説明

抗菌性システムおよび方法

【課題】カテーテルの除菌又はカテーテルに抗菌コーティングをする薬剤の提供。
【解決手段】カテーテルを除菌するために一般的に処方されるとき、抗菌性物質は、水と、該水1mLあたり約10ないし200mgのEDTA四ナトリウムとを含む。感染したカテーテルを処理するために処方されるとき、前記抗菌性物質は、水と、該水1mLあたり約5ないし80mgのEDTA四ナトリウムとを含む。カテーテルの感染を抑制するための予防物質として処方されるとき、前記抗菌性物質は、水と、該水1mLあたり約5ないし40mgのEDTA四ナトリウムとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、抗菌性(anti−microbial)システムおよび方法に関し、より具体的には、抗菌性材料および抗菌性材料を適用するための送達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
関連する出願
本出願は、2001年12月5日に出願された、米国仮特許出願第60/338,639号を基礎とする優先権の主張を伴う。
【0003】
以下の説明において、「微生物(microbe)」または「微生物性(microbial)」という用語は、菌類(fungal organisms)および細菌(bacterial organisms)を含み、ウイルス(viral organisms)も含む場合がある、人間に感染する能力を有し、顕微鏡で見える生物を指すものとして用いられる。したがって、「抗菌性」という用語は、菌類および/または細菌と、場合によっては、ウイルスとを殺すか、それとも、成長を抑制する材料または試薬を指すものとしてここでは用いられる。
【0004】
「除菌(disinfect)」という用語は、特定された(defined)システムから感染性の微生物を減少させ、抑制され、あるいは、除去することを指すものとして用いられる。「除菌剤(disinfectant)」という用語は、単独または単体、溶媒等のような他の材料との組み合わせで使用される1または2以上の抗菌性物質を指すものとしてここでは用いられる。
【0005】
「感染システム」という用語は、1または2以上の感染性の微生物が存在するかその可能性がある、特定され(defined)、あるいは、はっきりと区別された(discrete)システムまたは環境を指すものとしてここでは用いられる。感染システムの例は、浴室・トイレ(bathroom)または手術室のような物理的な空間か、食物または手術器具のような物理的な物体か、人体のような生物学的なシステムか、人体内に少なくとも部分的に配置されたカテーテル等のような、物理的な物体と生物学的なシステムとの組み合わせかを含む。産業または医療の環境におけるチューブその他の液体配送用の導管(conduit)も、感染システムを特定する場合がある。
【0006】
医科、歯科、獣医科、家事、調理、工業用水供給、その他の用途における抗菌性試薬の必要性はより認識されている。これらの環境の全ては、表面上、液体導管内、および/または、人体または人間の食用に供する食物の上のような感染性微生物が存在するかもしれない感染システムを特定する場合がある。
【0007】
従来、複数の抗菌性システムおよび方法が、感染システムを除菌するのに用いられる。例えば、フェノールおよび次亜塩素酸(hyperchlorites)のような除菌用化学薬品は、感染した表面に局部的に適用される。これらの除菌用化学薬品はしばしば人体に有毒であるので、規制されたやり方で取り扱い、適用および廃棄がなされなければならない。非生物学的な物理的物体のためのその他の除菌用システムおよび方法は、従来のオートクレーブ技術のような、加熱および/または加圧を含む。
【0008】
先行技術
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)は、全身的な解毒(detexification)処置のためと、血液サンプル中の抗凝固剤として用いられてきた。したがって、その医学的な処置および用途のための使用は確立している。EDTA二ナトリウムおよびEDTAカルシウム二ナトリウムをその他の化合物と併用して、これら他の化合物の抗菌性を向上させることは研究され実施されてきた。
【0009】
EDTAのたいていの用途は、二ナトリウムEDTAまたはカルシウムEDTAの利用に留まっている。Raadらに付与された以下の特許文献1は、(a)抗凝固剤、(b)抗凝塊形成剤および(c)キレート剤からなるグループから選択される第2の試薬と連携する非糖ペプチド抗菌剤の使用を開示する。前記特許文献1に列挙された利用可能なキレート剤は、二ナトリウムEDTAおよびカルシウム二ナトリウムEDTAを含む。Raadは、開示された発明の治療上の利益を保持しつつEDTAを除外してもかまわないと特記しているので、抗菌性試薬としてのEDTAそれ自体のいかなる形態の使用も開示していない。
【特許文献1】米国特許第5,688,516号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
