説明

抗菌性樹脂成形体の製造方法

【課題】食品飲料用送液ホース等に好適な、透明で溶出物が極力少ない、抗菌性に優れた抗菌性樹脂成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】エチレンビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂が表面に含有された樹脂成型体の表面に放射線照射することを特徴とする抗菌性樹脂成形体の製造方法。放射線照射時にエチレンビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂の表面を炭素数3以下のアルコールが含まれる水と接触せしめた状態で照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた抗菌特性を有する樹脂成形体の製造方法に関するものである。詳しくは、本発明は、透明性樹脂にも不透明樹脂にも極めて溶出物の少ない抗菌性材料として適用することができ、特に管状として好適に用いられる抗菌性樹脂成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、室内水回り関係や高温多湿の場所等の衛生的な環境を必要とされる部分に、カビや細菌の発生を予防できる製品が要望されている。
【0003】
その他にも、具体的には食品包材、建築関係、衣類、衛生用品、台所用品および水処理装置などの各種高分子素材に抗菌性物質を含有させ、有害な微生物の生育を制御する技術が以前から存在している。
【0004】
特に、食品包材や水処理装置の場合には、人間への安全性の面から、無機系化合物である銀イオン置換ゼオライトを主な抗菌性物質として用いることが一般的であった。金属イオンの中では銀イオンの抗菌性が最も強く、特に硝酸銀溶液は、医療や軍事用にも殺菌剤として用いられてきた歴史がある。しかしながら、銀含有抗菌剤は、無機系化合物中では抗菌能が優れている反面、高温あるいは光照射により変色したり、透明性を損なう等という問題があり、また、抗菌性能が経時で低下するという課題もある。また、抗菌性物質としては、無機系化合物だけでなく天然品も安全性の面から注目を集めているが、天然品は抗菌性能が低いという課題がある。
【0005】
また、有機系化合物は、一般的に抗菌性能が天然品や無機系化合物よりも優れているが、水や有機溶媒等に溶解しやすく、かつ揮発や分離もしやすい。また、有機系化合物は、その毒性のために、かえって敬遠されがちである。したがって、有機系化合物は、衣服、日用品、家具または建材のような抗菌性能を長期間必要とする用途には適さない。
【0006】
このような状況において、最近では、ポリマー素材に有機系抗菌剤をイオン結合または共有結合させた、不溶性で毒性を示さない固定化抗菌材料が開発されている。
【0007】
具体的に、カルボキシル基やスルホン酸基等の酸性基とイオン結合した4級アンモニウム塩基を有する抗菌成分を含む高分子物質を主体とした抗菌性材料が提案されている(特許文献1参照。)。また、ホスホニウム塩を高分子物質に固定化して用途の拡大を試みた発明として、ホスホニウム塩系ビニル重合体の抗菌剤についての提案(特許文献2参照。)や、ビニルベンジルホスホニウム塩系ビニル重合体の抗菌剤についての提案(特許文献3参照。)、そして他にも高分子系抗菌剤と親水性ビニル系重合体を含む抗菌性樹脂組成物についての提案(特許文献4参照。)がなされている。
【特許文献1】特開昭54−86584号公報
【特許文献2】特開平4−814365号公報
【特許文献3】特開平5−310820号公報
【特許文献4】特開2001−055518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、銀置換ゼオライトのプラスティックシートへの練り込みにおいては、利用される銀イオンは表面に露出しているごくわずかな銀置換ゼオライト分だけであり、このことは高価な銀の利用効率が非常に低いことを示している。さらに、抗菌性シートを栄養供給源のある状態で用いると、抗菌性は銀イオンによる微生物の生育阻止能と微生物の成長速度との競争関係によって決まるため、微生物に接触可能な銀イオンの絶対量を増やす必要がある。しかしながら、従来の銀置換ゼオライトの練り込み法では、連続生産性やピンホールによるバリヤー性低下などから、ゼオライトの含有率はせいぜい重量比で5%が上限であり、表面の銀イオン濃度は非常に限られた範囲でしか変えられないという問題があった。また、透明な樹脂でも銀イオンを練り込むことで、白濁してしまい食品包材用途や水処理装置用途では、内容物の変化が目視できなくなるという課題や、効用期間に限度があるなどの問題もある。
【0009】
また、高分子系抗菌剤とホスホニウム塩系ビニル重合体とを含む抗菌性樹脂組成物等については、例えば、食品用途等にはホスホニウム塩系ビニル重合体が食品に溶出したり、また、抗菌効果が長持ちしない等の問題が生じる。また、ホスホニウム塩系ビニル重合体を含む樹脂成形体は溶融成形の際、150℃以上の温度に晒されると、親水性ポリマーであるホスホニウム塩系ビニル重合体は分解しやすく、着色や強度低下等の問題がある。
【0010】
そこで本発明の目的は、上記した問題を解決し、銀イオンよりも抗菌性が良好で透明材料に用いた場合にも透明性を維持することができ、かつ食品用途にも用いることができる抗菌性樹脂成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の抗菌性樹脂成形体の製造方法は、下記の化学構造式(1)のエチレンビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂が表面に含有された樹脂成型体に放射線照射することを特徴とする抗菌性樹脂成形体の製造方法である。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、mとnの比は0.1:99.9〜99.9:0.1である)
本発明の抗菌性樹脂成形体の製造方法の好ましい態様によれば、前記の放射線は、電子線および/またはγ線である。
