説明

抗菌剤

【課題】 透明性に優れるとともに、高い抗菌性能を長期にわたって維持する。
【解決手段】 平均粒子径(D)が0.05〜1.0μmの範囲にあり、平均厚み(T)が0.01〜0.25μmの範囲にあり、(D)/(T)が4以上である平板状ゼオライトに、銀、銅、亜鉛、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、水銀から選ばれる1種または2種以上のイオンおよび/またはこれらの錯イオンを含むものである。前記金属イオンおよび/または金属錯イオンの含有量は、金属に換算して0.1〜30重量%の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌剤に関し、特に、樹脂、塗料、繊維、皮革、家具類、化粧品などに添加または塗布して用いる場合、付着性、分散性、透明性等に優れ、かつ、高い抗菌効果、消臭効果、防黴性等を発揮する抗菌剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、抗菌性金属成分をゼオライトに担持した抗菌剤が公知である(特許文献1:特公昭61−22977号公報、特許文献2:特開昭60−181002号公報)。
当該文献にはゼオライト形状に関する記載はないものの、該抗菌性ゼオライトは、経時的に徐々に変色したり、透明性に劣るという問題点が指摘されている。
【0003】
【特許文献1】特公昭61−22977号公報
【特許文献2】特開昭60−181002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等は鋭意検討した結果、抗菌性金属成分を担持した鱗片状の微細なゼオライトは、樹脂、塗料、繊維、皮革等に添加または塗布して用いると、基材等に対する付着性、分散性、透明性等に優れ、かつ、長期にわたって高い抗菌効果、消臭効果を発揮することを見出して本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は透明性等に優れるとともに、高い抗菌性能を長期にわたって維持することのできる抗菌剤を提供することを発明が解決しようとする課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る抗菌剤は、平均粒子径(D)が0.05〜1.0μmの範囲にあり、平均厚み(T)が0.01〜0.25μmの範囲にあり、(D)/(T)が4以上である平板状ゼオライトに、銀、銅、亜鉛、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、水銀から選ばれる1種または2種以上のイオンおよび/またはこれらの錯イオンを含むことを特徴としている。
前記金属イオンおよび/または金属錯イオンは、銀、銅、亜鉛から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
前記金属イオンおよび/または金属錯イオンの含有量は、金属に換算して0.1〜30重量%の範囲にあることが好ましい。
前記ゼオライトは、フォージャサイト型ゼオライトであることが好ましい。
前記抗菌剤の比表面積は、200〜1000m2/gの範囲にあることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の抗菌剤は、基材への塗布性、密着性、膜形成性に優れるとともに、薄膜を形成した場合にも透明性を有し、各種細菌に対する抗菌性能に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る抗菌剤は、平均粒子径(D)が0.05〜1.0μmの範囲にあり、平均厚み(T)が0.01〜0.25μmの範囲にあり、(D)/(T)が4以上である平板状ゼオライトに、銀、銅、亜鉛、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、水銀から選ばれる1種または2種以上の金属イオンおよびこれらの金属錯イオンを含むものである。
【0008】
平板状ゼオライト