出願人の理解では、文献におけるEDTAへの言及は、EDTAの二ナトリウム塩およびカルシウム二ナトリウム塩への言及で、これらの言及の大半は、二ナトリウム塩への言及である。さらに、文献における一部の言及は、ある種の用途に用いられるときのEDTA二ナトリウムまたはEDTAカルシウム二ナトリウムの抗菌性と称する性質について論じている。二ナトリウムEDTAは血液サンプルの抗凝固剤として低濃度で用いられてきた。血液サンプルに用いられるEDTAの濃度は、低すぎて抗凝固剤として以外のいかなる作用も奏することができない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、1の態様では、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のある種の塩を含む抗菌物質である。EDTAの除菌性のある塩、あるいは、除菌性塩(disinfectant salt)、あるいはもっと簡潔に、除菌性塩としてここで言及されるであろうこれらの塩は、以下ではじめて説明される。別の態様では、本発明は、前記EDTAの除菌性塩を適用するための送達システムおよび方法を含む。かかる送達システムおよび方法の複数のものが以下に詳しく説明される。
【0012】
I.EDTAの除菌性塩
本発明によると、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の独立した(stand−alone)塩は有効な抗菌性試薬であり、特定の塩が他のものより有効であることが発見された。特に、EDTAの他の塩は、普通の使用においては二ナトリウム塩より優れた抗菌性(抗菌類および抗細菌の両方)を示すことが発見された。特に、EDTA二カリウムおよびEDTAアンモニウムは、EDTA二ナトリウムよりも優れており、EDTA四ナトリウムは、二ナトリウム塩、アンモニウム塩および二カリウム塩より好ましいことがわかった。
【0013】
感染性の生物は、通例「ヘドロ(slime)」と呼ばれるバイオフィルムの中で増殖することがしばしばある。かかるバイオフィルムは、化学的ないし生化学的な構造に加えて機械的な構造も有する。これらのバイオフィルムが、除菌剤、システムおよび方法に与える影響はよくわかっていなかった。出願人は、これらのバイオフィルムが該バイオフィルムを形成する感染性の生物の少なくとも一部を保護する機能を有すると考える。特に、前記バイオフィルムは糖衣(glycocalyx)の保護「マトリクス」を確立し、該糖衣は、遺伝子の多重の上向き調節および下向き調節によって前記バイオフィルム内部にコロニーを形成している生物を保護する「バイオフィルム耐性表現型」を誘導する。
【0014】
出願人は、EDTAの好ましい除菌性塩は、望ましくないバイオフィルムの構造を破壊するのを助けて、EDTAが該バイオフィルム内部の個々の生物を殺すか、あるいは、その成長を阻害するので、前記バイオフィルムを処理するうえで前記EDTAの好ましい除菌性塩が比較的有効であることを発見した。
【0015】
EDTAの前記除菌性塩は、通常は結晶粉末状で提供され、一部のケースでは液状で提供される。EDTAの原材料は、状況によっては、除菌剤として単独で使用される場合があるが、水溶液の環境で除菌剤溶液を生成するために使用される可能性のほうがより高い。水は典型的な溶媒であるが、他の溶媒が感染システムの詳細に応じて使用される場合がある。除菌剤溶液として使用されるとき、EDTAの前記除菌性塩が、前記感染システムに応じて、他の化学薬品と組み合わせられる場合もある。したがって、前記EDTAが適用される正確な形状は、前記感染システムの詳細に依存する。
【0016】
EDTAの二ナトリウム塩および四ナトリウム塩は、容易に入手可能で、相応のコストで製造することができ、時間がたっても安定である。これらの塩は、少量では毒性がなく、高度に希釈されるとき、および/または、試験管内および生体内の両方で人間の血液と接触して使用されるとき、人間が摂取しても安全であることが確立していると一般に考えられている。
【0017】
EDTAの二カリウム塩、アンモニウム塩その他の塩は、二ナトリウム塩および四ナトリウム塩に比べると、比較的高価で、あまり容易には入手できない。さらに、出願人は、EDTAの二ナトリウム塩および四ナトリウム塩以外のEDTAの除菌性塩に関するいかなる生体適合性の情報も知らない。そこで、現在のところ、商業的な観点からは、EDTAの二ナトリウム塩および四ナトリウム塩が、入手可能性、コスト、安定性および生体適合性が知られていることを理由として、一般には好ましい。しかし、EDTAの二カリウム塩、アンモニウム塩その他の除菌性塩は、前記感染システムの詳細に応じて、あるいは、製造上または生体適合性についての検討項目が変化する場合には、状況によっては好ましい場合もある。
【0018】
したがって、抗菌性試薬としてのEDTAの除菌性がある塩の使用は、感染性の微生物が人間から人間へと伝染することを減少させる上で著しく有望である。
【0019】
II.代表的な感染システムへのEDTAの除菌性塩の適用
EDTAの除菌性塩は、さまざまなタイプの感染システムを除菌するために使用される場合がある。各タイプの感染システムは、前記EDTA分子を感染性の微生物に運ぶための送達システムを伴う。前記送達システムは、前記除菌剤溶液を前記感染システムに送達するための除菌剤溶液と物理的構造とを形成するべく、前記除菌性塩と組み合わされる1または2以上の溶媒を含むことがしばしばある。EDTAの前記除菌性塩の使用が有益である、感染システムの複数の例が、以下に説明される。しかし、EDTAの前記除菌性塩が他のタイプの感染システムに対して有益な用途がある場合があることは自明であり、以下の説明は本出願の範囲を限定することを意図するものではない。
【0020】
A.導管
導管は、防腐剤または菌類または細菌の感染の可能性があった後の処理として、EDTAの二カリウム塩、アンモニウム塩または四ナトリウム塩で処理可能であることが発見されている。
【0021】
典型的には、導管の処理に使用されるときには、EDTAの除菌性塩は水に溶かされる。以下の表1(表A)は、水を溶媒として使用するとき、EDTAの除菌性塩のそれぞれの典型的な濃度とこれらの濃度の範囲とを列挙する。以下の表Aに表される濃度は、水1mlあたりのEDTAのミリグラム(mg/ml)単位で表記される。
【0022】
【表1】

