説明

抗菌性カテーテルおよびその製造方法

【課題】溶媒に溶けない抗菌剤粒子であっても、カテーテルの表面から抗菌剤粒子が脱落することを抑制し、長期において抗菌性を維持できると共に、優れた血液適合性を有する抗菌性カテーテルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】抗菌性カテーテルは、カテーテルの少なくとも血管内挿入部位の表面に、抗菌剤粒子からなる被覆層が形成されたもので、被覆層を構成する抗菌剤粒子のうち、粒径が0.04〜1.0μmの抗菌剤粒子の体積%の合計が97%以上であり、被覆層の表面の粗さは、算術平均粗さ(Ra)で0.1μm未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性カテーテルおよびその製造方法に関し、特に、血管内に留置される中心静脈カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性カテーテルの一つとして、中心静脈カテーテルが挙げられる。この中心静脈カテーテルは、鎖骨下静脈や頸静脈に中心静脈カテーテルの皮膚刺入部を差し込み、上大静脈に中心静脈カテーテルの先端部を長期留置して使用する器具である。
そして、中心静脈カテーテルは、中心静脈カテーテルの皮膚刺入部あるいは内腔を介して細菌が体内に進入し、細菌感染を起こすおそれを回避するために、中心静脈カテーテルに抗菌性が付与されている。
また、中心静脈カテーテルを体内に長期留置して使用することがあるため、抗菌性が長期間維持されることが望まれている。
【0003】
ここで、抗菌性が付与された抗菌性カテーテルの製造方法としては、特許文献1に開示されるように、カテーテルの原材料である高分子化合物などに抗菌剤を練り込む製造方法がある。また、特許文献2に開示されるように、抗菌剤が溶けた溶液にカテーテルを浸漬させるとともに、付着した溶液を乾燥させて、カテーテルの表面を抗菌剤の層でコーティングする製造方法がある。
【0004】
また、前記した抗菌性カテーテルの製造方法によれば、同じ量の抗菌剤を使用した際、高分子化合物などに抗菌剤を練り込んで製造した場合に比べて、カテーテルの表面に抗菌剤の層をコーティングした場合の方が、カテーテルの表面に多くの抗菌剤が分布する。そのため、カテーテルの表面に抗菌剤の層をコーティングした場合の方が、抗菌性が高いという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−220216号公報
【特許文献2】特開平11−290449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されたコーティング方法において、例えば、ゼオライト銀粒子などの溶媒に溶けない抗菌剤粒子を用いて、カテーテルの表面をコーティングしようとした場合、ゼオライト銀粒子は溶媒に溶けないため、粒径が大きい状態で、カテーテルの表面に固定され、表面の粗さが大きくなる。そのため、使用時において、カテーテルを血管内に挿入する際に、ゼオライト銀粒子がカテーテル表面から脱落し、抗菌性を維持することができないおそれがある。一方、カテーテルを血管内に長期に留置した際には、カテーテルの表面に血栓が形成され、血液適合性が低下するおそれがある。
【0007】
また、ゼオライト銀粒子の粒径が小さすぎる場合には、溶媒中で粒子が凝集し、溶媒中での粒子分散が不安定となるため、ゼオライト銀粒子がカテーテルの表面に均一に被覆されなくなり、粒径が大きい場合と同様に、使用時にカテーテルの表面に血栓が形成される。また、カテーテル表面へのゼオライト銀粒子の不均一な被覆は、抗菌性の低下にもつながる。
【0008】
そこで、本発明は、前記問題に鑑みて創案されたもので、溶媒に溶けない抗菌剤粒子であっても、カテーテルの表面から抗菌剤粒子が脱落することを抑制し、長期において抗菌性を維持できると共に、優れた血液適合性を有する抗菌性カテーテルおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明に係る抗菌性カテーテルは、カテーテルの少なくとも血管内挿入部位の表面に、抗菌剤粒子からなる被覆層が形成されたもので、前記被覆層を構成する抗菌剤粒子のうち、粒径が0.04〜1.0μmの抗菌剤粒子の体積%の合計が97%以上であり、前記被覆層の表面の粗さは、算術平均粗さ(Ra)で0.1μm未満であることを特徴とする。
