血小板減少症がある。抗腫瘍アントラサイクリン及びアントラセンジオンに関連する他の毒性及び好ましくない副作用として、主として粘膜炎であるが、むかつきや下痢、嘔吐もしばしばともなう消化管障害、ほとんど全ての患者において見られる脱毛、管外遊出(extravasation)後の重篤な局所組織傷害、及び他の好ましくない毒性副作用がある。抗腫瘍アントラサイクリン及びアントラセンジオンは、非常に広い作用範囲を有するが、治療指数が低く、毒性副作用指数が高い薬剤として一般的に認識されている。
【0068】
アントラサイクリン及びアントラセンジオンの毒性に対処する手段は以前には存在しなかった。投与の低減もしくは中止を必要とすることにより、寛解または治癒の確率は低下していた。最近では、代謝によってEDTAのジアミド類似体を生じる実験薬であるICRF187が、アントラサイクリン及びアントラセンジオンの累加的心毒性を改善するうえである程度有効であることが示されている。
【0069】
7.他の抗生物質
抗腫瘍抗生物質は多様な作用機序によって毒性活性を発現する。ペントスタチンはプリン類似体であり、そのクラスの代謝拮抗剤として作用する。ブレオマイシンは分子量約1500ダルトンの糖ペプチドであり、DNAを酸化的に開裂する。アクチノマイシン(ダクチノマイシンとしても知られる)は、RNA合成及びタンパク質合成を阻害する。プリカマイシン(ミトラマイシン)はDNAに結合し、マイトマイシン及びストレプトゾシンはDNAアルキル化剤である。
【0070】
抗生物質に関連する毒性は同様の作用機序を有する他の薬剤に類似している。血液毒性はこれらの薬剤では非常に一般的であり、時として重篤であって投与量制限条件となる。これらの薬剤の多くはまた、組織に対して極めて刺激性であるため、局所的な管外遊出が問題である。更に、ミトラマイシンでは、特に薬剤が長期使用または大量投与される場合に血小板減少誘発出血性症候群をともなう。
【0071】
抗腫瘍抗生物質は抗癌剤の最も古いクラスの1つであり(アクチノマイシンが臨床的に応用されたのが1954年)、小児性新生物(アクチノマイシン)、睾丸新生物(ブレオマイシン)、及び他の多くの固体腫瘍の全ての治療において現在でも広く用いられている。
【0072】
8.トポイソメラーゼ阻害剤
トポイソメラーゼ阻害剤は比較的最近導入された抗腫瘍剤であり、更に多くの薬剤が現在でも研究開発の様々な段階にある。トポイソメラーゼに関してより多くの情報が得られるのにしたがって、この酵素を阻害する更なる薬剤についての研究が進められることは間違いない。
【0073】
トポイソメラーゼ(以下TopoI及びTopoIIと呼ぶ)は細胞内に遍在する酵素であり、DNA複製の際にDNA鎖の過渡的な切断を触媒して鎖の自由回転を可能にする。これらの酵素の機能はDNAの複製にとって非常に重要である。これらの酵素なしではDNA螺旋のねじれによる緊張により自由回転が防止され、DNA鎖は正しく分離することができず、細胞は分裂が行えなくなってやがては死に至る。TopoIはDNAの1本鎖切断部分の3’末端に結合するのに対し、TopoIIは2本鎖切断部分の5’末端に結合する。
【0074】
エピポドフィロトキシン
エピポドフィロトキシンはTopoIIの作用を阻害する。天然のポドフィロトキシンはポドヒルム及びマンドレークから得られ、これらの植物の抽出物は数世紀にわたって民間療法に用いられてきた。天然のポドフィロトキシン及び半合成エピポドフィロトキシンの抗腫瘍性の発見は30年以上前にさかのぼる。
【0075】
天然ポドフィロトキシンはグルコシド環を有さず、E−環のC4位はメトキシ部分である。ポドフィロトキシンの作用機序は完全には理解されてないが、E−環のヒドロキシ基がTopoIIを阻害することにより2本鎖DNAの切断を誘導するものと考えられているのに対し、グルコシド部分は合成された薬剤誘導体による紡錘微小管の形成の阻害を防止するものと考えられている。
【0076】
エトポシド(及びエトポシドの水溶性プロドラッグであるリン酸エトポシド)は、睾丸新生物、肺癌、リンパ腫、神経芽腫、AIDSにともなうカポジ肉腫、ウィルムス腫、各種の白血病などの様々な癌の治療に現在使用されている。テニポシドは難治性小児白血病の治療薬として1992年にFDAに認可され米国内での販売が認められた比較的新しい薬である。テニポシドは、膀胱癌、リンパ腫、神経芽腫、肺小細胞癌、及びある種のCNS腫瘍に対しても活性を示すが、そうした用途での使用は認められていない。
【0077】
エトポシド及びテニポシドはいずれも水溶性は低く(10μg/ml以下)、実際的な静脈内投与を行うためには有機溶媒と調合しなくてはならない。エトポシドはまた液体充填カプセルとして経口投与が可能な形で入手可能である。
【0078】
エピポドフィロトキシンの主な投与量制限毒性は好中球減少症であり、特に他の抗腫瘍剤または放射線による治療を行った患者において、しばしば重篤である。他の血液毒性や、脱毛、消化管障害、神経毒性、感受性反応などが一般的に報告されている。更にエトポシドを投与した患者ではうっ血性心不全や心筋梗塞を発症する場合があり、多くの場合薬剤を送達するために用いられる大量の生理食塩水希釈液(場合によっては投与の速度)が原因であると考えられている。
【0079】
ポドフィロトキシンは複雑な薬物動態学的性質を示す。エトポシドはin vivoで少なくとも6種類の代謝物質に変わる。これらの代謝物質の内、グルクロニドとトランス−ヒドロキシ酸の少なくとも2種類の代謝物質は細胞毒性作用はほとんど有さず、薬の血液毒性に関わっているものと考えられている。リン酸エトポシドは速やかにエトポシドに変換されるため、このプロドラッグも同じ代謝物質、毒性、及び薬物動態学的性質を与える。
【0080】
テニポシドはエトポシドほど詳しくは研究されていないが、同様の性質を有するものと考えられる。
【0081】
カンプトテシン
カンプトテシンは30年以上も前から知られているが、抗腫瘍剤としての有用性が見出されたのは最近になってからである。この発見から導入までの時間差は主としてこれらの化合物の水溶性が極めて低いことによる。この有効な化合物の発見後約20年の間、投与を容易にする水溶性の高いカンプトテシンの発見に研究の方向は向けられた。
【0082】
研究者は投与のために薬の水溶性を高めるため、この親油性薬剤を水酸化ナトリウムと調合した。残念なことにこれらの調合物は基本的に不活性であり、またin vivoでは非常に毒性が高い。1980年代中頃になって、アルカリ性pH条件ではカンプトテシン誘導体は加水分解し、E環ラクトンが開環してカルボキシラートアニオンを生じることが発見された。この形の化合物はラクトン型の10分の1以下の抗腫瘍性しか示さず、また健康な細胞に対して非常に毒性が高いことが発見された。
【0083】
この発見以来、有効なラクトン型を保つ水溶性カンプトテシン誘導体の開発に多くの研究が行われてきた。これらの研究の途上で最近認可されたイリノテカン(CPT−11)やトポテカンが開発された。イリノテカンは、SN38(10−ヒドロキシ−7−エチルCPT)として知られる、高い活性を有する高親油性CPT誘導体の水溶性プロドラッグである。トポテカンはCPTの10−ヒドロキシ誘導体の9−ジメチルアミノエチル部分を有する。
【0084】
他の多くの抗腫瘍剤と同様、CPT誘導体の主な毒性は血液毒性及び消化管障害である。イリノテカンはしばしば投与量制限条件となる重い下痢や、好中球減少症、粘膜炎、他の消化管障害、脱毛、及び肝機能亢進をともなう。トポテカンの毒性も同様であるが、下痢は通常は重くない。
【0085】
カンプトテシンは、治療指数が低く、毒性副作用指数が高い薬剤として一般的に認識されている。カンプトテシンの毒性副作用を低減する防護剤を同時投与することにより、より安全かつ効果的な化学療法レジメンが与えられるであろう。これにより抗腫瘍薬の投与量を増やすことが可能であり、治療の成功の確率が大きくなる。
【0086】
9.白金錯体
白金錯体は、30年以上前にその抗腫瘍性が発見されて以来、多くの異なる種類の固体腫瘍に対する治療薬として開発が続けられてきた。シスプラチン及びカルボプラチンの2種類のこうした錯体が、単一の薬剤として、また複合療法において、睾丸、卵巣、肺、膀胱、及び他の臓器の腫瘍に対して今日広く用いられている。
【0087】
白金錯体の作用機序は広く研究されている。白金錯体はDNAに共有結合してDNAの機能を阻害することにより、直接的に細胞を殺すことが見出された。白金錯体はまたタンパク質に自由に結合し、このタンパク質に結合した白金がやはりDNAに作用するものと考えられている。
【0088】
シスプラチンの毒性の発現はカルボプラチンとは全く異なっている。シスプラチン療法においては累加的な投与量限定的腎毒性が普通に見られるが、カルボプラチンでは主たる毒性は求電子アルキル化剤に似た血液毒性である。シスプラチン及びカルボプラチンはいずれも、主にむかつきや嘔吐である消化管障害及び神経毒性作用をともなう。
【0089】