【0023】
導管の処理は、前記EDTA溶液のロック(lock)、噴流、コーティング(coating)またはエアロゾル投与からなる。EDTAの前記除菌性塩を使用して処理される場合がある導管の例は、歯科医師または医師の診療所の給排水管と、滅菌した液体を運ぶ管と、血液および/またはその他の液体を身体から出し入れするカテーテルまたはポートと、効率的な液流に影響を与えるとともに、その管を通る液体を汚染する、大規模なバイオフィルム集団を発生させる工業用水供給管と、気道補助装置とを含む。その他の例は、飲料水容器および食品包装のような消費を含む。EDTAの前記除菌性塩によって処理される導管は、プラスチックでできているのが典型的であるが、本発明の原理は、液体を配送または搬送する、金属のようないずれかの材料でできた導管装置にも適用される場合がある。
【0024】
B.医科用途における結晶の溶解
さらなる発見は、上記のEDTA塩濃度でのロックまたは噴流による、泌尿器科用カテーテルでの結晶形成の処理および予防と、腎臓患者の膀胱の腎臓結石の処理とにおけるEDTAの前記除菌性塩の使用である。この方法は、カルシウムおよびマグネシウムのリン酸塩の結晶を溶解し、これらの結晶を形成するウレアーゼを産生する細菌を殺す。特に、EDTAの前記除菌性塩は、ウレアーゼ産生菌であるプロテウス(Proteus)属およびシュードモナス(Pseudomonas)属の細菌種と、その他の泌尿器の病原菌とを殺すことがわかった。
【0025】
典型的には、泌尿器科用カテーテルの結晶形成を処理または予防するために使用されるとき、EDTAの前記除菌性塩は水に溶かされる。以下の表2(表B)は、この用途において水を溶媒として使用するときの、EDTAのそれぞれの除菌性塩の典型的な濃度とこれらの濃度の範囲とを列挙する。以下の表Bに表される濃度は、水1mlあたりのEDTAのミリグラム単位(mg/ml)で表記される。
【0026】
【表2】

【0027】
C.材料の汚染浄化および保存
EDTAの二カリウム塩、アンモニウム塩および四ナトリウム塩の単独使用は、血液および血漿のような感染の可能性がある材料と、これらに用いる導管および容器を汚染浄化し保存することが発見された。EDTAの前記除菌性塩は、食品および飲料の保存剤として比較的高濃度で使用される場合もある。典型的には、EDTAの前記除菌性塩は、材料の汚染浄化または保存のための添加物として使用されるとき、汚染浄化および/または保存されるべき材料に溶解されるか、該材料の表面に適用される。
【0028】
以下の表3(表C)は、血液の汚染浄化および保存に使用されるときのEDTAの除菌性塩のそれぞれの典型的な濃度とこれらの濃度の範囲とを列挙する。以下の表Cに表される濃度は、血液1mlあたりのEDTAのミリグラム単位(mg/ml)で表記される。
【0029】
【表3】