【0014】
本発明の抗菌性樹脂成形体の製造方法の好ましい態様によれば、本発明の抗菌性樹脂成形体の製造方法によって得られた抗菌性樹脂成形体は、食品飲料用送液ホースとして浄水器やビールサーバーに装着することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた抗菌特性を持ち、もともと透明な樹脂材料を用いることで透明な抗菌樹脂成形体を得ることができ、また、親水基を持つ繰り返し単位を含有していても水中溶出量が極めて小さい抗菌性樹脂成形体が得られる。本発明の抗菌性樹脂成形体は、銀イオンよりも抗菌性が良好で、食品飲料用途および浄水器用途にも好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の抗菌性樹脂成形体の製造方法は、下記の化学構造式(1)のエチレンビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂が表面に含有された樹脂成型体に放射線照射することを特徴とする抗菌性樹脂成形体の製造方法である。
【0017】
本発明では成形体の少なくとも一部に含有していなければならない樹脂としてエチレンとビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂(EVOH樹脂)を用いる。この樹脂の好ましい数平均分子量は、100〜10000000である。また、エチレン含有率は0.01〜99.99mol%が好ましく、最も好ましくは15〜80mol%である。
【0018】
従来、エチレンとビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂は、その優れたガスバリア性から様々な用途の包装材料に用いられハム、ソーセ−ジ等のフィルム用途、マヨネーズやケチャップ等のようなボトル用途に用いられている。このエチレンとビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂はビニルアルコールが親水基を持っているため、湿度が高くなれば吸湿しガスバリア性が大きく低下する特性がある。そのため前記したフィルム用途やボトル用途でも、エチレンとビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂は、高いガスバリア性を維持するため、ナイロン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリカーボネート、酢酸ビニル−エチレン共重合体等に挙げられる樹脂に積層・被覆して表面から吸湿しないように加工して用いられている。
【0019】
本発明は成形体表面に親水基を持つエチレンとビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂を被覆せず、表面の少なくとも一部に含有させて放射線照射することで抗菌性を発現することが出来る。
【0020】
エチレンビニルアルコ−ル樹脂の商品例としては、“エバール”(登録商標)L101、F101、H101、E101、G101(クラレエバールカンパニ−社製)、および“ソアノール”(登録商標)V2603、D2908、AT4403、A4412、H4815(日本合成化学社製)等のエチレンビニルアルコ−ル樹脂が挙げられる。
【0021】
また本発明の効果を妨げない範囲で、本発明のエチレンビニルアルコ−ル樹脂以外の他のモノマーと共重合したものでも、他の樹脂とのブレンド体であっても良い。他の共重合モノマー、またはブレンド樹脂の添加量は特に限定するものではないが、90重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましく、40重量%以下であることが更に好ましく、20重量%以下であることが最も好ましい。
【0022】
また樹脂をブレンドする場合には、エチレンビニルアルコ−ル樹脂と他の樹脂との相溶性によって成形体の透明性に影響がある。例えば相溶性が良好な場合は薄肉成形体は透明性を維持することが可能で、相溶性が悪い場合は不透明な成形体になり用途に応じてブレンドする樹脂を選択しなければならない。
【0023】
本発明のエチレンビニルアルコール樹脂とブレンドする樹脂としては、汎用の熱可塑性樹脂樹脂や熱硬化樹脂、あるいはゴム等を用いることができ特にに限定されない。
【0024】
かかる樹脂について下記に限定されないが具体例を挙げると、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリビニル、ポリアクリル、ポリハロオレフィン、ポリジエン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリイミド、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリイミン、ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレン、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケイ素樹脂、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、AS樹脂(スチレンとアクリロニトリルの共重合体)、ABS樹脂、ACS樹脂(塩素化ポリエチレンにアクリロニトリルとスチレンをグラフト重合したもの)、メタクリル樹脂、ポリエチレン、EVA樹脂(エチレンと酢酸ビニル共重合体)、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂、ポリブチレン樹脂、メチルペンテン樹脂、ポリブタジエン樹脂、フッ素樹脂、(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体)、ポリアミド、ポリアセタール、飽和ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルエ−テルケトン、液晶プラスチック、セルロース系ポリマー、熱可塑性エラストマー、人工ゴム、天然ゴム等が挙げられる。
