説明

抗菌性ポリエステル繊維

【課題】 可紡性が良好で、良好な抗菌性を有し、アルカリ処理を行っても変色(着色)の少ない、色調に優れた抗菌性ポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】 銀又は銀化合物を主成分とする抗菌剤と亜鉛又は亜鉛化合物を含有するポリエステル繊維であって、抗菌剤と亜鉛又は亜鉛化合物の含有量が下記(1)、(2)の要件を満たし、かつ、アルカリ処理前後の着色色差(ΔE)が5.0以下である。
(1)抗菌剤中の銀量が繊維全体に対して0.002〜2.0重量%(2)亜鉛又は亜鉛化合物中の亜鉛量が、抗菌剤中の銀量に対して重量比で0.5倍以上であり、かつ繊維全体に対して10.0重量%以下

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、銀又は銀化合物を主成分とする抗菌剤を含有するポリエステル繊維であって、アルカリ処理を行っても変色の少ない抗菌性ポリエステル繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは、優れた機械特性、及び化学特性を有するため、広範囲に使用されている。近年、消費者の価値観の多様性、衛生に対する意識の高まりにより種々の抗菌性繊維が実用化されている。
【0003】ポリエステル繊維に抗菌性や防臭性を付与する方法はこれまで多く提案されている。布帛にし、後加工方法で抗菌剤を固定化する方法としては、シリコン系第4級アンモニウム塩や、脂肪族系第4級アンモニウム塩を用いる方法がある。しかしながら、これらは繊維表面に抗菌剤を固着させているだけなので、洗濯や摩擦、摩耗により抗菌剤が脱落し、抗菌性能が低下するという問題を有する。
【0004】また、特開昭56-148965号公報には、イオン交換基を表面に有する繊維に銀イオンを結合させる方法や、同様の繊維に遷移金属イオンを結合させる方法が提案されている。しかしこれらはイオン交換基を繊維表面に導入させることが必要であり、アクリル繊維には有効であってもポリエステル繊維のような官能基の少ないポリマーには不適であった。
【0005】上記の問題点を解決するために、ポリエステル繊維などの合成繊維に抗菌性を有する粉体を含有させた抗菌性繊維も数多く提案されており、特開昭59-133235号公報、特公昭63-54103号公報及び特開昭63-175117号公報には、抗菌性ゼオライト(銀ゼオライト)を溶融紡糸前にポリエステルに混合し、溶融紡糸して得られた抗菌性繊維が開示されている。
【0006】抗菌性ゼオライトを含有するポリエステル繊維は、抗菌性が良好でその耐久性も優れているが、ポリエステルの風合い改良の一手段であるアルカリ減量加工を行うと、抗菌成分である銀の酸化が生じて変色(着色)し、白度が要求されるような用途への使用が制限されるという欠点があった。
【0007】繊維中の銀量を減少させることで、アルカリ減量加工時の変色を抑制することは可能であるが、抗菌性も低下するため、あまり銀量を減らすこともできない。また、特開平4-50367号公報には、銀を含有する抗菌性ポリエステル繊維を過炭酸ナトリウムで処理することによって、繊維の白度を向上させる方法が開示されている。
【0008】しかしながら、この方法では、特別な後処理工程が必要になるため、製造コストがアップし、生産性が低下するという欠点がある。また、この過炭酸ナトリウムでの処理は、アルカリ減量加工後の変色を改善するものではないため、得られる繊維は、衣料用などの特に白度が要求される用途には使用し難いという問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上述のような問題点を解決し、可紡性が良好で、十分な抗菌性を発現し、アルカリ処理を行っても変色(着色)の少ない、色調に優れた抗菌性ポリエステル繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、銀又は銀化合物を主成分とする抗菌剤と亜鉛又は亜鉛化合物を含有するポリエステル繊維であって、抗菌剤と亜鉛又は亜鉛化合物の含有量が下記(1)、(2)の要件を満たし、かつ、アルカリ処理前後の着色色差(ΔE)が5.0以下であることを特徴とする抗菌性ポリエステル繊維を要旨とするものである。
(1)抗菌剤中の銀量が繊維全体に対して0.002〜2.0重量%(2)亜鉛又は亜鉛化合物中の亜鉛量が、抗菌剤中の銀量に対して重量比で0.5倍以上であり、かつ繊維全体に対して10.0重量%以下
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明の抗菌性ポリエステル繊維は、銀又は銀化合物を主成分とする抗菌剤と亜鉛又は亜鉛化合物とを特定量含有しているので、銀又は銀化合物を主成分とする抗菌剤により十分な抗菌性が付与され、亜鉛又は亜鉛化合物が銀の変色を隠蔽し、白度に優れた繊維となるものである。
【0012】本発明の繊維の形状は、最終的に抗菌剤成分が繊維表面に一部分でも露出するような構造であれば特に制限されず、抗菌剤と亜鉛又は亜鉛化合物を含有する単一のポリマーからなる丸断面や異形断面のものや、また、抗菌剤と亜鉛又は亜鉛化合物を含有するポリマーを一成分とする芯鞘型やサイドバイサイド型等のものでもよい。
【0013】本発明の抗菌性ポリエステル繊維を構成するポリエステルは、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレート等からなるものであるが、具体的にはポリエチレンテレフタレート(PET)やポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が好ましく用いられる。
【0014】ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンナフタレートは、ポリエステル特有の性能を損なわない範囲であれば、共重合成分を含有していてもよく、共重合成分としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−シクロヘキシルジメタノール、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物等のグリコール成分、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸成分等が挙げられる。
【0015】本発明における銀(単独、化合物でないもの)又は銀化合物を主成分とする抗菌剤は、特に限定されるものではないが、主成分がリン酸ジルコニウム銀、リン酸カルシウム銀、銀ゼオライト又は銀をケイ酸系ガラスに担持したもののいずれかであることが好ましい。