【0030】
以下の表4(表D)は、人間が消費するための液体の汚染浄化および保存に使用されるときのEDTAの除菌性塩のそれぞれの典型的な濃度とこれらの濃度の範囲とを列挙する。以下の表Dに表される濃度は、処理されるべき液体の1mlあたりのEDTAのミリグラム単位(mg/ml)で表記される。
【0031】
【表4】

【0032】
以下の表5(表E)は、人間が消費するための食品の汚染浄化および保存に使用されるときのEDTAの除菌性塩のそれぞれの典型的な濃度とこれらの濃度の範囲とを列挙する。この用途においては、EDTAの前記除菌性塩は、食品に噴霧され、あるいは、食品が浸されるように、除菌液を得るために水に溶かされるのが典型的である。以下の表Eに表される濃度は、水1mlあたりのEDTAのミリグラム単位(mg/ml)で表記される。
【0033】
【表5】

【0034】
D.人体への局所的適用
EDTAの二カリウム塩、アンモニウム塩または四ナトリウム塩の抗菌特性は、皮膚、耳、肛門、口および外陰膣の部位を含むがこれらに限られない、局所的な感染の治療に有効であることが発見された。1つの例は、歯磨きへの添加剤としてである。
【0035】
以下の表6(表F)は、人間の局所的除菌剤として使用するときに、EDTAの除菌性塩のそれぞれの典型的な濃度とこれらの濃度の範囲とを列挙する。この用途においては、EDTAの除菌性塩は、液体の希釈剤を含む送達システムに取り込まれるのが典型的であり、かかる送達システムは、クリーム、軟膏、ゲルおよび乳液を含む場合がある。以下の表Fに表される濃度は、希釈剤1mlあたりのEDTAのミリグラム単位(mg/ml)で表記される。
【0036】
【表6】

【0037】
E.表面への局所的適用
EDTAの二カリウム塩、アンモニウム塩または四ナトリウム塩の単独使用は、表面と、産業、医療および家庭用の設備とのための有効な除菌剤であることが発見された。典型的な感染システムは、便所の壁、床および便器を含む。送達システムは、溶媒と、前記感染システムの周囲の表面を噴流し、ロックし、拭き取り、浸漬し、噴霧しまたはコーティングすることを可能にする道具とを含むのが典型的である。
【0038】
以下の表7(表G)は、表面洗浄剤として使用されるときのEDTAの除菌性塩のそれぞれの典型的な濃度とこれらの濃度の範囲とを列挙する。この用途においては、EDTAの前記除菌性塩は、液体希釈剤または溶媒、典型的には水を含む送達システムに取り込まれているのが典型的である。以下の表Gに表される濃度は、前記希釈剤または溶媒の1mlあたりのEDTAのミリグラム単位(mg/ml)で表記される。
【0039】
【表7】

【0040】
F.物体の除菌
1および1000mg/mlの間の濃度のEDTAの二カリウム塩、アンモニウム塩または四ナトリウム塩の単独使用は、医科用器具および装置、歯科用(消費者用および専門家用の両方)器具および装置、および/または獣医科用器具および装置の効果的な汚染浄化除菌剤であることが発見された。典型的な例は、歯ブラシを除菌するための浸漬液である。
【0041】
以下の表8(表H)は、物体の洗浄剤として使用するときEDTAの除菌性塩のそれぞれの典型的な濃度とこれらの濃度の範囲とを列挙する。この用途においては、EDTAの前記除菌性塩は、液体希釈剤または溶媒、典型的には水を含む送達システムに取り込まれるのが典型的である。前記除菌剤溶液は容器に収納され、除菌されるべき物体は、特定の温度および圧力、典型的には常温常圧で、特定の曝露時間の間、除菌液に入れられる。前記曝露時間の長さは、前記物体ができている材料と、前記物体の形状と、前記物体の用途とに依存する。以下の表Hに表される濃度は、水1mlあたりのEDTAのミリグラム単位(mg/ml)で表記される。
【0042】
【表8】