【0025】
本発明において好ましく用いられる樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニルクロリド、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの放射線架橋型樹脂または共重合樹脂または熱可塑性樹脂がある。
【0026】
同様なビニル型モノマーでもポリイソブチレン、ポリビニリデンクロライドなどの放射線崩壊型樹脂の場合には、放射線照射量を極めて低減して反応させることが好ましい。これらの区別は、放射線照射時の温度や雰囲気等の条件に影響されるため、条件しだいで、ポリオレフィン樹脂に限らず、ナイロンやポリジメチルシロキサンなども利用することができる。
【0027】
また、本発明の抗菌性樹脂成形体を構成する樹脂には、光増感剤を用いることも可能である。光増感剤を用いると、光子を吸収して励起し、樹脂から水素を引抜き、樹脂にラジカル活性点を形成することができる。このような光増感剤の例として、ベンゾフエノン、3,3’, 4,4’−ベンゾフエノンテトラカルボン酸無水物、4,4’−ジメトキシベンゾフエノン、4−クロロベンゾフエノン、2,4−ジクロロベンゾフエノン、4,4’−ジクロロベンゾフエノン、4−フロロベンゾフエノン、4−トリフロロメチルベンゾフエノン、4−メトキシベンゾフエノン、4−メチルベンゾフエノン、4,4’−ジメチルベンゾフエノン、4−シアノベンゾフエノン、o−ベンゾイルベンゾフエノン等のベンゾフエノン系光増感剤、ベンジル、ジベンジルケトン等のベンジル系光増感剤、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系光増感剤、アントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン等のアントラキノン系光増感剤、ベンズアルデヒド、4−メトキシベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、1−ナフトアルデヒド等のベンズアルデヒド系光増感剤、2,3−ブタンジオン、2,3−ペンタンジオン等のジオン系光増感剤、ジベンゾスベロン、メチル−o−ベンゾイルベンゾエート、9−フルオレノン、3,4−ベンゾフルオレン、1−アセチルナフタレン、ベンズアントロン、9,10−フエナントレンキノン、2−ベンゾイルナフタレン、3,5−ジメチルアセトフエノン、および4−ブロモアセトフエノン等を挙げることができる。
【0028】
本発明で用いられる樹脂には、添加剤などが本発明の効果を妨げない範囲で混合されていても良い。添加剤の添加量は特に限定されるわけではないが、10重量%以下であることが好ましい。
【0029】
本発明の抗菌性樹脂成型体の形態は、板状、棒状、シート状、チューブ状、フィルム状、繊維状、ビーズ状、粉末状、および中空糸状など、いかなる形状であっても放射線照射することができれば、基本的に差し支えない。本発明の抗菌性樹脂成型体は、延伸成形、射出成形、押出成形等、既知の成形方法を用いることができる。
【0030】
本発明においては、α線、β線、γ線、電子線およびX線等の放射線、または紫外線照射によるグラフト層の形成が好ましく、中でもγ線、電子線および紫外線のいずれかの照射が好ましく、最も好ましくは、γ線、電子線が用いられる。
【0031】
このように放射線としては、特に電子線とγ線が好ましく、電子線特性として、透過力と活性化効率の面から、加速電圧は少なくとも10Kv以上であることが好ましく、また電子線加速器としては、例えば、エレクトロカーテンシステム、スキャンニングタイプ、ダブルスキャンニングタイプ、バンデグラフ、コールドカソード等が用いられる。γ線の場合、照射量は、好ましくは10kGy以上であり、より好ましくは20kGy以上であり、最も好ましくは25kGy以上である。その理由は、溶出物の低減効果や抗菌特性が十分でないためである。
【0032】
放射線照射に際しては、酸素濃度が高いとグラフト活性種(主にフリーラジカル)の失活を招いたり、酸化反応による樹脂の崩壊を招いたりするため、窒素やヘリウム等の不活性ガスによる置換を行い、酸素濃度低下をはかることが好ましい。ただし、過酸化物をグラフト活性種として用いる場合には、この限りではない。グラフト化反応は、放射線照射後、モノマーと直接、あるいは溶媒を用いて反応させるか、あるいは気化させたモノマーと反応させることにより達成することができる。一般に、モノマー単独では反応速度が遅いことが多いので、溶媒を用いた溶液系での反応が有利である。モノマー単独でのホモ重合を防ぐ目的で、モール塩のようなラジカル重合抑制剤、金属銅や第1塩化銅のようなレドックス系添加剤、およびハイドロキノンモノメチルエーテルのような重合禁止剤を併用してもよい。
【0033】
これらの放射線照射によるグラフト化反応は、高線量率であるために反応が早く、低温で行うことができ、かつグラフト量が大きいという利点がある。また、放射線照射により抗菌性樹脂成型体の事前殺菌が可能であるという利点もある。また、反応開始にあたって、反応終了後もグラフト層中に有害かつ悪臭の分解物が残る重合開始剤を用いることなくグラフトが可能である点も、特に食品と接触する場合には重要なポイントである。
【0034】
放射線照射を行う際、ポリプロピレンやポリテトラフルオロエチレン等は、極度に強い放射線を照射すると、経年劣化しやすく、物性低下等を引き起こすことがある。他にも、ポリ塩化ビニルは架橋型樹脂ではあるが、放射線により脱塩酸反応を起こし着色する。着色の程度は、放射線量によって変わり、色は低線量で飴色になり、高線量で茶褐色になるが、添加剤によっても着色の程度や色合いも変化する。そのため、これらの樹脂成型体に放射線照射するときには、物性の変化に注意して放射線量を調整する。
【0035】
本発明において、使用する放射線照射処理は、樹脂成型体表面に抗菌特性を発現させる上で効果がある。この際、吸収線量は、線量測定ラベルを成形体の表面に貼り付けるなどして測定することができる。
