説明

抗菌剤

【課題】MRSAに対する抗菌効果を向上させ溶液の安定化を図る。
【解決手段】抗菌剤を、ホタテ貝殻を焼成して粉砕した粉体からなるホタテ貝殻セラミックスを水溶させて飽和状態としたホタテ貝殻セラミックス溶液とエチルアルコールとを混合してなるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大腸菌とMRSAに対する抗菌効果のある抗菌剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホタテ貝殻はCaCO3を主成分としているが、このホタテ貝殻を焼成し粉砕した粉体からなるホタテ貝殻セラミックを水に溶いたホタテ貝殻セラミック溶液はCa(OH)2を主成分としていて、近年の研究により、Ca(OH)2を主成分とするこのホタテ貝殻セラミックス溶液には強い抗菌効果があることが分かってきていて、ホタテ貝殻セラミックス溶液を抗菌剤として構成することが検討されている。(特許文献1参照)
【特許文献1】特開2005−120013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記Ca(OH)2を主成分とするホタテ貝殻セラミックス溶液にあっては、特に、大腸菌やサルモネラ菌に対しては即効性の抗菌効果があり、生菌率が10%以下になるまでに1〜5分以内である結果を得ている。しかし、MRSAに対しては10%以下の生菌率を得るまでに15〜30分の時間を要する結果であった。
また、ホタテ貝殻セラミックス溶液は、溶液調整時からの経過時間と共に、過飽和状態であることから、Ca(OH)2が析出したり、大気中のCO2の吸収に伴いCaCO3の沈殿が生ずる場合があった。そのため、実用時にホタテ貝殻セラミックス溶液のスプレー噴霧を行なった場合、抗菌効果が低下する可能性があることが問題とされるようになってきた。
そこで本発明はMRSAに対するホタテ貝殻セラミックス溶液の抗菌効果を向上させることと溶液の安定化を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は上記課題を考慮してなされたもので、ホタテ貝殻を焼成して粉砕した粉体からなるホタテ貝殻セラミックスを水溶させて飽和状態としたホタテ貝殻セラミックス溶液とエチルアルコールとが混合していることを特徴とする抗菌剤を提供して、上記課題を解消するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の抗菌剤によれば、大腸菌やサルモネラ菌に対しては即効性の抗菌効果があるばかりでなく、MRSAにに対する抗菌効果も向上するなどの優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
つぎに本発明を詳細に説明する。
本発明の抗菌剤はホタテ貝殻セラミックス溶液と以下に示す薬剤とが混合しているものである。前記ホタテ貝殻セラミックス溶液は、ホタテ貝殻を焼成して粉砕した粉体からなるホタテ貝殻セラミックスを水溶させて飽和状態としたものである。
まず、MRSAに対する上記ホタテ貝殻セラミックス溶液の抗菌効果を向上させることと溶液の安定化を目的として実験を行なった。
【0007】
ホタテ貝殻セラミックス溶液の抗菌効果を向上させるためには、ホタテ貝殻セラミックス溶液中のCa(OH)2濃度を上昇させる方法と、他の薬剤を混合し薬剤との相乗効果または相加効果を狙う方法との二つの方法が考えられる。しかし、ホタテ貝殻セラミックス溶液自体にあっては、その溶液中のCa(OH)2濃度はすでに飽和状態としていて、これ以上の濃度を上げるためにはコロイド化をさせる必要がある。この場合、ホタテ貝殻セラミックス溶液を用いる本抗菌剤の使用形態などを考慮すると不適切と考えられる。
そこで、本実験では、溶液調整が容易である他の薬剤を混合させる方法を採用した。次に、ホタテ貝殻セラミックス溶液と混合する薬剤についての選択であるが、種々の抗菌剤、抗生物質、アルコール類が考えられる。これらの薬剤の中から次の事項を考慮し選定した。
【0008】