白金錯体はin vivoではそれほど代謝されないため、体内に存在する白金化学種は、ヒドロキシル化及びアコ化錯体を形成するための、水に対する錯体の反応性に応じて異なる。更に、白金錯体の大部分は腎排出によって身体から取り除かれるが、腎臓の酸性条件はこれらの不活性(新生物に対して)かつ毒性を有する化学種の形成に好都合である。特にシスプラチンの塩素原子は酸性条件下でヒドロキシル基やアコ部分によって容易に置換されるが、このことはこの薬にともなうしばしば重篤な腎毒性を説明する。
【0090】
シスプラチン及びカルボプラチンはいずれも高い親油性を有する化合物であり、細胞膜を容易に通過する。ヒドロキシル化型及びアコ化型は親油性が大幅に低いが(特に中性または若干アルカリ側のpHにおいて)、このことは薬剤のこれらの形態が一般に不活性であることを説明するものである。更に、シスプラチンはカルボプラチンと比較して大幅に速やかに除去されるが、このことは毒性の発現が異なることを説明するものである。
【0091】
白金錯体にともなう他の毒性としては、神経毒性、聴器毒性(特にシスプラチンの場合)、主にむかつきや嘔吐としての消化管障害などがある。
【0092】
10.他の薬剤
骨髄抑制による血液毒性、消化管障害、過敏症、腎毒性、肝毒性、粘膜炎などの同様の毒性は、ほとんどの抗腫瘍剤においてある程度見られる。全ての癌の治療プログラムは、患者の延命と同様、クオリティーオブライフの向上を目的としており、毒性の発現と別の可能性とは常に慎重にその優劣が判断される。
【0093】
従来の安全/防護策
一部の例外を除き、ほとんど全ての抗腫瘍薬の毒性を低減することにおいて、薬の毒性による症状を治療するための予防的かつ姑息的療法(多くの抗腫瘍剤の投与にともなうむかつきや嘔吐を抑えるための制吐薬の投与など)が主として行われてきた。
【0094】
抗腫瘍剤の毒性を低減するための他の薬が同時投与される場合もある。この種の予防的療法の古典的な例として、オキサアザフォスフォリン化学療法を受けている患者へのメスナ(2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム)の同時投与がある。アミフォスチンは現在、シスプラチンを投与している患者に投与してシスプラチンにともなう重篤な腎毒性を低減するために用いられている。他の予防手段としては、抗腫瘍薬の骨髄抑制によって減少した白血球及び血小板を補充するための輸血や、最近では、抑制された骨髄を刺激して更なる必要な細胞を産生させるためのコロニー刺激因子(CSF)の注入がある。他の予防的及び防止的手段も用いられてきたが抗腫瘍剤の毒性を低減するうえで大抵はほとんど、あるいはまったく効果がみられなかった。防護的効果を奏すると考えられた薬剤の毒性によって全ての治療を断念しなければならない場合もあった。
【0095】
オキサアザフォスフォリン薬であるイフォスファミド及びシフロフォスファミドとメスナとの併用は数年間にわたってある程度の成功を収めてきた。米国特許第4,220,660号(特許文献1)にはこれら及び他のアルキル化剤にともなう膀胱毒性の発現を低減することにおけるメスナの有用性について開示されている。米国特許第4,218,471号(特許文献2)には同じ目的、すなわち特定の求電子性アルキル化剤の尿毒性を低減することにおけるジメスナ(メスナジスルフィド)の有用性について開示されている。抗腫瘍剤と併用されてきた他の商業的に知られる薬剤として、メトトレキセート毒性を低減するために使用されるロイコボリンがある。
【0096】
ジメスナ、メスナ及びその誘導体の薬化学
ジメスナ(2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸ジナトリウム)(Disodium−2,2’−dithiobis ethane sulfonate)及びその誘導体は特定の抗腫瘍剤、すなわち特定の白金錯体薬剤のin vivoでの毒性を選択的に低減することが知られている。メスナ(2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム)(Sodium 2−mercaptethane sulfonate)はイフォスファミド及びシクロフォスファミドのアクロレイン関連膀胱上皮細胞毒性を低減するために数年来使用されており米国及び海外においてそうした使用が認可されている。
【0097】
ジメスナはシスプラチン化学療法による癌の治療を受けている患者に対する防護薬として米国で臨床第I相試験が現在始められており、前臨床段階の動物実験においてこうした使用における高い効果が既に証明されている。ジメスナは特定のカルボプラチン毒性に対しても非常に有効かつ安全な防護薬であることが研究により示され、他の白金錯体に対する防護薬としての可能性についても研究がなされている。
【0098】
ジメスナはメスナの生理学的自動酸化2量体である。しかし、ジメスナとメスナとは物理化学的性質において大きく異なり、有効性及び安全性の側面において異なる。
【0099】
これらの化合物の薬化学は、メスナの末端スルフヒドリル基が(及びこれよりも低い程度においてジメスナのジスルフィド結合が)、白金錯体の毒性代謝物質中において末端のヒドロキシまたはアコ部分の置換基として作用し、一般的なフリーラジカル捕獲剤として作用することを示している。
【0100】
ジメスナは、メスナと異なり、グルタチオンリダクターゼによる還元などにより代謝的に活性化されてその生物学的な有効性を発揮するものと考えられている。ジメスナは更に、恐らくはその分子安定性及び脱離チオール部分を有さないことによりメスナよりも大幅に低い毒性を示す。
【0101】
更に、ジメスナ及びメスナのいずれも、腎臓、消化管、及び恐らくは骨髄の細胞を除く多くの組織の細胞膜を通過しない。したがって式1にて表されるこれらの化合物は白金錯体の細胞毒性作用を大きく阻害するものではないが、メスナはジメスナと比較してより高い程度で白金錯体を不活化する。
【0102】
ジメスナ及びそのジスルフィド類似体及び誘導体は、特に経口投与される場合に、血中においてより安定的な反応性の低いジスルフィド形で多く存在する。したがって抗腫瘍剤を早過ぎる時期に臨床的に有意な程度で不活化することはなく、実際ある種の白金錯体の抗腫瘍活性を高める場合すらあることが示されている。
【0103】
血漿は弱アルカリ性であるため(pH〜7.3)、好ましく存在する化学種はより安定
なジスルフィド形である。このジスルフィドは、シスプラチンの末端塩素原子とも、カルボプラチンのシクロブタンジカルボキシラート部分とも容易には反応しない。このため抗腫瘍薬は標的癌細胞に対してその目的とする細胞毒性効果を与えることが可能である。白金錯体に対する作用機序についての仮説が多くの最近の文献において考察されている。
【0104】
更に、ジメスナ及びその類似体の多くは患者への投与において投与量が大きい場合においても非常に安全である。実際、静脈注射されるジメスナ(4,000mg/kgを1日1回、5日間連続で投与した場合、死亡したラットはなかった)は経口投与された普通の食塩よりも安全である(ラットにおけるLD50=3,750mg/kg)。また式1にて表されるこれらの化合物は非常に水溶性が高い(最大300g/mL)ため、有機溶媒や共溶媒と特別に調合する必要がなく、これらの防護薬を非経口または経口投与薬として実際的かつ簡易的に投与することが可能である。
【0105】
上述したように、血漿の弱アルカリ性環境の中で好ましく存在する構造はジメスナであることが報告されているのに対し、酸性pHでは還元型化学種であるメスナの方が好まれる。メスナは、遊離末端チオールを有するため、末端の脱離基の置換に関してジメスナよりも反応性が高い。
【0106】
関連する従来技術
ジメスナを使用した複合化学療法
この出願の譲受人は、ジメスナと各種白金錯体との併用、及び調合に関連する、以前に出願された多くの米国及び国際的な特許出願を所有するものである。
【0107】
譲受人の特許、及び特許出願では、ジメスナ及びその類似体、及び、一部においてメスナの類似体を、癌患者にチスプラチンやカルボプラチンとともに同時投与して用いるうえで有効な防護薬として特定している。シスプラチン及びカルボプラチンとの投与日程及び投与方法についてはこれらの引用文献及び当該技術分野の他の部分において特定されている。オキサアザフォスフォリン系抗腫瘍薬である、イフォスファミド及びシクロフォスファミドに対する防護薬としてのメスナの使用についても文献などに詳細に報告されている。逆に、メスナはシスプラチンとの併用には不適合であることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0108】
【特許文献1】米国特許第4,220,660号
【特許文献2】米国特許第4,218,471号
【発明の概要】
【0109】
本発明は、癌の化学療法において患者に投与される特定の抗腫瘍剤の毒性を低減するためのジメスナ及びその類似体及び誘導体(以後、「防護化合物」と呼ぶ)の使用に関する。防護化合物は以下の一般式にて示される。
【0110】
【化1】