【0036】
本発明の放射線照射の処理方法は特に限定されるものではない。また放射線照射時の雰囲気についても特に限定されるものではなく、その中でも樹脂成型体の全体または少なくとも一部が空気、不活性ガス、活性ガス、水、有機溶媒、モノマー溶液、ポリマー溶液から選ばれる少なくとも1つの媒体に接触している状態で放射線照射されることが好ましく、その中でもコスト、安全性、取り扱いを考慮すると、樹脂成型体の全体または少なくとも一部に空気または水が接触している状態で放射線照射されることが更に好ましく、樹脂成型体の全体または少なくとも一部に水が接触している状態(湿潤状態)で放射線照射されることが最も好ましい。
【0037】
また本発明は樹脂成型体が含水している状態であれば、樹脂成型体表面に媒体が無い状態でも好ましく放射線照射することが出来る。またその時の含水率は0.01重量%以上が好ましく、1重量%以上が更に好ましく、3重量%以上が最も好ましい。樹脂成型体への含水方法の例を挙げると樹脂成型体の全体または一部を水中に浸漬した後に取り出し、含水状態で放射線を照射する方法等がある。
【0038】
樹脂成型体への放射線の吸収線量は湿潤状態で10〜50kGy程度が好ましく、20kGyを超える線量を照射した場合は、滅菌処理を同時に行うことも可能である。この際、吸収線量は線量測定ラベルを成形体の表面に貼り付けるなどして測定することができる。
【0039】
ここで、樹脂成型体がチューブである場合の放射線照射を例示すると、チューブを水に浸積させ、湿潤状態で放射線を照射することにより、湿潤状態であった部分には強い抗菌性が付与される。後は必要に応じて得られたチューブ状の樹脂成形体を洗浄すればよい。また、抗菌性を樹脂成型体の一部、例えば、樹脂成型体であるチューブの内部だけに抗菌特性を付与する場合は、チューブ内部を水で満たし、チューブ両端は封(キャップ)をして放射線を照射すれば良い。その後、チューブの内部を水道水等を通水して洗浄すれば良い。
【0040】
本発明ではアルコールを水中に添加することによって、抗菌特性の強弱をより好ましくコントロールすることが出来る。アルコールの具体例を列挙するとメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、2ーメトキシエタノール、カルビトールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノー2ーエチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3ーブタンジオール、1,4ーブタンジオール等)が挙げられ、その中でも炭素数が3以下のアルコールであるメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールが最も好適に用いることが出来る。
【0041】
またアルコールの添加量については、抗菌特性・用途によって適便にコントロールする必要がある。またアルコール添加量は特に限定されるものではないが抗菌性ポリマー水溶液中に1ppt〜50重量%の範囲で用いることができ、好ましくは1ppm〜5重量%、更に好ましくは1ppm〜1重量%、より好ましくは10ppm〜0.8重量%、最も好ましくは50ppm〜5000ppmの範囲で用いられる。
【0042】
本発明において、チュ−ブ状の抗菌性樹脂成形体は単独でも使用可能であるが、複数のチューブ状の樹脂成形体を積層してなる多層チュ−ブとして用いることもできる。使用用途、内圧および外圧等の要求で複数層にする場合は、何層のチューブでも可能であるが、実用的には1層〜20層チューブで用いることが好ましい。
【0043】
本発明の抗菌性樹脂成形体は抗菌性を持つことから、多層チューブにして用いる場合には、エチレンビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂が最内層及び/または最外層の全体または一部に含有させた場合にチューブ表面に抗菌効果が発揮されるため好ましく用いられ、最内層にエチレンビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂を含有することが最も好ましく用いられる。
【0044】
本発明を多層チューブに用いた場合、エチレンビニルアルコール樹脂層以外の他層には既知の異なる材料を用いることが可能で特に限定されないがポリオレフィン、ポリスチレン、ポリビニル、ポリアクリル、ポリハロオレフィン、ポリジエン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリイミド、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリイミン、ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレン、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケイ素樹脂、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、AS樹脂(スチレンとアクリロニトリルの共重合体)、ABS樹脂、ACS樹脂(塩素化ポリエチレンにアクリロニトリルとスチレンをグラフト重合したもの)、メタクリル樹脂、ポリエチレン、EVA樹脂(エチレンと酢酸ビニル共重合体)、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂、ポリブチレン樹脂、メチルペンテン樹脂、ポリブタジエン樹脂、フッ素樹脂、(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体)、ポリアミド、ポリアセタール、飽和ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルエ−テルケトン、液晶プラスチック、セルロース系ポリマー、熱可塑性エラストマー、シリコンゴム、人工ゴム、天然ゴム等から1つ以上選ばれる樹脂を用いることができる。