【0010】
前記構成によれば、カテーテル表面の被覆層を構成する所定径の抗菌剤粒子の割合が所定範囲であって、被覆層の表面粗さが所定範囲であることによって、血管内に挿入、留置された際に、抗菌性および抗血栓性が長期にわたって維持される。
【0011】
また、前記抗菌性カテーテルでは、前記抗菌剤粒子は、銀担持シリカ粒子、ゼオライト銀粒子、銀粒子の少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。
前記構成によれば、抗菌作用に優れた銀を含有する抗菌剤粒子を用いることによって、抗菌性がさらに維持される。
【0012】
本発明に係る抗菌性カテーテルの製造方法は、有機溶媒中に抗菌剤粒子を分散させ、粉砕機を用いて前記抗菌剤粒子の粒度分布を調製して抗菌剤含有溶液とする分散粉砕工程と、カテーテルの少なくとも血管内挿入部位の表面に、前記抗菌剤含有溶液を付着させる付着工程と、前記カテーテルの表面に付着した前記抗菌剤含有溶液を乾燥させる乾燥工程と、を含み、前記分散粉砕工程で調製された粒度分布は、粒径が0.04〜1.0μmの抗菌剤粒子の体積%の合計が97%以上、かつ、粒径が0.04〜0.2μmの抗菌剤粒子の体積%の合計が70%以下であることを特徴とする。
【0013】
前記手順によれば、分散粉砕工程において、抗菌剤含有溶液の抗菌剤粒子の粒度分布が所定範囲となるように粉砕機を用いて調製することによって、付着工程および乾燥工程を経て、カテーテル表面に所定範囲の粒径を有する抗菌剤粒子から構成された被覆層が形成されると共に、その被覆層の表面粗さが所定範囲となる。その結果、抗菌性および抗血栓性が長期にわたって維持される抗菌性カテーテルを製造できる。
【0014】
また、抗菌性カテーテルの製造方法では、前記分散粉砕工程で調製された粒度分布は、前記抗菌剤粒子の体積%が最大値を示す粒径(最頻径)が0.08μm以上であることが好ましい。
【0015】
前記手順によれば、抗菌剤粒子の最頻径が所定範囲であることによって、粒径:0.04〜0.2μmの範囲の抗菌剤粒子の体積%の合計を調製しやすくなり、被覆層の抗菌剤粒子の粒径、および、被覆層の表面粗さが所定範囲となる。その結果、抗菌性および抗血栓性がさらに維持される抗菌性カテーテルを製造できる。
【0016】
また、抗菌性カテーテルの製造方法は、前記抗菌剤粒子が、銀担持シリカ粒子、ゼオライト粒子、銀粒子の少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。
前記手順によれば、抗菌作用に優れた銀を含有する抗菌剤粒子を用いることによって、抗菌性がさらに維持される抗菌性カテーテルを製造できる。
【発明の効果】
【0017】
以上、本発明によれば、溶媒に溶けない抗菌剤粒子であっても、カテーテルの表面から抗菌剤粒子が脱落することを抑制し、長期において抗菌性を維持できると共に、優れた血液適合性を有する抗菌性カテーテルおよびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態である中心静脈カテーテルの全体構成を示す図である。
【図2】実施例1で用いた抗菌剤含有溶液の粒度分布を示す図である。
【図3】実施例2で用いた抗菌剤含有溶液の粒度分布を示す図である。
【図4】比較例1で用いた抗菌剤含有溶液の粒度分布を示す図である。
【図5】比較例2で用いた抗菌剤含有溶液の粒度分布を示す図である。
【図6】比較例3で用いた抗菌剤含有溶液の粒度分布を示す図である。
【図7】比較例4で用いた抗菌剤含有溶液の粒度分布を示す図である。
【図8】血液適合性の評価に用いたTAT産出量測定装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る抗菌性カテーテルの実施形態について説明する。