【0111】
ただし、Rは水素、低級アルキルまたは、
【0112】
【化2】

【0113】
であり、R及びRはそれぞれ独立してSO、PO2−2+、またはPO2−2+であり、
及びRはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ、またはスルフヒドリルであり、
m及びnは独立して0,1,2,3または4であって、mまたはnが0である場合、Rは水素であり、
Mは水素またはアルカリ金属イオンである;もしくは、
薬学的に許容されるその塩であって、抗腫瘍剤がDNAのアルキル化剤である場合にはRは水素ではなく、抗腫瘍剤がシスプラチンである場合にはRは水素ではなくかつRとRとは異なる防護化合物の塩である。
【0114】
本発明は、以下の発明を開示する。
(1)抗腫瘍剤の神経毒性を防護又は低減するための薬剤であって、下記式(I)の化合物又は薬学的に許容可能なその塩で構成された防護又は低減剤。
【0115】
【化3】

【0116】
(ただし、Rは、水素、低級アルキル、または、
【0117】
【化4】

【0118】
であり、
及びRはそれぞれ独立してSO、PO2−2+、またはPO2−2+であり、
及びRはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ、またはスルフヒドリルであり、
m及びnは独立して、0、1、2、3または4であって、mまたはnが0である場合、Rは水素であり、
Mは水素又はアルカリ金属イオンであり、
前記防護又は低減剤はジメスナである。)
(2)抗腫瘍剤が、タキサン類からなる群より選択された少なくとも一種で構成され、前記1又は複数の抗腫瘍剤の主な副作用が神経毒性である(1)記載の薬剤。
(3)溶液又は懸濁液の形態である(1)記載の薬剤。
(4)非経口又は経口投薬形態である(1)記載の薬剤。
(5)抗腫瘍剤、及び前記抗腫瘍剤の神経毒性を防護又は低減するための薬剤で構成された薬学的調合物であって、前記防護又は低減剤が、下記式(I)又は薬学的に許容可能なその塩で構成された薬学的調合剤。
【0119】
【化5】

【0120】
(ただし、Rは、水素、低級アルキル、または、
【0121】
【化6】

【0122】
であり、
及びRはそれぞれ独立してSO、PO2−2+、またはPO2−2+であり、
及びRはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ、またはスルフヒドリルであり、
m及びnは独立して、0、1、2、3または4であって、mまたはnが0である場合、Rは水素であり、
Mは水素又はアルカリ金属イオンであり、
前記防護又は低減剤はジメスナである。)
(6)抗腫瘍剤が、タキサン類からなる群より選択された少なくとも一種で構成され、前記1又は複数の抗腫瘍剤の主な副作用が神経毒性である(5)記載の薬学的調合物。
(7)化合物と抗腫瘍剤との割合が、4:1〜5000:1である(5)記載の薬学的調合物。
(8)溶液又は懸濁液の形態である(5)記載の薬学的調合物。
(9)非経口又は経口投薬形態である(5)記載の薬学的調合物。
(10)神経毒性を誘導する抗腫瘍剤を受ける癌患者に対して、抗腫瘍剤と同時に又は別々にもしくは間欠的に投与するための防護又は低減剤であって、(1)に記載の薬剤で構成された防護又は低減剤。
(11)抗腫瘍剤が、タキサン類からなる群より選択された少なくとも一種で構成され、前記1又は複数の抗腫瘍剤の主な副作用が神経毒性である(10)記載の剤。
(12)非経口又は経口投薬形態である(10)記載の剤。
(13)抗腫瘍剤の神経毒性を防護又は低減するための薬物の製造における、(1)に記載の薬剤又は薬学的に許容可能なその塩の使用。
(14)抗腫瘍剤が、タキサン類からなる群より選択された少なくとも一種で構成され、前記1又は複数の抗腫瘍剤の主な副作用が神経毒性である(13)記載の使用。
【0123】
本発明は、また、以下の発明を開示する。
(1)抗腫瘍剤の神経毒性を防護又は低減するための薬剤であって、下記式(I)の化合物又は薬学的に許容可能なその塩で構成された防護又は低減剤。
【0124】
【化7】

【0125】
(ただし、Rは、水素、低級アルキル、または、
【0126】
【化8】

【0127】
であり、
及びRはそれぞれ独立してSO、PO2−2+、またはPO2−2+であり、
及びRはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ、またはスルフヒドリルであり、
m及びnは独立して、0、1、2、3または4であって、mまたはnが0である場合、Rは水素であり、
Mは水素又はアルカリ金属イオンである)
(2)抗腫瘍剤が、シスプラチンを除く白金類似物質からなる群より選択された少なくとも一種で構成された(1)記載の薬剤。
(3)白金類似物質が、カルボプラチン、オキザリプラチン、テトラプラチン、白金−DACH、CI−973、又はJM−216で構成された(2)記載の薬剤。
(4)防護又は低減剤が、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸ジナトリウムで構成された(1)記載の薬剤。
(5)溶液又は懸濁液の形態である(1)記載の薬剤。
(6)非経口又は経口投薬形態である(1)記載の薬剤。
(7)抗腫瘍剤、及び前記抗腫瘍剤の神経毒性を防護又は低減するための薬剤で構成された薬学的調合物であって、前記防護又は低減剤が、下記式(I)又は薬学的に許容可能なその塩で構成された薬学的調合剤。
【0128】
【化9】

【0129】
(ただし、Rは、水素、低級アルキル、または、
【0130】
【化10】

【0131】
であり、
及びRはそれぞれ独立してSO、PO2−2+、またはPO2−2+であり、
及びRはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ、またはスルフヒドリルであり、
m及びnは独立して、0、1、2、3または4であって、mまたはnが0である場合、Rは水素であり、
Mは水素又はアルカリ金属イオンである)
(8)抗腫瘍剤が、シスプラチンを除く白金類似物質からなる群より選択された少なくとも一種で構成された(7)記載の薬学的調合物。
(9)白金類似物質が、カルボプラチン、オキザリプラチン、テトラプラチン、白金−DACH、CI−973、又はJM−216で構成された(7)記載の薬学的調合物。
(10)防護又は低減剤が、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸ジナトリウムで構成された(7)記載の薬学的調合物。
(11)化合物と抗腫瘍剤との割合が、4:1〜5000:1である(7)記載の薬学的調合物。
(12)溶液又は懸濁液の形態である(7)記載の薬学的調合物。
(13)非経口又は経口投薬形態である(7)記載の薬学的調合物。
(14)抗腫瘍剤と、前記抗腫瘍剤の神経毒性を防護又は低減するための薬剤との薬学的組み合わせであって、前記防護又は低減剤が、下記式(I)の化合物又は薬学的に許容可能なその塩で構成された薬学的組み合わせ。
【0132】
【化11】

【0133】
(ただし、Rは、水素、低級アルキル、または、
【0134】
【化12】

【0135】
であり、
及びRはそれぞれ独立してSO、PO2−2+、またはPO2−2+であり、
及びRはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ、またはスルフヒドリルであり、
m及びnは独立して、0、1、2、3または4であって、mまたはnが0である場合、Rは水素であり、
Mは水素又はアルカリ金属イオンである)
(15)防護又は低減剤が、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸ジナトリウムで構成された(14)記載の薬学的組み合わせ。
(16)癌治療において使用するための(14)記載の薬学的組み合わせ。
(17)神経毒性を引き起こす抗腫瘍剤、及び下記式(I)の化合物又は薬学的に許容可能なその塩で構成され、癌患者に対して同時に又は別々に投与するために適切な組み合わせ。
【0136】
【化13】

