説明

抗菌性潤滑剤組成物

【課題】抗菌性能を発揮させることのできる抗菌性潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】抗菌性潤滑剤組成物には、合成油、第三リン酸カルシウム、及び、界面活性剤が含有されている。合成油としては、ポリαオレフィン油を含むことが好ましい。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性能を発揮する抗菌性潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば食品用機械の軸受等においては、食品衛生の観点から、抗菌性を有する潤滑剤組成物が所望されている。一般に、鉱油にリチウム石けん等の増ちょう剤を配合した潤滑剤組成物では抗菌性能が発揮されないため、こうした潤滑剤組成物に抗菌剤を更に添加した構成が提案されている(特許文献1及び2参照)。特許文献1及び2では、抗菌剤としてカテキン類、キトサン類等が挙げられている。
【特許文献1】特開2005−272502号公報
【特許文献2】特開2005−179454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、抗菌性能を発揮する抗菌性潤滑剤組成物を見出すことでなされたものである。本発明の目的は、抗菌性能を発揮させることのできる抗菌性潤滑剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の抗菌性潤滑剤組成物は、合成油、第三リン酸カルシウム、及び、界面活性剤を含有することを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の抗菌性潤滑剤組成物において、前記合成油としてポリαオレフィン油を含むことを要旨とする。
【0005】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の抗菌性潤滑剤組成物において、前記界面活性剤として非イオン性界面活性剤を含むことを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の抗菌性潤滑剤組成物において、さらに、抗菌剤を含有することを要旨とする。
【0006】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の抗菌性潤滑剤組成物において、前記抗菌剤が、キトサン及び重曹の少なくとも一方であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、抗菌性能を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の抗菌性潤滑剤組成物を抗菌性グリースに具体化した実施形態を詳細に説明する。本実施形態における抗菌性グリースには、合成油、増ちょう剤としての第三リン酸カルシウム、及び、界面活性剤が含有されている。
【0009】
合成油は基油として抗菌性グリースに含有される。合成油は、抗菌性グリースに求められるちょう度等の物性に応じて適宜選択することができる。合成油は、例えば100℃における動粘度が2〜40mm/sの範囲とすることが好ましい。合成油の具体例としては、ポリオレフィン油、エステル油、エーテル油、アルキルベンゼン油、アルキルナフタレン油、含フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィン等)、シリコーン油等が挙げられる。また、天然ガスを原料として合成したGTL(Gas−To−Liquids)油も上記の合成油と同様に配合することが可能である。
【0010】
ポリオレフィン油としては、各種オレフィンの重合物、又は、その重合物の水素化物が挙げられる。ポリオレフィン油を構成するオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、及び炭素数5以上のα−オレフィンが挙げられる。エステル油としては、例えば二塩基酸のジエステル油(セバシン酸ジオクチル等)、ポリオールエステル油、ポリオキシアルキレングリコールエステル油等が挙げられる。エーテル油としては、例えばポリオキシアルキレングリコールエーテル油、ポリフェニルエーテル油、ジアルキルジフェニルエーテル油等が挙げられる。
【0011】
合成油は、抗菌性グリースの耐熱性等を高めることが容易であるとともに生体への安全性を高めるという観点から、ポリαオレフィン油を含むことが好ましく、ポリαオレフィン油のみを基油として含有させることがさらに好ましい。ポリαオレフィン油は、炭素数6〜18の直鎖状αオレフィンを重合させて得られる合成油である。なお、ポリαオレフィン油は、API(American Petroleum Institute:米国石油協会)の規定する基油カテゴリーにおいてグループ4に属している。
【0012】
抗菌性グリース中における合成油の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。
第三リン酸カルシウムとしては、Ca(POを使用することができる。また、〔Ca(PO・Ca(OH)で表されるヒドロキシアパタイトの化学構造を有している化合物が好適に使用される。第三リン酸カルシウムは、食品添加物としても知られる化合物であり、こうした第三リン酸カルシウムを増ちょう剤として含有させることで、生体への安全性が高い抗菌性グリースを得ることができるようになる。
【0013】