本発明に用いる平板状ゼオライトは、平均粒子径(D)が0.05〜1.0μmの範囲にあり、平均厚み(T)が0.01〜0.25μmの範囲にあり、(D)/(T)が4以上である。
このような大きさ、形状のゼオライトは、微細かつ平板状であるためにゼオライトの外部表面積が大きく、抗菌性金属イオンの拡散性、抗菌剤と菌の接触効率に優れる。また、成形性に優れるために成形して用いる場合はバインダーの使用量が少なくて済み、このため成形体中のゼオライトの含有量を多くすることができるとともにバインダー成分によるゼオライトの有効性を阻害することが抑制されるために高い抗菌性能が得られる。
また、繊維あるいは基板等に付着させて用いる場合は付着性が高く、脱離しにくいために長期にわたって抗菌性能を維持することができる。
【0009】
前記平均粒子径(D)と平均厚み(T)との比(D)/(T)が4未満の場合は、通常のサイコロ状で大きなゼオライトと変わるところがなく、前記効果が不充分となる。
(D)/(T)の上限には特に制限はないが、通常10以下であればよく、10を超えるものは得ることが困難であったり、得られたとしてもさらに前記抗菌性能、付着性、成形性等が向上することもない。
【0010】
平板状ゼオライトの平均粒子径(D)が1.0μmを超えるものは、同時に平均厚み(T)が0.25μmを超えることとなり、微細な平板状のゼオライトを得ることが困難であり、得られたとしても通常のサイコロ状のゼオライトと変わるところがなく、抗菌性能、付着性、成形性等が不充分となる。
平板状ゼオライトの平均粒子径(D)が0.05μm未満のものは得ることが困難であり、得られたとしても結晶性が低く、抗菌性の金属イオンのイオン交換量が不充分となり、このため抗菌性能が不充分となることがある。また、ゼオライト粒子が小さいために凝集する傾向が強くなり、分散性が低下し、繊維あるいは基板等に均一に付着させことが困難となったり、容易に脱離する場合がある。
【0011】
平板状ゼオライトの平均粒子径(D)は、より好ましくは0.05〜0.5μm、特に0.1〜0.5μmの範囲にあることが望ましい。
平板状ゼオライトの平均厚み(T)は、上記平均粒子径(D)および(D)/(T)に応じて適宜選択されるが、0.25μmを超えると前記したように通常のサイコロ状のゼオライトと変わるところがなくなる。また、平均厚み(T)が0.01μm未満のものは得ることが困難である。
【0012】
ゼオライトの形状観察および(D)/(T)を求めるには、電子顕微鏡写真から少なくとも100個の形状を観察するとともに(D)、(T)を測定して求められる。本発明では、全ゼオライト粒子のうち六角形板状体様の形状をもつゼオライトが60%以上、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上であることが望ましい。
【0013】
本発明で使用される平板状ゼオライトは、シリカ・アルミナからなるフォージャサイト型ゼオライトであることが好ましい。フォージャサイト型ゼオライトは平板状のゼオライトが得やすく、かつ、ゼオライトのなかでも微細孔の孔径が約8Å程度と大きく、イオン交換容量が高く、抗菌性金属イオンを多くイオン交換できるために、抗菌性に優れた抗菌剤を得ることができる。
【0014】
このようなフォージャサイト型ゼオライトは、SiO2とAl23のモル比SiO2/Al23が2〜8、さらには3〜6の範囲にあることが好ましい。
前記モル比SiO2/Al23が2未満のものは、結晶性の高いゼオライトとしては得られず、前記モル比SiO2/Al23が8を超えると金属イオンのイオン交換による担持量が減少し、抗菌性能が不充分となる。
【0015】
このような平板状ゼオライトは、銀、銅、亜鉛、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、水銀から選ばれる1種または2種以上の金属イオンおよびこれらの金属錯イオンがイオン交換によって担持されている。
なかでも、銀、銅、亜鉛から選ばれる1種または2種以上の金属イオン、これらの金属錯イオンが好ましい。
前記金属イオン、金属錯イオンがイオン交換により担持されていると高い抗菌性能を有する抗菌剤を得ることができる。