【0137】
(ただし、Rは、水素、低級アルキル、または、
【0138】
【化14】

【0139】
であり、
及びRはそれぞれ独立してSO、PO2−2+、またはPO2−2+であり、
及びRはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ、またはスルフヒドリルであり、
m及びnは独立して、0、1、2、3または4であって、mまたはnが0である場合、Rは水素であり、
Mは水素又はアルカリ金属イオンである)
(18)抗腫瘍剤がシスプラチンを除く白金類似物質からなる群より選択された少なくとも一種で構成され、かつ化合物が2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸ジナトリウムで構成されている(17)記載の組み合わせ。
(19)神経毒性を誘導する抗腫瘍剤を受ける癌患者に対して、抗腫瘍剤と同時に又は別々にもしくは間欠的に投与するための防護又は低減剤であって、(1)に規定される薬剤で構成された防護又は低減剤。
(20)抗腫瘍剤が、シスプラチンを除く白金類似物質からなる群より選択された少なくとも一種で構成された(19)記載の剤。
(21)白金類似物質が、カルボプラチン、オキザリプラチン、テトラプラチン、白金−DACH、CI−973、又はJM−216で構成された(20)記載の剤。
(22)非経口又は経口投薬形態である(19)記載の剤。
(23)抗腫瘍剤の神経毒性を防護又は低減するための薬物の製造における、(1)に規定される薬剤又は薬学的に許容可能なその塩の使用。
(24)抗腫瘍剤が、シスプラチンを除く白金類似物質からなる群より選択された少なくとも一種で構成された(23)記載の使用。
(25)白金類似物質が、カルボプラチン、オキザリプラチン、テトラプラチン、白金−DACH、CI−973、又はJM−216で構成された(24)記載の使用。
(26)防護又は低減剤が、2,2’−ジチオビスエタンスルホン酸ジナトリウムで構成された(23)記載の使用。
【0140】
防護化合物の物理的、化学的、及び生化学的な防護特性や薬物動態学、及び、複数の構造的に異なる抗腫瘍剤と防護化合物と併用の既に証明されている有用性を考慮すれば、この式1の化合物は、同様の毒性代謝物質及び/または作用機序を有する抗腫瘍剤の毒性を低減するうえで有効であろう。特に、この防護化合物は上に列記した薬剤のほとんど全てとの使用において有用であり、抗腫瘍薬と防護剤との組み合わせが同時に投与されるかまたは別々に投与されるかによらず、また、患者への投与経路にも関係なく有用である。
【0141】
後述するように、好ましい投与方法には、防護化合物と所望の抗腫瘍剤(一種又は複数)との同時投与、及びこれらの薬剤の別々の投与のいずれも含まれる。抗腫瘍剤の好ましい投与経路は最も有用かつ実際的な経路であり、最も好ましくは静脈注射または輸液により、場合によって経口投与によるが、式1の化合物の投与は抗腫瘍剤の投与方法とは関係なく、経口または非経口のいずれであってもよい。各抗腫瘍剤と防護化合物の好ましい投与量についても後述する。
【0142】
したがって本発明の主たる目的は、ここに述べられるような、i)抗腫瘍剤、及びii)式1の防護化合物の有効量を投与することにより、癌患者を治療するための新規な方法を提供することにある。
【0143】
本発明の別の目的は、癌の化学療法として患者に投与される抗腫瘍剤の毒性をin vivoにて低減するための方法を提供することにある。
【0144】
本発明の更なる目的は、癌患者を治療するための改善されたより安全な方法を提供することにある。
【0145】
他の目的も以下の説明文を読むことによって明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0146】
ここに述べられる好ましい実施形態は網羅的なものとしたり、開示される形態そのものに発明の範囲を限定することを意図するものではない。これらの実施形態は、当業者にその教示するところの理解を可能ならしめるべく、発明の原理、その応用ならびに実際的使用を最もよく説明するように選択、記述されるものである。
【0147】
癌患者の治療に用いられる全ての化学療法レジメンの主たる目的は、1)全ての新生物細胞を殺すことにより患者を治癒させ、2)新生物の成長及び転移を停止させることにより癌の寛解を誘導し、3)姑息的治療を与えることにより治療不能な新生物を有する患者のクオリティーオブライフを向上させ、4)上記を達成するうえで患者の全体的な健康及びクオリティーオブライフに対するリスクを最小に留めることでなければならない。
【0148】
本発明は癌の化学療法における上記目的を達成すべく構成された調合物ならびにその使用方法に関するものである。現在用いられているほとんど全ての抗腫瘍薬にともなう毒性副作用が多くの化学療法レジメンにおいて良好な結果を得ることを困難にしていることはよく知られている。患者の健康な正常細胞に与える薬の毒性作用を低減するために、患者に投与される抗腫瘍薬の投与量を減らすか、場合によっては投与を中止せざるを得ないことがしばしばある。投与量を減らしたり、投与を中止することが治療の成否に対し直接悪い方向に影響することは明らかである。
【0149】
本発明は以下の化学式1にて表される化合物;
【0150】
【化15】

【0151】
(ただし、Rは水素、低級アルキルまたは、
【0152】
【化16】

【0153】
であり、R及びRはそれぞれ独立してSO、PO2−2+、またはPO2−2+であり、
及びRはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ、またはスルフヒドリルであり、
m及びnは独立して0,1,2,3または4であって、mまたはnのいずれかが0である場合、Rは水素であり、
Mは水素またはアルカリ金属イオンである)、
もしくは、薬学的に許容可能なその塩(ただし、抗腫瘍剤がDNAのアルキル化剤である場合にはR1は水素ではなく、抗腫瘍剤がシスプラチンである場合にはR1は水素ではなくかつR2とR4とは異なる)と、1以上の抗腫瘍剤との調合物を提供する。
【0154】
上述したように、「抗腫瘍剤」とは新生物疾患を治療する目的で治療薬として患者に投与される化合物を意味するものである。式1の化合物とともに調合して使用に供することが可能な抗腫瘍剤としては以下のものが含まれる。
【0155】
1.フルオロピリミジン類、2.ピリミジンヌクレオシド類、3.プリン類、4.白金類似物質、5.アントラサイクリン類/アントラセンジオン類、6.ポドフィロトキシン類、7.カンプトテシン類、8.ホルモン及びホルモン類似体、9.ビンカアルカロイド類、10.タキサン類、11.抗ホルモン剤、12.葉酸代謝拮抗剤、13.抗微小管剤、14.アルキル化剤(古典または非古典)、15.代謝拮抗剤、16.抗生物質、17.トポイソメラーゼ阻害剤、18.各種細胞毒性物質。
抗腫瘍剤の構造
【0156】
【化17】