(1)Ca(OH)2と化学反応を起こさないこと(薬剤との混合形態となった溶液中にCa(OH)2として存在できること)。
(2)一般的な使用において人体に対し安全であること。
(3)取り扱いが容易であり、比較的安価に入手し易いもの。
(4)抗菌剤としてのバージョンアップを含めた今後の製品開発がし易いこと(例えば、ホタテ貝殻セラミックス溶液を用いてなる抗菌剤に更にフレーバー等を使用する場合等、今後に追加される物質との関係で安定的であり、追加する物質の種類等に限定を生じさせ難いものであること)。
以上の項目を考慮した結果、エタノール(エチルアルコール:C25OH)をホタテ貝殻セラミックス溶液に混合し、これを実験対象の抗菌剤とした。一般的にCa(OH)2はエタノールに不溶である。そのため、エタノール(99.5%)にCa(OH)2をある程度添加してもpHは中性付近である。このことは予備実験として、ユニバーサル試験紙により確認した。
また、ホタテ貝殻セラミックス溶液とエタノールの混合液についても簡易的な予備実験を行ない、実験の結果、ホタテ貝殻セラミックス溶液にエタノールを添加するとカルシウムの析出が確認されるものの、混合溶液のpHはアルカリ性であることを確認した。そこで、本実験では、ホタテ貝殻セラミックス溶液とエタノールの混合溶液とした抗菌剤の抗菌効果について調べる。また、混合溶液中のCa2+濃度も原子吸光により分析を行なう。
【0009】
(実験方法)
実験の対象となる試験溶液の調整は以下のようにした。
実験には、種々の濃度のホタテ貝殻セラミックス溶液と、種々の濃度のエタノール溶液、混合の割合を変えたホタテ貝殻セラミックス溶液とエタノールの混合溶液を用いた。
ホタテ貝殻セラミックス溶液については、飽和状態のホタテ貝殻セラミックス溶液の濃度を100%とし、これに生理食塩水を加え、10〜100(v/v%)までのホタテ貝殻セラミックス溶液の濃度を調整した。
また、エタノール溶液についても、ホタテ貝殻セラミックス溶液と同様に調整し、10〜99.5(v/v%)までの濃度のエタノール溶液を得た。
ホタテ貝殻セラミックス溶液とエタノールの混合溶液については、飽和状態のホタテ貝殻セラミックス溶液(100%)とエタノール(99.5%)を体積比で混合し、1:9〜9:1までの混合溶液を調整した。また、エタノールの添加に伴い析出したカルシウムは、3000rpmで10分間遠心分離し、その上澄み液を用いた。
よって、試験溶液は次の3種類であり、濃度、混合比率を以下のようにした
(1)ホタテ貝殻セラミックス溶液 10、20、30、40、50、60、70、80、90、100(v/v%)
(2)エタノール溶液 10、20、30、40、50、60、70、80、90、99.5(v/v%)
(3)ホタテ貝殻セラミックス溶液+エタノールの混合溶液 1:9〜9:1の比率
【0010】
抗菌効果の測定にはATP測定法と平板培養法を用いた。まず始めに、迅速測定が可能なATP測定法により各溶液の抗菌特性を把握する実験を行ない、その後、平板培養法を用いて詳細な生菌率の測定を行なった。実験には大腸菌を用いて基礎実験を行ない、その後、MRSAに対して実験を行なった。なお、試験温度は30℃、培地はLB培地を用いた。
結果中の0分は15秒後の値であり、記号SSCはホタテ貝殻セラミックス(Scallop Shell Ceramics)の意味である。
【0011】
(実験結果)
・ATP測定法による基礎実験
図1〜4は、大腸菌に対する各溶液における生菌率を示した。
図1には、ホタテ貝殻セラミックス溶液の濃度(生理食塩水で調整)をパラメータとして大腸菌の生菌率を示した。図1から、ホタテ貝殻セラミックス溶液の濃度が20%以上であれば30分以内に抗菌効果が現れていることがわかる。また、実験開始直後、反応時間0(15秒後)の生菌率に注目すると、ホタテ貝殻セラミックス溶液の濃度が高くなるにつれ抗菌効果も高くなっていることがわかる。
次に、図2に、エタノール溶液の濃度(生理食塩水で調整)をパラメータとして大腸菌の生菌率を示した。図2から、エタノール溶液の濃度が30%以上になると実験開始直後から高い抗菌効果が得られていることがわかる。また、エタノール溶液の濃度が20%の場合では実験開始直後の抗菌効果は認められないが、30分後では抗菌効果が現れている。そして、エタノール溶液の濃度が10%の場合では60分後での抗菌効果は認められなかった。