ここで、金属錯イオンとしては、[Cu(NH3)4]2+、[Ag(NH3)2]+、[Zn(NH3)4]2+等が挙げられる。
【0016】
このような金属イオン、金属錯イオンの含有量は、金属に換算して0.1〜30重量%、さらには1〜10重量%の範囲にあることが好ましい。
金属イオン、金属錯イオンの含有量が金属に換算して0.1重量%未満の場合は抗菌性が不十分である。金属イオン、金属錯イオンの含有量が金属に換算して30重量%を超えてはイオン交換により担持することが困難である。
【0017】
本発明に用いる平板状ゼオライトの比表面積は、得られる抗菌剤の比表面積が200〜1000m2/gの範囲にあれば特に制限はないが、概ね300〜1000m2/gの範囲にあることが好ましい。
ゼオライトの比表面積が300m2/g未満の場合は、充分な吸着性能が得られないことがある。ゼオライトの比表面積が1000m2/gを超えるものは得ることが困難である。なお、ここで比表面積はBET法によって測定される。
【0018】
本発明に係る抗菌剤の比表面積は、イオンおよび/または金属の担持量によっても異なるが、200〜1000m2/g、さらには300〜1000m2/gの範囲にあることが好ましい。
抗菌剤の比表面積が200m2/g未満の場合は、充分な吸着性能が得られないことがあり、1000m2/gを超えるものは得ることが困難である。
【0019】
[抗菌剤の製造方法]
つぎに、本発明の抗菌剤の製造方法について説明する。
本発明の抗菌剤は、前記抗菌剤が得られれば特に制限はなく、前記平板状ゼオライトを用いる以外は従来公知の方法によって得ることができる。
平板状ゼオライトを特定の元素のイオンによりイオン交換し、必要に応じて成形することによって得ることができ、また平板状ゼオライトを成形した後、イオン交換することによっても得ることもできる。
平板状のゼオライトとしては、本願出願人の出願による特開2004−315338号公報に記載した平板状のゼオライトを用いると好適である。
【0020】
金属イオンのイオン交換方法
平板状ゼオライトを水に分散させ、攪拌しながら、これに金属塩、金属錯塩または金属塩水溶液、金属錯塩水溶液を添加する。金属塩または金属塩水溶液等を添加する前または後に平板状ゼオライト分散液のpHを、金属塩、金属錯塩の種類によっても異なるが3〜7、さらには4〜6に調整することが好ましい。
平板状ゼオライト分散液のpHが3未満の場合はゼオライトの結晶構造が破壊されることがある。平板状ゼオライト分散液のpHが7を超えると金属塩等の種類にもよるが金属の水酸化物沈殿生成が起こり易くなり、金属イオンのイオン交換が困難となることがある。
平板状ゼオライト分散液のpH調整は、分散液に酸またはアルカリを添加すればよく、酸としては硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸を用いることができ、アルカリとしては、アルカリ金属水酸化物、炭酸アルカリ、アンモニア等を用いることができる。
【0021】
金属塩としては、銀、銅、亜鉛、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、水銀から選ばれる1種または2種以上の金属塩、金属錯塩を用いることができ、例えば、硫酸銅、硝酸銅、硝酸銀、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸錫、硝酸錫、硫酸鉛、硝酸鉛、硫酸ビスマス、硝酸ビスマス、硫酸カドミウム、硝酸カドミウム、硫酸クロム、硝酸クロム、硫酸水銀、硝酸水銀、金属錯塩としてはアンモニウム塩等を用いることができる。
なかでも、銀、銅、亜鉛から選ばれる1種または2種以上の金属塩、金属錯塩は安全性の点などで好適に用いることができる。
【0022】
金属塩、金属錯塩の添加量は、ゼオライトのAl23のモル数を1とした時に、0.1〜5モルの範囲とすることが好ましい。金属錯塩の添加量が0.1モル未満の場合はゼオライトに担持される金属イオン、金属錯イオンの量が少なく、充分な抗菌性能が得られないことがある。金属塩、金属錯イオンの添加量が5モルを超えてはイオン交換により担持できる金属イオン、金属錯イオンの量を増やすことは困難で、経済性が低下する問題がある。