【0043】
G.コンタクトレンズ用の局所除菌液
EDTAの二ナトリウム塩、二カリウム塩、アンモニウム塩または四ナトリウム塩の単独使用は、光学的コンタクトレンズ用の有効な防腐剤であることが発見された。
【0044】
相応の時間内にコンタクトレンズを洗浄するのに要するEDTAの除菌性塩の濃度は眼に炎症を起こすのに十分なくらい高いのが典型的である。したがって、前記光学的コンタクトレンズは、眼の炎症を低減するために除菌後に中和剤に曝露するのが典型的である。前記中和剤は、典型的には、塩化カルシウムであるが、類似の特性を有する他の中和剤を使用してもかまわない。
【0045】
以下の表9(表I)は、コンタクトレンズ用の洗浄剤として使用するときのEDTAの除菌性塩のそれぞれの典型的な濃度とこれらの濃度の範囲とを列挙する。この用途においては、EDTAの除菌性塩は、液体希釈剤または溶媒、典型的には水を含む送達システムに取り込まれるのが典型的である。前記除菌液は、容器に収納され、除菌されるべきコンタクトレンズは、特定に温度および圧力、典型的には常温常圧に特定の曝露時間の間入れられる。以下の表Iに表される濃度は、水1mlあたりのEDTAのミリグラム単位(mg/ml)で表記される。
【0046】
【表9】

【0047】
H.カテーテルロックの詳細
EDTAの除菌性塩を用いるカテーテルの処理は、上記の導管処理といる一般的なカテゴリーに該当するが、特別な意義がある。皮下ポート(subcutaneous port)は、本発明の目的ではカテーテルであると考えられる。
【0048】
EDTAの二カリウム塩、アンモニウム塩または四ナトリウム塩は、感染システムを特定するカテーテルについての有効な処理であることが発見された。EDTAの前記除菌性塩は、潅流の前および潅流前後に液体ロック(liquid lock)を用いて、および/または、カテーテル装置の表面コーティングを行って、前記カテーテルを予め定められた濃度のこれらの塩で処理することによって、微生物のコロニー形成を阻害する。さらなる用途は、好ましい濃度およびpHのEDTAの前記除菌性塩を含む液体ロックの使用による、コロニーが形成され、または、感染した、カテーテルの処理である。
【0049】
典型的には、カテーテルを処理するときには、EDTAの前記除菌性塩は、担体としての水に溶解されるが、他の担体を使用してもかまわない。血栓溶解剤、ナトリウム、アルコールまたは試薬のような物質が、基本の水/EDTA溶液に添加される場合もある。
【0050】
以下の表10、11および12(表J、KおよびL)は、溶媒または担体として水とともに使用するときのEDTAの除菌性塩のそれぞれの典型的なおおよその濃度とこれらの濃度の範囲とを列挙する。表10(表J)はカテーテルの一般的な除菌の場合である。表11(表K)は感染しているかもしれないカテーテルシステムの処理の場合であり、表12(表L)は感染を防止するために設計された予防液の場合である。以下の表に表される濃度は、水1mlあたりのEDTAのミリグラム単位(mg/ml)で表記される。
【0051】
【表10】

【0052】
【表11】

【0053】
【表12】

【0054】
III.臨床試験
出願人は複数の微生物に対する複数のEDTAの除菌性塩の有効性を検証した。これらの結果は以下の証拠物件(Exhibit)A1およびA2の2つの表に要約される。
【0055】
証拠物件A1およびA2は、6種類の異なるEDTAの除菌性塩がそれぞれさまざまな微生物に対してテストされた臨床試験の結果を含む。証拠物件Bは、証拠物件A1およびA2の表に列挙された結論を得るために用いられた試験のプロトコールの記載を含む。
【0056】
証拠物件A2の表に含まれる数字は、テストされた微生物のそれぞれの増殖阻害に要する除菌性塩のそれぞれの最小濃度(MIC)を示し、該濃度は、水1mlあたりのEDTAのミリグラム単位(mg/ml)で表記される。
【0057】
証拠物件A1の表に含まれる数字は、テストされた微生物のそれぞれの集団全体を殺菌するために要する除菌性塩のそれぞれの最小濃度(MBC)を示し、該濃度は、水1mlあたりのEDTAのミリグラム単位(mg/ml)で表記される。
【0058】
証拠物件A1およびA2の表に要約された試験結果にもとづいて、テストされた除菌性塩の全てが、列挙された微生物の全てに対してある程度有効であることがわかる。しかし、材料のコスト、広範囲の微生物に対するMICおよびMBCと、材料の入手可能性等を含む諸因子のバランスにもとづいて、出願人は、四ナトリウムEDTAが最も優秀な特性を示すと結論する。
【0059】
証拠物件Cを参照して、ここに含まれるのは、さまざまな酵母菌に対する殺菌効果および抑制効果について、EDTAの3つの異なる除菌性塩がテストされた臨床試験の結果を要約する表である。寒天希釈法のプロトコールは証拠物件Dに説明されている。
【0060】
殺菌効果は最小殺菌濃度(MBC)として測定され、抑制効果は最小抑制濃度(MIC)として測定された。各ケースにおいて、濃度は水1mlあたりのEDTAのミリグラム単位(mg/ml)として測定された。
【0061】
証拠物件Cの表に要約された試験結果にもとづいて、前記3つの除菌性塩が、全ての列挙された酵母菌に対して殺菌効果および抑制効果の両方を有することがわかる。特に、証拠物件Cの表は、四ナトリウム塩のMICの値が他の2つのEDTA化合物のMICの値より低いことを示す。EDTAの二アンモニウム塩および二カリウム塩の作用によって起こるサブロー寒天培地(saborauds agar)の融解のために、酵母菌のMBCプレートへの導入はできず、これらの試薬を用いてMBCの値を比較することは不可能であった。しかし、証拠物件Cの表は、四ナトリウムEDTAについてのMBCの値がグラム陰性菌およびグラム陽性菌についてのMBCの値に匹敵することを示す。
【0062】
以上から、本発明は、上記以外の形態で実施される場合があることが明らかであり、本発明の範囲は、上記の発明の詳細な説明ではなく、添付する請求の範囲によって定められるべきである。
【0063】
証拠物件A1
【表13−1】