【0016】この抗菌剤中の銀量は、繊維全体に対して0.002〜2.0 重量%、より好ましくは1.0 重量%とする。繊維中の銀量が減少すると抗菌性が著しく低下するため、0.002 重量%未満では十分な抗菌性が得られない。また、2.0 重量%を超えると、亜鉛又は亜鉛化合物を含有させてもアルカリ処理後の色調が悪くなり、本発明の目的とする効果が得られない。
【0017】また、本発明の繊維に含有させる亜鉛又は亜鉛化合物は、特に制限されるものではないが、酸化亜鉛が好ましく、中でも、ポリマー劣化の原因となる光触媒活性を抑制するために、表面を部分的にコーティングした酸化亜鉛が特に好ましい。
【0018】そして、本発明の抗菌性繊維中に存在する亜鉛又は亜鉛化合物中の亜鉛量は、抗菌剤中の銀量に対して重量比で0.5倍以上、かつ繊維全体に対して10.0重量%以下である必要がある。O.5倍未満であると、アルカリ処理後の色調が悪くなり、本発明の目的とする効果が得られない。また、亜鉛量の増加に伴って、アルカリ減量後の色調は良化するが、紡糸時の操業性が低下するため、繊維全体に対して10.0重量%以下、より好ましくは5.0 重量%以下とする。
【0019】さらに、本発明の抗菌性ポリエステル繊維は、アルカリ処理前後の色差(ΔE)が、5.0以下であることが必要であり、さらには2.0以下とすることが好ましい。なお、ここでいうアルカリ処理とは、本発明の抗菌性ポリエステル繊維を筒編みしたものを用い、70℃に調整した10%水酸化ナトリウム溶液中で100分間の処理を施すことを指す。PETの場合、このときの減量率は、10〜30%程度となる。
【0020】そして、アルカリ処理前後の色差(ΔE)は、筒編み状の布帛をミノルタ(株)製色彩色差計CR-100で測定し、次式で算出するものである。
ΔE=〔(ΔL)2 +(Δa)2 +(Δb)2 1/2 ΔL:アルカリ処理前後のL値の差Δa:アルカリ処理前後のa値の差Δb:アルカリ処理前後のb値の差
【0021】色差(ΔE)が5.0を超えると、通常のポリエステルや他の素材と混繊し、織編した後、アルカリ減量加工と染色加工を行うと、抗菌性繊維の部分だけが発色性が悪く、くすんで見える場合や、減量加工中に抗菌性繊維から遊離した成分により他の素材も変色(着色)している場合もあり、いずれにしても白度が要求される用途には使用し難く、品位の低下した繊維となる。
【0022】さらに、本発明の抗菌性ポリエステル繊維には、抗菌性の発現を阻害しないものであれば、例えば、紫外線吸収剤、制電剤、顔料、酸化チタン、二酸化珪素等を繊維製造中に添加したり、防ダニ剤、消臭剤等を繊維に付着させてもよい。
【0023】そして、本発明の抗菌性ポリエステル繊維は、常法により、溶融紡糸装置を用いて製造することができる。含有させる抗菌剤、亜鉛又は亜鉛化合物は、ポリマーを重合するときに添加してもよいし、製糸工程中のポリマー溶融時に添加し、均一に混練、分散させてもよい。さらには、上記添加物(抗菌剤と亜鉛又は亜鉛化合物)を高濃度で含有するマスターポリマーとベースポリマーとを混練して使用し、繊維中に含有させてもよいし、上記添加物を低濃度で含有するマスターポリマーをそのまま使用し、繊維中に含有させてもてよい。
【0024】
【作用】本発明の抗菌性ポリエステル繊維を用いると、アルカリ処理後の変色(着色)がなく色調が良好であり、かつ良好な抗菌性を有するポリエステル繊維を提供することが可能となる。本発明で用いられる亜鉛又は亜鉛化合物の変色防止のメカニズムについては、明確ではないが、亜鉛又は亜鉛化合物が銀の変色を隠蔽するものと推定される。また、亜鉛化合物自体にも抗菌性があるため、抗菌性を損なうこともない。
【0025】
【実施例】次に、実施例により、本発明を具体的に説明する。なお、実施例における特性値の測定値は次の通りである。
(a)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等重量混合液を溶媒とし、温度20℃で測定した。
(b)抗菌性の評価(統一試験法)
繊維製品衛生加工協議会(SEK)の統一試験法に準じて行った。滅菌後クリーンベンチ内で乾燥した検体(約18mmの正方形の試験片0.4g)に、予め高圧蒸気滅菌し、氷冷した1/20濃度のニュートリエントブロスで生菌数を1±0.3×105 個/mlに調整した試験菌懸濁液0.2ml を検体全体に均一に浸みるように接種し、滅菌したキャップを締め付ける。これを37±1℃で18時間培養し、培養後の生菌数を測定し、下記の方法で抗菌性の指標である静菌活性値を算出した。なお、試験菌としては、黄色フ゛ト゛状球菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538P)を用いた。
静菌活性値:Log B− LogCただし、試験成立条件(Log B− LogA)>1.5を満たすものとする。
A:標準布の接種直後に回収した菌数の平均値B:標準布の18時間培養後回収した菌数の平均値C:加工布の18時間培養後回収した菌数の平均値標準布には、抗菌防臭加工製品の加工効果評価試験マニュアルに規定のものを使用した。静菌活性値が2.2以上のものを抗菌性有りと判定した。
(c)アルカリ減量率アルカリ処理前の試料を70℃で30分乾燥した重量を〔B〕とし、アルカリ処理後の試料を蒸留水で洗浄し、70℃で30分乾燥した後の重量を〔A〕とし、下記の式によりアルカリ減量率を算出した。
アルカリ減量率(%)=〔(B−A)/B〕×100(d)着色色差(ΔE)
前記の方法で測定した。
(e)操業性製糸中における1日当たりの糸切れ数が、1錘当たり3回未満の場合を○、3〜6回の場合を△、6回を超える場合を×とした。
【0026】実施例1通常用いられる単成分用溶融紡糸機台を用い、極限粘度0.69、ガラス転移点温度77℃、結晶化温度125 ℃、融点259 ℃のPETチップを使用して溶融紡糸を行った。その際、ポリマー溶融時に抗菌剤として、主成分がリン酸ジルコニウム銀であり、抗菌剤中の銀の割合が10.0重量%である抗菌剤を、ポリマー中に銀量で繊維重量に対し0.003 重量%添加し、かつ酸化亜鉛をポリマー中に亜鉛量で繊維重量に対し1.0 重量%となるように添加し、紡糸速度3500m/分で75d/24fの半未延伸糸を得た。この半未延伸糸を通常用いられる延伸機を用い、延伸速度650 m/分、延伸倍率1.5倍で延伸し、50d/24fの延伸糸を得た。得られた繊維のアルカリ減量率、抗菌性、着色色差、操業性の評価結果を表1に示す。
【0027】実施例2〜6、比較例1〜5抗菌剤、亜鉛化合物の含有量(銀、亜鉛の量)を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に行った。得られた繊維のアルカリ減量率、抗菌性、着色色差、操業性の評価結果を表1に示す。
【0028】実施例7主成分がゼオライト銀である抗菌剤を用い、この抗菌剤をポリマー中に銀量で繊維重量に対し0.01重量%となるように添加した以外は、実施例1と同様に行った。得られた繊維のアルカリ減量率、抗菌性、着色色差、操業性の評価結果を表1に示す。
【0029】
【表1】