イオン交換する際の温度は、通常、室温から98℃、時間は0.5時間から12時間の範囲である。
【0023】
ついで、ゼオライトを濾過、洗浄する。なお、洗浄後、繰り返し、前記と同様にイオン交換を行うことができる。繰り返しイオン交換を行うことによって金属イオン、金属錯イオンのイオン交換による担持量を増やすことができる。
ついで、濾過、洗浄した後、必要に応じて乾燥し、さらに必要に応じて焼成する。
金属イオン交換についで濾過、洗浄した後、用途によっては水または有機溶媒に分散させて用いることができる。
また、濾過洗浄した後、乾燥して粉体として用いることもできる。
【0024】
このようにして得られた、金属イオンおよび/または金属錯イオンを担持した平板状ゼオライトはそのまま抗菌剤として用いることもできるが成形体として用いることもできる。
成形体として用いる場合は、前記金属イオン交換した平板状ゼオライトを従来公知の方法で成形体とすることができる。
【0025】
ついで、本発明に係る抗菌剤の使用方法(態様)について例示する。
本発明に係る抗菌剤は、前記のようにして得られた粉体をそのまま用いることもできるし、ガラス、プラスチック、金属、木、繊維、布、壁、建材等の基材に塗布、付着させて用いることもできるし、さらに薄膜に成形して用いることもできる。
第1の態様(そのまま用いる場合)としては、粉末、ペレット、ビード等として用いられる。
【0026】
第2の態様(例えば、繊維に塗布または付着させて用いる場合)としては、ポリエステル、ナイロンなどの合繊繊維へ予め練り込んで使用する場合、あるいはディップニップ等の方法で後処理的に加工して使用する場合がある。
第3の態様(例えば、薄膜として用いる場合)としては、塗料やインキに添加し、塗膜を形成して使用する場合がある。
第4の態様(例えば、樹脂成形体として用いる場合)としては、PP、PE、ABS、PC、PS樹脂等へ練り込み、これを成型して使用する場合がある。
【0027】
以下、第3の態様について詳述する。
前記粉体抗菌剤、あるいは抗菌剤分散液と塗料用樹脂、必要に応じて溶剤とからなる塗料を基材上に塗布し、硬化させて得ることができる。
抗菌剤分散液としては、水または有機溶媒分散液が用いられ、有機溶媒としては後述する有機溶剤が用いられる。
塗料用樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等のいずれも採用することができる。
【0028】
具体的には、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、熱可塑性アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコーンゴムなどの熱可塑性樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ケイ素樹脂、ブチラール樹脂、反応性シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられる。さらにはこれら樹脂の2種以上の共重合体や変性体であってもよい。
これらの樹脂は、エマルジョン樹脂、水溶性樹脂、親水性樹脂であってもよい。さらに、熱硬化性樹脂の場合、紫外線硬化型のものであっても、電子線硬化型のものであってもよく、熱硬化性樹脂の場合、硬化触媒が含まれていてもよい。
【0029】
本発明の平板状ゼオライトは、このような樹脂への分散性に優れ、得られる薄膜は透明性、平坦性、基材との密着性等に優れるとともに長期にわたって高い抗菌性を発揮することができる。
溶剤としては、前記塗料用樹脂を溶解するとともに、容易に揮発しうる溶剤が含まれていてもよく、塗料用樹脂が熱硬化性樹脂の場合は、必要に応じて硬化剤が配合されていてもよい。
【0030】