【表13−2】

【0064】
証拠物件A2
【表14−1】

【表14−2】

【0065】
証拠物件B
EDTAの評価プロトコール
プロトコール1:ブロス希釈系列
滅菌された万能容器に入った25mlの栄養ブロス(Oxoid No2)にPseudomonas aeruginosa、Proteus mirabilis、E.coli、Klebsiella pneumoniae、Staph aureus、Coagulase negative staphylococci、Enterococcus faecalisまたはMRSAのいずれかの生物のうち1種類を接種する。
【0066】
前記ブロスを37℃で終夜インキュベーションする。
【0067】
翌日、0mg/ml、0.25mg/mL、0.5mg/mL、1.0mg/ml、1.5mg/mL、2.0mg/ml、4.0mg/ml、6.0mg/ml、8.0mg/ml、10mg/ml、15mg/mL、20mg/ml、25mg/mL、30mg/ml、40mg/ml、50mg/ml、60mg/ml、70mg/ml、80mg/ml、90mg/ml、100mg/mlの適当なEDTAを含む、栄養ブロスの希釈系列を調製する。
【0068】
これらの濃度の溶液を作るため、10mLに必要なEDTAの量を滅菌した万能容器に入った9mLのブロスに加える。これは、前記生物が添加されるときにさらに希釈されるからである。
【0069】
終夜インキュベーションされたブロス培養を、滅菌栄養ブロスを用いて菌体10個/mLに希釈する。
【0070】
この希釈培養1mLを前記EDTAの希釈系列ブロスのそれぞれに添加する。これで、前記EDTAブロス中の最終濃度が10個/mLになる。
【0071】
37℃で18時間インキュベーションする。
【0072】
翌日、ブロスの濁度を観察することによりMICを視覚的に読みとる。
【0073】
各希釈の1μLを新鮮な血液寒天プレート上に載せて、滅菌したプラスチック製スプレッダーを用いて伸展する。
【0074】
37℃で終夜インキュベーションする。
【0075】
翌日、コロニー数のカウントを行うことによりMBCを読みとる。
【0076】
証拠物件C
【表15】