抗菌性カテーテルは、カテーテルの少なくとも血管内挿入部位の表面に、抗菌剤粒子からなる被覆層が形成されたもので、被覆層を構成する抗菌剤粒子の粒径、および、被覆層の表面の粗さを所定範囲に規定したものである。以下、各構成について説明する。
【0020】
抗菌性カテーテルにおいて、被覆層が形成されるカテーテルは、血管内に挿入して使用されるものであれば、その構成は特に限定されないが、例えば、本発明の抗菌性カテーテルを中心静脈カテーテルとして使用する場合には、以下のような構成を備える。
【0021】
図1に示すように、中心静脈カテーテル1は、薬液等が流れる内腔(図示せず)を有するチューブ状の本体部2と、本体部2の先端側に接合されたチューブ状の先端部3と、本体部2の基端側に接合されたハブ4と、ハブ4に接合された薬液注入のための接続チューブ5と、接続チューブ5の基端側に接合されたコネクター6とを備えている。
【0022】
この中心静脈カテーテル1は、鎖骨下静脈や頸静脈から先端部3(本体部2)を挿入し、本体部2を上大静脈などに留置させて、接続チューブ5を用いて高カロリー輸液、薬剤投与、採血などを行うための医療器具であり、従来から抗菌性カテーテルに用いられている高分子材料で形成されている。高分子材料としては、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエステル、シリコン樹脂などが使用できる。
【0023】
なお、中心静脈カテーテル1において、抗菌剤粒子からなる被覆層(図示せず)が形成される血管内挿入部位とは、本体部2と先端部3であって、血管内挿入部位の表面とは、チューブ状である本体部2と先端部3との内表面と外表面を指す。
【0024】
抗菌性カテーテルにおいて、被覆層を構成する抗菌剤粒子は、無機系抗菌剤粒子、有機系抗菌剤粒子のいずれであってもよく、例えば、銀担持シリカ粒子、ゼオライト銀粒子、銀粒子、銅粒子、プラチナ微粒子、酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子、酸化タングステン粒子、スルファジアジン銀、カーボンナノチューブ、銀担持カーボンナノチューブ、銀被覆カーボンナノチューブなどが挙げられる。そして、抗菌剤粒子は、抗菌作用が優れている銀を含有する点で、銀担持シリカ粒子、ゼオライト銀粒子および銀粒子の少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。
【0025】
また、被覆層を構成する抗菌剤粒子のうち、粒径が0.04〜1.0μmの抗菌剤粒子の体積%の合計が97%以上である必要がある。被覆層を構成する抗菌剤粒子の粒径において、粒径が0.04〜1.0μmの範囲にあるものの割合が97%未満であると、被覆層に粒径が1.0μmを超える粗大粒子が存在することとなり、被覆層の表面粗さが大きくなって、カテーテル使用時に、カテーテル表面から抗菌剤粒子が脱落すると共に、カテーテル表面に血栓が形成される。ここで、粒径0.04μmは、市販の粒径測定装置(粒度分布計)の測定限界値である。なお、被覆層を構成する抗菌剤粒子の粒径の制御は、抗菌性カテーテルの製造において、被覆層を形成する抗菌剤含有溶液の抗菌剤粒子の粒度分布を調整することによって達成される(後記する分散粉砕工程参照)。
【0026】
抗菌性カテーテルにおいて、被覆層の表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で0.1μm未満である必要がある。被覆層の表面粗さ(Ra)が0.1μm以上であると、被覆層の表面粗さが大きくなって、カテーテル使用時に、カテーテル表面から抗菌剤粒子が脱落すると共に、カテーテル表面に血栓が形成される。なお、被覆層の表面粗さ(Ra)の制御は、抗菌性カテーテルの製造において、被覆層を形成する抗菌剤含有溶液の抗菌剤粒子の粒度分布を調整することによって達成される(後記する分散粉砕工程参照)。
【0027】
次に、本発明に係る抗菌性カテーテルの製造方法の実施形態について説明する。
本発明の製造方法は、分散粉砕工程と、付着工程と、乾燥工程とを含み、分散粉砕工程における抗菌剤含有溶液の抗菌剤粒子の粒度分布を所定範囲に規定したものである。以下、各工程について説明する。