溶剤としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、イソプロピルグリコールなどのアルコール類;酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステルなどのエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステルなどのケトン類などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上混合して使用してもよい。また、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、トルエン、シクロヘキサノン、イソホロン等も用いることができる。さらに、界面活性剤を含んでいてもよい。
【0031】
塗料中の抗菌剤の濃度は、固形分として0.1〜45重量%、さらには0.2〜30重量%の範囲にあることが好ましい。
塗料中の抗菌剤の濃度が固形分として0.1重量%未満の場合は、実質的に有用な抗菌性能が得られないことがある。塗料中の抗菌剤濃度が固形分として45重量%を超えると、薄膜の形成性が低下し、得られる被膜の透明性、平坦性および密着性が低下することがある。
【0032】
また、塗料中の樹脂の濃度は、樹脂を固形分として0.1〜55重量%、さらには0.2〜40重量%の範囲にあることが好ましい。
塗料中の樹脂の濃度が0.1重量%未満の場合は基材との密着性が不充分となる。塗料中の樹脂の濃度が55重量%を越えると得られる薄膜の厚さが不均一になる傾向がある。
【0033】
また、塗料中の抗菌剤と樹脂の合計濃度は、固形分として1重量%以上、さらには5重量%以上であることが好ましい。
抗菌剤と樹脂の合計濃度が固形分として1重量%未満の場合は、被膜の厚さが薄く、抗菌剤の量が少ないために充分な抗菌性能、長期にわたって高い抗菌性能能の維持ができない場合がある。
【0034】
このような塗料をディップ法、スプレー法、スピナー法、ロールコート法などの周知の方法で基材上に塗布し、乾燥すればよく、必要に応じて加熱処理、紫外線照射処理、電子線照射処理などにより、抗菌性の薄膜の硬化を促進させてもよい。
基材としては、公知のものを使用することが可能であり、ガラス、ポリカーボネート、アクリル樹脂、PET、TAC等のプラスチックシート、プラスチックフィルム等、プラスチックパネル等があげられる。
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
Ag−NaY型ゼオライト(A)の調製
(ゲル状物水溶液の調製)
Na2O17wt%、Al2322wt%を含有するアルミン酸ナトリウム溶液57.0gに攪拌しながら、Na2Oとして37.2wt%の水酸化ナトリウム水溶液187.4gを加えた。この溶液を攪拌しながらシリカ濃度24wt%の3号水硝子549.8gを純水205.8g中に加えた溶液に、20℃、8.1g/minで添加した。添加後の組成は酸化物モル比で、
Na2O/Al23 = 16.0
SiO2/Al23 = 17.9
2O/Al23 = 332
であった。これを約1時間攪拌した後、30℃で16時間静置してゲル状凝集物を含んだ水溶液を得た。このゲル状凝集物の粒子径は1.0〜5.0μmの範囲であった。
【0036】
(マトリックスとしての複合酸化物ゾルの調製)
平均粒子径50Å、シリカ濃度20wt%のシリカゾル40.4gを純水2864.0gで希釈したものを80℃に加温した。この希釈ゾルにSiO2として24.0wt%の3号水硝子279.5gを純水3356.4gで希釈したものとAl23として22.0wt%のアルミン酸ナトリウム62.9gを純水3574.0gで希釈したものを、4時間かけて同時添加した。さらに、Na2Oとして3wt%の水酸化ナトリウム111.0gを1時間かけて添加した。その間希釈ゾルの温度を80℃に保持した。添加終了後、このゾルを室温まで冷却し、SiO2−Al23複合酸化物ゾル9000gを得た。
【0037】
この複合酸化物ゾルの分散質微粒子を化学分析法に基づいて測定した結果、次の組成であった。なお、水分量は、1000℃で1時間の灼熱減量から求めた。この複合酸化物ゾルの粒子径は0.02〜0.04μmであった。