なお、濃度が30%以上の場合は同結果であり、図2で示すグラフにおいて、濃度が30%以上の線は重なった状態で示した。
【0012】
本実験の目的は、抗菌剤を構成しているホタテ貝殻セラミックス溶液とエタノールとの相乗効果または相加効果を確認することが目的である。そこで、本実験では上記エタノール溶液による実験開始直後の抗菌効果が認められない濃度のものが望ましい。以上のことより、図3と図4に示す実験で用いるホタテ貝殻セラミックス溶液とエタノールとの混合溶液について、エタノール濃度が20%(v/v%)以内の混合溶液で行なうことにした。図3に、ホタテ貝殻セラミックス溶液とエタノールとを90:10(v/v%)で混合した混合溶液中の大腸菌の生菌率を示した。
図3から、ホタテ貝殻セラミックス溶液とエタノールの90:10(v/v%)混合溶液では、実験開始直後から高い抗菌効果が得られていることがわかる。また、ホタテ貝殻セラミックス溶液90%濃度のみのもの(生理食塩水で濃度調整された上記ホタテ貝殻セラミックス溶液)や、エタノール溶液10%濃度のみのもの(生理食塩水で濃度調整された上記エタノール溶液)では、実験開始直後の抗菌効果が認められないことから、ホタテ貝殻セラミックス溶液とエタノールとの混合溶液とした抗菌剤では、ホタテ貝殻セラミックス溶液とエタノールとの相乗効果が現れているといえる。
【0013】
次に、図4に、ホタテ貝殻セラミックス溶液と上記エタノールを80:20(v/v%)で混合した混合溶液中の大腸菌の生菌率を示した。図4から、図3で示した90:10(v/v%)混合溶液の場合と同様にホタテ貝殻セラミックス溶液とエタノールとの相乗効果が現れていることがわかる。
【0014】
つぎに、平板培養液による相乗効果の確認を行なった。
表1〜3に、ホタテ貝殻セラミックス溶液とエタノールを80:20(v/v%)で混合した溶液の各菌に対する抗菌効果を示した。
表1に、混合溶液中の大腸菌の生菌率を示した。表1をみると、ホタテ貝殻セラミックス溶液(100%であり、表中、SSC溶液100と表記)の場合では、接触から1分後の生菌率の値が0.14%であるのに対し、80:20(v/v%)の混合溶液(表中、SSC溶液80:エタノール20と表記)では実験開始直後から生菌率が0.07%にまで低下していた。これは、混合溶液(即ち、本発明の抗菌剤)の抗菌効果はホタテ貝殻セラミックス溶液の抗菌効果よりも1分も早く、また、その倍の抗菌効果が得られているといえる。
【0015】
【表1】

【0016】
そこで、これまで10-4%以下の抗菌効果が得られるまでに時間のかかっていたMRSAに対して実験を行なってみた。表2にMRSA(No.60905)に対する混合溶液の抗菌効果、表3にはMRSA(No.951121)に対する混合溶液の抗菌効果を示した。
表2および表3をみると、どちらのMRSAに対しても混合溶液は、大腸菌の場合と同様に抗菌効果の向上が確認された。表2に示したMRSA(No.60905)の場合では、混合溶液(表中、SSC溶液80:エタノール20と表記)の実験開始直後の生菌率は、ホタテ貝殻セラミックス溶液(100%、表中SSC溶液100と表記)の場合より約1/6の生菌率になっていた。また、表3に示したMRSA(No.951121)の場合では、混合溶液(表中、SSC溶液80:エタノール20と表記)の実験開始直後は、ホタテ貝殻セラミックス溶液(100%、表中SSC溶液100と表記)の場合より約1/2の生菌率になっていた。
【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
つぎに原子吸光による混合溶液(抗菌剤)中のCa2+濃度の分析を行なった。
表4にホタテ貝殻セラミックス溶液(濃度100%)中と、そして混合割合が異なる各混合溶液中のCa2+濃度を示した。この表には、実測値であるCa2+濃度と、混合溶液中に存在しているCa(OH)2を実測値より換算した値が示されている。また、括孤内には、ホタテ貝殻セラミックスを生理食塩水で希釈した場合の理論値を示した。