【0028】
(分散粉砕工程)
分散粉砕工程は、有機溶媒中に抗菌剤粒子を分散させ、粉砕機を用いて抗菌剤粒子の粒度分布を調製して抗菌剤含有溶液とする工程である。そして、分散粉砕工程では、抗菌剤含有溶液の抗菌剤粒子の粒度分布が、粒径が0.04〜1.0μmの抗菌剤粒子の体積%の合計において所定範囲、かつ、粒径が0.04〜0.2μmの抗菌剤粒子の体積%の合計において所定範囲となるように、粉砕機を用いて調製する。また、粒度分布においては、抗菌剤粒子の体積%が最大値を示す粒径(最頻径)が所定範囲であることが好ましい。
【0029】
分散粉砕工程において、抗菌剤含有溶液の作製に使用される有機溶媒は、その溶媒種は、次工程におけるカテーテル表面への付着に適し、溶媒中に抗菌剤粒子を分散できるものから選定され、N−メチル−ピロリドン(NMP)、テトラハイドロフラン(THF)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジ−メチルアセトアミド(DMA)、シクロヘキサノンなどが好ましい。また、抗菌剤含有溶液を付着工程で使用する際には、適宜溶媒で希釈して使用することが好ましい。希釈溶媒としては、前記分散処理で使用した溶媒、メタノール、エタノールなどを使用する。また、抗菌剤粒子については、既に記載したとおりであるので、記載を省略する。さらに、抗菌剤含有溶液における抗菌剤粒子の含有量は、抗菌性カテーテルに要求される抗菌性および血液適合性の度合いによって適宜設定されるが、抗菌性カテーテルを中心静脈カテーテルとして使用する場合には、0.1〜3wt/v%が好ましい。
【0030】
分散粉砕工程において、抗菌剤粒子の粒度分布を調整するために用いられる粉砕機は、粒度分布を所定範囲に調整できれば特に限定されないが、ジェットミル装置が好ましい。そして、粉砕機の粉砕条件を制御することによって、抗菌剤粒子の粒度分布を調製する。粉砕機としてジェットミル装置を用いる場合には、粉砕条件として50〜200MPa、50〜1000passが好ましい。
【0031】
抗菌剤粒子の粒度分布は、粒径が0.04〜1.0μmの抗菌剤粒子の体積%の合計において97%以上、かつ、粒径が0.04〜0.2μmの抗菌剤粒子の体積%の合計において70%以下となる必要がある。また、粒度分布において、抗菌剤粒子の最頻径が0.08μm以上であることが好ましい。
【0032】
粒度分布において、粒径が0.04〜1.0μmの抗菌剤粒子の体積%の合計が97%未満であると、後工程で形成される被覆層に粒径1.0μmを超える粗大粒子が存在することとなり、被覆層の表面粗さが大きくなって、カテーテル使用時に、カテーテル表面から抗菌剤粒子が脱落すると共に、カテーテル表面に血栓が形成される。ここで、粒径0.04μmは、市販の粒度分布計の測定限界値である。
【0033】
また、粒度分布において、粒径が0.04〜0.2μmの抗菌剤粒子の体積%の合計が70%を超えると、抗菌剤含有溶液中に分散した粒径の小さい抗菌剤粒子が多くなり、粉砕機で粉砕後に再凝集して粒径の大きい粗大粒子を形成させる。その結果、後工程で形成される被覆層に粗大粒子が存在することとなり、被覆層の表面粗さが大きくなって、カテーテル使用時に、カテーテル表面から抗菌剤粒子が脱落すると共に、カテーテル表面に血栓が形成される。また、カテーテル表面への被覆層の形成が不均一になり、このことも、カテーテル表面に血栓を形成させる要因となる。
【0034】
さらに、粒度分布において、抗菌剤粒子の最頻径が0.08μm未満であると、前記した粒径が0.04〜0.2μmの抗菌剤粒子の体積%の合計が70%を超えやすくなり、抗菌剤含有溶液中に分散した粒径の小さい抗菌剤粒子が多くなり、粉砕機で粉砕後に再度凝集して粒径の大きい粗大粒子を形成させやすくなる。その結果、後工程で形成される被覆層に粗大粒子が存在しやすくなり、被覆層の表面粗さが大きくなって、カテーテル使用時に、カテーテル表面から抗菌剤粒子が脱落すると共に、カテーテル表面に血栓が形成されやすくなる。また、カテーテル表面における被覆層の形成が不均一になり、血栓が形成されやすくなる。