Na2O/Al23 = 4.3
SiO2/Al23 = 9.1
2O/Al23 = 3660
【0038】
(反応混合物の調製)
マトリックスとして前記SiO2−Al23複合酸化物ゾル9000gを攪拌しながら、前記ゲル状物水溶液1000gを加え30分室温で攪拌混合した。このようにして得られたゲル状反応混合物の組成は酸化物モル比で
Na2O/Al23 = 9.9
SiO2/Al23 = 12.5
2O/Al23 = 2072
であった。
【0039】
このゲル状反応混合物を結晶化槽に移して、攪拌することなく95〜98℃で72時間加温熟成を行って結晶化させた。熟成終了後、結晶生成物を取り出し、濾過、洗浄してNaY型ゼオライト(A)を得た。このとき、固形分中のAl23含有量21.4重量%、SiO2含有量65.5重量%、Na2O含有量13.0重量%、SiO2/Al23モル比5.00であった。
【0040】
(Agイオン交換)
このNaY型ゼオライト100gを純水1000gに分散させ、攪拌しながら濃度10重量%の硝酸水溶液でpHを5.5〜6.0に調整した。別途硝酸銀19.7gを純水1000gに溶解し、pH調整したNaY型ゼオライト懸濁スラリーを攪拌しながら添加した。添加後、スラリー温度を60℃に調整し、1時間攪拌した後、濾過、洗浄し、ついで、乾燥して20重量%のAgを担持したAg−NaY型ゼオライト(A)を得た。
Ag−NaY型ゼオライト(A)について、組成、BET法による比表面積、電子顕微鏡による形状観察および粒子径、粒子の厚みを求め、結果を表1に示した。
【0041】
塗料組成物(P-1)の調製
アクリル系樹脂としてアロマテックスE(三井東圧化学(株)製:Z112、不揮発分45%)95.6重量部、フォージャサイト型ゼオライト(A)2.2重量部、界面活性剤(北興化学(株)製:ホクスターHP)2.2重量部を混合して塗料組成物(P-1)を調製した。
【0042】
塗膜(F-1)の形成
充分に水で洗浄して乾燥した厚さ2.0mmの硝子基材表面に、塗料組成物(P-1)をバーコーター法により塗布し、120℃で2分間乾燥した後、200℃で20秒間加熱処理して塗膜(F-1)を形成した。このとき、膜厚は5μmであった。膜厚の性状を表2に示した。
【0043】
抗菌性試験(JIS Z2801)
塗膜(F-1)に菌懸濁液、0.4mlを接種し、その上に被覆フイルムを被せて蓋をした後、35±1℃、RH90以上で24時間放置後、菌懸濁液を回収して生菌数を測定した。結果を表3に示した。
試験菌:黄色ぶどう球菌、大腸菌、MRSA
殺菌活性値:Log(植菌数)−Log(試験片生菌数)
【0044】
密着性
JIS K 5400に基づく基盤目試験にて評価した。密着性は10×10の升目100個中の剥離しなかった升目の数測定し、結果を表3に示した。
【0045】
平坦性
触針式表面荒さ計(東京精密(株)製:サーフコフ)で表面の平均荒さを評価し、結果を表3に示した。
【0046】
透明性の評価
分光光度計(日本分光社製:Ubest−55)により波長が500nmでの透過率を測定し、結果を表3に示した。
【実施例2】
【0047】
Ag−NaY型ゼオライト(B)の調製
(ゲル状物水溶液の調製)
Na2O17wt%、Al2322wt%を含有するアルミン酸ナトリウム溶液57.0gに攪拌しながら、Na2Oとして37.2wt%の水酸化ナトリウム水溶液232.1gを加えた。この溶液を攪拌しながら、シリカ濃度24wt%の3号水硝子348.3gを純水362.6g中に、加えた溶液に20℃、8.1g/minで添加した。添加後の組成は酸化物モル比で、
Na2O/Al23 = 16.0
SiO2/Al23 = 11.3
2O/Al23 = 352
であった。これを約1時間攪拌した後、30℃で16時間静置してゲル状凝集物を含んだ水溶液を得た。このゲル状凝集物の粒子径は1.0〜5.0μmの範囲であった。
【0048】
(マトリックスとしての複合酸化物ゾルの調製)