【0030】表1から明らかなように、実施例1〜7の繊維はいずれも抗菌性に優れ、操業性よく得ることができた。そして、アルカリ処理前後の着色色差が小さく、色調に優れていた。一方、比較例1の繊維は、銀の含有量が少なすぎたため、良好な抗菌性が得られなかった。比較例2の繊維は、亜鉛量が銀量の0.5倍未満であったため、また、比較例3〜4の繊維は、銀の含有量が多すぎたため、いずれもアルカリ処理前後の着色色差(ΔE)が5.0を超え、変色の大きいものであった。比較例5の繊維は、亜鉛量が多すぎたため、操業性が悪かった。
【0031】
【発明の効果】本発明の抗菌性ポリエステル繊維は、十分な抗菌性を有し、操業性よく得ることができ、アルカリ減量処理を行っても変色(着色)が少なく、色調に優れている。このため、婦人用ブラウス、学童用ワイシャツ等を始め、医療用白衣、料理店等の割烹着等、白度と抗菌性能が要求される衣料に好適に用いることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 銀又は銀化合物を主成分とする抗菌剤と亜鉛又は亜鉛化合物を含有するポリエステル繊維であって、抗菌剤と亜鉛又は亜鉛化合物の含有量が下記(1)、(2)の要件を満たし、かつ、アルカリ処理前後の着色色差(ΔE)が5.0以下であることを特徴とする抗菌性ポリエステル繊維。
(1)抗菌剤中の銀量が繊維全体に対して0.002〜2.0重量%(2)亜鉛又は亜鉛化合物中の亜鉛量が、抗菌剤中の銀量に対して重量比で0.5倍以上であり、かつ繊維全体に対して10.0重量%以下

【公開番号】特開2000−303258(P2000−303258A)
【公開日】平成12年10月31日(2000.10.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−112122
【出願日】平成11年4月20日(1999.4.20)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】