【0035】
(付着工程)
付着工程は、カテーテルの少なくとも血管内挿入部位の表面に、前記工程で粒度分布が調製された抗菌剤含有溶液を付着させる工程である。そして、カテーテルの表面への抗菌剤含有溶液の付着方法は、抗菌剤含有溶液中にカテーテルを浸漬させて行なうことが好ましい。また、付着方法としては、浸漬以外に、スプレーコートなどでもよい。また、抗菌剤含有溶液の付着量は、抗菌性カテーテルに要求される抗菌性および血液適合性の度合いによって適宜設定し、浸漬時間、塗布量などを適宜調整することによって制御する。
【0036】
(乾燥工程)
乾燥工程は、前記工程でカテーテルの表面に付着した抗菌剤含有溶液を乾燥させる工程である。そして、乾燥工程では、乾燥によって抗菌剤含有溶液から溶媒が蒸発して、カテーテルの表面に抗菌剤粒子からなる被覆層が形成される。また、乾燥は、加熱処理、室温放置のいずれで行ってもよく、抗菌剤含有溶液の溶媒種によって適宜選択される。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の実施例などについて説明する。
(実施例No.1、参考例No.7)
銀担持シリカ粒子の粒子粉末(銀含有量20質量%)をN−メチルピロリドン(NMP)に5wt/v%の割合で分散させたところ、分散(攪拌)後は大きな凝集塊が瞬時に沈殿した(未処理液)。この未処理液20mlをジェットミル装置(常光社製)で凝集塊を粉砕(180MPa、800Pass)して抗菌剤含有溶液とし、粒度分布計(COULTER社製)にて粒度分布を測定した。その結果を図2、表1に示す。
【0038】
この抗菌剤含有溶液をメタノール(Me)で希釈し、N−メチルピロリドンとメタノールの混合溶媒(混合比1:1)で1wt/v%の抗菌剤含有溶液に調製した。次に、ポリウレタン(日本ミラクトン社製、商品名「E990」)で長さ30cmのチューブを成形した(参考例No.7のカテーテルに相当する)。このチューブを抗菌剤含有溶液に浸漬し、その後、乾燥してカテーテル(実施例No.1のカテーテルに相当する)とした。このカテーテルの表面粗さ(算術平均粗さRa)をレーザー顕微鏡にて測定した。その結果を表1に示す。なお、参考例No.7のカテーテルについても、同様にして、表面粗さ(算術平均粗さRa)を測定し、その結果を表1に示す。
【0039】
(実施例No.2)
銀担持シリカ粒子の粒子粉末(銀含有量20質量%)をテトラハイドロフラン(THF)に5wt/v%の割合で分散させたところ、分散(攪拌)後は大きな凝集塊が瞬時に沈殿した(未処理液)。この未処理液20mlをジェットミル装置(常光社製)で凝集塊を粉砕(100MPa、400Pass)して抗菌剤含有溶液とし、粒度分布計(COULTER社製)にて粒度分布を測定した。その結果を図3、表1に示す。
【0040】
この抗菌剤含有溶液をTHFで希釈し、1wt/v%の抗菌剤含有溶液に調製した。次に、ポリウレタン(日本ミラクトン社製、商品名「E990」)で長さ30cmのチューブを成形し、このチューブを抗菌剤含有溶液に浸漬し、その後、乾燥してカテーテルとした。このカテーテルの表面粗さ(算術平均粗さRa)をレーザー顕微鏡にて測定した。その結果を表1に示す。
【0041】
(比較例No.3)
実施例No.1の未処理液を抗菌剤含有溶液として使用し、実施例No.1と同様にして、カテーテルを作製した。また、未処理液の粒度分布、カテーテルの表面粗さ(算術平均粗さRa)についても、実施例No.1と同様にして測定し、その結果を図4、表1に示す。
【0042】
(比較例No.4)
ビーズミル装置(アイメックス社製)を用いて、実施例No.1の未処理液を粉砕(2000rpm、3時間)したこと以外は、実施例No.1と同様にして抗菌剤含有溶液を調製した。この抗菌剤含有溶液を用いて、実施例No.1と同様にして、カテーテルを作製した。また、抗菌剤含有溶液の粒度分布、カテーテルの表面粗さ(算術平均粗さRa)についても、実施例No.1と同様にして測定し、その結果を図5、表1に示す。なお、この抗菌剤含有溶液は1時間静置すると再凝集が認められた。