抗菌性グリースにおける第三リン酸カルシウムの含有量は、抗菌性グリースの用途に適したちょう度となるように適宜調整することができる。抗菌性グリース中における第三リン酸カルシウムの含有量は、好ましくは2〜68質量%、より好ましくは5〜60質量%、さらに好ましくは8〜55質量%である。抗菌性グリース中における第三リン酸カルシウムの含有量が2〜68質量%である場合、抗菌性グリースのちょう度を調整することが容易となる。
【0014】
界面活性剤は、抗菌性グリースに水が接触した際に界面活性剤の親水基が水を吸着することで、抗菌性グリースの耐水性を高める。界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤に分類される。界面活性剤は、単独で含有させてもよいし、複数種を組み合わせて含有させてもよい。
【0015】
界面活性剤の中でも、好ましくは非イオン性界面活性剤、より好ましくは脂肪酸エステル系界面活性剤である。脂肪酸エステル系界面活性剤は、毒性の低い界面活性剤であるため、生体への安全性を高めた抗菌性グリースを得ることができるようになる。
【0016】
脂肪酸エステル系界面活性剤としては、合成油及び第三リン酸カルシウムに対する親和性が得られ易く、かつ、生体への安全性を高めることができるという観点から、好ましくはグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種、より好ましくはソルビタン脂肪酸エステルである。脂肪酸エステル系界面活性剤の脂肪酸としては、炭素数が12〜22の飽和脂肪酸又は同じく炭素数が12〜22の不飽和脂肪酸が好ましい。
【0017】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えばステアリン酸モノグリセライド、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸及びオレイン酸のモノ・ジグリセライド等が挙げられる。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えばソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソレビタンモノオレエート、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリオレエート等が挙げられる。ショ糖脂肪酸エステルとしては、例えばショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0018】
抗菌性グリース中における界面活性剤の含有量は、好ましくは0.2〜18質量%、より好ましくは1〜15質量%、さらに好ましくは2〜10質量%である。抗菌性グリース中における界面活性剤の含有量が18質量%未満の場合、ちょう度の調整が容易となるとともに経済的に有利である。また、抗菌性グリース中における界面活性剤の含有量は、上記第三リン酸カルシウム100質量部に対して好ましくは1〜40質量部、より好ましくは2〜30質量部、さらに好ましくは5〜20質量部である。抗菌性グリース中における界面活性剤の含有量が第三リン酸カルシウム100質量部に対して1〜40質量部の場合、ちょう度の調整が容易であり、かつ、経済的に有利である。
【0019】
また、本実施形態では、従来の抗菌剤を添加することも効果的である。その抗菌剤としては、好ましくはキトサン及び重曹(炭酸水素ナトリウム)の少なくとも一方を挙げることができる。
【0020】
抗菌性グリースには、必要に応じて酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、耐摩耗剤、固体潤滑剤等の添加剤を含有させることができる。
抗菌性グリースは、合成油、第三リン酸カルシウム及び界面活性剤を常法にしたがって混合することにより調製することができる。抗菌性グリースを調製する際には、適宜加熱してもよい。また、抗菌性グリースを調製する際には、第三リン酸カルシウムを効率的に分散させるという観点から、例えばロールミル等を用いて混捏することが好適である。このように構成された抗菌性グリースは半固体状をなし、例えば軸受等の摺動部位を有する各種機械に使用される。
【0021】
本実施形態の抗菌性グリースは、上記構成により抗菌性能が発揮されるため、特に衛生面を配慮した環境において好適に使用することができる。すなわち、本実施形態の抗菌性グリースは、例えば食品用機械、病院内や介護施設内で使用される搬送機器等の潤滑剤として好適に使用することができる。
【0022】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)抗菌性グリースには、合成油、増ちょう剤としての第三リン酸カルシウム、及び、界面活性剤が含有されている。この構成によれば、抗菌性能を発揮させることができる。
【0023】
(2)合成油としてポリαオレフィン油を含有させることで、抗菌性グリースの耐熱性を高めることができるとともに生体への安全性を高めることができる。
(3)増ちょう剤として第三リン酸カルシウムを含有した抗菌性グリースは、耐水性に劣る傾向にある。すなわち、同組成物に水が混入すると、合成油と第三リン酸カルシウムとにより形成されているゲル構造が破壊される結果、ちょう度が高まる(軟化する)おそれがある。この点、上記界面活性剤として非イオン性界面活性剤を用いることで、組成物に混入した水は非イオン性界面活性剤の乳化作用等により、組成物のゲル構造が維持され易くなる。したがって、抗菌性グリースに水が混入した場合であっても、同組成物における潤滑等の基本性能を維持することができるようになる。
【0024】
(4)界面活性剤として脂肪酸エステル系界面活性剤を含有させることで、生体への安全性を高めることができる。したがって、こうした抗菌性グリースによれば、例えば食品の製造機械、食品を搬送する搬送機器等において好適に使用することができるようになる。