表4から、生理食塩水で希釈した場合の理論値よりエタノールを混合した混合溶液のCa2+濃度がいずれも低くなっていることがわかる。特に、エタノール濃度が混合割合として80(v/v%)以上になると混合溶液中にCa2+はほとんど含まれなくなることがわかった。
【0020】
【表4】

【0021】
(まとめ)
上述したように、ホタテ貝殻セラミックス水溶液にエタノールを添加し、ATP測定法と平板培養法により、大腸菌とMRSA(No.60905)、MRSA(No.951121)に対する抗菌効果を調べた。その結果は以下の通りである。
(1)ホタテ貝殻セラミックス溶液だけの場合のいずれの濃度においても従来の結果と同様、大腸菌に対して即効性を示さない。
(2)エタノールだけの場合は、10%、20%の濃度では、大腸菌に対して即効性のある抗菌効果を示さないが、30%以上の濃度では即幼性のある抗菌効果を示した。
(3)ホタテ貝殻セラミックス溶液とエタノールとの混合溶液においてエタノールが20%となる混合溶液の場合、大腸菌に対しては、その混合溶液を加えた瞬間、生菌率0.07%で、相乗効果を示した。MRSAについては、No.60905の場合、1分で生菌率0.03%、No.951121の場合、5分で生菌率0.04%の結果が得られた。大腸菌と比較すると即効性は劣るものの、相乗効果が確認された。
(4)ホタテ貝殻セラミックス溶液の主成分である水酸化カルシウムCa(OH)2とエタノールとのMRSAの抗菌効果に対する相乗効果は、実用の範囲で使用できると判断される。
これらからホタテ貝殻セラミックス溶液とエタノールとを混合してなる抗菌剤は、上記大腸菌とMRSAに対して高い抗菌効果を有するものであることが分かった。そして、Ca2+の存在が低くなっているため、固形分としてのCa(OH)2の析出やCaCO3の沈殿を抑止し混合溶液の形態が安定することが分かった。
【0022】
(ATP測定法について)
ATPはアデノシン三リン酸で、生体内のエネルギー物質あるいは生命物質といわれている。細菌から動植物までに共通して存在している。酵素表面でATPが分解されるときエネルギーを発生し、このエネルギーを利用して細胞の種々の活動が行なわれている。抗菌作用で、細胞内物質が漏出したとき、この細胞内ATPと反応し、発光する試薬を用いて、相対発光量を測定することにより、生菌率と同様な値が得られることになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ホタテ貝殻セラミックス溶液濃度ごとに大腸菌の生菌率をグラフで示す説明図である。
【図2】エタノール濃度ごとに大腸菌の生菌率をグラフで示す説明図である。
【図3】エタノール濃度10%溶液中とホタテ貝殻セラミックス溶液濃度90%溶液中とホタテ貝殻セラミックス溶液:エタノール=90:10(v/v%)溶液中との大腸菌の生菌率をグラフで示す説明図である。
【図4】エタノール濃度20%溶液中とホタテ貝殻セラミックス溶液濃度80%溶液中とホタテ貝殻セラミックス溶液:エタノール=80:20(v/v%)溶液中との大腸菌の生菌率をグラフで示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホタテ貝殻を焼成して粉砕した粉体からなるホタテ貝殻セラミックスを水溶させて飽和状態としたホタテ貝殻セラミックス溶液とエチルアルコールとが混合していることを特徴とする抗菌剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−302580(P2007−302580A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130606(P2006−130606)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(595131857)株式会社チャフローズコーポレーション (9)
【Fターム(参考)】