【0043】
(比較例No.5)
実施例No.2の未処理液を抗菌剤含有溶液として使用し、実施例No.2と同様にして、カテーテルを作製した。また、未処理液の粒度分布、カテーテルの表面粗さ(算術平均粗さRa)についても、実施例No.2と同様にして測定し、その結果を図6、表1に示す。
【0044】
(比較例No.6)
ジェットミル装置(常光社製)を用いて、実施例No.1の未処理液を粉砕(180MPa、40pass)したこと以外は、実施例No.1と同様にして抗菌剤含有溶液を調製した。この抗菌剤含有溶液を用いて、実施例No.1と同様にして、カテーテルを作製した。また、抗菌剤含有溶液の粒度分布、カテーテルの表面粗さ(算術平均粗さRa)についても、実施例No.1と同様にして測定し、その結果を図7、表1に示す。
【0045】
次に、実施例No.1、実施例No.2、比較例No.3〜6、参考例No.7のカテーテルについて、血液適合性を以下の方法で評価し、その結果を表1に示す。
【0046】
[血液適合性]
カテーテルを、図8に示す系にて60minの血液循環実験を行った。循環後、血栓の形成度の指標であるTAT(トロンビン−アンチトロンビンIII複合体)産生量を測定した。TAT産出量の測定値が小さいほど、血栓が形成されにくく、血液適合性に優れていると言える。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すとおり、本発明の要件を満足する実施例のNo.1、No.2は、被覆層が形成されていない参考例No.7、および、本発明の要件を満足しない比較例No.3〜6に比べて、血液適合性において優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0049】
1 中心静脈カテーテル
2 本体部
3 先端部
4 ハブ
5 接続チューブ
6 コネクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテルの少なくとも血管内挿入部位の表面に、抗菌剤粒子からなる被覆層が形成された抗菌性カテーテルであって、
前記被覆層を構成する抗菌剤粒子のうち、粒径が0.04〜1.0μmの抗菌剤粒子の体積%の合計が97%以上であり、
前記被覆層の表面の粗さは、算術平均粗さ(Ra)で0.1μm未満であることを特徴とする抗菌性カテーテル。
【請求項2】
前記抗菌剤粒子は、銀担持シリカ粒子、ゼオライト銀粒子、銀粒子の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の抗菌性カテーテル。
【請求項3】
有機溶媒中に抗菌剤粒子を分散させ、粉砕機を用いて前記抗菌剤粒子の粒度分布を調製して抗菌剤含有溶液とする分散粉砕工程と、
カテーテルの少なくとも血管内挿入部位の表面に、前記抗菌剤含有溶液を付着させる付着工程と、
前記カテーテルの表面に付着した前記抗菌剤含有溶液を乾燥させる乾燥工程と、
を含み、
前記分散粉砕工程で調製された粒度分布は、粒径が0.04〜1.0μmの抗菌剤粒子の体積%の合計が97%以上、かつ、粒径が0.04〜0.2μmの抗菌剤粒子の体積%の合計が70%以下であることを特徴とする抗菌性カテーテルの製造方法。
【請求項4】
前記分散粉砕工程で調製された粒度分布は、前記抗菌剤粒子の体積%が最大値を示す粒径(最頻径)が0.08μm以上であることを特徴とする請求項3に記載の抗菌性カテーテルの製造方法。
【請求項5】
前記抗菌剤粒子が、銀担持シリカ粒子、ゼオライト粒子、銀粒子の少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の抗菌性カテーテルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−200274(P2012−200274A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64607(P2011−64607)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】