【0045】
本発明の抗菌性樹脂成形体が多層チューブの場合、エチレンビニルアルコール樹脂からなる外層及び/または内層と隣接した層のチューブの層間接着性に問題があると、多層チューブ切断時に剥離が見られたり、小さく折り曲げると層間剥離を生じることがある。層間剥離を抑制する手段として層間の接着性を向上させることが有効であり、外層チューブと隣接する内層チューブの間の少なくとも一部に接着性樹脂からなる接着層を介在させる方法や隣接する外層チューブ及び/または内層チューブの少なくとも一部に接着性樹脂を含有させることで外層と内層間の接着力を向上させ層間剥離を抑制することが出来る。また成形方法も多層同時成形、多層逐次成形でも層間剥離を抑制することができる。外層チューブ及び/または内層チューブの少なくとも一部に接着性樹脂を含有させる場合は0.01%〜100wt%の範囲で接着性樹脂を用いることができる。
【0046】
また外層と内層の中間に接着層を設ける場合も同様に0.01%〜100wt%の範囲で接着性樹脂を含有して用いることができる。多層チューブ中に、このような接着性樹脂が含有している層は何層であっても特に限定されない。このように得られた多層チューブは切断時にも剥離せず、折り曲げ半径も小さくでき有用である。
【0047】
本発明でいう接着性樹脂とは、特に限定されないが例を挙げるとポリオレフィン系樹脂、無水マレイン酸系樹脂、ポリエステル系樹脂等を接着性樹脂として好適に用いることが出来る。
【0048】
ポリオレフィン系接着性樹脂とは特に限定されないが例を挙げるとエチレン系重合体および/または不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性され、その含量が0.01〜10重量%である該エチレン系重合体(成分A)、粘着剤(成分B)、およびビニル芳香族化合物を主成分とする少なくとも1個の重合体ブロックと、共役ジエン化合物を主成分とする少なくとも1個の重合体ブロックを有するブロック共重合体又はその水添物(成分C)を含有し、該成分A、成分Bおよび成分Cの合計量あたり、成分Aが35〜98重量%、成分Bが0.5〜62重量%および成分Cが0.5〜62重量%である樹脂。他にも不飽和カルボン酸又はその酸無水物で変性された成分を含むオレフィン系樹脂にアルカリ性化合物と有機酸又はその酸無水物とを配合した変性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0049】
例えば具体的な商品として、“モディック−AP”(登録商標)のHDPEグレードであるH511、H503、LDPEグレードであるL112A、L502、L553、L504、EVAグレードであるA543、A515、PPグレードであるP502、P604V、P565、特殊グレードであるF502、F532、F534A(三菱化学社製)等に挙げられるポリオレフィン系樹脂等を用いることが出来る。
【0050】
無水マレイン酸系接着性樹脂とは特に限定されないが例を挙げるとエチレン−α,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル−無水マレイン酸 三元共重合体が、エチレン単位40〜90重量%、α、β−不飽和カルボン酸アルキルエステル単位55〜5重量%、無水マレイン酸 単位0.1〜10重量%からなる共重合体や、他にもスチレン・共役ジエン・スチレン系ブロック共重合体の水添物に無水マレイン酸をグラフト重合させた変性ブロック共重合体からなる樹脂等が挙げられる。
【0051】
例えば具体的な商品として、“ボンダイン”(登録商標)のLX4110、HX8210、TX8030、HX8290、HX8140、AX8390(アルケマ社製)等に挙げられるポリオレフィン系樹脂等を用いることが出来る。
【0052】
ポリエステル系接着性樹脂とは特に限定されないが例を挙げるとエチレン系重合体および/または不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性され、その含量が0.01〜10重量%である該エチレン系重合体(成分D)、粘着剤(成分E)、およびビニル芳香族化合物を主成分とする少なくとも1個の重合体ブロックと、共役ジエン化合物を主成分とする少なくとも1個の重合体ブロックを有するブロック共重合体又はその水添物(成分F)を含有し、該成分D、成分Eおよび成分Fの合計量あたり、成分Dが35〜98重量%、成分Eが0.5〜62重量%および成分Fが0.2〜80重量%である樹脂等が挙げられ、例えば具体的な商品として、“プリマロイ−AP”(登録商標)のA1500N、A1600N、A1700N、A1800N、A1900N、B1902N、B1900N、B1903N、B1910N、B1920、B1922N、B1932N、B1942N、A1606C、A1706C、A1602N、A1704N、A1610N、A1710N、B1600N、B1700N、B1800N、B1921N(三菱化学社製)等に挙げられるポリオレフィン系樹脂等を用いることが出来る。
【0053】
本発明の抗菌性樹脂成形体は、乾燥常態または湿潤状態の原料ペレットに放射線を照射しておき、その放射線照射済ペレットを用いて成形することで得ることもできる。
【0054】
すなわち、延伸成形、射出成形、押出成形、キャスト製膜法および湿式凝固法等を用いることによって様々な形状のものを得ることができる。例えば、チューブ状、ビーズ、編み地、不織布、カットファイバー、平膜、中空糸膜、フィルムおよびシートなどの形態に成形することができる。
【0055】
本発明の抗菌性成形体におけるエチレンビニルアルコールの繰り返し単位を有する樹脂の含有比率は、成形体重量に対して好ましくは0.1重量%〜100重量%の範囲で用いられ、更に好ましくは50重量%〜100重量%の範囲であり、最も好ましくは80重量%〜100重量%で用いられる。
【0056】
本発明のこれらの他の態様においても、前記の一の態様で述べた、下記の化学構造式(1)のエチレンビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂、その樹脂を構成する樹脂、それらの使用割合、放射線照射および成形方法等を、そのまま適用することができる。