【0157】
【化18】

【0158】
【化19】

【0159】
【化20】

【0160】
【化21】

【0161】
【化22】

【0162】
【化23】

【0163】
【化24】

【0164】
【化25】

【0165】
【化26】

【0166】
上記の分類には2以上の分類群に分類することが可能な抗腫瘍剤が含まれる点に留意されたい。実際、上記分類群の内の3つ、場合によっては4つに分類することが可能な化合物もある。上に列記したものはあくまで説明を目的としたものであり、限定的もしくは全てを包含するものとして解釈されるべきではない。
【0167】
式1の化合物は多くの抗腫瘍薬の一般的かつ主要な毒性を低減するうえで有用である。式1の化合物はまた、特に同様の毒性化学種を生成する薬剤などの他の薬剤の毒性を低減するうえでも同様に有用であることが確実に示されるであろう。一般に式1の化合物は、1以上のヒドロキシ、アコ、アジリジニウム、またはin vivoで強力な求核物質によって置換される他の部分を有するあらゆる抗腫瘍剤の毒性を低減するうえで有用であると考えられる。
【0168】
抗腫瘍剤と式1の化合物との調合物は本発明の好ましい実施形態の1つである。この実施形態では抗腫瘍剤と式1の化合物とは1つの溶液、懸濁液、または他の投与可能な形態において組み合わされ、後の患者への投与のためにパッケージとされる。
【0169】
本発明の第2の実施形態は、式1の化合物と適当な溶媒との調合物(非経口調合物)、または純粋な薬として又は担体と調合した調合物(経口調合物)に関するものである。抗腫瘍剤は、式1の調合物とは別の調合物にパッケージされる。この2つの調合物は再構成して抗腫瘍剤と同時に投与されるのに適合するように構成される。全ての実施形態において有効量の式1の化合物の投与により抗腫瘍剤の望ましくない毒性が低減される。
【0170】
本発明の第3の実施形態は、式1の化合物を抗腫瘍剤とは別に投与することに関するものである。式1の化合物の送達は抗腫瘍剤に先だって行われ、抗腫瘍剤の毒性を低減する。
【0171】
本発明の第4の実施形態は、抗腫瘍剤の投与後に式1の化合物を送達して抗腫瘍剤の毒性を低減することに関するものである。
【0172】
本発明の第5の実施形態は、抗腫瘍剤の投与の後に式1の化合物を間欠的に投与することに関するものである。この送達経路は式1の化合物を最初に投与する上記の他のスケジュールのいずれとも組み合わせることが可能である。
【0173】
全ての実施形態において、「有効量」なる語は患者に最良の治療成績及び利便性を与える薬の投与スケジュール及び投与経路を意味する医学技術用語として理解される。抗腫瘍剤及び式1の化合物の投与による毒性の低減に関連して、式1の化合物の「有効量」とは抗腫瘍剤の毒性副作用の発現を低減する薬剤の量として定義される。多くの場合、有効量の範囲は、臨床腫瘍学者によって、投与スケジュール、薬物動態学的性質、及び患者の体重や体表面積を用いて推定され、防護薬のピーク濃度と抗腫瘍剤の毒性化学種のピーク濃度とが最大量にて重なり合うように投与量及びタイミングが調整される。
【0174】
したがって、抗腫瘍剤の投与のタイミングに対する式1の化合物の投与のタイミングは、投与量、スケジュール、投与経路、及び使用される抗腫瘍剤の個々の薬物動態学に基づいて変わる。最も望ましい投与量比、タイミング、及び投与される薬剤の全体量は、投与される抗腫瘍剤の種類、その薬剤にともなう毒性、患者の全体的な状態及び抗腫瘍薬の副作用に対する患者の感受性、抗腫瘍剤の解毒における式1の化合物の効率、及び他の因子に依存している。
【0175】
式1の化合物の有効量の投与により、抗腫瘍剤の毒性は低減する。式1の化合物の投与量及び投与のタイミングは、常に、化学療法レジメンの全体を通じて患者の安全が最大に図られるようなものにされる。毒性の低減及び患者の安全の目的を達成するうえでの式1の化合物の有効性は投与スケジュールにある程度依存しており、式1の化合物が併用される抗腫瘍剤及び抗腫瘍剤のクラスのそれぞれについて典型的なスケジュール及び投与量比を幾つか説明する。
【0176】
(抗腫瘍剤と式1の化合物との共調合)
本発明の第1の実施形態は、抗腫瘍剤と式1の化合物との組み合わせを同じ薬学的調合物中に用いることを含む。抗腫瘍剤と式1の化合物との共調合の主たる利点は、薬剤師及び看護婦によって再構成が容易かつ高い利便性にて行える点、及び患者への投与が容易である点である。難点としては、式1の化合物と抗腫瘍剤との反応が早過ぎる時期に起きることにより抗腫瘍剤が早過ぎる段階で不活化される可能性、及び体内における薬のサイクル時間が異なるために毒性が低減されない可能性がある点がある。抗腫瘍剤の早過ぎる不活化の可能性が懸念される場合、2つの化合物は別々に調合されて患者に投与される。
【0177】
シスプラチンとジメスナの組み合わせが関与する調合成分の早過ぎる反応を防止するために用いられる安全策の一例を、先行技術から採用することができる。式1の化合物のジスルフィドまたはスルフヒドリル部分に有利となるよう、塩素基が除去されることを防止するために調合物には更なる塩素イオンが例として0.9%塩化ナトリウム溶液などの形で加えられる。調合物の完全性を保護するための他の安全策の例があることは当業者にとって明らかであろう。
【0178】
式1の化合物と抗腫瘍剤との共調合は、意図される調合物の送達経路に応じて、幾つかの形態のうちのいずれかをとることが可能である。本発明の目的のため、非経口、局所、及び経口調合物について説明する。
【0179】
典型的な非経口調合物においては、2つの化合物は送達ビヒクルとしての適当な溶媒に溶解もしくは懸濁される。薬学的に許容可能な溶媒は当該技術分野においてはよく知られており、薬学的に許容可能な各種の溶媒への式1の化合物及び抗腫瘍剤の溶解度を知ることにより、調合の熟練者により好ましい調合物中の両化合物の最大濃度を決定することが可能である。所望の送達形態が溶液である場合、必要に応じて1以上の共溶媒を使用して化合物を完全に溶解する。この溶液または懸濁液に賦形剤を加えて調合物に薬剤学的な美麗さを与えることが可能である。
【0180】
多くの調合物において最も好ましい溶媒は、比較的毒性がなく、送達が容易である水である。大部分の式1の化合物の溶解度は少なくとも300mg/mlであるため、抗腫瘍剤の水への溶解度が主要な溶媒としての水の有用性を決定する。遊離塩基の塩として投与される多くの抗腫瘍剤や、多くのアルキル化剤、白金錯体、ヌクレオシド、プリンなどの場合におけるように、所望量の抗腫瘍剤と式1の化合物とが完全に水に溶ける場合には水が好ましい溶媒である。上述したように、調合物成分の早過ぎる段階での反応は確実に防止されなければならない。懸濁液の投与が好ましい場合、溶媒中への化合物の溶解度は重要ではあるが溶液を投与する場合の溶解度ほどには重要ではない。
【0181】
経口投与が望ましい場合、適当な担体が必要である。経口送達ビヒクルの好ましい形態としては、充填カプセル、ピル、カプレット、経口溶液及び懸濁液、錠剤や他の一般的な経口投与の形態が含まれる。充填カプセルには、式1の化合物の溶液または懸濁液を、抗腫瘍剤とともに、または抗腫瘍剤なしで入れることが可能である。非経口調合物における溶解度及び溶媒の選択に関する上記の開示は経口調合物にもあてはまる。
【0182】
局所的調合物の場合、好ましい形態としては、ローション、クリーム、溶液、懸濁液、または局所的に用いることが可能な他の形態が含まれる。局所的に用いられる抗腫瘍剤として現在米国内で使用が認められている抗腫瘍剤はフルオロウリジン(5−FU)のみであるが、特定の抗腫瘍剤と式1の化合物との調合物はある種の皮膚癌に対して有効である可能性が高い。
【0183】
多くの抗腫瘍剤の好ましい投与量は可変であり、腫瘍の種類、治療レジメンに含まれる他の薬剤、患者の身長、患者の体重、患者の年齢、及び場合により患者の性別に基づいている。式1の化合物の有効性は、送達される両化合物の量にある程度依存しているため、好ましい調合物を式1の化合物と抗腫瘍剤との重量比にて説明する。各調合物に対する好ましい溶媒も述べる。
【0184】
【表2】