【0077】
証拠物件D
EDTA寒天希釈法
プロトコール3:寒天希釈系列
方法:0、0.5、1、1.5、2、4、6、8、10、15、20、25、30mg/mlの濃度のEDTAを含む栄養寒天プレートを以下の方法を用いて調製する。
【0078】
滅菌ガラス瓶に300mLの蒸留水を注ぐ。
【0079】
適当な量のEDTAを添加する。このグラム数は、所望の濃度の数字の300倍である。
【0080】
前記EDTAが完全に溶解したら、8.4gの栄養寒天培地粉末(Oxoid)を添加する。完全にかき混ぜる。
【0081】
この作業を必要なEDTAの各濃度について行う。全ての培地を121℃20分間オートクレーブする。
【0082】
プレートに注ぐために、前記培地は100℃の熱湯を用いて再融解させる。
【0083】
滅菌プレートに20mLの寒天を注いで固まらせる。全部の培地を使い切るまでこれを行う。前記プレートに含まれるEDTAの濃度を該プレートに標識する。
【0084】
これらのプレートは4℃の冷蔵庫内で必要になるまで保存可能である。
【0085】
自動プレート接種装置(automatic plate inoculator)を使用して、各プレートに21種類の生物を接種する。これらの接種の鋳型は付属図面に示される。
【0086】
前記プレートを37℃終夜インキュベーションする。
【0087】
翌日、増殖について+または−で点をつける。
【0088】
MBCを測定するために、自動プレート接種装置を使用して、最初のプレートからレプリカプレートへ増殖コロニーを移動する。
【0089】
前記レプリカプレートを37℃終夜インキュベーションする。
【0090】
翌日、増殖について+または−で点をつける。
本発明の各種態様は以下の通りである:
1.導管を、実質的にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)塩と溶媒とからなる除菌液に接触させることによる、導管の除菌方法であって、
前記EDTA塩は、広範囲の微生物に対する殺菌効果と、さまざまな酵母菌に対する破壊的効果とを有するのに十分な濃度であり、
前記EDTA塩はEDTA四ナトリウムを含む、
導管の除菌方法;
2.前記溶媒は水である、前記1に記載の方法;
3.前記EDTA塩の濃度は、溶媒1mLあたり約5から約1,000mgまでである、前記1に記載の方法;
4.前記EDTA塩の濃度は、溶媒1mLあたり10mgを超える、前記3に記載の方法;
5.前記導管を前記除菌液に接触させることは、該除菌液で前記導管をロックし、噴流し、あるいは、コーティングすることにより達成される、前記1に記載の方法;
6.前記導管は、無菌の液体、血液、血漿または水を搬送する導管である、前記1に記載の方法;
7.前記導管は気道補助装置の中にある、前記1に記載の方法;
8.前記導管はカテーテルである、前記1に記載の方法;
9.前記導管はポートである、前記1に記載の方法;
10.前記ポートは皮下ポートである、前記9に記載の方法;
11.導管は泌尿器科用のカテーテルである、前記1に記載の方法;
12.ある曝露期間の間、物体を除菌液に接触させることによる、物体の除菌方法であって、
前記除菌液は、実質的にEDTA塩と溶媒とからなり、
前記EDTA塩は、広範囲の微生物に対する殺菌効果と、さまざまな酵母菌に対する抑制効果とを有するのに十分な濃度であり、
前記EDTA塩はEDTA四ナトリウムを含む、
物体の除菌方法;
13.前記EDTA塩は、さまざまな酵母菌に対する破壊的効果を有するのに十分な濃度である、前記12に記載の方法;
14.前記物体は、医科用機器および装置と、歯科用機器および装置と、獣医科用機器および装置と、歯ブラシと、コンタクトレンズとからなるグループから選択される、前記12に記載の方法;
15.カテーテルを除菌する方法であって、
前記カテーテルの内腔に除菌液を導入すること、
選択された時間の間、前記除菌液を前記内腔の中に保持すること、および、
前記除菌液を前記内腔から除去することを含み、
前記除菌液は、実質的にEDTA塩と溶媒とからなり、
前記EDTA塩は、広範囲の微生物に対する殺菌効果と、さまざまな酵母菌に対する抑制効果とを有するのに十分な濃度であり、
前記EDTA塩はEDTA四ナトリウムを含む、
カテーテルの除菌方法;
16.前記EDTA塩は、さまざまな酵母菌に対する破壊的効果を有するのに十分な濃度である、前記15に記載の方法;
17.前記EDTA塩の濃度は、溶媒1mLあたり約5から約1,000mgまでである、前記15に記載の方法;
18.前記EDTA塩の濃度は、溶媒1mLあたり10mgを超える、前記15に記載の方法;
19.実質的にEDTA塩と溶媒とからなる除菌液であって、
前記EDTA塩は、広範囲の微生物に対する殺菌効果と、さまざまな酵母菌に対する抑制効果とを有するのに十分な濃度であり、
前記EDTA塩はEDTA四ナトリウムを含む、除菌液;
20.前記EDTA塩は、さまざまな酵母菌に対する破壊的効果を有するのに十分な濃度である、前記19に記載の除菌液;
21.前記EDTA塩は、溶媒1mLあたり少なくとも10mgの濃度である、前記19に記載の除菌液;