【0057】
本発明は、種々の細菌に対して優れた抗菌効果を示す。例えば、大腸菌、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオ菌、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、肺炎桿菌(レジオネラ菌)、乳酸菌、酢酸菌などに対しての抗菌効果が優れており、中でも大腸菌、黄色ブドウ球菌に対して優れた抗菌性を示す。したがって本発明の抗菌性材料は、これら細菌等の増殖及び生育の抑制や滅菌が必要な箇所の構成材料として使用することができる。
【0058】
抗菌試験においてはJIS Z2801に準処して行い、抗菌活性値の数値の大きさによって抗菌力が表される。抗菌活性値とは下記数式(2)で表されるもので、
抗菌活性値=log(B/C) (2)
B:無加工試験片(PEフィルム)の24時間後の生菌数の平均値
C:検体の24時間後の生菌数の各々の平均値
同一の菌液を検体フィルムとPEフィルムに接種し24時間後の菌数を測定後、対数化したものである。JISでは抗菌活性値2以上を抗菌材料と定義している。本発明では菌の増殖抑制という観点からも抗菌活性値0.5以上でも抗菌材料であると判断している。
【0059】
本発明の抗菌性樹脂成形体の抗菌活性値は好ましくは抗菌活性値0.5以上で菌の増殖抑制効果が得られ、更に好ましくは抗菌活性値1.0以上、最も好ましくは抗菌活性値2.0以上で優れた抗菌効果を得ることができる。本発明の抗菌性樹脂成形体の抗菌活性値は成形体の、抗菌性樹脂の種類・溶液濃度、被覆補助剤の種類・配合量、放射線照射線量等によってコントロールすることができ、必要の用途に応じて適便に用いることができる。
【0060】
本発明の抗菌性樹脂成形体は、透明な樹脂等を用いることによって、透明な抗菌性樹脂成形体とすることができる。例えば、チューブ状の透明な抗菌性樹脂成形体は、内部を観察することが容易で、更に雑菌を抑制することができるから、食品や飲料用送液ホースにも好ましく用いられる。例えば、食品製造工場等では、醤油やソースの送液ホース等に好適に用いられ、飲料用送液ホースでは、ビールや牛乳など飲料自体の栄養価が高く、菌が増殖しやすい環境でビールサーバーの送液ホース、ミルカー(牛乳搾取装置)の送液ホース等に好適に用いられ、このホースを用いたビールサーバーやミルカーは雑菌が発生しないため、非常に衛生的でメンテナンスも容易になる。
【0061】
本発明で言うところの透明とは、樹脂成形体の厚さが100μmのフィルムやシ−トの光線透過率が50%以上であり、光線透過率は70%以上のものが好ましく、透過率85%以上のものが更に好ましく、最も好ましくは88%以上である。
【0062】
他にも、家庭用浄水器などにも有効に用いることができる。浄水器用カートリッジがキッチン下に設置されているアンダーシンク型浄水器では、キッチン下のカードリッジとキッチン上の水栓出口までの区間は、従来ポリエチレンチューブやステンレスチューブ等が用いられている。これらのチューブ内は、カートリッジで脱塩素された浄水で満たされている。このような状態で、放置すると浄水中は細菌増殖が酷く、酷い場合は細菌増殖で生成した代謝物(白い塊物)が発生していた。従来のポリエチレンチューブやステンレスチューブでは、チューブ内部を観察することができなかったため、浄水を出すまでは異常に気づくことができなかった。本発明の飲料用送液ホースを用いることにより、細菌増殖を抑制することが可能で、かつ内部を観察することができるので、非常に有用である。
【0063】
本発明における水中溶出量については、食品衛生法(厚生労働省告示)告示370号に挙げられる、第3 器具及び容器包装の中の、B.器具又は容器包装一般の試験法を用いて浸出用液を作製し、TOCによる分析にて水中溶出量を測定する。
【0064】
すなわち、TOC(可溶性有機物)計を用いることで水中溶出量を測定する事ができ、予め試料を超純水でよく洗い、試料の表面積1cmにつき2mlの割合で指定された浸出用液を用い、60℃に保ちながら30分間放置する。放冷後この溶液を試験用液とする。
【0065】
ここで得られた試験用液をJIS K 0102 22.1(燃焼酸化−赤外線式TOC分析法)に準処した測定を行うことで、本発明の抗菌性樹脂成形体の水中溶出量を測定することができる。
【0066】
水中溶出物の量は500ppm以下が好ましく、更に好ましくは150ppm以下であり、更には60ppm以下であることが好ましく、最も好ましくは水中溶出量が30ppm以下である。より好ましくは10ppm以下である。また飲料水や食品用途等では人体への影響があるため、水中溶出物の量は5ppm以下であることが好ましく、更に好ましくは1000ppb以下であり、更には500ppb以下であることが好ましく、最も好ましくは水中溶出量が100ppb以下である。
【0067】
水中溶出物の量を少なくするには、γ線で架橋するなどして不溶物を変化させる方法、すなわち架橋度で調整する方法、例えば架橋していない余計な溶出物を洗浄で取り除く方法を採用することができる。
【実施例】
【0068】

以下、実施例に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0069】
(樹脂成形体を構成する樹脂)
樹脂成形体の主成分となる樹脂を下に列挙した。
【0070】
EVOH:エチレンビニルアルコール共重合体(日本合成化学社製“ソアノール(登録商標)D2908”)
EVOH2:エチレンビニルアルコール共重合体(日本合成化学社製“ソアノール(登録商標)A4412)
Psf:ポリスルホン(ソルベイ社製“Udel−P3500”(登録商標))
PS:ポリスチレン(和光純薬工業社製“スチレンポリマー” 平均重合度3500)
PC:ポリカーボネート(出光石油化学社製“タフロン(登録商標)A2200”)