【0185】
【表3】

【0186】
表1は各種の抗腫瘍剤に対する式1の化合物の投与量比の好適な範囲を示したものである。最も好ましい投与量比はそれぞれの場合において多くの因子に依存して変化するが、最も重要な目的は患者の安全である。
【0187】
調合物の完全性を維持するための方策も講じられ、式1の化合物と抗腫瘍剤との早過ぎる段階での反応が防止される。講じられた予防策にも関わらず、調合物中の化合物が反応する可能性がある場合、これらの化合物は別々に調合されて投与される。
【0188】
(式1の化合物の調合)
式1の化合物は、抗腫瘍剤の投与とは別に調合して投与することが可能である。式1の化合物の非経口調合物を製造するうえで好ましい溶媒は水である。経口調合物においても、何らかの溶媒が使用される場合には、水が好ましい主溶媒として用いられる。
【0189】
任意の与えられた非経口調合物中の式1の化合物の濃度は、所望の最終形態によって決められる。最終形態が溶液である場合、式1の化合物の濃度の上限は、選択される一種又は複数の溶媒中への式1の化合物の最大溶解度である。最終形態が懸濁液である場合、濃度をより高くすることが可能である。
【0190】
経口投与形態では、投与量中の式1の化合物の全体量は、推奨される投与量が都合よく投与されるような量であることが好ましい。経口投与量中に含まれる式1の化合物の量を決定する主要な因子は、送達ビヒクルに必要とされる大きさである。
【0191】
式1の化合物の非経口及び経口調合物の全ては、本発明によって教示される方法に基づいて患者に投与されるように構成されている。式1の化合物の非経口及び経口調合物の一般的な例を以下に示す。最も好ましい式1の化合物は、ジメスナ、ジメスナのジスホスホネート類似体(ジメホス)、Rがスルホン酸塩であり、Rがホスホン酸塩であるメスナの異質2量体(メスナホス)、S−メチルメスナ、及び、R及びRの一方あるいは両方がヒドロキシでありm及びnが少なくとも1であるような類似体(ヒドロキシメスナ)である。これらの最も好ましい化合物の全ては少なくとも200mg/mlの水に対する溶解度を有するが、中でもヒドロキシ誘導体が最大の水への溶解度を有する。
【0192】
式1の化合物の調合物は更に、薬学的に許容可能な賦形剤、担体、及び/または希釈剤を含むことが可能である。調合物に加えられるそれぞれの更なる物質の組成及び量は、所望の送達径路、投与速度、調合物投与後の薬剤送達のタイミング、所望の最終濃度や他の因子に応じて異なる。多くの調合物に含まれる好ましい賦形剤の1つはpH調整化合物であり、通常は薬学的に許容可能な酸または塩基である。式1の化合物の最も好ましい調合物を以下の具体例において説明する。
【0193】
(毒性を低減するための式1の化合物の使用)
本発明は更に、多くの抗腫瘍薬の望ましくない毒性副作用を低減するための式1の化合物の使用に関する。抗腫瘍剤の望ましくない毒性作用の大部分については上に述べた。
【0194】
上述したように、多くの抗腫瘍剤が、所望の細胞毒性作用及び望ましくない健康な正常細胞への毒性作用の両方を発現するのには幾つかの異なる機序がある。上記の抗腫瘍剤の1つと式1の化合物とを併せて投与することにより抗腫瘍剤にともなう毒性副作用を低減、場合によっては消失させることが可能である。更に、式1の化合物の薬理学的な性質のため、望ましくない毒性の低減は、標的新生物細胞に対する抗腫瘍剤の活性において同様な低下をともなわない。
【0195】
最大の効果を得るためには、式1の化合物は、抗腫瘍剤及びその代謝産物と反応するうえで適当な濃度の式1の化合物が体内に存在するように投与されなければならない。式1の化合物の投与の好ましいタイミングは、特定の抗腫瘍剤の薬理学的な性質に応じて異なり、一般に抗腫瘍剤投与の約1分前〜投与の約1時間前である。この時、式1の化合物の最も好ましい最初の投与径路は、1回の静脈注射によるものであり、抗腫瘍剤の投与開始前15〜30分に投与される。
【0196】
上の表1に好ましい投与量比を示した。これらの比は、式1の化合物及び抗腫瘍剤の最初の投与径路の全てに適用することが可能であり、2つの化合物が同時に投与されるかあるいは時間差をもって投与されるかに関わらず、また、2つの化合物が同じ調合物として投与されるかあるいは別の調合物として投与されるかに関わらず適用することが可能である。
【0197】
毒性低減の作用機序が分かっている、もしくは仮説が立てられている場合、式1の化合物は抗腫瘍剤の望ましくない副作用毒性を末端の脱離基を置換することにより低減するものと考えられる。特に影響されやすい脱離基としては、式1の化合物のスルフヒドリル部分(及びこれほどではないがジスルフィド部分)により代表される、中程度ないしは強力な求核剤によって置換される官能基が含まれる。
【0198】
多くの場合において脱離基は、ヒドロキシ部分、アコ部分、アジリジニウムイオン、及び他の置換可能なフリーラジカル型の部分である。多くの場合、これらの部分を有する抗腫瘍剤の代謝物質は、抗腫瘍活性をほとんどあるいは全く有さず、健康な細胞に対する望ましくない毒性副作用を発現する。このような場合、式1の化合物のスルフヒドリルまたはジスルフィドによる末端脱離基の置換により、体内から速やかに除去される、毒性のないチオエーテル部分を生じる。
【0199】
別の一実施形態では、抗腫瘍剤の投与後、間欠的に式1の化合物を投与する。こうした投与法は抗腫瘍剤の半減期が長い場合や多段階的である場合に特に有効であるようである。式1の化合物は体内から速やかに消失するため(t1/2>90分)、抗腫瘍剤の投与後に所定の時間間隔にて式1の化合物を投与することにより、遅発性の副作用に対する長期的な防護策が与えられる。この長時間に及ぶ防護は、アントラサイクリン、白金類似体、ビンカアルカロイド、タキサン、及び長時間にわたって相当量が体内に残存する(例 t1/2>24時間)他の薬剤などの抗腫瘍剤の場合に極めて有利である。
【0200】
2種類以上の抗腫瘍剤が同時もしくはほぼ同時に投与される複合療法は、式1の化合物の投与において特別に考慮すべき点を与える。式1の化合物の極めて低い毒性のため、しばしば10gを上回る大きな投与量を1回の投与で患者に与えることが可能である。複合抗腫瘍剤の副作用の低減は、個々の薬剤の薬剤動態学、及び各薬剤の置換可能な脱離基の求電子親和性に依存しているものと考えられる。
【0201】
式1の化合物の有効量を患者に与える際の最も重要な因子は、防護剤の血漿中のピーク濃度を抗腫瘍剤の毒性化学種のピーク濃度とともに最大化することである。この曲線は実際、血流中の活性薬剤の濃度を時間の関数として示した、時間に対する濃度のグラフである。式1の化合物のピーク濃度と、抗腫瘍剤の毒性化学種のピーク濃度とが重なる好ましい濃度曲線の典型例を下の表3に示した。好ましくないピーク濃度曲線の一例を表4に示した。
【0202】
【表4】