【0025】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成してもよい。
・第三リン酸カルシウム及び界面活性剤を有効成分として含有する潤滑剤用抗菌剤を提供することができる。この潤滑剤用抗菌剤は、合成油に添加して使用される。また、潤滑剤の抗菌性付与方法として、第三リン酸カルシウム及び界面活性剤を前記合成油に添加する抗菌性付与方法を提供することができる。界面活性剤の含有量は、第三リン酸カルシウム100質量部に対して好ましくは1〜40質量部、より好ましくは2〜30質量部、さらに好ましくは5〜20質量部である。
【0026】
・前記実施形態においては、抗菌性潤滑剤組成物を抗菌性グリースに具体化しているが、抗菌性潤滑剤組成物中における第三リン酸カルシウムの含有量を例えば1〜10質量%とすることで、グリース以外の抗菌性潤滑剤組成物として使用することができる。グリース以外の抗菌性潤滑剤組成物としては、例えばエンジン油、ギヤー油、タービン油、作動油、冷凍機油、コンプレッサー油、真空ポンプ油、軸受油等が挙げられる。このように構成した場合であっても、特に衛生面を配慮した環境において好適に使用することができる。
【0027】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について以下に記載する。
・前記非イオン性界面活性剤が脂肪酸エステル系界面活性剤であることを特徴とする抗菌性潤滑剤組成物。
【0028】
・合成油に添加される抗菌剤であって、第三リン酸カルシウム及び界面活性剤を有効成分として含有することを特徴とする抗菌剤。
・合成油に対して抗菌性を付与する抗菌性付与方法であって、第三リン酸カルシウム及び界面活性剤を前記合成油に添加することを特徴とする抗菌性付与方法。
【0029】
・食品用機械の潤滑に用いられることを特徴とする抗菌性潤滑剤組成物。
【実施例】
【0030】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜3)
合成油、第三リン酸カルシウム及び界面活性剤を試作釜に投入し、同試作釜にて100℃まで加熱するとともに撹拌した後、三本ロールミルにて混捏することで、各実施例の抗菌性潤滑剤組成物を調製した。第三リン酸カルシウムは、〔Ca(PO・Ca(OH)で表されるヒドロキシアパタイトの化学構造を有するものである。表1は各成分の含有量を質量部で示している。なお、表1中の「PAO」はポリαオレフィン油を示している。
【0031】
(比較例1及び2)
各比較例においては、表1に示される組成に変更した以外は各実施例と同様に潤滑剤組成物を調製した。
【0032】
<抗菌性試験>
試験菌(青カビ:ペニシリウム・シトリヌム ATCC9849)を接種した平板培地上に、各例の組成物を約5g塗布した。その平板培地を27±1℃で7日間培養後、組成物周辺に生じた生育阻止帯(ハロー)の有無について観察した。表1の「抗菌性」欄には、生育阻止帯が確認された場合は「有り」、生育阻止帯が確認されない場合は「無し」と記載している。
【0033】
<ちょう度>
各実施例の抗菌性潤滑剤組成物、及び各比較例の潤滑剤組成物について、JIS K 2220(ASTM D217)に従ってちょう度を測定した。その結果を表1に示している。
【0034】
<滴点>
各実施例の抗菌性潤滑剤組成物、及び各比較例の潤滑剤組成物について、JIS K 2220(ASTM D566)に従って滴点を測定した。その結果を表1に示している。
【0035】
【表1】

表1の結果から明らかなように、各実施例では抗菌性能が発揮されることがわかる。これに対して比較例1では、基油として鉱油を配合するとともに増ちょう剤としてLi石けんを配合しているため、抗菌性能が発揮されないことがわかる。また、比較例2では増ちょう剤として第三リン酸カルシウムを配合するとともに界面活性剤を配合しているが、基油として鉱油を配合しているため、抗菌性能が発揮されないことがわかる。
【0036】
また、各実施例の抗菌性潤滑剤組成物は、ちょう度の値から明らかなように良好なグリース状態(半固体状)であることがわかる。さらに、各実施例の抗菌性潤滑剤組成物は、滴点の値から明らかなように耐熱性に優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成油、第三リン酸カルシウム、及び、界面活性剤を含有することを特徴とする抗菌性潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記合成油としてポリαオレフィン油を含むことを特徴とする請求項1に記載の抗菌性潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記界面活性剤として非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の抗菌性潤滑剤組成物。
【請求項4】
さらに、抗菌剤を含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の抗菌性潤滑剤組成物。
【請求項5】
前記抗菌剤が、キトサン及び重曹の少なくとも一方であることを特徴とする請求項4に記載の抗菌性潤滑剤組成物。

【公開番号】特開2009−286957(P2009−286957A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142969(P2008−142969)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】