EVA:エチレン−酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル社製“エバフレックス(登録商標)EV460”)
ポリオレフィン系接着性樹脂:(三菱化学社製“モディック(登録商標)−AP、グレードA543”)
無水マレイン酸系接着性樹脂:(アルケマ社製“ボンダイン(登録商標)、グレードTX8030”)
(抗菌性試験方法)
抗菌試験においてはJIS Z2801に準処して行う。
【0071】
なお下記(1)〜(2)に記載する試験菌を用いた。
・試験菌
(1)大腸菌 :escherichia coli NBRC 3972
(2)黄色ぶどう球菌 :Staphylococcus aureus subsp.aureus NBRC 12732
・菌液調製:各菌共通
試験菌(1)及び(2)の前培養詳細は、普通寒天培地で35℃の温度で、16〜24時間培養後、得られた菌体を1/500普通ブイヨン培地に懸濁させ、1ml当たりの菌数が約10となるように調製し、菌液とした。
・板状試料の試験操作:各菌共通
板状の抗菌性樹脂成型体を約30mm×30mmにカットした試料を99.5%エタノールを含ませた脱脂綿で表面を軽くふき、風乾させた。試料の試験面に菌液0.1mlを滴下後、約20mm×20mmのポリエチレンをかぶせた。
【0072】
これを35℃±1℃、相対湿度90%以上で保存し、保存24時間後に試料の生菌数を測定した。
【0073】
また、約30mm×30mmのポリエチレンフィルムを比較用の試料とし、同様に試験した。
・チューブ状試料の試験操作:各菌共通
内径5mm×外径7mm、長さ5cmのチューブ状の抗菌性樹脂成型体を輪切りにした面と垂直方向に、輪切りにされた面が半円になるようにカットし、最内面が見える試料を得た。試料の内面を99.5%エタノールを含ませた脱脂綿で軽くふき、風乾させた。試料の内面に菌液0.1mlを滴下後、約10mm×40mmのポリエチレンをかぶせた。
【0074】
これを35℃±1℃、相対湿度90%以上で保存し、保存24時間後に試料の生菌数を測定した。
【0075】
また、内径5mm×外径7mm、長さ5cmのポリエチレンチューブを比較用の試料とし、同様に試験した。
・生菌数の測定:各菌共通
試料から生残菌を、SCDLP培地(SOYBEAN-CASEIN DIGEST BROTH with LECITHIN & POLYSORBATE 80 )10mlで洗い出し、この洗い出し液についてSA培地(標準寒天培地)を用いた混釈平板培養法(35℃±1℃、2日間培養)で生菌数を測定し、試料当たりに換算した。
【0076】
なお、試料の抗菌性の判定はJIS Z2801で定められている抗菌活性値を用い、下記数式(2)にて抗菌活性値2以上ものを抗菌性有り、抗菌活性値2未満のものを抗菌性無しと判定した。
【0077】
抗菌活性値=log(B/C) (2)
B:無加工試験片(PEフィルム)の24時間後の生菌数の平均値
C:検体の24時間後の生菌数の各々の平均値
(光線透過率測定)
スガ試験機社製のSMカラーコンピュータSM−7−CHを用いて測定した。試料は30μmの厚さのフィルム成形体で、25℃の温度に温調された部屋で全光光線透過率の測定を行った。評価結果は表1に示した。
【0078】
(水中溶出量測定)
1.試験方法
「食品、添加物の規格基準 厚生労働省告示第370号 第3 B.器具及び容器包装」に準じて浸出用液を作製し、TOCによる分析にて水中溶出量を測定する。なお測定限界は0.5ppm以下である。
【0079】
2.溶出試験における試験溶液の調整法
予め試料を超純水でよく洗い、試料の表面積1cmにつき2mlの割合で指定された浸出用液を用い、60℃に保ちながら30分間放置する。放冷後この溶液を試験溶液とする。
【0080】
3.分析方法
測定方法:JIS K 0102 22.1(燃焼酸化−赤外線式TOC分析法)
装置名:TOC−650計(東レエンジニアリング社製)
(実施例1)
EVOH樹脂を熱プレス法(230℃プレス→室温に冷却)で成形して厚み1mmで3cm四方板状の樹脂成型体を得た。
【0081】
ここで得られた樹脂成型体を、PE(ポリエチレン)製の袋に入れ、その袋内に純水を満たし、コバルト−60線源にてγ線を照射し、放射線処理樹脂成型体を得た。γ線吸収線量は、25kGyであった。得られた放射線処理樹脂成型体を純水で良く洗浄して、抗菌性試験方法の処方で抗菌性試験、水中溶出量測定の処方で水中溶出量を測定した。測定結果は3個の測定値の平均値を用いた。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例2)
樹脂をEVOH2に変更した以外は実施例1と同様の処理・評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例3)
樹脂成型体の入ったPE(ポリエチレン)袋内の純水にエタノールを1000ppmの濃度で添加した以外は実施例1と同様の処理・評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
(実施例4)
樹脂をEVOH2に変更した以外は実施例3と同様の処理・評価を行った。結果を表1に示す。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例5)
樹脂成型体をソアノール(登録商標)フィルムA4403(厚み30μm)に変更した以外は実施例1と同様の処理・評価を行い、更に透過率の評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例6)
本発明の多層チューブは、公知の共押出成形機を用いて製造する。即ち、その第一押出成形機を用いて、最内層樹脂であるエチレンビニルアルコール樹脂(EVOH2)と最外層エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を加熱溶融し、180〜230℃の範囲の成形温度で、共通ヘッドダイを介して内径5mm、肉厚0.2mmのエチレンビニルアルコール樹脂からなる内層チューブを押出成形すると同時に、第二押出成形機を用いて、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を加熱溶融し、160〜220℃の範囲の成形温度で、該共通ヘッドダイを介して、肉厚2.3mmのエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂からなる外層チューブを押出成形すれば、該内層チューブの外周面に連続的に熱融圧着し、一体に結着して内径5mm、外径10mmの本発明の2層積層チューブを得た。