【0203】
【表5】

【0204】
各薬剤の有効量及び投与のタイミングを確実に予測するために市販のならびに多くの他の抗腫瘍薬について典型的な時間/濃度曲線が得られている。この調査により、臨床腫瘍学者は個々の患者に対するより良い治療のコースを決定することが可能である。特に複合化学療法においては、各薬剤の最大効果を確実に得るため、及び累加的な薬剤毒性のリスクを相応じて低減するために、異なる時間/濃度曲線を有する薬剤を選択することが望ましいことがしばしばある。腫瘍学の分野においては特定の薬剤の受け容れられている治療値は、曲線下面積(AUC)により示される。これは時間/濃度曲線の下の部分を指す。この曲線の下の面積が大きいことは薬剤動態学的な見地から見てより大きな治療値に相当する。
【0205】
式1の化合物を患者に投与することにおける目的は、抗腫瘍剤の毒性化学種のピーク濃度と式1の化合物のピーク濃度とをできるだけ一致させることである。抗腫瘍剤のピーク濃度と式1の化合物のピーク濃度とを厳密に一致させることにより最大の解毒効果を得ることが可能である。市販の抗腫瘍剤の全てについてその薬剤動態学が分かっているかあるいは予測価が得られているため、臨床腫瘍学者は式1の化合物のタイミング及び投与量を調整して最適の結果を得ることが可能である。
【0206】
式1の化合物の有効量を投与するうえで投与量比もまた、腫瘍学者にとって評価すべき重要な因子である。表2に示した投与量比は医師にガイドラインを与えることを目的としたものであり、実際の投与量比及び投与量は患者の治療の進行にしたがってケースバイケースで設定される。
【0207】
個々の治療レジメンは、初期においては予め定められた投与タイミング及び投与量に従うものの、抗腫瘍剤の毒性副作用によるリスクを低くしつつ最大の治療効果を得るために腫瘍学者によってしばしば調整される。多くの場合において防護剤のタイミングの変更及び/又は防護剤の投与量の増大により、抗腫瘍剤の投与量を減らすことを避けることが可能である。患者が引き続き高い治療投与量にて抗腫瘍剤の投与を受けることが可能であることにより、治療が成功する確率は高くなる。
【0208】
本発明はその好ましい一実施形態において、cis−ジクロロジアンミン白金と2,2’−ジチオ−ビス−エタンスルホン酸塩とを同じ調合物中に含む、滅菌された水性調合物の調製及び投与を行う。
【実施例】
【0209】
以下の例は請求される発明を実施するために選択された態様を示したものであり、明細書及び特許請求の範囲をいかなる意味においても限定するものとして解釈されるべきものではない。
【0210】
実施例1
2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩の調製
ラマイア(Lamaire)及びレイジャー(Reiger)(Lamire and Reiger,J.Org.Chem.,26,1330−1,1961)によって以前に報告されているように、2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩は2−メルカプトエタンスルホン酸塩を等モル量のヨウ素により水中で酸化することによって調製される。
【0211】
実施例2
2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩の安定性
室温における2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩の安定性をpH1.5〜9.0の範囲で求めた。2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩は上記の方法によって製造され、pH1.5〜9.0の範囲において非常に安定であることが示された。
【0212】
酸性及び塩基性の水性媒質中における2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩の安定性を求めるために以下の実験を行った。典型的な実験においては、50mgの2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩(上述の方法により製造した)を1mlの水に溶かし、1規定の塩酸水溶液を加えることによりpHを1.5,2.0,3.0,4.0,5.0及び6.0に調整するか、または、1規定の水酸化ナトリウム水溶液を加えることによりpHを8.0に調整した。この反応混合物を室温で24時間攪拌し、減圧下で水を除去し、スペクトルグレードの重水に溶かし、プロトンNMRスペクトルを記録した。開始物質に相当する1つのピークがNMRスペクトル上に見られた。他のピークは見られなかった。
【0213】
pH1.5における2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩の安定性を、反応混合物を10分間100℃に加熱することにより更に調べた。2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩の加熱によりプロトンスペクトルに変化は見られなかった(pH1.5)。これらのデータは、2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩はpH1.5〜9.0において水溶液中で安定であることを示している。
【0214】
実施例3
シスプラチン及び2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩を含む滅菌溶液を調製するための方法#1
この実施例はシスプラチン及び2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸ジナトリウムを含む滅菌溶液を調製するための一方法を詳細に述べるためのものである。この実施例においては、シスプラチンとcis−ジクロロジアンミン白金とは互換可能に用いられる。この実施例において、「約」とは±1%の範囲を含むものとする。
【0215】
工程1 U.S.P.グレードの塩化ナトリウム(NaCl、ヴィーダブリューアールサイエンティフィック(VWR Scientific)社より購入)を、滅菌した注射可能な水にNaClの最終濃度が0.9重量%となるように溶かす。この、滅菌した注射可能な0.9%塩化ナトリウム溶液に適当な量の純粋な塩酸(HCl、99.999% アルドリッチケミカル社(Aldrich Chemical Company)より購入)を加えて、約2.0〜6.0の最終pHとする。
【0216】
工程2 1重量部の純粋なシスプラチン(99.999% アルドリッチケミカル社より購入)を工程1の混合物に加える。このシスプラチンを室温にて約60〜90分間攪拌(1500〜2500rpm)して完全に溶かす。
【0217】
工程3 15重量部の2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸ジナトリウム(上記の実施例1において調製した)を工程2の混合物に加える。この混合物を溶質が完全に溶けるまで攪拌し、純粋な塩酸(99.999% アルドリッチケミカル社より購入)を加えて最終pHを約pH2.0〜pH6.0の範囲のpHに調整する。
【0218】
工程4 工程3の溶液を滅菌0.22ミクロンフィルター(ヴィーダブリューアールサイエンティフィック社より入手)を通じた濾過によって滅菌する。
【0219】
工程5 工程4の滅菌溶液を滅菌注射バイアルに保存する。各バイアルは注入溶液1ml当たり約0.9mgのシスプラチン及び約14.3mgの2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩を含む。
【0220】
実施例4
シスプラチン及び2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩を含む滅菌溶液を調製するための方法#2
この実施例はシスプラチン及び2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸ジナトリウムを含む滅菌溶液を調製するための別の一方法を詳細に述べるためのものである。この実施例においては、シスプラチンとcis−ジクロロジアンミン白金とは互換可能に用いられる。この実施例において、「約」とは±1%の範囲を含むものとする。
【0221】
工程1 U.S.P.グレードの塩化ナトリウム(NaCl、ヴィーダブリューアールサイエンティフィック社より購入)を、滅菌した注射可能な水にNaClの最終濃度が0.9重量%となるように溶かす。
【0222】
工程2 2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸ジナトリウム(上記の実施例1において調製したものを15重量部)を工程1から得られた、滅菌した注射可能な0.9%NaCl溶液の混合物に加える。この2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩を室温にて攪拌(1500〜2500rpm)して完全に溶かす。これは室温で約5〜10分かけて行う。この2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩溶液のpHを純粋な塩酸(純度99.999%)を加えることにより約pH2.0〜pH6.0の範囲のpHに調整する。
【0223】
工程3 純粋なシスプラチン(純度99.999%)を工程2の溶液に加える(1重量部)。この混合物を溶質が完全に溶解するまで攪拌し、純粋な塩酸(99.999%)を加えることにより最終pHを約pH2.0〜pH6.0の範囲のpHに調整する。
【0224】
工程4 工程3の溶液を滅菌0.22ミクロンフィルター(ヴィーダブリューアールサイエンティフィック社より入手)を通じた濾過によって滅菌する。
【0225】
工程5 工程4の滅菌溶液を滅菌注射バイアルに保存する。各バイアルは注入溶液1ml当たり約1.0mgのシスプラチン及び約14.3mgの2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩を含む。
【0226】
実施例5
シスプラチン及び2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩を含む滅菌溶液を調製するための方法#3
この実施例はシスプラチン及び2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸ジナトリウムを含む滅菌溶液を調製するための別の一方法を詳細に述べるためのものである。この実施例においては、シスプラチンとcis−ジクロロジアンミン白金とは互換可能に用いられる。この実施例において、「約」とは±1%の範囲を含むものとする。
【0227】
工程1 適当な量の純粋な2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸ジナトリウム(実施例1において調製したもの)を、滅菌した注射可能な水に溶かして濃度を15.0mg/mlとする。
【0228】
工程2 U.S.P.グレードの塩化ナトリウム結晶(NaCl、ヴィーダブリューアールサイエンティフィック社より購入)を工程1の溶液に加え、NaClの最終濃度を0.9重量%とする。
【0229】
工程3 工程2の2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩とNaClとの溶液のpHを、純粋な塩酸(純度99.999%)(アルドリッチケミカル社より購入)を加えることにより約pH2.0〜pH6.0の範囲に調整する。
【0230】
工程4 所定量の純粋なシスプラチン(純度99.999%)を工程3の溶液に加え、最終濃度をシスプラチン約1.0mg/mlとする。
【0231】
工程5 工程4の溶液を滅菌0.22ミクロンフィルターを通じた濾過によって滅菌する。
【0232】
工程6 工程5の滅菌溶液を滅菌注射バイアルに保存する。各バイアルは注入溶液1ml当たり約1.0mgのシスプラチン及び約14.3mgの2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩を含む。
【0233】
実施例6
シスプラチン及び2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩を含む滅菌溶液を調製するための方法#4
この実施例はシスプラチン及び2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸ジナトリウムを含む滅菌溶液を調製するための別の一方法を詳細に述べるためのものである。この実施例においては、シスプラチンとcis−ジクロロジアンミン白金とは互換可能に用いられる。この実施例において、「約」とは±1%の範囲を含むものとする。
【0234】
工程1 U.S.P.グレードの塩化ナトリウム(NaCl、ヴィーダブリューアールサイエンティフィック社より購入)を、滅菌した注射可能な水にNaClの最終濃度が0.9重量%となるように溶かす。
【0235】
工程2 このNaCl溶液のpHを、99.999%の純粋な塩酸(アルドリッチケミカル社より購入)を加えることにより約2.0〜6.0の範囲に調整する。
【0236】
工程3 適当な量の純粋なシスプラチン(純度99.999%)(アルドリッチケミカル社より購入)を工程2で得られた溶液に加え、室温で約60〜90分間攪拌して(1500〜2500rpm)完全に溶かす。
【0237】
工程4 次に工程3の溶液に、30重量部の2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸ジナトリウム(実施例1において調製したもの)を加える。この2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩とシスプラチンとの混合物を室温にて攪拌して完全に溶かす。
【0238】
工程5 この2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸ジナトリウムとシスプラチンとの溶液のpHを、純粋な塩酸(純度99.999%)(アルドリッチケミカル社より購入)を加えることにより約2.0〜6.0の範囲の最終pHに調整する。
【0239】
工程6 工程5の溶液を滅菌0.22ミクロンフィルター(ヴィーダブリューアールサイエンティフィック社より入手)を通じた濾過によって滅菌する。
【0240】
工程7 工程6の滅菌溶液を滅菌注射バイアルに保存する。各バイアルは注入溶液1ml当たり約0.5mgのシスプラチン及び約12.9mgの2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩を含む。
【0241】
実施例7
シスプラチン及び2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩を含む滅菌溶液を調製するための方法#5
この実施例はシスプラチン及び2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸ジナトリウムを含む滅菌溶液を調製するための別の一方法を詳細に述べるためのものである。この実施例においては、シスプラチンとcis−ジクロロジアンミン白金とは互換可能に用いられる。この実施例において、「約」とは±1%の範囲を含むものとする。
【0242】
工程1 U.S.P.グレードの塩化ナトリウム(NaCl、ヴィーダブリューアールサイエンティフィック社より購入)を、滅菌した注射可能な水にNaClの最終濃度が0.9重量%となるように溶かす。
【0243】
工程2 工程1のNaCl溶液に所定量の純粋な塩酸(純度99.999%)(アルドリッチケミカル社より購入)を加えることにより、約2.0〜6.0の範囲の最終pHを得る。
【0244】
工程3 所定量のU.S.P.グレードの塩化カリウム結晶(KCl、ヴィーダブリューアールサイエンティフィック社より購入)を、工程2の溶液(0.9%NaCl)に溶かし、塩化カリウムの最終濃度を0.1重量%とする。
【0245】
工程4 工程3の溶液に1重量部の純粋なシスプラチン(純度99.999%)を加え、室温で約60〜90分間攪拌して(1500〜2500rpm)完全に溶解する。
【0246】
工程5 30重量部の2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸ジナトリウム(実施例1において調製したもの)を工程4の溶液に加える。この混合物を溶質が完全に溶けるまで攪拌し、純粋な塩酸(純度99.999%)(アルドリッチケミカル社より購入)を加えることにより約pH2.0〜pH6.0の範囲の最終pHに調整する。
【0247】
工程6 工程5の溶液を滅菌0.22ミクロンフィルター(ヴィーダブリューアールサイエンティフィック社より入手)を通じた濾過によって滅菌する。
【0248】
工程7 工程6の滅菌溶液を滅菌注射バイアルに保存する。各バイアルは注入溶液1ml当たり約1.0mgのシスプラチン及び約28.7mgの2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩を含む。
【0249】
実施例8
シスプラチン及び2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩を含む滅菌溶液を調製するための方法#6
この実施例はシスプラチン及び2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸ジナトリウムを含む滅菌溶液を調製するための別の一方法を詳細に述べるためのものである。この実施例においては、シスプラチンとcis−ジクロロジアンミン白金とは互換可能に用いられる。この実施例において、「約」とは±1%の範囲を含むものとする。
【0250】
工程1 U.S.P.グレードの塩化ナトリウム(NaCl、ヴィーダブリューアールサイエンティフィック社より購入)を、滅菌した注射可能な水にNaClの最終濃度が0.9重量%となるように溶かす。この滅菌した注射可能な0.9%塩化ナトリウム溶液に適当な量の純粋な塩酸(純度99.999%)を加え、約2.0〜6.0の範囲の最終pHを得る。
【0251】
工程2 工程1の溶液に純粋なマンニトール(純度99%以上、アルドリッチケミカル社より購入)を溶かし、マンニトールの濃度を1.0重量%とする。
【0252】
工程3 1重量部の純粋なシスプラチン(アルドリッチケミカル社より購入、純度99.999%)を工程2の混合物に加える。室温にて攪拌して(1500〜2500rpm)シスプラチンを完全に溶解する。これは室温にて60〜90分間かけて行われる。
【0253】
工程4 次に、30重量部の2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸ジナトリウム(実施例1において調製した)を工程3の混合物に加える。この混合物を溶質が完全に溶解するまで攪拌し、純粋な塩酸(純度99.999%)(アルドリッチケミカル社より購入)を加えることにより最終pHを約pH2.0〜pH6.0の範囲のpHに調整する。
【0254】
工程5 工程4の溶液を滅菌0.22ミクロンフィルター(ヴィーダブリューアールサイエンティフィック(VWR Scientific)社より入手)を通じた濾過によって滅菌する。
【0255】
工程6 工程5の滅菌溶液を滅菌注射バイアルに保存する。各バイアルは注入溶液1ml当たり約0.5mgのシスプラチン及び約12.9mgの2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩を含む。
【0256】
実施例9
2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩とシスプラチンとの調合物の安定性
この実施例は2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩とシスプラチンとの調合物の安定性を調べるためのものである。
【0257】
1.最初に2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩とシスプラチンとの調合物を実施例3〜8に基いて調製する。
【0258】
2.各調合物の最終pHを2.0〜6.0の範囲に調整する。
【0259】
3.pHを調整した2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩−シスプラチン調合物のそれぞれを、蛍光から保護された密封ガラスバイアル中に室温(約27℃)で保存する。
【0260】
4.pHを調整した2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩−シスプラチン調合物のそれぞれの安定性を、少なくとも6ヶ月にわたって毎週、核磁気共鳴(NMR)分析により分析する。このNMRスペクトルを、新たに調製してpHを調整した2,2’−ジチオ−ビス−エタン−スルホン酸塩−シスプラチン調合物と比較する。新たに調製した調合物に対応するピークの1つを観察することにより、時間の経過にともなったpH調整調合物の安定性がpHの関数として示される。
【0261】
式1の化合物と他の抗腫瘍剤との調合物の調製方法は上述の方法に類似している。式1の化合物、特にジメスナを調製するための合成プロセスは、1996年10月1日に出願され、ここにその開示を援用する米国特許仮出願第60/028,212号にその全容が述べられている。式1の化合物を白金錯体抗腫瘍剤とともに使用するための方法は同時係属中の特許出願の1以上に述べられている。
【0262】
抗腫瘍剤及び式1の化合物の毒性低減作用の作用機序について検討してきたが、これらの機序とされるものの開示は式1の化合物の有用性を説明する基礎をなす理由を示すものとして発明者等を拘束することを意図するものではない点は注意に値する。作用機序が正確には明らかにされていない多くの抗腫瘍剤と同様、式1の化合物が抗腫瘍剤の毒性を低減する防護機序は現在のところ完全には理解されていない。しかし生理学的作用機序に関する上記の開示は現時点において分かっている最大の情報を与えるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗腫瘍剤の神経毒性を防護又は低減するための薬剤であって、下記式(I)の化合物又は薬学的に許容可能なその塩で構成された防護又は低減剤。
【化1】