22.前記溶媒は水である、前記19に記載の除菌液;
23.実質的にEDTA塩と溶媒とからなる除菌液をバイオフィルムに接触させることにより、前記バイオフィルムの構造を破壊して、前記バイオフィルム内部の個々の生物を殺すか、該生物の増殖を抑制するかによる、バイオフィルムの処理方法であって、
前記EDTA塩は、広範囲の微生物に対する殺菌効果を有するのに十分な濃度であり、
前記EDTA塩はEDTA四ナトリウムを含む、
バイオフィルムの処理方法;
24.前記EDTA塩は、溶媒1mLあたり少なくとも10mgの濃度である、前記23に記載の方法;
25.前記溶媒は水である、前記23に記載の方法;
26.表面に抗菌コーティングを施したカテーテルであって、
前記抗菌コーティングは、実質的にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)塩と溶媒とからなり、
前記EDTA塩は、微生物の感染に対する抑制効果を有するのに十分な濃度であり、
前記EDTA塩はEDTA四ナトリウムを含む、
表面に抗菌コーティングを施したカテーテル;
27.前記カテーテルは、液体、血液、血漿または水を搬送する導管である、前記26に記載のカテーテル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減菌した液体、血液、血漿または水を運搬する導管をロックし、噴流しまたはコーティングするための除菌液であって、
実質的にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)塩と溶媒とからなり、
広範囲の微生物に対する殺菌効果と、さまざまな酵母菌に対する破壊的効果とを有し、そして、
EDTA四ナトリウムを溶媒1mLあたり5から1000mgの濃度で含む、
除菌液。
【請求項2】
前記導管は気道補助装置の中にある、請求項1に記載の除菌液。
【請求項3】
前記導管はカテーテルである、請求項1に記載の除菌液。
【請求項4】
前記導管はポートである、請求項1に記載の除菌液。
【請求項5】
前記ポートは皮下ポートである、請求項4に記載の除菌液。
【請求項6】
前記導管は泌尿器科用のカテーテルである、請求項1に記載の除菌液。
【請求項7】
前記溶媒は水である、請求項1に記載の除菌液。
【請求項8】
EDTA四ナトリウムを溶媒1mLあたり10から200mgの濃度で含む、請求項1に記載の除菌液。
【請求項9】
EDTA四ナトリウムを溶媒1mLあたり10から80mgの濃度で含む、請求項1に記載の除菌液。
【請求項10】
カテーテルのロック、噴流のための溶液であって、
実質的にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)塩と溶媒とからなり、
広範囲の微生物に対する殺菌効果と、さまざまな酵母菌に対する破壊的効果とを有し、そして、
EDTA四ナトリウムを溶媒1mLあたり5から1000mgの濃度で含む、
溶液。
【請求項11】
EDTA四ナトリウムを溶媒1mLあたり10から200mgの濃度で含む、請求項10に記載のカテーテルのロック、噴流のための溶液。
【請求項12】
EDTA四ナトリウムを溶媒1mLあたり10から80mgの濃度で含む、請求項10に記載のカテーテルのロック、噴流のための溶液。
【請求項13】
表面に抗菌コーティングを施したカテーテルであって、
前記抗菌コーティングは、実質的にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)塩と溶媒とからなり、
前記抗菌コーティングは、広範囲の微生物に対する殺菌効果と、さまざまな酵母菌に対する破壊的効果とを有し、
前記抗菌コーティングは、EDTA四ナトリウムを溶媒1mLあたり5から1000mgの濃度で含む、
カテーテル。
【請求項14】
前記抗菌コーティングは、EDTA四ナトリウムを溶媒1mLあたり10から200mgの濃度で含む、請求項13に記載のカテーテル。
【請求項15】
前記抗菌コーティングは、EDTA四ナトリウムを溶媒1mLあたり10から80mgの濃度で含む、請求項13に記載のカテーテル。
【請求項16】
前記カテーテルは、減菌した液体、血液、血漿または水を搬送する導管である、請求項13に記載のカテーテル。

【公開番号】特開2008−273984(P2008−273984A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146646(P2008−146646)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【分割の表示】特願2003−548614(P2003−548614)の分割
【原出願日】平成14年12月5日(2002.12.5)
【出願人】(501100342)タイコ・ヘルスケアー・グループ・エルピー (20)
【氏名又は名称原語表記】Tyco Healthcare Group LP
【住所又は居所原語表記】15 Hampshire Street,Mansfield,Massachusetts 02048,United States of America
【Fターム(参考)】