【0087】
この2層チューブを長さ50cmにカットし、チュ−ブの片側に封(キャップ)をし、純水を充填し、空気の入らないように封をした。純水が充填されたチューブをコバルト−60線源にてγ線を照射し放射線処理チューブを得た。γ線吸収線量は、25kGyであった。得られた放射線チューブ内を純水20Lで通水洗浄して、抗菌性試験(チューブ状)および水中溶出量の測定、剪定はさみ切断時の端面剥離、小さく折り曲げた時の層間剥離を観察した。またチューブを輪切りにして内層と外層の接着状態も観察した。結果を表2に示す。
【0088】
(実施例7)
第二押出成形機で成形する最外層の樹脂をエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA):ポリオレフィン系接着性樹脂=10:90のブレンド比にした以外は実施例6と同製法で放射線処理チューブを得た。得られた放射線処理チューブを用い実施例6と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0089】
(比較例1)
Psf樹脂を熱プレス法で成形して厚み1mmで3cm四方板状の樹脂成型体サンプルを得た。ここで得られた樹脂成型体を純水で良く洗浄して、抗菌性試験方法(板状)の処方で抗菌性試験、水中溶出量測定の処方で水中溶出量を測定した。結果を表1に示す。
【0090】
(比較例2)
PS樹脂を熱プレス法で成形して厚み1mmで3cm四方板状の樹脂成型体サンプルを得た。後は比較例1と同様に後処理し各種評価した。結果を表1に示す。
【0091】
(比較例3)
PC樹脂を熱プレス法で成形して厚み1mmで3cm四方板状の樹脂成型体サンプルを得た。後は比較例1と同様に後処理し各種評価した。結果を表1に示す。
【0092】
(比較例4)
本発明の積層チューブは、公知の共押出成形機を用いて製造する。即ち、その第一押出成形機を用いて、最内層樹脂であるポリエチレン樹脂(PE2)と最外層エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を加熱溶融し、180〜230℃の範囲の成形温度で、共通ヘッドダイを介して内径5mm、肉厚0.2mmのエチレンビニルアルコール樹脂からなる内層チューブを押出成形すると同時に、第二押出成形機を用いて、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を加熱溶融し、160〜220℃の範囲の成形温度で、該共通ヘッドダイを介して、肉厚2.3mmのエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂からなる外層チューブを押出成形すれば、該内層チューブの外周面に連続的に熱融圧着し、一体に結着して内径5mm、外径10mmの本発明の2層チューブを得た。
【0093】
この2層チューブを長さ50cmにカットし、チュ−ブの片側に封(キャップ)をし、純水を充填し空気の入らないように封をした。純水が充填されたチューブをコバルト−60線源にてγ線を照射し放射線処理チューブを得た。γ線吸収線量は、25kGyであった。得られた放射線処理チューブ内を純水10Lを通水洗浄して、抗菌性試験および水中溶出量の測定、剪定はさみ切断時の端面剥離、小さく折り曲げた時の層間剥離を観察した。結果を表2に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
実施例1〜5、比較例1〜3を表1、実施例6、7と比較例4を表2にて各種項目を比較すると、抗菌性試験において実施例1〜5は黄色ブドウ球菌と大腸菌の抗菌活性値が2以上で抗菌性があるのに対し、比較例1〜3は黄色ブドウ球菌と大腸菌の抗菌活性値が2未満であり抗菌性が無い。
【0097】
また、チューブ状の試料においても実施例6、7と比較例4を比較すると実施例6、7は黄色ブドウ球菌と大腸菌の抗菌活性値が2以上で抗菌性があるのに対し、比較例4は黄色ブドウ球菌と大腸菌の抗菌活性値が2未満であり抗菌性が無い。実施例7は実施例6の外層チューブに接着性樹脂をブレンドした試料であるが内層と外層の接着力はより強力なものとなった。
【0098】
実施例のチューブは透過率が高いため、チューブにして用いた時にも内容物を確認する事ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性樹脂成形体の製造方法であって、下記の化学構造式(1)のエチレンビニルアルコールの繰り返し単位からなる樹脂が表面に含有された樹脂成型体に放射線照射することを特徴とする抗菌性樹脂成形体の製造方法。
【化1】

(式中、mとnの比は0.1:99.9〜99.9:0.1である)
【請求項2】
放射線が電子線および/またはγ線である請求項1に記載の抗菌性樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
水が接触した状態で放射線照射される請求項1または2に記載の抗菌性樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
水にアルコ−ルが含まれている請求項3記載の抗菌性樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
アルコールが炭素数3以下である請求項4記載の抗菌性樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5記載の抗菌性樹脂成形体の製造方法により製造された抗菌性樹脂成型体からなることを特徴とする食品飲料用送液ホース。