(ただし、Rは、水素、低級アルキル、または、
【化2】

であり、
及びRはそれぞれ独立してSO、PO2−2+、またはPO2−2+であり、
及びRはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ、またはスルフヒドリルであり、
m及びnは独立して、0、1、2、3または4であって、mまたはnが0である場合、Rは水素であり、
Mは水素又はアルカリ金属イオンであり、
前記防護又は低減剤はジメスナである。)
【請求項2】
抗腫瘍剤が、タキサン類からなる群より選択された少なくとも一種で構成され、前記1又は複数の抗腫瘍剤の主な副作用が神経毒性である請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
溶液又は懸濁液の形態である請求項1記載の薬剤。
【請求項4】
非経口又は経口投薬形態である請求項1記載の薬剤。
【請求項5】
抗腫瘍剤、及び前記抗腫瘍剤の神経毒性を防護又は低減するための薬剤で構成された薬学的調合物であって、前記防護又は低減剤が、下記式(I)又は薬学的に許容可能なその塩で構成された薬学的調合剤。
【化3】

(ただし、Rは、水素、低級アルキル、または、
【化4】

であり、
及びRはそれぞれ独立してSO、PO2−2+、またはPO2−2+であり、
及びRはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシ、またはスルフヒドリルであり、
m及びnは独立して、0、1、2、3または4であって、mまたはnが0である場合、Rは水素であり、
Mは水素又はアルカリ金属イオンであり、
前記防護又は低減剤はジメスナである。)
【請求項6】
抗腫瘍剤が、タキサン類からなる群より選択された少なくとも一種で構成され、前記1又は複数の抗腫瘍剤の主な副作用が神経毒性である請求項5記載の薬学的調合物。
【請求項7】
化合物と抗腫瘍剤との割合が、4:1〜5000:1である請求項5記載の薬学的調合物。
【請求項8】
溶液又は懸濁液の形態である請求項5記載の薬学的調合物。
【請求項9】
非経口又は経口投薬形態である請求項5記載の薬学的調合物。
【請求項10】
神経毒性を誘導する抗腫瘍剤を受ける癌患者に対して、抗腫瘍剤と同時に又は別々にもしくは間欠的に投与するための防護又は低減剤であって、請求項1に記載の薬剤で構成された防護又は低減剤。
【請求項11】
抗腫瘍剤が、タキサン類からなる群より選択された少なくとも一種で構成され、前記1又は複数の抗腫瘍剤の主な副作用が神経毒性である請求項10記載の剤。
【請求項12】
非経口又は経口投薬形態である請求項10記載の剤。
【請求項13】
抗腫瘍剤の神経毒性を防護又は低減するための薬物の製造における、請求項1に記載の薬剤又は薬学的に許容可能なその塩の使用。
【請求項14】
抗腫瘍剤が、タキサン類からなる群より選択された少なくとも一種で構成され、前記1又は複数の抗腫瘍剤の主な副作用が神経毒性である請求項13記載の使用。

【公開番号】特開2010−43117(P2010−43117A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237143(P2009−237143)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【分割の表示】特願2005−294264(P2005−294264)の分割
【原出願日】平成10年10月16日(1998.10.16)
【出願人】(500175967)バイオニューメリック・ファーマスーティカルズ・インコーポレイテッド (27)
【Fターム(参考)】