平均粒子径50Å、シリカ濃度20wt%のシリカゾル40.4gを純水2864.0gで希釈したものを80℃に加温した。この希釈ゾルにSiO2として24.0wt%の3号水硝子279.5gを純水3356.4gで希釈したものとAl23として22.0wt%のアルミン酸ナトリウム62.9gを純水3574.0gで希釈したものを、4時間かけて同時添加した。さらに、Na2Oとして3wt%の水酸化ナトリウム111.0gを1時間かけて添加した。その間、希釈ゾルの温度を80℃に保持した。添加終了後、このゾルを室温まで冷却し、SiO2−Al23複合酸化物ゾル9000gを得た。
【0049】
この複合酸化物ゾルの分散質微粒子を化学分析法に基づいて測定した結果、次の組成であった。なお、水分量は、1000℃で1時間の灼熱減量から求めた。この複合酸化物ゾルの粒子径は0.02〜0.04μmであった。
Na2O/Al23 = 4.3
SiO2/Al23 = 9.1
2O/Al23 = 3660
【0050】
(反応混合物の調製)
マトリックスとして前記SiO2−Al23複合酸化物ゾル9000gを攪拌しながら、前記ゲル状物水溶液1000gを加え30分室温で攪拌混合した。このようにして得られたゲル状反応混合物の組成は酸化物モル比で
Na2O/Al23 = 9.9
SiO2/Al23 = 10.3
2O/Al23 = 2072
であった。
【0051】
このゲル状反応混合物を結晶化槽に移して、攪拌することなく95〜98℃で72時間加温熟成を行って結晶化させた。熟成終了後、結晶生成物を取り出し、濾過、洗浄、乾燥してNaY型ゼオライト(B)を得た。このとき、固形分中のAl23含有量24.5重量%、SiO2含有量62.0重量%、Na2O含有量14.9重量%、SiO2/Al23モル比4.20であった。
【0052】
ついで、実施例1と同様にしてイオン交換を行い、10重量%Agを担持したAg−NaY型ゼオライト(B)を得た。
Ag−NaY型ゼオライト(B)について、組成、BET法による比表面積、電子顕微鏡による形状観察および粒子径、粒子の厚みを求め、結果を表1に示した。
【0053】
塗料組成物(P-2)の調製
実施例1において、フォージャサイト型ゼオライト(B)2.2重量部用いた以外は同様にして塗料組成物(P-2)を調製した。
【0054】
塗膜(F-2)の形成
実施例1において、塗料組成物(P-2)を用いた以外は同様にして塗膜(F-2)を形成した。
得られた塗膜(F-2)について、膜厚の測定、抗菌性試験、密着性、平坦性および透明性の評価を行い、結果を表2と表3に示した。
【比較例1】
【0055】
NaY型ゼオライト(H)の調製
(ゲル状物水溶液の調製)
Na2O17wt%、Al2322wt%を含有するアルミン酸ナトリウム溶液463.6gに、攪拌しながら21.35wt%の水酸化ナトリウム水溶液3771.2gを加えた。この溶液をシリカ濃度24wt%の3号水硝子3675g中に、攪拌しながら加えてゲル状凝集物を発生させた。このゲル状凝集物を含有する液の組成は酸化物モル比で
Na2O/Al23 = 15.9
SiO2/Al23 = 14.7
2O/Al23 = 330
であった。さらに、これを約1時間攪拌した後、30℃で12時間静置して、ゲル状凝集物を含有する液を得た。このゲル状凝集物の粒子径は1.0〜5.0μmの範囲であった。
【0056】
(マトリックスとしての複合酸化物ゾルの調製)
SiO2として30wt%を含有するシリカゾル809.3gを純水295.9gで希釈し、このゾルとシリカ濃度24wt%の3号水硝子1023.4gとを混合した。次いで、この液に、攪拌しながら、Na2O17wt%、Al2322wt%を含有するアルミン酸ソーダ溶液455.5gを加えて、次の酸化物組成を有するゲル状反応物を得た。このゲル状反応物の粒子径は5.0〜10.0μmであった。
Na2O/Al23 = 2.56
SiO2/Al23 = 8.29
2O/Al23 = 103.9
【0057】
(反応混合物の調製)
前述のゲル状反応物に、攪拌しながら、前述のゲル状凝集物を含有する液139.5gを加え3時間室温で撹絆混合した。このようにして得られたゲル状反応混合物の組成は酸化物モル比で
Na2O/Al23 = 2.8
SiO2/Al23 = 8.4
2O/Al23 = 108
であった。
これを結晶化槽に移して、95〜98℃で50時間加温熟成を行った。熟成終了後、結晶生成物を取り出し、濾過、洗浄してNaY型ゼオライト(H)を得た。このとき、固形分中のAl23含有量21.7重量%、SiO2含有量65.1重量%、Na2O含有量13.2重量%、SiO2/Al23モル比5.10であった。
【0058】
このNaY型ゼオライト(H)を実施例1と同様の処方でAg交換し、Ag−NaY型ゼオライト(H)を得た。
Ag−NaY型ゼオライト(H)について、組成、BET法による比表面積、電子顕微鏡による形状観察および粒子径、粒子の厚みを求め、結果を表1に示した。
【0059】
塗料組成物(P-3)の調製
実施例1において、フォージャサイト型ゼオライト(H)2.2重量部用いた以外は同様にして塗料組成物(P-3)を調製した。
【0060】
塗膜(F-3)の形成
実施例1において、塗料組成物(P-3)を用いた以外は同様にして塗膜(F-3)を形成した。
得られた塗膜(F-3)について、膜厚の測定、抗菌性試験、密着性、平坦性および透明性の評価を行い、結果を表2と表3に示した。
【0061】
[表1]
ゼ オ ラ イ ト
平均 平均 交換/ 交換/ SiO2/ 比表面積
粒子径 粒子厚 担持 担持 Al2O3
(D) (T) (D/T) 金属種 金属量 (モル比)(m2/g)
(%)
実施例1 0.50 0.07 7 Ag 20 5.00 630
実施例2 0.68 0.08 8.5 Ag 20 4.20 600
比較例1 1.55 1.50 1.0 Ag 20 5.10 650
【0062】
[表2]
塗 膜
平均 平均 Al2O3 Na2O SiO2/ 比表面積
粒子径 粒子厚 含有量 含有量 Al2O3
(D) (T) (D/T) (wt%) (wt%) (モル比)(m2/g)

実施例1 0.50 0.07 7 24.6 1.5 5.20 610
実施例2 0.68 0.08 8.5 24.8 1.51 5.05 620
比較例1 1.55 1.50 1.0 24.7 1.35 5.1 650
【0063】
[表3]
評 価
膜厚 密着性 平担性 透明性 殺菌活性地
(μm) (μm) (%) 黄色 大腸 MRSA

実施例1 5 100/100 0.10 90 >5 >5 >5
実施例2 5 100/100 0.11 85 >5 >5 >5
比較例1 5 50/100 0.98 30 2.5 3.0 2.1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径(D)が0.05〜1.0μmの範囲にあり、平均厚み(T)が0.01〜0.25μmの範囲にあり、(D)/(T)が4以上である平板状ゼオライトに、銀、銅、亜鉛、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、水銀から選ばれる1種または2種以上の金属イオンおよび/または金属錯イオンを含むことを特徴とする抗菌剤。
【請求項2】
前記金属イオンおよび/または金属錯イオンが銀、銅、亜鉛から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載の抗菌剤。
【請求項3】
前記金属イオンおよび/または金属錯イオンの含有量が、金属に換算して0.1〜30重量%の範囲にある請求項1または2記載の抗菌剤。
【請求項4】
前記ゼオライトがフォージャサイト型ゼオライトである請求項1〜3のいずれか記載の抗菌剤。
【請求項5】
比表面積が200〜1000m2/gの範囲にある請求項1〜4のいずれか記載の抗菌剤。

【公開番号】特開2007−131551(P2007−131551A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324211(P2005−324211)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000190024)触媒化成工業株式会社 (458)
【Fターム(参考)】